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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C03C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C03C 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C03C 審判 全部申し立て 特39条先願 C03C |
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管理番号 | 1109573 |
異議申立番号 | 異議2003-70143 |
総通号数 | 62 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1992-05-01 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-01-22 |
確定日 | 2004-10-20 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3303919号「合成石英ガラス及びその製法」の請求項1〜4に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3303919号の請求項1〜4に係る発明の特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3303919号は、平成2年9月21日に出願され、平成14年5月10日に特許の設定登録がなされたものであって、その特許につき、平成15年1月22日付けで本田敦子より特許異議の申立がなされ、平成15年8月5日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年10月17日付けで特許権者より明細書の訂正請求が提出されたものである。 II.訂正の適否 II-1.訂正事項 本件明細書につき、平成15年10月17日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書に記載されるとおり、次の訂正を求めるものである。 以下、訂正前の明細書を「特許明細書」といい、訂正請求書に添付された訂正明細書を「訂正明細書」という。 《訂正事項1》 特許明細書の請求項1における、 「【請求項1】四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成して、溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下で、ArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光を防止し、かつ、非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理して、≡Si-H H-O-Si≡で示される構造が、1×1018個/cm3以下で、280nmの発光の生成及び260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止した合成石英ガラス。」を、 「【請求項1】四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成して、溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下で、ArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光及びエキシマレーザー自身に対する透過率の低下を防止し、X線照射による吸光度の変化が1%未満で内部透過率が99.0%以上であり、かつ、非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理して、≡Si-H H-O-Si≡で示される構造が、1×1018個/cm3以下で、280nmの発光の生成及び260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止した合成石英ガラス。」に訂正する。 II-2.訂正の適否の判断 特許明細書の請求項1における上記の訂正事項1は、具体的には、四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにつき、「エキシマレーザー自身に対する透過率の低下を防止し、X線照射による吸光度の変化が1%未満で内部透過率が99.0%以上であり」となすとの事項を付加するものである。 II-2-1.訂正の目的 上記訂正事項1は、特許明細書の請求項1において、その合成ガラスにつき、「エキシマレーザー自身に対する透過率の低下を防止しする」、「X線照射による吸光度の変化が1%未満である」及び「内部透過率が99.0%以上である」との物性等を付加し、当該ガラスを限定するものであるから、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 II-2-2.新規事項の有無 上記訂正事項の内、「エキシマレーザー自身に対する透過率の低下を防止しする」ことについては、「その結果、どのケースにおいても、・・・みられなかった。また、エキシマレーザー自身に対する透過率低下も認められなかった。」(特許明細書第20頁第7〜11行、特許公報第9欄第6行〜第10欄第3行)等の記載から自明なこととして導き出せるものであり、また、「X線照射による吸光度の変化が1%未満である」については、「得られた合成石英ガラスの試料から試験片を切り出して、X線(・・・)を照射した。X線照射前後の吸光度の変化は、1%未満であった。」(特許明細書第18頁第9〜12行、特許公報第8欄第23〜25行)等の記載から自明なこととして導き出せるものであり、そしてまた、「内部透過率が99.0%以上である」については、「260nmにおけるオゾンの吸収係数は、・・・であるので、オゾン生成後も内部透過率を99.0%以上に保つためには、オゾン濃度は、1×1015個/cm3以下でなければならない。」(特許明細書第14頁第2〜6行、特許公報第6欄第48行〜第7欄第1行)等の記載から自明なこととして導き出せるものである。 したがって、上記訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされるものであり、新規事項の追加には当たらない。 II-2-3.拡張・変更の存否 上記訂正事項1は、発明の目的の範囲内で請求項に記載される発明を限定するだけのものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものには該当しない。 II-3.訂正の適否の結論 よって、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.本件発明 本件明細書は、前記のとおり、平成15年10月17日付けで訂正請求がなされ、その請求どおり訂正されたものであって、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ、必要に応じて、「本件発明1」〜「本件発明4」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものである。 【請求項1】四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成して、溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下で、ArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光及びエキシマレーザー自身に対する透過率の低下を防止し、X線照射による吸光度の変化が1%未満で内部透過率が99.0%以上であり、かつ、非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理して、≡Si-H H-O-Si≡で示される構造が、1×1018個/cm3以下で、280nmの発光の生成及び260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止した合成石英ガラス。 【請求項2】請求項1において、非還元性の雰囲気が、酸化性雰囲気、不活性雰囲気、大気のいずれかである合成石英ガラス。 【請求項3】請求項2において、酸化性雰囲気が、酸素ガス雰囲気である合成石英ガラス。 【請求項4】請求項2において、不活性雰囲気が、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスのいずれかの雰囲気である合成石英ガラス。 IV.特許異議申立の概要 異議申立人は、以下の証拠を提示し、次のように主張する。 【理由-1】本件請求項1〜4に係る発明(訂正後の本件請求項1〜4に係る発明)は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 【理由-2】本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第36条第3項及び4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 したがって、本件請求項1〜4に係る発明の特許は取り消されるべきものである。 甲第1号証:葛生伸ほか、「エキシマレーザー照射による合成シリカガラス の発光特性」、第30回ガラス討論会講演要旨集1989、平 成元年11月16日、第59及び60頁 甲第2号証:特開平2-69332号公報 甲第3号証:特開平2-64645号公報 甲第4号証:作花済夫編、「ガラスの辞典」、朝倉書店、1998年10月 15日発行、第204〜207頁 V.取消理由 平成15年8月5日付け取消理由の概要は、次のとおりである。 【理由A】本件請求項1〜4に係る発明は、引用例1〜4(それぞれ、上記甲第1〜4号証に該当する)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 【理由B】本件請求項1に係る発明は、本件の出願日前の出願に係る特願平2-123760号(特許公報第3303918号参照)の請求項1に係る発明と同一であるから、特許法第39条第1項の規定により特許を受けることができない。 VI.証拠の記載内容 VI-A.引用例1(甲第1号証:「エキシマレーザー照射による合成シリカガラスの発光特性」)には、以下のことが記載される。 (A-1)「合成シリカガラスにエキシマレーザーを照射すると、さまざまな発光が生じる。この発光現象は製造履歴を強く反映している。」(第59頁第2及び3行) (A-2)「<<試料>> 試料としてタイプIIIのシリカガラス(OH約1000ppm)で、エキシマレーザー照射時の赤色発光が無いもの(A)、弱いもの(B)、強いもの(C)の3種類を用いた。」(第59頁第6〜10行) (A-3)「<<熱処理>> 石英ガラス製の炉心管を挿入した管状炉で900℃で2時間熱処理したのちガスをフローしたまま放冷した。」(第59頁第11〜13行) (A-4)「<<発光の測定>> エキシマレーザー(ArF(193nm)、100Hz)ビームをレンズで集光してエネルギー密度を200mJ/cm2Pulseに調整したのちビーム径を2mmにしてサンプルに照射した。」(第59頁第14〜18行) (A-5)「サンプルAにおいては、雰囲気熱処理前には280nmに強い発光ピークがみられる。このピークは熱処理により減少し、300nm付近の発光強度が増大してくる。・・・サンプルAをO2中で熱処理すると280nmの発光はほとんど消滅し、300nmの発光が生ずる。O2、空気、N2中での熱処理結果を比較してみるとO2、空気、N2の順に280nm付近の発光が強くなっている。酸化性が強くなるにしたがって280nmの発光を抑制する効果が大きくなっている。」(第60頁第5〜11行) (A-6)「サンプルAでは225nmに強い吸収が見られる。測定は微弱吸収測定装置を用いた。このことから280nmの発光は225nmの吸収に対応しているものと考えられる。」(第60頁第21〜24行) (A-7)「赤色発光の生じないサンプルでは280nmの発光が生じる。この発光は酸化雰囲気またはHe中での熱処理により抑制することができる。このことから280nmの発光はガラス中の不安定な水素に関連しているものと考えられる。」(第60頁第31〜34行) (A-8)図-1には、タイプIIIのシリカガラスとして650nmの赤色発光の無いものを用いる点、及び、タイプIIIのシリカガラスを各種ガス(H2,He,O2,Air,N2)で熱処理を行うことが記載されている。 VI-B.引用例2(甲第2号証:特開平2-69332号公報)には、以下のことが記載される。 (B-1)「略185nm以上の紫外線波長域のレーザ光に使用されるレーザ光用透過体において、OH基濃度が100ppm以上含有する合成石英ガラスを用いて前記透過体を形成するとともに、該ガラス組織中に存在する吸蔵水素を実質的に除去し、前記波長域185nmにおける吸収係数を10-2(cm-1)以下に設定したことを特徴とするレーザ光用透過体」(特許請求の範囲) (B-2)「そしてかかるOH基含有量の制御は、例えば石英ガラス合成時における、四塩化ケイ素ガスと酸水素ガスとの混合比を変化させることにより、OH基含有量を増減させることができる。」(第3頁右上欄第14〜17行) (B-3)「OH基を増大させた合成石英ガラスにおいて、この吸蔵H2の脱ガス処理を行ってOH基が含有しない石英ガラスと同程度に前記吸蔵H2を低減又は実質的に除去する事により前記250nm以下の短波長域での透過率の改善を図り得、特に250nm〜略185nmの範囲内における耐レーザ性を向上させる事が知見された。尚、前記脱ガスの手法としては、真空中雰囲気又は、He、Ar、N2ガスの単一不活性ガス又は、複数の不活性ガス雰囲気又は大気雰囲気にて、略600℃から1200℃の温度にて熱処理することにより効率的に脱ガスすることが可能」(第3頁左下欄第2〜13行) (B-4)「石英ガラスの限界値である185nm近傍におけるArFエキシマレーザ(193nm)を照射した所、H2ガス脱ガス処理のなされていない供試体は、処理のされている供試体に比較して、蛍光の発生量が多く、紫外域における吸収バンドの発生が早く、耐レーザ性の面で実用的に問題のある事が判明した。」(第4頁右上欄第9〜15行) VI-C.引用例3には、(甲第3号証:特開平2-64645号公報)には、以下のことが記載されている。 (C-1)「(1)KrF25Hz、500mJ/cm2以上であるエキシマレーザ光の5分以上の照射に対し赤色蛍光を発せず波長200nmでの吸収係数が1×10-2以下である紫外域用有水合成石英ガラス」(特許請求の範囲第1項) (C-2)「(5)四塩化ケイ素を酸水炎中で加水分解して有水合成石英ガラスを製造する工程において、原料の四塩化ケイ素に不活性ガスをキャリアガスとして同伴させることを特徴とする紫外域用有水合成石英ガラスの製造方法。」(特許請求の範囲第5項) (C-3)「得られたガラスのエキシマレーザー(KrF、20Hz)照射による赤色蛍光の「しきい値」と200nmにおける透過率のデーターを、H2/O2比に対して整理した結果を図2に示す。H2/O2比を2.2〜2.3にすると、スパッタリングやプラズマエッチングに対して変質して赤色蛍光を発することは無く、エキシマレーザーKrF(248nm)に対し200mJ/cm2のエネルギー密度にまで耐える。」(第5頁右上欄下から第2行〜左下欄第7行) VI-D.引用例4には、(甲第4号証:「ガラスの辞典」)には、以下のことが記載される。 (D-1)「III型有水合成石英ガラス 原料には四塩化ケイ素を用いる。これを蒸発させ、気相として酸水素炎中に導入し、火炎加水分解によってガラス微粒子(スートとよぶ)を合成する。これを回転ダーゲット上に溶融堆積して透明ガラスを得る。」(第206頁第4〜7行) VII.当審の判断 VII-1.理由Aについて VII-1-1.本件発明1 引用例1には、合成シリカガラスに関する記載があり、上記摘示(A-2)によれば、試料として「タイプIIIのシリカガラス」であって、「エキシマレーザー照射時の赤色発光が無いもの(A)」(以下、「サンプルA」という)を用いることが記載される。 また、上記摘示(A-3)によれば、サンプルAを「900℃で2時間熱処理」することが記載され、上記摘示(A-5)によれば、そのサンプルAにあっては、「雰囲気熱処理前には280nmに強い発光ピークがみられる。このピークは熱処理により減少し、・・・O2中で熱処理すると280nmの発光はほとんど消滅」することが記載され、更に、上記摘示(A-6)によれば、サンプルAにつき、その「280nmの発光は225nmの吸収に対応している」ことが記載されている。 ここで、「タイプIIIのシリカガラス」とは、引用例4の上記摘示(D-1)によれば、「原料には四塩化ケイ素を用いる。これを蒸発させ、気相として酸水素炎中に導入し、火炎加水分解によってガラス微粒子を合成する。これを回転ダーゲット上に溶融堆積して透明ガラスを得る」とされるものであるので、サンプルAのシリカガラスは「四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラス」に相当する。 また、650nmの発光が赤色の領域であることからすれば、赤色発光が無い場合には当然に650nmの発光も無いのであるから、「エキシマレーザー照射時の赤色発光が無い」とは、「エキシマレーザーの照射による650nmの赤色発光を防止」していると云える。 以上のことからみると、引用例1には、「四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、エキシマレーザーの照射による650nmの赤色発光を防止し、かつ、O2の雰囲気中において、900℃で熱処理して、280nmの発光の生成を抑止した合成石英ガラス。」に関する発明が記載されているものである。 そこで、本件発明1と引用例1に記載の発明とを対比すると、引用例の発明の「O2中で熱処理」とは「非還元性の雰囲気中で熱処理」に相当し、よって、両者は、 「四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、ArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光を防止し、かつ、非還元性の雰囲気中、または真空中において、200〜1200℃で熱処理して、280nmの発光の生成抑止した合成石英ガラス」である点で一致し、次の点で相違している。 【相違点1】四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにつき、本件発明1では、「水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成する」としているのに対し、引用例1に記載の発明では、その合成ガラスは赤色発光を防止するものであるものの、その製造方法が示されず、当該構成を具備しない点。 【相違点2】当該合成石英ガラスにつき、本件発明1では、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成して、「エキシマレーザー自身に対する透過率の低下を防止し、X線照射による吸光度の変化が1%未満で内部透過率が99.0%以上」とするのに対し、引用例1に記載の発明ではこのことが示されず、当該構成を具備しない点。 【相違点3】当該合成石英ガラスにつき、本件発明1では、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成して、「溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下」となるようにするのに対し、引用例1に記載の発明では溶存酸素量について示されず、当該構成を具備しない点。 【相違点4】熱処理された合成石英ガラスにつき、本件発明1では、「≡Si-H H-0-Si≡で示される構造が、1×1018個/cm3以下」とするのに対し、引用例1に記載の発明では、≡Si-H H-0-Si≡で示される構造が示されず、当該構成を具備しない点。 【相違点5】熱処理された合成石英ガラスにつき、本件発明1では、「260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止」しているのに対し、引用例1に記載の発明では、そのことが明示されず、当該構成を具備しない点。 以下、上記相違点について検討をする。 【相違点1】について 訂正明細書の記載によれば、本件発明1は、四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、「水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成する」、かつ、当該合成石英ガラスを「非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理」することにより、その余の構成と相俟って、合成石英ガラスにArFエキシマレーザー(193nm)を照射した場合に50nm及び280nmにおける発光帯の生成および260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止することができたというものである。 このように、上記相違点1の構成を採択し、かつ、所定の熱処理を適用することで、望ましくない発光帯及び吸収帯の生成を抑制することができたというものである。 これに対して、引用例1には、上記摘示(A-2)によれば、その合成石英ガラス(合成シリカガラス)であるサンプルAは、結果として赤色発光のないサンプルを用いたに過ぎない。 そして、赤色発光防止手段には、種々のものがあり、単に、赤色発光が防止されているというだけではその水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を特定することができないことはいうまでもない。 また、引用例1の他の記載をみても、引用例1に記載の発明からは、製造方法に関する相違点1の構成を容易に導き出すことはできない。 次に、他の引用例の記載を順次みる。 引用例2には、その摘示(B-1)、(B-3)及び(B-4)によれば、OH基濃度が100ppm以上含有する合成石英ガラスにつき、真空中雰囲気、不活性ガス雰囲気又は大気雰囲気にて、略600℃から1200℃の温度で熱処理することにより、そのガラス組織中に存在する吸蔵水素を実質的に除去することが記載され、このOH基含有量の制御のために、その摘示(B-3)によれば、四塩化ケイ素ガスと酸水素ガスとの混合比を変化させることは示されるが、水素ガスと酸素ガスの比を制御することまでは記載されず、したがって、上記相違点に関する構成につき示唆するものはない。 引用例3には、その摘示(C-3)及び(C-2)によれば、「四塩化ケイ素を酸水素炎中で加水分解して有水合成石英ガラスを製造する工程において、その酸水素炎のH2/O2比を2.2〜2.3にすると、赤色蛍光を発することが無いこと」が記載される。 しかし、引用例1に記載されるように「合成石英ガラスの発光現象は製造履歴を強く反映する」〔前記(A-1)〕ものであり、このように、少なくとも、発光現象に関しては、合成石英ガラスの製造条件と熱処理とは密接に関連しているものである。そして、引用例1〜4並びに現在まで提示される証拠において、その製造条件と熱処理との因果関係がで明らかにされないものである。してみると、引用例3に記載される酸水素炎のH2/O2比を2.2〜2.3にするとの製造条件を、引用例1に記載される発明のサンプルAに適用する動機付けがなく、また、適用したとしても、本件発明1におけるように、望ましくない発光帯及び吸収帯の生成を抑制できるとは予測することができないものである。 引用例4には、前記したとおり、III型有水合成ガラスの一般的製法が記載されているだけであり、上記相違点に関する構成につき教示するものは何もない 以上のとおり、引用例2〜4の記載をみても、そこから、合成石英ガラスにArFエキシマレーザー(193nm)を照射した場合に650nm及び280nmにおける発光帯の生成および260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止するための構成の一部である、「水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成する」との事項を引用例1に記載の発明に適用することが容易に想到できるものではない。 そうすると、他の相違点につき検討するまでもなく、本件発明1は、引用例1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 VII-1-2.本件発明2〜4 本件発明2〜4は、訂正後の本件請求項1を引用し、本件発明1の構成の全てを具備するものである。 したがって、本件発明1につき説示した上記VII-1-1.の理由と同じ理由により、本件発明2〜4は、引用例1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 VII-2.理由Bについて 本件の出願日前の出願に係る特願平2-123760号(特許公報第3303918号参照)に係る請求項1には、次のことが記載されている。 「【請求項1】四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成してKrFエキシマレーザー(248nm)及びArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光を防止し、かつ、非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理してArFエキシマレーザー(193nm)の照射による280nmの発光を防止した合成石英ガラス。」(以下、必要に応じて、「先願発明」という) そこで、本件発明1と先願発明とを対しすると、両者は、 「四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成して、ArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光を防止し、かつ、非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理して、280nmの発光の生成を抑止した合成石英ガラス」である点で一致する。 しかし、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成した合成石英ガラスにつき、本件発明1では、「溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下」であり、「X線照射による吸光度の変化が1%未満で内部透過率が99.0%以上」であるとの構成を更に具備するのに対し、先願発明ではそのことが規定されず、両者は、少なくともこの点で相違する。 そして、訂正明細書の記載(特許公報では第6欄第48行〜第7欄第10行等)によれば、本件発明1は上記相違点に関する構成を具備することにより、その合成石英ガラスにArFエキシマレーザーが照射される場合においてもより高い透過率を示す等の有用な効果を奏したものであり、当該相違点に関する構成は、先願発明から自明なこととして導き出せるものではない。 してみれば、本件発明1は先願発明と実質上同一であるということはできない。 VII-3.異議申立のその他の理由について 異議申立人は、本件請求項1の(a)「溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下」、及び、(b)「≡Si-H H-O-Si≡で示される構造が、1×1018個/cm3以下」であることは仮定の理論に基づいて規定されたものであり、これが、特許法第36条第3項及び4項に規定する要件を満たしていない旨、主張する。 しかし、上記(a)の構成については、訂正明細書(特許公報では、第6欄第48行〜第7欄第10行、及び、第8欄第23〜27行、等)によれば、合成石英ガラスの溶存酸素濃度が、少なくとも、1×1017個/cm3以下であることが実質上確認されているものであり、仮定の理論に基づいて規定されたものではなく、したがって、上記(a)の構成の存在により、本件発明1及び2の特許が、特許法第36条第3項及び4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとまではいえない。 また、上記(b)の構成については、訂正明細書(特許公報では、第7欄第32行〜46行、及び、第8欄第49行〜第9欄第2行、等)によれば、水酸基の濃度変化により確認されるものであって、また、そこには透過率等につき技術的意義が存するものであり、したがって、この(b)の構成は仮定の理論のみに基づいて規定されたとまではいえない。しかも、本件発明1は、当該構成を待つまでもなく、その余の構成で、その特定する事項を把握することが可能なものである。してみれば、当該(b)に関する構成の存在により、本件発明1及び2の特許が、特許法第36条第3項及び4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるとまではいえない。 VIII. まとめ 特許異議申立の理由及び証拠によっては、訂正後の本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことができない。 また、他に訂正後の本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 合成石英ガラス及びその製法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成して、溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下で、ArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光及びエキシマレーザー自身に対する透過率の低下を防止し、X線照射による吸光度の変化が1%未満で内部透過率が99.0%以上であり、かつ、非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理して、≡Si-H H-O-Si≡で示される構造が、1×1018個/cm3以下で、280nmの発光の生成及び260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止した合成石英ガラス。 【請求項2】請求項1において、非還元性の雰囲気が、酸化性雰囲気、不活性雰囲気、大気のいずれかである合成石英ガラス。 【請求項3】請求項2において、酸化性雰囲気が、酸素ガス雰囲気である合成石英ガラス。 【請求項4】請求項2において、不活性雰囲気が、ヘリウムガス、窒素ガス、アルゴンガスのいずれかの雰囲気である合成石英ガラス。 【発明の詳細な説明】 [産業上の利用分野] 本発明は、合成石英ガラス、特に、紫外領域、例えば、エキシマレーザーなどに使用される光学用部品、超LSI用フォトマスク基板、ステッパー用光学材料等に使用される合成石英ガラス及びその製法に関する。 [従来の技術] 超LSIの高集積化に対応して、露光源の短波長化が進展し、エキシマレーザーが、半導体素子の製造工程で用いようとする気運が高まってきた。 エキシマレーザーとしては、発振効率とガス寿命の点からXeClエキシマレーザー(308nm)ArFエキシマレーザー(193nm)や、KrFエキシマレーザー(248nm)が有利である。このうち、半導体素子の製造工程で用いられる光源としては、ArFエキシマレーザー(193nm)および、KrFエキシマレーザー(248nm)が注目されている。 ArFエキシマレーザー(193nm)や、KrFエキシマレーザー(248nm)は、従来の水銀ランプなどの光源と比較すると、その波長が短く、エネルギー密度もはるかに高いため、ステッパーなどの石英ガラス製の光学部品に対して損傷を与える可能性が大きい。 事実、合成石英ガラスにエキシマレーザーを照射したり、合成石英ガラスフォトマスク基板にプラズマエッチングや、スパッタリングを実施すると、吸収帯が形成されたり、発光帯が発生したりするようになるという欠点を有していた。 合成石英ガラスフォトマスク基板がプラズマエッチングや、スパッタリングを受けて吸収帯を形成するような石英ガラスを予め判別する方法として特開平1-189654号公報(合成石英ガラスの検査方法)がある。これは、合成石英ガラスにエキシマレーザーを照射し、赤色発光するか否かによって、有害な吸収帯が形成されるか否かを判別する方法である。 さらに、特開平1-201664号公報(合成石英ガラスの改質方法)には、四塩化ケイ素を化学量論的比率の酸水素火炎中で加水分解して得られた合成石英ガラスを水素ガス雰囲気中で熱処理することによって、赤色発光のない合成石英ガラスに改質できることが開示されている。 また、特開平2-64645号公報(紫外域用有水合成石英ガラス及びその製法)には、四塩化ケイ素を酸水素火炎で加水分解する際、バーナーに供給する酸水素火炎の水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を化学量論比により大きくする、すなわち、水素の量を化学量論的必要量より過剰にすることにより、260nmの吸収帯の生成およびそれに伴う合成石英ガラスの650nmの赤色発光を防止できることが開示されている。 さらに、その製法によって得られた合成石英ガラスは、200nmでの透過率が低下するという欠点があり、四塩化ケイ素に同伴ガスとして、合成石英ガラスの生成反応に関与しない不活性ガスを使用することにより、前記の欠点の無い合成石英ガラスが得られることが開示されている。 合成石英ガラスの発光、吸収の理論的説明は、未だ充分にはなされていないが、合成石英ガラスの構造欠陥に起因し、荷電粒子線、電子線、X線、γ線、そして、高い光子エネルギーを有する紫外線などによる一光子吸収あるいは多光子吸収によって、何らかの色中心が生成されるためと考えられている。 石英ガラスの吸収、発光という分光学的性質は、現在のところ、次のように説明される。 a)酸素過剰 合成石英ガラスの製造において、酸水素火炎の酸素が過剰な場合、すなわち、H2/O2<2となるような時は、エキシマレーザーなどの照射によって、260nmの吸収帯が生じ、それに伴って650nmの赤色発光帯が生成する。 b)水素過剰 逆に、酸水素火炎が水素過剰の場合(H2/O2>2)、合成石英ガラス中に過剰の水素が残存し、ArFエキシマレーザーの照射によって220nmの吸収帯が生じ、それに伴う280nmの発光帯が見られる。 合成石英ガラスの製造の際の、酸水素火炎の水素と酸素の比による合成石英ガラスの発光スペクトルの違いを第1図に、また吸収スペクトルの違いを第2図に示す。 第1図および第2図のAの試料は、酸水素火炎のH2/O2=1.8で製造した合成石英ガラスにArFエキシマレーザー(193nm)を200mJ/cm2、100Hz、6000パルスの照射条件で照射したときの発光スペクトルを吸収スペクトルであり、650nmに赤色発光があり、260nmに吸収帯がある。また、第1図のBの試料は、H2/O2=2.3で製造した合成石英ガラスにAと同様にArFエキシマレーザー(193nm)を照射したときの発光スペクトルである。この図から280nmに強い発光があることが認められる。さらに、第2図に示すように、220nm付近に吸収帯の生成が見られる。 Aの試料の260nmの吸収帯の生成およびそれに伴う650nmの赤色発光の原因として考えられることは、酸素過剰の条件下で石英ガラスを合成したことによる石英ガラス中に溶存する酸素分子の存在である。石英ガラスに照射したX線や紫外線などの高い光子エネルギーを有する電磁波によって酸素分子がオゾンに変換され、発光中心になると考えられている。 すなわち、以下の反応がおこなわれている。 この合成石英ガラスに水素熱処理を施すと、石英ガラス中の過剰の溶存酸素は水素と結合して水となり発光中心が減少して発光は抑制される。 この反応を(2)式で示す。 O2+2H2→2H2O (2) 一方、第1図および第2図の試料Bの220nmの吸収帯は≡Si・構造を持ったE’センターと呼ばれている格子欠陥が原因であり、E’センターの前駆体として≡Si-Hが考えられる。 これを(3)式で示す。 [発明が解決しようとする課題] 特開平1-201664号公報に開示された合成石英ガラスの改質方法は、安定した改質方法とはいえず、改質効果が継続的に発揮できず、種々の影響因子によって改質効果が消滅することがある。例えば、前記の方法で改質した合成石英ガラスを大気中で熱処理すると、改質効果が消滅し、エキシマレーザーの照射や、スパッタリング、プラズマエッチングなどを行うと、再び650nmの発光が発生するようになってしまう。 また、特開平2-64645号公報に開示された方法によって製造された合成石英ガラスでは、再熱処理をおこなっても、エキシマレーザー照射時の260nmの吸収帯の生成および650nmの赤色発光帯は観測されない。さらに詳細に検討すると、第1図および第2図に示すように、ArFエキシマレーザー(193nm)を照射すると、280nmに強い発光帯が生じ、220nmに吸収帯が生成されることが判明した。 また、第4図に示すように、試料BにArFエキシマレーザー(193nm)を照射し220nm吸収帯が生成するに伴ってArFエキシマレーザー(193nm)自身の透過率も低下する。 一方、試料BにKrFエキシマレーザー(248nm)照射しても280nmの発光帯、および220nmの吸収帯は生ぜず、KrFエキシマレーザー(248nm)自身の透過率低下もみられない。 したがって、この試料Bの合成石英ガラスは、KrFエキシマレーザー(248nm)用の光学材料としては適するが、ArFエキシマレーザー(193nm)用の光学材料としては適さない。 本発明は、合成石英ガラスのこのArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nm、および280nmにおける発光帯の生成および260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止することを目的とするものである。 [課題を解決するための手段] 本発明は、四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解して得られる合成石英ガラスにおいて、水素ガスと酸素ガスの比(H2/O2)を2.2〜2.5で合成して、溶存する酸素分子(O2)濃度が1×1017個/cm3以下で、ArFエキシマレーザー(193nm)の照射による650nmの赤色発光を防止し、かつ、非還元性の雰囲気中、または、真空中において、200〜1200℃で熱処理して、≡Si-H H-O-Si≡で示される構造が、1×1018個/cm3以下で、280nmの発光の生成及び260nmと220nmの吸収帯の生成を抑止したものである。 [作用] 四塩化ケイ素を酸水素火炎中で加水分解する石英ガラスの合成方法において、酸水素火炎の酸素と水素の比を化学量論的必要量より過剰の水素としたため、合成された石英ガラスの溶存する酸素分子(O2)濃度を1×1017個/cm3以下ににすることが可能となり、したがって、650nmの赤色発光の前駆体である不安定な構造の形成が防止されることになる。 上述の条件で合成した石英ガラスは、合成時の酸水素火炎に化学量論的必要量よりも過剰の水素を使用したため、合成して得られた石英ガラス中に≡Si-H H-O-Si≡構造が形成されるものと考えられる。 この過剰の水素を含有する合成石英ガラスを非還元性の雰囲気中または、真空中において、200〜1200℃で熱処理することによる水素の除去機構は、つぎのようになるものと考えられる。 ≡Si-H H-O-Si≡構造を有する合成石英ガラスを非還元性の雰囲気中または、真空中において、200〜1200℃で熱処理することにより、以下(4)式に示す反応が進行する。 ≡Si-H H-O-Si≡→≡Si-O-Si≡+H2 (4) この反応の進行にしたがい、E’センターの前駆体(≡Si-H)が消滅する。この結果、合成石英ガラス中の水酸基も減少することがわかる。 この(4)式の反応にともなって220nmの吸収帯およびそれに伴う280nmの発光帯が消滅する。さらに第4図に示すようにArFエキシマレーザー(193nm)自身の透過率低下も防止される。 酸化性のガス雰囲気中では、合成石英ガラス中の水素が酸素によって引き抜かれ、(4)式の反応が右辺側に促進される。 また、ヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気中では、不活性ガスであるヘリウムが石英ガラス中に浸透し、水素を追い出すことにより(4)式の反応が右辺側に進行する。 ArFエキシマレーザー(193nm)の照射により260nmおよび220nmの吸収帯の生成が起こらない溶存酸素分子および≡Si-H H-O-Si≡で示される構造の許容濃度はそれぞれ (1)溶存酸素分子:1×1017個/cm3以下 (2)≡Si-H H-O-Si≡構造:1×1018個/cm3以下でなければならない。 その根拠を以下に説明する。 260nmの吸収帯が生じないための条件は以下のようにして求めた。 260nmにおけるオゾンの吸収係数は、1気圧において120nm-1であるので、オゾン生成後も内部透過率を99.0%以上に保つためには、オゾン濃度は、1×1015個/cm3以下でなければならない。 一方、エキシマレーザー照射時に生成するオゾンの割合は、エキシマレーザーのパワーにもよるが溶存酸素分子の数パーセントから10パーセント程度であると言われている(粟津浩一、ニューグラス、vol.5、1990年、12頁参照)。 仮に、溶存酸素の1%がオゾンに変換されたとすれば、許容溶存酸素濃度は約1×1017個/cm3となる。 また、オゾンの生成は、X線照射によりさらに促進され有効におこなわれる。 酸水素火炎の水素と酸素の比をH2/O2<2.0の条件で石英ガラスを合成し、ArFエキシマレーザー(200mJ/cm2、50Hz)を2分間合成石英ガラスに照射し、その前後における260nmの透過率変化が1%である厚さ2.3mmの石英ガラスに対して、蛍光X線分析装置(Rh管球50kV、50mA)を使用してX線を3時間照射したところ、吸収の量は飽和し、260nmにおける透過率が約60%となった。吸光度からオゾン濃度を計算すると約1×1017個/cm3であることが確認された。 以上のことから、溶存酸素分子の許容濃度は約1×1017個/cm3であり、好ましくは内部透過率が99.9%となる条件として1×1016個/cm3以下が望ましい。 また、220nmの吸収帯が生じないための条件は以下のようにして求めた。 電子スピン共鳴法による測定結果より、E’センターの濃度が1×1016個/cm3程度存在すると、220nmの透過率が数パーセント低下する。 従って、≡Si-H H-O-Si≡で示される構造の1パーセントがArFエキシマレーザー(193nm)の照射によりE’センターになるとすれば、前駆体の許容濃度は約1×1018個/cm3である。 一般にSi-OH構造は、この他に単独にSi-OH、あるいはSi-OH HO-Si等の構造が含まれていて、それらの濃度の検出は2.2μmないし、2.7μmの赤外線吸光度から算出できる。熱処理によってOH基の濃度が変わるのは≡Si-H H-O-Si≡構造のみが(4)式に示すように変化するためと考えられる。 実際、≡Si-H H-O-Si≡構造を有し第1図、第2図に示すように220nmの吸収帯および280nmに発光帯が生じる合成石英ガラスをヘリウム中で本願発明の条件で熱処理し、これらの吸収および発光を消滅させたときの水酸基濃度の変化は10〜20ppmである。水酸基20ppmを個数濃度に換算すると2×1018個/cm3である。このとき、第2図に示すように、吸光度は、約0.01であるので内部透過率が99%(吸光度0.004)となる条件は1×1018個/cm3である。 したがって、220nmの吸収帯および280nmに発光を生じさせないための≡Si-H H-O-Si≡構造の許容濃度は1×1018個/cm3以下である。好ましくは、内部透過率が99.9%(吸光度0.0004)となる条件として1×1017個/cm3以下が望ましい。 また、処理温度に関しては、1200℃より高温で熱処理をおこなうと、材料が変形したり結晶化するなどの問題がある。逆に200℃未満では、処理時間がかかりすぎ、処理効率が悪くなるので現実的でない。 なお、ArFエキシマレーザー(193nm)照射時にはすべての試料表面で300nmにピークを持つ発光帯が観測される。この300nm発光帯は、各種雰囲気中で熱処理することによって増大するが、試料の表面を1mm程度研磨することにより元の状態に回復する。 また、300nmの発光帯は、エキシマレーザー照射を続けることによっても消滅する。 300nmの発光帯の発生原因については今のところ明らかでないが、表面だけの発光帯であること、エキシマレーザー照射を繰り返すことにより減衰して消滅することなどから表面に吸着した水分子が原因でないかと考えられる。 [実施例] 従来の方法で、四塩化ケイ素(SiCl4)を酸水素火炎中で加水分解して石英ガラスを合成した。このとき、酸水素火炎の酸素と水素の割合を化学量論的必要量より過剰の水素(H2/O2=2.2〜2.5)とした。 得られた合成石英ガラスの試料から試験片を切り出して、X線(Rh管球50kV、50mA)を照射した。X線照射前後の吸光度の変化は、1%未満であった。したがって、溶存酸素のうちオゾンになった割合が1%であったとしても溶存酸素濃度は1×1017個/cm3未満である。 このようにして製造した合成石英ガラスを略10×10×30mm3の大きさに切りだし、以下の条件で熱処理した。 A:酸素雰囲気中において、900℃で2時間熱処理したのち、酸素を還流しながら放冷した。 B:ヘリウム雰囲気中において、900℃で2時間熱処理したのち、ヘリウムを還流しながら放冷した。 C:大気中において、1100℃で3時間熱処理したのち、0.1℃/分で700℃まで徐冷したのち放冷した。 D:窒素雰囲気中で1150℃で15時間熱処理したのち、窒素を還流したまま0.1℃/分で700℃まで徐冷したのち放冷した。 E:アルゴン雰囲気中において、1150℃で15時間熱処理したのち、0.1℃/分で700℃まで徐冷したのち、放冷した。 F:ヘリウム雰囲気中において、500℃で24時間熱処理したのち、室温までヘリウムガスを還流しながら放冷した。 G:真空中(0.01Pa)において、300℃で24時間熱処理したのち、室温まで放冷した。 上記の条件で熱処理した各合成石英ガラスの表面を1mm程度研磨した。 熱処理前後において、水酸基濃度を測定したところ、濃度の変化は10ppm以下であった。このことから、熱処理後の≡Si-H H-O-Si≡構造の濃度は、1×1018個/cm3未満である。 熱処理して得られた試料にエキシマレーザー(ArF,200mJ/cm2、100Hz、6000パルス)を照射して650nmと280nmにおける発光および220nm吸収帯生成の有無を調べた。 その結果、どのケースにおいても、650nm、280nmのどちらにも発光は認められず、220nmの吸収帯の生成もみられなかった。また、エキシマレーザー自身に対する透過率低下も認められなかった。 表-1にこの結果をまとめたものを示す。 また、第2図に各種雰囲気で熱処理した合成石英ガラスの280nm付近の発光スペクトルを示す。 [効果] 石英ガラスを合成するにあたり、酸水素火炎の水素を化学量論的必要量より過剰にし、酸素に起因する合成石英ガラスの構造欠陥を少なくすることによって260nmの吸収および650nmの赤色発光帯の生成が効果的に防止された。 また、非還元性雰囲気、または、真空中での熱処理によって、E’センターの前駆体が消去され、220nmの吸収帯および280nmの発光帯の生成も完全に防止され、本質的に安定な合成石英ガラスを得ることができた。 【図面の簡単な説明】 第1図は、H2/O2比と発光スペクトルの関係を示す概略図。 第2図は、H2/O2比とArFエキシマレーザー(193nm)によって誘起される吸収スペクトルの関係を示す概略図。 第3図は、H2/O2>2で合成した石英ガラスを各種雰囲気で熱処理したときの280nm付近の発光スペクトル図。 第4図は、H2/O2>2で合成した石英ガラスに対するArFエキシマレーザー(193nm)自身の透過率の変化およびそれに及ぼすヘリウム熱処理の効果を示した図。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-09-28 |
出願番号 | 特願平2-250225 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(C03C)
P 1 651・ 4- YA (C03C) P 1 651・ 531- YA (C03C) P 1 651・ 534- YA (C03C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 武重 竜男 |
特許庁審判長 |
多喜 鉄雄 |
特許庁審判官 |
西村 和美 岡田 和加子 |
登録日 | 2002-05-10 |
登録番号 | 特許第3303919号(P3303919) |
権利者 | 東ソー・クォーツ株式会社 東ソー・エスジーエム株式会社 |
発明の名称 | 合成石英ガラス及びその製法 |
代理人 | 石井 良和 |
代理人 | 石井 良和 |
代理人 | 石井 良和 |