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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  H01G
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01G
審判 全部申し立て 特174条1項  H01G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01G
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01G
管理番号 1109526
異議申立番号 異議2003-71795  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-06-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-14 
確定日 2004-10-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3366268号「電解コンデンサ駆動用電解液及びこれを使用した電解コンデンサ」の請求項1ないし13に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3366268号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続きの経緯
本件特許第3366268号に係る手続きの主な経緯は次のとおりである。
特許出願(特願平10-356955号) 平成10年12月 1日
特許権設定登録 平成14年11月 1日
特許異議申立(異議申立人:ニチコン株式会社)平成15年 7月14日
特許異議申立(異議申立人:恒本昌美) 平成15年 7月14日
取消理由通知 平成16年 4月23日
特許異議意見書・訂正請求書 平成16年 7月12日
上申書(異議申立人:恒本昌美) 平成16年 9月14日

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の【請求項1】における「少なくとも1種のニトロ化合物」を「ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物」と訂正する。

(2)訂正事項b
特許請求の範囲の【請求項5】を削除する。

(3)訂正事項c
【請求項6】の項番号を繰り上げ、【請求項5】と訂正する。

(4)訂正事項d
【請求項7】、【請求項8】、【請求項9】、【請求項10】の項番号を順次繰り上げ、それぞれ【請求項6】、【請求項7】、【請求項8】、【請求項9】と訂正するとともに、請求項7〜10中の引用請求項の項番号6〜9を順次繰り上げ、それぞれ請求項5〜8と訂正する。

(5)訂正事項e
特許請求の範囲の【請求項11】を削除する。

(6)訂正事項f
【請求項12】、【請求項13】の項番号を順次二つ繰り上げ、それぞれ【請求項10】、【請求項11】と訂正するとともに、請求項12、13中の引用請求項の項番号11、12を順次二つ繰り上げ、それぞれ請求項9、10と訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項a
訂正事項aは、特許請求の範囲の請求項1における「少なくとも1種のニトロ化合物」を具体的に「ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に当たり、この点は、訂正前の請求項5に記載されている。
したがって、訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項b、e
訂正事項b、eは、特許請求の範囲の請求項5又は請求項11を削除するものであるから、それぞれ特許請求の範囲の減縮に当たる。

(3)訂正事項c、d、f
訂正事項c、d、fは、特許請求の範囲の請求項5及び請求項11の削除に伴い請求項の項番号を順次繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明に当たる。
また、訂正事項c、d、fは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 訂正の適否のむすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3 特許異議申立及びこれについての判断
1 本件発明
上記第2で示したように上記訂正は認められるので、本件請求項1〜11に係る発明(以下、「本件発明1〜11」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 20〜55.9重量%の有機溶媒と80〜44.1重量%の水とからなる溶媒と、カルボン酸又はその塩の少なくとも1種及び、リン酸、亜リン酸、ホウ酸及びスルファミン酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択される無機酸又はその塩の少なくとも1種からなる電解質とを含む電解液が、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物を含んでいることを特徴とする電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項2】 前記電解液の30℃における比抵抗が、68Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項3】 前記電解液の30℃における比抵抗が、40Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項4】 前記電解液の30℃における比抵抗が、30Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項5】 前記ニトロ化合物が、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸及びジニトロ安息香酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項6】 前記ニトロ化合物が2種もしくはそれ以上のニトロ化合物の組み合わせであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項7】 前記ニトロ化合物が当該電解液の全量を基準にして0.01〜5重量%の量で添加されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項8】 前記有機溶媒がプロトン系溶媒、非プロトン系溶媒又はその混合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項9】 前記カルボン酸又はその塩が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p-ニトロ安息香酸、サリチル酸、安息香酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、アゼライン酸、クエン酸及びオキシ酪酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項10】 下記の群:
(1)キレート化合物、
(2)糖類、
(3)ヒドロキシベンジルアルコール及び(又は)L-グルタミン酸二酢酸又はその塩、及び
(4)グルコン酸及び(又は)グルコノラクトン、
から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項11】 請求項1〜10のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液を含んでなることを特徴とする電解コンデンサ。」

2 特許異議申立の理由及び取消理由の概要
(1)特許異議申立の理由
特許異議申立人ニチコン株式会社は、証拠として、
特願平11-255249号(甲第1号証:特開2000-188240号公報)
を提出し、本件特許の請求項1〜13に係る発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された上記の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人がその出願前の出願に係る上記特許出願の出願人と同一でもないので、本件請求項1〜13に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、特許を取り消すべき旨主張している。(ただし、特許異議申立書中の「特許法第34条第1項」及び「特許法第39条第1項」は、「特許法第29条の2」の誤記と認定した。)

また、特許異議申立人恒本昌美は、証拠として、
刊行物1(甲第1号証):特開昭60-242610号公報
刊行物2(甲第2号証):特公平3-42695号公報
刊行物3(甲第3号証):「アルミニウム乾式電解コンデンサ」永田伊佐也著、日本蓄電器工業株式会社、昭和58年6月15日発行、第377頁〜第386頁
刊行物4(甲第4号証):特開昭54-93443号公報
刊行物5(甲第5号証):特開昭61-79219号公報
刊行物6(甲第6号証):特開平6-151251号公報
刊行物7(甲第7号証):特開昭56-73423号公報
刊行物8(甲第8号証):特開平1-168016号公報
を提出し、本件請求項1〜13に係る発明は、刊行物1〜8に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を取り消すべき旨主張している。

(2)取消理由の概要
取消理由の概要は、以下のとおりである。
「1)本件特許の請求項1〜13に係る発明は、その出願の日前の出願であって、その出願後に出願公開された下記1の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人がその出願前の出願に係る上記特許出願の出願人と同一でもないので、本件請求項1〜13に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
2)本件特許の請求項1〜13に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であるから、本件請求項1〜13に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
3)本件特許の請求項1〜13に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物1〜10に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1〜13に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
4)平成13年9月19日付け、平成14年1月28日付け及び平成14年7月8日付けでした手続補正は、下記12、13の点で願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。
5)本件特許は、明細書及び図面の記載が下記14、15の点で不備のため、特許法第36条第4項及び第6項の規定に違反してなされたものである。


1.特願平11-255249号(特許異議申立人ニチコン株式会社が提出した甲第1号証:特開2000-188240号公報)
2.刊行物1(特許異議申立人恒本昌美が提出した甲第1号証):特開昭60-242610号公報
3.刊行物2(同甲第2号証):特公平3-42695号公報
4.刊行物3(同甲第3号証):「アルミニウム乾式電解コンデンサ」永田伊佐也著、日本蓄電器工業株式会社、昭和58年6月15日発行、第377頁〜第386頁
5.刊行物4(同甲第4号証):特開昭54-93443号公報
6.刊行物5(同甲第5号証):特開昭61-79219号公報
7.刊行物6(同甲第6号証):特開平6-151251号公報
8.刊行物7(同甲第7号証):特開昭56-73423号公報
9.刊行物8(同甲第8号証):特開平1-168016号公報
10.刊行物9:特開平2-46714号公報(第2頁右下欄第2行〜第6行「ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸」)
11.刊行物10:特開平6-314636号公報(請求項1等「リン酸、亜リン酸、次亜リン酸」)

[特許法第29条の2]
電解液の電解質成分として、ホウ酸、リン酸、亜リン酸及び次亜リン酸が、相互に互換性を有することは、上記刊行物9、10にも示されるように周知・慣用技術であるから、先願明細書に記載された発明において、次亜リン酸をホウ酸、リン酸、亜リン酸等に代えた点は、単なる周知・慣用技術の転換に過ぎず、さらに、転換により新たな効果を奏するとも認められないので、課題解決のための具体化手段における微差である。
ニトロ化合物等の他の成分の転換についても、同様である。
したがって、本件請求項1〜13に係る発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。
特許異議申立人ニチコン株式会社が提出した特許異議申立書の「4.申立の理由」も参照されたい。ただし、「特許法第34条第1項」及び「特許法第39条第1項」は、「特許法第29条の2」と読み替える。

[特許法第29条]
本件請求項1〜13に係る発明は、特許異議申立人恒本昌美が提出した特許異議申立書の「3.申立の理由」記載の理由及び上記周知・慣用技術の転換と同様の理由により、刊行物1に記載された発明であり、さらに、水含有量を44.1重量%以上に限定したことにより、44.1重量%未満のものと比べ当業者の予測を超える顕著(臨界的)な効果を奏するとも認められないので、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、依然として、「引用例1の請求項1では5〜27重量%の水に組み合わせて、5〜40重量%のエタノールアミンアジペート(引用例1の2頁に記載の表で、本発明1〜3によると、水とEGが40重量%と著しく低濃度の場合においては、電解質となる20重量%のアジピン酸アンモニウムの溶解が非常に困難であるので、この化合物が溶媒として機能していることは明らかである)と残部のエチレングリコールを使用しているので、電解液中の溶媒は、最大量の水が含まれると仮定して、27重量%の水及び53重量%の有機溶媒となり、したがって、溶媒全体に占める水の量は33.75重量%となる。」と主張するのであれば、このこと(特に下線部)を証明する証拠等を提出されたい。

さらに、意見書等の作成に当たっては、以下の点も考慮されたい。
「一定の課題を解決するために公知材料の中からの最適材料の選択、数値範囲の最適化又は好適化、均等物による置換、技術の具体的適用に伴う設計変更などは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、相違点がこれらの点にのみある場合は、他に進歩性の存在を推認できる根拠がない限り、通常は、その発明は当業者が容易に想到することができたものと考えられる。」(審査基準第II部第2章2.5(1)○1参照)
「実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、当業者の通常の創作能力の発揮であって、ここに進歩性はないものと考えられる。」(審査基準第II部第2章2.5(2)○4参照)
数値限定により当業者の予測を超える顕著(臨界的)な効果があれば、例外的に、進歩性を有する場合があるだけである。
水含有量が本件発明の範囲外である44.1重量%未満の本件明細書の表1の実施例6(35.7重量%)、実施例7(25重量%)、実施例8(30.3重量%)と比べ、例えば本件発明の実施例10(44.1重量%)は、どのような当業者の予測を超える顕著(臨界的)な効果があるのか、説明・立証されたい。
本件発明は、刊行物1(水含有量:67.5重量%)と同一であるから、同一の効果を奏するはずである。仮に、刊行物1の水含有量が33.75重量%であるとしても、本件発明は、水含有量(44.1重量%)が多少異なるだけであり、この水含有量の相違のみにより、どのような当業者の予測を超える顕著(臨界的)な効果があるのか、説明・立証されたい。
本件発明の効果、特に水含有量を44.1重量%以上に限定した効果について、当業者の予測を超える顕著(臨界的)な効果があるのであれば、それを説明・立証されたい。
また、その効果が特許明細書のどこに記載されているのか明示されたい。
ただし、(1)特許明細書に記載のある効果、又は特許明細書の記載から自明な効果に限られるが、自明程度の効果は、一般的に当業者の予測を超えるものでない点、(2)後付けの効果の主張は採用できない点、(3)特許請求の範囲に記載された構成のみに基づかない、より具体的な実施例のみにおける効果の主張は採用できない点、(4)本件発明の効果としては、特許請求の範囲の記載に含まれるすべてのものにおいて奏する最低限の効果でなければならない点、に留意されたい。

12.当初明細書等の【請求項1】には、「ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物」と記載されており、「少なくとも1種のニトロ化合物」は、「ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択される」ものに限定されていた。
そして、平成13年9月19日付け、平成14年1月28日付け及び平成14年7月8日付けでした手続補正において、単に「少なくとも1種のニトロ化合物」と補正されたことにより、「ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソール」以外のすべてのニトロ化合物をも含むようになった。
しかし、ニトロ化合物として「ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソール」以外のすべてを含むことは、当初明細書等に記載がなく、また当初明細書等の記載から自明な事項とも認められないので、新規事項である。

13.平成14年7月8日付けでした手続補正により、
「【請求項2】前記電解液の30℃における比抵抗が、68Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項3】前記電解液の30℃における比抵抗が、40Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項4】前記電解液の30℃における比抵抗が、30Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。」
を追加しているが、ある特定の実施例において比抵抗が68、40、30Ω・cmであったからといって、請求項1に係る発明に含まれる全ての場合において比抵抗が68、40、30Ω・cm以下になるとは限らない。
さらに、請求項2〜4に係る発明では、比抵抗が0〜19Ω・cmのものも含まれるが、当初明細書等には、比抵抗が0〜19Ω・cmである実施例はない。
したがって、上記補正は、新規事項である。

14.請求項2〜4に係る発明は、比抵抗が68、40、30Ω・cm以下としているので、比抵抗が0〜19Ω・cmのものも含まれることになるが、比抵抗が0〜19Ω・cmである実施例はなく、サポート要件違反であると共に、実施可能要件違反である。

15.請求項2〜4に係る発明は、比抵抗が68、40、30Ω・cm以下としているが、請求項1の構成だけで、含有量・他の成分の付加等他の条件に関係なくすべてのものが比抵抗68、40、30Ω・cm以下になるわけではない。したがって、例えば請求項4の30Ω・cm以下のものを得ようとすれば、当業者は試行錯誤して成分を調整する必要があり、明細書に記載のある実施例以外の部分については容易に実施できないので、実施可能要件違反であると共に、請求項2〜4に係る発明は、実施例以外の部分について、サポート要件違反である。」

3 特許法第17条の2第3項(新規事項)について
(1)取消理由通知の12について
上記訂正事項aによる訂正により、新規事項は解消した。

(2)取消理由通知の13について
請求項2〜4に係る発明は、請求項1に記載された新規且つ進歩性を有する組成の電解液において、更に比抵抗を68、40、30Ω・cm以下のものに限定したに過ぎず、また比抵抗が68、40、30Ωである実施例も記載されており、当業者に自明な限定事項であるから、新規事項とはいえない。

4 特許法第36条第4項及び第6項について
(1)取消理由通知の14について
請求項2〜4に係る発明は、請求項1に記載された新規且つ進歩性を有する組成の電解液において、更に比抵抗を68、40、30Ω・cm以下のものに限定したに過ぎず、また比抵抗が68、40、30Ω・cm以下の実施例も記載されているので、請求項2〜4に係る発明は、実施可能要件及びサポート要件を満たしている。

(2)取消理由通知の15について
電解液において、水分量を増やせば比抵抗が下がることは、例えば本件特許明細書の第1表の比較例1〜3を見ても分かるように周知であり(更に必要なら、特許異議意見書に添付された参考資料3を参照されたい。)、必要な比抵抗に応じて適宜水分量を増やせばよいことは明らかであるから、請求項2〜4に係る発明は、実施可能要件及びサポート要件を満たしている。

5 特許法第29条の2について
(1)先願明細書に記載された発明
先願明細書は、出願日が平成11年9月9日で、本件発明の出願日である平成10年12月1日の後なので、優先権主張の基になった特願平10-290333号(出願日:平成10年10月13日)の明細書が、比較対象となる。
そして、その【0029】の【表1】の本発明の実施の形態10に、「エチレングリコール(50)、純水(50)、アジピン酸アンモニウム(12)、1,7-オクタンジカルボン酸アンモニウム(7)、p-ニトロ安息香酸(1)、次亜燐酸アンモニウム(1)」が記載され、更に【請求項2】及び【請求項3】に、「【請求項2】コンデンサ素子を構成するセパレータにアルキル燐酸エステル、次亜燐酸、ピロ燐酸より選ばれる一種以上の化合物もしくはその塩が付着し、前記化合物のセパレータへの付着量がセパレータの単位重量当たり5.0〜50.0mg/gである請求項1に記載のアルミニウム電解コンデンサ。
【請求項3】コンデンサ素子を構成する陽極アルミニウム箔、陰極アルミニウム箔の少なくとも一方にアルキル燐酸エステル、次亜燐酸、ピロ燐酸より選ばれる一種以上の化合物もしくはその塩が付着し、前記化合物の付着量が電極箔の単位重量当たり0.5〜5.0mg/gである請求項1または2に記載のアルミニウム電解コンデンサ。」が記載されている。

(2)本件発明と先願明細書に記載された発明との対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と先願明細書に記載された発明とを対比すると、本件発明1が、「リン酸、亜リン酸、ホウ酸及びスルファミン酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択される無機酸又はその塩の少なくとも1種」を含むのに対して、先願明細書に記載された発明では、「次亜燐酸アンモニウム」である点で相違する。
そして、先願明細書の【0029】の【表1】の本発明の実施の形態10における「次亜燐酸(アンモニウム)」は、先願明細書の【請求項2】及び【請求項3】の記載から、「アルキル燐酸エステル、次亜燐酸、ピロ燐酸より選ばれる一種以上の化合物もしくはその塩」でなければならず、次亜リン酸をホウ酸、リン酸、亜リン酸等に置き換えることには阻害要因があるので、後述する刊行物9、10にも示される周知・慣用技術を考慮しても、次亜リン酸をホウ酸、リン酸、亜リン酸等に置き換えることはできない。
したがって、本件発明1と先願明細書に記載された発明とは、実質的に同一であるとはいえない。

イ 本件発明2〜11について
本件発明2〜11は、本件発明1を直接又は間接に引用して、更に限定したものであるから、本件発明1と同様の理由により、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であるとはいえない。

6 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項について
(1)刊行物に記載された発明
ア 刊行物1に記載された発明
(a)特許請求の範囲
(1)水27〜5wt%、アジピン酸アンモニウム20〜lwt%、エタノールアミンアジぺート40〜5wt%、残部がエチレングリコールからなる溶液に対し、リン酸アンモニウム0.01〜0.15wt%を添加したものからなる電解コンデンサ用電解液。
(2)パラニトロフェノール3wt%以下を添加したことを特徴とする特許請求の範囲第(1)項記載の電解コンデンサ用電解液。
(b)第2頁下欄の表
本発明1,2,3には、EG(エチレングリコール)13wt%、水27wt%、アジピン酸アンモニウム20wt%、エタノールアミンアジぺート40wt%、リン酸アンモニウム0.15又は0.1wt%の電解液が記載されている。
(c)第3頁左上欄第1行〜第7行
なお表に記載されたモノ,ジ,トリエタノールアミンアジペートはエタノールアミンアジペートの1種であり、アジピン酸とエタノールアミンとを混合し加熱またはエチレングリコール中で該混合を行うことにより生成できるが、これらは40wt%を越えるとエチレングリコールに溶解しなくなる。
(d)第3頁右下欄第2行〜第5行
本発明はリン酸アンモニウムを適量添加したことにより無負荷放置したときのベーマイト反応が抑制され、よって静電容量変化率、tanδ変化率を小さくする効果を有する。
(e)第3頁右下欄第6行〜第12行
本発明になる電解コンデンサ用電解液を含浸した電解コンデンサは、ハロゲン化炭化水素で洗浄した場合でもコンデンサ素子の腐蝕を防止しコンデンサを負荷放置したときでも無負荷放置の場合でも弁動作,腐蝕などを生ぜず寿命特性を向上させることができる効果を有するものである。
(f)第3頁右下欄第13行〜第18行
また上記本発明になる電解コンデンサ用電解液にパラニトロフェノール3wt%を添加した電解液は、コンデンサ内部に発生したガスを前記パラニトロフェノールで吸収するためにとくに負荷放置の際の静電容量変化率およびtanδ特性を改善することができる。

イ 刊行物2に記載された発明
(a)特許請求の範囲
1 エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、N・N’ジメチルホルムアミド、γ-ブチロラクトン等の有機溶媒と水とを溶媒とし、この溶媒に、アジピン酸、安息香酸、サリチル酸等の有機カルボン酸またはその塩を溶質として溶解し、さらに添加剤としてグルコン酸および/またはグルコン酸のラクトンを添加して成る電解コンデンサ駆動用電解液。
2 添加剤としてさらにエチレンジアミン四酢酸あるいはその塩を添加して成る特許請求の範囲第1項記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
3 水の濃度が1重量%〜70重量%である特許請求の範囲第1項または第2項記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
(b)第2頁第3欄第10行〜第14行
水の濃度が30重量%〜70重量%の高濃度であつても高温下でのコンデンサの内圧上昇が抑制され、したがつて高温下での使用を可能にすると共に、比抵抗の低い電解液を提供するにある。
(c)第2頁第3欄第33行〜第43行
上記のグルコン酸等を添加剤として添加することによつて、水の濃度が30重量%以上であつても、高温下での電解液と電極箔との反応が抑制され、ガスの発生がほとんどみられないことである。したがつて高温下でもコンデンサの内圧が上昇せず、高温下での使用が可能となつた。また期待通り比抵抗は低下し、水の濃度が50重量%の場合、比抵抗が20Ωcmと充分に低いものとなつた。水の濃度は最大70重量%程度であつても高温下での電解液と電極箔との反応は抑制された。

ウ 刊行物3に記載された発明
(a)第377頁第6行〜第10行
水は優れた溶剤であり,また,電解質を溶解したとき多量のイオンを生成するから,抵抗値の低い電解液を作るには都合がよい.また,電極やセパレータに対するぬれ性もよい.そのうえ,値段も安いという特長もある.したがって,電解コンデンサの駆動用電解液の一つの材料として,長期間にわたって利用されてきた.

エ 刊行物4に記載された発明
(a)特許請求の範囲第1項
エチレングリコールに水0〜20重量%を加えた溶媒にカルボン酸と該カルボン酸のアンモニウム塩を溶解せしめてPH4〜6.5の緩衝溶液を調整し、該緩衝溶液に0.05〜3重量%のパラニトロフエノールを添加した電解コンデンサ駆動用電解液。
(b)第2頁左下欄第4行〜第5行
パラニトロフエノールは水素ガス吸収能がきわめて高く、

オ 刊行物5に記載された発明
(a)特許請求の範囲第1項
・・・安息香酸アンモニウム3〜10重量%、水4〜16重量%、エチレングリコール75〜93重量%、減極剤としてのニトロ化合物0〜4重量%及び燐酸塩0〜0.5重量%から成り、・・・
(b)特許請求の範囲第2項
ニトロ化合物がオルト-ニトロアニソール又はニトロプロパンである、特許請求の範囲第1項記載のキヤパシタ。

カ 刊行物6に記載された発明
(a)【請求項1】
多価アルコールに安息香酸またはその塩を溶解した電解コンデンサ用電解液において、純水を1〜12重量%、次亜リン酸アンモニウムを0.1〜5重量%、P-ニトロ安息香酸アンモニウムを0.1〜2重量%含有することを特徴とする電解コンデンサ用電解液。
(b)段落【0007】
・・・P-ニトロ安息香酸アンモニウムは、水素ガス発生を抑制できる。従って、電解コンデンサのケースの変形や防爆弁の作動を抑制できる。

キ 刊行物7に記載された発明
(a)特許請求の範囲第1項
アジピン酸のアンモニウム塩又は塩基性アミン塩、エチレングリコール、水を含有する基本電解液に化成特性改良剤としてのリン酸を添加し、電導度改良剤としての硼酸を含有することを特徴とする電解コンデンサ駆動用電解液。

ク 刊行物8に記載された発明
(a)特許請求の範囲第1項
溶媒と溶質とからなる電解液に、下記の群より選ばれた少なくとも1種の添加剤を添加した電解コンデンサ駆動用電解液。
イミノ二酢酸又はその塩、ジヒドロキシエチルグリシン又はその塩、トリエチレンテトラミン六酢酸又はその塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸又はその塩、ビドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸又はその塩、ジエチレントリアミン五酢酸又はその塩、シクロヘキサジアミン四酢酸又はその塩、エチレンジアミン二酢酸又はその塩、・・・

ケ 刊行物9に記載された発明
(a)第2頁右下欄第2行〜第6行
ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸

コ 刊行物10に記載された発明
(a)【請求項1】等
リン酸、亜リン酸、次亜リン酸

(2)本件発明と刊行物に記載された発明との対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と刊行物1〜10に記載された発明とを対比すると、刊行物1〜10には、本件発明1の構成要素である「20〜55.9重量%の有機溶媒と80〜44.1重量%の水とからなる溶媒と、電解質とを含む電解液が、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物を含んでいる」点が記載されていない。
刊行物1については、特許異議意見書に添付された参考資料4の実験報告書により、エタノールアミンアジペートが溶媒として機能していることが明確になった。ゆえに、刊行物1に記載された発明の電解液の溶媒中の水分量は、最大33.75重量%(27/(13+27+40))であり、本件発明1の水分量80〜44.1重量%とは異なり、同一ではない。
また、電解液の溶媒中の水分量を増やせば比抵抗を低下できることが、従来から分かっていたにもかかわらず、ニトロ化合物の添加により水分量を44.1重量%以上にした刊行物がないということは、従来ニトロ化合物によって水分量を44.1重量%以上にはできないと考えられていたともいえる。
さらに、刊行物2に記載された発明は、電解液にグルコン酸等を添加することにより、水分量を70重量%まで、可能にしたものであり、ニトロ化合物は添加されていない。そして、刊行物1に記載された発明は、比抵抗の低下を目的としていないし、更に多くの水分量を添加可能であるとの示唆もないので、刊行物2に記載された発明を考慮しても、刊行物1に記載された発明において、水分量を80〜44.1重量%に増やすことが、当業者に容易であるとはいえない。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件発明2〜11について
本件発明2〜11は、本件発明1を直接又は間接に引用して、更に限定したものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1に記載された発明であるとも、刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

7 上申書について
上申書の内容を検討しても、上記判断は変わらない。

8 特許異議申立についての判断のむすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び取消理由によっては本件発明1〜11についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜11についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
電解コンデンサ駆動用電解液及びこれを使用した電解コンデンサ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 20〜55.9重量%の有機溶媒と80〜44.1重量%の水とからなる溶媒と、カルボン酸又はその塩の少なくとも1種及び、リン酸、亜リン酸、ホウ酸及びスルファミン酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択される無機酸又はその塩の少なくとも1種からなる電解質とを含む電解液が、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物を含んでいることを特徴とする電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項2】 前記電解液の30℃における比抵抗が、68Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項3】 前記電解液の30℃における比抵抗が、40Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項4】 前記電解液の30℃における比抵抗が、30Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項5】 前記ニトロ化合物が、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸及びジニトロ安息香酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項6】 前記ニトロ化合物が2種もしくはそれ以上のニトロ化合物の組み合わせであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項7】 前記ニトロ化合物が当該電解液の全量を基準にして0.01〜5重量%の量で添加されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項8】 前記有機溶媒がプロトン系溶媒、非プロトン系溶媒又はその混合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項9】 前記カルボン酸又はその塩が、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p-ニトロ安息香酸、サリチル酸、安息香酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、アゼライン酸、クエン酸及びオキシ酪酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項10】 下記の群:
(1)キレート化合物、
(2)糖類、
(3)ヒドロキシベンジルアルコール及び(又は)L-グルタミン酸二酢酸又はその塩、及び
(4)グルコン酸及び(又は)グルコノラクトン、
から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含んでいることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
【請求項11】 請求項1〜10のいずれか1項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液を含んでなることを特徴とする電解コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は電解コンデンサに関する。さらに詳しく述べると、本発明は、低インピーダンスでかつ低温特性に優れ、寿命特性が良好な電解コンデンサ駆動用電解液とそれを使用した電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
コンデンサは、一般的な電気部品の一つであり、種々の電気・電子製品において、主として電源回路用や、ディジタル回路のノイズフィルター用に広く使用されている。コンデンサは、電解コンデンサとその他のコンデンサ(セラミックコンデンサ、フィルムコンデンサ等)に大別される。
【0003】
現在使用されている電解コンデンサにはいろいろな種類のものがあり、その一例を示すと、アルミニウム電解コンデンサ、湿式タンタル電解コンデンサなどである。なお、本発明で特に優れた効果を期待できるものはアルミニウム電解コンデンサであり、したがって、以下、この種の電解コンデンサを参照して本発明を説明し、また、「電解コンデンサ」と言う場合、特に断りのある場合を除いてアルミニウム電解コンデンサを指すものとする。
【0004】
従来のアルミニウム電解コンデンサは、典型的には、高純度アルミニウム箔をエッチングしてその表面積を増加させた後、そのアルミニウム箔の表面を陽極酸化し皮膜を施した陽極箔と表面をエッチングされた陰極箔を使用することによって製造することができる。次いで、得られた陽極箔と陰極箔とを対向して配置し、さらにそれらの箔の中間にセパレータ(隔離紙)を介在させて巻回した構造の素子となし、この素子を巻き取つた構造の素子に電解液を含浸する。電解液含浸後の素子をケース(一般にはアルミニウム製)に収容し、そして弾性封口体で密封して電解コンデンサが完成する。なお、電解コンデンサには、このような巻回構造以外のものもある。
【0005】
上述のような電解コンデンサにおいては、電解液の特性が電解コンデンサの性能を決定する大きな要因をなす。特に近年の電解コンデンサの小型化に伴い、陽極箔あるいは陰極箔はエッチシグ倍率の高いものが使用されるようになり、コンデンサ本体の抵抗率が大きくなっていることから、これに用いる電解液としては、抵抗率(比抵抗)の小さな高導電性のものが常に要求される。
【0006】
これまでの電解コンデンサの電解液は、エチレングリコール(EG)を主溶媒としてこれに水を約10重量%程度まで加えて構成した溶媒に、電解質としてアジピン酸、安息香酸等のカルボン酸又はそのアンモニウム塩を溶解したものが一般的である。このような電解液では、比抵抗は1.5Ω・m(150Ω・cm)程度である。
【0007】
一方、コンデンサにおいては、その性能を十分に発揮するため、インピーダンス(Z)を低下させることが絶えず求められている。インピーダンスは種々の要因により決定し、例えばコンデンサの電極面積が増加すれば低下し、そのため大型コンデンサになれば自ずと低インピーダンス化が図られる。また、セパレータを改良することで低インピーダンス化を図るアプローチもある。とは言え、特に小型のコンデンサにおいては、電解液の比抵抗がインピーダンスの大きな支配因子となっている。
【0008】
最近では、非プロトン系の有機溶媒、例えばGBL(γ-ブチロラクトン)等を使用した低比抵抗の電解液も開発されている(例えば、特開昭62-145713号公報、特開昭62-145714号公報及び特開昭62-145715号公報を参照されたい)。しかし、この非プロトン系電解液を用いたコンデンサは、比抵抗が1.0Ω・cm以下の電子伝導体を用いた固体コンデンサに比べると、インピーダンスがはるかに劣っている。
【0009】
また、アルミニウム電解コンデンサは、電解液を使用するために低温特性が悪く、100kHzにおける-40℃でのインピーダンスと20℃でのインピーダンスとの比:Z(-40℃)/Z(20℃)は約40と、かなり大きいのが実情である。このような現状に鑑みて、現在、低インピーダンスで低比抵抗であり、しかも低温特性に優れたアルミニウム電解コンデンサを提供することが望まれている。
【0010】
さらに、アルミニウム電解コンデンサの電解液においてその溶媒の一部として用いられる水は、陽極箔や陰極箔を構成するアルミニウムにとって化学的に活性な物質であり、したがって、陽極箔や陰極箔と反応して水素ガスを発生させたり特性を著しく低下させるという問題をかかえている。
従来、電解コンデンサの負荷試験などで発生する水素ガスの問題を解消するため、発生した水素ガスを吸収する試みもなされている。例えば、特公昭59-15374号公報は、エチレングリコールに5〜20重量%の水を加えた溶媒に、カルボン酸及びカルボン酸のアンモニウム塩を加えて緩衝溶液を調製し、さらに0.05〜3重量%のp-ニトロフェノールを加えて調製したことを特徴とする電解コンデンサ駆動用電解液を開示している。この電解液を使用すると、べーマイト反応の生成や水素ガスの発生を抑制し、低温特性、寿命特性などを向上せしめた電解コンデンサを提供することができる。
【0011】
また、特公昭63-14862号公報には、エチレングリコールを主体とする溶媒中に各種の有機酸、無機酸もしくはその塩を溶質として溶解してなる電解液に、o-ニトロアニソールを添加したことを特徴とする、ハロゲン化炭化水素による洗浄に対して優れた腐食防止効果を奏することのできる電解コンデンサ駆動用電解液が開示されている。この公報には、ここで腐食防止剤として使用されるo-ニトロアニソールは、水素ガス吸収効果があり、電解コンデンサの使用中に内部から発生する水素ガスを吸収し、開弁事故や静電容量変化を抑制できるという効果があると記載されている。
【0012】
しかしながら、本発明者らの研究によると、p-ニトロフェノールやo-ニトロアニソールは、従来一般的に使用されているような水の濃度の低い電解コンデンサ駆動用電解液では初期の水素ガス吸収効果を奏することができるというものの、電解液中の溶媒に占める水の量が20重量%もしくはそれ以上になった場合や、電解コンデンサが高温環境下で長期間にわたって使用されるような場合には、満足し得る水素ガス吸収効果を示し、かつ維持することができないことが判明した。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したような従来の技術の問題点を解決することを目的としたもので、その第1の目的は、低インピーダンスでかつ、低温と常温でのインピーダンス比で表される低温特性に優れ、寿命特性が良好であり、しかも水の含有割合が大きい混合溶媒を使用した電解液を使用した時や高温環境下で電解コンデンサを使用した時でも優れた水素ガス吸収効果を奏することのできる電解コンデンサ用駆動用電解液を提供するにある。
【0014】
本発明のもう1つの目的は、本発明の電解液を使用した電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサを提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、その1つの面において、20〜80重量%の有機溶媒と80〜20重量%の水とからなる溶媒と、カルボン酸又はその塩及び無機酸又はその塩からなる群から選択される少なくとも1種の電解質とを含む電解液に対して、
ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン及びニトロアニソールからなる群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物が添加されていることを特徴とする電解コンデンサ駆動用電解液にある。
【0016】
本発明の電解液において、前記ニトロ化合物は、その他の電解液の成分との組み合わせにより、単独で使用しても優れた水素ガス吸収効果を奏することができ、また、より顕著な効果を得るためには、2種もしくはそれ以上のニトロ化合物を組み合わせて使用したほうがさらに好ましい。
ニトロ化合物は、それを本発明の電解液に添加して使用する場合、電解液の全量を基準にして0.01〜5重量%の量で添加して使用するのが好ましい。
【0017】
混合溶媒の形成のために水と一緒に用いられる有機溶媒は、好ましくは、プロトン系溶媒、非プロトン系溶媒又はその混合物である。すなわち、プロトン系溶媒及び非プロトン系溶媒は、それぞれ、単独で使用してもよく、さもなければ、必要に応じて、2種もしくはそれ以上を任意に組み合わせて使用してもよい。ここで、プロトン系溶媒は好ましくはアルコール化合物であり、また、非プロトン系溶媒は好ましくはラクトン化合物である。
【0018】
さらに、本発明の電解液において電解質として使用されるカルボン酸又はその塩は、好ましくは、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p-ニトロ安息香酸、サリチル酸、安息香酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、アゼライン酸、クエン酸及びオキシ酪酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩からなる群から選択される1種もしくはそれ以上である。
【0019】
また、同じく電解質として使用される無機酸又はその塩は、好ましくは、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホウ酸及びスルファミン酸ならびにそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩及びアルキルアンモニウム塩から選択される1種もしくはそれ以上である。
また、本発明の電解質には、前記ニトロ化合物に追加して、下記の群:
(1)キレート化合物、
(2)糖類、
(3)ヒドロキシベンジルアルコール及び(又は)L-グルタミン酸二酢酸又はその塩、及び
(4)グルコン酸及び(又は)グルコノラクトン、
から選択される添加剤を必要に応じて含ませてもよい。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、あるいは2種もしくはそれ以上の添加剤を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0020】
さらにまた、本発明は、そのもう1つの面において、本発明の電解コンデンサ用駆動用電解液を含んでなる電解コンデンサにある。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の電解コンデンサ駆動用電解液では、電解質を溶解するための溶媒としして、有機溶媒と水との混合物からなる水分濃度が高い溶媒を使用する。
有機溶媒としては、上記したように、プロトン系溶媒又は非プロトン系溶媒を単独で、あるいは任意に組み合わせて使用することができる。適当なプロトン系溶媒の例としては、アルコール化合物を挙げることができる。また、ここで有利に使用することのできるアルコール化合物の具体的な例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール等の二価アルコール(グリコール)、グリセリン等の三価アルコールを挙げることができる。また、適当な非プロトン系溶媒の例としては、ラクトン化合物を挙げることができる。また、ここで有利に使用することのできるラクトン化合物の具体的な例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、γ-ブチロラクトンやその他の分子内分極化合物を挙げることができる。本発明の実施に当たって、プロトン系溶媒と非プロトン系溶媒の中から選択される1種以上を使用する場合には、より具体的に説明すると、1種のプロトン系溶媒を使用してもよく、1種の非プロトン系溶媒を使用してもよく、複数種のプロトン系溶媒を使用してもよく、複数種の非プロトン系溶媒を使用してもよく、あるいは1種以上のプロトン系溶媒と1種以上の非プロトン系溶媒の混合系を使用してもよい。
【0022】
本発明の電解液では、溶媒成分として、上記した有機溶媒のほかに水を使用し、特に本発明の場合、比較的に多量の水を併用するという点で従来の電解液とは区別される。本発明においては、このような溶媒を使用することで、溶媒の凝固点を低下させ、それにより低温での電解液の比抵抗特性を改善して、低温と常温での比抵抗の差が小さいことで示される良好な低温特性を実現することができる。電解液中の水の含有量は、20〜80重量%の範囲にあるのが好適であり、残部が有機溶媒である。水の含有量が20重量%より少ない場合にも、80重量%を超える場合にも、電解液の凝固点降下の度合いは不十分となり、電解コンデンサの良好な低温特性を得るのが困難になる。水性混合溶媒中におけるより好適な水の含有量は、30〜80重量%の範囲であり、最も好適な水の含有量は、45〜80重量%の範囲である。
【0023】
本発明の電解液における電解質としては、有機酸、特に好ましくはカルボン酸又はその塩、そして無機酸又はその塩が用いられ、これらの電解質成分は、単独で使用してもよく、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
電解質成分として使用可能なカルボン酸の例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、p-ニトロ安息香酸、サリチル酸及び安息香酸に代表されるモノカルボン酸や、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸及びアゼライン酸に代表されるジカルボン酸が含まれ、例えばクエン酸、オキシ酪酸などのようにヒドロキシル基等の官能基を持ったカルボン酸も使用可能である。
【0024】
また、同じく電解質成分として使用可能な無機酸の例としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホウ酸、スルファミン酸等が含まれる。
さらに、上記したようなカルボン酸又は無機酸の塩としては、いろいろな塩を使用することができるけれども、適当な塩としては、例えば、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩、アルキルアンモニウム塩等が含まれる。このような塩のなかでも、アンモニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0025】
さらに加えて、本発明の実施において電解質として無機酸又はその塩を使用すると、電解液の凝固点降下が期待でき、そのため電解液の低温特性の更なる向上に寄与することができる。また、無機酸又はその塩の使用は、本発明において特に使用するニトロ化合物に由来する水素ガス吸収能力(以下に詳述する)を長期間にわたって維持することができるという点でも注目に値する。
【0026】
また、本発明者らの研究によると、このような無機酸又はその塩のような電解質を前記したカルボン酸又はその塩のような電解質に組み合わせて使用すると、それらを単独で使用した場合に比較して、電解コンデンサの寿命を顕著に延長することができるという効果も得ることができる。さらに、従来の電解コンデンサでは、電導度などの問題から、無機酸系の電解質は中〜高電圧(160〜500ボルト)のタイプの電解コンデンサに限って使用されてきたが、本発明のように電解質の組み合わせ使用を行った場合、低電圧(160ボルト未満)のタイプの電解コンデンサにおいても有利に使用することができる。
【0027】
本発明の電解液において使用する電解質の量は、電解液や最終的に得られるコンデンサに要求される特性、使用する溶媒の種類や組成及び量、使用する電解質の種類等の各種のファクタに応じて、最適な量を適宜決定することができる。例えば、上記したように、無機酸系の電解質をカルボン酸系の組み合わせて使用するような場合に、混合電解質中における無機酸系の電解質の含有量は広い範囲で変更することができるというものの、通常、電解質の全量を基準にして約0.1〜15重量%の範囲で無機酸系の電解質が含まれることが好ましい。
【0028】
本発明の電解液は、特に、上記したような特定の組成の電解液、すなわち、20〜80重量%の有機溶媒と80〜20重量%の水とからなる水性混合溶媒と、カルボン酸又はその塩及び無機酸又はその塩からなる群から選択される少なくとも1種の電解質とを含む電解液に対して、ニトロフェノール、例えばp-ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、例えばp-ニトロ安息香酸、ジニトロ安息香酸、ニトロアセトフェノン、例えばp-ニトロアセトフェノン、ニトロアニソールなどの化合物群から選択される少なくとも1種のニトロ化合物を追加の添加剤として添加することを特徴としている。
【0029】
本発明では、上記したニトロ化合物群を使用した時に特に顕著な水素ガス吸収効果が確認されたが、その正確な経緯はいまだ判明するに至っていない。しかし、本発明者らの経験から、これは、それぞれのニトロ化合物に含まれる置換基が異なるタイミングで水素ガス吸収効果を奏することに大きな要因があるものと理解される。なお、ここで使用するニトロ化合物は、プリント基板の洗浄に際して使用されるハロゲン化炭化水素、例えばトリクロロエタンなどの作用により素子が腐食せしめられるのを抑制する作用(換言すると、ハロゲン捕捉作用)を合わせて有することができる。
【0030】
上記したニトロ化合物は、それを本発明の電解液に対して添加する場合、その電解液自体に本発明の効果に有効な特定の組成が採用されているので、単独で使用しても満足し得る水素ガス吸収効果、ハロゲン捕捉作用などを奏することができるけれども、本発明者らのこのたびの知見によると、2種もしくはそれ以上のニトロ化合物を組み合わせて使用したほうがさらに好ましい効果を期待することができる。一般的には、2種のニトロ化合物を混合して使用することが推奨される。また、ニトロ化合物は、通常、電解液の全量を基準にして0.01〜5重量%の量で添加して使用するのが好ましい。ニトロ化合物の添加量が0.01重量%を下回ると、所期の効果をほとんど得ることができず、反対に5重量%を上回っても、所期の効果のさらなる向上を期待することができず、場合によっては他の特性に対して悪影響ができことも考えられる。
【0031】
ニトロ化合物の使用についてさらに説明すると、アルミニウムと水の反応時に発生する水素ガスの吸収は、従来の技術のところで参照したようにニトロ化合物を単独で使用したのでは、使用する溶媒中の水の含有量が増加するにつれて吸収効果が低下する傾向にあり、また、この低下傾向は、電解液が高温環境下におかれた場合において顕著になる。ところが、このようなニトロ化合物の単独使用に由来して発生する問題は、本発明におけるように2種もしくはそれ以上のニトロ化合物を組み合わせて使用することにより、解消することができる。実際、本発明の電解液の場合、複数種のニトロ化合物の使用によって、高温放置下において、従来の単独使用よりもはるかに長期間にわたって、水素ガス吸収能力を維持することができた。
【0032】
また、水素ガスの吸収における本発明の優れた効果は、一緒に使用する電解質との関係においても確認することができた。従来の電解液では、1種類のニトロ化合物のみをカルボン酸系の電解質だけに、あるいは1種類のニトロ化合物のみを無機酸系の電解質だけに、それぞれ添加する手法が採用されてきた。しかし、溶媒中の水の含有量が多い場合、上記のような手法では満足し得る水素ガス吸収効果を得ることができず、また、カルボン酸系の電解質と無機酸系の電解質が混在するような電解液でも同様であったが、本発明の電解液の場合(1種類のニトロ化合物のみを使用)、驚くべきことに、このようなカルボン酸系/無機酸系混在電解液においても、従来の単独使用よりもはるかに長期間にわたって、水素ガス吸収能力を維持することができた。
【0033】
本発明の電解液は、必要に応じて、上記した以外の成分を追加の添加剤として含有することができる。適当な添加剤としては、例えば、本発明者らが本発明と同時的に発明し、別に特許出願した発明に記載されるように、下記のような化合物を包含する。
(1)キレート化合物、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸一水和物(CyDTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)(EDTPO)、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N”,N”-五酢酸(DTPA)、ジアミノプロパノール四酢酸(DPTA-OH)、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン-N,N’-ビス(メチレンホスホン酸)1/2水和物(EDDPO)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(EDTA-OH)等。キレート化合物は、一般的に、0.01〜3重量%の範囲で添加することが好ましい。このようなキレート化合物は、低インピーダンスコンデンサのアルミニウム(Al)電極箔の水和反応の抑制によるコンデンサの長寿命化、電解コンデンサの低温特性の改善(溶媒が不凍状態に近い組成なので、常温と低温でのインピーダンスの変化が小さくなる)、耐蝕性の向上などの効果をもたらすことができる。
【0034】
(2)糖類、例えば、グルコース、フルクトース、キシロース、ガラクトース等。糖類は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。このような糖類は、低インピーダンスコンデンサのAl電極箔の水和反応の抑制によるコンデンサの長寿命化、糖類の添加による電解質、例えばカルボン酸の分解や活性化の抑制、電解コンデンサの低温特性の改善(溶媒が不凍状態に近い組成なので、常温と低温でのインピーダンスの変化が小さくなる)などの効果をもたらすことができる。
【0035】
(3)ヒドロキシベンジルアルコール、例えば2-ヒドロキシベンジルアルコール、L-グルタミン酸二酢酸又はその塩等。この添加剤は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。このような添加剤は、低インピーダンスコンデンサのAl電極箔の水和反応の抑制によるコンデンサの長寿命化、電解コンデンサの低温特性の改善(溶媒が不凍状態に近い組成なので、常温と低温でのインピーダンスの変化が小さくなる)などの効果をもたらすことができる。
【0036】
上記した化合物(1)〜(3)は、それぞれ、それらを本発明の電解液に添加する場合に多くの顕著な効果を奏することができ、また、その効果の多くはニトロ化合物が電解液に含まれていない場合でも期待することができる。また、本発明者らの研究によると、そのような顕著な効果は、特に、上記した化合物(1)〜(3)のいずれかの少なくとも1種を下記のようなグルコン酸やグルコノラクトンと組み合わせた場合に得ることができる。
【0037】
さらに、本発明の電解液は、上記したような添加剤(ニトロ化合物の単独添加の場合も含む)に追加して、必要に応じて、
(4)グルコン酸やグルコノラクトン等
を単独もしくは組み合わせて含有することができる。この種の添加剤は、一般的に、0.01〜5重量%の範囲で添加することが好ましい。グルコン酸やグルコノラクトンは、それを本発明の電解液に追加して含ませた場合、電解コンデンサの長寿命化や低温特性の向上、そして優れた水素ガス吸収効果などという本発明に特有に効果に追加して、耐蝕性の向上といった顕著な効果をさらにもたらすことができる。
【0038】
さらにまた、上記した添加剤のほかにも、アルミニウム電解コンデンサあるいはその他の電解コンデンサの分野で常用の添加剤をさらに添加してもよい。適当な常用の添加剤としては、例えば、マンニット、シランカップリング剤、水溶性シリコーン、高分子電解質などを挙げることができる。
本発明の電解液は、上記したような各種の成分を任意の順序で混合し、溶解することによって調製することができ、また、基本的には従来の技法をそのままあるいは変更して使用することができる。例えば、有機溶媒と水との混合物である水分濃度が高い溶媒を調製した後、得られた溶媒に電解質、ニトロ化合物及び必要に応じて任意の添加剤を溶解することで簡単に調製することができる。
【0039】
本発明の電解コンデンサも、上記した電解液と同様に、常用の技法に従って製造することができる。例えば、表面を酸化して誘電体化したアルミニウムから製作した陽極箔と、この陽極箔の誘電体化した面に対向するアルミニウム製のエッチング表面を有する陰極箔と、陽極箔と陰極箔との問に介在するセパレータ(隔離紙)とから構成した巻回した構造の素子に本発明の電解液を含浸した後、その素子を適当なケース内に密封することによって、アルミニウム電解コンデンサを製造することができる。得られるアルミニウム電解コンデンサにおいては、本発明の電解液を使用していることから、有機溶媒と水との混合溶媒による低温特性向上の効果、ニトロ化合物の添加による水素ガス吸収効果、そして特定の電解質の使用による水和反応抑制による長寿命化や低インピーダンス化の効果を達成することができる。
【0040】
【実施例】
次に、本発明を実施例により更に説明する。言うまでもなく、ここに掲げた実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明を限定しようとするものではない。
実施例1
巻回構造のアルミニウム電解コンデンサを下記の手順に従って製造した。
【0041】
まず、アルミニウム箔を電気化学的にエッチング処理し、表面に酸化皮膜を形成し、その後電極引出し用リードタブを取りつけてアルミニウム陽極箔を作った。次に、別のアルミニウム箔にやはり電気化学的にエッチング処理を施した後、電極引出し用リードタブを収り付けてアルミニウム陰極箔を作った。続いて、陽極箔と陰極箔間にセパレータ(隔離紙)を挟んで巻回することにより、コンデンサ素子を作った。そしてこのコンデンサ素子に、下記の第1表に組成を示した電解液を含浸してから、有底アルミニウムケースに電極引出し用リードタブがケースの外に出るようにして収容し、このケースの開口を弾性封口体で密封して、巻回構造の電解コンデンサ(10WV-1000μF)を作製した。
【0042】
本例で使用した電解液の30℃における比抵抗を測定したところ、下記の第1表に記載のような測定値が得られた。また、作製した電解コンデンサについて、低温(-40℃)でのインピーダンス及び常温(20℃)でのインピーダンスを測定した後、それぞれの測定値のとの比として表されるインピーダンス比(Z比)を、異なる周波数:120Hz及び100kHzで測定した。下記の第1表に記載のような測定値が得られた。さらに、各電解コンデンサの寿命特性を評価するため、容量、tanδ及び漏れ電流のそれぞれについて、初期値(コンデンサの作製直後の特性値)と、高温放置(105℃で1000時間経過)後の特性値の測定を行った。下記の第1表に記載のような測定値が得られた。
実施例2〜10
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、使用する電解液の組成を下記の第1表に記載のように変更した。特性試験によって得られた結果を下記の第1表にまとめて記載する。
比較例1〜4
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、比較のため、使用する電解液からニトロ化合物を取り除くとともに、電解液の組成を下記の第1表に記載のように変更した。特性試験によって得られた結果を下記の第1表にまとめて記載する。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
上記した第1表に記載の結果から理解されるように、実施例5を除いて本発明の電解液の比抵抗は、比較例のものとほぼ同等であることが分かり、これらの比抵抗値は従来の一般の電解液のそれと比べて小さくなっていることがわかる。実施例5の電解液の比抵抗は161Ω・cmの大きな値であるが、その他の特性を考慮して総合的に判断した場合、通常の電解コンデンサと実質的に遜色なく、十分実用的なレベルにあると言える。従って、本発明の電解液を使用して作製した電解コンデンサは、従来の電解コンデンサに比べて一層の低インピーダンスを実現することができ、そうでなくとも少なくともこれまでのものと同等程度の低インピーダンスを実現することができる。
【0046】
また、本発明の電解液を使用した電解コンデンサにあっては、Z比が小さいことが分かり、特に100kHzの高周波数でのZ比が比較例のものに比べて小さく抑えられていることが分かる。このことは、本発明の電解液を用いた電解コンデンサが広い周波数にわたり良好な低温特性を発揮することを示している。
特に、本発明の電解液を使用した電解コンデンサでは、ニトロ化合物を0.01〜3重量%の範囲の量で電解液に添加したことにより、105℃で3000時間経過後においても安定した特性を示しており、ガス発生によるコンデンサ自体の破壊に至ることもなかった。それに対し、ニトロ化合物を含まない電解液を使用した比較例の電解コンデンサでは、いずれのコンデンサでも、3000時間を経過するはるか以前の高温放置の初期の段階で、水素ガス発生によるケースの膨らみにより防爆弁が作動して、使用不能になった。このことから、本発明によれば電解コンデンサの長寿命化が容易に達成できることが分かる。
実施例11〜19
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、キレート化合物とニトロ化合物の同時添加の効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第2表に記載のように変更した。下記の第2表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第2表には、前記比較例1〜3の試験結果もあわせて記載する。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
実施例20〜29
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、糖類とニトロ化合物の同時添加の効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第3表に記載のように変更した。下記の第3表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第3表には、前記比較例1〜3の試験結果もあわせて記載する。
【0050】
【表5】

【0051】
【表6】

【0052】
実施例30〜39
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、ヒドロキシベンジルアルコール、グルタミン酸二酢酸等とニトロ化合物の同時添加の効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第4表に記載のように変更した。下記の第4表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第4表には、前記比較例1〜3の試験結果もあわせて記載する。
【0053】
【表7】

【0054】
【表8】

【0055】
実施例40〜49
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、ニトロ化合物とグルコノラクトンの同時添加の効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第5表に記載のように変更した。下記の第5表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第5表には、前記比較例1〜4の試験結果もあわせて記載する。
【0056】
【表9】

【0057】
【表10】

【0058】
実施例50〜59
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、各種の添加剤の任意の組み合わせによりもたらされる効果を確認するため、使用する電解液の組成を下記の第6表に記載のように変更した。下記の第6表にまとめて記載するように、満足し得る試験結果を得ることができた。なお、下記の第6表には、前記比較例1〜4の試験結果もあわせて記載する。
【0059】
【表11】

【0060】
【表12】

【0061】
【表13】

【0062】
比較例5〜8及び実施例60〜62
前記実施例1に記載の手法を繰り返したが、本例の場合、寿命特性のさらなる向上を確認するため、実施例1で採用の高温放置条件(105℃で1000時間経過)での特定値の測定を、105℃で6000時間経過後に変更して実施した。下記の第7表に記載のような結果が得られた。
【0063】
【表14】

【0064】
上記第7表において、比較例5〜8はそれぞれ前記比較例1〜4に対応し、また、実施例60〜62は、それぞれ、前記実施例1,3及び9に対応する。記載の結果から理解されるように、ニトロ化合物を添加しない電解液を使用した比較5〜7においては250〜500時間経過するまでにいずれも使用不能となったのに対し、実施例60〜62のコンデンサの場合には、容量の低下が認められるとは言え、6000時間経過後にも使用可能であった。また、注目すべきことに、有機系電解質のカルボン酸又はその塩と無機系電解質の無機酸とを併用したことにより、電解コンデンサの寿命特性が更に改善されることが分かる。
【0065】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、低インピーダンスでかつ、低温と常温でのインピーダンス比で表される低温特性に優れ、寿命特性が良好であり、しかも水の含有割合が大きい溶媒を使用した電解液を使用した時や高温環境下で電解コンデンサを使用した時でも優れた水素ガス吸収効果を奏することのできる電解コンデンサ用駆動用電解液が提供される。また、本発明によれば、このような電解液を使用することにより、低インピーダンスで、低温特性に優れ、寿命特性が良好であり、溶媒中で使用する水の作用に原因して発生する不具合を有しない高信頼性の電解コンデンサ、特にアルミニウム電解コンデンサが提供される。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-09-24 
出願番号 特願平10-356955
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01G)
P 1 651・ 55- YA (H01G)
P 1 651・ 537- YA (H01G)
P 1 651・ 113- YA (H01G)
P 1 651・ 161- YA (H01G)
P 1 651・ 536- YA (H01G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 江畠 博  
特許庁審判長 岡 和久
特許庁審判官 橋本 武
浅野 清
登録日 2002-11-01 
登録番号 特許第3366268号(P3366268)
権利者 ルビコン株式会社
発明の名称 電解コンデンサ駆動用電解液及びこれを使用した電解コンデンサ  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  
代理人 古賀 哲次  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 田中 浩  
代理人 西山 雅也  
代理人 青木 篤  
代理人 青木 篤  

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