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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C08L
審判 訂正 2項進歩性 訂正する C08L
審判 訂正 1項3号刊行物記載 訂正する C08L
管理番号 1115152
審判番号 訂正2005-39006  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-08-06 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2005-01-13 
確定日 2005-03-11 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3305526号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3305526号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 I.請求の要旨
本件審判請求の要旨は、特許第3305526号(平成7年1月26日特許出願、平成14年5月10日設定登録)の明細書(平成15年2月28日付け訂正審判請求書に添付された訂正明細書)を、本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり、すなわち、下記(1)〜(16)のとおり、訂正することを求めるものである。
(1)訂正事項a
「【請求項1】(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック及び(C)オレフィン系樹脂からなるIC包装用導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物の表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まないIC包装用導電性樹脂組成物。」を
「【請求項1】(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック及び(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂からなるIC包装用導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物。」と訂正する。
(2)訂正事項b
「【請求項2】(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック、(C)オレフィン系樹脂及び(D)相溶化剤からなる導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部及び(D)相溶化剤1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物の表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まないIC包装用導電性樹脂組成物。」を
「【請求項2】(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック、(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂及び(D)相溶化剤からなる導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部及び(D)相溶化剤1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物。」と訂正する。
(3)訂正事項c
明細書段落【0001】に記載の「【産業上の利用分野】本発明は、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂及びカーボンブラックからなるIC包装用導電性樹脂組成物において、この導電性樹脂組成物にオレフィン系樹脂を含有させることにより、IC等との接触時の摩耗によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少させたIC包装用導電性樹脂組成物に関する。」を
「【産業上の利用分野】本発明は、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂及びカーボンブラックからなるIC包装用導電性樹脂組成物において、この導電性樹脂組成物に、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂を含有させることにより、IC等との接触時の摩耗によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少させたIC包装用導電性樹脂組成物に関する。」と訂正する。
(4)訂正事項d
明細書段落【0005】に記載の「【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる欠点を解決するものであり、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂及びカーボンブラックからなるIC包装用導電性樹脂組成物において、この導電性樹脂組成物に、さらに、オレフィン系樹脂を含有させることにより、成形品とIC等との接触・摩耗が原因となるカーボンブラックの脱離によるIC等の汚染を著しく減少させた導電性樹脂組成物を提供しようとするものである。」を
「【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる欠点を解決するものであり、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂及びカーボンブラックからなるIC包装用導電性樹脂組成物において、この導電性樹脂組成物に、さらに、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂を含有させることにより、成形品とIC等との接触・摩耗が原因となるカーボンブラックの脱離によるIC等の汚染を著しく減少させた導電性樹脂組成物を提供しようとするものである。」と訂正する。
(5)訂正事項e
明細書段落【0006】に記載の「すなわち、本発明の第1の発明は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック及び(C)オレフィン系樹脂からなるIC包装用導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物の表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とするIC包装用導電性樹脂組成物である。」を
「すなわち、本発明の第1の発明は、(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック及び(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂からなるIC包装用導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物である。」と訂正する。
(6)訂正事項f
明細書段落【0007】に記載の「本発明の第2の発明は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック、(C)オレフィン系樹脂及び(D)相溶化剤からなる導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部及び(D)相溶化剤1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物の表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とするIC包装用導電性樹脂組成物である。」を
「本発明の第2の発明は、(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除く(C)オレフィン系樹脂及び(D)相溶化剤からなる導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部及び(D)相溶化剤1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物である。」と訂正する。
(7)訂正事項g
明細書段落【0009】に記載の「以下、本発明を更に詳細に説明する。本発明においては、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂が使用され、ポリフェニレンエーテル系樹脂とはポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂を主成分とする樹脂をいい、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリスチレン系樹脂の合計量100重量部中のポリフェニレンエーテル樹脂の含有量は28〜86重量部が好ましく、28重量部未満ではポリフェニレンエーテル系樹脂としての十分な力学特性が得られず、86重量部を越えると流動性の低下により成形加工が困難となる。該ポリフェニレンエーテル樹脂とは米国特許3383435号に記載されているホモポリマー或いは共重合体が示される。」を
「以下、本発明を更に詳細に説明する。」と訂正する。
(8)訂正事項h
明細書段落【0012】に記載の「本発明で使用する(C)オレフィン系樹脂としてはポリエチレン系樹脂、」を
「本発明で使用する、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除く(C)オレフィン系樹脂としてはポリエチレン系樹脂、」と訂正する。
(9)訂正事項i
明細書段落【0013】に記載の「本発明で使用する(C)オレフィン系樹脂のメルトフローインデックス(JIS-K-7210に準じて測定)は、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上であり、この数値未満ではポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂との混練が困難となり、良好な組成物が得られない。オレフィン系樹脂の添加量は、(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、1〜30重量部が好ましく、特に好ましくは3〜25重量部である。添加量が1重量部未満ではその効果が不十分であり、30重量部を越えるとポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂中に均一に分散させることが困難となる。」を
「本発明で使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体を除く(C)オレフィン系樹脂のメルトフローインデックス(JIS-K-7210に準じて測定)は、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上であり、この数値未満ではポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂との混練が困難となり、良好な組成物が得られない。エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂の添加量は、(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、1〜30重量部が好ましく、特に好ましくは3〜25重量部である。添加量が1重量部未満ではその効果が不十分であり、30重量部を越えると、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂中に均一に分散させることが困難となる。」と訂正する。
(10)訂正事項j
明細書段落【0014】に記載の「本発明において、オレフィン系樹脂のポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂中への分散をより均一化するために、」を
「本発明において、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂のポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂中への分散をより均一化するために、」と訂正し、
「また、これらの相溶化剤の添加量は、(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、1〜30重量部が好ましく、30重量部を越えるとポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂中におけるオレフィン系樹脂の分散が良好となりすぎ、カーボンブラック等の脱離の抑制効果が失われてしまう。1重量部未満では、その効果が不十分である。」を
「また、これらの相溶化剤の添加量は、(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、1〜30重量部が好ましく、30重量部を越えると、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂中におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂の分散が良好となりすぎ、カーボンブラック等の脱離の抑制効果が失われてしまう。1重量部未満では、その効果が不十分である。」と訂正する。
(11)訂正事項k
明細書段落【0015】に記載の「本発明で相溶化剤として使用する樹脂のメルトフローインデックス(JIS-K-7210に準じて測定)は、200℃、荷重5kgの条件で0.1g/10分以上であり、この数値未満ではポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂との混練が困難となる。」を
「本発明で相溶化剤として使用する樹脂のメルトフローインデックス(JIS-K-7210に準じて測定)は、200℃、荷重5kgの条件で0.1g/10分以上であり、この数値未満では、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂との混練が困難となる。」と訂正する。
(12)訂正事項l
明細書段落【0016】に記載の「本発明の導電性樹脂組成物は、十分な成形加工性を維持するために、表面固有抵抗値が102 〜1010Ωとなるようにカーボンブラックを充填した場合、メルトフローインデックス(JIS-K-7210に準じて測定)が、ポリフェニレンエーテル系樹脂に充填した場合は、230℃、荷重10kgの条件で、ポリスチレン系樹脂に充填した場合は、200℃、荷重5kgの条件で、ABS系樹脂に充填した場合は、220℃、荷重10kgの条件で、それぞれ、0.1g/10分以上である。」を
「本発明の導電性樹脂組成物は、十分な成形加工性を維持するために、表面固有抵抗値が102 〜1010Ωとなるようにカーボンブラックを充填した場合、メルトフローインデックス(JIS-K-7210に準じて測定)が、ポリスチレン系樹脂に充填した場合は、200℃、荷重5kgの条件で、ABS系樹脂に充填した場合は、220℃、荷重10kgの条件で、それぞれ、0.1g/10分以上である。」と訂正する。
(13)訂正事項m
明細書段落【0021】に記載の【表3】中の「原料」欄の横に「比較例」欄を設ける。
(14)訂正事項n
明細書段落【0022】に記載の【表4】中「サンプル M」を「サンプル (イ)又はM」と訂正する。
(15)訂正事項o
明細書段落【0023】に記載の【表5】中の「サンプル M」を「サンプル (ロ)又はN」と訂正するとともに、比較例2、3欄全体を削除する。
(16)訂正事項p
明細書段落【0026】に記載の「以上説明したとおり、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂及びカーボンブラックからなるIC包装用導電性樹脂組成物において、この導電性樹脂組成物に、さらに、オレフィン系樹脂を含有させることにより、IC等と接触時の摩耗によるカーボンブラックの脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少させた導電性樹脂組成物を得ることが可能となる。」を
「以上説明したとおり、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂及びカーボンブラックからなるIC包装用導電性樹脂組成物において、この導電性樹脂組成物に、さらに、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂を含有させることにより、IC等と接触時の摩耗によるカーボンブラックの脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少させた導電性樹脂組成物を得ることが可能となる。」と訂正する。
II.当審の判断
訂正事項a〜訂正事項pについて、訂正が認められるか否か検討する。
1.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項a、訂正事項bは、先行技術との区別を図るため、(C)オレフィン系樹脂からエチレン-酢酸ビニル共重合体を除くことにより、オレフィン系樹脂の種類をより明確にし、また、段落【0013】の記載に基づいて、(C)オレフィン系樹脂を特定のメルトフローインデックス値を有するオレフィン系樹脂に限定し、段落【0017】に基づいて、導電性樹脂組成物の表面固有抵抗値を、導電性樹脂組成物をシート状に形成したときの表面固有抵抗値に限定し、段落【0004】、【0005】、【0014】の記載に基づいて、IC包装用導電性樹脂組成物を、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。
訂正事項c〜pは、特許請求の範囲の訂正に伴い生じた発明の詳細な説明の記載との整合性を図るものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当する。
そして、いずれの訂正事項も、明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
2.独立特許要件について
本件訂正審判請求書に添付された明細書の請求項1〜7に係る発明が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるか否かについて
訂正された請求項1〜7に係る発明が、本件特許に係る特許異議申立事件において、特許異議申立人が提出した甲号証である刊行物に記載された発明であるか否か、或いは、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたか否かについて検討する。
(1)訂正された請求項1〜7に係る発明(以下、「本件発明1〜7」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック及び(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂からなるIC包装用導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項2】(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック、(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂及び(D)相溶化剤からなる導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部及び(D)相溶化剤1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項3】(C)オレフィン系樹脂がポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1記載のIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項4】(C)オレフィン系樹脂がポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項2記載のIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項5】(D)相溶化剤がスチレン-ジエンブロック共重合体に水素添加した樹脂及び/又はポリオレフィンにスチレンをグラフト共重合した樹脂であることを特徴とする請求項2記載のIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項6】請求項1〜5のいずれか一に記載のIC包装用導電性樹脂組成物よりなるIC包装用の成形品。
【請求項7】請求項1〜5のいずれか一に記載のIC包装用導電性樹脂組成物よりなるIC包装用のシート。 」
(2)刊行物及び刊行物に記載された事項
★刊行物1(特開昭55-94948号公報)には、以下の事項が記載されている。
「1 ポリスチレン40〜89重量部、スチレン-ブタジェンブロック共重合体3〜15重量部、ポリエチレン又はエチレン共重合体5〜20重量部及びカーボンブラック3〜25重量部からなる導電性熱可塑性樹脂組成物
2 ポリエチレンが低密度ポリエチレンであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の組成物
3 エチレン共重合体がアイオノマーであることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の組成物」(特許請求の範囲1〜3項)
「また逆に、スチレン系樹脂はポリプロピレン、ポリエチレンなどの結晶性部分を有するオレフィン系樹脂と比べ、成形時の収縮率が小さく、寸法精度が良好なため、機械部品、弱電部品などにおいて好ましい材料とされている。」(2頁左上欄11〜15行)
「スチレン-ブタジエンブロック共重合体を用いず樹脂成分としてポリスチレンとポリエチレンの二者の場合には耐衝撃強度の優れた組成物が得られず、またポリエチレンを添加しなかった場合には、充分な導電性(低い表面抵抗値)が得られない。充分な導電性と耐衝撃強度を得るためには、樹脂成分として、上記せる三者を用いることが必須である。」(2頁右上欄10〜17行)
また、樹脂組成物の表面抵抗値が107以下であることも記載されている(3頁左下欄12行〜4頁左上欄末行 表-1〜表-4)。
★刊行物2(特開平3-87097号公報)には、以下の事項が記載されている。
「(1)電子部品装填用の凹部を一定の間隔で有するとともに、その側部の一方又は両方に送り穴が一定のピッチで設けられているテープ状の電子部品用導電性搬送体の底材において、少なくとも前記電子部品と接する側には導電性ポリスチレン層が積層されており、前記導電性ポリスチレン層が、ポリスチレン65〜75重量%と、エチレン-酢酸ビニル共重合体5〜15重量%と、カーボン10〜25重量%とを含有する導電性ポリスチレン樹脂組成物により形成されていることを特徴とする電子部品用導電性搬送体の底材。
(2)請求項1に記載の電子部品用導電性搬送体の底材において、前記導電性ポリスチレン樹脂組成物がさらに7〜10重量%のスチレン-ブタジェン系ゴムを含有することを特徴とする電子部品用導電性搬送体の底材。」(請求項1、2)
「本発明は、IC等の電子部品のテーピング包装に使用する電子部品用導電性搬送体の底材に関し、」(1頁右下欄9行〜10行)
「ところで、電子部品は、小型化及び精密化に伴い、高電圧による絶縁破壊等を防止する必要性が益々重要になってきている。このためには搬送体を導電性とし、電荷が蓄積されるのを防止する必要がある。このような導電性の付与を目的として、搬送体の底材としてポリ塩化ビニル樹脂中にカーボンなどの導電性物質の微細粒子を多量に配合して、表面抵抗を108Ω/□以下とした樹脂シートを用いたものがある。」(2頁左上欄17行〜右上欄6行)
「導電性ポリスチレン樹脂組成物中のカーボンの配合割合は10〜25重量%であり、・・・カーボンを適量含有する導電性ポリスチレン層の表面抵抗は108Ω/□以下、好ましくは、106Ω/□以下である。
特に、本発明においては、ポリスチレンとエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)との相溶性を向上するために、スチレン-ブタジェン系ゴムを、組成物全体に対して7〜10重量%の割合で添加するのが好ましい。」(3頁左上欄15行〜右上欄10行)
「また導電性ポリスチレン層3の厚さは、十分な導電性を得るためには、30〜100μmであるのが好ましい。なお100μmを超えても、それに相応した効果の向上が得られず使用する導電性ポリスチレン樹脂組成物の量が多くなるだけで、経済的でない。」(3頁左下欄7〜12行)
★刊行物3(特開昭54-152580号公報)には、以下の事項が記載されている。
「1.(a)ポリスチレン100重量部に対し、(b)カーボンブラック10〜70重量部、及び(c)カーボンブラックとポリスチレンの双方に親和性の良好なブタジエンを一成分とする合成ゴムまたはゴム質のオレフィン系コポリマーの少なくとも一種15〜80重量部からなる樹脂組成物。
4.ロックウエル硬度が65度以上、熱変形温度が65℃以上である特許請求の範囲第1項に記載の樹脂組成物。
5.特許請求の範囲第4項に記載した樹脂組成物で成形した抵抗値5×104Ω乃至1×1010Ωを有する電子部品収納ケース。」(特許請求の範囲1、4、5項)
「ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルと同様に成形用ポリマーとして汎用性のあるポリスチレンも半導電性樹脂として使用されるべきものの一つであるが、該ポリマーはカーボンブラックを多量に混入したときの脆性破壊が特に著しい。そのため、機械的強度を補強するために例えばガラス繊維を、或いはカーボンブラックの混入を容易にするためポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを混入することも考えられているが、物性は充分に改善されるに至らず、むしろ成形時の作業が複雑となる、困難となる、他の諸物性が低下する或いは高価なものとなる」(2頁左上欄4〜14行)
「また、ポリスチレン、カーボンブラックと共に使用して、成形性、機械的性質及び電気的性質の向上に役立つポリマーは、カーボンブラック、ポリスチレンの双方に親和性の良好なブタジエンを一成分とする合成ゴムまたはゴム質のオレフィン系ポリマーであり、いずれもすでに公知のものである。具体的には、例えばブタジエンラバー(BR)、スチレン-ブタジエンラバー(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンラバー(NBR)などの合成ゴム、或いはエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、酢酸ビニル、アクリル酸などを少量グラフトさせたオレフィン系グラフト共重合体・・・等が挙げられる。」(3頁左上欄6行〜右上欄3行)
「更に本発明の樹脂組成物は例えば電子部品用収納ケースの如き電気的性質、機械的性質に於いて更に過酷な物性要求を受ける場合に於いても十分適用することが可能である。」(3頁右下欄7〜9行)
「本発明に於いては、上記(a)(b)及び(c)の成分のほか用途に応じて他の配合剤を加えることは可能である。・・・更に、その使用量が、10重量%以下であればポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の樹脂・・・も使用できる。」(4頁左上欄2〜13行)
★刊行物4(特開昭60-8362号公報)には、以下の事項が記載されている。
「熱可塑性樹脂20〜99重量%に飽和型スチレン系熱可塑性エラストマー又は飽和型オレフィン系熱可塑性エラストマーの少なくとも一種1〜80重量%を加えた合計100重量部にカーボンブラック15〜200重量部を配合した導電性熱可塑性樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
「現在ではプラスチックに導電性を付与した材料は静電防止成形品、面発熱体、CVケーブル、導電性塗料、導電性インクその他非常に広範囲にわたって使用されている。」(1頁左下欄下から5行〜下から2行)
「本発明において、熱可塑性樹脂とはポリエチレン、ポリプロピレン、・・・ポリスチレン、・・・ABS、AS、等が含まれる。飽和型スチレン系エラストマーとしては、SBSラバーを水素添加法によりブタジエンの2重結合を飽和させたタイプのスチレンブチレン(オレフィン)スチレンブロックコポリマーが含まれ、・・・エチレンプロピレンジエン三元共重合体(EPDM)の飽和型エラストマーが含まれる。」(2頁左上欄12行〜右上欄7行)
「熱可塑性樹脂とカーボンブラックを用いた導電性材料において、所定量の飽和型スチレン系熱可塑性エラストマー、又は飽和型オレフィン系熱可塑性エラストマーを加えることによって優れた実用特性・・・を有する材料を開示するものである。」(2頁左下欄18行〜右下欄4行)
★刊行物5(特開昭62-260313号公報)には、ベーステープに透光性の平板状物質の表面を導電性物質で被覆してなる導電性素材を主成分とする導電層を設けた電子部品用キャリヤーテープが記載され(特許請求の範囲)、電子部品を静電気から保護するために従来は、カーボンや金属粉などの導電性物質を混入したプラスチックフィルムが、電子部品のキャリヤーテープとして使用されていることが記載(1頁右下欄)されている。
★刊行物6(「熱可塑性エラストマーの新展開 第5章 TPEの技術動向と将来展望」株式会社工業調査会、1993年4月発行、第210頁)には、「スチレン系TPE(SBC)」と題して、SBSの主鎖を水素添加して飽和させることによりSEBSが得られ、非相溶性を示すポリマー同志のポリマーアロイにSEBSが偉力を発揮することが記載されている。
★刊行物7(「プラスチックの相溶化剤と開発技術 分類・評価・リサイクル」(株)シーエムシー、1992年12月28日発行、第12、178〜179頁)には、非反応型相溶化剤について、樹脂AとしてPS、樹脂BとしてLDPE、相溶化剤として水添SBが組み合わされた例が記載(表2・4)されている。
★刊行物8(「最新 機能包装実用事典」(株)フジ・テクノシステム、1994年8月1日発行、第362〜372頁)には、静電防止包装について記載され、静電防止包装資材とその特徴として、導電性カーボンブラック練込みタイプの導電袋が、容器類にICパレット、ICマガジンが、キャリヤーテープが示されている。
★刊行物9(「プラスチック・データブック」(株)工業調査会、1999年12月1日発行、329〜330頁)には、フィルムグレードの特性として、各種の高圧法低密度ポリエチレンのメルトフローレートの値が記載されている。
★刊行物10 (特開平6-93177号公報)には、ポリフェニレンエーテル系樹脂にカーボンブラックを配合した導電性樹脂組成物に関して記載され、水素化スチレン-共役ジエンブロック共重合体を配合すること、導電性材料がICチップトレーとして採用されることが記載されている。
★刊行物11 (特開平4-366165号公報)には、ポリフェニレンエーテル系樹脂にカーボンブラックを配合した導電性樹脂組成物に関して記載され、ビニル芳香族化合物重合体ブロックとオレフィン化合物重合体ブロックとからなるブロック共重合体を含有することが記載され、該導電性樹脂組成物から成形された成形物がIC用耐熱トレーであることも記載されている。
★刊行物12 (特開平5-271532号公報)には、ポリフェニレンエーテル樹脂又はポリフェニレンエーテル樹脂とスチレン系樹脂を含む樹脂組成物にカーボンブラックを配合した導電性樹脂組成物において、特定のジアミド化合物を添加することにより導電性、加工性、耐熱性、寸法安定性の優れた樹脂組成物とすることに関して記載され、さらに、耐衝撃強度を向上させるため、ゴム様物質を配合することが記載されている。
★刊行物13 (特開平7-164601号公報)には、以下の記載がされている。
「耐溶剤性に優れたスチレン系樹脂組成物よりなる基材シートの少なくとも片面に、表面比抵抗値が1010Ω以下である導電性塗料層を設けてなることを特徴とする表面導電性プラスチックシート」(請求項1)、
「【産業上の利用分野】本発明は、耐溶剤性に優れた基材シートの少なくとも片面に表面比抵抗値が1010Ω以下である導電性塗料層を設けることにより、帯電防止性を有し、機械的強度、剛性、耐衝撃性、耐折強さ、耐熱性等に優れ、チップ型電子部品の保管、輸送、装着に際し、チップ型電子部品を汚染から保護し、電子回路基板に実装するために整列させ、取り出せる機能を有する包装体のうち、収納ポケットを形成したプラスチック製キャリアテープに適した表面導電性プラスチックシートに関するものである。」(段落【0001】)
「・・・スチレン系樹脂にカーボンブラックを分散したシートでは、カーボンブラックの分散がかなり困難である為、耐衝撃性などの機械的強度が不充分であり、またシート表面の外観もあまり良好なものは得られない。また、ゴム含有等のスチレン系樹脂よりなる基材シートに導電性塗料を塗工したものは、導電性塗料の主成分である溶剤により基材シートが著しく劣化し、耐衝撃性などの機械的強度が不充分なものしか得られていない。」(段落【0002】)
★刊行物14 (特開平7-21834号公報)には、以下の記載がされている。
「ABS樹脂20〜90重量部及びポリカーボネート樹脂80〜10重量部よりなる樹脂組成物を基材層とし、該基材層の少なくとも片面にスチレン系樹脂100重量部に対してカーボンブラックを1〜50重量部含有し、その表面比抵抗値が1010Ω以下である表面導電層を積層してなる表面導電複合プラスチックシート。」(請求項1)
「【産業上の利用分野】本発明は、樹脂組成物の基材層と導電性を有する表面導電層からなる積層体で、帯電防止性を有し、機械的強度、剛性、耐衝撃性、耐折強さ、耐熱性等に優れ、チップ型電子部品の保管、輸送、装着に際し、チップ型電子部品を汚染から保護し、電子回路基板に実装するために整列させ、取り出せる機能を有する包装体のうち、収納ポケットを形成したプラスチック製キャリアテープに適した表面導電複合プラスチックシートに関するものである。」(段落【0001】)
「・・・スチレン系樹脂にカーボンブラックを分散したシートでは、帯電防止効果や成形性は良好であるが、耐衝撃性など機械的強度や腰強度が不充分である。また、表面層はスチレン系樹脂にカーボンブラックを練り込んだもの、基材層にはスチレン系樹脂、例えばABS樹脂等を使用したものでも、キャリアテープの形状、特にポケットが大きいものや、高強度を要求されるもの及びある程度の耐熱を要求されるレベルのものには使用可能なものはなかった。」(段落【0002】)
(3)対比・判断
【1】本件発明1について
本件発明1は、「(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック及び(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂からなるIC包装用導電性樹脂組成物」を発明の構成とする(以下、「構成要件1」という。)とともに、「(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部を含有してなる」ものを構成(以下、「構成要件2」という。)とし、「かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物」を構成(以下、「構成要件3」という。)とするものである。
●刊行物1には、ポリスチレン系樹脂にスチレン-ブタジエンブロック共重合体、ポリエチレン又はエチレン共重合体及びカーボンブラックを配合した導電性熱可塑性樹脂組成物が記載されている。そして、弱電部品などにおいて好ましい材料であることが記載されている。
しかしながら、刊行物1には、弱電部品になどにおいて好ましい材料であることは記載されているが、IC包装用として使用できることまでは記載がされていない。また、刊行物1の、弱電部品などにおいて好ましい材料である、との記載に関しても、そのものが弱電部品の材料として利用できることを示しているのであって、弱電部品を包装するための包装材として使用することまで示しているということはできないし、本件発明1では、構成要件2で規定する特定のオレフィン系樹脂を採用することにより、カーボンブラックの脱離が生じIC等が汚染されることを防止できるのに対し、刊行物1におけるポリエチレンの添加は、充分な導電性が得られないために添加するものであり、成形品とIC等との接触・摩擦によりカーボンブラックの脱離が生じIC等が汚染されること及びそれらを防止することについては何ら記載がされていないのであるから、刊行物1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物を、カーボンブラックの脱離が抑制されIC等が汚染されないIC包装用導電性樹脂組成物として採用することは予測困難なものというべきである。
したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明であるということはできないし、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●刊行物2には、導電性ポリスチレン層が、ポリスチレン65〜75重量%と、エチレン-酢酸ビニル共重合体5〜15重量%と、カーボン10〜25重量%とを含有する導電性ポリスチレン樹脂組成物により形成されている電子部品用導電性搬送体の底材が記載されており、さらに、IC等の電子部品のテーピング包装に使用する電子部品用導電性搬送体の底材に関するとの記載もあることから、刊行物2には、IC包装用導電性樹脂組成物が記載されているといえる。
しかしながら、刊行物2に記載の導電性樹脂組成物は、エチレン-酢酸ビニル共重合体を必須の成分として含むのに対し、本件発明1においては、構成要件1で規定するとおり、オレフィン系樹脂として「エチレン-酢酸ビニル共重合体」を除くものである。
そうすると、導電性樹脂組成物を構成する樹脂成分については、両者は全く異なることになる。
さらに、刊行物2に記載の導電性樹脂組成物において、エチレン-酢酸ビニル共重合体に代えて、オレフィン系樹脂を用いても同等の物性を有する組成物が得られるとの記載も示唆もされていないのであるから、刊行物2に記載の導電性樹脂組成物において、エチレン-酢酸ビニル共重合体に代えてオレフィン系樹脂を採用して導電性樹脂組成物とすることは容易に想到し得ないことである。
したがって、本件発明1は、刊行物2に記載された発明であるということはできないし、刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●刊行物3には、ポリスチレン100重量部に対し、(b)カーボンブラック10〜70重量部、及び(c)カーボンブラックとポリスチレンの双方に親和性の良好なブタジエンを一成分とする合成ゴムまたはゴム質のオレフィン系コポリマーの少なくとも一種15〜80重量部からなるIC包装用導電性樹脂組成物が記載され、ポリエチレンの使用量として10重量%以下であれば使用してもよいことが記載されている。
しかしながら、添加してもよいとされるポリエチレン樹脂については、どのような物性のポリエチレン樹脂であるのか何ら記載がなく、刊行物3に記載のポリエチレンが、本件発明の構成要件2で規定している「190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である」という物性を有しているかどうかは不明であるし、一般に、ポリエチレンであれば、直ちに本件発明の構成要件2で規定している物性を有するものである、とすることもできない。
さらに、刊行物3には、カーボンブラックの混入を容易にするため、ポリオレフィンを混入することについて記載されているが、物性は充分に改善されるに至らず、との記載からみて、導電性熱可塑性樹脂組成物にオレフィン系樹脂を含有させることにより、IC包装用に用いられた場合に、IC等との接触時の摩擦によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少できるということが示唆されているとはいえない。
また、刊行物3には、樹脂組成物は電子部品用収納ケースの如き電気的性質、機械的性質に於いて更に過酷な物性要求を受ける場合に於いても十分適用することが可能であることが記載されているが、前記電気的性質、機械的性質は、その明細書の記載からみて、樹脂にカーボンブラックを混入したときの樹脂組成物の導電性や強度に関する性質をいうものであって、これらの記載が、本件発明でいうIC等との接触時の摩擦によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少することまで示唆しているということはできない。
したがって、本件発明1は、刊行物3に記載された発明であるということはできないし、刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●刊行物4には、熱可塑性樹脂20〜99重量%に飽和型スチレン系熱可塑性エラストマー又は飽和型オレフィン系熱可塑性エラストマーの少なくとも一種1〜80重量%を加えた合計100重量部にカーボンブラック15〜200重量部を配合した導電性熱可塑性樹脂組成物が記載され、プラスチックに導電性を付与した材料は静電防止成形品その他非常に広範囲にわたって使用されていることが記載されており、通常IC部品は静電気から保護する必要性もあることを勘案すると、刊行物4には、IC包装用導電性樹脂組成物が記載されているといえる。
しかしながら、刊行物4に記載されている、熱可塑性樹脂についても、多種類の樹脂が例示され、また、飽和型スチレン系熱可塑性エラストマー又は飽和型オレフィン系熱可塑性エラストマーについても、樹脂の種類は特定されていないから、本件発明で規定する構成要件1が記載されているとはいえず、さらに、構成要件2についても記載されているとはいえない。
しかも、刊行物4には、導電性熱可塑性樹脂組成物にオレフィン系樹脂を含有させることにより、IC包装用に用いられた場合に、IC等との接触時の摩擦によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少できるということに関しては、何ら記載がされていないし、そのような示唆もない。
したがって、本件発明1は、刊行物4に記載された発明であるということはできないし、刊行物4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
●刊行物5には、透光性の平板状物質の表面を導電性物質で被覆してなる導電性素材や、カーボンや金属粉などの導電性物質を混入したプラスチックフィルムが、電子部品のキャリヤーテープとして使用されていることが記載されている。
しかしながら、本件発明1の構成要件1、2に関しては何ら記載がされていない。
●刊行物6には、ポリマーアロイに関して記載され、刊行物7には、相溶化剤に関して記載がされているものの、本件発明1の構成要件1、2、3に関しては一切記載がされていない。
●刊行物8には、静電防止包装資材とその特徴として、導電性カーボンブラック練込みタイプのプラスチックが導電袋、ICパレット、ICマガジン、キャリヤーテープ等として使用されることが示されている。
しかしながら、本件発明1の構成要件1、2に関しては何ら記載がされていない。
●刊行物9には、高圧法低密度ポリエチレンのメルトフローレート値について記載がされているが、本件発明1の構成要件1、2、3に関しては何ら記載がされていない。
●刊行物10、11には、ポリフェニレンエーテル系樹脂にカーボンブラックを配合した導電性樹脂組成物がICチップトレー等として採用されることが記載されているものであるが、本件発明1の構成要件1、2に関しては何ら記載がされていない。
●刊行物12には、ポリフェニレンエーテル樹脂とスチレン系樹脂を含む樹脂組成物にカーボンブラックを配合した導電性樹脂組成物において、特定のジアミド化合物を添加することにより導電性、加工性、耐熱性、寸法安定性の優れた樹脂組成物とすることに関して記載されているが、本件発明1の構成要件1、2、3に関しては何ら記載がされていない。
●刊行物13には、スチレン系樹脂にカーボンブラックを分散したシートが帯電防止性を有し、チップ型電子部品の保管、輸送、装着に際し、チップ型電子部品を汚染から保護し、等の機能を有する包装体である表面導電性プラスチックシートが示されている。
しかしながら、本件発明1の構成要件1、2に関しては何ら記載がされていない。
●刊行物14には、基材層の少なくとも片面にスチレン系樹脂100重量部に対してカーボンブラックを1〜50重量部含有し、その表面比抵抗値が1010Ω以下である表面導電層を積層してなる表面導電複合プラスチックシートが、IC包装容器として用いられることが記載されている。
しかしながら、本件発明1の構成要件1、2に関しては何ら記載がされていない。
そうすると、本件発明1は、刊行物5〜14に記載された発明であるということはできないし、刊行物5〜14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
◆次に、刊行物1〜14に記載された技術を組み合わせて、本件発明1が容易に導き出せるか否かについて検討する。
本件発明1は、導電性樹脂組成物として、構成要件2で規定しているとおり、特定の物性を有するポリオレフィンを配合した樹脂組成物をIC包装用導電性樹脂組成物として用いた場合に、IC等との接触時の摩擦によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少できる、というものである。
これに対し、前記刊行物2〜5、8、10〜11には、導電性樹脂組成物がIC包装用に適用できることは記載されているが、IC包装用に用いた場合に、IC等との接触時の摩擦によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少できることに関しては何ら記載がされていないし、刊行物13、14には、チップ型電子部品の保管、輸送、装着に際し、チップ型電子部品を汚染から保護できることが記載されているが、これらは、その記載からみて、チップ型電子部品を取り巻く環境からの汚染を防止することを意図したものというべきで、導電性樹脂組成物におけるIC等との接触時の摩擦によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を防止することを意図したものということはできない。
そうすると、刊行物2〜5、8、10〜11、13〜14に導電性樹脂組成物をIC包装用に採用できることが記載されているとしても、これらの技術はIC等を電荷の蓄積による静電気又は高電圧による絶縁破壊から防止するための技術を開示したものであり、本件発明1が、構成要件2で規定している、特定のポリオレフィンを配合した導電性樹脂組成物をIC包装用導電性樹脂組成物として用いた場合に、IC等との接触時の摩擦によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少できる、という技術まで前記刊行物2〜5、8、10〜11、13〜14に開示ないし示唆がされているということはできない。
そうであれば、ポリスチレン、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、ポリエチレン又はエチレン共重合体及びカーボンブラックからなる導電性熱可塑性樹脂組成物が記載されている刊行物1又はポリスチレン、カーボンブラック、ブタジエンを一成分とする合成ゴム又はゴム質のオレフィン系コポリマー、ポリエチレンからなる導電性樹脂組成物が記載されている刊行物3に記載された発明に、刊行物2〜5、8、10〜11、13〜14に記載された発明を適用した場合、IC等を静電気又は高電圧による絶縁破壊から防止できることは予測できるとしても、IC等との接触時の摩擦によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少できるということまで予測できるとはいえないから、本件発明1の構成要件1、2、3で規定するIC包装用導電性樹脂組成物とすることは当業者が容易に想到し得ないものというべきである。
なお、刊行物6、7には相溶化剤に関する記載が、刊行物9には高圧法低密度ポリエチレンのメルトフローレートに関する記載が、刊行物12にはポリフェニレンエーテル樹脂を含む導電性樹脂組成物についての記載がそれぞれあるだけで、IC包装用導電性樹脂組成物については何らも記載されていないから、これらの技術を勘案しても、本件発明1の構成要件1、2、3で規定するIC包装用導電性樹脂組成物とすることは当業者が容易に想到し得ないものというべきである。
そして、本件発明1は、構成要件1、2、3を採用することにより、IC包装用に用いた場合に、IC等との接触時の摩擦によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少できるという明細書記載の顕著な効果を奏するものといえる。
したがって、刊行物1〜14に記載の技術を併せ検討しても、本件発明1は、刊行物1〜14に記載された発明であるとはいえないし、刊行物1〜14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【2】本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成の主要部をその発明の構成の主要部とするものであるから、本件発明1が刊行物1〜14に記載された発明であるといえず、刊行物1〜14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえない以上、本件発明1と同様、本件発明2は、刊行物1〜14に記載された発明であるとはいえないし、刊行物1〜14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
【3】本件発明3〜7について
本件発明3〜5は、本件発明1、2を引用するものであり、本件発明6、7は、本件発明1〜5をさらに引用するものであるから、本件発明1、2が刊行物1〜14に記載された発明であるといえず、刊行物1〜14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえない以上、本件発明1、2と同様に、本件発明3〜7は、刊行物1〜14に記載された発明であるとはいえないし、刊行物1〜14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(4)むすび
したがって、本件発明1〜7が、特許出願の際、独立して特許を受けることができないとすることはできない。
また、他に本件発明1〜7が、独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
III.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第2項ないし第4項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
導電性樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック及び(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂からなるIC包装用導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項2】 (A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック、(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂及び(D)相溶化剤からなる導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部及び(D)相溶化剤1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項3】 (C)オレフィン系樹脂がポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1記載のIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項4】 (C)オレフィン系樹脂がポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項2記載のIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項5】 (D)相溶化剤がスチレン-ジエンブロック共重合体に水素添加した樹脂及び/又はポリオレフィンにスチレンをグラフト共重合した樹脂であることを特徴とする請求項2記載のIC包装用導電性樹脂組成物。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれか一に記載のIC包装用導電性樹脂組成物よりなるIC包装用の成形品。
【請求項7】 請求項1〜5のいずれか一に記載のIC包装用導電性樹脂組成物よりなるIC包装用のシート。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂及びカーボンブラックからなるIC包装用導電性樹脂組成物において、この導電性樹脂組成物に、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂を含有させることにより、IC等との接触時の摩耗によるカーボンブラック等の脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少させたIC包装用導電性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来からICやICを用いた電子部品の包装形態としてインジェクショントレー、真空成形トレー、マガジン、エンボスキャリアテープなどが使用されており、これらの包装容器には静電気によるIC等の破壊を防止するために(1)包装容器の表面に帯電防止剤を塗布する方法、(2)導電性塗料を塗布する方法、(3)帯電防止剤若しくは導電性フィラーを分散させる方法等が実施されている。
【0003】
しかしながら、(1)の方法は、塗布直後は十分な帯電防止効果を示すが、長時間の使用により、水分による流出、摩耗による帯電防止剤の脱離が生じ易く安定した性能が得られない。また表面固有抵抗値も109〜1012Ω程度であり厳しい帯電防止効果を要求されるICの包装には不適当である。
(2)の方法は、製造において塗布が不均一となり易くまた摩耗による剥がれ落ちのため帯電防止効果を失いICを破壊すると共にICのリード部を汚染するという欠点がある。
(3)の方法においては帯電防止剤では、添加量が多量に必要のため樹脂の物性を低下させ、また表面固有抵抗値が湿度により大きく影響され安定した性能が得られない。
【0004】
又、導電性フィラーとしては金属微粉末、カーボンファイバー、カーボンブラックなどが挙げられる。この内金属微粉末及びカーボンファイバーは、少量の添加で十分な導電性が得られるが成形性が著しく低下し、また均一に分散させることが難しく、かつ成形品の表面に樹脂成分のみのスキン層が出来易く安定した表面固有抵抗値が得られにくい。
これらに対しカーボンブラックは混練条件等の検討により均一に分散させることが可能であり、安定した表面固有抵抗値が得られ易いことから、一般的に使用されているが、カーボンブラックを多量に添加する必要が有るため流動性や成形性が低下する現象がある。
従来、カーボンブラックを分散させる樹脂としては、一般用としてポリ塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂及びABS系樹脂が、また100℃以上での耐熱用としてポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート樹脂などが用いられている。これらの樹脂の中で、耐熱用としてはポリフェニレンエーテル系樹脂が、一般用としてはポリスチレン系樹脂及びABS系樹脂が、カーボンブラックを多量に添加しても流動性や成形性の著しい低下がなく、さらにコストの面で非常に優れている。しかしながら、カーボンブラックを多量に添加した組成物は、摩耗により成形品の表面からカーボンブラックが脱離し易いという欠点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる欠点を解決するものであり、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂及びカーボンブラックからなるIC包装用導電性樹脂組成物において、この導電性樹脂組成物に、さらに、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂を含有させることにより、成形品とIC等との接触・摩耗が原因となるカーボンブラックの脱離によるIC等の汚染を著しく減少させた導電性樹脂組成物を提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の第1の発明は、(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック及び(C)エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂からなるIC包装用導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物である。
【0007】
本発明の第2の発明は、(A)ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂、(B)カーボンブラック、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除く(C)オレフィン系樹脂及び(D)相溶化剤からなる導電性樹脂組成物において、(a)前記(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部を含有し、かつ、前記(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である前記(C)オレフィン系樹脂1〜30重量部及び(D)相溶化剤1〜30重量部を含有してなり、かつ、(b)導電性樹脂組成物をシート状に成形したときの表面固有抵抗値が102〜1010Ωであることを特徴とする、ポリフェニレンエーテル系樹脂を含まない、カーボンブラックの脱離が抑制されたIC包装用導電性樹脂組成物である。
【0008】
本発明の第3の発明は、(C)オレフィン系樹脂がポリエチレン樹脂であることを特徴とする第1の発明記載のIC包装用導電性樹脂組成物である。
本発明の第4の発明は、(C)オレフィン系樹脂がポリエチレン樹脂であることを特徴とする第2の発明記載のIC包装用導電性樹脂組成物である。
本発明の第5の発明は、(D)相溶化剤がスチレン-ジエンブロック共重合体に水素添加した樹脂及び/又はポリオレフィンにスチレンをグラフト共重合した樹脂であることを特徴とする第2の発明記載のIC包装用導電性樹脂組成物である。
【0009】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0010】
本発明で使用するポリスチレン系樹脂とは一般のポリスチレン樹脂又は耐衝撃性ポリスチレン樹脂及びこれらの混合物を主成分とするものをいう。ABS系樹脂とはアクリルニトリル-ブタジエン-スチレンの三成分を主体とした共重合体を主成分とするものをいう。
【0011】
本発明で使用するカーボンブラックは、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等であり、好ましくは比表面積が大きく、樹脂への添加量が少量で高度の導電性が得られるものである。例えば、S.C.F.(Super Conductive Furnace)、E.C.F.(Electric Conductive Furnace)、ケッチェンブラック(ライオン-AKZO社製商品名)及びアセチレンブラックである。カーボンブラックの添加量は、表面固有抵抗が102〜1010Ωとすることのできる添加量であり、かつ樹脂(A)熱可塑性樹脂100重量部に対し(B)カーボンブラック5〜50重量部が好ましい。添加量が5重量部未満では十分な導電性が得られず表面固有抵抗値が上昇してしまい、また50重量部を越えると樹脂との均一分散性が悪化し、成形加工が困難となり、かつ、機械的強度等の特性値が低下してしまう。また、表面固有抵抗値が1010Ωを越えると十分な帯電防止効果がえられず、逆に102Ω未満では、導電性が高すぎて電磁誘導や静電誘導などにより起電力が生じICを破壊する恐れがある。
【0012】
本発明で使用する、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除く(C)オレフィン系樹脂としてはポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂やこれらと他の樹脂とのブレンド物が挙げられる。これらの中でも特にポリエチレン系樹脂を使用するのが好ましい。前記のポリエチレン系樹脂は、高圧重合法で得られる低密度ポリエチレン樹脂、低圧重合法で得られる高密度ポリエチレン樹脂、低圧溶液重合法で得られる直鎖状低密度ポリエチレン樹脂などに分類される。本発明において、ポリエチレン系樹脂と相溶化剤を併用する際には高密度ポリエチレン樹脂を使用することが好ましく、また、単独で使用する際には、密度が0.930g/cm3以下の低密度ポリエチレン樹脂又は密度が0.945g/cm3以下の直鎖状低密度ポリエチレン樹脂を使用するのが好ましい。
【0013】
本発明で使用するエチレン-酢酸ビニル共重合体を除く(C)オレフィン系樹脂のメルトフローインデックス(JIS-K-7210に準じて測定)は、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上であり、この数値未満ではポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂との混練が困難となり、良好な組成物が得られない。エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂の添加量は、(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、1〜30重量部が好ましく、特に好ましくは3〜25重量部である。添加量が1重量部未満ではその効果が不十分であり、30重量部を越えると、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂中に均一に分散させることが困難となる。
【0014】
本発明において、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂のポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂中への分散をより均一化するために、相溶化剤としてスチレン-ジエンブロック共重合体に水素添加した樹脂及びポリオレフィンにスチレンをグラフトした樹脂の少なくとも1種類から選ばれたものを添加することが好ましい。本発明で使用するスチレン-ジエンブロック共重合体に水素添加した樹脂のジエンは、ブタジエン又はイソプレンが好ましく、ポリオレフィンにスチレンをグラフトした樹脂のポリオレフィンとはポリエチレン、ポリプロピレン又はエチレン-酢酸ビニル共重合体が好ましい。また、これらの相溶化剤の添加量は、(A)熱可塑性樹脂と(B)カーボンブラックの合計量100重量部に対し、1〜30重量部が好ましく、30重量部を越えると、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂中におけるエチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂の分散が良好となりすぎ、カーボンブラック等の脱離の抑制効果が失われてしまう。1重量部未満では、その効果が不十分である。
【0015】
本発明で相溶化剤として使用する樹脂のメルトフローインデックス(JIS-K-7210に準じて測定)は、200℃、荷重5kgの条件で0.1g/10分以上であり、この数値未満では、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂との混練が困難となる。
更に、本発明の導電性樹脂組成物には、必要に応じて流動特性を改善するための滑剤、可塑剤、加工助剤、成形品の力学特性を改善するための補強剤などの各種添加剤及び他の樹脂成分を添加することが可能である。
【0016】
本発明の導電性樹脂組成物は、十分な成形加工性を維持するために、表面固有抵抗値が102〜1010Ωとなるようにカーボンブラックを充填した場合、メルトフローインデックス(JIS-K-7210に準じて測定)が、ポリスチレン系樹脂に充填した場合は、200℃、荷重5kgの条件で、ABS系樹脂に充填した場合は、220℃、荷重10kgの条件で、それぞれ、0.1g/10分以上である。
本発明において、樹脂等の各種原材料を混練、ペレット化するにはバンバリーミキサー、押出機等の公知の方法を用いることが可能である。
【0017】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
表1に、本発明にて使用した原料について示す。
実施例1〜7
表2に示す原料組成割合にて原料を各々計量し、高速混合により均一に混合した後、φ45mmベント式二軸押出機を用いて混練し、ストランドカット法によりペレット化した。次にペレット化した樹脂組成物を、サンプル(イ)はφ65mm押出機(L/D=28)を用い500mm幅のTダイにより、厚さ500μmのシート状に成形したもの、サンプル(ロ)はインジェクション成形機(100t)により厚さ1mm×120mm角のプレート状及び引張測定用試験片形状に成形し評価用のサンプルとした。
評価結果を表4及び表5に示す。各実施例においては、カーボンブラックの脱落はなかった。
【0018】
比較例1〜3
実施例1と同様にして、使用する原料を、表3に示す組成割合にて各々計量し、高速混合により均一に混合した後、φ45mmベント式二軸押出機を用いて混練し、ストランドカット法によりペレット化した。次にペレット化した樹脂組成物にてサンプルM及びサンプルNを作成し評価した。各比較例においては、カーボンブラックの脱落が確認された。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

【0023】
【表5】

【0024】
尚、各評価は次に示す方法によって行った。
(1)表面固有抵抗
サンプル(イ)及び(ロ)ともにロレスター表面抵抗計(三菱油化社製)により電極間を10mmとしサンプル中任意の10点を測定し、その対数平均値を表面固有抵抗値とした。
(2)破断点強度、引張弾性率
JIS-K-7113に準拠しサンプル(イ)については2号形試験片、サンプル(ロ)については1号形試験片を引張速度10mm/minで測定した。
【0025】
(3)カーボン脱落の有無
各シート及びプレートサンプルの表面にQFP14mm×20mm/64pinのICを100gの荷重で押し付け、ストローク15mmで100往復させ、その後ICのリード部をマイクロスコープで観察。リード部にカーボンブラック等黒色の付着物の有無で評価した。
(4)MFI
各実施例及び比較例のペレットについてJIS-7210に準拠し測定を行った。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したとおり、ポリスチレン系樹脂又はABS系樹脂の少なくとも1種類から選ばれた熱可塑性樹脂及びカーボンブラックからなるIC包装用導電性樹脂組成物において、この導電性樹脂組成物に、さらに、190℃、荷重2.16kgの条件で、0.1g/10分以上である、エチレン-酢酸ビニル共重合体を除くオレフィン系樹脂を含有させることにより、IC等と接触時の摩耗によるカーボンブラックの脱離が原因となるIC等の汚染を著しく減少させた導電性樹脂組成物を得ることが可能となる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2005-03-01 
出願番号 特願平7-10685
審決分類 P 1 41・ 121- Y (C08L)
P 1 41・ 113- Y (C08L)
P 1 41・ 856- Y (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 舩岡 嘉彦
佐野 整博
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3305526号(P3305526)
発明の名称 導電性樹脂組成物  
代理人 箱田 篤  
代理人 相良 由里子  
代理人 大塚 文昭  
代理人 西島 孝喜  
代理人 辻井 幸一  
代理人 小川 信夫  
代理人 中村 稔  
代理人 西島 孝喜  
代理人 村社 厚夫  
代理人 相良 由里子  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 今城 俊夫  
代理人 村社 厚夫  
代理人 小川 信夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 穴戸 嘉一  
代理人 中村 稔  
代理人 今城 俊夫  
代理人 辻居 幸一  
代理人 大塚 文昭  
代理人 浅井 賢治  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 浅井 賢治  

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