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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F |
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管理番号 | 1117829 |
異議申立番号 | 異議2003-73425 |
総通号数 | 67 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-05-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-26 |
確定日 | 2005-04-04 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3423414号「プロピレン系エラストマー」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3423414号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 特許第3423414号に係る発明は、特願平6-146413号として、平成6年6月28日に出願(優先日 平成5年9月24日 日本)され、平成15年4月25日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 日本ポリプロ株式会社(以下、単に「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成16年5月31日付で取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月9日に特許異議意見書と訂正請求書が提出され、平成16年9月6日に特許異議申立人より上申書が提出されたものである。 2.訂正の適否 2-1.訂正の内容 訂正事項a 請求項1の 「(a)プロピレン単位を50〜95モル%、エチレン単位を5〜50モル%含んでなり」を 「(a)プロピレン単位を50〜93モル%、エチレン単位を7〜50モル%含んでなり」と訂正する。 訂正事項b 段落【0006】の 「(a)プロピレン単位を50〜95モル%、エチレン単位を5〜50モル%含んでなり」を 「(a)プロピレン単位を50〜93モル%、エチレン単位を7〜50モル%含んでなり」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求に範囲の拡張・変更の存否 訂正事項aは、訂正前の明細書に記載された「本発明のプロピレン系エラストマーは、プロピレン単位を50〜95モル%、好ましくは60〜93モル%、より好ましくは70〜90モル%の割合で含み、エチレン単位を5〜50モル%、好ましくは7〜40モル%、より好ましくは10〜30モル%の割合で含んでなるプロピレン-エチレンランダム共重合体である」(段落【0007】)との記載に基づいて、請求項1に記載されたプロピレン系エラストマーのプロピレン単位含有量の上限値を93モル%、エチレン単位含有量の下限値を7モル%として、プロピレン単位及びエチレン単位の含有量範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的として、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 訂正事項bは、訂正事項aによる特許請求の範囲の訂正に伴い、対応する発明の詳細な説明をこれと整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものである。 そして、これらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下、「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.本件発明 上記の結果、訂正後の本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】(a)プロピレン単位を50〜93モル%、エチレン単位を7〜50モル%含んでなり、 (b)13C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の下記式で表されるトリアドタクティシティーが95.0%以上であり、 (c)13C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5〜2.0%、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が1〜12dl/gの範囲にあることを特徴とするプロピレン系エラストマー。」 4.特許異議の申立についての判断 4-1.特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、甲第1〜5号証及び参考資料1〜7を提出して、概略、次のように主張している。 (1)訂正前の請求項1に係る発明は、甲第5号証を参酌すれば、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)訂正前の請求項1に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、又は甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。 (3)訂正前の本件明細書の記載は不備であるから、本件特許は特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである。 4-2.判断 4-2-1.取消理由 当審において、平成16年5月31日付けで通知した取消理由は以下のとおりであり、下記の刊行物等が引用された。 (1)訂正前の請求項1に係る発明は、参考資料1実験報告書の記載を参酌すれば、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 (2)訂正前の請求項1に係る発明は、刊行物2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。 (3)訂正前の本件明細書の記載は不備であるから、本件特許は特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである。 <刊行物等> 刊行物1:特開平1-266116号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証) 刊行物2:特開昭62-119215号公報(同、甲第2号証) 刊行物3:T.Tsutsui et al. ”Propylene homo-and copolymerization with ethylene using an ethylene bis(1-indenyl)zirconium dichloride and methylaluminoxane catalyst system”POLYMER Vol.30,July 1989,p.1350-1356(同、甲第3号証) 参考資料1:日本ポリプロ株式会社 重合技術センター 前田 洋一が作成した平成15年12月19日付けの実験報告書(同、甲第5号証) 参考資料2:「化学大辞典 2 縮刷版」、共立出版株式会社、1993年6月1日縮刷版第34刷、p.873、「極限粘度数」の項(同、参考資料1) 参考資料3:高木 謙行 外1名編著「プラスチック材料講座[7]ポリプロピレン樹脂」、日刊工業新聞社、昭和44年11月30日、p.46-49(同、参考資料2) 参考資料4:T.Tsutsui et al.”Characterization of isotactic polypropylene obtained with ethylenebis(4,5,6,7-tetrahydro-1-indenyl)zirconium dichloride as catalyst” Makromol. Chem.190,1989,p.1177-1185(同、参考資料3) 参考資料5:本件の審査段階で特許権者が提出した平成14年7月16日付け意見書に添付された「mmと2,1-量バランス(重合温度の影響)」と題するグラフ(同、参考資料6) 参考資料6:特開平7-149833号公報(同、参考資料7) 4-2-2.刊行物1〜3及び参考資料1〜6の記載内容 刊行物1 (1-1)「プロピレンとエチレンおよび/または式 CH2=CHR (式中、Rは炭素数2〜10のアルキル基である)のα-オレフィンとの結晶性共重合体であって、エチレンおよび/またはα-オレフィン2〜10モル%を含有し、融点110〜140℃および25℃のキシレン中の溶解度10重量%未満を有することを特徴とするプロピレンの新規結晶性共重合体。」(請求項1) (1-2)「当業者は、ポリプロピレンが少量のコモノマー、主としてエチレンおよび1-ブテンを重合反応時に導入することによって変性できることを知っている。この変性の目的は、重合体の融点を下げ、従って改良された溶接性の特性を示すフィルムを得ることである。」(第2頁左上欄第14〜19行) (1-3)「(a)式・・・のジルコニウムの立体硬質キラル化合物; (b)式・・・のアルモキサン(alumoxanic)化合物から得られる触媒系を使用することによって、高い結晶化度および非常に良好な機械的性質(プロピレン単独重合体と非常に類似)が付与され・・・を有するプロピレン共重合体が得られることを今や見出した。」(第2頁左下欄第7行〜同頁右下欄下から第5行) (1-4)「前記条件下で操作することによって得られた共重合体は、135℃のテトラリン中での固有粘度0.2dl/gよりも大を有する。」(第3頁右上欄第9〜11行) (1-5)「ジルコニウム化合物合成 エチレン-ビス-インデニル-ZrCl2(EBIZ)およびエチレン-ビス(テトラヒドロインデニル)-ZrCl2(EBTHIZ)の合成をジャーナル・オブ・オルガノメタリック・ケミストリー(Journal of Organometallic Chemistry)(1985)288,63に従って実施した。 重合 すべての操作を窒素下で実施した。バブリング管、温度計およびガスベントストップコックを備え、機械的攪拌装置を有し且つ0℃の制御温度に保たれた3口フラスコに、ポリメチルアルモキサン45mgおよびジルコニウム化合物0.8mgを含有するトルエン20mlの溶液を装入する。窒素排気後、ガス混合物(その組成を下記表に明示する)を連続的に加える(流量20l/hr)。重合時間、触媒の種類および重合体の特性を表に示す。」(第3頁右下欄第1〜20行) (1-6) (第4頁) 刊行物2 (2-1)「エチレン成分及びプロピレン成分からなるプロピレン系ランダム共重合体であって、 (A)その組成が、エチレン成分が10ないし70モル%及びプロピレン成分が30ないし90モル%の範囲にあり、 (B)デカリン中で135℃で測定した極限粘度〔η〕が0.5ないし6dl/gの範囲にあり、・・・ (H)プロピレンのtriad連鎖でみたミクロアイソタクテイシテイが0.8以上の範囲にあり、 (I)共重合体の13C-NMRスペクトルにおいて共重合体主鎖中の隣接した2個の三級炭素原子間のメチレン連鎖に基づくαβおよびBr(註:「Br」は「βγ」の誤記と認める。)のシグナルが観測されず、・・・ことを特徴とするプロピレン系ランダム共重合体。」(請求項1) (2-2)「従つて、本発明の目的はプロピレン成分とエチレン成分からなる新規プロピレン系ランダム共重合体を提供することにある。さらに、本発明の他の目的は、オレフイン系重合体などの熱可塑性樹脂に配合することにより、ヒートシール性または耐衝撃性の改善効果に優れた熱可塑性樹脂用改質剤を提供することにある。」(第5頁左上欄第18行〜同頁右上欄第4行) (2-3)「本発明において、共重合体の「3個のプロピレン連鎖」でみたミクロアイソタクシテイシテイ(H)は0.8以上、好ましくは0.9以上である。該ミクロアイソタクテイシテイの値は、・・・「3個のプロピレン連鎖」・・・の可能な組み合わせ数の総数のx・・・に対して、上記「3個のプロピレン連鎖」がとり得る三種の配列、すなわちm・m配列(アイソタクテイツク配列)、m・r配列及びr・r配列の中で、m・m配列をとっている該「3個のプロピレン連鎖」に数yの割合(y/x)を示す。上述のように、本発明で3個のプロピレン連鎖でみたミクロアイソタクシテイシテイとは、それ自体公知の13C核磁気共鳴スペクトルの手法によつて3個のプロピレン連鎖に着目し、該3個のプロピレン連鎖単位における3個のプロピレンがアイソタクテイツクに配列している分率を定量したものである。」(第7頁右下欄第7行〜第8頁左上欄第10行) (2-4)「実施例-1・・・ (d)重合・・・プロピレン10kg(238モル)およびエチレン2.9kg(104モル)を-15℃で装入し、引き続きアルミニウム原子換算で0.4グラム原子に相当するメチルアルミノオキサン、ジルコニウム原子換算で0.4ミリグラム原子に相当するエチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを装入し、-15℃で5時間重合を行つた。・・・13C-NMRにより測定した共重合体のプロピレン含有量は58.2モル%、極限粘度〔η〕は、2.80dl/g、GPCより求めたMw/Mnは2.42、DSC融点は64℃、X線回折法によつて測定した結晶化度は0.9%、沸騰酢酸メチル可溶分が0.04重量%、アセトン・n-デカン混合溶媒可溶分が0.22重量%、13C-NMRより求めたミクロアイソタクテイシテイが0.95およびB値は1.26であつた。・・・また、得られた共重合体の13C-NMRスペクトルには、αβ、βγに基づくシグナルは観測されなかつた。」(第13頁右上欄第8行〜第14頁右上欄第3行) (2-5)「実施例5 実施例1と同様にして合成したエチレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリドをジルコニウム原子換算で0.45ミリグラム原子用い重合時間を10時間とした以外は実施例1と同様に重合を行つた。また、得られた共重合体の13C-NMRスペクトルにはαβ、βγに基づくシグナルは観測されなかつた。」(第14頁右上欄第11〜18行) (2-6)表1には、実施例5の共重合体のプロピレン含有量は59.8モル%であることが記載されている。(第15頁上欄) (2-7)表1(続)には、ミクロアイソタクテイシテイの項に、実施例1は0.95、実施例3は0.96、実施例5は0.95であることが記載されている。(第15頁下欄) (2-8)「〔発明の効果〕以上のとおり、本発明のプロピレン系ランダム共重合体は分子量分布、組成分布が狭く、透明性に優れ、表面非粘着性でありそして低結晶性である。」(第17頁左上欄第1〜5行) 刊行物3 (3-1)「エチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジクロライドおよびメチルアルミノキサン触媒系を用いたプロピレンの単独重合およびエチレンとの共重合」(第1350頁第1〜4行) (3-2)「(2)重合温度が低くなるにつれてC6-不溶/C7-可溶フラクションの中でmmmm値が高くなる傾向が認められた。」(第1352頁右欄第16〜18行) (3-3)「C6-不溶/C7-可溶またはC7-不溶/T-可溶フラクションの計算結果を表5に示した。表5(註:表5の表題は「ポリプロピレンモノマーの2,1-及び1,3-挿入量」)に示されたように、重合温度が高くなるほど、2,1-挿入および1,3-挿入がより頻繁に起こったことが分かる。」(第1353頁右欄第11〜14行) (3-4)「30℃において、エチレンの量を変化させてプロピレンと共重合させた。得られた重合体の全体を13Cn.m.r.分析によって構造解析した。結果を表6に示す。エチレンの導入により、共重合体に22モル%のエチレン単位を導入することにより活性は最高8倍増強されたが、プロピレン単位配列のmm値はほとんど影響を受けなかった。」(第1353頁右欄下から第14〜7行) (3-5)「少量のエチレンとのプロピレンの共重合の結果」と題する表6には、エチレン含量が7.4モル%でmmが91%の共重合体(Run no.10)及びエチレン含量が22モル%でmmが89%の共重合体(Run no.11)が記載されている。(第1355頁) (3-6)表8の表題には「共重合における2,1-挿入量(frequency)」と記載されており、同表には、エチレン含量が7.4モル%で、2,1-挿入量が0.64%の共重合体(Run no.10)及びエチレン含量が22モル%で、2.1-挿入量が0.88%の共重合体(Run no.11)が記載されている。また、同表に続いて「表8に示すように、ポリマー中のエチレン量の増加に伴い、その量(frequency)は0.58〜0.88%へと僅かに増加し、これは2,1-挿入は、エチレン単位が成長する重合体鎖またはその近くに存在するとき、より頻繁に起こることを示唆している。」と記載されている。(第1356頁) 参考資料1 特開平1-266116号公報(刊行物1)の実施例5を追試した結果として、「エチレン含量:5.7mol%、mm:96.1%、特定2,1-量:1.0%、1,3-量:0.03%、極限粘度:2.9dl/g」とのデータが示されている。 参考資料2 「きょくげんねんどすう 極限粘度数」の項(第873頁)に、「きょくげんねんどすう 極限粘度数・・・=固有粘度」と記載されている。 参考資料3 「粘度式は[η]=kMαの形で示され、Kinsinger42),Parrini43),Natta44),Chiang45)らによりもとめられているが、KinsingerおよびParriniの式がよく用いられる。いずれの式を用いても大きな差はない。 Kinsinger42) [η]=1.10×10-4M0.80 135℃ デカリン(3.7) Parrini43) [η]=0.80×10-4M0.80 135℃ テトラリン(3.8)」(第47頁末行〜第48頁第5行) 参考資料4 (参4-1)「エチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウムジクロライドを触媒として得られたアイソタクティックポリプロピレンの構造」(第1177頁第1〜3行) (参4-2)「Zr触媒系:・・・次いで、330mLのトルエンと720mg(1.2×10-2モルAl)のメチルアルミノキサンを充填した。その後溶液をサーモスタット中で-15℃に保ち、該系に1.3バールのプロペンを加圧した。4.5×10-6モルのエチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウムジクロライドを加えることによって、重合を開始した。」(第1178頁第12〜18行) (参4-3)表2には、「Zr系-ポリマー全体のタクティシティa)(ペンタッドのフラクションの%)mmmmが97.9、Fb)(%)が0.59、・・・ a)不規則配列のメチル基をタクティシティーの評価において除外した。 b)2,1-挿入量」(第1182頁)とのデータが示されている。 参考資料5 「mmと2,1-量バランス(重合温度の影響)」と題するグラフ 参考資料6 (参6-1)「(a)プロピレン単位を50〜95モル%、エチレン単位を5〜50モル%含んでなり、(b)13C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の下記式で表されるトリアドタクティシティーが90.0%以上であり、(c)13C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05〜0.5%であり、(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が0.1〜12dl/gの範囲にあることを特徴とするプロピレン系エラストマー。」(請求項1) (参6-2)「【実施例1】充分に窒素置換した17リットルのオートクレーブに、ヘキサンを8リットル仕込み、60℃に昇温し、プロピレンを1時間当たり250リットルとエチレンを1時間当たり170リットルを連続的にフィードし、8kg/cm2-Gに昇圧した。次ぎに、トリイソブチルアルミニウム8ミリモル、メチルアルミノキサン1.8ミリモル、rac-ジメチルシリルビス{1-(2-メチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリドをZr原子に換算して0.006ミリモル加え、・・・60℃で45分間重合を行った。・・・。得られたポリマーは・・・極限粘度〔η〕=1.4dl/g、エチレン含量=33.6モル%、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティー=97.5%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.27%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.03%以下であった。」(段落【0084】〜【0086】) (参6-3)「【実施例2】実施例1においてエチレンのフィード量を170リットルから60リットルに変更し、プロピレンとエチレンの混合ガスのモル比を60/40から81/19に変更した以外は実施例1と同様にして重合を行った。得られたポリマーは・・・・・・極限粘度〔η〕=1.5dl/g、エチレン含量=15.4モル%、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティー=96.7%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.28%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.03%以下であった。」(段落【0087】〜【0088】) (参6-4)「【実施例3】充分に窒素置換した17リットルのオートクレーブに、ヘキサンを8リットル、水素を40ml仕込み、70℃に昇温し、プロピレンを1時間当たり253リットルとエチレン22リットルを連続的にフィードし、6.5kg/cm2-Gに昇圧した。次ぎに、トリイソブチルアルミニウム8ミリモル、メチルアルミノキサン1.8ミリモル、rac-ジメチルシリルビス{1-(2-メチル-4-フェニルインデニル)}ジルコニウムジクロリドをZr原子に換算して0.006ミリモル加え、・・・70℃で30分間重合を行った。・・・得られたポリマーは・・・極限粘度〔η〕=2.0dl/g、エチレン含量=6.0モル%、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティー=97.5%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.18%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.03%以下であった。」(段落【0089】〜【0091】) 4-2-3.対比・判断 (1)特許法第29条1項違反(第3号に該当)について 刊行物1には、プロピレンとエチレンとの結晶性共重合体であって、エチレンを2〜10モル%を含有し、融点110〜140℃および25℃のキシレン中の溶解度10重量%未満を有するプロピレンの新規結晶性共重合体(摘示記載(1-1))及び該共重合体が135℃のテトラリン中での固有粘度0.2dl/gよりも大を有すること(摘示記載(1-4))が記載されている。 そこで本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者はともにプロピレンとエチレンとを含む共重合体であって、プロピレン単位を90〜93モル%(即ち、エチレン単位を7〜10モル%)含む点で一致するが、両発明は次の点で相違している。 (ア)本件発明においては「(b)13C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティーが95.0%以上である」のに対して、刊行物1に記載された発明においては、トリアドタクティシティーが規定されていない点、 (イ)本件発明においては「(c)13C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5〜2.0%、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下である」のに対し、刊行物1に記載された発明においては、2,1-挿入及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が規定されていない点、 (ウ)本件発明は「(d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が1〜12dl/gの範囲にある」のに対し、刊行物1に記載された発明は、135℃、テトラリン中で測定した固有粘度が0.2dl/gより大であるとされている点、及び (エ)本件発明はエラストマーであるのに対し、刊行物1に記載された発明は結晶性共重合体である点。 そこでこれらの相違点の内、まず(ア)及び(イ)について以下に検討する。 刊行物1には、「ジルコニウム化合物合成」について「エチレン-ビス-インデニル-ZrCl2(EBIZ)およびエチレン-ビス(テトラヒドロインデニル)-ZrCl2(EBTHIZ)の合成をジャーナル・オブ・オルガノメタリック・ケミストリー(Journal of Organometallic Chemistry)(1985)288,63に従って実施した」、「重合」について「すべての操作を窒素下で実施した。バブリング管、温度計およびガスベントストップコックを備え、機械的攪拌装置を有し且つ0℃の制御温度に保たれた3口フラスコに、ポリメチルアルモキサン45mgおよびジルコニウム化合物0.8mgを含有するトルエン20mlの溶液を装入する。窒素排気後、ガス混合物(その組成を下記表に明示する)を連続的に加える(流量20l/hr)」(摘示記載(1-5))との実施例が記載されており、実施例5では、Zr化合物としてEBTHIZを用い、ガス組成(モル%)をC2:5,C3:95とし、共重合体組成がC2:5.4である共重合体を得たことが記載されている。(摘示記載(1-6)) この実施例5を追試したものとする参考資料1の実験報告書には、製造した共重合体を解析した結果として「エチレン含量:5.7mol%、mm:96.1%、特定2,1-量:1.0%、1,3-量:0.03%、極限粘度:2.9dl/g」とのデータが示されており、このような共重合体は、上記(ア)及び(イ)に係る本件発明の要件(b)及び(c)を満たすものといえる。 しかしながら、本件発明においては、共重合体のエチレン含量を7〜50モル%に限定しているから、エチレン含量が5.7モル%である実施例5の共重合体はその点で本件発明の範囲を外れるものであり、刊行物1の実施例、比較例には、実施例5以外にもエチレン含量が7〜50モル%であるものは記載されていない。また、刊行物1には、他に、エチレン含量が7〜50モル%の共重合体であって本件発明の(b)及び(c)の要件を満たすものが記載されているものと認めるべき根拠は見いだせない。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は刊行物1に記載された発明であるということはできない。 (2)特許法第29条第2項違反について 刊行物2には、エチレン成分及びプロピレン成分からなるプロピレン系ランダム共重合体であって、(A)その組成が、エチレン成分が10ないし70モル%及びプロピレン成分が30ないし90モル%の範囲にあり、(B)デカリン中で135℃で測定した極限粘度〔η〕が0.5ないし6dl/gの範囲にあり、(H)プロピレンのtriad連鎖でみたミクロアイソタクテイシテイが0.8以上の範囲にあり、(I)共重合体の13C-NMRスペクトルにおいて共重合体主鎖中の隣接した2個の三級炭素原子間のメチレン連鎖に基づくαβおよびβγのシグナルが観測されないプロピレン系ランダム共重合体(摘示記載(2-1))が記載されており、実施例にはこのミクロアイソタクテイシテイが0.95及び0.96の共重合体が示されている(摘示記載(2-7))。 そこで、本件発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると、両者はともにプロピレンとエチレンとを含む共重合体であって、プロピレン単位を50〜90モル%(即ち、エチレン単位を10〜50モル%)含む点、及び、135℃、デカリン中で測定した極限粘度が1〜6dl/gの範囲にある点で一致するが、両発明は次の点で相違している。 (オ)本件発明においては、「(b)13C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティーが95.0%以上である」のに対し、刊行物2に記載された発明においては、プロピレンのtriad連鎖でみたミクロアイソタクテイシテイが0.8以上とされ、実施例には0.95および0.96のものが示されている点、 (カ)本件発明においては、「(c)13C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5〜2.0%、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下である」のに対し、刊行物2に記載された発明においては、共重合体主鎖中の隣接した2個の三級炭素原子間のメチレン連鎖に基づくαβおよびβγのシグナルが観測されないことが記載されているが、プロピレンモノマーの2,1-挿入及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合については規定されていない点、及び (キ)本件発明においてはプロピレン系エラストマーと記載しているのに対し、刊行物2に記載された発明においてはプロピレン系ランダム共重合体と記載しており、エラストマーであるとは規定されていない点。 そこでまず相違点(オ)について検討すると、刊行物2に記載されたプロピレンのtriad連鎖でみたミクロアイソタクテイシテイの値は、「「3個のプロピレン連鎖」・・・の可能な組み合わせ数の総数x・・・に対して、上記「3個のプロピレン連鎖」がとり得る3種の配列、すなわちm・m配列(アイソタクテイツク配列)、m・r配列およびr・r配列の中で、m・m配列をとっている該「3個のプロピレン連鎖」に数yの割合(y/x)(摘示記載(2-3))を示すものであるから、刊行物2に記載されたミクロアイソタクテイシテイと本件発明におけるトリアドタクティシティーとは、実質的に同じ内容について、分数で表現するか、%で表現するかという表現方法が異なるだけのものということができ、刊行物2の請求項1にはミクロアイソタクテイシテイが0.8以上の範囲にあること(摘示記載(2-1))が記載され、また実施例にはミクロアイソタクテイシテイが0.95以上、即ち、トリアドタクティシティーが95%以上の共重合体が記載されているから、(オ)の点は実質的な相違点とはいえない。 次に、相違点(カ)について検討すると、刊行物2に記載された発明においては13C-NMRスペクトルにおいて共重合体主鎖中の隣接した2個の三級炭素原子間のメチレン連鎖に基づくαβおよびβγのシグナルが観測されないとされており(摘示記載(2-1))、刊行物2の第8頁右上欄第1行〜同頁左下欄下から10行及び本件訂正明細書の段落【0024】〜【0026】の記載からみて、αβのシグナルはプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位を示すものであり、βγのシグナルはプロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位を示すものと解されるから、刊行物2に記載された共重合体の2,1-挿入に基づく位置不規則単位および1,3-挿入に基づく位置不規則単位は観測できない程度に少ないということになる。これに対して、本件発明の共重合体の2,1-挿入に基づく位置不規則単位は0.5〜2.0%であり、1,3-挿入に基づく位置不規則単位は0.05%以下であって、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が高い点で刊行物2に記載された共重合体とは明確に相違する。 この点に関し、刊行物3には、触媒としてエチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジクロライドおよびメチルアルミノキサン触媒系を用いたプロピレンの単独重合およびエチレンとの共重合について記載され、重合温度が低くなるにつれて、mmmm(ペンタッドタクシティティー)値が高くなること(摘示記載(3-2))、プロピレンの単独重合体の製造においては、重合温度が上昇するにつれて、2,1-挿入に基づく位置不規則単位および1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が増加すること(摘示記載(3-3))ならびにエチレンとの共重合においては、エチレンの共重合量が増加するにつれて、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が高くなることが記載されている(摘示記載(3-5))。 そして、刊行物2の実施例5では、刊行物3において触媒成分として用いられたエチレンビス(1-インデニル)ジルコニウムジクロライドを含む触媒を用いて、-15℃で、プロピレンとエチレンとを共重合させて、59.8モル%のプロピレンを含有し、95%のトリアドタクティシティーを有し、αβおよびβγのシグナルが観測されない、すなわち、2,1-挿入および1,3-挿入に基づく位置不規則単位が観測できない程度に少ない共重合体を製造(摘示記載(2-5)〜(2-7))しているが、2,1-挿入に基づく位置不規則単位を増加させるために、上記刊行物3の記載に基づいて重合温度を30℃程度まで上昇させれば、ペンタッドタクティシティー、したがって、トリアドタクティシティーが低下することとなり、本件発明の共重合体のトリアドタクティシティー、及び、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合と1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合とを、同時に満たすものが得られるとは考えにくい。 現に、刊行物3の表8には、重合温度30℃で共重合させて得られた、エチレン単位含量が7.4モル%で2,1-挿入量が0.64%の共重合体(Run no.10)及びエチレン単位含量が22モル%で2.1-挿入量が0.88%の共重合体(Run no.11)(摘示記載(3-4)、(3-6))が記載されており、これらは本件発明の(a)のエチレン単位含量及び(c)の2,1-挿入量を満たしているが、表6によるとそれらのトリアドタクシティティーはそれぞれ91%および89%(摘示記載(3-5))であり、本件発明の(b)の「トリアドタクシティティーが95%以上」という要件を満たしていない。 そして本件発明は、(a)〜(d)の要件を満たすことにより、訂正明細書に記載されてた所期の効果を奏し得たものであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明は、刊行物2及び3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものということはできない。 (3)特許法第36条違反について (3-1)本件訂正明細書のプロピレン系エラストマーの開示について 特許異議申立人は、訂正前の本件明細書の記載からは、本件発明の構成要件(a)〜(d)を満たす共重合体をどのようにして形成するのか明確に説明されていないと主張する。 この点について検討すると、刊行物3に記載されているように、重合温度を低くすることで構成要件(b)のトリアドタクティシティーを高くすることができ、重合温度を高くすることで、構成要件(c)の2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合ならびに1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合を高くすることができると考えられる。そして、重合温度のみを変化させた場合には、構成要件(b)のトリアドタクティシティーと構成要件(c)の2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合ならびに1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合とは相関関係を持って変動するが、参考資料5(mmと2,1-量バランス(重合温度の影響))のグラフからみて、錯体(遷移金属化合物)が異なる場合、温度条件が同じであってもトリアドタクティシティーおよび2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が異なり、グラフにおける傾きが異なることからみて、触媒成分である遷移金属化合物の構造が変化した場合には、トリアドタクティシティーと2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合との相関関係も変動するものと解される。したがって、触媒の種類と重合温度を適宜選択することにより、共重合体のトリアドタクティシティー、およびプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合ならびに1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合を制御し得るものということができる。 触媒成分の選択についても、本件訂正明細書の実施例において、実際に本件発明の構成要件(b)及び(c)を満たす共重合体が得られている以上、本件実施例で用いた2種の遷移金属触媒成分のうち、所望の特性に応じていずれかを選択して用いることができるし、本件訂正明細書に記載された遷移金属触媒化合物から任意の1種の化合物を選択して、本件実施例と同様にして重合することにより、該化合物を用いた場合の傾向を把握することができるので、当業者は相当の数の遷移金属触媒成分のすべてを一々試行するまでもなく、触媒成分を選択することができるものというべきである。 さらに、刊行物3に記載(摘示記載(3-5))されているように、2,1-挿入量がエチレン量の増加に伴い増加することが本件の出願前に公知であるから、当業者はエチレンの添加量によっても、2,1-挿入の割合を制御することができるものと考えられる。 そして、本件発明の構成要件(a)〜(d)を満たすプロピレン系エラストマーは、実施例に記載されているように実際に得られているのであり、本件発明の構成要件(a)〜(d)を満たす他のプロピレン系エラストマーも本件訂正明細書の記載事項及び技術常識により、重合触媒、重合温度、コモノマーの添加量を変動させることにより、当業者が容易に製造し得るものということができ、この点において、本件訂正明細書の開示が不十分であるとまではいうことができない。 (3-2)重合触媒の製法について 特許異議申立人は、訂正前の本件明細書には、本件発明の共重合体の製造に用いられる重合触媒の具体的な製法が記載されていないので、本件明細書の記載は不備であると主張するが、本件発明において用いられている触媒成分、所謂、メタロセン触媒の製造方法は、例えば、甲第4号証(欧州特許公開第0545303号明細書)に記載されているように本件の出願前に公知であるから、本件訂正明細書に触媒の具体的な製造方法が記載されていないとしても、公知のメタロセン触媒の製造方法を参考にして当業者が容易に製造し得るものと考えられ、この点により明細書の記載が不備であるとまではいうことができない。 (3-3)実施例における重合方法の開示について 特許異議申立人は、訂正前の本件明細書の実施例には、重合触媒として2種類のものしか記載がないので、他の触媒を用いて本件発明のプロピレン系エラストマーを製造する方法が不明である旨主張するが、(3-1)に述べたように、当業者は本件訂正明細書に記載された遷移金属触媒成分(A)を用い、実施例の記載事項を参考にして、過度の試行を行うことなく、本件発明のプロピレン系エラストマーを製造することができると考えられるので、この点において明細書の記載が不備であるとまではいうことができない。 (3-4)2,1-挿入と1,3-挿入の異種結合の定義や説明について 本件訂正明細書には、2,1-挿入の定義が段落【0023】〜【0024】に記載されており、1,3-挿入の量、すなわちプロピレンの1,2-、1,3-、1,2-挿入に基づく3連鎖量の割合の定義は段落【0022】及び【0026】に記載されており、これらの「定義がなされていない」ということはできない。また、特許異議申立人は、参考資料6の実施例1〜3を提示し、特許権者の「重合温度が低くなるにつれて、得られるポリマーのmmmm(ペンタッドタクティシティー)が高くなる傾向」や「重合温度が高いほど、2,1-及び1,3-挿入が生じやすい」という説明は、これらの実施例の示す傾向と一致しないと主張するが、これらの実施例においては、重合温度のみならず、エチレン含量も変化しており、(3-1)に述べたように、2,1-挿入量は重合温度のみならずエチレンの添加量によっても変動するので、参考例6の実施例の示す傾向が特許権者の説明と一致しないということはできない。さらに、特許異議申立人は、参考資料5(「mmと2,1-量のバランス」)と題するグラフを提示して、重合温度の変更では、mmを上限程度まで高くすることができないと考えられるから、各実施例において重合温度を変化させて、特許請求の範囲で限定された数値全体にわたってそれぞれの数値を増減させることができることが立証されない限り、明細書の記載が不備である旨主張する。しかしながら、参考資料5をみても、重合触媒、重合温度などを変化させることにより、mmを上限程度まで高くすることが不可能であるともいうことができないので、上記立証がないことを以て、本件訂正明細書の記載が不備であるとまではいえない。 (3-5)プロピレン系エラストマーの数値限定、効果について 本件訂正明細書の実施例1は改質剤として好適なエチレン含量が27.0%と多いプロピレン系エラストマーを製造して改質剤として用いた場合の改質効果を示しており、実施例2では、エチレン含量が8.5%と、フィルム用途などの単味使用で好適な、プロピレン系エラストマーを製造し、単味でフィルム成形した場合のヒートシール特性を示している。そして、実施例1のプロピレン系エラストマーは、エチレン含量が多いために実質的に融点を有さないものであり、改質剤としての効果を示すために、市販のポリプロピレンとブレンドして、アイゾット衝撃強度とMFRを測定しているが、単味でフィルムなどに成形して用いるのには好適でないため、単味でフィルムとした場合のヒートシール性についての評価はなされていない。また、実施例2のプロピレン系エラストマーは、エチレン含量が8.5%と単味での成形に適した量であり、フィルム成形した場合のヒートシール性について評価されているが、このようなプロピレン系エラストマーは、通常改質剤として用いるものではないので、改質剤としての評価はなされていない。 そうしてみると、本件実施例1及び2には、評価のなされていない項目があるものの、それぞれ得られたプロピレン系エラストマーの特性およびその評価を評価するのにふさわしい項目についての記載があるので、この点により訂正明細書の記載が不十分であるとはいえない。 また、実施例には、本件発明の構成要件(a)〜(d)を満たすプロピレン系エラストマーが、改質剤として用いられた場合に耐衝撃性、フィルムインパクト強度に優れ(実施例1)、単味でフィルムに成形した場合にヒートシール性に優れ(実施例2)ていることが示されており、また、特許異議意見書に記載された比較実験例1および2によっても本件発明の構成要件を満たすものと満たさないものとの特性上の差異は明らかであるので、この点において、本件訂正明細書の記載に不備があるとはいえない。 以上のとおりであるから、本件訂正明細書の記載が特許法第36条第4項、第5項第2号及び第6項の規定を満たしていないということはできない。 4-2-4.その他の特許異議の申立理由について さらに、特許異議申立人は、本件発明は、甲第3号証(刊行物3)、甲第4号証及び参考資料4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである旨主張している。 甲第4号証は、メタロセンと助触媒から形成される触媒の存在下に、オレフィンを重合または共重合することによるオレフィンポリマーの製造方法に関し、その第19頁第20〜30行には、VZ(粘度数)=344cm3/gの、10.8重量%のエチレンを含有するエチレン/プロピレンのブロックコポリマーが得られたことが記載されている。しかしながら、甲第4号証には、本件発明の(b)、(c)の要件である、トリアドタクティシティー、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合及び1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合について何ら教示するところがない。そして、刊行物3には、本件発明におけるトリアドタクティシティー、2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合と1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合を同時に満足するプロピレン/エチレンの共重合体は記載されていないし、参考資料4の第1182頁の表2には、エチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロ-1-インデニル)ジルコニウムジクロライドを用いて製造した、タクティシティー(ペンタッドのフラクションの%)が97.9%で、2,1-挿入量が0.59%のポリプロピレンが記載されているが、エチレン/プロピレンコポリマーについての記載はない。したがって、甲第4号証、刊行物3及び参考資料4に記載された発明を寄せ集めても、本件発明を当業者が容易になし得たものとはいうことができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由及び証拠、並びに取消理由によっては、本件発明についての特許を取り消すことができない。 また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 プロピレン系エラストマー (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (a)プロピレン単位を50〜93モル%、エチレン単位を7〜50モル%含んでなり、 (b)13C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の下記式で表されるトリアドタクティシティーが95.0%以上であり、 【化1】 (c)13C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5〜2.0%、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が1〜12d1/gの範囲にあることを特徴とするプロピレン系エラストマー。 【発明の詳細な説明】 【発明の技術分野】 【0001】 【発明の技術分野】 本発明は、トリアドタクティシティーが高い新規なプロピレン系エラストマーに関するものである。 【0002】 【発明の技術的背景】 プロピレン系エラストマーは、衝撃吸収性、耐熱性、ヒートシール性に優れているため、フィルムなどの単味使用のほか、熱可塑性樹脂の改質剤として用いられている。 【0003】 しかしながら従来のプロピレン系エラストマーは、単味使用の場合、ヒートシール性、耐ブロッキング性、耐熱性が必ずしも充分ではなく、改質材として使用した場合、耐衝撃性の改良効果が必ずしも充分ではなかった。このため、耐衝撃性などに優れると共に、耐熱性、透明性、ヒートシール性、耐ブロッキング性、耐衝撃性の改良効果にも優れたプロピレン系エラストマーの出現が望まれている。 【0004】 本発明者らはこのような状況に鑑みて検討した結果、特定量のエチレン単位を含んでなり、頭-尾結合からなるプロピレン連鎖部の、13C-NMRで測定したトリアドタクティシティーが高く、かつ位置不規則単位が特定の割合であり、特定の極限粘度を有するプロピレン系エラストマーは、上記特性に優れることを見出して本発明を完成するに至った。 【0005】 【発明の目的】 本発明は、トリアドタクティシティーが高い新規なプロピレン系エラストマーを提供することを目的としている。 【0006】 【発明の概要】 本発明に係るプロピレン系エラストマーは、 (a)プロピレン単位を50〜93モル%、エチレン単位を7〜50モル%含んでなり、 (b)13C-NMRにより求められる、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の下記式で表されるトリアドタクティシティーが95.0%以上であり、 【化2】 (c)13C-NMRにより求められる、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5〜2.0%、かつ、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.05%以下であり、 (d)135℃、デカリン中で測定した極限粘度が1〜12dl/gの範囲にあることを特徴としている。 【0007】 【発明の具体的説明】 以下、本発明のプロピレン系エラストマーについて具体的に説明する。本発明のプロピレン系エラストマーは、プロピレン単位を50〜95モル%、好ましくは60〜93モル%、より好ましくは70〜90モル%の割合で含み、エチレン単位を5〜50モル%、好ましくは7〜40モル%、より好ましくは10〜30モル%の割合で含んでなるプロピレン-エチレンランダム共重合体である。 【0008】 このようなプロピレン系エラストマーは、プロピレンおよびエチレン以外のオレフィンから導かれる構成単位をたとえば10モル%以下の量で含んでいてもよい。 【0009】 本発明のプロピレン系エラストマーは、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部の、13C-NMRで測定したトリアドタクティシティーが90.0%以上、好ましくは92.0%以上、より好ましくは95.0%以上であることが望ましい。 【0010】 トリアドタクティシティーは、プロピレン系エラストマーの13C-NMRスペクトルから下記式により求められる。 【0011】 【数1】 【0012】 13C-NMRスペクトルは、試料50〜70mgをNMRサンプル管(5mmφ)中でヘキサクロロブタジエン、o-ジクロロベンゼンまたは1,2,4-トリクロロベンゼン約0.5mlに約0.05mlのロック溶媒である重水素化ベンゼンを加えた溶媒中で完全に溶解させた後、120℃でプロトン完全デカップリング法で測定した。測定条件は、フリップアングル45°、パルス間隔3.4T1以上(T1は、メチル基のスピン格子緩和時間のうち最長の値)を選択する。メチレン基およびメチン基のT1は、メチル基より短いので、この条件では磁化の回復は99%以上である。ケミカルシフトは、頭-尾結合したプロピレン単位5連鎖の第3単位目のメチル基を21.59ppmとして設定した。 【0013】 メチル炭素領域(19〜23ppm)に係るスペクトルは、ピーク領域を第1領域(21.2〜21.9ppm)、第2領域(20.3〜21.0ppm)および第3領域(19.5〜20.3ppm)に分類できる。なお、スペクトル中の各ピークは、文献(Polymer,30(1989)1350)を参考にして帰属した。 【0014】 第1領域では、PPP(mm)で示されるプロピレン単位3連鎖中の第2単位目のメチル基が共鳴する。第2領域では、PPP(mr)で示されるプロピレン単位3連鎖の第2単位目のメチル基および、隣接する単位がプロピレン単位およびエチレン単位であるプロピレン単位のメチル基(PPE-メチル基)が共鳴(20.7ppm付近)する。 【0015】 第3領域では、PPP(rr)で示されるプロピレン単位3連鎖の第2単位目のメチル基および、隣接する単位がいずれもエチレン単位であるプロピレン単位のメチル基(EPE-メチル基)が共鳴(19.8ppm付近)する。 【0016】 さらにプロピレン系エラストマーは、位置不規則ユニットを含む部分構造として、下記構造(i)および(ii)を有する。 【0017】 【化1】 【0018】 この内、炭素Aピーク、炭素A’ピークは第2領域に、炭素Bピーク、炭素B’ピークは第3領域に現れる。このように第1〜3領域に現れるピークのうち、頭-尾結合したプロピレン単位3連鎖に基づかないピークは、PPE-メチル基、EPE-メチル基、炭素A、炭素A’、炭素Bおよび炭素B’に基づくピークである。 【0019】 PPE-メチル基に基づくピーク面積は、PPE-メチン基(30.6ppm付近で共鳴)のピーク面積より評価でき、EPE-メチル基に基づくピーク面積は、EPE-メチン基(32.9ppm付近で共鳴)のピーク面積より評価できる。炭素Aに基づくピーク面積は、炭素Bのメチル基が直接結合するメチン炭素(33.6ppm付近で共鳴)のピーク面積の2倍より評価でき、炭素A’に基づくピーク面積は、炭素B’のメチル基の隣接メチン炭素(33.2ppm付近共鳴)のピーク面積により評価できる。炭素Bに基づくピーク面積は、隣接するメチン炭素(33.6ppm付近で共鳴)のピーク面積により評価でき、炭素B’に基づくピーク面積も同様に、隣接するメチン炭素(33.2ppm付近で共鳴)のピーク面積により評価できる。 【0020】 したがって、これらのピーク面積を第2領域および第3領域のピーク面積より差し引くと、頭-尾結合したプロピレン単位3連鎖(PPP(mr)およびPPP(rr))に基づくピーク面積を求めることができる。 【0021】 以上によりPPP(mm)、PPP(mr)およびPPP(rr)のピーク面積を評価することができるので、上記数式に従って、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティーを求めることができる。 【0022】 本発明のプロピレン系エラストマーは、13C-NMRで測定した、全プロピレン挿入中の2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合が0.5%以上であり、好ましくは0.5〜2.0%、より好ましくは0.5〜1.5%であることが望ましい。また、本発明のプロピレン系エラストマーは、1,2-、1,3-、1,2-挿入に基づく位置不規則単位が0.05%以下、好ましくは0.03%以下であることが好ましい。 【0023】 重合時、プロピレンモノマーは、1,2-挿入(メチレン側が触媒と結合する)するが、稀に2,1-挿入することがある。2,1-挿入したモノマーは、ポリマー中で、位置不規則ユニットを形成する。全プロピレン挿入中の2,1-挿入の割合を13C-NMRを利用して、Polymer,30(1989)1350を参考にして下記の式から求めた。 【0024】 【数2】 【0025】 ここで、ピークの命名は、Carmanらの方法(Rubber Chem.Technol.,44(1971),781)に従った。また、Iαβなどは、αβピークなどのピーク面積を示す。なお、ピークが重なることなどにより、Iαβなどの面積が直接スペクトルより求めることが困難な場合は、対応する面積を有する炭素ピークで代用することができる。 【0026】 プロピレンの1,2-、1,3-、1,2-挿入に基づく3連鎖量は、βγピーク(27.4ppm付近で共鳴)の面積の1/2を全メチル基ピークとβγピークの1/2の和で除して100を乗ずることにより、その割合を%表示で求めた。 【0027】 本発明のプロピレン系エラストマーは、135℃、デカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1〜12dl/g、好ましくは0.5〜12dl/g、より好ましくは1〜12dl/gの範囲にあることが望ましい。 【0028】 本発明のプロピレン系エラストマーは、たとえば、 (A)後述するような遷移金属化合物と、 (B) (B-1)有機アルミニウムオキシ化合物、および (B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と 所望により (C)有機アルミニウム化合物 からなるオレフィン重合触媒の存在下にエチレンとプロピレンとを共重合することにより得ることができる。 【0029】 以下、本発明のプロピレン系エラストマーの製造に用いられるオレフィン重合用触媒について説明する。 本発明で用いられるオレフィン重合触媒を形成する遷移金属化合物(A)(以下「成分(A)」と記載することがある。)は、下記一般式(I)で表される遷移金属化合物である。 【0030】 【化2】 【0031】 式中、Mは周期律表第IVa、Va、VIa族の遷移金属を示し、具体的には、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステンであり、好ましくはチタニウム、ジルコニウム、ハフニウムであり、特に好ましくはジルコニウムである。 【0032】 R1およびR2は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、ケイ素含有基、酸素含有基、イオウ含有基、窒素含有基またはリン含有基を示し、具体的には、 フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子; メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、ノニル、ドデシル、アイコシル、ノルボルニル、アダマンチルなどのアルキル基、ビニル、プロペニル、シクロヘキセニルなどのアルケニル基、ベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピルなどのアリールアルキル基、フェニル、トリル、ジメチルフェニル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ビフェニル、ナフチル、メチルナフチル、アントラセニル、フェナントリルなどのアリール基などの炭素数1〜20の炭化水素基; 前記炭化水素基にハロゲン原子が置換したハロゲン化炭化水素基; メチルシリル、フェニルシリルなどのモノ炭化水素置換シリル、ジメチルシリル、ジフェニルシリルなどのジ炭化水素置換シリル、トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリプロピルシリル、トリシクロヘキシルシリル、トリフェニルシリル、ジメチルフェニルシリル、メチルジフェニルシリル、トリトリルシリル、トリナフチルシリルなどのトリ炭化水素置換シリル、 トリメチルシリルエーテルなどの炭化水素置換シリルのシリルエーテル、 トリメチルシリルメチルなどのケイ素置換アルキル基、トリメチルフェニルなどのケイ素置換アリール基、 などのケイ素含有基; ヒドロオキシ基、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどのアルコキシ基、フェノキシ、メチルフェノキシ、ジメチルフェノキシ、ナフトキシなどのアリロキシ基、フェニルメトキシ、フェニルエトキシなどのアリールアルコキシ基などの酸素含有基; 前記含酸素化合物の酸素がイオウに置換したイオウ含有基; アミノ基、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノ、ジシクロヘキシルアミノなどのアルキルアミノ基、フェニルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノ、ジナフチルアミノ、メチルフェニルアミノなどのアリールアミノ基またはアルキルアリールアミノ基などの窒素含有基; ジメチルフォスフィノ、ジフェニルフォスフィノなどのフォスフィノ基などのリン含有基である。 【0033】 これらのうちR1は炭化水素基であることが好ましく、特にメチル、エチル、プロピルの炭素数1〜3の炭化水素基であることが好ましい。またR2は水素原子、炭化水素基であることが好ましく、特に水素原子であることが好ましい。 【0034】 R3は炭素数2〜20のアルキル基を示し、R4は炭素数1〜20のアルキル基を示す。R3は2級または3級アルキル基であることが好ましい。また、R3、R4で示されるアルキル基は、ハロゲン原子、ケイ素含有基で置換されていてもよく、ハロゲン原子、ケイ素含有基としては、R1、R2で例示した置換基が挙げられる。 【0035】 R4としては、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、ドデシル、アイコシル、ノルボルニル、アダマンチルなどの鎖状アルキル基および環状アルキル基; ベンジル、フェニルエチル、フエニルプロピル、トリルメチルなどのアリールアルキル基などが挙げられ、2重結合、3重結合を含んでいてもよい。 【0036】 R3としては、メチルおよびR4で例示したアルキル基が挙げられる。 X1およびX2は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、酸素含有基またはイオウ含有基を示し、具体的には、 前記R1およびR2と同様のハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基、酸素含有基が例示できる。 【0037】 イオウ含有基としては、前記R1、R2と同様の基、およびメチルスルホネート、トリフルオロメタンスルフォネート、フェニルスルフォネート、ベンジルスルフォネート、p-トルエンスルフォネート、トリメチルベンゼンスルフォネート、トリイソブチルベンゼンスルフォネート、p-クロルベンゼンスルフォネート、ペンタフルオロベンゼンスルフォネートなどのスルフォネート基、メチルスルフィネート、フェニルスルフィネート、ベンゼンスルフィネート、p-トルエンスルフィネート、トリメチルベンゼンスルフィネート、ペンタフルオロベンゼンスルフィネートなどスルフィネート基が例示できる。 【0038】 Yは、炭素数1〜20の2価の炭化水素基、炭素数1〜20の2価のハロゲン化炭化水素基、2価のケイ素含有基、2価のゲルマニウム含有基、2価のスズ含有基、-O-、-CO-、-S-、-SO-、-SO2-、-NR5-、-P(R5)-、-P(O)(R5)-、-BR5-または-AlR5-[ただし、R5は水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基]を示し、具体的には、 メチレン、ジメチルメチレン、1,2-エチレン、ジメチル-1,2-エチレン、1,3-トリメチレン、1,4-テトラメチレン、1,2-シクロヘキシレン、1,4-シクロヘキシレンなどのアルキレン基、ジフェニルメチレン、ジフェニル-1,2-エチレンなどのアリールアルキレン基などの炭素数1から20の2価の炭化水素基; クロロメチレンなどの上記炭素数1から20の2価の炭化水素基をハロゲン化したハロゲン化炭化水素基; メチルシリレン、ジメチルシリレン、ジエチルシリレン、ジ(n-プロピル)シリレン、ジ(i-プロピル)シリレン、ジ(シクロヘキシル)シリレン、メチルフェニルシリレン、ジフェニルシリレン、ジ(p-トリル)シリレン、ジ(p-クロロフェニル)シリレンなどのアルキルシリレン、アルキルアリールシリレン、アリールシリレン基、テトラメチル-1,2-ジシリル、テトラフェニル-1,2-ジシリルなどのアルキルジシリル、アルキルアリールジシリル、アリールシリル基などの2価のケイ素含有基; 上記2価のケイ素含有基のケイ素をゲルマニウムに置換した2価のゲルマニウム含有基; 上記2価のケイ素含有基のケイ素をスズに置換した2価のスズ含有基置換基などであり、 R5は、前記R1、R2と同様のハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン化炭化水素基である。 【0039】 このうち2価のケイ素含有基、2価のゲルマニウム含有基、2価のスズ含有基であることが好ましく、さらに2価のケイ素含有基であることが好ましく、このうち特にアルキルシリレン、アルキルアリールシリレン、アリールシリレンであることが好ましい。 【0040】 以下に上記一般式(I)で表される遷移金属化合物の具体的な例を示す。 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-エチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-n-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-i-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-n-ブチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-sec-ブチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-t-ブチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-n-ペンチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-n-ヘキシルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-シクロヘキシルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-メチルシクロヘキシルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-フェニルエチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-フェニルジクロルメチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-クロロメチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-トリメチルシリルメチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-トリメチルシロキシメチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジエチルシリル-ビス{1-(2,7-ジメチル-4-i-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジ(i-プロピル)シリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-i-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジ(n-ブチル)シリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-i-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジ(シクロヘキシル)シリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-i-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-メチルフェニルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-i-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-メチルフェニルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-t-ブチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジフェニルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-t-ブチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジフェニルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-i-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジフェニルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-エチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジ(p-トリル)シリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-i-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジ(p-クロロフェニル)シリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-i-プロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリルビス{1-(2-メチル-4-i-プロピル-7-エチルインデニル)}ジルコニウムジブロミド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2-メチル-4-i-プロピル-7-メチルインデニル)}ジルコニウムジメチル、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2-メチル-4-i-プロピル-7-メチルインデニル)}ジルコニウムメチルクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2-メチル-4-i-プロピル-7-メチルインデニル)}ジルコニウム-ビス(メタンスルホナト)、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2-メチル-4-i-プロピル-7-メチルインデニル)}ジルコニウム-ビス(p-フェニルスルフィナト)、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2-エチル-4-i-プロピルー7-メチルインデニル)}ジルコニウムジクロリド、 rac-ジメチルシリル-ビス{1-(2-フェニル-4-i-プロピルー7-メチルインデニル)}ジルコニウムジクロリドなど。 【0041】 これらの中で、4位にi-プロピル,sec-ブチル,tert-ブチル基などの分岐アルキル基を有するものが、特に好ましい。 本発明では、上記のような化合物においてジルコニウム金属をチタニウム金属、ハフニウム金属、バナジウム金属、ニオブ金属、タンタル金属、クロム金属、モリブデン金属、タングステン金属に置き換えた遷移金属化合物を用いることもできる。 【0042】 前記遷移金属化合物は、通常ラセミ体としてオレフィン重合用触媒成分として用いられるが、R型またはS型を用いることもできる。 本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(B-1)有機アルミニウムオキシ化合物(以下「成分(B-1)」と記載することがある。)は、従来公知のアルミノキサンであってもよく、また特開平2-78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。 【0043】 従来公知のアルミノキサンは、たとえば下記のような方法によって製造することができる。 (1)吸着水を含有する化合物あるいは結晶水を含有する塩類、たとえば塩化マグネシウム水和物、硫酸銅水和物、硫酸アルミニウム水和物、硫酸ニッケル水和物、塩化第1セリウム水和物などの炭化水素媒体懸濁液に、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物を添加して、有機アルミニウム化合物と吸着水あるいは結晶水を反応させる方法。 (2)ベンゼン、トルエン、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどの媒体中で、トリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物に直接水や氷や水蒸気を作用させる方法。 (3)デカン、ベンゼン、トルエンなどの媒体中でトリアルキルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物に、ジメチルスズオキシド、ジブチルスズオキシドなどの有機スズ酸化物を反応させる方法。 【0044】 なお、該アルミノキサンは、少量の有機金属成分を含有してもよい。また回収された上記のアルミノキサンの溶液から溶媒あるいは未反応有機アルミニウム化合物を蒸留して除去した後、溶媒に再溶解あるいはアルミノキサンの貧溶媒に懸濁させてもよい。 【0045】 アルミノキサンを調製する際に用いられる有機アルミニウム化合物としては、具体的には、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリn-ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec-ブチルアルミニウム、トリtert-ブチルアルミニウム、トリペンチルアルミニウム、トリヘキシルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリデシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム; トリシクロヘキシルアルミニウム、トリシクロオクチルアルミニウムなどのトリシクロアルキルアルミニウム; ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジイソブチルアルミニウムクロリドなどのジアルキルアルミニウムハライド; ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのジアルキルアルミニウムハイドライド; ジメチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムエトキシドなどのジアルキルアルミニウムアルコキシド; ジエルアルミニウムフェノキシドなどのジアルキルアルミニウムアリーロキシドなどが挙げられる。 【0046】 これらのうち、トリアルキルアルミニウム、トリシクロアルキルアルミニウムが好ましく、トリメチルアルミニウムが特に好ましい。 また、アルミノキサンを調製する際に用いられる有機アルミニウム化合物として、下記一般式(II)で表されるイソプレニルアルミニウムを用いることもできる。 【0047】 (i-C4H9)xAly(C5H10)z… (II) (式中、x、y、zは正の数であり、z≧2xである。) 上記のような有機アルミニウム化合物は、単独であるいは組合せて用いられる。 【0048】 アルミノキサンの溶液に用いられる溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、シメンなどの芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、オクタデカンなどの脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロオクタン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素、ガソリン、灯油、軽油などの石油留分あるいは上記芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素のハロゲン化物とりわけ、塩素化物、臭素化物などの炭化水素溶媒が挙げられる。その他、エチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類を用いることもできる。これらの溶媒のうち特に芳香族炭化水素または脂肪族炭化水素が好ましい。 【0049】 本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(B-2)前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物(以下「成分(B-2)」と記載することがある。)としては、特表平1-501950号公報、特表平1-502036号公報、特開平3-179005号公報、特開平3-179006号公報、特開平3-207703号公報、特開平3-207704号公報、US-547718号公報などに記載されたルイス酸、イオン性化合物およびカルボラン化合物、カルボラン化合物を挙げることができる。 【0050】 ルイス酸としては、トリフェニルボロン、トリス(4-フルオロフェニル)ボロン、トリス(p-トリル)ボロン、トリス(o-トリル)ボロン、トリス(3,5-ジメチルフェニル)ボロン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン、MgCl2、Al2O3、SiO2-Al2O3などが例示できる。 【0051】 イオン性化合物としては、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリn-ブチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、フェロセニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが例示できる。 【0052】 カルボラン化合物としては、ドデカボラン、1-カルバウンデカボラン、ビスn-ブチルアンモニウム(1-カルベドデカ)ボレート、トリn-ブチルアンモニウム(7,8-ジカルバウンデカ)ボレート、トリn-ブチルアンモニウム(トリデカハイドライド-7-カルバウンデカ)ボレートなどが例示できる。 【0053】 上記のような前記遷移金属化合物(A)と反応してイオン対を形成する化合物(B-2)は、2種以上混合して用いることができる。 本発明で用いられるオレフィン重合用触媒を形成する(C)有機アルミニウム化合物(以下「成分(C)」と記載することがある。)としては、例えば下記一般式(III)で表される有機アルミニウム化合物を例示することができる。 【0054】 R9nAlX3-n… (III) (式中、R9は炭素数1〜12の炭化水素基であり、Xはハロゲン原子または水素原子であり、nは1〜3である。) 上記一般式(III)において、R9は炭素数1〜12の炭化水素基例えばアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基であるが、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基などである。 【0055】 このような有機アルミニウム化合物(C)としては、具体的には以下のような化合物が挙げられる。 トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、トリ(2-エチルヘキシル)アルミニウム、トリデシルアルミニウムなどのトリアルキルアルミニウム; イソプレニルアルミニウムなどのアルケニルアルミニウム; ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、ジメチルアルミニウムブロミドなどのジアルキルアルミニウムハライド; メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、イソプロピルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミドなどのアルキルアルミニウムセスキハライド; メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、イソプロピルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジブロミドなどのアルキルアルミニウムジハライド; ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどのアルキルアルミニウムハイドライドなど。 【0056】 また有機アルミニウム化合物(C)として、下記一般式(IV)で表される化合物を用いることもできる。 R9nAlL3-n… (IV) (式中、R9は上記と同様であり、Lは-OR10基、-OSiR113基、-OAlR122基、-NR132基、-SiR143基または-N(R15)AlR162基であり、nは1〜2であり、R10、R11、R12およびR16はメチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基、フェニル基などであり、R13は水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、フェニル基、トリメチルシリル基などであり、R14およびR15はメチル基、エチル基などである。) このような有機アルミニウム化合物のなかでは、 R7nAl(OAlR102)3-nで表される化合物、例えば Et2AlOAlEt2、(iso-Bu)2AlOAl(iso-Bu)2などが好ましい。 【0057】 上記一般式(III)および(IV)で表される有機アルミニウム化合物の中では、一般式R73Alで表される化合物が好ましく、特にRがイソアルキル基である化合物が好ましい。 【0058】 本発明で用いられるオレフィン重合用触媒は、成分(A)、成分(B-1)(または成分(B-2))および所望により成分(C)を不活性炭化水素溶媒中またはオレフィン溶媒中で混合することにより調製することができる。 【0059】 オレフィン重合用触媒の調製に用いられる不活性炭化水素溶媒として具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素あるいはこれらの混合物などを挙げることができる。 【0060】 オレフィン重合用触媒を調製する際の各成分の混合順序は任意であるが、成分(B-1)(または成分(B-2))と成分(A)とを混合するか、 成分(B-1)と成分(C)とを混合し、次いで成分(A)を混合するか、 成分(A)と成分(B-1)(または成分(B-2))とを混合し、次いで成分(C)を混合するか、あるいは、 成分(A)と成分(C)とを混合し、次いで成分成分(B-1)(または成分(B-2))を混合することが好ましい。 【0061】 上記各成分を混合するに際して、成分(B-1)中のアルミニウムと、成分(A)中の遷移金属との原子比(Al/遷移金属)は、通常10〜10000、好ましくは20〜5000であり、成分(A)の濃度は、約10-8〜10-1モル/リットル、好ましくは10-7〜5×10-2モル/リットルの範囲である。 【0062】 成分(B-2)を用いる場合、成分(A)と成分(B-2)とのモル比(成分(A)/成分(B-2))は、通常0.01〜10、好ましくは0.1〜5の範囲であり、成分(A)の濃度は、約10-8〜10-1モル/リットル、好ましくは10-7〜5×10-2モル/リットルの範囲である。 【0063】 成分(C)を用いる場合は、成分(C)中のアルミニウム原子(AlC)と成分(B-1)中のアルミニウム原子(AlB-1)との原子比(AlC/AlB-1)は、通常0.02〜20、好ましくは0.2〜10の範囲である。 【0064】 上記各触媒成分は、重合器中で混合してもよいし、予め混合したものを重合器に添加してもよい。 予め混合する際の混合温度は、通常-50〜150℃、好ましくは-20〜120℃であり、接触時間は1〜1000分間、好ましくは5〜600分間である。また、混合接触時には混合温度を変化させてもよい。 【0065】 本発明で用いられるオレフィン重合用触媒は、無機あるいは有機の化合物であって、顆粒状ないしは微粒子状の固体である微粒子状担体に、上記成分(A)、成分(B)および成分(C)のうち少なくとも一種の成分が担持された固体状オレフィン重合用触媒であってもよい。 【0066】 無機担体としては多孔質酸化物が好ましく、たとえばSiO2、Al2O3などを例示することができる。 有機化合物の顆粒状ないしは微粒子状固体としては、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどのα-オレフィン、もしくはスチレンを主成分として生成される重合体または共重合体を例示することができる。 【0067】 また、本発明で用いられるオレフィン重合触媒は、上記の微粒子状担体、成分(A)、成分(B)、予備重合により生成するオレフィン重合体および、所望により成分(C)から形成されるオレフィン重合触媒であってもよい。 【0068】 予備重合に用いられるオレフィンとしては、プロピレン、エチレン、1-ブテンなどのオレフィンが用いられるが、これらと他のオレフィンとの混合物であってもよい。 【0069】 なお、本発明に係るオレフィン重合用触媒は、上記のような各成分以外にもオレフィン重合に有用な他の成分、たとえば、触媒成分としての水なども含むことができる。 【0070】 本発明のプロピレン系エラストマーは、上記のオレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンとエチレンとの共重合を行うことによって製造することができる。共重合は懸濁重合、溶液重合などの液相重合法あるいは気相重合法いずれにおいても実施できる。 【0071】 液相重合法では上述した触媒調製の際に用いた不活性炭化水素溶媒と同じものを用いることができ、プロピレンおよび/またはエチレンを溶媒として用いることもできる。 【0072】 プロピレンとエチレンとの共重合温度は、懸濁重合法を実施する際には、通常-50〜100℃、好ましくは0〜90℃の範囲であることが望ましく、溶液重合法を実施する際には、通常0〜250℃、好ましくは20〜200℃の範囲であることが望ましい。また、気相重合法を実施する際には、共重合温度は通常0〜120℃、好ましくは20〜100℃の範囲であることが望ましい。共重合圧力は、通常、常圧〜100kg/cm2、好ましくは常圧〜50kg/cm2の条件下であり、共重合反応は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。さらに共重合を反応条件の異なる2段以上に分けて行うことも可能である。 【0073】 得られるプロピレン系エラストマーの分子量は、共重合系に水素を存在させるか、あるいは共重合温度、共重合圧力を変化させることによって調節することができる。 【0074】 【発明の効果】 本願のプロピレン系エラストマーは、トリアドタクティシティーが高い。このようなプロピレン系エラストマーは、耐熱性、衝撃吸収性、透明性、ヒートシール性、耐ブロッキング性に優れており、フィルム、シートなどへの単味使用の他、熱可塑性樹脂の改質材などに好適に使用できる。 【0075】 【実施例】 以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 【0076】 なおヒートシール開始温度、熱処理後のヒートシール開始温度、フィルムインパクト強度およびアイゾット強度は、下記のようにして測定した。 ヒートシール開始温度 得られたポリマーを用いて、Tダイを取り付けた30mmφの一軸押出機により幅30cm、厚さ50μmのフィルムを形成した。 【0077】 成形条件は、樹脂温度:210℃(押出機ダイス部)、引き取り速度:3m/粉、冷却ロール:25℃とした。 得られたフィルムを2枚重ね合わせ、幅5mmのシールバーを用い2kg/cm2の圧力で1秒間、種々の異なる温度でヒートシールした後、放冷した。この試料から幅15mmの試験片を切り取り、23℃の温度下でヒートシール部を剥離速度200mm/分、剥離角度180℃の条件で剥離した際の剥離抵抗力が300g/25mmになるシールバーの温度をヒートシール開始温度(℃)とした。 【0078】 熱処理後のヒートシール開始温度 上記と同様の条件でヒートシールした2枚のフィルムを50℃で、7日間熱処理した後に、上記と同様にして剥離抵抗力を測定し、剥離抵抗力が300g/25mmになるヒートシーラーの温度を熱処理後のヒートシール開始温度とした。 【0079】 フィルムインパクト強度 前記ヒートシール開始温度の測定と同様にして成形したフィルムを用いて、フィルムインパクトテスター(東洋精機製)にて測定した。なお、該テスターの衝撃頭球部の形状は1/2インチφ(12.7mmφ)である。 【0080】 アイゾット衝撃強度 得られたポリマー20重量部と、三井石油化学工業株式会社製ポリプロピレンHIPOLTMグレードJ700〔メルトフローレート(230℃)11g/10分、密度0.91g/cm3)80重量部とをドライブレンドし、2軸押出機を用いて200℃で混練してポリプロピレン組成物を調整した。得られたポリプロピレン組成物を用い、射出成形機にて樹脂温度200℃、金型温度40℃の条件でASTM成形片を成形しそのアイゾット衝撃強度(IZ)を、ASTM256に準拠して測定した。 【0081】 測定温度:23℃ 試験片 :12.7mm(幅)×6.4mm(厚さ)×64mm(長さ) ノッチは機械加工によった。 【0082】 メルトフローレート(MFR) アイゾット衝撃強度の測定時に調製したポリプロピレン組成物について、ASTM D1238に準拠して、荷重2.16kg、温度230℃で測定した。 【0083】 【実施例1】 充分に窒素置換した2リットルのオートクレーブに、ヘキサンを900ml仕込み、トリイソブチルアルミニウム1ミリモルを加え、プロピレンを気体で60リットルフィードした。70℃に昇温した後、エチレンをフィードして全圧を8kg/cm2-Gに昇圧し、メチルアルミノキサン0.45ミリモル、rac-ジフェニルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-イソプロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリドをZr原子に換算して0.0015ミリモル加え、エチレンを連続的にフィードして全圧8kg/cm2-Gを保ちながら40分間重合を行った。重合後、脱気して大量のメタノール中でポリマーを回収し、110℃で10時間減圧乾燥した。 【0084】 得られたポリマーは47.2gであり、重合活性は31.5kgポリマー/ミリモルZr、極限粘度[η]=2.0dl/g、エチレン含量=27.0モル%、頭-尾結合からなるプロピレン単位連鎖部のトリアドタクティシティー=95.4%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.88%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.05%以下であった。また、得られたポリマーの物性を測定した。 【0085】 【実施例2】 充分に窒素置換した2リットルのオートクレーブに、ヘキサンを900ml仕込み、トリイソブチルアルミニウム1ミリモルを加え、70℃に昇温した後、エチレンをフィードして2.0kg/cm2に加圧し、プロピレンをフィードして全圧を8kg/cm2-Gにし、メチルアルミノキサン0.3ミリモル、rac-ジメチルシリルビス{1-(2,7-ジメチル-4-イソプロピルインデニル)}ジルコニウムジクロリドをZr原子に換算して0.001ミリモル加え、プロピレンを連続的にフィードして全圧kg/cm2-Gを保ちながら10分間重合を行った。重合後、脱気して大量のメタノール中でポリマーを回収し、110℃で10時間減圧乾燥した。 【0086】 得られたポリマーは16.8gであり、重合活性は16.8kgポリマー/ミリモルZr、極限粘度[η]=1.7dl/g、エチレン含量=8.5モル%、頭-尾結合からなるプロピレン連鎖部のトリアドタクティシティー=95.6%、プロピレンモノマーの2,1-挿入に基づく位置不規則単位の割合は0.62%、プロピレンモノマーの1,3-挿入に基づく位置不規則単位はの割合0.05%以下であった。また、得られたポリマーの物性を測定した。 以上の結果を表1に示す。 【0087】 【表1】 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-03-17 |
出願番号 | 特願平6-146413 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C08F)
P 1 651・ 531- YA (C08F) P 1 651・ 534- YA (C08F) P 1 651・ 121- YA (C08F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小出 直也 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
大熊 幸治 船岡 嘉彦 |
登録日 | 2003-04-25 |
登録番号 | 特許第3423414号(P3423414) |
権利者 | 三井化学株式会社 |
発明の名称 | プロピレン系エラストマー |
代理人 | 鈴木 俊一郎 |
代理人 | 小島 隆 |
代理人 | 牧村 浩次 |
代理人 | 牧村 浩次 |
代理人 | 鈴木 俊一郎 |