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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) B32B
管理番号 1112735
審判番号 無効2001-35552  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-09-18 
種別 無効の審決 
審判請求日 2001-12-25 
確定日 2004-04-19 
事件の表示 上記当事者間の特許第2960174号発明「模様付き成形体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2960174号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
出願日 平成 3年 2月19日
(特願平3-24488号)
設定登録 平成11年 7月30日
特許異議申立て 平成12年 3月22日〜4月6日;6件
特許異議意見書 平成12年 9月12日
訂正請求書 平成12年 9月12日
異議決定 平成12年10月23日
無効審判請求 平成13年12月25日
答弁書・訂正請求書 平成14年 4月15日
第1回口頭審理 平成14年 6月27日
回答書(被請求人) 平成14年 7月31日
弁駁書(請求人) 平成14年10月21日
訂正拒絶理由の通知 平成15年 6月20日
意見書・手続補正書(被請求人)平成15年 8月25日

2.訂正の適否の判断
2-1.訂正拒絶理由の概要
平成15年6月20日付け訂正拒絶理由通知書に記載した訂正拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
「訂正は、「複数色の塗料を硬化剤と外部混合させて吹き付けてなる塗膜」を「複数色の塗料をマニホールドを介して供給し、硬化剤と外部混合させて吹き付けてなる塗膜」と訂正するものである。
そこで、該訂正について検討するに、当該訂正は、複数色の塗料からなる塗膜について、塗料が硬化剤を外部混合するタイプのものであることを規定する記載を、さらに、当該塗料が外部混合するにあたって如何なる手段で「供給するか」を規定するもので、具体的には、塗料を通常知られているマニホールドを介して供給すると規定するものである。
しかしながら、このように、塗膜を形成する塗料の供給手段を特定したからといって、成形体に積層される塗膜自体を何ら特定するものでもなければ、模様付き成形体を特定するものでもないから、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正には該当しない。
また、請求項1に記載の模様付成形体において、その供給手段が記載されていないことを以て、その記載が明りょうでないとはいえないことは明らかであり、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正とも認められないし、あるいは誤記の訂正を目的とする訂正にも該当しないことはいうまでもない。
よって、上記訂正は、特許法第134条第2項ただし書きの規定に適合しないので、当該訂正は認めない。

2-2.訂正請求に対する手続補正の適否
被請求人は、上記2-1.訂正拒絶理由の概要に記載した通知に対し、訂正請求書に対する手続補正を行い、訂正請求書第2頁22〜25行記載の訂正事項を、「透明な熱可塑性樹脂シートがあらかじめ湾曲部分を有する製品形状に真空成形された透明成形体の裏面に、マニホールドを介して供給した複数色の塗料を硬化剤と外部混合させて吹き付けてなる塗膜が積層されてなることを特徴とする模様付き成形体。」と補正しようとしているが、当該訂正請求書に対する手続補正は、訂正請求書の要旨を変更するものであり、特許法第131条第2項の規定に適合しないので、当該手続補正は認められない。

2-3.訂正の内容
上記2-2.に記載した理由により手続補正は認められないから、訂正請求の訂正の内容は、下記のとおりである。
訂正事項1: 特許請求の範囲の
「透明な熱可塑性樹脂シートがあらかじめ湾曲部分を有する製品形状に真空成形された透明成形体の裏面に、複数色の塗料を硬化剤と外部混合させて吹き付けてなる塗膜が積層されてなることを特徴とする模様付き成形体。」との記載を、
「透明な熱可塑性樹脂シートがあらかじめ湾曲部分を有する製品形状に真空成形された透明成形体の裏面に、複数色の塗料をマニホールドを介して供給し、硬化剤と外部混合させて吹き付けてなる塗膜が積層されてなることを特徴とする模様付き成形体。」
と訂正する。

2-4.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
平成15年6月20日付け訂正拒絶理由に記載した上記「2-1.訂正拒絶理由の概要」に記載したように、
当該訂正は、塗膜を形成する複数色の塗料がマニホールドを介して供給されることを明らかにするものであって、塗料の供給が塗装装置において通常に用いられているマニホールドを介してされることを特定したからといって、成形体に積層された複数色の塗料によって形成される塗膜自体を何ら特定するものでもなければ、模様付き成形体を特定するものでもないから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正には該当しない。
また、請求項1に記載の模様付成形体において、その供給手段が記載されていないことを以て、その記載が明りょうでないとはいえないことは明らかであり、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正とも認められないし、あるいは誤記の訂正を目的とする訂正にも該当しないことはいうまでもない。

2-5.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、平成6年法律第116号(以下「平成6年法」という)による改正前の特許法第134条第2項ただし書きに適合しないので、当該訂正は認められない。

3.請求人の主張
請求人 三菱レイヨン株式会社は、本件発明の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、
本件特許発明は、その出願前に頒布された甲第4、第5号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、その出願前に頒布された甲第4、第5号証、及び甲第8ないし第14号証に記載された発明、または甲第15号証による公知又は公用の多色ゲルコートスプレー装置に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもあるから、特許法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものであると主張し、平成13年12月25日付け審判請求書と同時に次の証拠方法を提出している。
なお、審判請求書には、「甲第8〜13号証の記載から又は甲第15号証による公用の・・・」との記載があるが、甲第13、14号証は、取扱い説明書の配布者と受領者からの公知性を裏付けるための証拠(審判請求書第11頁20〜22行参照)であるから、甲第13号証は甲第14号証の誤りと認められ、上記のとおり認定した。

甲第1号証 特許第2960174号公報
甲第2号証 特許第2960174号に係る平成12年9月12日付け訂正請求書および同請求書に添付された全文訂正明細書
甲第3号証 特許第2960174号に係る平成12年9月12日付け特許異議意見書
甲第4号証 実公昭50-36591号公報
甲第5号証 特公昭56-27259号公報
甲第6号証 林法昭編「樹脂加工別冊2最近の合成樹脂塗料とその使い方」、高分子化学刊行会、昭和39年2月10日発行、129〜133頁
甲第7号証 浅見高著、「プラスチック材料講座〔12〕アクリル樹脂」、日刊工業新聞社、昭和45年3月25日発行、104〜107頁
甲第8号証 特開昭59-115768号公報
甲第9号証 実願昭61-153587号(実開昭63-58662号)のマイクロフィルム
甲第10号証 特開平2-194871号公報
甲第11号証 実願昭58-103065号(実開昭60-13267号)のマイクロフィルム
甲第12号証 実願昭60-201786号(実開昭62-109750号)のマイクロフィルム
甲第13号証 御国色素株式会社総務部部長 中村三万士による松下住設機器株式会社(現在松下電器産業株式会社)に対し、平成3年 1月20日に「多色ゲルコートスプレイ装置取扱い説明書」を配布した旨の平成13年11月16日付け配布説明書
甲第14号証 松下住設機器株式会社(現在松下電器産業株式会社)商品開発グループ 今坂 喜信による御国色素株式会社から平成3年 1月20日に「多色ゲルコートスプレイ装置取扱い説明書」を受け取った旨の平成13年11月19日付け受取り証明書
甲第15号証 御国色素株式会社総務部部長 中村三万士による多色ゲルコートスプレー装置を販売した旨の平成13年11月16日付け販売証明書

参考資料1 特開平4-330956号公報
また、平成14年10月21日付け弁ぱく書と同時に次の証拠方法を参考資料2として提出している。
参考資料2 特願平2-223475号の出願関係書類の写し

3-1.弁駁時の主張
被請求人から提出された答弁書及び口頭審理における審尋等に対する回答書の中で主張している事項について、逐一反論し、要するに、本件特許は、特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許は無効とされるべきである旨主張している。

4.被請求人の主張
被請求人は、下記乙第1号証ないし第7号証を提出して、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、
本件特許発明は、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当することなく、又、その出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではなく、結局、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するものではない旨、主張している。
また、甲第13、第14及び第15号証によっては、「複数色の塗料を硬化剤と外部混合させて樹脂成形体等の塗装物に吹き付けること」が公知であり、「4色または5色の塗料と硬化剤とを外部混合し、被塗装物に吹き付けて塗膜を形成する多色ゲルコートスプレー装置」が公用であった、という請求人の主張には、到底承伏できないとも主張している(以下、「主張1」という)。

答弁書提出時:
乙第1号証 特願平3-68355号に係る平成12年1月20日付け拒絶理由通知書
乙第2号証 特願平3-68355号に係る平成12年3月22日付け意見書
乙第3号証 特願平3-68355号に係る平成12年3月22日付け手続補正書
乙第4号証 特願平3-68355号に係る平成12年5月16日付け特許査定
回答書提出時:
乙第5号証 マニホールド及びスプレーガンを撮影した写真
乙第6号証 機械工学用語辞典編集委員会編「機械工学用語辞典」、理工学社、1996年9月10日発行、第549頁
乙第7号証 小稲義男編「新英和大辞典」、研究社、1991年発行、第1292頁

4-1.審尋に対する被請求人の回答
平成14年6月27日の口頭審理調書に記載された審尋事項に対し、被請求人は下記のように回答している。
(1)複数色の塗料が複数の塗料流入口からマニホールド本体内に流入し、単一の塗料流出口から流出し、スプレーガンの吐出口から吐出するとしても、複数色の塗料がスプレーガンの吐出口から吐出するまでの時間は僅かな時間であるために、又、塗料は高粘度を有するために、複数色の塗料が単一管路を流動したとしても、実際には、殆ど混合しない状態でスプレーガンの吐出口から吐出されます(以下、「主張2」という)。
(2)一貫して、4色の塗料30、すなわち「複数色の塗料」について、一体的に捉えて記載しており、「複数色の塗料」のうちの各単色の塗料について、個別的に捉えて記載していません。このことから、「複数色の塗料」をスプレーガン32に同時に「供給し」、霧化エア33の圧力で同時に噴出させ、硬化剤34と同時に外部混合させる、すなわち、同時に「外部混合させて吹きつけ」ることが明確に理解されます(以下、「主張3」という)。
(3)「模様付き」における模様の具体的な範囲について
「模様付き」における模様は、具体的には、石目調模様等の天然材料の表面模様を想定しています(以下、「主張4」という)。
合議体注:下線は合議体が付したものである。

5.特許無効申立てについての判断
5-1.本件特許発明
本件特許発明は、上記2.のとおり訂正は認められないので、本件特許第2960174号の願書に添付した明細書(平成12年9月12日付け訂正請求書に添付された全文訂正明細書)の特許請求の範囲請求項1に記載された次のとおりのものである。
「透明な熱可塑性樹脂シートがあらかじめ湾曲部分を有する製品形状に真空成形された透明成形体の裏面に、複数色の塗料を硬化剤と外部混合させて吹き付けてなる塗膜が積層されてなることを特徴とする模様付き成形体。」

5-2.引用刊行物の記載事項
(1)請求人が提出した甲第4号証である実公昭50-36591号公報には、次の事項の記載が認められる。
(1-1)「本考案に係る浴槽、洗面器などの構造は透明なアクリル樹脂製の1枚の薄板を所定の形状に一体に成形したものの外面にスプレーガンなどの手段により着色を施し、あるいは大理石模様などの模様を形成させ、その外側にFRPの層を積層して浴槽などを構成せしめるごとくしたものである。」(第1欄37行〜第2欄5行)
(1-2)「この構造においては、内層の透明な合成樹脂は顔料が含まれていないため材質の劣化がなく、かつ内層の外面に前述のごとくして着色あるいは模様を施したり、もしくは凹凸を形成させたりすることによって不透明にすることが容易にでき、またFRPの層によって全体を補強するごとくしたためアクリル樹脂の板厚を薄くすることができ、したがってコストの軽減を図りえたものである。さらにこのものは前述のごとく透明のアクリル樹脂の板材を用いるため材料の入手には何ら問題なく、また透明な内層を所定の形状に成形したのちこの外面に着色や模様を施すごとくしたため、種々の着色や模様の形成がきわめて容易になしうるのである。」(第2欄第5〜18行)
(1-3)「内層1の外面には着色または模様が施された中間層2が設けられ、さらにその外面にFRPの層3が設けられ、これらが1枚の板となつて浴槽を構成している。なお、FRPの層を形成せしめるには所定の形状に成形された内層1の外面に着色したポリエステル樹脂を吹きつけるか、または塗り込むごとくすればよく、FRPの層を設けるための金型は必要なく内層がその役目を果たしている。」(第2欄30行〜第3欄1行)
(1-4)「本考案の浴槽、洗面器などの構造は強度の大なるFRPの外層の内面に表面が平滑で外観のきれいな透明のアクリル樹脂板の層が設けられかつその中間に種々の着色、模様を施した着色された層を有するものである。」(第3欄6行〜第4欄2行)
(1-5)「その構成すべき浴槽、洗面器などの内側表面を透明なアクリル樹脂製の薄膜で構成させ、該薄層の外側表面には着色が施され、あるいは模様が形成され、さらにその外側にFRPの層が設けられてなる浴槽、洗面器などの構造。」(実用新案登録請求の範囲)

上記摘示記載(1-1)ないし(1-5)に記載された事項並びに、特に、摘示記載(1-2)、(1-5)の記載によれば、アクリル樹脂製の1枚の薄板は、板厚は薄いもので、薄膜といえるものであるから、かつ透明な内層を浴槽、洗面器などの所定の形状に成形したのち着色や模様を施すものであり、摘示記載(1-3)の記載により着色層は吹付けて形成されること及び、摘示記載(1-4)の記載により、着色層は種々の着色、模様を施した着色された層であるから、甲第4号証には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。

透明なアクリル樹脂製の薄膜を成形して湾曲部分を有する透明アクリル樹脂成形体の裏面に、吹き付けなどにより形成してなる種々の着色または模様を施した着色層が積層されてなる成形体。

5-3.対比
そこで、本件特許発明と甲第4号証に記載された発明とを対比すると、甲第4号証に記載された発明の「種々の着色または模様を施した着色した層を積層されてなる成形体」は、本件特許発明の「模様付成形体」に相当し、以下同様に、「透明なアクリル樹脂製の薄膜」は「透明熱可塑性樹脂シート」に、及び、「成形して湾曲部分を有する透明樹脂成形体」は「あらかじめ湾曲部分を有する製品形状に真空成形された透明成形体」に、それぞれ、対応している。
また、甲第4号証に記載された発明の「着色層」は成形体に模様を付けるためのものをも包含する(摘示記載(1-2)、(1-4)参照)から、本件特許発明の模様を形成している「塗膜層」に対応するものと認められる。
したがって、本件特許発明と甲第4号証に記載された発明とは、
透明な熱可塑性樹脂シートがあらかじめ湾曲部分を有する製品形状に成形された透明成形体の裏面に、種々の着色または模様を施した着色層が積層されてなる模様付成形体の点で一致し、
相違点1:成形体が、本件特許発明では、真空成形されているのに対し、甲第4号証に記載された発明では、所定の形状に一体に成形すると記載され、その成形手段が明記されていない点、
相違点2:積層される層が、本件特許発明では、複数色の塗料を硬化剤と外部混合させて吹き付けてなる塗膜であるのに対し、甲第4号証に記載された発明では、吹き付けなどにより種々の着色または模様を施した着色された層であって、
(a)塗料が、本件特許発明では硬化剤と外部混合させる2液混合硬化型のものであるのに対し、甲第4号証に記載された発明では着色したポリエステル樹脂とだけ記載され、それが2液混合硬化型塗料であるとは記載されていない点、
(b)塗膜が、本件特許発明では複数色の塗料の吹き付けにより形成されるものであるのに対し、甲第4号証に記載された発明では着色又は模様が複数色の塗料により付されたものであるか否かが不明である点、
で相違している。
なお、模様付成形体の「模様」について、被請求人は、「模様付き」の「模様とは何か」との審尋に対し、「「模様付き」における模様の具体的な範囲について」と言い換えを行い、石目調模様等の天然材料の表面模様を想定している旨主張(主張4)しているが、特許請求の範囲には、「複数色の塗料を硬化剤と外部混合させて吹き付けてなる塗膜が積層されてなる」と記載しつつ「模様付成形体」と記載されており、その模様が「複数色の塗料を吹き付けてなる塗膜」によって形成されるもので、色の違いによる模様であればよいものと解されることから、上記特定の模様を意味するものであるとの主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって採用できない。

5-4.当審の判断
上記相違している点について検討する
(1)相違点1について
甲第4号証には、上記したようにアクリル樹脂製の1枚の薄板は、板厚は薄いもので、薄膜といえるものであるから、かつ透明な内層を浴槽、洗面器などの所定の形状に成形したのち着色や模様を施すものであり、さらに、熱可塑性樹脂シートを真空成形すること自体は、本出願前周知の技術であることから、甲第4号証に記載された発明において、相違点1のごとく真空成形技術を適用してあらかじめ製品形状に成形することは当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。
(2)相違点2について
被請求人は「複数色の塗料を硬化剤と外部混合して吹き付けてなる塗膜」が、複数色の塗料を同時に吹き付けることによって形成される模様であると主張し、特に、複数色の塗料を「同時に一つのノズルに供給し、同時に吹き付け」ると主張(主張3)する。
しかし、願書に添付した明細書には、段落【0014】「この塗料の吹き付としても、図4に示すように、単頭ガン方式によって行うことができる。すなわち、4個のタンクに分け入れられた4色の塗料30を、マニホールド31を介してスプレーガン32に供給し分け、このスプレーガン32に供給された塗料30を霧化エア33の圧力で噴出させる。同時に、この噴出される塗料30を、他のタンクから噴射される硬化剤34と外部混合させ、透明成形体2に塗布するものである。」及び段落【0015】「吹き付けの方法としては、この単頭ガン方式に限定するものではなく、各色毎にスプレーガン32を備えた多頭ガン方式によって行ってもよい。また、図4では4色の塗料30による吹き付けを例示しているが、塗料の色数としては何色であってもよい。このスプレーガン32による吹き付けによって、作業を効率良く行うことができる。その上、各塗料30の吐出量を調節することにより、天然材料である石目調の模様等は勿論、天然にないバラエティーにとんだ綺麗な石目調の模様が得られる。」の記載があり、単頭ヘッドのスプレーガンに複数色の塗料を同時に供給するとの記載はなく、また、多頭ヘッドを用い複数色の塗料を吹き付けるとの記載はあるが、多頭ヘッドから複数色の塗料を同時に吹き付けるとの明記もなく、上記記載によれば、個々の塗料を別々にスプレーガンに供給することを前提にしていると解することができ、少なくとも被請求人が主張するように、複数の色の塗料を同時に一つのノズルに供給し、複数の塗料を一つのノズルから同時に噴出させ塗膜を形成することの記載がないし、それを示唆する記載もない。
そして、特許請求の範囲には複数色の塗料を「同時に一つのノズルに供給し、同時に吹き付け」ること又は多頭ヘッドを用い複数色の塗料を同時に吹き付けることが記載されている訳ではなく、特許請求の範囲の「複数色の塗料を硬化剤と外部混合して吹き付けてなる塗膜」を、被請求人の主張する複数の色の異なる塗料を同時に吹き付けるもののみを意味するものと解することはできないから、本件特許発明は、複数の色の塗料を逐次、吹き付けるものも含むものである。(合議体注:なお、下線は合議体が付したものである。)
甲第4号証の、摘示記載(1-1)によれば「スプレーガン等の手段で着色を施し、あるいは大理石模様などの模様を形成させ」と、摘示記載(1-3)によれば「着色したポリエステル樹脂を吹付けて着色層を形成した後」と記載があるように、吹付けにより着色層を形成することが記載されている。このように、着色層の形成を吹付けで行うことは従来より採用されていることから、着色層を吹付けにより形成することは実質的な差異ではない。
上記相違点2の(a)について
上記相違点2の(a)着色層を形成する材料に関しては、甲第4号証には、具体的には、着色したポリエステル樹脂と記載され、塗料との記載はないが、着色層を形成する材料として塗料は通常に使用されるものであるから、着色層の形成に塗料を用いることは実質的な差異ではない。また、硬化剤を混合させ硬化する塗料(以下、「2液混合硬化型塗料」という。)及び2液混合硬化型塗料の硬化によるノズルの目詰まりを防止するため硬化剤を別に供給して外部混合させることは周知の技術であるから、着色層の形成に塗料を採用する際、2液混合硬化型の塗料を選択し、目詰まりを起こさないように硬化剤を別に供給することは、当業者なら当然になすことと認められる。
したがって、相違点2の(a)の「塗料が硬化剤と外部混合させて吹き付ける2液混合硬化型のもの」を選択することは、当業者が必要に応じて適宜為し得ることとである。
上記相違点2の(b)について
甲第4号証には、吹付け着色層について、種々の着色や模様の形成が極めて容易に為しうるとの記載があり、甲第4号証に記載された発明でも複数色の着色や複数色の模様を形成することが示唆されているのものと解することができ、しかも、色の異なる塗料を吹付け手段により重ね塗りや逐次塗り、色分けして模様を形成するように塗ることにより模様付けすることは当業者が通常になすことであるから、上記相違点2の(b)は、当業者が必要に応じて適宜採用し、なし得たことである。
以上のことから、甲第4号証に記載された発明の着色層を形成するのに、硬化剤を使用する2液混合硬化型の塗料を採用するとともに、複数色の塗料を硬化剤と外部混合させて吹付けて塗膜形成し、その際、本件特許発明のように複数色の色模様となすことは、当業者が容易に想到することができたことと認められる。
そして、本件特許発明によってもたらされる効果も、当業者であれば当然に予測することができる程度のものであって、格別顕著なものとはいえない。
よって、本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものである。

5-5.被請求人の主張(「主張1、2」)について
(1)主張1について、
甲第13、第14号証の公知性について、甲第13、第14号証は請求人とは全く別の者であって、「多色ゲルコートスプレー装置」取扱説明書の使用者及び、「ミクニ多色模様ゲルコート」という表題の多色ゲルコートスプレー装置取扱い説明書を作成、頒布した者が、該取扱い説明書を平成3年 1月20日に配布したこと及び受け取ったことを証明しており、「多色ゲルコートスプレー装置」の取扱い説明書が、本件特許発明の出願日(平成3年2月19日)前に配布されていたことはことは明かである。被請求人は乙第1ないし第4号証を提示して、特願平3-68355号(出願日:平成3年4月1日、国内優先日:平成2年8月24日)に記載されているものが、取扱い説明書の多色ゲルコートスプレー装置であるとし、出願日は平成3年4月1日であるから、その出願日より以前の平成3年 1月20日に配布した及び受け取ったとの甲第13、第14号証の証明書の内容と整合しない旨主張しているが、特許出願に記載された装置は、国内優先権主張した最初の出願に記載された装置であり、取扱い説明書の対象の装置が特願平3-68355号と同じものであっても、当該取扱い説明書は、最初の特許出願の日後に配布されており、何の不合理もないので、根拠のない主張に過ぎない。
甲第15号証による多色ゲルコートスプレー装置の公用について、甲第15号証には、請求人三菱レイヨン株式会社とは、別の者である、上記特許出願に係る多色ゲルコートスプレー装置を製作、販売している御国色素株式会社が、本件特許発明の出願日前に、特許出願に係る多色ゲルコートスプレー装置を不特定多数の者に販売していたことを示す販売実績表が記載され、その販売していた事実を証明していることから、特許出願に係る多色ゲルコートスプレー装置が本出願前に公然と販売されていたものと解するのが妥当である。
ところで、被請求人の主張は、特許出願に係る装置が特許出願の国内優先権主張日前に販売していることとなるのはあり得ないから、公然と販売されたはずはないとの主張と解されるが、平成2年8月24日の国内優先日以前の平成2年7月16日にスプレー装置一式が販売されていたとしても、その後、2回に亘り装置関連品が販売されており、スプレー装置が直ちに、工場で使用された様子も窺えないし、また、直ちに使用されたとしても高々1社の工場に販売、納品され、使用に供されただけで、それをもって公然実施されたとすることはできないというものであるが、上記したように多色ゲルコートスプレー装置は本件特許発明の出願前に不特定多数の者に販売している実績があり、公然と販売されたと推認するのが妥当であり、被請求人の主張は採用できない。また、特許出願と製品販売とが前後することは有り得ることであり、また、上述したように1社に販売した事実のみで公然実施されたなどと、直ちにはいえず、特許出願の審査過程において御国色素株式会社が新規性進歩性があると主張したことと全く整合性がないなどと言うことはできない。
以上のとおりであるから、当該被請求人の主張は採用できない。

(2)主張2について、
マニホールドの構造を下面側に複数の塗料流入口を形成し、上面側に単一の塗料流出口を形成してあるものと説明しているとおりのものであったとしても、複数の塗料流入口から1つの流路への流れはぶつかり合うことになり、かつその後、スプレーガン等に導かれ、ノズルから噴出されるものであり、その合流し、流通する過程において、混合を生じるのが通常であって、被請求人が主張するように、複数色の塗料は、同一管路を短時間で流通するから、あるいは粘度が高いから、混じらないとの主張は、特殊な条件下においてのみ実現できるものであると認められる。しかたがって、被請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、採用できない。

6.むすび
以上のとおり、本件特許発明は、甲第4号証に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2004-01-26 
結審通知日 2004-01-29 
審決日 2004-03-08 
出願番号 特願平3-24488
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鴨野 研一  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 石井 克彦
高梨 操
登録日 1999-07-30 
登録番号 特許第2960174号(P2960174)
発明の名称 模様付き成形体  
代理人 鶴田 準一  
代理人 樋口 外治  
代理人 橋本 清  
代理人 石田 敬  
代理人 橋本 清  
代理人 吉田 維夫  
代理人 西山 雅也  

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