• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 全部申し立て 1項1号公知  C08G
管理番号 1117833
異議申立番号 異議2003-72834  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-05-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-11-19 
確定日 2005-03-28 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3409469号「液晶性樹脂およびその射出成形品」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3409469号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3409469号に係る発明は、平成6年11月4日に特許出願され、平成15年3月20日に特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人 上野製薬株式会社(以下、「特許異議申立人A」という。)、岩田 直子(以下、「特許異議申立人B」という。)及び新日本石油化学株式会社(以下、「特許異議申立人C」という。)より特許異議の申立てがなされ、平成16年6月4日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年8月12日に特許異議意見書及び訂正請求書が提出され、平成17年2月14日付けで再度取消理由が通知され、その指定期間内である平成17年2月22日に訂正請求書が提出されるとともに先の訂正請求が取り下げられたものである。

2.訂正の適否
2-1 訂正の内容
特許権者が求める訂正は次のとおりである。
訂正事項a
請求項1の
「示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上であることを特徴とする液晶性ポリエステルからなる液晶性樹脂。」を
「溶融重合のみで得られ、かつ、下記式(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルであって、示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上3.0J/g以下であることを特徴とする液晶性ポリエステルからなる液晶性樹脂。

(ただし、式中R1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)」と訂正する。
訂正事項b
請求項2および3を削除する。
訂正事項c
請求項4の項番を請求項2に繰り上げ、「請求項1〜3のいずれか記載の」を「請求項1記載の」と訂正する。
訂正事項d
段落【0005】の
「すなわち、本発明は、示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上であることを特徴とする液晶性ポリエステルからなる液晶性樹脂およびその射出成形品を提供するものである。」を
「すなわち、本発明は、溶融重合のみで得られ、かつ、下記式(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルであって、示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上3.0J/g以下であることを特徴とする液晶性ポリエステルからなる液晶性樹脂およびその射出成形品を提供するものである。

(ただし、式中R1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)」と訂正する。
訂正事項e
段落【0006】の
「本発明でいう液晶ポリエステルとは、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、エチレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、異方性溶融相を形成するものであり、なかでもp-ヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位を有するものが好ましい。さらに、エチレンジオキシ単位を含有するものが好ましく、特に下記構造単位(I)、(III)、(IV)または(I)、(II)、(III)、(IV)の構造単位からなるポリエステルが好ましく、とりわけ(I)、(II)、(III)、(IV)からなるポリエステルが好ましい。」を
「本発明でいう液晶ポリエステルとは、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、エチレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、異方性溶融相を形成するものであり、溶融重合のみで得られた液晶性ポリエステルであって(I)、(II)、(III)、(IV)からなるポリエステルである。」と訂正する。
訂正事項f
段落【0010】の
「すなわち、上記構造単位(I)、(III)、(IV)からなる共重合体の場合は、上記構造単位(I)は[(I)+(III)]の40〜95モル%が好ましく、70〜95モル%がより好ましい。また、構造単位(IV)は構造単位(III)と実質的に等モルである。」を削除する。
訂正事項g
段落【0011】の「また、上記構造単位」を「上記構造単位」と訂正する。
訂正事項h
段落【0059】の「実施例2」を「参考例1」と、段落【0065】の「比較例2」を「参考例2」と、段落【0068】の「実施例3」を「参考例3」と、そして段落【0074】の「比較例3」を「比較例2」と訂正する。
訂正事項i
段落【0077】の表1の、「実施例2」、「比較例2」、「実施例3」および「比較例3」を、それぞれ「参考例1」、「参考例2」、「参考例3」および「比較例2」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項aは、訂正前の明細書の、「本発明は、溶融重合のみで得られ(る)・・・液晶性樹脂・・・に関するものである」(段落【0001】)、「液晶性樹脂が下記式(I)、(II)、(III)および(IV)・・・の構造単位からなる・・・構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)」(請求項3)および「本発明の液晶性樹脂は示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が・・・実用性の点から3.0J/g以下であることが好ましい」(段落【0013】)との記載に基づいて、訂正前の請求項1の液晶性ポリエステルを「溶融重合のみで得られ」、「下記式(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる・・・構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)」ものに限定し、融解熱量の上限を「3.0J/g以下」としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項bは請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項cは、訂正事項bによる請求項の削除に伴って請求項の項番を整理し、引用請求項の項番を整理後のものに改めるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項d〜iは、訂正事項a、bによる特許請求の範囲の訂正に伴って、対応する発明の詳細な説明の記載をこれと整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

そして、これらの訂正は、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.異議申立についての判断
3-1.本件発明
上記の結果、訂正後の本件請求項1および2に係る発明(以下、「本件発明1」および「本件発明2」という。)は、訂正された明細書(以下、「訂正明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1および2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】溶融重合のみで得られ、かつ、下記式(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルであって、示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上3.0J/g以下であることを特徴とする液晶性ポリエステルからなる液晶性樹脂。

(ただし、式中R1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)
【請求項2】請求項1記載の液晶性樹脂を射出成形してなる射出成形品。」

4.特許異議の申立てについての判断
4-1.特許異議申立人の主張
(A)特許異議申立人Aは、甲第1〜6号証を提出して、概略、次の理由により訂正前の本件請求項1〜4に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。
(1)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、甲第3、4号証を参酌すれば、甲第1、2号証に示すように本件の出願前に国内において公然知られた発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、特許を受けることができない。
(2)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、甲第3、4号証を参酌すれば、甲第1、2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(3)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、甲第3、4号証を参酌すれば、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。
(4)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、甲第5号証又は甲第6号証に記載されたであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(5)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、甲第5号証又は甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反し、特許を受けることができない。
(6)訂正前の本件明細書の記載には不備があるから、本件特許出願は、特許法第36条第4項、第5項第2号および第6項に規定する要件を満たしていない。

(B)特許異議申立人Bは、甲第1〜4号証および参考資料1を提出して、概略、次の理由により訂正前の本件請求項1〜4に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。
(1)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
(2)訂正前の本件明細書の記載には不備があるから、本件特許出願は、特許法第36条第4項、第5項第2号および第6項に規定する要件を満たしていない。

(C)特許異議申立人Cは、甲第1〜4号証を提出して、概略、次の理由により訂正前の本件請求項1〜4に係る特許は取り消されるべきである旨、主張する。
(1)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、甲第2号証を参酌すれば、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)訂正前の本件請求項1〜4に係る発明は、甲第2号証を参酌すれば、甲第1、3及び4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

4-2.判断
4-2-1.取消理由
当審において、平成16年6月4日付けで通知した取消理由は、上記特許異議申立人A、B、Cの主張と同旨(但し、特許異議申立人の主張(6)の内、特許法第36条第5項第2号および第6項違反の点、及び、特許異議申立人Bの主張(2)を除く。)であり、引用した刊行物等は以下のとおりである。

<刊行物等>
刊行物1:ユニチカ株式会社のカタログ「ロッドラン ユニチカ液晶ポリエステル LC-5000シリーズ」8809-JS(特許異議申立人Aが提出した甲第1号証)
刊行物2:高分子論文集、Vol.49, No.6, Jun.1992, 471-474頁(同、甲第2号証)
参考資料3:住ベテクノリサーチ(株) 高橋作成の実験成績証明書「G200309-046-01 液晶ポリマーのDSC測定(LC5000)」2003年9月17日(特許異議申立人Aが提出した甲第3号証)
参考資料4:ユニチカ株式会社のカタログ「ロッドラン ユニチカ液晶ポリエステル LC-5000シリーズ」1995.12(同、第4号証)
刊行物5:特開平3-149774号公報(同、甲第5号証)
刊行物6:特開平6-192405号公報(同、甲第6号証)
刊行物7:特開平6-192404号公報(特許異議申立人Bが提出した甲第1号証)
刊行物8:特開平6-192403号公報(同、甲第2号証)
刊行物9:特開昭60-40127号公報(同、甲第3号証)
刊行物10:特開平2-127424号公報(同、甲第4号証)
刊行物11:特開昭60-120719号公報(特許異議申立人Cが提出した甲第1号証)
参考資料12:新日本石油化学(株) 室内聡士作成の実験成績証明書「特開昭60-120719号公報の実施例2の追試実験」2003年10月31日(特許異議申立人Cが提出した甲第2号証)
刊行物13:高分子学会予稿集、38巻12号、平成元年9月12日発行、4052-4054頁(同、甲第3号証)
刊行物14:プラスチックスエージ、Vol.33, 1987 139-148頁(同、甲第4号証)

4-2-2.刊行物1、2、5〜11、13及び14の記載事項

(i)刊行物1
(1-1)「『ロッドラン』LC-5000シリーズは耐熱性を有する熱溶融性の液晶ポリエステルで、LC-3000シリーズに加える次世代のエンジニアリングプラスチックとしてユニチカが開発したものです。従来は十分な性能が得られなかったPETとパラヒドロキシ安息香酸を主原料とする半芳香族液晶ポリエステルですが、当社独自の技術で、耐熱性をはじめとする高性能を与えることに成功しました。」(第1頁第2〜6行)

(ii)刊行物2
(2-1)「工業化されているLCP(註:サーモトロピック液晶ポリマー)」として、「LCP-5:タイプ-3(p/q=80/20共重合体,ロッドランLC-5000,ユニチカ株式会社」(第472頁左欄第16行〜同頁右欄第1行)が記載されており、Fig1.には、「TYPE-3」として(安息香酸単位)p(エチレンテレフタレート単位)qよりなる構造式が示されている。

(iii)刊行物5
(5-1)「下記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)からなり構造単位〔(I)+(II)〕が〔(I)+(II)+(III)〕の75〜95モル%、構造単位(III)が〔(I)+(II)+(III)〕の25〜5モル%であり、構造単位(I)/(II)のモル比が75/25〜95/5である液晶ポリエステルを成形してなるコネクター。

-(O-R1-O)- ……(II)
-(O-CH2CH2-O)- ……(III)
-(CO-R2-CO)- ……(IV)
(ただし式中の

から選ばれた1種以上の基を、R2は

から選ばれた1種以上の基を示す。また、式中のXは水素原子または塩素原子を示す。)」(請求項1)
(5-2)「構造単位(IV)は構造単位〔(II)+(III)〕と実質的に等モルである。」(第3頁右上欄第11〜12行)
(5-3)「また本発明で使用する液晶ポリエステルの溶融粘度は10〜15,000ポイズが好ましく、特に20〜5,000ポイズがより好ましい。・・・一方、この液晶ポリエステルの対数粘度は0.1g/dl濃度60℃のペンタフルオロフェノール中で測定可能であり、0.5〜5.0dl/gが好ましく、1.0〜3.0dl/gが特に好ましい。」(第3頁右上欄第16行〜同頁左下欄第6行)
(5-4)「参考例1
p-ヒドロキシ安息香算(註:「算」は「酸」の誤記と認める。)881重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル158重量部、無水酢酸907重量部、テレフタル酸141重量部および固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート245重量部を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、次の条件で脱酢酸重縮合を行った。
まず窒素ガス雰囲気下に100〜250℃で5時間、250〜300℃で1.5時間反応させたのち、300℃、1時間で0.5mmHgに減圧し、さらに2.25時間反応させ、重縮合を完結させた・・・」(第5頁右下欄第8〜20行)

(iv)刊行物6
(6-1)「下記構造単位(I)、(II)、(III)からなり、融点(Tm,℃)が(1)式を満足し、示差熱量測定より求められる融点幅が30℃以下である対数粘度が0.4〜3.0dl/gであることを特徴とする均質性の改良された共重合ポリエステル。

(ただし、式中R1は

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)と構造単位(III)は実質的に等モルである)。
-10<Tm-0.0769x2+8.20x-401.5<15 ・・・(1)
(ただし(1)式中のxは構造単位(II)の[(I)+(II)]に対する割合(モル%)を示す)。」(請求項1)
(6-2)「上記構造単位(I)、(II)、(III)からなり、構造単位(I)が[(I)+(II)]の60〜95モル%、構造単位(II)が[(I)+(II)]の40〜5モル%である請求項1または請求項2記載の共重合ポリエステル。」(請求項3)
(6-3)「本発明の目的を達成するには、(II)の[(I)+(II)]に対する割合が30モル%以下の場合には、ポリエチレンテレフタレートとp-ヒドロキシ安息香酸とをテレフタル酸の残基とp-ヒドロキシ安息香酸の残基のモル比が30/70〜70/30となる割合で混合し無水酢酸によりp-ヒドロキシ安息香酸をアセチル化した後、加熱溶融しアシドリシス反応を行ない、その後、目的とする共重合ポリエステルを形成するに不足したp-アセトキシ安息香酸またはp-ヒドロキシ安息香酸と無水酢酸を添加し、アセチル化、アシドリシス反応をさらに行なったのちに重合させることが好ましい。さらに、脱酢酸重縮合反応で、第1の容器内(以下反応缶と呼ぶ)でアセチル化を主体とした反応を行い、この反応物を移液口を通して第2の容器内(以下重合缶と呼ぶ)に移し、重合缶内で重合を行う場合、反応缶から留出する留出液量が理論留出液量の80%以上留出してから、重合缶へ反応物を移すことが好ましい。そして、最終重合温度で減圧する際に100〜600Torrの間で、好ましくは200〜500Torrの間で30分以上その減圧度を保持することが好ましい。また、溶融ポリマを吐出した後、次回の原料を同じ重合缶に投入して重合を繰り返すバッチ式連続重合法において、ポリマを吐出する際、缶残ポリマ量を重合缶の内容積1m3当り30kg以下にし、次回の原料を投入することが好ましい。」(段落【0025】)
(6-4)「本発明に好ましく使用できる上記共重合ポリエステルは、ペンタフルオロフェノール中で対数粘度を測定することが可能なものもあり、その際には0.1g/dlの濃度で60℃で測定した値で0.4〜3.0dl/gが好ましく、0.5〜3.0dl/gが特に好ましい。」(段落【0027】)
(6-5)「また、本発明における共重合ポリエステルは10〜20,000ポイズが好ましく、特に20〜10,000ポイズがより好ましい。」(段落【0029】)
(6-6)「反応缶にp-ヒドロキシ安息香酸6.2kg、ポリエチレンテレフタレート5.8kgおよび無水酢酸5.0kgを仕込み、5時間かけて130〜250℃にし、250℃で30分撹拌を続けた。この時点までの留出液量は4.8kgであり、理論留出量の82%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜280℃にし、缶内温度を280℃に保ったまま1時間撹拌を行なった。その後、撹拌を続けながら200℃まで缶内温度を冷却した後、p-アセトキシ安息香酸22.5kgを加え、さらに1時間200℃で撹拌を続けた。その後、5時間かけて缶内温度を200〜300℃にし、重合缶を70分かけて250Torrまで減圧し、減圧度を250Torrに保ったまま1時間撹拌を続けた。その後50分かけて1Torrまで減圧し、1時間撹拌を続け重縮合を完了した。」(段落【0050】)

(v)刊行物7
(7-1)「液晶性ポリエステルを原料投入口、移行口、撹拌装置およびジャケットを有する反応缶と移行口、重合体吐出口、撹拌装置およびジャケットを有する重合缶およびそれらをつなぐ移行管を持つ重合装置を用いて、脱酢酸重縮合反応によって製造する際、反応缶で理論留出液量の80%以上の留出量の留出液を留出させた後、反応物を重合缶に移行し重合することを特徴とする液晶性ポリエステルの製造方法。」(請求項1)
(7-2)「 請求項1において、液晶性ポリエステルが下記(I)、(II)、(IV)または(I)、(III)、(IV)あるいは(I)、(II)、(III)、(IV)の構造単位からなるものである請求項1記載の液晶性ポリエステルの製造方法。

(ただし式中のR1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)。」(請求項2)
(7-3)「反応缶にp-ヒドロキシ安息香酸22.1kg、4,4’-ジヒドロキシビフェニル2.8kg、ポリエチレンテレフタレート4.8kg、テレフタル酸2.5kgおよび無水酢酸21.7kgを仕込み、5時間かけて反応缶の缶内温度を130〜250℃にし、250℃で15分撹拌を続けた。この時点での留出液量は20.3kgであり、理論留出量の82%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜315℃にし、重合缶を1.0Torrまで減圧し、315℃で2時間撹拌を続け重縮合を完了した。」(段落【0033】)

(vi)刊行物8
(8-1)「原料投入口または移液口、重合体吐出口、撹拌装置およびジャケットを有する重合缶内で液晶性ポリエステルを溶融重合し、溶融ポリマを吐出した後、次回の原料を同じ重合缶に投入して重合を繰り返すバッチ式連続重合法において、ポリマを吐出する際、缶残ポリマを重合缶の内容積1m3当り30kg以下にし、その後、次回の原料を投入することを特徴とする液晶性ポリエステルのバッチ式連続重合法。」(請求項1)
(8-2)「請求項1において、液晶性ポリエステルが下記(I)、(II)、(IV)または(I)、(III)、(IV)あるいは(I)、(II)、(III)、(IV)の構造単位からなるものである請求項1記載の液晶性ポリエステルのバッチ式連続重合法。

(ただし式中のR1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)。」(請求項2)
(8-3)「反応缶にp-ヒドロキシ安息香酸22.1kg、4,4’-ジヒドロキシビフェニル2.8kg、ポリエチレンテレフタレート4.8kg、テレフタル酸2.5kgおよび無水酢酸21.7kgを仕込み、130〜250℃で5時間反応を行い、その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜315℃にし、重合缶を1.0Torrまで減圧し、315℃で2時間撹拌を続け重縮合を完了した。」(段落【0039】)

(vii)刊行物9
(9-1)「・・・異方性溶融相を形成しうるポリエステルを重合帯域内で製造する方法において、前記重合反応中に約0.25〜4モル%過剰の芳香族ジカルボン酸モノマーおよび/またはそのエステル化誘導体を重合帯域に存在させ・・・」(第1頁右欄第7〜11行)

(viii)刊行物10
(10-1)「下記(A)、(B)および(C)で表される化合物を反応槽に仕込み、重縮合させることにより芳香族ポリエステルを製造する方法において、それらの仕込量を(A)30〜80モル%、(B)10〜35モル%及び(B)と(C)との仕込みモル比を102/100〜108/100とし、重縮合反応を270〜380℃で行い、かつ生成する芳香族ポリエステルの流動温度が240℃以上になるまで反応させることを特徴とする芳香族ポリエステルの製造方法。
(A)R1O-X-COOR2・・・
(B)R3CO-Ar-COR3・・・
(C)R4O-Ar’- OR4・・・」(請求項1)

(ix)刊行物11
(11-1)「実施例1
4,4’-ジヒドロキシビフエニル258ポンド、p-ヒドロキシ安息香酸396ポンド、テレフタル酸238ポンド及び無水酢酸690ポンドを反応槽に投入した。反応槽には窒素を入れて反応物質を覆いそして反応物質を攪拌しつつ還流温度に加熱し、最低3時間加熱を続けた。次に反応混合物の温度を315℃に上げて蒸留を還流させないで開始しそして約51/2時間続けた。この時点においてジステアリルペンタエリスリトツトジホスフアイト0.71ポンドを加えそして10分後に粘稠な融解物・・・を絶縁されたステンレス・スチール皿に注入し窒素雰囲気下で放冷した。次にそれを取り出し、粉砕した・・・。プレポリマーを更に回転式加熱容器中で震盪することにより固体状態で重合させた。該プレポリマーを23℃/時の速度で周囲温度から365℃まで加熱しそして直ちに冷却した。生成した重合体は自由流動性粉末として得られた。
実施例2
実施例1の方法を正確に同一の物質及び操作により反復し、但し唯一つ異る点として、単量体の投入と共に硫酸カリウム57gを反応槽に添加した。」(第6頁右上欄第6行〜同頁左下欄第14行)

(x)刊行物13
(13-1)「1)4,4’-ビフェノール(BP)、テレフタル酸(TPA)、パラヒドロキシ安息香酸(HBA)よりなる全芳香族ポリエステルの結晶転移についてはすでにN.D.Fieldらにより検討されている。我々はこの転移を含めて、ポリマーの微細構造の変化と熱履歴の関係を明らかにした。
2)試料はHBA/TPA/BP系共重合ポリマーを用いた。いずれも345℃から420℃で液晶相転移を示す液晶ポリマーである。」(第4052頁第4〜9行)
(13-2)Figure5の上段には急冷試料及び徐冷試料のDSC(註:示差熱量測定)の結果が、下段には急冷試料を熱処理したした試料のDSCの結果が示されており、DSCの測定条件については「20℃・min」と記載されている。(第4053頁)

(xi)刊行物14
(14-1)表1「各社の液晶ポリエステルの動向」には、商品名「エコノール」が、パラヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位及び4,4’-ビフェノールから生成した構造単位を有すること、及び、「E-2000シリーズ:GF入り射出成形品・・・で電気・電子分野を中心に需要拡大。E-6000シリーズ:GF入り射出成形品中心に本格的にLCP分野に進出。・・・」との状況であることが記載されている。(第140頁)
(14-2)「<エコノール>E6000、E2000のDSC曲線」と題する図2には、E6000粉末が321℃において3.5cal/gの吸熱ピークを有し、E2000粉末が414℃において4〜5cal/gの吸熱ピークを有することが示されている。(第141頁)

4-2-3.対比、判断
(1)刊行物1、2に記載された発明との対比
刊行物1には、ユニチカ株式会社が開発した『ロッドラン』LC-5000シリーズが、PETとパラヒドロキシ安息香酸を主原料とする半芳香族液晶ポリエステルであること(摘示記載(1-1))が記載されており、刊行物2には、「工業化されているLCP(註:サーモトロピック液晶ポリマー)」として、「LCP-5:タイプ-3(p/q=80/20共重合体,ロッドランLC-5000,ユニチカ株式会社」が記載されており、Fig1.には、「TYPE-3」として(安息香酸単位)p(エチレンテレフタレート単位)qよりなる構造式が示されている(摘示記載(2-1))。そして、参考資料3には、「LC-5000の融解熱量をDSC(註:示差熱量測定)で測定すること」を目的とする試験で「1.884J/gの融解熱量が認められた」との結果が得られたことが示されており、「ロッドラン ユニチカ液晶ポリエステル LC-5000シリーズ」のカタログ(「1995.12」の表示がある。)である参考資料4には、安息香酸単位とエチレンテレフタレート単位からなるなる基本構造式と、刊行物1に記載されたデータと大部分が一致する性能一覧表(表2)が記載されている。
しかしながら、刊行物1、2におけるLC-5000の構造に係る記載からみて、LC-5000は、本件発明1における式(I)、(III)及び(IV)の構造単位よりなる液晶ポリエステル((IV)式のR2が

の場合)
であると認められ、式(I)、(II)、(III)及び(IV)構造単位よりなる本件発明1の液晶性ポリエステルとはその構造を異にする別異のポリマーといわざるを得ない。
そして、刊行物1、2に記載された式(I)、(III)及び(IV)の構造単位よりなるこのような液晶ポリエステル(LC-5000)に基づいて、更に(II)の芳香族ジオキシ単位を含んだ本件発明1における液晶ポリエステルを形成することを、当業者が容易に想到し得たものとすべき根拠は見いだせず、そのようにしてなるポリエステルがどのような融解熱量を有するかという点について、当業者が容易に予測し得たものとすることはできない。
これに対して本件発明1の、式(I)、(II)、(III)及び(IV)構造単位よりなり、融解熱量が1.5J/g以上3.0J/g以下の液晶性ポリエステルは、溶融重合のみから得られ、優れた耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性及び機械的性質を有するという訂正明細書に記載された効果を奏するものと認められる。
したがって、参考資料3、4を参酌しても、本件発明1が刊行物1、2に示されたような本件の特許出願前に公然知られた発明であるということはできず、また、本件発明1が刊行物1、2に記載された発明であるとも、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。
更に、本件発明2は本件発明1の液晶性樹脂を用いた射出成形品に係る発明であるから、本件発明2も同様の理由により、刊行物1、2に示されたような本件の特許出願前に公然知られた発明であるということはできず、また、刊行物1、2に記載された発明であるとも、刊行物1、2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(2)刊行物5、6に記載された発明との対比
刊行物5には、特許請求の範囲の請求項1に、
「下記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)からなり構造単位〔(I)+(II)〕が〔(I)+(II)+(III)〕の75〜95モル%、構造単位(III)が〔(I)+(II)+(III)〕の25〜5モル%であり、構造単位(I)/(II)のモル比が75/25〜95/5である液晶ポリエステルを成形してなるコネクター。

-(O-R1-O)- ……(II)
-(O-CH2CH2-O)- ……(III)
-(CO-R2-CO)- ……(IV)
(ただし式中の

から選ばれた1種以上の基を、R2は

から選ばれた1種以上の基を示す。また、式中のXは水素原子または塩素原子を示す。)」(摘示記載(5-1))が記載されており、
「構造単位(IV)は構造単位〔(II)+(III)〕と実質的に等モルである」(摘示記載(5-2))ことも記載されている。さらに、
「p-ヒドロキシ安息香酸881重量部、4,4’-ジヒドロキシビフェニル158重量部、無水酢酸907重量部、テレフタル酸141重量部および固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレート245重量部を攪拌翼、留出管を備えた反応容器に仕込み、次の条件で脱酢酸重縮合を行った。
まず窒素ガス雰囲気下に100〜250℃で5時間、250〜300℃で1.5時間反応させたのち、300℃、1時間で0.5mmHgに減圧し、さらに2.25時間反応させ、重縮合を完結させた」(摘示記載(5-4))との実施例が示されている。
刊行物5の請求項1に記載された液晶ポリエステルを構成する構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)は、それぞれ、本件発明1における構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)に相当するものであり、実施例の記載からみて、当該ポリエステルは本件発明1と同様、溶融重合によって得られるものと解される。
そうすると、本件発明1と刊行物5に記載された発明とは、本件発明1における「示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上3.0J/g以下であること」について刊行物5には記載されていない点を除いて相違するところがない。
そこで、本件発明1の液晶性ポリエステルと刊行物5に記載された液晶ポリエステルの製法についてみると、本件訂正明細書には、
「上述の融解熱量を有する液晶性樹脂の製造方法は、上記融解熱量を有する限り特に制限がないが、製造法によっては同じ骨格を有していても、ランダム性などの点から結晶性が低く、融解熱量が低いものしか得られないこともあり、その樹脂の結晶性が十分高くなるように製造することが重要である。・・・例えば、上記好ましく用いられる液晶ポリエステルの製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。」(段落【0016】〜【0017】)として、
「上述のような脱酢酸重合反応で、本発明で規定する融解熱量を有する液晶性樹脂を製造するためには、第1の容器内(以下反応缶と呼ぶ)でアセチル化を主体とした反応を行い、この反応物を移液口を通して第2の容器内(以下重合缶と呼ぶ)に移し、重合缶内で重合を行う場合、反応缶から留出する留出液量が理論留出液量の80%以上留出してから、重合缶へ反応物を移すことが好ましい。また、最終重合温度で減圧する際に100〜600Torrの間で、好ましくは200〜500Torrの間で15分以上、その減圧度を保持することが好ましい。さらに、溶融ポリマを吐出した後、次回の原料を同じ重合缶に投入して重合を繰り返すバッチ式連続重合法において、ポリマを吐出する際、缶残ポリマ量を重合缶の内容積1m3当り30kg以下にし、次回の原料を投入することが好ましい。
また、原料の仕込みに際しては、ジオール成分に対し、ジカルボン酸成分を過剰に仕込むことが好ましく、特にジオール成分1モルに対してジカルボン酸1モル超1.3モル以下程度とすることが好ましい。」(段落【0021】〜【0000】)と記載されており、実施例1には、
「縦と横の比が2.5の内容積0.1m3の重合装置に掻き下げ方向のヘリカルリボン翼を0.035m3の高さまで取り付けた撹拌翼を設けた反応缶と重縮合用の重合缶を使い、次のように重合した。反応缶にp-ヒドロキシ安息香酸22.1kg、4,4’-ジヒドロキシビフェニル2.79kg、ポリエチレンテレフタレート4.8kg、テレフタル酸2.61kg(4,4’-ジヒドロキシビフェニルに対して1.05倍モル)および無水酢酸21.34kgを仕込み、5時間かけて反応缶缶内温度を130〜250℃にし、250℃で30分撹拌を続けた。この時点での留出液量は20.30kgであり、理論留出量の82%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜315℃にし、重合缶を70分かけて250Torrまで減圧し、減圧度を250Torrに保ったまま1時間撹拌を続けた。その後50分かけて1Torrまで減圧し、2時間撹拌を続け重縮合を完了した。」(段落【0049】〜【0050】)と記載されている。
そうすると、本件訂正明細書に記載された製法は、(あ)アセチル化を主体とした反応を行う反応缶から留出する留出液量が理論留出液量の80%以上留出してから、重合缶へ反応物を移し、(い)最終重合温度で減圧する際に100〜600Torrの間で、好ましくは200〜500Torrの間で15分以上、その減圧度を保持し、(う)原料の仕込みに際しては、ジオール成分に対し、ジカルボン酸成分を過剰に仕込むことが好ましく、特にジオール成分1モルに対してジカルボン酸1モル超1.3モル以下程度とする、との特徴を有するのに対して、刊行物5の実施例では、少なくとも(あ)及び(い)を行っていない点で相違しており、この製法上の相違が製造される液晶ポリエステルの融解熱量等の物性の相違をもたらすことは十分に想定されるところであるから、刊行物5に記載された液晶ポリエステルが本件発明1と同様の融解熱量を有するものとすることはできない。
なお、特許異議申立人Aは、本件発明1と甲第5号証(刊行物5)に記載された液晶ポリエステルとは、構造単位、組成比、対数粘度及び溶融粘度において共通することから、同様の固有の融解熱量を有するものと推測される旨主張しているが、これらの相互の関連性を裏付ける資料は何ら提出されておらず、この点が自明ともいえないから、この主張は採用できない。
また、刊行物6には、特許請求の範囲の請求項1に、
「下記構造単位(I)、(II)、(III)からなり、融点(Tm,℃)が(1)式を満足し、示差熱量測定より求められる融点幅が30℃以下である対数粘度が0.4〜3.0dl/gであることを特徴とする均質性の改良された共重合ポリエステル。

(ただし、式中R1は

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位(II)と構造単位(III)は実質的に等モルである)。
-10<Tm-0.0769x2+8.20x-401.5<15 ・・・(1)
(ただし(1)式中のxは構造単位(II)の[(I)+(II)]に対する割合(モル%)を示す)。」(摘示記載(6-1))と記載されており、実施例には、
「反応缶にp-ヒドロキシ安息香酸6.2kg、ポリエチレンテレフタレート5.8kgおよび無水酢酸5.0kgを仕込み、5時間かけて130〜250℃にし、250℃で30分撹拌を続けた。この時点までの留出液量は4.8kgであり、理論留出量の82%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜280℃にし、缶内温度を280℃に保ったまま1時間撹拌を行なった。その後、撹拌を続けながら200℃まで缶内温度を冷却した後、p-アセトキシ安息香酸22.5kgを加え、さらに1時間200℃で撹拌を続けた。その後、5時間かけて缶内温度を200〜300℃にし、重合缶を70分かけて250Torrまで減圧し、減圧度を250Torrに保ったまま1時間撹拌を続けた。その後50分かけて1Torrまで減圧し、1時間撹拌を続け重縮合を完了した。」(摘示記載(6-6))と記載されている。
刊行物6の請求項1に記載された共重合ポリエステルを構成する構造単位(I)、(II)及び(III)は、それぞれ、本件発明1における構造単位(I)、(III)及び(IV)に相当するものであるが、刊行物6に記載されたポリエステルは本件発明1でいう構造単位(II)の芳香族ジオキシ単位を備えていない点で、本件発明1の液晶性ポリエステルとは別異のポリマーというほかはない。
そして、刊行物6の実施例には、本件訂正明細書に記載された上記製造方法の特徴点(あ)〜(う)の内、(あ)及び(い)を備えたポリエステルの製法が記載されているもの、刊行物5に記載された構造単位(I)、(II)、(III)及び(IV)からなる液晶ポリエステルの製造にあたり刊行物6の実施例に記載された方法を採用すべき理由はなく、また、そのようにしてなるポリエステルが有する融解熱量について、当業者が容易に予測し得たものとすることはできない。
したがって、本件発明1は刊行物5又は6に記載された発明であるとも、刊行物5、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。
更に、本件発明2は本件発明1の液晶性樹脂を用いた射出成形品に係る発明であるから、本件発明2も同様の理由により、刊行物5又は6に記載された発明であるとも、刊行物5、6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(3)刊行物7、8に記載された発明との対比
刊行物7の特許請求の範囲の請求項1には、
「 液晶性ポリエステルを原料投入口、移行口、撹拌装置およびジャケットを有する反応缶と移行口、重合体吐出口、撹拌装置およびジャケットを有する重合缶およびそれらをつなぐ移行管を持つ重合装置を用いて、脱酢酸重縮合反応によって製造する際、反応缶で理論留出液量の80%以上の留出量の留出液を留出させた後、反応物を重合缶に移行し重合することを特徴とする液晶性ポリエステルの製造方法。」(摘示記載(7-1))、
請求項2には、
「 請求項1において、液晶性ポリエステルが下記(I)、(II)、(IV)または(I)、(III)、(IV)あるいは(I)、(II)、(III)、(IV)の構造単位からなるものである請求項1記載の液晶性ポリエステルの製造方法。

(ただし式中のR1は

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)。」(摘示記載(7-2)と記載されており、実施例には、
「反応缶にp-ヒドロキシ安息香酸22.1kg、4,4’-ジヒドロキシビフェニル2.8kg、ポリエチレンテレフタレート4.8kg、テレフタル酸2.5kgおよび無水酢酸21.7kgを仕込み、5時間かけて反応缶の缶内温度を130〜250℃にし、250℃で15分撹拌を続けた。この時点での留出液量は20.3kgであり、理論留出量の82%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜315℃にし、重合缶を1.0Torrまで減圧し、315℃で2時間撹拌を続け重縮合を完了した。」(摘示記載(7-3))と記載されている。
刊行物7の請求項2に記載された液晶性ポリエステルを構成する構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)は、それぞれ、本件発明1における構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)に相当するものであり、実施例の記載からみて、当該ポリエステルは本件発明1と同様、溶融重合によって得られるものと解される。
そうすると、本件発明1と刊行物7に記載された発明とは、本件発明1における「示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上3.0J/g以下であること」について刊行物7には記載されていない点を除いて相違するところがない。
そこで、本件発明1の液晶性ポリエステルと刊行物7に記載された液晶性ポリエステルの製法についてみると、本件訂正明細書の実施例に記載された製造方法における、上記3つの特徴点の内、少なくとも(い)の100〜600Torrの間で15分以上減圧度を保持することは刊行物7の実施例では行われていない。
また、刊行物8にも刊行物7と同様に、請求項2に、本件発明1における構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)に相当する構造単位を有する液晶性ポリエステルが記載(摘示記載(8-2))されており、その実施例(摘示記載(8-3))の記載からみて、当該ポリエステルは溶融重合によって得られるものと解されるが、刊行物8の実施例にも、本件訂正明細書の実施例に記載された製造方法における上記3つの特徴点の内、少なくとも(い)は行われていない。
そして、この製法上の相違が融解熱量等の物性の相違をもたらすことは十分予測されるところであり、刊行物7、8に記載された液晶性ポリエステルが本件発明1のような融解熱量を有するものということはできない。
また、上記刊行物6の実施例に記載されたようにこの(い)の工程を備えた製法は本件の出願前公知であるが、刊行物7、8に記載された液晶性ポリエステルの製造にあたり、(い)の工程を採用すべき理由はなく、また、そのようにしてなるポリエステルが有する融解熱量について、当業者が容易に予測し得たものとすることはできない。
したがって、本件発明1は刊行物7又は8に記載された発明であるとも、刊行物7、8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。
更に、本件発明2は本件発明1の液晶性樹脂を用いた射出成形品に係る発明であるから、本件発明2も同様の理由により、刊行物7又は8に記載された発明であるとも、刊行物7、8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(4)刊行物11に記載された発明との対比
刊行物11の実施例1には、4,4’-ジヒドロキシビフエニル、p-ヒドロキシ安息香酸及びテレフタル酸及び無水酢酸を反応槽に投入し、反応させてプレポリマーを得て、更にこれを固体状態で重合させることが記載されているが、このようにして生成するポリエステルは、本件発明1における構造単位(I)、(II)および(IV)から構成されるものであって、本件発明1の液晶性ポリエステルと比較すると、(III)のエチレンジオキシ単位を備えていない点でこれとは異なるポリマーである。
そして、刊行物11に記載されたポリエステルを、更に構造単位(III)を付加したものとすべき必然性はなく、この点を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、刊行物11の実施例2を追試したものとする参考資料12を参酌しても、本件発明1は刊行物11に記載された発明であるとも、刊行物11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。
更に、本件発明2は本件発明1の液晶性樹脂を用いた射出成形品に係る発明であるから、本件発明2も同様の理由により、刊行物11に記載された発明であるとも、刊行物11に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

(5)刊行物13、14に記載された発明との対比
刊行物13には、4,4’-ビフェノール(BP)、テレフタル酸(TPA)、パラヒドロキシ安息香酸(HBA)よりなる全芳香族ポリエステルの熱処理による微細構造の変化について記載されており、また、刊行物13には、パラヒドロキシ安息香酸から生成した構造単位、芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位及び4,4’-ビフェノールから生成した構造単位を有する商品名「エコノール」なるポリエステルのDSC分析結果が記載されているが、これらのポリエステルはいずれも本件発明1における構造単位(I)、(II)および(IV)から構成されるものであって、本件発明1の液晶性ポリエステルと比較すると、(III)のエチレンジオキシ単位を備えていない点でこれとは異なるポリマーである。
そして、刊行物13、14に記載されたポリエステルを、更に構造単位(III)を付加したものにすべき必然性はなく、この点を当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
したがって、本件発明1は刊行物13又は14に記載された発明であるとも、刊行物13、14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。
更に、本件発明2は本件発明1の液晶性樹脂を用いた射出成形品に係る発明であるから、本件発明2も同様の理由により、刊行物13又は14に記載された発明であるとも、刊行物13、14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることはできない。

4-2-3.明細書の記載不備について
当審において平成16年6月4日付けで通知した取消理由の内、明細書の記載不備に係る理由は、実施例の表1によると、融解熱量が1.35J/gの比較例1は1.54J/gの実施例2(訂正後の参考例1)より耐薬品性及び耐加水分解性の効果が優れており、1.08J/gの比較例3(訂正後の比較例2)は2.25J/gの実施例1や実施例2よりこれらの効果が優れているので、本件発明の効果とされているものは、融解熱量が1.5J/g以上であるという本件発明の構成によるものとはいえず、発明の詳細な説明には、当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されていない、というものである。
しかしながら、これらの対比はポリエステル組成が異なる実施例-比較例についてのものであり、同一組成の実施例1と比較例1との間では、本件発明1の「1.5J/g以上3.0J/g以下」という範囲を満たす実施例1の方が、これを外れる比較例1より耐薬品性及び耐加水分解性が優れていることが看て取れるので、発明の詳細な説明に、当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されていないということはできない。
なお、特許異議申立人Aが主張する、請求項1に記載された融解熱量には上限がないという点については、上記訂正により解消された。
また、特許異議申立人Bは、融解熱量が1.5J/g以上の液晶性ポリエステルを得るための条件が不明である、と主張しているが、上記のように、本件訂正明細書には本件発明1の液晶性ポリエステルの製造上の特徴点(あ)〜(う)が記載されており、それを裏付ける実施例も示されているのであるから、本件発明1の液晶性ポリエステルを得るための条件が不明であるとはいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明を取り消すことができない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶性樹脂およびその射出成形品
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】溶融重合のみで得られ、かつ、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルであって、示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上3.0J/g以下であることを特徴とする液晶性ポリエステルからなる液晶性樹脂。
【化1】

(ただし、式中R1は
【化2】

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は
【化3】

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)
【請求項2】請求項1記載の液晶性樹脂を射出成形してなる射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、溶融重合のみで得られ、優れた溶融流動性、光学異方性を有し、通常の成形方法により優れた耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性および機械的性質を有する成形品を与え得る液晶性樹脂およびその射出成形品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年プラスチックの高性能化に対する要求がますます高まり、種々の新規機能性を有するポリマが数多く開発されており、なかでも光学異方性の液晶ポリマが優れた機械的性質を有する点で注目されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記液晶ポリマとしては例えばp-ヒドロキシ安息香酸にポリエチレンテレフタレートを共重合した液晶ポリマが知られている(特開昭49-72393号公報)。一方、ポリエチレンテレフタレートにp-ヒドロキシ安息香酸と芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールを共重合した液晶ポリマ(特開昭63-30523号公報、特開平4-136027号公報)が提案されており、この方法で得られる射出成形品は耐熱性や機械的性質が前記ポリマより大幅に向上されていることも知られている。しかしながら、これらの液晶性ポリエステルは耐薬品性や耐加水分解性という点では必ずしも十分でないことがわかった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定融解熱量の液晶性樹脂にすれば本発明の目的を達成することができることを見いだし、本発明をなすにいたった。
【0005】
すなわち、本発明は、溶融重合のみで得られ、かつ、下記(I)、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルであって、示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上3.0J/g以下であることを特徴とする液晶性ポリエステルからなる液晶性樹脂およびその射出成形品を提供するものである。
【化4】

(ただし、式中R1は
【化5】

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は
【化6】

から選ばれた一種以上の基を示す。また式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである)
【0006】
本発明でいう液晶ポリエステルとは、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、エチレンジオキシ単位などから選ばれた構造単位からなり、異方性溶融相を形成するものであり、溶融重合のみで得られた液晶性ポリエステルであって(I)、(II)、(III)、(IV)からなるポリエステルである。
【0007】
【化7】

(ただし式中のR1は
【化8】

から選ばれた一種以上の基を示し、R2は
【化9】

から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[(II)+(III)]と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)
【0008】
上記ポリエステルの融点は、200℃以上、350℃以下であることが好ましい。上記構造単位(I)はp-ヒドロキシ安息香酸から生成したポリエステルの構造単位であり、構造単位(II)は4,4´-ジヒドロキシビフェニル、3,3´,5,5´-テトラメチル-4,4´-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4´-ジヒドロキシジフェニルエーテルから選ばれた芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、構造単位(III)はエチレングリコールから生成した構造単位を、構造単位(IV)はテレフタル酸、イソフタル酸、4,4´-ジフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4´-ジカルボン酸、1,2-ビス(2-クロルフェノキシ)エタン-4,4´-ジカルボン酸およびジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。これらのうちR1が
【化10】

であり、R2が
【化11】

であるものが特に好ましい。
【0009】
上記構造単位(I)、(II)、(III)および(IV)の共重合量は任意である。しかし、流動性の点から次の共重合量であることが好ましい。
【0010】
【0011】
上記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)からなる共重合体の場合は、上記構造単位[(I)+(II)]は[(I)+(II)+(III)]の60〜95モル%が好ましく、85〜93モル%がより好ましい。また、構造単位(III)は[(I)+(II)+(III)]の40〜5モル%が好ましく、15〜7モル%がより好ましい。また、構造単位(I)/(II)のモル比は耐熱性と流動性のバランスの点から好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。また、構造単位(IV)は構造単位[(II)+(III)]と実質的に等モルである。
【0012】
上記構造単位(I)〜(IV)を構成する成分以外に3,3´-ジフェニルジカルボン酸、2,2´-ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、4,4´-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4´-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4´-ジヒドロキシベンゾフェノン等の芳香族ジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環式ジオールおよびm-ヒドロキシ安息香酸、2,6-ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびp-アミノフェノール、p-アミノ安息香酸などを本発明の目的を損なわない程度の少割合の範囲でさらに共重合せしめることができる。
【0013】
本発明の液晶性樹脂は示差熱量測定より求められるポリマの融解熱量が1.5J/g以上であることが必要であり、1.8J/gであることがより好ましく、特に2.2J/g以上であることが好ましい、また、上限は特に規定はないが、実用性の点から3.0J/g以下であることが好ましい。
【0014】
構造単位(I)〜(IV)の組成比が上記好ましい条件を満足する場合であっても、ポリマの組成分布、均質性の違いにより融解熱量が1.5J/g未満となる場合には成形品の耐薬品性や耐加水分解性が不十分であり、本発明の目的を達成することができない。
【0015】
ここで、融解熱量とは示差熱量測定において、ポリマを室温から40℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、20℃/分の降温条件で室温まで一旦冷却した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm2)のピークより求められる吸熱ピークの熱量を指す。
【0016】
上述の融解熱量を有する液晶性樹脂の製造方法は、上記融解熱量を有する限り特に制限がないが、製造法によっては同じ骨格を有していても、ランダム性などの点から結晶性が低く、融解熱量が低いものしか得られないこともあり、その樹脂の結晶性が十分高くなるように製造することが重要である。反応機構的には公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。
【0017】
例えば、上記好ましく用いられる液晶ポリエステルの製造において、次の製造方法が好ましく挙げられる。
【0018】
(1)p-アセトキシ安息香酸、4,4´-ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物とテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸およびポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマ、オリゴマまたはビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β-ヒドロキシエチル)エステルから脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0019】
(2)p-ヒドロキシ安息香酸、4,4´-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、無水酢酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマ、オリゴマまたはビス(β-ヒドロキシエチル)テレフタレートなど芳香族ジカルボン酸のビス(β-ヒドロキシエチル)エステルとを脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0020】
(3)(1)または(2)の製造方法において出発原料の一部に特開平3-59024号公報のように1,2-ビス(4-ヒドロキシベンゾイル)エタンを用いる方法。
【0021】
上述のような脱酢酸重合反応で、本発明で規定する融解熱量を有する液晶性樹脂を製造するためには、第1の容器内(以下反応缶と呼ぶ)でアセチル化を主体とした反応を行い、この反応物を移液口を通して第2の容器内(以下重合缶と呼ぶ)に移し、重合缶内で重合を行う場合、反応缶から留出する留出液量が理論留出液量の80%以上留出してから、重合缶へ反応物を移すことが好ましい。また、最終重合温度で減圧する際に100〜600Torrの間で、好ましくは200〜500Torrの間で15分以上、その減圧度を保持することが好ましい。さらに、溶融ポリマを吐出した後、次回の原料を同じ重合缶に投入して重合を繰り返すバッチ式連続重合法において、ポリマを吐出する際、缶残ポリマ量を重合缶の内容積1m3当り30kg以下にし、次回の原料を投入することが好ましい。
【0022】
また、原料の仕込みに際しては、ジオール成分に対し、ジカルボン酸成分を過剰に仕込むことが好ましく、特にジオール成分1モルに対してジカルボン酸1モル超1.3モル以下程度とすることが好ましい。
【0023】
さらに、上記構造単位(I)、(III)および(IV)からなる液晶ポリエステルの場合には1,2-ビス(4-ヒドロキシベンゾイル)エタンを用いて、多段重合することが好ましく、上記構造単位(I)、(II)、(III)、(IV)からなる液晶ポリエステルの場合にはジカルボン酸成分をジヒドロキシ成分に対して過剰に仕込むことが好ましい。
【0024】
これらの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を添加した方が好ましいときもある。
【0025】
本発明における用上記液晶性樹脂は、ペンタフルオロフェノール中で対数粘度を測定することが可能なものもあり、その際には0.1g/dlの濃度で60℃で測定した値で0.3dl/g以上が好ましく、構造単位(III)を含む場合は0.5〜3.0dl/g、構造単位(III)を含まない場合は1.0〜15.0dl/gが特に好ましい。
【0026】
また、本発明における液晶性樹脂は10〜20,000ポイズが好ましく、特に20〜10,000ポイズがより好ましい。
【0027】
なお、この溶融粘度は融点(Tm)+10℃の条件で、ずり速度1,000(1/秒)の条件下で高化式フローテスターによって測定した値である。
【0028】
特に、本発明の共重合ポリエステルに対して有機難燃剤を添加することにより良好な難燃性を付与することが可能である。
【0029】
本発明において使用できる有機難燃剤とは有機臭素化合物および/または有機リン化合物などである。
【0030】
有機臭素化合物は、分子中に臭素原子を有するものであり、特に臭素含量20重量%以上のものが好ましい。具体的には、デカブロモジフェニルエーテル、エチレンビス-(テトラブロモフタルイミド)などの低分子量有機臭素化合物、臭素化ポリカーボネート(例えば臭素化ビスフェノールAを原料として製造されたポリカーボネートオリゴマーあるいはそのビスフェノールAとの共重合物)、臭素化エポキシ化合物(例えば臭素化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジエポキシ化合物や臭素化フェノール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるモノエポキシ化合物)、ポリ(臭素化ベンジルアクリレート)、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ビスフェノールA、塩化シアヌルおよび臭素化フェノールの縮合物、臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリα-メチルスチレン等のハロゲン化されたポリマーやオリゴマーあるいは、これらの混合物が挙げられ、なかでもエチレンビス-(テトラブロモフタルイミド)、臭素化エポキシオリゴマーまたはポリマー、臭素化ポリスチレン、架橋臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテルおよび臭素化ポリカーボネートが好ましく、エチレンビス-(テトラブロモフタルイミド)、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネートが特に好ましく使用できる。
【0031】
これらの有機臭素化合物の添加量は、液晶性樹脂100重量部当り0.2〜30重量部が好ましく、0.5〜20重量部がより好ましいが、難燃性は液晶性樹脂中の脂肪族モノマから生成する構造単位、例えば前記液晶性ポリエステル中の構造単位(III)、の共重合量と密接な関係があるため、次のような添加量にするのが好ましい。すなわち有機臭素化合物の添加量は液晶性樹脂中の脂肪族モノマから生成する構造単位、例えば前記液晶性ポリエステル中の構造単位(III)、の100重量部に対して60〜280重量部が好ましく、100〜200重量部が特に好ましい。
【0032】
一方、有機リン化合物は、分子中にリン原子を有するものであり、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸から合成される化合物、ホスフィン、ホスフィンオキシド、ホスホランなどの化合物や下記構造式の化合物およびこれら化合物を少なくとも一成分として含有するポリマーである。
【0033】
【化12】

(ここでR3は炭素数1〜6の1価の脂肪族炭化水素基および/または炭素数6〜20の1価の芳香族炭化水素基を示す)。
【0034】
【0035】
このポリマーとしては下記構造単位からなるポリマーを挙げることができる。
【0036】
【化13】

(ここでR4は炭素数1〜6の2価の脂肪族炭化水素基および/または炭素数6〜20の2価の芳香族炭化水素基を示し、Arは炭素数6〜20の3価の芳香族炭化水素基を示す)。
【0037】
【0038】
そしてこれらのうち最も好ましい有機リン化合物は下記ポリマーである。
【0039】
【化14】

なお、これらの有機リン化合物は一部が金属塩であってもよい。
【0040】
これらの有機リン化合物の添加量は、液晶性樹脂100重量部当り0.2〜30重量部、好ましくは0.5〜15重量部であり、構造単位(III)の100重量部に対して2〜150重量部が好ましく、10〜110重量部がより好ましい。
【0041】
また、本発明において有機リン化合物が下記構造単位からなるポリマのように臭素原子を含有した有機リン化合物であってもよい。
【0042】
【化15】

また、本発明の液晶性樹脂に対して強化剤、充填剤を添加することにより、機械的特性、耐熱性をいっそう改善することができる。
【0043】
強化剤、充填剤を添加する場合、その添加量は液晶性樹脂100重量部に対して200重量部以下が好ましく、15〜150重量部が特に好ましい。
【0044】
本発明において用いることができる強化剤、充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、芳香族ポリアミド繊維、チタン酸カリウム繊維、石膏繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミック繊維、ボロンウィスカー繊維、アスベスト繊維、グラファイト、マイカ、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、ワラステナイト、酸化チタン、二硫化モリブデン、等の繊維状、粉状、粒状あるいは板状の無機フィラーが挙げられる。又、これらの強化剤、充填剤についてもシラン系、チタネート系などのカップリング剤、その他の表面処理剤で処理されたものを用いてもよい。
【0045】
更に、本発明の液晶性樹脂には、本発明の目的を損なわない程度の範囲で、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリ0ルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンなど)、染料(たとえばニトロシンなど)および顔料(たとえば硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラックなど)を含む着色剤、可塑剤、帯電防止剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加して、所定の特性を付与することができる。
【0046】
これらを添加する方法は溶融混練することが好ましく、溶融混練には公知の方法を用いることができる。たとえば、バンバリーミキサー、ゴムロール機、ニーダー、単軸もしくは二軸押出機などを用い、200〜350℃の温度で溶融混練して組成物とすることができる。
【0047】
かくしてなる本発明の液晶性樹脂は、優れた溶融流動性、光学異方性を有し、通常の成形方法により優れた耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性、および機械的性質を有する三次元成形品に成形することができ、なかでもその優れた結晶性ゆえに射出成形することにより、極めて実用的な射出成形品を与えることができる。また、その他シート、容器パイプなどに加工することも可能であり、このような射出成形などの成形により得られる成形品として、例えば、各種ギヤー、各種ケース、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケーススイッチコイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント配線板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、ハウジング、半導体、液晶ディスプレー部品、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、HDD部品、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品、オフィスコンピューター関連部品、電話機関連部品、ファクシミリ関連部品複写機関連部品、洗浄用治具、オイルレス軸受、船尾軸受、水中軸受、などの各種軸受、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品、顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンショメーターべース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキバット磨耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビュター、スタータースィッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウオッシャーノズル、エアコンパネルスィッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品、その他各種用途に有用である。
【0048】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳述する。
【0049】
実施例1
縦と横の比が2.5の内容積0.1m3の重合装置に掻き下げ方向のヘリカルリボン翼を0.035m3の高さまで取り付けた撹拌翼を設けた反応缶と重縮合用の重合缶を使い、次のように重合した。
【0050】
反応缶にp-ヒドロキシ安息香酸22.1kg、4,4’-ジヒドロキシビフェニル2.79kg、ポリエチレンテレフタレート4.8kg、テレフタル酸2.61kg(4,4’-ジヒドロキシビフェニルに対して1.05倍モル)および無水酢酸21.34kgを仕込み、5時間かけて反応缶缶内温度を130〜250℃にし、250℃で30分撹拌を続けた。この時点での留出液量は20.30kgであり、理論留出量の82%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜315℃にし、重合缶を70分かけて250Torrまで減圧し、減圧度を250Torrに保ったまま1時間撹拌を続けた。その後50分かけて1Torrまで減圧し、2時間撹拌を続け重縮合を完了した。その後重合缶内を加圧後、口金を経由してポリマをストランド状に吐出した。
【0051】
得られた液晶性ポリエステルの理論構造式は次のとおりである。
【0052】
【化16】

k/l/m/n=80/7.5/12.5/20
【0053】
この液晶性ポリエステルをパーキンエルマー社製のDSC-7型を用いて、前述の条件で融点および融解熱量を測定したところ、313℃で2.25J/gであった。なお、このポリマの対数粘度は1.82dl/g(0.1g/dlの濃度でペンタフルオロフェノール中、60℃で測定)であった。
【0054】
得られたペレットを住友ネスタール射出成形機プロマット(住友重機械工業(株)製)に供し、シリンダー温度320℃、金型温度90℃の条件で3.2mm厚のASTM1号ダンベル試験片を成形した。この成形品を用い耐薬品性(室温、1000時間、1,2ジクロロエタン中浸漬)のテストを行い引張強度保持率を測定した。その結果を表1に示す。
【0055】
このポリマを100重量部に対して、二臭素化ポリスチレンモノマを重合したポリ二臭素化スチレン(臭素含量59%)10重量部および平均繊維径約10μm、平均繊維長3mmのガラス繊維45重量部をドライブレンドした後、30mmφ二軸押出機により310℃で溶融混練-ペレタイズした。
【0056】
得られたペレットを住友ネスタール射出成形機プロマット(住友重機械工業(株)製)に供し、シリンダー温度320℃、金型温度90℃の条件で3.2mm厚のASTM1号ダンベル試験片を成形した。この成形品を用いオートクレーブ中で耐加水分解性(100℃、10日間水中浸漬)のテストを行い引張強度保持率を測定した。その結果を表1に示す。
【0057】
比較例1
実施例1と同様の重合装置を用い、反応缶にp-ヒドロキシ安息香酸22.1kg、4,4’-ジヒドロキシビフェニル2.79kg、ポリエチレンテレフタレート4.8kg、テレフタル酸2.37kg(4,4’-ジヒドロキシビフェニルに対して0.95倍モル)および無水酢酸21.34kgを仕込み、5時間かけて反応缶缶内温度を130〜230℃にし、230℃で30分撹拌を続けた。この時点での留出液量は18.32kgであり、理論留出量の74%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を230〜315℃にし、その後90分かけて重合缶を1.0Torrまで減圧し、315℃で2時間撹拌を続け重縮合を完了した。その後重合缶内を加圧後、口金を経由してポリマをストランド状に吐出した。得られた液晶性ポリエステルの融点および融解熱量を実施例1と同様に測定したところ315℃で1.35J/gであった。このポリマの対数粘度は1.80dl/gであった。このポリマを実施例1と同様に成形し、耐薬品性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0058】
このポリマを100重量部に対して、二臭素化ポリスチレンモノマを重合したポリ二臭素化スチレン(臭素含量59%)10重量部および平均繊維径約10μm、平均繊維長3mmのガラス繊維45重量部を実施例1と同様に溶融混練-ペレタイズし、耐加水分解性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0059】
参考例1
実施例1と同様の重合装置を用い、テレフタル酸12.46kg、1,2-ビス(4-ヒドロキシベンゾイル)エタン22.67kgおよび無水酢酸8.42kgを仕込み、5時間かけて反応缶缶内温度を130〜250℃にし、250℃で30分撹拌を続けた。この時点での留出液量は8.01kgであり、理論留出量の82%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜270℃にし、重合缶を70分かけて250Torrまで減圧し、減圧度を250Torrに保ったまま1時間撹拌を続けた。その後50分かけて1Torrまで減圧し、重合缶を1.0Torrまで減圧し、270℃で2時間撹拌を続け重縮合を完了した。その後重合缶内を加圧後、口金を経由してポリマをストランド状に吐出した。
【0060】
次に再度、得られたポリマ21.62kg、p-アセトキシ安息香酸18.02kgを仕込み、250℃で3時間撹拌を行った。この時点での留出液量は4.86kgであり、理論留出量の81%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜290℃にし、重合缶を70分かけて250Torrまで減圧し、減圧度を250Torrに保ったまま1時間撹拌を続けた。その後50分かけて1Torrまで減圧し、重合缶を1.0Torrまで減圧し、290℃で2時間撹拌を続け重縮合を完了した。その後重合缶内を加圧後、口金を経由してポリマをストランド状に吐出した。
【0061】
得られた液晶性ポリエステルの理論構造式は次のとおりである。
【0062】
【化17】

k/l/m=80/20/20
【0063】
得られた液晶性ポリエステルの融点および融解熱量を実施例1と同様に測定したところ268℃で1.54J/gであった。このポリマの対数粘度は0.75dl/gであった。このポリマを実施例1と同様に成形し、耐薬品性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0064】
このポリマを100重量部に対して、二臭素化ポリスチレンモノマを重合したポリ二臭素化スチレン(臭素含量59%)10重量部および平均繊維径約10μm、平均繊維長3mmのガラス繊維45重量部を実施例1と同様に溶融混練-ペレタイズし、耐加水分解性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0065】
参考例2
実施例1と同一装置を用い、次の条件で脱酢酸重合を行った。まず、反応缶にp-アセトキシ安息香酸28.83kgおよびポリエチレンテレフタレート7.69kgを仕込み、240℃で3時間撹拌を行った。この時点までの留出液量は6.82kgであり、理論留出量の71%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を240〜300℃にし、重合缶を90分かけて1Torrまで減圧した。その後1時間撹拌を続け重縮合を完了した。
【0066】
得られた液晶性ポリエステルの融点および融解熱量を実施例1と同様に測定したところ296℃で0.81J/gであった。このポリマの対数粘度は0.70dl/gであった。このポリマを実施例1と同様に成形し、耐薬品性の評価を行った。その結果を表1に示す。このポリマを実施例1と同様に成形し、耐薬品性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0067】
このポリマを100重量部に対して、二臭素化ポリスチレンモノマを重合したポリ二臭素化スチレン(臭素含量59%)10重量部および平均繊維径約10μm、平均繊維長3mmのガラス繊維45重量部を実施例1と同様に溶融混練-ペレタイズし、耐加水分解性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0068】
参考例3
実施例1と同一の重合装置を用い、p-ヒドロキシ安息香酸16.58kg、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸15.05kg、および無水酢酸22.44kgを仕込み、5時間かけて反応缶缶内温度を130〜250℃にし、250℃で30分撹拌を続けた。この時点での留出液量は21.09kgであり、理論留出量の81%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜280℃にし、重合缶を70分かけて250Torrまで減圧し、減圧度を250Torrに保ったまま1時間撹拌を続けた。その後50分かけて1Torrまで減圧し、重合缶を1.0Torrまで減圧し、280℃で2時間撹拌を続け重縮合を完了した。
その後重合缶内を加圧後、口金を経由してポリマをストランド状に吐出した。
【0069】
次に再度、得られたポリマ14.01kg、p-ヒドロキシ安息香酸6.63kgおよび無水酢酸5.39kgを仕込み、5時間かけて反応缶缶内温度を130〜250℃にし、250℃で30分撹拌を続けた。この時点での留出液量は5.13kgであり、理論留出量の82%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を250〜310℃にし、重合缶を70分かけて250Torrまで減圧し、減圧度を250Torrに保ったまま1時間撹拌を続けた。その後50分かけて1Torrまで減圧し、重合缶を1.0Torrまで減圧し、310℃で2時間撹拌を続け重縮合を完了した。その後重合缶内を加圧後、口金を経由してポリマをストランド状に吐出した。
【0070】
得られた液晶性ポリエステルの理論構造式は次のとおりである。
【0071】
【化18】

k/l=73/27
【0072】
得られた液晶性ポリエステルの融点および融解熱量を実施例1と同様に測定したところ280℃で1.62J/gであった。このポリマの対数粘度は5.34dl/gであった。このポリマを実施例1と同様に成形し、耐薬品性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0073】
このポリマを100重量部に対して、二臭素化ポリスチレンモノマを重合したポリ二臭素化スチレン(臭素含量59%)10重量部および平均繊維径約10μm、平均繊維長3mmのガラス繊維45重量部を実施例1と同様に溶融混練-ペレタイズし、耐加水分解性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0074】
比較例2
実施例1と同一装置を用い、次の条件で脱酢酸重合を行った。まず、反応缶にp-ヒドロキシ安息香酸20.17kg、2-ヒドロキシ-6-ナフトエ酸10.16kgおよび無水酢酸22.44kgを仕込み、5時間かけて130〜230℃にした。この時点までの留出液量は19.00kgであり、理論留出量の73%であった。その後反応物を重合缶に移液して、2時間かけて缶内温度を230〜330℃にし、重合缶を90分かけて1Torrまで減圧した。その後1時間撹拌を続け重縮合を完了した。
【0075】
得られた液晶性ポリエステルの融点および融解熱量を実施例1と同様に測定したところ280℃で1.08J/gであった。このポリマの対数粘度は5.48dl/gであった。このポリマを実施例1と同様に成形し、耐薬品性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0076】
このポリマを100重量部に対して、二臭素化ポリスチレンモノマを重合したポリ二臭素化スチレン(臭素含量59%)10重量部および平均繊維径約10μm、平均繊維長3mmのガラス繊維45重量部を実施例1と同様に溶融混練-ペレタイズし、耐加水分解性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【発明の効果】
本発明は、溶融重合のみで得られ、優れた溶融流動性、光学異方性を有し、通常の成形方法により優れた耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性および機械的性質を有する液晶性樹脂およびその射出成形品を得ることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-07 
出願番号 特願平6-271579
審決分類 P 1 651・ 111- YA (C08G)
P 1 651・ 121- YA (C08G)
P 1 651・ 534- YA (C08G)
P 1 651・ 113- YA (C08G)
P 1 651・ 531- YA (C08G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
大熊 幸治
登録日 2003-03-20 
登録番号 特許第3409469号(P3409469)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 液晶性樹脂およびその射出成形品  
代理人 秋元 輝雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ