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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1117812
異議申立番号 異議2001-73509  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-10-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-12-26 
確定日 2005-03-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3182077号「生分解性フィルム」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3182077号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由
【1】手続の経緯

本件特許第3182077号は、出願日が平成8年4月2日であって、平成13年4月20日に特許権の設定登録がなされ、その後、大倉工業株式会社、古野敏行、菅野司よりそれぞれ特許異議の申立てがなされ、第1回目の取消理由を通知したところ、その指定期間内に第1回目の訂正請求がなされるとともに特許異議意見書が提出され、第2回目の取消理由の通知と、特許権者及び各特許異議申立人に対する審尋を行ったところ、特許権者からは指定期間内に第2回目の訂正請求と第1回目の訂正請求の取り下げ、及び、審尋に対する回答を含む特許異議意見書の提出がなされ、各特許異議申立人からは回答書が提出され、次いで、特許権者より上申書が提出されたものである。

【2】訂正の適否

1.訂正事項
本件訂正請求における訂正事項は、次のとおりである。
[訂正事項a]
請求項1の「前記ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルが」を、「前記ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルが鎖延長剤を使用して高分子量化してなる」と訂正する。
[訂正事項b]
請求項1の「数平均分子量約1万〜15万」(2箇所)を、「数平均分子量1万〜15万」と訂正する。
[訂正事項c]
請求項2を削除し、請求項3において「請求項1又は2」とあるのを「請求項1」と訂正し、請求項3の項番号を繰り上げて、請求項2とする。
[訂正事項d]
段落【0007】の「脂肪族ポリエステルは、数平均分子量約1万〜15万」を、「脂肪族ポリエステルは、鎖延長剤を使用して高分子量化してなる数平均分子量1万〜15万」と訂正し、同段落の「nは数平均分子量約1万〜15万」を、「nは数平均分子量1万〜15万」と訂正し、同段落の「また、本発明は、ポリ乳酸系重合体と・・・用いられないことを特徴とする。」を削除する。
2.訂正の目的・範囲の適否、拡張・変更の有無
(1)訂正事項aについて
訂正事項aは、段落【0009】の「脂肪族カルボン酸成分と脂肪族アルコール成分からなるポリマー(以下、単に「脂肪族ポリエステル」という)は、これらを直接重合して高分子量物を得る方法と、オリゴマー程度に重合した後、鎖延長剤などで高分子量物を得る間接的な製造方法がある。」との記載(特許公報第3頁第5欄第24〜28行)、及び同段落の「間接的な製造方法としては、上記ポリ乳酸同様、少量の鎖延長剤を使用して高分子量化する。」(特許公報第3頁第6欄第6〜8行)との記載を根拠として脂肪族ポリエステルを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(2)訂正事項bについて
訂正事項bは、訂正前の請求項1における数平均分子量がどのような範囲を意味するか明りょうでなかったものを明りょうにするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、訂正後の下限値1万と上限値15万は、訂正前の「約1万〜15万」との記載においてそれぞれ示されていた値であるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(3)訂正事項cについて
請求項2の削除は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。請求項3に係る訂正のうち、「請求項1又は2」とあるのを「請求項1」とする訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、項番号を繰り上げて、請求項2とする訂正は、請求項2の削除に伴い、項番号の連続性が失われたことを解消するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的としている。そして、これらの訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
(4)訂正事項dについて
訂正事項dは、訂正事項a〜cの訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とが整合しなくなったことを解消するためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の4第2項、及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第3項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

【3】本件発明

本件の訂正後の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 ポリ乳酸系重合体とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを75:25〜20:80の範囲の重量割合で混合してなるフィルムであって、引張弾性率を250kg/mm2以下、光線透過率を65〜85%の範囲としてなり、前記ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルが鎖延長剤を使用して高分子量化してなる数平均分子量1万〜15万の下記構造を有してなることを特徴とする生分解性フィルム。
【化1】

(式中R1及びR2は炭素数2〜10のアルキレン基、シクロ環基又はシクロアルキレン基である。又、nは数平均分子量1万〜15万となるのに必要な重合度である。)
【請求項2】 請求項1に記載のフィルムはインフレーションフィルムであって、ブロー比を2.4〜2.7の範囲として形成されたことを特徴とする生分解性フィルム。」

【4】取消理由の概要

当審が第2回目の取消理由通知書において理由1として示した取消理由の概要は、平成14年9月2日付けの訂正請求後の請求項1、2に係る発明(以下「訂正発明1、2」という)は、本件の出願前に国内において頒布された刊行物1(特開平7-118513号公報:特許異議申立人菅野司の甲第1号証、特許異議申立人大倉工業株式会社の参考資料6)、刊行物2(「コンバーテック 第23巻第2号」1995年2月15日 加工技術研究会 p.21〜24:特許異議申立人大倉工業株式会社の参考資料3)、刊行物3(Zehev Tadmor,Costas G.Gogos著、奥博正・三井物産株式会社合成樹脂第三部訳「プラスチック成形加工原論 Principles of Polymer Processing」第1刷 平成3年6月28日 株式会社シグマ出版 p.3〜9:特許異議申立人大倉工業株式会社の参考資料1)、刊行物4(大阪市立工業研究所、プラスチック読本編集委員会、プラスチック技術協会編集「プラスチック読本」改訂第18版 1992年8月15日 (株)プラスチックス・エージ p.251〜252:特許異議申立人古野敏行の甲第4号証)、刊行物5(土肥義治編集代表「生分解性プラスチックハンドブック」初版第1刷 1995年5月26日 吉田隆発行 p.140〜141)、刊行物6(村井孝一編著「可塑剤-その理論と応用-」初版第1刷 昭和48年3月1日 株式会社幸書房 p.314〜315:乙第4号証)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものであるから、訂正発明1、2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消すべきものであるというものである。

【5】取消理由に対する判断

1.刊行物1の記載事項
刊行物1には、以下の記載事項がある。
[記載事項a]
「【請求項1】 ポリ乳酸を主成分とする乳酸系ポリマー(A)と、二塩基酸と二価アルコールの繰り返し単位から成り、かつ末端を一塩基酸及び/又は一価アルコールで封止された、酸価と水酸基価の合計が40以下であるポリエステル系可塑剤(B)とを必須の構成成分として含有することを特徴とする乳酸系ポリマー組成物。」(【特許請求の範囲】)
[記載事項b]
「【請求項3】 ポリエステル系可塑剤(B)が、炭素原子数4〜10の二塩基酸と、炭素原子数2〜8の脂肪族二価アルコールとからなるポリエステルである請求項1記載の乳酸系ポリマー組成物。」(【特許請求の範囲】)
[記載事項c]
「【請求項4】 乳酸系ポリマー(A)と、ポリエステル系可塑剤(B)の配合重量比(A)/(B)が、98/2〜50/50である請求項1〜3のいずれか1つに記載の乳酸系ポリマー組成物。」(【特許請求の範囲】)
[記載事項d]
「本発明が解決しようとする課題は、フィルム、シ-ト、包装材用に有用な、柔軟性、透明性、耐水性、耐クレージング性に優れ、かつ可塑剤のブリードアウトの無い乳酸系ポリマー組成物を提供することにある。」(段落【0010】)
[記載事項e]
「本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、耐水性を向上させるため、ポリプロピレングリコール等のような分子量の高い二価アルコールは用いず、二価アルコールの繰り返し単位を有し、かつ末端を一塩基酸及び/又は一価アルコールで封止された、かつ酸価と水酸基価の合計が40以下であるポリエステル系可塑剤を用いることにより、ポリマーの透明性を維持したまま、耐水性に優れ、15℃以下での応力によるクレージングの発生も無く、フィルムとしての使用に不可欠な十分な柔軟性を十分に発現できることを見い出し、本発明を完成した。」(段落【0011】)
[記載事項f]
「本発明の重要な構成要素であるポリエステル系可塑剤(B)は、二塩基酸と二価アルコールの繰り返し単位から成り、更に詳しくは、該二塩基酸は炭素原子数4〜10の二塩基酸、また該二価アルコールは炭素原子数2〜8の脂肪族二価アルコールであるポリエステルで、・・・であるポリエステル系可塑剤である。更に詳しくは、炭素数4〜10の二塩基酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。特にアジピン酸が技術的、経済的に好ましい。二価のアルコールとしては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられる。」(段落【0016】〜段落【0018】)
[記載事項g]
「ポリエステル系可塑剤の数平均分子量については、特に限定はないが、500〜2000のものが特に好ましい。これは、可塑効果が高く、ブリードアウトが発生しにくくなるからである。」(段落【0022】)
[記載事項h]
「本発明のポリマー組成物は、Tダイキャスト成形やインフレーション成形等の押出成形、・・・等の方法により成形加工を行うことが出来る。・・・。これらの方法により成形加工された成形物の引張弾性率は、例えば包装材料用フィルムとして使用する場合、折れ曲がり性や風合いを考えた場合、通常1000〜15000kg/cm2であることが好ましい。1000kg/cm2以下であると、過度に柔軟となり、内容物の保持ができなくなり実用的ではない。一方、15000kg/cm2以上では剛直になりすぎて、フィルムとしての風合いが無くなる。透明性も包装材用途には、内容物を美麗に見せるため、商品価値を高める上で重要なファクターである。」(段落【0027】〜【0029】)
[記載事項i]
「本発明の乳酸系ポリマー組成物は、優れた透明性を有しており、透明性の指標として、特にヘイズ値20%以下のものが好ましく用いられる。また本発明に用いられるポリエステル系可塑剤は、加水分解性を持っているため、乳酸系ポリマーと共に生分解する利点を備えており、かつ安全性の高いものである為に、食品包装用にも優れている。」(段落【0030】)
[記載事項j]
「本発明は、フィルム、シ-ト、包装材用に有用な、柔軟性、透明性、耐水性、耐クレージング性に優れ、かつ可塑剤のブリードアウトの無い乳酸系ポリマー組成物を提供できる。」(段落【0061】)

2.対比・判断
(1)本件発明1について
記載事項aからみて、刊行物1には、「ポリ乳酸を主成分とする乳酸系ポリマー(A)と、二塩基酸と二価アルコールの繰り返し単位から成るポリエステル系可塑剤(B)とを必須の構成成分として含有することを特徴とする乳酸系ポリマー組成物」が記載されていると認められる。
そして、ポリエステル系可塑剤(B)については、記載事項bに、炭素原子数4〜10の二塩基酸と、炭素原子数2〜8の脂肪族二価アルコールとからなるポリエステルであることが記載され、記載事項fには、炭素数4〜10の二塩基酸として、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられ、二価のアルコールとして、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等が挙げられることが記載されている。すなわち、刊行物1には、ポリエステル系可塑剤(B)として、「コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数4〜10の二塩基酸と、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の炭素数2〜8の脂肪族アルコールから得られたポリエステル」(以下「ポリエステル(B)」という)が記載されている。
また、記載事項cには、乳酸系ポリマー(A)とポリエステル系可塑剤(B)の配合重量比(A)/(B)が、98/2〜50/50であることが記載され、記載事項e、h、jには、該乳酸系ポリマー組成物をフイルムとすることが記載され、記載事項hには、該フイルムの引張弾性率が1000〜15000kg/cm2であることが記載され、記載事項iには、乳酸系ポリマー組成物が生分解性であることが記載されている。
以上の点からみて、刊行物1には、「ポリ乳酸を主成分とする乳酸系ポリマー(A)と、ポリエステル(B)(「コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数4〜10の二塩基酸と、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等の炭素数2〜8の脂肪族アルコールから得られたポリエステル」)とを、配合重量比(A)/(B)が98/2〜50/50で混合してなるフイルムであって、引張弾性率が1000〜15000kg/cm2である生分解性フィルム」の発明(以下「刊行物1の発明」という)が記載されていると認められる。
そこで、本件発明1と刊行物1の発明を対比すると、後者の「ポリ乳酸を主成分とする乳酸系ポリマー(A)」は本件発明1における「ポリ乳酸系重合体」に相当し、後者の「ポリエステル(B)」は、後述の相違点a(鎖延長剤を使用して高分子量化してなる数平均分子量1万〜15万の点)を除き、その繰り返し単位の構造(本件発明1において、構造式で示された構造)を含め、前者の「ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステル」に相当している。また、後者の引張弾性率1000〜15000kg/cm2は、10〜150kg/mm2と換算されるから、本件発明1における250kg/mm2以下に相当する。さらに、本件発明1と、刊行物1の発明は、ポリ乳酸系重合体と、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルの重量割合が、75:25〜50:50の範囲で重複しており、この重複範囲において一致している。
そうすると、本件発明1と刊行物1の発明は、以下の点で相違するものの、その他の点での相違は認められない。
相違点a:前者では、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルが鎖延長剤を使用して高分子量化してなる数平均分子量を1万〜15万のものであるのに対し、後者では、このような特定がなされていない点。
相違点b:前者では、フィルムの光線透過率を65〜85%の範囲と特定しているが、後者ではこの特定がなされていない点。
そこでこれらの相違点について検討する。
(A)相違点aについて
記載事項gに、「ポリエステル系可塑剤の数平均分子量については、特に限定はない」と記載されているから、刊行物1の発明における「ポリエステル(B)」の数平均分子量に限定はない。さらに、高分子量化の為に鎖延長剤を使用することは周知技術であり(この点について、必要ならば、特開昭55-145734号公報、特開昭55-161823号号公報、特開昭62-257930号公報、特開平4-189822号公報(以下「周知例1」という)、特開平5-287043号公報(以下「周知例2」という)、特開平7-90072号公報(以下「周知例3」という)、特開平7-252354号公報(以下「周知例4」という)、特開平7-324124号公報(以下「周知例5」という)、特開平7-324125号公報(以下「周知例6」という)を参照)、鎖延長剤を使用して高分子量化した脂肪族ポリエステルとして、数平均分子量が1万〜15万に該当するものも周知である(この点について、必要ならば、周知例1〜6を参照)。してみれば、刊行物1の発明において、ポリエステル(B)として、鎖延長剤を使用して高分子量化してなる数平均分子量が1万〜15万のものを使用することは容易である。
また、刊行物5に、分子量40000のポリカプロラクトンからなる可塑剤(ポリエステル系可塑剤)が、刊行物6に、分子量8000のポリエステル系可塑剤が記載されているように、ポリエステル系可塑剤として、高分子量のものが知られており、この点を考慮するとなおのこと、ポリエステル(B)として、鎖延長剤を使用して高分子量化してなる数平均分子量が1万〜15万のものを使用することは容易である。
(B)相違点bについて
記載事項dには、透明性に優れた乳酸系ポリマー組成物を提供することを課題としていることが記載され、記載事項e、i、jには、透明性に優れた乳酸系ポリマー組成物が得られたことが記載され、刊行物1の実施例では、乳酸系ポリマー組成物から透明性の良いフィルムを得ているから、透明性の良いフィルムを得ることは、刊行物1の発明において意図され、また達成されていることである。
一方、フイルムの光線透過率は、フイルムの透明性の指標として周知である。
してみれば、刊行物1の発明において、フイルムの光線透過率を透明性の良い値に設定することは容易である。その具体的な値は、ポリエステル(B)として、鎖延長剤を使用して高分子量化してなる数平均分子量が1万〜15万のものを使用した上で(この使用が容易であることは、(A)に記載したとおりである)、実際にフイルム化し、光線透過率を測定することによって、容易に設定できるものと認められる。したがって、フイルムの光線透過率を65〜85%の範囲とした点は、当業者が容易になし得たことである。
以上(A)、(B)に示したとおりであるから、相違点a、bに係る各構成を共に採用することは容易である。
したがって、本件発明1は、刊行物1、5、6に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明2について
記載事項hには、インフレーション成形が記載されているから、刊行物1には、刊行物1の発明に係るフイルムとして、インフレーション成形によるフイルム、すなわち、インフレーションフイルムが記載されていると認められる。
また、刊行物3には、インフレーションフイルムの一般的なブローアップ比が、1.5〜4であることが記載されている(特に第7頁参照)。また、刊行物4には、インフレーションフイルムについて、「リングダイのスリット径の2〜3倍ふくらませるのがフイルムの縦方向と横方向との強度バランスもよく,操業もしやすい。」と記載されているから、ブロー比を2〜3とすることが記載されていると認められる。
本件発明2におけるブロー比2.4〜2.7は、これらの一般的なブロー比の範囲内のものであるから、容易に設定できるものである。
また、本件発明2のブロー比以外の構成については、上記(1)で述べたとおり、容易に採用できるものである。
したがって、本件発明2は、刊行物1、3〜6に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

【6】特許権者の主張に対する判断

(1)特許権者は、刊行物1の「ポリエステル系可塑剤」は、末端を一塩基酸及び/又は一価アルコールで封止してなる構造である(請求項1、【0012】参照)から、鎖延長剤で高分子量化する構造とは相容れない構造であると主張している。
しかし、鎖延長剤で高分子量化することは、末端を特定したことを意味するものではないし、また、末端を一塩基酸及び/又は一価アルコールで封止してなる構造が、鎖延長剤で高分子量化する構造とは相容れないとする根拠もない。例えば、鎖延長剤で高分子量化したものの末端を一塩基酸及び/又は一価アルコールで封鎖することは可能であるから、末端を一塩基酸及び/又は一価アルコールで封止してなる構造と、鎖延長剤で高分子量化する構造は両立する。したがって、この主張は採用できない。
(2)特許権者は、本件発明は、乳酸系ポリマーと脂肪族ポリエステルとをポリマーブレンドする旨の発明であるから、本件発明は可塑剤を添加するという刊行物1記載の発明の技術思想の延長線上になく、両発明は技術思想が異なっているから、刊行物1の発明は本件発明の動機づけとはなり得ない旨の主張している。
しかし、乳酸系ポリマーと脂肪族ポリエステルとをポリマーブレンドしていること自体をもって、可塑剤を添加する発明からは導きだせないとする理由はない。本件発明は柔軟性、透明性に優れた生分解性フイルムを提供することを課題としている(本件特許明細書の段落【0006】参照)ところ、刊行物1の発明は生分解性フイルムの発明であって、柔軟性と透明性を課題とし(記載事項d参照)、柔軟性と透明性を達成している(記載事項e、i、j参照)。つまり、刊行物1には、本件発明の課題に結びつく記載がある。してみれば、当業者が、刊行物1の発明に基づいて本件発明を導くことに困難はない。
(3)特許権者は、「本件発明の解決課題の一つは、脂肪族ポリエステルからなるフィルムが透明性に欠けている欠点を解決することにあり(【0006】参照)、本件発明はポリ乳酸系重合体と所定の比率で混合することによってこの課題を解決している。しかし、ポリエステル系可塑剤の多くはもともと透明であるから、上記のような解決課題を刊行物1に記載された発明から想起するはずがない。」と主張している。
しかし、判断すべきは解決課題ではなく、本件発明の構成の容易性であるから、本件発明の解決課題が、刊行物1から導かれないことが、本件発明が容易に発明できたことを否定する理由とはならない。なお、刊行物1の発明は透明性に優れているから、本件発明の透明性に関する効果は予測できるものにすぎない。
(4)特許権者は、記載事項gの「ポリエステル系可塑剤の数平均分子量については、特に限定はないが」との記載に関して、『「可塑剤として機能し得る範囲内で分子量には特に限定がない」という意味に理解するはずであり、これを、可塑剤として機能し得ない高分子量範囲まで包含するように強引に理解する者はおそらくいないはずである』と主張している。
しかし、「相違点bについて」で述べたとおり、刊行物1の発明における「ポリエステル(B)」の数平均分子量に限定はない。刊行物1には、「ポリエステル(B)」が、数平均分子量に限定されることなく可塑剤として機能することが記載されているのである。したがって、この主張は採用できない。
なお、この主張が「高分子量範囲は可塑剤として機能し得ない」との前提に立つ主張であるとすれば、刊行物5、6には、高分子量の可塑剤が記載されており、さらに、特開平6-169875号公報の段落【0039】や、特開平8-283557号公報の段落【0020】にも高分子量の可塑剤が記載されているから、この前提には根拠がなく、この点からみても、この主張は採用できない。
(5)特許権者は、上申書と乙第1〜14号証を提出しているが、これらを検討しても、上記当審の判断を覆すべき根拠は認められない。
(6)以上のとおりであるから、特許権者の主張は採用できない。

【6】むすび

以上のとおり、本件発明1、2は、刊行物1、3〜6に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1、2に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
生分解性フィルム
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリ乳酸系重合体とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを75:25〜20:80の範囲の重量割合で混合してなるフィルムであって、引張弾性率を250kg/mm2以下、光線透過率を65〜85%の範囲としてなり、前記ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルが鎖延長剤を使用して高分子量化してなる数平均分子量1万〜15万の下記構造を有してなることを特徴とする生分解性フィルム。

(式中R1及びR2は炭素数2〜10のアルキレン基、シクロ環基又はシクロアルキレン基である。又、nは数平均分子量1万〜15万となるのに必要な重合度である。)
【請求項2】 請求項1に記載のフィルムはインフレーションフィルムであって、ブロー比を2.4〜2.7の範囲として形成されたことを特徴とする生分解性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は自然環境中で分解し、かつ柔軟性及び透明性に優れたフィルムに関する。
【0002】
【従来の技術、及び発明が解決しようとする課題】
従来のプラスチック製品の多く、特にプラスチック包装材は、使用後すぐに破棄されることが多く、その処理問題が指摘されている。一般包装用プラスチックの代表的なものとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、PETなどがあげられるが、これら材料は燃焼時の発熱量が高く、焼却処理中に燃焼炉を痛めるおそれがある。さらに現在でも使用量が多いポリ塩化ビニルは自己消火性のため燃焼することができない。又、このような燃焼できない材料も含めプラスチック製品は埋め立て処理されることが多いが、化学的、生物的安全性のためにほとんど分解せず残留し、埋立地の寿命を短くするなどの問題をおこしている。従って燃焼熱量が低く、土壌中で分解し、かつ安全であるものが望まれ、多くの研究がなされている。
【0003】
その一例としてポリ乳酸がある。ポリ乳酸は燃焼熱量はポリエチレンの半分以下、土中・水中で自然に加水分解が進行し、次いで微生物により無害な分解物となる。現在、ポリ乳酸を用いて成形物、具体的にはフィルム・シートやボトルなどの容器などを得る研究がなされている。ポリ乳酸は、乳酸を縮重合してなる重合体である。乳酸には、2種類の光学異性体のL-乳酸とD-乳酸があり、これら2種の構造単位の割合で結晶性が異なる。例えば、L-乳酸とD-乳酸の割合がおおよそ80:20〜20:80のランダム共重合体では結晶性を持たず、ガラス転移点60℃付近で軟化する透明完全非晶性ポリマーとなる。一方、L-乳酸のみ、又はD-乳酸のみからなる単独重合体はガラス転移点は同じく60℃程度であるが、180℃以上の融点を有する半結晶性ポリマーとなる。この半結晶性ポリ乳酸は、溶融押し出しした後、ただちに急冷することで透明性の優れた非晶性の材料になる。
【0004】
又、ポリ乳酸は、1軸延伸若しくは2軸延伸して分子を配向させた後、熱処理することで可視光線の波長以上の大きさをもつ球晶の成長を抑制しつつ結晶化させ、透明性を維持する方法がある。工業的な製造方法としては、2軸配向ポリプロピレンフィルムや2軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルムの製造に使用されているロール式、テンター式或いは両者を組み合わせた2軸延伸装置を用いることができる。しかしながら、ポリ乳酸は硬くて脆い材料である。用途によっては必ずしも適した材料になり得ない。例えばこれら無延伸ポリ乳酸フィルム若しくは2軸配向ポリ乳酸フィルムを製袋加工して袋として用いても、既存のポリエチレン製袋やポリプロピレン製袋などのプラスチックフィルム製袋と比較すると、しなやかさに劣り使い勝手が悪い。
【0005】
一方、柔軟性を持つ生分解性フィルムとしては、脂肪族多官能カルボン酸と脂肪族多官能アルコールの縮重合体からなるフィルムがあげられる。一例としては、コハク酸又はアジピン酸、或いはこれら両者からなるジカルボン酸成分と、エレチングリコール又はブタンジオール、或いはこれら両者からなるジオール成分を主な構造単位となる脂肪族ポリエステルからなるフィルムがある。このような脂肪族ポリエステルはガラス転移点が室温以下で、結晶性が高く、室温では結晶状態にある。このポリマーは溶融押し出した後、急冷しても球晶の成長を抑えることは困難で、不透明化する。このフィルムの不透明度は高い。厚みが同程度のポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどと比較しても高く、このような脂肪族ポリエステル製袋に商品を入れても、中身がはっきりしない、中身の色合いが不鮮明になるなど、ディスプレイ効果を損なってしまう。ジカルボン酸成分及びジオール成分を調整して結晶性を低下させ、若干ながら透明性を向上させる検討もなされているが、結晶性が低すぎると押し出した後、冷却しても固化しにくくなり、キャストロールに粘着し、フィルムとして引き取りにくくなる。
【0006】
このように、ポリ乳酸からなるフィルムは硬くて脆く柔軟性に欠ける。一方、脂肪族ポリエステルからなるフィルムは透明性に劣る欠点を有し、いずれにしても改良が望まれていた。本発明の目的は、上記問題点を考究してなしたものであり、自然環境中で分解しやすく、柔軟性、透明性に優れた生分解性フィルムを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明の生分解性フィルムは、ポリ乳酸系重合体とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを75:25〜20:80の範囲の重量割合で混合してなるフィルムであって、引張弾性率を250kg/mm2以下、光線透過率を65〜85%の範囲としてなり、かつ上記脂肪族ポリエステルは、鎖延長剤を使用して高分子量化してなる数平均分子量1万〜15万の下記構造を有することを特徴とする。

(式中R1及びR2は炭素数2〜10のアルキレン基、シクロ環基又はシクロアルキレン基である。又、nは数平均分子量1万〜15万となるのに必要な重合度である。)上記割合は約60:40〜35:65の範囲とすれば、柔軟性と透明性のバランスをより一層好ましいものとすることができる。
また、本発明のフィルムは、インフレーションフィルムであって、ブロー比を2.4〜2.7の範囲として形成されたことを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態例を説明する。ポリ乳酸は、前記のように乳酸の構造単位がL-乳酸であるポリ(L-乳酸)、構造単位がD-乳酸でありポリ(D-乳酸)さらにはL-乳酸とD-乳酸の共重合体であるポリ(DL-乳酸)がある。又、これらの混合体もある。重合法としては、縮重合法、開環重合法など公知のいずれの方法を採用してもよい。例えば、縮重合法ではL-乳酸又はD-乳酸或いはこれらの混合物を直接脱水縮重合して任意の組成を持ったポリ乳酸を得ることができる。又、開環重合法では乳酸の環状2量体であるラクチドを、必要に応じて重合調整剤などを用いながら、選ばれた触媒を使用してポリ乳酸を得ることができる。ラクチドにはL-乳酸の2量体であるL-ラクチド、D-乳酸の2量体であるD-ラクチド、さらにはL-乳酸とD-乳酸からなるDL-ラクチドがあり、これらを必要に応じて混合して重合することにより任意の組成、結晶性をもつポリ乳酸を得ることができる。又、ポリ乳酸の性質を損なわない程度に、他のヒドロキシカルボン酸などを共重合しても構わない。さらに、分子量増大を目的として少量の鎖延長剤、例えば、ジイシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物などを使用できる。重合体の重量平均分子量の好ましい範囲としては6万から70万であり、この範囲を下回る場合は実用物性がほとんど発現されず、上回る場合には溶融粘度が高すぎ成形加工性に劣る。
【0009】
脂肪族カルボン酸成分と脂肪族アルコール成分からなるポリマー(以下、単に「脂肪族ポリエステル」という)は、これらを直接重合して高分子量物を得る方法と、オリゴマー程度に重合した後、鎖延長剤などで高分子量物を得る間接的な製造方法がある。本発明に使用されるポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルは、ジカルボン酸とジオールからなることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸などの化合物、又はこれらの無水物や誘導体があげられる。一方、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのグリコール系化合物、及びこれらの誘導体が一般的である。いずれも炭素数2〜10のアルキレン基、シクロ環基又はシクロアルキレン基をもつ化合物で、縮重合により製造される。カルボン酸成分或いはアルコール成分のいずれにおいても2種以上用いてもかまわない。又、溶融粘度の向上のためポリマー中に分岐を設ける目的で3官能以上のカルボン酸、アルコール或いはヒドロキシカルボン酸を用いても構わない。これらの成分は多量に用いると、得られるポリマーが架橋構造を持ち、熱可塑性でなくなったり、熱可塑性であっても部分的に高度に架橋構造を持ったミクロゲルが生じ、フィルムにしたときフィッシュアイとなるおそれがある。従って、これら3官能以上の成分は、ポリマー中に含まれる割合はごくわずかで、ポリマーの化学的性質、物理的性質を大きく左右するものではない程度に含まれる。多官能成分としては、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸或いはペンタエリスリットやトリメチロールプロパンなどを用いることができる。直接重合法は、上記化合物を選択して、化合物中に含まれる、或いは重合中に発生する水分を除去しながら、高分子量物を得る方法である。又、間接的な製造方法としては、上記ポリ乳酸同様、少量の鎖延長剤を使用して高分子量化する。主な鎖延長剤としてはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物があげられる。
【0010】
フィルムの製膜条件について説明する。先ず、ポリ乳酸系重合体とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルの混合は、同一の押出機にそれぞれの原料を投入して行う。そのまま口金より押し出して直接フィルムを作製する方法、或いはストランド形状に押し出してペレットを作製し、再度押出機にてフィルムを作製する方法がある。いずれも、分解による分子量の低下を考慮しなければならないが、均一に混合させるには後者を選択する方がよい。ポリ乳酸系重合体及びポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルを十分に乾燥し、水分を除去したのち押出機で溶融する。ポリ乳酸はL-乳酸構造とD-乳酸構造の組成比によって融点が変化することや、脂肪族ポリエステルの融点と混合の割合を考慮して、適宜溶融押出温度を選択する。実際には約100〜250℃の温度範囲が通常選ばれる。
【0011】
ポリ乳酸系重合体とポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルの混合は、重量比75:25〜20:80の範囲としたことが本発明で重要な点である。脂肪族ポリエステルが25%を下回る場合に得られるフィルムでは、既存の袋状物に使用されているプラスチックフィルムの厚みでは、ポリ乳酸に由来する硬さと脆さのため、折り目箇所で割れや裂けが生じやすいといった問題が生ずる。又、硬すぎて実用上使い勝手が悪い。脂肪族ポリエステルをポリ乳酸系重合体に混合することで、柔軟性を付与することができる。柔軟性の目安としては、引張弾性率で250kg/mm2程度以下にすることが好ましく、さらに好ましくは200kg/mm2程度以下にすることである。ちなみに既存の汎用プラスチック製袋では、硬い部類に属する2軸配向ポリプロピレンでも引張弾性率が250kg/mm2程度である。これらの柔軟性はポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルの種類にもよるが25%程度以上混合することで達成することができる。
【0012】
通常、脂肪族ポリエステルは、特にガラス転移点及び結晶化点が室温以下にある脂肪族ポリエステルは結晶性が高く、室温で結晶化し、内部に球晶が発達して白濁し、不透明になる。しかし、ポリ乳酸を混合することによって少なくとも既存のポリエチレン、ポリプロピレンフィルムの程度まで透明性を改良することができる。一般に相溶性の低いポリマー同士を混合すると、得られる成形物は一層不透明化するが、本発明ではこのような現象は見られない。すなわち、ポリ乳酸と脂肪族ポリエステルが比較的相溶性に優れている。その効果は脂肪族ポリエステルの混合割合を80%よりも少なくし、ポリ乳酸を20%よりも多くすることにより得ることができる。この範囲を上回ると、両ポリマーの分散の程度にもよるが、得られるフィルムの透明性は改善されない。これは、両ポリマーの分子間的な相互作用に起因するものと思われるが現在のところ不明である。フィルムの透明性は、その用途にもよるが、光線透過率で65%以上あることが好ましい。さらに好ましくは75%以上であればより一層の透明感を与えることができる。厚みにもよるが、脂肪族ポリエステルの混合の割合が80%を越えると光線透過率を65%以上にすることは難しい。上記範囲内で2種のポリマーを混合することにより、フィルムの柔軟性と透明性のバランスにおいて優れた性質を引き出すことができる。
【0013】
製膜方法は、溶融したポリマーをT-ダイより押し出して回転するキャスティングドラムで引き取りながら急冷して固化させる方法、或いは、丸ダイより円筒状に溶融ポリマーを引き上げ、空冷しながら同時に風船状に膨らまして製膜するいわゆるインフレーション法など公知の方法を用いて構わない。一般に、後者の方が、冷却速度が遅くなり、結晶化しやすく、フィルムの透明性には不利な条件となる。空気の代わりに水を用いて冷却効率をあげることもできる。
【0014】
上記形態は、透明性、耐熱性に優れた無延伸フィルムであるが、必要に応じて延伸することも可能である。例えば、収縮包装用フィルムとして用いる場合には、テンター法、チューブラー法による延伸配向フィルムを作製することで得られる。
【0015】
【実施例】
以下に実施例を示すが、これにより本発明は何ら限定を受けるものではない。なお、実施例中に示す測定、評価は次に示すような条件で行った。
(1)光線透過率
JIS K 7105に準拠して測定を行った。値が大きいほど透明性に優れていることを示す。
(2)引張弾性率
東洋精機テンシロンII型引張試験機を用いて、温度23℃、相対湿度50%下で測定を行った。フィルムを5mm幅、長さ300mmの短冊状に切り出し、チャック間250mm、引張速度5mm/minで引張試験を行い、降伏点強度の1/2の強度とひずみを求めて算出した。値が低いほど柔軟なフィルムであることがわかる。なお、フィルムの長手方向をMD、幅方向をTDと表記した。
【0016】
(実施例1)
25mmφ同方向小型2軸押出機を用い、表1に示すポリ乳酸(株式会社島津製作所製、商品名ラクティ)と、ポリ乳酸以外の脂肪族ポリエステルとして主に1、4-ブタンジオールとコハク酸の縮重合体であるポリブチレンサクシネート(昭和高分子株式会社製、商品名ビオノーレ#1001)を70:30の割合で混合溶融した後、210℃でストランド形状に押し出してペレットを作製した。次に30mmφ小型単軸押出機を用い、30mmφの丸ダイより200℃で溶融押し出し、空冷してブロー比が2.4である20μm厚のインフレーションフィルムを作製した。得られたフィルムの評価を表1に示す。
(実施例2)
実施例1で使用したポリプチレンサクシネートの代わりに、主に1、4-ブタンジオールとコハク酸とアジピン酸を共重合したポリプチレンサクシネート/アジペート(昭和高分子株式会社製、商品名:ビオノーレ#3001)を用い、70:30の割合で混合溶融した後、200℃でストランド形状に押し出してペレットを作製した以外は、実施例1と同様にして表1に示すブロー比が2.5である20μm厚インフレーションフィルムを作製した。
(実施例3、4)
ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート/アジペートとの混合の割合をそれぞれ50:50、25:75にした以外は、実施例2と同様にして表1に示すブロー比がどちらも2.7であるフィルムを得た。
【0017】
(比較例1)
ポリ乳酸のみを実施例2と同様にして表1に示すインフレーションフィルムを作製した。ただし、ブロー比は1.9である。
(比較例2)
ポリブチレンサクシネート/アジペートのみを実施例2と同様にして180℃で溶融押し出しし、ブロー比が3.1で、20μm厚のインフレーションフィルムを作製した。
(比較例3、4)
ポリ乳酸とポリブチレンサクシネート/アジペートとの混合の割合をそれぞれ80:20、及び15:85にした以外は、実施例2と同様にして表1に示すフィルムを得た。
【0018】
【表1】

【0019】
実施例1、2では、やや硬めではあるが、柔軟性をもち、透明性に優れたフィルムを得ることができた。実施例3で得たフィルムは透明性に優れ、かつしなやかな柔軟性を有したフィルムが得られた。また、実施例4では、透明性にやや劣るが柔軟性に優れたフィルムが得られた。ブロー比を2.4〜2.7の範囲としたこれら実施例のフィルムは光線透過率が68〜85%となり、いずれも実用上問題がない。一方、比較例1、3では透明性に優れるものの、柔軟性に欠け、比較例2、4では柔軟性が優れているが透明性は不十分であった。
【0020】
【発明の効果】
本発明によって、自然環境中で分解性を持ち、かつ柔軟性及び透明性に優れたフィルムを得ることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-06-26 
出願番号 特願平8-80337
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 中島 次一
石井 あき子
登録日 2001-04-20 
登録番号 特許第3182077号(P3182077)
権利者 三菱樹脂株式会社
発明の名称 生分解性フィルム  
代理人 竹内 三郎  
代理人 市澤 道夫  
代理人 竹内 三郎  
代理人 市澤 道夫  
代理人 山田 益男  

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