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審決分類 審判 訂正 2項進歩性 訂正しない H04M
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正しない H04M
管理番号 1114433
審判番号 訂正2002-39245  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-01-12 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2002-11-21 
確定日 2005-04-05 
事件の表示 特許第3093727号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と請求要旨及び訂正発明
本件特許第3093727号の請求項1ないし3に係る発明についての出願は、平成5年4月26日に出願した特願平5-98289号の一部を平成10年5月21日に新たな特許出願としたものであって、平成12年7月28日にその発明について特許の設定登録がなされ、平成13年3月29日にシャープ株式会社より請求項1ないし3に係る特許の全てについて特許異議の申立てがされ、同年9月12日付けで請求項1ないし3に係る特許を取り消す旨の異議決定が行われ、平成14年11月21日に訂正審判の請求がなされたものであり、その請求の要旨は、特許第3093727号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正するというものである。
そして、本件訂正審判に係る訂正後の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明1」、「訂正発明2」という。)は次のとおりである。

「【請求項1】第1のフロントケースと第1のリアカバーとから構成される第1の筐体と、第2のフロントケースと第2のリアカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部によりフロントケースにおいて回動可能に締結されており、
前記第1のフロントケースの端部に設けられた円弧状の第1の曲面部と、前記第1のリアカバーの端部に設けられた円弧状の第2の曲面部とが係合し前記第1の筐体の端部に該筐体と内通する前記ヒンジ部の締結に係わる部材
が存在しない略円筒状の第1の空洞部を構成し、前記第2のフロントケースの端部に設けられた円弧状の第3の曲面部と、前記第2のリアカバーの端部に設けられた円弧状の第4の曲面部とが係合し前記第2の筐体の端部に該筐体と内通する前記ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない略円筒状の第2の空洞部を構成し、前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を内通するように同軸上に隣接して配置されており、
前記第1の筐体内の電気回路と前記第2の筐体内の電気回路とを接続するフレキシブル基板を前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部の内径に沿ってらせん状に巻いて通すことにより、前記電気回路同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する電子機器。

【請求項2】前記フレキシブル基板は、その一端が前記第1の筐体内の電気回路に接続され、前記第1の筐体と前記第1の空洞部とを内通する部分を通り、前記両空洞部の内径に沿ってらせん状に巻いて通し、前記第2の空洞部と前記第2の筐体とを内通する部分を通り、他端が前記第2の筐体内の電気回路に接続されることにより、前記電気回路同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する請求項1記載の電子機器。」

2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否
本件訂正審判による特許請求の範囲の訂正は、訂正前の請求項1を削除するとともに、訂正前のヒンジ部の配置及び接続態様に関する構成を「ヒンジ部により回動可能に接続されており」から「ヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部によりフロントケースにおいて回動可能に締結されており」に限定するとともに、空洞部の形状に関する構成を「略円筒状」から「前記ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない略円筒状」に限定し、空洞部の配置に関する構成を「前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部」から「前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部」に限定するものであるから、これらの訂正は、平成6年法改正前の特許法第126条第1項ただし書き第一号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的するものである。
また、本件訂正審判による発明の詳細な説明の訂正は、特許請求の範囲の訂正に対応するように訂正するものであるから、これらの訂正は、平成6年法改正前の特許法第126条第1項ただし書き第三号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的するものである。
また、これらの訂正はいずれも、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされるものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
したがって、上記訂正は、平成6年法改正前の特許法第126条第1項ただし書き第一号の規定に適合し、かつ、同法同条第2項の規定に適合する。

3.独立特許要件
以上のとおり、上記訂正発明に係る訂正は、平成6年法改正前の特許法第126条第1項ただし書き第一号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的するものであるから、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて以下検討する。

3-1.引用刊行物及び刊行物に記載された発明
引用刊行物1:実公昭60-7516号公報
引用刊行物2:特開平4-233298号公報
引用刊行物3:実願昭60-30152号の願書に添付された明細書と図面を撮影したマイクロフィルム(実開昭61-146620号公報参照)
引用刊行物4:実願昭60-75493号の願書に添付された明細書と図面を撮影したマイクロフィルム(実開昭61-190182号公報参照)

(1)上記刊行物1には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.第1および第2の回路部と、これら回路部をそれぞれ実装した第1および第2の筺体とを含み、前記第1および第2の回路部どおしを電気的に接続する小型電子装置の接続構造において、互いに嵌合し前記第1および第2の筺体の端部にそれぞれ設けられた少なくとも1対の軸受けと、これら軸受けに貫通し、前記第1および第2の筺体が互いに回動可能なごとく接続するためのピンと、前記第1および第2の回路部どおしを電気的に接続し前記ピンに巻回されたフレキシブルプリント板と、このプリント板の前記ピンに巻回した部分を覆うカバーとを含むことを特徴とする小型電子装置の接続構造。(登録請求の範囲)

イ.第2図は本考案の実施例の要部分解斜視図である。二分割した筺体1および2を互いに回動自在に結合させるため、蝶番と同様な構造となるように、筺体1および2に軸受5を2箇所ずつ互いに嵌合するよう筺体と一体に成形する。これにピン6を挿入しネジ7により抜け止めとする。回路部3および4は電気的に接続するために第3図に示す如くクランク状に曲った外形をなすフレキシブルプリント板3に鋼箔回路9を形成し、これを第2図の如くピン6に1回巻きつけた後鋼箔回路9の両端部をそれぞれ回路部3および4にハンダ付又はコネクタ等により接続する。フレキシブルプリント板8をピン6に巻いた部分は筺体を回動させた時に生ずる長さの変化を吸収する役目をするものである。筺体1および2に設けた半円状のカバー10および11はフレキシブルプリント板8を覆い、外部からの損傷を避けるためのものであり、カバー11はネジ止め、あるいは接着等の方法で筺体に固定される。(公報第3欄1〜19行目)

ウ.第3図に記載された「筺体1および2」は一面が開口しており、第1図に記載された「筺体1および2」はキーボード、表示器、スイッチ類を実装した「蓋体」により当該開口が閉塞されている。

以上の記載および図面ならびにこの分野の技術常識を勘案し、上記「第1の筺体」と「第1の蓋体」を合わせたもの及び「第2の筺体」と「第2の蓋体」を合わせたものを便宜上「第1の部材」及び「第2の部材」と呼称すると、上記刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が開示されていると認められる。

「第1の筺体と第1の蓋体とから構成される第1の部材と、第2の筺体と第2の蓋体とから構成される第2の部材とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部により筺体において回動可能に接続されており、
前記第1の筺体の端部に設けられた半円状の第1のカバーと、前記第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバーとが係合し前記第1の部材に該部材と内通する略円筒状の第1の空洞部を構成し、前記第2の筺体の端部に設けられた半円状の第3のカバーと、前記第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバーとが係合し前記第2の部材の端部に該部材と内通する略円筒状の第2の空洞部を構成し、前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を内通するように同軸上に隣接して配置されており、
前記第1の部材内の回路部と前記第2の部材内の回路部とを接続するフレキシブルプリント板を前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部内のピンにらせん状に巻いて通すことにより、前記回路部同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する小型電子装置。」

(2)上記刊行物2には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.【請求項1】 第1のエレメントが2つの突出部を含み、該突出部の一方がスリットを備えており、第2のエレメントが該突出部の間に係合するように構成され且つ別のスリットを備える突起を含んでおり、電気的リンクがこれらのスリットを通るように構成された、ヒンジの周囲に連接され且つ電気的リンクにより相互に接続された2つのエレメントから形成される装置であって、前記第1のエレメントが2つの半シェルから形成され、前記突出部の相対向する面が該半シェルの各々に半分ずつ含まれている円筒形状の窪みを備えており、前記突起の両端が同様に円筒形であり、該突起が前記ヒンジを形成するべく前記突出部に嵌合するように構成されていることを特徴とする装置。(特許請求の範囲、請求項1)

イ.【0019】図1に側面図を示す本発明の装置は、第1の半シェル11及び第2の半シェル12から形成される第1のエレメント1と、第1のエレメントの周囲に連接された第2のエレメント2とから構成される。
【0020】第1のエレメントは同一軸を共有するほぼ円筒形の2つの突出部を備える。2つの半シェルの境界面13は、この軸を含む面に沿って各突出部を共有するように構成されている。第2のエレメントはこの場合単一構造であり、2つの突出部の間に導入され且つこの同一の軸に沿って固定されるように構成されたほぼ円筒形の突起を備えている。(第4欄35〜45行目)

ウ.【0037】ここで採用する実施例によると、突起201のセンタリングセクション205は第1の突出部101の近傍に配置される。この突起を第1のスリット207が貫通し、センタリングセクション205と第2の突出部121の側の端部との間の円筒形凹み204に連通している。突起201の側の第2の突出部の端部と長軸320の第4のディスク326との間には、第2の突出部121の内側を第1のエレメント1の本体に連結する第2のスリット137が設けられている。一端が第1のエレメント1の本体に位置する可撓性回路4が第2のスリット137を貫通し、第3のディスク322及び第4のディスク326の間で長軸320の周囲にいずれかの方向に螺旋状に巻き付けられ、第1のスリット207を貫通し、第2のエレメント2の本体に配置された第2の端部により終端する。この可撓性回路はこうして第1のエレメント1と第2のエレメント2との間の電気的リンクを確保する。(第6欄37行目〜第7欄3行目)

エ.【0022】第1の突出部101は、突起201に正対する円筒形状の窪み102を含む。第2の突出部121は同様に突起201に正対する円筒形状の窪み122を含む。この突起201は、円筒形状の窪み102,122の直径よりもやや小さい直径と、両端が突出部に嵌合するように選択された長さとを有する2つの円筒形端部202,203を有する。したがって、固定手段(図示せず)により2つの半シェルを結合すると、2つのエレメントは相互に自由に回転するが、並進運動は固定される。(第5欄1〜10行目)

オ.【0040】上述した通り、本発明は軸3の不在下でも適用される。(第7欄14〜15行目)

カ.【0016】本発明の装置は折り畳み式ポータブル電話機の製造に適用すると有利である。(第4欄27〜28行目)

以上の記載及び図面ならびにこの分野の技術常識を勘案すると、上記刊行物2には以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が開示されていると認められる。

「第1の半シェルと第2の半シェルとから構成される第1のエレメントと、第2のエレメントとがヒンジ部により回動可能に接続されており、
前記第1の半シェルの端部に設けられた2つの半円筒型突出部と、前記第2の半シェルの端部に設けられた2つの半円筒型突出部とが係合し、
前記第1のエレメントの端部に該エレメントと連通する略円筒状の第1の空洞部を構成し、前記第2のエレメントの端部には該エレメントと連通する略円筒状の第2の空洞部を構成し、前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を連通するように同軸上に隣接して配置されており、
前記第1のエレメントと前記第2のエレメントとの間を電気的に接続する可撓性回路を前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部に螺旋状に巻いて通す
ことを特徴とするヒンジ部を有する折り畳み式ポータブル電話機。」

(3)上記刊行物3には、図面とともに以下の事項が記載されている。
ア.本考案によれば、本体基板に少なくとも2つ以上の支持部を形成し、それぞれ独立に短軸で軸支し、その軸上でフレームを回動自在に取り付けることによって、本体基板に一対の特別な支持板を設ける必要がなくなり、部品の削減及び組立時間の短縮が実現し、安価な機能を提供することが可能となった。また、フレームの支軸として、長尺の軸を用いないため、軸の単価が安くなるとともに、長尺の軸が占めていた空間に部品を実装することが出来、実装密度の高い小型機をつくることが出来る。さらに長尺の軸を使用しないため、組立性がよくなる利点もある。(明細書5頁8〜19行目)

また、上記刊行物4には、図面とともに以下の事項が記載されている。
イ.以下、第3図を参照しながら、上述した従来のナイラッチを用いた部品取付装置の一例について説明する。第3図において、1は基台であり、その一部には所定間隔あけて対向するように支持板2a,2bが設けられている。3は前記支持板2aの内壁部に他方の支持板2bの方向へ突出するように設けられた支軸、4は他方の支持板2bに穿設された孔である。また、5は例えばプリント基板等が装着された可動部材であり、その一部には、前記支持板2a、2bの間隔よりも、やや小なる間隔でもって舌片部6a、6bが相対向するように設けられ、かつ、それらには孔7a,7bが穿設されている。
以上のように構成された従来の部品取付装置を組み立てるには、まず、孔7aに支軸3を挿通し、孔2bと孔7bとを重ね合わせた状態で、それらの孔に合成樹脂等で形成されたナイラッチ8を貫挿すればよい。(明細書2頁6行目〜次頁3行目)

上記刊行物3及び刊行物4の記載及び図面ならびにこの分野の技術常識を勘案すると、「電子機器のヒンジ構造において、第1の部材と、第2の部材とを回動部の両端に設けた2つの支持部により回動可能に結合する場合に、支軸として1つの長軸に変えて2つの独立した短軸を用いること」は単なる周知技術であり、当該構成に基づく部品実装の高密度化や組立容易性に関する作用効果も周知である。

3-2.対比・判断
(1)訂正発明1について
訂正発明1と引用発明1とを対比するに、引用発明1の「筺体」、「蓋体」、「部材」はそれぞれ訂正発明1の「フロントケース」、「リアカバー」、「筺体」に対応し、引用発明1の「筺体」と訂正発明1の「フロントケース」はいずれも「ケース」であるという点で一致しており、引用発明1の「蓋体」と訂正発明1の「リアカバー」はいずれも「カバー」であるという点で一致している。
また、引用発明1の「半円状の第1のカバー」、「半円状の第2のカバー」、「半円状の第3のカバー」、「半円状の第4のカバー」はそれぞれ訂正発明1の「円弧状の第1の曲面部」、「円弧状の第2の曲面部」、「円弧状の第3の曲面部」、「円弧状の第4の曲面部」を構成しており、引用発明1の「フレキシブルプリント板」と訂正発明1の「フレキシブル基板」は同じものであり、引用発明1の「(フレキシブルプリント板を)空洞部内のピンに巻く」構成と訂正発明1の「(フレキシブル基板を)空洞部の内径に沿って巻く」構成とはともに「(フレキシブル基板を)空洞部内で巻く」構成であり、引用発明1の「接続」と訂正発明1の「締結」はともに「結合」の一態様であり、引用発明1の「小型電子装置」は訂正発明1の「電子機器」の一種であるからるから、両者は、
(一致点)
「第1のケースと第1のカバーとから構成される第1の筐体と、第2のケースと第2のカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部によりケースにおいて回動可能に結合されており、
前記第1のケースの端部に設けられた円弧状の第1の曲面部と、円弧状の第2の曲面部とが係合し前記第1の筐体の端部に該筐体と内通する略円筒状の第1の空洞部を構成し、前記第2のケースの端部に設けられた円弧状の第3の曲面部と、円弧状の第4の曲面部とが係合し前記第2の筐体の端部に該筐体と内通する略円筒状の第2の空洞部を構成し、前記第1の空洞部と前記第2の空洞部とが前記両空洞部を内通するように同軸上に隣接して配置されており、
前記第1の筐体内の電気回路と前記第2の筐体内の電気回路とを接続するフレキシブル基板を前記ヒンジ軸の中央部に設けた前記第1の空洞部及び前記第2の空洞部内でらせん状に巻いて通すことにより、前記電気回路同士を電気的に接続することを特徴とするヒンジ部を有する電子機器。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)「ケース」と「カバー」の構成に関し、訂正発明1ではそれらがそれぞれ「フロントケース」と「リアカバー」であるのに対し、引用発明1ではそれらがそれぞれ「筺体」と「蓋体」である点。

(相違点2)「円弧状の第2の曲面部」、「円弧状の第4の曲面部」の構成に関し、訂正発明1ではそれらがそれぞれ「第1のリアカバーの端部」、「第2のリアカバーの端部」に設けられるものであるのに対し、引用発明1ではそれらがそれぞれ第1および第2の筺体に固定される」ものである点。

(相違点3)「第1、第2の空洞部」の構成に関し、訂正発明1では「前記ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない」構成であるのに対し、引用発明1では「ピン」が存在する構成である点。

(相違点4)「フレキシブル基板」の配置に関し、訂正発明1では「空洞部の内径に沿って」らせん状に巻いて通すものであるのに対し、引用発明1では「空洞部のピンに」らせん状に巻いて通すものである点。

(相違点5)「結合」に関し、訂正発明1は「締結」であるのに対し、引用発明1は「接続」である点。

そこで、上記相違点1について検討するに、訂正発明1の「フロントケース」と「リヤカバー」は互いに係合して「筺体」を構成するものであるが、例えば「筺体2」において「フロントケース」が「ダイヤルボタン17」を収容する側を指す旨の記載または示唆はなく、「フロントケース」と「リヤカバー」は単に「筺体」を構成する2つの部材を区別するために用いられる名称に過ぎないものである。そして、引用発明1の「筺体」と「蓋体」は2つの「部材」を「筺体」において回動可能に結合しているから、両者の間に実質的な差異はない。
また、この点に関し、請求人は訂正拒絶理由通知に対する意見書の中で、
「引用発明1の「筺体1および2」は、機器を開いた状態のときに背面(リア)側に位置する「リアケース」として構成されている。また、引用発明1の「ヒンジ軸を貫通するピン6を有するヒンジ部」は、「筺体1および2」(リアケース)において回動可能に締結するものである。」
旨主張しているが、訂正発明1の構成は「第1のフロントケースと第1のリアカバーとから構成される第1の筐体と、第2のフロントケースと第2のリアカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部によりフロントケースにおいて回動可能に締結され」ていればよいのであって、その回動の向き(例えば紙面の裏側または表側への回動)は発明の構成要件ではなく、いずれの向きに回動してもよいのであるから、仮に訂正発明1と引用発明1の回動の向きが異なっているとしても、訂正発明1と引用発明1が「第1のケースと第1のカバーとから構成される第1の筐体と、第2のケースと第2のカバーとから構成される第2の筐体とがヒンジ軸の両端部に設けたヒンジ部によりケースにおいて回動可能に結合されて」いることにかわりはなく、上記請求人が主張する点は実質的な相違点とはいえないものである。
したがって、上記請求人の主張は採用できない。

ついで、上記相違点2について検討するに、上記引用発明2には「半円筒状の突出部」(訂正発明1でいうところの「円弧状の曲面部」)を第1および第2の「半シェル」(訂正発明1でいうところの「フロントケース」と「リアカバー」)に一体的に設ける構成が開示されている。また、上記引用発明2には可撓性回路(訂正発明1でいうところの「フレキシブル基板」)が「内通」部においてネジ止めされていない構成も記載されている。したがって、引用発明1の「第1の筺体の端部に固定された半円状の第2のカバー」、「第2の筺体の端部に固定された半円状の第4のカバー」を「蓋体」(訂正発明1でいうところの「リヤカバー」)の端部に一体的に設けるように構成することは容易なことである。

また、相違点3、4について検討するに、上記刊行物3又は4に開示されているように、「電子機器のヒンジ構造において、第1の部材と、第2の部材とを回動部の両端に設けた2つの支持部により回動可能に結合する場合に、支軸として1つの長軸に変えて2つの独立した短軸を用いること」は単なる周知技術であり、当該構成に基づく部品実装の高密度化や組立容易性に関する作用効果も周知であるから、引用発明1で採用している長尺のピンを2つの独立した短軸に変更する程度のことは単なる設計的事項である。また、当該変更の結果、訂正発明1の「第1、第2の空洞部」の構成が「前記ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない」ものとなり、フレキシブル基板の配置が「空洞部の内径に沿って巻く」構成となることは自明のことである。
なお、フレキシブル基板は筺体を回動させた時に生ずる長さの変化を吸収する役目をするものであり、回転角に応じてピンの外周と空洞部内周の間に形成される空間を移動するものであるから、この点においても、(フレキシブル基板を)「空洞部の内径に沿って巻く」構成と「ピンに巻く」構成との間に実質的な差異はない。

また、相違点5について検討するに、筺体間をヒンジ結合するに際し、結合の態様を「締結」とするか「接続」とするかは、これらの態様が具体的な構成・作用効果に基づくものとは認められないから、この点も単なる設計的事項である。

以上のとおりであるから、訂正発明1は、引用発明1の第2、第4のカバーを訂正発明1でいう「リヤカバー」の端部に一体的に設けるように構成するとともに、ヒンジ部を2つの短軸を用いた周知の構造で構成することにより、結果として、フレキシブル基板の配置、空洞部の態様を、「空洞部の内径に沿って巻く」、「ヒンジ部の締結に係わる部材が存在しない」ものとしたに過ぎないものであり、当業者であれば上記刊行物1〜4に記載された発明ないし周知技術に基づいて容易に推考し得たものである。
したがって、訂正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、この訂正は、平成6年法改正前の特許法126条第3項の規定に適合しない。

(2)訂正発明2について
訂正発明2は訂正発明1の構成を引用し、該構成中のフレキシブル基板の構成をより限定したものであるが、フレキシブル基板の詳細な構成は上記刊行物2(上記3-1(2)ウ.参照)に開示されており、当該構成と訂正発明2のフレキシブル基板の間に実質的な差異はない。

したがって、訂正発明1におけるフレキシブル基板の構成を上記刊行物2に記載されたフレキシブル基板に限定して訂正発明2のように構成することは容易なことである。

以上のとおりであるから、訂正発明2は上記刊行物1〜4に記載された発明ないし周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、この訂正は、平成6年法改正前の特許法126条第3項の規定に適合しない。

4.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正発明1、2に係る訂正は、平成6年法改正前の特許法126条第1項ただし書き第一号及び第2項の規定に適合するも、上記訂正発明1、2は同条第3項の独立特許要件の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-03-31 
結審通知日 2003-04-03 
審決日 2003-04-15 
出願番号 特願平10-139531
審決分類 P 1 41・ 121- Z (H04M)
P 1 41・ 856- Z (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関川 正志川嵜 健  
特許庁審判長 佐藤 秀一
特許庁審判官 浜野 友茂
桂 正憲
登録日 2000-07-28 
登録番号 特許第3093727号(P3093727)
発明の名称 電子機器  
代理人 臼田 保伸  
代理人 鈴木 康夫  
代理人 臼田 保伸  
代理人 鈴木 康夫  

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