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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A61H
管理番号 1113055
判定請求番号 判定2004-60091  
総通号数 64 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2001-04-10 
種別 判定 
判定請求日 2004-11-18 
確定日 2005-03-03 
事件の表示 上記当事者間の特許第3396776号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「風呂装置」は、特許第3396776号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 【1】請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号図面及びその説明書に示す風呂装置(以下、「イ号物件」という。)が請求人所有の特許第3396776号発明(以下、「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属するとの判定を求めたものである。

【2】本件特許発明
本件特許発明は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その構成要件を分説すると次のとおりである。
A.建物Aの最下部層に断熱材(1)を設け、(以下、「構成要件A」という。)
B.この上にコンクリート層(2)を設け、(以下、「構成要件B」という。)
C.更にこの層の上部に温水管(4)を埋設したモルタル層(3)を設け、(以下、「構成要件C」という。)
D.この上に最上層として砂利及び炭を混合した温浴層(5)を設けて、床を4層構成とし、(以下、「構成要件D」という。)
E.建物内部に蒸気吹出口を設けてなり、(以下、「構成要件E」という。)
F.ボイラーBからの温水を上記温水管(4)に循環させて床最上層の温浴層(5)を適温に加温すると共に、(以下、「構成要件F」という。)
G.蒸気の噴出によって建物A内を適温・適湿度に保った(以下、「構成要件G」という。)
H.ことを特徴とした石風呂装置。(以下、「構成要件H」という。)

【3】イ号物件
一方、イ号物件はイ号図面、その説明書及び甲第2号証の1〜10の写真によれば次のとおりのものと認められる。
a.土間コンクリート上の最下部に断熱層を設け、(以下、「構成a」という。)
b.その上に温水管が埋設されたコンクリート層を設け、(以下、「構成b」という。)
c.さらにその上に温水管が埋設されたコンクリート層を設け、(以下、「構成c」という。)
d.この上に最上層として平板状石が面一に埋設されたコンクリート層を設けて、床を多層構成とし、(以下、「構成d」という。)
e.建物内部に蒸気吹出口を設けてなり、(以下、「構成e」という。)
f.ボイラー装置からの温水を上記温水管に循環させて平板状石を適温に加温すると共に、(以下、「構成f」という。)
g.蒸気の噴出によって建物内を適温・適湿度に保った(以下、「構成g」という。)
h.ことを特徴とした風呂装置。(以下、「構成h」という。)

【4】対比・判断
本件特許発明とイ号物件とを対比すると、イ号物件の構成a、構成b、構成e、構成g、構成hは、それぞれ本件特許発明の構成要件A、構成要件B、構成要件E、構成要件G、構成要件Hを充足している。
しかしながら、両者は、次の点で相違している。
(ア)温水管を埋設した層に関し、本件特許発明の構成要件Cでは「モルタル層」であるのに対し、イ号物件の構成cでは「コンクリート層」である点(以下、「相違点1」という。)。
(イ)最上層に関し、本件特許発明の構成要件Dでは、「砂利及び炭を混合した温浴層」としているのに対し、イ号物件の構成dでは、「平板状石が面一に埋設されたコンクリート層」である点(以下、「相違点2」という。)。
(ウ)温水管で適温に加温する対象に関し、本件特許発明の構成要件Fでは、構成要件Dで規定される「温浴層」であるのに対し、イ号物件の構成fでは、構成dで規定される「平板状石」である点(以下、「相違点3」という。)。
したがって、イ号物件の構成c、構成d及び構成fは、文言上本件特許発明の構成要件C、構成要件D及び構成要件Fを充足していないというべきである。

【5】均等の判断
請求人は、本件特許発明とイ号物件との相違点について、いわゆる均等論の適用を主張していると解されるので、これについて以下検討する。
最高裁平成6年(オ)第1083号判決(平成10年2月24日判決言渡)は、均等論が適用される場合について、次の五つの条件を付して認める旨の判示をしている。
(1)相違部分が、特許発明の本質的な部分でない。
(2)相違部分を対象製品の対応部分と置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏する。
(3)対象製品等の製造時に、異なる部分を置換することを、当業者が容易に想到できる。
(4)対象製品等が、出願時における公知技術と同一又は当業者が容易に推考することができたものではない。
(5)対象製品等が特許発明の出願手続において、特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たる等の特段の事情がない。

そこでまず、上記相違点2において前記条件(1)を満たすか否かについて検討する。
ところで、本件の特許明細書には次のような記載がなされている。
・「本発明は、いかにして人間の体内調整機能の維持をはかり、人間が生まれながらにして有する自然治癒力の開発を目的としている。」(段落【0004】)
・「上記目的を達成するために、砂利を敷き詰めその下に埋設したゴム管で全体を温め一定の温度に維持し同時に、室内も一定の温度及び湿度を維持する。利用者は砂利の上に浴衣、Tシャツ等を身に付け横たわることにより、身体の副交感神経が刺激されリラクゼーションに導かれる。低温タイプの熱を利用しているので、温泉に似た温感を楽しむことができる。遠赤外線効果として、身体内部の調整機能を刺激し、平衡失調状態を矯正し、自律神経を正常に働かせる。発刊作用により、汗と一緒に老廃物を体外に排出することによって皮膚細胞の活発化をより促進する。上記のような諸作用に伴い、体内細胞を活性化させ、自然治癒力を増大させる。わざわざ遠くの温泉地で保養するという繁雑さが解消される。」(段落【0005】)
・「最上層の温浴層は砂利と炭の混合層であり、ここでいう砂利とは自然石の丸みをもった小石で栗石よりは小さく砂より大きいものを指し(コンクリート辞典)炭は備長炭や白炭のような硬炭の小片が硬炭のため炭粉がでることがなく適している。」(段落【0007】)
・「入浴者は、このように浴内でリラックスした状態で温浴ができるため、砂利の凹凸による指圧マッサージ的な刺激と炭からの遠赤外線による照射熱効果と更には炭から発生されるマイナスイオンによる空気清浄による精神安定の効果と、色々な相乗的な作用効果が生じて理想的な温浴ができる。」(段落【0011】)
・「従来は自然の温熱を利用しなければ、自然治癒力を発揮することができなかったがこの一連の装置を発明することによって、誰もが利用することができることにより、自然治癒力の開発が可能になる。
砂利の上に横たわることによって、全身に指圧の効果が得られる。
砂利の中に炭を混入することにより遠赤外線効果を得ることができる。
炭は天然ミネラルの供給バランスのよい自然のミネラルが豊富に含まれ、人間の体に有害な物質を吸収すること、及び住いの湿気を吸収する。カビやダニの死骸はアレルギーの原因ともいわれているが、これらも吸収分解するというすばらしい除湿効果、湿度調節効果がある。又消臭効果として古く室町時代からトイレ(雪隠)に置かれていたということからしても消臭効果、腐敗菌などの発生を抑えて臭いのもとを絶ち、さらに悪臭のもととなる物質を吸収するという効力がある。
さらにガン発生物質として知られている有害な電磁波やラドンを吸収するという医学的なことも明らかになっている。」(段落【0013】〜【0017】)
これらの記載からすると、本件特許発明の構成要件Dにおける「砂利及び炭を混合した温浴層」は、「砂利」の凹凸により指圧マッサージ的な刺激を与えると共に、「炭」により照射熱効果、精神安定効果、天然ミネラル供給作用及び有害物質吸収作用等を生じさせ、これらの諸作用を伴うことにより「理想的な温浴」を可能とするものであり、もって、「人間の体内調整機能の維持をはかり、人間が生まれながらにして有する自然治癒力の開発」という目的を達成しているものと解される。
そうすると、上記相違点2は、本件特許発明の本質的部分をなすものといえる。

なお、請求人は、平成16年12月10日付け手続補正書の第6頁第12〜18行で「本発明は、床部に蓄熱層を形成し、該蓄熱層に温水管を埋設して、ボイラーで加温された温水を該温水管に循環させるとともに、室内に蒸気を噴出させることで、床に敷設した鉱物に含まれるミネラル成分を溶出させることで、温泉と同様の効果を奏し、人間が本来有する自然治癒力を高めるものである。また、炭の遠赤外線効果により、より一層前述した効果を高めるものである。したがって、最上層を砂利と炭の混合層とすることは本発明の本質的部分ではない。」と主張している。
しかしながら、本件特許発明において、人間が本来有する自然治癒力を高めるためには、本件特許明細書の段落【0011】に、理想的な温浴ができる根拠として記載された「砂利」と「炭」による各作用効果が必要であるというべきであり、上記作用効果を奏するための「砂利及び炭を混合した温浴層」は、本件特許発明の必須の構成であり、本質的部分をなすものと解さざるを得ない。

したがって、前記条件(2)ないし(5)について検討するまでもなく、イ号物件と本件特許発明との相違点2において均等論は適用できない。

【6】むすび
してみれば、イ号物件は、文言上本件特許発明の構成要件Dを充足しておらず、また、均等論が適用される余地もないから、他の構成要件C及びFの充足性を検討するまでもなく、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
別掲





説明書

以下の説明に示すとおり、イ号装置は、本件特許発明に即して記載すると、次のとおりのものである。

(a)土間コンクリート上の最下部に断熱層を設け、
(b)その上にコンクリート層を設け、
(c)さらにその上に温水管が埋設されたコンクリート層を設け
(d)この上に最上層として平板状石を敷設し、
(e)建物内部に蒸気吹出口を設けてなり、
(f)ボイラー装置からの温水を上記温水管に循環させて平板状石を適度に
加温するとともに、
(g)蒸気の噴出によって建物内を適温・適湿度に保ったことを特徴とした
風呂装置。

(a)の説明
甲第2号証の1から甲第2号証の3に土間コンクリート上に断熱材を敷
設する工程が写っている。
(b)、(c)の説明
甲第2号証の4から甲第2号証の5に断熱材上に温水管を設置し、コン
クリートを流し込んで埋設している工程が写っている。
(d)の説明
甲第2号証の6から甲第2号証の9に、最上層として平板状の石板を敷
設しているの工程が写っている。
(e)の説明
甲第2号証10に加湿用の茶色のパイプ(蒸気吹出口)を設けているの
が写っている。
 
判定日 2005-02-21 
出願番号 特願平11-278869
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 稲村 正義  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 大元 修二
平上 悦司
登録日 2003-02-14 
登録番号 特許第3396776号(P3396776)
発明の名称 石風呂装置  
代理人 柿▲崎▼ 喜世樹  
代理人 佐々木 實  

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