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審決分類 |
審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B66C 審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B66C 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B66C |
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管理番号 | 1105231 |
審判番号 | 審判1997-12277 |
総通号数 | 60 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1986-01-08 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1997-07-14 |
確定日 | 2004-10-18 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2129544号「車両形クレーンのジブ格納装置」の特許無効審判事件についてされた平成11年9月17日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成11年(行ケ)第378号、平成13年7月12日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第2129544号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 (1)本件特許第2129544号発明は、昭和59年6月13日の特許出願(特願昭59-121515号)について、その拒絶査定に対する審判(平成4年審判第7797号)において平成6年11月9日に出願公告(特公平6-88757号)がされ、平成9年3月6日付けで特許異議の決定及び審決がされた後、平成9年5月16日にその発明について特許権の設定登録がされた。 (2)これに対して、請求人株式会社タダノは、平成9年7月14日付けで、「特許番号第2129544号の特許はこれを無効とする、審判の費用は被請求人の負担とする」ことを求める無効審判を請求した。 (3)被請求人は平成9年11月17日付けで答弁書及び訂正請求書を提出したが、上記訂正請求書は期間経過後の差し出しであるため却下され、この却下の決定は確定した。また、被請求人は、平成9年11月17日付けで証拠提出書、平成9年12月2日及び平成10年8月10日付けで上申書、平成10年4月17日付けで弁明書を、それぞれ提出し、請求人は、平成10年11月25日付けで弁駁書を提出した。 (4)平成11年1月8日付けで、無効の理由が通知され、被請求人は、その指定期間内である平成11年2月4日付けで意見書及び訂正請求書を提出し、平成11年3月19日付けで訂正請求書の補正書を提出した。 (5)これに対して、請求人は、平成11年3月23日付けで意見書、平成11年6月21日付けで第2回弁駁書を提出した。 (6)平成11年9月17日付けで、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされたが、この審決に対し、東京高等裁判所において審決取消しの判決(平成11年(行ケ)第378号、平成13年7月12日判決言渡)があった。そして、当該判決に対する上告受理の申立て(平成13年(行ヒ)第262号)がなされたが、平成13年11月13日に最高裁判所第三小法廷において、上告審として受理しないとの決定がなされた。 (7)平成13年8月24日に、被請求人は訂正審判(訂正2001-39137号)を請求したが、平成14年3月27日付けで「本件審判の請求は、成り立たない」との審決がなされ、東京高等裁判所に対してこの審決を取り消すことを求める訴が提起されたが、請求棄却の判決(平成14年(行ケ)第217号、平成16年6月16日判決言渡)があり、当該判決は確定した。 (8)請求人は、平成13年12月11日付けで上申書及び証拠提出書を提出した。 (9)平成14年3月13日付けで、平成11年3月19日付け補正書により補正された平成11年2月4日付けの訂正請求書に対する、訂正拒絶の理由が通知され、被請求人は、平成14年5月17日付けで意見書を提出した。 (10)被請求人は、平成14年5月17日付けで訂正請求書を、平成14年8月29日付けで弁明書を提出したが、当該訂正請求書は特許法第134条第2項の規定で定められる指定された期間内に提出されたものではないため却下され、この却下の決定に対して行政不服審査法による審査請求(14行服特許第41号)がなされたが、審査請求棄却の裁決がなされ、当該却下の決定は確定した。 (11)被請求人は、平成16年3月12日に上申書を提出した。 第2.請求人の主張の概要 請求人は、下記に示す甲各号証を提示し、以下に示す旨の理由により本件特許は無効にされるべきであると主張している。 (1)本件発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の1に記載された発明である。 したがって、本件発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであるから、昭和60年改正特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。(以下、「無効理由1」という。) (2)本件発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証の1、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証の1、甲第8号証、甲第9号証、及び、甲第10号証の1に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、昭和60年改正特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。(以下、「無効理由2」という。) [証拠方法] 甲第1号証の1:特開昭59-78094号公報 甲第1号証の2:同上出願の手続補正書掲載公報 甲第1号証の3:同上出願の公告公報 甲第2号証:特開昭59-57890号公報 甲第3号証:特開昭59-86591号公報 甲第4号証の1:米国特許第4383616号明細書 甲第4号証の2:同上抄訳 甲第5号証:特開昭61-2693号公報 甲第6号証:本件特許の出願に対する特許異議申立書 甲第7号証:同上異議申立てに対する異議決定書 甲第8号証:特開昭58-189492号公報 甲第9号証:実開昭58-156791号の明細書及び図面 甲第10号証の1:米国特許第3771666号明細書 甲第10号証の2:同上抄訳 甲第11号証:本件特許の出願に対する特許異議事件における出願人提出の平成7年8 月22日付け答弁書 甲第12号証:特開昭61-2693号公報 甲第13号証:平成11年(行ケ)第378号審決取消訴訟事件の原告準備書面(第1回) 甲第14号証:平成11年(行ケ)第378号審決取消訴訟事件の原告準備書面(第5回) なお、請求人の提示した甲第15号証、甲第16号証、甲第17号証、甲第18号証、甲第19号証及び甲第20号証は、甲第1号証の1、甲第1号証の2、甲第1号証3、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証の1、2と、それぞれ同一のものである。 第3.平成11年1月8日付けで通知された無効の理由の概要 本件発明は、ジブホルダに関しては、「ブームの上記側面のブーム軸に沿わせて設けられた支軸に、枢動可能に取付けられたジブホルダ」としているだけであり、その位置を特定していない。そのため、本件発明のジブホルダの構成では、本件明細書の詳細な詳細な説明で述べられている目的を達成し効果を奏することはできないから、本件特許は、昭和60年改正特許法第36条第4項(通知された無効の理由には「第5項」と記載されているが、「第4項」の誤りと認める。)の規定に違反してなされたものである。(以下、「無効理由3」という。) 第4.被請求人の主張の概要 請求人は、下記に示す乙各号証を提示し、その後手続却下の決定が確定した平成9年11月18日付けの訂正請求で求めた訂正内容が認められることを前提に、以下に示す旨の理由により本件特許は無効にされるべきではないと主張している。 (1)甲各号証には、「ジブの重心近傍を保持するジブホルダ」及び「ジブホルダに保持したジブをブーム側面側の横抱き位置においてロック可能とする部材」という本件発明の構成要件、「ねじれを発生させない」との本件発明の課題が記載されていない。(答弁書第2頁19行〜25行、同第13頁1行〜11行、同第14頁7行〜13行、同第16頁2行〜4行を参照) (2)車両形クレーンにおけるジブの操作手段として油圧シリンダを使用することは、乙第5〜7号証に示されているように従来周知であるが、油圧シリンダのみによりジブを駆動すること、それを所定位置に固定する思想は示されていない。(答弁書第16頁27行〜第17頁4行を参照) (3)平成11年1月8日付けで通知された記載不備についての無効の理由は、平成11年2月4日付けの訂正請求によって解消している。(平成11年2月4日付け意見書第7頁1行〜8行を参照) (4)本件特許図面の第1、3図には、ジブホルダ11に着脱可能に取付けられるホルダ取付け用ブラケット15が、当該ジブ10の長さ方向の中心近傍、したがって、当該ジブの重心近傍と目される領域に設けたものが明示されている。(平成14年5月17日付け訂正請求書第13頁7行〜9行を参照) [証拠方法] 乙第1号証の1:本件特許の願書に添附された図面写しに赤線を追記したもの 乙第1号証の2:乙第1号証の1第1図の拡大図 乙第2号証:特開昭59-57890号公報(甲第2号証と同一) 乙第3号証:実開昭59-68794号公報 乙第4号証:実開昭59-71277号公報 乙第5号証:実公昭36-24456号公報 乙第6号証:実公昭38-21570号公報 乙第7号証:実公昭46-26047号公報 乙第8号証:特公昭47-9458号公報 第5.訂正の適否 1.訂正の内容 請求人が求めている訂正の内容は、平成11年3月19日付け手続補正書(方式)で補正され、平成11年2月4日付け訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正図面の記載からみて、以下(1)〜(56)のとおりであると認める。なお、上記訂正請求書の「6-3訂正の要旨」には、下記訂正事項(1)、(16)、(17)、(20)、(24)、(39)、(41)、(50)、(52)、(54)、(56)が、訂正事項(a)〜(k)としてあげられているものの、上記以外の訂正事項については何ら言及されていない。 (1)本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲に記載される、 「【請求項1】ジブの格納時には、その基端をブームの先端側に、また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し、上記ジブの使用時には、ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、 ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に、枢軸可能に取付けられたジブホルダと、 上記ブームに設けられ、上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと、 上記ブームに設けられ、上記ジブホルダをロック可能とする部材とを、 備えたことを特徴とする車両形クレーンのジブ格納装置。」(本件特許の出願公告公報第1欄2行〜第2欄1行を参照)を、 「【請求項1】ジブの格納時には、その基端をブームの先端側に、また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し、上記ジブの使用時には、ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、 ブームの上記側面にブーム軸を沿わせて設けられた支軸に、枢動可能に取付けられ、上記ジブの重心より基端側を保持するジブホルダと、 上記ブームに設けられ、上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと、 上記ブームに設けられ、上記ジブホルダを、当該ジブホルダにより保持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とする部材とを、 備えたことを特徴とする車両形クレーンのジブ格納装置。」と訂正する。 (2)本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、 「格納するもの」(本件特許の出願公告公報第2欄15行を参照)を、「格納するの」と訂正する。 (3)本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、 「張出すことが」(本件特許の出願公告公報第3欄4行を参照)を、「張出すことか」と訂正する。 (4)本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、 「ブームの下」(本件特許の出願公告公報第3欄17行を参照)を、「ブーム下」と訂正する。 (5)本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、 「ジブが」(本件特許の出願公告公報第3欄17行を参照)を、「ジブか」と訂正する。 (6)本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、 「広くとる」(本件特許の出願公告公報第3欄18行を参照)を、「広く取る」と訂正する。 (7)本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、 「沿わせて」(本件特許の出願公告公報第3欄20行を参照)を、「沿せて」と訂正する。 (8)本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、 「ブームの側方」(本件特許の出願公告公報第3欄24行を参照)を、「ブーム側方」と訂正する。 (9)本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、 「ブームの取付け位置」(本件特許の出願公告公報第3欄36行を参照)を、「ブーム取付け位置」と訂正する。 (10)本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、 「広くとる」(本件特許の出願公告公報第3欄37行を参照)を、「広くする」と訂正する。 (11)本件特許明細書の[発明が解決しようとする課題]に記載される、 「格納されるジブを保持する」(本件特許の出願公告公報第3欄42行を参照)を、「保持する」と訂正する。 (12)本件特許明細書の[発明が解決しようとする課題]に記載される、 「ジブがブームの旋回」(本件特許の出願公告公報第4欄3行を参照)を、「ジブの旋回」と訂正する。 (13)本件特許明細書の[発明が解決しようとする課題]に記載される、 「取付け構造」(本件特許の出願公告公報第4欄30行を参照)を、「取付構造」と訂正する。 (14)本件特許明細書の[発明が解決しようとする課題]に記載される、 「することなく」(本件特許の出願公告公報第4欄32行を参照)を、「することなく、」と訂正する。 (15)本件特許明細書の[発明が解決しようとする課題]に記載される、 「切離すことなく」(本件特許の出願公告公報第4欄34行を参照)を、「切離すことなく、」と訂正する。 (16)本件特許明細書の[課題を解決するための手段]に記載される、 「枢軸可能に取付けられたジブホルダと、上記ブームに設けられ、上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと、上記ブームに設けられ、上記ジブホルダをロック可能とする部材とを、」(本件特許の出願公告公報第4欄48行〜第5欄2行を参照)を、 「枢動可能に取付けられ、上記ジブの重心より基端側を保持するジブホルダと、上記ブームに設けられ、上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと、上記ブームに設けられ、上記ジブホルダを、当該ジブホルダにより保持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とする部材とを、」と訂正する。 (17)本件特許明細書の[作用]に記載される、 「ジブホルダに保持させた」(本件特許の出願公告公報第5欄12行を参照)を、「ジブホルダに前記ジブの重心より基端側を保持させた」と訂正する。 (18)本件特許明細書の[作用]に記載される、 「ブームの下面側」(本件特許の出願公告公報第5欄13行を参照)を、「ブーム下面側」と訂正する。 (19)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「使用時に、」(本件特許の出願公告公報第5欄44行を参照)を、「使用時に」と訂正する。 (20)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ10の基端側」(本件特許の出願公告公報第5欄49行を参照)を、「ジブ10の重心より基端側」と訂正する。 (21)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「とが」(本件特許の出願公告公報第6欄1行を参照)を、「が」と訂正する。 (22)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「もので、」(本件特許の出願公告公報第6欄5行を参照)を、「ものであり、」と訂正する。 (23)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ロープ掛止部」(本件特許の出願公告公報第6欄17行を参照)を、「ロープ掛止め具」と訂正する。 (24)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ19a」(本件特許の出願公告公報第6欄18行を参照)を、「ジブ10a」と訂正する。 (25)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ10の先端と」(本件特許の出願公告公報第6欄20行を参照)を、「ジブ10」と訂正する。 (26)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ10の先端部」(本件特許の出願公告公報第6欄22行を参照)を、「ジブ10先端部」と訂正する。 (27)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「設けた」(本件特許の出願公告公報第6欄32行を参照)を、「設け」と訂正する。 (28)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「下向き状態」(本件特許の出願公告公報第6欄36行を参照)を、「下向状態」と訂正する。 (29)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「両端」(本件特許の出願公告公報第6欄43行を参照)を、「両側」と訂正する。 (30)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「両端」(本件特許の出願公告公報第6欄45行を参照)を、「両端部」と訂正する。 (31)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「受け止めさせた」(本件特許の出願公告公報第6欄45行を参照)を、「受け止めされた」と訂正する。 (32)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「また」(本件特許の出願公告公報第6欄47行を参照)を、「また、」と訂正する。 (33)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「合わせて」(本件特許の出願公告公報第7欄4行を参照)を、「合せて」と訂正する。 (34)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ支持用」(本件特許の出願公告公報第7欄10行を参照)を、「ジブ支持」と訂正する。 (35)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「挿通孔」(本件特許の出願公告公報第7欄21行を参照)を、「挿脱孔」と訂正する。 (36)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「にに」(本件特許の出願公告公報第7欄21行を参照)を、「に」と訂正する。 (37)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ支持用ブラケット12は、」(本件特許の出願公告公報第7欄28行〜29行を参照)を、「ジブ支持用ブラケット12は」と訂正する。 (38)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ支持用」(本件特許の出願公告公報第7欄32行を参照)を、「ジブ支持」と訂正する。 (39)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「軸孔43」(本件特許の出願公告公報第7欄39行及び第8欄11行を参照)を、「軸孔43B」と訂正する。 (40)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「この場合」(本件特許の出願公告公報第8欄26行を参照)を、「この場合は」と訂正する。 (41)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ10の基端側を保持する」(本件特許の出願公告公報第8欄26行を参照)を、「ジブ10の重心より基端側で、当該ジブ10の重心近傍を保持する」と訂正する。 (42)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「基端」(本件特許の出願公告公報第8欄35行を参照)を、「端部」と訂正する。 (43)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「このように」(本件特許の出願公告公報第8欄38行を参照)を、「このようにして」と訂正する。 (44)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ブーム下面側」(本件特許の出願公告公報第8欄39行を参照)を、「ブーム3の下面側」と訂正する。 (45)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ支軸」(本件特許の出願公告公報第8欄41行及び43行〜44行を参照)を、「ジブ支持軸」と訂正する。 (46)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「抜け外れない」(本件特許の出願公告公報第8欄44行を参照)を、「抜け出ない」と訂正する。 (47)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「及及び」(本件特許の出願公告公報第9欄3行を参照)を、「及び」と訂正する。 (48)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「外して」(本件特許の出願公告公報第9欄8行を参照)を、「外し、」と訂正する。 (49)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「外して」(本件特許の出願公告公報第9欄22行を参照)を、「外して、」と訂正する。(50)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブ11」(本件特許の出願公告公報第9欄50行及び第10欄3行を参照)を、「ジブ10」と訂正する。 (51)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ブーム3」(本件特許の出願公告公報第10欄17行を参照)を、「ブブーム3」と訂正する。 (52)本件特許明細書の[実施例]に記載される、 「ジブホルダ10」(本件特許の出願公告公報第10欄19行を参照)を、「ジブホルダ11」と訂正する。 (53)本件特許明細書の[発明の効果]に記載される、 「ブームの側面」(本件特許の出願公告公報第10欄30行を参照)を、「ブーム側面」と訂正する。 (54)本件特許明細書の[発明の効果]に記載される、 「ジブに」(本件特許の出願公告公報第10欄39行を参照)を、「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダを駆動シリンダにより駆動するものであるから、ジブに」と訂正する。 (55)本件図面の【第2図】に記載される、 符号「11」を「10」と訂正する。 (56)本件図面の【第10図】に記載される、 符号「43」を「43B」と訂正する。 2.訂正の目的の適否について 訂正事項(2)は、本件特許明細書の[従来の技術]に記載される、「格納するもの」(本件特許の出願公告公報第2欄15行を参照)を、「格納するの」と訂正することを求めるものである。しかしながら、上記の訂正事項(2)は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、及び明りょうでない記載の釈明のいずれにも該当しない。 訂正事項(3)〜(13)、(18)〜(19)、(21)〜(23)、(25)〜(31)、(33)〜(35)、(37)〜(38)、(40)、(42)〜(43)、(45)〜(46)、(48)、(51)、(53)、(55)についても、同様である。 3.新規事項の追加について 訂正事項(41)は、本件特許明細書の[実施例]に記載される、「ジブ10の基端側を保持する」(本件特許の出願公告公報第8欄26行を参照)を、「ジブ10の重心より基端側で、当該ジブ10の重心近傍を保持する」と訂正することを求めるものである。。 ところで、上記訂正事項が本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであるか否かについて、以下検討する。 (1)本件特許明細書の発明の詳細な説明欄を検討すると、「ジブ10の基端側を保持するジブホルダ11」との記載、及び「ジブ10は、・・・その上側・・・には、ジブホルダ11に着脱可能に固定されるホルダ取付け用ブラケット15と、前記ジブ支持用ブラケット12に着脱可能に枢支されるブラケット取付け板16が固定されている。このホルダ取付け用ブラケット15とブラケット取付け板16は、ジブ10の重心(2段目ジブ10aを引き込んだ状態での重心)をはさんでその基端側と先端側に設けられている。」との記載が存在する。この記載によれば、本件発明の実施例としてではあるが、ジブホルダ11は、ジブ10の基端側を保持するものであること、ジブ10の上側に、ジブホルダ11に着脱可能に固定されるホルダ取付け用ブラケット15と、ジブ支持用ブラケット12に着脱可能に枢支されるブラケット取付け板16が固定されていること、ホルダ取付け用ブラケット15とブラケット取付け板16は、ジブ10の重心をはさんでその基端側と先端側に設けられていることが示されている。これらの記載によれば、「ジブホルダ11がジブを保持する位置と、ジブ支持用ブラケット12がジブを支持する位置は、ジブ10の重心をはさんで、前者がその基端側、後者がその先端側である。」ということを理解し得る。 しかし、本件特許明細書において、上記記載以上に重心の位置が明確にされているわけではなく、本件図面上にも重心を示す記載は存在しない。よって、上記各記載自体からは、ジブホルダが「ジブの重心近傍を保持する」ものとして記載されていると確定することはできない。 (2)そこで、技術常識にも照らして、本件特許明細書及び本件図面の記載を理解すれば、ジブホルダが「ジブの重心近傍を保持する」ことが記載されているといい得るか、について検討する。 本件特許明細書及び本件図面に記載されたジブを検討するに、第1図、第3図、第14図の記載によれば、ジブは、基端側から先端側にかけて、均一の太さや形状をしているものではなく、必ずしも単純な構造をしているともいえない。しかも、本件実施例のように、ジブの部分が二段構造になっている場合には、二段目ジブが一段目ジブの基端側のどの部分まで引き込まれるのか、引き込んだ状態においてもなお、二段目ジブの先端部分が一段目ジブの先端からどの程度突出するのか、二段目ジブについても、形状等がどうなっているのかなどによって、重心の位置が大きく影響されるといえる。したがって、本件ジブの「重心」の位置は、極端に先端側や基端側にあることはないとしても、明確には認識し得ないというほかないのであって、中心を基準とするとしても、相当程度幅をもった範囲でとらえるほかないというべきである。 (3)本件ジブの重心の位置に関する上記認定に加えて、「近傍」という用語自体がどの範囲までを意味するのか明確でないため、重心の位置を「ジブの長さ方向の中心近傍」という概念でとらえることができるのかどうかということ自体が不明瞭である。 本件訂正事項は、「ジブの重心近傍を保持する」というものであり、被請求人の主張によれば、「ジブの中心『近傍』にある重心の『近傍』を保持する」ということになる。 しかし、ジブの「重心」の位置(中心近傍)については、前述のとおりである上、「近傍」は一定の幅のある概念であるから、これらを2段階にわたって積み重ねることにより表現される、「ジブの中心『近傍』にある重心の『近傍』を保持する」という事項は、一層、内容の明確性が極めて乏しく、不明瞭なものとなっている。 なお、本件特許明細書及び本件図面をみても、訂正明細書の記載をみても、「近傍」に関する説明はない。結局、どの範囲のものが「近傍」の概念に含まれることになるのか、明確に理解し得ない。 以上によれば、本件特許明細書及び本件図面において、ブラケット15の位置、すなわち、ジブホルダ11がジブを保持する位置が「重心近傍」という概念でとらえ得るものとして記載されているものということは困難であるというほかない。 (4)上記の点に関し、本件特許明細書の記載が意味する実質的内容という観点からも、ジブホルダを「ジブの重心近傍を保持する」ものとすることが、本件特許明細書に記載されているものと理解し得るかを検討しておく。 本件特許明細書における「発明が解決しようとする課題」(第4欄17行〜24行、35行〜37行)、「作用」(第5欄25行〜30行)、「実施例」(第10欄9行〜26行)、「発明の効果」(第10欄39行〜40行)に関する各記載によれば、ジブホルダの位置は、「ジブのねじれ」に関係する構成とされているところ、従来の車両形クレーンでは、ジブホルダとは別の箇所においてウインチの巻索をジブに掛止しているため、索を巻上げてジブをブームの下面側から側面側に引き上げる際に、ジブを保持しているジブホルダが、ジブの引上げに対して抵抗となりながら回動することになり、そのため、ジブの索掛止部とジブホルダ装着部との間にねじりモーメントが作用して、ジブがねじれ変形してしまうという課題があったこと、本件発明では、ジブホルダ駆動シリンダによりジブホルダを回動させることにしたため、ジブホルダとは別の箇所でジブを引上げ駆動する場合のように、ジブにねじれモーメントが作用することはないことが説明されている。 すなわち、本件特許明細書には、ジブホルダとは別の箇所に力を作用させるのではなく、ジブホルダに直接力を作用させるという構成により、上記課題を解決したものであることが記載されており、ジブのねじれ変形の防止という点について、「重心」との関係は一切記載されていないだけでなく、ジブホルダ装着部と力を作用させる箇所を一致させるか否かという、重心とは全く関係のない点で課題が解決されるものとして記載されていることが明らかである。 なお、本件特許明細書においては、前記のとおり、実施例に関する部分で唯一、「重心」という用語が出てくるが、この「重心」と「ジブホルダ」との位置関係に何らかの技術的意味があることをうかがわせる記載はない。 よって、実質的内容を検討しても、本件特許明細書には、ジブホルダを「ジブの重心近傍を保持する」ものとすることが記載されているものとはいえない。 (5)以上のとおりであるから、本件訂正のうち、実施例におけるジブホルダを「ジブの重心近傍を保持する」ものとすることは、本件特許明細書又は本件図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるということはできない。 4.独立特許要件について (1)訂正事項(1)の訂正の理由 訂正事項(1)は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内において、「ジブホルダ」を「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダ」と限定するとともに、「ジブホルダをロック可能とする部材」を「ジブホルダを、当該ジブホルダにより保持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とする部材」と限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当するものである。 (2)訂正発明 訂正明細書記載の発明(以下、「訂正発明」という。)の要旨は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであると認める。(「1.訂正の内容」の(1)を参照) (3)刊行物記載の発明(事項) 請求人が甲第1号証の1として提示し、本件特許出願の前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭59-78094号公報(以下、「刊行物1」という。)には、 (イ)「この発明は、ブームの先端部両側面からそれぞれ軸を突設し、この軸回りにジブの回動を行つてその張り出しをなし、また格納する場合には一旦アームの下面に沿つてジブを支持した後、このジブをブームの下面から側面に沿つて引上げて格納するようにし、さらにはこのジブの引上げをクレーン自体の吊上げワイヤを利用して行うことを特徴とするものである。」(第2頁右上欄9行〜16行)、 (ロ)「第1図は車両形クレーンの全体を示し、・・・4は伸縮可能なブーム・・・を示す。そして、上記ブーム4の一側面4aにはこの一側面4aに沿つてジブ7が格納されており、このジブ7はブーム4に取り付けた支持機構8並びに支持アーム9により支持されている。」(第2頁右上欄19行〜同頁左下欄7行)、 (ハ)「支持機構8についてみれば、これはブーム4の先端側に設けられており、・・・。すなわち、第4図中40はブーム4の一側面4aに固定されたベースであつて、このベース40の下端部には第1ブラケツト41が側方に突設されている。この第1ブラケツト41には第1リンク42および回動ピン43,44介して支持部材45が連結されており、この支持部材45は第4図で示した状態の場合、ブーム4の軸線に対し交差する方向にこのブーム4の下面に沿つて配置されている。・・・また、ブーム4下面の中央部には第2ブラケツト48が下方に突設されており、この第2ブラケツト48もまた第2リンク49および回動ピン50,51を介して支持部材45の他端側に連結されている。・・・なお、52、52は支持部材45に取着されたジブ7連結用の連結具である。」(第2頁右下欄11行〜第3頁左上欄16行)、 (ニ)「支持アーム9はブーム4の基端側に設けられており、・・・。すなわち、第8図中80は・・・ブーム4の一側面4aに固定されたベースであつて、このベース80の下端には支持アーム9が側方に突出されている。この支持アーム9は回動軸81を介して枢着されており、この第8図で示した状態から上方のみに回動可能となつている。また、支持アーム9の先端にはピン孔82が形成されており、このピン孔82は支持アーム9が90°上方に回動されると、上記ベース80側の固定ブラケツト83のピン孔84に合致されるようになつている。」(第3頁右上欄1行〜13行)、 (ホ)「ブーム4の一側面4aには引掛部材としての案内シーブ15が設けられている。・・・ジブ7の先端部には、その張り出し時において上記ブーム4の一側面4a側の側面に同じく引掛部材としての止め具18が設けられているとともに、その下面中央にも同じく吊上げワイヤ16の止め具19が設けられている。」(第3頁右上欄19行〜同頁左下欄14行)、 (ヘ)「85は、支持アーム9先端を固定ブラケツト83に固定する固定ピンであり」(第4頁右上欄7行〜9行)、 (ト)「格納時ブームの下面にジブがないことから、クレーン全体の重心位置を低くでき、しかも運転室からの視界を良好にできるものである。」(第5頁右上欄6行〜8行) と記載されている。 ジブ7はその使用時に、ジブ基端を中心に回動を行つてブーム前方に張り出しを行うものであるから、ジブ7の格納時の支持手段である支持機構8及び支持アーム9はジブ7と着脱可能であることは自明である。 してみれば、上記(イ)〜(ト)の記載及び第1〜15図の記載からみて、刊行物1には、 「ジブ7の格納時には、その基端をブーム4の先端側に、また先端をブーム4基端側にそれぞれ向けた状態でジブ7をブーム4の側面に沿わせて格納し、上記ジブ7の使用時には、ジブ7を上記ブーム4の側面から下面側に移し替えた後に上記ジブ7の基端をブーム4の先端部に支持させてジブ7基端を中心にジブ7を回動させることによりブーム4前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、 ブーム4の先端側に、ジブ7の基端側を支持可能でかつこの支持したジブ7をブーム4の下面からブーム4の一側面に沿って引き上げ回動可能に枢着された支持機構8と、 ブーム4の基端側の一側面下部にブーム軸に沿わせて設けられた回動軸81に枢動可能に取付けられ、上記ジブ7の先端側を支持し、ジブ7と着脱可能な支持アーム9と、 上記ブーム4に設けられ、上記ジブ7を枢動する吊上げワイヤ16と、 上記ブーム4に設けられ、上記支持アーム9を、当該支持アーム9により支持したジブ7の、前記ブーム4の側面側の横抱き位置においてロック可能とする固定ピン85とを、 備えた車両形クレーンのジブ格納装置」の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。 また、請求人が甲第3号証として提示し、本件特許出願の前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭59-86591号公報(以下、「刊行物2」という。)には、 (チ)「この発明は、ブームの先端部両側面からそれぞれ軸を突設し、この軸回りにジブの回動を行ってその張り出しをなし、また格納する場合には一旦ブームの下面に沿ってジブを支持した後、このジブをブームの下面から一側面に引上げて格納するようにしたことを特徴とするものである。」(第2頁右上欄15行〜同頁左下欄1行)、 (リ)「ブーム3の下面に近接されるジブ7は案内レール19と案内部材としての案内ローラ20との組み合せおよびジブ受け部材21と係合部材22との組み合せにより支持される構造となっており、以下にその構成を説明する。まず、上記案内レール19はブーム3の先端側に取着されている。」(第3頁左上欄18行〜同頁右上欄4行)、 (ヌ)「第14図ないし第18図に示すようにあらかじめ案内ローラ20を案内レール19側に取り付けておき、この案内ローラ20に対してジブ7側の案内部材であるローラ軸20aを挿脱可能としてもよい。このようにすれば、電動ホイスト24のワイヤ24aを常時案内ローラ20のローラハウジング32に連結しておくことができ、このワイヤ24aの着脱作業を省略できる。」(第4頁右上欄17行〜同頁左下欄5行)、 (ル)「さらに引上げ機構は電動ホイスト24を用いるものに限らず、油圧シリンダ等でジブ7の引上げをなすようにしてもよい」(第4頁左下欄7行〜9行) と記載されている。 これらの記載と、図面特に第14〜18図の記載とからみて、刊行物2には、 「ジブ7の格納時には、その基端をブーム3の先端側に、また先端をブーム3基端側にそれぞれ向けた状態でジブ7をブーム3の側面に沿わせて格納し、上記ジブ7の使用時には、ジブ7を上記ブーム3の側面から下面側に移し替えた後に上記ジブ7の基端をブーム3の先端部に支持させてジブ7基端を中心にジブ4を回動させることによりブーム3前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、 ブーム3の先端側にブーム3の下面側から側面にわたるように曲成された案内レール19に移動可能に取り付けられた案内ローラ20と、ジブ7に設けられ、上記案内ローラ20と挿脱可能なローラ軸20aと、 ブーム3に設けられ、上記案内ローラ20のローラハウジング32と連結されたワイヤ24aを巻き取る電動ホイスト24とを備えること」、及び、 「上記電動ホイスト24に代えて、油圧シリンダによりジブ7の引き上げをなしてもよいこと」(上記の事項をあわせて、以下、「刊行物2記載の事項」という。) が、それぞれ記載されているものと認められる。 さらに、請求人が甲第4号証の1として提示し、本件特許出願の前に米国内で頒布された刊行物である米国特許第4383616号明細書(以下、「刊行物3」という。)には、 「ブーム21の先端に取り付けられるジブ23の起伏操作用ペンダント・ライン53、53’を案内するブライドル・アッセンブリー55をブーム21の上面と側面との間で揺動させるための駆動手段としてシリンダ91を採用すること」が、 請求人が甲第8号証として提示し、本件特許出願の前に日本国内で頒布された刊行物である特開昭58-189492号公報(以下、「刊行物4」という。)には、 「さく孔機様ロツドチエンジヤーのロツド収納装置であり、ロツドRを着脱自在に保持するアーム3をシリンダ7によって軸5の周りで枢動させること」が、 請求人が甲第9号証として提示し、本件特許出願の前に日本国内で頒布された刊行物である実願昭57-53951号(実開昭58-156791号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物5」という。)には、 「さく岩装置のロッドチェンジャーであって、ロッドRを着脱自在に保持するアーム10a,10bをシリンダ14によって軸6、9のまわりで枢動させること」が、 請求人が甲第10号証の1として提示し、本件特許出願の前に米国内で頒布された刊行物である米国特許第3771666号明細書(以下、「刊行物6」という。)には、 「貨物把持機構に関して、コイル102を着脱自在に保持する把握アーム71,72をシリンダ81,82によって軸70の周りで枢動させること」が、 それぞれ記載されているものと認められる。 (4)対比 訂正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「ジブ7」は前者の「ジブ」に、後者の「ブーム4」は前者の「ブーム」に、後者の「回動軸81」は前者の「支軸」に、それぞれ相当する。また、後者の「支持アーム9」は、ジブと着脱可能で、ブームの側面にブーム軸に沿わせて設けられた回動軸81(訂正発明の「支軸」)に枢動可能に取付けられ、ジブを支持するものであるから、前者の「ジブホルダ」というべきものであり、また、後者の「固定ピン85」は、ブームに設けられ、支持アーム9(訂正発明の「ジブホルダ」)を、当該支持アーム9(訂正発明の「ジブホルダ」)により支持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とするものであるから、前者の「ロック可能とする部材」というべきものである。そして、前者の「駆動シリンダ」及び後者の「吊上げワイヤ16」は、それらの機能からみて、ともに「ジブをブームの側面側及び下面側に移し替える手段」ともいうべきものである。さらに、後者の「支持」と前者の「保持」とは、「支持」の限りで共通する。 してみると、両者は、 「ジブの格納時には、その基端をブームの先端側に、また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し、上記ジブの使用時には、ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、 ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に、枢動可能に取付けられ、上記ジブを支持し、ジブと着脱可能なジブホルダと、 上記ブームに設けられ、ジブをブームの側面側及び下面側に移し替える手段と、 上記ブームに設けられ、上記ジブホルダを、当該ジブホルダにより支持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とする部材とを、 備えた車両形クレーンのジブ格納装置」で一致し、以下の点で相違する。 〈相違点1〉ジブホルダに関して、前者は、ジブの重心より基端側を保持するのに対して、後者は、ジブを支持するものであって、しかも、その支持位置がジブの重心より基端側で保持するものかは不明である点。 〈相違点2〉ジブをブームの側面側及び下面側に移し替える手段に関して、前者は、ジブホルダを枢動する駆動シリンダであるのに対して、後者は、ジブホルダではなくジブを枢動する吊上げワイヤである点。 (5)当審の判断 〈相違点1について〉 刊行物2記載の事項における「案内ローラ20」は、ブーム3に設けられ、ジブ7に固設されたローラ軸20aと挿脱可能(訂正発明の「着脱可能」に相当)で、ジブ7を支持する機能を有するものであるから、訂正発明の「ジブホルダ」ともいいうる部材であり、しかも、その支持位置はブーム3の先端側すなわちジブ7の基端側である。一方、刊行物1記載の発明では、ジブホルダに相当する支持アーム9はジブ7の先端側を支持している。 以上のことからも窺えるように、ジブホルダの支持位置をジブの長さ方向のどこに設けるかは、ジブの長さ、剛性等を考慮しつつ、ジブの枢動作業を容易かつ効率的に行い得るように、当業者が適宜設定する事項であるというべきものである。そして、ジブの長さ、剛性等に応じたジブの枢動作業の容易性、効率性を勘案して、ジブホルダの支持位置をジブの重心位置との関係で規定することは、当業者が容易になし得る程度の事項である。 さらに、ジブホルダをジブを単なる「支持」ではなく、「保持」するものとすることは、当業者が容易になし得ることである。 してみると、刊行物1記載の発明において、相違点1に係る構成を訂正発明のように設けることは、当業者が容易になし得るものであるといわざるを得ない。 〈相違点2について〉 刊行物2には、ジブを移し替える手段をジブホルダに相当するものに作用させること、また、刊行物1のような電動ホイストに代えて油圧シリンダを用いることが開示されている。 また、刊行物3には、車両に搭載されたクレーンにつき、ワイヤを用いることなく、油圧シリンダを直接作用させて、ブライドル・アッセンブリをブームの一側に格納したり、同所からブームの上側へ、又は、上側から同格納位置まで、移動させる構成が開示されている。なお、刊行物3記載の事項は、ジブ自体の移し替えに関するものではないものの、同じクレーンにおける部材を枢動させて、ブームに格納したり移し替えたりするものである。その他、ワイヤなどを介さず、シリンダを直接に作用させるものとしては、クレーンではないが、岩盤などのさく孔機について、岩盤に差し込まれていくロッドを順次継ぎ足していく構成においても示されている(刊行物4〜6)。 したがって、本件出願当時においては、各種作業に用いられる機械の分野において、部材を枢動させて位置を移し替える手段として、油圧シリンダを用い、これをワイヤなどを介することなく、部材に作用させる技術は、周知であったと認められる。 よって、上記刊行物3ないし6により認められる周知技術をも考慮すれば、刊行物1記載の発明における相違点2の構成を訂正発明のものとすることは、当業者が容易になし得たことであるというべきである。 〈作用効果について〉 ジブにねじれ変形を生じさせることなくその移し替えを行なうことができるとの作用効果も含め、訂正発明の作用効果は、刊行物1記載の発明及び刊行物2記載の事項から、当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。 したがって、訂正発明は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項に違反するものであるから、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本件訂正請求は、平成6年改正前の特許法第134条第2項ただし書及びただし書各号、並びに、同法第134条第5項において準用する、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる平成6年改正前の特許法第126条第3項の規定に適合しない。 第6.本件発明について 1.本件発明 訂正請求は、上述のとおり認めることができないので、本件発明の要旨は、本件特許登録時の明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりのものであると認める。 「ジブの格納時には、その基端をブームの先端側に、また先端をブーム基端側にそれぞれ向けた状態でジブをブームの側面に沿わせて格納し、上記ジブの使用時には、ジブを上記ブームの側面から下面側に移し替えた後に上記ジブの基端をブームの先端部に支持させてジブ基端を中心にジブを回動させることによりブーム前方に張出して使用する形式の車両形クレーンにおいて、 ブームの上記側面にブーム軸に沿わせて設けられた支軸に、枢軸可能に取付けられたジブホルダと、 上記ブームに設けられ、上記ジブと着脱可能な上記ジブホルダを枢動する駆動シリンダと、 上記ブームに設けられ、上記ジブホルダをロック可能とする部材とを、 備えたことを特徴とする車両形クレーンのジブ格納装置。」 2.刊行物記載の発明 刊行物及び刊行物記載の発明(事項)は、「第5.4.(3)」に記載したとおりである。 3.特許法第29条第2項違反についての判断 本件発明の構成に加えて、「ジブホルダ」を「ジブの重心より基端側を保持するジブホルダ」と限定する構成、及び「ジブホルダをロック可能とする部材」を「ジブホルダを、当該ジブホルダにより保持したジブの、前記ブームの側面側の横抱き位置においてロック可能とする部材」と限定する構成を付加した訂正発明が、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明も、訂正発明と同様の理由から、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の事項、及び、周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、昭和60年改正特許法第123条第1項第1号に該当し、したがって、無効理由1、3について検討するまでもなく、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1999-08-16 |
結審通知日 | 1999-08-27 |
審決日 | 1999-09-17 |
出願番号 | 特願昭59-121515 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
ZB
(B66C)
P 1 112・ 841- ZB (B66C) P 1 112・ 856- ZB (B66C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 秋田 修 |
特許庁審判長 |
西川 恵雄 |
特許庁審判官 |
清田 栄章 大橋 康史 |
登録日 | 1997-05-16 |
登録番号 | 特許第2129544号(P2129544) |
発明の名称 | 車両形クレーンのジブ格納装置 |
代理人 | 大浜 博 |
代理人 | 御園生 芳行 |