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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200135480 審決 特許
審判199835415 審決 特許
異議199973920 審決 特許
無効200235443 審決 特許
審判199513939 審決 特許

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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47K
審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正  A47K
管理番号 1109601
異議申立番号 異議2001-72607  
総通号数 62 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-09-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-09-21 
確定日 2005-01-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第3168397号「便座カバー」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3168397号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。 
理由 第一 手続の経緯
本件特許第3168397号(請求項の数2)の請求項1及び2に係る発明についての出願(特願平7-336826号、以下、「本願」という)は、平成3年7月19日の実用新案登録出願(実願平3-64675号、優先権主張平成2年7月23日、以下、「原々出願」という)の一部を分割して、平成7年7月21日に新たな実用新案登録出願(実願平7-7552号、優先権主張なし、以下、「原出願」という)としたものを、更に平成7年12月25日に特許出願に出願変更したものであって、
前審で拒絶査定され、拒絶査定不服審判(平成10年審判第15201号)の請求がなされ、平成10年10月16日付けの手続補正により明細書が補正され、拒絶理由が通知され、平成12年11月30日付けの手続補正により明細書の全文が補正され、平成13年3月16日にその特許権の設定登録がなされたものである。
その後、中野克俊、岩谷圭介、ガンツ化成株式会社から、それぞれ全請求項について本件異議の申立てがなされ、当審から取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成14年12月24日に意見書が提出されたものである。

なお、別途、無効審判の請求(無効2001-35344)もなされていたが、平成14年6月10日に請求項1および2に係る発明についての特許を無効とする旨の審決がなされ、この審決の取消しを求める訴え(平成14年(行ケ)第369号)が東京高等裁判所になされたところ、平成14年9月11日に当該無効審判の請求は取り下げられている。


第二 本願の出願手続および出願日の認定について
1.原々出願から原出願への分割について
分割出願の実体的要件の一つとして、分割の対象となる発明(考案)は、もとの出願の当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであることがあげられる。
そこで、かかる観点から以下検討する。
原出願に係る考案(以下、「原考案」という)は、その当初明細書(実願平7-7552号(実開平8-212号)のCD-ROM参照)の実用新案登録請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】便座の上面形状に応じた形状をなすシートの一面に、合成樹脂からなり、表面に開口する気泡を有する装着層を形成してあり、該装着層を便座上面に接着させるべくなしてあることを特徴とする便座カバー。」

これを、原々出願の当初明細書又は図面(実願平3-64675号(実開平4-89097号)のマイクロフィルム参照)の記載と照合すると、原考案の構成要件である
(1)装着層が、表面に開口する気泡を有すること、
(2)装着層を便座上面に接着させるべくなしてあること
は、以下の理由により原々出願の当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものとは認められない。
理由
構成要件(1)について
原々出願の当初明細書には「表面に開口する気泡」なる用語は全く記載されていない。ただし、装着材12は成分として発泡剤を含むことが開示されている(段落【0014】〜【0017】)ので、装着材12中に発泡剤による気泡が生じるであろうこと、それに伴い装着材12の表面に気泡が開裂してスポンジ状となるであろうことは推認できる。
しかし、「表面に開口する気泡」についての技術的裏付けをなす、原出願の当初明細書中の段落【0005】における、「気泡が便座上面に真空吸着する作用を営み」、「またこの接着作用は、樹脂の化学的性質によるものではなく、真空吸着という物理的性質によるので」という記載事項によれば、「表面に開口する気泡」はいわゆる吸盤機能を有するものであるといえる。
ところが、当該事項は、原々出願の当初明細書又は図面には記載されていなかったものである。また、このような吸盤機能を持つ特殊な「表面に開口する気泡」は、原々出願の当初明細書又は図面から予測し得る自明の事項ともいえないものである。
よって、原考案は、「表面に開口する気泡」に関し、原々出願の当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではなくなった。
構成要件(2)について
原々出願の当初明細書の段落【0010】に「 第1考案の便座カバーでは、シートの裏面に塗布された装着材は接着力があるので、・・・」、段落【0030】に「前述の実施例では共に、合成樹脂としてウレタン系合成樹脂である「DICFOAM F-520 」を含む装着材12を用いているが、何らこれに限定されるものではない。本考案の便座カバーにおける特性を得るための装着材12としては、アクリル系粘着剤,ゴム系粘着剤,合成ゴム,エチレン酢酸ビニールアルコール(EVA),エチレンエチルアクリレート(EEA),エチレンメチルアクリレート(EMA), ウレタン等の樹脂が考えられる。これらの各樹脂における物性(粘着性,耐熱性,耐洗濯性,変色性)を調べた結果を、表4に示す。」とあるように、樹脂の粘着性により装着層を便座上面に接着させること、は原々出願の当初明細書に記載されていたといえる。
これに対し、原考案における「接着」についての技術的裏付けをなす、原出願の当初明細書中の段落【0005】における、「またこの接着作用は、樹脂の化学的性質によるものではなく、真空吸着という物理的性質によるので」という記載事項によれば、「接着」は真空吸着を意味するものとなる。
ところが、当該事項は、原々出願の当初明細書又は図面には記載されていなかったものである。また、このような真空吸着を意味する「接着」は、原々出願の当初明細書又は図面から予測し得る自明の事項ともいえないものである。
よって、原考案は、「接着」に関し、原々出願の当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものではなくなった。

以上、原出願は分割出願の実体的要件を満たしていないものであり、適法な分割出願とは認められず、出願日を原々出願の出願日まで遡及させることができないものであり、現実の出願日(平成7年7月21日)にした通常の実用新案登録出願として扱われるものである。

2.原出願から本願への出願変更について
出願変更の実体的要件として、出願変更に係る明細書又は図面に記載された事項は、もとの出願の明細書又は図面に記載されていなければならない。いわゆる出願内容(客体)の同一性を要する。
そこで、かかる観点から本願の当初明細書又は図面の記載(特開平8-224192号参照)を、原出願の当初明細書又は図面の記載(実願平7-7552号(実開平8-212号)のCD-ROM参照)と照合すると、原出願と本願の出願内容(客体)の同一性は担保されており、原出願から本願への出願変更は、適法にされたものと認められる。

3.本願の出願日について
以上、本願の出願日は、平成7年7月21日とみなす。


第三 特許法第17条の2第3項違反について
1.本願の明細書の最終の補正は、拒絶査定不服審判(平成10年審判第15201号)における拒絶理由通知に対してした、平成12年11月30日付けの手続補正による明細書全文の補正(内容は本件特許明細書の記載に同じ)であり、補正された特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】便座の上面形状に応じた形状をなすシートの一面に、シリコーン系物質を含む合成樹脂からなり、表面に開口する気泡を有する装着層を形成してあり、前記シリコーン系物質はその存在により前記気泡のつぶれを防止するものであり、前記装着層を便座上面に吸着させるべくなしてあることを特徴とする便座カバー。
【請求項2】便座の上面形状に応じた形状をなすシートの一面に、シリコーン系物質及び発泡剤を含む合成樹脂からなり、表面に開口する気泡を有する装着層を形成してあり、前記シリコーン系物質はその存在により前記気泡のつぶれを防止するものであり、前記装着層を便座上面に吸着させるべくなしてあることを特徴とする便座カバー。」

2.ここで、上記全文補正明細書の記載を、本願の当初明細書(特開平8-224192号参照)の記載と照合すると、同全文補正明細書の請求項1および2に共通に追加記載され、また、発明の詳細な説明にも追加記載された事項である
(1)装着層が、シリコーン系物質を含むこと、
は、以下の理由により本願の当初明細書に記載されていた事項とは認められない。
理由
本願の当初明細書には「シリコーン系物質」なる用語は全く記載されていない。たとえ、段落【0012】に装着層の成分として大日本インキ化学工業株式会社製のVONDIC NBA-1を配合することが示されていること、および、本件特許権者が前審で参考資料として提出した、大日本インキ化学工業株式会社のパンフレット「産業資材用合成樹脂2(1990(平成2年).5月)」(8頁末行にVONDIC NBA-1は、フォーム加工助剤であり、主成分がシリコーン系、形状が100%油状、特長が整泡剤と反撥回復性付与であることが示されている。)により、本願の当初明細書には「装着層が、VONDIC NBA-1という特定のシリコーン系物質を含むこと」は記載されていたといえるとしても、上記全文補正明細書における「シリコーン系物質」なる用語はVONDIC NBA-1に限らず、シリコーン系物質全般を意味するものであるので、本願の当初明細書に、装着層が、シリコーン系物質全般を意味する「シリコーン系物質」を含むことまで記載されていたとはいえない。

3.要するに、平成12年11月30日付けでした明細書の補正は、当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内でされたものとは認められず、新規事項を追加するものであり、本件請求項1及び2に係る特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものである。


第四 特許法第29条第2項違反について
1.本件発明
本件請求項1及び2に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下「本件発明1及び2」という)
「【請求項1】便座の上面形状に応じた形状をなすシートの一面に、シリコーン系物質を含む合成樹脂からなり、表面に開口する気泡を有する装着層を形成してあり、前記シリコーン系物質はその存在により前記気泡のつぶれを防止するものであり、前記装着層を便座上面に吸着させるべくなしてあることを特徴とする便座カバー。
【請求項2】便座の上面形状に応じた形状をなすシートの一面に、シリコーン系物質及び発泡剤を含む合成樹脂からなり、表面に開口する気泡を有する装着層を形成してあり、前記シリコーン系物質はその存在により前記気泡のつぶれを防止するものであり、前記装着層を便座上面に吸着させるべくなしてあることを特徴とする便座カバー。」

2.刊行物に記載された事項
刊行物1:実願昭63-106941号(実開平2-28696号)のマイクロフィルム(異議申立人岩谷圭介の甲第1号証および異議申立人ガンツ化成株式会社の甲第1号証)
刊行物2:特開平3-7778号公報(平成3年1月14日公開、異議申立人岩谷圭介の甲第2号証)
刊行物3:特開平1-247433号公報(異議申立人岩谷圭介の甲第3号証)

刊行物1には、「簡易便座カバー」に関して、
(1)「便座表面を覆う形状のシートの片面に、再剥離型粘着剤からなる貼着部を設けてなる簡易便座カバー。」(実用新案登録請求の範囲)、
(2)「便座カバーの本体をなすシート1は、便座の表面を覆うに足る形状を有している。その大きさは、少なくとも人体が接触する可能性がある便座の表面を覆うに足るだけとするのが良く、具体的な形状としては、第1図に示すようなほぼ三ケ月形の相互に対称形の二枚のシートを一組としたものの他、図示されていないが、馬てい形のシートあるいは中央部がくり抜かれた円盤状のシート等がある。
第1図において、貼着部2は再剥離型粘着剤からなり、シート1はこれによって便座に固定される。シート1を便座に固定するための貼着剤としては、各種の接着剤や粘着剤、感圧性接着剤等が考えられるが、使用後のカバーの取り外しを容易なものとするために、本考案においては特に再剥離型粘着剤を使用する。
再剥離型粘着剤は、見出し、メモ用紙、価格ラベル等の被着体を基体に貼着した後、この被着体を基体から剥離するときに、基体上に残留することなく被着体と一体化したまま剥離できる粘着剤として良く知られ、また実用化されてもいる。本考案における貼着部2は、すでに実用に供されている再剥離型粘着剤を利用して形成させることができる。たとえば、エマルジョン型または溶液型の再剥離型粘着剤を、シート1の所定の部分に塗布し乾燥すれば良い。
貼着部2の数と大きさは任意であり、要はシート1が使用時に便座から外れたりずれたりしないように適宜決められる。・・・・・
シート1の素材としては紙,布,合成樹脂等のいずれも使用することができる。
本考案による便座カバーは、簡単かつ安価に製造することができ、しかも便座への装着、確実な固定および取り外しが、いずれも極めて容易であり、貼着部を再剥離型粘着剤によって構成させたことによって、使用時にずれることがなく、一方用済み後は貼着部が便座上に残留することなく、カバーを便座からきれいに取り外すことができ、家庭用としてのみならず、業務用、携帯用その他の多くの分野における使い捨て型の便座カバーとして有用である。」(2頁1行〜4頁3行)、と記載されている。

これらの記載及び図面によれば、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認める。丸かっこ内は対応する刊行物1における構成・用語である。
「便座の上面形状に応じた形状をなすシートの一面(片面)に、装着層(再剥離型粘着剤からなる貼着部)を形成してあり、該装着層(再剥離型粘着剤からなる貼着部)を便座上面に装着(貼着)させるべくなしてある便座カバー(簡易便座カバー)。」

刊行物2には、「圧着再剥離性接着シート」に関して、
(3)「この発明の要旨は、平滑な表面である被接着材に加圧することにより接着しかつ前記加圧と逆方向に引張ることにより剥離する再剥離面を有する圧着再剥離性材において、前記圧着再剥離性材が気泡性合成樹脂とからなりかつ前記再剥離面と内部に独立または連続した無数の気泡からなる気泡空間部を有することを特徴とする圧着剥離性接着シートである。
この発明の他の要旨は、前記再剥離面に近い部分に連続した気泡が数多く配置され、内部に独立した気泡を数多く配置されたことを特徴とする圧着剥離性接着シートである。
圧着再剥離性材と接着剤との間には、圧着再剥離剤と接着剤との両剤に接着性を有するシート状の基材を介在させると使用上便利である。
圧着再剥離性剤は、表面に近い部分は気泡が比較的連続している、内部は独立した無数の単独気泡で形成されている。この気泡空間部は、気泡性合成樹脂から作られている。
この連続または独立した気泡空間部は、物品表面に吸着するとき吸盤の原理で吸着する。したがって、圧着再剥離性材の表面は、全面的に無数の吸盤が形成されている。吸着効果を向上させるには、気泡空間部の容積を大きくしたほうが良い。ただし、圧着再剥離性材は、樹脂/空気の比率を小さくすると、すなわち発砲倍率を大きくすると吸着効果は増大するが、引張強度などの物理的性質は低下する。」(2頁右下欄5行〜3頁左上欄12行)、
(4)「圧着再剥離性材の表面には、一部切断された気泡空間部が無数に露出していて、吸盤を構成している。吸着の原理は、次のように考えられる。まず、圧着再剥離性剤の表面部分の気泡空間部が押圧されて変形して物品に吸着する。この吸着時に、表面部分以外の連続した他の気泡空間部も変形し、その内部の空気を減じる。したがって、圧着再剥離性材の内部の気泡空間部は、表面部分の気泡空間部の空気を圧着した後も吸収し続け、吸着をより強固にする。」(3頁右上欄4〜13行)、
(5)「以下、この発明の実施例を図面にしたがって説明する。第1図は、圧着再剥離性両面接着シート1(以下、接着シートという。)の一部を示す図である。この圧着再剥離性両面接着シート1は、平面状のシートにした例である。吸着材2は、ウレタン系樹脂を発泡させて多数の気孔を内部に形成したものである。本実施例の吸着材2は、大日本インキ化学工業株式会社製のMF-52(商品名)を用いた。配合成分、発泡条件などは、次のようなものである。
a)ウレタン系エマルジョン、DICFOAM.Exp.MF-52(同上社製) 100
b)脂肪酸塩系活性剤 F-1(同上) 10
c)アクリル系23%エマルジョン VONCOAT(同上) 1
d)エポキシ100% CR-51(同上) 2
e)シリコーン VONDIC NBA-1(同上) 0.5
f)CMC セロゲンWSC(同上) 3
g)ポリアミン CATALYST PA-20(同上) 0.5
発泡条件;連結機械発泡機(スガ機械製 、SUGA 4M2)、樹脂/空気=1/2.5,発泡倍率3.5倍
塗布;ナイフコート 1.5mm
熱処理;120℃×4分→140℃ ×2分
基板3は、吸着材2を塗布するためのベースであり、各種耐熱紙、各種クロスを使う。基板3の裏面には、接着剤4が塗布してある。」(3頁左下欄11行〜右下欄20行)、
(6)「以上、詳述したように、この発明の接着シートは、独立した気泡を均一に無数に形成し、かつ独立した気泡間に通気性を有したので、強力な吸着が可能になった。また、被吸着物の表面を傷付けることなく吸着できる。取り外しは、引っ張るだけで簡単に外すことができる。」(5頁左上欄14〜19行)、と記載されている。

なお、上記記載(5)でいう「b)脂肪酸塩系活性剤F-1(大日本インキ化学工業株式会社製)」は発泡剤である(本件特許明細書の段落【0012】を参照)。

これらの記載及び図面によれば、刊行物2には、次の技術事項が記載されているものと認める。丸かっこ内は対応する刊行物2における構成・用語である。
「シリコーン系物質(シリコーン)及び発泡剤(脂肪酸塩系活性剤F-1)を含む合成樹脂からなり、表面(再剥離面・吸着面5)に開口する気泡を有する装着層(圧着再剥離性材・吸着材2)を形成してあり、該装着層(圧着再剥離性材・吸着材2)を被着面に吸着(吸盤の原理で吸着)させること」

刊行物3には、「発泡性オルガノシロキサン組成物」に関して、
(7)「なお、このオルガノシロキサン組成物における第5成分としての弾性回復剤はこの組成物から得られた発泡体の圧縮後の原形への回復速度を調整するために添加されるものであり、これには融点が150℃以下のシリコーンレジン、・・・などが例示されるが、このものの配合量は第1成分としてのビニル基含有ジメチルシロキサン100重量部に対して0.1重量部以下では得られる発泡体の弾性回復性が早すぎるようになり、10重量部以上とするとその弾性回復性が遅くなりすぎるようになるので0.1〜10重量部の範囲とする必要がある。」(3頁左上欄19行〜右上欄14行)、と記載されている。

この記載及び図面によれば、刊行物3には、
「シリコーン系物質は発泡体の圧縮後の原形への回復速度を調整する弾性回復剤として添加されるものである」という技術事項が記載されているものと認める。

3.対比・判断
3-1 本件発明1について
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、
「便座の上面形状に応じた形状をなすシートの一面に、装着層を形成してあり、該装着層を便座上面に装着させるべくなしてある便座カバー。」
である点において一致し、以下の点で相違している。
(1)本件発明1は、シリコーン系物質を含む合成樹脂からなり、表面に開口する気泡を有する装着層を形成してあり、前記シリコーン系物質はその存在により前記気泡のつぶれを防止するものであり、前記装着層を便座上面に吸着させるべくなしてあるのに対して、刊行物1記載の発明は、再剥離型粘着剤からなる貼着部を形成してあり、該再剥離型粘着剤からなる貼着部を便座上面に貼着させるべくなしてある点、

そこで、上記相違点(1)について検討する。
前記のとおり、刊行物2には、シリコーン系物質を含む合成樹脂からなり、表面に開口する気泡を有する装着層を形成してあり、該装着層を被着面に吸着させることが記載されており、また、刊行物3には、シリコーン系物質は発泡体の圧縮後の原形への回復速度を調整する弾性回復剤として添加されるものであることが記載されていることから、刊行物2記載の発明においてもシリコーン系物質の存在により気泡のつぶれが防止されることは、当然予想できるものである。
よって、相違点(1)において、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の手段を採用することにより、相違点(1)における本件発明1のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

したがって、本件発明1は、刊行物1〜3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の「シリコーン系物質を含む合成樹脂」に、「及び発泡剤を含む」という事項を加えたものである。
そこで、本件発明2と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、上記「本件発明1について」で述べた一致点で一致し、相違点(1)で相違するほかに、次の点で相違するといえる。
(2)本件発明2は、更に発泡剤を含む合成樹脂とするのに対して、刊行物1記載の発明は、そのような事項を有していない点。

相違点(1)についての判断は、既述のとおりであるので、相違点(2)について検討する。
前記のとおり、刊行物2には、シリコーン系物質及び発泡剤を含む合成樹脂からなることが記載されており、相違点(2)において、刊行物1記載の発明に刊行物2記載の手段を採用することにより、相違点(2)における本件発明2のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

したがって、本件発明2も、刊行物1〜3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
本件発明1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。


第五 特許権者の主張について
特許権者は、概略、
「5.原々出願から原出願の分割について
(1)……(2)……(3)しかし、装着層に表面に開口する気泡が形成されている場合、該装着層が真空吸着により便座に吸着することは、原々出願の願書に最初に添付した明細書または図面の記載及び出願当時の技術水準を参酌すれば、当業者にとって自明の事項であるといえる。以下にその理由について説明する。(4)技術水準の説明 1 乙第1号証(実願昭53-149001号(実開昭55-67150号)のマイクロフィルム、異議申立人中野克俊の甲第2号証と同じ)には、……と記載されている。2 また、乙第2号証(特開平3-7778号公報、前記刊行物2と同じ、異議申立人岩谷圭介の甲第2号証と同じ)にも、……と記載されている。…つまり、これらの公知文献から、表面に開□を有する気泡によれば、被接着物に物理的な性質である吸盤作用により吸着することは当業者にとって自明のことであると理解できる。(5)……(6)さらに、……すなわち、分割出願は明細書または図面に記載された事項の範囲内のものであることが必要であるところ、記載した事項の範囲内とは、直接記載された事項に加えて、出願時における技術水準に属し当業者にとって自明の事項をも含むのである。(7)……」(意見書1頁下から8行〜3頁18行)、と主張している。

しかし、平成5年法改正前の特許法41条にいう明細書の要旨の変更とみなされるか否かは専ら当該『願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項』を基準にしてその記載事項上自明かどうかが判断されるものであって,公知の先行技術や当時の技術水準が直接の判断基準となるものではない。(特許法概説第11版、吉藤幸朔著、熊谷健一補訂、有斐閣、238頁「6)記載した事項と自明の事項」の欄参照)
たとえ、乙第1号証に、接着層4の表面が吸盤作用を有する凹面3からなる為に被着面に密着することが示されており、また、乙第2号証に、圧着再剥離性材の表面に一部切断された気泡空間部が無数に露出した吸盤を構成し、物品に吸着することが示されているとしても、いずれも、装着層に吸盤作用を有する空間が形成されていて、被着物に吸着するものであり、表面に開口する気泡が形成されていれば必ず、装着層が真空吸着により被着物に吸着することを示しているものではない。

また、特許権者は、概略、
「6.特許法第17条の2第3項違反について
(1)……(2)しかし、上述したように、本願(特願平7-336826号)の出願日は、分割出願の遡及効により平成3年7月19日となり、平成6年改正法以前の法律が適用される(特許法附則第2条)。従って、補正の適否を判断するにあたっては、平成6年改正法以前の特許法第17条第2項が適用され、「明細書または図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書または図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」(3)……(4)……(5)以上のとおりであるから、本補正は平成6年改正前の特許法第17条第2項の規定に反するものではない。」(意見書3頁19行〜5頁5行)、と主張している。

しかし、本願は、その出願日に平成3年7月19日までの遡及効はないものとして、平成6年改正特許法第17条の2第3項違反について検討したものである。

さらに、特許権者は、概略、
「7.特許法第29条第2項違反について
(1)……(2)……(3)……(4)……(5)刊行物2には、合成樹脂及び発泡剤を含むウレタン系樹脂を用いた接着シートは開示されているが、耐洗濯性を向上させる点については何ら示唆されていない。すなわち、多数存在する接着剤の中から、何ら耐洗濯性を示唆していない刊行物2の吸着剤を、刊行物1に記載の便座シートに適用するということは、当業者にとって容易に相当し得るものではない。(6)接着剤の一種である刊行物2及び3中に、耐洗濯性を高める機能を有する点が示唆されているのであれば、刊行物2に記載の接着剤を当業者が選択することも考えられる。しかし、配合化合物の組み合わせ等を考慮すると無数に存在する接着剤の中から、耐洗濯性を高めるために「気泡のつぶれを防止するシリコーン系物質を含む合成樹脂からなり、表面に開口する気泡を有する装着層」を適用して請求項1及び2に係る発明を構成することは当業者にとって容易に相当し得るものではない。(7)……(8)……」(意見書5頁6行〜6頁下から6行)、と主張している。

確かに、刊行物2には、耐洗濯性を高める機能を有する点については示唆されていない。しかし、前記刊行物2の記載(5)における吸着材の配合成分と、本件特許明細書の段落【0012】における装着層の配合成分を比較すると、両者は同一である。してみると、刊行物2における吸着材が、耐洗濯性を高める機能を有していることを特許権者自ら証明するものであるといえる。

第六 むすび
以上、本件発明1及び2に係る特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-01-28 
出願番号 特願平7-336826
審決分類 P 1 651・ 561- Z (A47K)
P 1 651・ 121- Z (A47K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 三輪 学石井 あき子鈴木 憲子  
特許庁審判長 安藤 勝治
特許庁審判官 長島 和子
藤原 伸二
登録日 2001-03-16 
登録番号 特許第3168397号(P3168397)
権利者 エムエイシイサンコー株式会社
発明の名称 便座カバー  
代理人 谷 良隆  
代理人 河野 英仁  
代理人 河野 登夫  
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