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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1107058 |
審判番号 | 不服2002-20465 |
総通号数 | 61 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1996-05-14 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-10-21 |
確定日 | 2004-11-08 |
事件の表示 | 平成 6年特許願第255631号「インクジェットヘッド、インクジェットヘッドカートリッジ、インクジェット装置およびインクが再注入されたインクジェットヘッドカートリッジ用インク容器」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 5月14日出願公開、特開平 8-118641〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明の認定 本願は、平成6年10月20日の出願であって、平成14年9月17日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年10月21日付けで本件審判請求がされたものである。 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成14年1月28日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載されたとおりの次のものと認める。 「インクを吐出するための吐出口を有する液流路と、一つの液流路に対応してインクを吐出させるための発熱抵抗素子とが複数設けられたインクジェットヘッドであって、 前記発熱抵抗素子の端部から、該発熱抵抗素子が設けられた同じ液流路に設けられ該発熱抵抗素子に隣接する発熱抵抗素子端部までの距離が8μm以下であることを特徴とするインクジェットヘッド。」 第2 当審の判断 1.引用刊行物の記載事項及びそこに記載の発明の認定 原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-240545号公報(以下「引用例」という。)には、「インクを保持したインク流路と、該インク流路に連通したインク吐出口とを具備し、該インク吐出口からインクを吐出するインクジェットプリントヘッドにおいて、 前記インク流路内部に、通電方向がインク吐出方向となるよう、長さの相違する複数の発熱抵抗体を並列に配置したことを特徴とするインクジェットプリントヘッド。」(1頁左下欄特許請求の範囲)との発明(以下「引用発明」という。)が記載されており、その説明として以下のア〜オの記載又は図示がある。なお、摘記に当たっては、改行及び空白は省略し、当審で中略する部分は、引用例自体の中略と区別するため(・・・)と表記する。 ア.「特開昭55-132258号公報や特開昭63-42868号公報に記載された液体噴射記録法は、ヒーターの抵抗値分布に勾配をもたせて、印加電圧によって生じる発熱勾配を利用して階調記録を行なうものである。この方法は、広い範囲でインクドロップの体積を変調できるが、インク吐出方向に発熱勾配を生じるよう発熱抵抗体を配置するため、抵抗体の長さの変化範囲がノズルの幅に制限され、大きく取ることができず(・・・)従来の階調表現を行なう方法は、いずれも適切なものとはいえるものではなかった。」(2頁左上欄8行〜右上欄1行) イ.「第1図は、本発明のサーマルインクジェットヘッドの1チャンネル分の発熱抵抗体近傍の拡大平面図であり、通電方向がインク吐出方向となるよう、長さが相違する複数の発熱抵抗体2a,2b,2c,2d,・・・を配置する。このようにすると、通電方向と垂直方向に抵抗値が規則的に変化することになる。発熱抵抗体に発生する発熱量は、抵抗値の逆数に比例するから、印加電圧により発熱量が変化する。したがって、共通電極3と選択電極4に印加される印加電圧を制御することによって、バブルの発生に必要な発熱量に達する面積が変化し、バブルの体積を制御でき、インクドロップの大きさの制御によるドット径変調による階調表現を行うことができる。なお、各発熱抵抗体2a,2b,2c,2d,・・・は、隣接する部分が離れていても、接触して一体的に構成されていてもよい。」(2頁右下欄4行〜末行) ウ.「第2図は、発熱抵抗体の他の実施例を示すもので、第1図と同様な部分には同じ符号を付して説明を省略する。この実施例においては、長さの相違する各発熱抵抗体2a,2b,2c,2d,・・・に対して、選択電極4a,4b,4c,4d,・・・を別に設けたものである。各発熱抵抗体の隣接する部分は離されている。発熱抵抗体への通電は、1つの発熱抵抗体を択一的に、あるいは、複数の電極を選択して行なわれる。」(3頁左上欄1〜9行) エ.第1図には5つの発熱抵抗体2a〜2eの図上左側に1つの共通電極3が、同じく右側に1つの選択電極4が接続された図が図示されている。 オ.第2図には5つの発熱抵抗体2a〜2eの図上左側に1つの共通電極3が、同じく右側に5つの選択電極4a〜4eが発熱抵抗体2a〜2eに個別に接続された図が図示されている。同図では、発熱抵抗体間の距離は発熱抵抗体の幅よりも相当小さいように描かれている。 2.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定 引用発明の「インク流路」、「発熱抵抗体」及び「インクジェットプリントヘッド」は、本願発明の「液流路」、「発熱抵抗素子」及び「インクジェットヘッド」にそれぞれ相当し、引用発明の複数の発熱抵抗体が一つの液流路に対応して設けられていることは明らかである。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「インクを吐出するための吐出口を有する液流路と、一つの液流路に対応してインクを吐出させるための発熱抵抗素子とが複数設けられたインクジェットヘッド。」である点で一致し、次の点で相違する。 〈相違点〉本願発明では「前記発熱抵抗素子の端部から、該発熱抵抗素子が設けられた同じ液流路に設けられ該発熱抵抗素子に隣接する発熱抵抗素子端部までの距離が8μm以下である」のに対し、引用発明では同一液流路内の隣接発熱抵抗素子(発熱抵抗体)の端部間の距離が不明である点。 3.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断 (1)第1図実施例に基づく判断その1 引用例の記載イによれば、引用発明の第1図実施例では、発熱抵抗体が接触して一体的に構成されていてもよい。その場合、発熱抵抗体同士を重ねることは著しく不自然であり、重ねないで接触させれば、同一液流路内の隣接発熱抵抗素子(発熱抵抗体)の端部間の距離は0となり、これは本願発明の「8μm以下」との要件を満たす。 したがって、相違点に係る本願発明の構成は設計事項といわなければならない。 (2)第1図実施例に基づく判断その2 本願の請求項1には、本願発明の複数の発熱抵抗素子(同一液流路内)について、接触している場合を排除する旨の規定はないが、仮に接触を排除するとした場合の判断を本項及び次項でしておく。引用発明の第1図実施例では、同一流路内の発熱抵抗体が、離れていても接触して一体的に構成されていてもよいとされている。離れている場合は、接触を排除するとの要件をも満たすことになる。 そして、離れていても接触して一体的に構成されていてもよいとの条件下で、離れている場合の分離距離を検討するに、これを大きくしなければならない理由はない。 そればかりか、引用例の記載アによれば、引用発明は特開昭55-132258号公報(以下「従来文献」という。これは、原査定の拒絶の理由に引用した特開昭55-132259号公報とは1番違いの文献である。)記載の発明(以下「従来技術」という。)を改良したものであって、従来技術では「抵抗体の長さの変化範囲がノズルの幅に制限され、大きく取ることができ」ないことが1つの課題とされており、この課題はノズルの幅、従って流路幅を大きくすれば直ちに解決できるものであるから、引用発明が従来技術よりも流路幅を著しく大きくしたものと理解することはできない。そして、従来文献には「250μmのピッチで50μm×50μmの溝を6本刻んだ溝板102」(5頁左上欄2〜3行)との記載があり、同記載と第1図(a)〜(c)によれば、流路幅は50μmである。なお、従来文献と1番違いの特開昭55-132259号公報でも流路幅は50μmとされており、その当時の標準的寸法と解される。そうであれば、引用発明の流路幅も50μmと同程度であるか、これを超えるとしても大幅には超えない値と解すべきである。 ところで、引用発明の第1図実施例では、発熱抵抗体は5個配置されており、流路幅が50μmを大幅には上回らない値である以上、発熱抵抗体の間隔(端部間の距離)を8μm以上としたのでは、発熱抵抗体幅が著しく小さくなってしまい現実性に乏しい。 そうである以上、引用発明の第1図実施例において発熱抵抗体の間隔を8μm以下として、相違点に係る本願発明の構成をなすことは設計事項である。 (3)第2図実施例に基づく判断 引用発明の第2図実施例では、「発熱抵抗体への通電は、1つの発熱抵抗体を択一的に、あるいは、複数の電極を選択して行な」う関係上(引用例の記載ウ参照。)、5個の発熱抵抗体は分離されている。しかし、その分離距離は、隣接する発熱抵抗体を絶縁できる程度であればよいのだから、この距離を8μm以下として相違点に係る本願発明の構成をなすことは設計事項である。 この点請求人は、「引用例2(審決注;引用例)の場合において、審査官殿の仮定が成り立つ場合であっても、各発熱体の幅も5μm以下となり、有効発泡領域自体が極端に小さくなってしまうため、単独で発熱抵抗素子を駆動させたときには、十分な発泡が行なえなくなってしまう」(平成15年1月22日付け手続補正書(方式)5頁2〜5行)と主張するが、流路幅が50μmであっても、分離距離を発熱体幅よりも相当小さくすれば、発熱体幅は5μm以上となる。そして、引用発明の第1図実施例をも考慮するならば、単独で発熱抵抗素子を駆動するために発熱体幅が一定程度以上必要であり、その結果流路幅を50μm以上にしなければならないとしても、分離距離まで8μm以上にしなければならないわけではない。しかも、(2)で述べたように、引用発明は従来技術を改良したものであって、流路幅を大幅には大きくしないことが前提となっている。例えば、流路幅を倍の100μmとした場合であっても、発熱抵抗体幅を分離距離の2倍(引用例第2図からみて、2倍というのは控え目な数値である。)とすれば、発熱抵抗体数が5であることから、分離距離は7μm程度となり、十分に本願発明の条件を満たす。したがって、請求人の上記主張は採用できない。 請求人はさらに、「従来、複数の発熱抵抗素子同士を近づけることは困難でありました。それは、従来のように流路ピッチが広いころには、複数の発熱抵抗素子同士を近づければ近づけるほど却って気泡同士が反発しあって2つの気泡が弾きあってしまうことが見受けられていました。このように気泡が弾きあう場合には吐出効率が低下するため複数の発熱抵抗素子同士を非常に近づけることはなされておりませんでした。しかしながら、複数の発熱抵抗素子同士を本願発明の構成まで近づけると、今まで弾きあっていた2つの気泡同士が合体するようになることが分かりました。」(同書6頁17〜24行)とも主張するが、請求人が主張することが事実であることを裏付ける証拠はない。仮に事実であるとしても、引用発明の第1図実施例では発熱抵抗体の接触すら許容しているのであり、接触させないとした場合、わずかに離隔(当然8μm以下)させた場合の発泡特性がどうなるかは、実験すればたやすく検証できることであって、単にその検証を行ったというにすぎない。したがって、請求人のこの主張も採用できない。 (4)本願発明の進歩性の判断 以上のとおり、相違点に係る本願発明の構成は設計事項程度であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-09-09 |
結審通知日 | 2004-09-10 |
審決日 | 2004-09-27 |
出願番号 | 特願平6-255631 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 大元 修二 |
特許庁審判長 |
番場 得造 |
特許庁審判官 |
藤井 靖子 津田 俊明 |
発明の名称 | インクジェットヘッド、インクジェットヘッドカートリッジ、インクジェット装置およびインクが再注入されたインクジェットヘッドカートリッジ用インク容器 |
代理人 | 谷 義一 |
代理人 | 阿部 和夫 |