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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B21C
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効とする。(申立て全部成立) B21C
審判 全部無効 出願日、優先日、請求日 無効とする。(申立て全部成立) B21C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) B21C
管理番号 1108894
審判番号 無効2000-35170  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1980-02-22 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-04-04 
確定日 2004-12-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第1475307号「帯鋼の巻取装置」の特許無効審判事件についてされた平成13年11月13日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第577号平成16年3月9日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1475307号の特許請求の範囲1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第1475307号は、昭和53年8月14日に特許出願され、特公昭62-55448号として出願公告され、平成1年1月18日にその発明について特許権の設定登録がされ、平成12年4月4日に石川島播磨重工業株式会社より無効審判が請求され、無効2000-35170号として審理され、平成13年11月13日に、「本件審判の請求は成り立たない」旨の審決がなされ、この審決に対する訴えが東京高等裁判所になされ、同裁判所において平成13年(行ケ)第577号として審理され、平成16年3月9日に、「特許庁が無効2000-35170号事件について平成13年11月13日にした審決を取り消す」旨の判決が言い渡された。
そして、この判決に対し、上告受理が最高裁判所に申し立てられた(平成16年(行ヒ)第165号)が、平成16年9月16日に「上告審として受理しない」旨の決定がなされ、当該判決は確定したので、本件審判事件についてさらに審理する。

II.本件発明
本件特許第1475307号発明は、明細書及び図面(以下、「本件特許明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲1に記載される以下のところを要旨とするものと認める。
「帯鋼を案内片で巻取機の巻胴に押圧しながら巻付けてコイル状に巻取る装置において、巻胴に向つて進行する帯鋼の先端位置を検出する検出器と、この検出器の検出値から該巻胴に巻付けられ前記帯鋼の先端部との重なりによって生じるコイルの段付部が案内片を通過する時期を予測演算する演算器と、前記演算器で算出された通過時期に基づいて操作信号を出力する指令器と、この指令器からの出力により操作され、前記コイルの段付部が該案内片を通過する前にこの案内片を前記段付部の段差寸法より大きな距離だけコイルの半径方向外方に移動して該案内片と帯鋼表面との間隙を大きくし、且つ前記コイル段付部が該案内片を通過した後に前記案内片を帯鋼表面に所定の圧力で押し付けるようにこの案内片をコイルの半径方向内方に移動させる駆動装置を備えせしめ、更に前記駆動装置は、該案内片を移動操作させる液圧シリンダと、この液圧シリンダを駆動する液圧サーボ弁からなり、前記指令器から操作信号に基づいて前記液圧サーボ弁を作動して案内片の移動を制御するものであることを特徴とする帯鋼の巻取装置。」

III.当事者の主張等
[1]請求人の主張及び証拠方法
請求人の提出した平成12年4月4日付審判請求書、平成13年1月15日付上申書及び平成13年6月25日付上申書の記載内容並びに平成12年12月8日に行なわれた口頭審理における請求人の陳述(第1回口頭審理調書参照)によれば、本件無効審判の請求の趣旨は、「特許第1475307号発明の明細書の特許請求の範囲1に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める」というにある。
そして、請求人は、無効理由として、
無効理由1;
本件特許の特許請求の範囲1に係る発明(以下、単に「本件発明」という。)は、出願当初の明細書に記載された発明の範囲外の発明を含み明細書の要旨を変更したものであるので、本件特許に係る出願の出願日は、その発明の要旨を変更した手続補正書が提出された昭和61年7月25日になる。
したがって、本件発明は、本件特許に係る出願の出願日とみなされる昭和61年7月25日より前に頒布された刊行物である特開昭55-24770号公報(本件特許に係る出願の公開公報。甲第2号証)に記載された発明と同一である。
よって、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効にされるべきものである。
無効理由2;
本件特許に係る出願の明細書の記載は、昭和60年改正特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないので、本件特許は、昭和60年改正特許法第36条第3項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第4号の規定により、無効にされるべきものである。
無効理由3;
仮に、無効理由1が存在しないとしても、本件発明は、本件特許に係る出願の出願日である昭和53年8月14日より前に頒布された西独国特許出願公開第2158721号明細書(甲第3号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効にされるべきものである。
旨を主張し、そして、請求人は、証拠方法として、次に示す甲第1号証〜甲第4号証を提示している。

甲第1号証;特公昭62-55448号公報(本件特許に係る出願の公告公報)
甲第2号証;特開昭55-24770号公報(本件特許に係る出願の公開公報)
甲第3号証;西独国特許出願公開第2158721号明細書
甲第4号証;特開昭50-40963号公報

[2]被請求人の主張及び証拠方法
被請求人の提出した平成12年6月23日付審判事件答弁書、平成13年2月16日付上申書及び同審判事件第2答弁書の記載内容並びに平成12年12月8日に行なわれた口頭審理における被請求人の陳述(第1回口頭審理調書参照)によれば、「本件審判の請求は成り立たない、本件特許第1475307号は特許を維持する、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める」というにある。
そして、被請求人は、参考資料1(西独公告公報第2158721号公報)、参考資料2(西独公告公報第2158721号公報に開示された巻取装置の作動説明図)、第2参考資料1(西独国特許出願公開第2158721号明細書の訳文)及び第2参考資料2(西独国特許出願公開第2158721号明細書に開示された巻取装置の作動説明図)を提出している。

[3]証拠方法について
請求人が提示した甲第3号証について、審判請求書中の証拠方法の表示は、「西独公告公報第2158721号公報」であるところ、添付書類として提出された文書は「西独国特許出願公開第2158721号明細書」であって、証拠の表示と提出された文書とが不一致であったため、平成12年12月8日に行なった口頭審理で請求人に釈明を求めたところ、請求人は、平成13年1月15日付上申書により、「審判請求書で、甲第3号証についての証拠方法の表示を「西独国特許出願公開第2158721号明細書」とすべきところ、錯誤により、「西独公告公報第2158721号公報」と記載してしまったので、証拠方法の表示を「西独国特許出願公開第2158721号明細書」と補正する」旨釈明するとともに、上申書に添付して甲第3号証(西独国特許出願公開第2158721号明細書)の訳文を提出し、同時に、審判請求書中の甲第3号証に関する「西独公告公報第2158721号公報」との表示を、「西独国特許出願公開第2158721号明細書」と補正した。
そこで、請求人の行なった上記補正の可否について検討するに、甲第3号証について、「西独公告公報第2158721号公報」から「西独国特許出願公開第2158721号明細書」へと証拠方法の表示を補正することは、形式的には請求書の要旨を変更するものであるが、
(イ)審判請求書に添付されていた甲第3号証自体が、「西独国特許出願公開第2158721号明細書」の写しであったこと、
(ロ)「西独国特許出願公開第2158721号明細書」と「西独公告公報第2158721号公報」に開示される技術内容には特に大きな違いがあるものではないこと、
(ハ)平成13年2月16日付上申書において、被請求人は、『証拠方法の表示を「西独公告公報第2158721号公報」から「西独国特許出願公開第2158721号明細書」と補正することは到底認められるものではないが、記載されている技術内容は実質的に同一のものであるからとの理由で当該補正が認められるとすると、被請求人は、新たな証拠である「西独国特許出願公開第2158721号明細書」に対する本件特許発明の新規性並びに進歩性に対する主張は行なっていないので、審判事件第2答弁書を作成し本上申書に添付することにより、予備的にその主張を行なう。』旨、上申しつつ、同日付審判事件第2答弁書中で、「西独国特許出願公開第2158721号明細書」に記載された技術内容との対比に基づいて本件発明の新規性進歩性を検討し、本件特許には無効理由がないと反論し、実質的な答弁を行なっていることが認められ、
そして、上記(イ)〜(ハ)を勘案すれば、審判請求書中の証拠の表示についての上記補正を認めたことによって、当事者双方に特段の不都合が生じるものでないばかりか、本件審判請求についての審理内容を大幅に変更するほどの支障を生じるものともいえない。
そうであれば、請求人の行なった上記補正は、実質的に請求書の要旨を変更するものではないから、上記補正は適法なものとしてこれを認めることとする。

IV.当審の判断
[1]無効理由1について
1.無効理由1に関する、請求人の主張の要点は、次のとおりである。
〈主張点1-1〉
本件特許の出願当初の明細書及び図面(以下、単に「本件当初明細書」という。)に記載されていた「急速開閉装置」を、昭和61年7月25日以後に提出された手続補正書(即ち、昭和61年7月25日付、昭和62年3月20日付、昭和62年7月9日付の各手続補正書。以下、「昭和61年7月25日以後の手続補正書」という。)により「駆動装置」と補正することは、明細書の要旨を変更するものである。
即ち、
(イ)本件当初明細書には、段付部が案内片を通過する時に案内片と巻胴の間隙を大きくさせ、通過直後に再び案内片と巻胴の間隙を小さくして案内片で帯鋼を巻胴に押圧する装置が、計算機の指令によって作動する「急速開閉装置」であること、そして、この「急速開閉装置」が、案内片の位置を設定する液圧シリンダと前記液圧シリンダを駆動する液圧サーボ弁からなり、ラッパーフレーム57のレバー78を持ち上げたり下ろしたりする「急速開閉装置」81〜83(第3〜5図)であることが記載されているのみであり、他の装置でもよいことは記載されていないばかりか、示唆もされていない。
(ロ)ところが、昭和61年7月25日以後の手続補正書により補正された明細書(以下、単に「補正後の明細書」という。)の特許請求の範囲においては、段付部が案内片を通過する時に案内片と巻胴の間隙を大きくさせ、通過直後に再び案内片と巻胴の間隙を小さくして案内片で帯鋼を巻胴に押圧する(この部分は補正後の明細書の特許請求の範囲などでは大きく変更されているが、本件当初明細書と比較するするため同じ記載とした。)装置が、計算機(補正された明細書では演算器の指令器)の指令によって作動する「駆動装置」であることが記載されている。
(ハ)しかしながら、この「駆動装置」は、補正後の明細書の実施例の上記急速開閉装置ばかりでなく、他の装置、例えば図3および図4に記載されている油圧又は空気圧等を発生するシリンダ64〜66にこれらのシリンダを駆動するサーボ弁を設け、前記指令器からの操作信号に基づいて前記サーボ弁を作動して案内片の移動を制御するようなものも含むものであることは明らかであるから、「急速開閉装置」を、「駆動装置」に補正することは、明細書の要旨を変更するものである。
(ニ)また、明細書の要旨を変更していないのであれば、「駆動装置」に補正する必要がなかったにもかかわらず、特許請求の範囲の記載を、「急速開閉装置」より広い意味の「駆動装置」に補正しているのであるから、明細書の要旨を変更していることは明らかである。
(ホ)したがって、「急速開閉装置」を「駆動装置」とする補正は、明細書の要旨を変更するものである。
〈主張点1-2〉
液圧シリンダの機能または作用を、「案内片の位置を設定するまたはラッパーフレームの一端を位置決めすべく」(本件当初明細書)から、案内片を移動するまたはラッパーフレームを介してラッパーローラを移動させる(昭和60年11月27日付け手続補正書)を経て、「案内片を移動操作させるまたは液圧シリンダ及びラッパーフレームを介してラッパーローラを移動させる」(昭和61年7月25日以後の手続補正書)と補正することは、明細書の要旨を変更するものである。
即ち、
(イ)本件当初明細書には、液圧シリンダ(実施例の符号は85) が実施例に記載されているようにシリンダ(64 〜66) によってラッパーローラがコイル表面に押しつけられるように押圧されているラッパーフレームを、コイルの段付部が案内片を通過する時にラッパーローラがコイル表面に押しつけられないように支点を中心にして回転させるためのものであることが記載されているのみで、これ以外の設置目的または場所で使用することは記載されていないばかりでなく、示唆もされていない。
(ロ)ところが、昭和60年11月27日以後の手続補正書においては、案内片を移動するまたは移動操作させると補正している。
たしかに、本件当初明細書の「案内片の位置を設定するまたはラッパーフレームの一端を位置決めすべく」の記載は、液圧シリンダの機能または作用を的確に記載したものではないが、液圧シリンダの機能または作用は上記(イ)に記載したとおりのものである。
(ハ)そこで、この案内片を移動するまたは移動操作させるの意味を検討すると、この案内片を移動するまたは移動操作させるは、本件当初明細書に記載されている機能または作用のほか、例えば実施例に記載されているシリンダ(64〜66) の代わりに用いて案内片を移動することも含むようになっていることは明らかである。
しかし、本件当初明細書では、この液圧シリンダは、2つ目のシリンダとしてラッパーローラをコイルの接線方向に移動するためのものであって、ラッパーローラをコイルの表面に対して直角方向に押圧する1つ目のシリンダ(64〜66) とは別のものとして記載されていた。
(ニ)したがって、液圧シリンダの機能または作用を変更する補正は、巻取装置の構造を変更するものであるので、本件当初明細書の要旨を変更したものであり、仮に、この補正が単独で要旨を変更したものでないとしても、前記急速開閉装置についての補正を合わせると、明細書の要旨を変更したものであることは明らかである。

2.本件当初明細書の記載事項
前記〈主張点1-1〉、〈主張点1-2〉に関連する事項として、本件当初明細書には以下の事項(a)〜(f)が記載されている。
(なお、記載箇所は、請求人が甲第2号証として提示した本件特許に係る出願の公開公報(特開昭55-24770号公報)の該当個所を指摘することによりこれを行なう。)
(a)「3.帯鋼を案内片で巻取機の巻胴へ押圧しながら巻付けてコイル状に巻取るものにおいて、帯鋼先端によって生じるコイルの段付部が案内片を通過する時期を計測する検出器と、前記検出器の信号によって動作する案内片の急速開閉装置とからなり、前記検出器と急速開閉装置によって段付部が案内片を通過する時に案内片と巻胴の間隙を大きくさせ、通過直後に再び案内片と巻胴の間隙を小さくして案内片で帯鋼を巻胴に押圧すべく構成したことを特徴とする帯鋼の巻取装置。
4.前記急速開閉装置として、案内片の位置を設定する液圧シリンダと前記液圧シリンダを駆動する液圧サーボ弁からなり、前記検出器の信号によって前記液圧サーボ弁を作動して案内片の位置決めを行なうべく構成したことを特徴とする特許請求の範囲第3項記載の帯鋼の巻取装置。
5.前記案内片として、帯鋼を巻胴に押圧するラッパーローラと、ラッパーローラを回転自在に保持し、巻胴に対して支点を中心に接近離間可能なラッパーフレームとからなり、前記液圧シリンダは前記ラッパーフレームの一端を位置決めすべく構成されたことを特徴とする特許請求の範囲第4項記載の帯鋼の巻取装置。」(特許請求の範囲第3項、第4項、第5項)
(b)「第1図は本発明による案内片(ラッパーローラ)の動きを示すものである。・・本発明ではサーボ弁と流体圧シリンダからなる急速開閉装置を用いてラッパーローラがコイル段付部に到達する直前に図中54’の位置まで約板厚hの半分だけラッパーローラを急速にコイル表面から離間させ、段付部を通過直後に再びラッパーローラを図中54”の位置まで降下させコイル表面に押圧するものである。」(第2頁左下欄20行〜右下欄15行)と記載され、そして、第1図には、ラッパーローラ54中心の移動軌跡が太線にて示され、ラッパーローラがコイル段付部に到達する直前にラッパーローラをコイル表面から図中54’の位置まで1.5hの距離だけ上昇させ、段付部を通過直後にラッパーローラをコイル表面に図中54’’の位置まで0.5hの距離だけ降下させる状態が図示されている。
(c)「一方、本願発明では液圧サーボ弁と液圧シリンダによる急速開閉装置によってラッパーローラを急速に開閉している。この急速開閉は指令から0.01sec以内でラッパーローラのコイル表面から10mm離間動作が可能である。従って、コイル段付部にラッパーローラが到達する直前にラッパーローラを急速に 離間もしくは接する程度に移動すれば衝撃の発生は極めて少くなる。さらに、ラッパーローラをコイル表面から離間した後にラッパーローラを再びコイル表面に押圧する際にも押圧する速度を小さくすれば 衝撃エネルギは極めて小さくできる。」(第3頁右上欄11行〜左下欄第3行)
(d)「ここで、ラッパーフレームは70,71,72を支点として回転自在に構成され、シリンダ64,65,66を作動することによりラッパーローラはラッパーフレームとー体でマンドレルに押圧される。一方、シリンダはそれぞれ支点73,74,75を中心に回転自在になっている。ラッパーフレームの一部にはレバー76,77,78が固定され、レバーの一端は急速開閉装置81,82,83により位置決めされている。」(第4頁左上欄5〜14行)
(e)「ここで計算機はラッパーローラ54がストリップ先端部、すなわちコイルの段付部に達する直前にサーボ弁91に指令を出す。サーボ弁はこの指令に基づいて、ピストン84を移動しラッパーローラ54がコイル表面に接しない程度又はラッパーローラに衝撃が加わらない程度にラッパーフレーム57のレバー78を持ち上げる。次に、ラッパーローラ54がコイルの段付部を通過直後に計算機100はサーボ弁91に指令を出す。サーボ弁はこの指令に基づいてピストン84を移動する。このピストン84の移動によって、ラッパーフレーム57は再びシリンダ66の圧力によって、ラッパーローラ54がコイル表面に押圧される如く移動する。」(第4頁右上欄20行〜左下欄13行)
(f)「なお、以上の実施例ではラッパーローラを急速に離間、押圧という開閉動作させる例をもとに説明したが、前述の通り必ずしも離間、押圧という動作に限定させず、コイル段付部の高さ変化に応じてラッパーローラを移動させることも可能である。」(第4頁右下欄第6〜11行)

3.無効理由1についての判断
3-1.〈主張点1-1〉について
本件発明における「駆動装置」は、その特許請求の範囲に、「この指令器からの出力により操作され、前記コイルの段付部が該案内片を通過する前にこの案内片を前記段付部の段差寸法より大きな距離だけコイルの半径方向外方に移動して該案内片と帯鋼表面との間隙を大きくし、且つ前記コイル段付部が該案内片を通過した後に前記案内片を帯鋼表面に所定の圧力で押し付けるようにこの案内片をコイルの半径方向内方に移動させる駆動装置を備えせしめ、更に前記駆動装置は、該案内片を移動操作させる液圧シリンダと、この液圧シリンダを駆動する液圧サーボ弁からなり、前記指令器からの操作信号に基づいて前記液圧サーボ弁を作動して案内片の移動を制御する」と規定されているから、かかる構造を備え、動作を行なう駆動装置が、本件当初明細書に記載されていたか否かについて検討する。
本件当初明細書の上記記載事項(a)〜(c)によれば、急速開閉装置は、「液圧サーボ弁と液圧シリンダより構成され、」との構造を有し、「案内片を急速に開閉し、コイルの段付部が案内片を通過する時期を計測する検出器の信号によって動作し、その動作は、コイルの段付部が案内片を通過する時に案内片と巻胴の間隙を大きくさせ、通過直後に再び案内片と巻胴の間隙を小さくして案内片で帯鋼を巻胴に押圧する」との動作をする装置であると認められる。
そして、かかる動作を行なわせるための具体的な装置構成の例として、本件当初明細書の実施例に関する説明の中(上記記載事項(e)、(f))で、「計算機からの指令に基づいてサーボ弁はピストンを移動し、ラッパーローラがコイル表面に接しない程度又はラッパーローラに衝撃が加わらない程度にラッパーフレームのレバーを持ち上げ、次に、ラッパーローラがコイルの段付部を通過直後に計算機からの指令に基づいてサーボ弁はピストンを移動し、このピストンの移動によって、ラッパーフレームは再びシリンダの圧力によって、ラッパーローラがコイル表面に押圧される如く移動する」(記載事項(e)参照)、「ラッパーローラの動作は、必ずしも離間、押圧という動作に限定させず、コイル段付部の高さ変化に応じてラッパーローラを移動させることも可能である。」(記載事項(f)参照)と、急速開閉装置の具体例について、当業者が容易に実施し得る程度に、より詳細な構造、動作とともに説明されているといえる。
そうすると、本件当初明細書の記載によれば、急速開閉装置は、「指令器からの出力により操作され、コイルの段付部が案内片を通過する前にこの案内片を段付部の段差寸法より大きな距離だけコイルの半径方向外方に移動して案内片と帯鋼表面との間隙を大きくし、且つコイル段付部が案内片を通過した後に案内片を帯鋼表面に所定の圧力で押し付けるようにこの案内片をコイルの半径方向内方に移動させるものであり、更に急速開閉装置は、案内片を移動操作させる液圧シリンダと、この液圧シリンダを駆動する液圧サーボ弁からなり、指令器からの操作信号に基づいて液圧サーボ弁を作動して案内片の移動を制御する」という構造を有し、また動作するものであると認められるところ、かかる構造、動作については、本件特許明細書の特許請求の範囲に規定される駆動装置のそれと何ら異なるところはない。
なお、請求人は、本件発明の駆動装置は、本件当初明細書に記載されていた急速開閉装置ばかりでなく、他の装置、例えば図3、図4に記載されている油圧又は空気圧等を発生するシリンダ64〜66にこれらのシリンダを駆動するサーボ弁を設け、操作信号に基づいてサーボ弁を作動して案内片の移動を制御するようなものも含むものであることは明らかであるから、「急速開閉装置」を、「駆動装置」に補正することは、明細書の要旨を変更するものである旨主張している(〈主張点1-1〉(ハ)参照)。
しかしながら、本件特許明細書には、駆動装置の機能等に関する説明として、請求人の主張する如き上記の点が記載されているわけではなく、一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明あるいは図面に、本件当初明細書に記載されていた急速開閉装置についての説明以外の事項が新たに追加され、その結果、本件当初明細書に記載されていた急速開閉装置の機能と比較して、本件発明の駆動装置が、新たな機能を備えるようになったとは認められないから、仮に、請求人が主張するように「本件発明の駆動装置は、本件当初明細書に記載されていた急速開閉装置ばかりでなく、他の装置・・も含むものであることは明らかである」ものであるとするならば、それは、本件当初明細書に記載されていた機能を有する急速開閉装置の一つとして当然に含まれていたもの、換言するならば、本件当初明細書に記載された事項の範囲内のものにすぎず、「急速開閉装置」を「駆動装置」と補正したことによって、新たに含まれるようになったものではないから、請求人の上記主張は採用できない。
したがって、本件発明の駆動装置は、本件当初明細書に記載されていた急速開閉装置を、これと同じ構造を有し、動作をする駆動装置と単に言い換えたにすぎず、本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内のものであるから、「急速開閉装置」を「駆動装置」とする補正は、明細書の要旨を変更するものであるとはいえない。

3-2.〈主張点1-2〉について
上記記載事項(a)〜(c)によれば、液圧シリンダは、急速開閉装置(本件特許明細書に記載された「駆動装置」に相当する。)の構成要素であり、そして、急速開閉装置は、「ラッパーローラをコイル表面から図中54’の位置まで1.5hの距離だけ上昇させ、ラッパーローラをコイル表面に図中54’’の位置まで0.5hの距離だけ降下させ」(記載事項(b))、あるいは、「急速開閉はコイル表面から10mm離間動作が可能である。従って、コイル段付部にラッパーローラが到達する直前にラッパーローラを急速に・・移動すれば・・」(記載事項(c))との動作をするものである。
そうであれば、液圧シリンダは、記載事項(a)、(d)に示される「案内片の位置を設定」、「ラッパーフレームの一端を位置決め」という機能を有するばかりでなく、急速開閉装置が案内片を移動、移動操作させる際に、急速開閉装置を構成する一要素として、直接的であるか否かを問わず、必然的に案内片を移動、移動操作させる動作に関与するものである。
してみれば、本件当初明細書に記載された液圧シリンダは、「案内片を移動操作させる」または「液圧シリンダ及びラッパーフレームを介してラッパーローラを移動させる」という機能を本来備えていたものといえるから、本件発明における液圧シリンダの機能・作用を上記の如く補正することは、本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内のものといえる。
なお、請求人は、本件当初明細書には、液圧シリンダは、ラッパーローラがコイル表面に押しつけられるように押圧されているラッパーフレームを、コイルの段付部が案内片を通過する時にラッパーローラがコイル表面に押しつけられないように支点を中心にして回転させるためのものであることが記載されているのみであり、そして、液圧シリンダが、案内片を移動するまたは移動操作させるとの補正を認めることは、上記以外の場合、例えば実施例に記載されているシリンダ(64〜66) の代わりに用いて案内片を移動することも含むことになるが、本件当初明細書では、この液圧シリンダは、ラッパーローラをコイルの表面に対して直角方向に押圧する1つ目のシリンダ(64〜66) とは別のものとして、即ち、ラッパーローラをコイルの接線方向に移動するための2つ目のシリンダとして記載されていた((イ)(ハ))のであるから、上記補正は、液圧シリンダの機能または作用を変更し、巻取装置の構造を変更するものである旨主張する。
しかしながら、本件当初明細書の上記記載事項(d)、(e)は、発明の詳細な説明における記述、特に、実施例に関する記述であって、発明の詳細な説明の記載とは、あくまでも当業者が容易に実施し得る程度にその発明の目的、構成、効果を具体化して記載したものであるから、本件当初明細書においては、「案内片の位置を設定」し「ラッパーフレームの一端を位置決め」という作用を有する液圧シリンダは、同時に、急速開閉装置を構成する一要素として案内片を移動、移動操作させるものであることが、具体的な機構、動作とともに実施例として説明されていたものである。
してみれば、本件当初明細書に記載された液圧シリンダは、「案内片を移動操作させる」または「液圧シリンダ及びラッパーフレームを介してラッパーローラを移動させる」機能を備えることは明らかであるといえる。
したがって、本件発明における液圧シリンダについて、具体的な実施例としては記載されていなかった機構、例えば、請求人が主張する如きシリンダ(64〜66) の代わりに液圧シリンダを用いて案内片を移動することが可能性としてはあり得るとしても、このことによって、直ちに、本件発明における液圧シリンダが、本件当初明細書に記載されていなかったとする理由にはなりえない。
よって、液圧シリンダの機能または作用を、「案内片を移動操作させるまたは液圧シリンダ及びラッパーフレームを介してラッパーローラを移動させる」とする補正は、本件当初明細書に記載されていた事項の範囲内のものであって、明細書の要旨を変更するものであるとはいえない。

3-3.まとめ
以上のとおり、本件特許に係る出願の審査段階でなされた明細書の補正は、本件当初明細書に記載された事項の範囲内でなされたものであり、明細書の要旨を変更するものであるとは認められないから、本件特許に係る出願の出願日は、現実の出願日である昭和53年8月14日となる。
そうであれば、甲第2号証は、本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物であるとはいえないから、甲第2号証によって、本件特許は、特許法第29条第1項に違反して特許されたものであるとすることはできない。
よって、請求人の主張する無効理由1は採用できない。

[2]無効理由2について
1.無効理由2に関する、請求人の主張の要点は、次のとおりである。
〈主張点2-1〉
本件特許明細書には、案内片をコイルの半径方向外方に移動するのを開始してから段付部が案内片を通過した後に該案内片を帯鋼表面に所定の圧力で押し付けるまでをどの様な方法によって制御するのか、即ち何を根拠にしてコイルの段付部が通過した後案内片をコイルの半径方向内方に移動し始めるように指令器から駆動装置に操作信号を出すかについて全く記載されていない。
〈主張点2-2〉
図4および5に記載されている急速開閉装置では、位置検出器92を設けてピストン84の位置を検出しているが、案内片をコイルの半径方向外方に移動する距離の制御方法および装置が記載されておらず、また案内片をコイルの段付部の段差寸法より大きな距離だけコイルの半径方向外方に移動する装置と案内片をコイルの段付部の段差寸法またはストリップの板厚以下の距離だけコイルの半径方向外方に移動する装置との違いが説明されていない。

2.本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下の事項が記載されている。
「第4図及び第5図はラッパーフレーム57部の詳細を示す。急速開閉装置83はレバー78に当接するピストン84とピストンを内蔵するシリンダ85及びシリンダの一端に固定されモータ86によりシリンダの位置決めを行うウオーム88、ウオームホイル87等のウオームジャッキからなる。一方、シリンダ85内空間のピストン上下室89,90は液圧サーボ弁91に連結され、サーボ弁の作動によりピストン84はシリンダ内を往復動する。
・・シリンダ85にはピストン84の位置を検出する位置検出器92が内蔵され、ピストンの位置を検出する。
・・ストリップ先端が通過したことを位置検出器101,102で検出する。検出された信号は第5図に示す計算機100に入力され、ストリップ先端の位置と速度を計算する。同時にストリップ先端がマンドレル51に巻付いた後にラッパーローラ54を通過する時刻を予測計算する。また、圧延後のストリップ2の板厚は厚み計103により検出され計算機100に入力されている。ここで計算機はラッパーローラ54がストリップ先端部、すなわちコイルの段付部に達する直前にサーボ弁91に指令を出す。サーボ弁はこの指令に基づいて、ピストン84を移動しラッパーローラ54がコイル表面に接しない程度又はラッパーローラに衝撃が加わらない程度にラッパーフレーム57のレバ ー78を持ち上げる。次に、ラッパーローラ54がコイルの段付部を通過直後に計算器100はサーボ弁91に指令を出す。サーボ弁はこの指令に基づいてピストン84を移動する。このピストン84の移動によって、ラッパーフレーム57は再びシリンダ66の圧力によって、ラッパーローラ54がコイル表面に押圧される如く移動する。このピストン84の動きは位置検出器により逐時計算機100にフィードバックされている。なお、巻取り中のコイルの巻き太りに応じてラッパーローラ54を後退させるために、シリンダ85、ピストン84は一体となってレバー78を移動させる。このシリンダ85の位置は、予め厚さ設定器104によって入力されるストリップ板厚とモータ86の回転計105によって入力されたシリンダ85の回転数によって計算機100で演算された信号に基づいてモータ86を駆動することによって得られ、その結果、ピストン84はコイルの巻き太りに応じてレバー78を所望の位置に設定する。」(請求人の提出した甲第1号証(平成1年5月25日に発行された特公昭62-55448号の訂正公報)第4頁第7欄29行〜第8欄36行参照)

3.無効理由2についての判断
3-1.〈主張点2-1〉について
本件特許明細書の上記記載中、「ラッパーローラ54がコイルの段付部を通過直後に計算器100はサーボ弁91に指令を出す。サーボ弁はこの指令に基づいてピストン84を移動する。」には、確かに、コイルの段付部が通過後、何に基づいて案内片駆動装置に移動開始の操作信号を出すかについての明記はない。
しかし、ラッパーローラ54がコイルの段付部に達する直前の案内片駆動装置の動作については、「ストリップ先端が通過したことを位置検出器101,102で検出し、検出信号を計算機100に入力し、ストリップ先端の位置と速度を計算し、同時にストリップ先端がラッパーローラ54を通過する時刻を予測計算し、計算機は、ラッパーローラ54がコイルの段付部に達する直前にサーボ弁91に指令を出し、サーボ弁はこの指令に基づいて、ピストン84を移動しラッパーローラ54がコイル表面に接しない程度又はラッパーローラに衝撃が加わらない程度にラッパーフレーム57のレバ ー78を持ち上げる。」と説明されており、そして、ラッパーローラ54がコイルの段付部を通過直後の案内片駆動装置の動作は、少なくともこれと全く同様な操作手順(但し、逆方向の動作ではあるが)で行ない得ることは、当業者が容易に理解し得るところである。
そうであれば、コイルの段付部が通過した後、何に基づいて案内片駆動装置に移動開始の操作信号を出すかについての明記はないとしても、このことによって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施し得る程度に、発明の目的、構成、効果が記載されていないとすることはできない。
なお、請求人は、「本件特許の出願人(本件の特許権者で被請求人)は、コイルの段付部が通過後、案内片駆動装置の移動を時間で制御すると意見書(昭和59年10月15日付意見書4頁第10〜14行)で主張し、同日付手続補正書で明細書の記載を補正したにも拘わらず、その後の手続補正書でこの部分を削除したため、何に基づいて案内片駆動装置に移動開始の操作信号を出すかが明らかでない」旨も主張する。
しかしながら、上記昭和59年10月15日付意見書の請求人が指摘した箇所の前後(意見書第3頁第11行〜第5頁第6行)には、「即ち、引例は、ストリップのトップがラッパ・ロールの位置に到(達)したとき、巻取ストリップの厚み分だけラッパ・ロールの保持装置を後退させ、自然の重なり状態で巻取りが進められ、トップ部分が通過すると正常圧力による押付状態に推移して、トップ・マークを生じさせないようにするものである。従って、ラッパ・ローラとストリップとは常に接しており、本願発明の特徴であるコイル段付部が案内片を通過する際に帯鋼表面と案内片が十分に離間するという発想は全く示唆されていない。更にストリップのトップ部分がラッパ・ローラを通過する際に、ラッパ・ローラをストリップの厚みだけ後退させることから、板厚が変化している場合や、ストリップのトップが巻き上がっている場合に、トップ・マークの防止ができるという機能に関しては何ら開示されてなく、本願発明の効果を得ることはできない。更に付言すると、引例に記載の発明は、ラッパ・ローラをストリップの厚みだけ後退させるという位置制御を行っており、本願発明が非常に短かい時間だけ帯鋼と案内片を離間させるという時間で制御しているのとは異なる。即ち、通常のストリップ巻取速度におけるマンドレルの1回転は約0.2secであり、本願発明の案内片と帯鋼表面が離間している時間はせいぜい0.02sec程度であるから十分な巻付力が得ることができるのに対し、引例の位置を制御する方法ではフィードバック制御しながら位置決めする必要があり本願発明のような短かい時間で制御することは不可能である。従って、引例は、ゆっくりとしたマンドレルの回転で巻取る際には十分な巻付力を得ることができるが、本願発明の対象としているマンドレルの回転速度には対応できない。」と記載されており、請求人が指摘した箇所の前後の文脈からすれば、出願人(被請求人)が意見書で述べている「時間で制御している」との意味するところは、引例発明では、ストリップの厚みだけラッパ・ローラを後退させる、即ち、ストリップ厚み分案内片を後退させるという案内片の制御をしている、のに対して、本願発明では、非常に短かい時間だけ帯鋼と案内片を離間させる、即ち、ストリップ(帯鋼)から短時間だけ案内片が離間するように案内片を制御している、ということを述べたものであって、指令器から案内片駆動装置に出す操作信号を時間によって制御するということを意味するものではない。
つまり、本件発明では、コイル段付部と案内片との衝撃回避のために、駆動装置によってコイル段付部が案内片を通過する前にラッパーローラを段差寸法より大きな距離だけコイル半径方向外方に移動して案内片と帯鋼との間隙を大きくする一方、巻付性能の向上のために、ラッパーローラと帯鋼とが離間するのを短い時間とするように制御しているのであって、案内片の移動操作を全て時間で制御していることを記載しているものではないことは明らかである。
よって、請求人の〈主張点2-1〉によっては、本件特許明細書の記載が不備であるとはいえない。

3-2.〈主張点2-2〉について
本件特許明細書(前記「2-1.〈主張点2-1〉について(1)本件特許明細書の記載」参照)には、急速開閉装置83はレバー78に当接するピストン84とピストンを内蔵するシリンダ85及びシリンダの一端に固定されモータ86によりシリンダの位置決めを行うウオーム88、ウオームホイル87等のウオームジャッキからなり、サーボ弁の作動によりピストン84はシリンダ内を往復動すること、シリンダ85にはピストン84の位置を検出する位置検出器92が内蔵されていること、圧延後のストリップ2の板厚は厚み計103により検出され計算機100に入力され、ラッパーローラ54がコイルの段付部に達する直前にサーボ弁91はピストン84を移動しラッパーローラ54がコイル表面に接しない程度又はラッパーローラに衝撃が加わらない程度にラッパーフレーム57のレバ ー78を持ち上げること、ピストン84の動きは位置検出器92により逐時計算機100にフィードバックされていること、巻取り中のコイルの巻き太りに応じて、シリンダ85、ピストン84は一体となってレバー78を移動させラッパーローラ54を後退させることが記載されており、そして、かかる記載によれば、案内片をコイルの半径方向外方に移動する距離の制御方法、装置は当業者が容易に実施し得る程度に明らかにされているといえる。
また、「案内片をコイルの段付部の段差寸法より大きな距離だけコイルの半径方向外方に移動する装置と案内片をコイルの段付部の段差寸法またはストリップの板厚以下の距離だけコイルの半径方向外方に移動する装置との違いが説明されていない」との請求人の主張に関しては、何故にこの点が明らかにされなければならないかは曖昧ではあるが、本件特許明細書の上記記載によれば、急速開閉装置83は、ピストン84を内蔵するシリンダ85及びシリンダの位置決めを行うウオーム88、ウオームホイル87等からなり、シリンダ85にはピストン84の位置を検出する位置検出器92が内蔵され、ピストン84はラッパーフレーム57のレバ ー78を持ち上げ、巻取り中のコイルの巻き太りに応じてシリンダ85、ピストン84は一体となってレバー78を移動させるとされているのであるから、装置そのものの違いが説明されていなくても、ピストン84あるいはピストン84とシリンダ85とによって案内片を移動させ得ることが開示され、そして、どの程度に移動させるかは単に移動距離の問題にすぎないから、請求人の上記主張点について直接的に明記されるところはないとしても、そのことによって、本件特許明細書に、当業者が容易に実施し得る程度に本件発明の目的、構成、効果が記載されていないとすることはできない。
よって、請求人の〈主張点2-2〉によって、本件特許明細書の記載が不備であるとはいえない。

3-3.まとめ
以上のとおり、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第3項に規定する要件を満たしていないので、本件特許は、特許法第36条第3項の規定に違反して特許されたものであるとすることはできない。
よって、請求人の主張する無効理由2は採用できない。

[3]無効理由3について
1.甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、「制御された押圧ローラを有するストリップ巻取り装置」に関し、以下の事項が記載されている。
記載事項(1);「1.ストリップをリールマンドレルに押し付けるための制御された押圧ローラを有するストリップ巻取り機において、該リール軸は、パルス発生器(IG1)と結合されていて、そして該パルス発生器(IG1)と作用結合しているパルスカウンタ(A)は、リールマンドレル(1)にストリップ先端(8)がスリップなしに接触したあとに運転させられ、そしてリールマンドレル(1)が2つの隣接した押圧ローラ(3a・・7a)の間隔分だけそれぞれさらに回転した後に信号が、パルスカウンタ(A)から制御ロジック(L)を介して、トラッキングシリンダ(3・・7)を持ち上げるために制御部品(SV3・・SV7)ヘと伝達され、該トラッキングシリンダの押圧ローラは、ストリップの厚み(s)分だけ持ち上げられるように定められていることを特徴とするストリップ巻取り機。
2.リールマンドレル(1)の外周部の角度範囲(該角度範囲においてストリップの先端(8)は、スリップなしにリールマンドレル(1)に接触しているのであるが)に配置された押圧ローラ(6a)は、該ストリップ先端(8)と共にバルスカウンタ(A)を作動させるリレーを作動させるための電気的開閉要素を形成していることを特徴とする、特許請求の範囲第1頃に記載のストリップ巻取り機。」(第7頁特許請求の範囲第1項、第2項。なお、第2参考資料1の訳文第5頁参照)
記載事項(2);「本発明は,ストリップをリールマンドレルに押し付けるための制御された押圧ローラを有するストリップ巻取り機に関するものである。公知の方法で油圧式作動シリンダによって作動された押圧ローラは,リールマンドレルとストリップ始端部との間の自己摩擦によって押圧ローラの力を借りることなしにストリップの,スリップのない巻付けが保証されている限り,一定の力でリールマンドレルに,あるいは該リールマンドレル上に巻き取られたストリップ層に押し付けられる。該自己摩擦は,約5層のストリップ層ののちに達成される。これら初期のストリップ層の間に,ストリップ先端の範囲においてコイルの直径がそれぞれ新しいストリップ層の開始に連れてストリップの厚み分だけ変化する。トラッキングシリンダを有する押圧ローラは,その慣性により押圧力を増加させることだけによってこの直径飛躍に従わねばばらない。その際に押圧力は,押圧ローラがストリップ表面の,しかもストリップ先端の範囲において条痕を残す程の大きさに達するものである。
本発明の課題は、ストリップの価値低下を表している、ストリップ表面のこの条痕を制御された押圧ローラを用いて阻止することであって、該押圧ローラは、これがそれぞれコイルの直径の急激な変化をもたらすストリップ先端が通過する前に、ストリップの厚み分だけ後退されるのである。
このことは、本発明によれば該リール軸が、パルス発生器と結合されていて、そして該パルス発生器と作用的に結合しているパルスカウンタが、リールマンドレルにストリップ先端がスリップなしに接触したあとに運転させられることによって簡単な方法で達成され、その際にリールマンドレルが、2つの隣接した押圧口一ラの間隔分だけそれぞれさらに回転したのちに信号が、パルスカウンタから制御ロジックを介して、それぞれの押圧ローラ用トラッキングシリンダを持ち上げるために制御部品へと伝達されるのであって、該押圧ローラは、ストリップの厚み分だけ持ち上げられるように定められている。
本発明の別の実施例では、リールマンドレルの外周部の角度範囲(該角度範囲においてはストリップの先端は、スリップなしにリールマンドレルに接触しているのであるが)に配置された押圧ローラは、該ストリップ先端と共にパルスカウンタを作動させるリレーを作動させるための電気的開閉要素を形成している。」(第2頁16行〜第3頁15行。なお、第2参考資料1の訳文第1頁3行〜第2頁4行参照)
記載事項(3);「ストリップ巻取り機の作動方法は,以下の通りである:
5個の押圧ローラ3aから7aは,トラッキングシリンダ3から7によって,巻取り過程を開始する前にリールマンドレル1の表面9からストリップの厚みsの90%分だけ離して調整されている。ストリップ先端8が,図には示していない入口ガイドを介してリールマンドレル1と押圧ローラ3aとの間の間隙に達すると,ストリップ先端は間隙がストリップの厚みに対して10%小さいために,そしてこれと関連してリールマンドレル1と押圧ローラ3aとの間のピンチ作用のために,リールマンドレルによって当初はスリップを伴って巻き取られる。ストリップ先端8が押圧ローラ4aと5aを通過すると直ちに,リールマンドレル1によってストリップ始端部のスリップのない巻取りが保証されている。押圧ローラ6aに達するとストリップ先端8は,リール軸と連結されたパルス発生器1G1と作用接続されているパルスカウンタAを作動させるための,図には示されていないリレーを作動させるための回路を閉じる。パルスカウンタAは,該パルスカウンタが特定の数のパルスのもとでそれぞれ1つの信号を出力するようにプログラミングされている。信号を出力するまでのパルス数は,2つの隣接した押圧ローラの間隔に相当する。パルスカウンタAの作動によって,トラッキングシリンダ3が押圧ローラ3aとともに持ち上げ運動を実施するという意味において,トラッキングシリンダ3に割り当てられたサーボバルブSV3は制御ロジックLを介して同時に制御のための信号を受け取る。該持ち上げ運動は,トラッキングシリンダと結合されたパルス発生器IG3を通じてパルスの形で制御ロジックLを介して実測値としてパルスカウンタBに供給される。該パルスカウンタBにはトラッキングシリンダ3,もしくはHZIの持ち上げ運動に関してストリップの厚みsに相当する目標値が入力されている。パルス発生器IG3によってパルスカウンタB(パルス発生器)に供給された,トラッキングシリンダ3の持ち上げ運動の実測値が,入力された目標値に等しいと,サーボバルブSV3はディジタル・アナログ変換器Iと制御ロジックLを介してトラッキングシリンダ3をその出発位置へとリトラクトさせるための信号を受け取る。これによってトラッキングシリンダ3,もしくはHZIの持ち上げ運動が,終了する。
ストリップの先端8が押圧ローラ7aに達するとともに,パルスカウンタAが次の信号を出力するのであって,該信号は,今回は制御ロジックLを介してトラッキングシリンダ4に割り当てられたサーボバルブSV4に供給される。これと結びついたサーボバルブSV4の開放は,トラッキングシリンダ4の持ち上げ運動を引き起こす。該持ち上げ運動は,トラッキングシリンダ4と結合されたパルス発生器IG4を介して,並びに同じく制御ロジックLを介してパルスカウンタCに実測値として供給される。実測値が,パルスカウンタCに入力した目標値に達すると,サーボバルブSV4はパルスカウンタCからディジタル・アナログ変換器と制御ロジックLを介して,トラッキングシリンダ4をその出発位置へとリトラクトさせるための信号を受け取り,その結果,トラッキングシリンダ4の持ち上げ運動が,同じく終了する。リールマンドレルに摩擦結合的に接しているストリップ先端部8が押圧ローラ3aに達すると,該押圧ローラは,ストリップ厚みの値分だけ既に第1のストリップ層から持ち上げられていて,その結果,該押圧ローラは,ストリップ先端部を衝撃なしに通過できる。これによってストリップ表面に条痕が,現れることがない。ストリップ先端8が押圧ローラ3aに達するとともに、パルスカウンタAが制御ロジックLを介してサーボバルブSV5にトラッキングシリンダ5に影響を及ぼすための信号を該トラッキングシリンダを持ち上げるという意味において出力し、そしてこれと同時にサーボバルブSV3は、押圧ローラを押圧するという意味においてトラッキングシリンダ3に影響を及ぼす信号を受け取る。」(第4頁12行〜第6頁20行。なお、第2参考資料1の訳文第2頁下から6行〜第4頁16行参照)

2.対比・判断
2-1.甲第3号証発明
本件発明と甲第3号証に記載された発明とを対比するに、まず、甲第3号証の記載事項について検討する。
甲第3号証に記載されるリレーは、押圧ローラ及び(スリップなしにリールマンドレルに接触している)ストリップ先端とで形成される電気的開閉要素によって作動し、そして、該リレーの作動によってパルスカウンタが作動する(記載事項(1)、(2)参照)のであるから、該リレーは、リールマンドレルにストリップの先端が(スリップなしに)接触していることを検出する「ストリップの先端位置を検出する検出器」であり、また、パルスカウンタは、リールマンドレルが2つの隣接した押圧ローラの間隔分だけ回転した後に、制御ロジックを介してトラッキングシリンダの制御部品へと信号を出力する(記載事項(1)、(2)、(3)参照)のであるから、パルスカウンタと制御ロジックは、「コイルの段付部が押圧ローラを通過する時期を検知する段付部通過時期検知手段」であると同時に、コイルの段付部が押圧ローラを通過する時期に基づいて「操作信号を出力する指令器」であり、さらに、押圧ローラは、パルスカウンタからの出力信号により操作されるサーボバルブ及びトラッキングシリンダによって、ストリップの先端が押圧ローラに到達するまでにストリップの厚み分だけ持ち上げられ、前記押圧ローラにストリップ先端が到達すると同時にストリップ表面に押し付けられる(記載事項(1)、(2)、(3)参照)のであるから、サーボバルブ及びトラッキングシリンダは、「指令器(パルスカウンタ)からの出力により操作され、ストリップの先端が押圧ローラを通過する前にこの押圧ローラをコイルの半径方向外方に移動して該押圧ローラとストリップ表面との間隙を大きくし、且つ前記ストリップの先端が押圧ローラを通過した後に前記押圧ローラをストリップ表面に所定の圧力で押し付ける駆動装置」であるといえる。
そうすると、甲第3号証には、「ストリップを押圧ローラでリールマンドレルに押圧しながら巻付けてコイル状に巻取装置において、リールマンドレルに接触したストリップの先端位置を検出する検出器と、この検出器による検出によって作動し、コイルの段付部が押圧ローラを通過する時期を検知する段付部通過時期検知手段と、前記段付部通過時期検知手段から得られた通過時期に基づいて操作信号を出力する指令器と、この指令器からの出力信号により操作され、前記コイルの段付部が該押圧ローラを通過する前にこの押圧ローラをストリップの板厚と同一寸法だけコイルの半径方向外方に移動させ、且つ前記コイル段付部が該押圧ローラを通過した後に前記押圧ローラをストリップ表面に所定の圧力で押し付ける駆動装置を備えせしめ、更に前記駆動装置は、該押圧ローラを移動操作させるトラッキングシリンダと、このトラッキングシリンダを駆動するサーボバルブからなり、前記指令器からの操作信号に基づいて前記サーボバルブを作動して押圧ローラの移動を制御するものであることを特徴とするストリップの巻取装置。」に関する発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されているといえる。

2-2.本件発明と甲第3号証発明との対比
そこで、本件発明と甲第3号証発明とを対比すると、甲第3号証に記載される「ストリップ」、「リールマンドレル」、「押圧ローラ」、「トラッキングシリンダ」及び「サーボバルブ」は、本件発明の「帯鋼」、「巻胴」、「案内片」、「液圧シリンダ」及び「液圧サーボ弁」に相当し、また、本件発明の「コイルの段付部が案内片を通過する時期を予測演算する演算器」は、甲第3号証発明の「コイルの段付部が押圧ローラを通過する時期を検知する段付部通過時期検知手段」に相当するから、両者は、「帯鋼を案内片で巻取機の巻胴に押圧しながら巻付けてコイル状に巻取る装置において、帯鋼の先端位置を検出する検出器と、この検出器の検出値から該巻胴に巻付けられ前記帯鋼の先端部との重なりによって生じるコイルの段付部が案内片を通過する時期を検知する段付部通過時期検知手段と、前記段付部通過時期検知手段から得られた通過時期に基づいて操作信号を出力する指令器と、この指令器からの出力により操作され、前記コイルの段付部が該案内片を通過する前にこの案内片をコイルの半径方向外方に移動して該案内片と帯鋼表面との間隙を大きくし、且つ前記コイル段付部が該案内片を通過した後に前記案内片を帯鋼表面に所定の圧力で押し付ける駆動装置を備えせしめ、更に前記駆動装置は、該案内片を移動操作させる液圧シリンダと、この液圧シリンダを駆動する液圧サーボ弁からなり、前記指令器からの操作信号に基づいて前記液圧サーボ弁を作動して案内片の移動を制御するものであることを特徴とする帯鋼の巻取装置。」で一致し、次の(1)〜(3)で相違する。
(1)本件発明では、巻胴に向つて進行する帯鋼の先端位置を検出する検出器を設けているのに対して、甲第3号証発明では、巻胴に接触した帯鋼の先端位置を検出する検出器を設けている点(相違点1)。
(2)本件発明では、コイルの段付部が案内片を通過する時期を検知する段付部通過時期検知手段として、検出器の検出値から予測演算する演算器を設けているのに対して、甲第3号証発明では、2つの隣接した案内片の間隔に相当するパルス数をカウントするパルスカウンタと制御ロジックを設けている点、即ち、コイルの段付部の通過時期を、帯鋼先端の位置(移動距離)をパルス数としてカウントし、計測値であるカウントされたパルス数及び制御ロジックによってコイルの段付部が案内片を通過する時期を検知する段付部通過時期検知手段を設けている点(相違点2)。
(3)本件発明では、コイルの段付部が該案内片を通過する前に案内片を前記段付部の段差寸法より大きな距離だけ移動させるのに対して、甲第3号証発明では、案内片を帯鋼の板厚と同一寸法だけ移動させており、さらに、本件発明では、コイル段付部が該案内片を通過した後に案内片を帯鋼表面に所定の圧力で押し付けるようにこの案内片をコイルの半径方向内方に移動させるとしているのに対して、甲第3号証発明では、コイル段付部が案内片を通過した後に案内片を帯鋼表面に所定の圧力で押し付けるとしているだけで、案内片をコイルの半径方向内方に移動させるとはしていない点(相違点3)。

2-3.相違点についての検討
そこで、上記相違点1〜3について検討する。
相違点1について;
本件発明の検出器は、巻胴に向って進行する帯鋼の先端位置を検出しており、一方、甲第3号証発明では、巻胴に帯鋼が接触した時点での帯鋼の先端位置を検出しているから、本件発明と甲第3号証発明とは、帯鋼先端位置の検出器の設置位置、あるいは、検出器による検出時期が相違するが、本件特許明細書の実施例に関する記載「ミル1で圧延されたストリップ2はランアウトテーブルローラ3に搬送され、ピンチローラ4にて下方に曲げダウンコイラ5に送り込まれる。ここで、ストリップ先端が通過したことを位置検出器101,102で検出する。検出された信号は第5図に示す計算機100に入力され、ストリップ先端の位置と速度とを計算する。」(本件公告公報(甲第1号証)7欄最下行〜8欄6行参照)からみるに、本件発明では、巻胴における帯鋼先端の位置或いは帯鋼先端との重なりによって生じるコイルの段付部の位置を把握する上で必要となることから、帯鋼先端の位置と速度を検知する手段として検出器を設けたものであるといえる。
ところで、甲第3号証発明においても、巻胴に帯鋼が接触した時点で帯鋼の先端位置は検出され、さらに、これに基づいリレー、パルスカウンタ等により帯鋼の速度も検知され、その結果として、巻胴における帯鋼先端の位置或いは帯鋼先端との重なりによって生じるコイルの段付部の位置が把握できるのであるから、検出器の設置位置、あるいは、検出器による検出時期が本件発明のものと相違するとしても、検出器に要求される機能においては、両者に特段の差異はない。
してみれば、甲第3号証発明の如く、巻胴に接触した帯鋼の先端位置を検出する検出器を設けるか、本件発明の如く、巻胴に向つて進行する帯鋼の先端位置を検出する検出器を設けかは、単に、検出器の設置位置、あるいは、検出器による検出時期の変更に過ぎない。
そして、検出器の設置位置、あるいは、検出器による検出時期を変更したことによって、作用効果上、予測し得ない格段の差が生じるものでもない。
そうであれば、相違点1は、単なる設計事項と認められ、当業者であれば格別の困難性を要することなくなし得たことと認められる。

相違点2について;
甲第3号証発明では、コイルの段付部の位置(移動距離)をパルス数としてカウントし、計測値であるカウントされたパルス数及び制御ロジックによってコイルの段付部が案内片を通過する時期を検知するという直接的な計測手段により、コイルの段付部が案内片を通過する時期を検知しているが、帯鋼の先端位置、帯鋼厚み、帯鋼速度、案内片設置位置、巻胴サイズ等の値を知ることができれば、これらの値から、コイルの段付部が案内片を通過する時期を予測演算し得ることは当業者にとって明らかである。
そうであれば、コイルの段付部が案内片を通過する時期を検知する通過時期検知手段として、甲第3号証発明における如き直接的な計測手段にかえて、通過時期を予測演算する演算器を設けることは、当業者が容易に想到し得ることと認められ、そして、かかる演算器を設けたことによる効果も、当業者が当然に予測し得る範囲のものと認められる。

相違点3について;
平成13年(行ケ)第577号判決においては、相違点3に関し、以下の判断が示されている。
『甲第3号証には、甲第3号証発明のストリップの巻取装置において、押圧ローラは、「ストリップの厚みsに相当する目標値」が入力されたパルスカウンタの作動に基づき、「ストリップの厚み分だけ」、「ストリップ厚みの値分だけ」持ち上げられることによって,ストリップ先端部(段付部)と衝突することなく通過する、とされているのであるから、帯鋼の巻取装置において、巻取りの初期にストリップの先端部(段付部)が押圧ローラ(案内片)と衝突することによって、ストリップの表面に条痕がつくことを防止するために、案内片を移動させて衝突を避ける、との技術思想自体は、甲第3号証に既に開示されている。
そうである以上、甲第3号証に接した当業者において、より確実な衝突回避を目的として、甲第3号証発明における押圧ローラ3a等の移動距離を「ストリップの厚み分」(帯鋼の板厚と同一寸法)から、「段差寸法より大きな距離」に変える、との発想(この発想は,必然的に,段付部が押圧ローラを通過した後に押圧ローラを帯鋼表面に所定の圧力で押し付けるようコイルの半径方向内方に移動させる、との発想を伴う。)を得ることは、当業者が極めて容易になし得ることであるというべきである。』
そして、平成13年(行ケ)第577号判決における上記説示のとおり、当審においても、相違点3については当業者が容易になし得ることと認める。

上記に検討したように、相違点1〜3の何れについても当業者が容易に想到し得たことと認められ、しかも、相違点1〜3をその構成として備えたことにより奏される効果も格別顕著であるとはいえない。

3.まとめ
上記のとおり、本件発明は、甲第3号証発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

V.むすび
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2001-10-25 
結審通知日 2001-10-30 
審決日 2001-11-13 
出願番号 特願昭53-98177
審決分類 P 1 112・ 121- Z (B21C)
P 1 112・ 531- Z (B21C)
P 1 112・ 03- Z (B21C)
P 1 112・ 113- Z (B21C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鴨井 久太郎大屋 晴男大黒 浩之  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 市川 裕司
瀬良 聡機
登録日 1989-01-18 
登録番号 特許第1475307号(P1475307)
発明の名称 帯鋼の巻取装置  
代理人 窪田 英一郎  
代理人 中村 守  
代理人 近藤 恵嗣  
代理人 荒崎 勝美  
代理人 飯田 秀郷  
復代理人 早稲本 和徳  

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