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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B66B
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  B66B
管理番号 1107959
異議申立番号 異議2003-71448  
総通号数 61 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-08-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-06-03 
確定日 2004-11-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第3353032号「エレベータ」の請求項1〜7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、平成16年3月2日付けで「特許第3353032号の請求項4、5、7に係る特許を取り消す。同請求項1〜3、6に係る特許を維持する。」との異議の決定がなされたところ、訂正2004-39149号の審判による明細書の訂正(平成16年8月31日確定)、及び、東京高等裁判所における前記異議の決定の取消の判決(平成16年(行ケ)第157号、平成16年9月30日判決言渡)があったので、さらに審理の結果、次のとおり決定する。 
結論 特許第3353032号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 【1】手続きの経緯
(1)本件特許第3353032号の発明についての出願は、平成10年2月10日に特許出願されたもの(特願平10-28549号)であって、その請求項1〜7に係る発明は、平成14年9月20日にその特許権の設定登録がされた。
(2)本件の請求項1〜7に係る特許に対して、天沼正光より特許異議の申立て(異議2003-71448号)があり、平成16年3月2日付けで「特許第3353032号の請求項4、5、7に係る特許を取り消す。同請求項1〜3、6に係る特許を維持する。」との異議の決定がなされた。
(3)上記異議の決定に対して、平成16年4月19日付けで「特許庁が異議2003-71448号事件について平成16年3月2日にした決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める訴え(平成16年(行ケ)第157号)が、本件特許権者により提起された。
(4)平成16年6月25日付けで、願書に添付した明細書について訂正を求める審判の請求(訂正2004-39149号)がなされ、当該審判の請求に対し、平成16年8月13日付けで「訂正することを認める」旨の審決がなされ、平成16年8月31日に確定した。
(5)平成16年9月30日、「特許庁が異議2003-71448号事件について平成16年3月2日にした異議の決定中『特許第3353032号の請求項4に係る特許を取り消す。』との部分を取り消す。」との判決の言い渡しがあった。

【2】本件発明
上記訂正の審判の審決が確定したことから、本件特許第3353032号の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1〜5」という。)は、上記訂正の審判により訂正された明細書及び図面の記載からみて、訂正審判の請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 昇降路内に設置されている複数のガイドレール、上記ガイドレールの上部に固定されている機械台、綱車及びブレーキを有し、上記昇降路内で上記機械台により支持されている巻上機、上記綱車に巻き掛けられている主索、上記主索に吊り下げられ、上記ガイドレールに案内されて上記昇降路内を昇降されるかご及び釣合重り、及び上記かご上から上記巻上機の保守作業を行う際に上記機械台に対して上記かごを連結し上記巻上機に対して所定の位置に上記かごを保持する連結部材を有しているかご保持装置を備えていることを特徴とするエレベータ。
【請求項2】 上記連結部材は着脱可能であり、上記かご保持装置は、上記機械台に上記連結部材が取り付けられていることを検出する検出器と、この検出器からの信号に応じて上記巻上機の運転を制御する制御装置とを有していることを特徴とする請求項1記載のエレベータ。
【請求項3】 上記連結部材は着脱可能であり、かつ上記連結部材には上記機械台に係止される係止部が設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエレベータ。
【請求項4】 昇降路内に設置されている複数のガイドレール、綱車及びブレーキを有し、上記昇降路内の上部に配置されている巻上機、上記綱車に巻き掛けられている主索、上記主索に吊り下げられ、上記ガイドレールに案内されて上記昇降路内を昇降されるかご及び釣合重り、及び上記かご上から上記巻上機の保守作業を行う際に上記ガイドレールに対して上記かごを連結し、上記かごが移動しないように上記巻上機に対して所定の位置に上記かごを保持する連結部材を有しているかご保持装置を備えていることを特徴とするエレベータ。
【請求項5】 昇降路内に設置されている複数のガイドレール、綱車及びブレーキを有し、上記昇降路内の上部に配置されている巻上機、上記綱車に巻き掛けられている主索、上記主索に吊り下げられ、上記ガイドレールに案内されて上記昇降路内を昇降されるかご及び釣合重り、及び上記かご上から上記巻上機の保守作業を行う際に上記乗場敷居に対して上記かごを連結し上記巻上機に対して所定の位置に上記かごを保持する連結部材を有しているかご保持装置を備えていることを特徴とするエレベータ。」
(当審註:下線部は、上記訂正審判において訂正され付加された請求項4の訂正箇所である。また、旧請求項5、7は削除され、その結果、旧請求項6は請求項5に繰り上がっている。)

【3】特許異議の申立ての理由の概要
[申立ての理由]
特許異議申立人は、証拠として甲第1〜7号証を提示し、本件の全ての請求項に係る発明(本件発明1〜5)は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、本件特許を取り消すべき旨主張している。
[証拠方法]
・甲第1号証:特開平7-10434号公報(以下、「刊行物1」という。)
・甲第2号証:特開平6-191761号公報(以下、「刊行物2」という。)
・甲第3号証:特開平6-239565号公報(以下、「刊行物3」という。)
・甲第4号証:特開平7-133085号公報(以下、「刊行物4」という。)
・甲第5号証:特開平9-124252号公報(以下、「刊行物5」という。)
・甲第6号証:特公平5-30755号公報(以下、「刊行物6」という。)
・甲第7号証:特開平7-10420号公報(以下、「刊行物7」という。)

【4】甲号各証に記載された事項
上記刊行物1〜7には、以下のような技術的事項が記載されている。
・刊行物1;
「【0013】 図2は、本発明によるエレベータをエレベータシャフト15に配置した図である。機械装置6、ならびにおそらくはモータへの給電用およびエレベータ制御用に必要な機器を含む制御盤8も、エレベータシャフトの壁または天井に固定されている。機械装置6および制御盤8は、工場において単体の一体化装置装着することができ、その後、エレベータシャフトに設置される。エレベータシャフト15には各階ごとに乗降ドア17が設けられ、エレベータカー1は、その乗降ドアに面した側にカードア18を有する。巻上げロープ3がエレベータカー1の下を通っているため、機械装置6は、エレベータカー1の最上部がその通路の最上端に到達する高さより下に配置することができる。提示した解決方法により実現されるエレベータでは、機械装置6および制御盤8での通常の保守作業は、エレベータカー1の最上部の上に立ちながら行なわれる。図2は、機械装置6、トラクションシーブ7、エレベータカー1、カウンタウエイト2、ならびにカーおよびカウンタウエイト用の案内レール10および11のエレベータシャフト15の断面における配置を平面図で示す。同図はまた、エレベータカー1およびカウンタウエイト2を巻上げロープに懸架するために用いる転向プーリ4、5、9も示している。巻上げロープは、ローププーリ4、5、9およびトラクションシーブ7の溝内にその断面で示されている。」
「【0019】 ……エレベータシャフト15の頂上付近には装着ビーム16があり、これには、モータへの給電とエレベータ制御に必要な機器を含む制御盤8が固定されている。装着ビーム16は、これに機械装置6および制御盤8を工場で固定することによって製造でき、あるいはこの装着ビームは、本機械のフレーム構体の一部として実現することができ、したがって機械装置6をシャフト15の壁または天井に固定するための「ラグ」を形成している。ビーム16にはまた、巻上げロープ3の少なくとも一端用の固定部材13が設けられている。……(中略)……機械6および制御盤8での通常の保守作業は、エレベータカーの最上部に立ちながら行なわれる。……」
「【0020】 好ましい駆動機械は、電気モータを有するギアレス機械からなり、その回転子および固定子は、一方がトラクションシーブ7に対して、また他方は駆動機装置6のフレームに対して不動となるように装着されている。しばしばこのモータの主要部分は、トラクションシーブのリムの好ましくは内側にある。エレベータの作動ブレーキの動作は、このトラクションシーブに加えられる。この場合、作動ブレーキは好ましくはモータと一体化されている。……」
[刊行物1に記載された発明]
以上の記載、及び、図1〜4の記載からみて、刊行物1には、
「エレベータシャフト15内に設置されている複数の案内レール10、11、トラクションシーブ7及びブレーキを有し、上記エレベータシャフト15内の上部に配置されて、装着ビーム16により支持されている機械装置6、上記トラクションシーブ7に巻き掛けられている巻上げロープ3、及び、上記巻上げロープ3に吊り下げられ、上記案内レール10、11に案内されて上記エレベータシャフト15内を昇降されるエレベータカー1及びカウンターウエイト2、を備えているエレベータにおいて、上記エレベータカー1上から上記機械装置6の保守作業を行うエレベータ。」、
という発明(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)が記載されているものと認められる。
・刊行物2;
「【0011】 まず、乗りかご9と釣合おもり16の高さ位置が同じになるように、もしくは後者16が前者9よりも若干高くなるように設定して、乗りかご9を釣合おもり16と略同等の高さに位置させてから、乗りかご9を停止させ、両者9,16の各主索保持棒15の調整代を最大に設定する。次いで、乗りかご9を最上階乗場に停止させた状態で、釣合おもり16とピット内の緩衝器(図示せず)との間隔を測定し、さらに、所定の長さの主索22を新設したときに釣合おもり16と該緩衝器間に必要とされる新間隔の値と、前記間隔の値から、両間隔の差を吊り上げ代として決定する。しかる後、乗りかご9を下降させて再び釣合おもり16と略同等の高さに位置させてから、非常止め装置30を動作させて乗りかご9をその主レール31にて支持する。この状態で、既設の主索14を新規の主索22に交換する作業が、次のようにして開始される。」
「【0012】 まず、既設の3本の主索14を、1本の主索14aと2本の主索14b,14cとの2グループに分け、第1グループである主索14aの釣合いおもり16側に、その主索保持棒15に近い上下2個所で主索14aを把持する一対の把持具24を取り付けて、両把持具24どうしをチェーンブロック12で連結する。次いで、このチェーンブロック12を操作して、前記吊り上げ代の寸法分だけ釣合おもり16を吊り上げ、主索14aを該寸法分だけ短縮させた状態にする。これにより、釣合おもり16は1本の主索14aだけで懸吊支持されることになり、残り2本の主索14b,14cは緩んだ状態となるが、既設の主索14の安全率は10以上に設定されているので、釣合おもり16を1本の主索14aのみで懸吊しても断線による落下事故を招来する心配はない。なお、乗りかご9は前記したように非常止め装置30を動作させているので、主レール31に支持されており、主索14には懸吊支持されていない。」
・刊行物3;
「【0001】 本発明は既設エレベーターの主索を新しい主索に交換するエレベーターの主索交換方法に関する。」
「【0015】 次いでステツプS3で再び乗かご6を運転して、図1に示すようにつり合いおもり9の上部が乗かご6の上部より高い所定の位置で乗かご6を停止させ、図示しない非常止め装置を作動させて乗かご6を固定する。……」
・刊行物4;
「【0019】 30はかご側及び釣合重り側のガイドレール21,22のジョイント部(継ぎ目)に裏側から固定された補強目板、31は各ガイドレール21,22の補強目板30上部に取り付けられた吊り金具固定治具、32は金具固定治具31に取り付けられたチェンワイヤ、33,34はチェンワイヤ32に取り付けられ、各ガイドレール21,22からかご7及び釣合重り8を吊り下げるための玉掛けワイヤ及びチェンブロックである。」
「【0023】 この後、かご7を昇降行程の中間まで下降させてから、その天井部に乗り、釣合重り8側の保持器9の作業が可能な位置を確認したら、上記天井部から見てガイドレール21,22のジョイント部の近くまでかご7を上昇させる。そして、計4カ所の補強目板30上にそれぞれ金具固定治具31を固定し、そのチェンワイヤ32に玉掛けワイヤ33及びチェンブロック34を掛ける。また、絡み防止チェン治具25,26も、かご7側と釣合重り8側とにガイドレール取付ブラケット(図示せず)等を用いて設置しておく(ステップS3)。」
「【0024】 次に、釣合重り8側の保持器9を着脱し易い位置までかご7を下降させ、その位置をかご7側及び釣合重り8側ともにガイドレール21,22に罫書いて(印して)おく。この後、ピット1aで測定した間隔寸法から算定した主索交換後の新しい間隔寸法に基づいて、かご7側及び釣合重り8側の吊り上げ代の位置を上記のように罫書いておき、その位置までチェンブロック34により平行に吊り上げる(ステップS4)。これにより、全部の旧主索6はぶらぶらに遊んだ状態となる。このとき、かご7は、非常止め装置を作動させて停止させておくのが好ましい。」
・刊行物5;
「【0003】 ところで、ダムウェータ100を安全に運行するためには、定期的に点検作業やメンテナンスを行うことが好ましい。例えば、各階の開閉扉を固定しているボルトの締め付け具合の確認やかご室102や昇降路壁108に取り付けられた各種センサの動作確認等である。このような点検作業やメンテナンスは、前記かご室102の上、すなわち上梁104の上に作業者が乗り昇降路内で行う場合が多い。通常、ダムウェータは数百Kgの積載能力を有し、作業者が乗った場合でもその重量に十分に耐え得る構造になっているが、作業の安全性を考慮すると作業時にかご室102を主レール110に固定する処置を行うことが望ましい。そこで、従来は図6に示すように、主レール110を昇降路壁108に固定しているブラケット114にかご吊りチェーン116を巻き付け前記上梁104と連結してかご室102を吊り下げ固定している。このかご吊りチェーン116を用いることによって、もし、かご室102に荷物が積載されたまま点検作業を行ってしまった場合でもかご室102を安定に維持して安全に作業を行うことができる。」
「【0013】 図1は本実施形態のかご室吊り固定装置を装着し、かご室を固定したダムウェータを説明する説明図である。図6に示すものと同様に主レール110は所定間隔に配置されたブラケット114によって昇降路壁108にほぼ垂直に固定されている。」
「【0014】 また、ダムウェータ100のかご室102はガイドシュー112によって主レール110に係合し、ワイヤロープ106の駆動によって、前記主レール110に沿って上下にスムーズに昇降できるようになっている。」
「【0015】 本実施形態の特徴的事項はかご室102をかご室吊り固定装置10によって主レールのどの位置にでも固定できるところである。」
「【0016】 図2にかご室吊り固定装置10の斜視図を示し、図3には該かご室吊り固定装置10を主レール110に装着した時の略断面図が示されている。かご室吊り固定装置10は図2に示すように炭素鋼などで形成された断面略L字型のハウジング12と、該ハウジングに一辺に平行に配置された回動自在な偏心ローラ14と、該偏心ローラ14に接続され、かご室102の自重によって前記偏心ローラ14を回転させる動作レバー16とから構成されている。この他、ハウジング12の端部には長孔12aによってスライド調整可能な補助板18,20が装着されている。」
「【0020】 前記動作レバー16の一端側(ネジ部が形成されていない側)には、かご室102を吊り下げる吊り下げ手段、例えばチェーン116等と係合するかご吊り下げ部が形成されている。……」
・刊行物6;
「この発明は既設エレベーターの主索を新しい主索に交換する工法に関するものである。」(第1頁第1欄第28行〜第2欄第1行)
「21は昇降路1底部に設置されたかご側緩衝器、22は最下階23の一つ上の階の乗場からつり合おもり8の上枠上面に載置された導板、24は昇降路1の壁に固定して立設されかご6を案内するガイドレール、25はガイドレール24の背面に係着されたつり上げ具で、固定板25aにガイドレール24把持用の把持具25bが複数列配置されそれぞれボルト25cで締結されている。また、固定板25aの下端にはU字状の懸吊具25bが装着されている。26は懸吊具25dとかご枠6aの上はり6cをチェーンブロック27を介して結合するロープ、……」(第2頁第4欄第25〜36行)
「まず、第1図〜第3図に示すように、かご6側ガイドレール24の最上階10の上部につり上げ具25を取り付ける。次にかご6の上で運転し、かご6を最上階10の床面とかご枠6aの上はり6cの上面がほぼ一致した位置で停止させる。一方、つり合おもり8の下部に、所要長さの間隔材11を挿入して、つり合おもり8を固定する。なお、つり合おもり8の固定はつり合おもり8側の非常止め装置(図示しない)を作動させるようにしてもよい。そして、つり合おもり8の上枠上面と、最下階23の一つ上の階の乗場の間に導板22を載置する。次に、第2図に示すように、かご枠6aの上はり6cとつり上げ具25の懸吊具25dとをロープ26で連結し、チェーンブロック27を操作して、上はり6cの上面と最上階10の床面とを一致させる。……次いで、上はり6cと最上階10の床面の間に導板12を載置し、つり合おもり8側のガイドレールに主索固定具28を取り付ける。」(第3頁第5欄第11〜31行)
・刊行物7;
「【0010】 図において、1は乗かご、2はカウンタウェートで、これら乗かご1とカウンタウェート2は昇降路3内に設けられ、機械室4に取付けられた巻上機(図示せず)のシーブ5に巻掛けられた主ロープ6により吊持ちされている。7は昇降路下端に設けられたピットで、このピット7には、乗かご用バッファ8、カウンタウェート用バッファ9が設けられている。10は乗かご1の下部に設けられた支持金具、11は支持金具10に取付けられるワイヤロープである。12はチェーンブロック、13は機械室4の床下部に設けられたフックである。」
「【0011】 しかして今、旧主ロープを取外し、新主ロープへと取換える手順について説明する。まず、図1に示すように、乗かご1を最下階まで運転し、ピット7にいる作業員が支持金具10にワイヤロープ11を取付ける。次いで、図2に示すように乗かご1を最上階まで運転し、フック13に掛けられたチェーンブロック12によって乗かご1をカウンタウェート2がバッファ9に当たるまで上昇させる。次に、乗かご1上に乗った作業員が旧主ロープ6の連結を外し、同時に、ピット7に入った作業員がワイヤロープ11をよじ登り、カウンタウェート2と旧主ロープ6との連結を外す。この後、旧主ロープを取外し、新主ロープを逆の方法で取付ける。新主ロープ取付け後、チェーンブロック12をゆるめ、最上階のレベルまで乗かご1を下降させ、この状態で、チェーンブロック12を取外す。次に、乗かご1を最下階まで運転し、ワイヤロープ11を取外し、作業を終了する。」

【5】特許異議の申立てについての判断
[対比]
まず、本件発明1〜5と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「エレベータシャフト15」、「案内レール10、11」、「トラクションシーブ7」、「機械装置6」、「巻上げロープ3」、「エレベータカー1」、「カウンタウェイト2」、「装着ビーム16」は、その機能からみて、それぞれ、本件発明1〜5の「昇降路」、「ガイドレール」、「綱車」、「巻上機」、「主索」、「かご」、「釣合重り」、「機械台」に相当する。
[本件発明1]
そこで、本件発明1と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、
「昇降路内に設置されている複数のガイドレール、上記ガイドレールより上方に固定されている機械台、綱車及びブレーキを有し、上記昇降路内で上記機械台により支持されている巻上機、上記綱車に巻き掛けられている主索、上記主索に吊り下げられ、上記ガイドレールに案内されて上記昇降路内を昇降されるかご及び釣合重りを備え、
上記かご上から上記巻上機の保守作業を行うエレベータ」、
で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
・相違点;
(イ)本件発明1の機械台は、ガイドレールの上部に固定されているのに対し、刊行物1記載の発明の機械台は、ガイドレールの上部に固定されていない点。
(ロ)本件発明1は、かご上から巻上機の保守作業を行う際に、(ガイドレールの上部に固定されている)機械台に対してかごを連結し巻上機に対して所定の位置にかごを保持する連結部材を有しているかご保持装置を備えているのに対し、刊行物1に記載された発明は、上記のようなかご保持装置を備えていない点。
・相違点の検討;
そこで、上記相違点(ロ)について検討する。
刊行物1記載の発明は勿論のこと、刊行物2〜7記載の発明のいずれもが、本件発明1の特定事項である「(ガイドレールの上部に固定されている)機械台に対してかごを連結し巻上機に対して所定の位置にかごを保持する連結部材を有しているかご保持装置」を備えていない。
また、そのような「かご保持装置」を、刊行物1〜7記載の発明から当業者が容易に想到し得る、とする何らの根拠も見いだすことができない。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜7に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
[本件発明2、3]
また、本件発明2、3と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、本件発明2、3は、本件発明1の特定事項を全て、その特定事項としている発明であるので、本件発明2、3も、刊行物1〜7に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
[本件発明4]
次に、本件発明4と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、
「昇降路内に設置されている複数のガイドレール、綱車及びブレーキを有し、上記昇降路内の上部に配置されている巻上機、上記綱車に巻き掛けられている主索、上記主索に吊り下げられ、上記ガイドレールに案内されて上記昇降路内を昇降されるかご及び釣合重りを備え、上記かご上から上記巻上機の保守作業を行うエレベータ」、
で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
・相違点:
本件発明4が、かご上から巻上機の保守作業を行う際にガイドレールに対してかごを連結し、上記かごが移動しないように巻上機に対して所定の位置にかごを保持する連結部材を有している「かご保持装置」を備えているのに対し、刊行物1に記載された発明は「かご保持装置」を備えていない点。
・相違点の検討:
そこで、上記相違点について検討する。
通常のエレベータにおける釣合重りの重さは、かご自重に積載荷重の50%程度を加えたものに設定されるものであり、それゆえ、このようなエレベータでは、かご内に乗客がいない保守作業時にブレーキを開放すると、かご側よりも釣合重りの方が重いことから、かごが上昇するものと認められる。
したがって、本件発明4の「かご保持装置」は、かご上から巻上磯の保守作業(例えばブレーキの摩擦材交換作業)を行う際に、「上記ガイドレールに対して上記かごを連結し、上記かごが移動しないように上記巻上機に対して所定の位置に上記かごを保持する連結部材」を有していることにより、前述したような、かごの上昇を阻止することができるものといえる。
これに対し、刊行物5には、作業者がかご上から保守作業を行う際に、作業の安全性を考慮して、ガイドレールに対してかごを連結し、かごを所定の位置に保持する「かご吊りチェーン116」(図6参照)や「かご室吊り固定装置10」(図1〜5参照)を用いることが記載されているものと認められる。
しかるに、この「かご室吊り固定装置10」は、「かご吊りチェーン116」と同様に、チェーン116によりかごを保持するものであるから、刊行物5記載の発明の「かご吊りチェーン116」や「かご室吊り固定装置10」は、単にかごを吊り下げて保持するものであって、巻上機の保守作業を行う際に巻上機のブレーキが開放されると、釣合重りの重さによりかごの上昇が起こるため、かごがガイドレールに対して固定されなくなり、かごが移動しないようにかごを所定の位置に保持できるものではないことは明らかである。
また、刊行物2、3記載の発明は、主索の交換時に、ガイドレールに対してかごを連結し、所定の位置にかごを保持する「非常止め装置」を有するものであるが、非常止め装置を開放する際にはかごを上昇させることが、当業者にとって技術常識であることを鑑みれば、いずれも、(かご上から巻上機の保守作業を行う際の)かごの上昇を全く考慮していない発明というべきものであって、上記「非常止め装置」は、かごが移動しないようにかごを所定の位置に保持できるものではない。
また、刊行物4、6記載の発明は、主索の交換時に、ガイドレールに対してかごを連結し、所定の位置にかごを保持する「チェーンブロック」を有するものであるが、いずれも、(かご上から巻上機の保守作業を行う際の)かごの上昇を全く考慮していない発明であって、上記「チェーンブロック」は、かごが移動しないようにかごを所定の位置に保持できるものではない。
さらに、刊行物7記載の発明は、主索の交換時に、天井に対してかごをチェーンブロックにより吊り下げるものであり、この発明も、(かご上から巻上機の保守作業を行う際の)かごの上昇を全く考慮していないものである。
してみると、刊行物1記載の発明は勿論のこと、刊行物2〜7記載の発明のいずれも、本件発明4の特定事項である「かご上から巻上機の保守作業を行う際にガイドレールに対して上記かごを連結し、上記かごが移動しないように上記巻上機に対して所定の位置に上記かごを保持する連結部材」を備えていない。
しかも、そのような「連結部材」を、刊行物1〜7記載の発明から当業者が容易に想到し得る、とする何らの根拠も見いだせない。
・効果について:
そして、本件発明4は、当該特定事項を備えることにより、刊行物1〜7に記載された発明から当業者が予測し得ない、登録明細書記載の「巻上機5に対する保守作業のうちでも、ブレーキ(図示せず)の摩擦材交換などを行う場合には、ブレーキを開放してもかご7が移動しないように、かご7を所定の位置に保持し、安全に停止させておく」(段落【0004】参照)という効果を奏するものである。
・まとめ
したがって、本件発明4は、刊行物1〜7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
[本件発明5]
次に、本件発明5と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、
「昇降路内に設置されている複数のガイドレール、綱車及びブレーキを有し、上記昇降路内の上部に配置されている巻上機、上記綱車に巻き掛けられている主索、上記主索に吊り下げられ、上記ガイドレールに案内されて上記昇降路内を昇降されるかご及び釣合重りを備え、上記かご上から上記巻上機の保守作業を行うエレベータ」、
で一致し、以下の点で相違するものと認められる。
相違点;
本件発明5が、かご上から巻上機の保守作業を行う際に乗場敷居に対してかごを連結し巻上機に対して所定の位置にかごを保持する連結部材を有しているかご保持装置を備えているのに対し、刊行物1に記載された発明はかご保持装置を備えていない点。
・相違点の検討;
そこで、上記相違点について検討する。
刊行物1記載の発明は勿論のこと、刊行物2〜7記載の発明のいずれも、本件発明5の特定事項である「乗場敷居に対してかごを連結し巻上機に対して所定の位置にかごを保持する連結部材を有しているかご保持装置」を備えていない。
また、刊行物6に記載される「導板12」は、かご6の上はり6Cと最上階10の床面の間に載置されるものであるが、かごを巻上機に対して所定の位置に保持するのものではない。
それゆえ、当該「かご保持装置」を、刊行物1〜7記載の発明から当業者が容易に想到し得る、とする何らの根拠も見いだすことができない。
したがって、本件発明5は、刊行物1〜7に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

【6】むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜5についての特許は、特許異議申立人が主張する理由及び提出した証拠によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜5についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-03-02 
出願番号 特願平10-28549
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B66B)
P 1 651・ 851- Y (B66B)
最終処分 維持  
特許庁審判長 大橋 康史
特許庁審判官 清田 栄章
西野 健二
登録日 2002-09-20 
登録番号 特許第3353032号(P3353032)
権利者 三菱電機株式会社
発明の名称 エレベータ  
代理人 曾我 道治  
代理人 曾我 道照  
代理人 鈴木 憲七  
代理人 古川 秀利  
代理人 梶並 順  

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