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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F01M
管理番号 1111231
異議申立番号 異議2003-70749  
総通号数 63 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-11-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-24 
確定日 2005-02-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第3328502号「内燃機関のバルブリフタ」の請求項1に係る特許に対する特許異議事件についてした平成16年2月24日付の決定に対し、東京高等裁判所において決定取消しの判決(平成16年(行ケ)114号、平成16年11月30日判決言渡)があったので、さらに審理の上、次のとおり決定する。 
結論 特許第3328502号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
(1)特許出願:平成8年4月23日
(2)特許権の設定登録:平成14年7月12日
(3)特許公報の発行:平成14年9月24日
(4)特許異議の申立て:平成15年3月24日
(5)取消理由の通知:平成15年6月2日
(発送日:平成15年6月13日)
(6)意見書の提出:平成15年8月8日
(7)特許異議の決定(取消決定):
平成16年2月4日(発送日:平成16年2月24日)
(8)上記(7)の決定の取消しを求めて高等裁判所への出訴:
平成16年3月24日(平成16年(行ケ)114号)
(9)訂正審判(訂正2004-39108号)の請求:
平成16年5月6日
(10)訂正拒絶理由の通知:平成16年7月15日
(発送日:平成16年7月22日)
(11)意見書の提出:平成16年9月21日
(12)上記(9)の訂正審判の請求に対して、訂正認容の審決:
平成16年10月19日(確定:平成16年10月29日)
(13)特許異議の決定取消しの判決言渡:平成16年11月30日

2.特許異議申立ての理由及び取消の理由の概要
特許異議申立人 株式会社 リケンが主張する特許異議申立ての理由及び上記1.(5)で通知した取消の理由の概要は次のとおりである。
「本件の請求項1に係る発明は、本件の特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件の請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


刊行物1:実願平3-108250号(実開平5-50003号)のCD- ROM
刊行物2:実願昭56-89730号(実開昭57-200609号)のマ イクロフィルム
刊行物3:実願平3-26175号(実開平4-113706号)のマイク ロフィルム
刊行物4:実願昭63-109228号(実開平2-31307号)のマイ クロフィルム」

3.本件発明
上記1.(12)に示したとおり、同(9)の訂正審判の請求に関して、訂正認容の審決が確定したので、本件特許第3328502号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正審判請求書に添附された全文訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)に記載された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものであると認める。
「【請求項1】有底円筒状のリフタ本体の頂部壁の上面に凹部を設け、この凹部にバルブクリアランス調整用のシムを収容した内燃機関のバルブリフタであって、カムの回転力によって前記凹部内で回転する前記シムと、凹部の底壁の対応する位置に夫々貫通孔を形成すると共に、凹部の底壁上面に、このシムと凹部の各貫通孔を連通する環状溝を形成すると共に、前記凹部の中心と周壁の間の曲げモーメントの作用しない位置に前記凹部の貫通孔と環状溝とを形成し、該環状溝の溝深さを少なくとも0.1mmに設定すると共に、前記シムの上面に滴下した潤滑油を、シムと凹部の貫通孔を通して、スプリングリテーナの上面に滴下させると共に前記頂部壁の下面中央と吸排気バルブのバルブステムとの接触部に導入するようにしたことを特徴とする内燃機関のバルブリフタ。」

4.引用刊行物に記載された発明
(1)刊行物1
上記刊行物1には、特にその明細書第5頁1〜26行、第7頁3行〜第8頁5行、及び図1〜4の記載によれば、次のような発明が記載されているものと認められる。
「カム3とステム21との間に位置する天井部11と、該天井部21の外周より下方に垂設した筒状ガイド部72とよりなるバルブリフタ1において、上記天井部11の内側面は、ステム21と当接する当接面112と、該当接面112と筒状ガイド部と72の間に位置するチップ部内面115とを有するものであり、該バルブリフタ1のチップ部内面115における断面形状を、上方に向かうテーパ状凹部14に形成することにより、バルブリフタ作動時の応力の影響が少なく、バルブリフタの強度低下を生ずることがなく、バルブリフタ1を軽量化すること。」(以下、「引用発明1」という。)
(2)刊行物2
上記刊行物2には、特にその明細書第1頁第5〜12頁、第4頁第7〜13行、第5頁第12行〜第6頁第4行、第6頁第9〜18行、及び第1〜6図の記載によれば、次のような発明が記載されているものと認められる。
「有底円筒状のバルブリフタ13の上面に円形凹部10を設け、この円形凹部10にバルブクリアランス調整用のアジャスティングシム19を収容した内燃機関のバルブリフタであって、
前記アジャスティングシム19の外周部4等配位置には半径方向に内方に切り欠かれる切欠部20を形成し、円形凹部上面14にリング状の油溝17を形成し、円形凹部上面14からバルブリフタ13の内部に連通する油通路18を形成し、
シムの上面に滴下した潤滑油を、アジャスティングシム19の切欠部20、油溝17、油通路18を通してバルブリテーナ7の上面に流下し、バルブリテーナ7の上下振動によってバルブステム上端面4Aを潤滑するものにおいて、
円形凹部上面14とバルブリフタ13の上面15とによって形成される段部16に沿ってリング状の油溝17を刻設し、この油溝17の円周方向4等配位置には、円形凹部上面14からバルブリフタ13の内部に連通する油通路18を突設した内燃機関のバルブリフタ。」(以下、「引用発明2」という。)

(3)刊行物3
上記刊行物3には、特にその明細書第4頁13行〜第5頁9行、及び図1、2の記載によれば、次のような発明が記載されているものと認められる。
「バルブリフタ1の有底嵌合穴2の中心と周壁の間の位置に油孔3を形成すること。」 (以下、「引用発明3」という。)

(4)刊行物4
上記刊行物4には、特にその明細書第4頁13行〜同第7頁2行、及び図1、2の記載によれば、次のような発明が記載されているものと認められる。
「有底円筒状のバルブリフタ10本体の頂部壁の上面に有底嵌合穴30を設け、この有底嵌合穴30にバルブクリアランス調整用のシム32を収容した内燃機関のバルブリフタであって、前記シム32に貫通孔34を形成すると共に、有底嵌合穴30の底壁上面に、このシム32の貫通孔34を連通する環状溝36を形成すると共に、前記有底嵌合穴30の中心と周壁との間に前記環状溝36を形成し、該環状溝36の溝深さを10μm程度に設定すると共に、前記シム32の上面に滴下した潤滑油を、シム32の貫通孔34を通して、前記環状溝36に導入するようにした内燃機関のバルブリフタ。」(以下、「引用発明4」という。)

5.対比・判断
本件発明と上記した引用発明1〜4とを対比すると、引用発明1〜4のいずれも、本件発明の「環状溝の溝深さを少なくとも0.1mmに設定する」という事項を具備しておらず、また、刊行物1〜4の全記載を参酌しても、この事項について、何らの記載も示唆もなされていない。
なお、引用発明4によれば、環状溝の深さについて10μm程度に設定することが示されているものの、10μmと本件発明における0.1mmとの間には顕著な相違があり、しかも引用発明4は、有底嵌合穴30に貫通孔を具備しておらず、本件発明の環状溝とは、前提を異にしているから、本件発明における環状溝の溝深さを少なくとも0.1mmに設定することを示唆するものではないというべきである。
本件特許権者は、本件発明の上記環状溝の溝深さに係る技術的意義に関して、上記1.(11)の意見書(以下、単に「意見書」という。)において、概略、次のように主張している。
(a)バルブリフタ頂部壁の下面中央と吸排気バルブのバルブステムとの接触部に作用するカムからの押圧力とバルブスプリングのばね反力とによる圧縮荷重に対する接触荷重、バルブリフタ、吸排気バルブの材料は、軽自動車も含め一般の自動車では大きく変わることが無く、したがって必要最低限の潤滑油量もほとんど変わらず、1.9mg程度であること。
(b)相対移動する上下の平面板間の隙間内の流量と圧力の関係式(意見書第12頁下から2行)によれば、環状溝の溝に関する諸元のうち、潤滑油流量は、溝深さの3乗に比例する項を有することから、シムの回転を前提としたとき、粘性流力学上、溝深さは、他の諸元に比べて環状溝を流れる潤滑油流量に大きな影響を与えること。
(c)エンジン回転数が2,000rpm、運転時間20分、潤滑油温80℃の条件下での実験結果によれば、バルブの外径や環状溝の溝に関する諸元のうち、
(ア)バルブの外径が27mm(軽自動車用)、環状溝の巾が1.6mmかつ環状溝の巾中心位置における径が18mmのもの。
(イ)バルブの外径が27mm、環状溝の巾が2.5mmかつ環状溝の巾中心位置における径が18mmのもの。
(ウ)バルブの外径が27mm、環状溝の巾が1.6mmかつ環状溝の巾中心位置における径が16mmのもの。
(エ)バルブの外径が30mm(一般乗用車用)、環状溝の巾が2.0mmかつ環状溝の巾中心位置における径が22mmのもの。
のいずれのバルブリフタであっても、溝深さを少なくとも0.1mm以上に設定することによって、必要な潤滑油量、すなわち上記(a)の1.9mg程度が確保されること。
そこで、上記主張について検討する。
上記主張(c)の根拠となった実験結果を示す上記意見書の図1によれば、特定のエンジン運転状態を前提にするものの、上記(ア)〜(エ)のいずれのバルブリフタにおいても、「環状溝の溝深さを少なくとも0.1mmに設定する」ことにより、必要な潤滑油量が確保でき、かつ環状溝の溝深さが0.1mmに満たなければ、必要な潤滑油量を下回ることが示されている。
したがって、本件発明の「環状溝の溝深さを少なくとも0.1mmに設定する」という事項により、訂正明細書段落【0021】に記載された「潤滑油Lを円滑に頂部壁25の貫通孔39に誘導する」という作用、効果が奏され得るものと解することができる。
しかも、環状溝の深さを深くしすぎれば、バルブリフタの強度確保の観点から頂部壁の肉厚を厚くしなければならないのは、自明のことと解されることから、上記作用、効果を前提にすれば、「環状溝の溝深さを少なくとも0.1mmに設定する」という事項により、バルブリフタの強度を確保しつつ、潤滑油を円滑に頂部壁の貫通孔に誘導するための必要最小限の環状溝の深さが特定されるものと解される。
してみれば、訂正明細書の段落【0007】に記載された「そこで本発明は、リフタ本体の内部に潤滑油を供給するための通路構造を改良することによってリフタ本体の肉厚を薄くできるようにして、充分な装置の小型・軽量化を図ることができる内燃機関のバルブリフタを提供しようとするものである。」という、本件発明が解決しようとする課題からみて、本件発明を全体構成における上記事項の技術的意義を直ちに否定することはできない。
よって、本件発明の「環状溝の溝深さを少なくとも0.1mmに設定する」事項を当業者が容易に想到し得たものとすることはできないから、本件発明が引用発明1〜4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと断じることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由および証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-02-04 
出願番号 特願平8-100912
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F01M)
最終処分 維持  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 亀井 孝志
鈴木 充
登録日 2002-07-12 
登録番号 特許第3328502号(P3328502)
権利者 株式会社日立製作所 日産自動車株式会社
発明の名称 内燃機関のバルブリフタ  
代理人 小林 博通  
代理人 富岡 潔  
代理人 橋本 剛  
代理人 桑原 英明  
代理人 橋本 剛  
代理人 富岡 潔  
代理人 小林 博通  

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