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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61J
審判 全部申し立て 特39条先願  A61J
管理番号 1107856
異議申立番号 異議2001-70581  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-01-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-02-21 
確定日 2004-09-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3079403号「複室容器」の請求項1ないし12に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3079403号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3079403号の請求項1〜12に係る発明は、平成5年2月28日に特許出願(特願平5-64669号,特願平4-140113号に基づく優先権主張:平成4年5月3日)され、平成12年6月23日に特許権の設定登録がなされた。
その後、請求項1〜12に係る特許(以下「本件特許」という。)について、申立人・河合勇より特許異議の申立て(以下、「本件特許異議申立て」という。)がなされ、異議2001-70581号事件として特許庁に係属し、本件特許の特許権者である株式会社大塚製薬工場は平成13年11月1日に訂正請求をした。
特許庁は本件特許異議申立てについて平成14年5月28日に、訂正請求は認めないとした上、「特許第3079403号の請求項1ないし12に係る特許を取り消す。」との決定をした。
この決定に対し、平成14年7月15日に東京高等裁判所に訴えの提起〔平成14年(行ケ)第358号〕がなされ、平成16年5月19日に「特許庁が異議2001-70581号事件について平成14年5月28日にした決定を取り消す。」との判決(以下、「本件判決」という。)が言渡されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1〜3中の「内壁と外壁との前記空間部内には乾燥剤と脱酸素剤のいずれをも封入しないようにする」を全て「内壁と外壁との前記空間部には空気、不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入する」と訂正する。
(訂正事項2)
旧請求項5,9,10を削除する。
(訂正事項3)
旧請求項6,7,8,11,12の項番をそれぞれ請求項5,6,7,8,9と訂正するとともに、旧請求項6で引用する旧請求項5を請求項4と、旧請求項11で引用する旧請求項10を請求項7と、旧請求項12で引用する旧請求項6を請求項5とそれぞれ訂正する。
(訂正事項4)
発明の詳細な説明の段落【0004】第9〜11行,第21〜23行,第34〜35行の「内壁と外壁との前記空間部内には乾燥剤と脱酸素剤のいずれをも封入しないようにする」との記載を、全て「内壁と外壁との前記空間部には空気、不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入する」と訂正する。
(訂正事項5)
発明の詳細な説明の段落【0004】第45〜47行の「E A項〜D項のいずれか1項・・・封入するようにした複室容器」を削除する。
(訂正事項6)
発明の詳細な説明の段落【0004】第48行の「F A項ないしE項」との記載を「E A項ないしD項」と訂正する。
(訂正事項7)
発明の詳細な説明の段落【0004】第52行の「G」との記載を「F」と訂正する。
(訂正事項8)
発明の詳細な説明の段落【0004】第59行の「H」との記載を「G」と訂正する。
(訂正事項9)
発明の詳細な説明の段落【0004】第67〜82行の「I 液剤・・・I項のいずれか1項に記載の複室容器。」との記載を削除する。
(訂正事項10)
発明の詳細な説明の段落【0004】第83行の「K」との記載を「H」と訂正する。
(訂正事項11)
発明の詳細な説明の段落【0004】第85行の「J」との記載を「G」と訂正する。
(訂正事項12)
発明の詳細な説明の段落【0004】第87行の「L」との記載を「I」と訂正する。
(訂正事項13)
発明の詳細な説明の段落【0004】第89行の「F」との記載を「E」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
本件判決は、上記訂正事項1が新規事項を含むものであるか否かについて大略次の通り説示した。
本件の設定登録時の明細書(以下、願書に添付した図面と併せて「本件明細書」という。)には、「内壁14内の空間部13に易酸化性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を封入する場合は、内壁14と外壁12の空間部15には窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを封入することが好ましい。また内壁14内の室に吸湿性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を封入する場合は、前記空間部15には乾燥空気、乾燥窒素ガス等の乾燥ガスを封入してもよい。不活性ガスを封入した場合は空間部15内の空気を不活性ガスで置換するので酸化防止の効果がさらに確実であり、乾燥ガスを封入した場合は空間部15内の空気が乾燥ガスと置換されるので、防湿の効果がさらに確実である。」(段落【0013】)、「請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の複室容器において、前記外壁と前記内壁との空間部には不活性ガスもしくは乾燥ガスを封入するようにした複室容器」(【請求項5】)との記載がある。また、【図6】には、段落【0010】の工程(イ)〜(ホ)にそれぞれ対応する説明図(イ)〜(ホ)の5図面があるが、【図6】の(ニ)には、段落【0010】の工程(ニ)に対応して、空室部30を形成する多層フィルム(内壁)とバリアーフィルムからなる多層フィルム32(外壁)との間に形成された空間部が何も入れられていない状態で、また、【図6】の(ホ)には、同じく工程(ホ)に対応して、粉末薬剤8が内壁内側の空間部に入れられ、側部(充填口)がシールされた状態が、それぞれ図示されている。 上記記載によれば、内壁14と外壁12の間の空間部15に封入される気体としては、「窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等の不活性ガス」及び「乾燥空気、乾燥窒素ガス等の乾燥ガス」が例示されている。さらに「空気のみ」とすることについても、【図6】の(ニ)に、内壁と外壁との間に形成された空間部に何も入れられていない状態が図示されており、通常の工場生産は、特に断りのない限り、大気中で行われることに鑑みれば、実施例の工程(イ)〜(ホ)が行われる場所は大気中であるから、工程(ニ)において、【図6】の(ニ)に図示された内壁と外壁との間に形成された空間部に空気が存在すること及び工程(ホ)で充填口がシールされる結果、閉じられた内壁と外壁との間の空間部には、空気のみが封入されることも、上記記載事項から明らかであって、新規事項の追加に該当しない。
上記説示を踏まえると、訂正事項1は新規事項の追加に該当しないものであり、さらに当該訂正事項1は、発明を特定する事項である空間部内に封入されるものを直列的に付加したものであるから特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。
したがって、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

さらに、訂正事項2は請求項の削除であり、訂正事項3は訂正事項2に伴う項番の変更であるから、訂正事項2は特許請求の範囲の減縮を、訂正事項3は明りょうでない記載の釈明をそれぞれ目的とするものであり、いずれも新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

また、訂正事項4〜13は上記訂正事項1ないし3との整合を図るものであるから、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

2-3.むすび
したがって、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明の内容
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件発明は訂正明細書の請求項1〜9に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

【請求項1】
液剤,粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において,前記複数の室中の一部の室は室全体を空間部を有して密封状態に覆う少なくとも水分非透過性の外壁と,外壁に覆われた前記室を構成する少なくとも水分透過性の内壁とを備え,しかも内壁と外壁との前記空間部内には空気,不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入すると共に,前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は,室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置されて構成されたことを特徴とする複室容器。
【請求項2】液剤,粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において,前記複数の室中の一部の室は室全体を空間部を有して密封状態に覆う少なくともガス非透過性の外壁と,外壁に覆われた前記室を構成する少なくともガス透過性の内壁とを備え,しかも内壁と外壁との前記空間部内には空気,不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入すると共に,前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は,室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置されて構成されたことを特徴とする複室容器。
【請求項3】液剤,粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において,前記複数の室中の一部の室は室全体を空間部を有して密封状態に覆う少なくとも水分非透過性かつガス非透過性の外壁と,外壁に覆われた前記室を構成する少なくとも水分透過性かつガス透過性の内壁とを備え,しかも内壁と外壁との前記空間部内には空気,不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入すると共に,前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は,室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置されて構成されたことを特徴とする複室容器。
【請求項4】請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の複室容器において,前記弱シール部は間隔を隔てて少なくとも2条配置して構成され,弱シール部同士間の中間部に外壁の端部が溶着された複室容器。
【請求項5】請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複室容器において,前記外壁で覆われた前記内壁内の室には易酸化性および/または吸湿性を有する液剤,粉末剤もしくは固形剤を収容するようにした複室容器。
【請求項6】液剤,粉末剤もしくは固形剤を収容するための前記複数の室を備えてなる複室容器本体は可撓性プラスチックフィルムで形成されたプラスチック容器であり,かつ前記弱シール部はプラスチック容器を形成する前記可撓性プラスチックフィルムの内面同士を直接溶着することにより形成されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の複室容器。
【請求項7】液剤,粉末剤もしくは固形剤を収容するための前記複数の室を備えてなる複室容器本体は可撓性プラスチックフィルムで形成されたプラスチック容器であり,かつ前記弱シール部はプラスチック容器を形成する前記可撓性プラスチックフィルムの内面同士を該内面同士間に挟持されたインサートフィルムを介して溶着することにより形成されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の複室容器。
【請求項8】前記外壁は,内壁内の室の前後両面のうちのいずれか一面側を覆う部分がアルミラミネートフィルムにより形成されている請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の複室容器。
【請求項9】前記外壁で覆われた内壁内の室に収容される易酸化性および/または吸湿性を有する物質が抗生物質である請求項5記載の複室容器。

4.申立ての理由の概要
申立人河合勇は、本件特許請求の範囲1〜9に係る発明(以下、「本件発明1〜9」という。)は、本件特許出願の優先日前に出願された特許出願である特願平3-274849号(特許第3060133号公報:甲第1号証)に係る発明または同じく本件特許出願の優先日前に出願された特許出願である特願平3-274848号(特許3060132号公報:甲第2号証)に係る発明と同一であり、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができないとの理由(以下、「異議理由1」という。)並びに本件発明1〜9は甲第3号証(特表昭61-500055号公報)、甲第4号証(実公平2-11342号公報)、甲第5号証(特開昭62-221352号公報)、甲第6号証(特開平2-4671号公報)及び甲第7号証(実願昭54-117265号(実開昭56-53062号)のマイクロフィルム)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとの理由(以下、「異議理由2」という。)から、本件発明1〜9に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

5.異議理由1について
5-1.甲第1、2号証の発明
(a)甲第1号証(特願平3-274849号(特許3060133号公報))に係る発明は以下のとおりである。
【請求項1】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う少なくとも水分非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくとも水分透過性の内壁とを備え、かつ内壁と外壁との空間部には乾燥剤を封入すると共に、前記内壁内の室には少なくとも吸湿性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を封入するように構成したことを特徴とする複室容器。
【請求項2】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う少なくともガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくともガス透過性の内壁とを備え、かつ内壁と外壁との空間部には脱酸素剤を封入すると共に、前記内壁内の室には少なくとも易酸化性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を封入するように構成したことを特徴とする複室容器。
【請求項3】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う水分非透過性、かつガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する水分透過性、かつガス透過性の内壁とを備え、かつ内壁と外壁との空間部には乾燥剤を封入すると共に、前記内壁内の室には少なくとも吸湿性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を封入するように構成したことを特徴とする複室容器。
【請求項4】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う水分非透過性、かつガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する水分透過性、かつガス透過性の内壁とを備え、かつ内壁と外壁との空間部には脱酸素剤を封入すると共に、前記内壁内の室には少なくとも易酸化性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を封入するように構成したことを特徴とする複室容器。
【請求項5】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う水分非透過性、かつガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する水分透過性、かつガス透過性の内壁とを備え、かつ内壁と外壁との空間部には乾燥剤および脱酸素剤を封入すると共に、前記内壁内の室には吸湿性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤および易酸化性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を封入するように構成したことを特徴とする複室容器。
【請求項6】 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の複室容器において、前記連通可能な仕切り手段は複室容器を形成する可撓性シートの内面同士を直接溶着するようにした直接溶着方式、可撓性シート間に多層のインサートフィルムを挟持した状態で溶着するようにした多層インサートフィルム挟持熱溶着方式および各室を仕切るシール部に隣室に通ずる連通孔を設けると共に連通孔に閉塞されたパイプを連設し、パイプを折損することにより両室の連通を可能としたパイプ折損方式の中から選ばれた1つの方式により構成された複室容器。
【請求項7】 請求項1〜請求項6いずれか1項に記載の複室容器において、前記外壁で覆われた室内には粉末剤を収容し、外壁で覆われない室内には液剤を収容するようにした複室容器。
【請求項8】 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の複室容器において、前記外壁で覆われた室には液剤を収容し、外壁で覆われない室には粉末剤を収容するようにした複室容器。
【請求項9】 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の複室容器において、前記外壁で覆われた室には液剤を収容し、外壁で覆われない室には他の液剤を収容するようにした複室容器。

(b)甲第2号証(特願平3-274848号(特許3060132号公報))に係る発明は以下のとおりである。
【請求項1】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器であって、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う少なくとも水分非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくとも水分透過性の内壁とを備え、かつ内壁と外壁との空間部には乾燥剤を封入した複室容器において、
前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が間隔を隔てて少なくとも2条配置されて構成され、さらに弱シール部同士間の中間部に外壁の端部が溶着されたことを特徴とする複室容器。
【請求項2】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器であって、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う少なくともガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくともガス透過性の内壁とを備え、かつ内壁と外壁との空間部には脱酸素剤を封入した複室容器において、
前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が間隔を隔てて少なくとも2条配置されて構成され、さらに弱シール部同士間の中間部に外壁の端部が溶着されたことを特徴とする複室容器。
【請求項3】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器であって、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う水分非透過性、かつガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する水分透過性、かつガス透過性の内壁とを備え、内壁と外壁との空間部には乾燥剤を封入した複室容器において、
前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が間隔を隔てて少なくとも2条配置されて構成され、さらに弱シール部同士間の中間部に外壁の端部が溶着されたことを特徴とする複室容器。
【請求項4】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器であって、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う水分非透過性、かつガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する水分透過性、かつガス透過性の内壁とを備え、内壁と外壁との空間部には脱酸素剤を封入した複室容器において、
前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が間隔を隔てて少なくとも2条配置されて構成され、さらに弱シール部同士間の中間部に外壁の端部が溶着されたことを特徴とする複室容器。
【請求項5】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器であって、前記複数の室中の一部の室全体を密封状態に覆う水分非透過性、かつガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する水分透過性、かつガス透過性の内壁とを備え、内壁と外壁との空間部には乾燥剤および脱酸素剤を封入した複室容器において、
前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が間隔を隔てて少なくとも2条配置されて構成され、さらに弱シール部同士間の中間部に外壁の端部が溶着されたことを特徴とする複室容器。
【請求項6】 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の複室容器において、前記弱シール部は複室容器を形成する可撓性シートの内面同士を直接溶着させる直接溶着方式または可撓性シートの内面間に多層のフィルムを挿入しこれを挟んだ状態で溶着するようにした多層インサートフィルム挟持溶着方式により構成された複室容器。
【請求項7】 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の複室容器において、前記外壁で覆われた室内には粉末剤を収容し、外壁で覆われない室内には液剤を収容するようにした複室容器。
【請求項8】 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の複室容器において、前記外壁で覆われた室には液剤を収容し、外壁で覆われない室には粉末剤を収容するようにした複室容器。
【請求項9】 請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の複室容器において、前記外壁で覆われた室には液剤を収容し、外壁で覆われない室には他の液剤を収容するようにした複室容器。

5-2.対比・判断
本件発明1〜9が備える「空間部内には空気,不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入する」点(以下、「相違点1」という。)は、甲第1号証に係る特許出願の請求項1〜9に記載された発明ないし甲第2号証に係る特許出願の請求項1〜9に記載された発明のいずれも備えておらず、また自明ということもできない。したがって、その余の構成について検討するまでもなく、本件発明1〜9は甲第1号証に係る特許出願の請求項1〜9に記載された発明ないし甲第2号証に係る特許出願の請求項1〜9に記載された発明のいずれとも同一でない。

5-3.結論
以上のとおりであるから、異議理由1及び甲第1,2号証によっては本件発明1〜9についての特許を取り消すことはできない。

6.異議理由2について
6-1.甲第3号証の発明
(c)甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
(c-1)「二成分を貯蔵中別々に維持することに加え、該二成分を無菌条件で閉鎖系内において選択的に混合するための速いそして容易な手段に対して需要が存在する。ヒートシールが容器を二つまたはそれ以上の室に分割している、可撓性プラスチックシートの多数室容器を提供することは公知である。」(第3頁右下欄第18〜22行)
(c-2)「さらに、アミノ酸およびデキストロースを二つの室に貯蔵する時のような医療用途においては、容器壁を通って室内への酸素透過を制限することも、容器壁を通りそして隔膜シート104を横断する水分透過を制限することと同様に重要である。さらに重要な実例は、例えば第1の室124内にデキストロースまたは食塩水を、そして第2の室128内に粉末薬剤を貯蔵するための容器100の使用を含む。この用途においては、水分が乾燥した薬剤を収容している第2の室128中へ実質上透過しないことが必要である。第1の室中の溶液から共通部分104をこえて第2の室へ水分の透過を制限するためには、容器の製造に、そして特に第2の隔膜シート104の製造に種々のラミネートを使用することが望ましい。例外的な水分および気体透過障壁の二つの例は、サランおよびアルミニウム箔である。第2のシート104は、例えば、サランまたは箔または他の高い障壁性材料から製造し、第1および第2のシート102,104間に適正なシールを許容するために、隔膜シート104の内表面112を内表面108の材料に類似した熱可塑性材料として維持することを許容することができる。
しかしながら、第1および第3のシート102,106は、第2のシート104と同様に材料の少なくとも2層またはそれ以上よりなるラミネート構造となし得ることを思い出すべきである。これは、アミノ酸溶液とデキストロース溶液とが二つの室124,128に貯蔵し得る時のように、医療分野において特に重要である。この場合、容器中へ壁を通って空気の透過を防止し、そして容器の外へ液体の損失を防止することが望ましい。」(第9頁左上欄第9行〜右上欄第7行)
(c-3)「看護婦または他のオペレーターは、単に第1および第3のシート(すなわち、容器の外壁)をつかみ、そして破り得る固着線の近くでそれらを反対方向に引張り、二つのシートを人手で引離すことにより、二つの成分を選択的に混合することができる。この操作は破り得る固着線120と、従って第2のシート104を破り、第11A図に最良に示すように、第1および第2の室124,128を開いた連通に置くであろう。」(第9頁右上欄第18〜24行)
(c-4)「上で議論したように、サランおよび箔のような実質上絶対的な水分、空気および無菌性障壁を使用するラミネート構造は、容器に医療用物質が貯蔵される時に使用し得る。しかしながら、ラミネート構造が使用される時、透明シートを維持する機会が減る。これは材料の多様性、例えば箔と、そして構造中に種々の層が存在する事実のためである。しかしながら、混合前オペレーターが容器中味が良い状態にあることを確認するため、各室の中味を目視検査することが望ましいであろう。これは容器が医療用物質を貯蔵するために使用される時に特に重要である。乾燥粉末薬剤を収容している室を少しでも水分の存在のために、また他の例として、すぐれた発育培地であるアミノ酸を収容している室を検査することは特に望ましいであろう。この問題の解決法が第23ないし26図に図示されている。第24図に示した容器268は、第1および第3のシート270,274と、第2の隔膜シート272を含む。チューブ状ポートアセンブリ276は第2の室280と連通する。第1の室278と第2の室280とは破り得る固着線282と、そして永久固着線284によって分離される。破り得る固着線282は独特なシール線34とすることができる。一例として、第1の室278中に貯蔵される第1の成分286は粉末薬剤とし、第2の室280中に貯蔵される第2の成分は食塩水とすることができる。第2の室280から第1の室278への水分透過を防止し、そして第1および第2の室と環境との間の水蒸気透過を最小にするため、第1および第2のシート270,272は、例えば、ポリ塩化ビニルの内表面および外表面と、そしてアルミ箔の中間層を含むラミネート構造とすることができる。容器中味の目視検査を許容するため、第3のシート274はポリ塩化ビニル配合物のみでつくった時のように、透明であることができる。時間がたつにつれ、微量の気体および水分透過が、GMPのもとでなお許容し得るような微量において、第2の室中の食塩水と環境との間で発生し得る。しかしながら、粉末薬剤収容室278への少量の水分の透過は許されない。従って容器268は、アルミ箔292の外層と接着剤内層を含み得る剥離し得る障壁セグメント290を含む。この剥離し得る障壁セグメントは、第1の室278の外壁を形成する第3のシートの部分へ内側接着剤294を持って固着される。好ましくは、剥離し得る障壁セグメント290はまた、破り得るそして永久固着線282,284の上に延びている。容器中味を混合するため破り得る固着線282を破る前に、看護婦またはオペレーターは、第3のシート274を通して粉末薬剤286を検査するため、剥離し得る障壁セグメントの一部または全部を単に剥ぎ取ることができる。第25図は、第3のシート274上の剥離し得る障壁セグメント290の配置を概略的に図示する、容器268の破断図である。第26図は、容器268の代替具体例である容器296を図示する。容器296は、第1.第2および第3のシート302,304および306を含む。第26図は第1および第2の剥離しうる障壁セグメント298,300を概略的に図示する。第2の剥離し得る障壁セグメント300は、容器268の剥離し得る障壁セグメント290と同様に、第3のシート306の第1の室308の外壁を形成する部分の上に配置される。第1の剥離し得る障壁セグメント298は第1のシート304の第1の室308の反対壁を形成する部分の上に配置される。容器296は乾燥粉末薬剤を、第1の室308に貯蔵される第1の成分(図示せず)として貯蔵することができる。第2の室310は食塩水を第2の成分(図示せず)として含むことができる。容器296はまた、破り得るおよび永久固着線312,314を含むことができる。容器296に示した具体例は、三つのすべてのシートのため、ポリ塩化ビニルのような比較的な安価な材料をラミネート構造の必要なしに使用することを許容する。剥離し得る障壁セグメント298,300は、環境と第1の室308間の水分または蒸気透過を防止するであろう。水分がそれを通って第1の室308中へ通過し得る唯一の区域は第2の隔膜シート304の共通部分304Cである。共通部分304Cを横断して第2の室から第1の室への水分透過は、もし第2のシート304が適当な障壁材料を含んでいない場合にのみ発生するであろう。第2の隔膜シートのために比較的安価なストレートPVCが使用される時は、この共通部分304Cを横断する水分透過は、多数の破り得るおよび永久線および容器192,226の室214,254,264のような中間障壁または無人地帯を含む二重障壁構造を使用することによって最小にすることができる。また、共通部分304Cを持った第26図に図示した単一障壁が、第1の成分は非常に乾燥して、しかし絶対乾燥でなく維持されなければならない場合のように、剥離し得る障壁セグメント298,300と共に許容し得る場合、または貯蔵時間が比較的短く、共通部分304Cを通る透過問題が最小化される場合にも適用が存在するであろう。容器の第1および第3のシート100,166,192,226,268および296のための高コストラミネート構造における高い障壁性質材料を排除することができ、そして粉末薬剤のような医療物質をその中に貯蔵する時でさえも、一層のPVCまたはEVAのような比較的低コストの材料で置き換えることができ、そしてもし全体の容器を気体および水分障壁外袋中に包装するならば、剥離し得る障壁セグメントを使用する必要はない。しかしながら、上に論じた適切なラミネート構造の使用、およびラミネート構造と組合せて、またはその代わりとして剥離し得る障壁構造の使用は、水分障壁外袋の使用を完全に排除することができ、そのため医療用途のためにさえ適当な高品質容器を維持しながら、製品コストを実質的に減少する。」(第11頁右下欄第22行〜第12頁右下欄第7行)
(c-5)図26からみて「第1の室308は第2のシートと第3のシートの間に形成されるとともに第2の室310は第1のシートと第2のシートとの間に形成され、第1の室308に対応する第1のシートと壁面を構成する第2のシートとの間に空間部が形成されていて、この部分には乾燥剤と脱酸素剤のいずれも封入されていない」ことが記載されている。

上記(c-1)〜(c-5)の記載事項からみて、甲第3号証には以下の発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されていると認める。

「溶液と粉末薬剤とを収容するための二つの室が破り得る固着線と永久固着線とによって分離される可撓性プラスチックシートの多数室容器において、第1の室308は第2のシートと第3のシートの間に形成されるとともに第2の室310は第1のシートと第2のシートとの間に形成され、第1の室308は環境との間の水分または蒸気透過を防止する第1および第2の剥離しうる障壁セグメント298,300と、第1の剥離しうる障壁セグメント298は第1のシートの第1の室の反対壁を形成する部分の上に配置され、第1のシートと第1の室308の壁面を構成する第2のシートとの間に空間部が形成されていて、前記空間部には乾燥剤と脱酸素剤のいずれも封入されていないと共に、第2の剥離しうる障壁セグメント300は第3のシートの第1の室308の外壁を形成する部分の上に形成され、第2の室310と第1の室308とを分離する破り得る固着線282と永久固着線284は、第1のシートおよび第3のシートをつかみ、そして破り得る固着線の近くでそれらを反対方向に引張り、二つのシートを人手で引離すことにより第2のシートを破ることができる破り得る固着線282を備えたことを特徴とする複室容器。」

6-2.対比・判断
本件発明1と甲第3号証発明とを対比すると、その機能ないし作用効果等から見て、後者の「可撓性プラスチックシートの多数室容器」は前者の「可撓性を有する複室容器」に、以下同じく「剥離しうる障壁セグメント」は「少なくとも水分非透過性の外壁」に、「第2のシートおよび第3のシート」は「少なくとも水分透過性の内壁」に、「第2の室310」は「外壁に覆われない室」に、「第1の室308」は「外壁に覆われた室」に、「破り得る固着線と永久固着線」は「連通可能な仕切り手段」に、「破り得る固着線282」は「弱シール部」にそれぞれ相当する。また、後者の「溶液と粉末薬剤とを収容するための二つの室」は前者の「液剤,粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室」ということができる。
さらに、後者の「第1のシートおよび第3のシートをつかみ、そして破り得る固着線の近くでそれらを反対方向に引張り、二つのシートを人手で引離すことにより第2のシートを破る」ことは、前者の「外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置され」ることと、”外圧により破壊しうる弱シール部を設ける”という限度で対応するといえる。
そうすると、本件発明1と甲第3号証発明とは、「液剤,粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において,前記複数の室中の一部の室は空間部を有して覆う少なくとも水分非透過性の外壁と,外壁に覆われた前記室を構成する少なくとも水分透過性の内壁とを備え,前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は外圧により破壊しうる弱シール部を設けて構成されたことを特徴とする複室容器。」という点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。

(相違点)
弱シール部の構成に関して本件発明1では「室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る」ものであるのに対し、甲第3号証発明では「第1のシートおよび第3のシートをつかみ、そして破り得る固着線の近くでそれらを反対方向に引張り、二つのシートを人手で引離すことにより第2のシートを破る」ものである点。

相違点について検討する。
相違点に係る弱シール部の構成に関し、甲第4号証には、”隔室2個を分離している引き裂き可能な結合部13”が記載されており、その第3〜5図の記載も併せみると、「室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る」弱シール部が記載されているものということができる。
また、甲第6号証には、”イージーピールオープン性を有するシールを隔離手段として複数の室に隔離された袋状の容器において、使用時に該容器の外部からの操作により該隔離手段を剥離”することが記載(特に請求項1の記載を参照。)されており、「室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る」弱シール部が記載されているものということができる。
さらに、甲第7号証には、「2種の液体を中仕切によって分割して密封包装して保持でき使用に際しては袋を両側から引張り中仕切のシール部を剥離し、2種の液体を混合することができる。このとき中仕切のシール部が袋の縁辺のシールより弱くシールされているため、袋が破けることなく、また袋の縁辺のシール部が剥がれることなく、容易に中仕切のシール部を剥離することができる。」(明細書第3頁第17行〜第4頁第5行)との記載があり、「室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る」弱シール部が記載されているものということができる。
ところで、甲第3号証発明をみると、第1の室308は第2のシートと第3のシートの間に形成されるとともに第2の室310は第1のシートと第2のシートとの間に形成されていることから、第1の室308と第2の室310を連通するためには、破り得る固着線の近くで第1のシートおよび第3のシートを反対方向に引張り、第1の室308と第2の室310とを隔てる第2のシートを破る必要がある。してみると、甲第3号証発明において、甲第4、6及び7号証に記載された「室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る」弱シール部を採用したとしても、第1の室308と第2の室310を連通することはできず、本件発明1に係る複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器とすることはできない。
また、甲第3号証発明において、複室容器全体の構成を甲第6号証または甲第7号証のように、複数の室を弱シール部のみを隔てて連通するようにした場合、第1〜3の3枚のシートで複室容器を構成する必要はなく、第1の室308と第2の室310を形成するためには2枚のシートで構成することとなる。そうすると、3枚のシートで構成されることにより形成されていた第1の室308に対応する第1のシートと壁面を構成する第2のシートとの間の空間部を構成し得ず、本件発明1の構成要件である空間部を欠くこととなる。
また、甲第5号証に薬液を充填した容器の周りに空間部を設け、該空間部に不活性ガスを封入した点が記載されていたとしても、上記のように空間部を構成し得ない以上、これを適用することもできない。
そして、本件発明1は、外壁内に脱酸素剤や乾燥剤を封入しなくても、酸化防止手段を施す必要がある室を外部から隔離することができる複室容器を簡単な構成で安価に得ることができるという顕著な効果を奏する。
したがって、甲第3号証発明に甲第4〜7号証に記載された発明を適用して、本件発明1とすることは、当業者が容易に想到できたということができない。

また、本件発明2は本件発明1の外壁を少なくともガス非透過性、内壁を少なくともガス透過性と、さらに本件発明3は本件発明1の外壁を少なくとも水分非透過性かつガス非透過性、内壁を少なくとも水分透過性かつガス透過性と、それぞれ変更したものであって、その余の構成は本件発明1と同様であり、さらにまた、本件発明4〜9は、本件発明1〜3を引用したものである。よって、甲第3号証発明に甲第4〜7号証に記載された発明を適用して、本件発明2〜9とすることは、本件発明1について説示したと同様の理由で当業者が容易に想到できたということができない。

6-3.結論
以上のとおりであるから、異議理由2及び甲第3〜7号証によっては本件発明1〜9についての特許を取り消すことはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1〜9についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜9についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
複室容器
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室は室全体を空間部を有して密封状態に覆う少なくとも水分非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくとも水分透過性の内壁とを備え、しかも内壁と外壁との前記空間部内には空気、不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入すると共に、前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置されて構成されたことを特徴とする複室容器。
【請求項2】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室は室全体を空間部を有して密封状態に覆う少なくともガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくともガス透過性の内壁とを備え、しかも内壁と外壁との前記空間部内には空気、不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入すると共に、前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置されて構成されたことを特徴とする複室容器。
【請求項3】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室は室全体を空間部を有して密封状態に覆う少なくとも水分非透過性かつガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくとも水分透過性かつガス透過性の内壁とを備え、しかも内壁と外壁との前記空間部内には空気、不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入すると共に、前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置されて構成されたことを特徴とする複室容器。
【請求項4】 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の複室容器において、前記弱シール部は間隔を隔てて少なくとも2条配置して構成され、弱シール部同士間の中間部に外壁の端部が溶着された複室容器。
【請求項5】 請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の複室容器において、前記外壁で覆われた前記内壁内の室には易酸化性および/または吸湿性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するようにした複室容器。
【請求項6】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための前記複数の室を備えてなる複室容器本体は可撓性プラスチックフィルムで形成されたプラスチック容器であり、かつ前記弱シール部はプラスチック容器を形成する前記可撓性プラスチックフィルムの内面同士を直接溶着することにより形成されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の複室容器。
【請求項7】 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための前記複数の室を備えてなる複室容器本体は可撓性プラスチックフィルムで形成されたプラスチック容器であり、かつ前記弱シール部はプラスチック容器を形成する前記可撓性プラスチックフィルムの内面同士を該内面同士間に挟持されたインサートフィルムを介して溶着することにより形成されている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の複室容器。
【請求項8】 前記外壁は、内壁内の室の前後両面のうちのいずれか一面側を覆う部分がアルミラミネートフィルムにより形成されている請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の複室容器。
【請求項9】 前記外壁で覆われた内壁内の室に収容される易酸化性および/または吸湿性を有する物質が抗生物質である請求項5記載の複室容器。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は液剤、粉末剤もしくは固形剤を別個に封入する可撓性複室容器の改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
複室容器で易酸化性や吸湿性を有する物質を保存する場合、水分・ガスバリアー性フィルムで複室容器全体を覆うとすれば、水分・ガスバリアー性フィルムが高価でコストが高く付くので、必要とする室のみを水分・ガスバリアー性フィルムの外壁で覆うと共に、前記物質を収容するための室を構成する内壁として水分・ガス透過性フィルムを使用し、かつ外壁、内壁間の空間部に脱酸素剤や乾燥剤を収容するようにした複室容器が提案されている(特願平3ー274849号参照)。
また、内壁を外壁で覆う際、溶着により形成された各室の弱シール部(仕切部)の上に重ねて溶着することになるので、溶着強度が大きくなり、剥離しにくく、使用し難くなるおそれがあることから、これを回避するために前記弱シール部(仕切部)を少なくとも2条とし、その条間に外壁の端部を溶着するようにした複室容器が提案されている(特願平3ー274848号参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、このような複室容器は脱酸素剤や乾燥剤を外壁と内壁との空間部に封入するので、コストが高くなるなどの問題点があった。本願発明者らは種々研究をつづけているうちに、複室容器において脱酸素剤や乾燥剤の封入を省略した場合においても、内壁に囲まれた室内に収容された物質に対して、内壁と水分・ガスバリアー性フィルムの外壁とからなる二重構造が吸湿防止や酸化防止の一定の効果があることを見いだし、本願発明を完成した。
本発明はこのような事情を背景としてなされたものであり、本発明の目的は吸湿性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤、または易酸化性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容した室のみを外部の水分や酸素から遮断すると共に、脱酸素剤や乾燥剤を封入することなく、前記物質の酸化防止や吸湿防止を図り得るようににした複室容器を提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明はこのような目的を達成するためになされたものであり、本発明は下記通り構成されている。
A.液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室は室全体を空間部を有して密封状態に覆う少なくとも水分非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくとも水分透過性の内壁とを備え、しかも内壁と外壁との前記空間部内には空気、不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入すると共に、前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置されて構成されたことを特徴とする複室容器。
B 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室は室全体を空間部を有して密封状態に覆う少なくともガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくともガス透過性の内壁とを備え、しかも内壁と外壁との前記空間部内には空気、不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入すると共に、前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置されて構成されたことを特徴とする複室容器。
C 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための複数の室が連通可能な仕切り手段で仕切られてなる可撓性を有する複室容器において、前記複数の室中の一部の室は室全体を空間部を有して密封状態に覆う少なくとも水分非透過性かつガス非透過性の外壁と、外壁に覆われた前記室を構成する少なくとも水分透過性かつガス透過性の内壁とを備え、しかも内壁と外壁との前記空間部内には空気、不活性ガスもしくは乾燥ガスのみを封入すると共に、前記外壁に覆われない室とこの室に隣接しかつ外壁に覆われた室との仕切り手段は、室に外圧を加えることにより容易に剥離し得る弱シール部が1条もしくは2条以上配置されて構成されたことを特徴とする複室容器。
D A項〜C項のいずれか1項に記載の複室容器において、前記弱シール部は間隔を隔てて少なくとも2条配置して構成され、弱シール部同士間の中間部に外壁の端部が溶着された複室容器。
E A項ないしD項のいずれか1項に記載の複室容器において、前記外壁で覆われた前記内壁内の室には易酸化性および/または吸湿性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するようにした複室容器。
F 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための前記複数の室を備えてなる複室容器本体は可撓性プラスチックフィルムで形成されたプラスチック容器であり、かつ前記弱シール部はプラスチック容器を形成する前記可撓性プラスチックフィルムの内面同士を直接溶着することにより形成されているA項〜C項のいずれか1項に記載の複室容器。
G 液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容するための前記複数の室を備えてなる複室容器本体は可撓性プラスチックフィルムで形成されたプラスチック容器であり、かつ前記弱シール部はプラスチック容器を形成する前記可撓性プラスチックフィルムの内面同士を該内面同士間に挟持されたインサートフィルムを介して溶着することにより形成されているA項〜C項のいずれか1項に記載の複室容器。
H 前記外壁は、内壁内の室の前後両面のうちのいずれか一面側を覆う部分がアルミラミネートフィルムにより形成されているA項ないしG項のいずれか1項に記載の複室容器。
I 前記外壁で覆われた内壁内の室に収容される易酸化性および/または吸湿性を有する物質が抗生物質であるE項記載の複室容器。
【0005】
【作用】
上記のように構成された本発明によれば、吸湿性や易酸化性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を収容する室は、水分・ガスバリアー性フィルムの外壁と内壁との二重壁を備えているので、外部の水分や酸素の影響を回避するように働く。
【0006】
【実施例】
以下本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1、図2において、2は吸湿性や易酸化性を有しない液剤、粉末剤もしくは固形剤の物質4を収容する室、6は吸湿性や易酸化性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤の物質8等を収容する側の室である。室2には前記物質4が封入されると共に口部10が取り付けられ、一方室6は外壁12と内壁14の2重壁で構成され、内壁14の内側の空間部13(室)には前記物質8が封入されている。内壁14は図3に示すようにポリエチレン(PE)からなる外層20と、ポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)との混合樹脂からなる内層22との多層フィルムからなり、2枚の多層フィルムが周縁で溶着されて空間部13が形成される。
【0007】
一方室2は、内壁14をなす2枚の前記多層フィルムが下方に伸び、溶着されて構成される。すなわち、前記多層フィルムを2枚重ね合わせ、その周縁部を溶着すると共に、その中間部において横方向に、周縁部より強度が小さくなる状態に溶着し、かつその溶着部は図2、図4に示すように間隔を隔てた2本の筋条をなすようにして、仕切り手段としての弱シール部24、25を形成し、弱シール部24、25を境にして空間部13、室2が形成される。以上のようにして、室2と空間部(室)13とを備えてなる複室容器本体が形成される。なお、複室容器本体のうち、外壁12に覆われた部分が内壁14である。
【0008】
外壁12は図5に示すように、内層26がポリエチレン(PE)で、外層28が水分非透過性、ガス非透過性のバリアフィルムからなる多層フィルムであり、バリアフィルムとして例えばアルミラミネートフィルム、アルミ蒸着フィルム等のアルミ加工フィルムや、ポリ塩化ビニリデンとポリプロピレン(PP)の2重層が使用されている。そして外壁は、内壁14を覆う状態に2枚の上記多層フィルムが配置され、その左右と上部が互いに溶着されると共に、下部が弱シール部24、25間の中間部に溶着され、シールされた構造をなしている。従って、溶着時に弱シール部24、25上に重ねて溶着することが回避でき、弱シール部24、25のイージーピールオープン性を保持できる。というのは、弱シール部の上に重ねて溶着した場合には、溶着強度が増す上に溶着強度にばらつきを生じ、弱シール部の剥離に要する力が、あるときには大きく、あるときにはそれ程でもない等、イージーピールオープン性が損なわれる傾向があるが、前述の方法によればイージーピールオープン性を確実に保持できる。
上述のように外壁は弱シール部同士間の中間部で熱溶着されるので、隣接する室とは弱シール部で隔てられていることから、溶着時にその室内に封入された物質が熱変性することを防止できる。また、誤って外力が加えられ、一つの弱シール部が剥離しても、残余の弱シール部により両側の室間の連通が防止できる。さらに、弱シール部同士間の中間部に外壁を熱溶着するので、その熱溶着の部分が弱シール部に掛からないようにでき、熱溶着の条件設定の自由度が増し、作業を容易に行なうことができる。
【0009】
なお、各部の溶着に当たって溶着温度は、内壁14の周縁部と室2の周縁部とが最も高く、弱シール部24、25はこれより低くする。一方、内壁14と外壁12との溶着部の溶着温度は、弱シール部24、25の中間部の内層フィルム22同士が溶着しない程度、すなわち弱シール部24、25の溶着温度より若干高い温度を限界とするよう設定される。その結果溶着強度は、内壁14、室2、外壁12の各周縁部と、内壁14、外壁12間の接着部とがほぼ等しく、弱シール部24、25はこれらより弱くなる。
【0010】
上記実施例の複室容器は、例えば図6の製造例に従ってつくられる。すなわち、(イ)内層がPEとPPとの混合樹脂で、外層がPEの多層フィルムを2枚重ね合わせ、溶着温度約170〜200℃で3方の周辺シールを行なうと共に中間部を仕切るための2条のシールを溶着温度約110〜130℃で所定間隔を隔てて行ない弱シール部24、25を形成し、さらに口部10を取り付ける。(ロ)ついで、液剤4を充填し、側部(充填口)をシールして高圧蒸気滅菌または熱水滅菌等の加熱殺菌を行なう。(ハ)加熱殺菌後、空室部30の側部を無菌条件下でカットし、充填口を設ける。なお、必要に応じて内部を乾燥する。(ニ)次に、空室部30の外側に内層がPEで外層がポリ塩化ビニリデンとPPの2重層をなす水分非透過性およびガス非透過性のバリアーフィルムからなる多層フィルム32を溶着して取り付ける。なお、弱シール部24、25に沿って溶着する部分は、弱シール部24、25の中間の位置とし、この弱シール部に重ならないようにして130〜135℃で溶着される。(ホ)しかる後、抗生物質などの粉末薬剤8を無菌条件下で内壁内側の空間部に入れ、側部(充填口)をシールする。
なお、弱シール部24、25の形成は、加熱された弱シール部形成用金型をシリンダ装置により押し当てて行なうが、この弱シール部形成用金型は所定間隔を隔てた2本の突条が電源ヒータにより温度調節可能に、かつシリンダ装置により上下動可能とされたものである。
【0011】
以上のように構成された実施例においては、内壁14は外層がPE、内層がPEとPPとの混合樹脂からなる多層フィルムから構成されているので極く微量ながら水分やガスを透過する傾向があるが、外壁12は水分非透過性、ガス非透過性のバリアフィルムで構成されているので、外部の水分や酸素の悪影響を回避できる。また、内壁14、外壁12は透明であり、内部の状態を目視できる。そして、室2に指等で一定の圧力を加えることにより弱シール部24、25が剥離し、室2と空間部13が連通され、物質4と物質8とが無菌状態で混合される。
なお、上記実施例の物質8として例えば、抗生剤、抗癌剤、ステロイド剤ウロキナーゼまたはビタミン剤等の易酸化性、易熱変性の粉末剤等が挙げられ、物質4としてこれらの溶解液または希釈液、例えば生理食塩液あるいはブドウ糖液等の液剤が挙げられる。
【0012】
内壁としては、上記実施例に記載された多層フィルム以外にも、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびこれらの混合樹脂から選ばれる一種以上の組合せによる単層もしくは多層フィルムを使用することも可能である。
例えば、図7に示すように外層31が直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中間層33がLLDPEと低結晶性(非晶性)のエチレン・αーオレフィン系エラストマーとの混合樹脂、内層34がLLDPEとPPの混合樹脂からなる三層フィルム35を挙げることができる。
また、封入する薬剤によっては、内壁の内層に用いられるLLDPEに含まれる低分子量物質と薬剤が経時的に相互作用を起こし、患者に悪影響を及ぼす反応生成物を生ずるおそれがある。そこで内層34に用いられるLLDPEを、例えばベントペレット法等により高温かつ減圧で前処理することによって炭素数約30以下の低分子量物質をある特定量以下に除去し、薬剤と内層フィルムの相互作用を好適に防止することができる。
さらに、フィルムの耐熱性を向上させるために上記三層フィルム35の各層に、必要に応じて適量の高密度ポリエチレン(HDPE)を配合すれば、121℃以上による高圧蒸気滅菌や熱水滅菌等の高温滅菌に耐える成形安定性の優れた複室容器を製造することができる。
外壁にはアルミ加工フィルム、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコール 共重合体(EVOH)、シリカ蒸着フィルムの単層もしくは多層のシートを使用することも可能である。
例えば、図8に示すように外層43が2軸延伸されたPET、中間層44がシリカ蒸着PVA、内層45が低密度ポリエチレン(LDPE)であって、各層間がウレタン系接着樹脂で固定されている三層フィルム46からなる水分非透過性およびガス非透過性のバリアーフィルムを挙げることができる。
しかし、内壁と外壁の接着を良好にするために、少なくとも外壁を多層フィルムとし、外壁の最内層の材質と内壁もしくは内壁の最外層の材質とを同一にすることが望ましい。
前記の例では外壁で覆われた室内に封入される物質8として粉末剤を、外壁で覆われない室内に封入される物質4として液剤を使用する場合を挙げたが、物質8が液剤で、物質4が粉末剤の例としては、例えば液剤としてシステインまたはトリプトファンをそれぞれ添加したアミノ酸液等の易酸化性の物質が挙げられ、粉末剤として糖もしくは電解質、またはこれらの混合物等が挙げられる。物質8が液剤で物質4が他の液剤の例としては、例えば前者の液剤としてシステインまたはトリプトファンをそれぞれ添加したアミノ酸液製剤あるいはビタミン剤の易酸化性または易熱変性の物質が挙げられ、後者の液剤としては糖・電解質液が挙げられる。
また他の例としては、前者の液剤として脂肪乳剤等の易酸化性の物質が、後者の液剤としては糖・電解質液等が挙げられる。
さらに、物質4、8のいずれか一方が固形剤で、他方の物質が液剤であってもよい。さらにまた、上記粉末剤、液剤、固形剤の例として、経静脈または経腸(経管、経口)投与する他の種々の栄養剤や治療剤等が挙げられる。
さらに、物質8が光劣化性を有する場合には、外壁の一部または全部にアルミ加工フィルム、着色フィルム等の遮光フィルムを使用し、内部を遮光するようにしてもよい。なお、外壁に使用されたアルミ加工フィルムは、使用時必要に応じその一部または全部が剥離可能であってもよい。
また、前記実施例は2種類の物質4、8を封入する2室容器の例であるが、2室以上でも適用可能である。図9にその一例を示す。外壁36内には2種の粉末剤(または粉末剤と固形剤)を封入する空間部38、40を有する内壁が配置さている。42は液剤である。粉末剤に限らず液剤および/または固形剤を封入する室を複数個設けることも可能である。
【0013】
内壁14内の空間部13に易酸化を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を封入する場合は、内壁14と外壁12の空間部15には窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを封入することが好ましい。また内壁14内の室に吸湿性を有する液剤、粉末剤もしくは固形剤を封入する場合は、前記空間部15には乾燥空気、乾燥窒素ガス等の乾燥ガスを封入してもよい。不活性ガスを封入した場合は空間部15内の空気を不活性ガスで置換するので酸化防止の効果がさらに確実であり、乾燥ガスを封入した場合は空間部15内の空気が乾燥ガスと置換されるので、防湿の効果がさらに確実である。
上記のように内壁と外壁の空間部に不活性ガスを封入したり、外壁に用いられるバリアーフィルムをよりバリアー性の高いものを用いること等により、従来内壁と外壁の空間部に封入されていた脱酸素剤および/または乾燥剤を使用しなくとも、薬剤の経時安定化を達成することができる。
なお、弱シール部は2条の場合に限らず2条以上としてもよい。また本発明は弱シール部が1条の場合にも適用可能である。さらに、弱シール部は必ずしも直線である必要はなく、例えば、容器中央部付近のシール形状をV字形をなすように形成してもよい。こうすれば使用時に一方の室に手で押圧を加えて弱シール部を剥離する場合、圧力がV字形の部分に一時的に集まり、剥離のきっかけを与えることができるため、比較的軽い押圧で両方の薬剤を混合することができる。但し、この場合、本発明の複室容器の保存または輸送時における不慮の剥離を引き起こす危険もあるところから、溶着条件を特に吟味することが望ましい。
【0014】
また、前記実施例では、弱シール部の形成は内壁を構成する2枚のシートの内面同士を直接溶着する、いわゆる直接溶着方式で行なっているが、これに代えてこのシート間に多層インサートフィルムを挟んだ状態で溶着し、弱シール部を形成させる、いわゆる多層インサートフィルム挟持溶着方式で行なってもよい。図10は2層インサートフィルムを使用した例を示す。この場合48は単層フィルムからなる内壁であり、50は内壁48のシートに対して熱接着力の強いシート、52は反対側の内壁のシートに対して熱接着力の弱いシートであり、弱シール部54、56が形成されている。例えば、内壁48がポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)の単層フィルムである場合には、50はこれと同じポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)のシートであり、52はポリエチレン(PE)とポリプロピレン(PP)との混合樹脂である。インサートフィルムは各弱シール部に合わせて二分してもよい。また、外壁12の溶着は多層インサートフィルムと一緒に溶着してもよいが、内壁の内側で弱シール性を保持することが条件とされる。
【0015】
なお、本発明の複室容器を保存または輸送する場合には、図11に示すように弱シール部24、25で二つ折りにして外装袋62に封入することが好ましい。このように二つ折りにすれば、保存時の積み重ねによる重圧あるいは落下等(外圧)によって、弱シール部の剥離を未然に防止することができる。
また、図12に示すように口部68を抗生物質等の粉末薬剤を収容する室66側に設け、溶解液等の液剤を収容する室70側を閉塞するようにしてもよい。溶解液等の液剤を収容する側の室に口部を設けている場合には、緊急の場合に誤って溶解液等の液剤だけ、先に投与してしまう危険があるが、上述のように口部68を抗生物質等の粉末薬剤を収容した室側に取り付けることによって上記のような危険を回避できる利点がある。
以上本発明のいくつかの実施例について説明したが、本発明はこのような実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることはもちろんである。
【0016】
【発明の効果】
本発明は上述の通り構成されているので、次に記載する効果を奏する。
水分やガスの非透過性フィルムからなる外壁と、内壁との2重壁を有する構造体での内壁によりつくられる室内に吸湿性や易酸化性を有する物質を収容することによって、その物質が保管時に外部の水分を吸収したり、酸素と化合したりすることを防止できると共に、前記2重壁を有する室が防湿や酸化防止の必要のない物質を収容する室から隔離できるので、複室容器全体を水分・ガス非透過性フィルムで覆った場合のように、乾燥させる必要のない液剤等の水分を吸収して濃縮化することが防止され、かつ外壁は吸湿性や易酸化性を有する物質を封入した室の周りにだけ配置すればよいので、外壁を構成する高価な水分・ガス非透過性フィルムが少なくてすむ利点がある。
また、外壁内に脱酸素剤や乾燥剤を封入しなくてもよいので、コストを軽減できる利点がある。
さらに、複室間の無菌混合が可能で、可撓性のためかさばらないという利点がある。
さらにまた、ガラスや金属を使用していないので、廃棄処理が容易であるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例を示す断面図である。
【図2】
同実施例の平面図である。
【図3】
図1のA部拡大断面図である。
【図4】
図1のB部拡大断面図である。
【図5】
図1のC部拡大断面図である。
【図6】
同実施例の製造行程を示す説明図である。
【図7】
本発明の他の実施例を示す部分拡大断面図である。
【図8】
本発明の別の実施例を示す部分拡大断面図である。
【図9】
本発明のさらに他の実施例を示す説明図である。
【図10】
本発明のさらに別の実施例を示す部分拡大断面図である。
【図11】
本発明の一実施例に係る複室容器の包装状態を示す斜視図である。
【図12】
本発明のさらに異なる実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
12 外壁
13 空間部
14 内壁
15 空間部
24 弱シール部
25 弱シール部
48 内壁
54 弱シール部
56 弱シール部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2002-05-28 
出願番号 特願平5-64669
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A61J)
P 1 651・ 4- YA (A61J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安井 寿儀  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 内藤 真徳
大元 修二
登録日 2000-06-23 
登録番号 特許第3079403号(P3079403)
権利者 株式会社大塚製薬工場
発明の名称 複室容器  
代理人 富田 光風  
代理人 富田 光風  

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