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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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無効200580281 | 審決 | 特許 |
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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61F |
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管理番号 | 1110379 |
審判番号 | 無効2002-35076 |
総通号数 | 63 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1991-01-08 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2002-03-04 |
確定日 | 2004-11-22 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2125494号発明「使い捨てカイロ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2125494号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 (1)本件特許第2125494号の請求項1に係る発明についての出願は、平成1年5月30日に出願され、平成5年8月20日に出願公告(特公平5-56912号)され、平成9年1月13日にその発明について特許権の設定登録がされたものである。 (2)これに対し、請求人は、平成14年3月4日に本件の請求項1に係る発明の特許について無効審判を請求した。 (3)被請求人は、平成14年5月27日に訂正請求書(後日取下)を提出して訂正を求めた。 (4)平成14年10月11日に口頭審理が実施され、その後、平成14年10月23日付けで無効理由通知がなされた。 (5)被請求人は、平成14年12月27日に再度の訂正請求書を提出して訂正を求めた。 (6)その後、訂正拒絶理由が通知され、被請求人は、訂正拒絶理由通知に対して手続補正書を提出した。 2.訂正の適否についての判断 ア.訂正請求に対する補正の適否について 被請求人は、訂正請求書第2頁第22〜23行に記載の訂正事項〔3〕(丸数字とすべきところ、便宜上〔〕で括った数字を用いて表記する。以下同様。)を削除し、かつ、同書第3頁第9行及び第13行に記載の「および〔3〕」をそれぞれ削除する補正をするものであるが、当該訂正請求に対する補正は、訂正請求書の要旨を変更するものでなく、特許法第131条第2項の規定に適合するといえる。 イ.訂正の内容 特許権者が求めている訂正の内容は、以下の〔1〕及び〔2〕のとおりである。 〔1〕特許請求の範囲の請求項1において、 「熱可塑性合成繊維からなる不織布に熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートした通気性を有する複層構造物に、空気の存在下で発熱する発熱組成物を収容してなる使い捨てカイロにおいて、4g/2cm2の荷重をかけたときの前記不織布の厚さが0.15mm〜1.5mmで、繊維体積分率が5〜25%であることを特徴とする使い捨てカイロ。」を、 「熱可塑性合成繊維からなる不織布に熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートした通気性を有する複層構造物に、空気の存在下で発熱する発熱組成物を収容してなる使い捨てカイロにおいて、4g/2cm2の荷重をかけたときの前記不織布の厚さが0.15〜1.5mmで、繊維体積分率が5〜16.3%であることを特徴とする使い捨てカイロ。」 と訂正する(以下、「訂正事項a」という。)。 〔2〕明細書第4頁第2行目及び第6〜7行目(公告公報第2頁第3欄第9行目及び第13〜14行目)に記載した「5〜25%」を、それぞれ「5〜16.3%」に訂正する(以下、「訂正事項b」という。)。 ウ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 これらの訂正事項について検討すると、上記訂正事項aのうち、繊維体積分率について「5〜25%」を「5〜16.3%」とする訂正は、その数値範囲をさらに限定するものであり、特許明細書の「実施例3」の項における「厚さが0.26mm、繊維体積分率が16.3%である通常のスパンボンド法で得られたナイロンフィラメント(丸断面)からなる不織布」なる記載に基づくものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、新規事項の追加に該当しない。また、不織布の厚さについて「0.15mm〜1.5mm」を「0.15〜1.5mm」とする訂正は、単なる誤記の訂正を目的としたものであり、新規事項の追加に該当しない(なお、「0.15mm〜1.5mm」を「0.15〜1.5mm」とする訂正については、訂正請求書の「請求の原因」の項に説明がなされていないが、当審で上記のように判断した。)。 さらに、上記訂正事項bは、上記訂正事項aとの整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としており、新規事項の追加に該当しない。 そして、上記いずれの訂正事項も、「外気温度変化に対する人体の感知温度変化の小さい使い捨てカイロを提供する」という課題に変更を及ぼすものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 エ.まとめ したがって、平成14年12月27日付けの訂正は、平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合し、かつ、同条第5項の規定によって準用する同法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.請求人の主張 これに対して、請求人は、甲第1〜5号証を提出すると共に、本件の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に、公然と実施された発明であるか、又は公然知られた発明であり、特許法第29条第1項第1号又は第2号の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とされるべきである旨主張している。 また、請求人は、平成14年8月2日付けの審判事件弁駁書(2)において甲第6〜15号証を提出すると共に、本件の請求項1に係る発明の新規性・進歩性欠如を主張している。 さらに、請求人は、平成14年8月2日付けの審判事件弁駁書(1)において甲第16〜19号証を、上記口頭審理において甲第20及び21号証(平成14年10月11日付けの口頭審理陳述要領書参照)を、それぞれ提出すると共に、本件特許に対する利害関係のあることを主張している。 4.被請求人の主張 一方、被請求人は、平成14年5月24日付けの審判事件答弁書(1)において乙第1〜6号証を、平成14年10月4日付けの審判事件答弁書(3)において乙第9及び10号証を、それぞれ提出し、請求人には利害関係がないため、本件無効審判請求は不適切なものであり、直ちに却下されるべきである旨の主張をすると共に、請求人代表取締役・松本武俊を証人とする証人尋問を申請している。 また、被請求人は、平成14年5月27日付けの審判事件答弁書(2)において乙第7及び8号証を、平成14年10月4日付けの審判事件答弁書(4)において乙第11〜14号証を、平成14年12月27日付けの意見書において乙第15〜17号証を、平成15年1月22日付けの上申書において乙第18号証を、平成15年5月30日付けの上申書において乙第19〜24号証を、それぞれ提出すると共に、請求人による本件の請求項1に係る発明の新規性・進歩性欠如の主張、及び、上記無効理由通知における無効理由には、それぞれ理由がなく、本件の請求項1に係る発明は新規性・進歩性を有するものであるから、本件無効審判請求は成り立たない旨主張している。 5.無効理由通知の概要 上記無効理由通知の概要は、以下のとおりである。 (1)無効理由1 資料1 財団法人 日本化学繊維検査協会 東京分析センターによる 実験報告書(報告書No.TB-050214) (請求人の提出した甲第1号証参照) 資料2 財団法人 日本化学繊維検査協会 東京分析センターによる 補足説明書(報告書No.TB-050214) (同甲第1号証の1参照) 資料3 宮下永二による宣誓供述書 (同甲第2号証参照) 資料4 宮下永二による陳述書 (同甲第2号証の1参照) 資料5 マイコール株式会社・製造部長・神山治による回答書 (同甲第3号証参照) 資料6 公証人・水上寛治が作成の事実実験公正証書 (同甲第4号証参照) 資料7 出光興産株式会社・知的財産センター・相浦秀樹による陳述書 (同甲第5号証参照) 資料8 出光ユニテック株式会社・営業部営業三課・中上博行が作成の 実験報告書(2) (同甲第9号証参照) 資料9 出光興産株式会社・知的財産センター・加藤義博による陳述書 (同甲第10号証参照) 資料10 財団法人 日本化学繊維検査協会 東京分析センターによる 試験証明書(書類No.112-11722-2) (同甲第11号証の1参照) 資料11 財団法人 日本化学繊維検査協会 東京分析センターによる 補足説明書(書類No.112-11722-2) (同甲第11号証の2参照) 本件の請求項1に係る発明は、上記資料1乃至11から認定される公然知られた又は公然実施をされた発明であると認められ、特許法第29条第1項第1号又は第2号に該当し、特許を受けることができないものである。 (2)無効理由2 本件の請求項1に係る発明は、上記公然知られた又は公然実施をされた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 (3)無効理由3 上記公然知られた又は公然実施をされた発明において、仮に、その不織布の数値に関し、若干の誤差が含まれるとしても、本件の請求項1に係る発明は、上記公然知られた又は公然実施をされた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 6.当審の判断 (1)請求人適格について 請求人から提出された甲第17号証(特願2000-401875号に係る出願書類)、甲第18号証(特願2001-9355号に係る出願書類)、甲第19号証(特開平11-56894号公報)、甲第20号証(出光ユニテック株式会社取締営業部長・板谷雅弘が締結した平成13年4月24日付けの秘密保持契約書)によれば、平成11〜13年頃に、請求人が使い捨てカイロ用袋の研究開発を行っていたこと、あるいは、少なくともその研究開発を行う準備をしていたこと、が認められ、また、上記口頭審理における陳述内容から、請求人が、最終的にカイロに用いられる不織布単体を製造販売していたこと、請求人においては、カイロ用不織布の共同開発を行っており、その不織布を製造する計画のあること、が認められる。なお、被請求人から提出された乙第1〜6、9及び10号証は、かかる認定を覆すに足りるものではない。 また、利害関係の審理について、「利害関係は疎明すればよく、証明することを要しないものと考えられる。」(審判便覧31-03参照)及び「その審理にあたっては、いたずらに利害関係の有無のために多くの時間と労力を費し、そのために本案の審理が著しく遅くなるというような弊害をなくすという立法当初の目的が達せられるようにする。」(審判便覧31-01参照)との指針に基づけば、上記認定のとおり、請求人の本件特許に対する利害関係が存することは疎明されているものと認められるから、あえて請求人代表取締役を証人とする証人尋問申請を採用するまでもなく、請求人は本件に関し請求人適格を有するというべきである。 (2)無効理由2について つぎに、上記無効理由通知における無効理由1乃至3のうち、まず無効理由2について検討する。 a)本件発明 上記「2.」で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである(上記「2.イ.〔1〕」参照。訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を、以下、「本件発明」という。)。 b)公然知られた又は公然実施をされた発明 上記資料1乃至11によれば、「両面がナイロン-6からなる不織布にポリエチレンフィルム又はポリエチレン-エチレン酢酸ビニル共重合体積層フィルムをラミネートし、片面のみピンで開口された跡がみられる積層体の袋に、発熱組成物を収容した使い捨てカイロ」に係る商品は、本件特許出願前に市販されていたものであることが認められ、被請求人もかかる使い捨てカイロが公知公用のものであったことに関しては争っていない(口頭審理調書参照)。 さらに、上記資料1及び10には、上記市販されていた使い捨てカイロの6つのサンプルにつき、キシレン溶媒を用いたソックスレイ抽出法による、4g/2cm2の荷重をかけたときの不織布の厚さ(mm)と繊維体積分率(%)の測定結果として、(0.25mm、17.1%)、(0.22mm、16.5%)、(0.25mm、18.5%)、(0.26mm、18.5%)、(0.22mm、16.7%)、(0.24mm、16.0%)の各数値が示されている。 ところで、上記積層体から求める不織布の厚さ及び繊維体積分率に関しては、乙第8、12及び15号証をも考慮すれば、上記資料1及び10におけるキシレン溶媒を用いたソックスレイ抽出法の場合に、使用された溶媒の影響を受けるため、必ずしも、実際の値を誤差なく導き出すことができるとまではいえず、厚さについては、該抽出法に基づく測定値は平均で9.15%程度増加するとされていることから、該測定値を(1+0.0915)=1.0915で除した値を、また、繊維体積分率については、該抽出法に基づく測定値は平均で10.7%程度減少するとされていることから、該測定値を(1-0.107)=0.893で除した値を、それぞれ実際の値として算定するのが妥当であると考えられる。 そうすると、上記資料1及び10に示された不織布の厚さ及び繊維体積分率の値は、上記抽出法に基づく誤差を考慮した場合に、不織布の厚さが(0.22〜0.26mm)÷1.0915により約0.20〜0.24mmとなり、その繊維体積分率が(16.0〜18.5%)÷0.893により約17.9〜20.7%となる。 したがって、上記各資料に示された不織布の数値自体には上記抽出法に基づく若干の誤差が含まれるとしても、「両面がナイロン-6からなる不織布にポリエチレンフィルム又はポリエチレン-エチレン酢酸ビニル共重合体積層フィルムをラミネートし、片面のみピンで開口された跡がみられる積層体の袋に、発熱組成物を収容した使い捨てカイロにおいて、4g/2cm2の荷重をかけたときの前記不織布の厚さが約0.20〜0.24mm、繊維体積分率が約17.9〜20.7%である使い捨てカイロ」に係る発明が、本件出願前に日本国内において公然知られた又は公然実施をされた発明として認定し得るものといえる。 c)対比 本件発明と上記公然知られた又は公然実施をされた発明とを比較すると、後者における「ナイロン-6」がその作用・機能からみて前者における「熱可塑性合成繊維」に相当し、以下同様に、「ポリエチレンフィルム又はポリエチレン-エチレン酢酸ビニル共重合体積層フィルム」が「熱可塑性合成樹脂フィルム」に、「片面のみピンで開口された跡がみられる積層体の袋」が「通気性を有する複層構造物」に、それぞれ相当する。 そして、不織布の厚さに関し、後者の「約0.20〜0.24mm」が、前者の「0.15〜1.5mm」の範囲に包含されていることは明らかである。 さらに、使い捨てカイロにおける発熱組成物が空気の存在下で発熱することは技術常識であるといえる。 したがって、両者は、 「熱可塑性合成繊維からなる不織布に熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートした通気性を有する複層構造物に、空気の存在下で発熱する発熱組成物を収容してなる使い捨てカイロにおいて、4g/2cm2の荷重をかけたときの前記不織布の厚さが0.15〜1.5mmである使い捨てカイロ」、 である点で一致し、 4g/2cm2の荷重をかけたときの不織布に関し、本件発明が、「繊維体積分率が5〜16.3%」としたものであるのに対し、上記公然知られた又は公然実施をされた発明は、繊維体積分率が約17.9〜20.7%である点で相違する。 d)判断 以下、上記の相違点について検討する。 ・数値範囲の技術的な意義について 本件特許の設定登録時の明細書(特公平5-56912号公報参照)には、「4g/2cm2の荷重をかけたときの前記不織布の厚さが0.15mm〜1.5mmで、繊維体積分率が5〜25%」(特許請求の範囲参照)であるものが「袋体内の発熱組成物の欲熱効果を向上させることができるため、外気温度変化に対する人体に感ずる感知温度変化を少なくすることができる」(〔発明の効果〕の項参照)という効果を有することが記載され、また、不織布に関する数値限定の根拠として「この厚さが0.15mm未満では熱伝導性が早く、外気温度の変化に伴って感知温度変化も急速に変化する。また1.5mmを超えると外気温度の変化を受けにくいため感知温度変化が遅く、例えば急に寒冷な屋外に出てもカイロの暖かさが維持されるが、不織布として目付けが高く高価なものとなる。不織布の繊維体積分率が5%未満では構成繊維層が粗となりすぎ、内容物が見えたり、繊維空度が小さくなりすぎ、接着点が弱くなる。また25%を超えると断熱層(「断面層」は誤記)としての空気層が有効に活かされず、また不織布が硬く感触性が悪くなる。」(〔課題を解決するための手段〕の項参照)ことが記載されていた。これらの記載によれば、「4g/2cm2の荷重をかけたときの不織布の厚さが0.15〜1.5mmで、繊維体積分率が16.3%を超え25%まで」のものであっても上記効果を有するものと捉えることができる。 訂正により、本件発明は、「繊維体積分率が5〜16.3%」の範囲となり、「繊維体積分率が16.3%を超え25%まで」の範囲は、本件発明の技術的範囲に含まれないことにはなったものの、それにより、「繊維体積分率が16.3%を超え25%まで」のものによる上記効果が直ちに否定されるものでないことは、訂正明細書中の上記発明の効果及び数値限定の根拠に係る記載に変更がないことからも明らかである。 さらに、訂正明細書には、訂正後の「繊維体積分率が5〜16.3%」の数値範囲が、訂正前の「繊維体積分率が5〜25%」の数値範囲に比して臨界的な意義を有しているとする根拠は記載されておらず、該臨界的な意義の存在を肯定するに足る合理的な証拠も何等示されてはいない。 そうすると、上記公然知られた又は公然実施をされた発明において、「繊維体積分率が約17.9〜20.7%」は、「繊維体積分率が16.3%を超え25%まで」の範囲に包含されるものであるから、上記効果は、上記公然知られた又は公然実施をされた発明においても、必然的に付随している効果といえるものであり、また、本件発明において、繊維体積分率の上限を16.3%とした点に格別の技術的な意義を認めることもできない。 ・数値範囲の設定の変更について 使い捨てカイロにおける不織布の繊維体積分率の設定に関しては、上記と同様の効果が得られる範囲内で、あるいは、人体に快適な感触性を与えるという使用目的の範囲内で、当業者が実験的に最適な結果が得られるものとして適宜選定し得る事項であり、その数値範囲を種々に変更して試行することは通常の創作活動の一環として当然に想定される行為でもあるから、上記公然知られた又は公然実施をされた発明において、繊維体積分率が約17.9〜20.7%であったものを、それより若干小さな16.3%を超えない範囲のもの、即ち、5〜16.3%の範囲に含まれる値のものに改変する程度のことは、当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎないものというべきである。 そして、本件発明により奏される効果も、上記公然知られた又は公然実施をされた発明の奏する効果に比べ格別のものとはいえない。 したがって、本件発明は、公然知られた又は公然実施をされた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 なお、被請求人は、平成14年5月27日付けの審判事件答弁書(2)において、『請求人カイロのように長期間保存されていた使い捨てカイロ・・・においては、不織布・フィルム積層体に生じた「うねり」が長期間固定されていることから、キシレン溶媒によるソックスレイ抽出を行った後も、不織布に「うねり」が残存している。かかる「うねり」を考慮していないことからも、請求人がソックスレイ抽出を行って測定した数値は、請求人カイロにおける不織布の実際の厚さよりも大きな数値になっているのである。』(第14頁参照)と主張している。 しかしながら、 i)不織布・フィルム積層体に「うねり」が生じるとすれば、積層体を構成する不織布とフィルムの各材質間の熱収縮係数の差異、及び、溶着温度・溶着時間・加圧力等の各種溶着条件等に起因するものと認められるところ、該「うねり」の発生自体、及び、「うねり」が発生した場合の「うねり」の振幅・ピッチ・分布状態等は、あらゆる不織布・フィルム積層体において一律には定まらないと考えられること、 ii)上記資料1及び10における測定に使用されたサンプル自体に、不織布とフィルムとを積層する際のエンボス加工による規則的な凹凸の有ることは認められる(甲第7号証の「出光ユニテック株式会社・千葉工場製造二課・倉橋明彦が作成した実験報告書(1)」参照)ものの、明確な「うねり」と捉え得るものが残存していたという事実は確認できず、また、「うねり」の振幅、ピッチ、分布状態等が特定されているわけでもないこと、 iii)仮に、上記資料1及び10における測定に使用されたサンプル自体に、製造時に何らかの「うねり」があり、該サンプルが長期間保存されていたとしても、キシレン溶媒によるソックスレイ抽出を行い、かつ、4g/2cm2の荷重をかけた状態の下で、当該「うねり」がそのままの大きさで残存し続けるとは考えられず、ましてや、上記不織布の厚みの測定に影響を与えるに充分な「うねり」が発生していたとは断定できず、「うねり」が上記不織布の厚みの値を有意的に変えることになるとまではいえないこと、 等の点を総合的に勘案すれば、上記被請求人の主張を採用することはできない。 7.むすび 以上のとおり、上記無効理由通知における他の無効理由、及び、請求人の主張する無効理由について判断するまでもなく、本件発明は、上記公然知られた又は公然実施をされた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 使い捨てカイロ (57)【特許請求の範囲】 1.熱可塑性合成繊維からなる不織布に熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートした通気性を有する複層構造物に、空気の存在下で発熱する発熱組成物を収容してなる使い捨てカイロにおいて、4g/2cm2の荷重をかけたときの前記不織布の厚さが0.15〜1.5mmで、繊維体積分率が5〜16.3%であることを特徴とする使い捨てカイロ。 【発明の詳細な説明】 【産業上の利用分野】 本発明は使い捨てカイロに関し、さらに詳しくは外気温度変化の影響が少ない使い捨てカイロに関する。 【従来の技術】 使い捨てカイロは、空気の存在下で発熱する組成物、例えば鉄粉、無機塩、活性炭、水などからなる発熱組成物を、例えば不織布と通気孔を有する非通気性樹脂フィルムをラミネートした上被層と、無孔の非通気性樹脂フィルムと不織布をラミネートした下被層とからなる袋体内に収容したものであり、通常は前記下被層と上被層を重ね合わせ、その間に発熱組成物を置き、さらにその外周を熱融着することにより製造される(特公昭57-14814号公報)。このカイロは、空気との接触を避けるため、さらに非通気性樹脂フィルムで作られる袋等に密封保存され、使用時にこれから取出して空気と接触させることにより、発熱組成物を空気と反応せしめ、発熱させる。該カイロは、上記保温用気密袋または容器から取出せば直ちに発熱を開始するため、携帯用カイロその他、発熱材としてきわめて多方面の用途を有する。 しかしながら、前記従来の使い捨てカイロは、人体の感知温度が外気温度変化によって大きく影響され、例えば外気温度が低下した場合には、人体に感ずる感知温度も同時に低くなるという欠点があった。 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、前記従来技術の欠点をなくし、外気温度変化に対する人体の感知温度変化の小さい使い捨てカイロを提供することにある。 【課題を解決するための手段】 本発明者らは、前記課題に鑑み、発熱組成物を収容する包材について種々研究したところ、通常、鉄粉の酸化反応熱を利用する使い捨てカイロの発熱反応は、当然外気雰囲気温度によって変化するが、この外気温度の影響を少なくするために包材の空気層を生かすことによって、すなわち不織布として、使用に際しての強度を持つ特定の厚さおよび特定の体積分率を有するものを用いることによって、カイロの断熱性および伝熱性、さらには感触性(ソフト性)が改善されることを見出し、本発明に到達したものである。 すなわち、本発明は、熱可塑性合成繊維からなる不織布に熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートした通気性を有する複層構造物に、空気の存在下で発熱する発熱組成物を収容してなる使い捨てカイロにおいて、4g/2cm2の荷重をかけたときの前記不織布の厚さが0.15〜1.5mmで、繊維体積分率が5〜16.3%であることを特徴とする使い捨てカイロに関する。 本発明に用いられる熱可塑性合成繊維からなる不織布は、4g/2cm2の荷重で測定したときの厚さが0.15〜1.5mmで、かつ繊維体積分率が5〜16.3%である。この厚さが0.15mm未満では熱伝導性が速く、外気温度の変化に伴って感知温度変化も急速に変化する。また、1.5mmを超えると外気温度の変化を受けにくいため感知温度変化が遅く、例えば急に寒冷な屋外に出てもカイロの温かさが維持されるが、不織布として目付けが高く高価なものとなる。不織布の繊維体積分率が5%未満では構成繊維層が粗となりすぎ、内容物が見えたり、繊維密度が小さくなりすぎ、接触点が弱くなる。また、25%を超えると断面層としての空気層が有効に生かされず、また不織布が硬く感触性が悪くなる。 上記不織布の材料としては、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系などの熱可塑性合成高分子物質の単体繊維および複合繊維、さらにこれらの複合繊維、さらにセルロース繊維パルプ等を混合したものが用いられる。該不織布は短繊維不織布でも連続フィラメント不織布でも使用が可能であるが、機械的性質の点から連続フィラメント不織布が好ましい。連続フィラメント不織布は、例えば前記熱可塑性合成樹脂を多数の紡糸ノズルから溶融紡糸することによって形成された多数の連続フィラメントを、エアジェット等によって牽引作用を受けさせた後、移動する捕集装置上にウェブを形成することによって得られる。該連続フィラメントの単糸デニールは、得られる不織布の通気性および発熱組成物微粉末の漏れ防止の点から0.5〜10デニール(顕微鏡方式による値)の範囲が好ましい。また、不織布の通気性は300〜10cc/cm2・secの範囲(フラジール法通気性試験で測定した値)であることが好ましい。また前記不織布は、機械的性質、袋体の風合いおよび柔軟性を向上させるために部分的に熱圧着をしたものを用いることもできる。 本発明に用いられる熱可塑性合成樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン/酢酸ビニル、ポリエチレン/アクリル酸等共重合物等の高分子化合物の単一フィルムの他、これらの高分子化合物の2層以上の積層ラミネートフィルム、例えばポリエチレン/エチレン酢酸ビニル共重合物、ポリエチレン/エチレンアクリル酸塩共重合物等の積層フィルムなどが用いられる。これらのうち袋体外周の熱融着部の形成に際し、ヒートシールによって強固に融着するものが好ましい。 本発明における複層構造物は、前記不織布と熱可塑性合成樹脂フィルムをラミネートして得られるが、該複層構造物を使い捨てカイロとして使用する際には、袋体の少なくとも一面が通気性複層構造物とされる。該通気性複層構造物は、例えば前記不織布と前記フィルムとをラミネートした後、該フィルムもしくはラミネートされたシートに通気孔を穿つことによって、またはあらかじめ通気孔が穿たれたフィルムを不織布にラミネートすることによって得られる。前記フィルムに設けられる通気孔の形状、大きさ、孔数等は発熱組成物の種類、不織布の通気量、所望発熱温度、所望発熱時間、保温袋のサイズ等によって適宜決められる。この通気孔からの空気通過量は、通常、発熱効果の点から、その袋体の片面積を93.5cm2とした場合、この全面積に対してフラジール法の通気性試験で測定したとき、用途によって異なるが、0.5〜40cc/cm2・secの範囲が好ましく、0.5〜15cc/cm2・secの範囲がより好ましい。ラミネートされたシートに通気孔を設ける場合には発熱組成物が漏れるのを防止できる程度の細孔とされる 不織布とフィルムのラミネートは、通常の方法、例えば樹脂フィルムの一層または多層の押出ラミネート方法、接着性強化のために表面処理を施したフィルムに接着剤を塗布し、予備乾燥後、不織布と重ね合わせ、必要に応じて加熱および/または加圧下に接着させる方法、熱圧着等によって実施することができる。 本発明の使い捨てカイロは、例えば前記した通気性複層構造物を少なくとも一面に有する袋体に発熱組成物を収容し、その外周部を熱融着することによって得られる。熱融着は、例えば加熱ロール等の熱シーラ、インパルスシーラ、高周波シーラ、超音波シーラ等のヒートシールが通常使用される。 前記発熱組成物としては、空気の存在下で発熱するものであれば特に限定されず、例えば鉄粉などの金属粉に、NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2等金属塩化物、K2SO4、Na2SO4、MgSO4等の金属硫酸塩または他の反応助剤となり得る化合物、水および水をよく吸収する保湿材(例えば活性炭、シリカゲル、木粉、リンター等)ならびに必要に応じて添加剤などを混合した混合物が用いられる。 【実施例】 以下、本発明を実施例により詳しく説明する。 なお、例中の不織布の厚さおよび繊維体積分率は、4g/2cm2の荷重をかけたときの厚さおよびそのときにおける繊維の占める割合で示した。 また感知温度変化は、JIS測定器を用い、カイロと恒温槽(擬似人体)間にセットした温度センサによって20℃雰囲気から10℃雰囲気に変化した際の10分後の温度変化で示した。この変化の少ないものが外気温度変化の影響が少ないことになる。 実施例1 発熱組成物として、鉄粉(粒径:44μm)25g、NaCl 1.5g、活性炭(粒径:44μm)10gおよび水10gを用いた。上記組成のうちNaClは水に溶解して活性炭に吸収させて使用した。 不織布として厚さが0.46mm、繊維体積分率が9.2%である通常のスパンボンド法で得られたナイロンフィラメント(丸断面、単糸デニール2.0d/f)からなる不織布(目付け48g/m2、通気量206cc/cm2・sec)を使用した。また、熱可塑性合成樹脂フィルムとして、厚さ50μmの非通気性の軟質ポリエチレンフィルムにを用いた。 上被層には、前記フィルムに前記不織布をラミネートした後、熱ビン方式で全穿孔面積6%、深さ0.8mmで穿孔した150mm×100mmのサイズの通気性複層構造物を用いた。また下被層には、上被層と同じ材質の無孔複層構造物を用いた。 前記の上被層と下被層をフィルム面を内側にして重ね合わせ、その周囲3方を5mm幅にシールし、開口部より発熱組成物を詰めた後、該開口部をシールして連続的に使い捨てカイロを作製した。カイロのシールは、加熱ローラシーラ(シール部20M/S絹目)を用いて行った。 得られたカイロの外気温度変化に対する感知温度変化は5.6℃であった。 実施例2 実施例1において、不織布として厚さが0.83mm、繊維体積分率が7.1%である通常のスパンボンド法で得られたポリプロピレンフィラメント(Y型断面、捲縮タイプ)からなるフエブ(目付け53g/m2)を、ヨコ断線柄(タテ0.4mm、ヨコ2.6mm、圧着面積率11%、深さ0.6mm、ピッチ:タテ3.4mm、ヨコ2.7mm)を有するエンボスロールと、表面フラットの加熱ロールに通し、表面温度上下ロールとも205℃、20kg/cmの圧力で部分熱圧着した不織布(通気量175cc/cm2・sec)を用いた以外は実施例1と同様にしてカイロを作製した。得られたカイロの感知温度変化は3.2℃であった。 実施例3 実施例2において、不織布として、厚さが0.26mm、繊維体積分率が16.3%である通常のスパンボンド法で得られたナイロンフィラメント(丸断面)からなる不織布を、エンボスロールと全面に一辺0.5mm変形四辺形を組合わせた織目柄(圧着面積率23%、深さ0.35mm、ピッチ:タテ、ヨコ1mm)を有するエンボスロールを用いて部分熱圧着した不織布(目付け49g/m2、通気量102cc/cm2・sec)を用いた以外は実施例2と同様にしてカイロを作製し、その感知温度変化を調べた。該温度変化は7.5℃であった。 実施例4 実施例3において、不織布として厚さが0.26mm、繊維体積分率が14.5%である通常のスパンボンド法で得られたポリエステルフィラメント(丸断面)からなる不織布(目付け52g/m2、通気量114cc/cm2・sec)を使用した以外は実施例3と同様にしてカイロを作製した。得られたカイロの感知温度変化は7.2℃であった。 比較例1 実施例1において、不織布として厚さが0.145mm、繊維体積分率が24.8%である通常のスパンボンド法で得られたナイロンフィラメント(丸断面)からなる不織布(目付け49g/m2、通気量46cc/m2・sec)を使用した以外は実施例1と同様にしてカイロを作製した。得られたカイロの感知温度変化は9.4℃であり、ほぼ外気温度変化と同じであった。 【発明の効果】 本発明の使い捨てカイロによれば、袋体内の発熱組成物の発熱効果を向上させることができるため、外気温度変化に対する人体に感ずる感知温度変化を少なくすることができる。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2003-08-28 |
結審通知日 | 2003-09-02 |
審決日 | 2003-09-16 |
出願番号 | 特願平1-136639 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
ZA
(A61F)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 多喜 鉄雄、國島 明弘 |
特許庁審判長 |
田中 秀夫 |
特許庁審判官 |
千壽 哲郎 平上 悦司 |
登録日 | 1997-01-13 |
登録番号 | 特許第2125494号(P2125494) |
発明の名称 | 使い捨てカイロ |
代理人 | 中村 稔 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 服部 博信 |
代理人 | 加藤 義博 |
代理人 | 山本 隆司 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 足立 佳丈 |
代理人 | 富岡 英次 |
代理人 | 川北 武長 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 渡辺 光 |
代理人 | 足立 佳丈 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 西島 孝喜 |
代理人 | 川北 武長 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 山本 隆司 |