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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G02B
管理番号 1115913
審判番号 無効2004-80165  
総通号数 66 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-03-12 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-24 
確定日 2005-05-02 
事件の表示 上記当事者間の特許第3566232号発明「レーザエネルギー伝送用中空導波路およびその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)特許第3566232号の請求項1〜14に係る発明は、平成9年7月9日(優先日 平成9年2月7日)に出願した特願平9-183393号の一部を平成13年7月23日に新たな特許出願(特願2001-220931号)としたものであって、平成16年6月18日に特許の設定登録がなされたものである。

(2)これに対して、平成16年9月24日付で請求人松井久より特許無効審判が請求されたところ、経緯は以下のとおりである。
平成16年 9月24日 特許無効審判請求(請求人)
12月17日 答弁書(被請求人)
平成17年 2月22日 弁駁書(請求人)
3月 1日 口頭審理

2.本件発明
特許第3566232号の請求項1〜14に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明14」という。)は、特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】導波路を構成する管状部材と、前記管状部材の内壁に内装され、波長2μm以上の赤外領域の波長帯で透明な環状オレフィンポリマーよりなる薄膜の誘電体を有することを特徴とするレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項2】前記環状オレフィンポリマーは、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、またはテトラシクロドデセンを原料とするポリマー溶液の熱処理に基づく非結晶性環状オレフィンポリマーである構成の請求項1記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項3】前記管状部材は、リン青銅あるいはステンレスで構成される金属パイプである構成の請求項1記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項4】前記金属パイプは、内壁に他の金属材料からなる金属薄膜を設けた構成の請求項3記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項5】前記金属薄膜は、金,銀,モリブデン,あるいはニッケルで構成される請求項4記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項6】前記管状部材は、非金属パイプである構成の請求項1記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項7】前記非金属パイプは、内壁に少なくとも1層の金属材料からなる金属薄膜を設けた構成の請求項6記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項8】前記金属薄膜は、金,銀,モリブデン,あるいはニッケルで構成される請求項7記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項9】前記非金属パイプは、フッ素樹脂あるいは石英ガラスで構成される請求項6記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項10】前記管状部材によって囲まれた中空領域は、可視光および波長2μm以上の赤外光を重畳、または切り替えて入射する構成の請求項1記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項11】前記管状部材によって囲まれた中空領域は、空気、窒素、あるいは炭酸ガスを挿通させる構成の請求項1記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路。
【請求項12】導波路を構成する管状部材を用意し、
前記管状部材の内部に環状ポリオレフィンポリマーの溶液を注入して内壁全体に前記溶液を付着させ、前記管状部材の内部から余分な前記溶液を排出させ、前記管状部材の内部に所定の気体を挿通させながら前記管状部材に高温熱処理を施し、前記高温熱処理に基づいて前記内壁全域に付着した前記溶液を乾燥、固化させることにより薄膜の誘電体層を形成することを特徴とする請求項1記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路の製造方法。
【請求項13】前記誘電体層の形成は、所望の層厚が得られるまで繰り返して行われる請求項12記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路の製造方法。
【請求項14】前記溶液は、減圧ポンプによる吸引、あるいは高圧ガスによる圧送、あるいは溶液の重力を利用した注入、排出に基づいて前記管状部材の内部に注入され、排出される請求項12記載のレーザエネルギー伝送用中空導波路の製造方法。」

3.当事者の主張
(1)請求人
(ア)請求人の主張する無効理由は、以下の甲第1〜4号証に記載されている公知の「伝送する光の波長帯で透明な非晶質フッ素系樹脂層」等に換えて、以下の甲第5〜7号証に記載されている公知の「環状オレフィンポリマー」を適用することは容易であって、その効果も、甲第5〜7号証の「環状オレフィンポリマー」が当然有する物性以外の特異なものではないから、本件発明1〜14は、甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明し得たものであって、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきものである、というものである。
なお、請求人は平成17年2月22日付で提出した口頭審理陳述要領書に、以下の甲第8〜15号証を証拠方法として添付しているが、これらの追加された証拠(甲第10号証を除く)は後述するように(「5.対比・判断」)、甲第5〜7号証と同等の証拠とみなしうること(第1回口頭審理調書「審判長 1」参照)、また甲第10号証は本件特許の前置報告書であって、元々当審に顕著な内容に過ぎないから、これらの証拠を追加することで請求理由の要旨が変更されるとは言えない。
甲第1号証:特開昭61-233705号公報(以下、「刊行物1」という。)
甲第2号証:特開平2-278208号公報(以下、「刊行物2」という。)
甲第3号証:特開平6-148440号公報(以下、「刊行物3」という。)
甲第4号証:特開平8-234026号公報(以下、「刊行物4」という。)
甲第5号証:「機能材料」1993年1月号 Vol.13 No.1 第40〜52頁(以下、「刊行物5」という。)
甲第6号証:「合成樹脂」1995年 Vol.41 No.8 第15〜17頁(以下、「刊行物6」という。)
甲第7号証:「材料技術」1996年 Vol.14 No.8 第227〜230頁(以下、「刊行物7」という。)
甲第8号証:特開平2-133413号公報(以下、「刊行物8」という。)
甲第9号証:特開平1-240517号公報(以下、「刊行物9」という。)
甲第10号証:前置報告書
甲第11号証:特開平07-234327号公報 (以下、「刊行物10」という。)
甲第12号証:特開平06-155945号公報(以下、「刊行物11」という。)
甲第13号証:特開平08-94852号公報 (以下、「刊行物12」という。)
甲第14号証:1993年電子情報通信学会 春季大会4-357頁(以下、「刊行物13」という。)
甲第15号証:1994年電子情報通信学会 秋季大会223頁(以下、「刊行物14」という。)

(イ)また、請求人は、審判請求書において、特許法第36条第4項及び第6項の無効理由を主張していたが、その後前記主張を取り下げた(第1回口頭審理調書「請求人 4」)参照)。

(2)被請求人
前記請求人の主張(1)(ア)に対し、被請求人は答弁書において、甲第1〜4号証には「環状オレフィンポリマー」の記載はなく、甲第5〜7号証は、通常の可視光領域でのレンズ等一般的光学部品としての使用を前提としたものに過ぎず、波長2μm以上の赤外領域の波長帯における特性・用途についてはどこにも開示がないから、前記甲第5〜7号証を2μm以上赤外領域で使用する中空導波路の用途に結びつける動機づけがそもそもない旨主張する。また、Er:YAGレーザ、COレーザ、CO2レーザの発振波長帯である2.94、5.3、10.6μmにおいて、環状オレフィンポリマーの吸光係数はポリイミドより極めて小さい旨効果を主張する(乙第1号証(Applied Optics,vol.37,No.33(1998),p7758-7762)、乙第2号証(信学技報(1998),p7-13))。なお、甲第8、9、11〜15号証が仮に請求理由の要旨変更に当たらないとしても、これらの証拠から本件発明の容易性を導き出すことはできない旨口頭審理において主張した。

4.刊行物等の記載
請求人の提出した刊行物等には以下の事項が記載されている。
(1)刊行物1(甲第1号証)
(ア)「複素屈折率が大きな金属材よりなる楕円断面を有する中空光導波路において、長軸方向付近の内側のみに低損失な誘電体層を膜厚が誘電体中の電磁波の波長の1/4の奇数倍にほぼ比例するように設定して内装したことを特徴とする中空光導波路。」(特許請求の範囲(1))
(イ)「特に医療及び工業加工に使用される炭酸ガスレーザ光の伝送に好適な中空光導波路に関する」(1頁右下欄4〜6行)
(ウ)「複素屈折率が大きい金属材料としては、Ag、Au、Cu、Al、などがあげられ、また内装する低損失誘電体材料としては、ZnSe、Ge、KCl、CsBrなどのハロゲン化物、あるいはGeSeやGeTe系ガラスなどがあげられる。」(2頁左下欄4〜9行)

(2)刊行物2(甲第2号証)
(ア)「パイレックスパイプまたは石英パイプの内壁面に、有機金属の熱分解法により金属層および誘電体層を形成したことを特徴とする、エネルギガイド。」(特許請求の範囲(1))
(イ)「特にCO2レーザまたはCOレーザのエネルギビームを搬送するための中空導波路として適したエネルギガイドに関するものである。」(1頁左下欄12〜14行)
(ウ)「第1図は、この発明の一実施例を示す断面図である。・・パイレックスガラスチューブまたは石英チューブ1の内壁面には・・金属層2が形成されておりこの金属層2の上には、さらに誘電体層3が形成されている。金属層2としては、たとえばAlが用いられる。また誘電体層3としては、TeまたはSiなどが用いられる。金属層2としては、Alの代わりに、Zn、SnまたはAgなどを用いることもできる。」(2頁左上欄7〜16行)

(3)刊行物3(甲第3号証)
(ア)「【特許請求の範囲】【請求項1】 中空の金属導波路の内側に、伝送する光の波長帯で透明な非晶質フッ素樹脂層を形成したことを特徴とする中空導波路。
【請求項2】 中空の金属導波路が金属パイプで形成され、又はガラスパイプの内周に少なくとも一種類の金属薄膜を設けて形成されることを特徴とする請求項1に記載の中空導波路。
【請求項3】 中空の金属導波路の中に溶媒で溶解したフッ素樹脂溶液を充填し、これを排出した後乾燥させて内周に非晶質フッ素樹脂層を形成すると共に、充填、排出、乾燥を繰り返して所望の厚さの非晶質フッ素樹脂層を形成することを特徴とする中空導波路の製造方法。」
(イ)「【0001】・・石英系光ファイバに使用できない赤外波長帯及び紫外波長帯における光の伝送に好適な可撓性を有する中空導波路及びその製造方法に関する。」
(ウ)「【0002】・・波長2μm以上の赤外光は、工業加工、医療、計測、分析、化学等様々な分野で利用されている。特に、3μm帯のEr-YAGレーザ、5μm帯のCOレーザ、10.6μm帯のCO2 レーザは、発振効率が高く高出力で、水に対して大きな吸収率を有するため、工業加工用や医療用のレーザメスなどの光源として極めて重要である。」
(エ)「【0005】現在、研究開発がなされている波長2μm以上の赤外光用の導波路は、充実タイプの赤外ファイバと中空導波路とに大別できる。」
(オ)「【0009】【発明が解決しようとする課題】ところで、赤外波長帯で用いる充実タイプの光ファイバは一般に屈折率が高く、反射損が大きいため大電力伝送には不利である。」
(カ)「【0016】【作用】上記構成によれば、導波路内に伝送される光のほとんどが中空領域を伝搬し、光が導波路内を伝搬する際に非晶質フッ素樹脂層で吸収される光の量はわずかであるため、低損失で光伝送を行うことができ、しかも、導波路は中空のため可撓性を有する。
【0017】また、中空の金属導波路の中に溶媒で溶解したフッ素樹脂溶液を充填し、これを排出した後乾燥させることで金属導波路の内壁に付着したフッ素樹脂溶液の溶媒が蒸発して非晶質フッ素樹脂層が形成され、この非晶質フッ素樹脂層の厚さは、充填、排出及び乾燥工程を繰り返すことで制御することができるので量産が容易となる。しかも形成される導波路の長さは製造装置に依存せず長尺化が容易となる。」
(キ)「【0020】同図に示すように、中空の金属導波路(中空導波路)としてのニッケルパイプ1と、このニッケルパイプ1の内側に設けられた(内装された)非晶質フッ素樹脂層2と、非晶質フッ素樹脂層2の内壁によって形成される中空領域3とで誘電体内装金属中空導波路4が形成されている。」
(ク)「【0031】・・N2 ガス流入管10にN2 ガスを供給する。N2 ガスがN2 ガス流入管10に供給されると、N2 ガスの圧力で容器12内の溶液12が押し出され、溶液流出管11、三方弁14を介してパイプ15内に溶液が充填される。パイプ15内に溶液13が充填された後、N2 ガス流入管10へのN2 ガスの供給を停止すると共に、三方弁14のハンドル17を回して流路を矢印B側に切り替える。N2 ガス流入管16にN2 ガスを供給すると、N2 ガスは三方弁14を介してパイプ15内に入り、パイプ15内の溶液13がN2 ガスと共に排出される。」

以上の記載及び図面によれば、刊行物3には、「導波路を構成する管状部材と、前記管状部材の内壁に内装され、波長2μm以上の赤外領域の波長帯で透明な非晶質フッ素樹脂よりなる薄膜の誘電体を有するレーザエネルギー伝送用中空導波路」が記載されている(以下、「刊行物3発明」という。)。

(4)刊行物4(甲第4号証)
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 中空基材の内面に、伝送する光の波長帯に対して透明であるポリイミド樹脂層が形成されていることを特徴とする中空導波路。
【請求項2】 少なくとも内壁面が金属である中空基材の内面に伝送する光の波長帯に対して透明であるポリイミド樹脂層が形成されていることを特徴とする中空導波路。
・・・・・
【請求項5】 前記中空基材は、燐青銅又はステンレスからなる金属材料が用いられていることを特徴とする請求項1又は2記載の中空導波路。
【請求項6】 前記金属製の中空基材は、その内面に前記金属製の中空基材とは異なる金属材料による金属薄膜が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の中空導波路。
【請求項7】 前記中空基材は、フッ素樹脂、シリコン樹脂、ガラスのいずれかから成る非金属材料が用いられ、その内面に少なくとも1種類の金属薄膜が形成されていることを特徴とする請求項1記載の中空導波路。
【請求項8】 前記金属薄膜は、金、銀、銅、モリブデン、ニッケルのいずれかであることを特徴とする請求項6又は7記載の中空導波路。
【請求項9】 金属製又は内面に少なくとも1種類の金属薄膜が形成された非金属製の中空基材内にポリイミド前駆体溶液を加圧供給し、ついで前記ポリイミド前駆体溶液を前記中空基材内から排出した後、加熱乾燥し、前記基材の内壁にポリイミド樹脂層を形成する工程を繰り返し実施し、所定の膜厚のポリイミド樹脂層を形成することを特徴とする中空導波路の製造方法。」
(イ)「【0002】・・波長2μm以上の赤外光は、医療、工業加工、計測、化学等の様々な分野で用いられている。」
(ウ)「【0004】現在、研究開発がなされている波長2μm以上の赤外光用の導波路は、大別して2種類あり、充実タイプのいわゆる赤外ファイバと、中空導波路とがある。」
(エ)「【0009】【発明が解決しようとする課題】ところで、赤外波長帯で用いる充実タイプの光ファイバは一般に屈折率が高い材料により構成されており、光入出射端面での反射損失が大きいために大電力伝送には不向きである。」
(オ)「【0051】・・ポンプ18の運転が開始され、ポリイミド前駆体溶液11が管13aに流入し、このポリイミド前駆体溶液11は三方弁14を経由してパイプ15内へ流入する。ポリイミド前駆体溶液11がパイプ15に流入した後、電磁石12の通電をオフにすると、電磁石12は上昇し、管13aの吸入口はポリイミド前駆体溶液11の液面から退避する。これにより、パイプ15内のポリイミド前駆体溶液11は、溶液流出管16→三方弁17→ポンプ18の経路で排出される。この排出の完了後、ポンプ18の運転を停止する。」
(カ)「【0060】ところで、本実施例で説明した導波路では、その内部にHe-Neレーザなどの可視光を重畳又は切り替えて伝送させることができる。これは、目に見えないレーザ光を安全に目的物に照射するために極めて有効である。更に、同時に乾燥させた空気、窒素、炭酸ガス等の気体を中空導波路内部に流入できるのも、中空導波路の大きな特長である。これらの乾燥ガスは、導波路内部への粉塵や水分の侵入を防止するだけでなく、導波路の冷却にも効果がある。」

以上の記載及び図面によれば、刊行物4には、「導波路を構成する管状部材と、前記管状部材の内壁に内装され、波長2μm以上の赤外領域の波長帯で透明なポリイミド樹脂よりなる薄膜の誘電体を有するレーザエネルギー伝送用中空導波路」が記載されている(以下、「刊行物4発明」という。)。

(5)刊行物5(甲第5号証)
(ア)「今やオプトエレクトロニクス時代といわれ、光ディスク、光ファイバー、非球面レンズ、透明導電フィルム・・において、透明材料がきわめて重要な役割を果たし、この透明材料をベースに画期的な進歩が遂げられている。従来、透明材料といえばガラスが主流を占めていたが、・・プラスチックへの代替が進められている。」(40頁左欄)
(イ)「・・このような状況を鑑み、優れた光学特性、耐熱性、低吸水性、高硬度を併せもち、また多くの光学部品で材料表面を処理し、高機能化して使用されること、また種々の材料と貼りあわせて使用されることも考慮し、無機や有機の各種材料との密着性に優れていることが必要との観点に立って、分子設計を行い、合成技術を駆使してこれらの特性をすべて満たす高機能透明樹脂「ARTON(アートン)」を開発した。
「ARTON」は分子内に極性基を有する(ファンクショナル)ノルボルネン構造を有する樹脂であり、世界的に新規な透明樹脂である。優れた光学特性、耐熱性、低吸水性、密着性などの高機能な(ファンクショナル)特性を併せもつ熱可塑性樹脂であり、一般に市販されている射出成形機や押し出し成形機などで、成形品を得ることができる。すでに光ディスクや非球面レンズなどで、一部ARTON製の製品化が進んでいる。これらの用途については、すでに他誌で解説している。ここでは、ARTONを用いたフィルムについて詳述したい。」(41頁左欄〜同頁右欄)
(ウ)「2.ファンクショナルノルボルネン系樹脂 ARTON」欄において、表1とともにARTON構造と機能との関連が記載されており、「3.ARTONの特性」欄において、ARTONの特性が記載され、特に図1には200〜900nm(0.2〜0.9μm)の波長域におけるARTONの光透過性(膜厚3mm)が図示され、表2にはARTONの物性、表3にはARTONの吸水率が記載されている。
(エ)「7.フィルムの応用例」欄において、ARTONフィルムの特性、特に図4〜7には200〜1200nm(0.2〜1.2μm)に含まれる波長域におけるARTONフィルム(膜厚100μm)の光透過性が図示されている。

(6)刊行物6(甲第6号証)
(ア)環状オレフィンコポリマー(COC)の特徴や用途が記載されており、15〜16頁には特定銘柄の物性(耐熱性、光学特性、ガスバリアー性、耐薬品性、安全・衛生性)について記載され、特に光学特性に関し、「光線透過率が91%で透明性にすぐれる。・・他の光学用樹脂に比べ吸水率が低いので、吸水による光学特性の変化がない点も特徴に挙げられる」とあり、表1に特性比較が具体的数値で記載されている。17頁表3には新銘柄と既存銘柄の物性比較が具体的数値で記載されており、特に光線透過率が全ての銘柄で91%と記載されている。
(イ)「・・最大の特徴は、傑出した光学特性と防湿性である。これらの特性を活かし、主に、光学ディスク、レンズなどの光学用途や医薬品、食品などの包装・容器に開発が進められ、製品化が進んできている。」(17頁)

(7)刊行物7(甲第7号証)
(ア)「光学レンズ、プリズム、ミラー、光ディスク、光ファイバー、液晶ディスプレイなどの光学部品は、オプトエレクトロニクス技術の中で非常に重要な役割を担っている。・・光学部品の高性能化や高信頼性の要求に対して、透明性、低複屈折性、耐熱性、低吸湿性、などにバランスの良い性能を有する透明プラスチックが不可欠である。」(「1.はじめに」)
(イ)「光学用ポリマーとしてノルボルネン系モノマーの開環メタセシス重合体水素化ポリマー(・・HROP・・)を開発した。」(「2.1 光学用ポリマー」)
(ウ)「2.3 HROPの特長」欄には、表2とともにHROPの物性が記載されており、特に、「透明性を示す可視光領域での光線透過率はPMMAとほぼ同等で、90%以上(3mm厚)の値である。」「HROPは親水性の極性基をもたないため、吸水率は0.01%以下でほとんど水を吸収せず、透湿度も非常に小さい。」なる記載がある。
(エ)「3.HROPの応用例」には、「HROPは、優れた透明性、低複屈折性、耐熱性、低吸湿性、精密成形性、などの特長を有しており、光学レンズ、プリズム、光学ミラー、液晶ディスプレイ用光学フィルムや導光版、光ディスク、分析用光学セル、などの用途に使用されている、」なる記載があり、図1に吸水率の経時変化が図示され、図4には200〜900nm(0.2〜0.9μm)の範囲に含まれる波長域のHROPの光線透過率が図示されている(3mm厚)。

(8)刊行物8(甲第8号証)
(ア)「該公報では、生成物のIRスペクトルを示し、この生成物は開環重合体であると述べているが、そのスペクトルによれば、主鎖中の二重結合を示す950〜1000cm-1の吸収(・・)が弱く、その反面、約1700cm-1近辺に帰属不明の強い吸収が出ており、このようなスペクトルからは開環ポリマーかどうかさえ明らかとは云えない。」(9頁右下欄12〜19行)
(イ)「本発明の目的は、・・光学用材料の原料として適したノルボルネン系開環重合体およびその製造方法を提供することにある。」(10頁左上欄16〜19行)
(ウ)「(用途)本発明の開環重合体は、ガラス転移温度が高く、また、その水素添加物は不飽和基が水素添加されていることからも明らかなように耐熱劣化性・耐光劣化性に優れており、かつ透明性や耐水性、複屈折などの光学特性に優れた重合体であるから、各種の成形品として広範な分野において有用である。例えば、光学用レンズ、光ディスク、光ファイバー、ペリクル、ガラス窓用途などの光学分野・・で利用できる。」(13頁左下欄3〜19行)
(エ)「参考のために、上記ポリマーのIRスペクトルを第1図に示すが、このスペクトルによっても約975cm-1近辺に主鎖中のトランス二重結合に基づく強い吸収が認められ、上記ポリマーが開環ポリマーであることが確認された。なお、このスペクトルは、前記・・公報記載のIRスペクトルとは著しく異なったものである。」(14頁左上欄13〜20行)、そして第1図には、実施例1で製造したノルボルネン系開環重合体の赤外線吸収スペクトル(IRスペクトル)が、4000〜650cm-1(2.5〜15.4μm)の波長域にわたり図示されている。
(オ)第1表には、実施例1〜3のノルボルネン系開環重合体の物性について記載されており、特に光線透過率(島津製作所社製全光線透過率測定器にて波長830nmで測定したもの)について90%(実施例1、3)、91%(実施例2)を示し(厚み1.2mm)、吸水率について0.01%が示されている。

(9)刊行物9(甲第9号証)
(ア)「特定の極性基と多環状構造を有する不飽和化合物の開環重合体を水素添加した重合体が、従来提案されてきた樹脂材料では得られない高い透明性に加え、低吸水性、高いガラス転移温度と熱分解温度、優れた機械的性質、良好な成形性、記録層との優れた接着性を有し、プラスチックレンズを始めとする一般の光学用途のみならず、光ディスク基板や光ファイバーなどの高機能の光学用途に極めて有用である・・」(3頁左上欄2〜10行)
(イ)「これらの共重合性化合物のうち、環状オレフィン性化合物が好ましく・・」(6頁右下欄10〜11行)
(ウ)第1表には、実施例1〜13及び比較例1〜4の重合体について、固有粘度、屈折率(アッベ屈折計を使用し、25℃でのD線(589nm波長)の屈折率を測定したもの)、全光線透過率(ASTM D1003に準拠し測定したもの)、接着性等の物性値の比較がなされている。
(エ)「この重合体の帰属は、第1図に示す赤外線吸収スペクトルによって行った。」なる記載があり(9頁右下欄3〜4行)、同様の記載が、「第2図」(9頁右下欄15〜17行)、「第4図」(10頁左上欄8〜9行)、「第5図」(10頁右上欄2〜3行)、「第7図」(10頁右上欄15〜17行)、「第9図」(10頁左下欄10〜13行)、「第11図」(10頁右下欄5〜6行)についてなされている。また「水素添加率は第12図に示す赤外吸収スペクトル・・から定量したところ100%であった。」なる記載があり(11頁2〜4行)、同様の記載が、「第14図」(11頁左上欄14〜16行)、「第16図」(11頁右上欄7〜9行)についてなされている。そして第1、2、4、5、7、9、11、12、14、16図には、それぞれ実施例1〜10の重合体の赤外線吸収スペクトルが、4000〜400cm-1(2.5〜25μm)の波長域にわたり図示されている。

(10)前置報告書(甲第10号証)
(ア)「光学材料などに使用されうるものとして、ポリノルボルネンなどの環状ポリオレフィンは良く知られている(Makromol.Chem.,Macromol.Symp.,47,p83-93,(1991))。」
(イ)「ポリノルボルネンなどの環状ポリオレフィンについては、以下の参考文献も参照
1.Macromolecules,26, p7089-7091,(1993),
2.Macromolecules,29, p2755-2763,(1996),
3.Proc.of the Am. Chem. Soc.,Division of Polymeric Mater., Sci and Engineerfing,76(1997),56(有機溶媒に溶け、透明なフィルムが作成できることに言及)」

(11)刊行物10(甲第11号証)
(ア)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、自動車室内やエンジンルーム内、ライトガイド、機器内や機器間、医療機器、光センサなどに使用する光ファイバに関する。」
(イ)「【0007】本発明の目的は、量産化が可能で、耐熱性及び可視光の光透過性に優れた光ファイバを提供することにある。」
(ウ)「【0008】【課題を解決するための手段】上記目的は、ガラス転移温度が150℃以上の透明な熱可塑性樹脂からなるコア材と、前記コア材の外周に設けられ、前記コア材より屈折率が0.1以上低い透明樹脂からなるクラッド材とを有することを特徴とする光ファイバにより達成される。
【0009】また、前記の光ファイバにおいて、前記熱可塑性樹脂はノルボルネン系樹脂であることを特徴とする光ファイバにより達成される。また、前記の光ファイバにおいて、前記透明樹脂は弗素系樹脂であることを特徴とする光ファイバにより達成される。」
(エ)「【0016】特にコア材としてノルボルネン系樹脂を用いた場合、ノルボルネン系樹脂は化学構造に二重結合をもたない熱可塑性樹脂であるため、可視光域での電子遷移吸収が少なく、可視光域の透過性に優れた光ファイバを構成できる。」
(オ)表1にはコア材とクラッド材の組み合わせについて諸特性が数値で記載されている。

(12)刊行物11(甲第12号証)
(ア)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は熱転写方式のプリンターで複写することにより使用されるオーバーヘットプロジェクター(以下、OHPと略す)用シートやセル画に好適な熱転写受像用透明シートに関する。」
(イ)「【0009】従って、本発明の目的は耐熱性、透明性およびトナーの付着性に優れ、熱転写による受像を施した場合にシワ等の形状変化を起こさず、カラー化しても鮮明な画像を得ることのできる熱転写受像用透明シートを提供することにある。
【0010】【課題を解決するための手段】本発明の上記課題は、ノルボルネン骨格を有する熱可塑性樹脂を主成分とする熱転写受像用透明シートにより達成される。」
(ウ)「【0026】本発明透明シートの厚みは、通常、0.01〜1mm、好ましくは0.01〜0.3mm、特に好ましくは0.01〜0.1mmであり、・・【0027】このようにして得られる本発明透明シートは、通常ASTM D1003で測定した400nmの透過率が88%以上であり」
(エ)表6、7には諸特性とともに、ASTM D1003により測定した光透過率が実施例1〜3(厚さ0.1mm)において90%を超えるものであることが記載されている。
(オ)「【0050】試験例1 実施例4および比較例2で得られた熱転写受像シートの画像鮮明度を光透過スペクトルで測定した。結果を図1に示す。図1において波長650〜700nmの部分は青色の染料の部分である。」そして図1には300〜900nm(0.3〜0.9μm)の波長域の透過度が記載されている。
(カ)「【0051】実施例5 実施例1と同様にして透明シートを製造し、アニメーション用の原画を用いて、実施例1と同様に白黒の画像を転写し、熱転写受像シートを得た。・・得られた熱転写受像シートを3枚重ねおきして400nm〜700nmの波長の光透過性を調べたところ、従来用いられているトリアセチルセルロース(TAC)フィルム1枚と同じ78.5%が得られた。」

(13)刊行物12(甲第13号証)
(ア)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は導光板に関し、特に液晶ディスプレイに用いた場合、・・薄型化、軽量化、明度の向上に寄与することのできる導光板に関する。」
(イ)「【0004】・・本発明の導光板には、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ノルボルネン系樹脂などを用いることができる。これらの中では熱可塑性ノルボルネン系樹脂を用いることが、透明性が高く、光学的に均一であり、しかも耐熱性。耐湿性にすぐれるので、本発明のように光拡散パターンや、集光パターンを直接導光板表面に形成したものでも光学的に均一なパターンが得られ、しかも高温高湿の条件下で長時間使用しても板の変形がなく信頼性の高い導光板が得られるので好ましい。」
(ウ)「【0019】・・光透過率(%) 分光光度計により、波長400〜900nmの範囲について波長を連続的に変化させて測定し、最小の透過率をそのフィルムの光線透過率とした。」、そして表1には実施例の諸特性が記載されており、特に実施例2、3(厚み1mm)の光透過率として92%が記載されている。

(14)刊行物13(甲第14号証)
(ア)「現在まで、医療及び工業加工等への応用に用いられているCO2レーザをはじめとする赤外レーザの大きな光電力の伝送路として、中空の金属パイプの内壁に高反射コーティングを施した誘電体内装導波路が提案され、開発が進められている[1,2]。従来、コーティング用の誘電体として・・無機材料を内装した導波路の試作検討を行ってきたが、今回新たに、図1に示すように簡便な成膜が可能な有機材料である弗素樹脂を内装誘電体として用いることを検討した。本報告では、弗素樹脂を用いることの種々の利点及び試作した導波路の伝送特性について述べる。」(「1.はじめに」)

(15)刊行物14(甲第15号証)
(ア)「筆者等は、これら赤外レーザ光用の伝送路として誘電体内装中空導波路の開発を行ってきているが、導波路の細径化と低損失化が大きな課題となっている。この課題を解決するために、内付け技術を用いた銀及び有機材料の成膜による導波路の製作技術について研究を行っている。本報告では、内装する誘電体としてポリイミド樹脂内装銀導波路を新たに取り上げ、製作した導波路の伝送特性等について述べる。」(「1.はじめに」)

5.対比・判断
(1)本件発明1
レーザエネルギー伝送用中空導波路の内壁に内装される誘電体薄膜として、刊行物1、2のように無機材料を使用するものと(4.(1)(ウ)、(2)(ウ))、刊行物3、4のように有機材料を使用するもの(4.(3)(ア)、(4)(ア))があるが、本件発明で使用される環状オレフィンポリマーは有機材料なので、本件発明の進歩性を判断する上で、同じ有機材料を使用する刊行物3、4の発明と対比・判断し、仮に進歩性が肯定されれば、無機材料である刊行物1、2と対比・判断しても進歩性が肯定されるべきことは明らかであるから、対比・判断に当たっては刊行物3、4を主引用例とすれば十分である。なお、刊行物13は弗素樹脂について、刊行物14はポリイミド樹脂について開示するもので各々刊行物3発明、4発明と同等である。
そこで、本件発明1と、刊行物3発明及び刊行物4発明(以下、「刊行物3・4発明」と総称する。)を対比すると、両者は、「導波路を構成する管状部材と、前記管状部材の内壁に内装され、波長2μm以上の赤外領域の波長帯で透明な薄膜の誘電体を有するレーザエネルギー伝送用中空導波路」である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点] 本件発明1は、誘電体薄膜が「環状オレフィンポリマー」であるのに対し、刊行物3・4発明はそれぞれ「非晶質フッ素樹脂」、「ポリイミド樹脂」である点。
そこで、誘電体薄膜として刊行物3・4発明における非晶質フッ素樹脂・ポリイミド樹脂に代えて環状オレフィンポリマーを適用することが当業者の容易に想到しうるものか否かを以下検討する。
(ア)中空導波路への適用の困難性について
刊行物5〜12に開示された環状オレフィンポリマーを中空導波路の誘電体薄膜へ適用することが容易か否かについて考察する。
刊行物5〜12の内、「光ファイバー」への適用が記載ないし示唆されている文献は刊行物5、7〜10であり(4.(5)(ア)、(7)(ア)、(8)(ウ)、(9)(ア)、(11)(ウ)(エ))、刊行物10は中実タイプであることが明記されている。そして刊行物5、7〜9においては、光学部品の一例として、レンズやディスク等と並んで光ファイバーへの一般的言及があるのみである。そしてこのような一般的例示として単に「光ファイバー」という用語が用いられた場合は技術常識に照らし刊行物10のような中実タイプのものを意味することが相当である。
他方、刊行物3、4の記載を参照しても、「ファイバ」という用語は中実タイプのものに対し使用され、中空導波路と明確に区別しており、さらにかかる中実タイプの光ファイバの問題点を認識した上で中空導波路についての発明を開示しているのであって(4.(3)(エ)(オ)、(4)(ウ)(エ))、中実タイプと中空タイプは構造上も、また光学特性や製法上も別異の導波路と言わざるを得ない(そもそも中空タイプ内壁の誘電体薄膜が中実タイプの如何なる光学部材に対応するのかも明確ではない)。
このように環状オレフィンポリマーに関する前記刊行物は高々中実タイプの光ファイバーへの適用可能性を示唆するに過ぎず、また刊行物3、4をみても中実タイプと中空タイプは一方の技術事項がそのまま他方に転用しうるような親近性を有するものとも認められないから、単に光ファイバーとの記載をもって環状オレフィンポリマーを刊行物3・4発明の中空導波路に適用する動機づけになるとは言えない。

(イ)波長2μm以上の赤外領域での透明性の開示の有無について
刊行物5〜12において、環状オレフィンポリマーが波長2μm以上の赤外領域で透明な機能を有することが開示されているか否か考察する。
確かに環状オレフィンポリマーが優れた透明性を有している旨の一般的記述は刊行物5〜12いずれにおいてもなされていることが認められる。しかしこれを具体的にみると、
刊行物5には、0.2〜0.9μmの波長域におけるARTONの光透過性(膜厚3mm)が図示され、また0.2〜1.2μmに含まれる波長域におけるARTONフィルム(膜厚100μm)の光透過性が図示されており(4.(5)(ウ)(エ))、
刊行物6には、光線透過性が91%で透明性に優れる旨の記載があるのみで(4.(6)(ア))、
刊行物7には、透明性を示す可視光領域での光線透過率はPMMAとほぼ同等で90%以上(3mm厚)の値であること(4.(7)(ウ))、0.2〜0.9μmの範囲に含まれる波長域のHROP(膜厚3mm)の光線透過率が図示(図4)されており(4.(7)(エ))、
刊行物10には、可視光域の透過性が優れている旨の記載があり(4.(11)(イ)(エ))、
刊行物11には、ASTM D1003で測定した400nmの透過率が88%以上(厚さ0.01〜1mm)であること(4.(12)(ウ))、表6、7に、ASTM D1003により測定した光透過率が実施例1〜3(厚さ0.1mm)において90%を超えるものであることが記載されていること(4.(12)(エ))、試験例1に関連して図1において0.3〜0.9μmの波長域の透過度(厚さ0.1mm)が記載されていること(4.(12)(オ))、実施例5において熱転写受像シートを3枚重ねおきして400nm〜700nmの波長の光透過性を調べたところ、従来用いられているトリアセチルセルロース(TAC)フィルム1枚と同じ78.5%が得られた旨(4.(12)(カ))の記載があり、
刊行物12には、厚さ1mmの導光板に対して0.4〜0.9μmの波長範囲で最小の透過率が92%であるものが記載されている(4.(13)(ウ))。
したがって、刊行物5〜7、10〜12に開示された環状オレフィンポリマーの具体的透明性はいずれも専ら可視光(もしくはその近傍)の波長域を前提にしたものであって、波長2μm以上の赤外領域の波長域での透明性については一切言及がない。
一方刊行物8、9には、各々2.5〜15.4μm、2.5〜25μmの波長域での赤外線(IR)スペクトルが図示されているが(4.(8)(エ)、(9)(エ))、これらのIRスペクトルはいずれも、固有吸収スペクトルを特定することで重合体の構造の帰属を確認するためのもので(4.(8)(ア)(エ)、(9)(エ))、吸収ピークの波長特定に技術的意義を有するものであるから、そもそも吸収ピーク以外の波長域の透過率の値に、光学特性としての技術的意義を見いだしうるものではない。このことは光学部材としての使用を念頭に置いた透過率測定の場合は通常膜厚の記載もあるが(前記刊行物5、7、11、12参照)、刊行物8、9のIRスペクトルにはかかる条件が何ら記載されていないことからも明らかである。したがって、当業者が刊行物8、9のIRスペクトルを見た場合、スペクトルの技術的意義を離れて波長2μm以上での光学的透明性を読み取ることは到底困難と言わざるを得ない。
したがって、刊行物5〜12はいずれも、環状オレフィンポリマーが波長2μm以上の赤外領域で透明な機能を有することを開示するものではないから、刊行物3・4発明の波長2μm以上の赤外領域で透明な非晶質フッ素樹脂・ポリイミド樹脂に置換する動機づけを示すものではない。

(ウ)レーザエネルギー伝送用への適用の困難性について
刊行物3・4発明の中空導波路の用途はレーザエネルギー伝送用であって、明細書から波長2μm以上の赤外領域の光を伝送するものであるが(4.(3)(ウ)、(4)(イ))、刊行物5〜12のいずれもかかる用途を開示したものはなく(4.(5)(ア)、(6)(イ)、(7)(ア)(エ)、(8)(ウ)、(9)(ア)、(11)(ア)、(12)(ア)、(13)(ア))、上述のように刊行物8、9にはIRスペクトルの開示はあるが、波長2μm以上の赤外光を利用してエネルギーを伝送することを意図することは何ら記載されておらず、示唆する記載もない。むしろ刊行物8では波長830nm(0.83μm)で測定した光線透過率が物性値として記載され(4.(8)(オ))、刊行物9では波長589nm(0.589μm)での屈折率が物性値として記載されている(4.(9)(ウ))ことからすれば、これらの測定波長付近での使用・用途が推測されるところである。よって仮に刊行物8、9のIRスペクトルに2μm以上の波長域において光透過性の高い帯域が認められたとしても、直ちにその波長帯域でのエネルギー伝送用途を示唆するものではない。
したがって、環状オレフィンポリマーについて記載された刊行物5〜12のいずれも、波長2μm以上の赤外光を利用したエネルギー伝送用途を開示するものではないから、エネルギー伝送用途である刊行物3・4発明に適用する動機づけは見いだすことはできない。

(エ)その他
刊行物5〜12には、環状オレフィンポリマーの特性について、透明性以外にも、屈折率や吸水性、接着性等、刊行物3・4発明と関連する特性について開示されているところ(4.(5)(ウ)、(6)(ア)、(7)(ウ)(エ)、(8)(オ)、(9)(ウ)、(11)(オ)、(12)(エ)、(13)(ウ))、刊行物3・4発明の主要部である波長2μm以上の赤外領域での透明性に関する特性に関する開示がない以上(5.(1)(イ))、仮にこれらの特性において刊行物3・4発明と何らかの共通性がみられたとしても、刊行物5〜12の記載事項の適用性を肯定するに足るものではない。
また請求人は、前置報告書(甲第10号証)に言及しているが、そこでは環状ポリオレフィンが公知であることについての前置審査官の見解が参照文献とともに記載されているに過ぎず(4.(10)(ア)(イ))、刊行物5〜12の開示以上の内容が示唆されているものでもないから、前記判断を左右するものではない。

(オ)むすび
したがって、刊行物5〜12には、環状オレフィンポリマーを刊行物3・4発明の非晶質フッ素樹脂・ポリイミド樹脂に適用することを動機づける開示がなく、また刊行物1〜4、13、14や前置報告書にも適用を示唆するような記載はない。そして、本件発明1は、明細書記載の作用効果を奏するものである。よって、本件発明1は、環状オレフィンポリマーの非晶質フッ素樹脂・ポリイミド樹脂に対する効果の程度を参酌するまでもなく、刊行物1〜14や前置報告書から当業者が容易に想到し得たものとは言えない。

(2)本件発明2〜14
本件発明2〜11は、本件発明1に従属し、これをさらに限定するものであるから、本件発明1と同様の理由によって、刊行物等より当業者が容易に想到しうるものではない。
また、本件発明12は本件発明1を引用しているように、本件発明1に係る中空導波路の製造方法であるから、本件発明1と同様の理由で、刊行物等より当業者が容易に想到しうるものではない。さらに本件発明13、14は、本件発明12に従属し、これをさらに限定するものであるから、本件発明12と同様に刊行物等より当業者が容易に想到しうるものではない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求の理由によっては、本件特許を無効とすることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-16 
結審通知日 2005-03-18 
審決日 2005-03-25 
出願番号 特願2001-220931(P2001-220931)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 聡笹野 秀生  
特許庁審判長 瀧本 十良三
特許庁審判官 山下 崇
平井 良憲
登録日 2004-06-18 
登録番号 特許第3566232号(P3566232)
発明の名称 レーザエネルギー伝送用中空導波路およびその製造方法  
代理人 岡本 芳明  
代理人 岡本 芳明  
代理人 角田 賢二  
代理人 岩永 勇二  
代理人 岩永 勇二  
代理人 平田 忠雄  
代理人 平田 忠雄  
代理人 佐藤 正勝  
代理人 角田 賢二  

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