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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) E21D
管理番号 1111842
審判番号 無効2002-35238  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-09-04 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-06-05 
確定日 2004-12-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2056106号「地山固結工法」の特許無効審判事件についてされた平成15年5月23日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成15年(行ケ)第0294号平成16年2月27日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2056106号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

平成 1年 2月22日 出願(特願平1-42531号)
平成 8年 5月23日 登録(特許第2056106号)
平成14年 6月 5日 本件無効審判請求
平成14年 8月26日 答弁書
平成14年11月18日 弁駁書
平成15年 1月10日 無効理由通知
平成15年 2月 6日 意見書、訂正請求書
平成15年 4月 8日 弁駁書
平成15年 5月23日 審決(訂正を認め、請求不成立)
平成15年 7月 4日 出訴(平成15年(行ケ)第294号)
平成16年 2月27日 判決言渡し
平成16年 3月11日 上告及び上告申立(平成16年(行ツ)第149号、平成16年(行ヒ)第162号)
平成16年 9月10日 最高裁判所決定(上告棄却、申立不受理)

第2 当事者の主張及び提出した証拠方法

1 請求人の主張の概要
請求人は、「特許第2056106号の明細書の請求項1および2に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」という趣旨で無効審判を請求し、無効理由として以下のように主張し、証拠方法として甲第1号証(特開昭61-186613号公報)、甲第2号証(実願昭57-88803号(実開昭58-194299号)のマイクロフィルム)を提出し、本件特許は特許法第123条第1項の規定により無効とされるべきであると主張する。
(1)本件特許請求の範囲の記載が不明りょうであり、また、特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていないから、特許法(昭和62年法)第36条第4項に違反する(第1の無効理由)。
(2)明細書の発明の詳細な説明において、当業者が容易にその実施をすることができる程度に、本件発明の構成を記載していないから、同法第36条第3項の規定に違反する(第2の無効理由)。
(3)本件発明は、いずれも本件明細書の記載のみでは実施(実現)不可能な技術であり、未完成発明であるから、同法第29条第1項柱書きに違反する(第3の無効理由)。
(4)本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、同法第29条第1項第3号の規定に違反する(第4の無効理由)。
(5)本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、同法第29条第2項の規定に違反する(第5の無効理由)。
また、請求人適格について、請求書および弁駁書で、請求人は、本件特許発明に使用し得る固結用薬液を製造、販売しており、本件特許の存在により、本件特許権者と販売先の施工会社とのあいだで係争が生じれば、前記固結用薬液の製造・販売が縮小または中止になる可能性もあり、充分な利害関係があるから、請求人適格を有していると、主張している。

2 被請求人の主張の概要及び訂正請求の内容
(1)被請求人の主張
被請求人は、答弁書において「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、また、被請求人と請求人との間で、本件特許に関して、特許権の差し止め請求や損害賠償請求を提起されたりしたことはなく、請求人は、本件発明の実施をしていないから、請求人適格を有しておらず、したがって、請求人は本件審判を請求する利益が無く、本件審判請求は、却下されるべきであると主張すると共に、請求人の主張はいずれも失当であり、したがって本件特許無効の審判の請求は成り立たないと主張し、証拠方法として、乙第1号証(カタログ「SOLETANCHE」1〜3頁、ライト工業株式会社)、乙第2号証(「薬液注入工法の実際 改訂版」236〜238頁、昭和57年3月20日、鹿島出版会発行)、乙第3号証(「建築技術1988年2月号」110〜112頁、昭和63年2月1日、株式会社建築技術発行)、乙第4号証(「最新・薬液注入工法の設計と施工」178、179頁、昭和60年9月20日、株式会社山海堂発行)を提出する。
さらに、当審の無効理由通知に対して、平成15年2月26日付けで訂正請求書を提出し、特許法第36条の無効理由は解消したと主張する。
(2)訂正請求の内容
平成15年2月6日付けの訂正請求は、特許第2056106号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正するものであり、その訂正の内容は、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次のように訂正するものである。
訂正事項a:特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1を次のように訂正する。
「地山に穿設した長孔内に、周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、上記長尺管の内部を、長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし、上記複数の吐出管の先端開口から速硬性の固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち、さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法。」
訂正事項b:訂正事項aに伴い、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書4頁18行〜5頁下から6行を「上記の目的を達成するため、この発明の地山固結工法は、地山に穿設した長孔内に、周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、上記長尺管の内部を、長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし、上記複数の吐出管の先端開口から速硬性の固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち、さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを第1の要旨とし、上記長孔内に長手方向に所定間隔で設けた隔壁により内部が複数の空間に区切られ、それぞれ先端が上記複数の空間に開口していて全体が長手方向に延びている複数の吐出管により上記複数の空間が外部と連通した状態になっている周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出させ長尺管の外周の地山に固結領域を形成することを第2の要旨とする。〔作用〕」と訂正する。
訂正事項c:訂正事項aに伴い、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、明りょうでない記載の釈明を目的として、明細書6頁1行〜8行の「吐出管内にそれぞれ固結用薬液を・・・速硬性の固結用薬液を使用することができるようになり、施工時間の大幅な短縮が可能になる。」を、「吐出管内にそれぞれ速硬性の固結用薬液を・・・速硬性の固結用薬液の使用により、施工時間の大幅な短縮が可能になる。」と訂正する。
訂正事項d:明細書10頁18行〜末行の「これに限定するものではなく従来例のようなセメントミルクや水ガラス等を使用することもできる。」を「これに限定するものではない。」と訂正する。
訂正事項e:明細書11頁10行の「速硬性の固結用薬液を使用することができ」を「速硬性の固結用薬液の使用により」と訂正する。

第3 訂正の適否について

上記訂正事項aないしeに係る訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり、訂正事項aに係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正事項bないしeに係る訂正は、訂正事項aに係る訂正に伴い特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明の記載との整合をとるため、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、上記訂正は、平成6年法改正前の特許法第134条第2項ただし書並びに同法第134条第5項において準用する同法第126条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第4 本件発明

上記のように訂正が認められるから、本件特許の請求項1および2に係る発明は、上記訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1および2に記載された次のとおりのものである。
「(1)地山に穿設した長孔内に、周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、上記長尺管の内部を、長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし、上記複数の吐出管の先端開口から速硬性の固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち、さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法。
(2)地山に穿設した長孔内に、長手方向に所定間隔に設けた隔壁により内部が複数の空間に区切られ、それぞれ先端が上記複数の空間に開口していて全体が長手方向に延びている複数の吐出管により上記複数の空間が外部と連通した状態になっている周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち、さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法。」
(以下、請求項1および同2に記載された発明を、「本件発明1」および「本件発明2」という。)

第5 当審の判断

請求人主張の第5の無効理由から検討する。

1 証拠及び証拠に記載された技術的事項
(1)刊行物1:特開昭61-186613号公報(請求人提出の甲第1号証)には以下の技術的事項が記載されている。
(ア)特許請求の範囲に「(1)長手方向にゾーンごと区画して注入口が形成された外管と、この外管内をその軸心方向に移動自在とされた内管部材とを備えた注入装置において、前記内管部材は、複数の独立した流路を有する内管と、長手方向に間隔を置いて外管の内面にそれぞれ内接してグラウトの液密を図るべく設けられた3以上のパッカー部とを有し、前記パッカー部間における外管と内管との間隙たる相互に異なる注出室に、前記内管の各流路が1対1で独立的に連通していることを特徴とするグラウト注入装置。」、
(イ)1頁左下欄20行〜右下欄19行に「〔従来の技術〕 この種のグラウト注入工法として、いわゆるソレタンシュ注入工法は、・・・同工法に使用する注入装置は、外管にはたとえば33cmごと注入口が形成され、そこをゴムスリーブで覆うとともに、内管の先端には注出口が形成され、その先端および基端側にパッカー部が設けられたもので、注入位置の選定には内管を外管内において移動させることにより行うものである。注入装置の流路は1つである。・・・この従来法では、(1)外管の注入口間隔たる1ステップごと内管をスライドさせながら注入するものである・・」、
(ウ)2頁左上欄11〜15行に「本発明は、注入の確実性を損なうことなく施工能率を向上させることができ、異種グラウトの同時注入を行うことができるグラウト注入装置を提供することを主たる目的としている。」、
(エ)3頁右上欄18行〜左下欄20行に「かかる装置においては、まずボーリング機を用いてケーシングを建込み、そこにいわゆるスリーブグラウトを注入し、その後ケーシング内に本装置を挿入し、次いでケーシングを引き抜く。この前施工後、本体内管部材50の内側管にAグラウト(A液)を供給する。その結果、A液は、ソケット60、接手61および第2内側管22Bを通り、第2パッカー部32を抜け第1内側管22A内に入り、その注出口22aから注出室71内に注出され、さらにそれ自体の圧力で、注入口11Aからスリーブ12を撓せながらその両端部から注入され、続いてスリーブグラウトを破りながら周辺地盤へと注入される。これに対して、本体内管部材50の外側管51と内側管との間にBグラウト(B液)を圧送すると、B液はソケット60の貫通孔60cを抜け、継手33Cおよび33Eと接手61との間隙を通り、第1外側管21Aと第2内側管22Bとの間に入った後、注出口21a、注出室72および注入口11Bを通り、スリーブ12を撓せながら、周辺地盤へと注入される。」、3頁右下欄16行〜4頁左上欄11行に「同種グラウトを同時注入する場合、第3図のように、注入口11A,11Bの間隔長の2倍のステップごとステップアップしながら注入することができる。異種グラウトの場合も同様である。B液の注入後、同一ゾーンに異種のA液を注入する場合、あるいはその逆の場合、第4図に示すように、注入口11A,11Bの間隔長ごとステップアップしながら注入すればよい。この場合も施工時間は従来例の1/2となる。
第5図は、外管10の注入口のうち1つ飛ばした注入口のそれぞれから注入を行う場合の例を示したもので、第4パッカー34が付加されている。この装置によれば、たとえば第6図に示す注入順序(符号1〜6は注入順序を示す)を採ることができる。」、
(オ)4頁左上欄19行〜右上欄4行に「〔発明の効果〕 以上の通り、本発明によれば、主として次の効果がもたらされる。(1)長手方向に異なった注入口から、相互に異なった流路を通してグラウトを、特に同時に注入できるので、施工手間は実質的に1/2となる。」、
(カ)4頁右上欄15〜17行に「第3図および第4図は施工順序の説明図、・・・第6図は同装置による施工順序例の説明図」。
(キ)これらの記載を含む明細書全体及び図面から、刊行物1には、
「地盤にボーリング機を用いてケーシングを建込み、そこにいわゆるスリーブグラウトを注入し、その後ケーシング内に、長手方向にゾーンごと区画して注入口が形成された外管と、この外管内をその軸心方向に移動自在とされた内管部材とを備え、前記内管部材は、複数の独立した流路を有する内管と、長手方向に間隔を置いて外管の内面にそれぞれ内接してグラウトの液密を図るべく設けられた3以上のパッカー部とを有し、前記パッカー部間における外管と内管との間隙たる相互に異なる注出室に、前記内管の各流路が1対1で独立的に連通しているグラウト注入装置を挿入し、次いでケーシングを引き抜く、前施工後、複数の独立した流路を有する内管の注出口からグラウトを、相互に異なる注出室内に注出し、外管の注入口からスリーブグラウトを破りながら周辺地盤へと注入することを、内管部材を外管内の軸心方向に移動させてゾーンごとにステップアップしながら行う地盤へのグラウト注入工法」
の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

(2)刊行物2:実願昭57-88803号(実開昭58-194299号)のマイクロフィルム(請求人提出の甲第2号証)には以下の技術的事項が記載されている。
(ア)実用新案登録請求の範囲に「トンネル内岩盤削孔に挿入され凝結材を注入囲繞されて埋設されるトンネル施工用ロックボルト構造において、アンカボルトが中空パイプにされ、その中途に差圧バルブが設けられ、而して該差圧バルブの基部寄りにノズルが設けられて該アンカボルトに外設したパッカに接続しており、一方該アンカボルト前部に他のノズルが設けられていることを特徴とするトンネル施工用ロックボルト構造。」
(イ)6頁6行〜8頁3行に「トンネル2の地山3に対して岩盤23内に所定間隔で放射方向に設計深さで適宜手段により削孔7を穿設する。そこで、ロックボルト1のアンカーボルト4の先端にテーパーコーン6を軽く装着し、基端側パッカ15に膨出用パイプ17と2次凝結材用パイプ18をセットした状態で該削孔7内に挿入し、テーパーコーン6を底部に座着させ、ロックボルト1に適宜軸方向衝撃力を印加してスリット5,5・・・を介してアンカボルト4の先端部を拡開し、削孔7の壁面に圧接し、ロックボルト1を仮固定させる。そして・・・該アンカボルト4内に前記差圧バルブ13の開動荷重よりやゝ大きい稼重圧で1次凝結材としてのモルタルAを図示しないポンプを介して圧送される。而して、圧送されたモルタルAはホール10でパッカ14内に流出するため、圧力降下し、差圧バルブ13は開かず、パッカ14は膨出して削孔7の壁面に圧着シールされ、その後増圧状態に移行して設定稼重を越えると該差圧バルブ13が開き、先端側にモルタルAを圧送し、スリット5,5…から削孔7内に充満され、パッカ14にて増圧促進されると岩盤23内に浸透して圧注域24を形成する。・・・次いで、膨出用パイプ17でセメントシルク(注、セメントミルクの誤記と認める)を圧送して基端側パッカ15を膨出させて削孔7内壁面に圧接シールさせ、続いて2次凝結材用パイプ18からセメントミルクBを圧送し、パッカ14,15間の削孔7内に充満させ、更に岩盤23内に浸透させ、圧注域25を形成する。」。

2 本件発明1と証拠に記載されたものとの対比、判断
(1)対比
本件発明1と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「注入口」、「外管」、「内管」、「パッカー部」、「注出室」、「内管の注出口」、「グラウト」、「グラウト注入工法」は、各々本件発明1の「(周壁)孔」、「長尺管」、「吐出管」、「隔壁」、「空間」、「吐出管の先端開口」、「固結用薬液」、「固結工法」に相当し、刊行物1発明の「地盤」、「建込んだケーシング内」は、各々本件発明1の「地山」、「長孔内」に対応し、刊行物1発明の「挿入し」、「周辺地盤へ注入する」と、本件発明1の「挿嵌固定し」、「長尺管外周の地山内に浸透硬化させ」とは、各々「設け」、「周辺へ注入する」で共通しており、また、刊行物1発明の「(外管内の)内管部材は、複数の独立した流路を有する内管と、長手方向に間隔を置いて外管の内面にそれぞれ内接してグラウトの液密を図るべく設けられた3以上のパッカー部とを有し、前記パッカー部間における外管と内管との間隙たる相互に異なる注出室に、前記内管の各流路が1対1で独立的に連通している」ことは、本件発明1と同様に、「長尺管の内部を、長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態」にしているといえるから、両者の一致点及び相違点は次のとおりと認められる。
[一致点]
地山に穿設した長孔内に、孔開き長尺管を設け、上記長尺管の内部を、長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし、上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記長尺管の孔から、周辺へ注入する上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成する地山固結工法。
[相違点]
本件発明1では、地山に穿設した長孔内に、周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、吐出管から吐出された速硬性の固結用薬液を各空間内に充満させたのち、さらに長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成し、吐出管が長尺管内を移動自在で、ステップアップして吐出作業を行うものではなく、また、後に吐出管は引き抜かれるものではなく、残置されるものであるのに対し、刊行物1発明では、地盤に建込みスリーブグラウトを注入したケーシング内に長手方向にゾーンごと区画して注入口が形成された外管を備えるグラウト注入装置を挿入し、次いでケーシングを引き抜く前施工後、速硬性との限定のないグラウトを、内管から相互に異なる注出室内に注出し、外管の注入口からスリーブグラウトを破りながら周辺地盤へと注入することを、内管部材を外管内の軸心方向に移動させてゾーンごとにステップアップしながら行う点。

(2)相違点についての判断
上記判決において、相違点について、「吐出管から吐出された速硬性の固結用薬液を各空間内に充満させたのち、さらに長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成する」構成を「構成A」とし、「吐出管が長尺管内を移動自在で、ステップアップして吐出作業を行うものではなく、また、後に吐出管は引き抜かれるものではなく、残置されるものである」構成を「構成B」として、下記のように判示された。

「原告(当審注、本件請求人)の主張は、本件発明1と刊行物1発明との相違点は、刊行物1発明及び刊行物2発明に基づいて、当業者が容易に想到し得るというものと解されるので、まず、審決の認定した、本件発明1の構成Aに係る刊行物1発明との相違点について検討する。
昭和57年3月20日鹿島出版会発行、坪井直道著「薬液注入工法の実際」236頁〜238頁(乙6)によれば、ソレタンシュ工法は、(1)削孔機(掘削機)を用いて直径100mm前後の孔を設けケーシングを建て込み、(2)この孔の中に約30cm間隔に注入孔が開けられバルブとして作用する短いゴムスリーブで覆われた内径40mmのマンシェットチューブを建て込み、(3)マンシェットチューブとケーシングとの間に、スリーブグラウトと呼ばれる特殊注入を行い、その後にケーシングを引き抜き、(4)注入予定箇所の上下にダブルパッカーを設置できる仕組みの注入パイプをマンシェットチューブの中にセットして注入する、という工程の薬液注入工法である。
ところで、刊行物1(甲4-1)には、
「長手方向にゾーンごと区画して注入口が形成された外管と、この外管内をその軸心方向に移動自在とされた内管部材とを備えた注入装置において;前記内管部材は、複数の独立した流路を有する内管と、その長手方向に間隔を置いて外管の内面にそれぞれ内接してグラウトの液密を図るべく設けられた3以上のパッカー部とを有し;前記パッカー部間における外管と内管との間隙たる相互に異なる注出室に、前記内管の各流路が1対1で独立的に連通していることを特徴とするグラウト注入装置」(1頁左下欄特許請求の範囲)、
「〔従来の技術〕この種のグラウト注入工法として、いわゆるソレタンシュ注入工法は、注入位置を適確に定めることができるなどの利点から、汎く用いられている。・・・注入装置の流路は1つである。また、同工法に使用されるグラウトは1種のみで、もし異種グラウトを注入するのであれば、先行注入グラウトを注入した後、他の種のグラウトで流路を置換する必要がある」(1頁左下欄末行〜右下欄第3段落)、
「〔発明が解決しようとする問題点〕・・・本発明は、注入の確実性を損うことなく施工能率を向上させることができ、異種グラウトの同時注入を行うことができるグラウト注入装置を提供することを主たる目的としている」(1頁右欄最終段落〜2頁左上欄第2段落)、
「〔作用〕本発明(注、刊行物1発明)は、内管に複数の流路を独立的に構成していること、パッカー部を3以上設けていること、前記各流路の注出口がパッカー部間において開口しており、各流路と相互に異なる注出室とが1対1で対応していることを主要点としている。したがって、内管の第1流路に第1グラウトを供給し、注出口から注出室に注出させ、さらに注入口から直接に、またはスリーブを撓せながら周辺地盤へ注入しているときに、内管の他の第2流路に第2グラウトを供給し、同様にして別の注入口から周辺地盤に注入できる。したがって、同時にゾーンごと区画された注入口から各グラウトを注入できる。その結果、各注入口からの注入量が従来例と同じであっても、時間当りの注入量は2倍となり、施工手間は1/2となる。そして、第1グラウトと第2グラウトとの種別を異らせておくと、異種グラウトを同時注入できる」(2頁右上欄第2段落〜左下欄第2段落)、
「(基本例の作用)かかる装置においては、まずボーリング機を用いてケーシングを建込み、そこにいわゆるスリーブグラウトを注入し、その後ケーシング内に本装置を挿入し、次いでケーシングを引き抜く。この前施工後、本体内管部材50の内側管にAグラウト(A液)を供給する。その結果、A液は、ソケット60、接手61および第2内側管22Bを通り、第2パッカー部32を抜け第1内側管22A内に入り、その注出口22aから注出室71内に注出され、さらにそれ自体の圧力で、注入口11Aからスリーブ12を撓せながらその両端部から注入され、続いてスリーブグラウトを破りながら周辺地盤へと注入される。これに対して、本体内管部材50の外側管51と内側管との間にBグラウト(B液)を圧送すると、B液はソケット60の貫通孔60cを抜け、継手33Cおよび33Eと接手61との間隙を通り、第1外側管21Aと第2内側管22Bとの間に入った後、注出口21a、注出室72および注入口11Bを通り、スリーブ12を撓せながら、周辺地盤へと注入される。前述の説明からも明らかなように、A液およびB液の流路(A液路、B液路)は、内管部材20内において独立しており、また注出口21a、22a、換言すれば注入口11B、11Aが装置の長手方向において間隔を置いて区分されている。(施工例)したがって、A、B両流路に異種のA、B両液を同時に供給して、注入することができる。またA、B両流路を通して同種グラウトを長手方向に異なる注入口11A、11Bから同時に注入することができる。その結果、改造ゾーン当りの施工時間は実質的に1/2となる。勿論、注入口12A、12Bからの注入タイミングを適宜ずらすことも可能である。同種グラウトを同時注入する場合、第3図のように、注入口11A、11Bの間隔長の2倍のステップごとステップアップしながら注入することができる」(3頁右上欄最終段落〜右下欄最終段落)、
「上記例は2重内管例であるが、第7図のような3重管以上の流路構成にて3個所以上からの同時注入を行うこともできる。なお、第7図の左方には第4パッカーが設けられるが、図示されていない」(4頁左上欄第3段落)
との記載がある。
上記記載によれば、刊行物1には、審決が認定した刊行物1発明であるソレタンシュ注入工法の改良工法が開示されていると認められるが、内管に複数の流路を独立的に構成していること、パッカー部を3以上設けていること、上記各流路の注出口がパッカー部間において開口し、各流路と相互に異なる注出室とが1対1で対応していることを主要点としており、「3重管以上の流路構成にて3個所以上からの同時注入を行うこともできる」との記載から、内管の独立的に構成した複数の流路の数を、周辺地盤へグラウトを注入させるべき外管の注入口の数と同数とし、当該流路の注出口に対応する注出室をパッカー部間により形成し、各注出口から同時に注出室に注出させ、さらに、スリーブをたわませながら周辺地盤へグラウトを注入する工法(以下「刊行物1開示工法」という。)も開示されているものと認めることができる。
そして、刊行物1の上記記載によれば、刊行物1開示工法は、内管を移動させる必要がなく、また、「内管(本件発明の吐出管に相当する。以下、同様に相当する構成を記載する。)から吐出されたグラウト(固結用薬液)を各注出室(空間)内に注出させ、さらに、スリーブをたわませながら(充満させたのち)、外管(長尺管)の注入口(周壁孔)から外管(長尺管)外周の地盤(地山)内に浸透硬化させ、上記外管(長尺管)内及び外管(長尺管)外周の地盤(地山)に固結領域を形成する」ものであることが明らかである。
次に、速硬性の固結用薬液の使用の点についてみると、刊行物2(甲4-2)には、グラウトが速硬性か否かについての明示はなく、ソレタンシュ工法であれば速硬性の固結用薬液を使用することに支障があるとしても、速硬性の固結用薬液を使用すること自体は、本件明細書(甲3添付)に「最近では、硬化が早く、高強度を有することからウレタン樹脂等の薬液用いた工法も行われている」(2頁〔発明が解決しようとする問題点〕欄)と記載されているように、本件特許出願前から周知であると認められるところ、刊行物1開示工法においては、速硬性の固結用薬液を使用することに何ら支障は認められない。そして、本件明細書に、「〔発明の効果〕この発明は以上のように地山の固結補強を行うため、補強作業を極めて容易にできるとともに、速硬性の固結用薬液の使用により作業時間の短縮化も実現できる」(5頁最終段落〜6頁第1段落)と記載されているように、本件発明1や刊行物1発明のような地山固結工法において、速硬性の固結用薬液を使用すれば作業時間を短縮することができることは明らかであり、かつ、作業時間の短縮は自明の課題であるということができる。
刊行物1開示工法は、刊行物1に開示された工法であるから、これを刊行物1発明に適用できないとする理由はなく、刊行物1発明に刊行物1開示工法を適用し、その際、自明の課題である作業時間の短縮を図るために周知の速硬性の固結用薬液を使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。したがって、本件発明の構成Aに係る刊行物1発明との相違点である「吐出管から吐出された速硬性の固結用薬液を各空間内に充満させたのち、さらに長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成する」との構成は、刊行物1発明、刊行物1開示工法及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることというべきである。
(3)次に、本件発明1の構成Bに係る刊行物1発明との相違点として原告の主張する上記相違点(1)、(2)について検討する。
審決は、本件発明1は、吐出管を長尺管内でステップアップして吐出作業を行うものではなく、また、後に吐出管は残置されるものであるのに対し、刊行物1発明及びソレタンシュ工法は、内管部材をステップアップしながら注入を行うものであり、内管部材を地山内に残置したままとするとは考えられない(審決謄本10頁最終段落)とし、被告は、刊行物1発明は、ソレタンシュ工法に関するものであり、ソレタンシュ工法では、内管部材は、全注入作業終了後引き抜かれることが当業者の技術常識であるから、これを外管内に残置することを当業者が想到することは困難であり、実際上も、内管部材を外管内に残置することは、技術的、経済的に不可能であると主張する。
審決が認定した、本件発明1が、吐出管を長尺管内でステップアップして吐出作業を行うものではなく、また、後に吐出管は残置されるものであるとの点については、【請求項1】に明示的に記載されてはいないが、「速硬性の固結用薬液」を使用すると規定する以上、速硬性であればステップアップしたり、引き抜くことは困難であると認められるから、これを前提とした審決の上記認定に妥当性はあるということができる。一方、刊行物1発明に刊行物1開示工法を適用し、その際、周知の速硬性の固結用薬液を使用することは、当業者が容易に想到し得ることは上記のとおりである。そして、特公昭63-63688号公報(乙3)には、「該パイプ部材を前記孔内に固定せしめる一方、かかるパイプ部材の中空部を通じてパイプ部材他端側より所定の固結薬液を前記孔内奥部に注入せしめ、更に岩盤に浸透せしめて反応、固化させることにより、該孔内に前記パイプ部材を残置させつつ、該孔周囲の岩盤を固結せしめるようにすることを特徴とする岩盤固結工法」(1頁左欄特許請求の範囲の請求項1)と記載され、刊行物2(甲4-2)には、「トンネル内岩盤削孔に挿入され凝結材を注入囲繞されて埋設されるトンネル施工用ロックボルト構造において、アンカボルトが中空パイプにされ、その中途に差圧バルブが設けられ、而して該差圧バルブの基部寄りにノズルが設けられて該アンカボルトに外設したパッカに接続しており、一方該アンカボルト前部に他のノズルが設けられていることを特徴とするトンネル施工用ロックボルト構造」(1頁実用新案登録請求の範囲)と記載されているように、地山固結工法において吐出管を残置させることは、従来周知の技術であったものと認めることができる。そうすると、刊行物1開示工法を刊行物1発明に適用し、速硬性の固結用薬液を使用した場合において、ステップアップしたり、引き抜くことは困難であり、かつ、そのようにする必要性はなく、上記周知の技術を参酌して、構成Bに係る「吐出管を長尺管内でステップアップして吐出作業を行うものではなく、また、後に吐出管は残置されるものである」とすることは、当業者が当然選択し得ることである。
したがって、原告の主張する上記相違点(1)、(2)に係る構成も、刊行物1発明、刊行物1開示工法及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることというべきである。
そして、刊行物1開示工法を適用し、速硬性の固結用薬液を使用した刊行物1発明が容易想到であること、及びこの発明において、「後に吐出管は残置されるものである」とすることは、当業者の当然選択し得ることであるから、被告(当審注、本件被請求人)主張のように、これが技術的に不可能であるということはできず、また、極めて高価な内管部材の繰り返し使用ができないと施工コストがばく大なものとなるとする被告主張の経済的問題についても、内管部材が高価か否かは、内管部材を外管内に残置することの容易想到性の判断とは関係のない事項であって、本件発明1と同様の、隔壁板と吐出管の組合せ構造体を採用することにより対応が可能であるから、被告の上記主張は、上記容易想到性の判断を左右するものではなく、採用することができない。」

そして、当審は、相違点についての判断は、上記判決の判断に拘束されるものである。
そうすると、本件発明1は、刊行物1発明、刊行物1開示工法及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることというべきである。

3 本件発明2について
本件発明2は、あらかじめ隔壁・吐出管がセットされ、複数の空間も形成された周壁孔開き長尺管を用いることにより、固結用薬液に速硬性という限定がない以外は本件発明1と同様な地山固結工法であるが、刊行物1発明は上記したように、あらかじめ隔壁・吐出管がセットされた内管部材を用いるものであり、周壁孔開き長尺管内に挿入された場合には、複数の空間が形成されるのであって、内管装置を残置する場合において両者を予めセットしておくことは、当業者が必要により適宜できる事項であるから、上記本件発明1の判断を前提とすると、本件発明2は、刊行物1発明、刊行物1開示工法及び周知の技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることというべきである。

第6 まとめ

以上のように、請求人主張の他の無効理由を検討するまでもなく、本件発明1及び同2は、刊行物1発明、刊行物1開示工法及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、本件発明1及び同2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであって、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
地山固結工法
(57)【特許請求の範囲】
(1) 地山に穿設した長孔内に、周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、上記長尺管の内部を、長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし、上記複数の吐出管の先端開口から速硬性の固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち、さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法。
(2) 地山に穿設した長孔内に、長手方向に所定間隔で設けた隔壁により内部が複数の空間に区切られ、それぞれ先端が上記複数の空間に開口していて全体が長手方向に延びている複数の吐出管により上記複数の空間が外部と連通した状態になつている周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち、さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを特徴とする地山固結工法。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
この発明は、トンネルの穿設工事等において、軟弱な地山を固結用薬液により堅固な地山に改善する地山固結工法に関するものである。
〔従来の技術〕
従来から、軟弱な、または破砕された地山等の地層帯で行うトンネル穿設工事においては、穿設の第1段階では、パイプルーフ工法を用いて、地山を強化することが行われている。このパイプルーフ工法は、第8図および第9図に示すように、鎖線AおよびBで示す地山2の掘削予定面(第8図において、鎖線Cはトンネルの穴部を示しており、鎖線AとCで囲まれる部分はコンクリート層に形成される)の外周に沿つて、長尺管1を地山2の奥部に向かつて埋設し、トンネル形状に合つたルーフを形成することにより、掘削による地山2のゆるみや地表面の変形を防止するとともに、安全な掘削作業を可能にするものである。すなわち、この工法は、まず、長尺管1内に、同軸的にドリル駆動軸を入れてその先端にドリル刃を取り付け、このドリル刃で地山2に孔を開けながらその孔内に長尺管1を押し込み、地山2に長尺管1を埋設する(第3図参照)。ついで、長尺管1からドリル刃およびドリル駆動軸を取り出し、今度は、セメントミルク吐出管(図示せず)を長尺管1内に同軸的に入れる。そして、そのセメントミルク吐出管の先端からセメントミルクを吐出し、長尺管1内を先端から所定の距離だけ、セメントミルクで充満させ、ついで硬化させる。つぎに、上記セメントミルク吐出管を引つ張つて少し後退させ、上記セメントミルク硬化物が詰まつた部分より少し手前の部分を同様にしてセメントミルク硬化物で埋める。このようにして、順次セメントミルクを吐出硬化させ、長尺管1の内部を硬化セメントで埋めて長尺管1を一種のセメント製電柱状に形成し、それを複数本地山2中に並べることにより、地山2を強化するという方法である。
〔発明が解決しようとする問題点〕
しかしながら、上記工法では、セメントミルク吐出管を手前に引きながら、セメントミルクを吐出硬化させなければならないため、作業が煩雑である。また、最近では、硬化が早く、高強度を有することからウレタン樹脂等の薬液用いた工法も行われているが、上記工法にこのような薬液を用いると、硬化が早いため途中で吐出管が抜けなくなるというような事態を招く。したがつて、上記のような速硬性の薬液を用いることはできず、高強度の補強は不可能である。また、長尺管と長尺管の間の地山の補強は不可能であり、これも地山が砂質からなるときには大きな問題になつている。
この発明は、このような事情に鑑みなされたもので、作業が容易で、かつ速硬性の固結用薬液を使用することのできる地山固結工法の提供をその目的とする。
〔問題点を解決するための手段〕
上記の目的を達成するため、この発明の地山固結工法は、地山に穿設した長孔内に、周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、上記長尺管の内部を、長手方向に所定間隔に設けた隔壁により複数の空間に区切るとともに複数の吐出管を上記長尺管内に配設して複数の吐出管の先端をそれぞれ上記複数の空間に開口させた状態にし、上記複数の吐出管の先端開口から速硬性の固結用薬液を吐出して上記各空間内に充満させたのち、さらに上記長尺管の周壁孔から長尺管外周の地山内に浸透硬化させ、上記長尺管内および長尺管外周の地山に固結領域を形成することを第1の要旨とし、上記長孔内に長手方向に所定間隔で設けた隔壁により内部が複数の空間に区切られ、それぞれ先端が上記複数の空間に開口していて全体が長手方向に延びている複数の吐出管により上記複数の空間が外部と連通した状態になつている周壁孔開き長尺管を挿嵌固定し、上記複数の吐出管の先端開口から固結用薬液を吐出させ長尺管の外周の地山に固結領域を形成することを第2の要旨とする。
〔作用〕
すなわち、この発明の地山固結工法では、地山に埋設された長尺管の内部が、隔壁で複数の空間に区切られ、かつ各空間内に先端開口を位置決めするようにして複数の吐出管が上記長尺管内に配設された状態になる。したがつて、上記複数の吐出管の根元側から吐出管内にそれぞれ速硬性の固結用薬液を圧入することにより、長尺管内の各空間にその固結用薬液を略同時に吐出できるようになり、従来例のように、吐出管を長尺管から引き抜きながら作業を行う必要がなくなる。その結果、補強作業等が容易になると同時に、速硬性の固結用薬液の使用により、施工時間の大幅な短縮が可能になる。また、上記長尺管は内部が隔壁で区切られ各空間に分かれているため、固結用薬液の圧入により各空間内の圧力上昇が急激に生じ、それによつて固結用薬液は上記空間に充満したのち、長尺間の周壁に設けられた周壁孔から外部に吐出され、地山に浸透してそこで硬化する。したがつて、長尺管内だけでなく、長尺管の周囲の地山にも固結領域が形成され長尺管と長尺管の間の地山の部分の補強がなされるようになり、従来のセメントミルクを用いたパイプルーフ工法よりも、より強固な地山の固結が行われるようになる。
つぎに、この発明を実施例にもとづいて詳しく説明する。
〔実施例〕
第1図はこの発明の一実施例に使用する長尺管5を示しており、第2図はその内部に挿嵌する隔壁板6と吐出管7の組み合わせ構造体を示している。上記長尺管5は、外径115mm,内径100mmで全長が略30m(図は一部だけを示している)に設定されており、長手方向に沿つて5m間隔で、それぞれ円周に沿つて一定間隔で4個の注出孔8が穿設されている。上記隔壁板6は、上記長尺管5内に遊嵌できる6個の円板体(3個しか図示していない)からなつており、それぞれ厚みが300mmに設定されている。また、上記吐出管7は、それぞれ長さが5mづつ異なる(最長のものの長さが28m,最短のものの長さが3m)6本(3本しか図示していない)のパイプ材から構成されており、それぞれ外径が12mm,内径が10mmに設定され、先端が吐出孔に形成されている。なお、上記隔壁板6には、それぞれ吐出管7を挿通できる挿通孔9が設けられ(先端の隔壁板6には1個、後端の隔壁板6には6個設けられている)ており、その挿通孔9に吐出管7を挿通させることにより、6個の隔壁板6と6本の吐出管7が一体化されている。また、上記組み付け構造体を、長尺管5内に挿嵌した状態では、2個の隣合つた隔壁板6と長尺管5の周面とで囲われる各空間部は、注出孔8を介して外部と連通するようになつている。
上記長尺管5等を用いての地山の固結は、つぎのようにして行われる。すなわち、まず、第3図に示すように、長尺管5の中に、同軸的にドリル駆動軸10を入れ、その先端にドリル刃11を取り付けるとともに、後端に駆動装置(図示せず)を取り付ける。ついで、上記駆動装置を作動させることにより、上記ドリル刃11を回転させて地山2に長孔12を開けながらその長孔12内に、孔が開いた分だけ長尺管5を押し込み、これを続けて地山2に長尺管5を埋設する。つぎに、長尺管5からドリル刃11およびドリル駆動軸10を取り出し、今度は、第4図に示すように、長尺管5内に、隔壁板6と吐出管7の組み合わせ体を挿嵌する。この挿嵌に際しては、長尺管5の内周面もしくは隔壁板6の外周面に対する潤滑油の塗布等が行われる。つぎに、それぞれの吐出管7の後端部に、ウレタン樹脂圧入ポンプのホース(図示せず)を連結し、上記ポンプから各吐出管7内に、ウレタン樹脂からなる速硬性の固結薬液を圧入し、これを各吐出管7の先端の吐出孔から吐出させる。その結果、上記固結薬液は、隔壁板6および長尺管5の周面で囲われる各空間部内に、略同時に充満し、そののち、充満時の圧力および薬液の化学反応によつて長尺管5の先端開口および各注出孔8から長孔12内に吐出される。そして、さらに、上記圧力により、地山2内に浸透してそこで硬化し、第5図に示すように、長尺管5の内部にウレタン樹脂の硬化部13を形成するとともに、地山2における長尺管5の周囲の部分を固結領域14に形成する。このようにしてウレタン樹脂の固結領域14を、地山2にアーチ状に連続形成することにより、長尺管5および吐出管7を地山2内に残置したままで地山2の補強がなされる。
第6図は他の実施例に用いる長尺管を示している。すなわち、この長尺管5には、予め、第2図に示す組み付け構造体が挿嵌されている。したがつて、第7図に示すように、先端にドリル刃11が取り付けられたドリル駆動軸10を回転させることにより、地山2に長孔12を穿設し、ついで、その長孔12に上記長尺管5を挿嵌するだけで第4図の状態としうる。それ以降は前記の実施例と同様である。
この実施例によれば、補強現場ではなく、工場で長尺管5内に組み付け構造体を挿嵌できるため、作業環境の点で優れており、また、予め必要量だけ準備しておき、これを補強現場に持参し施工できるため、施工時間を短縮できるようになる。
なお、上記各実施例では、固結用薬液として、ウレタン樹脂からなる速硬性のものを使用しているが、これに限定するものではない。また、各空間部に送り込まれる固結用薬液の到達時間を考慮して、それぞれの空間部に硬化時間の異なる固結用薬液を圧入することもできる。これにより、各空間部毎に、その位置および地質にあつた固結用薬液を送り込むことができるようになり、より良好な地山の強化が行えるようになる。
〔発明の効果〕
この発明は以上のように地山の固結補強を行うため、補強作業を極めて容易にできるとともに、速硬性の固結用薬液の使用により作業時間の短縮化も実現できる。また、長尺管内を狭く区分し、その各空間に固結用薬液を吐出させるため、吐出された薬液はその圧力で注出孔から地山に浸透してそこで硬化する。そのため、長尺管内だけでなく、長尺管の周囲の地山も固結され、より強固な地山の補強をなしうるようになる。
【図面の簡単な説明】
第1図はこの発明の一実施例に用いる長尺管の部分正面図、第2図はその内部に配設される隔壁板と吐出管の組み合わせ体の部分正面図、第3図,第4図および第5図は施工状態を示す縦断面図、第6図は他の実施例に用いる隔壁板および吐出管が配設された長尺管の縦断面図、第7図は地山に長孔を穿設する状態を示す縦断面図、第8図および第9図は従来例を示す説明図である。
2…地山 5…長尺管 6…隔壁板 7…吐出管 8…注出孔 12…長孔 13…硬化部 14…固結領域
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2003-05-07 
結審通知日 2003-05-12 
審決日 2003-05-23 
出願番号 特願平1-42531
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (E21D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡部 利行前川 慎喜  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 山田 忠夫
▲高▼橋 祐介
登録日 1996-05-23 
登録番号 特許第2056106号(P2056106)
発明の名称 地山固結工法  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 佐木 啓二  
代理人 西藤 征彦  
代理人 西藤 征彦  

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