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審決分類 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない C08J
審判 全部無効 発明同一 無効としない C08J
管理番号 1115675
審判番号 無効2002-35239  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-06-07 
種別 無効の審決 
審判請求日 2002-06-06 
確定日 2005-04-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第1956854号「熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体の製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成15年 6月10日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成15年(行ケ)第0315号平成16年 9月30日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
特許出願 平成 1年10月20日
特許出願公開 平成 3年 6月 7日
特許出願公告 平成 5年11月26日
特許異議申立 平成 6年 2月25日
答弁書及び
手続補正書提出 平成 6年10月21日
異議決定(理由なし)及び
特許査定 平成 6年12月 5日
設定登録 平成 7年 8月10日
無効審判請求 平成14年 6月10日
答弁書及び
訂正請求書 平成14年 9月17日
弁駁書 平成14年12月 3日
口頭審理 平成15年 1月22日
第二答弁書 平成15年 2月21日
第二弁駁書 平成15年 3月17日
審決(無効) 平成15年 6月10日
審決取消訴訟提起 平成15年 7月16日
(東京高裁 平成15年(行ヶ)第315号)
訂正審判請求 平成16年 3月 8日
(訂正2004-39047号)
訂正拒絶理由通知 平成16年 6月23日
意見書提出 平成16年 7月28日
審決(訂正容認) 平成16年 8月 6日
判決言渡し(平成15年(行ヶ)第315号、審決を取り消す)
平成16年 9月30日
II.本件発明
本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正審判(訂正2004-39047号)の審決が確定した結果、本件発明は、訂正審判の請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「発泡剤として加熱すると熱可塑性ポリエステル系樹脂内で気化するブタンの液体を含む熱可塑性ポリエステル系樹脂を発泡させ、発泡した直後の高温の熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体を樹脂のガラス転移点以下に急冷して、結晶化度を30%以下とし、その後このポリエステル系樹脂発泡体を60℃以上に加熱して137%以上の倍率で二次発泡させることを特徴とする、熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体の製造方法。」
III.請求人の主張
1.請求人は、甲第1〜7号証を提出して、本件発明の特許を無効とする、との審決を求め、その理由として、本件発明は、本件特許出願の日前の他の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開がされた特願平2-84789号(甲第1号証、特開平2-286725号公報)の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であり、本件発明の特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反してされたものであるから、
また、本件発明の特許は、その特許明細書の記載に不備があり、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項の規定により無効とされるべきものである旨主張する。
2.証拠方法
請求人が上記主張事実を立証するために提示した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 特開平2-286725号公報
甲第2号証 特開昭59-135237号公報
甲第3号証 米国特許第4127631号明細書及びその抄訳文
甲第4号証 JIS K7121「プラスチックの転移温度測定方法」 247頁-250頁
甲第5号証 特開昭59-62660号公報
甲第6号証 高分子学会編「高分子データハンドブック」[基礎編]株 式会社培風館 昭和61年1月30日発行 532頁
甲第7号証 伊藤公正編「プラスチックデータハンドブック」株式会社 工業調査会 1980年7月5日発行 72頁
参考資料 東京高裁昭和60年(行ケ)第43号、昭和62年1月2 8日判決
参考資料2 東京高裁昭和52年(行ケ)第77号、昭和53年11月 22日判決
参考資料3 東京高裁平成元年(行ケ)第169号、平成2年9月25 日判決
参考資料4 高分子学会編「入門 高分子特性解析」共立出版株式会社 1986年7月5日発行 11頁(注;甲第8号証として 提出されたものを参考資料4としたものである)

IV.被請求人の主張
1.被請求人は、訂正請求書及び審判事件答弁書及び第二答弁書を提出するとともに、証拠方法として乙第1〜14号証及び参考資料1〜3を提出し、審判請求人の主張はいずれも妥当なものではない、旨主張している。
2.証拠方法
乙第1号証 湯木和男編「飽和ポリエステル樹脂ハンドブック」日刊 工業新聞社 1989年12月22日発行 229頁- 232頁、286頁-287頁
乙第2号証 小川 伸著「英和プラスチック工業辞典」株式会社工業 調査会 1985年6月10日発行 422頁
乙第3号証 (財)日本規格協会編「JIS工業用語大辞典 第4版 」(財)日本規格協会 1995年11月20日発行 331頁
乙第4号証 筏 義人他著「高分子事典」株式会社高分子刊行会 1 985年2月25日発行 44頁-47頁
乙第5号証 高分子学会編「高分子辞典」株式会社朝倉書店 昭和5 3年5月1日発行 668頁-669頁
乙第6号証 実用プラスチック事典編集委員会編「実用プラスチック 事典」株式会社産業調査会 1993年9月20日発行 388頁
乙第7号証 東京地裁昭45(ワ)428号、東京地裁昭48(ワ) 1538号、東京地裁昭48(ワ)6965号特許権侵 害禁止等請求事件、昭和59年10月26日判決
乙第8号証 永井 進監修「実用プラスチック用語辞典 第三版」株 式会社プラスチックス・エージ 1989年9月10日 発行 148頁
乙第9号証 大津隆行著「改訂高分子合成の化学」株式会社化学同人 1979年1月10日発行 12頁〜13頁
乙第10号証 L・メンデルカーン著「高分子の科学」共立出版株式会 社 昭和60年3月15日発行 77-79頁
乙第11号証 ASTM D3418-82(Reapproved 1988) 380頁-384頁
乙第12号証 日本分析化学会編「高分子分析ハンドブック」株式会社 朝倉書店 1985年1月25日発行 144頁
乙第13号証 日本化学会編「新実験化学講座(2)基礎技術1 熱・ 圧力」 丸善株式会社 昭和52年9月20日発行 1 18頁-119頁
乙第14号証 中島章夫他著「高分子化学序論」株式会社化学同人 1 975年8月30日発行 162頁
参考資料1 特許第2684077号公報
参考資料2 特開平8-231751号公報
参考資料3 特許第2926635号公報
V.特許無効に対する判断
請求人の主張について以下検討する。
1.特許法第29条の2第1項違反につて
(1)甲第1号証として提出された特開平2-286725号公報に係る特願平2-84789号(パリ条約による優先権主張 1989年3月31日、米国)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という、特開平2-286725号公報参照)には、以下の事項が記載されている。
「2.(1)(a)約94〜約99重量%のポリエチレンテレフタレート及び(b)約1〜約6重量%の少なくとも1種のポリオレフィンより成る熱可塑性樹脂組成物を押出機に供給し;
(2)熱可塑樹脂組成物が溶融状態にある間に熱可塑性樹脂組成物に不活性ガスを混入し;そして
(3)不活性ガスを含有する熱可塑性樹脂組成物をシート形成ダイから押し出して密度が約0.4〜約1.25の範囲内にある実質的に非晶質の気泡質シートを与えるのに十分な量の不活性ガス気泡を含有する実質的に非晶質の気泡質シートを製造する;
ことから成る、軽量薄肉物品に熱成形することが可能な非晶質の気泡質シートの製造法。
3.(1)(a)約94〜約99重量%のポリエチレンテレフタレート及び(b)約1〜約6重量%の少なくとも1種のポリオレフィンより成る熱可塑性樹脂組成物を押出機に供給し;
(2)熱可塑樹脂組成物が溶融状態にある間に押出機中の熱可塑性樹脂組成物に不活性ガスを混入し;
(3)不活性ガスを含有する熱可塑性樹脂組成物をシート形成ダイから押し出して密度が約0.4〜約1.25の範囲内にある実質的に非晶質の気泡質シートを与えるのに十分な量の不活性ガス気泡を含有する実質的に非晶質の気泡質シートを製造し;
そして
(4)気泡質シートを加熱されたモールドの中で熱成形して軽量物品を製造する;
ことから成る軽量物品の製造法。」(特許請求の範囲第2項及び第3項)
「本発明は、具体的に述べると(a)約94〜約99重量%のポリエチレンテレフタレート、(b)約1〜約6重量%の少なくとも1種のポリオレフィン及び(c)密度が約0.4〜約1.25の範囲内にある実質的に非晶質の気泡質シートを与えるのに十分な量の不活性ガス気泡より成る実質的に非晶質の気泡質シートを熱成形することから成る軽量薄肉物品の製造法を開示するものである。ほとんどの場合、熱成形は加熱されたモールドの中で物品に約5%乃至約45%の範囲内の結晶化度を達成するのに十分な時間行われる。」(公報4頁左上欄3〜13行)
「本発明の方法を実施するとき、その熱可塑性樹脂組成物を用いて気泡質シートが作られる。このような気泡質シート材料は少なくとも1種の不活性ガスを溶融した熱可塑性樹脂組成物と押出機の中で混合することによつて作られる。これはシート形成ダイを備えた押出機中の溶融樹脂に不活性ガスを単に注入することによつて行われる。本発明の方法で用いられる不活性ガスは必要とされる昇温された加工温度で熱可塑性樹脂組成物と化学反応しないものであればどのような気体であつてもよい。使用可能な幾つかの代表的例に窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン及びクリプトンがある。コストを節約する目的からは窒素が不活性ガスとして通常使用される。
気泡質シートは可塑化押出機か溶融押出機により製造することができる。これらタイプのスクリュー押出機は不活性ガスのばらばらに分散した気泡を含有する溶融熱可塑性樹脂組成物を金属ダイから押し出し、シートを目的の形状に連続的に造形する。」(公報7頁左下欄12行〜右下欄11行)
「製造された気泡質シートは典形的には対流冷却空気若しくは不活性ガスで、又は流体浴への浸漬で、あるいはチルドロールを通過させることで延伸することなしに冷却される。製造された気泡質シートの性質は一般に非晶質である。
気泡質シートは典形的にはシートに約0.4〜約1.25の範囲内の密度を与えるのに十分な量の不活性ガス気泡を含有している。ほとんどの場合、気泡質シートはそれに0.7〜1.15の範囲内の密度を与える量の不活性ガス気泡を含有する。気泡質シートは約0.9〜約1.1の範囲内の密度を有するのが一般に好ましい。」(公報8頁左下欄1〜13行)
「実施例1
・・・調製された熱可塑性樹脂組成物はポリエチレンテレフタレートを約97%、線状低密度ポリエチレンを約3重量%及び安定剤を約0.6重量%含有していた。樹脂組成物を6.35cm(2.5インチ)のエガン(Egan)押出機を用いて押し出した。押出機は約280〜約330℃の範囲のバレル温度を用いて運転した。押出機速度70rpmを用い、その際計量ポンプにおける温度は約275℃に保つた。ダイの温度は約260℃に保持した。窒素ガスを圧力2.2×107パスカル(3,200psi)で押出機に導入した。製造された気泡質シートは厚さ0.076cm(0.03インチ)、密度約1.0g/ccであつた。この密度は24%の密度低下率を表わす。
製造されたシート材料を標準的な熱成形機を用いてトレーに熱成形した。熱成形プロセスは予熱炉時間約15秒、成形時間8〜10秒、シート温度154℃、モールド温度154〜136℃、最高炉温度299℃及び最低炉温度116℃を用いて実施した。このプロセスを用いて製造したトレーは非常に満足すべきものであつた。これらトレーの密度を測定すると、0.85g/ccであつた。これは同じ熱可塑性樹脂組成物を用いて作られる中実トレーに対して37%の密度低下率を表わす。・・・
製造されたこれらトレーの密度が気泡質シートの密度より15%小さいことに注目すべきである。この更なる密度低下は熱成形プロセス中の窒素気泡の膨張によるものである。製造される熱成形物品は気泡質シートの密度より約8〜約25%小さい密度を有するのが典形的である。気泡質の熱成形物品の密度はそれが作られる気泡質シートの密度より約10〜約20%小さいのが更に典形的である。」(公報9頁右下欄8行〜10頁右上欄12行)
(2)対比・判断
本件発明において採用される発泡剤は、「加熱すると熱可塑性ポリエステル系樹脂内で気化するブタンの液体」である。そして、ブタンは、有機化合物であって、しかも、わずかの低温(ノルマルブタンは沸点が、-0.5℃であり、イソブタンは、-11.7℃である。)において液体である。
一方、先願明細書に記載された発明において、気泡質シートを作るために使用される発泡剤について、先願明細書には、「不活性ガスは必要とされる昇温された加工温度で熱可塑性樹脂組成物と化学反応しないものであればどのような気体であつてもよい」と記載され、不活性ガスは昇温された加工温度で熱可塑性樹脂組成物と化学反応しない気体であればよいことが記載されている。さらに、先願明細書には、「使用可能な幾つかの代表的例に窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン及びクリプトンがある」とも記載されている。
しかしながら、先願明細書に不活性ガスとして例示された窒素、二酸化炭素、ヘリウム、ネオン、アルゴン及びクリプトンは、いずれも無機化合物の範疇に入るものであり、しかも、かなりの低温(例えば、窒素は沸点が、-196℃であり、ヘリウムは-269℃である。)においても気体であって、したがって、気化温度は相当の低温である。
そうすると、先願明細書に「不活性ガスは必要とされる昇温された加工温度で熱可塑性樹脂組成物と化学反応しないものであればどのような気体であつてもよい」と記載されている気体としての「不活性ガス」は、無機化合物で、かなりの低温で気化するものを意味しているというべきであり、たとえ、必要とされる昇温された加工温度で熱可塑性樹脂組成物と化学反応しない気体となるものであっても、有機化合物であるブタンのようなわずかな低温で気化する化合物まで意味しているとはいえず、先願明細書には、不活性ガスとして、無機化合物に係るものが開示されているに止まり、有機化合物であるブタンまで開示されているとはいえない。
また、本件発明において採用される発泡剤は、「加熱すると熱可塑性ポリエステル系樹脂内で気化するブタンの液体」であることから、熱可塑性ポリエステル系樹脂内に混入されるブタンは液体状態であるのに対し、先願明細書に記載された発明においては、発泡剤は「不活性ガス」であることから、気泡質シートを作るために熱可塑性樹脂組成物に混入される発泡剤は気体状態である。
そうすると、本件発明における熱可塑性ポリエステル系樹脂に混入される発泡剤と、先願明細書に記載された発明における熱可塑性樹脂組成物に混入される発泡剤とは、樹脂への混入時の形態がそれぞれ「液体状態」、「気体状態」と全く異なるものである。
さらに、熱可塑性ポリエステル樹脂を発泡する際に採用する発泡剤としての不活性ガスが、当然に液体のブタンを含むものであるということが周知・慣用の技術であるといえる根拠もない。
そして、本件発明は、「加熱すると熱可塑性ポリエステル系樹脂内で気化するブタンの液体」という液体状態の発泡剤を採用することにより、二次発泡倍率の高い熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体が得られるものである。
そうであれば、気泡質シートを作るために採用する発泡剤について、本件発明は、気化するブタンの液体であり、先願明細書に記載された発明においては、前記のとおりの不活性ガスであるから、両者において採用する発泡剤は相違しているというべきである。
したがって、先願明細書には、発泡剤として、本件発明が採用する、熱可塑性ポリエステル系樹脂内で気化するブタンの液体は、記載されているとはいえないから、本件発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。
2.特許法第36条違反について
(1)請求人の主張の概要
本件発明は発泡体を樹脂ガラス転移点以下に急冷することを構成要件としているが、ここにいうガラス転移点とはいかなる測定方法により特定される数値であるのか明細書中に何ら説明がない。
即ち、本件明細書には「PATのガラス転移点はPATを構成するカルボン酸とアルコールとの種類によって異なるが、大雑把に云えば、30-90℃の範囲内にある。従って、通常は、一次発泡体を60℃以下に急冷する。」と記載されているのみでガラス転移点の測定方法について何ら説明がない。
甲第4号証(JISK7121「プラスチックの転移温度測定方法」)によれば、ガラス転移温度には、中間点ガラス転移温度、補外ガラス転移開始温度、補外ガラス転移終了温度の3種があるが、どのガラス転移温度を採用するのかにつき説明がない。加えて、試験片の状態調節の仕方にも2種類あり、どの調節方法を適用するかについて説明がない。
したがって、発明の詳細な説明には、当業者が発明を実施できる程度に構成が記載されていないので、明細書の記載には不備がある。
(2)判断
本件の特許請求の範囲には、「発泡した直後の高温の熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体を樹脂のガラス転移点以下に急冷して、結晶化度を30%以下とし」と記載され、特にガラス転移点の温度については記載がない。
また、発明の詳細な説明においても、「PATのガラス転移点はPATを構成するカルボン酸とアルコールとの種類によって異なるが、大雑把に云えば、30-90℃の範囲内にある。」との記載はあるが、特定のPATのガラス転移点については記載がされていない。
しかしながら、本件発明は、特定の熱可塑性ポリエステル系樹脂に係るものではないから、すべての熱可塑性ポリエステル系樹脂についてガラス転移温度を示さなければならないというものではない。しかも、特許請求の範囲に記載されている「ガラス転移点」は、発明の詳細な説明の記載を参酌すれば、熱可塑性ポリエステル系樹脂を急冷して、発泡した直後の高温の熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体の結晶化度を30%以下とするための温度としてガラス転移点が示されているといえるから、発明の詳細な説明中にガラス転移点について「大雑把に云えば、30-90℃の範囲内にある」との記載があれば、「結晶化度30%以下」及びガラス転移点「30-90℃」を手がかりに当業者が本件発明を実施することは格別困難なことではないといえ、特にガラス転移温度について、明確な数値が示されていないと当業者が容易に本件発明を実施することができないとまではいえない。
さらに、周知技術といえる甲第6号証には、ポリエステル系樹脂のガラス転移温度が記載されているのであるから、少なくとも甲第6号証に記載されている数値を、ポリエステル系樹脂の通常の意味でのガラス転移温度と理解することも何ら問題はないといえ、これらの周知技術を勘案すれば、本件明細書には、当業者が容易に実施できる程度に本件発明が記載されているといえる。
したがって、本件特許明細書には、請求人が主張するような記載の不備があるとはいえない。
V.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-05-27 
結審通知日 2003-05-30 
審決日 2003-06-10 
出願番号 特願平1-273049
審決分類 P 1 112・ 531- Y (C08J)
P 1 112・ 161- Y (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 滝口 尚良  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 船岡 嘉彦
佐野 整博
井出 隆一
藤原 浩子
登録日 1995-08-10 
登録番号 特許第1956854号(P1956854)
発明の名称 熱可塑性ポリエステル系樹脂発泡体の製造方法  
代理人 長谷川 泰弘  
代理人 藤本 昇  
代理人 細井 勇  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 岩田 徳哉  

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