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審決分類 審判 査定不服 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1107550
審判番号 不服2002-19571  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-08-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-10-07 
確定日 2004-11-24 
事件の表示 平成10年特許願第321344号「オリゴヌクレオチドプローブ及びそれを用いて原核生物の存在を決定するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 8月24日出願公開、特開平11-225761〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、昭和61年6月30日に出願した特願昭61-151849号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成10年10月26日に新たな特許出願としたものである。そして、平成14年5月9日付けで補正された本願の特許請求の範囲の記載は、以下の通りのものであり、本願の請求項1乃至2に係る発明(以下、「本件発明1」乃至「本件発明2」という。)はその記載のとおりのものと認める。
「 【請求項1】 少なくとも9つのヌクレオチドからなり、予め選択されたハイブリダイゼーション条件下で、予め選択された原核生物の標的核酸配列にはハイブリダイゼーションするが、非標的核酸配列にはハイブリダイゼーションせず、該標的核酸配列に実質的に相補的な、合成されかつ分離されたオリゴヌクレオチド配列を有する組成物であって、該標的核酸配列がrRNA配列であることを特徴とする組成物。
【請求項2】 少なくとも9つのヌクレオチドからなり、予め選択されたハイブリダイゼーション条件下で、予め選択された原核生物の標的核酸配列にはハイブリダイゼーションするが、非標的核酸配列にはハイブリダイゼーションせず、該標的核酸配列に実質的に相補的な、合成されかつ分離されたオリゴヌクレオチド配列を有する組成物であって、該標的核酸配列がDNA配列であることを特徴とする組成物。」

2.原査定の理由
本願に対する平成14年6月26日付け拒絶査定には、「この出願については、平成14年2月5日付け拒絶理由通知書に記載した理由1、2によって、拒絶をすべきものである。」と記載されている。しかし、この「理由1」については、その「備考」の記載が実施可能要件に関するものであることからみて、上記拒絶理由通知書に記載された「理由3」の明らかな誤りであると認められる(請求人も、審判請求書において、実質的に実施可能要件についての反論を行っている)。
したがって、原査定の拒絶の理由は、上記拒絶理由通知書に記載された理由2及び3であると認められる。そして上記拒絶理由通知書には以下のように記載されている。

「 理由
(中略)
2.この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
3.この出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。


(中略)
・理由2について
特許請求の範囲第1、2項のオリゴヌクレオチドについて、「少なくとも9つのヌクレオチドからなり」、「予め選択された原核生物の標的核酸配列に実質的に相補的な、合成されかつ分離されたオリゴヌクレオチド」であり、「該標的核酸配列がrRNA配列である」と記載されているが、この特定のみでは、発明を明確に把握することができない。また、「予め選択されたハイブリダイゼーション条件」についてもどのような条件であるか不明である。
(少なくとも、当該オリゴヌクレオチドを物質として特定できるように、上記ヌクレオチド塩基配列を具体的な配列により記載する必要がある。)

・理由3について
発明の詳細な説明において、特定のヌクレオチド塩基配列の決定方法として、マイコプラズマの特定の種のrRNA遺伝子断片と、マイコプラズマでない原核生物のrRNAとのディファレンシャルハイブリダイゼーションによりマイコプラズマに特異的な断片を同定し、この工程をマイコプラズマの他の種及びマイコプラズマでない原核生物に対して繰り返すことが記載されている(工程1〜8.参照)。
そして、肺炎マイコプラズマ、マイコプラズマ カプリコラン及びマイコプラズマ種PG50と大腸菌との塩基配列を比較することにより、5’CGACATAGCTGATTCG3’は、肺炎マイコプラズマDNA断片に対してハイブリダイズするが、大腸菌DNA断片に対してはハイブリダイズしないことが記載されているが、その他のマイコプラズマのこれらの種並びに大腸菌に対して共通である塩基配列について具体的な開示はない。
このような発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が原核生物の標的核酸配列に特異的にハイブリダイゼーションする特定の配列を得るためには、過度な実験を要するものと認められる。
よって、発明の詳細な説明は、オリゴヌクレオチドをその構成要件とする特許請求の範囲第1、2項に記載された発明について、当業者が容易に実施できる程度に記載されているものとは認められない。」

なお、本願は分割出願であって、その出願日は原出願の出願日である昭和61年6月30日まで遡及し、特許法第36条の規定については、昭和60年法が適用されるから、上記拒絶理由通知書に記載の「特許法第36条第6項第2号」及び「特許法第36条第4項」は、各々「特許法第36条第4項」及び「特許法第36条第3項」の誤記と認められる。
したがって、以下、本願が特許法第36条第4項又は特許法第36条第3項の要件を満たしているか否かについて検討する。

3.当審の判断
(1)特許法第36条第4項の要件について
請求人は、審判請求書において本発明の開示後に種々のプローブが見出されてきたとし、それを根拠に、「本発明については、当業者が、請求項1に記載の条件を超えた限定的条件に束縛されることなく、本発明の開示を基に、各々のケースに適するプローブ配列、ハイブリダイゼーション条件、及び微生物種等の実験条件を選択し、以って本願の請求項1及び2記載の発明を実施可能であることが明らかである。従って、本願の請求項1及び2は、当業者に実施可能な程度に明瞭かつ十分な記載を含むと見なされる。」と主張している。
そこで、本願の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載をみると、同請求項に係る発明の組成物は、それが有するオリゴヌクレオチド配列を、
(a)少なくとも9つのヌクレオチドからなり、
(b)予め選択されたハイブリダイゼーション条件下で、予め選択された原核生物の標的核酸配列にはハイブリダイゼーションするが、非標的核酸配列にはハイブリダイゼーションせず、
(c)該標的核酸配列に実質的に相補的な、
(d)合成されかつ分離されたものである、
(e)該標的核酸配列がrRNA(請求項1)又はDNA(請求項2)である、
という事項により特定したものと認められる。
次にこれらの特定について検討する。
(a)の、オリゴヌクレオチドが「少なくとも9つのヌクレオチドからな」るという点は、オリゴヌクレオチドの塩基長が短い場合には、ハイブリダイズする対象配列が非標的配列中にも存在する可能性が高まるから、特異的な検出が可能なハイブリダイゼーションプローブとして当然要求される最低限の塩基長を単に特定したものに過ぎない。また、ほとんどのハイブリダイゼーションプローブがこのような条件を満たしていることは、本願の出願時の技術常識である。したがって、このような特定は、本願発明のようなハイブリダイゼーションによる検出を目的とする物の特定においてほとんど意味を有さない。
(b)の「予め選択されたハイブリダイゼーション条件下で、予め選択された原核生物の標的配列にはハイブリダイズするが、非標的配列にはハイブリダイズしない」という点は、原核生物の検出用のハイブリダイゼーションプローブとして当然要求される性質に過ぎない。このような希望的条件、すなわち達成すべき結果により本質的に特定された物については、当業者が出願時の技術常識を参酌しても、具体的にどのような物が含まれるのかが全く想定できない。しかも、「予め選択されたハイブリダイゼーション条件」が異なれば、同一のプローブであっても、特定の配列にハイブリダイズするかしないかは異なるのであるから、このような曖昧な条件の特定により特定される組成物の範囲も当然不明瞭であるといわざるを得ない。
さらに、「標的配列」については、「予め選択された原核生物」のものであるという以外、請求項中に何ら特定されていないから、このような特定は、本願発明の組成物を何ら具体的に特定するものではない。
(c)の「標的核酸配列に実質的に相補的である」点は、ハイブリダイゼーションプローブとして当然求められる構成に過ぎない。しかも、「標的配列」については、予め選択された原核生物」のものであるという以外、請求項中に何ら特定されていないから、このような特定は、本願発明の組成物を何ら具体的に特定するものではない。
(d)の「合成されかつ分離されたもの」である点、及び(e)の標的がrRNA配列やDNA配列である点は、その特定によって、組成物が有するオリゴヌクレオチド配列が物として相違することにはならないことは明らかである。

そして、以上の(a)〜(e)の本願発明の組成物を特定する事項を総合的に勘案しても、本願の請求項1及び2に係る発明の構成はきわめて曖昧である。
例えば、本願の発明の詳細な説明には、肺炎マイコプラズマDNA断片に対してはハイブリダイズするが大腸菌DNA断片に対してはハイブリダイズしない16塩基のオリゴヌクレオチドと、原核生物に対してはハイブリダイズするが真核生物に対してはハイブリダイズしない10塩基のオリゴヌクレオチドとが記載されている。ここで、標的を肺炎マイコプラズマとすれば、後者は本件発明には含まれないし、標的を原核生物とすれば、前者は本件発明には含まれない。このように、同じオリゴヌクレオチド配列を有するものであっても、標的を何とするかによって本件発明に含まれるか否かが相違することになる。すなわち、本願の特許請求の範囲において、標的が何であるのかが特定されていない以上、どのようなオリゴヌクレオチド配列を有するものが本件発明に含まれるのかが全く理解できない。
したがって、本願の特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているとはいえない。

(2)特許法第36条第3項の要件について
本願の発明の詳細な説明において、標的配列に特異的にハイブリダイズする特定配列のオリゴヌクレオチドとして言及されているのは、マイコプラズマ16S RNA遺伝子に対して相補的なヌクレオチド配列からなる16塩基長のものと10塩基長の2種類しかない。
そして、何を標的配列とするか、あるいは非標的配列にするかによって、両配列の配列の類似性の程度が異なるから、その選択によって標的配列の特異的検出が可能となるオリゴヌクレオチドの取得の困難性は大きく異なるものと考えられる。
したがって、このようなごく限られた例から、本件発明の組成物が有するような、あらゆる原核生物の膨大な種類のオリゴヌクレオチド配列を標的配列として選択し、それと区別すべき非標的配列を選択した場合に、それに特異的にハイブリダイズするようなオリゴヌクレオチド配列を得ることが、当業者にとって容易であるということはできない。
なお、請求人は、審判請求書において、本願明細書に工程1〜8として開示されている手順に従えば、他の原核生物種についても所望の本発明のオリゴヌクレオチド配列を得られ、各工程は当業者に公知の技術であって適宜実施可能であるから、工程1〜8の実施は過度の実験に相当しないと主張している。
しかし、発明の詳細な説明に記載された工程1〜8を実施しても、そもそも検出目的の生物由来の出発材料中に目的物(本願発明の組成物)が十分な量含まれているか否かは明らかではなく、非標的配列にハイブリダイズする配列を除くために、どのような種類又は数の他の生物種由来の配列を用いれば、標的配列のみにハイブリダイズする目的物が得られるのかが明らかではないのであるから、請求人の主張は採用できない。
以上のことから、本願の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその実施ができる程度に、本件発明の目的、構成及び効果が記載されていない。

(3)特許法第29条第2項の要件について
前記拒絶査定においては言及されていないが、前記拒絶理由通知には、以下のような拒絶の理由が記載されている。
「1.この出願の特許請求の範囲第1,2項に記載された発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(中略)
理由1について
特許請求の範囲第1、2項について
引用例1には、広く異なる生物からrRNAの配列を決定し、特定の生物群では類似する群-特異的プローブについて記載されている。
当業者であれば、該プローブを含有する組成物を調製することは、適宜なし得ることである。
また、引用例1には、リボソームr-RNA DNA又はその他のDNA配列を直接発見することが記載されており(第16頁左下欄第13行〜第17行参照)、rRNA配列、DNA配列いずれについても標的核酸配列となることが記載されている。
(中略)
引 用 文 献 等 一 覧
1.特表昭60-501339号公報」

以下、この点についても検討する。
上記引用例1には、以下の(a)〜(f)の事項が記載されている。
(a)「プローブの長さは、5個〜数万塩基の間に変動し得る。プローブ分子の一部だけが、検出すべき核酸配列(以後は標的核酸と記す)に相補的であればよい。」(10頁右上欄1〜4行)
(b)「特定の生物群のR-RNAのみに相補的な群特異的配列を、ハイブリダイゼーション選択プロセスによって分離することができる。特定の生物群のメンバー由来のR-RNAのみに、ハイブリッド化する、合成印つきのDNA中の部分は標準ハイブリッド化法によって分離され得る。このプロセスの実施例を後に示す。」(18頁右下欄10〜15行)
(c)哺乳類細胞および細菌細胞からR-RNAを分離したこと(21頁左下欄11行〜右下欄22行)
(d)マイコプラズマ・ホミニス種のR-RNAに相補的な放射性cDNA(3H-cDNA)を合成したこと(21頁右下欄23行〜22頁左下欄16行)
(e)上記3H-cDNAをヒトR-RNAとハイブリッド化し、ヒドロキシアパタイトを通し(ヒトR-RNA、ヒトR-RNAと3H-cDNAからなる二重鎖が吸着)、HAに吸着しないフラクションを収集することにより、マイコプラズマ・ホミニスR-RNAには相補的で、ヒトR-RNAには相補的でない3H-cDNAを選択したこと(22頁左下欄17行〜右下欄14行)
(f)この選択された3H-cDNAと、異なる起源からのR-RNAとをハイブリダイゼーションさせたところ、細菌のR-RNAとはハイブリダイズするが、酵母、各種哺乳類。鳥類のR-RNAとはハイブリダイズしなかったこと(22頁右下欄15行〜24頁左上欄25行)

そして、本件発明1と引用例1に記載された発明とを比較すると、両者は、「予め選択されたハイブリダイゼーション条件下で、予め選択された原核生物の標的核酸配列にはハイブリダイゼーションするが、非標的核酸配列にはハイブリダイゼーションせず、該標的核酸配列に実質的に相補的な、合成されかつ分離されたオリゴヌクレオチド配列を有する組成物であって、該標的核酸配列がrRNA配列である組成物」である点で一致するが、組成物の有するオリゴヌクレオチド配列が、後者では、5個〜数万のヌクレオチドからなるのに対し、前者では、少なくとも9つのヌクレオチドからなる点で相違している。
しかし、オリゴヌクレオチド配列の長さは適宜設定できることに過ぎず、その長さを「少なくとも9つ」とすることは、当業者が容易に行いうることに過ぎない。また、「少なくとも9つ」としても特に格別顕著な効果は認められない。
本件発明2についても同様である。
5.むすび
したがって、本願は、特許法第36条第3項及び第4項に規定する要件を満たしておらず、また、本件発明1及び2は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-06-22 
結審通知日 2004-06-29 
審決日 2004-07-14 
出願番号 特願平10-321344
審決分類 P 1 8・ 532- Z (C12N)
P 1 8・ 531- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 浩冨永 みどり  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 佐伯 裕子
種村 慈樹
発明の名称 オリゴヌクレオチドプローブ及びそれを用いて原核生物の存在を決定するための方法  
代理人 西元 勝一  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  

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