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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  F24F
管理番号 1105989
異議申立番号 異議2003-70969  
総通号数 60 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-02-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-04-15 
確定日 2004-10-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3334688号「空気調和機」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3334688号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。 
理由 1 手続の経緯

特許第3334688号の請求項1〜6に係る発明についての出願は、平成11年7月23日に出願(特願平11-209525号)され、平成14年8月2日に特許権の設定登録(同年10月15日特許掲載公報発行)がなされたが、平成15年4月15日に三菱電機株式会社より、全請求項に係る発明についての特許異議の申立てがなされ、当審における平成16年1月13日付けの取消理由通知(同月23日発送)に対して、同年3月19日付けの訂正請求書(以下「本件訂正請求」という。)が提出され、更に当審における同年5月26日付けの訂正拒絶理由通知(同年6月4日発送)に対して、同年7月29日付けの手続補正書(以下「本件手続補正」という。)が提出されたものである。

2 本件手続補正の適否について

本件手続補正は、本件訂正請求に係る特許請求の範囲請求項1,2の「・・・外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部が形成された面を除く外表面を延長して形成される仮想曲面に沿って配置される・・・」を、「・・・外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部が形成された面を除く外表面の下部を前面の方向に延長して形成される曲面に沿って配置される・・・」と補正し、かつ「発明の詳細な説明」中の「課題を解決するための手段」中の記載も同様に補正するものである。
しかし、本件手続補正は、訂正前の「外表面を延長して形成される」について、上記下線部分を加えて限定するものであるから新たな訂正事項を加えるものであり、また、訂正前の「仮想曲面に沿って配置される」を「曲面に沿って配置される」と訂正することについては、訂正事項を変更するものである。
したがって、本件手続補正は、本件訂正請求の要旨を変更するものである(「訂正の補正に関する運用変更のお知らせ」(平成12年3月)を参照。)から、特許法120条の4第3項で準用する同法131条2項の規定に違反するものであり、これを採用することはできない。

3 本件訂正請求について

(1)本件訂正請求の内容

本件訂正請求は、本件の願書に添付した明細書について、下記の事項を訂正しようとするものである。

ア 請求項1について
特許時の請求項1に係る発明を、次のとおり訂正すること。
「送風ファン(16)と熱交換器(17)とを内装し、室内に取り付けられる室内機ケーシング本体(2)と、
前記室内機ケーシング本体(2)の前面側に取り付けられ、少なくとも前記熱交換器(17)の前方側に位置して前面開口部(28)を有する前面パネル本体(22)と、
前記前面開口部(28)に正面視で略重合し、外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部が形成された面を除く外表面を延長して形成される仮想曲面に沿って配置されるとともに、前記前面パネル本体(22)との間に前後方向に間隙(29,91,92)を備えるように配置される遮蔽パネル(23)と、
を備え、前記前面パネル本体(22)と遮蔽パネル(23)との間の間隙(29,91,92)から室内空気を吸引し、吸引した室内空気を前記前面開口部(28)を介して前記熱交換器(17)側に導入するようにした壁掛け型の空気調和機。」

イ 請求項2について
特許時の請求項2に係る発明を、次のとおり訂正すること。
「送風ファン(16)と熱交換器(17)とを内装し、室内に取り付けられる室内機ケーシング本体(2)と、
前記室内機ケーシング本体(2)の前面側に取り付けられ、少なくとも前記熱交換器(17)の前方側に位置して前面開口部(28)を有する前面パネル本体(22)と、
少なくとも一部が前記前面開口部(28)に対向し、外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部が形成された面を除く外表面を延長して形成される仮想曲面に沿って配置されるとともに、前記前面パネル本体(22)との間に前後方向に間隙(29,91,92)を備えるように配置される遮蔽パネル(23)と、
を備え、前記前面パネル本体(22)と遮蔽パネル(23)との間の間隙(29,91,92)から室内空気を吸引し、吸引した室内空気を前記前面開口部(28)を介して前記熱交換器(17)側に導入するようにした壁掛け型の空気調和機。」

ウ 発明の詳細な説明の記載について
上記した請求項1及び2についての訂正に伴い、発明の詳細な説明中段落0007及び0009の記載を、これらの訂正事項と同様に訂正すること。

(2) 本件訂正請求の適否について

ア 請求項1及び請求項2について
本件訂正請求は、「遮蔽パネル(23)」について、訂正前の「外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部を除く外表面を延長した曲面上に配置される」という構成要件を、「外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部が形成された面を除く外表面を延長して形成される仮想曲面に沿って配置される」と訂正するものであるが、本件発明の特許時の明細書及び図面のいずれにも「仮想曲面」の記載も示唆もないから、遮蔽パネルがかかる仮想曲面に沿って配置されていることの記載も示唆もない。

イ 発明の詳細な説明の記載について
本件訂正請求は、発明の詳細な説明中段落0007及び0009に記載された「遮蔽パネル」について、訂正前の「外表面が前面パネル本体の前面開口部を除く外表面を延長した曲面上に配置される」という記載を、「外表面が前面パネル本体の前面開口部が形成された面を除く外表面を延長して形成される仮想曲面に沿って配置される」と訂正するものであるが、本件発明の特許時の明細書及び図面のいずれにも「仮想曲面」の記載も示唆もないから、遮蔽パネルが、かかる仮想曲面に沿って配置されていることの記載も示唆もない。
特許権者は、本件訂正請求の根拠として、願書に添付した明細書の段落0019及び0038の記載並びに図2、図12を挙げる(平成16年3月19日付け特許異議意見書2頁下から3行ないし3頁2行の記載参照。)。しかし、段落0019及び0038の記載には、「外表面を延長して形成される仮想曲面」についての記載も示唆もなく、また、図2、図12が図示するところをみても、かかる仮想曲面を特定することはできない。図2には、遮蔽パネル23が前面パネル本体の下側の外表面を覆うように配置されていることが図示されてはいるが、本件訂正請求に係る上記構成を図示しているものではない。特許出願の願書に添付する図面は、発明の特徴を説明する目的で記載されたものであるから、設計図のように正確に記載されたものではなく、本件訂正請求に係る上記構成のような細かい構成については、発明の詳細な説明中に特段の記載がない限り、図面から読み取ることはできないとするのが相当である。

ウ 小括
したがって、本件訂正請求は、本件発明の願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてするものではないので特許法120条の4第3項において準用する同法126条2項の規定に違反するものであるから、これを認容することはできない。

4 本件発明

上記したように、訂正請求は成り立たないものなので、本件発明は、本件特許時の特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものである。
【請求項1】 送風ファン(16)と熱交換器(17)とを内装し、室内に取り付けられる室内機ケーシング本体(2)と、
前記室内機ケーシング本体(2)の前面側に取り付けられ、少なくとも前記熱交換器(17)の前方側に位置して前面開口部(28)を有する前面パネル本体(22)と、
前記前面開口部(28)に正面視で略重合し、外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部を除く外表面を延長した曲面上に配置されるとともに、前記前面パネル本体(22)との間に前後方向に間隙(29,91,92)を備えるように配置される遮蔽パネル(23)と、
を備え、前記前面パネル本体(22)と遮蔽パネル(23)との間の間隙(29,91,92)から室内空気を吸引し、吸引した室内空気を前記前面開口部(28)を介して前記熱交換器(17)側に導入するようにした空気調和機。
【請求項2】 送風ファン(16)と熱交換器(17)とを内装し、室内に取り付けられる室内機ケーシング本体(2)と、
前記室内機ケーシング本体(2)の前面側に取り付けられ、少なくとも前記熱交換器(17)の前方側に位置して前面開口部(28)を有する前面パネル本体(22)と、
少なくとも一部が前記前面開口部(28)に対向し、外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部を除く外表面を延長した曲面上に配置されるとともに、前記前面パネル本体(22)との間に前後方向に間隙(29,91,92)を備えるように配置される遮蔽パネル(23)と、
を備え、前記前面パネル本体(22)と遮蔽パネル(23)との間の間隙(29,91,92)から室内空気を吸引し、吸引した室内空気を前記前面開口部(28)を介して前記熱交換器(17)側に導入するようにした空気調和機。

5 特許異議の申立てについての判断

(1)取消理由通知書に記載された取消理由

平成16年1月13日付けの取消理由通知書には、取消理由1として、本件発明1及び本件発明2並びに本件発明1又は本件発明2を含む本件発明3ないし7の各発明の構成要件中の「外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部を除く外表面を延長した曲面上に配置される・・・遮蔽パネル(23)」は、本件の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではないから、本件発明1ないし7に係る本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号の規定に該当するので同法第114条第2項の規定により、取り消されるべきであるというものである。その他容易想到性についての取消理由2も記載されている。

(2)取消理由1の検討

「特許は、出願(具体的には、願書に添付した明細書又は図面の記載)という形で開示された発明に対し、当該発明の開示に対するいわば対価として与えられるものなのであるから、ある発明が明細書又は図面に開示されているというためには、上記対価に値するだけの明確な形で開示されていることが必要である。」(平成13年(行ケ)587号)
本件についてみると、本件の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「本件当初明細書」という。)には、遮蔽パネル(23)について、外表面が前面パネル本体(22)の前面開口部を除く外表面を延長した曲面上に配置されること(以下「本件特徴構成」という。)を明示した記載はない。
本件当初明細書には、「発明が解決しようとする課題」として、「上述のような前面パネルを備えた空気調和機の室内機では、運転時には各フラップを開いて吸引口を開放状態とする。このため、運転停止時と運転時とにおける室内機の意匠が異なることとなり、場合によっては運転時に内部に位置するエアフィルタや内部部品が正面より外観でき美観を損なうおそれもある。また、各フラップを動作させるためのアクチュエータが必要となり、コストダウンを図ることが困難となる。本発明の目的は、前面からの室内空気の吸引を可能とし、運転時と停止時における意匠の変更がなく、安価に構成できる空気調和機を提供することにある。」(段落0005及び0006)と記載され、「発明の効果」として、「本発明に係る空気調和機では、遮蔽パネルによって前面開口部が正面より見えない状態となるため、優れた意匠を維持することが可能であるとともに、前面パネル本体と遮蔽パネルとの間に設けられる間隙を介して前面側からの室内空気の吸引を可能とし、熱交換器側に充分な空気を導入することができる。」(段落0043)と記載されている。そうすると、本件特徴構成は、本件当初明細書に開示された発明が解決しようとする従来技術の問題点とその発明が奏する効果には直接関係しない事項であるから、本件当初明細書に意識して明確に記載された事項であると認めることはできない。本件の図1ないし12が図示するところを検討し、特許権者が平成16年7月29日付けの意見書に添付した参考資料を参酌しても、本件特徴構成の根拠となるものではない。
したがって、本件発明1及び本件発明2並びに本件発明1又は本件発明2を含む本件発明3ないし7の各発明の構成要件中の「外表面が前記前面パネル本体(22)の前面開口部を除く外表面を延長した曲面上に配置される・・・遮蔽パネル(23)」は、本件の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではない。

6 むすび

以上のとおりであるから、本件発明1ないし7に係る本件特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法113条1号の規定に該当するので同法114条2項の規定により、取り消されるべきである
よって、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-08-19 
出願番号 特願平11-209525
審決分類 P 1 651・ 55- ZB (F24F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 佐野 遵  
特許庁審判長 橋本 康重
特許庁審判官 原 慧
井上 哲男
登録日 2002-08-02 
登録番号 特許第3334688号(P3334688)
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 空気調和機  
代理人 小野 由己男  
代理人 高瀬 彌平  
代理人 加藤 秀忠  
代理人 宮田 金雄  

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