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審決分類 |
審判 判定 同一 属する(申立て成立) C09J |
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管理番号 | 1111243 |
判定請求番号 | 判定2004-60079 |
総通号数 | 63 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許判定公報 |
発行日 | 2002-10-31 |
種別 | 判定 |
判定請求日 | 2004-09-21 |
確定日 | 2005-01-29 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第3522729号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 |
結論 | イ号物件説明書に示す「水性接着剤」は、特許第3522729号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する。 |
理由 |
I.請求の趣旨 本件判定請求の趣旨は、イ号物件説明書に記載する「水性接着剤」(アイカエコエコボンドA-1400)が特許第3522729号の請求項1に係る発明(以下、本件特許発明という。)の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。 II.本件特許発明 1.本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「シード重合により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなり且つ可塑剤を実質的に含まない水性接着剤であって、測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い、温度23℃、周波数0.1Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′を測定したとき、その値がほぼ一定となる線形領域における該貯蔵弾性率G′の値が120〜1500Paであり、且つ測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い、温度7℃の条件でずり速度を0から200(1/s)まで60秒間かけて一定の割合で上昇させてずり応力τを測定したとき、ずり速度200(1/s)におけるずり応力τの値が100〜2000Paである水性接着剤。」 2.本件特許発明の特定事項を分説すると次のようになる。(この点について、当事者間に争いはない。) 「(A)以下の要件を具備する水性接着剤であること。 (A-1)シード重合により得られること。 (A-2)酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなること。 (A-3)可塑剤を実質的に含まないこと。 (B)前記水性接着剤は、以下の特性を満足すること。 (B-1)貯蔵弾性率G′aの値が120〜1500Paであること。 (B-2)ずり応力τaの値が100〜2000Paであること。 (C)前記貯蔵弾性率G′aの値及び前記ずり応力τaの値の測定方法は、以下の特定の方法であること。 (C-1)測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い、温度23℃、周波数0.1Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′を測定したとき、その値がほぼ一定となる線形領域における貯蔵弾性率G′の値を、前記(B-1)でいう貯蔵弾性率G′aの値とすること。 (C-2)測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い、温度7℃の条件でずり速度を0から200(1/s)まで60秒間かけて一定の割合で上昇させてずり応力τを測定したとき、ずり速度200(1/s)におけるずり応力τの値を、前記(B-2)でいうずり応力τaの値とすること。」 III.イ号物件 1.イ号物件説明書に示されるイ号物件は、以下のとおりのものである。 「イ号物件は、アイカ工業株式会社が『アイカエコエコボンドA-1400』なる商品名で製造販売している水性接着剤である。 イ号物件は、以下の構成よりなるものである。 (a)以下のような水性接着剤。 (a-1)シード重合により得られること。 (a-2)酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなること。 (a-3)可塑剤を実質的に含まないこと。 (b)前記水性接着剤の特性は以下のとおり。 (b-1)貯蔵弾性率G′aの値が196〜329Paであること。 (b-2)ずり応力τaの値が1137〜1778Paであること。 (c)前記貯蔵弾性率G′aの値及び前記ずり応力τaの値の測定方法は、以下のとおり。 (c-1)測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い、温度23℃、周波数0.1Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′を測定したとき、その値がほぼ一定となる線形領域における貯蔵弾性率G′の値を、前記(b-1)でいう貯蔵弾性率G′aの値とすること。 (c-2)測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い、温度7℃の条件でずり速度を0から200(l/s)まで60秒問かけて一定の割合で上昇させてずり応力τを測定したとき、ずり速度200(1/s)におけるずり応力τの値を、前記(b-2)でいうずり応力τaの値とすること。」 2.これに対し、被請求人は上記(a)の(a-1)〜(a-3)、及び上記(c)の(c-1)〜(c-2)については特に反論せず、ただ、アイカ工業株式会社、実験者:櫛田貢による実験成績証明書(乙第3号証)に基づいて、上記(b)の(b-1)及び(b-2)について、貯蔵弾性率G′の値は169.2〜269.1Paであり、ずり応力τの値は1239〜1254Paである旨主張している。 IV.対比・判断 1.以下、イ号物件が本件特許発明の特定事項を充足するか否かについて、分説した項目ごとに分けて判断する。 (A)について エコエコボンドシリーズについては、甲第1号証に、「シード重合技術」(甲第1号証、第2頁)によるものであることが示されている。 また、アイカエコエコボンドA-1400は、「アイカエコエコボンド」(甲第2号証)と題するカタログにおいて、「接着剤」(第1頁、第2頁)、「酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形」(第2頁)、「無可塑」(第2頁)と記載されている。 また、アイカエコエコボンドA-1400は酢酸ビニル樹脂系エマルジョン形であるから、水中に酢酸ビニル樹脂系粒子が乳化して分散しているものであって、水性接着剤であると解される。 以上のことから、イ号物件は、以下の特定事項を充足するものと認められる。 「(A)以下の要件を具備する水性接着剤であること。 (A-1)シード重合により得られること。 (A-2)酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなること。 (A-3)可塑剤を実質的に含まないこと。」 (B)について イ号物件の貯蔵弾性率G′a及びτaの値については当事者間で相違し、請求人は貯蔵弾性率G′aの値は196〜329Paであり、ずり応力τaの値は1137〜1778Paであるとする(甲第3号証第4頁)のに対し、被請求人は貯蔵弾性率G′aの値は169.2〜269.1Paであり、ずり応力τaの値は1239〜1254Paである(乙第3号証第13頁)としている。 ここで、イ号物件の貯蔵弾性率G′a及びτaの値が当事者間で相違しているのは、測定したロットにより物性値が若干相違するためであると考えられるが、正確な値はともかくとして、いずれにしても、イ号物件は以下の特定事項を充足するものと認められる。 「(B)前記水性接着剤は、以下の特性を満足すること。 (B-1)貯蔵弾性率G′aの値が120〜1500Paであること。 (B-2)ずり応力τaの値が100〜2000Paであること。」 (C)について 甲第3号証の「4.実験方法」(第3〜4頁)の記載、及び乙第3号証の「(2)粘弾性値の測定」(第12頁)の記載からみて、イ号物件は、以下の特定事項を充足するものと認められる。 「(C)前記貯蔵弾性率G′aの値及び前記ずり応力τaの値の測定方法は、以下の特定の方法であること。 (C-1)測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い、温度23℃、周波数0.1Hzの条件でずり応力を走査して貯蔵弾性率G′を測定したとき、その値がほぼ一定となる線形領域における貯蔵弾性率G′の値を、前記(B-1)でいう貯蔵弾性率G′aの値とすること。 (C-2)測定面が金属製の円錐-円盤型のレオメーターを用い、温度7℃の条件でずり速度を0から200(1/s)まで60秒間かけて一定の割合で上昇させてずり応力τを測定したとき、ずり速度200(1/s)におけるずり応力τの値を、前記(B-2)でいうずり応力τaの値とすること。」 (結論) 上記のとおり、イ号物件は先に分説した特定事項をすべて充足する。 したがって、イ号物件は本件特許発明の特定事項を充足する。 2.更に、被請求人は、概略、以下のように主張しているので、念のため、その点についても検討する。 (1)判例によれば、特許発明の技術的範囲は、その出願時の公知技術を参酌し、これを含まない形で解釈されるべきである。 (2)ところで、本件特許の優先日における公知文献である、特開昭61-252280号公報(乙第1号証)及び特開2000-302809号公報(乙第2号証)のそれぞれの実施例1に従った製品であるトレース品T1〜T20の貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを本件特許発明の特定事項である(C)の(C-1)、(C-2)の方法で測定したところ、貯蔵弾性率G′aの値は120.3〜366.3Paであり、ずり応力τaの値は729〜1995Paであった。 (3)したがって、本件特許発明の技術的範囲からは、トレース品T1〜T20の貯蔵弾性率G′aが120.3〜366.3Paであり、ずり応力τaが729〜1995Paである範囲は除かれる。 (4)イ号物件のロットの異なる3種の貯蔵弾性率G′a及びずり応力τaを測定したところ、貯蔵弾性率G′aの値は169.2〜269.1Paであり、ずり応力τaの値は1239〜1254Paであった。 (5)よって、イ号物件の貯蔵弾性率及びずり応力の測定値は、本件特許発明の技術的範囲から公知技術として除かれる範囲にある。そのため、仮に、イ号物件が本件特許発明の特定事項(A)の(A-1)〜(A-3)、(B)の(B-1)〜(B-2)、及び (C)の(C-1)〜(C-2)を形式上満たしていたとしても、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲には属さない。(答弁書第2頁第24行〜第8頁第21行) しかしながら、本件特許発明の技術的範囲は公知技術を除外して解釈すべきとの被請求人の主張は、本件特許発明に公知技術が内在している、すなわち、本件特許には無効理由があることを前提とした主張であると解されるところ、本件特許には無効理由があるとの主張は、別途無効審判を請求して、その中で主張するのであればともかく、判定制度においては、その制度の趣旨にかんがみて、特許の有効・無効の判断はしないこととしているので、有効な抗弁とはなり得ないものである。 しかも、被請求人は、「本件特許には上記のように明白な無効理由がある」(答弁書第8頁第30行)と主張するが、被請求人の提示した証拠によっては、本件特許発明に公知技術が内在しているとも、本件特許に明白な無効理由があるとも認めることはできない。その理由は以下のとおりである。 (1)まず、乙第1号証には、「前記えられた酢酸ビニル系重合体エマルジョンに添加剤を加えることにより、本発明の紙工用接着剤をうることができる。前記添加剤は接着剤に可塑性を付与して接着性を向上させるためのもので、前記酢酸ビニル系重合体エマルジョンの重合体固形分100重量部に対して30重量部をこえると耐熱性がわるくなり、また、可塑移行などの悪影響があらわれるので、0〜30重量部の範囲で添加するのが好ましい。前記添加剤はたとえば・・・ジブチルフタレート、ジイソブチルアジペートなどの可塑剤をあげることができる。」(第3頁右上欄第19行〜左下欄第13行)と記載され、また、乙第1号証ではすべての実施例及び比較例において可塑剤であるジブチルフタレートを20重量部添加している(第3頁右下欄最下行〜第4頁右下欄参照。)。 したがって、乙第1号証に記載された発明は、可塑剤を実質的に含まない水性接着剤ではない点で、可塑剤を実質的に含まない水性接着剤である本件特許発明とは明確に相違している。ところが、乙第1号証(実施例1)のトレース品であるとするT1〜T2、T5〜T14はいずれも可塑剤(DBP)を含まないものであり、実施例1の忠実な追試(トレース)とはなっていない。 また、可塑剤を加えていたとしても、それは本件特許発明の可塑剤を実質的に含まない水性接着剤とは異なるものとなるので、いずれにしても、本件特許発明のものと対比すべきものとすることはできない。 (2) 次に、乙第2号証には 「【請求項1】 エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョン中で酢酸ビニルをシード重合して酢酸ビニル樹脂系エマルジョンを製造する方法であって、酢酸ビニルを系内に添加しつつシード重合を行う工程と、前記工程の前工程又は後工程として、酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体を系内に添加する工程を含む酢酸ビニル樹脂系エマルジョンの製造方法。 ・・・(中略)・・・ 【請求項5】 請求項1〜4の何れかの項に記載の製造方法により得られる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンからなる水性接着剤。 (以下、略)」 に関する発明が記載されているが、乙第2号証の特許請求の範囲には貯蔵弾性率G′や、ずり応力τが記載されていないので、本件特許発明と乙第2号証の特許請求の範囲に記載された発明とを直接対比することはできない。そこで、本件特許発明と乙第2号証の実施例で製造されている物とを対比せざるを得ないが、被請求人が乙第3号証として提示する実験成績証明書には、乙第2号証の実施例の真正な追試データが全く開示されていない。 すなわち、被請求人は、「トレース品T3〜T4、及びT15〜T20の製造方法は、乙第2号証の実施例1に従っている。」(答弁書第4頁第18〜19行)とするが、乙第2号証の実施例1で用いているポリビニルアルコールであるクラレポバールPVA224を用いている例はトレース品T3のみであって、他のトレース品T4、及びT15〜T20はこれとは異なるポリビニルアルコールを用いている。トレース品T3はポリビニルアルコールとしてクラレポバールPVA224を用いているが、乙第2号証の実施例1に従うとその使用量は27.5(=55÷2)重量部とする必要があるが、実際は20重量部しか用いていない。更に、乙第2号証の実施例1ではエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンとして「電気化学工業(株)製、デンカスーパーテックスNS100」を用いているが、トレース品T3では「電気化学工業株式会社製、デンカEVAテックス#59」を用いている。(なお、トレース品T4、及びT15〜T20をみても、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョンとして「電気化学工業(株)製、デンカスーパーテックスNS100」を用いている例はない。) (3)したがって、乙第1号証及び乙第2号証に基づいて、本件特許発明の新規性を否定することはできないし、本件特許発明の進歩性を否定することもできない。 したがって、本件特許発明に明白な無効理由があるとは認められない。 V.むすび 以上のとおりであるから、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属する。 よって、結論のとおり判定する。 |
判定日 | 2005-01-19 |
出願番号 | 特願2002-26394(P2002-26394) |
審決分類 |
P
1
2・
1-
YA
(C09J)
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最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
脇村 善一 |
特許庁審判官 |
唐木 以知良 後藤 圭次 |
登録日 | 2004-02-20 |
登録番号 | 特許第3522729号(P3522729) |
発明の名称 | 水性接着剤 |
代理人 | 奥村 茂樹 |
代理人 | 足立 勉 |