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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C01B
管理番号 1105853
異議申立番号 異議2000-74428  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-05-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-12-12 
確定日 2004-08-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3050850号「燃料電池発電システム」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3050850号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3050850号の請求項1乃至3に係る発明についての出願は、平成1年5月17日に特許出願した特願平1-123420号(以下、「原出願」という。)の一部を平成10年8月28日に新たな特許出願としたものであって、平成12年3月31日にその発明についての特許の設定登録がなされたものである。
その後、その特許について、異議申立人:川上宣男(以下、「申立人川上」という。)、並びに名越千栄子(以下、「申立人名越」という。)より特許異議の申立てがなされた。その経緯は次のとおりである。
特許異議申立(申立人川上): 平成12年12月12日
特許異議申立(申立人名越): 平成12年12月12日
取消理由通知(第一回): 平成13年 7月16日
特許異議意見書: 平成13年10月 1日
訂正請求: 平成13年10月 1日
上申書(申立人川上): 平成13年12月14日
上申書(申立人名越): 平成13年11月30日
訂正拒絶理由通知: 平成14年 1月11日
意見書: 平成14年 3月26日
取消理由通知(第二回): 平成14年 7月12日
意見書: 平成14年 9月24日
取消理由通知(第三回): 平成14年10月29日
意見書: 平成14年12月25日
2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち訂正事項a及びbのとおりに訂正しようとするものである。
ア.訂正事項a
明細書の【特許請求の範囲】【請求項1】の「原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫し、この脱硫燃料を水素を主成分とするガスに改質し、この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法。」を、「原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫し、この脱硫燃料をS/Cが3.3以下で水素を主成分とするガスに改質し、この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法。」と訂正する。
イ.訂正事項b
明細書中の「【課題を解決するための手段】即ち、本発明が原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫し、この脱硫燃料を水素を主成分とするガスに改質し、この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法に関する。本発明の方法に使用する代表的な燃料電池発電システムは、原燃料を脱硫する脱硫装置と、脱硫された原燃料を水素を主成分とする燃料ガスに改質する水蒸気改質装置とを少なくとも有する燃料電池発電システムにおいて、脱硫装置が銅ー亜鉛系脱硫剤を充填した脱硫装置で構成されることを特徴とするものであり、特に原燃料として都市ガスなどの気体燃料を使用する燃料電池に適した発電システムである。なお、本発明において、銅ー亜鉛系脱硫剤とは、銅と亜鉛成分(例えば、酸化亜鉛等)とを少なくとも含有し、さらにアルミニウム成分(例えば、酸化アルミニウム等)、クロム成分(例えば、酸化クロム等)等のその他の成分を含有していてもよい脱硫剤を意味する。」(段落【0011】)を、「【課題を解決するための手段】即ち、本発明が原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫し、この脱硫燃料をS/Cが3.3以下で水素を主成分とするガスに改質し、この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法に関する。本発明の方法に使用する代表的な燃料電池発電システムは、原燃料を脱硫する脱硫装置と、脱硫された原燃料を水素を主成分とする燃料ガスに改質する水蒸気改質装置とを少なくとも有する燃料電池発電システムにおいて、脱硫装置が銅ー亜鉛系脱硫剤を充填した脱硫装置で構成されることを特徴とするものであり、特に原燃料として都市ガスなどの気体燃料を使用する燃料電池に適した発電システムである。なお、本発明において、銅ー亜鉛系脱硫剤とは、銅と亜鉛成分(例えば、酸化亜鉛等)とを少なくとも含有し、さらにアルミニウム成分(例えば、酸化アルミニウム等)、クロム成分(例えば、酸化クロム等)等のその他の成分を含有していてもよい脱硫剤を意味する。」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、「燃料電池を水素を主成分とするガスに改質」を技術的に限定して「この脱硫燃料をS/Cが3.3以下で水素を主成分とするガスに改質」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。また、上記訂正事項bは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明に該当する。そして、上記訂正事項については、段落【0037】に「低S/C運転が可能となり、熱効率、発電効率等の向上に寄与することができる」と記載され、段落【0025】の試験例1として、具体的に「S/C=3.3」が記載されていることからみて、願書に添付した明細書には発明の効果としての具体的なS/C値として3.3が典型的なものとして例示されるのであるから、そのS/C値が3.3前後の値を含む低S/C運転が可能であることが記載されているといえる。このことから上記訂正事項は、S/Cが3.3前後を含む低S/C運転の範囲を3.3以下の範囲に単に限定したものであるといえる。したがって、いずれの訂正事項も、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、また、実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3)むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項で準用する平成6年法律第116号による改正前の第126条第1項ただし書、第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.本件発明
上記訂正は、上述したとおり認容することができるから、本件訂正後の請求項1乃至3に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明3」という。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫し、この脱硫燃料をS/Cが3.3以下で水素を主成分とするガスに改質し、この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法。
【請求項2】原燃料の硫黄含有量を0.1vol.ppb以下に脱硫する請求項1に記載の方法。
【請求項3】原燃料が気体燃料である請求項1または2いずれかに記載の方法。
4.特許法第44条第1項(分割要件)について
本件発明1〜3は、上記3.に記載のとおりであり、本件明細書(段落【0010】)の記載によると「燃料ガス系を改良することにより、装置を小型化でき且つ長時間、安定的に運転することができる燃料電池発電方法を提供することを目的」としている。そして、従来技術では、本件明細書(段落【0009】)の記載によると「精製後の原燃料中の硫黄濃度が数ppm〜0.1ppmとなるようなレベルで行われており、水蒸気改質触媒の被毒あるいは炭素析出を十分に抑制することはできず、燃料電池を長時間安定的に運転することができないという問題」があり、その課題を解決するため本件発明1〜3では上記3.に記載の構成を採ることによって、本件明細書(段落【0012】【0036】)に記載されるとおりの「後続の水蒸気改質反応における水蒸気改質触媒の被毒が抑制され、触媒活性を長時間維持することができ、燃料電池の安定した運転が可能」となり、「炭素析出を防止して水蒸気改質触媒が高活性を長時間維持することができ」、「低S/C運転が可能となり、熱効率、発電効率等の向上に寄与できる」という効果を奏するのである。
一方、原出願の願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という)の特許請求の範囲第2項には「原燃料の硫黄含有量を5ppb以下に脱硫する」ことが、同第3項には「原燃料の硫黄含有量を0.1ppb以下に脱硫する」ことが、また同請求項5には「原燃料が気体燃料である」ことが記載されている。そして、当初明細書の発明の詳細な説明には「脱硫装置が銅-亜鉛系脱硫剤を充填した脱硫装置が使用され、該脱硫剤は原燃料中の硫黄含有量を5ppb以下、通常0.1ppb以下に脱硫することができ」(公開公報第3頁左下欄4〜12行)ることが、また試験例1として「脱硫したガスを水蒸気と混合した後、水蒸気改質装置に導入し、S/C(原燃料炭化水素中の炭素1モル当りの水蒸気のモル数)=3.3、・・・で水蒸気改質反応に付した。」(公開公報第5頁左下欄2〜7行)ことが、また発明の効果として「本発明の燃料電池発電システムによれば、・・・水蒸気改質触媒の劣化が防止され、燃料電池を長時間、安定的に運転することができ、・・・水蒸気改質触媒の高活性を長時間維持することができ、低S/C運転が可能となり、熱効率、発電効率等の向上に寄与できる・・・装置の小型化が図れる」(公報第6頁左下欄6行〜同頁右下欄7行)ことが記載されている。
当初明細書には上記したように発明の効果として「低S/C運転が可能となり、熱効率、発電効率等の向上に寄与することができる」と記載され、試験例1として、具体的に「S/C=3.3」が記載されていることからみて、願書に添付した明細書には発明の効果としての具体的なS/C値として3.3が典型的なものとして例示されるのであるから、そのS/C値が3.3前後の値を含む低S/C運転が可能であること、すなわち実質的にS/Cが3.3以下で改質することが記載されているといえ、また「原燃料の硫黄含有量を5ppb以下に脱硫」及び「原燃料の硫黄含有量を0.1ppb以下に脱硫」するとの記載からみて1ppb以下に脱硫することは記載されているに等しいといえるから、本件発明1〜3の構成は、当初明細書の一部を分割出願に係る発明としていることは明らかであって、当初明細書に記載された事項の範囲内のものであると云える。
したがって、本件特許の出願は、適法になされた分割出願であるから、本件特許に係る出願は特許法第44条第2項の規定により、本件特許の出願日は、平成1年5月17日であるとみなされる。
5.特許法第29条第2項(進歩性)について
5-1.引用刊行物の記載事項
当審の先の平成14年10月29日付け取消理由通知で引用した、平成1年5月17日前に日本国内で頒布された引用例1〜5(以下、「刊行物1」〜「刊行物5」という)には、それぞれ以下の事項が記載されている。
(1)刊行物1(「燃料電池の技術と経済性」R&DReport No.63、(株)シーエムシー、1985年3月5日発行、1〜16頁(異議申立人名越千栄子の甲第1号証))
(イ)「リン酸型燃料電池発電システムは、燃料電池本体のほかにこれを作動させるために多くの周辺機器を必要とする。・・・図2.1.1に示すように、主として次の4つから構成される。1)天然ガスやメタノールなどの燃料を水素リッチガスに改質する燃料改質装置 2)水素リッチガス中の水素と空気中の酸素を電気化学的に反応させて発電する燃料電池本体 3)・・・電力変換装置 4)・・・制御装置」(第14頁6〜14行)
(ロ)「燃料改質装置は、天然ガス、ナフサあるいは石炭などからイオウ化合物を除く脱硫器、脱硫されたガスを水素と一酸化炭素とに改質するリフォーマ(改質器)、一酸化炭素をさらに水素と二酸化炭素とに転化する一酸化炭素転化器から成る。 原料中にイオウが含まれると、リフォーマの触媒および燃料電池電極の白金触媒に被毒物質として働くので、これを除去しなければならない。・・・脱硫後の燃料ガスは水蒸気とともに約750〜800℃の改質器(リフォーマ)に送られ、水素、一酸化炭素、二酸化炭素に分解される。」(第15頁7〜15行)
(ハ)「改質器および一酸化炭素転化器での反応をまとめると、 CH4+2H2O→CO2+4H2 となる。この反応に必要な水蒸気量のH2O/CH4(S/C)モル比は2であるが、実際には、反応を十分に行わせるために、3〜5に設定されている。」(第16頁2〜5行)
(ニ)「燃料電池において、空気室に取り入れられた空気中の酸素と、この改質ガス中の水素とが電気化学的に反応して、直流電力が発生する。」(第16頁8〜9行)
(2)引用例2(特開昭61-163568号公報(異議申立人川上宣男の甲第2号証))
(イ)「燃料電池発電プラントでは、原料ガス(例えば、メタン、プロパン、ブタン、ナフサ等)の改質用触媒の被毒防止のため、原料ガス中の硫黄分を0.1ppm以下に低減するための脱硫装置が必要である。」(第1頁左欄17行〜同頁右欄1行)
(ロ)「該反応塔5を出た硫化水素を含む原料ガス6は吸着塔7へ送られる。この吸着塔7は、一般に、ZnO等の触媒(吸着剤)が使用され、・・・原料ガス中の硫黄分が除去される。以上のようにして硫黄分が除去された原料ガス8は改質炉(図示省略)へ送られ、燃料電池発電用に用いられ」(第1頁右欄15行〜第2頁左上欄5行)
(3)引用例3(「燃料協会誌」第68巻第2号、社団法人燃料協会、平成元年2月20日発行、124〜129頁(異議申立人川上宣男の甲第3号証)
(イ)「現状の脱硫レベルでは、理想的な場合でも0.1〜0.05ppmの硫黄分が原料炭化水素に混入することは避けられない。・・・Ru表面の硫黄平均被覆率は0.8以上となり、反応条件下のRu表面はほとんど硫黄に覆われることが予想できる。」(第127頁左欄下7〜1行)
(ロ)「本実験ばかりでなく、・・・触媒層における硫黄被毒領域と活性劣化領域、および炭素析出領域が一致していた。硫黄被毒による活性劣化については、反応条件下で、時間の経過とともに、触媒金属表面は、そのほとんどを安定な表面硫化物で覆われ、金属に固有の触媒活性を失うためと説明できる。・・・低温水蒸気改質反応条件においても、メタン化反応と同様、硫黄被毒の進行が活性劣化ゾーンの進行を支配していると考えられ、炭素析出も硫黄被毒により二次的に引き起こされたと考えられた。」(第127頁右欄18行〜第128頁8行)
(ハ)「以上の結果から、硫黄被毒は触媒に大きな活性劣化をもたらすのみならず、低温水蒸気改質反応における大きな問題であった炭素析出の原因となっていることが明らかとなった。」(第128頁右欄下5〜2行)
(4)引用例4(「化学装置」第14巻第10号、(株)工業調査会、昭和47年10月1日発行、24〜31頁(異議申立人川上宣男の甲第4号証))
(イ)「4.水素化脱硫触媒 アンモニア・水素プラントに使用される炭化水素の種類は、天然ガス(メタン)、ブタン、ナフサ、エチレンプラントガス・・・。これら原料中には不飽和炭化水素、たとえばアセチレン、エチレン、プロピレンなど、硫黄化合物たとえばH2S、COSなどの無機硫黄、RSH、RSR、RSSR、チオフェンなどの有機硫黄や窒素化合物も含まれている。これらの各成分はいずれもリフォーミング触媒の活性を低下させカーボンの生成、ひいては触媒の崩壊を招くのでアセチレン類は1ppm以下、オレフィン類は1%以下、硫黄化合物はSとして1ppm以下、実質的には0.5ppm以下に除去する必要がある。」(第25頁右欄1〜23行)
(5)引用例5(特開平1-123627号公報(異議申立人川上宣男の甲第5号証))
(イ)「本発明者は、上記の如き銅系脱硫剤における問題点に鑑みて、種々研究を重ねた結果、共沈法により製造した酸化銅-酸化亜鉛混合物を水素還元することにより、各種のガス及び油中の硫黄含有量を0.1ppb若しくはそれ以下のレベルにまで低下させることが出来ることを見出した。」(第1頁右欄7〜12行)
(ロ)「本発明による脱硫剤は、各種のガス中及び油中の有機硫黄及び無機硫黄を0.1ppb又はそれ以下のレベルまで低下させることが出来る。しかも、その性能は、長期にわたり持続する。」(第2頁右下欄1〜4行)
(ハ)「実施例1・・・該脱硫装置に・・精製コークス炉ガス・・を通じ・・・脱硫した。その結果、最終的に得られた精製ガス中の硫黄化合物濃度は、10000時間の運転にわたり、平均0.1ppb以下に低下していた。」(第2頁右下欄末行〜第3頁左上欄14行)
(ニ)「参考例3・・・硫黄含有量100ppmのナフサを・・・脱硫した。実施例3 参考例3で得られた精製ガスを実施例1と同様にして二次脱硫に供した。その結果、・・・平均0.1ppb以下のレベルであった。」(第3頁右上欄末行〜同頁左下欄13行)
(ホ)「常法により予備精製されたコークス炉ガスを本発明による銅-亜鉛系脱硫剤を用いて高次脱硫した。得られた高次脱硫コークス炉ガスを・・・Ru/Al2O3触媒3.5t(かさ密度0.8kg/l)を充填した改質反応器(内径160cmφ)に導入し、入口温度300℃で16000時間改質反応を行った。・・・その結果、螢光X線分析法による硫黄の検出限界(0.00005g-S/g-触媒)以下であった。従って、高次脱硫した原料ガス中に含まれる硫黄含有量は、下記式により算出され、0.1ppb以下であることが判明した。」(第4頁右下欄13〜第5頁16行(平成1年1月26日付け手続補正書による補正にかかる記載))
(ヘ)「コークス炉ガス以外のLPG、ナフサなどを使用する場合についても、同様の・・・行った。」(第5頁右欄1〜3行:平成1年1月26日付手続補正書(自発)補正内容1)
5-2.対比・判断
5-2-1.本件発明1について
刊行物1の上記(イ)には、「リン酸型燃料電池発電システムは、主として天然ガスやメタノールなどの燃料を水素リッチガスに改質する燃料改質装置、水素リッチガス中の水素と空気中の酸素とを電気化学的に反応させて発電する燃料電池本体、電力変換装置、制御装置から構成される」ことが記載される。この記載の「燃料改質装置」は上記(ロ)によると「イオウ化合物を除く脱硫器、脱硫されたガスを水素と一酸化炭素とに改質するリフォーマ(改質器)」を構成としている。これらの構成に基づく燃料電池発電システムの稼働についてみてみると、上記(ロ)に「原料中にイオウが含まれると、リホーマの触媒に被毒物質として働くので、これを除去しなければならない」と、また「脱硫後に燃料ガスが改質器に送られ」と記載されていることから、そこには「燃料ガスは脱硫器によりイオウが除去され、脱硫後に改質器に送られ水素リッチガスに改質される」ことが記載されていると云える。そして、上記改質器での反応におけるS/Cに関し、上記(ハ)には、必要量として「2」が挙げられ、実際には「3〜5に設定されている」と記載されている。また、その改質後、上記(ニ)によると、上記燃料電池本体において「空気室に取り入れられた空気中の酸素と、この改質ガス中の水素とが電気化学的に反応して、直流電力が発生する」ことが記載されていると云える。これらのことから本件発明1に則して整理すると、刊行物1には「原燃料を脱硫し、この燃料をS/Cが3〜5で水素を主成分とするガスに改質し、この改質ガスを燃料電池用の燃料として使用する燃料電池の発電方法」の発明(以下、「刊行1発明」という)が記載されていると云える。
本件発明1と刊行1発明を対比すると、改質におけるS/Cについて、刊行1発明のS/Cが3〜5は、S/Cが3〜3.3の範囲で本件発明1と一致していることから、両者は「原燃料を脱硫し、この脱硫燃料をS/Cが3〜3.3の範囲で水素を主成分とするガスに改質し、この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法」で一致し、両者は以下の点で相違している。
(ア)相違点a:本件発明1では、「原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫」しているのに対し、刊行1発明では、「脱硫」しているものの、どの程度まで脱硫しているか明確でない点。
そこで、上記相違点aについて他の刊行物に基づいて検討する。
刊行物1〜4の記載から燃料電池用燃料の脱硫はより低い硫黄含有量とすることにより、より良い結果が得られることが知られていると云える。また、刊行物5の上記(イ)〜(ハ)には、「銅-亜鉛系脱硫剤により硫黄含有量を0.1ppb若しくはそれ以下のレベルまで低下させること」が記載され、また、硫黄含有量低減の効果について「硫黄含有量の0.1ppb以下という低減化によって長時間に亘って硫黄の被毒を防止できること」が記載されている。そして、刊行物5には脱硫の対象としているガスとして上記(ロ)に「各種ガス」と記載され、実施例1には上記(ハ)(ホ)に「コークス炉ガス」、実施例3には上記(ニ)に「ナフサ」、そして上記(ヘ)に「LPG」が例示される。これに対し、本件発明1では、本件明細書に燃料電池の燃料として「メタン、エタン、・・ナフサ、・・・液化石油ガス(LPG)、・・等」(段落【0003】)が列記されていることからみて、脱硫対象ガスの点で本件発明1と刊行物5のものとは共通するガスを対象としているのであるから、刊行1発明の脱硫に刊行物5に記載のものを用いて、その脱硫の程度を刊行物5に記載の程度にすることに格別の阻害要因はない。そうすると、刊行1発明における脱硫の程度として刊行物5の「硫黄含有量を0.1ppb若しくはそれ以下のレベルまで低下させる脱硫」する中で燃料電池の発電における最適な領域としてどの程度の硫黄含有量が適当であるかを定めることが、実験等の慣用的な常套手段を用いるなど当業者が通常の能力を発揮して格別困難なく行えることから、本件発明1の「硫黄含有量を1ppb以下に脱硫」という構成を見出すことは、当業者が容易に為し得るものと云える。そして、本件発明1の効果についても硫黄が触媒を被毒することによって触媒活性の低下の要因であることは刊行物1〜4にあるように周知であり、刊行物5の上記(ハ)に、10000時間の長時間にわたり硫黄含有量が0.1ppb以下のレベルであることが記載されているのであるから、上記「硫黄含有量を1ppb以下に脱硫」した構成を採用することによって触媒活性を長時間維持でき、燃料電池の安定した運転が可能となるということも当業者が予測し得る範囲内であって、格別のものとすることはできない。
してみると、本件発明1は、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5-2-2.本件発明2について
本件発明2については、本件発明1の硫黄含有量をさらに限定し「硫黄含有量を0.1ppb以下」にするものであるが、これも刊行物5に記載されるから、上記5-2-1.で述べたと同様の理由により、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5-2-3.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1の原燃料を気体燃料に特定するものであるが、かかる構成は引用例1に記載されているから、これも上記5-2-1.で述べたと同様の理由により、刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
6.むすび
以上のとおり、訂正後の本件請求項1〜3に係る発明は、上記刊行物1〜5に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明についての特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、訂正後の本件請求項1〜3についての特許は、特許法第113上第2号に該当し取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
燃料電池発電システム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫し、この脱硫燃料をS/Cが3.3以下で水素を主成分とするガスに改質し、この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法。
【請求項2】 原燃料の硫黄含有量を0.1vol.ppb以下に脱硫する請求項1に記載の方法。
【請求項3】 原燃料が気体燃料である請求項1または2いずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は燃料電池発電方法に関する。さらに詳細には、燃料極に供給される燃料ガス系を改良し、特に、付臭剤を含む都市ガス等の気体燃料を用いた燃料電池の発電方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、燃料の有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するシステムとして燃料電池が知られている。この燃料電池は、通常、電解質を保持した電解質層を挾んで燃料極と酸化剤極とからなる一対の多孔質電極を対向させて燃料電池を形成し、燃料極の背面に水素等の燃料ガスを接触させ、また酸化剤極の背面に空気等の酸化剤を接触させることにより、このときに生ずる電気化学反応を利用して、上記の両極間から電気エネルギーを取り出すようにしたものである。燃料ガスと酸化剤が供給されている限り、高い変換効率で電気エネルギーを取り出すことができ、また省エネルギー、環境保全等で有利なため実用化研究が活発に行われている。
【0003】
この種の燃料電池においては、燃料として水素が汎用され、この水素は、通常、メタン、エタン、プロパン、ブタン、天然ガス、ナフサ、灯油、軽油、液化石油ガス(LPG)、都市ガス等の原燃料を水蒸気改質反応に付して、水素を主成分とする燃料ガスに変換することにより得られている。
【0004】
上記の原燃料中の硫黄成分は、水蒸気改質触媒(例えば、Ru系触媒、Ni系触媒等)を被毒し、例えば、原燃料中の硫黄含有量が0.1ppm程度の状態であってもRu触媒またはNi触媒の表面の約90%が短時間に硫黄で覆われてしまい、触媒活性が著しく劣化する。また、該触媒に対する炭素の析出が認められる。かかる状況から、水蒸気改質反応に付される前に原燃料は脱硫反応に付される。
【0005】
従来、原燃料の水蒸気改質に先立って行われている代表的な脱硫方法は、Ni-Mo系またはCo-Mo系触媒の存在下、350〜400℃にて、原燃料中の有機硫黄を水添分解した後、生成するH2Sを、350〜400℃にてZnOに吸着させて除去する水添脱硫法である。
【0006】
図2は、水添脱硫法による脱硫装置及び水蒸気改質装置を有する燃料電池発電システムの代表的な例の基本的構成の概要を示すシステム図である。同図において、原燃料1は、後記一酸化炭素変成器5から導かれる水素を主成分とする燃料ガスと混合されて、水添脱硫装置2bに導入される。水添脱硫装置2bは、原燃料1の入口側から順に、Ni-Mo系、Co-Mo系触媒等が充填された水素添加層とZnO等の吸着剤が充填された吸着層とで構成される。一酸化炭素変成器5を出た燃料ガスの一部と混合された原燃料1は加熱器(図示せず)で350〜400℃に加熱された後、水素添加層で水素添加されて原燃料中の硫黄成分をH2Sに変換し、次いで生成したH2Sは吸着層で吸着除去され、原燃料1が脱硫される。脱硫された原燃料1は混合器3で水蒸気と混合されて水蒸気改質装置4に導入され、水蒸気改質反応により水素を主成分とする燃料ガスに変換されて排出される。排出された燃料ガスは、含有する一酸化炭素が燃料極7の触媒を被毒すること、また水素への変換効率を高めるため、変成触媒が充填された一酸化炭素変成器5に導入され、一酸化炭素は水素と二酸化炭素に変換される。一酸化炭素変成器5から排出された燃料ガスは、一部が前記の水添脱硫装置2bに送られ、残りは燃料電池本体6の燃料極7に送られて燃料として使用される。燃料極7に流入した燃料ガス中の水素は、コンプレッサー8により酸化剤極10に導入している空気9中の酸素と電気化学的反応を行い、その結果、燃料ガスの一部が消費されて電気エネルギーが得られ、水が副生する。
【0007】
燃料極7から排出された燃料ガスは、水蒸気改質装置4のバーナー11に送られると共にコンプレッサー8により供給される空気9と合流し、バーナー11で燃焼されて、水蒸気改質装置4の加熱源として利用される。バーナー11から排出された水蒸気を含む排ガスは、熱交換器12を経た後、凝縮器13で気水分離され、分離されたガスは排気される。また、凝集した水は給水ライン14と合流し、給水ポンプ15及び冷却水ポンプ16を経て、燃料電池本体6へ送られ、その冷却に使用される。燃料電池本体6から排出された冷却水は、熱交換器17を経て、気水分離器18に送られ、水と水蒸気に分離される。分離された水は冷却水ポンプ16を経て、燃料電池本体6の冷却に循環使用され、また水蒸気は前記混合器3に送られ、脱硫された原燃料1と混合された後、水蒸気改質装置4に送られて水蒸気改質反応に利用される。
【0008】
このような燃料電池発電システムにおいては、原燃料の脱硫工程に多くの問題点がある。即ち、水添脱硫触媒は、約350℃以上の温度でないと触媒活性がなく、燃料電池の負荷変動に即時に対応し難く、また暖機時間なしに作動させるためには特別の加熱装置や流路制御装置が必要であり、小型化が困難である。
【0009】
また、水添脱硫工程において、一定量以上の有機硫黄を含む原燃料の場合、特に都市ガスなどのように付臭具剤としてジメチルスルフィドなどの難分解性かつ非吸着性の有機硫黄が含まれている気体燃料の場合には、未分解のものがスリップして、ZnOに吸着されることなく素通りする。また、吸着脱硫に際しては、例えば、
【化1】

で示される平衡のため、H2S、COSなどの量も一定値以下とはならない。特に、H2OおよびCO2が存在する場合には、この傾向は著しい。さらに、装置のスタートアップ、シャットダウンなどに際して脱硫系が不安定である場合には、吸着脱硫触媒から硫黄が飛散して、原燃料中の硫黄濃度が増大することもある。従って、現在の脱硫工程は、精製後の原燃料中の硫黄濃度が数ppm〜0.1ppmとなるようなレベルで行われており、水蒸気改質触媒の被毒あるいは炭素析出を十分に抑制することはできず、燃料電池を長時間安定的に運転することができないという問題がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の従来技術の問題を解消すべく創案されたもので、燃料極に供給される燃料ガス系を改良することにより、装置を小型化でき且つ長時間、安定的に運転することができる燃料電池発電方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は原燃料を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫し、この脱硫燃料をS/Cが3.3以下で水素を主成分とするガスに改質し、この改質ガスを燃料電池用燃料として使用する燃料電池の発電方法に関する。本発明の方法に使用する代表的な燃料電池発電システムは、原燃料を脱硫する脱硫装置と、脱硫された原燃料を水素を主成分とする燃料ガスに改質する水蒸気改質装置とを少なくとも有する燃料電池発電システムにおいて、脱硫装置が銅-亜鉛系脱硫剤を充填した脱硫装置で構成されることを特徴とするものであり、特に原燃料として都市ガスなどの気体燃料を使用する燃料電池に適した発電システムである。なお、本発明において、銅-亜鉛系脱硫剤とは、銅と亜鉛成分(例えば、酸化亜鉛等)とを少なくとも含有し、さらにアルミニウム成分(例えば、酸化アルミニウム等)、クロム成分(例えば、酸化クロム等)等のその他の成分を含有していてもよい脱硫剤を意味する。
【0012】
本発明の燃料電池発電方法では、代表的には原燃料の脱硫に、脱硫剤として銅-亜鉛系脱硫剤が充填された脱硫装置(以下、銅-亜鉛系脱硫装置という)が使用され、該脱硫剤は原燃料中の硫黄含有量を1vol.ppb(硫黄として、以下同じ)以下、通常0.1vol.ppb以下とすることができる。従って、後続の水蒸気改質反応における水蒸気改質触媒の被毒が抑制され、触媒活性を長時間維持することができ、燃料電池の安定した運転が可能となる。
【0013】
上記の構成からなる本発明において、原燃料の脱硫に使用される銅-亜鉛系脱硫装置に充填される銅-亜鉛系脱硫剤としては、例えば、特願昭62-279867号及び特願昭62-279868号に開示された銅-亜鉛系脱硫剤が挙げられ、同公報には、それぞれ銅と酸化亜鉛を主成分とする脱硫剤(以下、銅-亜鉛脱硫剤という)及び銅と酸化亜鉛と酸化アルミニウムを主成分とする脱硫剤(以下、銅-亜鉛-アルミニウム脱硫剤という)が開示されている。より詳細には、これらの脱硫剤は次のような方法により調製される。
【0014】
(1)銅-亜鉛脱硫剤
銅化合物(例えば、硝酸銅、酢酸銅等)及び亜鉛化合物(例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛等)を含む水溶液とアルカリ物質(例えば、炭酸ナトリウム等)の水溶液を使用して、常法による共沈法により沈澱を生じさせる。生成した沈澱を乾燥、焼成(300℃程度)して酸化銅-酸化亜鉛混合物(原子比で、通常、銅:亜鉛=1:約0.3〜10、好ましくは1:約0.5〜3、より好ましくは1:約1〜2.3)を得た後、水素含有量6容量%以下、より好ましくは0.5〜4容量%程度となるように不活性ガス(例えば、窒素ガス等)により希釈された水素ガスの存在下に、150〜300℃程度で上記混合物を還元処理する。このようにして得られた銅-亜鉛脱硫剤は、他の成分、例えば、酸化クロム等を含有していてもよい。
【0015】
(2)銅-亜鉛-アルミニウム脱硫剤
銅化合物(例えば、硝酸銅、酢酸銅等)、亜鉛化合物(例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛等)及びアルミニウム化合物(例えば、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等)を含む水溶液とアルカリ物質(例えば、炭酸ナトリウム等)の水溶液を使用して、常法による共沈法により沈澱を生じさせる。生成した沈澱を乾燥、焼成(300℃程度)して、酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物(原子比で、通常、銅:亜鉛:アルミニウム=1:約0.3〜10:約0.05〜2、好ましくは1:約0.6〜3:約0.3〜1)を得た後、水素含有量6容量%以下、より好ましくは0.5〜4容量%程度となるように不活性ガス(例えば、窒素ガス等)により希釈された水素ガスの存在下に、150〜300℃程度で上記混合物を還元処理する。このようにして得られた銅-亜鉛-アルミニウム脱硫剤は、他の成分、例えば、酸化クロム等を含有していてもよい。
【0016】
上記(1)及び(2)の方法で得られた銅-亜鉛系脱硫剤は、大きな表面積を有する微粒子状の銅が、酸化亜鉛(及び酸化アルミニウム)中に均一に分散しているとともに、酸化亜鉛(及び酸化アルミニウム)との化学的な相互作用により高活性状態となっている。従って、これらの脱硫剤を使用すると、原燃料中の硫黄含有量を確実に1vol.ppb以下、通常0.1vol.ppb以下とすることができ、また、ジメチルスルフィド等の難分解性の硫黄化合物も確実に除去することができる。
【0017】
本発明において、使用される原燃料としては、従来から燃料電池の原燃料として使用されている種々の燃料が使用し得るが、特に気体燃料が好ましく、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、天然ガス、LPG、都市ガス及びこれらの混合物等が挙げられる。また、酸化剤極に供給される酸化剤としては、例えば、酸素、空気、圧縮空気、富酸素化空気等が挙げられる。本発明の適用される燃料電池の種類は特に限定されず、低温燃料電池(例えば、リン酸電解液燃料電池、固体高分子電解質燃料電池、超強酸電解質燃料電池等)及び高温燃料電池(例えば、溶融炭酸塩燃料電池、固体酸化物電解質燃料電池等)の何れであってもよい。
【0018】
【実施例】
以下、実施例を示す添付図面によって、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に用いられる燃料電池発電システムの一実施例の概略を示すシステム図であり、図2と同一の部材には同一の符号を付して示した。
【0019】
図1において、原燃料1は、必要に応じて、別途設けられた加熱器や熱交換器で予熱された後、銅-亜鉛系脱硫装置2aに流入する。銅-亜鉛系脱硫装置2aには、前記の銅-亜鉛系脱硫剤が充填されており、該脱硫器2aにおける脱硫は、例えば、温度10〜400℃程度、好ましくは150〜250℃程度、圧力0〜10kg/cm2・G程度、GHSV500〜5000程度にて行われるが、この条件に限定されるものではない。該脱硫器2aから排出された原燃料1は硫黄含有量が1vol.ppb以下、通常は0.1vol.ppb以下に脱硫されている。
【0020】
斯くして脱硫された原燃料1は混合器3で水蒸気と適宜の混合比で混合された後、水蒸気改質装置4に導入され、水蒸気改質反応に付されて水素を主成分とする燃料ガスに変換される。水蒸気改質装置4は、従来の燃料電池の水蒸気改質装置と同様に、例えば、Ru触媒、Ni触媒等が充填された水蒸気改質装置が用いられる。水蒸気改質装置4から排出される水素を主成分とする燃料ガスは、従来と同様に一酸化炭素変成器5に送られ、一酸化炭素含有量を減少させると共に水素含有量が高められる。次いで、一酸化炭素変成器5から排出された燃料ガスは燃料電池本体6の燃料極7に送られ、コンプレッサー8により酸化剤極10に流入している空気9中の酸素と電気化学的反応を行い、その結果、燃料ガスの一部が消費されて電気エネルギーが得られ、水が副生する。
【0021】
なお、燃料極7から排出された燃料ガスの処理(例えば、バーナー11に送り、燃焼させて水蒸気改質装置4の加熱源として利用する等)、酸化剤極10から排出された排ガスの処理、燃料電池本体6の冷却及び冷却水回路等は、従来の装置と同様である。
【0022】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で種々に変形して実施することができ、また従来公知の種々の機構を付加することができる。例えば、燃料極7に供給する燃料ガス及び酸化剤極10に供給する空気9を負荷に見合って制御する機構や、燃料極7と酸化剤極10間の差圧を検知して差圧を調整する機構が設けられていてもよく、また複数の燃料電池本体6を並列または直列に結合してもよい。さらに燃料極7の燃料ガス供給ラインと燃料ガス排出ラインとの間に燃料再循環ファンを設けて排出された燃料ガスの一部を燃料極7に戻す機構や、酸化剤極10の空気供給ラインと空気排出ラインとの間に空気再循環ファンを設けて排出された空気の一部を酸化剤極10に戻す機構が設けられていてもよい。これらの再循環機構を設けることにより、電極反応後の反応性ガスの再利用を図ると共に排出燃料ガスの水素濃度及び排出空気の酸素濃度を調整し、燃料電池の負荷変動の調整を行うことができる。なお、電気負荷19の負荷形態に応じて、電池と負荷との間にインバーターを設けてもよい。
【0023】
以下、試験例及び比較例に基づき、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら試験例に限定されるものではない。
【0024】
試験例1
図1に示される燃料電池発電システムを用いて試験を行った。なお、水蒸気改質装置として、Ru触媒(Ru2%、Al2O3担持)5l(かさ密度約0.8kg/l)を充填した水蒸気改質装置(触媒層長さ約1m)を用いた。また、脱硫装置としては、硝酸銅及び硝酸亜鉛を含有する混合水溶液にアルカリ物質として炭酸ナトリウム水溶液を加え、生じた沈澱を洗浄及び濾取した後、高さ1/8インチ×直径1/8インチの大きさに打錠成型し、約300℃で焼成し、次いで、該焼成体[銅:亜鉛=約1:1(原子比)]を、水素2容量%を含む窒素ガスを用いて温度約200℃で還元処理して得られた銅-亜鉛脱硫剤20lを充填した脱硫装置(脱硫層長さ約50cm)を用いた。
【0025】
原燃料として、下記表1に示される成分からなる都市ガス13Aを予熱器で200℃に予熱した後、10m3/hで上記脱硫装置に導入して脱硫した。脱硫したガスを水蒸気と混合した後、水蒸気改質装置に導入し、S/C(原燃料炭化水素中の炭素1モル当りの水蒸気のモル数)=3.3、反応温度450℃(入口)及び665℃(出口)、反応圧力0.2kg/cm2・Gで水蒸気改質反応に付した。水蒸気改質された燃料ガスは、一酸化炭素変成器を経て燃料電池本体の燃料極に導き、酸化剤極に導入された空気中の酸素と反応させて、電気エネルギーを取り出した。
【0026】
【表1】
メタン 86.9容量%
エタン 8.1容量%
プロパン 3.7容量%
ブタン 1.3容量%
付臭剤 ジメチルスルフィド 3mg-S/Nm2
t-ブチルメルカプタン 2mg-S/Nm2
【0027】
上記の試験において、脱硫装置出口のガス中の硫黄含有量を経時的に測定したが、2000時間経過後も硫黄含有量は0.1vol.ppb以下であった。また、水蒸気改質触媒は、2000時間経過後においても触媒活性の劣化は認められず、反応開始直後と同様な活性を維持しており、炭素析出も認められず、燃料電池は正常に作動した。
【0028】
比較例1
図2に示される燃料電池発電システムにおいて、脱硫剤としてNi-Mo系水添脱硫触媒5リットル及び酸化亜鉛10リットルを充填した脱硫装置を用いたシステムを作製し、試験例1と同様に燃料電池を作動させた。但し、脱硫温度380℃、脱硫器に供給するリサイクル改質ガス(即ち、一酸化炭素変成器からリサイクルする燃料ガス)量は、原燃料に対して2容量%とした。
【0029】
その結果、反応開始直後の脱硫装置出口のガスの硫黄含有量は、0.2ppmであり、その後もほぼ変わらなかったが、500時間経過後から改質装置の出口でメタンのスリップが増大し、燃料電池の電気出力が低下し始め、やがて、装置を停止せざるを得なくなった。このとき改質触媒上には炭素が析出しほぼ完全に劣化していた。
【0030】
試験例2
試験例1で用いた燃料電池発電システムにおいて、脱硫装置の前に加熱器及び冷却器を仮設し、原燃料を加熱または冷却できるようにした他は、試験例1と同様の装置を用いて、同様に燃料電池発電システムを作動させた。但し、この間、8時間毎に、脱硫装置入口の温度を15分かけて約20℃に低下させ、引続き15分かけて約200℃に戻すという操作を行った。これは、燃料電池発電システムの立ちあげ、停止時の受ける脱硫装置の条件を模擬したこととなる。
【0031】
その結果、試験例1と同様、通算2000時間の運転の後も、脱硫装置出口ガス中の硫黄含有量は、0.1vol.ppb以下であり、触媒の劣化も炭素析出も認められず、燃料電池は正常に作動した。
【0032】
比較例2
比較例1と同様な装置を用い、試験例2と同様な運転パターンで燃料電池を作動させた。但し、脱硫器入口温度の幅は、20℃〜380℃(常用)とした。
【0033】
その結果、脱硫器出口のガス中の硫黄含有量は、常用温度では0.2ppmであったが、温度低下時には3ppmに達していた。また、運転開始200時間経過後には、改質装置の出口で原料炭化水素のスリップが増大し、燃料電池の電気出力が低下し始め、やがて装置を停止せざるを得なくなった。このとき改質触媒上には炭素が析出しほぼ完全に劣化していた。
【0034】
試験例3
試験例1において、脱硫装置に充填する銅-亜鉛系脱硫剤として、硝酸銅、硝酸亜鉛及び硝酸アルミニウムを溶解する混合水溶液にアルカリ物質として炭酸ナトリウム水溶液を加え、生じた沈澱を洗浄及び濾過した後、高さ1/8インチ×直径1/8インチの大きさに打錠成型し、約400℃で焼成し、次いで該焼成体(酸化銅45%、酸化亜鉛45%、酸化アルミニウム10%)を水素2容量%を含む窒素ガスを用いて、温度約200℃で還元して得られた銅-亜鉛-アルミニウム脱硫剤を用いて、試験例1と同様な試験を行った。
【0035】
その結果、試験例1と同様に、脱硫装置出口ガス中の硫黄含有量を0.1vol.ppb以下に脱硫でき、水蒸気改質触媒の劣化及び炭素析出を抑制することができることが判明し、また燃料電池は正常に作動した。
【0036】
【発明の効果】
本発明の燃料電池発電方法によれば、下記の効果を奏することができる。
(1)原燃料を高度に脱硫して水蒸気改質反応に付した結果、水蒸気改質触媒の劣化あるいは炭素析出が防止され、燃料電池を長時間、安定的に運転することができ、また、水蒸気改質触媒コストの低減が図れると共に装置の小型化が可能となる。
【0037】
(2)炭素析出を防止して水蒸気改質触媒が高活性を長時間維持することができるので、高SV運転が可能で装置の小型化及び触媒コストの低減が図れる。また、低S/C運転が可能となり、熱効率、発電効率等の向上に寄与することができる。
【0038】
【0039】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に用いる燃料電池発電システムの一実施例の概要を示すシステム図。
【図2】 従来の燃料電池発電システムの概要を示すシステム図である。
【符号の説明】
1…原燃料 2a…銅-亜鉛系脱硫装置
2b…水添脱硫装置 3…混合器
4…水蒸気改質装置 5…一酸化炭素変成器
6…燃料電池本体 7…燃料極
8…コンプレッサー 9…空気
10…酸化剤極 11…バーナー
12…熱交換器 13…凝縮器
14…給水ライン 15…給水ポンプ
16…冷却水ポンプ 17…熱交換器
18…気水分離器 19…電気負荷
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-03-26 
出願番号 特願平10-243336
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C01B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 平田 和男前田 仁志安齋 美佐子  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 岡田 和加子
石井 良夫
登録日 2000-03-31 
登録番号 特許第3050850号(P3050850)
権利者 大阪瓦斯株式会社
発明の名称 燃料電池発電システム  
代理人 矢野 正樹  
代理人 青山 葆  
代理人 青山 葆  
代理人 矢野 正樹  

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