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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
管理番号 1105971
異議申立番号 異議2002-71335  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-01-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-24 
確定日 2004-08-21 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3233743号「伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3233743号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.訂正の適否についての判断
ア.訂正の内容
訂正事項a
請求項1に記載の
「重量%(以下、同じ)で、
C:0.02〜0.10%、
Si≦2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P≦0.08%、
S≦0.006%、
N≦0.005%、
Al:0.01〜0.1%を含有し、
Ti:0.3%以下、Nb:0.2%以下で、かつ、
0.50<〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/C
となる量のTi及びNbの1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなる化学成分を有し、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織を有することを特徴とする伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。」を、
「重量%(以下、同じ)で、
C:0.02〜0.10%、
Si≦2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P≦0.08%、
S≦0.006%、
N≦0.005%、
Al:0.01〜0.1%を含有し、
Ti:0.3%以下、Nb:0.2%以下で、かつ、
0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/C
となる量のTi及びNbの1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなる化学成分を有し、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織を有することを特徴とする伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。」に訂正する。
訂正事項b
明細書の段落【0009】に記載の
「すなわち、本発明は、
C:0.02〜0.10%、
Si≦2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P≦0.08%、
S≦0.006%、
N≦0.005%、
Al:0.01〜0.1%、
を含有し、
Ti:0.3%以下、Nb:0.2%以下で、かつ、
0.50<〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/C
となる量のTi及びNbの1種以上を含み、」を、
「すなわち、本発明は、
C:0.02〜0.10%、
Si≦2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P≦0.08%、
S≦0.006%、
N≦0.005%、
Al:0.01〜0.1%、
を含有し、
Ti:0.3%以下、Nb:0.2%以下で、かつ、
0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/C
となる量のTi及びNbの1種以上を含み、」に訂正する。
訂正事項c
明細書の段落【0019】に記載の
「これらの効果を得るために必要なTi及びNbの量は、0.50<〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cで規定される量が必要であることが判明した。」を、
「これらの効果を得るために必要なTi及びNbの量は、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cで規定される量が必要であることが判明した。」に訂正する。
訂正事項d
請求項3に記載の
「前記鋼が、更に、Mo:0.05〜0.5%、V:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.2%、Cr:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Ca:0.01%以下、のうちの少なくとも1種以上を含んでいる請求項1又は2に記載の熱延鋼板。」を、
「前記鋼が、更に、Mo:0.05〜0.5%、V:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.2%、Cr:1.0〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Ca:0.01%以下、のうちの少なくとも1種以上を含んでいる請求項1又は2に記載の熱延鋼板。」に訂正する。
訂正事項e
明細書の段落【0009】に記載の
「必要に応じて更に、Cu:0.2〜1.5%、及び/又は、Mo:0.05〜0.5%、V:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.2%、Cr:0.1〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Ca:0.01%以下、のうちの少なくとも1種以上を含み、」を、
「必要に応じて更に、Cu:0.2〜1.5%、及び/又は、Mo:0.05〜0.5%、V:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.2%、Cr:1.0〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Ca:0.01%以下、のうちの少なくとも1種以上を含み、」に訂正する。
訂正事項f
明細書の段落【0024】に記載の
「Mo、Cr、Ni:Mo及びCrは固溶強化元素として有効であるが、その効果を発揮するにはMoは少なくとも0.05%の添加が必要であり、Cr及びNiは少なくとも0.1%の添加が必要である。しかし、過多に添加すると低温変態生成物を多量に生成するので、Moの上限を0.5%、Cr及びNiの上限をそれぞれ2.0%とする。」を、
「Mo、Cr、Ni:Mo及びCrは固溶強化元素として有効であるが、その効果を発揮するにはMoは少なくとも0.05%の添加が必要であり、Crは少なくとも1.0%の添加が必要であり、またNiは少なくとも0.1%の添加が必要である。しかし、過多に添加すると低温変態生成物を多量に生成するので、Moの上限を0.5%、Cr及びNiの上限をそれぞれ2.0%とする。」に訂正する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、Ti及びNb含有量の下限値に係る関係式〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cの下限値を特許明細書、段落【0043】表1の鋼No.5に記載の値に基づいて数値限定し、Ti及びNb含有量の範囲を減縮するものであり、また、訂正事項dは、Cr含有量の下限値を特許明細書、段落【0043】表1の鋼No.14に記載の値に基づき数値限定し、Cr含有量の範囲を減縮するものであるから、訂正事項a及びdは、特許請求の範囲の減縮に該当する。訂正事項b及びcは、訂正後の請求項1の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、また、訂正事項e及びfは、訂正後の請求項3の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、訂正事項b、c、e及びfは、明りょうでない記載の釈明に該当する。更に、訂正事項a〜fは、特許明細書に記載された事項の範囲内において訂正するものであるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
2.特許異議の申立てについて
(1)申立て理由の概要
特許異議申立人JFEエンジニアリング株式会社は、証拠として、甲第1〜3号証を提出し、本件特許の請求項1〜3に記載の発明は甲第1〜3号証に記載された発明であるか又は甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、同請求項1〜3に記載の発明は特許法第29条第1項又は第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、同請求項1〜3に記載の発明に係る特許は取り消すべき旨主張する。当審で通知した取消理由も同様のものである。
甲第1号証:「鉄と鋼」 第68年 第9号(昭和57年7月)日本鉄鋼協会p.1333〜1339
甲第2号証:特開昭50-133920号公報
甲第3号証:特開昭56-130456号公報
(2)本件発明
前記1.の項で示したように上記訂正が認められるから、本件特許の請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】重量%(以下、同じ)で、
C:0.02〜0.10%、
Si≦2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P≦0.08%、
S≦0.006%、
N≦0.005%、
Al:0.01〜0.1%を含有し、
Ti:0.3%以下、Nb:0.2%以下で、かつ、
0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/C
となる量のTi及びNbの1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなる化学成分を有し、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織を有することを特徴とする伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項2】前記鋼が、更に、Cu:0.2〜1.5%を含んでいる請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】前記鋼が、更に、Mo:0.05〜0.5%、V:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.2%、Cr:1.0〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Ca:0.01%以下、のうちの少なくとも1種以上を含んでいる請求項1又は2に記載の熱延鋼板。」
(以下、請求項1〜3に記載の発明をそれぞれ「本件発明1」〜「本件発明3」という。)
(3)引用刊行物記載の発明
当審が通知した取消理由で引用した刊行物1(「鉄と鋼」 第68年 第9号(昭和57年7月)日本鉄鋼協会p.1333〜1339、甲第1号証と同じ)には、
摘示1-1:供試鋼の化学成分(wt%)として
「No.3/C0.03,Si0.47,Mn1.96,P0.008,S0.006,Al0.024,Cr0.31,Ti0.11,N0.0049,O0.0022、
No.4/C0.03,Si0.45,Mn1.99,P0.007,S0.006,Al0.016,Cr0.29,Ti0.20,N0.0042,O0.0020、」(1334頁表1)、
摘示1-2:巻取温度550℃の供試鋼No.3、4のアシキュラリティが100%であること、すなわち、巻取温度550℃で巻き取られた供試鋼No.3、4はベイナイナイト組織を含むアシキュラーフェライトの面積率が100%の組織を有すること(1335頁図4)、
摘示1-3:「伸びフランジ成形のようなきびしい局部延性が要求される高加工用に対しては0.03%C-高Mn-Ti鋼を600℃〜650℃の温度で巻き取ることにより十分なアシキュラリティが得られ高い延性が確保できるものと考えられる。」(1338頁左欄7〜11行)、
摘示1-4:「Ti添加量に関しては十分なアシキュラリティを確保するために0.08%以上は必要であり、強化能およびTS-Elバランス、TS-Elnバランスを考慮すればTi/Cで2〜3となるように添加するのが望ましい。」(1338頁左欄14〜17行)、
摘示1-5:「C量は要求される加工性に応じて調整し、伸びフランジ性のごとき高加工性が要求される場合にはC量を低減することがきわめて有効である。すなわち高加工用70Kgf/mm2鋼の場合、」C量をほぼ0.03%とすること(1339頁左欄11〜14行)、
摘示1-6:「供試鋼の化学成分をTable1に示す。・・・いずれの鋼も・・・溶製し、鋼塊を・・・小鋼片に切断した。熱延はこの小鋼片を1200℃に1hの加熱後3パス・・・にて850℃で仕上げた。引き続き・・・シャワー水冷し各温度で1h保持後、25℃/hの平均冷却速度で炉冷することによって巻き取り条件をシミュレートした。・・・」(1333頁右欄3〜17行)との記載があり、摘示1-1〜摘示1-3、摘示1-5及び摘示1-6の記載事項によると、刊行物1には、「wt%でC0.03%,Si0.47%,Mn1.96%,P0.008%,S0.006%,Al0.024%,Cr0.31%,Ti0.11%,N0.0049%,O0.0022%、残部よりなる化学成分(以下、「Aの化学成分」という。)又はC0.03%,Si0.45%,Mn1.99%,P0.007%,S0.006%,Al0.016%,Cr0.29%,Ti0.20%,N0.0042%,O0.0020%、残部よりなる化学成分(以下、「Bの化学成分」という。)を有し、ベイナイト組織を含むアシキュラーフェライト組織からなる伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板」が記載されている。
同刊行物2(特開昭50-133920号公報、甲第2号証と同じ)には、
摘示2-1:「(1)C:0.03〜0.20%、Ti:0.04〜0.35%(但しTi/C<4)、Si:1.0%以下、Mn:0.9〜2.5%、solAl:0.005〜0.15%、S:0.020%以下、N:0.008%以下、残部Feおよび不可避的元素からなるキルド鋼を熱間圧延するに当たり、930℃〜730℃の温度領域で圧延終了後、680℃以上の温度で捲取ることを特徴とするチタン添加高靭性高張力鋼の製造法。
(2)C:0.03〜0.20%、Ti:0.04〜0.35%(但しTi/C<4)、Si:1.0%以下、Mn:0.9〜2.5%、solAl:0.005〜0.15%、S:0.020%以下、N:0.008%以下に加えてZr:0.01〜0.15%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.10%、・・・Ni:0.50%以下、Cr:0.50%以下、Cu:0.50%以下の1種又は2種以上を含み、残部Feおよび不可避的元素からなるキルド鋼を熱間圧延するに当たり、930℃〜730℃の温度領域で圧延終了後、680℃以上の温度で巻取ることを特徴とするチタン添加高靭性高張力鋼の製造法。」(特許請求の範囲第1及び2項)、
摘示2-2:「加熱温度については通常慣習的に行なわれている1150℃以上で良い。しかし高い強度を得るためには1200℃以上とすることが好ましい。」(4頁右上欄20行〜左下欄3行)、
摘示2-3:「第4表に示す化学成分を有する鋼を転炉で溶製し、スラブとした後連続熱間圧延設備により圧延した。尚スラブ加熱温度は1200℃以上で、また・・・圧延を1回以上行った後、第5表に示す圧延条件でコイル状に捲取った。」(5頁左下欄2〜7行)、
摘示2-4:「実施例2の化学成分(wt%)
鋼種/本発明鋼B/C0.09,Si0.45,Mn1.45,P0.017,S0.007,solAl0.021,Ti0.21,N0.0042,残部Fe、
鋼種/本発明鋼C/C0.09,Si0.45,Mn1.45,P0.017,S0.007,solAl0.021,Ti0.21,N0.0042,Nb0.02,残部Fe、
鋼種/本発明鋼F/C0.08,Si0.38,Mn1.37,P0.018,S0.010,solAl0.028,Ti0.19,N0.0042,Ni0.21,Cu0.25,残部Fe、」(6頁、第4表)
摘示2-5:「実施例2の圧延条件および諸特性値
鋼種/本発明鋼B/仕上出口温度860℃、巻取温度710℃、引張強さ68.7Kg/mm2、穴拡げ率(d/d0 d0=20mm)2.8
鋼種/本発明鋼C/仕上出口温度870℃、巻取温度720℃、引張強さ69.5Kg/mm2、穴拡げ率(d/d0 d0=20mm)2.9
鋼種/本発明鋼F/仕上出口温度850℃、巻取温度700℃、引張強さ71.1Kg/mm2、穴拡げ率(d/d0 d0=20mm)2.6」(6頁、第5表)との記載があり、摘示2-1及び摘示2-5(鋼種/本発明鋼F)の記載事項によれば、刊行物2には、「C:0.03〜0.20%、Ti:0.04〜0.35%(但しTi/C<4)、Si:1.0%以下、Mn:0.9〜2.5%、solAl:0.005〜0.15%、S:0.020%以下、N:0.008%以下、残部Feおよび不可避的元素からなる、又はC:0.03〜0.20%、Ti:0.04〜0.35%(但しTi/C<4)、Si:1.0%以下、Mn:0.9〜2.5%、solAl:0.005〜0.15%、S:0.020%以下、N:0.008%以下に加えてZr:0.01〜0.15%、Nb:0.01〜0.10%、V:0.01〜0.10%、Ni:0.50%以下、Cr:0.50%以下、Cu:0.50%以下の1種又は2種以上を含み、残部Feおよび不可避的元素からなる伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板」が記載されている。
同刊行物3(特開昭56-130456号公報、甲第3号証と同じ)には、
摘示3-1:「(1)C0.01〜0.12%、Mn1.0〜3.0%、Si0.01〜1.5%を含み、更にNb0.01〜0.1%、V0.02〜0.2%、Ti0.01〜0.1%、およびZr0.02〜0.2%から選らばれる1種もしくは2種以上の元素を合計で0.25%以下含有し、残部鉄および不純物から成り、かつベイナイト組織を面積率で60%以上有することを特徴とするフラッシュバット溶接用および冷間加工用熱延鋼板。
(2)該鋼がアルミキルド鋼であることを特徴とする上記第(1)項に記載の熱延鋼板。
(3)該アルミキルド鋼がAl0.01〜0.06%含むことを特徴とする上記第(2)項に記載の熱延鋼板。
(4)不純物としてのSが0.02%以下であることを特徴とする上記第(1)項ないしは第(3)項のいづれか1つに記載の熱延鋼板。
(5)C0.01〜0.12%、Mn1.0〜3.0%、Si0.01〜1.5%を含み、更にNb0.01〜0.1%、V0.02〜0.2%、Ti0.01〜0.1%、およびZr0.02〜0.2%から選ばれる1種もしくは2種以上の元素を合計で0.25%以下並びに、Cr0.1〜1.5%、・・・、Ni0.1〜0.5%、Cu0.1〜0.5%、・・・Ca0.0005〜0.01%・・・から選らばれる1種もしくは2種以上の元素を含み、残部鉄および不純物から成り、かつベイナイト組織を面積率で60%以上有することを特徴とするフラッシュバット溶接用および冷間加工用熱延鋼板。
・・・
(7)該鋼がアルミキルド鋼であることを特徴とする上記第(5)項または第(6)項に記載の熱延鋼板。
(8)該アルミキルド鋼がAl0.01〜0.06%含むことを特徴とする上記第(7)項に記載の熱延鋼板。
(9)不純物としてのSが0.02%以下であることを特徴とする上記第(5)項ないしは第(8)項のいづれか1つに記載の熱延鋼板。」(特許請求の範囲第1〜5、7〜9項)、
摘示3-2:「本発明は、自動車用ホイールリムあるいはディスク等の材料として好適なフラッシュバット溶接性および冷間加工性にすぐれた高強度熱延鋼板に関する。」(2頁左上欄7〜10行)、
摘示3-3:「本発明にいうベイナイト組織とは、所謂ベイナイト相のほか、アシキュラーフェライトと称される組織、あるいはこれらの混在する組織など、金属組織学的にベイナイトとの明確な区別がなく、ベイナイトと実質的に同一とみなし得る組織を含む総称である。・・・鋼組織中、ベイナイト組織が面積率で約60%以上を占めれば、ホイールリムやディスク材として必要な・・・冷間加工性が与えられることが確認されている。」(3頁右下欄第2〜12行)、
摘示3-4:「Nbは、析出強化元素として必要であるのみならず、前記Mnと共存して熱延後の組織の変態挙動に影響を与え、ベイナイト組織を得るのに有効な元素である。」(4頁右上欄12〜15行)、
摘示3-5:「ベイナイトを主体とする組織のものは伸びおよび穴拡げ率も良好で・・・」(7頁右下欄4,5行)、
摘示3-6:供試材の化学成分組成がwt%で示されていること(6頁第1表)、
摘示3-7:「該組織はベイナイトを主体とするものであれば、若干の他の組織、例えばフェライトあるいはマルテンサイトが混在してもよい。このベイナイトの占める割合は、面積率にして約60%以上であることが望ましい。」(5頁左下欄20行〜右下欄4行)との記載があり、
摘示3-1、摘示3-2、摘示3-5及び摘示3-6の記載事項によれば、刊行物3には、「wt%で、C0.01〜0.12%、Mn1.0〜3.0%、Si0.01〜1.5%,Al0.01〜0.06%,S0.02%以下を含み、更にNb0.01〜0.1%、V0.02〜0.2%、Ti0.01〜0.1%、およびZr0.02〜0.2%から選ばれる1種もしくは2種以上の元素を合計で0.25%以下含有し、残部鉄および不純物から成るか、又はC0.01〜0.12%、Mn1.0〜3.0%、Si0.01〜1.5%,Al0.01〜0.06%,S0.02%以下を含み、更にNb0.01〜0.1%、V0.02〜0.2%、Ti0.01〜0.1%、およびZr0.02〜0.2%から選ばれる1種もしくは2種以上の元素を合計で0.25%以下含有し、更にCr0.1〜1.5%、Ni0.1〜0.5%、Cu0.1〜0.5%、Ca0.0005〜0.01%から選ばれる1種もしくは2種以上の元素を含み、残部鉄および不純物から成り、かつベイナイト組織を面積率で60%以上有する穴拡げ率に優れた高強度熱延鋼板。」が記載されている。
(4)対比・判断
(4)-1新規性について
(1)刊行物1記載の発明との対比・判断
本件発明1と刊行物1に記載の発明(以下、「刊行物1発明」という。)を対比する。
刊行物1に記載の熱延鋼板のA及びBの化学成分について〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cの値を求めると、それぞれ、0.70、1.47となるから、刊行物1発明は、化学成分の〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cの値が本件発明1と重複する。
また、本件発明1は、1100℃以上のスラブ加熱によりTiを鋼中に固溶させ熱延後550〜700℃の温度で巻き取ることにより、アシキュラーフェライト組織中にTiCを析出させるものであるところ(本件特許公報段落0017、段落0018、段落0028、段落0030参照)、刊行物1発明は、熱延鋼板のC,Ti及びN含有量が本件発明1と重複し、しかも、刊行物1発明は、その製造にあたり、鋼片を1200度に加熱し、熱延仕上げ後冷却し、550℃で巻き取るものであり(摘示1-2、摘示1-6参照)、鋼片加熱温度及び巻取温度が本件発明1の製造条件と重複することから、刊行物1に記載の発明の熱延鋼板は、微細なTiCが析出している組織を有すると解される。また、刊行物1に記載の発明のA及びBの化学成分のOは、その含有量の数値からみて不可避的不純物であると解される。
してみれば、両者は、C,Si,Mn,P,S,N,Al及びTiを含有し、C,Si,Mn,P,S,N,Al及びTiの含有量が重複する化学成分を有する伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件発明1は、Crを含有しないのに対し、刊行物1発明は0.31%又は0.29%のCrを含有する点、
相違点2:本件発明1は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織からなるのに対し、刊行物1発明は、ベイナイト組織を含むアシキュラーフェライト組織からなり、かつ、微細なTiCが析出している組織からなる点、
以上のことから、本件発明1は、相違点1及び相違点2で刊行物1発明と相違する。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。
次に、本件発明2は、本件発明1において、Cu:0.2〜1.5%を含んでいる点を構成要件として付加するものである。
本件発明2と刊行物1発明を対比すると、両者は、C,Si,Mn,P,S,N,Al及びTiを含有し、C,Si,Mn,P,S,N,Al及びTiの含有量が重複する化学成分を有する伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板である点で一致し、本件発明2は、Cu:0.2〜1.5%を含有するのに対し、刊行物1発明は、Cuを含有しない点及び本件発明2は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織からなるのに対し、刊行物1発明は、ベイナイト組織を含むアシキュラーフェライト組織からなり、かつ、微細なTiCが析出している組織からなる点で相違する。
したがって、本件発明2は、刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。
次に、本件発明3は、本件発明1又は2において、Mo:0.05〜0.5%、V:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.2%、Cr:1.0〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Ca:0.01%以下、のうちの少なくとも1種以上を含んでいる点を構成要件として付加するものである。
本件発明3と刊行物1発明を対比すると、両者は、C,Si,Mn,P,S,N,Al,Ti及びCrを含有し、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなり、C,Si,Mn,P,S,N,Al及びTiの含有量が重複する化学成分を有する伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板である点で一致し、本件発明3は、Cr含有量が1.0〜2.0%であるのに対し、刊行物1発明は、Cr含有量が0.31%又は0.29%である点及び本件発明3は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織からなるのに対し、刊行物1発明は、ベイナイト組織を含むアシキュラーフェライト組織からなり、かつ、微細なTiCが析出している組織からなる点で相違する。
したがって、本件発明3は、刊行物1に記載された発明であるとすることはできない。
(2)刊行物2記載の発明との対比・判断
本件発明1と刊行物2に記載の発明(以下、「刊行物2発明」という。)を対比する。
両者は、C,Si,Mn,P,S,N,Alを含有し、Ti及びNbの1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなり、C,Si,Mn,P,S,N及びAlの含有量が重複する化学成分を有し、伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件発明1は、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有するのに対し、刊行物2発明はこの点が明らかでない点、
相違点2:本件発明1は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織からなるのに対し、刊行物2発明は、この点が明らかでない点、
そこで、これらの相違点について検討する。
相違点1について、本件発明1は、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有することにより、転位密度の高いアシキュラー・フェライト組織を生成させ、更に、この組織中にTiCやNbCを析出させ、強度を上げると共に、伸びフランジ性を向上させるというものであるところ(本件特許公報、段落0017,段落0018参照)、刊行物2には、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有する点が何ら記載されておらず(摘示2-1参照)、また、刊行物2、第4表に記載の鋼種/本発明鋼B、C、Fの各鋼種(摘示2-3参照)について〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cの値を求めると、その値は、それぞれ0.51、0.54、0.502となり、刊行物2、第4表に記載の鋼種/本発明鋼B、C、Fの各鋼種は、Ti,Nb含有量が本件発明1と相違する。
してみれば、本件発明1は、相違点1で刊行物2発明と相違すると云える。
相違点2について、本件発明1は、前示したように、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有させることにより、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織とし、該組織により高強度で伸びフランジ性を向上させたものである。本件発明1と刊行物2発明との製造条件についてみると、刊行物2発明は、スラブ加熱温度、熱延終了温度及び巻取温度が本件発明1と重複するものの、刊行物2発明は、Ti,Nb含有量が本件発明1と相違するから、刊行物2発明は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織が得られていると解することができない。
してみれば、本件発明1は、相違点2で刊行物2発明と相違すると云える。
したがって、本件発明1は、刊行物2に記載された発明であるとすることができない。
次に、本件発明2と刊行物2発明を対比すると、両者は、C,Si,Mn,P,S,N,Al,Cuを含有し、Ti及びNbの1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなり、C,Si,Mn,P,S,N,Al及びCuの含有量が重複する化学成分を有し、伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件発明2は、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有するのに対し、刊行物2発明はこの点が明らかでない点、
相違点2:本件発明2は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織からなるのに対し、刊行物2発明は、この点が明らかでない点、
したがって、本件発明2は、本件発明1と同様の理由により、刊行物2に記載された発明であるとすることができない。
次に、本件発明3と刊行物2発明を対比すると、両者は、C,Si,Mn,P,S,N,Alを含有し、Ti及びNbの1種以上を含み、更に、V,Zr,Cr,Niのうちの少なくとも1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなり、C,Si,Mn,P,S,N,Al,V,Zr,Cr,Niの含有量が重複する化学成分を有するか、又は、C,Si,Mn,P,S,N,Al,Cuを含有し、Ti及びNbの1種以上を含み、更に、V,Zr,Cr,Niのうちの少なくとも1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなり、C,Si,Mn,P,S,N,Al,Cu,V,Zr,Cr,Niの含有量が重複する化学成分を有し、伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件発明3は、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有するのに対し、刊行物2発明はこの点が明らかでない点、
相違点2:本件発明3は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織からなるのに対し、刊行物2発明は、この点が明らかでない点、
したがって、本件発明3は、本件発明1と同様の理由により、刊行物2に記載された発明であるとすることができない。
(3)刊行物3記載の発明との対比・判断
本件発明1と刊行物3に記載の発明(以下、「刊行物3発明」という。)を対比する。
刊行物3発明は、穴拡げ率に優れた熱延鋼板であるから、伸びフランジ性に優れた熱延鋼板と言い換えることができ、また、刊行物3、第1表に記載の供試材No.1〜9の化学成分組成によれば、刊行物3発明は、不純物としてPを含有するものであり、刊行物3発明のP含有量は、本件発明1と重複するものと解される。
してみれば、両者は、C,Si,Mn,P,S,Alを含有し、Ti及びNbの1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなり、C,Si,Mn,P,S及びAlの含有量が重複する化学成分を有し、伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件発明1は、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有するのに対し、刊行物3発明はこの点が明らかでない点、
相違点2:本件発明1は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織からなるのに対し、刊行物3発明は、この点が明らかでない点、
相違点3:本件発明1は、N含有量を0.005%以下に規制するのに対し、刊行物3発明は、この点が明らかでない点、
そこで、これらの相違点について検討する。
相違点1について、(4)-1、(2)で前示したように、本件発明1は、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有することにより、転位密度の高いアシキュラー・フェライト組織を生成させ、この組織中にTiCやNbCを析出させ、強度を上げると共に、伸びフランジ性を向上させるというものであるところ、刊行物3には、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有する点が何ら記載されておらず(摘示3-1参照)、また、刊行物3、第1表に記載のNo.1〜10の供試材について〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cの値を求めても、該値は0.6に満たない。
してみれば、本件発明1は、相違点1で刊行物3発明と相違すると云える。
相違点2について、刊行物3発明は、ベイナイト組織を面積率で60%以上有するものである。摘示3-3の記載事項によれば、刊行物3発明の「ベイナイト組織」は、ベイナイト相のほか、アシキュラーフェライト組織などを含む組織を総称するものであり、しかも、摘示3-3及び摘示3-7によれば、刊行物3発明は、ベイナイト組織が面積率で60%以上を占めれば、若干の他の組織、例えばフェライトあるいはマルテンサイトが混在してもよいというものであるから、刊行物3発明は、アシキュラーフェライト組織からなるものと解されない。更に、前示したように、刊行物3発明は、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cとなる量のTi及びNbの1種以上を含有するものでないから、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織を有すると解すことができない。
してみれば、刊行物3発明は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織を有するとすることができないから、本件発明1は、相違点2で刊行物3発明と相違すると云える。
したがって、本件発明1は、相違点3を検討するまでもなく、刊行物3に記載された発明であるとすることはできない。
次に、本件発明2及び3と刊行物3発明を対比すると、本件発明2及び3は、本件発明1と同様の理由により、少なくとも、前記相違点1及び2で刊行物3発明と相違する。
したがって、本件発明2及び3は、刊行物3に記載された発明であるとすることはできない。
(4)-2進歩性について
本件発明1と刊行物1発明を対比すると、(4)-1、(1)で前示したように、両者は、C,Si,Mn,P,S,N,Al及びTiを含有し、C,Si,Mn,P,S,N,Al及びTiの含有量が重複する化学成分を有する伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:本件発明1は、Crを含有しないのに対し、刊行物1発明は0.31%又は0.29%のCrを含有する点、
相違点2:本件発明1は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織からなるのに対し、刊行物1発明は、ベイナイト組織を含むアシキュラーフェライト組織からなり、かつ、微細なTiCが析出している組織からなる点、
そこで、相違点2について検討する。
本件発明1は、(4)-1、(1)で前示したように、アシキュラー・フェライト組織を生成させ、更に、この組織中にTiCやNbCを析出させることにより、強度を上げると共に、伸びフランジ性を向上させたものであり、表3、実験No.38,39によれば、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織からなる本件発明1は、ベイナイト組織を含むアシキュラーフェライト組織からなり、かつ、微細なTiCが析出している組織からなる比較例に比べて、穴拡げ率、すなわち、伸びフランジ性が優れていることが明らである。
刊行物2発明及び刊行物3発明は、いずれも、(4)-1、(2)及び(3)で前示したように、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織が得られていると解することができないから、刊行物2発明及び刊行物3発明は、熱延鋼板の強度を上げると共に、伸びフランジ性を向上させるために、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織とすることを教示するものでない。
してみると、少なくとも、本件発明1の相違点2は、刊行物1〜3に記載された発明から当業者が容易に想到することができたとは云えない。
そして、本件発明1は、請求項1に記載の事項により、「引張強度が70kgf/mm2以上の高強度であっても、従来より優れた優れた伸びフランジ性を有する高強度熱延鋼板を提供することができ、特に自動車、建築等の様々な分野における部材の軽量化に寄与する効果は顕著である。」(本件特許公報段落0046)という特許明細書に記載のとおりの顕著な作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。
次に、本件発明2及び3は、本件発明1と同様に「アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織を有する」点を構成要件とするものであるから、本件発明2及び3は、本件発明1と同様の理由により、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】重量%(以下、同じ)で、
C:0.02〜0.10%、
Si≦2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P≦0.08%、
S≦0.006%、
N≦0.005%、
Al:0.01〜0.1%、
を含有し、
Ti:0.3%以下、Nb:0.2%以下で、かつ、
0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/C
となる量のTi及びNbの1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなる化学成分を有し、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織を有することを特徴とする伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板。
【請求項2】前記鋼が、更に、Cu:0.2〜1.5%を含んでいる請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】前記鋼が、更に、Mo:0.05〜0.5%、V:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.2%、Cr:1.0〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Ca:0.01%以下、のうちの少なくとも1種以上を含んでいる請求項1又は2に記載の熱延鋼板。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は伸びフランジ加工性に優れた高強度熱延鋼板とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車、建築等の多くの産業分野における部材の軽量化の傾向が高まり、それに伴い高強度の熱延鋼板が用いられているが、熱延鋼板が用いられる用途においては、優れた伸びフランジ性が要求されることが多い。
【0003】
従来、かかる加工用高強度熱延鋼板としては、フェライト・マルテンサイト組織或いはフェライト・ベイナイト組織からなる混合組織のものが広く知られている。
【0004】
しかし、フェライト・マルテンサイト組織は、変形の初期からマルテンサイトの周囲にミクロ・ボイドが発生して割れを生じるため、伸びフランジ性に劣る問題がある。
【0005】
また、フェライト・ベイナイト組織は、伸びフランジ性は優れており、これまでに特開昭57-101649号公報及び特開昭61-130454号公報で、伸びフランジ性が優れたフェライト・ベイナイト組織高強度熱延鋼板が既に提案されているが、この組織を用いて伸びフランジ性を確保しながら70kgf/mm2以上の強度を得るのは困難である。
【0006】
一方、特開平2-8349号公報では、冷間加工性及び溶接性に優れた55kgf/mm2以上の高張力熱延鋼帯が既に提案されているが、70kgf/mm2以上の強度では第2相体積率が高く、厳しい曲げ加工及び伸びフランジ加工を行うのは困難である。また、これまでの析出強化による高強度熱延鋼板は、パーライト等のセメンタイトが多量に存在したために優れた伸びフランジ性を得ることができなかった。また、特公平3-65425号公報では、TiC析出を利用した70kgf/mm2以上の伸びフランジ性に優れた高張力熱延鋼板が示されているが、基本的にセメンタイトがその構成要素の一つとなるベイナイト組織が存在するもので、後述のように、フェライト組織である本発明とは異なるものである。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、引張強度が70kgf/mm2以上の高強度であっても、優れた伸びフランジ性を有する高強度熱延鋼板を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意研究した結果、鋼の化学成分を適切に調整した上で、製造条件を規制し、組織をアシキュラー状フェライト組織とし、更にTiC及び/又はNbCをこの組織に析出させることにより、引張強度が70kgf/mm2以上で従来より優れた伸びフランジ性が得られることを見い出して、ここに本発明に至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
C:0.02〜0.10%、
Si≦2.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P≦0.08%、
S≦0.006%、
N≦0.005%、
Al:0.01〜0.1%、
を含有し、
Ti:0.3%以下、Nb:0.2%以下で、かつ、
0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/C
となる量のTi及びNbの1種以上を含み、
必要に応じて更に、Cu:0.2〜1.5%、及び/又は、Mo:0.05〜0.5%、V:0.01〜0.2%、Zr:0.01〜0.2%、Cr:1.0〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Ca:0.01%以下、のうちの少なくとも1種以上を含み、残部がFe及び他の不可避的不純物よりなる化学成分を有し、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織を有することを特徴とする伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板を要旨としている。
【0010】
【作用】
以下に本発明を更に詳細に説明する。まず、本発明における鋼の化学成分の限定理由は以下のとおりである。
【0011】
C:
Cは鋼の強化を高めるために添加され、かゝる効果を有効に発揮させるためには少なくとも0.02%を添加する必要がある。しかし、過多に添加すると、炭化物を形成するのに必要なTi或いはNbの添加量が増加し、コストアップとなるばかりか、伸びフランジ性が劣化するので、添加量の上限を0.10%とする。
【0012】
Si:
Siはポリゴナルフェライトの生成を促し、フェライトの固溶C量を低減させ、更に伸びフランジ性を余り劣化させずに強度を上げるのに有効な元素であるが、過多に添加すれば、熱間変形抵抗を増加させ、溶接部の脆化を招くのみならず、表面性状を劣化させるので、本発明では2.0%以下とする。
【0013】
Mn:
Mnは鋼の固溶強化に有効な元素であるが、その効果を得るには少なくとも0.5%の添加を必要とする。しかし、過多に添加すれば、焼入れ性が高くなり、変態生成物を多量に生成し、高い伸びフランジ性を得ることが困難となるので、その上限を2.0%とする。
【0014】
P:
Pは延性を劣化させずに固溶強化する有効な元素であるが、過多に添加すると加工後、遷移温度を上昇させるので、0.08%以下とする。
【0015】
S:
Sはこれを0.006%を超えて多量に含有させると、伸びフランジ性を劣化させるので、0.006%以下とする。
【0016】
Al:
Alは鋼の溶製時の脱酸剤として添加され、その範囲は0.01〜0.1%が適当である。
【0017】
Ti,Nb:
Ti,Nbはスラブ加熱温度をおよそ1100℃以上に加熱することにより鋼中に固溶し始める(図4参照)。この固溶Tiや固溶Nbは、熱延終了後に生成するフェライトの核生成を抑制し、転位密度の高いアシキュラー・フェライト組織を生成する(図6、図7参照)。
【0018】
更に、550〜700℃の温度で巻取ることにより、Cをアシキュラー・フェライト組織中にTiCやNbCとして析出させ、この析出強化によって強度を上げると共に、アシキュラー・フェライト組織中に析出させたことにより、特に伸びフランジ性を向上させることができる(図3、図5参照)。これは、転位密度の高いアシキュラー・フェライト組織中に析出した析出物は、転位の移動を抑制してn値を高めると共に、ボイドやクラックの原因となる転位の集中を抑えて伸びフランジ性を高くするものと考えられる。
【0019】
これらの効果を得るために必要なTi及びNbの量は、0.60≦〔(Ti-3.43N-1.5S)/4+Nb/7.75〕/Cで規定される量が必要であることが判明した。
【0020】
但し、Tiが0.3%、Nbが0.2%を超えて過多に添加すると延性が劣化し、或いは上記効果が飽和して経済的にも不利であるので、Tiは0.3%以下、Nbは0.2%以下とする。
【0021】
Cu:
CuはTi,Nb添加によるアシキュラー・フェライト組織の生成時に作用し、ラス状フェライト組織を生成させる効果がある。このラス状フェライト組織は更に伸びフランジ加工性を向上させるので、必要に応じてCuを添加することができる。添加する場合、これらの効果はおよそ0.2%以上で生じ、1.5%で飽和するので、0.2〜1.5%の範囲とする。
【0022】
更に、本発明においては、Mo,V,Zr,Cr,Ni及びCaよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を必要に応じて添加することができる。これらは上記の効果を損なうものではなく、むしろ高強度化や加工性向上に寄与する。
【0023】
V,Zr:
V及びZrは炭化物を形成し、フェライト中の固溶C量を低減し、伸びフランジ性を向上させ強化する効果がある。これらの効果を発揮するにはそれぞれ少なくとも0.01%の添加が必要である。しかし、過多に添加すると上記効果が飽和して経済的にも不利であるので、それぞれの上限を0.2%とする。
【0024】
Mo,Cr,Ni:
Mo及びCrは固溶強化元素として有効であるが、その効果を発揮するにはMoは少なくとも0.05%の添加が必要であり、Crは少なくとも1.0%の添加が必要であり、またNiは少なくとも0.1%の添加が必要である。しかし、過多に添加すると低温変態生成物を多量に生成するので、Moの上限を0.5%、Cr及びNiの上限をそれぞれ2.0%とする。
【0025】
Ca:
Caは硫化物を球状化し、伸びフランジ性を向上させるが、0.01%を超えるとその効果が飽和し、コストアップとなるので、0.01%を上限とする。
【0026】
これらの元素は単独で添加してもよく、また、複合添加してもよいが、複合添加することにより相乗的な効果を得ることができるので有利である。
【0027】
次に製造方法及び条件について説明する。
【0028】
上記化学成分を有する鋼は、常法によりスラブとし、熱間圧延に供されるが、スラブの加熱温度は1100℃以上とする。これは、γ域中にTiC、NbCが固溶し始める温度が1100℃であり、この温度以上に加熱することによって固溶Ti又は固溶Nbを鋼中に固溶させるためである。固溶したTiや固溶Nbは熱間圧延終了後のフェライト生成時にフェライトをアシキュラー状にする作用がある。
【0029】
熱間圧延に関しては通常の熱間圧延を行えはよく、特別な条件規制はないが、熱延終了温度はおよそ750〜950℃とするとアシキュラー状フェライトとなり易いので望ましい。熱延終了後の冷却はMs点以下まで冷却することを避けるため、およそ350℃以上にて冷却を終了することが望ましい。しかし、これらの温度は各鋼種の成分やスラブ加熱温度、圧下率などによって異なるので適宜決められる。冷却速度は、通常の空冷から水冷に近いミスト冷却に至るまで採ることができる。
【0030】
巻取温度は550〜700℃とする。この巻取処理によって、アシキュラー・フェライトにTiC,NbCを析出させ、穴拡げ特性及び強度を上げることができる。550℃未満並びに700℃を超えると、熱間圧延後にアシキュラー・フェライト組織が得られても、この組織に十分な量のTiC,NbCを析出させることが困難となる。
【0031】
かくして、得られる熱延鋼板は、アシキュラー・フェライト組織からなり、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織を有している。このアシキュラー・フェライト組織には、一部又は全面ラス構造を有するフェライト組織(ベイニティック・フェライト組織)を含んでもよい。
【0032】
なお、N含有量によっては、Ti,NbはTiN,NbNとしても析出する。
【0033】
次に本発明の実施例を示す。
【0034】
【実施例】
表1に示す化学成分を有する鋼スラブを1000〜1150℃のスラブ加熱温度に加熱し、30分保持後、通常の熱間圧延工程によって仕上温度780℃で2.5mm厚に仕上げた。この後、冷却速度30℃/sで冷却し、450〜750℃の巻取温度で30分保持の巻取り処理後、空冷し熱延鋼板を製造した。表2に製造条件を示す。
【0035】
このようにして得られた熱延鋼板について、JIS5号による圧延方向の引張試験、穴拡げ試験並びにSEM及びTEM組織観察を行った。
【0036】
なお、穴拡げ試験は、径10mmφの打ち抜き穴を60°円錐ポンチにて押し広げ、割れが鋼板板厚を貫通した時点での穴径dを測定し、穴広げ率λを次式にて計算した(図1参照)。
λ=〔(d-d0)/10〕×100(%) (d0=10mm)
【0037】
また、TiC,NbCの析出状態を知るため、スラブ加熱温度(SRT)を950〜1250℃に30分保持し、急冷後、電解抽出法により各試料の析出量を測定した。更に、巻取温度によるこれらの析出状態を知るため、スラブ加熱温度(SRT)1200℃にて溶体化処理を施して後、450〜750℃の巻取相当の各温度で30分保持後空冷し、電解抽出法により各試料の析出量を測定した。
【0038】
試験結果を表2、表3に示すと共に、図2〜図5に整理して示す。表1における鋼No.1,6,7はTi添加鋼、鋼No.7,8はTi・Nb添加鋼、鋼No.9はNb添加鋼、鋼No.1,17,18はC量を変化させた鋼、鋼No.10〜16はそれぞれ任意添加元素を添加した鋼である。
【0039】
試験結果より明らかなように、本発明例は、いずれも、80kgf/mm2の高強度において穴広げ率λが80%以上と優れた伸びフランジ性を示している。
【0040】
図2及び図3は鋼No.1(本発明例)とNo.8(比較例)について巻取温度(CT)と引張強さ(TS)及び穴広げ率(λ)の関係を整理したものであり、本発明範囲の化学成分とし、スラブ加熱温度を1100℃以上、巻取温度を550〜700℃とすることにより、高強度で且つ伸びフランジ性が優れたものとすることができることがわかる。
【0041】
また、図4及び図5はTi及びNbの析出物の量とスラブ加熱温度(SRT)及び巻取温度(CT)の関係を整理したものであり、スラブ加熱温度を1100℃以上とすることにより、Ti及びNbの完全な固溶を促進し、その上で巻取温度を550〜700℃とすることによって、アシキュラー・フェライト組織に微細なTiC及びNbCが十分に析出することがわかる。なお、電解抽出法によるTiやNbの析出物の量の値は、あくまで相対値(参考値)であり、絶対値ではないが、本発明において、スラブ加熱中にTi,Nbが固溶し巻取り処理中にTiやNbの析出物の生成が必須であることを示している。
【0042】
鋼No.1の600℃巻取材のSEM組織(SRT:1200℃、1000℃)を図6に、TEM組織を図7に示すように、スラブ加熱温度(SRT)を1100℃以上とすることにより、アシキュラー・フェライト組織が生成されると共にその組織に析出物が微細に析出するが、スラブ加熱温度が低いとポリゴナル・フェライト組織が得られるだけである。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、適切な成分調整と製造条件の規制によってアシキュラー・フェライト組織で、かつ、微細なTiC及び/又はNbCが析出している組織とするので、引張強度が70kgf/mm2以上の高強度であっても、従来より優れた伸びフランジ性を有する高強度熱延鋼板を提供することができ、特に自動車、建築等の様々な分野における部材の軽量化に寄与する効果は顕著である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
穴拡げ試験の要領を示す説明図で、(a)は打ち抜き時のサンプル、(b)は穴拡げ加工時のサンプル、(c)は穴拡げ後のサンプルを示している。
【図2】
引張強度(TS)に及ぼす巻取温度(CT)の影響を示す図である。
【図3】
穴拡げ率(λ値)に及ぼす巻取温度(CT)の影響を示す図である。
【図4】
Ti及びNb析出物量に及ぼすスラブ加熱温度(SRT)の影響を示す図である。
【図5】
Ti及びNb析出物量に及ぼす巻取温度(CT)の影響を示す図である。
【図6】
実施例の鋼No.1の600℃巻取材(SRT:1200℃、1000℃)のSEM組織(金属組織)を示す写真であり、(a)はSRTが1000℃、(b)はSRTが1200℃の場合である。
【図7】
実施例の鋼No.1の600℃巻取材(SRT:1200℃、1000℃)のTEM組織(金属組織)を示す写真であり、(a)はSRTが1000℃、(b)はSRTが1200℃の場合である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-08-02 
出願番号 特願平5-181932
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C22C)
P 1 651・ 113- YA (C22C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 三浦 悟
特許庁審判官 平塚 義三
綿谷 晶廣
登録日 2001-09-21 
登録番号 特許第3233743号(P3233743)
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 伸びフランジ性に優れた高強度熱延鋼板  
代理人 小谷 悦司  
代理人 小谷 悦司  
代理人 中濱 泰光  
代理人 植木 久一  
代理人 植木 久一  

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