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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09D |
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管理番号 | 1113052 |
異議申立番号 | 異議1998-73229 |
総通号数 | 64 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-02-01 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-06-29 |
確定日 | 2005-03-17 |
異議申立件数 | 6 |
事件の表示 | 特許第2696188号「防汚塗料組成物」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2696188号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 |
理由 |
[1] 手続きの経緯 本件特許第2696188号は、平成4年7月8日に出願された特願平4-206020号の出願に係り、平成9年9月19日にその特許の設定登録がなされた後、関西ペイント株式会社、他から計6件の特許異議の申立てがなされ、当該申立てに基づく特許取消の理由通知、訂正請求書の提出、訂正拒絶理由の通知を経て、特許取消の決定がなされたところ、東京高等裁判所に当該取消決定の取消を求める訴えの提起がなされ(平成14年(行ケ)第342号)、同裁判所において、平成15年9月24日、当該取消決定を取り消す旨の判決があり、再度の審理において、改めて特許取消の理由及び訂正拒絶理由の各通知がなされたものである。 [2] 本件訂正請求 [2-1] 訂正事項と訂正後の本件発明 本件訂正請求は、本件明細書における特許請求の範囲中の請求項2の削除を求めるものであり、当該訂正後の特許請求の範囲に記載される事項により構成される発明は以下のとおり(以下、これを「本件訂正発明」という。)である。 「亜酸化銅と化1 【化1】 (式中、nは1又は2である。)で表される2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩を有効成分として含有することを特徴とするゲル化せず長期保存が可能な防汚塗料組成物。」 [2-2] 訂正の適否 本件訂正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることは明らかであるので、以下、本件訂正発明の独立特許要件の有無について検討する。 [2-2-1] 平成15年12月10日付け(起案日)で通知された訂正拒絶理由に引用された、本件の出願日前頒布された刊行物とその記載事項 刊行物1:化学大辞典 5 縮刷版 「せんていとりょう」の項 共立出版株式会社、1963年11月15日発行、471頁 刊行物2:塗料と塗装 株式会社パワー社、昭和48年7月30日発行、 202〜205頁 刊行物3:特開昭51-129435号公報 刊行物4:特開昭54-15939号公報 刊行物1には、船底塗料についての記載があり、船底に生物が付着するその防止法は普通毒物によること、毒物としては、最近は水銀化合物が用いられなくなり、銅化合物、特に酸化銅(I)が最も多く用いられていること、等が記載されている。 刊行物2には、船底塗料について記載され、生物の付着を防止する2号船底塗料に使用される防汚剤としては、黄色酸化水銀と亜酸化銅とがよく用いられたこと、最近は公害問題から、水銀系はほとんど用いられないこと、木船船底塗料の防汚物には主として亜酸化銅が用いられること、等が記載されている。 刊行物3には、「ロジンとヒドラジンの反応生成物を防汚有効成分として含有することを特徴とする水中防汚塗料。」(特許請求の範囲)の発明が記載され、水中防汚塗料には、「海中生物に対して毒作用または忌避作用を有する剤が配合されている。当該剤としては亜酸化銅、有機毒物等が挙げられるが、これらは・・・アオノリ等の植物に対する付着防止能は低い。」(1頁右下欄1〜6行)と記載され、実施例では、ロジンヒドラジドと亜酸化銅について、これをそれぞれ単独使用した及び併用した実際の試験例が記載され、「従来の亜酸化銅と併用することにより、より一層良好に海中生物全般の付着防止能を発揮する。」(3頁右下欄3〜5行)と記載されている。 刊行物4には、 (イ);「下記の一般式 (式中Mは金属原子を示しそしてnは1〜3の整数を示す)で表わされる化合物を含有することを特徴とする水中防汚塗料。」(特許請求の範囲)の発明が記載され、 (ロ);「従来、水中防汚塗料の活性成分としては亜酸化銅、トリアルキル錫系化合物にDDTなどの有機殺虫剤を配合した塗料が使用されてきたが、近年DDTによる環境汚染が重視されるに至り、本邦ではその使用が困難となった。」(1頁左下欄下から2行目〜右下欄3行)、 (ハ);「本発明に係る水中防汚塗料は動植物に対する選択性が少なく、且つ高い防除効果を長期間に亘り持続発揮できる利点を有する外に、軽合金製の船舶にも安心して使用することができる。さらにこれらのピリジン系化合物は他の公知の無機または有機の防汚性化合物例えば亜酸化銅、・・・・等の化合物を加え混合して、通常の塗料原料および塗料製造法に従って水中防汚塗料を製造することも可能である。」(2頁左上欄12行〜左下欄2行)、 (ニ);「次に本発明に係る水中防汚塗料の代表的な活性効成分を例示すれば次の如くであるが本発明はこれらの例示化合物に限定されるものではない。 (1)……………………………(7)ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)銅塩………………………(11)………………………」(2頁左下欄3行〜右下欄11行)、 (ホ);「実施例3 ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)銅塩20部、タルク17部、ベンガラ15部、ロジン12部、ビニル樹脂6部、メチルイソブチルケトン10部、およびキシロール20部を均一に混合して塗料を調整する。」(3頁左上欄12〜末行)、 (ヘ);「比較例2 亜酸化銅40部、タルク5部、ベンガラ10部、ロジン15部、アマニ油ボイル油10部およびソルベントナフサ20部を均一に混合して防汚塗料とする。」(3頁右上欄14行〜左下欄1行)、 (ト);「以上各実施例ならびに比較例に記載した配合の防汚塗料を予め防錆塗料を下塗りし、200×400×2.3mmの軟綱板に二回塗布した後、岡山県玉野市および千葉県五井沖の試験場で深度1.5mの海中に浸漬したる完全浸漬と、試験板の1/2を海水中に浸漬したる交番浸漬との二種の海水浸漬試験を行い、生物の付着面積を測定して、これを100分率で示した。次にその各試験結果を示すと第1表および第2表のとおりである。」(3頁左下欄7〜15行)、 (チ);「第1表 完 全 水 中 浸 漬 試 験 (水面下1.5m) 試 験 場 所 玉 野 海 域 付 着 生 物 面 積 (%) No 供試化合物 3カ月 6カ月 9カ月 12カ月 所見 備考 ………………………………………………………………………………………… (7)ビス(2-ピリジルチオ -1-オキシド)銅塩 0 0 0 0 実施例3 ……………………………………………………………………………………… (13) 亜酸化銅 0 0 10 15 青サ、フジ ツボ 比較例2 ………………………………………………………………………………………」(4頁上欄)、 (リ);「第2表 交 番 型 浸 漬 試 験 (1/2水中浸漬) 試 験 場 所 五 井 海 域 付 着 生 物 面 積 (%) No 供試化合物 3カ月 6カ月 9カ月 12カ月 所見 備考 ………………………………………………………………………………………… (7)ビス(2-ピリジルチオ -1-オキシド)銅塩 0 0 0 0 実施例3 …………………………………………………………………………………………(13) 亜酸化銅 0 0 5 15 青サ、フサ 比較例2 コケ、セルプラ…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」 (4頁下欄)、そして、 (ヌ);「前記の試験結果からも明らかな如く・・・すなわち本発明の防汚塗料はフジツボ、セルプラ、ホヤ、フサコケムシ等の付着を防止する優れた性質のみならず、アオノリ、アオサ等の海藻類に対しても卓越した効果を有するものである。」(5頁左上欄1〜11行)、の各記載がなされている。 [2-2-2] 対比・検討 刊行物1〜3には、亜酸化銅なる物質(刊行物1では酸化銅(I)と記載されているが、亜酸化銅と同一物質である。)が、防汚塗料における活性化合物の主たる化合物として使用されていることが記載されており、これら刊行物に記載の発明と本件訂正発明とを対比すると、両者は、亜酸化銅を有効成分として含有することを特徴とする防汚塗料組成物、の点で一致し、本件訂正発明では、亜酸化銅と2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩との併用であるのに対し、刊行物1〜3には、亜酸化銅と当該銅塩とを併用することについての記載はなく(相違点1)、また、ゲル化せず長期保存が可能であることの記載がなされていない(相違点2)点で、相違しているものと認められる。 よってこれら相違点について順次検討することとする。 (1)相違点1について 亜酸化銅なる物質は、刊行物1〜3に記載されているとおり、防汚塗料における中心的化合物であるが、刊行物3あるいは4にも示されているとおり、それ単独であらゆる生物を完全に防除できるものではなく、したがって、その弱点を補う活性物質があれば、それと併用することにより、亜酸化銅の弱点を補強したより活性の高い防汚活性物質が得られるであろうことは、当業者にしてみれば当然に期待する事項である。 ところで、刊行物4には、2-ピリジルチオ-1-オキシドの各種の金属塩が、優れた防汚活性を有し、アオサ、フジツボ、フサコケ、セルプラ等、亜酸化銅が単独では十分には防除できない生物に対しても有効に防除し得たとの試験データが記載されている。 してみれば、従来多用されてきた亜酸化銅と刊行物4に具体的に防汚活性を有することがデータをもって記載されている2-ピリジルチオ-1-オキシドの各種金属塩を併用して防汚塗料に使用してみようとすることは、当業者にとっては容易に想到し得ることであり、その際、当該銅塩(本件訂正発明と刊行物4記載の発明では、当該銅塩に関し、命名法に若干の相違があるが、それぞれの構造式からも明らかなとおり、実質上同一物質を表わすものである。)との併用を忌避する阻害事由は見出せない。 してみれば、相違点1は当業者が容易になし得ることと認めざるを得ない。 (2)相違点2について、 複数の防汚活性化合物を併用する際は、混合後の安定性、即ち、併用によるゲル化の有無、長期保存が可能か否かについては、いわゆるルーチンワークとして当然に検討される事項であり、本件訂正発明の組成物にそのような性質を見出したとしても、この点は、当業者にとっては、併用において当然になされるルーチンワークの結果を示したものといわざるを得ず、この点は、当業者にとっては何ら格別の創意・工夫を要することではない。 [2-2-3]訂正の適否についての結論 してみれば、結局のところ本件訂正発明は、刊行物1〜4に接した当業者がその記載に基づき容易に発明をすることができたものとせざるを得ない。 したがって、本件訂正発明は特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の4第3項で準用する平成5年法律第26号による改正後の特許法第126条第3項の規定に適合しない、とする外はない。 [3] 特許異議申立てについての判断 [3-1] 本件発明 本件発明は、その設定登録時の明細書の特許請求の範囲に依るべきところ、その記載は以下のとおりである(以下、それぞれ「本件第1発明」及び「本件第2発明」という。)。 「【請求項1】 亜酸化銅と化1 【化1】 (式中、nは1又は2である。)で表される2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩を有効成分として含有することを特徴とするゲル化せず長期保存が可能な防汚塗料組成物。 【請求項2】亜酸化銅5〜35重量%と化2 【化2】 (式中、nは1又は2である。)で表されるある2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩2〜15重量%を含有し、亜酸化銅と該銅塩の配合比が1:1〜3:1である請求項1記載のゲル化せず長期保存が可能な防汚塗料組成物。」 [3-2]本件第1発明に係る特許の取消理由の有無について 平成15年12月10日付け(起案日)で通知された取消理由に引用された、本件の出願前頒布された刊行物である、刊行物1(化学大辞典 5 縮刷版 「せんていとりょう」の項、共立出版株式会社、1963年11月15日発行、471頁)、刊行物2(塗料と塗装 株式会社パワー社、昭和48年7月30日発行、202〜205頁)、刊行物3(特開昭51-129435号公報)及び刊行物4(特開昭54-15939号公報)には、上記[2-2-1]で既に述べとおりの発明が記載されている。 そして本件第1発明は、上記[2-2-2]に示した理由により、刊行物1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとせざるを得ないのであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。 [3-3]本件第2発明に係る特許の取消理由の有無について 平成15年12月10日付け(起案日)で通知された取消理由の[3]の特許法(平成2年法律第30号による改正後のもの、この項において以下同じ。)36条第5項第1号に規定する要件を満たしていないとの取消理由、即ち、「請求項2における成分の配合量が、発明の詳細な説明において、何ら記載されていない。」の点(請求項2は、平成12年9月8日付けの訂正請求で削除が請求されたが、上記のとおり、当該訂正請求は容認されなかった結果、依然として特許請求の範囲中に存在することとなったものである。)について、以下検討する。 そもそも請求項2に規定されている亜酸化銅の配合量、2-ピリジンチオール-1-オキシドの銅塩の配合量及び両者の配合比は願書に最初に添付した明細書には何の記載もなく、その後の補正により特許請求の範囲にのみ記載されることとなったもので、発明の詳細な説明には一貫して記載されていなかったものである。 してみれば、請求項2に係る発明、即ち、本件第2発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ということはできないのであり、該発明については、特許法第36条第5項第1号の規定を満足しない出願に対して特許されたものとせざるを得ない。 [4] むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1、2に係る特許は拒絶をしなければならない出願に対してされたものであり、平成6年法律第116号附則第14条の規定に基づく、平成7年政令第205号第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-05-24 |
出願番号 | 特願平4-206020 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZB
(C09D)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 中田 とし子 |
特許庁審判長 |
柿 崎 良 男 |
特許庁審判官 |
佐 野 整 博 谷 口 浩 行 中 島 次 一 舩 岡 嘉 彦 |
登録日 | 1997-09-19 |
登録番号 | 特許第2696188号(P2696188) |
権利者 | 大日本製薬株式会社 |
発明の名称 | 防汚塗料組成物 |
代理人 | 安富 康男 |
代理人 | 渡辺 秀夫 |
代理人 | 庄子 幸男 |
代理人 | 吉岡 拓之 |
代理人 | 塚脇 正博 |
代理人 | 村上 加奈子 |
代理人 | 八木 敏安 |
代理人 | 古谷 信也 |
代理人 | 谷 良隆 |