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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J |
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管理番号 | 1111019 |
審判番号 | 不服2002-25139 |
総通号数 | 63 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2000-07-18 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-12-27 |
確定日 | 2005-02-04 |
事件の表示 | 平成11年特許願第275808号「インクジェット記録装置、及びインクカートリッジ」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月18日出願公開、特開2000-198220〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明の認定 本願は平成11年9月29日の出願(優先権主張 平成10年11月5日)であって、平成14年11月19日付けで拒絶の査定がされたため、これを不服として同年12月27日付けで本件審判請求がされたものである。 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は平成14年9月20日付けで補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項1】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。 「書換え可能な記憶手段が付帯されたインクカートリッジからインクの供給を受けるインクジェット記録ヘッドと、該記録ヘッドのインク滴吐出能力を回復させるクリーニング手段と、前記インクカートリッジの記憶手段からデータを読出し、またデータを書き込むデータ読み出し書き込み手段を備えたインクジェット記録装置において、 前記インクカートリッジの前記書換え可能な記憶手段が、前記クリーニング手段の動作履歴に関するデータを格納する領域を有するインクジェット記録装置。」 第2 当審の判断 本審決では、「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いる。 1.引用刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-181041号公報(以下「引用例」という。)には、以下のア〜カの記載又は図示がある。 ア.「インクジェットプリンタなどにおけるカートリッヂの使用状況報知装置であって、予め設定したヘッドからの総吐出ドット数、ヘッドのクリーニングの際のクリーニング種類と回数と、現実の前記総吐出ドット数、クリーニングの種類と回数とを比較処理して、少なくとも設定値を外れてカートリッヂ内のインクが終了した場合には、警告信号を発生可能に構成したインクジェットプリンタなどにおけるカートリッヂの使用状況報知装置。」(【請求項1】) イ.「図1に機能ブロック図で模式的に表示したカートリッヂICの使用状況報知装置1は、プリンタ100とこれを制御するパソコン200とで構成されている。」(段落【0017】) ウ.「プリンタ100は、カートリッヂICを装填しうる装填手段101を有し、当該装填手段101にカートリッヂICが装填された際に当該カートリッヂICの装填日、有効使用期間等の情報を検出しうる装填状況検出手段102を配設し、当該装填状況検出手段102による情報をパソコン200の初期情報保存手段201に報知しうるように構成すると共に、クロック手段103を始動させうるように構成している。」(段落【0018】) エ.「カートリッヂICに連係されるヘッド部104Aを備えたプリンタ手段104については同様にパソコン200の制御手段202に連係されている。」(段落【0019】) オ.「ヘッド部104Aには総吐出ドット数検出手段105並びにクリーニング種類・回数検出手段106が連係されており、それぞれの現実の使用状況情報は、いずれもパソコン200の制御部202に連係されたデータ記憶手段203に格納されるように構成されている。」(段落【0020】) カ.【図4】には「本インクカートリッジは総ドット数が少なく、クリニング回数が多いため、適正な使用がされていない可能性があります。今後下記のインクカートリッジをご使用下さい。それでも改善しない場合は〇〇〇〇〇〇〇〇までご連絡下さい。」とのメッセージの表示がある。 2.引用例記載の発明の認定 引用例の記載エによれば、カートリッヂとヘッド部は別であり、当然ヘッド部はカートリッヂからインクの供給を受けるものである。 引用例の記載ウ,オによれば、引用例記載のインクジェットプリンタは、カートリッヂICの装填日、カートリッヂの有効使用期間等の情報を検出しうる装填状況検出手段及びクリーニング種類・回数検出手段を備えており、そうである以上「ヘッド部のインク滴吐出能力を回復させるクリーニング手段」を当然備えている。引用例の記載ウの「カートリッヂICの装填日、有効使用期間等の情報」はパソコン200の初期情報保存手段201に報知されるだけでなく、そこに保存されると解すべきである。そうでなければ「初期情報保存手段」と表現した理由を理解することができない。 したがって、記載又は図示ア〜カを含む引用例の全記載及び図示によれば、引用例記載のインクジェットプリンタは次のようなものと認めることができる。 「カートリッヂからインクの供給を受けるヘッド部と、ヘッド部のインク滴吐出能力を回復させるクリーニング手段と、カートリッヂの装填日・カートリッヂの有効使用期間等の情報を検出しうる装填状況検出手段を備えたインクジェットプリンタであって、 上記カートリッヂの装填日・カートリッヂの有効使用期間等の情報と総吐出ドット数及びクリーニング種類・回数の現実の使用状況情報を格納するデータ記憶手段を有するパソコンと接続して使用されるインクジェットプリンタ。」(以下「引用発明」という。) 3.本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定 引用発明の「カートリッヂ」、「ヘッド部」及び「インクジェットプリンタ」は、本願発明の「インクカートリッジ」、「インクジェット記録ヘッド」及び「インクジェット記録装置」にそれぞれ相当する。 引用発明における「クリーニング種類・回数の現実の使用状況情報」と「本願発明における「クリーニング手段の動作履歴に関するデータ」に相違はない。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「インクカートリッジからインクの供給を受けるインクジェット記録ヘッドと、該記録ヘッドのインク滴吐出能力を回復させるクリーニング手段とを備えたインクジェット記録装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。 〈相違点1〉本願発明は「インクカートリッジの記憶手段からデータを読出し、またデータを書き込むデータ読み出し書き込み手段」を備えており、それに伴い「インクカートリッジ」は「書換え可能な記憶手段」を付帯したものであるのに対し、引用発明は「カートリッヂの装填日・カートリッヂの有効使用期間等の情報を検出しうる装填状況検出手段」を備えるものの、上記本願発明の構成を備えるとまではいえない点。 〈相違点2〉本願発明が、「前記インクカートリッジの前記書換え可能な記憶手段が、前記クリーニング手段の動作履歴に関するデータを格納する領域を有する」としているのに対し、引用発明1は相違点1でも述べたように、「書換え可能な記憶手段」を付帯したものであるとはいえず、その代わりに接続されたパソコンのデータ記憶手段に「クリーニング手段の動作履歴に関するデータ」を格納する点。 4.相違点についての判断及び本願発明の進歩性の判断 (1)相違点1について 引用発明が「カートリッヂの有効使用期間等の情報を検出しうる装填状況検出手段」を備えることは上記認定のとおりである。すなわち、引用発明のカートリッヂには有効使用期間等の情報が書き込まれており、これをプリンタが読み出すことは明らかである。 本願優先日(平成10年11月5日)当時、インクカートリッジに「書換え可能な記憶手段」を付帯し、有効使用期間等のインクカートリッジ装填後は更新しないデータだけでなく、カートリッヂの装填日・吐出ドット数・インク残量等インクカートリッジ装填後に更新するデータを格納しておき、これらデータを記録装置にて読み出すとともに、更新データについては書き込むことは周知である(例えば、特開平6-320732号公報又は特開平9-309213号公報参照。)。 そうすると、引用発明において「カートリッヂの有効使用期間等の情報」を、カートリッヂ装填後に更新するデータをも格納できるように、書換え可能な記憶手段に書き込んでおき、記録装置(プリンタ)に「データ読み出し書き込み手段」を備えること、すなわち相違点1に係る本願発明の構成をなすことは設計事項というべきである。 (2)相違点2について 引用発明は上記のとおり、実施例に即して認定したが、引用例の特許請求の範囲は「カートリッヂの使用状況報知装置」について記載したものであって、ここには「クリーニング種類・回数の現実の使用状況情報」をパソコンに格納することが必須である旨の記載はない。また、カートリッヂの使用状況(クリーニング種類・回数の現実の使用状況情報を含む。)を知るには、パソコン、プリンタ本体又はカートリッヂのどこかに使用状況が格納されておれば十分なことは自明である。 引用発明(引用例の実施例)のように、使用状況をパソコンに格納すれば、プリンタ本体又はカートリッヂには余分な記憶手段を設けなくて済むから、汎用性が増す点では有利であろう。また、本願優先日当時にはインターネットが相当普及しており、パソコン又はその周辺機器メーカーは、製品購入者を会員登録し、購入後のアフターサービスをインターネットを介して行うことが多いが、引用例の記載カにあるような改善しない場合のサービスを行うに当たり、使用状況を記録したファイルをメーカーのウエブサイトに送信すれば、メーカー側にて実際の使用状況を把握でき、適切なアドヴァイス等を施すことが可能であるところ、そのためには、使用状況をパソコンに格納しておくことが最も簡便であるから、この点でも使用状況をパソコンに格納することが有利であろう。 しかし、プリンタは必ずしもパソコンと接続して使用するわけではなく(例えば、デジタルカメラで撮影したデータをパソコンを介さずに直接プリントする場合がある。)、引用発明ではパソコンと接続しない場合には使用状況を把握できないことになる。また、特定のプリンタと特定のパソコンを接続して使用するだけでなく、異なるパソコンに接続することも十分想定され、使用状況をパソコンに格納したのでは、接続パソコンが変更された場合、適切に使用状況を把握できないことも明らかである。 他方、使用状況をパソコンではなく、プリンタ本体又はカートリッヂに格納した場合には、上記引用発明の有利な点はなくなる代わりに、パソコンと接続しない場合や、接続パソコンを変更する場合の問題点は生じない。要するに、カートリッヂの使用状況をパソコンに格納するか、それともプリンタ本体又はカートリッヂに格納するかについては、一長一短である。さらに、(1)で述べたように、本願優先日当時、インクカートリッジに「書換え可能な記憶手段」を付帯し、カートリッヂの装填日・吐出ドット数・インク残量等インクカートリッジ装填後に更新するデータを格納しておくことは周知である。 引用発明においては、クリーニング種類・回数の現実の使用状況情報だけでなく、カートリッヂの装填日や総吐出ドット数もパソコンに格納しているのであるが、上記のとおりこれらデータについては、インクカートリッジに付帯した書換え可能な記憶手段に格納しておくことが周知(前掲特開平6-320732号公報ではさらに、吸引回数やワイピング回数も格納している。)なのであるから、引用発明においてもカートリッヂの装填日や総吐出ドット数の格納箇所をインクカートリッジに付帯した書換え可能な記憶手段に変更することは設計事項といわなければならない。その場合、クリーニング種類・回数だけをパソコンに格納し、その他のデータをインクカートリッジに付帯した書換え可能な記憶手段に格納することは著しく不自然であり、かつすべてのデータの格納箇所をインクカートリッジに付帯した書換え可能な記憶手段に変更することを躊躇させる理由も見当たらない。クリーニング種類・回数ではないものの、カートリッジの使用履歴情報をカートリッジに付帯した書換え可能な記憶手段に格納することが周知(例えば、特開平8-174863号公報の【請求項2】参照。)であることを考慮すれば、上記格納箇所の変更はなお一層容易である。 したがって、インクカートリッジの書換え可能な記憶手段が、クリーニング手段の動作履歴に関するデータを格納する領域を有すること、すなわち相違点2に係る本願発明の構成をなすことは当業者が容易に想到できたこととである。 (3)本願発明の進歩性の判断 相違点1及び相違点2に係る本願発明の構成をなすことは、設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。 したがって、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-11-29 |
結審通知日 | 2004-12-01 |
審決日 | 2004-12-14 |
出願番号 | 特願平11-275808 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 湯本 照基 |
特許庁審判長 |
小沢 和英 |
特許庁審判官 |
清水 康司 津田 俊明 |
発明の名称 | インクジェット記録装置、及びインクカートリッジ |
代理人 | 西川 慶治 |
代理人 | 木村 勝彦 |