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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C09K
審判 一部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C09K
管理番号 1106968
審判番号 無効2001-35410  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1985-11-11 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-09-21 
確定日 2004-09-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2141437号発明「封止用組成物及び該組成物による封止方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2141437号の特許請求の範囲第5、6項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯

本件特許第2141437号は、昭和59年4月24日に出願され、平成6年5月11日に出願公告(特公平6-35575号)され、平成12年10月20日に特許権の設定登録がされ、その後、平成13年9月21日に請求人ハイシート工業株式会社より本件特許に係る特許請求の範囲第5項および第6項に記載された発明(以下、「訂正前の本件発明1-1、本件発明1-2」という。)の特許の特許無効の審判請求がなされ、被請求人より平成14年1月15日に答弁書及び訂正請求書が提出され、平成15年2月7日に口頭審理が行われたものである。

II 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

特許請求の範囲を
「【請求項1】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項2】特許請求の範囲(1)記載の封止用組成物に於て、さらに(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項3】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した成形材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成形材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。
【請求項4】特許請求の範囲(3)記載の封止方法に於て、さらに混加物に(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加する電子材料の封止方法。
【請求項5】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらに(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項6】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらに(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加した成形材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成形材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。」
から
「【請求項1】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項2】特許請求の範囲(1)記載の封止用組成物に於て、さらに(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項3】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した成形材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成形材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。
【請求項4】特許請求の範囲(3)記載の封止方法に於て、さらに混加物に(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加する電子材料の封止方法。
【請求項5】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項6】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを混加した成形材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成形材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。」
」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否

訂正事項は、訂正前の特許請求の範囲の内、第5項及び第6項に記載の「(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物」を、本件特許明細書に当たる本件公告公報の第5欄、23〜24行の記載に基づき「トリアリルイソシアヌレート」に限定するものである。
したがって、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものではない。
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる平成6年改正法による改正前の特許法第134条第2項ただし書の規定、及び同条第5項の規定により準用する特許法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III 本件発明

上記のように訂正が認められるので、本件特許に係る特許請求の範囲第5項および第6項に記載された発明(以下、「本件発明1-1、本件発明1-2」という。)は、前記訂正請求に係る訂正請求書に添付された訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲第5項及び第6項に記載された次のとおりのものと認められる。
「【請求項5】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項6】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを混加した成形材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成形材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。」

また、本件特許に係る特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、「本件発明2」という。)は、訂正明細書の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した電子材料を封止する封止用組成物。」

IV 当事者の主張及び証拠方法

1 請求人の主張の概要

1-1.無効理由1:特許法第29条2項

本件特許に係る訂正前の本件発明1-1、本件発明1-2は、本出願前に頒布された刊行物である甲第1号証又は甲第2〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は平成5年改正法による改正前の特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきものである。

1-2.無効理由2:特許法第36条3項

本件特許に係る訂正前の本件発明1-1、本件発明1-2は、出願当初の明細書に、その構成に伴う効果が説明されておらず、また、その効果を示すデータが具体的に開示されておらず、したがって、本件発明はその効果を確認することができないものであるから、特許法第36条第3項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は平成5年改正法による改正前の特許法第123条第1項第3号の規定により無効とされるべきものである。(請求人は特許法第36条第4項としているが特許法第36条第3項の誤りであるので、本審決においては上記のとおり認定する。)

1-3. 請求人の証拠方法

甲第1号証 :「INVESTIGATION OF TEST METHODS,MATERIAL PROPERTIES,AND PROCESSES FOR SOLAR CELL ENCAPSULANTS ANNUAL REPORT」 U.S. Department of Energy、 June 1979
甲第2号証 :特開昭58-60579号公報
甲第3号証 :「プラスチックおよびゴム用添加剤実用便覧」 化学工業社、昭和47年10月1日、p748〜749
甲第4号証 :「プラスチックおよびゴム用添加剤実用便覧」 化学工業社、昭和47年10月1日、p910〜912
参考資料1 :「架橋剤ハンドブック」 大成社、昭和56年10月20日、 p167〜168
参考資料2 :特開昭54-38342号公報
参考資料3 :特開昭50-9668号公報
参考資料4 :特開昭51-12875号公報

2 被請求人の主張

2-1.無効理由1:特許法第29条2項

本件特許に係る本件発明1-1、本件発明1-2は、本出願前に頒布された甲第1号証又は甲第2〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

2-2.無効理由2:特許法第36条3項

本件特許に係る本件発明1-1、本件発明1-2は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができ、かつその効果も十分に予測できるように明細書に記載されていることから本件発明1-1、本件発明1-2に係る明細書は、特許法第36条第3項の規定をみたしているというべきである。

2-3. 被請求人の証拠方法

乙第1号証 :東京高等裁判所平成8年(行ケ)第55号審決取消請求事件の判決文

V 甲第1〜4号証、乙第1号証等の記載事項

甲第1〜4号証、乙第1号証等には、下記の旨記載されている。

・甲第1号証
(ア)
「低コストの太陽電池プロジェクトの報告書であり、プログラムの目標が封止材料および費用効果に優れ長持ちする太陽電池モジュール生産プロセスを確認、評価、推奨することである」旨が記載されている。(第1-1頁1行〜5行)
(イ)
「その研究内容は、太陽電池モジュール製造時に注封材料(Pottant)として使用する市販グレードのエチレン-ビニルアセテート共重合体の処方改善を目的とし、良好な結果が得られる可能性のある処方(potentially successful formulations)を、原料ポリマーに抗酸化剤、紫外線吸収剤、架橋剤を混合して作成し、得られたエラストマーは、低コスト、低温加工性、高透明度(透過率:91%)、低弾性率を示す」旨が記載されている。(第1-1頁6行〜12行)
(ウ)
「セルの被膜として使用する透明な処方と、セルの反射背板として使用する白色に着色した処方の2種類の樹脂配合物を作成し、真空バッグプロセスにより、下層構造/上層構造の多重セル小型ソーラーモジュールを作成したモジュールが、外観に優れ、気泡がなく、JPL熱サイクル試験に合格した」旨が記載されている。(第1-1頁16行〜27行)
(エ)
「上層材と下層材にエチレン-ビニルアセテート共重合体を貼り付ける時に、ポリマーにシラン化合物を直接混ぜ合わせるとガラスへの接着力が高まった」旨が記載されている。(第1-1頁28行〜第1-2頁1行)
(オ)
「架橋EVAは、EVAにトリアリルシアヌレート、ジクミルパーオキサイド等が配合されたものである」旨が記載されている。(第3-2頁7行)
(カ)
「透明配合処方と白色着色配合処方の配合は、
EVA-2 透明(a) EVA-2W 白色(a)
化合物 機能 (部) (部)
Elvax150 樹脂 100 100
Sartomer SR-350 架橋剤 3.0 3.0
Lupersol 101 開始剤 1.5 1.5
UV-531 UV吸収剤 0.25 -
Trinuvin 7770 UV相乗剤 0.10 -
Irganox 1076 抗酸化剤 0.50 -
Kadox 15(ZnO) 顔料 - 5.0
Titanox RF-3(TiO2) 顔料 - 2.0
Ferro AM-105 安定剤 - 0.5
で、これらは、安定剤、抗酸化剤、硬化剤を含む初めて本格的に開発された配合物である」旨が記載されている。(第3-3頁)
(キ)
「架橋EVAには補助架橋剤(架橋助剤)として、トリアリルシアヌレートまたはSR-350(トリメチロールプロパントリメタクリレート)を使用することが多いが、SR-350を使用しない方が、真空バッグ処理時に気泡を形成しない」旨が記載されている。(第3-5頁2行〜10行)
(ク-1)
「真空バッグを使うモジュールのラミネーション方法において、
積層状構成が、
FEP フィルム:リリースフィルム
着色EVA :裏側の反射性封止材料
透明EVA :透明封止材料
太陽電池(下向き)
透明EVA :透明封止材料
ソーダ石灰ガラス:上層
であるアセンブリを用い、支持板とフレームに張ったダイヤフラムの間にこのアセンブリを挿入し、真空(30インチHg)をかけて、封止材料のシート間に介在する空気を除外し、真空状態のまま、150℃の油圧プレスで加熱・加圧下に、プラテン中に真空バッグを挿入し、20分で硬化して製造したモジュールより抽出した封止材料のサンプルは、十分な硬化状態を見せ、ゲル含量が75%を超えていた」旨が記載されている。(第5-1頁2行〜26行目)
(ク-2)
「エチレン-ビニルアセテート共重合体を貼り付ける時に、ポリマーに直接混ぜ合わせるシラン化合物が「Z6030」および「Z6020」という銘柄の商品である」旨が記載されている。(TABLE 5)

・甲第2号証
(ケ)
「1.カップリング剤および有機過酸化物を含有するエチレン系共重合樹脂からなる太陽電池用充填接着材シート。
2.カップリング剤として有機シラン化合物・・が用いられた特許請求の範囲第1項記載の充填接着材シート。
3.約90〜190℃の分解温度を有する有機過酸化物が用いられた特許請求の範囲第1項記載の充填接着材シート。
4.エチレン系共重合樹脂として、酢酸ビニル含量が約40重量%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体が用いられた特許請求の範囲第1項記載の充填接着材シート。
5.エチレン系共重合樹脂として、酢酸ビニル含量が約20〜40重量%のエチレン-酢酸ビニル共重合体が用いられた特許請求の範囲第1項記載の充填接着材シート。
6.太陽電池素子をカップリング剤および有機過酸化物を含有するエチレン系共重合樹脂からなる少なくとも2枚の充填接着材シートで挟み、更にその両側に上部透明保護材および下部基板保護材を重ねた状態でのモジュール貼り合わせ過程において、前記有機過酸化物の分解温度以上に加熱することを特徴とする太陽電池用保護材と充填材との接着方法。」
が記載されている。(特許請求の範囲)
(コ)
「この発明は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を用い、なお、太陽電池用充填接着材に求められる諸特性、特に保護材との初期接着性および耐久接着性に優れ、かつ、貼り合わせ過程の自動化および短縮化に適合した充填接着シート材およびそれを用いる接着方法を提供するものである」旨が記載されている。(第3頁右上欄18行〜同頁左下欄7行)
(サ)
「充填接着材として用いられるシートの成形に当たっては、ドライブレンドしたものを押出機に供給し、有機過酸化物が分解しない温度でシート状、好ましくは、エンボス模様入りのロールを用いてシート化すること、この際、エンボス模様の形成は、シートのブロッキング防止および太陽電池のモジュール化過程での脱気に対して有効である」旨が記載されている(第5頁右下欄9行〜20行)。
(シ)
「太陽電池のモジュール化は、太陽電池素子を少なくとも2枚の充填接着材シートで挟み、上部透明保護材と下部基板保護材とを重ねた状態で真空下で加熱接着させることにより行われる」旨が記載されている。(第6頁左上欄10行〜19行)

・甲第3号証
(ス)
「ガラスと樹脂との親和性を増し、接着力を強化する薬剤として、有機シラン化合物が用いられ、この表面処理剤は、『Coupling Agent』と呼ばれること、ならびに、シラン系処理剤の具体的薬品名が記載されており、『Z6030』および『Z6020』銘柄がDC(ダウコーニング社)によって販売されている」旨が記載されている。(第748頁〜749頁)

・甲第4号証
(セ)
「有機過酸化物によるエチレン-ビニルアセテート共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体)の架橋は、架橋助剤を使用することによって、さらに物性を向上させることができ、架橋助剤として、トリアリルシアヌレート(TAC)を用いた場合には、引張強度が向上することが実証されている」旨が記載されている。(第910頁10・1・4・4項(ロ)の記載および第912頁図10・18)

・参考資料1
(ソ)
「ポリエチレン、エチレン-酢ビ共重合体のような非開裂型ポリマーに架橋助剤を応用すれば、架橋効果を高めることはもちろん、接着性の改良、耐熱性の向上、耐圧縮永久ひずみなどの物性が改良される効果があり、有機過酸化物架橋においては有用なものである」旨が記載されている。(第167頁左欄)
(タ)
「架橋助剤として、トリアリルシアヌレート(TAC)とトリアリルイソシアヌレート(TAIC)が、共に、ポリエチレン(PE)やエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)などのポリオレフィンの架橋助剤として用いられる」旨が記載されている。(表6、第168頁)
(チ)
「架橋ポリエチレンの物性について、架橋により分子間の結合が増大し、結晶化が阻害されるため、常温収縮や耐ストレスクラッキング性および透明性が向上する」旨が記載されている。(第168頁)

・参考資料2
(ツ-1)
「ポリオレフィンに、非対称型有機過酸化物と、分子中に反応性の二重結合または三重結合を2個以上有する不飽和化合物とをそれぞれ添加均一に配合せしめて成るポリオレフィン組成物。」が記載されている。(特許請求の範囲第1項)
(ツ-2)
「本発明におけるポリオレフィンは、エチレンを主体とする重合体または共重合体である。低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体がある」旨が記載されている。(第2頁左下欄12行〜15行)
(テ)
「分子中に反応性の二重結合または三重結合を2個以上有する不飽和化合物としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートを用いる」旨が記載されている。(第3頁左上欄4行〜5行)。

・乙第1号証
「本件明細書の「【請求項1】エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した電子材料を封止する封止用組成物。」が視覚的透明性の点で顕著な効果を奏するものである」旨が記載されている。(第20頁)

VI 当審の判断

1 無効理由2についての検討

まず、本件請求人の主張する無効理由2について検討する。

(本件の経緯)

訂正前の本件発明は、平成13年8月13日付けの特許公報に掲載された、特許法(平成6年法律第116号による改正前)第64条の規定による補正事項から見て、下記のとおりのものである。

「1 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
2 特許請求の範囲(1)記載の封止用組成物に於て、さらに(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
3 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した成型材料間に電子材料を挟持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板状あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成型材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。
4 特許請求の範囲(3)記載の封止方法に於て、さらに混加物に(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加する電子材料の封止方法。
5 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらに(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
6 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらに(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加した成型材料間に電子材料を挟持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成型材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。」

上記「訂正前の本件発明1-1、本件発明1-2」(特許請求の範囲第5項及び第6項に係る発明)は、本件出願公告に対する異議申立がなされた際に、本件出願の願書に添付された明細書(特公平6-35575号参照)の補正により特許請求の範囲の請求項1ないし請求項4に記載された構成を分解して新たに設けられたもので、第1項ないし第4項の発明には従属しない独立した発明である。

当該明細書に記載された特許請求の範囲は下記の通りである。

「1 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物あるいは光増感剤を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
2 特許請求の範囲(1)記載の封止用組成物に於て、さらに(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
3 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物あるいは光増感剤を混加した成型材料間に電子材料を挟持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板状あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成型材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。
4 特許請求の範囲(3)記載の封止方法に於て、さらに混加物に(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加する電子材料の封止方法。」

つまり、特許異議申立に対する答弁書と同時に提出した手続補正書(平成7年5月26日付け)において、願書に添付した明細書に記載された発明の構成から、「有機過酸化物」を含む構成を分離して、新たに、独立項として第5項及び第6項を設けたものである。
ちなみに、上記補正は、特許請求の範囲を変更するだけのものであって、これに伴って、発明の詳細な説明は全く何も補正されていない。
したがって、本件発明1-1、本件発明1-2(訂正後の特許請求の範囲第5項及び第6項に係る発明)の効果は、特許時の明細書の発明の詳細な説明(公告時の明細書の発明の詳細な説明と同じ)に記載された事項に基づいて判断されることになる。

(本件特許明細書についての検討)

(1) 本件公告公報(特公平6-35575号公報)、上記平成7年5月26日付手続補正書によれば、本件特許明細書には、次の記載があることが認められる。

(あ) 「本発明は電子材料、例えば液晶、太陽電池、エレクトロルミネッセンス、プラズマディスプレー等の電子材料を封止する封止組成物及び該組成物による電子材料の封止方法に関するものである。すなわち、本発明は液晶、太陽電池、エレクトロルミネッセンス、プラズマディスプレー等のモジュールをガラス、金属、プラスチックス等の間に強固に封止し、種々の環境条件、とくに衝撃、温度の変動サイクルによる熱膨張及び収縮、水分の浸入から上記の素子を保護して、その安定した使用を可能にするものである。また、本発明は透明であり且つ強固なものであり、ガラス、金属、プラスチックス等に良好に接着する安価な封止用組成物を提供するものであり、液晶、太陽電池、エレクトロルミネッセンス、プラズマディスプレー等の大型モジュール化を可能にせしめるものである。」(2欄7行〜3欄6行)
(い) 「従来、これら封止用組成物としてはシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、酢酸セルロース等が用いられ、またエチレン-酢酸ビニル共重合体も一部では用いられて来た。封止用樹脂は一般に外部(例えば水、大気など)と素子や結線との接触を防止してその劣化を抑制するほか、打撃、雹の落下など機械的衝撃から素子を保護するための緩衝機能も非常に重要である。また、素子あるいは他の基板、窓材とは良好かつ安定に接着するほか、その封止プロセスも簡便であることが要求される。さらに加えて例えば密材(透明なガラス、高分子フィルム等)との接着、封止に用いられる場合には高度の透明性が要求される。」(3欄7行〜18行)
(う) 「これらの状況に鑑み近年エチレン-酢酸ビニル共重合体が封止材として用いられるに至った。この樹脂(以下EVAと略称)はポリビニルブチラールと同様熱可塑型であり、熱圧着により素子の封入が可能であるが、従来のものは(1)ガラス等との接着を得るためシラン系カップリンク剤をEVAフィルム又はガラス等の表面に塗布するタイプであるため、被着体と接着するまでの時間に制約があり、例えば2〜3昼夜放置してからガラスと接着すると煮沸試験により著しく接着力が低下する、(2)そのままでは透明度が不足で、光学的用途には不向きなものであるという欠点がある。」(3欄39行〜49行)
(え) 「本発明はEVA系のこれらの欠点を大巾に改良したものであり、EVAに適量の架橋剤又は光増感剤、さらには多官能架橋助剤、シランカップリング剤等を加えた組成物から成る。」(3欄末行〜4欄3行)
(お) 「本発明による組成物はEVAの融点以上の温度で加熱架橋することにより透明性にすぐれ、機械的強度が大きいものである。」(4欄3行〜4欄5行)
(か) 「また、カレンダー、押出、インフレーション法などの成膜法により成膜されたフィルム、シートは貯安性が大であり、製造後通常の室温、湿度下で貯蔵された場合被着体との接着力低下もほとんどみとめられないなど極めてすぐれた性質を有し、液晶素子、太陽電池、エレクトロルミネッセンスをはじめ各種ブラスラマディスプレー電子材料の封止及びガラス、金属、プラスチックス相互間の接着に有用である。本発明に用いられるEVA樹脂としては酢酸ビニル含量が5〜50%、好ましくは15〜40%のものが使用される。酢酸ビニル含量が5%より少ないと樹脂の耐候性および透明性に問題があり、また40%を越すと樹脂の機械的性質が著しく低下するほか、成膜が困難になり、フィルム、シート相互のブロッキングが生ずる。但し封止材として裏面に用いられたりするときは透明性は本質的に重要ではなく、この目的には15%以下の樹脂を用いてもよい。」(4欄5行〜4欄20行)
(き) 「EVAの物性(機械的強度光学的特性、接着性、耐侯性、耐白化性、架橋速度など)改良のため本発明に於ては各種アクリロキシ基あるいはメタクリロキシ基及びアリル基含有化合物を添加することができる。」(5欄5行〜8行)

上記認定の事実によれば、本件発明1-1、本件発明1-2は、液晶、太陽電池、エレクトロルミネッセンス、プラズマディスプレー等の電子材料を封止する封止組成物及び該組成物による電子材料の封止方法に関するものであり、従来封止剤として用いられてきたエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の有していた接着力の低下と透明度不足という欠点を克服し、本件発明1-1、本件発明1-2の「シランカップリング剤および有機過酸化物の混加」という構成を採用することによって、透明性に優れ、機械的強度が大きく、接着力低下もほとんどなく、また、「シランカップリング剤および有機過酸化物の混加」という構成を採用することによって、EVAの物性(機械的強度光学的特性、接着性、耐侯性、耐白化性、架橋速度など)の改良された封止組成物を提供するというものであることが認められる。
また、同じく、上記認定の事実によれば、本件発明2は、液晶、太陽電池、エレクトロルミネッセンス、プラズマディスプレー等の電子材料を封止する封止組成物及び該組成物による電子材料の封止方法に関するものであり、従来封止剤として用いられてきたエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)の有していた接着力の低下と透明度不足という欠点を克服し、特許請求の範囲1の項記載の構成を採用することによって、透明性に優れ、機械的強度が大きく、接着力低下もほとんどない封止組成物を提供するというものであることが認められる。

(2)本件発明1-1、本件発明1-2の「効果」について検討する。

本件公告公報によれば、本件明細書には、「有機過酸化物の混加とそれによる加熱架橋」については、実施例1に、「さらに透明性、耐熱性向上の目的で150℃、30分架橋をおこない、透明でかつ白板ガラス、ステンレス板とも強固に接着したモジュールを得た。」(6欄30行〜33行)との記載があり、「シランカップリング剤の混加」については、実施例1に、「本発明による組成物からなるシートはシランカップリング剤を内蔵しており、製造後90日経過しても良好な接着力を保持し、沸とう水中2時間浸漬しても接着力の低下は僅少であった。」(6欄49行〜7欄2行)との記載があるので、本件発明1-1、本件発明1-2の「シランカップリング剤および有機過酸化物の混加とそれによる加熱架橋」という構成を採用することによる効果は実施例として十分に記載されている。
また、「アリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを混加」については、「EVAの物性(機械的強度光学的特性、接着性、耐侯性、耐白化性、架橋速度など)改良のため本発明に於ては各種アクリロキシ基あるいはメタクリロキシ基含有化合物を添加することができる。」(5欄5行〜8行)と記載されており、本件発明1-1、本件発明1-2の「アリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートの混加」という構成を採用することによる効果は効果の例示としてではあるが十分に記載されている。
すなわち、本件発明1-1、本件発明1-2の「効果」は、本件発明1-1、本件発明1-2の「シランカップリング剤および有機過酸化物の混加とそれによる加熱架橋」という構成を採用することによる効果と、本件発明1-1、本件発明1-2の「アリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートの混加」という構成を採用することによる効果を合わせたものであるところ、その両者の効果が本件明細書中には十分に記載されている。
したがって、本件発明1-1、本件発明1-2の「効果」については、本件明細書中に十分に記載されているといえる。

(3)本件発明1-1、本件発明1-2の「透明性」の技術的な内容について検討する。

本件公告公報によれば、本件明細書には、「さらに加えて例えば密材(透明なガラス、高分子フィルム等)との接着、封止に用いられる場合には高度の透明性が要求される。」(3欄16行〜18行)、「そのままでは透明度が不足で、光学的用途には不向きなものであるという欠点がある。本発明はEVA系のこれらの欠点を大巾に改良したものであり、」(3欄48行〜4欄1行)との記載があること、本件第1-1発明、本件第1-2発明の「有機過酸化物による加熱架橋」についての実施例である実施例1には、「さらに透明性、耐熱性向上の目的で150℃、30分架橋をおこない、透明でかつ白板ガラス、ステンレス板とも強固に接着したモジュールを得た。」(6欄30行〜33行)との記載があることが認められる。
他方、「ヘイズ」とは、一般に、「透明なプラスチックの内部または表面の不明瞭なくもり様の外観」といったことを意味するものであり、「ヘイズ値」とは、「曇値」とも称され、フィルムに可視光を照射したときの全透過光に対する拡散透過光の割合であり、ヘイズ値が小さいほどフィルムの透明性に優れている、すなわち、いわゆる「視覚的透明性」が優れているものであることは技術常識である。
してみると、この場合の「透明性」は光線の透過性が効果の要件である「光学的用途」についてのものであり、また、「有機過酸化物による加熱架橋」についての実施例である実施例1には「ヘイズ値」についてはなんら記載されていないのであるから、この場合の「透明性」が光学的透過性であることは明らかである。

以上によれば、本件発明1-1、本件発明1-2にいう「透明性」とは、光学的透過性であり、視覚的透明性を意味するものではないとするのが相当である。

(4)本件発明2の「透明性」の技術的な意味内容について検討する。

本件公告公報によれば、本件明細書には、「さらに加えて例えば密材(透明なガラス、高分子フィルム等)との接着、封止に用いられる場合には高度の透明性が要求される。」(3欄16行〜18行)、「そのままでは透明度が不足で、光学的用途には不向きなものであるという欠点がある。本発明はEVA系のこれらの欠点を大巾に改良したものであり、」(3欄48行〜4欄1行)との記載があること、本件発明2の実施例である実施例2には、「照射したもののガラス込みのヘイズ値(曇値)を積分式濁度計TC-SP(東京電色社製)を用いて測定した。紫外線処理品は0.8、未処理品は3.1であって大幅に改良され、封止用透明樹脂としてすぐれたものであることがわかった。」(7欄17行〜21行)との記載があること、実施例3に関して、「紫外線未照射のパネルではヘイズ値が高いのみならず、鋼球の落下により陥没がみられた。また、シートにトリメチロールプロパンを含まない系では紫外線未照射ほどでないが、やはりヘイズ値が劣り、強度も不十分であった。」(8欄17行〜21行)との記載があることが認められる。
他方、「ヘイズ」とは、一般に、「透明なプラスチックの内部または表面の不明瞭なくもり様の外観」といったことを意味するものであり、「ヘイズ値」とは、「曇値」とも称され、フィルムに可視光を照射したときの全透過光に対する拡散透過光の割合であり、ヘイズ値が小さいほどフィルムの透明性に優れている、すなわち、いわゆる「視覚的透明性」が優れているものであることは技術常識である。

以上によれば、本件発明2にいう「透明性」とは、光学的透過性ではなく、視覚的透明性を意味するものであるとするのが相当である。

(5)本件発明2に、視覚的透明性を向上させるという顕著な効果があるか否かについて検討する。

本件公告公報によれば、本件明細書には、実施例2について、エチレン-酢酸ビニル重合体に、シランカップリング剤としてγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを、光増感剤としてベンゾインイソプロピルエーテルを含有する組成物(両面エンボスシート)に高圧水銀灯で紫外線照射の処理をして未処理品とヘイズ値を比較したところ、未処理品は3.1であるのに対して、紫外線処理品は0.8となっており、大幅にヘイズ値が改良された旨の記載があることが認められる。
そして、本件発明2の特許出願当時においても、1%以下のヘイズ値であれば、高い視覚的透明性を有すると考えられていたことは技術常識である。
そうすると、本件発明2に係る組成物は、実施例において、未処理のヘイズ値が3.1%であったのに対し、紫外線処理後には0.8%のヘイズ値を示したというのであるから、これによる限り、視覚的透明性を著しく向上させる発明であることになる。

(乙第1号証についての検討)

本件発明2についての判決である乙第1号証おいて被請求人は次のように主張している。
「2 取消事由2(顕著な効果の看過)
(1) 本願第1発明は、引用例1の有機過酸化物による方法に代えて光増感剤と紫外線照射による方法を用いることにより、視覚的な透明性を得るという顕著な効果を奏するものである。 (2) 甲第8号証(平成4年5月1日改正、日本規格協会発行「JIS自動車安全ガラス JIS R 3211」)及び甲第9号証(特許第2545116号公報)によれば、ヘイズ値は、1%が発光表示であるエレクトロルミネッセンス表示の視認性のより優れた良好性の基準となっているとみることができる。
これを前提にした場合、甲第6号証(平成9年2月20日付実験報告書)及び甲第7号証(平成9年9月16日付実験報告書)によれば、本願第1発明の実施品である参考品C(甲第6号証)及び配合1〜配合4の積層物(甲第7号証)のヘイズ値は、0.7〜1.75%であり、本願明細書の実施例2においても0.8%であって、透明性向上の作用効果として十分に高い値である。また、甲第9号証中の実施例と比較しても、ヘイズ値の差は1.4%であって、視認性の向上が図られたことが裏付けられている。さらに、甲第7号証によれば、本願第1発明の実施品である「光増感剤」を用いた配合1〜4の積層物と引用例1に係る「有機過酸化物」を用いた配合5〜8の積層物のヘイズ値の差の平均は、2.39%である。したがって、本願第1発明が、視覚的な透明性を得るという顕著な効果を奏するものであることの立証は、十分というべきである。」(乙第1号証5頁8行〜6頁13行)
すなわち、被請求人は「引用例1の有機過酸化物による方法に代えて光増感剤と紫外線照射による方法を用いることにより、視覚的な透明性を得るという顕著な効果を奏するものである。」ことを自ら実験成績証明書(乙第1号証中の甲第6号証と甲第7号証)を証拠としてして提出して立証している。
そして、被請求人の「引用例1の有機過酸化物による方法に代えて光増感剤と紫外線照射による方法を用いることにより、視覚的な透明性を得るという顕著な効果を奏するものである」との主張に対して、裁判所は「引用例1の有機過酸化物による方法に代えて光増感剤と紫外線照射による方法を用いることにより、視覚的な透明性を得るという顕著な効果を奏するものである」ことを判決の下記の箇所において判示している。
「 (ロ) 視覚的透明性のこのような著しい向上は、引用例1及び2の記載から、本願第1発明の効果として予測することの困難なものである。すなわち、甲第4号証によれば、引用例1には、架橋によって視覚的透明性の向上を実現し得ることを述べる記載もこれを示唆する記載もないことが明らかであり、甲第5号証によれば、引用例2には、紫外線照射による架橋の透明性に与える影響については、『このようにして架橋されたオレフィン重合体または共重合体フィルムは、透明性がほとんどそこなわれず、衝撃強度が著しく向上し、』(5欄16行目〜18行目)として、むしろ、その程度はともかく、悪化させる方向に働く旨が記載されているだけで、これを向上させることを予測させる記載のないことが認められるからである。」(乙第1号証第20頁14行〜21頁6行)
「 (ニ) 上に述べてきたところによれば、本願第1発明に特許性を認めるための格別な効果の有無の判定に当たっては、視覚的透明性につき引用発明1においても本願第1発明においても未処理品とされているもの(架橋されていないもの)を出発点としつつ、かつ、引用例1にも同2にも本願第1発明のものが未処理品に比べて視覚的透明性が向上するであろうことをうかがわせる記載はないことを前提に行われなければならないものというべきである。すなわち、より正確にいえば、他ではなく、本願第1発明の構成のものとして出願時に予測された視覚的透明性と、同発明の構成のものが現実に示す視覚的透明性との比較によって行わなければならないものというべきである。」(乙第1号証第22頁10行〜17行)


(結論)

以上の検討からして、本件発明1-1、本件発明1-2についての効果は本件明細書中に記載されているものと認められ、そして、本件発明1-1、本件発明1-2の効果として記載されているのは「光学的透過性」の効果である。
また、本件発明1-1、本件発明1-2と本件発明2では「熱硬化と光硬化の違い」に基づく顕著な効果の違いがあることは明らかであるから、「実施例3におけるヘイズの低下という視覚的透明性の効果が、程度の差はあっても熱硬化においても甘受できることは類推可能である」とすることはできない。

以上の検討をふまえて、当審は次のように判断する。

被請求人の主張は妥当なものではないが請求人の主張する無効理由2では本件発明1-1、本件発明1-2に係る特許を無効とすることはできない。


2 無効理由1についての検討

(甲第1号証との対比)

本件請求人の主張する無効理由1についての主張のうち、「本件特許に係る訂正前の本件発明1-1、本件発明1-2は、本出願前に頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」との主張について検討する。

(1)甲第1号証記載の発明

甲第1号証には、エチレン-ビニルアセテート共重合体を用いる太陽電池用封止材料が記載されており(上記摘示(ア)、(イ)参照)、上記摘示(カ)の記載における「開始剤」は上記摘示(オ)に架橋EVAに過酸化ジクミルが配合されることからすると「有機過酸化物」と考えられるので、架橋剤と架橋助剤をエチレン-ビニルアセテート共重合体に混加することも記載されており(上記摘示(カ)参照)、架橋助剤としてトリアリルシアヌレートを混加することも記載されているので(上記摘示(キ)参照)、甲第1号証には、エチレン-ビニルアセテート共重合体に、架橋剤としての有機過酸化物及び架橋助剤としてのトリアリルシアヌレートを混加した太陽電池用封止材料が記載されており、また、甲第1号証には、上記摘示(ア)、(イ)、(オ)、(カ)、(キ)、に加えて、太陽電池用封止材料をガラスやプラスチック等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱によって該成型材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡がない太陽電池モジュールとして製造される太陽電池の封止方法が記載されているので(上記摘示(ウ)、(ク-1)参照)、甲第1号証には、エチレン-ビニルアセテート共重合体に、有機過酸化物、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルシアヌレートを混加した成形材料間に太陽電池を挟持し、これをガラスやプラスチック等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱によって該成型材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡がない太陽電池モジュールとして製造される太陽電池の封止方法も記載されている。
そして、「太陽電池」が「電子材料」であること、「封止材料」が「封止組成物」であること、「トリアリルシアヌレート」がアリル基含有化合物であることは明らかであるから、甲第1号証には、
「エチレン-酢酸ビニル共重合体に、有機過酸化物及びアリル基含有化合物としてトリアリルシアヌレートを混加した電子材料を封止する封止組成物(以下、「引用発明1」という。)」
が記載されており、また、
「エチレン-ビニルアセテート共重合体に、有機過酸化物、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルシアヌレートを混加した成形材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、プラスチック、等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱によって該成形材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。(以下、「引用発明2」という。)」
も記載されている。
また、甲第1号証には、上記摘示(エ)、(ク-2)によれば、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシラン化合物として「Z6030」ないし「Z6020」を直接混ぜ合わせることが記載されているが、このシラン化合物は、甲第3号証の上記摘示(ス)によれば、シランカップリング剤である。
したがって、甲第1号証には、
「エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤を混加すること(以下、「引用発明3」という。)」
が記載されている。

(2)証拠との対比

(2-1)本件発明1-1について

(a)対比

本件発明1-1(前者)と引用発明1(後者)とを対比すると、両者は、
「エチレン-ビニルアセテート共重合体に、有機過酸化物及びアリル基含有化合物を混加した電子材料を封止する封止組成物」である点で一致しているが、
前者ではアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを用いるのに対し、後者ではアリル基含有化合物としてトリアリルシアヌレートを用いている点(相違点1)、
前者ではシランカップリング剤を用いるのに対し、後者ではシランカップリング剤を用いない点(相違点2)、
で相違しているものと認められる。

(b)相違点についての判断

(i)相違点1について

トリアリルイソシアヌレートが、トリアリルシアヌレートと同様に、エチレン-ビニルアセテート共重合体を含むポリオレフィン系の架橋助剤として用いられていることは参考資料1の上記摘示(ソ)、(タ)、(チ)、参考資料2の上記摘示(ツ-1)、(ツ-2)、(テ)の記載からみて本願出願前に周知のことである。
そうすると、架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートに換えてアリル基含有化合物であるトリアリルイソシアヌレートを用いることは適宜に選択しえる程度の事項にすぎない。

(ii)相違点2について

引用発明1は、長持ちすることを目的とするもの(上記摘示(ア)を参照)で、封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させることを課題とするものである。
他方、甲第1号証に、引用発明1と同様の技術課題である封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させることに関する技術事項(上記摘示(エ)を参照)として、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤を混加すること(「引用発明3」)が記載されているのであるから、引用発明3を引用発明1に適用して本件発明1-1の発明のように構成することは、当業者が容易になし得るものである。

(c)本件発明1-1の効果についての判断

本件発明1-1は、VIの1においてすでに説示したとおり、エチレン-ビニルアセテート共重合体に有機過酸化物及びアリル基含有化合物を混加することにより光線透過性としての透明性と機械的強度を向上させ、また、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤を混加することにより封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させるものである。
しかるに、エチレン-ビニルアセテート共重合体に有機過酸化物及びアリル基含有化合物を混加することにより光線透過性としての透明性と機械的強度を向上させることは、引用発明1に関して甲第1号証に記載されており、また、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤を混加することにより封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させることは、引用発明3に関して甲第1号証に記載されており、また、架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートを用いた場合とアリル基含有化合物であるトリアリルイソシアヌレートを用いた場合で効果に特段の差異があると解すべき理由もないのであるから、本件発明1-1の効果は両者の引用発明の効果から予測できるものにすぎない。
そして、本件発明1-1の効果として記載されているのは「光学的透過性」の効果であること、また、本件発明1-1と本件発明2では「熱硬化と光硬化の違い」に基づく顕著な効果の違いがあることは明らかであるから、「実施例3におけるヘイズの低下という視覚的透明性の効果が、程度の差はあっても熱硬化においても甘受できることは類推可能である」とすることはできないことはVIの1の(結論)においてすでに説示したとおりである。

以上のとおりであるから、本件発明1-1は、甲第1号証に記載の発明に基づき、甲第3号証の記載事項及び参考資料1、2に記載の周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2-2)本件発明1-2について

(a)対比

本件発明1-2(前者)と引用発明2(後者)とを対比すると、両者は、
「エチレン-ビニルアセテート共重合体に、有機過酸化物、さらにアリル基含有化合物を混加した成形材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、プラスチック、等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱によって該成形材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法」である点で一致しているが、
前者ではアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを用いるのに対し、後者ではアリル基含有化合物としてトリアリルシアヌレートを用いている点(相違点1)、
前者ではシランカップリング剤を用いるのに対し、後者ではシランカップリング剤を用いない点(相違点2)、
で相違しているものと認められる。

(b)相違点についての判断

(i)相違点1について

トリアリルイソシアヌレートが、トリアリルシアヌレートと同様に、エチレン-ビニルアセテート共重合体を含むポリオレフィン系の架橋助剤として用いられていることは参考資料1の上記摘示(ソ)、(タ)、(チ)、参考資料2の上記摘示(ツ-1)、(ツ-2)、(テ)の記載からみて本願出願前に周知のことである。
そうすると、架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートに換えてアリル基含有化合物であるトリアリルイソシアヌレートを用いることは適宜に選択しえる程度の事項にすぎない。

(ii)相違点2について

引用発明2は、長持ちすることを目的とするもの(上記摘示(ア)を参照)で、封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させることを課題とするものである。
他方、甲第1号証に、引用発明2と同様の技術課題である封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させることに関する技術事項(上記摘示(エ)を参照)として、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤を混加すること(「引用発明3」)が記載されているのであるから、引用発明3を引用発明2に適用して本件発明1-2の発明のように構成することは、当業者が容易になし得るものである。

(c)本件発明1-2の効果についての判断

本件発明1-2は、VIの1においてすでに説示したとおり、エチレン-ビニルアセテート共重合体に有機過酸化物及びアリル基含有化合物を混加することにより光線透過性としての透明性と機械的強度を向上させ、また、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤を混加することにより封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させるものである。
しかるに、エチレン-ビニルアセテート共重合体に有機過酸化物及びアリル基含有化合物を混加することにより光線透過性としての透明性と機械的強度を向上させることは、引用発明2に関して甲第1号証に記載されており、また、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤を混加することにより封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させることは、引用発明3に関して甲第1号証に記載されており、また、架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートを用いた場合とアリル基含有化合物であるトリアリルイソシアヌレートを用いた場合で効果に特段の差異があると解すべき理由もないのであるから、本件発明1-2の効果は両者の引用発明の効果から予測できるものにすぎない。
そして、本件発明1-2の効果として記載されているのは「光学的透過性」の効果であること、また、本件発明1-2と本件発明2では「熱硬化と光硬化の違い」に基づく顕著な効果の違いがあることは明らかであるから、「実施例3におけるヘイズの低下という視覚的透明性の効果が、程度の差はあっても熱硬化においても甘受できることは類推可能である」とすることはできないことはVIの1の(結論)においてすでに説示したとおりである。

以上のとおりであるから、本件発明1-2は、甲第1号証に記載の発明に基づき、甲第3号証の記載事項及び参考資料1、2に記載の周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。

(甲第2〜4号証との対比)

本件請求人の主張する無効理由1についての主張のうち、「本件特許に係る訂正前の本件発明1-1、本件発明1-2は、本出願前に頒布された刊行物2〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」との主張について検討する。

(3)甲第2、4号証記載の発明

甲第2号証には、太陽電池用充填接着材シートおよびそれを用いる接着方法と題する発明が開示されている。

甲第2号証には、上記摘示(ケ)によれば、エチレン-酢酸ビニル共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物を混加した太陽電池用充填接着材シートが記載されており、また、同じく上記摘示(ケ)、(サ)、(シ)によれば、太陽電池素子を、この少なくとも2枚の充填接着材シートで挟み、更にその両側に上部透明保護材および下部透明保護材を重ねた状態でモジュールの貼り合わせを行い、この際、前記有機過酸化物の分解温度以上に加熱すること、ならびに、このモジュールは、太陽電池を上記封止材によって挟持し、これをガラスやプラスチック等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱によって該成型材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡がない太陽電池モジュールとして製造されるものである太陽電池用保護材と充填材との接着方法も記載されている。
そして、「酢酸ビニル」が「ビニルアセテート」であること、「太陽電池」が「電子材料」であること、「充填」が「封止する」ことであること、「充填接着剤」が「封止用組成物」であることは明らかであるから、甲第2号証には、
「エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物を混加した電子材料を封止する封止用組成物(以下、「引用発明4」という。)」
が記載されており、また、「酢酸ビニル」が「ビニルアセテート」であること、「太陽電池」が「電子材料」であること、「充填」が「封止する」ことであること、「充填接着剤」が「封止用組成物」であること、「接着方法」が「封止方法」であることは明らかであるから、
「エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物を混加した成形材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、プラスチック等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱によって該成形材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法(以下、「引用発明5」という。)」
も記載されている。

甲第4号証には、上記摘示(セ)によれば、有機過酸化物によるエチレン-ビニルアセテート共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体)の架橋は、架橋助剤を使用することによってさらに物性を向上させることができることが説明され、架橋助剤として、トリアリルシアヌレート(TAC)を用いた場合には、引張強度が向上することが実証されている。 したがって、甲第4号証には、
「エチレン-ビニルアセテート共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体)の有機過酸化物による架橋をおこなうに際して、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルシアヌレートを混加して使用すること(以下、「引用発明6」という。)」
が記載されている。

(4)証拠との対比

(4-1)本件発明1-1について

(a)対比

本件発明1-1(前者)と引用発明4(後者)とを対比すると、両者は、
エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物を混加した電子材料を封止する封止用組成物である点で共通するが、
前者ではさらにアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを混加するのに対し、後者ではこの点について記載されていない点(相違点)、
で相違しているものと認められる。

(b)相違点についての判断

引用発明4は、封止材料であるエチレン-ビニルアセテート共重合体の有機過酸化物による架橋による物性の向上を技術課題(上記摘示(コ)を参照)とするものである。
他方、甲第4号証には、引用発明4と同様の技術課題である、封止材料であるエチレン-ビニルアセテート共重合体の有機過酸化物による架橋による物性の向上の改善に関する技術事項(上記摘示(セ)を参照)として、エチレン-ビニルアセテート共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体)の有機過酸化物による架橋をおこなうに際して、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルシアヌレートを混加すること(「引用発明6」)が記載されている。
また、トリアリルイソシアヌレートが、トリアリルシアヌレートと同様に、エチレン-ビニルアセテート共重合体を含むポリオレフィン系の架橋助剤として用いられていることは参考資料1の上記摘示(ソ)、(タ)、(チ)、参考資料2の上記摘示(ツ-1)、(ツ-2)、(テ)の記載からみて本願出願前に周知のことであり、架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートに換えてアリル基含有化合物であるトリアリルイソシアヌレートを用いることは適宜に選択しえる程度の事項にすぎない。
してみると、引用発明6を引用発明4に適用することは当業者が容易になしえるものであり、その際、参考資料1、2の周知事項を参酌して架橋助剤としてアリル基含有化合物としてトリアリルシイソアヌレートを採用して本件発明1-1のように構成することは当業者が適宜になしえるところであるから、本件発明1-1は、これらの技術事項より当業者が容易に発明をすることができたものである。

(c)本件発明1-1の効果についての判断

本件発明1-1は、VIの1においてすでに説示したとおり、エチレン-ビニルアセテート共重合体に有機過酸化物及びアリル基含有化合物を混加することにより光線透過性としての透明性と機械的強度を向上させ、また、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤を混加することにより封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させるものである。
しかるに、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤および有機過酸化物を混加することにより光線透過性としての透明性と封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させることは、引用発明4に関して甲第2号証に記載(上記摘示(ケ)、(コ)を参照)されており、また、エチレン-ビニルアセテート共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体)の有機過酸化物による架橋をおこなうに際して、さらに架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートを混加して使用することにより機械的強度が向上することは、引用発明6に関して甲第4号証に記載(上記摘示(セ)を参照)されており、また、架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートを用いた場合とアリル基含有化合物であるトリアリルイソシアヌレートを用いた場合で効果に特段の差異があると解すべき理由もないのであるから、本件発明1-1の効果は両者の引用発明の効果から予測できるものにすぎない。
そして、本件発明1-1の効果として記載されているのは「光学的透過性」の効果であること、また、本件発明1-1と本件発明2では「熱硬化と光硬化の違い」に基づく顕著な効果の違いがあることは明らかであるから、「実施例3におけるヘイズの低下という視覚的透明性の効果が、程度の差はあっても熱硬化においても甘受できることは類推可能である」とすることはできないことはVIの1の(結論)においてすでに説示したとおりである。

以上のとおりであるから、本件発明1-1は、本件出願日前に頒布された甲第2、4号証に記載の発明に基づき、参考資料1、2に記載の周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4-2)本件発明1-2について

(a)対比

本件発明1-2(前者)と引用発明5(後者)とを対比すると、両者は、
エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物を混加した成形材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成形材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法である点で共通するが、
前者ではさらにアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを混加するのに対し、後者ではこの点について記載されていない点(相違点)、
で相違しているものと認められる。

(b)相違点についての判断

引用発明5は、封止材料であるエチレン-ビニルアセテート共重合体の有機過酸化物による架橋による物性の向上を技術課題(上記摘示(ケ)、(コ)を参照)とするものである。
他方、甲第4号証には、引用発明5と同様の技術課題である、封止材料であるエチレン-ビニルアセテート共重合体の有機過酸化物による架橋架橋による物性の向上の改善に関する技術事項(上記摘示(セ)を参照)として、エチレン-ビニルアセテート共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体)の有機過酸化物による架橋をおこなうに際して、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルシアヌレートを混加すること(「引用発明6」)が記載されている。
また、トリアリルイソシアヌレートが、トリアリルシアヌレートと同様に、エチレン-ビニルアセテート共重合体を含むポリオレフィン系の架橋助剤として用いられていることは参考資料1の上記摘示(ソ)、(タ)、(チ)、参考資料2の上記摘示(ツ-1)、(ツ-2)、(テ)の記載からみて本願出願前に周知のことであり、架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートに換えてアリル基含有化合物であるトリアリルイソシアヌレートを用いることは適宜に選択しえる程度の事項にすぎない。
してみると、引用発明6を引用発明5に適用することは当業者が容易になしえるものであり、その際、参考資料1、2の周知事項を参酌して架橋助剤としてアリル基含有化合物としてトリアリルシイソアヌレートを採用して本件発明1-2のように構成することは当業者が適宜になしえるところであるから、本件発明1-2は、これらの技術事項より当業者が容易に発明をすることができたものである。

(c)本件発明1-2の効果についての判断

本件発明1-2は、VIの1においてすでに説示したとおり、エチレン-ビニルアセテート共重合体に有機過酸化物及びアリル基含有化合物を混加することにより光線透過性としての透明性と機械的強度を向上させ、また、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤を混加することにより封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させるものである。
しかるに、エチレン-ビニルアセテート共重合体にシランカップリング剤および有機過酸化物を混加することにより光線透過性としての透明性と封止材料と上層材と下層材との接着強度を向上させることは、引用発明5に関して甲第2号証に記載(上記摘示(ケ)、(コ)を参照)されており、また、エチレン-ビニルアセテート共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体)の有機過酸化物による架橋をおこなうに際して、さらに架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートを混加して使用することにより機械的強度が向上することは、引用発明6に関して甲第4号証に記載(上記摘示(セ)を参照)されており、また、架橋助剤としてアリル基含有化合物であるトリアリルシアヌレートを用いた場合とアリル基含有化合物であるトリアリルイソシアヌレートを用いた場合で効果に特段の差異があると解すべき理由もないのであるから、本件発明1-2の効果は両者の引用発明の効果から予測できるものにすぎない。
そして、本件発明1-2の効果として記載されているのは「光学的透過性」の効果であること、また、本件発明1-2と本件発明2では「熱硬化と光硬化の違い」に基づく顕著な効果の違いがあることは明らかであるから、「実施例3におけるヘイズの低下という視覚的透明性の効果が、程度の差はあっても熱硬化においても甘受できることは類推可能である」とすることはできないことはVIの1の(結論)においてすでに説示したとおりである。

以上のとおりであるから、本件発明1-2は、本件出願日前に頒布された甲第2、4号証に記載の発明に基づき、参考資料1、2に記載の周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。

VII むすび

以上のとおりであるから、本件発明1-1、本件発明1-2は、本件出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載の発明または甲第2、4号証に記載の発明に基づき、参考資料1、2に記載の周知技術を勘案することにより当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1-1、本件発明1-2に係る特許は平成5年改正法による改正前の特許法第123条第1項1号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
封止用組成物及び該組成物による封止方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項2】 特許請求の範囲(1)記載の封止用組成物に於て、さらに(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項3】 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および光増感剤を混加した成型材料間に電子材料を挟持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成型材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。
【請求項4】 特許請求の範囲(3)記載の封止方法に於て、さらに混加物に(メタ)アクリル酸エステル及び/又はアリル基含有化合物を混加する電子材料の封止方法。
【請求項5】 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを混加した電子材料を封止する封止用組成物。
【請求項6】 エチレン-ビニルアセテート共重合体に、シランカップリング剤および有機過酸化物、さらにアリル基含有化合物としてトリアリルイソシアヌレートを混加した成型材料間に電子材料を狭持し、さらに、これをガラス、金属、プラスチック、ゴム等の板体あるいはシート間に置いて減圧、加温下に脱気したのち、加熱あるいは光照射によって該成型材料を架橋、透明化し、気泡あるいは空泡のない封止を行う電子材料の封止方法。
【発明の詳細な説明】
本発明は電子材料、例えば液晶、太陽電池、エレクトロルミネッセンス、プラズマデイスプレー等の電子材料を封止する封止組成物及び該組成物による電子材料の封止方法に関するものである。
すなわち、本発明は液晶、太陽電池、エレクトロルミネツセンス、プラズマデイスプレー等のモジユールをガラス、金属、プラスチツクス等の間に強固に封止し、種々の環境条件、とくに衝撃、温度の変動サイクルによる熱膨張及び収縮、水分の侵入から上記の素子を保護して、その安定した使用を可能にするものである。
また、本発明は透明であり且つ強固なものであり、ガラス、金属、プラスチツクス等に良好に接着する安価な封止用組成物を提供するものであり、液晶、太陽電池、エレクトロルミネツセンス、プラズマデイスプレー等の大型モジユール化を可能にせしめるものである。
従来、これら封止用組成物としてはシリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、酢酸セルロース等が用いられ、またエチレン-酢酸ビニル共重合体も一部では用いられて来た。封止用樹脂は一般に外部(例えば水、大気など)と素子や結線との接触を防止してその劣化を抑制するほか、打撃、雹の落下など機械的衝撃から素子を保護するための緩衝機能も非常に重要である。また、素子あるいは他の基板、窓材とは良好かつ安定に接着するほか、その封止プロセスも簡便であることが要求される。さらに加えて例えば密材(透明なガラス、高分子フイルム等)との接着、封止に用いられる場合には、高度の透明性が要求される。
従来、これらの目的に使われてきたシリコーン樹脂は柔軟で衝撃吸収能があること、透明性の良いことなどの利点はあるが、液状で取扱いにくく、また熱硬化させるのに数時間を要すること、樹脂が高価であり経済性が低いこと、透湿性が大きいこと等の欠点がある。
また、エポキシ樹脂はやはり液状で取扱いが不便であり、また耐衝撃性が低い。更に硬化時の収縮による素子の損傷も留意する必要がある。
ポリビニルブチラール樹脂はシート状で取扱え、熱可塑性型であるため、封止は比較的容易に行なえる。また光学的性質もかなりすぐれている。しかしこの樹脂はシートのブロツキング防止のため水溶性粉末を散布したり冷却して取扱うなど取扱いが不便でまた接着力を発現するため水分調整を要する。さらにこの樹脂は100℃以上で発泡したりするため、高温では使用しにくい。ポリビニルブチラール樹脂は大量に可塑剤を含むため、電気的抵抗が1011Ω-cmのオーダーまで下ることも電子材料の封止剤としては問題が大である。さらに、高温多湿下で接着力が大巾に低下するほか、吸水率が高く、封止された素子の金属部の水分による変化などが看過し得ない問題として残る。これらの状況に鑑み近年エチレン-酢酸ビニル共重合体が封止材として用いられるに至った。この樹脂(以下EVAと略称)はポリビニルブチラールと同様熱可塑型であり、熱圧着により素子の封入が可能であるが、従来のものは(1)ガラス等との接着を得るためシラン系カツプリング剤をEVAフイルム又はガラス等の表面に塗布するタイプであるため、被着体と接着するまでの時間に制約があり、例えば2〜3昼夜放置してからガラスと接着すると煮沸試験により著しく接着力が低下する、(2)そのままでは透明度が不足で、光学的用途には不向きなものであるという欠点がある。
本発明はEVA系のこれらの欠点を大巾に改良したものであり、EVAに適量の架橋剤又は光増感剤、さらには多官能架橋助剤、シランカツプリング剤等を加えた組成物から成る。本発明による組成物はEVAの融点以上の温度で加熱架橋することにより透明性にすぐれ、機械的強度が大きいものである。また、カレンダー、押出、インフレーシヨン法などの成膜法により成膜されたフイルム、シートは貯安性が大であり、製造後通常の室温、湿度下で貯蔵された場合被着体との接着力低下もほとんどみとめられないなど極めてすぐれた性質を有し、液晶素子、太陽電池、エレクトロルミネツセンスをはじめ各種プラズラマデイスプレー電子材料の封止及びガラス、金属、プラスチツクス相互間の接着に有用である。
本発明に用いられるEVA樹脂としては酢酸ビニル含量が5〜50%、好ましくは15〜40%のものが使用される。酢酸ビニル含量が5%より少ないと樹脂の耐候性および透明性に問題があり、また40%を越すと樹脂の機械的性質が著しく低下するほか、成膜が困難になり、フイルム、シート相互のブロツキングが生ずる。但し封止材として裏面に用いられたりするときは透明性は本質的に重要ではなく、この目的には15%以下の樹脂を用いてもよい。
本発明に用いられる架橋剤としては加熱架橋する場合は有機過酸化物が適当であり、成膜加工温度、架橋温度、貯安性等を考慮してえらばれる。使用可能な過酸化物としては、例えば2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド;2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパ-オキシ)ヘキサン-3;ジ-t-ブチルパーオキサイド;t-ブチルクミルパーオキサイド;2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン;ジクミルパーオキサイド;α,α′-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン;n-ブチル-4,4-ビル(t-ブチルパーオキシ)バレレート;2,2-ビス(t-ブチルパーオキシ)ブタン;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン;1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン;t-ブチルパーオキシベンズエード;ベンゾイルパーオキサイド;第3ブチルパーオキシアセテート;2,5-ジメチル-2,5-ビス(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン-3;1,1-ビス(第3ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン;1,1-ビス(第3ブチルパーオキシ)シクロヘキサン;メチルエチルケトンパーオキサイド;2,5-ジメチルヘキシル-2,5-ビスパーオキシベンヅエート;第3ブチルハイドロパーオキサイド;p-メンタンハイドロパーオキサイド;p-クロルベンゾイルパーオキサイド;第3ブチルパーオキシイソブチレート;ヒドロキシヘプチルパーオキサイド;クロルヘキサノンパーオキサイドなどが挙げられる。
これら過酸化物は少くとも1種が単独又は混合して用いられ、通常EVA100重量部あたり5重量部又はそれ以下で充分である。有機過酸化物は通常ポリマーに対し押出機、ロールミル等で混練されるが、有機溶媒、可塑剤、ビニルモノマー等に溶解し、エチレン-酢酸ビニル共重合体のフイルム又はシートに含浸法により添加してもよい。
EVAの物性(機械的強度光学的特性、接着性、耐候性、耐白化性、架橋速度など)改良のため本発明に於ては各種アクリロキシ基あるいはメタクリロキシ基及びアリル基含有化合物を添加することができる。この目的に供せられる化合物としてはアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体、例えばそのエステル及びアミドが最も一般的であり、エステル残基としてはメチル、エチル、ドデシル、ステアリル、ラルリルのようなアルキル基の外にシクロヘキシル基、テトラヒドロフルフリル基、アミノエチル基、2-ヒドロエチル基、3-ヒドロキシプロピル基、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル基などが挙げられる。またエチレングコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多官能アルコールとのエステルも同様に用いられる。またアミドとしてはダイアセトンアクリルアミドが代表的である。
多官能架橋助剤としてはトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン等のアクリル、メタクリル酸エステルまたアリル基含有化合物としては、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、フタル酸ジアリル、イソフタル酸ジアリル、マレイン酸ジアリル等の1種又は2種以上の混合物が0.1〜10部、好ましくは0.5〜5部用いられる。0.1部以下では効果は僅少であり、10部以上加えてもむしろ物性の低下(脆化)をもたらす。
本発明による封止材料を光で架橋させる場合には過酸化物にかえて光増感剤がEVA100重量部あたり5重量部以下単独又は混合して用いられる。使用可能な光増感剤としては、例えばベンゾイン、ベンゾフエノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ジベンジル、5-ニトロアセナフテン、ヘキサクロロシクロペンタジエン、パラニトロジフエニル、パラニトロアニリン、2,4,6-トリニトロアニリン、1,2-ベンズアントラキノン、3-メチル-1,3-ジアザ-1,9-ベンザンスロンなどがある。
接着促進剤として添加されるシランカツプリング剤としてはビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどがある。
通常これらを0.01〜10部、好ましくは5部以下を少くとも1種以上単独又は混合してEVAに添加する。
これらのほか本発明の組成物は紫外線吸収剤、老化防止剤、染料加工助剤等を少量含んでいてもよい。また、透明性を要求されない用途には、カーボンブラツク、疎水性シリカ、炭カル等の充填剤を含んでいても良い。
また、接着性改良の手段としては、シート、フイルム面へのコロナ放電処理、低温プラズマ処理、電子線照射、紫外光照射などの手段も有効である。
本発明の封止用組成物はEVA樹脂と上述の添加剤とを混合し、押出機、ロール等で混練された後カレンダー、ロール、Tダイ押出、インフレーシヨン等の成膜法により所定の形状に成膜される。成膜に際してはブロツキング防止、ガラスあるいは素子との圧着時の脱気を容易にするためエンボスが付与される。
以下に実施例を示し本発明を具体的に説明する。
実施例1
エチレン-酢酸ビニル共重合体(東洋曹達製ウルトラセン634;酢酸ビニル含量26%、メルトインデックス4)100部、ジクミルパーオキサイド1部及びγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5部をブレンドし、押出機又はカレンダー法により0.4m/m厚の両面エンボスシート(幅900m/m)を作成した。白板ガラス及びステンレス(SUS 430)板をあらかじめ洗浄、乾燥しておき、これらの白板ガラスとステンレス板の間に2枚のエンボスシート間に挾着した太陽電池モジュールを置き、真空ラミネータにより100℃下で貼り合せた。さらに透明性、耐熱性向上の目的で150℃、30分架橋を行ない、透明でかつ白板ガラス、ステンレス板とも強固に接着したモジュールを得た。得られたモジュールは400W高圧水銀灯(水フィルターつき)15cmの距離で1900時間曝露後、外観、光学的特性にほとんど変化を生じなかった。また100℃オーブン中1500時間、ウェザォメーターで1500時間曝露等でも変化を生じなかった。さらに色板ガラス、ステンレス板との接着性をみるため前記貼り合せ条件下でシートをガラス、ステンレスにそれぞれ別個に貼り合せ、150℃、30分加熱した。こうして得られたシート/白板ガラスあるいはシート/ステンレス板との積層物に対しシート側から幅25m/mで切れ目を入れ、あらかじめ白板ガラス又はステンレス板(SUS 430)と接着しないように処理しておいた端面をつかんで剥離試験を実施した(引張速度100mm/min、180°剥離方式)。ガラスに対する接着力は平均6Kg/25mm、ステンレスに対しても5〜7Kg/25mmであった。
比較対照としての100℃で貼り合せ後熱処理しないものの接着力は殆んど0であった。
また、本発明による組成物からなるシートはシランカップリング剤を内蔵しており、製造後90日経過しても良好な接着力を保持し、沸とう水中2時間浸漬しても接着力の低下は僅少であった。これに対しシランカップリング剤をプライマーとしてシートに塗布したタイプでは、空気中4〜5日放置後に使用すると上述の煮沸テストで急激に接着力が低下した。さらに従来用いられていたポリビニールブチラール樹脂はこのテストで剥離した。
実施例2
実施例1の組成物においてジクミルパーオキサイドの代りにベンゾインイソプロピルエーテル1重量部を含有する組成物を作り、実施例1と同様な方法で両面にエンボス模様を有する200mm角、0.4m/m厚さのシートを作成した。このシート2枚の間に太陽電池モジュールを挾み、さらにこのシートを3m/m厚さの白板ガラス間に挿入し、以下実施例1と同様真空下100℃でエアー脱気し、加熱処理にかえて水冷ジャケットを有する4KW高圧水銀灯下15cmの距離で片面30秒づつ合計1分間照射した。照射したもののガラス込みのヘイズ(曇価)を積分式濁度計TC-SP(東京電色社製)を用いて測定した。紫外線処理品は0.8、未処理品は3.1であって大幅に改良され、封止用透明樹脂としてすぐれたものであることがわかった。
実施例3
実施例2の配合物にトリメチロールプロパントリメタクリレート5部配合した組成物を作り、実施例1と全く同様に0.3m/m厚さの両面エンボスシートを作成した。
実施例2と同様に洗浄した厚さ2m/mの白板ガラス(40cm×40cm)2枚の間に2枚のシート間に挾んだ液晶モジュールを挿入し、100℃で真空下に脱気し、実施例2と同条件下に紫外線照射して大型モジュールを得た。このときの温度はたかだか110℃であり、液状モジュールに何ら熱的損傷を与えなかった。
この板を60℃90%RHFで1000時間放置したが外観の変化はみられなかった。また、液晶の動作も何ら変化がなかった。
また、このパネルの上面5mより235gの鋼球を落下させたが、亀裂が入るのみでガラスの剥離はみとめられなかった。紫外線未照射のパネルではヘイズ値が高いのみならず、鋼球の落下により陥没がみられた。また、シートにトリメチロールプロパンを含まない系では紫外線未照射ほどではないが、やはりヘイズが劣り、強度も不十分であった。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-07-06 
結審通知日 2004-07-08 
審決日 2004-07-23 
出願番号 特願昭59-81174
審決分類 P 1 122・ 121- ZA (C09K)
P 1 122・ 531- ZA (C09K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 西川 和子
後藤 圭次
登録日 2000-10-20 
登録番号 特許第2141437号(P2141437)
発明の名称 封止用組成物及び該組成物による封止方法  
代理人 庄子 幸男  
代理人 江藤 聡明  
代理人 江藤 聡明  

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