運営コンテンツ
広告・PR
  • 知的資産経営ポータルサイト
  • 弁理士志望者優遇求人
  • 英語が得意な方優遇求人
  • 知財業界初心者歓迎
  • 後継者・パートナー募集
  • 人材紹介業務をサポートします
運営サイト
  • ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF パテントビューロ作成のPDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て   B21D
審判 全部申し立て   B21D
審判 全部申し立て   B21D
審判 全部申し立て   B21D
審判 全部申し立て   B21D
管理番号 1114642
異議申立番号 異議2003-72729  
総通号数 65 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-08-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-07 
確定日 2005-02-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3406293号「金属環状体並びにその製造方法」の請求項1〜11に係る発明についての特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3406293号の請求項1〜8に係る発明についての特許を維持する。 
理由 第1.手続きの経緯
(1)本件特許第3406293号の請求項1〜11に係る発明についての出願は、平成12年11月29日(優先権主張平成11年12月3日)に特許出願され、平成15年3月7日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
(2)平成15年11月7日に異議申立人小寺俊英及び異議申立人前山謹秀より、平成15年10月31日に異議申立人八田利之より、平成15年11月11日に異議申立人キヤノン株式会社より、請求項1〜11に係る特許に対してそれぞれ特許異議の申立てがなされた。
(3)平成16年7月27日付けで取消しの理由が通知され、その指定期間内である平成16年10月5日に意見書及び訂正請求書が提出された。

第2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者が求めている訂正の内容は、以下のとおりである。
〈訂正事項1〉
本件特許の設定登録時の願書に添付した明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された
「【請求項1】 塑性加工された金属組織を呈しており、肉厚が0.03mm以上0.09mm以下であり、塑性加工前の肉厚に対する塑性加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、塑性加工後の硬度がHv380以上かつ500以下である金属環状体。」を
「【請求項1】 塑性加工された金属組織を呈しており、肉厚が0.03mm以上0.09mm以下であり、スピニング加工前の肉厚に対するスピニング加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、スピニング加工後の硬度がHv380以上かつ500以下である金属環状体。」と訂正する。
〈訂正事項2〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項2及び請求項3を削除する。
〈訂正事項3〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項4に記載された
「【請求項4】 軸方向に延びる継ぎ目を有しないことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の金属環状体。」を
「【請求項2】 軸方向に延びる継ぎ目を有しないことを特徴とする請求項1に記載の金属環状体。」と訂正する。
〈訂正事項4〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項5に記載された
「【請求項5】 塑性加工が可能な金属からなる有底素管又は無底素管をその軸線の回りに回転させる第一の過程と、
前記有底素管又は無底素管を回転させた状態において、その側壁に絞り加工を施し、前記側壁の肉厚を薄くし、長尺化し、前記絞り加工前の肉厚に対する前記絞り加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、前記絞り加工後の硬度がHv380以上かつ500以下になるようにする第二の過程と、
からなる金属環状体の製造方法。」を
「【請求項3】 ステンレス鋼からなる有底素管 をその軸線の回りに回転させる第一の過程と、
前記有底素管 を回転させた状態において、その側壁に回転しごき加工を施し、前記側壁の肉厚を薄くし、長尺化し、前記回転しごき加工前の肉厚に対する前記回転しごき加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、前記絞り加工後の硬度がHv380以上かつ500以下になるようにする第二の過程と、
からなる金属環状体の製造方法。」と訂正する。
〈訂正事項5〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項6に記載された
「【請求項6】 前記第二の過程の前に実施される第三の過程として焼鈍工程をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の金属環状体の製造方法。」を
「【請求項4】 前記第二の過程の前に実施される第三の過程として焼鈍工程をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の金属環状体の製造方法。」と訂正する。
〈訂正事項6〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項7に記載された
「【請求項7】 前記第二の過程の後において、前記有底素管又は無底素管の両端を突切切断する第四の過程と、
バネ性コントロールと内部応力除去のための低温焼鈍を行う第五の過程と、
をさらに備えることを特徴とする請求項5または6に記載の金属環状体の製造方法。」を
「【請求項5】 前記第二の過程の後において、前記有底素管 の両端を突切切断する第四の過程と、
バネ性コントロールと内部応力除去のための低温焼鈍を行う第五の過程と、
をさらに備えることを特徴とする請求項3または4に記載の金属環状体の製造方法。」と訂正する。
〈訂正事項7〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項8を削除する。
〈訂正事項8〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項9に記載された
「【請求項9】 請求項1乃至4の何れか一項に記載された金属環状体または請求項5乃至8の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなる電子写真装置用感光体。」を
「【請求項6】 電子写真装置用感光体の一部を構成する円筒フィルムであって、請求項1または2に記載された金属環状体又は請求項3乃至5の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなる円筒フィルム。」と訂正する。
〈訂正事項9〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項10に記載された
「【請求項10】 請求項1乃至4の何れか一項に記載された金属環状体または請求項5乃至8の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなる電子写真装置用定着ベルト。」を
「【請求項7】 電子写真装置用熱定着ロールの一部を構成する定着用ベルトであって、請求項1または2に記載された金属環状体又は請求項3乃至5の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなる定着ベルト。」と訂正する。
〈訂正事項10〉
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項11に記載された
「【請求項11】 軸線が同一方向に向くように配置された少なくとも二つのローラー の外周に掛け渡されたベルト からなるローラー組立体であって、
前記ベルトは請求項1乃至4の何れか一項に記載された金属環状体または請求項5乃至8の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなるものであるローラー組立体。」を
「【請求項8】 軸線が相互に平行になるように配置された少なくとも二つのローラーと、前記ローラーの外周に掛け渡されたベルトと、からなるローラー組立体であって、前記ベルトは請求項1または2に記載された金属環状体または請求項3乃至5の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなるものであるローラー組立体。」と訂正する。
〈訂正事項11〉
本件特許明細書の段落【0014】に記載された
「【課題を解決するための手段】 この目的を達成するため、本発明は、塑性加工された金属組織を呈しており、肉厚が0.03mm以上0.09mm以下であり、塑性加工前の肉厚に対する塑性加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、塑性加工後の硬度がHv380以上かつ500以下である金属環状体を提供する。」を
「【課題を解決するための手段】 この目的を達成するため、本発明は、塑性加工された金属組織を呈しており、肉厚が0.03mm以上0.09mm以下であり、スピニング加工前の肉厚に対するスピニング加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、スピニング加工後の硬度がHv380以上かつ500以下である金属環状体を提供する。」と訂正する。
〈訂正事項12〉
本件特許明細書の段落【0016】に記載された
「上述の金属環状体は、軸方向に延びる継ぎ目を有するものも有しないものも含まれるが、請求項4に記載されているように、金属環状体は、軸方向に延びる継ぎ目を有しないものであることが好ましい。」を
「上述の金属環状体は、軸方向に延びる継ぎ目を有するものも有しないものも含まれるが、 金属環状体は、軸方向に延びる継ぎ目を有しないものであることが好ましい。」と訂正する。
〈訂正事項13〉
本件特許明細書の段落【0019】、【0020】の記載を削除する。
〈訂正事項14〉
本件特許明細書の段落【0021】に記載された
「本発明は、さらに、塑性加工が可能な金属からなる有底素管又は無底素管をその軸線の回りに回転させる第一の過程と、前記有底素管又は無底素管を回転させた状態において、その側壁に絞り加工を施し、前記側壁の肉厚を薄くし、長尺化し、前記絞り加工前の肉厚に対する前記絞り加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、前記絞り加工後の硬度がHv380以上かつ500以下になるようにする第二の過程と、からなる金属環状体の製造方法を提供する。」を
「本発明は、さらに、ステンレス鋼からなる有底素管 をその軸線の回りに回転させる第一の過程と、前記有底素管 を回転させた状態において、その側壁に回転しごき加工を施し、前記側壁の肉厚を薄くし、長尺化し、前記回転しごき加工前の肉厚に対する前記回転しごき加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、前記絞り加工後の硬度がHv380以上かつ500以下になるようにする第二の過程と、からなる金属環状体の製造方法を提供する。」と訂正する。
〈訂正事項15〉
本件特許明細書の段落【0022】に記載された
「すなわち、上述の金属環状体の製造方法によれば、有底又は無底金属素管を回転塑性加工(スピニング加工)することにより、感光体又は定着用ロールとして使用可能な薄肉金属環状体を形成することができる。ここで、有底金属素管は温間または冷間絞り加工により、無底円筒素管は薄板の溶接により、それぞれ得ることができる。焼鈍過程を施すことにより硬度を調整した後、肉厚0.03乃至0.09mmまでスピニング加工し、さらに、必要に応じて、低温焼鈍する。このようにして得られた金属環状体は強靱であり、疲労強度が高く、かつ、熱伝導性が良く、感光体及び定着用金属円筒として優れたものである。」を
「すなわち、上述の金属環状体の製造方法によれば、有底金属素管を回転塑性加工(スピニング加工)することにより、感光体又は定着用ロールとして使用可能な薄肉金属環状体を形成することができる。ここで、有底金属素管は温間または冷間絞り加工により 得ることができる。焼鈍過程を施すことにより硬度を調整した後、肉厚0.03乃至0.09mmまでスピニング加工し、さらに、必要に応じて、低温焼鈍する。このようにして得られた金属環状体は強靱であり、疲労強度が高く、かつ、熱伝導性が良く、感光体及び定着用金属円筒として優れたものである。」と訂正する。
〈訂正事項16〉
本件特許明細書の段落【0030】に記載された
「本発明に係る金属環状体の製造方法は、前記第三の過程の後において、前記有底素管又は無底素管の両端を突切切断する第四の過程と、バネ性コントロールと内部応力除去のための低温焼鈍を行う第五の過程と、をさらに備えることが好ましい。」を
「本発明に係る金属環状体の製造方法は、前記第二の過程の後において、前記有底素管 の両端を突切切断する第四の過程と、バネ性コントロールと内部応力除去のための低温焼鈍を行う第五の過程と、をさらに備えることが好ましい。」と訂正する。
〈訂正事項17〉
本件特許明細書の段落【0031】に記載された
「塑性加工が可能な金属としては、ステンレス鋼、圧延ニッケル、ニッケル合金、チタニウム、チタニウム合金、タンタル、モリブデン、ハステロイ、パーマロイ、マルエージング鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、純鉄及び鉄鋼の何れかを選択することができる。」を
「本発明に係る金属環状体の製造方法においては、ステンレス鋼からなる有底素管を用いたが、ステンレス鋼の他に、圧延ニッケル、ニッケル合金、チタニウム、チタニウム合金、タンタル、モリブデン、ハステロイ、パーマロイ、マルエージング鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、純鉄及び鉄鋼の何れかを選択することができる。」と訂正する。
〈訂正事項18〉
本件特許明細書の段落【0035】に記載された
「前述の金属環状体または前述の方法により製造された金属環状体は、例えば、電子写真装置用感光体または電子写真装置用定着ベルトとして使用することができる。」を
「前述の金属環状体または前述の方法により製造された金属環状体は、例えば、電子写真装置用感光体の一部を構成する円筒フィルムまたは電子写真装置用熱定着ロールの一部を構成する定着ベルトとして使用することができる。」と訂正する。
〈訂正事項19〉
本件特許明細書の段落【0036】に記載された
「本発明は、さらに、軸線が同一方向に向くように配置された少なくとも二つのローラーの 外周に掛け渡されたベルト からなるローラー組立体であって、前記ベルトは前述の金属環状体または前述の方法により製造された金属環状体からなるものであるローラー組立体を提供する。」を
「本発明は、さらに、軸線が相互に平行になるように配置された少なくとも二つのローラーと、前記ローラーの外周に掛け渡されたベルトと、からなるローラー組立体であって、前記ベルトは前述の金属環状体または前述の方法により製造された金属環状体からなるものであるローラー組立体を提供する。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、拡張・変更の存否
訂正事項1は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3等の記載に基づき、「塑性加工」を「スピニング加工」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項2、7は、本件特許明細書の特許請求の範囲の一部の請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項3、5は、訂正事項2の請求項の削除に伴って請求項を繰り上げるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項4は、訂正事項2の請求項の削除に伴って請求項を繰り上げるとともに、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項8、実施例1等の記載に基づき、「塑性加工が可能な金属」を「ステンレス鋼」に、「有底素管又は無底素管」を「有底素管」に、それぞれ限定するとともに、「絞り加工」を本件特許明細書の図2の記載に整合する「回転しごき加工」に訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項6は、訂正事項2の請求項の削除に伴って請求項を繰り上げるとともに、「有底素管又は無底素管」を「有底素管」に限定するものであるから、明りょうでない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項8は、訂正事項2、7の請求項の削除に伴って請求項を繰り上げるとともに、「電子写真装置用感光体」を「電子写真装置用感光体の一部を構成する円筒フィルム」に訂正して記載不備を解消するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項9は、訂正事項2、7の請求項の削除に伴って請求項を繰り上げるとともに、「電子写真装置用定着ベルト」を「電子写真装置用熱定着ロールの一部を構成する定着用ベルト」に訂正して記載不備を解消するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項10は、訂正事項2、7の請求項の削除に伴って請求項を繰り上げるとともに、「軸線が同一方向に向くように配置された」を本件特許明細書の図11等の記載に整合する「軸線が相互に平行になるように配置された」に訂正するとともに、ローラー組立体がそれに不可欠な「二つのローラー」を備えることを明らかにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
訂正事項11〜19は、訂正事項1〜10と整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。
そして、各訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項、並びに、同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

第3.特許異議申立てについて
1.異議申立ての理由の概要
(1)申立人小寺俊英は、証拠方法として、以下に示す甲第1〜16号証を提示し、以下の理由により、請求項1〜11に係る特許は取り消すべき旨主張している。
(i)特許法第29条第2項違反
請求項1に係る発明は甲第1〜5号証記載の発明に基づいて、請求項2に係る発明は甲第1、5〜7号証記載の発明に基づいて、請求項3〜5に係る発明は甲第2号証記載の発明に基づいて、請求項6に係る発明は甲第5号証記載の発明に基づいて、請求項7に係る発明は甲第8〜10号証記載の発明に基づいて、請求項8に係る発明は甲第11〜13号証記載の発明に基づいて、請求項9に係る発明は甲第14号証記載の発明に基づいて、請求項10に係る発明は甲第15号証記載の発明に基づいて、請求項11に係る発明は甲16号証記載の発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものである。
(ii)特許法第36条第6項第1号違反
請求項1、2及びそれらを引用する請求項4、9、10に係る発明は詳細な説明に記載されていない。
(iii)特許法第36条第4項違反
段落【0020】、【0024】の記載では、当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。
[証拠方法]
甲第1号証:特開昭60-3682号公報
甲第2号証:特開昭57-137032号公報
甲第3号証:特開平8-71674号公報
甲第4号証:特開昭57-60023号公報
甲第5号証:ステンレス協会編、ステンレス鋼便覧第3版、日刊工業新聞社、1997年9月29日初版第2刷、P617、964、965
甲第6号証:ステンレス鋼便覧、日刊工業新聞社、昭和55年12月25日初版第8刷、P685、686
甲第7号証:平浩著、初歩と実用のステンレス講座、日本工業出版株式会社、昭和45年11月20日第2版、P109
甲第8号証:特開昭57-14430号公報
甲第9号証:特開昭56-123583号公報
甲第10号証:藤田輝夫著、ステンレス鋼の熱処理、日刊工業新聞社、昭和54年11月20日6版、P182、183
甲第11号証:日本塑性加工学会編、スピニング加工技術、日刊工業新聞社、昭和59年6月15日初版第1刷、第6章、表6.1
甲第12号証:特開昭52-68849号公報
甲第13号証:特開平7-51733号公報
甲第14号証:特開昭64-71531号公報
甲第15号証:特開平10-10893号公報
甲第16号証:機械工学便覧 エンジニアリング編 C5 情報機器・システム、社団法人日本機械学会、1989年5月15日初版1刷、C5-69〜70

(2)申立人前山謹秀は、証拠方法として以下に示す甲第1〜9号証を提示し、以下の理由により、請求項1〜11に係る特許は取り消すべき旨主張している。
(i)特許法第29条の2違反
請求項1〜4に係る発明は甲第1号証記載の発明と、請求項9〜11に係る発明は甲第4号証記載の発明と、それぞれ同一である。
(ii)特許法第36条第6項第1号違反
請求項1、2、4〜11に係る発明は詳細な説明に記載されていない。
(iii)特許法第36条第6項第2号違反
請求項11の記載は明確でない。
(iv)特許法第36条第4項違反
段落【0020】、【0024】、【0031】、【0093】の記載では、当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。
[証拠方法]
甲第1号証:特開2001-330081号公報
甲第2号証:ステンレス鋼データブック(家電編)、ステンレス協会、平成8年5月、P29、35
甲第3号証:ステンレス鋼便覧初版、日刊工業新聞社、昭和55年12月25日初版第8刷、P685、686、表1.3
甲第4号証:特開2001-74173号公報
甲第5号証:ステンレス協会編、ステンレス鋼便覧第3版、日刊工業新聞社、1997年9月29日初版第2刷、P184、963、964
甲第6号証:矢島悦次郎、市川理衛、古沢浩一共著、若い技術者のための機械・金属材料、丸善株式会社、昭和46年10月20日、P56
甲第7号証:特開平10-10893号公報
甲第8号証:特願平11-376193号の願書に最初に添付した明細書及び図面
甲第9号証:平成15年1月20日提出の意見書

(3)申立人八田利之は、証拠方法として以下に示す甲第1〜9号証を提示し、以下の理由により、請求項1〜11に係る特許は取り消すべき旨主張している。
(i)特許法第29条第1項第3号違反
請求項1、4に係る発明は甲第1、2号証記載の発明であり、また、請求項3、5に係る発明は甲第1号証記載の発明である。
(ii)特許法第29条第2項違反
請求項1に係る発明は甲第1〜5号証記載の発明に基づいて、請求項3、5、7に係る発明は甲第1、5号証記載の発明に基づいて、請求項4に係る発明は甲第1、2号証記載の発明に基づいて、請求項6、8に係る発明は甲第1、6号証記載の発明に基づいて、請求項9〜11に係る発明は甲第1〜6号証記載の発明及び甲第7〜10号証記載の発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものである。
(iii)特許法第36条第4項、第6項第2号違反
請求項1、3、4、9〜11の発明特定事項が不明確であり、かつ当業者が容易に実施できる程度に記載されているとはいえない。
(iv)特許法第36条第6項第1号違反
請求項2〜4、9〜11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
[証拠方法]
甲第1号証:特開昭58-84619号公報
甲第2号証:特表平11-503490号公報
甲第3号証:R&D神戸製鋼技報、Vol.41、No.3、1991年、135頁
甲第4号証:西畑三樹男著、精密機器用金属材料、8.2プリンタ用極薄ステンレス鋼ベルト、日刊工業新聞社、昭和60年2月25日初版1刷、第127頁1〜12行
甲第5号証:ステンレス鋼便覧、日刊工業新聞社、昭和51年11月30日5版、第159頁18〜20行、第690頁
甲第6号証:葉山益次郎著、回転塑性加工学、昭和56年4月1日第1版第1刷、第513頁表13.5、第514頁表13.6、第517頁下から4行〜第518頁1行、同16〜18行、第521頁1〜7行
甲第7号証:特開平5-289536号公報
甲第8号証:特開平7-49625号公報
甲第9号証:特開平10-10893号公報
甲第10号証:特開平9-34286号公報

(4)申立人キヤノン株式会社は、証拠方法として以下に示す甲第1〜9号証を提示し、以下の理由により、請求項1〜11に係る特許は取り消すべき旨主張している。
(i)特許法第29条第1項第3号違反
請求項1〜8に係る発明は甲第1号証記載の発明である。
(ii)特許法第29条第2項違反
請求項1、5〜8に係る発明は甲第1、2号証記載の発明に基づいて、請求項2〜4に係る発明は甲第1〜3号証記載の発明に基づいて、請求項9に係る発明は甲第6号証記載の発明及び甲第1〜3号証記載の発明に基づいて、請求項10に係る発明は甲第7号証記載の発明及び甲第1〜3号証記載の発明に基づいて、請求項11に係る発明は甲第8号証記載の発明及び甲第1〜3号証記載の発明に基づいて、それぞれ当業者が容易に発明をすることができたものである。
(iii)特許法第36条4項、第6項第1号違反
請求項1、2、5の発明特定事項は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、また、実施可能要件を満たしていない。
[証拠方法]
甲第1号証:内山幹男編、塑性と加工、社団法人日本塑性加工学会、1992年8月、第33巻、第379号、927〜928頁、977〜982頁
甲第2号証:ステンレス協会編、ステンレス鋼便覧第3版、日刊工業新聞社、1995年1月24日初版1刷、614〜617頁、図4.97
甲第3号証:日本機械学会論文集(C編)、昭和63年8月、第54巻、第504号、1920頁
甲第4号証:特開昭58-84619号公報
甲第5号証:特開昭49-83366号公報
甲第6号証:特開平8-146704号公報
甲第7号証:特開平10-10893号公報
甲第8号証:特開平4-122951号公報
甲第9号証:日本金属学会編、「金属便覧(改訂5版)」丸善株式会社、平成2年3月31日発行、1114頁(表17-1加工法の分類)

2.本件発明
上記第2のとおり訂正は認められるから、本件特許の請求項1〜8に係る発明(以下それぞれを、「本件発明1」等という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】 塑性加工された金属組織を呈しており、肉厚が0.03mm以上0.09mm以下であり、スピニング加工前の肉厚に対するスピニング加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、スピニング加工後の硬度がHv380以上かつ500以下である金属環状体。
【請求項2】 軸方向に延びる継ぎ目を有しないことを特徴とする請求項1に記載の金属環状体。
【請求項3】 ステンレス鋼からなる有底素管 をその軸線の回りに回転させる第一の過程と、
前記有底素管を回転させた状態において、その側壁に回転しごき加工を施し、前記側壁の肉厚を薄くし、長尺化し、前記回転しごき加工前の肉厚に対する前記回転しごき加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、前記絞り加工後の硬度がHv380以上かつ500以下になるようにする第二の過程と、
からなる金属環状体の製造方法。
【請求項4】 前記第二の過程の前に実施される第三の過程として焼鈍工程をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の金属環状体の製造方法。
【請求項5】 前記第二の過程の後において、前記有底素管の両端を突切切断する第四の過程と、
バネ性コントロールと内部応力除去のための低温焼鈍を行う第五の過程と、
をさらに備えることを特徴とする請求項3または4に記載の金属環状体の製造方法。
【請求項6】 電子写真装置用感光体の一部を構成する円筒フィルムであって、請求項1または2に記載された金属環状体又は請求項3乃至5の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなる円筒フィルム。
【請求項7】 電子写真装置用熱定着ロールの一部を構成する定着用ベルトであって、請求項1または2に記載された金属環状体又は請求項3乃至5の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなる定着ベルト。
【請求項8】 軸線が相互に平行になるように配置された少なくとも二つのローラーと、前記ローラーの外周に掛け渡されたベルトと、からなるローラー組立体であって、前記ベルトは請求項1または2に記載された金属環状体または請求項3乃至5の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなるものであるローラー組立体。

3.特許法第36条第4項、第6項第1号、第6項第2号違反について
上記第2の訂正により、特許法第36条第4項、第6項第1号、第6項第2号違反に関する記載不備は解消している。

4.特許法第29条の2違反について
(1)先願発明
特開2001-330081号公報(申立人前山謹秀の提示した甲第1号証)には、
「塑性加工が可能なSUS等の金属からなる軸線方向に継ぎ目のない円筒状素管を、しごき加工によって厚さ約0.03〜0.05mmまで薄肉化した後、当該薄肉化工程の前後または途中で内部応力を除去する等の目的で焼鈍処理を行い、薄肉化円筒状素管を所望の幅に切断して、感光体ドラム及びベルト、定着器や駆動伝達機構の摩擦伝導体に使用するのに好適な金属製無端ベルトを製造する」との発明(以下、「先願発明1」という。)が、
特開2001-74173号公報(申立人前山謹秀の提示した甲第4号証)には、
「SUS等の金属板を深絞りしたカップ素管をしごき加工して略0.03〜0.15mmの厚さに形成して、複写機やプリンタ等の感光体ドラム、定着器等に使用するのに好適な金属製中空筒状体を製造する」との発明(以下、「先願発明2」という。)が、
それぞれ記載されていると認められる。

(2)対比・判断
本件各発明と上記先願発明1、2とを対比すると、両者は、少なくとも下記の点で相違する。
〈相違点〉前者は、スピニング加工後の硬度がHv380以上かつ500以下であるのに対して、後者は、そのように特定されていない点。
そして、後者が当然に上記相違点に係る事項を備えていることを裏付ける証拠は何ら示されていない。
したがって、本件各発明は、先願発明1、2と同一であるとすることはできない。

5.特許法第29条第1項第3号、第2項違反について
(1)甲各号証記載の発明(事項)
甲各号証には、以下の発明(事項)が記載されていると認められる。
・特開昭60-3682号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第1号証):定着ロールを薄肉の金属材料円筒部材で形成すること。
・特開昭57-137032号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第2号証):素管を回転絞り加工した後、しごき加工を行って肉厚0.01mm前後のパイプを製造すること。
・特開平8-71674号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第3号証):鋼板を2段の絞り加工、その後3回のしごき加工を行って厚み0.065mmの缶を製造すること。
・特開昭57-60023号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第4号証):プリフォーム円筒を肉厚減少率60〜80%のスピニング成形した後、残留応力除去のための熱処理を施すこと。
・ステンレス協会編、ステンレス鋼便覧第3版、日刊工業新聞社、1997年9月29日初版第2刷、P617、964、965(申立人小寺俊英の提示した甲第5号証、申立人キャノン株式会社の提示した甲第2号証):SUS304の冷間圧延率が0〜70%の場合、Hvが約150〜450であること。(以下、「刊行物4記載の発明」という。)
・ステンレス鋼便覧、日刊工業新聞社、昭和55年12月25日初版第8刷、P685、686(申立人小寺俊英の提示した甲第6号証):固溶化熱処理(焼鈍)によって加工硬化の影響を取り去ること。
・平浩著、初歩と実用のステンレス講座、日本工業出版株式会社、昭和45年11月20日第2版、P109(申立人小寺俊英の提示した甲第7号証):固溶化熱処理(焼鈍)で加工硬化の影響を取り去ること。
・特開昭57-14430号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第8号証):板金をしごきスピニング加工して円筒面を有する成型体とした後、切断して環状金属帯を製造すること。
・特開昭56-123583号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第9号証):厚み0.05〜0.2mmの金属薄板からなる加熱定着装置の加圧ローラ。
・藤田輝夫著、ステンレス鋼の熱処理、日刊工業新聞社、昭和54年11月20日6版、P182、183(申立人小寺俊英の提示した甲第10号証):ステンレス鋼を冷間加工により硬化した後、低温焼鈍によって弾性限を向上し、ばね特性をださせること。
・日本塑性加工学会編、スピニング加工技術、日刊工業新聞社、昭和59年6月15日初版第1刷、第6章、表6.1(申立人小寺俊英の提示した甲第11号証):スピニングに用いる材料。
・特開昭52-68849号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第12号証):円筒状素管を2回のしごきスピニング加工して肉厚を0.5mmとすること。
・特開平7-51733号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第13号証):管状素材を温間引抜き後焼鈍してHv330未満、肉厚0.05mm以下とすること。
・特開昭64-71531号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第14号証):薄肉金属管を複写機の感光ドラムに使用すること。
・特開平10-10893号公報(申立人小寺俊英の提示した甲第15号証、申立人八田利之の提示した甲第9号証、申立人キヤノン株式会社の提示した甲第7号証):電子写真装置の定着用ベルトに薄肉の金属チューブを使用すること。
・機械工学便覧 エンジニアリング編 C5 情報機器・システム、社団法人日本機械学会、1989年5月15日初版1刷、C5-69〜70(申立人小寺俊英の提示した甲第16号証、申立人八田利之の提示した甲第9号証、申立人キヤノン株式会社の提示した甲第7号証):ローラー組立体。
・特開昭58-84619号公報(申立人八田利之の提示した甲第1号証、申立人キヤノン株式会社の提示した甲第4号証):肉厚0.150mmの円筒状素管を、絞り加工し、しごき加工し、切断した、肉厚0.050mm(肉厚減少率67%)の管状部材。(以下、「刊行物3記載の発明」という。)
・特表平11-503490号公報(申立人八田利之の提示した甲第2号証):鋼スラブを熱間圧延して厚さ3mm未満の鋼板/鋼帯とした後、冷間圧延、再結晶焼鈍、冷間圧延して缶用鋼板/鋼帯とし、その後絞り加工及びしごき加工を行って肉厚0.07mm以下の缶を製造すること。
・R&D神戸製鋼技報、Vol.41、No.3、1991年、135頁(申立人八田利之の提示した甲第3号証):板厚0.03mm以上のスチールベルトを複写機、プリンターなどのベルトに使用すること。
・西畑三樹男著、精密機器用金属材料 8.2プリンタ用極薄ステンレス鋼ベルト、日刊工業新聞社、昭和60年2月25日初版1刷、第127頁1〜12行(申立人八田利之の提示した甲第4号証):板厚0.05〜0.08mmのステンレス鋼からなるプリンタ用ベルト
・ステンレス鋼便覧、日刊工業新聞社、昭和51年11月30日5版、第159頁18〜20行、第690頁(申立人八田利之の提示した甲第5号証):ステンレス鋼の冷間圧延率が高いほどHvが高いこと、及び、冷間加工後の再加熱で応力緩和すること。(以下、「刊行物5記載の発明」という。)
・葉山益次郎著、回転塑性加工学、昭和56年4月1日第1版第1刷、第513頁表13.5、第514頁表13.6、第517頁下から4行〜第518頁1行、銅16〜18行、第521頁1〜7行(申立人八田利之の提示した甲第6号証):ステンレス鋼を中間焼鈍後、絞りスピニングすること。
・特開平5-289536号公報(申立人八田利之の提示した甲第7号証):ポリエステルフィルムに感光層を塗布したベルト状感光体。
・特開平7-49625号公報(申立人八田利之の提示した甲第8号証):金属環状体からなる定着ベルト。
・特開平9-34286号公報(申立人八田利之の提示した甲第10号証):金属環状体からなる定着用ベルト兼ローラー組立体。
・内山幹男編、塑性と加工、社団法人日本塑性加工学会、1992年8月、第33巻、第379号、927〜928頁、977〜982頁(申立人キヤノン株式会社の提示した甲第1号証):肉厚0.15mmのSUS304の継目なし引抜き管を、焼鈍し、3段の口絞り加工を行って肉厚0.09mmとし、その後5段の回転しごき加工を行って肉厚0.008mmとし(第2段目の回転しごき加工後の肉厚は0.038mm)、切断してなる、機械部品等に使用する微細管状部品の製造方法、及び、当該方法で製造された微細管状部品。(以下、「刊行物1記載の発明」という。)
・日本機械学会論文集(C編)、昭和63年8月、第54巻、第504号、1920頁(申立人キヤノン株式会社の提示した甲第3号証):板厚0.24mmのアルミニウムに軸対称深絞り及びしごき加工を行って、肉厚0.057mm(肉厚減少率76%)とした後、350℃で焼鈍すること。(以下、「刊行物2記載の発明」という。)
・特開昭58-84619号公報(申立人キヤノン株式会社の提示した甲第4号証):肉厚0.150mmの円筒状素管を絞り加工、しごき加工、切断して肉厚0.050mm(肉厚減少率67%)の管状部材を製造すること。
・特開昭49-83366号公報(申立人キヤノン株式会社の提示した甲第5号証):NiCr合金複合板を加工率90%までのスリーブ加工を行い厚さ0.05mm以上の種々の厚さ、Hv340以下とすること。
・特開平8-146704号公報(申立人キヤノン株式会社の提示した甲第6号証):導電性支持体上に光導電層を設けた感光体ドラム。
・特開平10-10893号公報(申立人キヤノン株式会社の提示した甲第7号証):電子写真装置の定着用ベルトに薄肉の金属チューブを使用すること。
・特開平4-122951号公報(申立人キヤノン株式会社の提示した甲第8号証):電子写真装置のローラー組立体のベルト。
・日本金属学会編、金属便覧(改訂5版)、丸善株式会社、平成2年3月31日、1114頁(表17-1加工法の分類)(申立人キヤノン株式会社の提示した甲第9号証):塑性加工には、スピニング以外にすえ込み、スエーニング、引き抜き、深絞り等多種あること。

(2)対比・判断
(i)本件発明1について
本件発明1と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、「塑性加工された金属組織を呈しており、スピニング加工された金属環状体」で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点1〉前者は、肉厚が0.03mm以上0.09mm以下であり、スピニング加工前の肉厚に対するスピニング加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であるのに対して、後者は、肉厚が0.008mmであり、スピニング加工前の肉厚に対するスピニング加工後の肉厚の減少率が91.1%であって91%以下ではない点。
〈相違点2〉前者は、スピニング加工後の硬度がHv380以上かつ500以下であるのに対して、後者は、スピニング加工後の硬度が明らかではない点。
また、本件発明1と刊行物2、3記載の発明とを対比すると、両者は、「塑性加工された金属組織を呈しており、肉厚が0.03mm以上0.09mm以下であり、スピニング加工前の肉厚に対するスピニング加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下である金属環状体」で一致し、上記相違点2で相違する。
そこで、まず上記相違点2について検討する。
刊行物4には、SUS304を略60〜70%の冷間圧延率で冷間圧延すると本件発明1と同程度のHvとなることが示され、また、刊行物2にもステンレス鋼の種類、冷間圧延率を選択すれば本件発明1と同程度のHvとなることが示されている。しかしながら、肉厚0.09mm以下の範囲では、同じ肉厚(すなわち同じ肉厚減少率)であっても、引き抜き加工では良好な硬度が得られないのに対して、スピニング加工では良好な硬度が得られている(本件訂正明細書の段落【0023】、【0024】参照)。そうすると、刊行物4、5の記載内容から、スピニング加工を施せばHvが増大するであろうとは言い得ても、肉厚減少率が40〜91%のスピニング加工によって、例えば冷間圧延率が略60〜70%のSUS304に対する冷間圧延により得られる硬度特性と同様の硬度特性が得られるとまでは言い得ない。そして、他に加工と硬度特性との関連について示す証拠は見出し得ない。
一方、本件発明1は、相違点2に係る事項をその発明特定事項とすることにより、熱容量が小さく、かつ、機械強度が高いという優れた作用効果を奏している。
したがって、残余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、刊行物1〜5及び異議申立人小寺俊英、八田利之及びキヤノン株式会社の提示した他の甲各号証記載の発明であるとも、また、それら発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(ii)本件発明3について
本件発明3と刊行物1〜3記載の発明とを対比すると、両者は、少なくとも相違点2の点で相違することは明らかである。
そうすると、本件発明3も、本件発明1と同様の理由から、刊行物1〜5及び異議申立人小寺俊英、八田利之及びキヤノン株式会社の提示した他の甲各号証記載の発明であるとも、また、それら発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(iii)本件発明2、4〜8について
本件発明2、4〜8は、本件発明1又は本件発明3の発明特定事項すべてを、それらの発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明2、4〜8も、本件発明1又は本件発明3と同様の理由から、刊行物1〜5及び異議申立人小寺俊英、八田利之及びキヤノン株式会社の提示した他の甲各号証記載の発明であるとも、また、それら発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

6.むすび
以上のとおりであるから、申立人小寺俊英、前山謹秀、八田利之及びキヤノン株式会社の提示した理由及び証拠方法によっては、本件発明1〜8についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜8についての特許を取り消すべき理由を発見しな。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
金属環状体並びにその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 塑性加工された金属組織を呈しており、肉厚が0.03mm以上0.09mm以下であり、スピニング加工前の肉厚に対するスピニング加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、スピニング加工後の硬度がHv380以上かつ500以下である金属環状体。
【請求項2】 軸方向に延びる継ぎ目を有しないことを特徴とする請求項1に記載の金属環状体。
【請求項3】 ステンレス鋼からなる有底素管をその軸線の回りに回転させる第一の過程と、
前記有底素管を回転させた状態において、その側壁に回転しごき加工を施し、前記側壁の肉厚を薄くし、長尺化し、前記回転しごき加工前の肉厚に対する前記回転しごき加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、前記絞り加工後の硬度がHv380以上かつ500以下になるようにする第二の過程と、からなる金属環状体の製造方法。
【請求項4】 前記第二の過程の前に実施される第三の過程として焼鈍工程をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の金属環状体の製造方法。
【請求項5】 前記第二の過程の後において、前記有底素管の両端を突切切断する第四の過程と、
バネ性コントロールと内部応力除去のための低温焼鈍を行う第五の過程と、
をさらに備えることを特徴とする請求項3または4に記載の金属環状体の製造方法。
【請求項6】 電子写真装置用感光体の一部を構成する円筒フィルムであって、請求項1または2に記載された金属環状体又は請求項3乃至5の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなる円筒フィルム。
【請求項7】 電子写真装置用熱定着ロールの一部を構成する定着ベルトであって、請求項1または2に記載された金属環状体又は請求項3乃至5の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなる定着ベルト。
【請求項8】 軸線が相互に平行になるように配置された少なくとも二つのローラーと、前記ローラーの外周に掛け渡されたベルトと、からなるローラー組立体であって、前記ベルトは請求項1または2に記載された金属環状体又は請求項3乃至5の何れか一項に記載の方法により製造された金属環状体からなるものであるローラー組立体。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄肉の金属環状体及びその製造方法に関し、特に、電子写真式プリンターや複写機において、感光体又は定着用ローラとして使用可能な金属環状体及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電子写真式プリンターや複写機の感光体及び定着用ドラムのフィルム材質として、例えば、特開平10-10893号公報においては、有機系材料としてポリイミド、無機系材料として鉄、アルミニウム、ステンレス、ニッケル等の金属が挙げられている。
【0003】
しかしながら、実用厚さの0.03乃至0.20mmの範囲内において使用されている材料は、一般的には、ポリイミドフィルムとニッケルフィルムだ
けである。この場合、ニッケルフィルムは電鋳法で作られている。
【0004】
一般に、電子写真式プリンターや複写機の使用電力の80%は定着部で消費されると言われており、しかも、定着用ローラ又は定着用フィルムをどのような材料で作るかによって電力消費量は大きく変わる。
【0005】
例えば、熱伝導率が上記金属の1/510乃至1/40と低い有機系材料のポリイミドを使用すれば、定着用ローラ又は定着用フィルムが作動可能の状態になるまでの加熱時間が長くなる。この加熱時間が、プリンター又は複写機のスイッチをオンにしてからコピー開始可能になるまでの待ち時間である。使用者の心理としては、複写機又はプリンターが早く作動可能の状態になることを望むことから、複写機又はプリンターの未使用時においても、定着用ローラ又は定着用フィルムを予熱しておくこととなり、結局、電力消費量が大きくなる。
【0006】
一方、熱伝導率がポリイミドの210倍も大きいニッケルを定着用フィルムとして使用すれば、定着用フィルムが作動可能の状態になるまでの加熱時間が短くなり、予熱を行う必要もなく、プリンター又は複写機のスイッチをオンにすれば、瞬時にコピー開始が可能となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このように、ニッケルフィルムを定着用フィルムとして使用することにより電力消費量を少なくすることが可能であるが、従来のニッケルフィルムの製造方法には種々の問題があった。
【0008】
前述のように、厚さ0.03乃至0.20mmのニッケルフィルムは電鋳法によりつくられる。すなわち、ニッケルイオンを電解析出させてつくられるので、その金属組織は、図7に示すように、柱状晶組織となり、機械的な繰り返し応力に対して弱いという欠点を有する。また、疲労試験によれば、その寿命は数万回転から数百万回転の範囲であり、寿命にかなりのバラツキが見られる。
【0009】
特に、電鋳法によりつくられたニッケルフィルムは200℃以上の高温域においては極端な熱脆化が見られるため、熱定着用フィルムとしては不向きである。
【0010】
更に、電鋳法によれば、単一金属組成の金属イオンの電解析出は容易であるが、ステンレスのような合金の電解析出は不可能に近い。
【0011】
金属円筒フィルムの別の製造方法として、厚さ0.03乃至0.20mmの極薄肉板を丸めて円筒状に溶接し、金属円筒フィルムに加工することが提案されている。この方法によれば、金属円筒フィルムの材質としては任意の金属を用いることができる。
【0012】
しかしながら、この方法においては、溶接部のビード処理に起因して、さらには、溶接部が金属組織的な欠陥を有することに起因して、機械的強度の不足や円筒形状の不均一という問題があり、また、薄肉同士を突き合わせ溶接して円筒形状にするため、かなりの熟練を要し、かつ、時間もかかることから量産性及びコストの上で大きな問題となり、実用化されていない。
【0013】
本発明は、以上のような従来の金属円筒フィルムの製造方法における問題点に鑑みてなされたものであり、十分な機械的強度及び寿命を有し、かつ、量産に適した金属円筒フィルムその他の金属環状体の製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するため、本発明は、塑性加工された金属組織を呈しており、肉厚が0.03mm以上0.09mm以下であり、スピニング加工前の肉厚に対するスピニング加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、スピニング加工後の硬度がHv380以上かつ500以下である金属環状体を提供する。
【0015】
ここに、金属環状体とは、金属からなり、軸方向と垂直な方向における断面が閉断面であり、かつ、ループ形状をなす全てのものを指す。環状体の代表的なものは円筒である。また、ベルト状のものも環状体に含まれる。
【0016】
上述の金属環状体は、軸方向に延びる継ぎ目を有するものも有しないものも含まれるが、金属環状体は、軸方向に延びる継ぎ目を有しないものであることが好ましい。
【0017】
【0018】
【0019】(削除)
【0020】(削除)
【0021】
本発明は、さらに、ステンレス鋼からなる有底素管をその軸線の回りに回転させる第一の過程と、前記有底素管を回転させた状態において、その側壁に回転しごき加工を施し、前記側壁の肉厚を薄くし、長尺化し、前記回転しごき加工前の肉厚に対する前記回転しごき加工後の肉厚の減少率が40%以上かつ91%以下であり、前記絞り加工後の硬度がHv380以上かつ500以下になるようにする第二の過程と、からなる金属環状体の製造方法を提供する。
【0022】
すなわち、上述の金属環状体の製造方法によれば、有底金属素管を回転塑性加工(スピニング加工)することにより、感光体又は定着用ロールとして使用可能な薄肉金属環状体を形成することができる。有底金属素管は温間又は冷間絞り加工により得ることができる。焼鈍過程を施すことにより硬度を調整した後、肉厚0.03mm乃至0.09mmまでスピニング加工し、さらに、必要に応じて、低温焼鈍する。このようにして得られた金属環状体は強靱であり、疲労強度が高く、かつ、熱伝導性が良く、感光体及び定着用金属円筒として優れたものである。
【0023】
表1は、本請求項に係る方法により製造した薄肉の金属環状体と従来の加工方法としての引き抜き加工法により製造した薄肉の金属環状体との特性比較を示している。表1は、金属環状体を定着ローラーとして使用する場合の比較を示したものである。
【0024】
【表1】

【0025】
表1においては、本請求項に係る方法により製造した薄肉の金属環状体及び引き抜き加工法により製造した薄肉の金属環状体のそれぞれについて板厚の均一性、真直度(すなわち、反りの程度)、硬度の3項目について評価を行い、これら3項目の結果をまとめて総合評価を下した。総合評価における「○」は実用に耐えることを指し、「×」は実用に耐えられないことを指す。
【0026】
従来法により薄肉の金属環状体を製造する場合、表1から明らかであるように、実用に耐え得る金属環状体は肉厚が0.10mm以上でなければならない。肉厚が0.09mm以下の金属環状体を従来法により製造したとしても、その金属環状体は実用には耐えられない。
【0027】
これに対して、本請求項に係る方法によれば、表1に示されているように、肉厚が0.10mmから0.03mmまでの範囲内において、実用に耐え得る金属環状体が製造可能である。
【0028】
このように、本請求項に係る方法によれば、従来法では製造することが不可能であった肉厚0.09mm以下の金属環状体を製造することが可能である。
【0029】
本方法は、前記第二の過程の前に実施される第三の過程として焼鈍工程をさらに備えることが好ましい。
【0030】
本発明に係る金属環状体の製造方法は、前記第二の過程の後において、前記有底素管の両端を突切切断する第四の過程と、バネ性コントロールと内部応力除去のための低温焼鈍を行う第五の過程と、をさらに備えることが好ましい。
【0031】
本発明に係る金属環状体の製造方法においては、ステンレス鋼からなる有底素管を用いたが、ステンレス鋼の他に、圧延ニッケル、ニッケル合金、チタニウム、チタニウム合金、タンタル、モリブデン、ハステロイ、パーマロイ、マルエージング鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、純鉄及び鉄鋼の何れかを選択することができる。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
前述の金属環状体または前述の方法により製造された金属環状体は、例えば、電子写真装置用感光体の一部を構成する円筒フィルムまたは電子写真装置用熱定着ロールの一部を構成する定着ベルトとして使用することができる。
【0036】
本発明は、さらに、軸線が相互に平行になるように配置された少なくとも二つのローラーと、前記ローラーの外周に掛け渡されたベルトと、からなるローラー組立体であって、前記ベルトは前述の金属環状体又は前述の方法により製造された金属環状体からなるものであるローラー組立体を提供する。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る金属環状体の製造方法の一実施形態を説明する。
【0038】
なお、本実施形態においては、金属環状体として金属円筒を製造するものとする。
【0039】
先ず、図1に示すように、金属薄板10を雌型11とポンチ12との間でプレス加工して有底素管13を作る。この有底素管13は深さが深いほど、次工程のスピニング加工が容易となることから、プレス加工時においては、雌型11を加熱し、ポンチ12を冷却する温間絞り法で成形することが望ましい。
【0040】
例えば、金属としてSUS304を例にとると、室温でのプレス加工においては限界絞り比(円形材料の直径/ポンチ直径)は2.0であるが、温間絞り法によれば、限界絞り比は2.6まで高めることができる。このように限界絞り比を高めることができるという効果により、同じ直径の有底素管を成形する場合、温間絞り法の方が冷間絞り法よりも深さを深くすることができる。
【0041】
なお、通常の冷間加工法によっても有底素管13の成形は十分可能である。
【0042】
温間絞り法においては、金属薄板10の板厚は0.1乃至1.0mmが適当であるが、板厚0.3乃至0.5mmの金属薄板を用いることが望ましい。
【0043】
次いで、有底素管13に焼鈍を施し、有底素管13の硬度を調整する。
【0044】
次いで、前述の第1の工程で得られた有底素管13を、スピニング加工機を用いて、図2に示すように、スピニング加工する。
【0045】
先ず、図2に示すように、有底素管13を回転基軸14の先端にはめ込み、軸線の周りに回転させる。
【0046】
次いで、回転している有底素管13の側壁13aにコマ15を接触させ、さらに、コマ15を有底素管13の側壁13aに対して均一に、すなわち、一定の圧力で押しつける。これにより、有底素管13の側壁13aに対するスピニング加工が開始される。
【0047】
ここに、コマ15とは、先端が円錐形状をなしたジグの一種である。
【0048】
コマ15は、回転基軸14の軸線と直交する方向Bに移動可能な可動部材15aに取り付けられている。この可動部材15aにより、コマ15を移動させることにより、コマ15を回転基軸14の周面から任意の距離離れた地点に位置させることができる。以下に述べるように、コマ15と回転基軸14の周面との間の距離が金属円筒18の肉厚となる。
【0049】
また、可動部材15aは回転基軸14の軸線方向Aにおいても移動可能であるように構成されている。このため、以下に述べるように、可動部材15aによって、コマ15を軸線方向Aに移動させることができる。
【0050】
次いで、コマ15を有底素管13の側壁13aに対して押しつけた状態のまま、コマ15を有底素管13の底部から離れる方向Cに移動させる。このコマ15の移動により、有底素管13の側壁13aが絞られ、かつ、長尺化される。
【0051】
この結果、有底素管13の側壁13aはコマ15の先端と回転基軸14の表面との間の距離に等しい肉厚となる。
【0052】
なお、本実施形態においては、コマ15を用いたが、コマ15の代わりに、硬質材料からなるローラーを用いることも可能である。
【0053】
このようにして、有底素管13の側壁13aを全て絞って薄い肉厚にした後、有底素管13を回転基軸14から取り外す。
【0054】
スピニング加工機は横型又は縦型の何れでもよいが、作業性の面からは、横型が望ましい。
【0055】
スピニング加工を利用する従来の容器製造の分野に関する特開平7-284452号公報又は特開平9-140583号公報においては、容器の肉厚については言及されていないが、例えば、SUS304を用いる場合、加工面の膨れ等の問題により、一般的には、肉厚が0.10mm位までしか加工できないと言われている。
【0056】
これに対して、本実施形態に係るスピニング加工法を用いることにより、表1に示したように、0.03乃至0.09mmの範囲の肉厚を達成することが可能である。
【0057】
本発明者の研究によれば、板厚0.5mmの金属板を冷間又は温間絞り加工して得られた有底素管においては、例えば、硬度Hv=330であり、既に加工硬化がかなり進んでいる。このため、スピニング加工により、肉厚減少率が70%となる肉厚0.15mmまで加工すれば、硬度Hv=500以上となり、これ以上の加工が難しくなることが判明した。従って、冷間又は温間絞り加工により得られた有底素管13の硬度調整を焼鈍により行うこととし、有底素管13を適当な硬度に調整した後、スピニング加工することにより、肉厚0.03乃至0.09mmの金属環状体を得ることが可能になった。
【0058】
冷間又は温間絞り加工により得られた有底素管13の硬度調整のための焼鈍温度は400乃至1200℃が適当であり、望ましくは、800乃至1100℃である。
【0059】
また、この時の硬度Hvは100≦Hv≦250が適当であり、望ましくは、100≦Hv≦150となるように調整する。
【0060】
一方、金属薄板10の両端を溶接して得られた図3に示す無底素管16はHv=150前後の硬度を有するので、焼鈍を行うことなく、肉厚0.03乃至0.09mmまでスピニング加工を行うことが可能である。この無底素管16をつくる金属薄板の肉厚としては0.08乃至0.50mmが適当であり、望ましくは、0.10乃至0.15mmである。
【0061】
有底素管13又は無底素管16のスピニング加工完了後の肉厚減少率は40乃至91%であり、硬度Hvは380乃至500である。この時の加工組織写真を図6に示す。また、有底素管13又は無底素管16のスピニング加工完了後の引張強度は150乃至160kgf/mm2(=1078乃至1568MPa)である。
【0062】
一方、図7の写真に示したニッケル電鋳品である円筒フィルムの硬度は一般的にHv=400乃至500程度、引張強度は122kgf/mm2(≒1196MPa)前後であり、対硬度比に関しては、上述のスピニング加工により得られた金属円筒に比べれば低かった。
【0063】
前述のスピニング加工が終了した後、この工程において得られた肉厚0.03乃至0.09mmの有底素管13又は無底素管16が所定の長さになるように、それらの両端を、図4に示すように、突切17で切断する。これによって、感光体及び定着用の金属円筒18が得られる。
【0064】
次いで、SUS304のバネ性をコントロールするとともに、内部の応力を除去し、均一な形状を確保するために、400乃至500℃で、望ましくは、450℃前後で金属円筒18を低温焼鈍する。この低温焼鈍によって、金属円筒18の硬度がHv=580まで上昇し、かつ、引張強度が170kgf/mm2(=1666MPa)迄上昇する。
【0065】
この低温焼鈍されたSUS304からなる金属円筒18に対して、肉厚減少率50%の条件下において、疲労強度試験を行った。疲労強度は、107サイクル基準の下において、図5に示されているように、80kgf/mm2(=784MPa)以上であった。
【0066】
これに対して、今回の91%の肉厚減少率の下においては、金属円筒18の疲労強度は100kgf/mm2(=980MPa)となり、耐久性に関しては、ニッケル円筒フィルムよりもスピニング加工されたSUS304製の金属円筒の方がはるかに優れていることが判明した。
【0067】
【実施例】
以下に好ましい実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0068】
実施例1:溶接を用いない金属円筒の作製方法
本実施例においては、SUS304からなる有底素管から肉厚0.06mm、内径60.0mm、長さ319mmの円筒フィルムを作製し、定着ロール用又は感光体用金属円筒として使用した。
【0069】
先ず、板厚0.5mmのSUS304板材から肉厚0.5mm、内径140mmの円板を作り、次いで、外径60.0mmのポンチを用いて、この円板に温間絞りを行い、70mmの深さの有底素管を作った。
【0070】
この有底素管の口元から底部までの肉厚及び硬度の変化の状況を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
この有底素管の肉厚変化をみると、口元付近が一番厚く、材料が周囲から流れ込んでいることがわかる。底部に近づくにつれ、次第に肉厚が薄くなってゆき、絞られている様子がわかる。
【0073】
一方、硬度の変化においては、冷却されているポンチと接する底部周辺が一番硬度が高くなるものと予想されたが、逆に底部周辺が最も硬度が低く、材料の流れ込みが大きい口元周辺が最も硬度が高かった。これは材料の流れ込みは活発な転位活動によりなされることから転位密度が最大となり、従って、結晶格子内の歪みも最大となり、最高硬度として現れているものと思われる。
【0074】
表2からわかるように、高さの中間点である口元から35mmの位置を平均値とすれば、Hv=327となっている。
【0075】
表2から、温間絞りにより形成した有底素管の肉厚及び硬度が口元からの距離に対して不均一な分布をしていること、硬度が加工硬化により既に高い値にあること等が、スピニング加工によって0.03mm乃至0.09mmの均一な肉厚を得るための障害となっており、焼鈍という熱処理を行うことが必要であることが推察できる。
【0076】
そこで、この温間絞りにより形成した有底素管を1000℃で30分間真空焼鈍した。この焼鈍により、口元から35mmの中間点における硬度としてHv=134が得られ、他の部分も全てHv=150以下となった。
【0077】
次いで、この焼鈍された有底素管を横型スピニング機械を用いて、肉厚0.06mmまでスピニング加工した。このスピニング加工おいては、スピニング加工するコマと被加工体である有底素管が接触するときに発生する摩擦熱を奪い取り、温度が上昇することを防ぐために十分な冷却水を供給した。
【0078】
このようにして得られたスピニング加工品は0.06mmの均一な肉厚となり、硬度はHv=500、引張強度は166.7kgf/mm2(≒1634MPa)であった。
【0079】
この状態ではまだ有底円筒管であるため、両端を所定の寸法に突切切断をすることにより、肉厚0.06mm、内径60.0mm、長さ319mmのSUS304製円筒フィルムを作製した。
【0080】
さらに、この円筒フィルムのバネ性をコントロールするために、450℃で30分間低温焼鈍した。この熱処理により硬度がHv=570、引張強度170.3kgf/mm2(≒1669MPa)という強靱な金属円筒フィルムに改質された。
【0081】
実施例2:溶接を用いる金属円筒の作製方法
本実施例においては、SUS304からなる無底素管から肉厚0.06mm、内径60.0mm、長さ319mmの円筒フィルムを作製し、定着ロール用又は感光体用金属円筒として使用した。
【0082】
SUS304からなる肉厚0.15mm、長さ188.4mm×144.0mmの板材を丸めて両端を溶接し、円筒形状にし、内径60.0mm、長さ144.0の無底素管を準備した。
【0083】
板材の硬度はHv=165であったので、この無底素管は、焼鈍処理を行うことなく、直接、0.06mmの肉厚まで、すなわち、肉厚減少率60%までスピニング加工した。この結果、肉厚0.06mm、内径60.0mm、長さ360mmのスピニング加工品を得た。
【0084】
このスピニング加工品は0.06mmの均一な肉厚となり、硬度はHv=450、引張強度157.6kgf/mm2(≒1544MPa)であった。
【0085】
さらに、両端を突切切断することにより、肉厚0.06mm、内径60.0mm、長さ319mmの円筒フィルムを作製した。
【0086】
実施例2においても、実施例1と同様に、円筒フィルムのバネ性をコントロールするために、450℃で30分間低温焼鈍し、硬度Hv=520、引張強度168.3kgf/mm2(≒1649MPa)という強靱な金属円筒フィルムとした。
【0087】
なお、上記の実施例における金属円筒フィルムはSUS304からなるものを用いたが、金属円筒フィルムの材質はSUSには限定されない。例えば、金属円筒フィルムは、ステンレス鋼、圧延ニッケル、ニッケル合金、チタニウム、チタニウム合金、タンタル、モリブデン、ハステロイ、パーマロイ、マルエージング鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、純鉄及び鉄鋼から構成することが可能である。
【0088】
図8乃至図10に上述の実施形態に係る金属円筒フィルムの一使用例を示す。
【0089】
図8及び図9に示すように、本使用例に係る金属円筒フィルム20は、軸線が同一方向に向くように配置された二つのローラー21、22の外周に掛け渡されている。金属円筒フィルム20はローラー21、22の全長と同一の幅を有しており、ローラー21、22の全体を覆っている。
【0090】
金属円筒フィルム20の材質はSUS304であり、0.05mm(50ミクロン)の厚さを有している。
【0091】
図8に示すように、各ローラー21、22には両端から軸線方向に支持軸24が突出して形成されている。これらのローラー21、22は、図10に示すように、両端の支持軸24が側壁25に回転可能に取り付けられることにより、支持される。側壁25には、支持軸24の直径と同一径の円形孔26と、支持軸24の直径と同一長さの高さと支持軸24の直径よりも長い横方向長さとを有する長孔27とが形成されている。
【0092】
一方のローラー21は、円形孔26に支持軸24を嵌合させることにより、側壁25に対して支持される。他方のローラー22は、長孔27に支持軸24を挿入し、適当な位置において、例えば、ボルト及びナット(図示せず)を用いて、固定される。このように、ローラー22の固定位置を調節することが可能であるので、ローラー22の位置を調節することにより、金属円筒フィルム20がテンション状態にあるように維持することができる。
【0093】
図8乃至図10に示したような構造を有するローラー組立体は、例えば、プリンター装置における感光体として用いることができる。あるいは、プリンター装置におけるヒーターロール(定着用ロール)としても用いることもできる。
【0094】
ローラー21、22としては、従来の感光体よりも小径のローラーを用いることができるので、従来の感光体と比較して、大幅に感光体自体の高さを低くすることができる。従って、本使用例に係る金属円筒フィルム20を用いたローラー組立体をプリンターに組み込むことにより、プリンター自体の高さを大幅に低くすることが可能である。
【0095】
また、一般に従来のヒーターロールは円筒形状であるため、ヒーターロールの外周には平面部分は存在しない。これに対して、本使用例に係る金属円筒フィルム20を用いたローラー組立体によれば、図9に示すように、二つのローラー21、22の間の距離に応じて、金属円筒フィルム20上に平面部分23が形成される。この平面部分23上において、例えば、印刷用紙に付着したトナーを熱的に定着させることにより、従来のヒーターロールよりも広い熱定着領域を確保することができる。ひいては、より安定的に熱定着を実行することができ、印刷される図形や文字の画質を向上させることができる。
【0096】
あるいは、平面部分23上に現像ユニットを配置することも可能である。
【0097】
さらに、金属円筒フィルム20は薄肉であるため、伝熱係数が高く、従って、熱が伝わりやすい。このため、従来のヒーターロールと比較して、加熱時間を大幅に短縮することができ、ひいては、プリンター装置の起動スイッチをオンにしてから、実際にプリンター装置が稼働し得る状態になるまでの時間をも短縮することができる。
【0098】
次いで、金属円筒フィルムの他の使用例を図11に示す。
【0099】
図11は、金属円筒フィルム40を熱定着ロールとして使用する例を示す。図11に示すように、金属円筒フィルム40の内部には、外周が円弧形状をなしている一対のガイド部材28が組み入れられている。この一対のガイド部材28によって、金属円筒フィルム40は円筒形状を維持することができるようになっている。
【0100】
さらに、一対のガイド部材28の間にはヒーター29が組み込まれている。ヒーター29としては、例えば、ハロゲンランプ又はセラミックヒーターを用いることができる。
【0101】
このように熱定着ロールとして形成されている金属円筒フィルム40と対向してニップロール30が配置されており、表面にトナーが付着しているシート31は熱定着ロールとしての金属円筒フィルム40とニップロール30の間にはさまれ、ヒーター29により加熱される。この加熱により、トナーは熱的にシート31に定着され、印刷が終了する。
【0102】
図11に示した例のように、金属円筒フィルム40を熱定着ロールとして使用すれば、金属円筒フィルム40の内部にヒーター29を配置することができるので、ヒーター29からの熱を直接的に金属円筒フィルム40に伝えることができる。すなわち、ヒーター29から金属円筒フィルム40への伝熱効率を大幅に向上させることができる。
【0103】
同時に、金属円筒フィルム40は薄肉金属からなるものであるため、金属円筒フィルム40の全体をトナーの定着に必要な温度まで上げることは短時間で行うことが可能である。すなわち、プリンター装置の起動スイッチをオンにしてから、実際にプリンター装置が稼働し得る状態になるまでの時間を短縮することができる。
【0104】
【発明の効果】
昨今のプリンターや複写機等の印刷技術には目を見張るものがある。パーソナルユースでもカラープリンターが当たり前で、コンビニにカラー複写機が置かれ、インターネットの普及で様々な資料がカラーで入手可能という時代にあって今後の課題は、モノクロの場合は一層の高精細化、カラーの場合は高画質化と特に高速化そして低価格或いはコストセーブ型ということになる。感光体と熱定着部はまさにこの課題を改善するための重要なポイントである。
【0105】
先ず、熱定着ローラ又は熱定着フィルムにおいては、ベルト型又は薄肉スリーブ型の何れにしても、ニップ領域を極力広く取ることが熱効率や良質な画像を得る上で要求される。これらの要求に対して、本発明に係るスピニング加工により作製された薄肉の金属環状体は弾性が高く、機械的強度と疲労強度が高い機能部品としてベルトやスリーブに利用することが可能である。
【0106】
従って、従来の樹脂やニッケルフィルムのベルトに比べ、耐久性、耐熱性に優れ、剛性が高く、部品ライフが長く、従来のロールや厚みのあるスリーブに対しては、ベルトとして用いることにより、ダウンサイジングが可能となる。
【0107】
また、熱伝導に優れ、熱容量が小さいため、定着装置のウォームアップが早まり、定着時間が短縮化され、更に、全体的な熱効率が高いので、結果的に相当の消費電力の低減となり、大幅なコストダウンを実現することができる。
【0108】
また、感光体においては、従来の樹脂基材によるベルトと比較して、スピニング加工して強度が高くなったステンレスを利用するため、ベルトとして張力をかけたときに、軸間における平坦度と剛性を上げることができる。更に、ヤング率が高いため、樹脂と異なり、伸び縮みによる回転ムラがなくなり、送り精度が高くなることから、一層の高画質が期待される。
【0109】
また、従来の感光体の多くはアルミの大きな円筒を使用しているため、薄肉ベルト化することによりダウンサイズに寄与するとともに、カラー機などで4色別々の感光体を紙が通過する時間が短縮されるので、高速化、軽量化、省スペース化等のメリットが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 温間又は冷間絞り加工による有底素管の形成工程を示す断面図及び斜視図である。
【図2】 有底素管のスピニング加工の状況を示す概略図である。
【図3】 薄板を溶接して得られる無底素管の斜視図である。
【図4】 スピニング加工した有底素管を突切切断する状況を示す断面図である。
【図5】 SUS304円筒フィルムの肉厚減少率50%におけるS-N曲線を示すグラフである。
【図6】 スピニング加工法で得られた、溶接を用いない金属円筒フィルムの低温焼鈍前の加工組織のSEM写真である(撮影条件:機械研磨後10%シュウ酸溶液で電解腐食した面を3000倍に拡大)。
【図7】 金属円筒フィルムとして使用されているNi電鋳品のSEM写真である(撮影条件:液体窒素で冷却後破壊した面を3000倍に拡大)。
【図8】 金属円筒フィルムの一使用例の斜視図である。
【図9】 図8に示した使用例の正面図である。
【図10】 図8に示した使用例の正面図である。
【図11】 金属円筒フィルムの他の使用例の斜視図である。
【符号の説明】
10 金属薄板
11 雌型
12 ポンチ
13 有底素管
14 回転基軸
15 コマ
15a 可動部材
16 無底素管
17 突切
18 金属円筒
20 金属円筒フィルム
21、22 ローラー
23 平面部分
24 支持軸
25 側壁
26 円形孔
27 長孔
28 ガイド部材
29 ヒーター
30 ニップロール
31 シート
40 金属円筒フィルム
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-01-18 
出願番号 特願2000-362401(P2000-362401)
審決分類 P 1 651・ 537- YA (B21D)
P 1 651・ 121- YA (B21D)
P 1 651・ 113- YA (B21D)
P 1 651・ 536- YA (B21D)
P 1 651・ 16- YA (B21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小松 竜一  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 岡野 卓也
菅澤 洋二
登録日 2003-03-07 
登録番号 特許第3406293号(P3406293)
権利者 株式会社遠藤製作所 株式会社ディムコ
発明の名称 金属環状体並びにその製造方法  
代理人 天野 広  
代理人 長尾 達也  
代理人 天野 広  
代理人 天野 広  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ