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審決分類 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C21C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C21C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C21C
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C21C
管理番号 1109390
審判番号 不服2002-15891  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-08-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-21 
確定日 2005-01-05 
事件の表示 平成10年特許願第18629号「コンピューターを用いたスクラップの使用量比率決定方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年8月10日出願公開、特開平11-217619〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本願は、平成10年1月30日の出願であって、平成14年7月18日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成14年8月21日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると共に、平成14年9月19日付けで手続補正がなされたものである。

[2]平成14年9月19日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成14年9月19日付けの手続補正を却下する。

〔理由〕
1.手続補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について、次のとおり補正前から補正後に補正することを含むものである。
補正前の特許請求の範囲:
「【請求項1】 ホストコンピュータに記憶された生産計画に基づいて製造する鋼の種類及び生産量を決定する工程と、
決定した種類及び生産量に対応する配合を配合セクションで決定し、収集された原料となるスクラップに関する市況情報及び在庫情報を対業者セクションから読み込む工程と、
スクラップ配合基準演算手段により、前記配合、市況情報、在庫情報及び製鋼操業における各種制約条件を考慮して、前記配合の下で製鋼操業コストが出来る限り小さくなる様な原料スクラップの使用量比率を線形計画法による演算処理の解として求める工程と、
求められた原料スクラップの使用量比率により製鋼操業に必要な処理を実行すると共に、求められた原料スクラップの使用量比率により前記配合を決定する基準を対業者セクションによって修正する工程、
とを含むことを特徴とするコンピュータを用いたスクラップの使用量比率決定方法。
【請求項2】 原料スクラップの使用量比率を求めた後に、当該使用量比率が後発的に不適当となった場合に、再度、配合を決定し、市況情報及び在庫情報を読み込み、原料スクラップの使用量比率を求め、必要な処理を実行し、前記配合を決定する基準を修正する工程を有する請求項1のコンピュータを用いたスクラップの使用量比率決定方法。
【請求項3】 上述した原料スクラップの使用量比率を線形計画法による演算処理の解として求める工程に際して、原料スクラップの配合比率を変数とし、各々のスクラップの購入価格及び使用価値を定数として、上記変数を順次変化させて演算処理をしている請求項1、2のいずれかのコンピュータを用いたスクラップの使用量比率決定方法。
【請求項4】 請求項1〜3のスクラップの使用量比率決定方法を実行する装置において、
製造する鋼の種類及び生産量を決定するのに必要な生産計画を記憶しているホストコンピュータと、
決定した鋼の種類及び生産量に対応する配合を決定する配合セクションと、
配合、市況情報、在庫情報及び製鋼操業における各種制約条件を考慮して、前記配合の下で製鋼操業コストが出来る限り小さくなる様な原料スクラップの使用量比率を線形計画法による演算処理の解として求める用に構成されたスクラップ配合基準演算手段と、
収集された原料となるスクラップに関する市況情報及び在庫情報を記憶し、求められた原料スクラップの使用量比率により前記配合を決定する様に構成された対業者セクションと、
該対業者セクションが記憶している各種情報に関する推知の認否を行う購買セクション、
とを含むことを特徴とするコンピュータを用いたスクラップの使用量比率決定装置。」
補正後の特許請求の範囲:
「【請求項1】 ホストコンピュータ(10)に記憶された生産計画に基づいて製造する鋼の種類及び生産量を決定する工程(ステップS1)と、
決定した種類及び生産量に対応する配合を配合セクション(16)で決定し、収集された原料となるスクラップに関する市況情報及び在庫情報を対業者セクション(12)から読み込む工程(ステップS2)と、
スクラップ配合基準演算手段(18)により、前記配合、市況情報、在庫情報、製鋼操業における各種制約条件を考慮して、前記配合の下で製鋼操業コスト(S)が出来る限り小さくなる様に、原料スクラップの配合原単位(x1〜xi)を変数とし、各々のスクラップの価格(c1〜ci)及び価値差(Δc1〜Δci)を定数として、上記変数を順次変化させて演算処理を行って、原料スクラップの使用量比率を求める工程(ステップS3)と、
求められた原料スクラップの使用量比率により製鋼操業に必要な処理を対業者セクション(12)で実行し(ステップS5-1)且つ購買セクション(14)で実行する(ステップS5-2)と共に、当該使用量比率に基づいて前記配合を修正する(ステップS5-3)工程(ステップS5)、
とを含むことを特徴とするコンピュータを用いたスクラップの使用量比率決定方法。
【請求項2】 原料スクラップの使用量比率を求めた(ステップS3)後に、当該使用量比率が後発的に不適当となった場合(ステップS6がYES)に、再度、配合を決定し(ステップS2-1)、市況情報及び在庫情報を読み込み(ステップS2-2、S2-3)、原料スクラップの使用量比率を求め(ステップS3)、必要な処理を実行し(ステップS5-1、S5-2)、前記配合を決定する基準を修正する(ステップS5-3)工程を有する請求項1のコンピュータを用いたスクラップの使用量比率決定方法。
【請求項3】 請求項1、2の何れかのスクラップの使用量比率決定方法を実行する装置において、
製造する鋼の種類及び生産量を決定するのに必要な生産計画を記憶しているホストコンピュータ(10)と、
決定した鋼の種類及び生産量に対応する配合を決定する配合セクション(16)と、
配合、市況情報、在庫情報及び製鋼操業における各種制約条件を考慮して、前記配合の下で製鋼操業コストが出来る限り小さくなる様に、原料スクラップの配合原単位(x1〜xi)を変数とし、各々のスクラップの購入価格(c1〜ci)及び価値差(Δc1〜Δci)を定数として、上記変数を順次変化させて演算処理を行って、原料スクラップの使用量比率を求める様に構成されたスクラップ配合基準演算手段(18)と、
収集された原料となるスクラップに関する市況情報及び在庫情報を記憶し、求められた原料スクラップの使用量比率により前記配合を決定する様に構成された対業者セクション(12)と、
該対業者セクションが記憶している各種情報に関する認否を行う購買セクション(14)、
とを含むことを特徴とするコンピュータを用いたスクラップの使用量比率決定装置。」

2.補正の適否についての当審の判断
2-1.特許法第17条の2第4項第2号の要件について
特許請求の範囲についての上記補正のうち、請求項1の
「求められた原料スクラップの使用量比率により前記配合を決定する基準を対業者セクションによって修正する工程」を、
「当該使用量比率に基づいて前記配合を修正する(ステップS5-3)工程(ステップS5)」とする補正は、「配合を決定する基準を修正する」という動作の主体である「対業者セクション」を削除している点、及び、修正の内容を「配合を決定する基準」から「配合」に変更している点で、平成15年改正前の特許法(以下、単に、「特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。

2-2.独立特許要件について
特許請求の範囲についての上記補正が、仮に、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、以下の理由で、本願は、明細書の記載要件を満たしていないから、本件補正後の少なくとも請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(i)発明特定事項の「価値差(Δc1〜Δci)」について
特許請求の範囲の請求項1の「製鋼操業コスト(S)が出来る限り小さくなる様に、原料スクラップの配合原単位(x1〜xi)を変数とし、各々のスクラップの価格(c1〜ci)及び価値差(Δc1〜Δci)を定数として、上記変数を順次変化させて演算処理を行って、原料スクラップの使用量比率を求める」という記載からみて、特許請求の範囲の請求項1等に記載された、発明特定事項である「価値差(Δc1〜Δci)」は、「各スクラップの価格(c1〜ci)」以外のもので、「製鋼操業コスト(S)」を構成するものと一応認められる。
しかしながら、このような特許請求の範囲の記載では、「製鋼操業コスト(S)」は、スクラップを取り扱う作業者や取扱機械のコストが含まれるか否か等、それらの用語自体の外延が明りょうでないから、特許請求の範囲の記載だけでは、「価値差(Δc1〜Δci)」という発明特定事項は、その意味が明確であるとは云えない。

そこで、発明の詳細な説明の記載を参酌するに、発明の詳細な説明には、「価値差(Δc1〜Δci)」について、次のような記載がなされている。
〔ア〕「目的関数であるコストCSを最小化するのに用いる価格には、各スクラップの価値差を考慮した価格(ci+Δci)で最適化計算を行い、求めた配合原単位で、実際の配合費用を求める。」(段落【0045】)
〔イ〕「各スクラップの価値差(スクラップを溶解するエネルギを電力単価に換算し、スクラップ価格に考慮して評価した数値)Δcは、スクラップを実際に電気炉で使用したときの鉄歩留り及び操業原単位等の得失について、経験値と理諭予測の両面を加味して計算したものである。」(平成14年6月21日付け手続補正書で補正された明細書の段落【0046】)
〔ウ〕「前記式(1)において、各スクラップの価値差Δc(スクラップ価値基準)は、金属化率、嵩比重、トランプエレメント、C源、溶解効率、SP可否、水引き及びダスト引き等によって、価値評価が為される。
ここで、金属化率はスクラップ中のメタル分であり、分析値等からの理論予測値と実際に電気炉で溶かした結果の歩留りとを照らし合わせて、大体83〜94%となるようにする。
嵩比重は、操作の容易性を考慮して、一定範囲の値となるようにされる。
電気炉では多量の酸素を使用し、CO2生成反応エネルギを利用し、鋼の溶解を促進し、生産性向上・電力原単位低減を図っている。その際に生じる反応のためのCとして、又は溶鋼中の酸素量を抑える脱酸剤としてC源が必要とされる。C源の一部はスクラップ中のCから補うが、別途コークスも入れる。
電気炉にスクラップを投入する前処理として、廃ガスを利用してスクラップを予熱(Scrap Preheater)するが、溶け易いスクラップは、この処理工程に入れられない。SP可否とは、電気炉に投入するスクラップを余熱処理工程に入れるか否かの区分けを意味している。「SP可」であれば、そのスクラップは余熱処理工程に入れることが出来る。一方、「SP不可」であれば、余熱処理工程に入れると当該スクラップが溶けてしまう(余熱処理工程に入れられない)。
水引きとは、スクラップを購入して重量実貫する際、雨等により当該スクラップが水に濡れている場合は、その重量を含めて測る事となるため、その重量を目視(経験による)で購入重量からマイナスすることをいう。」(平成14年6月21日付け手続補正書で補正された明細書の段落【0053】)

前記〔ア〕の記載は、「価値差(Δc1〜Δci)」が「コストCSを最小化するのに用いる価格」を構成するものであることを明らかとしているが、「価値差(Δc1〜Δci)」の意味を明確に説明乃至定義するものではない。
前記〔イ〕の記載からみれば、「価値差(Δc1〜Δci)」は、「スクラップを溶解するエネルギを電力単価に換算し、スクラップ価格に考慮して評価した数値」(前者)であり、また、「スクラップを実際に電気炉で使用したときの鉄歩留り及び操業原単位等の得失について、経験値と理諭予測の両面を加味して計算したもの」(後者)でもあるとされているが、前者では、「スクラップを溶解するエネルギ」に関するコストとされているのに対し、後者では、「鉄歩留り」等の得失について計算したものとされ、意味が全く異なるものである。しかも、後者については、「鉄歩留り」等の得失について、どのような経験値や理論に基づき、どのように「経験値と理諭予測の両面を加味して計算」するのかも明りょうでない。
前記〔ウ〕の記載からみれば、「価値差(Δc1〜Δci)」は、「金属化率、嵩比重、トランプエレメント、C源、溶解効率、SP可否、水引き及びダスト引き等によって、価値評価する」ものであるとされているが、前記〔イ〕に記載のものとその意味が異なるし、前記〔ウ〕の記載では、金属化率等をどのように価値評価するのかも明りょうでない。
してみれば、本件補正後の請求項1等に記載された「価値差(Δc1〜Δci)」の発明特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その意味が明確であるとは云えないし、また、発明の詳細な説明は、その発明特定事項について、当業者が実施をすることができる程度に明確、かつ、十分に記載されているとは云えない。

(ii)発明特定事項の「市況情報、在庫情報、製鋼操業における各種制約条件を考慮して、前記配合の下で製鋼操業コスト(S)が出来る限り小さくなる様に、原料スクラップの配合原単位(x1〜xi)を変数とし、各々のスクラップの価格(c1〜ci)及び価値差(Δc1〜Δci)を定数として、上記変数を順次変化させて演算処理を行って、原料スクラップの使用量比率を求める工程」について
特許請求の範囲の請求項1の「市況情報、・・・における各種制約条件を考慮して、・・・製鋼操業コスト(S)が出来る限り小さくなる様に、原料スクラップの配合原単位(x1〜xi)を変数とし、各々のスクラップの価格(c1〜ci)及び価値差(Δc1〜Δci)を定数として、上記変数を順次変化させて演算処理を行って、原料スクラップの使用量比率を求める工程」という記載では、「市況情報」や「各種制約条件」等の意味乃至外延が明りょうでないし、「各種制約条件」をどのように考慮するのかも明りょうでないから、どのように、「原料スクラップの使用量比率を求める」のかも明りょうでない。

そこで、発明の詳細な説明の記載を参酌するに、発明の詳細な説明には、前記「市況情報、・・・における各種制約条件を考慮して、・・・製鋼操業コスト(S)が出来る限り小さくなる様に、・・・原料スクラップの使用量比率を求める工程」について、次のような記載がなされている。
〔カ〕「前記制約条件として、
トランプエレメント:Σ(各スクラップの各トランプエレメント含有量・xi)≦各トランプエレメントの規格値なる不等式で示される条件を満たすことが要求され、且つ、
Fe:Σ(各スクラップのFe含有量・xi)≧1.0なる不等式で示される条件を満たすことが要求され(含有金属の制約条件)、前記集荷能力や操業上の制約条件として、
xi≧0 (2)
a≦xi≦b (3)
なる不等式で示される条件を満たすことが要求される。ここで、式(2)及び(3)において、a、bは、集荷能力や操業上の制約で決まる配合の上下限値を表わし、iは1〜数十迄の整数を表わし、xiは各スクラップの前記配合原単位を表している。」(段落【0015】)
〔キ〕「スクラップは、基本的には、トータルコストの安いものを使用するが、化学成分・実操業可能範囲・購入可能量限界が制約条件となり、その限界を考慮して決める(演算システムの中に取り込む)。」(段落【0047】)
〔ク〕「制約条件は次の通りである。
トランプエレメントについては、
Σ(各スクラップの各トランプエレメント含有量・xi)≦各トランプエレメントの規格値 (2)
なる不等式を満足させることである。Feについては、
Σ(各スクラップのFe含有量・xi)≧1.0 (3)
なる不等式を満足させることである。さらに、実操業可能範囲、購入可能量限界(集荷能力や操業上の制約)も考慮する必要がある。すなわち、各スクラップの配合量の上下限値が
xi≧0 (4)
a≦xi≦b (5)
(式中、a、bは、集荷能力や操業上の制約で決まる配合の上下限値を表わし、iは前記数を表す。)なる条件を充足する必要がある。」(段落【0049】)

しかしながら、発明の詳細な説明のこれらの記載を参酌しても、「集荷能力」、「購入可能量限界」、「入荷量予測(上限、下限)」等と、「市況情報」や「各種制約条件」等との関係などが明りょうでなく、それ故、「各種制約条件」をどのように考慮して、「原料スクラップの使用量比率を求める」のかも依然として明確ではない。
してみれば、本件補正後の請求項1に記載された前記「市況情報、・・・における各種制約条件を考慮して、・・・製鋼操業コスト(S)が出来る限り小さくなる様に、・・・原料スクラップの使用量比率を求める工程」の発明特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その意味が明確であるとは云えないし、また、発明の詳細な説明は、その発明特定事項について、当業者が実施をすることができる程度に明確、かつ、十分に記載されているとは云えない。

(iii)明細書記載不備のまとめ
上記(i)、(ii)のとおり、本件補正後の明細書の記載は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、少なくとも、本件補正後の請求項1に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項及び同法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

[3]本願発明について
1.本願発明
平成14年9月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1〜4に係る発明は、平成14年6月20日付け及び平成14年6月21日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定されるとおりのものである(前記[2]の「1.手続補正の内容」の「補正前の特許請求の範囲」参照。以下、「本願発明1〜4」という)。

2.原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由の概要は、本願は、次の点で明細書の記載が不備であるから、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない、というものである。
(i)特許請求の範囲の請求項3に記載された「使用価値」という発明特定事項は、その意味が明りょうでないし、また、段落【0045】等の「価値差」の記載をみても、発明の詳細な説明は、その発明特定事項について、当業者が実施をすることができる程度に明確、かつ、十分に記載されているとは云えない。
(ii)特許請求の範囲の請求項1等に記載された「市況情報」、「各種制約条件」、「市況情報、・・・における各種制約条件を考慮して、・・・製鋼操業コストが出来る限り小さくなる様な原料スクラップの使用量比率を線形計画法による演算処理の解として求める」という発明特定事項は、その意味が明りょうでないし、また、段落【0045】等の記載をみても、発明の詳細な説明は、その発明特定事項について、当業者が実施をすることができる程度に明確、かつ、十分に記載されているとは云えない。

3.当審の判断
(i)の点について
特許請求の範囲の請求項1の「製鋼操業コストが出来る限り小さくなる様な原料スクラップの使用量比率を線形計画法による演算処理の解として求める」や請求項3の「原料スクラップの配合比率を変数とし、各々のスクラップの購入価格及び使用価値を定数として、上記変数を順次変化させて演算処理をしている請求項1、2のいずれかのコンピュータを用いたスクラップの使用量比率決定方法」という記載からみて、特許請求の範囲の請求項3に記載された、発明特定事項である「使用価値」は、「各々のスクラップの購入価格」以外のもので、「製鋼操業コスト」に関係するものと一応認められる。
しかしながら、このような特許請求の範囲の記載では、「製鋼操業コスト」は、スクラップを取り扱う作業者や取扱機械のコストが含まれるか否か等、それらの用語自体の外延が明りょうでないし、各々のスクラップの「使用価値」をどのように決定するのかも明りょうでないから、特許請求の範囲の記載だけでは、「使用価値」という発明特定事項は、その意味が明確であるとは云えない。

そこで、発明の詳細な説明の記載を参酌するに、発明の詳細な説明には、「使用価値」乃至「価値差(Δc)」について、前記[2]2-2.(i)で述べた前記〔ア〕〜〔ウ〕の記載の外、次の〔エ〕の記載がなされている。
〔エ〕「原料スクラップの使用量比率を求める際には、原料スクラップの配合比率を変数とし、各々のスクラップの購入価格及び使用価値を定数として、上記変数を順次変化させて演算処理をするのが好ましい。」(段落【0013】)

前記〔ア〕〜〔ウ〕と前記〔エ〕との対応からみて、「使用価値」は、「価値差(Δc)」と同列のものと推定し得る。しかしながら、仮に、「使用価値」が「価値差(Δc)」と同義なものとしても、「価値差(Δc)」の意味が明確でないことは、前記〔ア〕〜〔ウ〕の記載に基づき前記[2]2-2.(i)で述べたとおりであるから、これらの記載を参酌しても依然として、「使用価値」の意味が明確であるとは云えない。
したがって、特許請求の範囲の請求項3に記載された「使用価値」の発明特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その意味が明確であるとは云えないし、また、発明の詳細な説明は、その発明特定事項について、当業者が実施をすることができる程度に明確、かつ、十分に記載されているとは云えない。

(ii)の点について
特許請求の範囲の請求項1の「市況情報、・・・における各種制約条件を考慮して、・・・製鋼操業コストが出来る限り小さくなる様な原料スクラップの使用量比率を・・・求める工程」という記載では、「市況情報」や「各種制約条件」等の意味乃至外延が明りょうでないし、「各種制約条件」をどのように考慮するのかも明りょうでないから、どのように、「原料スクラップの使用量比率を求める」のかも明りょうでない。

そこで、発明の詳細な説明の記載を参酌するに、発明の詳細な説明には、前記[2]2-2.(ii)で述べた前記〔カ〕〜〔ク〕の記載がなされている。
そして、前記[2]2-2.(ii)で述べたと同様の理由で、本件補正後の請求項1に記載された前記「市況情報、・・・における各種制約条件を考慮して、・・・製鋼操業コストが出来る限り小さくなる様な原料スクラップの使用量比率を・・・求める工程」の発明特定事項は、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、その意味が明確であるとは云えないし、また、発明の詳細な説明は、その発明特定事項について、当業者が実施をすることができる程度に明確、かつ、十分に記載されているとは云えない。

(iii)明細書記載不備のまとめ
上記(i)、(ii)のとおりであるから、本願は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない

4.むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-11-09 
結審通知日 2004-11-10 
審決日 2004-11-25 
出願番号 特願平10-18629
審決分類 P 1 8・ 531- Z (C21C)
P 1 8・ 534- Z (C21C)
P 1 8・ 575- Z (C21C)
P 1 8・ 572- Z (C21C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 一正  
特許庁審判長 沼沢 幸雄
特許庁審判官 綿谷 晶廣
吉水 純子
発明の名称 コンピューターを用いたスクラップの使用量比率決定方法及び装置  
代理人 高橋 敏邦  
代理人 高橋 敏忠  

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