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審決分類 |
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H03H 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H03H |
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管理番号 | 1107837 |
異議申立番号 | 異議2003-73105 |
総通号数 | 61 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-12-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-12 |
確定日 | 2004-09-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3439294号「弾性表面波フィルター」の請求項1、3、5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3439294号の請求項1、3、5に係る特許を維持する。 |
理由 |
【1】本件特許発明 本件特許第3439294号の発明は、平成8年4月10日(国内優先権主張、平成7年4月10日)に特許出願(特願平8-88645号)されたものであって、平成15年6月13日にその特許(請求項の数6)について設定登録がなされ、平成15年8月25日に特許公報が発行され、その特許(請求項1、3、5)について平成15年12月12日に遠藤昭子より特許異議の申立てがなされ、その請求項1、3、5について平成16年6月16日付で取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成16年8月20日に訂正請求がなされたものである。 【2】訂正の適否について (1)訂正の要旨 訂正請求書により訂正する訂正事項は、明細書の記載事項における明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、その訂正内容は、要旨、以下のとおりである。 (1-1)訂正事項a 特許第3439294号発明の明細書中の特許請求の範囲の請求項1及び3において「弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度40度乃至90度、0度乃至60度)及びこれと等価な範囲内である弾性表面波フィルターにおいて」とあるのを、明りようでない記載の釈明を目的として「弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)である弾性表面波フィルターにおいて」と訂正する。 これに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、明細書を請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、特許第3439294号公報第3ページ左欄第30〜33行、特許第3439294号公報第3ページ右欄第1〜4行における「弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)及びこれと等価な範囲内に設定されると共に」を、明りようでない記載の釈明を目的として「弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)に設定されると共に」と訂正する。 (1-2)訂正事項b 特許第3439294号発明の明細書中の特許請求の範囲の請求項5において「弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(0度乃至50度、15度乃至75度、40度乃至90度)及びこれと等価な範囲内である弾性表面波フィルターにおいて」とあるのを、明りようでない記載の釈明を目的として「弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(0度乃至50度、15度乃至75度、40度乃至90度)である弾性表面波フィルターにおいて」と訂正する。 これに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、明細書を請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、特許第3439294号公報第3ページ右欄第22〜25行における「弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(0度乃至50度、15度乃至75度、40度乃至90度)及びこれと等価な範囲内に設定されると共に」を、明りようでない記載の釈明を目的として「弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(0度乃至50度、15度乃至75度、40度乃至90度)に設定されると共に」と訂正する。 (2)訂正の適否についての判断 <訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否についての判断> (2-1)訂正の目的等 本件訂正の要旨は、上記訂正事項a及びbのとおりであって、その訂正事項aの訂正内容は、特許請求の範囲の請求項1及び3に関し、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また訂正事項bの訂正内容は、特許請求の範囲の請求項5に関し、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 (2-2)検討 以下、各訂正事項について検討する。 (i)訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された発明に関し、当該請求項1、3及びこれに係わる詳細な説明の欄の不明りょうな記載である「及びこれと等価な範囲内」なる記載について、これを削除することによって弾性表面波の伝搬方向を明確化しようとするものであって、明りょうでない記載の釈明にあたるものである。 (ii)訂正事項bは、特許請求の範囲の請求項5に記載された発明に関し、当該請求項5及びこれに係わる詳細な説明の欄の不明りょうな記載である「及びこれと等価な範囲内」なる記載について、これを削除することによって弾性表面波の伝搬方向を明確化しようとするものであって、明りょうでない記載の釈明にあたるものである。 (iii)したがって、訂正事項a及びbに係る訂正は、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、また請求項を追加するなど実質的に特許請求の範囲を拡張し又は変更するものとも認められない。 (2-3)まとめ 以上のとおりであって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項ただし書き及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 【3】本件特許発明 訂正された特許請求の範囲の請求項1、3、5に係る発明は、以下のとおりである。 「【請求項1】 弾性表面波共振器を直列腕と並列腕に接続して構成され、各弾性表面波共振器は、タンタル酸リチウムからなる基板の表面に励振用の電極が形成され、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)である弾性表面波フィルターにおいて、直列腕共振器の共振周波数frsと並列腕共振器の共振周波数frpとの周波数差Δfが、中心周波数f0、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copをパラメータとして、下記数1で規定される範囲に設定されていることを特徴とする弾性表面波フィルター。 【数1】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δf=frs-frp Δfmin=(-0.00158+0.0116P-0.00421P2)×f0 Δfmax=(0.0778-0.0736P+0.0252P2)×f0 P=Cop/Cos 【請求項3】 弾性表面波共振器を直列腕と並列腕に接続して構成され、各共振器は、ニオブ酸リチウムからなる基板の表面に励振用の電極が形成され、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)である弾性表面波フィルターにおいて、直列腕共振器の共振周波数frsと並列腕共振器の共振周波数frpとの周波数差Δfが、中心周波数f0、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copをパラメータとして、下記数3で規定される範囲に設定されていることを特徴とする弾性表面波フィルター。 【数3】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δf=frs-frp Δfmin=(0.0262+0.0245P-0.0021P2)×f0 Δfmax=(0.303-0.269P+0.082P2)×f0 P=Cop/Cos 【請求項5】 弾性表面波共振器を直列腕と並列腕に接続して構成され、各弾性表面波共振器は、四硼酸リチウムからなる基板の表面に励振用の電極が形成され、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(0度乃至50度、15度乃至75度、40度乃至90度)である弾性表面波フィルターにおいて、直列腕共振器の共振周波数frsと並列腕共振器の共振周波数frpとの周波数差Δfが、中心周波数f0、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copをパラメータとして、下記数5で規定される範囲に設定されていることを特徴とする弾性表面波フィルター。 【数5】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δf=frs-frp Δfmin=(-0.00002+0.00642P-0.0021P2)×f0 Δfmax=(0.0305-0.0161P+0.0021P2)×f0 P=Cop/Cos 」 【4】特許異議申立ての概要 異議申立人遠藤昭子は、概要、以下のとおり請求項1、3、5に係る発明についての特許を取り消すべきであると申立てるものである。 「本件明細書の請求項1,3,5の記載、及び発明の詳細な説明の記載に不備があり、請求項1,3,5に係る特許発明は特許法第36条第4項、第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたことから、請求項1,3,5に係る特許発明はいずれも同法第113条第1項第4号により取り消すべきものである。」 【5】当審の判断 <特許法第36条第4項及び第6項違反について> (1)異議申立人遠藤昭子は、前記した記載不備の理由の詳細において、以下のとおり主張している。 「請求項1,3,5の「これと等価な範囲内」は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であるならば以下の1,3,5(1〜3の誤記)を考える。 1.誤差を表し、ほとんど同じ弾性表面波特性になる角度である。 2.タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、四硼酸リチウムは3m点群に属する結晶であるため、1つのオイラー角(φ,θ,ψ)当たり6個の等価なオイラー角である。 3.3m点群よりもとまる6個に加え、弾性表面波の伝搬する性質を考えると、48種類の類似したオイラー角である。この場合、パワーフロー角やナチュラル一方向性の「大きさは等しいが正負符号が反転したオイラー角」は等しいと判断する。 しかしながら、請求項1,3,5の「これと等価な範囲内」が上記のどれに相当するのかは、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても特定することができない。 すなわち、請求項1,3,5が明確でなく、かつ発明の詳細な説明がその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。」 (2)検討 前記記載不備の理由について検討すると、この不明りょうとする「これと等価な範囲内」なる記載は、前記訂正が認められて削除された結果、弾性表面波の伝搬方向に係る構成は明確なものとなり、本件請求項1、3、5に係る発明の構成は、明確かつ十分なものとなったと認められる。 したがって、本件特許明細書の記載に不備があるとはいえないから、異議申立人遠藤昭子による特許法第36条第4項及び第6項第2号の規定に違反する旨の主張は採用することができない。 以上のとおり、異議申立人遠藤昭子による異議申立ての理由について、本件明細書には記載不備があるとの異議申立ては理由があるものとすることはでず、本件特許請求の範囲の請求項1、3、5に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項及び第6項の規定に違反してなされたものすることができない。 【6】むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由によっては、本件特許請求の範囲の請求項1、3、5に係る発明についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件請求項1、3、5に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 弾性表面波フィルター (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 弾性表面波共振器を直列腕と並列腕に接続して構成され、各弾性表面波共振器は、タンタル酸リチウムからなる基板の表面に励振用の電極が形成され、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)である弾性表面波フィルターにおいて、直列腕共振器の共振周波数frsと並列腕共振器の共振周波数frpとの周波数差Δfが、中心周波数f0、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copをパラメータとして、下記数1で規定される範囲に設定されていることを特徴とする弾性表面波フィルター。 【数1】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δf=frs-frp Δfmin=(-0.00158+0.0116P-0.00421P2)×f0 Δfmax=(0.0778-0.0736P+0.0252P2)×f0 P=Cop/Cos 【請求項2】 直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copが、下記数2で規定される帯状の範囲内に設定されている請求項1に記載の弾性表面波フィルター。 【数2】 Cop=-0.49Cos+(4978±2850)/f0 【請求項3】 弾性表面波共振器を直列腕と並列腕に接続して構成され、各共振器は、ニオブ酸リチウムからなる基板の表面に励振用の電極が形成され、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)である弾性表面波フィルターにおいて、直列腕共振器の共振周波数frsと並列腕共振器の共振周波数frpとの周波数差Δfが、中心周波数f0、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copをパラメータとして、下記数3で規定される範囲に設定されていることを特徴とする弾性表面波フィルター。 【数3】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δf=frs-frp Δfmin=(0.0262+0.0245P-0.0021P2)×f0 Δfmax=(0.303-0.269P+0.082P2)×f0 P=Cop/Cos 【請求項4】 直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copが、下記数4で規定される帯状の範囲内に設定されている請求項3に記載の弾性表面波フィルター。 【数4】 Cop=-0.93Cos+(3895±1425)/f0 【請求項5】 弾性表面波共振器を直列腕と並列腕に接続して構成され、各弾性表面波共振器は、四硼酸リチウムからなる基板の表面に励振用の電極が形成され、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(0度乃至50度、15度乃至75度、40度乃至90度)である弾性表面波フィルターにおいて、直列腕共振器の共振周波数frsと並列腕共振器の共振周波数frpとの周波数差Δfが、中心周波数f0、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copをパラメータとして、下記数5で規定される範囲に設定されていることを特徴とする弾性表面波フィルター。 【数5】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δf=frs-frp Δfmin=(-0.00002+0.00642P-0.0021P2)×f0 Δfmax=(0.0305-0.0161P+0.0021P2)×f0 P=Cop/Cos 【請求項6】 直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copが、下記数6で規定される帯状の範囲内に設定されている請求項5に記載の弾性表面波フィルター。 【数6】 Cop=-0.47Cos+(3078±912)/f0 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、弾性表面波共振器を直列腕と並列腕に接続して構成される共振器結合型の弾性表面波フィルターに関するものである。 【0002】 【従来の技術】 近年、自動車用電話機等の通信機器においては、共振器フィルター、信号処理用遅延線等の回路素子として、弾性表面波素子が広く応用されている。例えば図9に示す弾性表面波素子は、圧電性を有する基板(1)の表面に簾状の電極(2)及び格子状の反射器(3)(3)を形成して、共振器を構成している。 【0003】 又、図8の如く、梯子型回路の直列腕(4)と並列腕(5)に夫々、共振器(6)(7)を配置することによって、フィルターを構成することが可能である。この様な共振器結合型の弾性表面波フィルターは、挿入損失が少なく、整合回路が不要である等の利点を有しているため、広く普及している。 共振器結合型弾性表面波フィルターにおいては、直列腕共振器(6)の共振周波数frsと並列腕共振器(7)の反共振周波数fapとを略一致させることによって、バンドパスフィルター特性を実現する。 【0004】 共振器結合型弾性表面波フィルターの設計を行なう上でのパラメータとしては、直列腕共振器の共振周波数frsと並列腕共振器の共振周波数frpの差Δf(Δf=frs-frp)や、各共振器の電極対数及び開口長から決定される静電容量Cos、Cop等があり、従来より弾性表面波フィルターに用いられている基板(36°Y-X LiTaO3、64°Y-X LiNbO3、及び41°Y-X LiNbO3)については、設計パラメータの最適な範囲が明らかにされている(特開平5-183380号、特開平6-69750号等)。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、近年の弾性表面波フィルターの高周波化に応じるべく、更に高音速を得るためのカット面について研究が行われており、その結果、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、及び四硼酸リチウム(Li2B4O7)については、従来よりも高音速のカット面が発見されている。 即ち、タンタル酸リチウムについては、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(90°、90°、31°)であり、ニオブ酸リチウムについては、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(90°、90°、37°)であり、四硼酸リチウムについては、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(0°、45°、90°)である。 【0006】 しかしながら、上記カット面を有するタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板、或いは四硼酸リチウム基板を用いた共振器結合型弾性表面波フィルターについては、それらの設計パラメータの最適範囲が未だ明らかにされていない。 本発明の目的は、高音速のカット面を有するタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板、或いは四硼酸リチウム基板を用いた共振器結合型弾性表面波フィルターにおいて、必要とされる設計パラメータ、特に直列腕共振器及び並列腕共振器の共振周波数の最適範囲を明らかにし、これによって共振器結合型弾性表面波フィルターの高性能化を図ることである。 尚、本発明では、弾性表面波フィルターの性能を判断する第1の指標として、その通過帯域内特性におけるリップルと挿入損失を採用し、第2の指標として、整合状態を表わす電圧定在波比(VSWR;Voltage Standing Wave Ratio)を採用した。 【0007】 【課題を解決する為の手段】 共振器結合型弾性表面波フィルターの場合、図10に示す様に、直列腕共振器の共振周波数frsと並列腕共振器の共振周波数frpの差Δf(以下、単に共振周波数差という)に関して、その値が大きい程、通過帯域内特性におけるリップルAが増大し、その値が小さい程、挿入損失Bが増大することが知られている。 一方、直列腕共振器の静電容量Cosと並列腕共振器の静電容量Copに関しては、これらの値の変化によってVSWRが変化することが知られている。 【0008】 一般的には、リップルAは2.0dB以下、挿入損失Bについては5.0dB以下に抑えることが設計上、望ましい。又、VSWRに関しては、2.0以下の値に抑えることが設計上、望ましい。 そこで本発明においては、種々の設計パラメータを与えた多数の試作品を作製し、これらの試作品についての実験結果に基づいて、リップル及び挿入損失を上記の限界値以下に抑えることの出来る共振周波数差Δfの最適範囲を明らかにし、更には、VSWRの値を上記の限界値以下に抑えることの出来る直列腕共振器及び並列腕共振器の静電容量Cos、Copの最適範囲を明らかにした。 【0009】 即ち、タンタル酸リチウム基板を用いた弾性表面波フィルターにおいては、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)に設定されると共に、共振周波数差Δfが、中心周波数f0及び静電容量比Pをパラメータとして、下記数7で規定される範囲に設定されている。 【0010】 【数7】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δf=frs-frp Δfmin=(-0.00158+0.0116P-0.00421P2)×f0 Δfmax=(0.0778-0.0736P+0.0252P2)×f0 P=Cop/Cos 【0011】 更に具体的には、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copは、下記数8で規定される帯状の範囲内に設定されている。 【数8】 Cop=-0.49Cos+(4978±2850)/f0 【0012】 ニオブ酸リチウム基板を用いた弾性表面波フィルターにおいては、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)に設定されると共に、共振周波数差Δfが、中心周波数f0及び静電容量比Pをパラメータとして、下記数9で規定される範囲に設定されている。 【0013】 【数9】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δf=frs-frp Δfmin=(0.0262+0.0245P-0.0021P2)×f0 Δfmax=(0.303-0.269P+0.082P2)×f0 P=Cop/Cos 【0014】 更に具体的には、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copは、下記数10で規定される帯状の範囲内に設定されている。 【数10】 Cop=-0.93Cos+(3895±1425)/f0 【0015】 四硼酸リチウム基板を用いた弾性表面波フィルターにおいては、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(0度乃至50度、15度乃至75度、40度乃至90度)に設定されると共に、共振周波数差Δfが、中心周波数f0及び静電容量比Pをパラメータとして、下記数11で規定される範囲に設定されている。 【0016】 【数11】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δf=frs-frp Δfmin=(-0.00002+0.00642P-0.0021P2)×f0 Δfmax=(0.0305-0.0161P+0.0021P2)×f0 P=Cop/Cos 【0017】 更に具体的には、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copは、下記数12で規定される帯状の範囲内に設定されている。 【数12】 Cop=-0.47Cos+(3078±912)/f0 【0018】 弾性表面波フィルターの設計においては、先ず、要求されるフィルターの仕様から中心周波数f0及び帯域外抑圧が決まり、更に、その帯域外抑圧に応じた静電容量比Pが決まることになる。 そこで、決定された中心周波数f0及び静電容量比Pを上記数7、数9或いは数11に代入して、基板の材質に応じた共振周波数差Δfの最適範囲(Δfmin〜Δfmax)を算出し、この範囲内の値として共振周波数差Δfを決定する。 【0019】 次に、中心周波数f0の近傍値として、直列腕共振器の共振周波数frs(≒f0)を決定すれば、決定された共振周波数差Δfから、並列腕共振器の共振周波数frp(=frs-Δf)を決定することが出来る。 【0020】 この様にして得られた直列腕共振器の共振周波数frs及び並列腕共振器の共振周波数frpに基づいて、直列腕共振器及び並列腕共振器を設計することによって、リップルが2.0dB以下に抑えられると同時に、挿入損失が5.0dB以下に抑えられることになる。 【0021】 更に、決定された静電容量比Pを満足し、且つ上記数8、数10或いは数12によって規定される帯状範囲に含まれることとなる、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copの値を決定する。 【0022】 この様にして得られた直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copに基づいて、直列腕共振器及び並列腕共振器を設計することによって、VSWRが2.0以下に抑えられることになる。 【0023】 【発明の効果】 本発明によれば、高音速のカット面を有するタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板、或いは四硼酸リチウム基板を用いた共振器結合型弾性表面波フィルターにおいて、直列腕共振器及び並列腕共振器の共振周波数を最適範囲に設定して、リップル及び挿入損失を同時に抑えることが出来る。 【0024】 【発明の実施の形態】 本発明に係る共振器結合型弾性表面波フィルターは、図8に示す如く梯子型回路の直列腕(4)と並列腕(5)に夫々、1ポート共振器(6)(7)を接続して構成される。各1ポート共振器(6)(7)は図9に示す如く、基板(1)上に簾状電極(2)と格子状反射器(3)(3)を形成したものである。 【0025】 尚、タンタル酸リチウム基板においては、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)の範囲、望ましくは(90度、90度、31度)となる様に電極が形成される。又、ニオブ酸リチウム基板においては、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(40度乃至90度、40度乃至90度、0度乃至60度)の範囲、望ましくは(90度、90度、37度)となる様に電極が形成される。更に四硼酸リチウム基板においては、弾性表面波の伝搬方向がオイラ角表示で(0度乃至50度、15度乃至75度、40度乃至90度)の範囲、望ましくは(0度、45度、90度)となる様に電極が形成される。これによって、超音速の弾性表面波(縦波成分が横波成分より優勢である擬似弾性表面波)が得られる。 【0026】 本実施例においては、先ず、共振周波数差Δfについて、リップルを2.0dB以下、挿入損失を5.0dB以下とするための最適範囲を、複数の試作品を用いた実験によって決定した。 【0027】 図1は、タンタル酸リチウム基板を用いた中心周波数1.9GHzの共振器結合型弾性表面波フィルターについて、試作品による実験の結果を表わしている。即ち、図1のグラフは、横軸に静電容量比P、縦軸に共振周波数差Δfをとって、これらの値を徐々に変化させた複数の試作品について、リップル及び挿入損失を測定し、リップルについては2.0dB以下、挿入損失については5.0dB以下の条件を満たす試作品を○印、それ以外の試作品を×印でプロットしたものである。上記の条件を満たす最適なΔf(MHz)の範囲は、P=0.5にて、6≦Δf≦90、P=0.75にて、9≦Δf≦70、P=1.0にて、11≦Δf≦56、P=1.25にて、12≦Δf≦48となる。尚、図1のグラフの上方の曲線は、リップルについての限界を表わしており、下方の曲線は挿入損失についての限界を表わしている。 そこで、これらの上限値及び下限値に夫々、最小二乗法を適用することによって、共振周波数差Δfの最適範囲として、下記数13が得られる。 【0028】 【数13】 -3+22P-8P2≦Δf≦148-140P+48P2 【0029】 更に、上記数13を中心周波数f0(MHz)で規格化すると、下記数14が得られる。 【数14】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δfmin=(-0.00158+0.0116P-0.00421P2)×f0 Δfmax=(0.0778-0.0736P+0.0252P2)×f0 【0030】 図2は、ニオブ酸リチウム基板を用いた中心周波数1.9GHzの共振器結合型弾性表面波フィルターについて、試作品による実験の結果を図1と同様に表わしている。リップルについては2.0dB以下、挿入損失については5.0dB以下の条件を満たす最適なΔf(MHz)の範囲は、P=0.5にて、72≦Δf≦359、P=0.75にて、83≦Δf≦280、P=1.0にて、92≦Δf≦220、P=1.25にて、102≦Δf≦180となる。 そこで、これらの上限値及び下限値に夫々、最小二乗法を適用することによって、共振周波数差Δfの最適範囲として、下記数15が得られる。 【0031】 【数15】 50+47P-4P2≦Δf≦576-512P+156P2 【0032】 更に、上記数15を中心周波数f0(MHz)で規格化すると、下記数16が得られる。 【数16】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δfmin=(0.0262+0.0245P-0.0021P2)×f0 Δfmax=(0.303-0.269P+0.082P2)×f0 【0033】 図3は、四硼酸リチウム基板を用いた中心周波数1.9GHzの共振器結合型弾性表面波フィルターについて、試作品による実験の結果を図1と同様に表わしている。リップルについては2.0dB以下、挿入損失については5.0dB以下の条件を満たす最適なΔf(MHz)の範囲は、P=0.5にて、5≦Δf≦45、P=0.75にて、7≦Δf≦37、P=1.0にて、8≦Δf≦32、P=1.25にて、9≦Δf≦26となる。 そこで、これらの上限値及び下限値に夫々、最小二乗法を適用することによって、共振周波数差Δfの最適範囲として、下記数17が得られる。 【0034】 【数17】 -0.05+12P-4P2≦Δf≦58-31P+4P2 【0035】 更に、上記数17を中心周波数f0(MHz)で規格化すると、下記数18が得られる。 【数18】 Δfmin≦Δf≦Δfmax ここで、 Δfmin=(-0.00002+0.00642P-0.0021P2)×f0 Δfmax=(0.0305-0.0161P+0.0021P2)×f0 【0036】 本実施例においては、次に、直列腕共振器及び並列腕共振器の静電容量Cos、Copについて、VSWRを2.0以下とするための最適範囲を決定した。 【0037】 図4は、タンタル酸リチウム基板を用いた中心周波数1.9GHzの共振器結合型弾性表面波フィルターについて、試作品による実験の結果を表わしている。即ち、図4のグラフは、横軸に直列腕共振器の静電容量Cos(pF)、縦軸に並列腕共振器の静電容量Cop(pF)をとって、これらの値を徐々に変化させた複数の試作品について、VSWRを測定し、その測定値が2.0以下の条件を満たす試作品を○印、それ以外の試作品を×印でプロットしたものである。 【0038】 尚、静電容量Cos、Cop(pF)は、図9に示す電極対の数をN、開口長をW(μm)としたとき、下記数19から算出することが出来る。 【数19】 C=4×10-4×N×W 【0039】 図示の如く、上記条件を満たす試作品は、図中に実線で示す帯状の領域に存在し、その帯状の範囲は、下記数20によって表わすことが出来る。 【0040】 【数20】 Cop=-0.49Cos+2.62±1.5 【0041】 更に、上記数20を中心周波数f0(MHz)で規格化すると、下記数21が得られる。 【数21】 Cop=-0.49Cos+(4978±2850)/f0 【0042】 図5は、ニオブ酸リチウム基板を用いた中心周波数1.9GHzの共振器結合型弾性表面波フィルターについて、試作品による実験の結果を図4と同様に表わしている。VSWRの測定が2.0以下の条件を満たす試作品は、図中に実線で示す帯状の領域に存在し、その帯状の範囲は、下記数22によって表わすことが出来る。 【0043】 【数22】 Cop=-0.93Cos+2.05±0.75 【0044】 更に、上記数22を中心周波数f0(MHz)で規格化すると、下記数23が得られる。 【数23】 Cop=-0.93Cos+(3895±1425)/f0 【0045】 図6は、四硼酸リチウム基板を用いた中心周波数1.9GHzの共振器結合型弾性表面波フィルターについて、試作品による実験の結果を図4と同様に表わしている。VSWRの測定が2.0以下の条件を満たす試作品は、図中に実線で示す帯状の領域に存在し、その帯状の範囲は、下記数24によって表わすことが出来る。 【0046】 【数24】 Cop=-0.47Cos+1.62±0.48 【0047】 更に、上記数24を中心周波数f0(MHz)で規格化すると、下記数25が得られる。 【数25】 Cop=-0.47Cos+(3078±912)/f0 【0048】 従って、基板の材質に応じて、共振周波数差Δfを、上記数14、数16或いは数18で規定される範囲に決定することによって、通過帯域内特性におけるリップルが2.0dB以下に抑えられると同時に、挿入損失が5.0dB以下に抑えられる。 更に、直列腕共振器と並列腕共振器の静電容量を、上記数21、数23或いは数25で規定される帯状範囲に設定することによって、VSWRが2.0以下に抑えられる。 【0049】 図7は、上記設計パラメータの決定方法に基づいて、共振器結合型弾性表面波フィルターを実際に設計する際の手順を表わしている。 先ずステップS1にて、要求されるフィルターの仕様に基づいて、中心周波数f0と、帯域外抑圧Dが決まる(図10参照)。次にステップS2にて、予め判明している帯域外抑圧と静電容量比の関係(例えば直線関係)から、前記決定された帯域外抑圧(例えば20dB)に応じた静電容量比P(例えば0.75)が決まる。 【0050】 続いて、ステップS3にて、決定された静電容量比Pを満足し、且つ上記数21、数23或いは数25によって規定される帯状範囲に含まれることとなる、直列腕共振器の静電容量Cos及び並列腕共振器の静電容量Copの値を決定する。例えば図4からは、P=0.75のとき、Cop=1.2、Cos=1.6に決定することが出来る。 【0051】 その後、ステップS4にて、上記数19を用いて、電極の開口長W及び対数Nを決定する。例えば、並列腕については、Cop=1.2から、W=80μm、N=38が得られ、直列腕については、Cos=1.6から、W=40μm、N=100が得られる。 【0052】 一方、ステップS5では、決定された中心周波数f0及び静電容量比Pから、上記数14、数16或いは数18に基づいて、共振周波数差Δfを決定する。例えばP=0.75の場合、図1からは、Δf=30MHzが得られる。 【0053】 次に、ステップS6にて、電極ピッチを決定する。この際、中心周波数f0の近傍値として、直列腕共振器の共振周波数frs(≒f0)を決定し、この決定された共振周波数差Δfから、並列腕共振器の共振周波数frp(=frs-Δf)を決定する。そして、これらの共振周波数から、直列腕共振器及び並列腕共振器の電極ピッチ、更には電極幅及び電極間のスペースを決定する。 【0054】 上記設計手法によれば、リップルを2.0dB以下、挿入損失を5.0dB以下に抑えると同時に、VSWRを2.0以下に抑えることの出来る、高性能の弾性表面波フィルターを容易に設計することが出来る。 【0055】 上記実施の形態の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。 【図面の簡単な説明】 【図1】 タンタル酸リチウム基板を用いた弾性表面波フィルターにおいて、横軸に静電容量比P、縦軸に共振周波数差Δfをとって、リップル及び挿入損失に関する条件の適否とその限界を表わすグラフである。 【図2】 ニオブ酸リチウム基板を用いた弾性表面波フィルターについての同上のグラフである。 【図3】 四硼酸リチウム基板を用いた弾性表面波フィルターについての同上のグラフである。 【図4】 タンタル酸リチウム基板を用いた弾性表面波フィルターにおいて、横軸に直列腕共振器の静電容量Cos、縦軸に並列腕共振器の静電容量Copをとって、VSWRに関する条件の適否とその限界を表わすグラフである。 【図5】 ニオブ酸リチウム基板を用いた弾性表面波フィルターについての同上のグラフである。 【図6】 四硼酸リチウム基板を用いた弾性表面波フィルターについての同上のグラフである。 【図7】 本発明に係る弾性表面波フィルターの設計手順を表わすフローチャートである。 【図8】 共振器結合型弾性表面波フィルターの基本構成を示す図である。 【図9】 1ポート共振器の電極構成を示す図である。 【図10】 共振周波数差Δfとリップル及び挿入損失との関係を説明するグラフである。 【符号の説明】 (1)基板 (2)簾状電極 (3)格子状反射器 (4)直列腕 (5)並列腕 (6)直列腕共振器 (7)並列腕共振器 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-09-08 |
出願番号 | 特願平8-88645 |
審決分類 |
P
1
652・
537-
YA
(H03H)
P 1 652・ 536- YA (H03H) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
吉村 宅衛 |
特許庁審判官 |
和田 志郎 矢島 伸一 |
登録日 | 2003-06-13 |
登録番号 | 特許第3439294号(P3439294) |
権利者 | 三洋電機株式会社 清水 康敬 |
発明の名称 | 弾性表面波フィルター |
代理人 | 西岡 伸泰 |
代理人 | 西岡 伸泰 |
代理人 | 西岡 伸泰 |