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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B60S
管理番号 1110757
審判番号 無効2000-35301  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1985-04-02 
種別 無効の審決 
審判請求日 2000-06-06 
確定日 2005-02-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第1743117号「洗車機」の特許無効審判事件についてされた平成13年11月26日付の審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成13年(行ケ)第588号、平成15年7月18日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第1743117号について、その特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
1.設定登録までの経緯と本件特許発明
本件特許第1743117号(以下、「本件特許」という)は、昭和58年9月9日出願の特願昭58-165131号に係り、出願公告(平成2年10月19日)後、特許異議の申し立てがあり、平成3年8月19日付で明細書についての手続補正がされた後、平成5年3月15日に設定登録されたもので、本件特許発明の要旨は、上記出願公告後の手続補正に係る願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載されたとおりのものと認められるところ、その各構成要件毎にa〜hの符号を付けて分説したものは、次のとおりである。
「先端部に長手方向及び幅方向に突出する突出物を有する被洗車輌を幅方向に跨ぎ、該車輌の長手方向に沿って走行可能な門型フレーム(「構成要件a」)と、
該門型フレームに垂下され、該門型フレーム上を幅方向に走行可能な洗車ブラシ(「構成要件b」)と、
該洗車ブラシが被洗車輌の前後面に接触していることを検出する接触検出器(「構成要件c」)と、
該洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向中央側の限界位置に到来したことを検出する幅方向限界位置検出器(「構成要件d」)と、
該洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向端側の退避位置に到来したことを検出する幅方向退避位置検出器(「構成要件e」)と、
前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向先端側の退避位置に門型フレームが到来したことを検出する長手方向退避位置検出器(「構成要件f」)と、
前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向中央側の限界位置に門型フレームが到来したことを検出する長手方向限界位置検出器(「構成要件g」)と、
少なくとも被洗車輌の前面と側面を前記洗車ブラシにより洗滌させ、前面洗滌から側面洗滌への移行又は側面洗滌から前面洗滌への移行に際して、前記各位置検出器からの位置信号及び接触検出器からの接触信号により門型フレームを前後進させ且つ前記洗車ブラシを横行させ、前記突出物を洗車ブラシと当接させずに被洗車輌の洗滌を行わせる制御装置(「構成要件h」)と、
を備えたことを特徴とする洗車機。」(以下、「本件発明」という)

2.審判請求の趣旨、審理の経緯
(1)請求人は、本件特許について、これを無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求めて、平成12年6月6日付で無効審判を請求し、これに対して、被請求人は、平成12年9月14日付で、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める趣旨の答弁書、更に、平成12年10月30日付で第2答弁書、平成13年2月19日付第3答弁書、平成13年4月11日付第4答弁書を提出した。
(2)本審判事件に関連して、請求人より平成13年1月10日付で、特許法第150条第2項の規定に基づいて、甲第1、2号証に係る洗車機を検証物として証拠保全申立がされ(証拠2001-98001号)、平成13年4月19日に、第1回検証調書のとおり検証が行われた。
(3)上記検証の後、請求人より、平成13年5月8日付で、特許法第151条で準用する民事訴訟法第226条の規定に基づき、当審に対して、上記検証物の所有者(小松島市)が所持する、検証物に係る図面、取扱説明書等についての文書送付嘱託申出があり、当審より、上記所有者に嘱託した結果、当該文書の提出があった。
その後、請求人より、平成13年8月27日付で、口頭審理陳述要領書が提出され、被請求人より、平成13年9月26日付で第5答弁書が提出された。
(4)当審では、平成13年11月26日付で、本件特許を無効とする旨の審決をしたが、これに対して被請求人より審決取消を求める出訴があり、東京高等裁判所において審決を取り消す旨の判決(平成13年(行ケ)第0588号平成15年7月18日判決言渡)がされた。
(5)当審では上記判決の趣旨を勘案して、さらに審理のうえ、特許法第153条の規定に基づいて、職権による無効理由通知を平成15年9月24日付で両当事者に通知したところ、被請求人より、同年12月1日付で意見書が提出され、また、請求人からは同年12月5日付で意見書及び上申書が提出された。

第2.平成15年9月24日付の無効理由通知について
当審において、平成15年9月24日付で両当事者に通知した無効理由の趣旨は、上記本件発明は、本件特許に係る出願日より前に、小松島市小松島町字新港9-1小松島市運輸部整備工場において公然実施された発明(公然実施発明)、及び、同じく上記出願日より前に頒布された刊行物(「洗車給油所新聞」第222号、昭和57年4月10日、宏文出版株式会社)記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもので、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反して受けたというものであるが、詳細は以下のとおりである。
1.公然実施発明に関連する証拠
(1)公然実施発明に関連する証拠として、請求人が提出または指摘したものは次のとおりである。
甲第1号証:公然実施に係る洗車機を、平成11年10月29日に撮影したとされるビデオテープ
甲第2号証:同写真(1〜11)
甲第3号証:同洗車機設置工事に係るとされる工事請負契約書
甲第4号証:同検査調書
甲第5号証:同洗車機に係るとされる減価帳簿
甲第6号証:同電気図面(「制御盤内配置図」)
甲第7号証:同入出力信号リスト及び概略センサ配置図
甲第8号証:同シーケンス図
甲第9号証:同ブラシユニット機械図
甲第10号証:白鳥雅英作成に係るとされる報告書
甲第24号証:特殊自走式自動洗車機取扱説明書
甲第25号証:現場技術者のためのPC読本
甲第26号証:PCプログラマブルコントローラによるシーケンス制御システム(電気と工事6月別冊)
甲第27号証:文書送付嘱託により送付された洗車機図面
甲第28号証:同別図面
甲第29号証:文書送付嘱託により、小松島市より送付された文書ファイ ルの表紙であって、同ファイル中に上記の甲第27、28号証、及び後記の甲第30〜34号証が綴じられている。
甲第30号証:文書送付嘱託により送付された洗車機の更に別図面
甲第31号証:同取扱説明書(24号証と同内容)
甲第32号証:同じく別の取扱説明書
甲第33号証:同工事写真帳
甲第34号証の1〜10:文書送付嘱託により送付された、洗車機の更にまた別の図面
(2)同じく被請求人が提出または指摘した証拠は次のとおりである。
乙第1号証:公然実施に係る洗車機を撮影したとされる写真(1〜4)
乙第2号証:別事件(審判平11-35703)で提出された同洗車機を撮影したとされる写真(1〜8)
乙第3号証の1〜3:被請求人が取引先に提出した仕様書
乙第4号証:株式会社東友サービスとの本件特許の実施許諾契約書
乙第5号証:白鳥雅英作成に係るとされる報告書(甲第10号証取下げの件)
乙第6号証の1:甲第29号証と同じ
乙第6号証の2:文書送付嘱託により送付された見積書他
乙第6号証の3:購入伺い書
乙第7号証の1:甲第24(31)号証と同じ
乙第7号証の2:甲32号証と同じ
乙第7号証の3:甲33号証の一部と同じ
乙第8号証:文書送付嘱託により送付された特定施設設置届出書提出伺い書

2.洗車機が公然使用(実施)された時期
甲第2号証、及び乙第1、2号証の写真は、甲第33号証(乙第7号証の3、工事写真帳)及びその他の証拠の記載や表示からみて、いずれも小松島市運輸部に設置された洗車機を撮影したものであることが認められ、そのうちの甲第2号証[10]、乙第2号証[7]の各写真には、「完成日」及び「昭和五十八年八月」の文字が撮影されており、また、乙第1号証の写真[4]には、「昭和五十八年八月二十三日完成」の文字が撮影されている。更に、乙第6号証の2の記載によれば、小松島市運輸部に対して、TWB-S-2800R型自動洗車機並びにその新設工事について、昭和58年6月6日付の見積書が出されたことが窺え、甲第33号証の表紙の記載によれば、「車両自動洗車機設備工事」の竣工が昭和58年8月31日とされているところから、上記甲第2号証及び乙第1、2号証の写真は同型の洗車機を撮影したものと認められる。
そして、洗車機という用途を考慮すると、完成した洗車機を長期に亘って使用せずにおいたり、秘密裏に洗車作業をするべき必要性等の格別の事情も想定しがたいから、上記乙第1号証の写真に撮影され、甲第29号証(乙第6号証の1)に記載されている昭和58年8月23日以降、遅くとも、本件特許に係る出願日である昭和58年9月9日より前には、上記TWB-S-2800R型の洗車機が設置されて、公然実施の状態にあったものと認められ、この点については、両者間に格別の争いもない。

3.公然実施発明に係るTWB-S-2800型洗車機の構成
(1)上記「TWB-S-2800R型」洗車機の構成や作動態様を示す証拠資料として、次のA〜Cがある。
<A> 上記甲第2号証及び乙第1、2号証の写真等には、公然実施に係るTWB-S-2800R型洗車機の外観形状が示されている。
<B> 甲第31号証及び甲第32号証の記載事項
上記「TWB-S-2800R型」洗車機の作動の態様を記載したものとして、「特殊自走式自動洗車機取扱説明書」と表示された、甲第31号証、及び甲第32号証(乙第7号証の1及び2)があり、甲第31号証と甲第32号証とを対比すると、甲第31号証(乙第7号証の1)における、末尾に「御岳交通・S.57.5.」と記載された第7頁(表紙を第1頁とする。以下、同じ)は、甲第32号証(乙第7号証の2)に存在しないが、上記甲号証のいずれにも共通して、次のイ、ロ、ハの記載がある。(ただし、ロの記載に関して、甲第32号証では、左右関係を逆にする趣旨の手書きの訂正記入がされている。)
イ 「本機は、・・・コンピューター内蔵した新型機です。
まず、装置には前後及び側面部洗車の全面洗車と、側面部洗車の側面洗車の2種類あり、使用者は選択スイッチにて決めて下さい。・・・全面洗車の場合は緑・・・の押ボタンを押せば、洗車機は自動で洗車に入ります。」(第2ページ、1〜15行)、
ロ 「全面洗車の場合(緑の押しボタン)
まず、進行方向から見て右側のブラシ大、左側のブラシを小として説明します。洗車機定位置の場合は大、小、両方右側に格納しています。
起動ボタン(緑)を押すと、小ブラシ左へ移動して来ます。
約3秒後、大ブラシ回転しながら左へ移動して車両の前面右側で移動が止まり、小ブラシ左端へ到着と同時に本機走行、車両前面ウィンドに大ブラシがタッチすると本機は停止、大ブラシで前面洗い(往復洗い)車両の右端コーナーで回転一時停止、右定位置へ格納と同時に小ブラシ回転開始約3秒後、本機走行、大と小ブラシ車両の側面に接近して大、小、個々ボデータッチ (メーターリレー)接近停止側面洗車に入る。
車両後部ブラシ通過すると本機は停止、後部洗いに入る。
大ブラシは左へ移動し洗車位置にて停止(小ブラシ回転停止)
本機はターンして大ブラシ車両タッチまで走行ブラシキャッチで停止、大ブラシで後部洗車(往復洗い)大ブラシ格納位置と同時に本機走行、小ブラシ回転開始、帰りの側面洗車に入る。約3秒後、大ブラシ側面ボデーに接近後タッチ接近停止(小ブラシ移動なし、そのまま回転)側面洗い。
バックミラー逃げ位置で大、小ブラシ格納、回転も水も停止、本機定位置に到着走行停止、小ブラシ右に移動し格納し一行程終了。」(第2頁17行〜第3頁10行)
ハ 「本機は全自動ですので、洗車中に非常停止のボタン(赤)を押した場合・・・車両を出しましたら制御盤のリセットボタンを押して下さい。本機はスタート定位置まで自動的に戻ります。」(第4頁2〜6行)
<C> 証拠保全(証拠2001-98001号)の検証結果
本審判事件に関連して、平成13年4月19日に行われた検証によって、次の点が確認されている。
「横フレームにはその延長方向に沿って4個のスイッチと推測されるもの(以下、「スイッチ状物」という)が取り付けられている。また、小ブラシの上方にもスイッチ状物が取り付けられており、一方、横フレームの先端部近傍にはこの小ブラシ上方のスイッチ状物と係合しうる位置に突起が設けられている。そして、大ブラシの上方には3個のスイッチ状物が縦方向に取り付けられている。
さらに、縦フレームの最下部には3個のスイッチ状物が下部案内レールの長手方向に沿って取り付けられており、一方、下部案内レールの両端部には、上記縦フレーム最下部の3個のスイッチ状物のうち両端のものとそれぞれ当接しうる位置に突起が設けられ、案内レールの初期位置側(被洗車両前方側)の先端から約1,7mのところには上記縦フレーム最下部の3個のスイッチ状物のうち中央のものと当接しうる位置に突起が設けられている。」
(検証調書中、「1.検証物の状態 (4)スイッチ類の配置について」)

(2)公然実施発明に係る洗車機の構成と作動の態様
<洗車機の外観形状>
上記<A>の写真等に示されているところから、本件特許に係る出願前に小松島市において公然使用された洗車機は、バス等の被洗車両を幅方向に実質的に跨ぎ、該車両の長手方向に沿って走行可能な逆L字型フレームと、該逆L字型フレームに垂下される洗車ブラシとを備えるものであることが認められる。
<洗車機の構成と作動態様>
上記<B>のとおり、甲第32号証には上記イ〜ハの記載(ただし、ロの記載に関しては、甲第32号証で、左右関係を逆にする趣旨の手書きで訂正されたもの)が存在し、同甲号証が、小松島市運輸部に保存されていた「58.8.23完成」「TWB-S-2800R型」「自動洗車機図面」と題するファイル中に存在するものであるところから(甲第29号証参照)、公然実施に係るTWB-S-2800R型自動洗車機の基本的な作動の態様は上記<B>のイ〜ハで説明されているとおりのものとみられる。そして、そのような作動を行うためには、被洗浄車体と洗浄ブラシとの接触の有無や、洗浄ブラシの位置を検知する必要があるから、上記<C>の検証の結果によって確認されているスイッチ状物は、上記<B>のイ〜ハで説明されている作動の制御を行うために利用される、接触や位置の検知手段として機能するものと認められる。
そうすると、上記のイ〜ハの記載から、公然実施に係る洗車機は、上記の「逆L字型フレーム」を前後進させ、かつ前記横フレームから垂下された大小一対の「洗車ブラシ」を横行させて、被洗車両の前後面及び左右両側面を洗滌するものであることがわかる。
そして、上記ロでは、「車両前面ウィンドに大ブラシがタッチすると本機は停止」すると共に、「車両後部ブラシ通過すると本機は停止、後部洗いに入る・・・本機はターンして大ブラシ車両タッチまで走行ブラシキャッチで停止、大ブラシで後部洗車」するとされているところから、上記の洗車機は「洗車ブラシが被洗車両の前後面に接触していることを検出する」ための手段である「接触検出器」を備えていると認められる。
のみならず、上記ロの記載と、同じく甲第32号証の第3ページに図示されたバックミラーの位置と突出状態からみて、上記洗車機は、長手方向(車体前方)及び幅方向に突出するバックミラーを「逃げ」る、即ち、「洗車ブラシに当接させずに被洗車両の洗滌を行わせる制御装置」と共に、そのような制御を行うために、洗車ブラシが突出物に当接しない予め決められた幅方向端側の退避位置に到来したことを検出する手段である「幅方向退避位置検出器」と、洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向中央側の限界位置に逆L字型フレームが到来したことを検出する手段である、「長手方向限界位置検出器」とを備えていたことが認められる。

(3)以上の検討から、公然実施発明に係る洗車機は、次のア〜カの構成を備えていたものと認定できる。
ア 「先端部に長手方向及び幅方向に突出する突出物を有する被洗車輌を幅方向に跨ぎ、該車輌の長手方向に沿って走行可能な逆L字型フレーム」、
イ 「前記の逆L字型フレームに垂下され、該逆L字型フレーム上を幅方向に走行可能な洗車ブラシ」、
ウ 「前記洗車ブラシが被洗車輌の前後面に接触していることを検出する接触検出器」、
エ 「前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向端側の退避位置に到来したことを検出する幅方向退避位置検出器」、
オ 「前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向中央側の限界位置にフレームが到来したことを検出する長手方向限界位置検出器」、
カ 「少なくとも被洗車輌の前面と側面を前記洗車ブラシにより洗滌させ、前記突出物を洗車ブラシと当接させずに被洗車輌の洗滌を行わせる制御装置」。

4.本件発明との対比
本件発明と、上記3.で認定された、公然実施発明とを対比した場合の一致点と相違点は次のとおりである。
[一致点]
「先端部に長手方向及び幅方向に突出する突出物を有する被洗車輌を幅方向に跨ぎ、該車輌の長手方向に沿って走行可能なフレーム(「構成要件a'」)と、
該フレームに垂下され、該フレーム上を幅方向に走行可能な洗車ブラシ(「構成要件b」)と、
該洗車ブラシが被洗車輌の前後面に接触していることを検出する接触検出器(「構成要件c」)と、
該洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向端側の退避位置に到来したことを検出する幅方向退避位置検出器(「構成要件e」)と、
前記洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向中央側の限界位置にフレームが到来したことを検出する長手方向限界位置検出器(「構成要件g」)と、
少なくとも被洗車輌の前面と側面を前記洗車ブラシにより洗滌させ、前記突出物を洗車ブラシと当接させずに被洗車輌の洗滌を行わせる制御装置(「構成要件h'」)と、
を備えた洗車機」である点。
[相違点1] 走行可能なフレームの形状が、本件発明では「門型」とされるのに対し、公然実施発明では、「逆L字型」である点。
[相違点2] 本件発明では、「洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向中央側の限界位置に到来したことを検出する幅方向限界位置検出器(「構成要件d」)と、「洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた長手方向先端側の退避位置に門型フレームが到来したことを検出する長手方向退避位置検出器(「構成要件f」)とを備え、「前面洗滌から側面洗滌への移行又は側面洗滌から前面洗滌への移行に際して、前記各位置検出器からの位置信号及び接触検出器からの接触信号により門型フレームを前後進させ且つ前記洗車ブラシを横行させ」る制御(「構成要件h」の一部)が行われるのに対し、公然実施発明では、上記の「構成要件d及びf」を備えていること、並びに、当該構成要件d及びfに係る、フレームの前後進や洗車ブラシを横行させる制御(「構成要件h」の一部)を行うことが認められない点。

5.相違点の検討
上記の相違点1は、片持ち式の逆L字型のフレームに代えて、従来からしばしば採用されていた周知の門型フレームとするものであって、この点に格別の技術的意義は認められない。
そこで、以下、上記相違点2について検討する。
(1)ここで、本件特許に係る出願より前において、洗車機の洗滌ブラシと、バックミラー等車体から突出する部材との衝突回避の作動態様として、どのようなものが知られていたかについてみると、次のようなものがある。
先ず、刊行物1(特開昭51-138070号公報)記載のものでは、縦型の回転ブラシを「上下2段」に分割し、回転ブラシが車輌の前面から側面へ移動する時に、上下の回転ブラシを相対的に離間させることにより、バックミラーの「通過間隙」を形成させている。
次に、刊行物2(特開昭51-52673号公報)記載のものは、やはり縦型の回転ブラシを上下2段に分割し、ラジオアンテナやバックミラー等と衝突する恐れがある上側のブラシは、突出物に接近した時に、「回転を止めたり減速」して、遠心力によるブラシの拡がりを抑制することにより、回転ブラシと突出物との衝突を回避している。
更に、刊行物3(特開昭52-107172号公報)では、洗車用の回転ブラシを、車枠(フレーム)上で「進退及び傾斜可能」に構成して、バックミラー等に「損傷を与えることが無い」ようにしたものが開示されている。 また、刊行物4(特開昭57-201747号公報)では、タクシーやパトカーの屋根の表示灯などの突起物に「無接触」で洗車するために、上面洗浄ブラシを「設定した第1カウント量(洗車距離)(L1)に達したとき、・・・上昇させ」、「設定した第2カウント量(バイパス距離)(L2)に達したとき、・・・降下して洗浄位置に戻す」ようにしたものが開示されている。
そして、刊行物5(昭和57年4月10日付「洗車給油所新聞」)には、門型フレームを備えた洗車機本体を示す写真と共に、「サイドブラシ閉じ、走行スタート」、「サイドブラシ車体検知」、「サイドブラシ逆転し、開くと同時に、ALS検知まで本体後進」等の記載があり、門型フレームを前後進させ、かつ、サイドブラシを横行させることによって、サイドブラシと突出物(ミラー)との衝突回避作動が行われることを明示する説明図が掲載されている。
なお、本件特許に係る審査過程で、出願人(本件特許権者)は、上記の刊行物5に関して次のように述べている。(下記の「甲第1号証」は、上記の刊行物5である。)
「甲第1号証ではサイドブラシが車体に接触すると直ちに後退してミラーを避ける動作になっており、車体の前面部を洗滌するようになっていない。・・・甲第1号証においては車体前面部を洗滌するという要件が基本的に欠けており、単にミラーを避けて側面部の洗滌を開始する動作が開示されているにすぎないのである。」(平成3年8月19日提出の特許異議答弁書第5頁第3〜17行)

(2)一方、上記3.で指摘したとおり、公然実施に係る洗車機は、<車体の長手方向及び幅方向に突出する、バックミラー>のような突出物を備えた車体の周囲を、「全自動」で洗浄しようとするものであるから、前面洗滌から側面洗滌に移る際、あるいは側面洗滌から前面洗滌に移る際に、洗滌ブラシとバックミラー等の突出物との衝突回避を図る必要があり、そのためには、上記(1)で指摘した刊行物1、2に開示されているように、洗滌ブラシ自体の構造や駆動機構を工夫するか、又は、刊行物3、4に開示されているように、洗滌ブラシを被洗車体から離れるように移動させるというような手段を採用することが考えられる。
ここで刊行物1、2に開示されているような手段を採用した場合、洗滌ブラシ自体の構造や駆動機構が複雑化する恐れがある。これに対して、刊行物3、4に開示されているように、洗滌ブラシを被洗車体から離れるようにすれば、上記の恐れはない。また、公然実施に係る洗車機は、車体側面を往復動して洗滌するために、洗滌ブラシを取り付けた本体フレームを前後動させることが可能なものであり、しかも、刊行物5に記載されているように、自動式の洗車機における洗滌(サイド)ブラシと突出物(ミラー)との衝突を回避する作動として、本体フレームを前後進させることも知られていたのであるから、公然実施に係る洗車機に関し、車体の幅方向のみでなく、長手方向にも突出するバックミラー等に対する洗滌ブラシの衝突回避作動の態様として、本体フレームを前後進させる手法を選択することは、通常の知識を有する者であれば容易に想到できたと考えられる。
そして、例えば、前面洗滌から側面洗滌への移行に際して、前記の本体フレームを前後に移動させることによる衝突回避の作動を「全自動」で行うためには、本体フレームが後進(車体から離れる動き)を始めるべき位置や、後進の動きを停止するべき位置を検知すると共に、当該検知に基づく制御をする必要があるのだから、上記相違点2に係る、「洗車ブラシが前記突出物に当接しない予め決められた幅方向中央側の限界位置に到来したことを検出する幅方向限界位置検出器」(構成要件d)に加え、フレームの「長手方向先端側の退避位置」を検出する「長手方向退避位置検出器」(同じくf)を設けると共に、「前面洗滌から側面洗滌への移行又は側面洗滌から前面洗滌への移行に際して、前記各位置検出器からの位置信号及び接触検出器からの接触信号により」フレームを前後進させる制御(「構成要件h」の一部)を採用することは、格別困難とはいえない。

6.被請求人の主張について
(1-1)上記刊行物3〜5に関して、被請求人は、刊行物3記載の洗車機は「手動で方向を変えるもので」、「自動的に突出物を回避する本件発明とは、同じ課題を有するものとはいえない」し、また、「刊行物4、5は左右一対のサイドブラシと1本のトップブラシによって、小型の乗用車やワゴン車を洗車するもので、車両前方に突出しているバックミラーを持つワゴン車を洗車する際には、サイドブラシは側面洗浄のみ行い、被洗車両の前後面及び上面はトップブラシで洗車を行うもので、同一のサイドブラシで、前面角部にあるバックミラーを回避しつつ前面洗浄から側面洗浄への移行を自動的に行うという本件発明の課題自体が存在しない」のであるから、「刊行物3〜5は、本件発明の容易相当性を判断する資料としては不適切」であり、また、刊行物5記載の洗車機のサイドブラシは、「被洗車両前面を洗浄していない。」即ち、「回転した状態で被洗車両前面に接触する状態で車体前面に平行な方向(幅方向)へ移動するものではない」から、刊行物5に「門型フレームを前後進させ、かつサイドブラシを横行させることによって、サイドブラシと突出物(ミラー)との衝突回避作動が行われることを明示する説明図が掲載されている」と認定判断するのは誤りである旨を主張する。(平成15年12月1日付意見書第10頁第15行〜第13頁第15行、第13頁第16行〜第17頁第6行参照)
(1-2)被請求人が主張するとおり、刊行物3〜5は、「同一のサイドブラシで、前面角部にあるバックミラーを回避しつつ前面洗浄から側面洗浄への移行を自動的に行うという本件発明の課題自体」を開示するものではない。
しかし、上記のいずれの刊行物にも、洗車機の洗滌ブラシと、車体からの突出物との衝突を回避するために、洗滌ブラシの車体に対する相対的な位置(間隔)を変更させるという技術思想が開示されているし、また、刊行物5に、洗滌ブラシと車体との相対的な位置の変更を実現する手段として、本体フレームを前後動させるものが開示されていることは間違いのない事実である。
そして、二つの物体が衝突する恐れがある場合に、一方の物体を他方の物体から遠ざけて衝突回避を図ることは先ず最初に想定されるはずであり、上述のように、刊行物3〜5のいずれについても、公然実施に係る洗車機と同じく、洗滌ブラシと車体から突出する物との衝突回避を図るという点に基本的な共通性が認められることを考慮すれば、刊行物3〜5が、本件発明の容易想到性を判断する資料として不適切であるとはいえない。
(2-1)被請求人は、相違点2の判断に誤りがあるとして、次のように主張している。(同第18頁第3行〜21頁第4行参照)
「本件特許出願当時においては、ブラシを横行させて、突出物を回避するという技術思想には容易に想到でき、かなり古くから採用されていたのに対し、フレーム(特に大型車用の重量の重い大型のフレーム)を前後に移動して、突出物を回避するという技術思想には想到できなかったという事情」があり、このような「当時の技術状況を踏まえれば、本件の相違点2は、単に車体からの離隔、接触を問題にすべきではなく、門型フレームを前後進させて行う車両前面に対する離隔、接触を問題とすべきである。」
これに対し、刊行物3の洗車機は、本件発明とは、「その作動態様が異なる」し、刊行物4の洗車機は「フレームが停止している状態で、サイドブラシ自身が横行して車両側面から離隔する作動(側面洗浄時にブラシがミラーを回避する作動)と同じ原理の作動」しか開示していないのであるから、これらの刊行物を「容易想到性判断の資料として採用する」のは妥当でない。
また、「刊行物5記載の発明は、前面洗浄はトップブラシが行い、サイドブラシは側面洗浄を行うものであって、本件発明の課題は開示も示唆もされていない」し、「その対象とする被洗車両も全く異なる」から、当業者が刊行物5を見ても、「そこにはサイドブラシで前面洗浄を行っていない小型自動車用洗車機が示されているだけであるから、全く参考にならないと考えるのは当然であり、このサイドブラシの作動を公然実施発明に適用することは全く予測しえない」。
(2-2)被請求人は、本件特許出願当時においては、「フレーム(特に大型車用の重量の重い大型のフレーム)を前後に移動して、突出物を回避するという技術思想には想到できなかった」という。たしかに、大型車用の重量の重いフレームでは、例えば、起動時の駆動電力が大きくなったり、そのために電力コストや洗滌時間の増加を招くといった問題が考えられる。
しかしながら、このような問題は、フレーム本体の設計の変更や素材の選択、電動機性能の向上等によって、基本的には解決可能な問題であるといえる。
したがって、本件特許出願当時において、「フレーム(特に大型車用の重量の重い大型のフレーム)を前後に移動して、突出物を回避するという技術思想には想到できなかった」とは必ずしもいえない。
そして、洗車機の作動態様や、ブラシ移動時の本体フレームの動静に相違があるにせよ、刊行物3、4のいずれにも、洗滌ブラシを車体から遠ざけることによって突出物との衝突回避を図るという手段が開示されていることは明らかであるし、上述(1-2)のように、一方の物体を他方の物体から遠ざけるという衝突回避手段は、当業者(通常の知識を有する者)であれば先ず最初に想定するところである。そうすると、被請求人がいうように、刊行物5記載の洗車機は「前面洗浄はトップブラシが行い、サイドブラシは側面洗浄(のみ)を行うもので」、「対象とする被洗車両も全く異なる」としても、同刊行物に<門型フレームを前後進させることによる、サイドブラシとバックミラーとの衝突回避作動>が開示されている以上、そのような作動の態様を「公然実施発明に適用することは全く予測しえない」とするのは妥当でない。
(3-1)被請求人は、「ブラシ自身の作動を制御して突出物を回避するという技術には容易に想到できたが、ブラシを支持するレールが載っているフレーム自体の走行を制御してブラシを動かすということを予測することはできなかった」として、その理由を次のように説明している。(同第34頁第5〜23行参照)
「大型自動車用の洗車機では固定式が先行し、自走式は、固定式の洗車ブラシの作動をそのまま取り入れて、設計されていたのである。」「固定式においては、被洗車車両は、洗車動作の最初から最後まで前進するのみで、途中停止することはあっても一旦後退することは全くなかったのである。したがって本件特許出願当時、自走式洗車機において、前面洗浄から側面洗浄に移行するに際して一旦後退してクランク状に突出物を回避するという考え方は生じ得なかったのである。また、当時の作動制御技術のレベルは低く、重量の軽い洗車ブラシであれば比較的容易にその移動や回転を制御できたが、重量の重いフレーム自体の走行制御はできるだけ単純なものでなければならず、本件発明のように前進・後退・前進という複雑な走行を行うものは容易に考えられなかったのである。」
(3-2)被請求人は、「固定式においては、被洗車車両は、洗車動作の最初から最後まで前進するのみで、途中停止することはあっても一旦後退することは全くなかった」というが、それは、固定式の洗車機が開発された当時の自動車には、前方に向かって突出する突出物が存在しなかったために、後退の必要がなかったことによるとも考えられる。
したがって、公然実施発明で問題となるバックミラーのような、<車体の長手方向(即ち、前方)及び幅方向>に突出する突出物が、その当時から存在していたのであれば、当該突出物との衝突回避のために、「一旦後退することは全くなかった」とは必ずしも断定できない。
また、「当時の作動制御技術のレベルは低」かったのだとしても、そのことは、フレーム本体を前後進させることを全く想定しがたいほどの絶対的な理由とは考えられない。刊行物5には、たとえ大型車両用の自動洗車機ではないとしても、本体フレームを後退させて突出物との回避作動を行うものが存在したことが示されているし、本体フレームが「大型車用の重量の重い」ものであっても、それが格別の問題にならないことは前述(2-2)のとおりである。
(4)更に、被請求人は、「本件特許発明に係る洗車機を多数販売し、商業的成功をおさめていること」で、「本件発明が進歩性を有していることが推認できる」としている。(同第34頁第24行以下参照)
たしかに、商業的な成功の是非が、発明の進歩性を判断する際の一要因となる場合がありうることは否定できないが、商業的な成功は、経営や営業の態様、取引慣行等によるところもあるから、商業的な成功と技術の進歩性とが必ずしも対応するものでもない。したがって、仮に、本件発明に係る洗車機が商業的成功をおさめているのだとしても、そのことから直ちに本件発明の進歩性を肯定することはできない。

第3.むすび
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して受けたもので、本件無効審判の請求には、特許法第123条第1項第2号の規定に該当する正当な理由があり、本件特許は無効とすべきものである。
また、本件審判に関する費用の負担については、特許法第169条第2項の規定により、民事訴訟法第61条の規定を準用する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-01-30 
結審通知日 2004-02-04 
審決日 2001-11-26 
出願番号 特願昭58-165131
審決分類 P 1 112・ 121- Z (B60S)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田中 英穂  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 鈴木 法明
八日市谷 正朗
鈴木 久雄
出口 昌哉
登録日 1993-03-15 
登録番号 特許第1743117号(P1743117)
発明の名称 洗車機  
代理人 高橋 清  
代理人 笠井 美孝  
代理人 塩見 渉  
代理人 冨永 博之  
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