• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特123条1項6号非発明者無承継の特許 無効としない C23C
管理番号 1114417
審判番号 審判1999-35339  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-02-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-07-05 
確定日 2005-04-06 
事件の表示 上記当事者間の特許第1628133号発明「溶射被膜の形成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
発明の名称を「溶射被膜の形成方法」、発明者を清水晃、蓮井健二、永井昌憲、常田和義とする、本件特許第1628133号発明(以下、「本件発明」という。)は、昭和62年8月24日に出願され、平成3年12月20日に設定登録されたものであって、その後、平成11年7月5日付けで請求人であるアークテクノ株式会社より本件特許無効の審判請求がなされ、平成12年3月21日付で被請求人である大日本塗料株式会社から答弁書が提出されたものである。
2.本件発明の要旨
本件発明の要旨は、明細書の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものと認める。
「1.亜鉛線材、アルミニウム線材、及びこれらの合金線材からなる群から選ばれた線材の2本を、減圧内アーク溶射方法により同時に基材上に溶射し、Zn/Al=90/10〜50/50(重量比)の亜鉛・アルミニウム被膜を得ることを特徴とする溶射被膜の形成方法。」
3.当事者の主張等
3-1.請求人
(1)請求人の主張の概要
請求人は、「特許第1628133号の明細書の請求項第1項及び第2項に係る発明について特許を無効にする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由として、本件請求項第1項及び第2項に係る発明の発明者は、清水晃、蓮井健二、永井昌憲、常田和義ではなく、請求人の代表者である浜村益三であるところ、被請求人は浜村益三から本件請求項第1項及び第2項に係る発明について特許を受ける権利を承継することなく、特許出願をして特許を受けたものであるから、本件請求項第1項及び第2項に係る発明の特許は特許法第123条第1項第6号に該当し、その特許は無効にされるべきである旨主張している。
(2)請求人の証拠方法
甲第1号証:三菱商事株式会社高機能化学品部塗料関連企業チームリーダ石野節男が株式会社パンアート・クラフト代表取締役浜村益三に宛てた書簡の内容を大日本塗料株式会社営業開発第一部長奥邨定則に通知したものと認められる昭和59年12月12日付の文書
甲第2号証:株式会社パンアートクラフト(甲)、三菱商事株式会社(乙)及び大日本塗料株式会社(丙)の3者間で結ばれた、昭和60年(月日記入なし)付「業務提携協定書」
甲第3号証:千葉県印旛郡白井町桜台2-4-14-401の徳永康夫がアートテクノ株式会社代表取締役浜村益三に宛てた平成11年5月16日付けの文書(「証言 浜村益三氏と大日本塗料並びに三菱商事の関係経緯」と題された徳永康夫作成の文書が添付されている)
甲第4号証:大阪市城東区古市3-9-21プロムナーデ関目504の関谷昌一がアークテクノ株式会社浜村益三に宛てた「証明書」と題された平成11年5月25日付文書
甲第5号証:特開昭64-52051号公報
3-2.被請求人
(1)被請求人の主張の概要
被請求人は、被請求人の中央研究所の研究員であった清水晃、蓮井健二、永井昌憲、常田和義が職務発明として共同でなした本件発明について特許を受ける権利を譲り受けて特許出願をしたものであり、浜村益三がなした発明を特許出願したものではないから、請求人の主張する理由及び提出された証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない旨を主張している。
4.甲各号証の概要
(1)甲第1号証
甲第1号証(三菱商事株式会社高機能化成品部所属石野節男の浜村益三への書簡)には、次の記載がある。
「拝啓 貴社益々御隆昌の段お慶び申し上げます。先日は、わざわざ大日本塗料(株)横浜工場まで御足労いただき有難う御座居ました。仝社が重防食塗料に関し、古い歴史と高い技術を保有し、業界のリーダー役として活躍しております事御既承の通りでございます。此度仝社研究所を御見学頂き、その技術力を御認識いただけた事と思慮いたしております。扨、先日来お打合せさせていただいております御社の常温溶射技術を大日本塗料(株)は仝社重防食塗装システムに織り込ませていただくべく検討を行いたいとの強い希望を持っております。就きましては先日口頭にてお願い申し上げました通り御社の常温溶射技術の重防食分野への応用につきまして、当分の間(出来ますれば1985年末頃迄)大日本塗料(株)一社にて検討させていただけます様重ねてお願い申し上げます。敬具」(全文)
(2)甲第2号証
甲第2号証は、株式会社パンアートクラフト(甲)、三菱商事株式会社(乙)及び大日本塗料株式会社(丙)の3者間で結ばれた業務提携協定書であり、「協定の趣旨、業務提携の概要」(第1条)、「競業避止」(第2条)、「具体的な提携内容の決定」(第3条)、「準備期間中における乙・丙の研究開発業務」(第4条)、「甲の協力業務」(第5条)、「費用負担」(第6条)、「事業化後の取引体制等」(第7条)、「機密保持」(第8条)、「工業所有権の取扱い等」(第9条)、「有効期間」(第10条)及び「協議」(第11条)等の各項目に関しての取り決め事項が記載されている。
そして、甲第2号証の第1葉には次の事項が記載されている。
「株式会社パンアートクラフト(以下甲という)、三菱商事株式会社(以下乙という)及び大日本塗料株式会社(以下丙という)は、甲が開発した減圧内アーク溶融溶射技術による塗装・塗覆方法の防錆・防蝕技術分野及びその他の塗料関連分野における応用利用方法の研究開発並びにその商品化及び販売方法の確立による事業展開を目的とした業務提携関係の設定に関して、次のとおり取り決めた。」(第1葉第2〜7行)
「甲、乙及び丙は、甲が開発した冷却空気・不活性ガスによる減圧内アーク溶融溶射技術(以下本技術という)及び減圧内溶融溶射装置(以下本装置という)による溶射と丙が開発・製造する塗料とを組み合わせて併用した塗装・被覆方法(以下本システムという)についての…(中略)…合意した。」(同第9〜17行)
(3)甲第3号証
甲第3号証の「証言」中には、同号証の作成者である徳永康夫の次のような記述がある。
徳永康夫は、三菱商事鉄鋼事業開発部事業推進チームリーダー在任中の1987年に常温アーク溶射技術を新事業の一つとして取り上げることを決定し、1988年に、この溶射技術に本格的に進出するために、三菱商事鉄鋼事業開発部の100%出資で株式会社パンメタルエンジニアリングを設立して代表取締役社長に就任したこと(「証言」第1頁本文第1〜10行参照)。
1985年パンアートクラフト社の社長であった浜村益三が、三菱商事化学品本部の仲立ちで、大日本塗料との間で「業務提携協定書」を締結したこと(「証言」第1頁本文第20〜21行参照)。
浜村益三の溶射技術は従来の溶射とはあらゆる点で異なったものであり、特に、高温でなく常温に近い温度で溶射できる点及び亜鉛とアルミのワイヤーを同時に一つのガンで溶射できる点で異なること(「証言」第2頁第5〜21行参照)。
「アルミと亜鉛の擬似合金被膜が溶射被膜として形成できる。…(中略)…これらの実験は当時、二つのガンで溶射していた。当時溶射機の世界トップメーカーは、アメリカのメテコ社とタファ社であったが、両者は勿論、日本を含む世界の溶射機メーカーは、亜鉛とアルミを一つのガンで同時に溶かす技術も溶射機も持っていなかったことは、三菱商事が確認している。」(「証言」第2頁第15〜21行参照)
大日本塗料が保有している特許第1661970号、特許第1628133号(本件特許)及び特許第2003726号は、何れも浜村益三が単独になした成果を、浜村益三、三菱商事株式会社及び大日本塗料の三者の「業務提携協定書」の有効期間内に、大日本塗料が浜村益三から及び浜村益三が経営するパンアートクラフト社に出入りすることにより知り得た技術を自己の開発したものとして特許を出願したものであること(「証言」第4頁第11〜18行参照)。
「発明したのは浜村氏であるし、…(中略)…百歩譲って本来この発明は、浜村氏の常温アーク溶接機なくしては存在し得ないものであり、発想すらあり得ないものである。」(「証言」第5頁第1〜9行)
「大日本塗料が自社で開発したとして、特許を獲得している《特許第1628133号》の亜鉛とアルミの同時溶射の件であるが、亜鉛とアルミの同時溶射は、浜村氏が昭和55年頃から実用化しており、浜村氏が新日鉄相模原中央研究所に持ち込んで新日鉄も当時研究の対象としていたことを、三菱商事として確認している。」(「証言」第5頁第14〜17行)
(4)甲第4号証
「別紙特許出願に係わる発明は私が株式会社パンアートクラフト在職中に、その社長をされていた貴殿よりその内容を知得したものであって、発明者や考案者として記載されている者がそれらの発明、考案をしたものでないことを本書をもって明らかに致します。従いまして、別紙の特許出願者は全員、貴殿から正当にその発明について特許を受ける権利を継承したものでもありません。」(本文第1〜5行)
「私が、先記株式会社パンアートクラフトの従業員であった当時、大日本塗料株式会社技術部、蓮井健二、永井昌憲、常田和義等の社員が当社を何度も訪問して、貴殿の承諾を得ているからと言って、私達に貴殿が発明、考案した内容のもの、または当社のノウハウを、見て回り、ききまわったものであり、さらに私達は親切に説明し、見本も乞われるままに差し上げたものであります。」(本文第6〜10行)
(5)甲第5号証
本件発明の出願公開公報(甲第4号証中で「別紙特許出願」とされているものと認められる。)
5.当審の判断
本件特許に係る出願の出願日は昭和62年8月24日であって、明細書の特許請求の範囲の記載については昭和60年特許法が適用されるところ、本件特許の特許請求の範囲第2項は、特許請求の範囲第1項を引用する形式で記載されていること、本件特許の出願公告公報の第1頁に「発明の数1」という記載があること、及び本件特許の特許原簿にも「発明の数1」と記載されていること(職権調査による)からみて、特許請求の範囲第2項に記載のものは本件発明の実施態様であると認める。
従って、本件特許請求の範囲第2項に係る発明あるいはその特許に関する請求人の主張は失当であり、これについては判断する必要を認めない。
上記のとおりであるから、以下では、特許請求の範囲第1項に係る発明(本件発明)についてのみ検討する。
本件発明は前記「2.本件発明の要旨」において認定したとおりの構成を有するものである。
そして、本件審判において、本件特許が特許法第123条第1項6号に該当するとするには、まず、本件発明を浜村益三が発明したことが立証されなければならない。
そこで、上記の点が立証されているかについて甲第1〜5号証の内容を以下検討する。
(1)甲第1号証
甲第1号証からは、浜村益三が被請求人の横浜工場を訪問したこと及び浜村益三が代表取締役をしている株式会社パンアートクラフト社が常温溶射に関する技術を保有していることを読み取ることができるが、甲第1号証は浜村益三が本件発明を発明したことを立証するに足るものではない。
(2)甲第2号証
甲第2号証の「業務提携協定書」によれば、「株式会社パンアートクラフト(甲)」が開発した「減圧内アーク溶融溶射技術による塗装・塗覆方法の防錆・防蝕技術分野及びその他の塗料関連分野における応用利用方法の研究開発並びにその商品化及び販売方法の確立による事業展開を目的とした業務提携関係の設定」に関して、株式会社パンアートクラフト(甲)、三菱商事株式会社(乙)及び大日本塗料株式会社(丙)の三者が業務提携協定を締結したことが認められるが、「甲が開発した減圧内アーク溶融溶射技術」なるものが、浜村益三が開発(発明)したものかは否かは不明であり、また、仮に浜村益三がそれを開発したとしても、その開発した「減圧内アーク溶融溶射技術」なるものが本件発明と同一の構成を有するものであるかも不明である。
従って、甲第2号証は、浜村益三が本件発明を発明したことを立証するに足るものではない。
(3)甲第3号証
甲第3号証には、浜村益三の溶射技術が従来の溶射技術とはあらゆる点で異なったものであり、特に、高温でなく常温に近い温度で溶射できる点及び亜鉛とアルミのワイヤーを同時に一つのガンで溶射できる点で異なることについての記述がある。
しかるに、本件発明は「装置」の発明ではなく、「方法」の発明であって、亜鉛線材、アルミニウム線材の2本を使用して、「減圧内アーク溶射方法により同時に基材上に溶射し、Zn/Al=90/10〜50/50(重量比)の亜鉛・アルミニウム被膜を得る」点を構成要件としている。
従って、仮に、上記の記述通りに、浜村益三が常温に近い温度で溶射でき、また、亜鉛とアルミのワイヤーを同時に一つのガンで溶射できる装置を開発していたとしても、そのような装置は本件方法の発明を実施するために必要な装置であるとは言えるが、そのような装置を浜村益三が発明したからといって、そのことをもって、浜村益三が本件発明である方法の発明を発明したものと認めることはできない。
また、甲第3号証には、大日本塗料が保有している特許第1628133号(本件特許)は、浜村益三が単独になした旨及び「発明したのは浜村氏である。」旨の記載があるが、これは、本件審判において請求人が証明すべきである「浜村益三が本件発明を発明した」という事実について、単に「その事実がある」旨を記述しているにすぎず、このような記述からは前記事実があることを認めることはできない。
更に、甲第3号証には、「大日本塗料が自社で開発したとして、特許を取得している《特許第1628133号》の亜鉛とアルミの同時溶射の件であるが、亜鉛とアルミの同時溶射は、浜村氏が昭和55年頃から実用化しており、浜村氏が新日鐵相模原中央研究所に持ち込んで新日鉄も当時研究の対象としていたことを、三菱商事として確認している。」との記載があるが、この記載中の「亜鉛とアルミの同時溶射」技術が本件発明の構成と同一のものであるかは不明である。
従って、甲第3号証は、浜村益三が本件発明を発明したことを立証するに足るものではない。
(4)甲第4号証
甲第4号証には、「別紙特許出願に係わる発明は私が株式会社パンアートクラフト在職中に、その社長をされていた貴殿よりその内容を知得したものであって、発明者や考案者として記載されている者がそれらの発明、考案をしたものでないことを本書をもって明らかに致します。従いまして、別紙の特許出願者は全員、貴殿から正当にその発明について特許を受ける権利を継承したものでもありません。」との記載があるが、この記載は、「本件発明の真正の発明者は浜村益三である」という、本件審判において「証明すべき事実」について、単に「その事実がある」旨を記述しているにすぎず、このような記述からは前記事実があることを認めることはできない。
また、甲第4号証には、「私が、先記株式会社パンアートクラフトの従業員であった当時、大日本塗料株式会社技術部、蓮井健二、永井昌憲、常田和義等の社員が当社を何度も訪問して、貴殿の承諾を得ているからと言って、私達に貴殿が発明、考案した内容のもの、または当社のノウハウを、見て回り、ききまわったものであり、さらに私達は親切に説明し、見本も乞われるままに差し上げたものであります。」との記載があるが、「貴殿が発明・考案した内容のもの」が本件発明と同一の構成を有するものであるかは不明である。
従って、甲第4号証は、浜村益三が本件発明を発明したことを立証するに足るものではない。
(5)甲第5号証
甲第5号証は本件特許に係る出願の出願公開公報であり、甲第5号証が浜村益三が本件発明を発明したことを立証するに足るものではないことは明らかである。
(6)まとめ
上記のとおり、甲1〜5号証からは、浜村益三が本件発明の真正の発明者であるとすることはできない。
従って、浜村益三が本件発明の真正の発明者であることを前提とする請求人の主張は採用することができない。
6.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-08-10 
結審通知日 2000-08-22 
審決日 2000-09-12 
出願番号 特願昭62-209572
審決分類 P 1 112・ 152- Y (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 酒井 雅英  
特許庁審判長 中嶋 清
特許庁審判官 酒井 正己
影山 秀一
登録日 1991-12-20 
登録番号 特許第1628133号(P1628133)
発明の名称 溶射被膜の形成方法  
代理人 今城 俊夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 西島 孝喜  
代理人 村社 厚夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 小川 信夫  
代理人 飯田 圭  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 箱田 篤  
代理人 中村 稔  
代理人 瀬谷 徹  
代理人 辻居 幸一  
代理人 竹内 英人  
代理人 浅井 賢治  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ