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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない G01D
管理番号 1105427
審判番号 無効2000-35092  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-02-16 
確定日 2004-11-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第2619728号発明「記録紙」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第2619728号発明は、平成2年1月25日に特許出願され、その後平成3年4月25日付け、平成4年12月14日付け、平成5年11月12日付け、平成7年2月6日付け、平成8年9月26日付けの各手続補正を経て、平成9年3月11日にその設定登録がなされたものであって、請求項1及び請求項2に係る発明は、特許明細書と図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】下記(A)と(B)の重量比が1から3の範囲の組成物からなる隠蔽層(5)が1から20ミクロンの膜厚で着色原紙(1a)、(1b)の表面に形成されたことを特徴とする、記録紙。
(A)隠蔽姓を有する水性の中空孔ポリマー粒子
(B)成膜性を有する水性ポリマー
【請求項2】タコグラフ用の請求項1の記録紙。」

2.審判請求人の主張
請求人は甲第1号証(本件特許公報である特許第2619728号公報)、甲第2号証(本件特許出願である特願平2-15644号の当初明細書)、甲第3号証(本件特許出願に係る平成4年12月14日付手続補正書)、甲第4号証(本件特許出願に係る平成7年2月6日付審判請求理由補充書及び添付書類)、甲第5号証(特許庁審査基準 第III部 明細書の補正)、甲第6号証(国際公開パンフレットWO91/11686号)、甲第7号証(特開昭60-223873号公報)を提出し、平成4年12月14日付けの手続補正は明細書の要旨を変更するものであるから、本件特許出願は特許法第40条の規定により平成4年12月14日に出願したものとみなされ、そして本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、国際公開パンフレットWO91/11686号(甲第6号証)及び特開昭60-223873号公報(甲第7号証)に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきであると主張している。
3.当審の判断
請求人は、本件特許発明が甲第6号証及び甲第7号証に記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたとすることの前提として、平成4年12月14日付けの手続補正は明細書の要旨を変更するものであるから本件特許出願は平成4年12月14日に出願したものとみなされる旨主張しており、具体的には、出願当初の明細書における「針の摺削により着色原紙が」という記載(明細書第8頁第3行)を、平成4年12月14日付けの手続補正書において「針の摺削によって隠蔽層の中空孔を有するポリマー粒子がつぶれることにより着色原紙の色が」と補正したことにより、発明の構成に関する技術的事項が当初明細書に記載された事項の範囲内でないものとなり、また、この補正が自明事項に係るものでもないので、前記補正は明細書の要旨を変更するものであると主張している。
上記前提となる主張について、以下に検討する。
出願当初の明細書には、記録紙への印字について、「こうして得られた記録紙は尖針例えば鉄針、サファイヤー針、ダイヤモンド針等のインクを用いない針の摺削により着色原紙が現出され印字される。」と記載されており(明細書第8頁第2行〜第5行)、平成4年12月14日付けの手続補正書において、この記載における「針の摺削により着色原紙が」という記載を、「針の摺削によって隠蔽層の中空孔を有するポリマー粒子がつぶれることにより着色原紙の色が」と補正したものである。そしてその後、平成7年2月6日付け手続補正書で全文訂正がなされ、当該記載を含む段落全体が新たに補正されたが、その新たに補正された段落において、記録紙への印字に関しては「得られた記録紙は、尖針例えば鉄針、サファイヤー針、ダイヤモンド針等のインクを用いない室温の記録針によって隠蔽層の中空孔ポリマー粒子が潰れて透明化することにより着色原紙の色調が現出され、印字される。」(平成7年2月6日付け手続補正書で訂正された明細書第4頁第22行〜第24行、特許公報第3頁第5欄第10行〜第13行参照)と記載されており、平成4年12月14日付けの手続補正書において補正された「隠蔽層の中空孔を有するポリマー粒子がつぶれることにより着色原紙の色が現出され印字される。」という記載と、平成7年2月6日付け手続補正書において補正された「隠蔽層の中空孔ポリマー粒子が潰れて・・・着色原紙の色調が現出され、印字される。」という記載は対応関係にあるものである。
まず、出願当初の明細書に記載された事項について検討すると、「記録紙」については、「下記(A)及び(B)成分より成る組成物を着色原紙上に被覆させて得られる記録紙 (A)隠蔽性を有する水性ポリマー粒子 (B)成膜性を有する水性ポリマー」(当初明細書の特許請求の範囲請求項1)と記載されており、上記「(A)隠蔽性を有する水性ポリマー粒子」について具体的には、「本発明の隠蔽性を有する水性ポリマー粒子とは中空孔を有して得られるポリマー分散体であり」(当初明細書第5頁第3行〜第5行)、「粒子径は5〜0.1ミクロンであり好ましくは1〜0.3ミクロンである。コアー(芯)が一部中空化しているため高い隠蔽性を有し、且つ粒子は完全に水中で分散された状態である。」(当初明細書第5頁第20行〜第6頁第4行)と記載され、そして、(A)及び(B)成分より成る組成物を着色原紙上に被覆させる点について具体的には、「隠蔽性を有する水性ポリマー粒子と成膜性を有する水性ポリマーの混合割合は1:9〜9:1であり好ましくは1:3〜3:1である。両者を混合して得られた塗布液が着色原紙に塗布される。塗布方法はエアーナイフコーター、ロールコーター、スプレー等であり、均一に塗布されねばならない。温風(50〜200℃)乾燥により20〜1ミクロンの膜厚であり好ましくは10〜3ミクロンの膜厚が得られる。」(当初明細書第7頁第10行〜第18行)と記載され、さらに得られた記録紙については、「得られた皮膜は着色原紙の色を完全に隠蔽しており、通常白い外観が得られ記録紙として供せられる。」(当初明細書第7頁第18行〜第8頁第1行)と記載されている。すなわち、これらの記載からすれば、当初明細書には、着色原紙の上に隠蔽性を有する水性ポリマー粒子と成膜性を有する水性ポリマーを混合してなる塗布液を塗布・乾燥した皮膜を有し、該皮膜により着色原紙の色が完全に隠蔽されている記録紙が開示されているものと認められる。また、このような記録紙への印字方法については、前述のとおり「こうして得られた記録紙は尖針例えば鉄針、サファイヤー針、ダイヤモンド針等のインクを用いない針の摺削により着色原紙が現出され印字される。」(当初明細書明細書第8頁第2行〜第5行)と記載されていることから、当初明細書には、着色原紙の色が皮膜により完全に隠蔽されている記録紙が、尖針例えば鉄針、サファイヤー針、ダイヤモンド針等のインクを用いない針によって摺削されると、皮膜による隠蔽性が失われ、その結果着色原紙が現出され印字されるという印字方法が開示されているものと認められる。
そこで、平成4年12月14日付けの手続補正書において補正された「隠蔽層の中空孔を有するポリマー粒子がつぶれることにより着色原紙の色が現出され印字される。」という記載により、発明の構成に関する技術的事項が当初明細書に記載された事項の範囲内でないものとなるかどうか検討するに、着色原紙を隠蔽している皮膜中に中空孔ポリマー粒子が存在し、該中空孔ポリマー粒子が内部が中空である微細な粒子であることは当初明細書の記載より明らかであり、また、鉄針、サファイヤー針、ダイヤモンド針等のインクを用いない尖針の摺削による記録は、ある程度圧力をかけて行われることは当業者にとって自明であることから、このような尖針の摺削により皮膜中の微細な中空粒子が潰れることは当然推測できるものであり、また中空粒子が潰れた結果、その隠蔽性が失われるであろうことも推測可能である。したがって、明細書が上記のように補正されたとしても、補正により特定される印字方法は、当初明細書に開示されている、針によって摺削されると皮膜による隠蔽性が失われ、その結果着色原紙が現出され印字されるという印字方法の範囲内のものとなるものであり、このような補正は当初明細書に記載された範囲内での補正であって、当初明細書の要旨を変更するものとは認められない。
さらに、平成7年2月6日付け手続補正書において「隠蔽層の中空孔ポリマー粒子が潰れて・・・着色原紙の色調が現出され、印字される。」と補正されている点についても、上記したのと同様の理由により当初明細書の要旨を変更するものとは認められない。
また、請求人は、当初明細書に開示されている印字方法は、隠蔽層が取り除かれて着色原紙が現出され印字される、すなわち着色原紙を隠蔽している皮膜の隠蔽性が、皮膜自体が取り除かれることによって失われるものであると断定し、もって、補正後の「隠蔽層の中空孔ポリマー粒子が潰れて・・・着色原紙の色調が現出され、印字される。」という記載により特定される印字方法が、当初明細書に記載された範囲外のものであると主張するが、当初明細書には着色原紙を隠蔽している皮膜自体が取り除かれることを窺わせるような記載がないこと、「摺削」あるいは「着色原紙が現出」という語句が必ずしも皮膜自体が取り除かれることを意味するものではないことを考慮すると、請求人の上記主張は採用することができない。
なお、本件特許無効審判事件とは直接関係がないが、本件特許についての同一請求人による別の無効審判事件において、請求人は数値限定の臨界的意義を検証することを目的として、補正がなされておらず出願当初の記載がそのまま残っている本件特許の実施例の配合No.2に準じた実験を行っており、その実験報告書の中では本件特許の記録紙が中空孔ポリマー粒子の潰れにより印字されるものであることが明らかとなっている(平成11年審判第35526号の平成11年9月27日付審判請求書第11頁第18行〜第15頁第17行及び甲第11号証「実験報告書」参照)。
以上のとおり、平成4年12月14日付けの手続補正は明細書の要旨を変更するものではなく、請求人の主張はその前提において誤りがあるから、甲第6号証及び甲第7号証を検討するまでもなく、請求人の主張する上記理由によって本件特許を無効とすることはできない
4.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2001-03-02 
出願番号 特願平2-15644
審決分類 P 1 112・ 121- Y (G01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 修身中島 次一  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 多喜 鉄雄
鐘尾 みや子
登録日 1997-03-11 
登録番号 特許第2619728号(P2619728)
発明の名称 記録紙  
代理人 永井 義久  
代理人 阿部 和夫  
代理人 升永 英俊  
代理人 池田 知美  
代理人 森田 政明  
代理人 谷 義一  
代理人 大島 崇志  
代理人 橋本 傳一  
代理人 戸田 泉  

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