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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 F02P |
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管理番号 | 1111139 |
異議申立番号 | 異議2003-72147 |
総通号数 | 63 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1996-07-23 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-08-19 |
確定日 | 2004-11-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3422866号「車両後付のエンジン制御装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3422866号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1.特許出願:平成7年1月5日 2.特許権の設定登録:平成15年4月25日 3.特許掲載公報の発行:平成15年6月30日 4.特許異議の申立て:平成15年8月19日(特許異議申立人:株式会社 トラスト) 5.特許異議申立副本の発送:平成16年3月5日 6.取消理由の通知:平成16年3月9日(発送:平成16年3月19日) 7.意見書、訂正請求書の提出:平成16年5月13日 第2 訂正の適否についての当審の判断 1.訂正の内容 上記第1、(7)の訂正請求書による訂正の内容は、添付された訂正明細書の記載からみて次のとおりであると認める。 (1)特許請求の範囲に係る訂正 登録時の明細書(以下、「原明細書」という。)の特許請求の範囲を次のように訂正する。 「【請求項1】車両先付のエンジン制御システムを用いて多気筒エンジンの直接点火装置を制御する制御動作を補正する、車両後付のエンジン制御装置において、 エンジン制御システムより出力される点火信号を計測する入力計測部と、 エンジンの稼動状態を収集する入力部と、 エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に送受信可能とするRS-232Cの通信手段をもつ外部情報入力部と、 エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号の補正制御データを演算する演算制御部と、 演算制御部の補正制御データを得て、最適点火信号を点火装置に出力する出力部とを有してなることを特徴とする車両後付のエンジン制御装置。 【請求項2】車両先付のエンジン制御システムを用いて多気筒エンジンの直接点火装置とシーケンシャル噴射方式の燃料噴射弁駆動装置を制御する制御動作を補正する、車両後付のエンジン制御装置において、 エンジン制御システムより出力される点火信号と燃料噴射信号とを計測する入力計測部と、 エンジンの稼動状態を収集する入力部と、 エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に送受信可能とするRS-232Cの通信手段を持つ外部情報入力部と、 エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データと最適燃料噴射制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データと最適燃料噴射制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号と最適燃料噴射信号の補正制御データを演算する演算制御部と、 演算制御部の補正制御データを得て、最適点火信号を点火装置に出力するとともに、最適燃料噴射信号を燃料噴射弁駆動装置に出力する出力部とを有してなることを特徴とする車両後付のエンジン制御装置。」(以下、それぞれ、「訂正後の特許請求の範囲の請求項1、請求項2」という。)に訂正する。 なお、下線は、訂正個所を明確にするため、当審で付したものである。 (2)発明の詳細な説明に係る訂正 上記(1)の特許請求の範囲の訂正に整合させるため、原明細書の発明の詳細な説明において、段落【0006】、【0007】の【課題を解決するための手段】の記載を訂正明細書のとおりに訂正する。(なお、この訂正については、訂正請求書には明示されていないが、全文訂正明細書の記載からみて、このように認定した。) 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 特許請求の範囲の請求項1に係る訂正は、原明細書の段落【0015】の記載に基づいて、原明細書の請求項1の「車両先付のエンジン制御システムによる制御動作を補正する」を、「車両先付のエンジン制御システムを用いて多気筒エンジンの直接点火装置を制御する制御動作を補正する」と訂正し、また原明細書の段落【0018】の記載に基づいて、原明細書の請求項1の「エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に入力可能とする外部情報入力部」を「エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に送受信可能とするRS-232Cの通信手段をもつ外部情報入力部」と訂正することにより、制御動作、外部情報入力部を具体化し、限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、また実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもない。 特許請求の範囲の請求項2に係る訂正についても同様である。 また、上記発明の詳細な説明に係る訂正は、特許請求の範囲に係る訂正に整合させるためのものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもない。 3.訂正の適否についてのむすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 第3 異議申立て、取消理由の概要 特許異議申立人 株式会社トラストが、特許異議申立書で主張している異議申立ての理由、及び当審が通知した取消理由は、概略、次のとおりである。 「本件発明1、2は、本件出願日前に頒布された刊行物である下記甲第1号証〜甲第4号証、甲第6号証〜甲第11号証に記載された発明、及び本件出願前に日本国内において公然実施をされた下記甲第5号証に係る発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してなされたものである。 記 ア.甲第1号証:商品カタログ「HKS/GOODS MASTER」 (1994年8月発行) イ.甲第2号証:「HKS F-con仕様一覧表「F・CoN MAST ER/FUEL COMPUTER」(1984年4月発行) ウ.甲第3号証:内国雑誌「OPTION 1986年7月臨時増刊号」 (1986年7月10日発行) エ.甲第4号証:内国雑誌「OPTION 1989年7月臨時増刊号」 (1989年7月17日発行) オ.甲第5号証:(株)トラスト製造の商品「Rebic LC」(商品写真 カタログ、取扱説明書) カ.甲第6号証:特開平5-44519号公報 キ.甲第7号証:特開平6-88563号公報 ク.甲第8号証:特開平5-10240号公報 ケ.甲第9号証:特開平5-113147号公報 コ.甲第10号証:特開平5-5455号公報 サ.甲第11号証:特開昭63-159636号公報」 第4 特許異議申立てについての当審の判断 1.本件発明1、2 上記第2で述べたとおり、平成15年5月13日付けの訂正請求書による明細書の訂正が認められるから、本件特許第3422866号の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、上記第2の1「訂正の内容」、(1)「特許請求の範囲に係る訂正」に記載した、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものと認める。 2.各引用例に記載された発明 (1)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証(商品カタログ「HKS/GOODS MASTER」)には、次の記載がなされている。 (a)「ノーマルコンピューターの特性を生かしたフューエル・コンピューター。 コンピューター制御によりクルマは、大きく進化しています。・・・PFC F-CONは、ノーマルコンピューターでは補い切れなくなったチューンドカーの燃料を、カプラーONでネットワークし、HKS独自のデータを伝えてコントロールするものです。・・・・そのうえ、Fコン本体の内部チャンネルスイッチ(10ch)を回すことにより、微妙なセッティングを行なえる様になっています。 対応車種も幅広く、インジェクターの抵抗値・制御方法・気筒数・車種・エンジン等、仕様が変更された場合でも本体はそのままで、内部スイッチやROM・ハーネスの交換で仕様変更が可能です。オプション設定のGCCIIを併用することにより、さらにきめ細かな燃料セッティングに対応できます。」(第59頁左下欄) (b)「GCCII・・・ GCCII/タイプF-CONは、PFC F-CONの燃料の増減量のパターンを基本とし、アイドリングから高回転まで自由に燃料の増減量を行なうことのできるグラフィック・コンピューターです。」(第60頁左下欄) 上記の記載からみて、フューエルコンピュータであるF-CONは、「オプション設定のGCCII」といった外部から任意に操作される補正装置と接続され、燃料の増減量をさらにきめ細かく補正できるようにしているのであるから、外部から任意に出力される補正情報を入力可能とする入力部を有しているものといえる。 したがって、以上の記載を総合すると、甲第1号証には、次のような発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ノーマルコンピュータにカプラーONでネットワークされ、燃料をコントロールするフューエルコンピュータにおいて、 外部から任意に出力される補正情報を入力可能とする入力部を有するフューエルコンピュータ。」 (2)甲第3号証に記載された発明 甲第3号証(「内国雑誌「OPTION 1986年7月臨時増刊号」)には、次の記載がなされている。 (a)「燃料のセッティングは、・・・回転と負荷による変化に対して、燃料の量をどのように変化させるかが、追い越し加速やドライバビリティをキメるのだ。 F-CONは、ノーマルのコンピュータにドッキングさせることで燃料の消費補正を適確に行なう理想的コンピュータシステム。単純に一定量だけ燃料増量していた前の方法に比べれば、そのセッティングの自由度は比べものにならない。・・・・」(90頁左下) (b)90〜91頁中央のイラストから、ノーマルコンピュータがF-CONに接続されるとともに、F-CONにエンジンからの情報(エアフローメーター、O2センサ、スロットルポジション、吸入気圧)が入力されること、及びF-CONから「エンジンへの補正した情報」が出力されることが看取できる。 ここで、甲第3号証のものも多気筒エンジンを前提としていることは明らかである。また、エンジンからの情報として燃料噴射弁駆動装置の制御に用いられるエアフローメーターが含まれていることから、F-CONは、ノーマルコンピュータを用いて多気筒エンジンの燃料噴射弁駆動装置を制御する制御動作を補正するものであり、エンジンからの情報を収集する入力部からの入力データを得て、燃料噴射制御信号の補正制御データを演算し、エンジンへの補正した情報として、補正された燃料噴射制御信号を燃料噴射弁に出力する燃料調整装置であるということができる。 したがって、以上を総合すると、甲第3号証には、次のような発明(以下、「甲第3号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「ノーマルコンピュータを用いて多気筒エンジンの燃料噴射弁駆動装置を制御する制御動作を補正する、燃料調整装置において、 ノーマルコンピュータに接続され、 エンジンからの情報を収集する入力部と 入力部の入力データを得て、それらの入力データに基づき燃料噴射制御信号の補正制御データを演算する演算制御部と、 演算制御部の補正制御データを得て、補正された燃料噴射制御信号を燃料噴射弁に出力する出力部とを有している燃料調整装置。」 (3)甲第7号証に記載された発明 甲第7号証(特開平6-88563号公報)には、次の記載がなされている 「【0009】 【実施例】 以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。 図1は本発明による点火時期計測装置の一実施例を示すブロック図である。この実施例は、上死点検出センサ2及び点火検出センサ3でエンジン1の上死点信号、点火信号をそれぞれ検出し、これら上死点信号、点火信号によって点火時期演算部7で点火時期を計測するように構成されている点は図3に示した従来例と同様であるが、エンジン1の回転変動を検出するために装着された回転検出センサ10と、この回転検出センサ10の出力を回転変動量に変換する回転変動量変換器11を設ける。 【0010】そして、この変換器11の変換出力を回転変動量入力部12を通して補正量演算部13に入力することにより、その演算部14で得られる点火時期補正量によって前記演算部7の点火時期データの補正を行うものとなっている。なお、図1において図3と同一符号は同一または相当部分を示している。 【0011】このように構成された点火時期計測装置において、エンジン1に装着された回転検出センサ10によって検出された回転信号は変換器11へ入力され、ここでエンジンの1回転中の回転変動量に変換される。そして、この回転変動量は点火時期計測装置本体4の回転変動量入力部12へ入力され、補正量演算部13で点火時期補正量に変換される。これにより、点火時期演算部7で得られる点火時期計測データは、補正量演算部7で得られた点火時期補正量によって補正され、出力部8へ送られ、外部への計測データ出力及び内蔵の計測データ表示部9のデータ表示が行われる。」(第2頁第2欄24行〜第3頁第3欄2行) 上記の記載、図面を総合すると、甲第7号証には、次の発明(以下、「甲第7号証発明」という。)が記載されているものと認められる。 「点火時期演算部7で点火時期を計測し、得られた点火時期計測データを、点火時期補正量によって補正すること。」 (4)甲第9号証に記載された発明 甲第9号証(特開平5-113147号公報)には、次の記載がなされている。 「【0015】まず図3は、内燃機関2の運転状態に応じて制御点火時期IGt及び制御噴射量τを算出する制御量算出処理を表すフローチャートである。尚、この処理は内燃機関の点火周期に同期してメインルーチンとして実行される処理である。 図に示す如く、処理が開始されると、まずステップ110にて、内燃機関2の回転速度NE及び吸気管圧力PMを読み込み、ステップ120にて、この読み込んだ回転速度NE及び吸気管圧力PMに基づき、図示しないマップを用いて基本点火時期STA及び基本噴射量TAUを算出する基本制御量算出手段としての処理を実行する。」(第3頁第4欄33〜43行) 上記記載中、「回転速度NE」、及び「吸気管圧力PM」は、エンジンの稼働状態等の各種制御情報であり、また入力データともいえる。 また、「マップを用いて基本点火時期STA及び基本噴射量TAUを算出する」ことは、「回転速度NE」、「吸気管圧力PM」という各種制御情報に対応する区画毎に、基本点火時期STAの制御データ及び基本噴射量TAUの制御データを予め記憶したマップから、「回転速度NE」、「吸気管圧力PM」という入力データを得て、それらの入力データに基づいてそれぞれの制御データを呼び出して演算することといえる。 したがって、上記の記載及び図面を総合すると、甲第9号証には、次のような発明(以下、「甲第9号証発明」という。)が周知の技術として記載されているものと認められる。 「エンジンの稼働状態等の各種制御情報に対する点火制御データ、燃料噴射制御データを予め記憶し、各種制御情報の入力データを得て、それらの入力データに基づいて点火制御データ、燃料噴射制御データを呼び出すことにより、点火制御データと燃料噴射制御データを演算すること。」 3.本件発明1について (1)本件発明1と甲第3号証発明との対比 本件発明1と甲第3号証発明を対比すると、後者の「ノーマルコンピュータ」は、その技術的意義に照らして、前者の「車両先付のエンジン制御システム」に相当し、以下同様に、後者の「燃料調整装置」は前者の「車両後付のエンジン制御装置」に、そして後者の「エンジンからの情報」は前者の「エンジンの稼働状態」にそれぞれ相当する。 また、後者の「燃料噴射弁駆動装置」と前者の「直接点火装置」は、(多気筒エンジンの)「制御対象」である限りで一致し、後者の「入力部の入力データを得て、それらの入力データに基づき燃料噴射制御信号の補正制御データを演算する演算制御部」と前者の「エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号の補正制御データを演算する演算制御部」は、「入力部の入力データを得て、それらの入力データに基づき補正制御データを演算する演算制御部」である限りにおいて一致する。 したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「車両先付のエンジン制御システムを用いて多気筒エンジンの制御対象を制御する制御動作を補正する、車両後付のエンジン制御装置において、 エンジンの稼動状態を収集する入力部と、 入力部の入力データを得て、それらの入力データに基づき補正制御データを演算する演算制御部と、 演算制御部の補正制御データを得て、制御対象に出力する出力部とを有している車両後付のエンジン制御装置」 <相違点1> 制御対象に関して、本件発明1において「直接点火装置」であるのに対して、甲第3号証発明においては「燃料噴射弁駆動装置」である点。 <相違点2> 本件発明1が「エンジン制御システムより出力される点火信号を計測する入力計測部」を有しているのに対して、甲第3号証発明がこのような入力計測部を有しているのか否か明確ではない点。 <相違点3> 本件発明1が「エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に送受信可能とするRS-232Cの通信手段を持つ外部情報入力部」を有しているのに対して、甲第3号証発明がこのような外部情報入力部を有しているのか否か明確ではない点。 <相違点4> 演算制御部に関して、本件発明1においては「エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号の補正制御データを演算する演算制御部」であるのに対して、甲第3号証発明においては、「入力部の入力データを得て、それらの入力データに基づき燃料噴射制御信号の補正制御データを演算する演算制御部」である点。 (2)相違点についての検討及び判断 (2-1)相違点1について エンジンの出力特性等の観点から、燃料噴射量、点火時期のいずれか一方、あるいは両者をより高精度に制御することは、当業者にとって自明ともいうべき課題と解されるところ、甲第3号証第90頁、91頁中央のイラストにおける「補正した点火タイミング」の記載、甲第1号証第66頁右側の「点火時期のわずかな狂いは、チューニング車にとって大敵です。 点火時期は、燃焼効率に大きな影響を与えます。点火時期のわずかな狂いがパワー・トルクに影響し、特にボルトオンターボ車は、ノッキングという点で非常に重要なものになってきます。HKS SD-EGCは、イニシャル・回転進角・バキューム進角・ブーストリタードの4項目が独立して調整・設定ができ、あらゆる走行条件下においても最適な点火時期を確保する装置です。・・・」、「より、きめ細かな点火時期制御を可能にします。 GCCI/タイプEGCは点火時期を基本として、各回転数ごとの進角/遅角調整を容易に行なうことのできるグラフィック・コンピュータです。」の記載からみて、点火装置を制御する制御動作を補正することは、周知の技術といえる。 してみると、これら周知の技術に接した当業者が、甲第3号証発明を、点火装置を制御する制御動作の補正に適用して、本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、容易に想到し得ることというべきである。 なお、「直接点火装置」とは、必ずしも点火装置の形式を示すものとして明確ではないが、特許権者が平成16年5月13日付けの意見書で主張しているとおり、これを点火プラグ毎にイグニッションコイルを有する点火装置と解せば、このような点火装置の形式は、例えば実願昭63-166752号(実開平2-87971号)のマイクロフィルム、特開昭64-41663号公報にみられるように本件出願前より周知の技術である。 (2-2)相違点2について 甲第3号証発明は、ノーマルコンピュータに接続され、燃料噴射制御信号を補正するものであるから、ノーマルコンピュータが出力する燃料噴射制御信号を補正前の信号として計測することは、当業者が当然に考慮すべき事項というべきである。 そして、前述のように、甲第7号証発明は、点火時期演算部で点火時期を計測し、得られた点火時期計測データを、点火時期補正量によって補正しているのであるから、前記相違点1についてで述べたように、甲第3号証発明を、点火装置を制御する制御動作の補正に適用するにあたり、エンジン制御システムより出力される点火信号を計測する入力計測部を設け、本件発明1の相違点2に係る構成とすることは、甲第7号証発明に基づいて、当業者が容易に想到し得ることである。 (2-3)相違点3について (2-3-1)本件訂正明細書の段落【0017】を参酌すると、本件発明1の入力部が収集するエンジンの稼働状態として、「エンジンの吸気温度、水温、スロットル弁開度、吸気圧力、吸入空気量」などが例示されている。 また、本件発明1の「エンジンの稼動状態等の各種制御情報」については、何を示すのか必ずしも明確でないが、本件訂正明細書段落【0018】を参酌すると、RS-232Cの通信手段によって稼働状態の送受信を行う外部機器として、排気温度センサ、空燃費(空燃比)センサが具体的に例示されているのみである。 そうすると、甲第3号証には、エンジンからの情報として、エアフローメータ(吸入空気量)、O2センサ(空燃比センサ)、スロットルポジション(スロットル弁開度)、吸入気圧(吸気圧力)が例示されているから、甲第3号証の入力部に入力される情報は、本件発明1の入力部から入力される情報と外部情報入力部から入力される情報の両方を含むものといえる。 そして、一般にコンピュータと複数の周辺機器や他のコンピュータ等とを任意に送受信可能となるよう接続するインターフェースとして、RS-232Cは、特許権者が提出した乙第3号証にみられるように周知の技術であるから、甲第3号証発明において、エアフローメータ(吸入空気量)、O2センサ(空燃比センサ)、スロットルポジション(スロットル弁開度)、吸入気圧(吸気圧力)といったコンピュータ外部の周辺機器のうち、任意に送受信を行う必要がある周辺機器について、RS-232Cの通信手段を持つ外部情報入力部を介して、燃料調整装置(F-CON)と接続し、本件発明1の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることというべきであり、それによる効果は、RS-232C自体の効果を超えるものではなく、当業者が予測し得る程度のものである。 なお、特許権者は、上記第1、7の意見書第4頁14〜22行において、相違点3に係る効果として、「演算制御部で使用する2・3次元マップのデータを書き換える等を行なうようにデータを外部機器と外部情報入力部との間において双方向で送受信することができ、これにより、エンジンの制御動作を所望する特性に最適化できる」といった趣旨の主張しているが、本件訂正明細書の段落【0018】の 「(3) 外部情報入力部 外部情報入力部13は、エンジンの稼動状態、演算制御部14による補正量の調整等の各種制御情報の入力データを演算制御部14に任意に入力可能とする。このとき、外部情報入力部13では、演算制御部14による補正量の調整操作のための可変抵抗器等の手動ボリュームを外部に接続し、その操作量を電気信号に変えてデジタルデータに変換する他、RS-232C等の通信手段によって外部機器(排気温度センサ、空燃費センサ等)からのエンジン稼動状態の送受信を行ない、入力データとする。」との記載によれば、RS-232C等の通信手段によって送受信する外部機器として、排気温度センサ、空燃比センサが具体的に例示されているのみであり、しかも本件明細書中に演算制御部で使用する2・3次元マップのデータを書き換える等を行なうようにデータを外部機器と外部情報入力部との間において双方向で送受信する点についてはなんら示されていないから、上記主張は、明細書の記載に基づかないものというべきである。 (2-3-2)仮に「エンジン稼働状態等の各種制御情報」として、エンジンの制御動作を所望する特性に最適化するための補正情報が含まれるものとした場合について、次に検討する。 前述のとおり、甲第1号証には、「ノーマルコンピュータにカプラーONでネットワークされ、燃料をコントロールするフューエルコンピュータにおいて、外部から任意に出力される補正情報を入力可能とする入力部を有するフューエルコンピュータ」(甲第1号証発明)が記載されており、甲第1号証発明のフューエルコンピュータは、ノーマルコンピュータに接続され、その制御動作をさらにきめ細かく補正するものであるから、甲3号証発明と同様の「ノーマルコンピュータを用いて多気筒エンジンの燃料噴射弁駆動装置を制御する制御動作を補正する、燃料調整装置」すなわち「車両後付のエンジン制御装置」に係るものであり、しかも、外部から任意に出力される補正情報、すなわちエンジン稼働状態等の各種制御情報を任意に入力する外部情報入力部を有するものといえる。 ここで、甲第1号証には、外部から任意に出力される補正情報に基づき、制御動作をさらにきめ細かく補正するものとして、グラフィックコンピュータである「GCCII」が示されており、ともにコンピュータである「フューエルコンピュータ」と「GCCII」とは、インターフェース等の通信手段を介して接続されるものと解するのが相当である。 してみると、甲第1号証には「エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に入力可能とする通信手段を持つ外部情報入力部を備えた燃料調整装置」が記載されているものといえる。 したがって、甲第3号証発明に甲第1号証発明を適用して、エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に入力可能とする通信手段を持つ外部情報入力部を設けることは、当業者が容易に想到し得ることであり、しかも、前述のとおり、コンピュータと他のコンピュータ等とを接続するインターフェースとして、両者を任意に送受信可能とするRS-232Cは周知の技術であるから、RS-232Cを使用することは、その適用にあたって当業者が適宜なし得ることである。 以上のとおりであるから、本件発明1の相違点3に係る構成は、甲第3号証発明、甲第1号証発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に想到し得たものともいえる。 (2-4)相違点4について エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する点火制御データや燃料噴射制御データを予め記憶し、各種制御情報の入力データを得て、この点火制御データや燃料噴射制御データを呼び出すこと、すなわち参照することにより、点火制御データ、燃料噴射制御データを演算することは、例えば前述した甲第9号証のほか、特開平5-88873号公報、特開平3-242463号公報、特開平3-242442号公報にみられるように、本件出願前より周知の技術である。 また、甲第3号証発明においても、ノーマルコンピュータが出力する噴射制御信号を補正前の信号として処理することは、当業者が当然に考慮すべき事項というべきである。 したがって、本件発明1の相違点4に係る構成は、前述のように甲第3号証発明を点火装置を制御する制御動作の補正に用いる際に、当業者が容易に容易に採用し得ることである。 (2-5)相違点についての検討及び判断のむすび 本件発明1を全体構成でみても、その作用、効果は、甲第3号証発明、甲第7号証発明、甲第1号証発明及び甲第9号証発明等の周知の技術から当業者が予測し得る程度のものにすぎない。 したがって、本件発明1は、当業者が、甲第3号証発明、甲第7号証発明、甲第1号証発明及び甲第9号証発明等の周知の技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 4.本件発明2について (1)本件発明2と甲第3号証発明との対比 本件発明2と甲第3号証発明を対比すると、後者の「ノーマルコンピュータ」は、その技術的意義に照らして、前者の「車両先付のエンジン制御システム」に相当し、以下同様に、後者の「燃料調整装置」は前者の「車両後付のエンジン制御装置」に、そして後者の「エンジンからの情報」は前者の「エンジンの稼働状態」にそれぞれ相当する。 また、後者の「燃料噴射弁駆動装置」と前者の「直接点火装置とシーケンシャル噴射方式の燃料噴射弁駆動装置」は、(多気筒エンジンの)「制御対象」である限りで一致し、後者の「入力部の入力データを得て、それらの入力データに基づき燃料噴射制御信号の補正制御データを演算する演算制御部」と前者の「エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データと最適燃料噴射制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データと最適燃料噴射制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号と最適燃料噴射信号の補正制御データを演算する演算制御部」は、「入力部の入力データを得て、それらの入力データに基づき補正制御データを演算する演算制御部」である限りにおいて一致する。 したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「車両先付のエンジン制御システムを用いて多気筒エンジンの制御対象を制御する制御動作を補正する、車両後付のエンジン制御装置において、 エンジンの稼動状態を収集する入力部と、 入力部の入力データを得て、それらの入力データに基づき補正制御データを演算する演算制御部と、 演算制御部の補正制御データを得て、制御装置に出力する出力部とを有している車両後付のエンジン制御装置」 <相違点1> 制御対象に関して、本件発明2において「直接点火装置とシーケンシャル噴射方式の燃料噴射弁駆動装置」であるのに対して、甲第3号証発明においては「燃料噴射弁駆動装置」である点。 <相違点2> 本件発明2が「エンジン制御システムより出力される点火信号と燃料噴射信号とを計測する入力計測部」を有しているのに対して、甲第3号証発明がこのような入力計測部を有しているのか否か明確ではない点。 <相違点3> 本件発明2が「エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に送受信可能とするRS-232Cの通信手段を持つ外部情報入力部」を有しているのに対して、甲第3号証発明がこのような外部情報入力部を有しているのか否か明確ではない点。 <相違点4> 演算制御部に関して、本件発明2においては「エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データと最適燃料噴射制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データと最適燃料噴射制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号と最適燃料噴射信号の補正制御データを演算する演算制御部」であるのに対して、甲第3号証発明においては、「入力部の入力データを得て、それらの入力データに基づき燃料噴射制御信号の補正制御データを演算する演算制御部」である点。 (2)相違点についての検討及び判断 (2-1)相違点1について 上記3.「本件発明1について」の(2)、(2-1)の「相違点1について」で述べたように、エンジンの出力特性等の観点から、燃料噴射量及び点火時期の両者をより高精度に制御することは、当業者にとって自明ともいうべき課題であると解されるところ、点火装置及び燃料噴射弁駆動装置を制御することは、甲第9号証発明のほか、特開平5-88873号公報、特開平3-242463号公報、特開平3-242442号公報にみられるように、本件出願前より周知である。 したがって、甲第3号証発明を、点火装置及び燃料噴射弁駆動装置を制御する制御動作の補正に適用して、本件発明2の相違点1に係る構成とすることは、容易に想到し得ることというべきである。 なお、「直接点火装置」は、上記3.「本件発明1について」の(2)、(2-1)の「相違点1について」で述べたとおり周知の技術であり、また、シーケンシャル方式、すなわち同期噴射方式、独立噴射方式の燃料噴射弁駆動装置も広く周知の技術であって、例えば、甲第9号証のものも、第3頁第4欄33行〜第4頁第5欄10行及び第3図の記載からみて、燃料噴射弁の制御が点火時期に同期して行われていると解されることから、シーケンシャル方式の燃料噴射弁駆動装置というべきである。 (2-2)相違点2について 甲第3号証発明は、ノーマルコンピュータに接続され、燃料噴射制御信号を補正するものであるから、ノーマルコンピュータが出力する燃料噴射制御信号を補正前の信号として計測することは、当業者が当然に考慮すべき事項というべきである。 そして、前述のように、甲第7号証発明は、点火時期演算部で点火時期を計測し、得られた点火時期計測データを、点火時期補正量によって補正しているのであるから、前記相違点1についてで述べたように、甲第3号証発明を、点火装置及び燃料噴射弁駆動装置を制御する制御動作の補正に適用するにあたり、エンジン制御システムより出力される点火信号と燃料噴射信号を計測する入力計測部を設け、本件発明2の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2-3)相違点3について 上記3.「本件発明1について」の(2)、(2-3)の「相違点3について」で検討したとおりである。 (2-4)相違点4について 上記3.「本件発明1について」の(2)、(2-4)の「相違点4について」についてで述べたとおり、エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する点火制御データ及び燃料噴射制御データを予め記憶し、各種制御情報の入力データを得て、この点火制御データや燃料噴射制御データに参照することにより点火制御データ、燃料噴射制御データを演算することは、前述した甲第9号証発明のほか、例えば特開平5-88873号公報、特開平3-242463号公報、特開平3-242442号公報にみられるように、本件出願前より周知の技術である。 また、甲第3号証発明においても、ノーマルコンピュータが出力する噴射制御信号を補正前の信号として処理することは、当業者が当然に考慮すべき事項というべきである。 したがって、本件発明2の相違点4に係る構成は、前述のように甲第3号証発明を点火装置及び燃料噴射弁駆動装置を制御する制御動作の補正に用いる際に、当業者が容易に採用し得ることである。 (2-5)相違点についての検討及び判断のむすび 本件発明2を全体構成でみても、その作用、効果は、甲第3号証発明、甲第7号証発明、甲第1号証発明及び甲第9号証発明等の周知の技術から当業者が予測し得る程度のものにすぎない。 したがって、本件発明2は、当業者が、甲第3号証発明、甲第7号証発明、甲第1号証発明及び甲第9号証発明等の周知の技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5.むすび したがって、本件発明1、2は、甲第3号証発明、甲第7号証発明、甲第1号証発明及び甲第9号証発明等の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本件発明1、2についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるので、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 車両後付のエンジン制御装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 車両先付のエンジン制御システムを用いて多気筒エンジンの直接点火装置を制御する制御動作を補正する、車両後付のエンジン制御装置において、 エンジン制御システムより出力される点火信号を計測する入力計測部と、 エンジンの稼動状態を収集する入力部と、 エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に送受信可能とするRS-232Cの通信手段をもつ外部情報入力部と、 エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号の補正制御データを演算する演算制御部と、 演算制御部の補正制御データを得て、最適点火信号を直接点火装置に出力する出力部とを有してなることを特徴とする車両後付のエンジン制御装置。 【請求項2】 車両先付のエンジン制御システムを用いて多気筒エンジンの直接点火装置とシーケンシャル噴射方式の燃料噴射弁駆動装置を制御する制御動作を補正する、車両後付のエンジン制御装置において、 エンジン制御システムより出力される点火信号と燃料噴射信号とを計測する入力計測部と、 エンジンの稼動状態を収集する入力部と、 エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に送受信可能とするRS-232Cの通信手段をもつ外部情報入力部と、 エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データと最適燃料噴射制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データと最適燃料噴射制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号と最適燃料噴射信号の補正制御データを演算する演算制御部と、 演算制御部の補正制御データを得て、最適点火信号を点火装置に出力するとともに、最適燃料噴射信号を燃料噴射弁駆動装置に出力する出力部とを有してなることを特徴とする車両後付のエンジン制御装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は車両後付のエンジン制御装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来、車両にはエンジンの電子制御システムが先付にて搭載され、エンジンの温度、吸気圧力、スロットル弁開度等の稼動状態に応じ、エンジンの点火信号(点火タイミング、閉角度)、燃料噴射信号(噴射タイミング、噴射量)を制御可能としている。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】 然るに、従来技術では、エンジンの出力特性、効率に重大な影響を与える点火タイミング、閉角度の制御、もしくは点火タイミング、閉角度、噴射タイミング、噴射量の制御に関し、量産対応可能な画一的な点火信号、燃料噴射信号により制御動作することとしている。 【0004】 このため、点火や燃料噴射の制御動作が、本来、エンジン自体の個体差、制御システム自体の誤差や個体差、エンジンが使用される環境、使用者の用途、使用するガソリンやオイルの違い等によって、エンジンの1台1台でそれらの特性に合わせ、最適に適合させる必要があるにも関わらず、実際には困難である。 【0005】 本発明は、車両先付のエンジン制御システムの装置内部に一切の手を加えることなく、配線の接続のみで点火、もしくは点火と燃料噴射の制御動作を補正可能とし、それらの制御動作をエンジンの1台1台の特性に最適に適合せしめることを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】 請求項1に記載の発明は、車両先付のエンジン制御システムを用いて多気筒エンジンの直接点火装置を制御する制御動作を補正する、車両後付のエンジン制御装置において、エンジン制御システムより出力される点火信号を計測する入力計測部と、エンジンの稼動状態を収集する入力部と、エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に送受信可能とするRS-232Cの通信手段をもつ外部情報入力部と、エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号の補正制御データを演算する演算制御部と、演算制御部の補正制御データを得て、最適点火信号を直接点火装置に出力する出力部とを有してなるものである。 【0007】 請求項2に記載の発明は、車両先付のエンジン制御システムを用いて多気筒エンジンの直接点火装置とシーケンシャル噴射方式の燃料噴射弁駆動装置を制御する制御動作を補正する、車両後付のエンジン制御装置において、エンジン制御システムより出力される点火信号と燃料噴射信号とを計測する入力計測部と、エンジンの稼動状態を収集する入力部と、エンジンの稼動状態等の各種制御情報を任意に送受信可能とするRS-232Cの通信手段をもつ外部情報入力部と、エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データと最適燃料噴射制御データを予め記憶し、入力計測部の計測データ、及び入力部と外部情報入力部の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データと最適燃料噴射制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号と最適燃料噴射信号の補正制御データを演算する演算制御部と、演算制御部の補正制御データを得て、最適点火信号を点火装置に出力するとともに、最適燃料噴射信号を燃料噴射弁駆動装置に出力する出力部とを有してなるものである。 【0008】 【作用】 (1)車両先付のエンジン制御システムに、車両後付のエンジン制御装置を接続することにより、エンジンや制御システムの個体差によるバラツキに対し、点火信号、もしくは点火信号と燃料噴射信号を最適値に適合させることができる。また、複数のエンジン稼動情報を入力部から入力することにより、より複数の制御パラメータでそれらの信号を演算することができ、エンジンの制御動作をより高精度にできる。 【0009】 (2)使用者の限定した使い方、例えば経済性を重視する場合や出力特性を重視する場合等についても、エンジンの制御動作をその用途に則して最適化できる。また、エンジンの制御動作を外部情報入力部を用いて任意に選択調整することもできる(例えば補正量の調整等)。よって、エンジンの使われ方に対しても、エンジンの制御動作を最適化できる。 【0010】 【実施例】 図1は本発明のエンジン制御装置の一例を示すブロック図、図2は入力計測部の計測データの一例を示す模式図、図3は出力部の出力データの一例を示す模式図である。 【0011】 車両後付のエンジン制御装置10は、マイクロコンピュータを用いて構成されており、図1に示す如く、入力計測部11、入力部12、外部情報入力部13、演算制御部14、出力部15を有する。そして、エンジン制御装置10は、車両先付のエンジン制御システムに接続して用いられ、当該エンジン制御システムによる制御動作を補正する。 【0012】 以下、各部の構成について説明する。 (1)入力計測部(図2) 入力計測部11は、エンジン制御システムより出力される点火信号、もしくは点火信号と噴射信号を計測し、この計測データを演算制御部14に入力する。このとき、入力計測部11は、エンジンの回転信号例えば上死点信号、クランク角度信号或いはそれらの双方とも利用して基準信号とし、その基準信号から点火信号もしくは点火信号と噴射信号の正確な時間を計測し、その時間をデジタルデータに変換して計測データとする。 【0013】 具体的には、入力計測部11は、16ビットカウンターとレジスタにより構成され、図2に示す如く、エンジンの回転信号を基準信号として点火信号、もしくは点火信号と噴射信号に対して、その信号の立上り又は立下がりまでの正確な時間T1、T2をカウントし、レジスタに記憶させる。また、各信号入力の立上り、立下がり時には、それぞれに同期して割込み信号を発生させる。 【0014】 T1は点火信号(もしくは燃料噴射信号)の立上りタイミング、T2は点火信号(もしくは燃料噴射信号)の立下がりタイミングであり、T2が点火タイミング(もしくは噴射タイミング)、T2-T1が閉角度(点火コイルへの通電時間)(もしくは噴射量)を表わす。 【0015】 そして、入力計測部11は、各種のエンジン制御システムに対応させるため、複数の組合わせをもって構成される。本実施例の場合には、多気筒エンジンの直接点火装置、シーケンシャル噴射方式に対応させるため、それぞれ8組ずつの16ビットカウンター、レジスタ、割込み発生回路を設けている。 【0016】 (2)入力部 入力部12は、エンジンの稼動状態を収集し、この入力データを演算制御部14に入力する。このとき、入力部12は、エンジン各部に取り付けているセンサによって、エンジン稼動時の温度、吸気圧力、スロットル弁開度等の情報を電気信号に変え、この信号をデジタルデータに変換して入力データとする。 【0017】 具体的には、入力部12は、センサからの電気信号を正確に検出するためのバッファアンプとデジタル値に変換するためのA/Dコンバータにより構成され、エンジンの吸気温度、水温、スロットル弁開度、吸気圧力、吸入空気量等、複数の情報を検出する。本実施例では、この入力として、8入力、及び情報値が周波数値の場合もあるため、16ビットカウンター、レジスターの2入力設けている。 【0018】 (3)外部情報入力部 外部情報入力部13は、エンジンの稼動状態、演算制御部14による補正量の調整等の各種制御情報の入力データを演算制御部14に任意に入力可能とする。このとき、外部情報入力部13では、演算制御部14による補正量の調整操作のための可変抵抗器等の手動ボリュームを外部に接続し、その操作量を電気信号に変えてデジタルデータに変換する他、RS-232C等の通信手段によって外部機器(排気温度センサ、空燃費センサ等)からのエンジン稼動状態の送受信を行ない、入力データとする。 【0019】 具体的には、外部情報入力部13は、センサからの電気信号を正確に検出するためのバッファアンプとデジタル値に変換するためのA/Dコンバータの構成の他、通信手段としてRS-232C、SBI等の通信ポートを用意し、外部からの情報をデジタル値として入力する。 【0020】 (4)演算制御部 演算制御部14は、エンジンの稼動状態等の各種制御情報に対する最適点火制御データと最適燃料噴射制御データを予め記憶し、入力計測部11の計測データ、及び入力部12と外部情報入力部13の入力データを得て、それらの入力データを上記最適点火制御データと最適燃料噴射制御データに参照することにより上記計測データを補正した最適点火信号と最適燃料噴射信号の補正制御データを演算する。 【0021】 具体的には、演算制御部14は、中央処理装置(CPU)、及びプログラム、データを記憶させる記憶素子等によって構成され、入力計測部11より送られてくる割込み信号又はエンジンの回転信号による割込みにより指定されたプログラミングに従って入力部12、外部情報入力部13の入力データを得て、入力計測部11の計測データを補正した補正制御データを演算し、この補正制御データを出力部15に入力する。 【0022】 即ち、演算制御部14は、入力部12、外部情報入力部13の入力データを、2次元もしくは3次元マップのテーブルルックアップ方式により予め記憶している最適点火制御データもしくは最適燃料噴射制御データに参照し、補間法を用いて補正量(A+B+C+D+…)、(A´+B´+C´+D´+…)を演算する。このとき、2次元もしくは3次元等のn次元マップは、最適点火制御データもしくは最適燃料噴射制御データについて、入力部12、外部情報入力部13の入力データに対応するエンジンの吸気温度に対する最適補正量A、A´、水温に対する最適補正量B、B´、スロットル弁開度に対する最適補正量C、C´、吸気圧力に対する最適補正量D、D´、吸入空気量に対する最適補正量E、E´、排気温度に対する最適補正量F、F´、空燃費に対する最適補正量G、G´等を定めたものである。これにより、演算制御部14は、入力計測部11の計測データT1、T2を、下記(1)、(2)式にて補正し、最適点火信号もしくは最適燃料噴射信号の補正制御データT01、T02を演算する。 【0023】 T01=T1+(A+B+C+D+…) …(1) T02=T2+(A´+B´+C´+D´+…)…(2) 【0024】 T01は最適点火信号(もしくは最適燃料噴射信号)の立上りタイミング、T02は最適点火信号(もしくは最適燃料噴射信号)の立下りタイミングであり、T02が最適点火タイミング(もしくは最適噴射タイミング)、T02-T01が最適閉角度(もしくは最適噴射量)を表わす。 【0025】 (5)出力部 出力部15は、演算制御部14の補正制御データT01、T02を得て、最適点火信号を点火装置に出力するとともに、最適燃料噴射信号を燃料噴射弁駆動装置に出力する。 【0026】 具体的には、出力部15は、図3に示す如く、16ビットカウンタ、出力ロジック回路より構成され、回転信号を基準信号として演算制御部14により変更、可変した最適制御データT01、T02によりカウンタを動作させ、出力ロジック回路により最適点火信号を点火装置に出力し、最適燃料噴射信号を燃料噴射弁駆動装置に出力する。 【0027】 エンジン制御装置10では、入力計測部11、入力部12、外部情報入力部13、演算制御部14、出力部15による以上の一連の動作により、エンジン制御システムより出力される点火信号と燃料噴射信号を最適化し、点火装置と燃料噴射弁駆動装置を駆動可能とするものである。 【0028】 以下、本実施例の作用について説明する。 (1)車両先付のエンジン制御システムに、車両後付のエンジン制御装置10を接続することにより、エンジンや制御システムの個体差によるバラツキに対し、点火信号、もしくは点火信号と燃料噴射信号を最適値に適合させることができる。また、複数のエンジン稼動情報を入力部12から入力することにより、より複数の制御パラメータでそれらの信号を演算することができ、エンジンの制御動作をより高精度にできる。 【0029】 (2)使用者の限定した使い方、例えば経済性を重視する場合や出力特性を重視する場合等についても、エンジンの制御動作をその用途に則して最適化できる。また、エンジンの制御動作を外部情報入力部13を用いて任意に選択調整することもできる(例えば補正量の調整等)。よって、エンジンの使われ方に対しても、エンジンの制御動作を最適化できる。 【0030】 以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。 【0031】 【発明の効果】 以上のように本発明によれば、車両先付のエンジン制御システムの装置内部に一切の手を加えることなく、配線の接続のみで点火、もしくは点火と燃料噴射の制御動作を補正可能とし、それらの制御動作をエンジンの1台1台の特性に最適に適合せしめることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 図1は本発明のエンジン制御装置の一例を示すブロック図である。 【図2】 図2は入力計測部の計測データの一例を示す模式図である。 【図3】 図3は出力部の出力データの一例を示す模式図である。 【符号の説明】 10 エンジン制御装置 11 入力計測部 12 入力部 13 外部情報入力部 14 演算制御部 15 出力部 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2004-09-14 |
出願番号 | 特願平7-15480 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZA
(F02P)
|
最終処分 | 取消 |
特許庁審判長 |
石原 正博 |
特許庁審判官 |
長谷川 一郎 飯塚 直樹 |
登録日 | 2003-04-25 |
登録番号 | 特許第3422866号(P3422866) |
権利者 | 株式会社エッチ・ケー・エス |
発明の名称 | 車両後付のエンジン制御装置 |
代理人 | 塩川 修治 |
代理人 | 塩川 修治 |
代理人 | 日高 一樹 |
代理人 | 渡邉 知子 |
代理人 | 重信 和男 |