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審決分類 審判 全部無効 発明同一  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1114003
審判番号 無効2004-80128  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-08-24 
確定日 2005-03-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第3434658号発明「半導体発光装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3434658号は、平成9年1月14日に特許出願され、平成15年5月30日に特許権の設定登録がなされたが、その後、特許異議の申立てがなされ、訂正請求がなされ、当該訂正請求が認められたものであって、その請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、平成16年6月18日付け訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】複数のリードと、該複数のリード間に電気的に接続された半導体発光素子と、前記複数のリードの一端及び前記半導体発光素子を封止する樹脂封止体と、一端に開口部が設けられ且つ前記樹脂封止体に被着された透光性の蛍光カバーとを備え、前記半導体発光素子から照射した相対的に小さい発光波長の光により前記蛍光カバー内に配合された蛍光体を励起し、前記半導体発光素子から生ずる光より相対的に大きな発光波長の光を前記樹脂封止体の外部に取り出す半導体発光装置において、
前記蛍光カバーは前記樹脂封止体と同一の形状の内面を有して予め形成され且つ交換可能に前記開口部を通じて前記樹脂封止体に被着され、
前記樹脂封止体に被着された前記蛍光カバーは弾力性を有し、前記樹脂封止体に密着することを特徴とする半導体発光装置。
【請求項2】前記樹脂封止体は、円柱状の封止部と、該封止部の一端側にこれと一体に形成されたほぼ半球状のレンズ部とを備え、前記蛍光カバーは、円筒状のカバー本体と、該カバー本体に一体に半球状に形成された球面部とを備え、前記カバー本体は前記樹脂封止体の前記封止部に合致する形状を有し、前記球面部は前記樹脂封止体の前記レンズ部に合致する形状を有し、
前記カバー本体及び前記球面部は、それぞれ前記樹脂封止体の前記封止部及び前記レンズ部に密着する請求項1に記載の半導体発光装置。
【請求項3】前記樹脂封止体と前記蛍光カバーとの間の空気を除去する複数個の小さな孔が前記蛍光カバーに形成された請求項1又は2のいずれかに記載の半導体発光装置。」

2.請求人の主張
(1)これに対して、請求人は、本件発明1及び2について、特願平7-177302号の願書に最初に添付された明細書に記載された発明と実質的に同一であるので、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであると主張し、先願明細書について甲第1号証の1(特願平7-177302号の出願時の明細書及び図面)及び甲第1号証の2(その公開公報である特開平9-27642号公報)を提出し、また、周知技術として甲第3号証(特開平7-193281号公報)、甲第4号証(特開平1-260707号公報)、甲第5号証(実願昭51-113250号(実開昭53-30783号)のマイクロフィルム)、甲第6号証(実願昭51-101713号(実開昭53-21887号)のマイクロフィルム)、甲第7号証(特開平8-204238号公報)及び甲第8号証(特開平8-162673号公報)を提出している。

(2)また、請求人は、さらに甲第2号証(実願昭48-135849号(実開昭50-79379号)のマイクロフィルム)を提出して、本件発明1ないし3は、甲第2ないし6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたと主張している。

3.甲第1号証ないし甲第8号証の記載事項
甲第1号証の1(特願平7-177302号の出願時の明細書及び図面)には、次の記載がある。
1-1)「このような照明装置の一例を図4を参照して具体的に説明する。青色LED1は、リードフレーム2の先端部に青色LEDチップlaを備え、この青色LEDチップ1aを透明な樹脂10により封止したものである。」(段落【0003】)
1-2)「請求項1の発明は、リードフレームの先端部にLEDチップを設けた照明装置において、リードフレームにベース板を取付け、このキャップ部材にLEDチップの発光波長を変換するための蛍光顔料を混入したことを特徴とする。」(段落【0013】)
1-3)「このような構成を持つ請求項1の発明においては、キャップ部材をベース板から取外すことによりキャップ部材の交換を容易に行うことができる。そのため、蛍光顔料から得られる色調を変更したい場合、キャップ部材の交換に際して、蛍光顔料の種類が異なるキャップ部材に変えることで、これに対応することができる。このような請求項1の発明によれば、蛍光顔料から得られる色調を簡単に変更することができる。」(段落【0014】)
1-4)図4として、LEDチップ1aが透明な樹脂封止体10により封止され、該樹脂封止体は、円柱状の封止部と、該封止部の一端側にこれと一体に形成されたほぼ半球状のレンズ部とを備えたものが開示されている。
1-5)図1として、LED1aを覆うキャップ部材4が、円筒状のカバー本体と、該カバー本体に一体に半球状に形成された球面部とを備えたものが開示されている。

甲第2号証(実開昭50-79379号のマイクロフィルム)には、次の記載がある。
2-1)「半導体発光素子と該半導体発光素子を離間して覆う透明覆蓋体とを具え、該透明覆蓋体の前記半導体発光素子に対向する側の表面に蛍光材料層を有することを特徴とする半導体発光装置。」(実用新案登録請求の範囲)
2-2)「このステム1には本考案による透明覆蓋体6が固着される。この透明覆蓋体6の内面には半導体発光素子4からの輻射線を可視光に変換する蛍光材料を分散させた結合剤が塗布されて、蛍光材料層7が設けられている。透明覆蓋体6はガラス或はエポキシ樹脂等の材料で構成されるものであり、気密封止用のキャップの役割を兼ねてステム1に固着されるのが好ましい。」(3頁19行〜4頁6行)
2-3)「本考案の他の実施例の半導体発光装置を第2図に示す。この実施例はモールド型の半導体発光装置に本考案を適用したときの例である。第2図において、絶縁基体8にはリード9が固置着され、一方のリード9の先端には半導体発光素子10が導電的に接着され、さらにこの半導体発光素子10と他方のリード9とはリード線11により電気的に接続されている。また半導体発光素子10の周囲には透明樹脂12が半球状にモールドされており、この透明樹脂12の表面に蛍光材料層13が形成され、さらに蛍光材料層13上には透明樹脂等から成る透明覆蓋体14が設けられる。本実施例においては、絶縁基体8はセラミック或は樹脂等を用いることができ、またこの絶縁基体8は、リード9に半導体発光素子10を固着してリード線11を接続した後に半球状の透明樹脂12をモールドすると同時に形成してもよい。透明樹脂12は半導体発光素子12を保護すると共に、半導体発光素子10の見かけ上の発光効率を向上させ得ることが知られている。即ち、透明樹脂12を設けることによって半導体発光素子12の内部と外部との屈折率差を減少せしめ、素子内部で発生した光が表面にて全反射するのを防ぎ、有効に光を取り出し得ることが知られている。このような目的のため、透明樹脂12としては一般に屈折率の大きいエポキシ樹脂が用いられることが多い。」(明細書4頁13行〜5頁18行)
2-4)「係る本考案の半導体発光装置は、半導体発光素子4から輻射された赤外線或は紫外線が蛍光材料層7にて可視光に変換されて、ランダムな方向に輻射されるため大面積で均一な強度の発光が可能であり、しかも使用する蛍光材料は比較的少量でよいため安価である。」(明細書4頁7〜12行)
2-5)「蛍光材料層13及び透明覆蓋体14は半球状の透明樹脂12上に蛍光変換塗料及び透明樹脂を順次塗布すれば形成できる。本実施例においては、透明覆蓋体14は気密封止用のキャップの役割を果たすものではなく、単に蛍光材料層13の保護を計るものである。」(明細書5頁19行〜6頁4行)

甲第3号証には、次の記載がある。
3-1)「上記の従来変換発光ダイオードにおいては蛍光体層が一般に塗布あるいは滴下などによってダイオードチップ上に形成されているので、均一な被着が困難となるばかりでなく、この結果観察方向によって輝度が異なるという指向性があらわれ、表示が不鮮明にならざるを得ないというのが現状である。」(1欄36〜41行)
3-2)「上記従来発光ダイオードにおける蛍光体層をドーム状の蛍光体成型体(以下、蛍光成型体という)とし、これをダイオードチップにたいして所定の距離を設けて設置した構造とすると観察方向による輝度の差に起因する指向性が少なくなって鮮明な表示が得られるという研究結果を得たのである。」(1欄46行〜2欄1行)
3-3)「表1に示される3種類の変換蛍光体を同表1に示される割合でエポキシ樹脂に分散混合し、これを外径3.0mm、高さ3.0mm、厚さ0.5mmの蛍光成型体とし、」(2欄11〜14行)

甲第4号証には、次の記載がある。
4-1)「LEDと、このLEDの発光色とで加色混合の三原色を構成する二色の染料のそれぞれを表裏面のそれぞれから浸透させた染料浸透性かつ高透光性の透明ガラス体の中空封止体と、から構成したことを特徴とする白色発光装置。」(特許請求の範囲(2))
4-2)「透明ガラス体に浸透させる染料を蛍光染料とすると、光の混合状態がより良好になる。」(2頁左下欄18〜19行)
4-3)「ガラス体1は、ビスアリル系化合物を必須成分として含むモノマーまたはオリゴマーまたはこれらの混合物を含む重合可能な液状物の重合体を平板状に形成したものである。」(2頁右下欄14〜17行)

甲第5号証には、次の記載がある。
5-1)「白色豆電球のガラス球へ着脱自在に被帽するように耐熱性、弾力性を有する合成樹脂の着色透明薄膜にて形成したことを特徴とする豆電球の被帽用着色キャップ。」(実用新案登録請求の範囲)
5-2)「かかる状態で、たまたま1計器の白色豆電球が不良となった場合、その不良電球に被帽させておいたキャップを外して、次の交換用新白色豆電球へ被せ換えることにより、極めて簡単容易に上記交換前と同様な斉一な同色同濃度の照明を得ることが可能となった。」(3頁11〜16行)
5-3)「一定の淡緑色に染色した透明の0.2〜0.3ミリ厚の薄膜を、豆電球(2)のガラス球(3)形に適宜な手段を用いて成形し、ガラス球(3)に容易に着脱自在に密着被帽させて実用に適する適度な弾力性と強度を与えたものである。」(3頁末行〜4頁4行)

甲第6号証には、次の記載がある。
6-1)「この電球の外表面にこれを包囲して装着された開口を有する被覆体とを具備し、上記被覆体はシリコン系ゴム又は樹脂から成り、上記電球外形と一部が同等形状でその肉厚が0.1〜0.8mmに形成され、かつ開□部周縁の肉厚が上記肉厚の1.5〜2倍の肉厚部に形成されていることを特徴とする被覆体付小形電球装置。」(実用新案登録請求の範囲)
6-2)「上記被覆体(28)は金型によって容易に形成出来しかも着色が容易でかつ均一成形出来るので自動車及び電子機器に用いて極めて有効である。」(8頁17〜19行)
6-3)「電球は着色する必要がないので着色工程が不要であり上記の被覆体(28)を嵌着するのみで用途に応じて被覆体を選別できるので作業性が極めて容易となり量産化が計れ装置が安価に形成できるという実用的効果がある。」(8頁20行〜9頁4行)

甲第7号証には、次の記載がある。
7-1)「発光素子が実装された一方のリードと、前記発光素子と電気的に接続された他方のリードと、前記発光素子を覆うように透光性樹脂にて形成された樹脂部と、からなる発光装置において、前記樹脂封止部より導出される前記一方若しくは他方のリードの先端部に凸部が形成されていることを特徴とする発光装置。」(請求項1)
7-2)図3として、LED樹脂封止体が開示されている。

甲第8号証には、次の記載がある。
8-1)「一組のリード端子と、前記一組のリード端子の一方の先端にこの長手方向に沿うように設けられた素子搭載部と、前記素子搭載部に固着された発光ダイオード素子と、前記発光ダイオード素子と他方のリード端子とを接続する金属ワイヤと、発光ダイオード素子を含むリード端子の先端部を覆う樹脂封止部とを具備し、前記樹脂封止部は半ドーム状の形状を有していることを特徴とする発光ダイオードランプ。」(請求項1)
8-2)図1として、LED樹脂封止体が開示されている。

4.請求人の主張(1)についての対比・判断
(1)対比
本件発明1と甲第1号証に記載される発明(以下、「甲1発明」という)を対比する。
本件発明1における「蛍光カバー」は、「前記半導体発光素子から照射した相対的に小さい発光波長の光により前記蛍光カバー内に配合された蛍光体を励起し、前記半導体発光素子から生ずる相対的に大きな発光波長の光を前記樹脂封止体の外部に取り出す」ものである。
一方、甲第1号証において、その請求項1に対応するものとして図1に示される第1の実施の形態(甲第1号証段落【0020】)の「キャップ部材」も、「このキャップ部材4には、青色発光の波長を白色発光の波長に変える蛍光顔料5がほぼ均一に分散されて混入されている」(甲第1号証段落【0021】)から、相対的に小さな波長の光を相対的に大きな波長の光に変換するものといえる。
また、本件発明1の「蛍光カバー」は、弾力性を有し、交換可能なものであるが、甲1発明の「キャップ部材」も、「キャップ部材はラバー製であっても良い」(甲第1号証段落【0034】)と記載されているから、弾力性を有するものも含まれ、また、「キャップ部材をベース板から取外すことによりキャップ部材の交換を容易に行うことができる」(甲第1号証段落【0014】)と記載されているから、交換可能であると認められる。
さらに、本件発明1における「半導体発光素子」及び「複数のリード」は、甲1発明における「LEDチップ」及び「リードフレーム」に該当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は次の点で一致する。
(一致点)
複数のリードと、該複数のリード間に電気的に接続された半導体発光素子と、一端に開口部が設けられ且つ透光性の蛍光カバーとを備え、前記半導体発光素子から照射した相対的に小さい発光波長の光により前記蛍光カバー内に配合された蛍光体を励起し、前記半導体発光素子から生ずる光より相対的に大きな発光波長の光を取り出す半導体発光装置において、前記蛍光カバーは、交換可能で、弾力性を有することを特徴とする半導体装置。
一方、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。
(相違点)
本件発明1の半導体発光装置においては、複数のリードの一端及び半導体発光素子が樹脂封止体により封止され、この樹脂封止体と同一の形状内面を有して予め形成された蛍光カバーが開口部を通じて前記樹脂封止体に被着され、前記樹脂封止体に密着するのに対し、甲1発明においては、半導体発光素子が樹脂封止体により封止されておらず、蛍光カバーは、本件発明1のように樹脂封止体に密着することはなく、ベース板に取り付けられる点。

(2)相違点についての検討
上記相違点について検討する。
請求人は、「LEDチップが樹脂封止体で封止されることにより封止体として使用されることは、甲第7及び8号証に見られるように本件特許の出願日前周知の事項であった。」と主張しているが、特許法第29条の2の適用にあたっては、本件発明1が甲第1号証の出願当初の明細書又は図面に記載された発明と同一であるかどうかを問題にすべきであるから、甲第1号証の出願日より後に頒布された甲第7号証及び甲第8号証の記載に基いて、甲第1号証に記載されている事項を認定することはできない。
ただし、請求人も主張するように、甲第1号証の第4図には、従来技術として、LEDチップを透明な樹脂により封止した半導体発光装置が記載されていることから、甲第1号証にLEDチップを透明な樹脂により封止したものが記載されていることは認められる。
しかしながら、本件発明1の蛍光カバーに対応するキャップ部材を備える構成が示される甲第1号証の第1図及びそれに関連する記載において、LEDチップを透明な樹脂により封止した構造を認めることができない。
これは、甲第1号証の第2図においても同様であって、キャップ部材4は、ベース板3に取り付けられており、キャップ部材4とベース板3の間に透明樹脂が存在する旨の記載はない。
また、請求人は、「甲第1号証の図1及び図4を見ると、キャップ部材(4)の内側形状は、明らかに図4に示される従来例のLED樹脂封止体半導体装置(1)の樹脂封止体の形状と同一の形状を有していることが示されている」と主張するが、甲第1号証において、キャップ部材4はベース板に取り付けられるものとして記載されており(【請求項1】、段落【0013】、【0014】、【0021】、【0023】、【0025】、【0035】の記載参照。)、キャップ部材を図4に示される青色LED1の透明樹脂に被せて使用することについて、甲第1号証には何ら記載がない。
してみれば、甲第1号証の図1あるいは図4に開示されたものは、それぞれ、選択的な別個の事項として記載されているものであるから、半導体発光素子が樹脂封止体により封止され、蛍光カバーが前記樹脂封止体と同一の形状内面を有し、前記樹脂封止体に密着して被着されるという構成が甲第1号証に記載されているとはいえず、甲第3ないし6号証に記載された事項を参酌しても、本件発明1が甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
また、本件発明2は、本件発明1が有する事項を全て含むものであるから、同様の理由により、これが甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。
したがって、本件発明1及び2が特許法第29条の2の規定に違反して特許されたとはいえず、この点についての請求人の主張は採用できない。

5.請求人の主張(2)についての対比・判断
(1)対比
本件発明1と甲第2号証の第2図に他の実施例として記載される発明(以下、「甲2図2発明」という)を対比すると、甲2図2発明の「リード9」、「半導体発光素子10」及び「透明樹脂12」は、それぞれ、本件発明1の「複数のリード」、「半導体発光素子」及び「樹脂封止体」に該当する。
一方、甲2図2発明では、蛍光材料層13及び透明覆蓋体14は、「半球状の透明樹脂12上に蛍光変換塗料及び透明樹脂を順次塗布すれば形成できる。」(上記2-5参照)と記載されていることから、塗布により形成されているものと認められ、蛍光材料層13は透明樹脂12に密着しているものと認められる。
また、甲第2号証には「半導体発光素子4から輻射された〜紫外線が蛍光材料層7にて可視光に変換され」と記載されているから、蛍光材料層13及び透明覆蓋体14の2重層を蛍光カバーとあえていうならば、両者は次の点で一致する。
(一致点)
複数のリードと、該複数のリード間に電気的に接続された半導体発光素子と、前記複数のリードの一端及び前記半導体発光素子を封止する樹脂封止体と、一端に開口部が設けられ且つ前記樹脂封止体に被着された透光性の蛍光カバーを備え、前記半導体発光素子から照射した相対的に小さい発光波長の光により蛍光体を励起し、前記半導体発光素子から生ずる光より相対的に大きな発光波長の光を前記樹脂封止体の外部に取り出す半導体発光装置において、前記蛍光カバーは前記樹脂封止体と同一形状の内面を有し、前記樹脂封止体に密着する点。

(相違点)
一方、両者は次の点で相違する。
本件発明1の蛍光カバーは、樹脂に蛍光体を配合して予め形成され、交換可能に前記開口部を通じて前記樹脂封止体に被着され、弾力性を有するのに対して、甲2図2発明は、透明樹脂(樹脂封止体)上に蛍光変換塗料及び透明樹脂を順次塗布して形成している点。

(2)相違点についての検討
上記相違点について検討するに、甲2図2発明の蛍光カバーは、透明樹脂層12が存在することを前提として、その上に蛍光変換塗料及び透明樹脂を順次塗布して形成するものであって、これらを交換可能とすることは想定されておらず、これを本件発明1のごとく、樹脂に蛍光体を配合して予め形成される弾力性を有する蛍光カバーとし、交換可能なものとすることは、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。

なお、請求人は、甲第2号証には、第2図に示される実施例において、その蛍光材料層13及び透明覆蓋体14の2重層に代えて、第1図に示される実施例における内面に蛍光材料層7が塗布された透明覆蓋体6を用いることが記載ないしは示唆されている旨の主張をしているが、甲第2号証にそのような記載や示唆はない。
透明樹脂12を有さない構造に対しては、ガラスやエポキシ樹脂等の材料で構成される図1の透明覆蓋体6が用いられ、また、透明樹脂12を有するモールド型のものに対しては、塗布により形成される覆蓋体14が用いられることがそれぞれ記載されているだけである。
確かに、請求人が主張するように、甲第2号証の実用新案登録請求の範囲の記載(上記2-1)参照)によれば、蛍光材料層及び透明覆蓋体は、必ずしも、透明樹脂(樹脂封止体)上に塗布して形成するものに限定されるものではないから、甲第2号証の記載に接した当業者であれば、第2図に示される実施例において、その蛍光材料層13及び透明覆蓋体14の2重層を塗布で形成することに代えて、第1図に示される実施例における内面に蛍光材料層7が塗布された透明覆蓋体6を用いることを想到し得るかもしれないが、甲第2号証の実施例においては、透明樹脂12を有さない構造に対してはガラスやエポキシ樹脂等の材料で構成される図1の透明覆蓋体6が用いられ、また、透明樹脂12を有するモールド型のものに対しては塗布により形成される覆蓋体14が用いられているのであるから、ここで、あえてモールド型のものに対して図1の透明覆蓋体6を用いることについて、容易に想到し得ると直ちにはいえないばかりでなく、仮にそのようなものを想到し得たところで、その蛍光カバーは、甲第2号証の実用新案登録請求の範囲に記載されるように、透明覆蓋体の半導体発光素子に対向する側の表面に蛍光材料層を有するという構造のものであって、本件発明1のように樹脂に蛍光体を配合して予め形成されるものではないし、また、その透明覆蓋体もガラスやエポキシ樹脂等の材料で構成され、ステムに固着されるものであって、本件発明1のように弾力性を有し、樹脂封止体に交換可能に密着するものでもないから、到底、本件発明1を構成することにはならない。(なお、甲第2号証において、蛍光材料層13及び透明覆蓋体14の2重層が透明樹脂12に密着しているといえるのは、これらが塗布により形成されているからである。)

請求人は、甲第3ないし6号証に記載される技術を甲第2号証に記載される発明に適用することについても言及しているので、これらの点についても検討する。
甲第3号証には、蛍光体層を発光ダイオードチップ上に塗布あるいは滴下する従来法では均一な被着が困難で輝度にバラツキが生じてしまう(上記3-1)参照)から、蛍光体層をドーム状の蛍光体成型体として、ダイオードチップにたいして所定の距離を設けて設置することで、輝度のバラツキに起因する指向性が少なくなって鮮明な表示が得られる旨記載されて(上記3-2)参照)いるが、これは、その第2図に示されるように蛍光体層8を発光ダイオードチップ1上に塗布する場合を問題としているのであって、甲2図2発明のように発光ダイオードチップをモールドする透明樹脂上に蛍光体層を塗布する場合を問題とするものではなく、結局、甲第3号証には、蛍光体を分散混合した蛍光成型体が記載されているものの、その第1図に示されるように、この蛍光成型体と発光ダイオードチップとの間には空間が設けられており、また、その蛍光成型体は、透明樹脂モールド7で外側からパッケージされており着脱自在に取り付けられているわけではないから、甲第3号証を甲第2号証に記載された発明に適用したところで本件発明1にはならない。

甲第4号証には、ガラス体(樹脂)に蛍光染料を浸透させて中空封止体(蛍光カバー)を形成することが開示されている(上記4-1)参照)が、この蛍光染料は、甲第4号証の第4頁右上欄11〜13行に記載されるように外部光を反射するものであって、本件発明1のように半導体発光素子から照射した相対的に小さい発光波長の光により蛍光体を励起し、前記半導体発光素子から生ずる光より相対的に大きな発光波長の光を外部に取り出すという機能を果たすものではないから、これを甲第2号証に適用したところで本件発明1を構成することにはならない。
仮に、甲第4号証のガラス体(樹脂)に蛍光染料を浸透させて中空封止体(蛍光カバー)を形成する点のみを甲第2号証に適用したとしても、甲第2号証の第1図に示される内面に蛍光材料層6が塗布された透明覆蓋体7を蛍光染料が浸透した蛍光ガラス体とする程度のことであって、本件発明1を構成することにはならない。
また、甲第2号証の第2図における蛍光材料層13及び透明覆蓋体14の2重層を第1図の内面に蛍光材料層6が塗布された透明覆蓋体7で置き換えたものにさらに甲第4号証の前記の点を適用するということならば、これは、容易の容易の論理構成となり採用できるものではないが、仮にそうしたところで、その蛍光カバーはガラス体であって、本件発明1の構成、すなわち、弾力性を有し、樹脂封止体に交換可能に密着する蛍光カバーとなるわけではない。

甲第5号証には、白色豆電球のガラス球へ着脱自在に被帽するように耐熱性、弾力性を有する合成樹脂の着色透明薄膜にて形成したことを特徴とする豆電球の被帽用着色キャップの発明が記載されている(上記5-1)参照。)が、これは、あくまでも豆電球のガラス球に被帽する着色透明薄膜の発明であり、これを甲第2号証に適用したところで、甲第2号証の第1図や第2図に示される半導体発光装置の透明覆蓋体6,14に甲第5号証の着色透明薄膜を着脱自在に取り付けるという程度のことであって、甲第2号証の第2図における蛍光材料層13及び透明覆蓋体14の2重層を本件発明1のような蛍光体を配合した蛍光カバーで置き換えることにはならない。

甲第6号証には、電球を着色せずに被覆体の選別によって色などを変えることが出来る旨記載されている(上記6-3)参照)が、これもあくまでも電球の被覆体の発明であり、これを甲第2号証に適用したところで、甲第2号証の第1図や第2図に示される半導体発光装置の透明覆蓋体6,14に甲第6号証の被覆体を取り付けるという程度のことであって、甲第2号証の第2図における蛍光材料層13及び透明覆蓋体14の2重層を本件発明1のような蛍光体を配合した蛍光カバーで置き換えることにはならない。

以上のとおりであって、本件発明1について、甲第2ないし6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたということはできない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1が有する事項を全て含むものであるから、同様の理由により、甲第2ないし6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたということはできない。
したがって、本件発明1ないし3が特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたとはいえず、この点についての請求人の主張は採用できない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし3に係る発明の特許を無効とすることができない。審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-01-12 
結審通知日 2005-01-14 
審決日 2005-01-25 
出願番号 特願平9-4803
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H01L)
P 1 113・ 161- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉野 三寛  
特許庁審判長 平井 良憲
特許庁審判官 稲積 義登
吉田 禎治
登録日 2003-05-30 
登録番号 特許第3434658号(P3434658)
発明の名称 半導体発光装置  
代理人 清水 敬一  
代理人 山田 勇毅  

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