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審決分類 審判 査定不服 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C23C
管理番号 1107140
審判番号 不服2000-5342  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-04-07 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-04-13 
確定日 2004-12-03 
事件の表示 平成 8年特許願第248301号「シリコン蒸着用材の製造方法,及びシリコン蒸着フィルムの製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成10年 4月 7日出願公開、特開平10- 88323]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成8年9月19日の出願であって、その請求項1ないし請求項2に係る発明は、平成15年2月24日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明1」、「本願発明2」という。)
「【請求項1】 メタルシリコンとケイ酸ナトリウムとを混合する工程と、マイナスイオン化された石英坩堝に所定時間投入する工程と、このマイナスイオン化された混合物に水を添加する工程とを含むことを特徴とするシリコン蒸着用材の製造方法。
【請求項2】 メタルシリコンとケイ酸ナトリウムとを混合する工程と、マイナスイオン化された石英坩堝に所定時間投入する工程と、このマイナスイオン化された混合物に水を添加する工程と、これにより得られたシリコン蒸着用材を蒸発させてフィルム基材に付着させてシリコン蒸着膜を形成する膜形成工程とを含むことを特徴とするシリコン蒸着フィルムの製造方法。」

2.当審の拒絶理由
一方、当審において平成14年12月19日付けで通知した拒絶の理由の概要は、平成11年3月24日付け手続補正によって補正された明細書及び図面は、特許法第36条第4項乃至第6項の規定を満たしていない、というものであり、その具体的な理由は、次のとおりである。(以下、「具体的な理由(1)」ないし「具体的な理由(7)」という。)
(1)請求項1及び2には、「マイナスイオン化された石英坩堝」、「マイナスイオン化された混合物」及び「自噴させる工程」と記載されているが、これら事項が何を意味するのか明らかではないから、少なくとも本願請求項1及び2に係る発明が明確に記載されているとは云えない。
(2)「マイナスイオン化された石英坩堝」について
請求項1及び2には、「マイナスイオン化された石英坩堝」と記載されているが、通常の石英坩堝は、マイナスイオン化されたものではないから、石英坩堝をマイナスイオン化するためには、何らかの処置が必要であるが、本願明細書には、石英坩堝をマイナスイオン化する手段や方法について何ら開示されていない。また石英坩堝のような物体が通常の状態では電離してイオン化しているとは技術常識からみて考えられないことであるから、本願明細書には、当業者が容易に発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えない。
(3)「マイナスイオン化された混合物」について
上記(2)に関連し、請求項1及び2には、「マイナスイオン化された混合物」と記載されているが、通常の石英坩堝に混合物を投入しても混合物がマイナスイオン化されることはないから、本願明細書には、当業者が容易に発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えない。
(4)「自噴させる工程」について
請求項1及び2には、「マイナスイオン化された混合物に水を添加して自噴させる工程」と記載されているが、この「自噴させる」とはどのようにすること又はどのような現象を意味するのか明らかではない。またマイナスイオン化された混合物に水を添加するだけで「自噴させる」ことができるとは考えられないから、本願明細書には、当業者が容易に発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えない。
(5)上記(4)に関連し、請求項2に係る発明は、「シリコン蒸着用材」を用いてシリコン蒸着フィルムを製造する方法であるが、この方法に使用される「シリコン蒸着用材」は、請求項1に係る発明によれば「シリコンとケイ酸ナトリウムとの混合物」から製造されるものであるから、この「シリコン蒸着用材」を用いて蒸着した蒸着層は「高純度シリコン」から成るものではなく、少なくとも「シリコンとナトリウム」を含むことは明らかである。
しかるに、本願明細書の段落【0021】には、「得られたシリコン蒸着膜は、シリコン純度が高く(95%以上)、アモルファス、又は多結晶構造をなしている。」とか、段落【0029】には「また得られたシリコン蒸着膜は、透明で、酸素透過性が小さく、シリコン以外の不純物が殆ど含まれないため、」とか記載され、請求項2に係る発明で形成される蒸着膜は「高純度シリコン」からなると記載されている。
してみると、請求項1又は2の記載と詳細な説明の記載は一致しておらず、本願明細書の記載は技術的に矛盾する内容であるから、本願明細書には、当業者が容易に発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えない。
なお、当審の審尋に対する回答書において、シリコン以外の不純物が含まれないのは、自噴によりナトリウム等が放散するためであると主張しているが、ケイ酸ナトリウムのような物質が自噴だけで放散するとは考えられないことである。
(6)本願明細書の段落【0024】には、「本発明に係るシリコン蒸着フィルムに含まれるシリコンからはマイナスイオンが放出され、このマイナスイオンが周辺の空気中の酸素を活性化させると考えられる。この活性化された酸素の作用により抗菌効果が得られる。」と記載されているが、一般にシリコン単体からマイナスイオンが放出されるとは技術常識からみて考えられないことであるから、本願明細書には、当業者が容易に発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えない。
請求人は、当審の審尋に対する回答書において、「マイナスイオン化する」とは、「負の静電気が帯電する」ことであると釈明しているが、「負の静電気が帯電」することと、酸素の活性化や抗菌効果とは関係がないと考えられる。また本願明細書の上記「シリコンからはマイナスイオンが放出され」という記載では、マイナスイオンが放出されるとされているのであり、「放出」と「帯電」では反対の動作であるから、請求人の上記釈明は、本願明細書の記載と整合していないと云える。
(7)本願明細書に記載された内容は、前示したとおり、科学的事実からみて直ちに信じることができないものばかりであり、その裏付けとなる客観的な実験データ等も開示されていないから、本願明細書には、当業者が容易に発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えない。

3.請求人の主張
これに対して、請求人は、平成15年2月24日に手続補正書を提出したうえ、同日に提出した意見書(以下、「意見書」という)において、次のとおり主張している。
「1. 平成14年12月19日付拒絶理由通知書においては
平成12年5月15日付手続補正書を却下され、平成11年3月24日付手続補正書によって補正された明細書及び図面は(1)〜(7)に記載した点で不備であるとされた。そこで拒絶理由を解消すべく同日付手続補正書により明細書を補正すると共に、手続補正上制約があると懸念される事項についての説明及び拒絶理由に対する意見を、本意見書において陳述する。
2. 補正の内容の主な点は
請求項3を削除すること
請求項1、2及び発明の詳細な説明において「自噴」の語を削除すること
マイナスイオン化の定義をすること
発明の効果を整理すること
にある。以下拒絶理由通知書に記載された(1)〜(6)の番号に従い説明及び意見を陳述する。
3. (1)について
同日差出の手続補正書により発明の詳細な説明に「マイナスイオン化された」ことの定義を加えた。即ち「マイナスイオン化された」とは「負に帯電した」又は「負の静電気を帯電した」ことを意味する。そしてこのことは平成14年10月15日付回答書及び手続補足書により回答、立証したとおりである。
「自噴させる工程」は自らの内部からガスを噴出させる工程の意味であり、自噴の語を用いたが、不明であるとされたので、削除した。作業工程としては混合物に水を添加するだけであり、自噴は混合、水添加に伴う反応による現象であり、格別の能動的作業を要する訳ではないので「水を添加して自噴させる工程」は「水を添加する工程」と補正した。
4. (2)について
「(1)について」で述べたように「マイナスイオン化された」は「負に帯電した」を意味するから「マイナスイオン化された石英坩堝」は「負に帯電した石英坩堝」を意味する。石英坩堝は誘電体であり、本来は正負等量の電荷を有しているが、この平衡が破れる状態とすることで負(又は正)に帯電し得る。
例えば誘電体同士の摩擦又は導体との接触によって帯電が可能である(いわゆる摩擦帯電又は接触帯電)。
5. (3)について
「(1)について」で述べたところから明らかなように「マイナスイオン化された混合物」は「負に帯電した混合物」を意味する。負に帯電した坩堝(通常の坩堝ではない)に混合物を投入することで電荷の移動が生じるのである。
6. (4)(5)について
混合物に水を加えることによって生じる反応は以下のように推定される。
ケイ酸+トリウム(Na2O・SiO2)は水の添加でNa+及びOH-を生じる。そして
Si+2OH-+H2O→SiO32-+2H2
2Na+SiO32-→Na2SiO3
の反応を生じ、この間発熱を生じると考えられる。
発熱に伴う水蒸気及び上述の反応に伴う水素等がスラリー中から噴出しているのである。なお水素ガスの発生は分析により確認された(甲第9号証)。
甲第9号証は本件発明に係るシリコン,ケイ酸ナトリウム及び水に関する反応の際に噴出するガス成分及び水蒸気中の金属成分をガスクロマトグラフにより分析した結果を示すものである。
分析の依頼者は本願の発明が出願人の一人である▲高▼松邦明が代表取締役を務める株式会社リトルアイセ(平成14年10月18日差出の手続補足書に添付の登記簿謄本参照)であり、分析者は神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央3-12-31 日本環境株式会社 横浜事業所内 三浦明である。
これに見られるように噴出ガスは水素ガスが主成分であり、この水素と不純物中のSとが反応して生成されたH2S及びO2、Heの存在が認められた。
上述の反応にあって負電荷がOH-の生成等に寄与し、反応を促進しているものと思われる。
また水蒸気によりNaが失われていくことも判明した。
平成14年10月15日付回答書に添付した甲第7号証において本件発明のシリコン蒸着用材にNaが含まれないとの分析結果があったが、これは試料作成又は採取上の不備による分析結果である。
甲第10号証は本件発明のシリコン蒸着用材を蛍光X線分析機により分析した結果を示す。
分析は大阪府立産業技術総合研究所において発明者の▲高▼松邦明が行った。
試料は20cm(長さ)×15cm(幅)×3cm(高さ)のインゴットの4カ所から約2cm角のものを採取した。インゴット1はインゴットの隅から長さ、幅方向へ各4cm離れた上面部分、インゴット2は上面中央の2cmの深さの部分、インゴット3は隅の上面部分、インゴット4は中央部分で夫々採取した。甲第10号証の分析結果にみられるようにNaはインゴット中に偏在している。
甲第7号証の分析に不備があったのは一個処での試料採取により分析され、当該試料がNaを含まない部分であったためであると思われる。
次に甲第8号証にみられるように蒸着フィルムのシリコンが高純度であり、ナトリウムが含まれないのは以下の理由による。
すなわち蒸着のために本件発明のシリコン蒸着用材及び被蒸着フィルムを収容したチャンバー内を真空引きし、シリコン蒸着用材を加熱するが、ナトリウムは97.8℃で溶融し、882.9℃で蒸発するのに対し、シリコン1410℃で溶融し、2360℃で蒸発する。この真空引き、加熱の過程でナトリウムが蒸着されることなく排気され、実質的にシリコンのみが蒸着されるものと考えられる。
本件発明は請求項1及び「実施の形態」に記述した如くメタルシリコン及びケイ酸ナトリウムを混合し、混合物を負に帯電した石英坩堝に所定時間投入し、水を加えるだけで実施できるから、当業者が容易に発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないとは言えない。
7. (6)について
御指摘箇処は削除した。
8. まとめ
以上貴官御指摘の点を可及的に合理性が認められるように補正し、また補足説明したので再応審理の上、登録の御査定を賜り度い。」

4.当審の判断
4-1.具体的理由(1)について
具体的理由(1)は、特許請求の範囲の記載に関するものであり、特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された、「マイナスイオン化された石英坩堝」、「マイナスイオン化された混合物」及び「自噴させる工程」が何を意味するのか明らかではないから、少なくとも当該請求項1及び2に係る発明が明確に記載されているとは云えないというものである。
これに対して、請求人は、平成15年2月24日提出の手続補正書(以下、「手続補正書」という)により特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の記載を「1.手続の経緯・本願発明」に記載のとおりに補正し、特許請求の範囲請求項1及び請求項2の「水を添加して自噴させる工程」という記載は「水を添加する工程」と補正されたから、以下、「マイナスイオン化された石英坩堝」及び「マイナスイオン化された混合物」について検討する。
請求人は、具体的理由(1)に対して、意見書において次のように主張している。
「3. (1)について
同日差出の手続補正書により発明の詳細な説明に「マイナスイオン化された」ことの定義を加えた。即ち「マイナスイオン化された」とは「負に帯電した」又は「負の静電気を帯電した」ことを意味する。そしてこのことは平成14年10月15日付回答書及び手続補足書により回答、立証したとおりである。
「自噴させる工程」は自らの内部からガスを噴出させる工程の意味であり、自噴の語を用いたが、不明であるとされたので、削除した。作業工程としては混合物に水を添加するだけであり、自噴は混合、水添加に伴う反応による現象であり、格別の能動的作業を要する訳ではないので「水を添加して自噴させる工程」は「水を添加する工程」と補正した。」(第1/3ページ第14行〜第23行)
そこで、「平成14年10月15日提出の回答書(以下、「回答書」という。)及び同日提出の手続補足書(以下、「手続補足書」という)をみると、当該回答書には、
「(1)まず最初に本願発明にいう「マイナスイオン化する」は「負の静電気が帯電する」ことである点を御理解を賜り度い。
「マイナスイオン」と「負の静電気」は異なる技術用語であることは認めざるを得ない。しかしながら「マイナスイオン」が「負の静電気」の意味で使用されていることは、空気清浄機等の分野において多用されている点から明らかであり、例えば甲第2号証 1999年11月2日付け日経産業新聞第8頁の松下電工株式会社の空気清浄機の記事に「マイナスイオンを混合した水蒸気を発生させる」との記述と「マイナスに帯電した水蒸気を発生させる」との記述とが混在していることからも証明される。
そして物質に負の静電気が帯電することをマイナスイオン化すると表現することが本願出願以前より行われてきたことを甲第3号証により証明する。」(第1/6ページ第24行〜第2/6ページ第6行)、
「以上のように「マイナスイオン」と「負の静電気」/「マイナスイオン化する」と「負の静電気が帯電する」とは同義として使用されてきている。斯かる事実は御庁において本願に先立つ平成8年6月26日出願の特願平8-166327号においても認められ、甲第4号証(特開平10-5767号公報)に示す「マイナスイオン化」の記載を、甲第5号証(特許第3079359号公報)にあるように「負の静電気の帯電」とする補正が認められた。」(第3/6ページ第2行〜第7行)
と記載されている。
そこで、上記主張について検討すると、上記回答書の記載及び手続補足書の甲第2号証ないし甲第5号証の記載からみて、「マイナスイオン化する」という用語は「負の静電気が帯電する」という意味で用いられるものであると云える。
ところが、本願特許請求の範囲における「マイナスイオン化された」という用語が「負に帯電した」又は「負の静電気を帯電した」ことを意味するとしても、「石英坩堝」が「負に帯電」又は「負の静電気を帯電」するものであるか否かは不明であり、かつ「負に帯電」又は「負の静電気を帯電」した「石英坩堝」は一般的に知られたものとは云えない。
そうすると、本願特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の「マイナスイオン化された石英坩堝」とはいかなるものであるのかが不明である。
また、本願特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された「マイナスイオン化された混合物」とは、特許請求の範囲の記載からみて、「メタルシリコンとケイ酸ナトリウムとを混合」したものを「マイナスイオン化された石英坩堝に所定時間投入」したものである。
そして、請求人は、「マイナスイオン化された混合物」について、意見書において、次のように主張している。
「5. (3)について
「(1)について」で述べたところから明らかなように「マイナスイオン化された混合物」は「負に帯電した混合物」を意味する。負に帯電した坩堝(通常の坩堝ではない)に混合物を投入することで電荷の移動が生じるのである。」(第2/3ページ第2行〜第5行)
更に、回答書において、次のように主張している。
「2. 審尋事項(2)「マイナスイオン化された混合物」について
上述のように「マイナスイオン化された混合物」は「負の静電気が帯電した混合物」の意味である。負の静電気が帯電した石英坩堝に本願発明の成分の混合物を投入すれば電荷の移動が起こり、坩堝の収容物が負に帯電するのは当然である。」(第3/6ページ第18行〜第22行)
ところが、「メタルシリコンとケイ酸ナトリウムとを混合」したものが「負に帯電」するものであるか否かは不明であって、「メタルシリコンとケイ酸ナトリウムとを混合」したものを「マイナスイオン化された石英坩堝に所定時間投入」することにより「電荷の移動が生じる」か否かも不明であるから、本願特許請求の範囲請求項1及び請求項2の「マイナスイオン化された混合物」もまた、いかなるものであるのかが不明である。
故に、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、請求項1及び請求項2に係る特許を受けようとする発明が明確であるとは云えない。
4-2.具体的理由(2)及び具体的理由(3)について
具体的理由(2)及び具体的理由(3)は、発明の詳細な説明の記載に関するものであり、「マイナスイオン化された石英坩堝」について、通常の石英坩堝はマイナスイオン化されたものではないから、石英坩堝をマイナスイオン化するためには、何らかの処置が必要であるが、本願明細書には、石英坩堝をマイナスイオン化する手段や方法について何ら開示されていないこと、また石英坩堝のような物体が通常の状態では電離してイオン化しているとは技術常識からみて考えられないことであること、更に、「マイナスイオン化された混合物」について、通常の石英坩堝に混合物を投入しても混合物がマイナスイオン化されることはないことから、本願明細書には、当業者が容易に発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えないというものである。
これに対する請求人の意見書における主張は、次のとおりである。
「4. (2)について
「(1)について」で述べたように「マイナスイオン化された」は「負に帯電した」を意味するから「マイナスイオン化された石英坩堝」は「負に帯電した石英坩堝」を意味する。石英坩堝は誘電体であり、本来は正負等量の電荷を有しているが、この平衡が破れる状態とすることで負(又は正)に帯電し得る。
例えば誘電体同士の摩擦又は導体との接触によって帯電が可能である(いわゆる摩擦帯電又は接触帯電)。」(第1/3ページ第24行〜第2/3ページ第1行)
「5. (3)について
「(1)について」で述べたところから明らかなように「マイナスイオン化された混合物」は「負に帯電した混合物」を意味する。負に帯電した坩堝(通常の坩堝ではない)に混合物を投入することで電荷の移動が生じるのである。」(第2/3ページ第2行〜第5行)
そこで、上記主張について検討すると、「石英坩堝」及び「メタルシリコンとケイ酸ナトリウムとを混合」したものが、「負に帯電」又は「負の静電気を帯電」するものであるか否かは不明であり、かつ「負に帯電」した又は「負の静電気を帯電」した「石英坩堝」は一般的に知られたものとは云えないこと、「メタルシリコンとケイ酸ナトリウムとを混合」したものを「マイナスイオン化された石英坩堝に所定時間投入」することにより「電荷の移動が生じる」か否かも不明であることは、「4-1.具体的理由(1)について」に記載したとおりである。
また、「石英坩堝」を「負に帯電」又は「負の静電気を帯電」させる手段についても、一般的に知られたものとは云えず、かつ、請求人は、意見書等において、「石英坩堝」を「負に帯電」又は「負の静電気を帯電」させる具体的手段、例えばどのようなものとの摩擦により「石英坩堝」が「負に帯電」又は「負の静電気を帯電」するのか、について何ら開示せず、更に「石英坩堝」が「負に帯電」又は「負の静電気を帯電」すること、及び「負に帯電した坩堝(通常の坩堝ではない)に混合物を投入することで電荷の移動が生じる」ことを何ら証明していない。
したがって、上記意見書等を参酌しても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、「マイナスイオン化された石英坩堝」及び「マイナスイオン化された混合物」とはどのようなものであるのか、あるいはそれらをどのようにして得るのかが不明であるから、本願明細書の発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものとは云えない。
4-3.具体的理由(4)について
具体的理由(4)は、発明の詳細な説明の記載に関するものであり、「自噴させる工程」について、「自噴させる」とはどのようにすること又はどのような現象を意味するのか明らかではなく、またマイナスイオン化された混合物に水を添加するだけで「自噴させる」ことができるとは考えられないから、本願明細書には、当業者が容易に発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは云えないというものである。
これに対する請求人の意見書における主張は、次のとおりである。
「「自噴させる工程」は自らの内部からガスを噴出させる工程の意味であり、自噴の語を用いたが、不明であるとされたので、削除した。作業工程としては混合物に水を添加するだけであり、自噴は混合、水添加に伴う反応による現象であり、格別の能動的作業を要する訳ではないので「水を添加して自噴させる工程」は「水を添加する工程」と補正した。」(第1/3ページ第19行〜第23行)
「6. (4)(5)について
混合物に水を加えることによって生じる反応は以下のように推定される。
ケイ酸+トリウム(Na2O・SiO2)は水の添加でNa+及びOH-を生じる。そして
Si+2OH-+H2O→SiO32-+2H2
2Na+SiO32-→Na2SiO3
の反応を生じ、この間発熱を生じると考えられる。
発熱に伴う水蒸気及び上述の反応に伴う水素等がスラリー中から噴出しているのである。なお水素ガスの発生は分析により確認された(甲第9号証)。
甲第9号証は本件発明に係るシリコン,ケイ酸ナトリウム及び水に関する反応の際に噴出するガス成分及び水蒸気中の金属成分をガスクロマトグラフにより分析した結果を示すものである。
分析の依頼者は本願の発明が出願人の一人である▲高▼松邦明が代表取締役を務める株式会社リトルアイセ(平成14年10月18日差出の手続補足書に添付の登記簿謄本参照)であり、分析者は神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央3-12-31 日本環境株式会社 横浜事業所内 三浦明である。
これに見られるように噴出ガスは水素ガスが主成分であり、この水素と不純物中のSとが反応して生成されたH2S及びO2、Heの存在が認められた。
上述の反応にあって負電荷がOH-の生成等に寄与し、反応を促進しているものと思われる。」(第2/3ページ第6行〜第25行)
また、請求人は回答書において次のように主張している。
「3. 審尋事項(3)「自噴させる工程」について
甲第6号証の1乃至5はマイナスイオン化された混合物に水を添加して合成樹脂製の容器に入れておいた状況を経時的に示したものであり、昇温し、これに伴って体積が増し、盛んに蒸気を噴出していることが示されている。
この場合、願書添付の明細書に記載したように95℃程度にまで上昇する。
甲第6号証の6の中央のインゴットが甲第6号証の1乃至5の工程によって得たものである。
「自噴させる」ことができる理由は不明である。なお混合物がマイナスイオン化されていない場合は自噴は生じない。」(第3/6ページ第23行〜第4/6ページ第2行)
そして、上記主張からみて、「自噴」とは、「混合、水添加に伴う反応による現象」であり、「自噴させる工程」とは、「自らの内部からガスを噴出させる工程」の意味であり、具体的には、混合物に「水を添加する工程」のことであって、かつ「混合物がマイナスイオン化されていない場合は自噴は生じない」ものである。
更に、その反応は、以下のように推定されるものであり、「自噴させる工程」においては、「負電荷がOH-の生成等に寄与し、反応を促進しているものと思われる」ものである。
「ケイ酸+トリウム(Na2O・SiO2)は水の添加でNa+及びOH-を生じる。そして
Si+2OH-+H2O→SiO32-+2H2
2Na+SiO32-→Na2SiO3
の反応を生じ、この間発熱を生じると考えられる。」
そこで、上記主張について検討すると、「ケイ酸+トリウム(Na2O・SiO2)は水の添加でNa+及びOH-を生じる」のであれば、「OH-の生成等に寄与」する「負電荷」は、ナトリウムがイオン化することにより生じる「負電荷」であると云える。
ところが、仮に「負に帯電した坩堝」から「混合物」に電荷が移動するとして、そのようにして生じた「マイナスイオン化された混合物」における「負電荷」が同時に存在する場合、同極性の電荷同志は反発し合うものであり、それらが引き合うことはないから、上記式のような反応を生じるに際して、そのような「負電荷」の存在が「反応を促進」する理由は全く不明である。
そうすると、「自噴させる工程」が、「自らの内部からガスを噴出させる工程」であって、具体的には「水を添加する工程」を意味するとしても、その反応における「マイナスイオン化された混合物」がいかなる技術的意味を有するのかが不明であり、そうすると、結局のところ、「石英坩堝」を「マイナスイオン化」することの技術的意味も不明である。
ここで、請求人は、回答書において「甲第6号証の1乃至5はマイナスイオン化された混合物に水を添加して合成樹脂製の容器に入れておいた状況を経時的に示したものであり、昇温し、これに伴って体積が増し、盛んに蒸気を噴出していることが示されている。」(第3/6ページ第24行〜第26行)と主張しているが、手続補足書の甲第6号証における「マイナスイオン化された混合物」とは、どのような混合物をいかにして「マイナスイオン化」したものであるのかが不明であり、かつ「合成樹脂製の容器」は「マイナスイオン化された石英坩堝」であるとは云えないから、上記主張によっても、「石英坩堝」を「マイナスイオン化」することの技術的意味は不明である。
加えて、平成11年1月19日付け拒絶理由通知書において引用された引用文献1である特開平4-366142号公報(以下、引用文献1という)には、
「実施例 1
SiとSiO2の粉末を47:53重量%の割合で混合した粉末材料に、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3) を水に対して0.36重量%混合した溶液を粉末材料200gに対して70cc加え撹拌、型入れ、発泡を行い、150℃で4時間大気中で乾燥させた後、1300℃で1時間焼結して蒸着材料を調整した。この蒸着材料は多孔質な構造を有していた。」(段落【0019】)
と記載されている。
そして、上記記載からみて、引用文献1に記載された発明は、「SiとSiO2の粉末」を「混合した粉末材料」に、「ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3) を水に対して0.36重量%混合した溶液」を加え「撹拌、型入れ、発泡」を行うものである。
かつ、上記引用文献1に記載された発明は、「負に帯電した坩堝」を用いるものではないから、上記引用文献1に記載された発明は、坩堝あるいは混合物に負電荷が存在しないにも関わらず、「SiとSiO2の粉末」を「混合した粉末材料」に「ケイ酸ナトリウム」と「水」を添加することにより「発泡」が生じるものであり、上記「発泡」が、「自らの内部からガスを噴出させる」ものであって、「混合、水添加に伴う反応による現象」であることは明らかである。
そうすると、坩堝あるいは混合物に負電荷が存在しなくとも、ケイ酸ナトリウムと水の添加により、「自らの内部からガスを噴出」する、「混合、水添加に伴う反応による現象」が生じることは明らかであり、このことは、「混合物がマイナスイオン化されていない場合は自噴は生じない」という請求人の主張と相反するものである。
故に、上記意見書等を参照しても、「自噴させる工程」すなわち「水を添加する工程」における「マイナスイオン化された石英坩堝」と「マイナスイオン化された混合物」の技術的意味が不明であり、かつ、請求人は、「石英坩堝」及び「混合物」を「マイナスイオン化」することの効果について、意見書等において具体的に何一つ開示していない。
故に、明細書から「自噴」の後を削除し、かつ「自噴させる工程」が「自らの内部からガスを噴出させる工程」を意味し、具体的には「水を添加する工程」を意味するとしても、当該「水を添加する工程」における「マイナスイオン化された石英坩堝」及び「マイナスイオン化された混合物」の技術的意味が不明であり、そうすることによる効果も不明であるから、発明の詳細な説明に記載された「水を添加する工程」が明確であるとは云えない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明が、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものとは云えない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願明細書の特許請求の範囲の記載は、請求項1及び請求項2に係る特許を受けようとする発明が明確であるとは云えず、かつ、発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものがその実施をできる程度に明確かつ十分に記載したものとは云えない。
したがって、本願発明1及び本願発明2は、特許法第36条第4項ないし第6項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-10-21 
結審通知日 2003-10-28 
審決日 2003-11-10 
出願番号 特願平8-248301
審決分類 P 1 8・ 532- WZ (C23C)
P 1 8・ 531- WZ (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山田 靖板谷 一弘  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 金 公彦
野田 直人
発明の名称 シリコン蒸着用材の製造方法,及びシリコン蒸着フィルムの製造方法  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 登夫  
代理人 河野 登夫  

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