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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B62D
管理番号 1112915
異議申立番号 異議2001-72535  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-02-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-09-11 
確定日 2004-12-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3146289号「ゴムクロ-ラの構造」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについてした平成14年3月5日付取消決定に対して、東京高等裁判所において取消決定取消の判決(平成14年(行ケ)第197号、平成15年2月13日判決言渡)があったので、さらに審理したうえ、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3146289号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続の経緯
(1)本件特許第3146289号は、平成4年7月4日に特許出願され、平成13年1月12日にその特許権の設定登録がなされ、その後、オーツタイヤ株式会社より特許異議の申立てがあった。
(2)平成13年11月20日付で、当審より取消理由の通知および審尋がなされ、その指定期間である平成14年1月29日付で意見書、訂正請求書および審尋回答書が提出されたものであるところ、平成14年3月5日「訂正を認める。特許第3146289号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定があり、その謄本は平成14年3月26日に送達された。
(3)上記決定の取消を求める訴え(平成14年(行ケ)第197号)がなされ、「特許庁が異議2001-72535号事件について平成14年3月5日にした決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決の言渡があり、その後確定した。
(4)これを受けて、当審において更に審理を行い、平成15年5月7日付で新たな特許取消理由を通知したが、その指定期間内である平成15年7月22日に、特許異議意見書の提出と共に、訂正請求がなされたものである。(なお、平成14年1月29日付の訂正請求は取り下げられた。)

【2】訂正の適否について
1.訂正請求の内容
上記訂正請求は、特許第3146289号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その要旨は、以下の訂正事項a〜gのとおりのものと認める(訂正箇所を示す下線は当審で加入)。
<訂正事項a>
特許請求の範囲(【請求項1】)の
「無端状ゴム弾性体の長手方向に向って抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクローラであって、少なくとも抗張体より内周側のゴム質を、ロスファクター(tanδ)が0.15以下のゴムを使用したことを特徴とするゴムクローラの構造。」
とある記載を、
「無端状ゴム弾性体の長手方向に向って抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクローラであって、抗張体より内周側のゴム質のみを、ロスファクター(tanδ)が0.08以上〜0.15以下のゴムを使用したことを特徴とするゴムクローラの構造。」
と訂正する。
<訂正事項b>
段落番号【0006】の
「【課題を解決するための手段】
本発明は以上の目的を達成するために次のような構成を採用したものである。即ち、本発明の要旨は、無端状ゴム弾性体の長手方向に向って抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクローラであって、少なくとも抗張体より内周側のゴム質を、ロスファクター(tanδ)が0.15以下、好ましくは0.08〜0.12のゴムを使用したことを特徴とするゴムクローラの構造にかかるものである。」
とある記載を、
「【課題を解決するための手段】
本発明は以上の目的を達成するために次のような構成を採用したものである。即ち、本発明の要旨は、無端状ゴム弾性体の長手方向に向って抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクローラであって、抗張体より内周側のゴム質のみを、ロスファクター(tanδ)が0.08以上〜0.15以下、好ましくは0.08〜0.12のゴムを使用したことを特徴とするゴムクローラの構造にかかるものである。」
と訂正する。
<訂正事項c>
段落番号【0008】の
「このtanδの値はその値が低い程その効果は高いが、tanδが0.08以下であるとカーボンを少量しか配合できないため、耐久性能や接着性能が劣るという欠点があり、自ずとその限界がある。」
とある記載を、
「このtanδの値はその値が低い程その効果は高いが、tanδが0.08未満であるとカーボンを少量しか配合できないため、耐久性能や接着性能が劣るという欠点があり、自ずとその限界がある。」
と訂正する。
<訂正事項d>
段落番号【0011】の
「尚、tanδの値は、東洋精機製作所製のスペクトロメーター(レオログラフソリッドL-IR)を使用して測定したものであり、試験片は厚さ2mm、幅5mm、長さ30mmであって、測定温度は25℃、加振条件は15Hz±2%であった。」
とある記載を、
「尚、tanδの値は、東洋精機製作所製のスペクトロメーター(レオログラフソリッドL-IR)を使用して測定したものであり、試験片は厚さ2mm、幅5mm、長さ30mmであって、測定温度は25℃、加振条件は周波数15Hz、歪振幅±2%であった。」
と訂正する。
<訂正事項e>
段落番号【0013】の【表1】の
「tanδ(15Hz±2%)」
とある記載を、
「tanδ(加振条件:周波数15Hz、歪振幅±2%)」
と訂正する。
<訂正事項f>
段落番号【0017】の
「得られたゴムクローラにあって、レジリエンス(%)、tanδ(15Hz±2%)、伸張疲労性(0〜100%)は表1に記した通りである。尚、レジリエンス(%)はJIS・K・6301によって測定し、tanδは前記した条件にて、更に伸張疲労性は0〜100%の伸張を繰り返し、切断までの繰り返し回数である。この結果、実施例1〜3共に通常のゴムクローラとしての性状としては充分使用に供せられるものである。」
とある記載を、
「得られたゴムクロ-ラにあって、レジリエンス(%)、tanδ(加振条件:周波数15Hz、歪振幅±2%)、伸張疲労性(0〜100%)は表1に記した通りである。尚、レジリエンス(%)はJIS・K・6301によって測定し、tanδは前記した条件にて、更に伸張疲労性は0〜100%の伸張を繰り返し、切断までの繰り返し回数である。この結果、実施例1〜3共に通常のゴムクローラとしての性状としては充分使用に供せられるものである。」
と訂正する。
<訂正事項g>
段落番号【0021】の
「本発明は、エンジンを1ランク小型のものを選べるという、実質的に効果の顕著に表れる走行抵抗が80以下を特に狙ったものであり、ゴムクローラの外周側のゴム質のtanδの値が0.15以下にすれば、この効果は確実となることが判明した。」
とある記載を、
「本発明は、エンジンを1ランク小型のものを選べるという、実質的に効果の顕著に表れる走行抵抗が80以下を特に狙ったものであり、ゴムクローラの内周側のゴム質のtanδの値が0.15以下にすれば、この効果は確実となることが判明した。」
と訂正する。

2.訂正事項の検討
上記訂正事項aは、請求項1において、訂正前の請求項1に記載の「少なくとも抗張体より内周側のゴム質を」という事項に関し、「抗張体より内周側のゴム質のみを」という事項に限定したものであり、かつ、訂正前の請求項1に記載の「ロスファクター(tanδ)が0.15以下」という事項に関し、「ロスファクター(tanδ)が0.08以上〜0.15以下」としてロスファクター(tanδ)の値を更に限定したものであるので、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当するし、願書に添付した明細書の段落番号【0006】【0008】及び【表1】に記載された事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。
上記訂正事項bは、上記の訂正事項aに係る特許請求の範囲の訂正に伴って、特許請求の範囲と発明の詳細な説明との整合を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。
上記訂正事項cは、「tanδが0.08以下」を「tanδが0.08未満」と訂正する事項を含むもので、訂正前の明細書の【0006】、及び【表1】の実施例3の記載から明らかに、訂正前の「以下」は「未満」の誤記であると認められるから、当該訂正事項は誤記の訂正を目的とするものに該当するし、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。
上記訂正事項d、e及びfは、tanδの測定条件に関し、「15Hz±2%」を「加振条件:周波数15Hz、歪振幅±2% 」と訂正するもので、技術的常識に基づいて、tanδの測定条件の加振条件を明確に記載するものと認められるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正と認められ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。
上記訂正事項gは、「外周側のゴム質」を「内周側のゴム質」と訂正する事項を含むものであり、誤記の訂正を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。

3.訂正の適法性と訂正請求の認容
以上のとおりであるから、本件訂正請求による明細書の訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用され、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び同条第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】特許異議申立について
1.本件発明
上記【2】で示したように、上記訂正が認められるから、本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という)は、上記訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「無端状ゴム弾性体の長手方向に向って抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクローラであって、抗張体より内周側のゴム質のみを、ロスファクター(tanδ)が0.08以上〜0.15以下のゴムを使用したことを特徴とするゴムクローラの構造。」

2.引用刊行物及びその記載事項
当審において、平成15年5月7日付で通知した特許取消理由で引用した本件の出願前に頒布された刊行物1ないし5は、次のとおりである。
刊行物1:実願平2-19041号(実開平3-109988号) のマイクロフィルム
刊行物2:特開平4-173825号公報
刊行物3:特開平3-223353号公報
刊行物4:特開平4-142346号公報
刊行物5:実願平1-54182号(実開平2-143543号) のマイクロフィルム

(1)刊行物1の記載事項
上記刊行物1には、「高弾性ゴムクローラ」に関して、第1図〜第7図と共に、次のア〜オの事項が記載されている。
ア.「内部中央に転輪や遊動輪の外れ防止のために一定間隔で突出形成する一対の角状突起を含む内周層をウレタンゴムで、これと反対する接地面側のラグを含む外周層を天然ゴム又は合成ゴム或いは天然ゴムと合成ゴムとの混合ゴムなどの加硫ゴムで異ならしめ、且つ上記内周層と外周層の何れか片方、或いは双方の境界面附近には高強度の補強布を埋設した構成を特徴とする高弾性ゴムクローラ。」(明細書第1頁第4〜12行)
イ.「ゴムクローラ本体内に剛性を付与するべく多数の芯金やスチールコードなどを埋設することを必要とするのであり、従つて重量が大となるほか、しかもなお芯金のない部分では剛性が不足するためクローラ外れが比較的頻繁に起り易いのである。
一方、ゴムクローラ全体をウレタンゴムで構成したものは高弾性、高剛性であるため、上記欠点を解決するように思えるのであるが、クローラ全体が高剛性となると、(○)1(原文は丸数字、以下同様)全体長で曲がり難いものとなることから駆動輪等との巻き付きの点で問題が生ずる(○)2歪みによる疲労が内部に蓄積されて駆動輪と係合する部分が折れたり、係合孔Hの側端方向に亀裂が入つて切断したりする。
他方、ウレタンゴムの硬度を少し低くするとゴムクローラが全体で伸びるものとなつてクローラ外れなどの欠陥を生ずるものとなるのである。」(明細書第2頁第18行〜第3頁第17行)
ウ.「本考案になるゴムクローラは(○)1クローラ本体をその長さ方向で内周層と外周層とに区分し、内周層はウレタンゴムで構成したゝめクローラ本体の角状突起を含む内周側全体が高剛性のものとなつてクローラ外れの生じ難いものとなるのであり、且つ外周層を天然ゴム等よりなる加硫ゴムで構成したため、接地面側のラグを含む外周層全体が柔軟性となつて内周側へ曲がり易いものとなる。(○)2内周層及び外周層の境界面附近の内周層又は外周層の何れか一方若しくは両側に対し、高強布を埋設してあるため、駆動輪等との巻回部に於いて内周層(ウレタンゴム)は繰り返し圧縮のみを受けるものとなつて伸長されないため、クローラ本体の耐久性が良好となる。」(明細書第4頁第9行〜第5頁第3行)
エ.「このさい補強布14の埋設位置は境界面K位置に近づけることが好ましいのであって、この理由は内周層10aのウレタンゴムは繰り返し圧縮に対して耐久性が良好であるが、繰り返し伸長に対しては耐久性に乏しいため、内周層10aを殆んど圧縮側に位置せしめて伸長側には存在しない構成とするのである。これに対し天然ゴムの加硫ゴムよりなる外周層10bは圧縮及び伸長の何れに対しても耐久性が良好であることから問題はない。よって補強布14の近接した境界面Kも同様に殆んど伸縮しないものとなって殆んど歪みが生じないものとなり、また微少な歪みは補強布14により分散されるために界面剥離等が生じ難いものとなるのである。」(明細書第6頁第11行〜第7頁第5行)
オ.「本考案のゴムクローラは内周層10aが高剛性のウレタンゴムであるため、クローラ外れ防止に関し格別に優れたものとなるのであり、且つこのさい外周層10bは従来のゴムクローラと同じ加硫ゴムであるため、クローラ本体の外周側及び接地ラグが柔軟で内周側に曲がり易いものとなつて駆動輪への巻き付きが容易となり、また舗装路面を損傷しないものとなるのである。」(明細書第9頁第19行〜第10頁第7行)

(2)刊行物2の記載事項
上記刊行物2には、「ウレタン弾性重合体の製造法」に関して、明細書第9頁の表2(比較例を含めた全てのものについてtanδの値は0.15以下であることが示されている)と共に、次のカの事項が記載されている。
カ.「上記の表等の結果から、本発明によるウレタン弾性重合体は、他の天然ゴム、合成ゴム等のエラストマーと比較し、高硬度でも高い弾性率、優れた耐摩耗性、高い引裂強さ、破断強度、エネルギー吸収性、耐油性、耐ガソリン性、小さい永久歪などが大きい特徴を持つウレタン弾性体であることが明らかである。
このような特徴を利用した用途として、精密ゴム部品のシールおよびパッキン類、事務機各種ベルト、ブレード、ゴムローラー、ソリッドタイヤ、電気機器の弾性ベルト、自動車防振ゴム、印刷ロール、製紙ロール、サクションプレート、各種紡織機部品、フリクションローラー、アイドラーロール、耐音響弾性ベルト、防振ゴム、弾性カップリング、歯形タイミングベルト、無音ギヤ類に使用される。
特に高弾性を有しながら、動的条件下における耐熱性の尺度である融点(Tm)が高く、損失正接(tanδ)が小さく、また低温特性の尺度であるガラス転移点(Tg)が低いことから、事務機スクレパー、ブレード、給紙ローラー、搬送ベルト、高い弾性率、優れた耐摩耗性、高い引裂強度、高いエネルギー吸収性を生かした電機音響用弾性平型、角型、丸型、T型、V型ベルト、ピンチローラー、各種紡績機械部品と類似の用途が無限に開かれている。」(第13頁左上欄第1行〜同頁右上欄第6行)

(3)刊行物3の記載事項
上記刊行物3には、「優れた動的特性を有するゴム組成物」に関して、明細書第7頁の表-1(各実施例及び各比較例は、60℃tanδの値は0.15以下である)と共に、次のキ、クの事項が記載されている。
キ.「ゴム組成物は例えば、タイヤの各種部材、特にトレッド部、あるいは防振ゴムとして好ましく使用される。」(第6頁左上欄第6〜8行)
ク.「実施例1
(配合処方)
天然ゴム 100部
FEFブラック 45部
・・・
試験結果を表-1にまとめた。」(第6頁左下欄第1行〜同頁右下欄第15行)

(4)刊行物4の記載事項
上記刊行物4には、「耐熱性改良防振ゴム組成物」に関して、表3〜表6(表4における各実施例及び各比較例(ただし表4の比較例1-4を除く)、表6における各実施例及び各比較例は、いずれも、損失係数(tanδ,15H)の値が0.15以下である)と共に、次のケ、コの事項が記載されている。
ケ.「耐熱性、耐久性が極めて良好な防振ゴム組成物をもたらそうとするものである。」(第2頁左下欄第18〜19行)
コ.「本発明においてカーボンブラックは、防振ゴムに所定の硬度、強度、弾性率をもたらすために使用され、防振ゴム硬度に応じて原料ゴム100重量部あたり20〜100重量部配合される。」(第5頁左下欄第12〜15行)

(5)刊行物5の記載事項
上記刊行物5には、「平ベルト」に関して、第11図、第12図と共に、次のサの事項が記載されている。
サ.「心線層の下側に弾性が低いゴム層のみがある場合に、高負荷伝動を行うと、第11図及び第12図に示すように、心線aとプーリbとの間に圧縮力が作用し、圧縮ゴム層cが大きく変形し、心線aが大きく沈み込み(第11図鎖線参照)、また、長さ方向には、剪断応力τにより大きな剪断歪γを発生するために、伝動能力が低くなり、また発熱が大きくなり、ベルト寿命が低下する。」(明細書第2頁第5行〜同頁第13行)

3.刊行物1に記載の発明
A)上記刊行物1には、その「考案の名称」及び「実用新案登録請求の範囲」(記載事項ア参照)から明らかなように、「高弾性ゴムクローラ」に関する発明が記載されているものと認められるが、刊行物1の記載全体を通じて、ゴムについて「高弾性」に言及しているのは、実質上、記載事項イにおける「ウレタンゴムで構成したものは高弾性、高剛性」という記載のみである。したがって、記載事項アの「内周層をウレタンゴム」で形成するとされる、当該内周層を形成する「ウレタンゴム」は、「高弾性」のゴムであると解することができる。(刊行物1には、その他にも、「高強度及び高弾性率」という記載(第5頁第17行)があるが、これは、補強布の繊維に関するものであり、ゴムに関するものではない。)
一方、記載事項アにおいて、「外周層」は「天然ゴム又は合成ゴム或いは天然ゴムと合成ゴムとの混合ゴムなどの加硫ゴム」(以下、「天然ゴム等の加硫ゴム」という)で形成するとされている。この「天然ゴム等の加硫ゴム」については、刊行物1中に「高弾性」とする言及がなく、記載事項ウで「外周層を天然ゴム等よりなる加硫ゴムで構成したため」「外周層全体が柔軟性」になるとされているところから、上記の「天然ゴム等の加硫ゴム」は、内周層を形成する高弾性のウレタンゴムとは異なる素材であると解することができる。
B)記載事項アの「高強度の補強布」という用語と、記載事項ウの「高強布」という用語は、技術的に同じものを意味すると認められ、記載事項ア及び記載事項ウから、刊行物1の「高強度の補強布(高強布)」は、「内周層と外周層」の「境界面附近」に「埋設」されているものと認められる。そして、「内周層」には上記のウレタンゴムを使用しているから、刊行物1の「高強度の補強布」より内周側のゴム質には、「高弾性のウレタンゴム」を使用していると認められる。
C)記載事項アの「接地面側のラグを含む外周層を天然ゴム・・・などの加硫ゴムで異ならしめ」から、刊行物1のゴムクローラは、「天然ゴム等の加硫ゴムから成る外周層の接地面側にラグを形成した」ものと認められる。
したがって、記載事項ア〜オ、認定事項A)〜C)、第1図〜第7図から、刊行物1には、
「高弾性ウレタンゴムから成る内周層と柔軟性の天然ゴム等の加硫ゴムから成る外周層とに区分されるゴムクローラ本体の該内周層と該外周層の境界面附近に高強度の補強布を埋設し、該外周層の接地面側にラグを形成した高弾性ゴムクローラであって、高強度の補強布より内周側のゴム質を、高弾性ウレタンゴムを使用した高弾性ゴムクローラの構造。」(以下、「刊行物1に記載の発明」という)
が記載されているものと認められる。

4.対比・判断
[発明の対比]
本件発明と刊行物1に記載の発明とを対比する。
a)刊行物1に記載の発明の「ゴムクローラ本体」は、「高弾性ウレタンゴムから成る内周層と柔軟性の天然ゴム等の加硫ゴムから成る外周層」で構成され、エンドレス(無端状)であることは技術的に明らかであるから、刊行物1に記載の発明の「高弾性ウレタンゴムから成る内周層と柔軟性の天然ゴム等の加硫ゴムから成る外周層とに区分されるゴムクローラ本体」は、本件発明の「無端状ゴム弾性体」に相当する。
b)刊行物1に記載の発明は、「高弾性ウレタンゴムから成る内周層と柔軟性の天然ゴム等の加硫ゴムから成る外周層とに区分されるゴムクローラ本体の該内周層と該外周層の境界面附近に高強度の補強布を埋設し」ているのであるから、刊行物1に記載の発明の「高強度の補強布」は、「ゴムクローラ本体」の長手方向に向って「埋設」されているのは明らかであり(刊行物1の第2図〜第7図からも明らかであり)、刊行物1に記載の発明の「高強度の補強布」は、本件発明の「抗張体」に相当する。
c)刊行物1に記載の発明のゴムクローラ本体の該外周層の「接地面側にラグを形成した」は、本件発明のその(無端状ゴム弾性体の)「外周面にゴムラグを形成した」に相当する。
d)内周側のゴム質に関して、刊行物1に記載の発明の「高弾性ウレタンゴム」も、本件発明の「ロスファクター(tanδ)が0.08以上〜0.15以下のゴム」も、「外周側のゴム質と異なるゴム」であるといえるから、両者は、いずれも、「内周側のゴム質を、外周側のゴム質と異なるゴムを使用した」ものと認められる。
したがって、本件発明と刊行物1に記載の発明は、
<一致点>
「無端状ゴム弾性体の長手方向に向って抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクローラであって、抗張体より内周側のゴム質を、外周側のゴム質と異なるゴムを使用したゴムクローラの構造。」
で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
外周側のゴム質と異なるゴムを使用した部位が、本件発明では、「抗張体より内周側のゴム質のみ」であるのに対して、刊行物1に記載の発明では、「高強度の補強布(抗張体)より内周側のゴム質」にとどまる点。
<相違点2>
内周側のゴム質に関して、本件発明では、「ロスファクター(tanδ)が0.08以上〜0.15以下のゴム」を使用したのに対して、刊行物1に記載の発明は、「高弾性ウレタンゴム」を使用した点。

[相違点についての判断]
<相違点1について>
記載事項エの「補強布14の埋設位置は境界面K位置に近づけることが好ましいのであって、この理由は内周層10aのウレタンゴムは繰り返し圧縮に対して耐久性が良好であるが、繰り返し伸長に対しては耐久性に乏しいため、内周層10aを殆んど圧縮側に位置せしめて伸長側には存在しない構成とするのである。」という記載が示す補強布14の技術的意味に併せて、境界面が「補強布14の近接した境界面」(下線部は当審において加入)という記載を参酌すると、刊行物1に記載の発明においては、高強度の補強布(抗張体)の位置が外周層と内周層との境界面附近に位置している(即ち、外周側のゴム質と異なるゴムを使用した部位が、高強度の補強布(抗張体)より内周側のゴム質である)技術が開示されていることに加えて、高強度の補強布(抗張体)の位置を外周層と内周層との境界面と一致させる(即ち、外周側のゴム質と異なるゴムを使用した部位が、高強度の補強布(抗張体)より内周側のゴム質のみである)ことも示唆されているといえる。
そして、一般にゴム積層体においては、ゴム積層体を補強する補強布を、異なるゴム層を実質に分離するために、異なるゴム層の境界面附近に配置することも、異なるゴム層の境界部分に配置することも、いずれも慣用されているし、ゴムクローラにおいても、抗張体を、異なるゴム層を分離するように境界部分に配置する構成は周知のものである(特開昭55-140662号公報第4図等参照)。
したがって、上記示唆に併せて、慣用及び周知の事項を参酌すれば、刊行物1に記載の発明の高強度の補強布(抗張体)を、外周層と内周層との境界面と一致する位置に配置すること、即ち、抗張体より内周側のゴム質のみを、外周側のゴム質と異なる高弾性ウレタンゴムを使用したことは、容易に想到し得たものである。
<相違点2について>
(1)本件明細書(【0023】参照)に、「tanδの小さい、即ち反発係数の高いゴム」と記載されているように、本件発明でいう「ロスファクター(tanδ)が0.08以上〜0.15以下」のゴムは、反発係数の高いゴムである。
一方、一般に、高弾性のゴムボールを地面に自然落下させた場合、当該ゴムボールは落とした位置に近いところまで跳ね返ることからも明らかなように、「高弾性ゴム」はエネルギーロスが少なく、反発弾性率(本件発明でいう「反発係数」)は高い値を示すし、また、ロスファクター(tanδ)も小さい値を示す。
(上記記載事項カ、更に、「横浜ゴム株式会社著,自動車用タイヤの研究,株式会社山海堂,平成7年4月10日第1刷印刷,第151頁〜第156頁」参照。)
更に、「馬庭孝司著,ドライバーのためのタイヤ工学入門,株式会社グランプリ出版,1989年7月5日初版発行,1990年7月5日第2刷発行,第71頁第15行」に、「弾性の弱いゴムほどtanδが大きい」と明記されていることからも、高弾性ゴム(弾性の強いゴム)ほどtanδが小さいゴムであることは、明らかであるし、技術常識である。
そうすると、刊行物1に記載の発明の「高弾性ウレタンゴム」は、即ち、「ロスファクター(tanδ)の小さいゴム」であるといえるから、刊行物1に記載の発明では、クローラの内周側に、ロスファクター(tanδ)の小さいゴムを使用することが開示されているといえる。
ところで、刊行物1に記載の発明の具体的な実施(発明に係る製品を実際に生産・製造する)に際しては、高弾性ゴム(ロスファクター(tanδ)の小さいゴム)というだけではなく、種々のゴム物性値(例えば、耐摩耗性、硬度等)をも考慮した上で、高弾性の程度を具体的に決定することが必要であり、それは当業者が通常行う設計事項であるといえる。
したがって、刊行物1に記載の発明において、高弾性ゴム(ロスファクター(tanδ)の小さいゴム)の高弾性の程度を、ロスファクター(tanδ)の値を具体的に設定することにより決定し、上記種々のゴム物性値との関係において、ある程度の高弾性範囲を許容するように、ロスファクター(tanδ)の数値の範囲を設定する(上限値と下限値を設定する)ことは、当業者が適宜なし得たものである。
そして、本件発明で規定する上限値と下限値は、以下に詳述するように、臨界的意義を有するものではなく、適宜設定し得るものにすぎない。
(2)まず、その上限値について詳述する。
高弾性ゴムとしてtanδが0.15以下のものは、刊行物2ないし4に記載されるように、歯形ベルト等をはじめとする動力伝動の技術分野を含む広く種々の技術分野(上記記載事項カ等を参照)で周知である。
特に、高弾性ゴムとしてtanδが0.15以下のものを開示する上記刊行物2のものは、高い弾性率を有するウレタン弾性重合体であるから、高弾性ウレタンゴムであるといえるし、その用途として例示されている歯形タイミングベルトや弾性ベルトは、動力を伝動し、摩擦力や剪断力が周期的かつ頻繁に作用する点において、刊行物1に記載の発明のゴムクローラとの間に共通性あるいは類似性が認められる。
そうすると、上記刊行物2ないし4に記載の技術に基づいて、刊行物1に記載の発明の高弾性ゴム(即ち、ロスファクター(tanδ)の小さいゴム)として、tanδが0.15以下のものを選択すること(tanδの上限値を0.15とすること)は、容易になし得るものであるし、0.15以下という数値範囲は、単にロスファクターが小さいことを示したにすぎず、0.15という上限値に臨界的意義が認められるものでもない。
(3)次に、その下限値について詳述する。
ゴム特性を示すゴムの物性値(例えば、耐摩耗性、硬度)は、種々のパラメータ(例えば、材質、製造時温度)を調節することで決定されるが、一般に限界値が存在し、その物性値の一つであるtanδについても、種々のパラメータを調節しても、無限定に値を低下させられないのは明らかである。
そうすると、上記のように刊行物1に記載の発明のロスファクター(tanδ)の小さいゴムとして、上記刊行物2ないし4に記載のtanδが0.15以下のものを適用する場合にも、ゴムクローラとして最低限必要なゴム物性値(耐久性(耐摩耗性)等)を満たす必要があるのは当然であるから、tanδの値を調節する種々のパラメータの値(カーボンブラックの配合量等)を、前記最低限のゴム物性値が維持できる程度にするために、tanδの下限値を例えば0.08に設定することには、格別の困難性はない。
(4)したがって、刊行物1に記載の発明の高弾性ゴム(ロスファクター(tanδ)の小さいゴム)において、ロスファクター(tanδ)が0.08以上〜0.15以下のゴムを使用することには、格別の創意工夫を必要としたとは認められない。

<本件発明の作用・効果について>
上記刊行物1に、内部抵抗によるエネルギーロスを低減する旨の本件発明の課題が明記されているわけではないが、本件発明と同様に、ゴムクローラの内周側に高弾性ゴム(即ち、tanδの値が低く、エネルギーロスの少ないゴム)を使用することが示されている以上、上記刊行物1に記載の発明のゴムクローラも、基本的には、同様の作用効果を奏するものと認められる。
また、ゴムベルト式の動力伝動装置において、ベルトに低弾性ゴムを用いると低弾性ゴムの剪断歪(内部抵抗)による発熱等により伝動能力が低くなる(エネルギーをロスする)ことは、技術常識(例えば、上記刊行物5、上記記載事項サを参照)であり、刊行物1に記載の発明のゴムクローラも、ゴムベルト式の動力伝動装置としての機能をも持つことは明らかであるから、内部抵抗によるエネルギーロスを低減するという本件発明の作用効果は、上記技術常識から、当業者が容易に予測しうる範囲内のことといえる。
更に、刊行物1に記載の発明は、内周側のゴム質を、ロスファクター(tanδ)の小さいゴムを使用した(即ち、ゴムクローラの内周側に高弾性ゴムを使用した)のであるから、刊行物1に記載の発明も、本件発明と同様に小石等の突き刺さりが減り、異物の入り込みを防止するという、本件発明と同様の作用・効果を奏するものと認められる。

5.特許権者の意見について
(1)刊行物1に記載の内周側ゴムについて
当審では、先に通知した取消理由において、「一般に高剛性ゴムであれば高弾性ゴムであるという技術常識」としたが、特許権者は、これに異論を唱え、刊行物1に記載の内周層を形成するゴムが高弾性ゴムとはいえない旨の主張をするが、特許権者がいうように、仮に、必ずしも「高剛性ゴムであれば高弾性ゴムである」とはいえないとしても、上述(上記3.A))における検討のとおり、刊行物1に記載のクローラ本体の内周層を形成する「ウレタンゴム」は、「高弾性ゴム」であると解することができるのであるから、刊行物1に記載の内周層を形成するゴムが高弾性ゴムとはいえない旨の特許権者の主張は妥当なものではない。

(2)刊行物1にはtanδについての認識がない旨の主張について
確かに、刊行物1にはロスファクターやtanδに関する言及はない。
しかしながら、ゴムベルト等ゴム部材によって動力(運動エネルギー)を伝達する技術分野では、ゴム部材に内部抵抗が存在するために、ヒステリシスロスないし発熱によるエネルギーロスの問題が常に存在し、この「内部抵抗によるエネルギーロスを低減させる」という課題は、同技術分野では、周知のものであるといえるし(例えば、刊行物5(上記記載事項サ)、特開平3-81350号公報(第1頁右欄第17行〜第19行)、特開昭62-121742号公報(第2頁左上欄第11行〜右上欄第7行、第6頁右上欄第12行〜第15行)、特開昭62-89704号公報(第2頁右上欄第9行〜第17行、第2頁右下欄第19行〜第3頁左上欄第1行、第7頁左下欄第1行〜第7行)等を参照)、ゴム部材におけるエネルギーロスと、ロスファクター(tanδ)の大小との関係も、当業者は、常識的に熟知しているものである。
そして、上述(3.A)及び4.[相違点についての判断]<相違点2について>(1))のとおり、刊行物1に記載の発明の内周層のゴムは高弾性ゴムであると認められるし、高弾性ゴムであれば、ロスファクター(tanδ)が小さいことは技術常識といえるのであるから、刊行物1にtanδに関する言及がないからといって、本件発明が、刊行物1等に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでないとはいえない。

(3)判決の拘束力について
判決は、上記刊行物1等が示されていない状況のもとにおいて、前回の異議決定で示した刊行物に開示された事項では、「一般的概念以外の共通性を見いだすことはできない」「容易推考性に関する判断は明確でない」(容易の根拠が示されていない)としている。
しかしながら、本決定では、刊行物1をはじめ、前回異議決定の理由では引用されなかった刊行物を新たに証拠として用い、前回とは異なる理由に基づいて本件特許を取り消そうとするのであるから、判決の拘束力は及ばないと考えられる。

【4】むすび
以上のとおりであるから、本件の請求項1に係る発明は、上記刊行物1ないし5に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件の請求項1に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものである。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過規定を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ゴムクロ-ラの構造
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 無端状ゴム弾性体の長手方向に向って抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクロ-ラであって、抗張体より内周側のゴム質のみを、ロスファクタ-(tanδ)が0.08以上〜0.15以下のゴムを使用したことを特徴とするゴムクロ-ラの構造。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はゴムクロ-ラの構造に関するものであって、抗張体を境として内外に異なるゴムを適用してゴムクロ-ラの走行抵抗を低減し、耐久性を向上させたものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、ゴムクロ-ラは車両用の走行部として、農業機械のみならず建設用、土木作業用の走行部として広く使用されている。
しかるに、建設用、土木作業用車両の走行部に用いられるゴムクロ-ラは著しく大型化され、その厚さもかなり厚いものが出現している。
このようなゴムクロ-ラの走行抵抗を考えると、ゴムクロ-ラと接地面との抵抗と、ゴムクロ-ラの内部抵抗の二つに分けられ、接地面との間の抵抗は地盤の破壊に伴うものであるが、特にゴムクロ-ラの大型化にともなってエネルギ-のロスにつながる内部抵抗が大きくなってきた。
【0003】
この内部抵抗を更に区分すると、スプロケット駆動部の抵抗が全体の約30%であるのに対し、ゴムクロ-ラの内周面をトラックロ-ラ-が通過することによる抵抗が内部抵抗の約20%であり、スプロケットやアイドラ-における巻き掛けによる巻きつき抵抗が内部抵抗の約50%を占めている。
【0004】
特にゴムクロ-ラは長手方向に向ってスチ-ルコ-ドに代表される抗張体がゴム中に無端状に埋設されており、この抗張体を中立面として、ゴムクロ-ラの内周面のゴムがトラックロ-ラ-やアイドラ-等によって圧縮と剪断が常に繰り返され、これらに基づくエネルギ-のロスが内部抵抗として検知されるのである。
この後者の抵抗の比率は、ゴムクロ-ラの大型化(幅の拡大、厚みの増大、重量の増大等)に伴い徐々に増しているのが現実である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は以上のような従来技術の内でも、特に問題となってきている内部抵抗のうち、ゴムクロ-ラの抗張体より内周側におけるこの抵抗を低減させることを目的としたものであり、この部位のゴム質を改良して内部抵抗の減少をもたらそうとするにある。具体的な基準で言えば、走行抵抗が従来の80%以下になるような目標をここに設定したものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は以上の目的を達成するために次のような構成を採用したものである。
即ち、本発明の要旨は、無端状ゴム弾性体の長手方向に向って抗張体を埋設し、その外周面にゴムラグを形成したゴムクロ-ラであって、抗張体より内周側のゴム質のみを、ロスファクタ-(tanδ)が0.08以上〜0.15以下、好ましくは0.08〜0.12のゴムを使用したことを特徴とするゴムクロ-ラの構造にかかるものである。
【0007】
かかるtanδの限定は、ゴム基体となるポリマ-種を変更することによって可能であり、一方、ポリマ-中に充填されるカ-ボン種、カ-ボン量を変更することによっても可能である。更には、場合によってはいわゆる低ロス化剤を添加することもその一方法であり、これらポリマ-、カ-ボン種、カ-ボン量、低ロス化剤を適宜選択して配合することによりtanδの値をコントロ-ルでき、しかも、ゴムクロ-ラの必要特性である耐摩耗性、耐カット性、耐屈曲疲労性、その他ゴムの伸度、強力、モジュラス、更には芯金やスチ-ルコ-ドにて代表される抗張体等との接着性等の各性状を任意に選定したゴムを得ることができることとなったのである。
【0008】
このtanδの値はその値が低い程その効果は高いが、tanδが0.08未満であるとカ-ボンを少量しか配合できないため、耐久性能や接着性能が劣るという欠点があり、自ずとその限界がある。
【0009】
【作用】
本発明のゴムクロ-ラにあって、トラックロ-ラ-、アイドラ-、スプロケット等の通過によって、特に圧縮と剪断とが繰り返し行われるゴム部、即ち抗張体より内周側のゴム部のみをtanδの値の低いゴムとしたことによって、このゴム部に繰り返し加えられる圧縮と剪断とにおけるエネルギ-を吸収減衰するものであって、これによってトラックロ-ラ-やアイドラ-等の走行抵抗を低減したものである。
【0010】
本発明に関し、ゴムクロ-ラ全体をtanδの小さいゴムとすることも考えられるが、コストが高くなることと、かかるゴムは耐カット性が必ずしもよくないため抗張体の外周側のゴムとするには余り好ましくないこと、更にはかかる部位のゴムは常に伸び側となるので、オゾンクラックを受け易いこと等の理由から、抗張体より外周側のゴム部は従来のゴムを採用するのがよい。
【0011】
尚、tanδの値は、東洋精機製作所製のスペクトロメ-タ-(レオログラフソリッドL-IR)を使用して測定したものであり、試験片は厚さ2mm、幅5mm、長さ30mmであって、測定温度は25℃、加振条件は周波数15Hz、歪振幅±2%であった。
【0012】
【実施例】
以下本発明を実施例をもって更に詳細に説明する。
ゴムクロ-ラの抗張体より内周側のゴム質を、表1に示すような配分としてゴムクロ-ラを製造した。
比較例は従来配合によるものである。
【0013】
【表1】

【0014】
尚、表中には記載しないが、ステアリン酸1.0部、亜鉛華5部、硫黄2部、加硫促進剤NS(大内新興化学製:ノクセラ-NS)0.6部が夫々配合されている。
【0015】
製造したゴムクロ-ラのサイズは、幅320mm、リンク数44、ピッチ90mmであった。尚、抗張体より外周側のゴムは特に示さないが、従来より用いられているゴムを用いるものであって、そのtanδの値は0.30であった。
【0016】
そして、実施例1はゴムの基体となるポリマ-種をSBR/NRからNR配合に代え、カ-ボン量を少なく、加硫促進剤をこれ又少なくしてtanδの値を低下させた配合例である。
又、実施例2はポリマ-種だけでなく、カ-ボン種をHAFからFEFへ変更した例である。
更に、実施例3は、前記の実施例1に更に低ロス化剤(大内新興製・ノックマスタ-BWP)を配合した例である。
【0017】
得られたゴムクロ-ラにあって、レジリエンス(%)、tanδ(加振条件:周波数15Hz、歪振幅±2%)、伸張疲労性(0〜100%)は表1に記した通りである。
尚、レジリエンス(%)はJIS・K・6301によって測定し、tanδは前記した条件にて、更に伸張疲労性は0〜100%の伸張を繰り返し、切断までの繰り返し回数である。
この結果、実施例1〜3共に通常のゴムクロ-ラとしての性状としては充分使用に供せられるものである。
【0018】
さて、tanδの値に注目すると、比較例によれば0.30であったが、実施例1〜3は表中に記したように抗張体の内周側のゴム質のtanδの値は、夫々この比較例(従来配合)よりも低い値を示している。
【0019】
(実地テスト)
ここで実際に農場でテストを行った結果を示す。
比較例と実施例2の配合によるゴムクロ-ラをもってテストを行い、ゴムクロ-ラに2トンの張力をかけ、回転数80rpmにて走行した。
この結果、走行に必要なトルクは比較例のゴムクロ-ラにあっては20kg・mであったが、実施例2のゴムクロ-ラでは12kg・mのトルクであり、又、比較例にあっては3速でしか走行できなかったが、実施例2にあっては4速で走ることができた。
その際、ゴムクロ-ラの内部温度は、比較例にあっては62℃に上昇していたが、実施例2にあっては48℃であり、この温度差も大きな違いとなってあらわれた。
【0020】
(シュミレ-ションテスト)
上記の実施テストに加えて、別のシュミレ-ションテストにより走行抵抗(指数)とtanδとの関係を測定した。結果は図1に示す通りである。
このテストにあっては、ゴムクロ-ラの外周側のゴム質のtanδは常に一定(tanδ=0.30)とし、抗張体の内周側のゴム質のtanδの値を変化させた場合をA線で示す。
そして、ゴムクロ-ラの中立点である抗張体をはさむ内外のゴムのtanδの値が、いずれも0.30の場合の走行抵抗を100として指数表示したものである。
因みに、抗張体をはさむ内外のゴムのtanδを同一値とした場合をB線で示した。
【0021】
本発明は、エンジンを1ランク小型のものを選べるという、実質的に効果の顕著に表れる走行抵抗が80以下を特に狙ったものであり、ゴムクロ-ラの内周側のゴム質のtanδの値が0.15以下にすれば、この効果は確実となることが判明した。
【0022】
【発明の効果】
本発明は、以上の通り、トラックロ-ラ-やアイドラ-等が走行するゴムクロ-ラにあって、その走行抵抗の発生源となるゴムに対する圧縮と剪断の繰り返しに基づく内部抵抗をゴム質のロスファクタ-を規定することによって減衰低減したものであって、これによって走行抵抗が大きく減じ、省エネルギ-化に大きく寄与することとなったのである。
このため、パワ-がアップされ、結果的にエンジンの小型化が図られ、装置全体としても小型化、軽量化がもたらされるものである。又、発熱が少ないので高速走行が可能となったものである。
【0023】
更に、ゴムクロ-ラの内周面に小石等を噛み込み、それらがゴムに突き刺さることによって発生するいわゆる水虫現象に対しては、tanδの小さい、即ち反発係数の高いゴムがこの部位に適用されたことにより、小石等の突き刺さりが減り、かかる欠点の改良ともなったのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は走行抵抗とtanδとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
A線‥‥ゴムクロ-ラの外周側のゴム質のtanδを0.30とし、抗張体の内周側のゴムのtanδの値を変化させた場合の走行抵抗(指数)を示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2002-03-05 
出願番号 特願平4-200609
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B62D)
最終処分 取消  
前審関与審査官 川村 健一  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 ぬで島 慎二
大野 覚美
出口 昌哉
鈴木 久雄
登録日 2001-01-12 
登録番号 特許第3146289号(P3146289)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 ゴムクロ-ラの構造  
代理人 鈴木 悦郎  
代理人 中野 収二  
代理人 鈴木 悦郎  
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