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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01J
管理番号 1117863
異議申立番号 異議2003-71906  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-08-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-07-25 
確定日 2005-04-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3375927号「珪質頁岩を利用した調湿消臭材料」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3375927号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3375927号の請求項1乃至4に係る発明は、平成12年2月8日に出願され、平成14年11月29日に特許権の設定登録がなされ、その後、請求項1乃至4に係る特許について特許異議申立人パナホーム株式会社より特許異議申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成16年1月13日に訂正請求がなされ、再度取消理由が通知され、特許異議意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
平成16年1月13日になされた訂正請求は、願書に添付された明細書(以下、「特許明細書」という。)を訂正請求書に添付された明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるもので、その内容は以下のとおりである。
訂正事項a.
請求項1及び2を「【請求項1】 調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(2)BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積、
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。
【請求項2】 調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体を500〜900℃で焼成してなる焼成体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(2)BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積、
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。」と訂正する。
訂正事項b.
請求項4を「【請求項4】 請求項1から3のいずれかに記載の調湿消臭材料又は調湿消臭複合体を使用する方法であって、25wt%程度の最大吸湿率と生活に適する50〜70%の湿度範囲での優れた水蒸気吸脱着特性を利用して、上記調湿消臭材料を50〜70%の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿・塩基性ガス消臭材料として利用することを特徴とする上記調湿消臭材料の使用方法。」と訂正する。
訂正事項c.
【0007】段落の「(1)調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(a)細孔半径2.6nmから6nm付近の均一な細孔径分布、
(b)BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積、
(c)25wt%程度の最大吸湿率、
(d)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。
(2)調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体を500〜900℃で焼成してなる焼成体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(a)細孔半径2.6nmから6nm付近の均一な細孔径分布、
(b)BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積、
(c)25wt%程度の最大吸湿率、
(d)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。」を、
「(1)調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(a)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(b)BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積、
(c)25wt%程度の最大吸湿率、
(d)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。
(2)調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体を500〜900℃で焼成してなる焼成体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(a)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(b)BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積、
(c)25wt%程度の最大吸湿率、
(d)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。」と訂正する。
訂正事項d.
【0007】段落の「(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の調湿消臭材料又は調湿消臭複合体を使用する方法であって、25wt%程度の最大吸湿率と生活に適する50〜70%の湿度範囲での優れた水蒸気吸脱着特性を利用して、上記調湿消臭材料を50〜70%の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿材料として利用することを特徴とする上記調湿消臭材料の使用方法。」を、
「(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の調湿消臭材料又は調湿消臭複合体を使用する方法であって、25wt%程度の最大吸湿率と生活に適する50〜70%の湿度範囲での優れた水蒸気吸脱着特性を利用して、上記調湿消臭材料を50〜70%の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿・塩基性ガス消臭材料として利用することを特徴とする上記調湿消臭材料の使用方法。」と訂正する。
訂正事項e.
【0015】段落の「細孔径分布曲線から細孔半径2nmから6nm付近に幅広い領域が観察され、」を、「細孔径分布曲線から細孔半径2nmから6nmに幅広い領域が観察され、」と訂正する。
訂正事項f.
【0019】段落の「2)細孔半径2.6nmから6nm付近の均一な細孔径分布を備え、」を、「2)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布を備え、」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び拡張・変更の存否
訂正事項aは、特許明細書の請求項1及び2の夫々に記載された「細孔半径2.6nmから6nm付近の均一な細孔径分布」のうち、「付近」という記載を削除して、「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」に訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと云える。そして、本件の請求項1に記載された調湿消臭材料を構成する珪質頁岩の粉砕物が「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」の理化学的性質を有することは、本件の願書に添付された図面である【図1】から読みとれることであり、また、本件の請求項1に記載された調湿消臭材料を構成する珪質頁岩の粉砕物の任意の成形体、及び、本件の請求項2に記載された調湿消臭材料を構成する珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体を500〜900℃で焼成してなる焼成体が「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」の理化学的性質を有することは、上記【図1】及び特許明細書【0016】段落の「本発明の調湿消臭材料は、粉砕物、成形体、焼結体、複合体のいずれにおいてもほぼ同様の特性が得られる。」との記載から読みとれることであるから、訂正事項aは、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内で明細書の記載を訂正するものであると云える。また、訂正事項aは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項bは、特許明細書の請求項4に記載された「50〜70%の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿材料として利用する」を「50〜70%の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿・塩基性ガス消臭材料として利用する」と訂正するものであり、同請求項4に「請求項1から3のいずれかに記載の調湿消臭材料又は調湿消臭複合体を使用する方法であって」との記載があり、さらに、同請求項1及び2に「調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって」との記載があり、同請求項3も請求項1又は2を引用して記載されていることからみて、明りょうでない記載の釈明を目的とするものと云える。そして、特許明細書の【0001】段落の「本発明の材料は、耐水性、耐熱性、耐腐食性に優れ、電子機器などの記録材料や居室内や車内などの生活環境の湿度を自律的に制御する吸放湿機能に、消臭機能などを賦与した、新しいタイプの調湿消臭材料として有用である。」との記載、【0005】段落の「従来技術では、調湿と消臭を同時に達成できる材料の開発は行われておらず、その性能も十分なものではなかった。」との記載、【0006】段落の「本発明は、自律的に生活空間中の水分を吸脱着し、生活環境中の湿度を省エネルギー的に最適状態に制御するのと同時に消臭機能を有する多孔質材料を提供することを目的とするものである。」との記載、【0011】段落の「本発明の調湿消臭材料は、後記する実施例に示すように、50〜70%の湿度範囲での水蒸気吸脱着特性に優れていること、また、優れた消臭能力を有していることから、調湿機能と消臭機能を同時に有する調湿消臭材料として有用である。」からみて、50〜70%の相対湿度を有する居室内などの生活空間で調湿機能を発揮すると同時に該生活空間で消臭機能を発揮する調湿消臭材料として利用することが特許明細書の記載から読みとることができると云え、また、【0007】段落の2箇所の「調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって」との記載からみて、上記消臭機能が塩基性ガスを消臭する機能であることが明らかであることを考慮すると、50〜70%の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿・塩基性ガス消臭材料として利用することは、特許明細書の記載から読みとれると云える。よって、訂正事項bも、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内で明細書の記載を訂正するものであると云える。また、訂正事項bは、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
訂正事項c,d,fは、訂正事項a及びbによる特許請求の範囲の訂正に整合させて発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当すると云える。そして、これらの訂正事項は、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内で明細書の記載を訂正するものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
最後に、訂正事項eは、「細孔径分布曲線から細孔半径2nmから6nm付近に幅広い領域が観察され、」のうち、「付近」という記載を削除して、「細孔径分布曲線から細孔半径2nmから6nmに幅広い領域が観察され、」と訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当すると云える。そして、「細孔径分布曲線から細孔半径2nmから6nmに幅広い領域が観察され」ることは本件の願書に添付された図面である【図1】から読みとれることであるから、訂正事項eは、願書に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲内で明細書の記載を訂正するものであり、しかも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項並びに同条第3項において準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申立てについて
3-1.本件発明
上記2で述べたように、平成16年1月13日になされた訂正請求は認められるものであるから、特許第3375927号の請求項1乃至4に係る発明(以下、「本件発明1」乃至「本件発明4」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(2)BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積、
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。
【請求項2】 調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体を500〜900℃で焼成してなる焼成体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(2)BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積、
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載の調湿消臭材料と、他のセラミックス原料及び/又はフィラーとを複合して得られる調湿消臭複合体。
【請求項4】 請求項1から3のいずれかに記載の調湿消臭材料又は調湿消臭複合体を使用する方法であって、25wt%程度の最大吸湿率と生活に適する50〜70%の湿度範囲での優れた水蒸気吸脱着特性を利用して、上記調湿消臭材料を50〜70%の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿・塩基性ガス消臭材料として利用することを特徴とする上記調湿消臭材料の使用方法。」

3-2.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人は、下記の甲第1号証乃至甲第8号証を提出して、本件発明1乃至4は、甲第1号証乃至乃至甲第5号証のいづれかに記載された発明であるか、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて、さらには甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証乃至甲第8号証により公然知られた発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1乃至4の特許は、特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に規定する要件に違反してなされたものであり、取り消されるべきものである旨、また、本件明細書及び図面の記載には不備があるから、本件発明1乃至4の特許は、特許法第36条第4項及び第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである旨、主張している。
甲第1号証:特開平4-354514号公報
甲第2号証:雑誌「月刊建築仕上技術」1997年11月号、第57〜63頁
甲第3号証:雑誌「月刊建築仕上技術」1996年11月号、第60〜63頁
甲第4号証:カタログ「自然調湿の住まい」1999年、ナショナル住宅産業株式会社発行、表紙、第1,2,6頁、裏表紙
甲第5号証:新聞「新建ハウジング」平成11年5月10日、新建新聞社発行、第1面及び第4面
甲第6号証:卒業論文「珪藻土系天然鉱物の脱臭機能の評価」北見工業大学 平成11年3月卒業 反応プロセス工学研究室 小野寺香織、表紙、目次、2-1頁、Table.3-1-5-1、結論
甲第7号証:北見工業大学工学部化学システム工学科 卒業論文指導教官 教授 小林正義、及び、北見工業大学 学長 常本秀幸が、平成15年6月25日付けで発行した、卒業論文発表証明書
甲第8号証:北海道支部1999年冬季研究発表会 講演要旨集 1999年2月2,3日、日本分析化学会北海道支部等共催、表紙、目次、第63頁(2A09 「珪藻土系天然鉱物の脱臭機能の評価」)

3-3.特許法第29条違反の主張について
3-3-1.甲各号証に記載された事項
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
1-ア.「【請求項1】稚内層珪藻土の粉砕物を単独で使用するか、あるいはこれとその他のセラミックス原料と配合して任意の形状に成形し、焼成することを特徴とする稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法。」(特許請求の範囲 請求項1)
1-イ.「【請求項2】稚内層珪藻土の粉砕物を単独で使用するか、あるいはこれをフィラーとしてその他の材料と複合し、不焼成とすることを特徴とする稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法。」(特許請求の範囲 請求項2)
1-ウ.「本発明は、稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法に係わるものである。・・・。北海道の天北地方などには珪藻土が大量に賦存するが、地質学上稚内層と呼ばれる珪藻土は地質的変質作用を受け、結晶化が進み、化学的、熱的に安定な鉱物になっている。また、稚内層珪藻土の細孔構造はその他の珪藻土と異なる多孔質構造となっている。この特性の一つに、吸放湿する調湿機能があり、この稚内層珪藻土粉砕物をその他の原料と配合するか、またはフィラーとしてその他の材料と複合するだけで調湿機能を発現することができる。従って、従来の工程を大幅に変えることなしに多様な調湿材料が製造できるため、その用途は極めて広い。例えば、最近の建築様式は高断熱、高機密化の趨勢にあるが、一般に使用されている内装材は調湿機能がなく、結露及びカビやダニの発生が住環境の重大問題となっており、多種多様な調湿材料が期待されている。」(第2頁第1欄12〜28行、【0001】段落)
1-エ.「【実施例】実施例について図面を参照して説明する。本発明で使用する稚内層珪藻土粉砕物の粉体特性の一例は下記の通りである。粉体は大部分が1μ以下のサブミクロンの粒子で構成され、極めて微細である。比表面積は128.9m2 /gを示し、一般的な珪藻土の3〜4倍の大きさである。図1に細孔分布を示したが、半径20〜100Åの細孔が全体の70%以上を占める。また、これを800℃で焼成した粉体の比表面積は133.7m2 /g、その細孔分布を図2に示したが加熱によって殆ど変化がなく、熱的に極めて安定している。以上のように、稚内層珪藻土は極めて多孔質であり、特有の細孔分布を示す。図3は、この粉体の20℃における水蒸気吸着等温線である。また、30℃に温度を一定とし、24時間毎に湿度を変化させ、この粉体及びそれを800℃焼成したものの吸放湿機能、すなわち調湿機能を見たのが図4である。調湿機能を杉材と比較したが、それよりも優れている。しかも、加熱によって殆ど変化しない。」(第2頁第2欄19〜36行、【0006】段落)として、第3頁に【図1】、【図2】が、第4頁に【図3】、【図4】が記載されている。
1-オ.「第1発明の稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法の構成は下記の通りである。図5は稚内層珪藻土を粉砕し、それ単独で乾式プレス成形後、800℃で焼成し、タイル状にしたものの調湿機能である。図6は稚内層珪藻土を粉砕し水を加えて練り土状にし、土練成形後800℃で焼成し、タイル状にしたものの調湿機能である。図7は稚内層珪藻土粉砕物と粘土窯業原料として使用されている北海道旭川地区のせっ器質粘土と配合し、タイル状に乾式プレス成形後、800℃焼成したものの調湿機能である。このように稚内層珪藻土粉砕物を単独で使用するか、またはその他のセラミックス原料と配合することによって、従来の製造工程を変えることなしに、多様な調湿機能セラミックスが容易に製造できる。しかも、この調湿機能は図7からわかるように、稚内層珪藻土の配合比に一義的に支配され、その制御は極めて容易である。」(第2頁第2欄37行〜第3頁第3欄2行、【0007】段落)として、第4頁に【図5】が、第5頁に【図6】、【図7】が記載されている。
1-カ.「第2発明の稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料の製造法の構成は下記の通りである。不焼成を特徴とする材料として、石膏系、セメント系、樹脂系などがあるが、例えば、石膏に稚内層珪藻土粉砕物を添加し、その調湿機能の発現を見たのが図8である。このように調湿機能のない石膏に、この稚内層珪藻土を添加することによって調湿機能を発現することができる。また、その調湿機能はその添加量が多いほど大きい。」(第3頁第3欄3〜10行、【0008】段落)として、第6頁に【図8】が記載されている。
1-キ.「本発明は、上述の通り構成されているので次に記載する効果を奏する。A.本発明の稚内層珪藻土を利用した調湿材料は湿度の変化によって吸放湿するものであり、特に快適な生活環境と思われる湿度50%RH以上で著しく吸湿する特性を持っている。これによって、結露及びカビやダニの発生が防止できる快適な住環境を創出することができる。B.稚内層珪藻土はシリカの多孔質構造という特徴から、上記の調湿機能のみならず吸着能、触媒能など様々な機能が予想される。さらに、化学的、熱的に安定な鉱物という特徴から、その用途が広く、機能性原料として、多方面から研究の対象とされると考えられている。」(第3頁第3欄17行〜同頁第4欄2行、【0009】段落)
(2)甲第2号証には、「珪藻土建材の開発とその応用」との表題の下、以下の事項が記載されている。
2-ア.「道北地域には、新第三系の稚内層、声問層と呼ばれる海成の地層があり、広範囲に大量の珪藻土系資源が形成されている。稚内層は比較的硬く、細かく割れやすい泥岩であり、古くから“硬質頁岩”または“珪質頁岩”と呼ばれてきた。(第58頁左欄下から3行〜同頁中欄4行)」
2-イ.「稚内層の加熱変化をX線回折パターンで見ると、900℃までは原鉱とほとんど変わらない。1000℃から変化し、・・・新たな鉱物が生成する。このことは、原鉱のクリストバライトの結晶度は悪いが、900℃までは安定していることを示している。」(第59頁右欄下から4行〜第60頁左欄6行)
2-ウ.「稚内層は細孔半径20〜30Åにピークをもつ正規分布を示し、・・・(図4)。・・・。800℃で焼成した稚内層の細孔分布は、原鉱と比較して半径20Å以下の細孔容量が減少するが、それより大きい細孔容量は増加し、・・・(図6)。半径20Å以下の細孔容量が増加する要因として、含有する有機物の燃焼と粘土鉱物の分解が考えられるが、細孔分布の差異は小さく、800℃ぐらいの焼成による影響はほとんどないことを示している。」(第60頁左欄8行〜同頁中欄下から3行)として、第59頁には稚内層の細孔分布図である「図4」が、第60頁には稚内層800℃焼成物の細孔分布図である「図6」が記載されている。
2-エ.「20℃におけるH2O吸着等温線を見ると、稚内層は蒸気圧0.5(相対湿度50%)ぐらいから吸着量は指数関数的に大きくなる。・・・(図7)。」(第60頁中欄下から1行〜同頁右欄7行)として、第60頁には「図7」が記載されている。
2-オ.「湿気を吸ったり吐いたりする現象とその大きさを知るために、恒温恒湿槽を用いて槽内の温度を一定にし、24時間毎に繰り返し湿度を変化させ、各試料の吸湿率の変化を測定した(図8)。いずれも湿度変化とともに吸湿・放湿を繰り返すが、稚内層は声問層よりもその変化の度合いが非常に大きい。変化の度合(吸湿率の差)を吸放湿機能とすると、稚内層は声問層のほぼ4倍である。」(第61頁左欄2〜13行)として、第60頁に「図8」が記載されている。
2-カ.「稚内層を利用した珪藻土セラミックスを開発し、セラミックブロックとその工法に応用した。本住宅に使用した材料とその構成は、図9に示した。・・・。外と隣接する室内側の全壁面には図9のように珪藻土タイルを施工し、セラミックブロックは呼吸性をもたせるために素焼品とし、その空洞部に粒状の珪藻土セラミックスを詰めた。」(第61頁右欄11〜24行)として、第61頁に「図9」が記載されている。
2-キ.「粒状物の吸放湿機能と吸水機能によって漏水や結露が防止できることを期待した。また、この珪藻土タイルをトイレの壁面全体とユニットバスの一壁面に施工し、脱臭性及び風呂場の防カビ、防露、保温性などを期待した。」(第62頁左欄1〜7行)
2-ク.「図15、16から、居間および壁内の温湿度は外気に比べ極めて変動が少ない。これらのことは珪藻土セラミックスの吸放湿機能を裏付けるものとなっている。なお、生活しながらの観察と体感によって得られたことを何点か以下に示した。・・・(5)トイレに臭気がこもることがない。」(第63頁中欄8〜27行)として、第63頁に図15及び図16が記載されている。
2-ケ.第59頁の表2には、稚内層の比表面積について「大きい」との記載がある。
(3)甲第3号証には、「調湿機能を持つセラミック建材 -自然呼吸性新壁装材「豊ヘルス」について-」との表題の下、以下の事項が記載されている。
3-ア.「2.稚内層珪藻頁岩(豊ヘルス原料)の特性
調湿機能を発現するために重要な細孔半径は24〜62Åであることが近年の研究により明らかにされている(名古屋工業技術研究所発表)。図1を見るとわかるように稚内層珪藻頁岩は細孔半径20〜80Åの細孔容量が全細孔容量の70%以上を占め、その細孔容量も大きい事から調湿材料として適していることがわかる。・・・比表面積は100m2/g以上と大きく、・・・。」(第60頁中欄13行〜同頁右欄13行)として、第60頁に「図1」が記載されている。
3-イ.「図2に稚内層珪藻頁岩と一般的な珪藻土の20℃における水分吸着等温線を示す。」(第61頁左欄9〜11行)として、第61頁に「図2」が記載されている。
3-ウ.「図3に稚内層珪藻頁岩の25℃における吸放湿率(調湿機能)を示す。24時間毎に相対湿度90%と50%の間を繰り返し変化させた各試料の吸湿率であるが、相対湿度90%の吸湿率と相対湿度50%の吸湿率の差を調湿機能とすると、稚内層珪藻頁岩・・・卓越した調湿機能を持つ。」(第61頁左欄20〜28行)として、第61頁に「図3」が記載されている。
3-エ.「図5に稚内層珪藻頁岩の焼成物(豊ヘルス焼成と同温度)の細孔分布を示す。図1と比較して、細孔分布の変化は小さく、焼成によっても調湿機能に寄与する細孔(20〜80Å)が維持されていることがわかる。」(第62頁左欄2行〜同頁中欄3行)として、第62頁に「図5」が記載されている。
3-オ.「図6に豊ヘルス(TP/100-15)の25℃における吸湿量・・・を示す。24時間毎に相対湿度を90%と50%の間を繰り返し変化させた各試料の吸湿量であるが、相対湿度90%の吸湿量と相対湿度50%の吸湿量の差を調湿機能とすると、・・・豊ヘルスの調湿機能は木材の5倍以上であり卓越している。」(第62頁中欄最終行〜同頁右欄11行)として、第62頁に「図6」が記載されている。
3-カ.「稚内層珪藻頁岩を利用してできた豊ヘルスは、多孔質であり、調湿機能が大変優れていることから、室内を適度な湿度範囲に調整し、・・・耐火性・不燃性・耐腐食性でもある。そのほかの特性として、タバコやトイレの臭いなどの生活臭の吸臭効果も期待できる。」(第63頁右欄5〜14行)
3-キ.第63頁の表1には「豊ヘルス」の物性値が記載されており、TP/100-15のものの最大吸水量が7500g/m2であり嵩比重が1.12であることが窺える。また、表1の欄外には「最大吸水量:24時間の量」との記載がある。
(4)甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
4-ア.「珪藻土は全国各地で産出されますが、パナホームではそれぞれの特性を徹底的に調査。その結果、北海道の天北地方で産出される「稚内層珪藻頁岩(稚内珪藻土)を選びました。比表面積や細孔容積が格段に大きく、吸放湿性能は一般的な珪藻土の3倍以上、杉材に比べると約5倍にも達します。」(第2頁「パナホームは調湿性能にこだわって『稚内層珪藻頁岩』(稚内珪藻土)を選びました。」の項)
4-イ.「人が快適に過ごせる相対湿度の範囲は40%〜70%。稚内珪藻土タイル・調湿石膏ボードは室内の湿度が高くなると吸湿し、低くなると放湿して、湿度を機械に頼らず自然に行います。」(第2頁「(1)湿度を保ち、快適環境を作ります。」の項)
4-ウ.「稚内珪藻土は自然素材で有害な化学物質を含みません。また微細な孔は、ホルムアルデヒドなどのVOCを吸着し、さらに空気中のいやな臭いも和らげる効果があります。」(第2頁「(4)いやな臭いや、VOCを吸着します」の項)
4-エ.「湯上がりの湿気や、梅雨時のじめじめなど、特にカビや臭いの発生が気になるサニタリー空間。珪藻土が余分な湿気を抑えます。」(第6頁「洗面」の項)
4-オ.「一般的な生活環境のもとで、細孔に取り込まれた臭いや化学物質の分子が放出されることはほとんどありません。また細孔容積は非常に大きく、長年に渡り吸着します。化学物質等を吸着すると、発散しにくい特性があります。」(裏表紙「Q2.吸着した臭いや化学物質が、湿気を放出すると同時に吐き出されませんか?」の項)
(5)甲第5号証には、「珪藻頁岩タイル…豊ヘルス」との表題の下、以下の事項が記載されている。
5-ア.「高い吸放湿性能から注目を集めている素材「稚内珪藻頁岩」を使った建材の製造・販売を手がける鈴木産業(株)。なかでも珪藻頁岩100%のセラミックタイル「豊ヘルス」は、大手木造ハウスメーカーの洗面・脱衣などの水廻りに採用されるなど受注が急激に伸びているという。」(第4面上欄1行〜中欄1行)
5-イ.「ホルムアルデヒドやアンモニアなどの吸着性能も期待できるという(データ値あり)。」(第4面中欄16行〜下欄1行)
(6)甲第6号証は、平成11年3月卒業 反応プロセス工学研究室 小野寺香織の卒業論文「珪藻土系天然鉱物の脱臭機能の評価」の一部であって、下記の記載がある。
6-ア.「2-1 使用したサンプル(吸着媒)の物性及び化学組成」には、「珪藻土系天然鉱物(S.C.) 稚内豊富産の珪藻頁岩。優れた調湿機能を持つ呼吸性建材として商品化されている。」との記載がある。
6-イ.「2-1 使用したサンプル(吸着媒)の物性及び化学組成」のTable.2-1-1には、S.C.の比表面積が100m2/gであることが記載されている。
6-ウ.「Table.3-1-5-1」には、珪藻土系天然鉱物(S.C.)の25℃、40℃、50℃におけるNH3の飽和吸着量が、市販活性炭(A.C.)、市販ペット臭除去剤(B.N.)の夫々の温度におけるNH3の飽和吸着量との比較のもとに記載されている。
6-エ.「結論」には、「呼吸性建材(S.C.)として市場に流通している豊富産珪藻土が持つ調湿機能に加え、脱臭機能を合わせ持つ多機能性建材の開発を目的として、NH3・・・の吸・脱着特性を調べた。本研究より結論として以下のことが云える。」として、「(2)閉鎖系での吸着実験において、いずれの悪臭ガスにおいてもS.C.と市販ペット臭除去剤(B.N.)は、ほぼ同じ挙動を示した。そのため、S.C.は、B.N.とほぼ同等の脱臭能力を持つことが分かった」こと、「(3)S.C.建材施工時の脱臭能力の予測を行ったところ、今回使用した悪臭ガスについては、臭気強度3の濃度の悪臭を除去することが十分あり、S.C.建材は、実生活でも、脱臭機能を発揮出来ることが示された」ことが記載されている。
(7)甲第7号証は、論文題目「珪藻土系天然鉱物の脱臭機能の評価」の論文が、平成11年2月25日に化学システム工学科卒業論文発表会で発表されたものであることを、北見工業大学工学部化学システム工学科 卒業論文指導教官 教授 小林正義、及び、北見工業大学 学長 常本秀幸が証明する証明書である。
(8)甲第8号証は、講演要旨集であり、表紙及び目次から、日本分析学会北海道支部、日本化学会北海道支部、日本エネルギー学会北海道支部及び触媒学会北海道地区の共催で行われた北海道支部1999年冬季研究発表会において、1999年2月3日に北海道大学学術交流会館において「珪藻土系天然鉱物の脱臭機能の評価」との表題の下、北見工大・鈴木産業の小野寺香織、鈴木徳雄らが口頭発表をしたことが窺える。そして、甲第8号証には、下記の記載がある。
8-ア.「シリカ(SiO2)を主成分とする珪藻土系天然鉱物(以後、S.C.と記す)は、吸湿-放湿サイクルがより容易に起こる調湿機能に優れており、呼吸性建材として商品化されている。そこで本研究では、調湿機能及び脱臭機能を合わせ持つ多機能建材の開発を目的として、S.C.の悪臭成分の吸脱着特性を調べた。」(「1.はじめに」の項)
8-イ.「悪臭成分の吸脱着挙動は、(1)流通系及び(2)閉鎖系で追跡した。・・・。(2)100mlのガラス容器内に一定量の悪臭成分を導入し、導入停止後即座に1gのサンプルを閉鎖容器内に充填した。このときの容器内の悪臭成分分圧の経時変化を追跡した。また、比較対象物質として市販の活性炭(A.C.)及びベントナイトを主成分とするペット臭除去剤(B.N.)を使用した。」(「2.実験」の項)
8-ウ.「アンモニア水(25%-NH3)を用いて行ったときの(1)の方法により求めたアンモニア飽和吸着量は、・・・であり、・・・B.N.>S.C.という序列になった。・・・。図は(2)の方法により100ppmのアンモニア導入後に得られた気相におけるアンモニア濃度の減少曲線であり、縦軸の値が小さくなるほどサンプルへのアンモニア吸着が進行したことを示す。40分までは、A.C.の吸着が他の2つ(S.C.、B.N.)と比べて早く進行したが、その差は時間経過とともに小さくなり、90分後ではほとんどなくなった。またS.C.とB.N.の挙動に大きな差はなく、本天然鉱物は市販のペット臭除去剤と同等のアンモニア脱臭能を持つことが示された。」(「3.結果及び考察」の項)として、その項に図が記載されている。

3-3-2.対比、判断
(I)本件発明1について
(I-1)甲第1号証に記載された発明との対比、判断
上記3-3-1で摘記した甲第1号証の記載事項のうち、記載事項1-イには「稚内層珪藻土の粉砕物を単独で使用する稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料」が記載されていると云える。また、記載事項1-エには、稚内層珪藻土粉砕物は、比表面積が128.9m2 /gであり、図1に示される半径20〜100Åの細孔が全体の70%以上を占める細孔分布を有し、熱的に極めて安定であり、極めて多孔質であり、調湿機能を有することが記載されていると云える。さらに、記載事項1-エには、図3にこの粉体、即ち、稚内層珪藻土粉砕物の粉体の20℃における水蒸気吸湿等温線が示されている旨記載されている。そして図3に示された水蒸気吸湿等温線である蒸気圧(P/P0)に対する吸湿率(wt%)の曲線を検討すると、吸湿率の最大値は25wt%程度であることが読みとれることからみて、稚内層珪藻土粉砕物は25wt%程度の最大吸湿率を有していると云える。そして、上記の比表面積、細孔分布、熱的に極めて安定であること、及び、最大吸湿率は上記稚内層珪藻土粉砕物の理化学的性質と云えるから、甲第1号証の記載事項を本件の請求項1の記載ぶりに沿って整理すると、甲第1号証には下記の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると云える。
「調湿機能を有する調湿機能材料であって、稚内層珪藻土の粉砕物から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)半径20〜100Åの細孔が全体の70%以上を占める細孔分布、
(2)128.9m2 /gの比表面積、
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)熱的に極めて安定であること、を有する多孔質材料からなる調湿機能材料。」
本件発明1と甲1発明1を対比すると、後者における「稚内層珪藻土」は珪質頁岩と呼ばれるものであり、後者における「熱的に極めて安定であること」は耐熱性を有することを意味し、後者における「細孔分布」は前者における「細孔径分布」に相当することは明らかである。そして、後者における「調湿機能材料」は、調湿用調湿材料と云えるものであるから、両者は、
「調湿機能を有する調湿用調湿材料であって、珪質頁岩の粉砕物から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)耐熱性、を有する多孔質材料からなる調湿用調湿材料。」
で一致し、下記の点で相違する。
(I-1-i)前者は、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるのに対し、後者は、調湿機能を有する調湿用調湿材料ではあるものの、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるとの特定がない点。
(I-1-ii)前者は、細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布を有するものであるのに対し、後者は、半径20〜100Åの細孔が全体の70%以上を占める細孔径分布を有するものである点。
(I-1-iii)前者は、BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積を有するものであるのに対し、後者の比表面積は128.9m2 /gではあるものの、かかる比表面積がBET比表面積であるとの特定がない点。
(I-1-iv)前者は、900℃までの耐熱性を示すものであるのに対し、後者は、耐熱性を示すもののその程度が特定されていない点。
そこでまず、相違点(I-1-ii)について検討する。
本件発明1における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」について、本件明細書には格別な記載さらには定義がないが、【図1】に細孔径分布曲線が示されていることからみて、本件発明1における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」は、本件の【図1】に示される如く、細孔半径が2.6nmから6nmに細孔容積の明確なピークを示す細孔径分布、即ち、種々の細孔半径の孔が存在する天然物由来の多孔質材料において、細孔容積からみて細孔半径が2.6nmから6nmの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。これに対して、甲1発明1における「半径20〜100Åの細孔が全体の70%以上を占める細孔径分布」は、記載事項1-エからみて、甲第1号証の図1に示されるものである。そして、甲第1号証の図1を検討すると、10nm単位の棒グラフで示されていること、各細孔半径に対する細孔容量の値が本件の【図1】と大きく異なることから、直ちに対比はできないものの、細孔半径20nmから30nmに頂点を有する細孔容積のピークがみられる。しかし、そのピークは本件の【図1】のピークに比べ低くなだらかなものであり、特にピークの頂点から140nmの細孔容量までの細孔容量の低減は直線的とも云えるものであるから、本件の【図1】の如く所定の位置に明確なピークを形成しているとまでは云えない。よって、甲1発明1における細孔径分布と本件発明1における細孔径分布とが同じであるとまでは云えない。
次に、相違点(I-1-iii)について検討する。
多孔質材料の比表面積の測定においてBET法は最も一般的な測定方法であるから、甲1発明1における「比表面積」もBET比表面積である蓋然性は高いが、他の測定方法が存在しないということでもないので、甲1発明1における比表面積がBET比表面積であるとは、直ちに云えない。
さらに、相違点(I-1-iv)について検討する。
甲1発明1における「耐熱性」について検討すると、記載事項1-エからみて、かかる「耐熱性」は800℃で焼成した粉体の細孔径分布が加熱によって殆ど変化がないことに基づくものであるから、800℃までの耐熱性を有することは確認できるが、900℃までの耐熱性を有するとまでは云えない。
最後に、相違点(I-1-i)について検討する。
甲第1号証には、記載事項1-キに「吸湿機能のみならず吸着能、触媒能など様々な機能が予想される。」との記載があるだけであり、甲第1号証を検討しても、甲1発明1の材料が吸湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有すること、及び、甲1発明1の材料を調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料とすることは記載されておらず、かかる事項を導き出すに足る記載も見いだせない。
上記の如く、本件発明1と甲1発明1とは、相違点(I-1-ii)乃至(I-1-iv)について検討したとおり、理化学的性質が実質的に同じであるとまで云えるものではなく、さらに、相違点(I-1-i)で相違するものであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であると云うことはできない。
(I-2)甲第2号証に記載された発明との対比、判断
甲第2号証には、記載事項2-ア〜オ及びケからみて、珪質頁岩と呼ばれる稚内層について記載されており、記載事項2-イには、加熱変化をX線パターンから見ると稚内層は900℃までは安定していること、即ち900℃までの熱安定性を有することが、記載事項2-ウには、稚内層は細孔半径20〜30Åにピークをもつ正規分布を示す細孔分布を有することが、記載事項2-エには、稚内層の20℃におけるH2O吸着等温線が図7に記載されてことが記載されており、この図7を検討すると稚内層の最大吸湿率は25wt%程度であることが読み取れる。また、記載事項2-オには、稚内層は吸放湿機能を有することが、記載事項2-ケには、稚内層の比表面積が大きいことが記載されており、稚内層が吸放湿機能を有する以上、稚内層は吸放湿材料と云えるものである。そして、上記の熱安定性、細孔分布、最大吸湿率、及び、比表面積は上記稚内層の理化学的性質と云え、上記の細孔分布を有することからみて稚内層は多孔質材料であると云えるから、甲第2号証の記載事項を本件の請求項1の記載ぶりに沿って整理すると、甲第2号証には下記の発明(以下、「甲2発明1」という。)が記載されていると云える。
「吸放湿機能を有する吸放湿材料であって、稚内層から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)細孔半径20〜30Åにピークをもつ正規分布を示す細孔分布、
(2)大きい比表面積、
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)900℃までの熱安定性、を有する多孔質材料からなる吸放湿材料。」
本件発明1と甲2発明1とを対比すると、後者における「吸放湿」、「細孔分布」、「熱安定性」は、夫々、前者における「調湿」、「細孔径分布」、「耐熱性」に相当すると云え、後者における「稚内層」は珪質頁岩と呼ばれるものであることは記載事項2-アに記載されているところであり、また、上記稚内層の理化学的性質は、記載事項2-アに記載されているように稚内層が「細かく割れやすい」ものであることからみて、稚内層の粉砕物の理化学的性質であると云える。さらに、後者における「吸放湿材料」は吸放湿用と云えるものであるから、両者は、
「調湿機能を有する調湿用調湿材料であって、珪質頁岩の粉砕物から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなる調湿用調湿材料」
で一致し、下記の点で相違する。
(I-2-i)前者は、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるのに対し、後者は、調湿機能を有する調湿用調湿材料ではあるものの、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるとの特定がない点。
(I-2-ii)前者は、細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布を有するものであるのに対し、後者は、細孔半径20〜30Åにピークをもつ正規分布を示す細孔径分布を有するものである点。
(I-2-iii)前者は、BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積を示すものであるのに対し、後者は、大きい比表面積を示すものではあるがその程度が特定されていない点。
そこでまず、相違点(I-2-ii)について検討する。
相違点(I-1-ii)についての検討で述べたとおり、本件発明1における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」は、本件の【図1】に示される如く、細孔半径が2.6nmから6nmに細孔容積の明確なピークを示す細孔径分布、即ち、種々の細孔半径の孔が存在する天然物由来の多孔質材料において、細孔容積からみて細孔半径が2.6nmから6nmの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。これに対して、甲2発明1における「細孔半径20〜30Åにピークをもつ正規分布を示す細孔径分布」は、記載事項2-ウからみて、甲第2号証の図4に示されるものである。そして、甲第2号証の図4を検討すると、棒グラフで示されていること、各細孔半径に対する細孔容量の値が本件の【図1】と異なることから、直ちに対比はできないものの、細孔半径20Å付近に対応するピークの頂点に至るまでの細孔半径に対応する細孔容量の増加が急激であること、ピークの頂点から60Å程度までの細孔半径に対応する細孔容量の減少の程度が60Åより大きい細孔半径に対応する細孔容量の減少の程度より大きいことからみて、本件の【図1】のピークと共通する特徴を有するピークが読み取れる。してみると、甲第2号証の図4からみて、甲2発明1における細孔径分布も、細孔容積からみて細孔半径が20〜60Åの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。そして、本件発明1における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」における「細孔半径2.6nmから6nm」との数値範囲について検討すると、本件訂正明細書にはその技術的意義が記載されておらず、訂正明細書【0015】段落に「図1に示すように、細孔径分布曲線から細孔半径2nmから6nmに幅広い領域が観察され」との記載があることからみて、「細孔半径2.6nmから6nm」との数値範囲に臨界的意義があるものとは云えない。してみれば、甲2発明1における細孔径分布と本件発明1における細孔径分布との間に実質的な相違があるとまでは云えない。
次に、相違点(I-2-iii)について検討する。
甲2発明1における「比表面積」についの記載は、記載事項2-ケのみであり、甲第2号証を如何に検討しても、甲2発明1における比表面積がBET比表面積で100m2 /g以上であることは確認できない。
最後に、相違点(I-2-i)について検討する。
甲第2号証には、(II-2)で述べるとおり、記載事項2-カ〜クに、稚内層を利用した珪藻土セラミックスが吸放湿機能を有し塩基性ガスを消臭する機能を有する旨の記載がある。しかし、甲第2号証を検討しても、稚内層自体が塩基性ガスを消臭する機能を有する旨の記載はなく、また、稚内層を利用した珪藻土セラミックスについての上記記載が、直ちに稚内層自体にも云えるものであるという根拠も見いだせない。してみると、甲第2号証を検討しても、甲2発明1の材料が吸湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有すること、及び、甲2発明1の材料を調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料とすることは記載されておらず、かかる事項を導き出すに足る記載も見いだせない。
上記の如く、本件発明1と甲2発明1とは、相違点(I-2-iii)で理化学的性質が同じであるとまで云うことはできず、さらに、相違点(I-2-i)で相違するから、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明であるとい云うことはできない。
(I-3)甲第3号証に記載された発明との対比、判断
甲第3号証には、記載事項3-ア〜エからみて、稚内層珪藻頁岩について記載されており、記載事項3-アには、稚内層珪藻頁岩は細孔半径20〜80Åの細孔容量が全細孔容量の70%以上を占める細孔分布を有し、比表面積は100m2/g以上であることが、記載事項3-イには、稚内層珪藻頁岩の20℃における水分吸着等温線が図2に記載されてことが記載されており、この図2を検討すると稚内層珪藻頁岩の最大吸湿率は25wt%程度であることが読み取れる。また、記載事項3-ウには、稚内層珪藻頁岩は調湿機能を有することが、記載事項3-エには、稚内層珪藻頁岩は焼成によっても細孔分布の変化が小さいこと、即ち耐熱性を有することが記載されている。そして、稚内層珪藻頁岩が調湿機能を有する以上、稚内層珪藻頁岩は調湿材料と云えるものであり、上記の細孔分布、比表面積、最大吸湿率、及び、耐熱性は上記稚内層珪藻頁岩の理化学的性質と云え、上記の細孔分布を有することからみて稚内層珪藻頁岩は多孔質材料であると云えるから、甲第3号証の記載事項を本件の請求項1の記載ぶりに沿って整理すると、甲第3号証には下記の発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されていると云える。
「調湿機能を有する調湿材料であって、稚内層珪藻頁岩から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)細孔半径20〜80Åの孔容量が全細孔容量の70%以上を占める細孔分布、
(2)100m2/g以上の比表面積、
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)熱安定性、を有する多孔質材料からなる調湿材料。」
本件発明1と甲3発明1とを対比すると、後者における「細孔分布」、「熱安定性」は、夫々、前者における「細孔径分布」、「耐熱性」に相当すると云える。また、後者における「稚内層珪藻頁岩」は珪質頁岩と呼ばれ、細かく割れやすいものであり、上記稚内層珪質頁岩の理化学的性質は、稚内層珪藻頁岩の粉砕物の理化学的性質であると云える。そして、後者における「調湿材料」は調湿用であるから、両者は、
「調湿機能を有する調湿用調湿材料であって、珪質頁岩の粉砕物から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)耐熱性、を有する多孔質材料からなる調湿用調湿材料」
で一致し、下記の点で相違する。
(I-3-i)前者は、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるのに対し、後者は、調湿機能を有する調湿用調湿材料ではあるものの、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるとの特定がない点。
(I-3-ii)前者は、細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布を有するものであるのに対し、後者は、細孔半径20〜80Åの孔容量が全細孔容量の70%以上を占める細孔径分布を有するものである点。
(I-3-iii)前者は、BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積を示すものであるのに対し、後者は、100m2/g以上の比表面積を有するものではあるが、比表面積がBET比表面積であるとの特定がない点。
(I-3-iv)前者は、900℃までの耐熱性を示すものであるのに対し、後者は、耐熱性を示すもののその程度が特定されていない点。
そこでまず、相違点(I-3-ii)について検討する。
相違点(I-1-ii)についての検討で述べたとおり、本件発明1における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」は、本件の【図1】に示される如く、細孔半径が2.6nmから6nmに細孔容積の明確なピークを示す細孔径分布、即ち、種々の細孔半径の孔が存在する天然物由来の多孔質材料において、細孔容積からみて細孔半径が2.6nmから6nmの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。これに対して、甲3発明1における「細孔半径20〜80Åの孔容量が全細孔容量の70%以上を占める細孔径分布」は、記載事項3-アからみて、甲第3号証の図1に示されるものである。そして、甲第3号証の図1を検討すると、各細孔半径に対する細孔容量の単位が明確でないことから、直ちに対比はできないものの、細孔半径30Åに対応する位置にピークの頂点があること、ピークの頂点に至るまでの細孔半径に対応する細孔容量の増加が急激であること、ピークの頂点から50Å程度までの細孔半径に対応する細孔容量の減少の程度が少なく、50Åから60Åまでの細孔半径に対応する細孔容量の減少の程度が60Åより大きい細孔半径に対応する細孔容量の減少の程度より大きいことからみて、本件の【図1】のピークと共通する特徴を有する明確なピークが読み取れる。してみると、甲第3号証の図1からみて、甲3発明1における細孔径分布も、細孔容積からみて細孔半径が20〜60Åの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。そして、本件発明1における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」における「細孔半径2.6nmから6nm」との数値範囲については、相違点(I-2-ii)の検討において述べたように、その数値範囲に臨界的意義があるものとは云えないから、甲3発明1における細孔径分布と本件発明1における細孔径分布との間に実質的な相違があるとまでは云えない。
次に、相違点(I-3-iii)について検討する。
多孔質材料の比表面積の測定においてBET法は最も一般的な測定方法であるから、甲3発明1における「比表面積」もBET比表面積である蓋然性は高いが、他の測定方法が存在しないということでもないので、甲3発明1における比表面積がBET比表面積であるとは、直ちに云えない。
さらに、相違点(I-3-iv)について検討する。
甲3発明1における「耐熱性」について検討すると、記載事項3-エからみて、かかる「耐熱性」は稚内層珪藻頁岩の豊ヘルス焼成と同温度での焼成物の細孔分布が焼成前のものの細孔分布と比較して変化が小さいことに基づくものであるが、甲第3号証を検討しても豊ヘルスの焼成温度が記載されていない以上、稚内層珪藻頁岩が900℃までの耐熱性を有することまでは云えない。
最後に、相違点(I-3-i)について検討する。
甲第3号証には、記載事項3-カに、稚内層珪藻頁岩を利用してできた豊ヘルスについて、調湿機能のほかの特性として、「タバコやトイレの臭いなどの生活臭の吸臭効果も期待できる」との記載がある。しかし、甲第3号証を検討しても、稚内層珪藻頁岩を利用してできた豊ヘルスがトイレの臭いの脱臭効果を有すること、さらには調湿機能とかかる脱臭機能を同時に有することを確認できる記載はなく、ましてや稚内層珪藻頁岩自体がかかる脱臭効果を有すること、さらには調湿機能とかかる脱臭機能を同時に有することを信ずるに足る記載もない。
してみると、甲第3号証には、甲3発明1の材料が吸湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有すること、及び、甲3発明1の材料を調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料とすることは記載されておらず、かかる事項を導き出すに足る記載も見いだせない。
上記の如く、本件発明1と甲3発明1とは、相違点(I-3-ii)〜(I-3-iv)について検討したとおり、理化学的性質が実質的に同じであるとまで云えるものではなく、さらに、相違点(I-3-i)で相違するものであるから、本件発明1は、甲第3号証に記載された発明であると云うことはできない。
(I-4)甲第4号証に記載された発明との対比、判断
甲第4号証には、記載事項4-ア〜オからみて、稚内層珪藻頁岩は、比表面積や細孔容積が大きく、調湿性能を有し、空気中のいやな臭いを和らげることが記載されていると云える。
甲第4号証に記載された「稚内層珪藻頁岩」は珪質頁岩といわれ、細かく割れやすいものであるから、甲第4号証には、珪質頁岩の粉砕物から構成されてなる調湿用調湿材料が記載されているとは云えるが、該調湿材料を構成する珪質頁岩の粉砕物の細孔径分布、比表面積、最大吸湿率、耐熱性について、何等具体的記載はない。また、甲第4号証の記載事項4-ウ〜オに記載された「いやな臭い」が塩基性ガスであると確信するに足る記載もない。
本件発明1は、珪質頁岩の粉砕物の理化学的性質を本件の請求項1に記載の如く特定した吸湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるから、少なくともかかる珪質頁岩の粉砕物の理化学的性質について何等の記載もない甲第4号証に記載された発明であると云うことはできない。
(I-5)甲第5号証に記載された発明との対比、判断
甲第5号証には、記載事項5-ア及びイからみて、珪藻頁岩タイルである豊ヘルスについて記載されていると云える。そして、「豊ヘルス」はタイルである以上、成形体を焼成した焼成体であると解されるから、珪藻頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の成形体ではない。
甲第5号証に記載の「珪藻頁岩」は珪質頁岩と呼ばれるものではあるが、上記のとおり、甲第5号証には珪藻頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の成形体について何等の記載もないから、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明であると云うことはできない。
(I-6)甲第1号証乃至甲第8号証に基く容易性について
訂正明細書、特に【0005】段落の「従来技術では、調湿と消臭を同時に達成できる材料の開発は行われておらず、その性能も十分なものではなかった。」との記載、及び、【0006】段落の「本発明は、自律的に生活空間中の水分を吸脱着し、生活環境中の湿度を省エネルギー的に最適状態に制御するのと同時に消臭機能を有する多孔質材料を提供することを目的とするものである。」との記載からみて、本件発明1は、固体酸性を有する表面構造を有する珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の成形体を用い、しかも該粉砕物あるいは成形体の理化学的性質を特定したことにより、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能が同時に発現することを見いだしたことに基づく、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料の発明であると云え、本件発明1における「調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する」ことは、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能が同時に発現することを意味するものと云える。
これに対して、(I-1)〜(I-5)で述べたとおり、甲1号証乃至甲第5号証には、珪質頁岩の粉砕物が、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であることが記載されているとまでは云えず、また、本件発明1における珪質頁岩の粉砕物の理化学的性質と同じ理化学的性質を有する珪質頁岩の粉砕物が記載されているとまでも云えない。
よって、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明を如何に組み合わせても、本件発明1を当業者が容易に発明することができたとは云えない。
さらに、甲第6号証乃至甲第8号証について検討する。
甲第6号証は、甲第7号証により平成11年2月25日に化学システム工業科卒業論文発表会で発表されたとされる卒業論文の一部である。しかし、かかる化学システム工業科卒業論文発表会が実質的に不特定の人が参加できるものであったのか不明であること、また、この卒業論文は目次に示されるごとく甲第6号証として提出されたもの以外の事項を含むものであるが、かかる化学システム工業科卒業論文発表会において卒業論文が発表されたといっても、卒業論文の全部が発表されたのか、その一部のみが発表されたのか不明であり、甲第6号証として提出された部分が発表されたのか否か不明であることからみて、甲第6号証に記載された事項が本件の出願前公然知られた事項であるとは、直ちに云えない。しかも、甲第6号証に記載された事項を検討しても、サンプルとして使用された「珪藻土系天然鉱物(S.C.)」については、記載事項6-アに稚内豊富産の珪藻頁岩であること、記載事項6-イに比表面積が100m2/gであることが記載されているだけで、他の理化学的性質についての記載はなく、また記載事項6-エに「豊富産珪藻土が持つ調湿機能に加え、脱臭機能を合わせ持つ多機能建材の開発を目的として、NH3・・・の吸・脱着特性を調べた」との記載はあるが、甲第6号証にはTable.3-1-5-1にNH3等の吸着特性が記載されているにすぎず、甲第6号証に稚内豊富産の珪藻頁岩が調湿機能と脱臭機能を同時に有することが記載されているとまでは云えない。
また、甲第8号証には、記載事項8-ア〜ウからみて、調湿機能に優れた珪藻土系天然鉱物が脱臭機能を有することが記載されていると云える。そして、甲第8号証の発表者が甲第6号証の卒業論文の著者と同名であること、及び、甲第8号証の発表日が甲第6号証が発表されたとされる日と近接していることからみて、甲第8号証における珪藻土系天然鉱物が甲第6号証の記載事項6-アに記載の稚内豊富産の珪藻頁岩と同じものである可能性があるとは云えるものの、甲第8号証には、同証における珪藻土系天然鉱物が稚内豊富産の珪藻頁岩であるとの明確な記載はなく、またその理化学的性質についても記載がない。さらに、甲第8号証には、記載事項8-アに「本研究では、調湿機能及び脱臭機能を合わせ持つ多機能建材の開発を目的として、S.C.の悪臭成分の吸脱着特性を調べた。」との記載があるものの、同証に具体的に記載された事項はS.C.の悪臭成分の吸脱着特性であり、甲第8号証に、この珪藻土系天然鉱物が調湿機能と脱臭機能を同時に有することが記載されているとまでは云えない。
してみると、甲第6号証乃至甲第8号証からは、珪質頁岩が調湿機能と脱臭機能を同時に有することが、本件の出願前に公然知られていたとまで云うことはできない。
よって、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に加え甲第6号証乃至甲第8号証を検討しても、これらの証拠から、本件発明1を当業者が容易に発明することができたとは云えない。

(II)本件発明2について
(II-1)甲第1号証に記載された発明との対比、判断
上記3-3-1で摘記した甲第1号証の記載事項のうち、記載事項1-アには「稚内層珪藻土の粉砕物を単独で使用し焼成した稚内層珪藻土を利用した調湿機能材料」が記載されていると云える。また、記載事項1-エには、稚内層珪藻土の粉砕物を800℃で焼成した粉体は、比表面積が133.7m2 /gであり、図2に示される細孔分布を有し、熱的に極めて安定であり、極めて多孔質であり、調湿機能を有することが記載されていると云える。そして、上記の比表面積、細孔径分布、及び、熱的に極めて安定であることは、稚内層珪藻土の粉砕物を焼成した粉体の理化学的性質と云えるから、かかる甲第1号証の記載事項を本件の請求項2の記載ぶりに沿って整理すると、甲第1号証には下記の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると云える。
「調湿機能を有する調湿機能材料であって、稚内層珪藻土の粉砕物を800℃で焼成してなる粉体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)甲第1号証の図2に示される細孔径分布、
(2)133.7m2 /gの比表面積、
(4)熱的に極めて安定であること、を有する多孔質材料からなる調湿機能材料。」
本件発明2と甲1発明2を対比すると、後者における「稚内層珪藻土」は珪質頁岩と呼ばれるものであり、後者における「熱的に極めて安定であること」は耐熱性を有することを意味し、後者における「細孔分布」、「粉体」は、夫々、前者における「細孔径分布」、「焼成体」に相当することは明らかである。また、両者の焼成温度は800℃で一致する。そして、前者における「調湿機能材料」は調湿用調湿材料とも云えるものであるから、両者は、
「調湿機能を有する調湿用調湿材料であって、珪藻頁岩の粉砕物を800℃で焼成してなる焼成体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(4)耐熱性、を有する多孔質材料からなる調湿用調湿材料。」
で一致し、下記の点で相違する。
(II-1-i)前者は、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるのに対し、後者は、調湿機能を有する調湿用調湿材料ではあるものの、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるとの特定がない点。
(II-1-ii)前者は、細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布を有するものであるのに対し、後者は、甲第1号証の図2に示される細孔径分布を有するものである点。
(II-1-iii)前者は、BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積を有するものであるのに対し、後者の比表面積は133.7m2 /gではあるものの、かかる比表面積がBET比表面積であるとの特定がない点。
(II-1-iv)前者は、25wt%程度の最大吸湿率を有するものであるのに対し、後者は、最大吸湿率が特定されていない点。
(II-1-v)前者は、900℃までの耐熱性を示すものであるのに対し、後者は、耐熱性を示すもののその程度が特定されていない点。
そこでまず、相違点(II-1-ii)について検討する。
本件発明2における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」について、本件訂正明細書には格別な記載さらには定義がないが、【図1】に細孔径分布曲線が示されていること、及び、訂正明細書【0016】段落の「本発明の調湿消臭材料は、粉砕物、成形体、焼結体、複合体のいずれにおいてもほぼ同様の特性が得られる。」との記載からみて、本件発明2における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」は、本件の【図1】に示される如く、細孔半径が2.6nmから6nmに細孔容積の明確なピークを示す細孔径分布、即ち、種々の細孔半径の孔が存在する天然物由来の多孔質材料において、細孔容積からみて細孔半径が2.6nmから6nmの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。これに対して、甲1発明2における細孔径分布は「甲第1号証の図2に示される細孔径分布」である。そして、甲第1号証の図2を検討すると、棒グラフで示されていること、各細孔半径に対する細孔容量の値が本件の【図1】と大きく異なることから、直ちに対比はできないものの、細孔半径20nmから40nmに頂点を有する細孔容積のピークがみられる。しかし、そのピークは本件の【図1】のピークに比べ低くなだらかなものであり、本件の【図1】の如き明確なピークを形成しているとまでは云えない。よって、甲1発明2における細孔径分布と本件発明2における細孔径分布とが同じであるとまでは云えない。
次に、相違点(II-1-iii)について検討する。
多孔質材料の比表面積の測定においてBET法は最も一般的な測定方法であるから、甲1発明2における「比表面積」もBET比表面積である蓋然性は高いが、他の測定方法が存在しないということでもないので、甲1発明2における比表面積がBET比表面積であるとは、直ちに云えない。
さらに、相違点(II-1-iv)について検討する。
甲第1号証の記載事項1-エには、「図3は、この粉体の20℃における水蒸気吸着等温線である。」との記載があり、図3には蒸気圧(P/P0)に対する吸湿率(wt%)の曲線が示されている。しかし、記載事項1-エ全体を検討すると、「この粉体」とは、稚内層珪藻土粉砕物の粉体を意味することが明らかであって、稚内層珪藻土粉砕物の粉体を800℃で焼成した粉体を意味すると解すことはできない。そして、甲第1号証を検討しても、稚内層珪藻土粉砕物の粉体を800℃で焼成した焼成体の最大吸湿率についての記載は見出せない。さらに、記載事項1-エには、「30℃に温度を一定とし、24時間毎に湿度を変化させ、この粉体及びそれを800℃焼成したものの吸放湿機能、すなわち調湿機能を見たのが図4である。調湿機能を杉材と比較したが、それよりも優れている。しかも、加熱によって殆ど変化しない。」との記載があるものの、図4を検討すると、稚内層珪藻土とその800℃焼成物は、いずれも相対湿度60%と80%の間で杉材に比べ良好な吸放湿特性を有するものの、相対湿度80%における吸湿率、即ち相対湿度80%で24時間保持したときの吸湿率(wt%)の値には明らかな差がある。してみると、稚内層珪藻土粉砕物の粉体を800℃で焼成した粉体の最大吸湿率が稚内珪藻土粉砕物の粉体の最大吸湿率と同程度であるとは、直ちに云えない。よって、甲第1号証を検討しても、珪藻頁岩の粉砕物を800℃で焼成してなる焼成物が25wt%程度の最大吸湿率を有するものであるとは云えない。
さらに、相違点(II-1-iv)について検討する。
甲1発明2における「耐熱性」について検討すると、記載事項1-エからみて、かかる「耐熱性」は800℃で焼成した粉体の細孔径分布が加熱によって殆ど変化がないことに基づくものであるから、800℃までの耐熱性を有することは確認できるが、900℃までの耐熱性を有することまでは云えない。
最後に、相違点(II-1-i)について検討する。
甲第1号証には、記載事項1-キに「吸湿機能のみならず吸着能、触媒能など様々な機能が予想される。」との記載があるだけであり、甲第1号証を検討しても、甲1発明2の材料が吸湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有すること、及び、甲1発明2の材料を調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料とすることは記載されておらず、かかる事項を導き出すに足る記載も見いだせない。
上記の如く、本件発明2と甲1発明2とは、相違点(I-1-ii)乃至(I-1-v)について検討したとおり、理化学的性質が実質的に同じであるとまで云えるものではなく、さらに、相違点(II-1-i)で相違するものであるから、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明であると云うことはできない。
(II-2)甲第2号証との対比、判断
甲第2号証には、記載事項2-ア〜ウに珪質頁岩と呼ばれる稚内層の焼成物について記載されており、記載事項2-イには、加熱変化をX線パターンから見ると稚内層は900℃までは安定していること、即ち稚内層の焼成物も900℃までの熱安定性を有することが、記載事項2-ウには、800℃で焼成した稚内層は甲第2号証の図6の細孔分布を示すことが記載されており、上記の細孔分布を有することからみて稚内層は多孔質材料であると云える。そして、上記の熱安定性、細孔分布は稚内層の800℃焼成物の理化学的性質であると云える。
また、甲第2号証には、記載事項2-カ〜クに稚内層を利用した珪藻土セラミックスを外と隣接する室内側の全壁面、特にトイレの壁面に施工した例が記載されており、特に記載事項2-クには「図15、16から、居間および壁内の温湿度は外気に比べ極めて変動が少ない。これらのことは珪藻土セラミックスの吸放湿機能を裏付けるものとなっている。なお、生活しながらの観察と体感によって得られたことを何点か以下に示した。・・・(5)トイレに臭気がこもることがない。」との記載がある。記載事項2-クのこの記載は、珪藻土セラミックスが吸放湿機能を有すること、及び、トイレの壁面に珪藻土セラミックスを施工したことにより、トイレの雰囲気中に水蒸気と共に存在するトイレの臭いの成分であるアンモニア等の塩基性ガスが「こもることがない」、即ち、どの程度かは不明であるが消臭されたことを意味する。よって、この記載事項2-クから、珪藻土セラミックスが吸放湿機能とともにその程度は不明であるが塩基性ガスを消臭する機能を有することが記載されていると云える。
ここで、記載事項2-ア〜ウに記載された稚内層の800℃焼成物は、記載事項2-アに記載されているとおり稚内層は「細かく割れやすい」ものであるから、稚内層の粉砕物を800℃で焼成してなる焼成物であると云え、記載事項2-カ〜クに記載された稚内層を利用した珪藻土セラミックスは、稚内層の粉砕物を成形し焼成した焼成物であると云え、これらは異なるものである。しかし、甲第2号証には、記載事項2-ア〜ウに記載された稚内層の800℃焼成物の有する機能については記載がなく、また、稚内層を利用した珪藻土セラミックスの理化学的特性についての記載もない。よって、記載事項2-ア〜ウに記載された稚内層の800℃焼成物が、稚内層を利用した珪藻土セラミックスの有する機能をそのまま有しているか全く不明であるが、記載事項2-ア〜ウに記載された稚内層の800℃焼成物が、稚内層を利用した珪藻土セラミックスの有する機能をそのまま有しているとすると、甲第2号証には下記の発明(以下、「甲2発明2」という。)が記載されていると云える。
「吸放湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を有する吸放湿材料であって、稚内層の粉砕物を800℃で焼成してなる焼成物から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)甲第2号証の図6に示される細孔分布、
(4)900℃までの熱安定性、を有する多孔質材料からなる吸放湿材料。」
本件発明2と甲2発明2とを対比すると、後者における「吸放湿」、「焼成物」、「細孔分布」、「熱安定性」は、夫々、前者における「調湿」、「焼成体」、「細孔径分布」、「耐熱性」に相当すると云え、後者における「稚内層」は珪質頁岩と呼ばれるものであることは記載事項2-アに記載されているところである。さらに、後者における「吸放湿材料」は吸放湿用吸放湿材料と云えるものであるから、両者は、
「調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を有する調湿用調湿材料であって、珪質頁岩の粉砕物を800℃で焼成してなる焼成体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(4)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなる調湿用調湿材料」
で一致し、下記の点で相違する。
(II-2-i)前者は、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるのに対し、後者は、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を有するものではあるが、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料と云えるか明確でない点。
(II-2-ii)前者は、細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布を有するものであるのに対し、後者は、甲第2号証の図6に示される細孔径分布を有するものである点。
(II-2-iii)前者は、BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積を示すものであるのに対し、後者は、比表面積に関し特定がない点。
(II-2-iv)前者は、25wt%程度の最大吸湿率を有するものであるのに対し、後者は、最大吸湿率に関し特定がない点。
そこでまず、相違点(II-2-ii)について検討する。
相違点(II-1-ii)についての検討で述べたとおり、本件発明2における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」は、本件の【図1】に示される如く、細孔半径が2.6nmから6nmに細孔容積の明確なピークを示す細孔径分布、即ち、種々の細孔半径の孔が存在する天然物由来の多孔質材料において、細孔容積からみて細孔半径が2.6nmから6nmの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。これに対して、甲2発明2における細孔径分布は「甲第2号証の図6に示される細孔径分布」であり、甲第2号証の図6を検討すると、棒グラフで示されていること、各細孔半径に対する細孔容量の値が本件の【図1】と異なることから、直ちに対比はできないものの、細孔半径20Å付近に対応するピークの頂点に至るまでの細孔半径に対応する細孔容量の増加が急激であること、ピークの頂点から60Å程度までの細孔半径に対応する細孔容量の減少の程度が60Åより大きい細孔半径に対応する細孔容量減少の程度より大きいことからみて、本件の【図1】のピークと共通する特徴を有するピークが読み取れる。してみると、甲第2号証の図6からみて、甲2発明2における細孔径分布も、細孔容積からみて細孔半径が20〜60Åの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。そして、本件発明2における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」における「細孔半径2.6nmから6nm」との数値範囲については、相違点(I-2-ii)についての検討において述べたように、その数値範囲に臨界的意義があるものとは云えないから、甲2発明2における細孔径分布と本件発明2における細孔径分布との間に実質的な相違があるとまでは云えない。
次に、相違点(II-2-iii)について検討する。
甲2発明2における「比表面積」についの記載は、甲第2号証を如何に検討しても見いだすことはできず、甲2発明2における比表面積がBET比表面積が100m2 /g以上であることは確認できない。
さらに、相違点(II-2-iv)について検討する。
甲第2号証の記載事項2-エから稚内層の最大吸湿率は読み取れるが、甲第2号証を如何に検討しても、稚内層を800℃で焼成した焼成体の最大吸湿率は記載されておらず、また記載事項2-エに記載された稚内層の最大吸湿率が稚内層の800℃焼成体の最大吸湿率であると信ずるに足る記載もない。よって、甲第2号証には、珪質頁岩の粉砕物を800℃で焼成してなる焼成体の最大吸湿率が25wt%程度であることは記載されているとは云えない。
最後に、相違点(II-2-i)について検討する。
記載事項2-クは、上述したように、珪藻土セラミックスが吸放湿機能を有すること、及び、その程度は不明であるが塩基性ガスを消臭する機能を有することを意味すると云える。しかし、生活しながらの観察と体感により得られたこととして記載された「トイレに臭気がこもることがない」との記載だけでは塩基性ガスを消臭する機能がどの程度のものであるか明確でなく、またこの消臭機能が吸放湿機能と同時に達成されるものか明確でないから、かかる記載のみを根拠にして、甲第2号証に、珪藻土セラミックスが吸放湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有し、しかも、調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料として使用し得ることが記載されているとまでは云えない。
よって、甲2発明2が、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有するとまで云うことはできず、さらには調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるとまで云うことはできない。
上記の如く、本件発明2と、甲第2号証の記載事項2-ア〜ウに記載された稚内層の800℃焼成物が、稚内層を利用した珪藻土セラミックスの有する機能をそのまま有しているとして認定した発明である甲2発明2とは、相違点(II-2-ii)〜(II-2-iv)について検討したとおり、理化学的性質が実質的に同じであるとまで云えるものではなく、さらに、相違点(II-2-i)で相違するものであるから、本件発明2はかかる甲2発明2と異なるものである。
さらに、前述したとおり、甲第2号証には、記載事項2-ア〜ウに記載された稚内層の800℃焼成物が、稚内層を利用した珪藻土セラミックスの有する機能をそのまま有していると確信するに足る記載がないこと、甲第2号証には、稚内層を利用した珪藻土セラミックスの理化学的性質についての記載がないことを考慮すると、本件発明2は、甲第2号証に記載された発明であるとは云えない。
(II-3)甲第3号証に記載された発明との対比、判断
甲第3号証には、記載事項3-エに、稚内層珪藻頁岩を豊ヘルス焼成と同温度で焼成した焼成物の細孔分布が図5に示されていること、及び、焼成による細孔分布に変化が小さいこと、即ち熱安定性があることが記載されていると云える。そして、上記の細孔分布、熱安定性は稚内層珪藻頁岩の焼成物の理化学的性質であると云える。また、甲第3号証の記載事項3-オ〜キに稚内層珪藻頁岩を利用してできた豊ヘルスについて記載されており、記載事項3-オには、豊ヘルスは調湿機能を有することが、記載事項3-カには、豊ヘルスは稚内層珪藻頁岩を利用してできたものであり、多孔質で調湿機能に優れることが記載されていると云える。また、記載事項3-キには、豊ヘルスの最大吸水量が7500g/m2 であることも記載されている。
ここで、記載事項3-エに記載された稚内層珪藻頁岩の焼成物は、稚内層珪藻頁岩が細かく割れやすいものであることからみて、稚内層珪藻頁岩の粉砕物を焼成してなる焼成物であると云え、記載事項3-オ〜キに記載された豊ヘルスは、記載事項3-ア〜カからみて、稚内層珪藻頁岩の粉砕物を成形し焼成した焼成物であると云え、これらは異なるものである。しかし、甲第3号証を検討しても、豊ヘルスの細孔分布について記載がなく、記載事項3-エに記載された稚内層珪藻頁岩の焼成物が有する機能についても記載がない。よって、記載事項3-エに記載された稚内層珪藻頁岩の焼成物が、記載事項3-オ〜キに記載された豊ヘルスの機能及び理化学的特性をそのまま有しているか全く不明であるが、記載事項3-エに記載された稚内層珪藻頁岩の焼成物が、記載事項3-オ〜キに記載された豊ヘルスの機能及び理化学的性質をそのまま有しているとすると、甲第3号証には下記の発明(以下、「甲3発明2」という。)が記載されていると云える。
「調湿機能を有する調湿材料であって、稚内層珪藻頁岩の粉砕物を焼成してなる焼成物から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)甲第3号証の図5に示される細孔分布、
(3)7500g/m2の最大吸水量、
(4)熱安定性、を有する多孔質材料からなる調湿材料。」
本件発明3と甲3発明2とを対比すると、後者における「焼成物」、「細孔分布」、「熱安定性」は、夫々、前者における「焼成体」、「細孔径分布」、「耐熱性」に相当すると云え、後者における「稚内層珪藻頁岩」は珪質頁岩と云えるものである。さらに、後者における「調湿材料」は調湿用調湿材料と云えるものであるから、両者は、
「調湿機能を有する調湿用調湿材料であって、珪質頁岩の粉砕物を焼成してなる焼成体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(4)耐熱性、を有する多孔質材料からなる調湿用調湿材料」
で一致し、下記の点で相違する。
(II-3-i)前者は、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるのに対し、後者は、調湿機能を有する調湿用調湿材料ではあるものの、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料ではない点。
(II-3-ii)前者は、500〜900℃で焼成してなる焼成体であるのに対し、後者は、焼成温度が特定されていない点。
(II-3-iii)前者は、細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布を有するものであるのに対し、後者は、甲第3号証の図5に示される細孔径分布を有するものである点。
(II-3-iv)前者は、BET比表面積が100m2 /g以上の高い比表面積を示すものであるのに対し、後者は、比表面積に関し特定がない点。
(II-3-v)前者は、25wt%程度の最大吸湿率を有するものであるのに対し、後者は、7500g/m2の最大吸水量を有するものである点。
(II-3-vi)前者は、900℃までの耐熱性を有するものであるのに対し、後者は、耐熱性を有するものではあるがその程度が特定されていない点。
そこでまず、相違点(II-3-ii)及び(II-3-vi)について検討する。
甲第3号証を検討しても、豊ヘルスの焼成温度は記載されていない。そして、甲3発明2における「耐熱性」も、記載事項3-エからみて、稚内層珪藻頁岩の豊ヘルス焼成と同温度での焼成物の細孔分布が焼成前のものの細孔分布と比較して変化が小さいことに基づくものであり、上記のとおり甲第3号証を検討しても豊ヘルスの焼成温度が記載されていない以上、稚内層珪藻頁岩が900℃までの耐熱性を有することまでは確認できない。
次に、相違点(II-3-iii)について検討する。
相違点(II-1-ii)についての検討で述べたとおり、本件発明2における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」は、本件の【図1】に示される如く、細孔半径が2.6nmから6nmに細孔容積の明確なピークを示す細孔径分布、即ち、種々の細孔半径の孔が存在する天然物由来の多孔質材料において、細孔容積からみて細孔半径が2.6nmから6nmの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。これに対して、甲3発明2における細孔径分布は「甲第3号証の図5に示される細孔径分布」であり、甲第3号証の図5を検討すると、各細孔半径に対する細孔容量の単位が明確でないことから、直ちに対比はできないものの、細孔半径30Åに対応する位置にピークの頂点があること、ピークの頂点に至るまでの細孔半径に対応する細孔容量の増加が急激であること、ピークの頂点から50Å程度までの細孔半径に対応する細孔容量の減少の程度が少なく、50Åから60Åまでの細孔半径に対応する細孔容量の減少の程度が60Åより大きい細孔半径に対応する細孔容量の減少の程度より大きいことからみて、本件の【図1】のピークと共通する特徴を有する明確なピークが読み取れる。してみると、甲第3号証の図5からみて、甲3発明2における細孔径分布も、細孔容積からみて細孔半径が20〜60Åの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在するものであると云える。そして、本件発明2における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」における「細孔半径2.6nmから6nm」との数値範囲については、相違点(I-2-ii)についての検討において述べたように、その数値範囲に臨界的意義があるものとは云えないから、甲3発明2における細孔径分布と本件発明2における細孔径分布との間に実質的な相違があるとまでは云えない。
さらに、相違点(II-3-iv)について検討する。
甲3発明2における「比表面積」についの記載は、甲第3号証を如何に検討しても見いだすことはできず、甲3発明2における比表面積がBET比表面積が100m2 /g以上であるとは云えない。
さらに、相違点(II-3-v)について検討する。
甲3発明2における7500g/m2の最大吸水量は、甲第3号証の記載事項3-キに基づくものである。しかし、記載事項3-キには、嵩比重の値とともに「最大吸水量」が24時間の量である旨の記載もある。そして、本件発明2における最大吸湿率は本件訂正明細書【0014】、【0015】の記載からみて、水蒸気圧を変化させて平衡状態に達したときの導入水蒸気の体積変化から試料の吸着水量を求める方法による測定から求められたものであり、24時間の吸水量が平衡状態の吸着水量と同じか否か不明であるため、甲3発明2における7500g/m2の最大吸水量と嵩比重から吸湿率が求められるとしても、その「吸湿率」が本件発明2における「最大吸湿率」に相当するものであるとは云えない。
そして、甲第3号証の記載を検討しても、稚内層珪藻頁岩の粉砕物の焼成体の最大吸湿率は記載されておらず、また記載事項3-イから読み取れる稚内層珪藻頁岩の最大吸湿率が稚内層珪藻頁岩を焼成してなる焼成体の最大吸湿率であると信ずるに足る記載もない。
よって、甲第3号証には、珪質頁岩の粉砕物を焼成してなる焼成体が25wt%程度であることは記載されているとは云えない。
最後に、相違点(II-3-i)について検討する。
甲第3号証には、記載事項1-カに、豊ヘルスについて「そのほかの特性として、タバコやトイレの臭いなどの生活臭の吸臭効果も期待できる。」との記載があるだけであり、甲第3号証を検討しても、甲3発明2の材料が吸湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有すること、及び、甲3発明2の材料を調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料とすることは記載されておらず、かかる事項を導き出すに足る記載も見いだせない。
上記の如く、本件発明2と、記載事項3-エに記載された稚内層珪藻頁岩の焼成物が、記載事項3-オ〜キに記載された豊ヘルスの機能及び理化学的性質をそのまま有しているとして認定した発明である甲3発明2とは、相違点(II-3-iii)乃至(II-3-vi)について検討したとおり、理化学的性質が実質的に同じであるとまで云えるものではなく、さらに、相違点(II-3-i)及び(II-3-ii)で異なるものである。
さらに、甲第3号証の記載事項3-エに記載された稚内層珪藻頁岩の焼成物が、記載事項3-オ〜キに記載された豊ヘルスの機能及び理化学的性質をそのまま有しているとの確証がないこと、甲第3号証には豊ヘルスの細孔径分布についての記載がないことを考慮すると、本件発明2は、甲第3号証に記載された発明であるとは云えない。
(II-4)甲第4号証に記載された発明との対比、判断
甲第4号証には、記載事項4-ア〜オからみて、稚内層珪藻土タイルについて記載されており、記載事項4-イには、稚内層珪藻土タイルが調湿機能を有することが記載されていると云える。
甲第4号証に記載された「稚内層珪藻土」は珪質頁岩といわれ、細かく割れやすいものであり、稚内層珪藻土タイルは稚内層珪藻土に必要に応じて他の成分を配合したものを成形し焼成した焼成体であると云えるから、甲第4号証には、珪質頁岩の粉砕物の成形体を焼成してなる焼成体から構成される調湿材料が記載されているとは云える。
しかし、甲第4号証には、該焼成体の焼成温度や、該焼成体の細孔径分布、比表面積、最大吸湿率及び耐熱性について、何等具体的記載はない。
そして、本件発明2は、珪質頁岩の粉砕物の成形体の焼成温度を特定し、焼成体の理化学的性質を本件の請求項2に記載の如く特定した調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるから、本件発明2は、これらの事項について何等の記載のない甲第4号証に記載された発明であると云うことはできない。
(II-5)甲第5号証に記載された発明との対比、判断
甲第5号証には、記載事項5-ア及びイからみて、珪藻頁岩タイルである豊ヘルスについて記載されていると云える。そして、記載事項5-アからみて、「豊ヘルス」は、珪藻頁岩100%の成形体を焼成した焼成体であって、高い吸放湿性能を有するものであると云える。
甲第5号証に記載の「珪藻頁岩」は珪質頁岩と呼ばれ、細かく割れやすいものであり、甲第5号証に記載の「吸放湿性能」は調湿機能と云えるものであるから、甲第5号証には、珪藻頁岩の粉砕物の成形体を焼成した焼成体から構成される調湿機能を有する調湿材料が記載されていると云える。
しかし、甲第5号証には、該焼成体の焼成温度や、該焼成体の細孔径分布、比表面積、最大吸湿率及び耐熱性について、何等具体的記載はない。また、記載事項5-イには、「豊ヘルス」はアンモニアなどの吸着性能も期待できるものであることが記載されているが、アンモニアなどの吸着性能がどの程度のものであるか、また、調湿機能とアンモニアなどの吸着機能を同時に有するものであることまでは記載されていない。
そして、本件発明2は、珪質頁岩の粉砕物の成形体の焼成温度を特定し、焼成体の理化学的性質を本件の請求項2に記載の如く特定した調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であるから、これらの事項について何等の記載のない甲第5号証に記載された発明であると云うことはできない。
(II-6)甲第1号証乃至甲第8号証に基く容易性について
訂正明細書、特に【0005】段落の「従来技術では、調湿と消臭を同時に達成できる材料の開発は行われておらず、その性能も十分なものではなかった。」との記載、及び、【0006】段落の「本発明は、自律的に生活空間中の水分を吸脱着し、生活環境中の湿度を省エネルギー的に最適状態に制御するのと同時に消臭機能を有する多孔質材料を提供することを目的とするものである。」との記載からみて、本件発明2は、固体酸性を有する表面構造を有する珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の成形体を焼成した焼成体を用い、しかも該焼成体の理化学的性質を特定したことにより、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能が同時に発現することを見いだしたことに基づく、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料の発明であると云え、本件発明2における「調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する」ことは、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能が同時に発現することを意味するものと云える。
これに対して、(II-1)〜(II-5)で述べたとおり、甲1号証乃至甲第5号証には、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の成形体を焼成した焼成体が、調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であることが記載されているとまでは云えず、また、本件発明2における珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の成形体を焼成した焼成体の理化学的性質と同じ理化学的性質を有する珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の成形体を焼成した焼成体が記載されているとも云えない。
よって、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明を如何に組み合わせても、本件発明2を当業者が容易に発明することができたとは云えない。
さらに、甲第6号証乃至甲第8号証について検討する。
(I-6)で述べたとおりであるから、甲第6号証に記載された事項が本件の出願前公然知られた事項であるとは、直ちに云えない。しかも、甲第6号証に記載された事項を検討しても、サンプルとして使用された「珪藻土系天然鉱物(S.C.)」が焼成体であることは記載も示唆もされていないため、甲第6号証に珪質頁岩の焼成体について何らかの事項が記載されていると云うことはできない。また、(I-6)で述べたとおり、甲第8号証にも、「シリカ(SiO2)を主成分とする珪藻土系天然鉱物」が珪質頁岩であるとの明確な記載はなく、ましてや、それが珪質頁岩の焼成体であるとの記載もないため、甲第8号証に珪質頁岩の焼成体について何らかの事項が記載されていると云うことはできない。
してみると、甲第6号証乃至甲第8号証からは、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の成形体を焼成した焼成体についての何らかの事項が本件の出願前公然知られた事項となったと云うことはできない。
よって、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に加え甲第6号証乃至甲第8号証を検討しても、これらの証拠から、本件発明2を当業者が容易に発明することができたとは云えない。

(III)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2を引用する物の発明である。
そして、本件発明1及び2については、上記(I)及び(II)で述べたとおりであるから、本件発明3は、少なくとも上記(I)又は(II)で述べた理由により、甲第1号証乃至甲第5号証のいずれかに記載された発明であるとも、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて、さらには甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証乃至甲第8号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。

(IV)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1から3のいずれかに係る調湿消臭材料又は調湿消臭複合体の使用方法に関する発明である。
そして、本件発明1から本件発明3については、上記(I)乃至(III)で述べたとおりである。さらに、本件発明4の構成要件である、本件発明1から3のいずれかに係る調湿消臭材料又は調湿消臭複合体を、特定の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿・塩基性ガス消臭材料として使用することは、上記(I)又は(II)で述べた理由と同様の理由で、甲第1号証乃至甲第5号証のいずれかに記載されているとも、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された事項に基いて、さらには甲第1号証乃至甲第5号証に記載された事項及び甲第6号証乃至甲第8号証に基いて当業者が容易に想到し得たこととも云えない。
よって、本件発明4は、甲第1号証乃至甲第5号証のいずれかに記載された発明であるとも、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて、さらには甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証乃至甲第8号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。

3-3-3.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1乃至4は、いずれも、甲第1号証乃至甲第5号証のいずれかに記載された発明であるとも、甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基いて、さらには甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証乃至甲第8号証に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとも云えない。

3-4.特許法第36条違反の主張について
特許異議申立人の主張する本件発明1及び2についての本件明細書及び図面の不備は、以下のとおりのものである。
(1)請求項1及び2の「細孔半径2.6nmから6nm付近の均一な細孔径分布」との記載は、「付近」及び「均一な」が不明確な記載であるため、明確でない。
(2)請求項1及び2の「25wt%程度の最大吸湿率」との記載は、「程度」が不明確な記載であるため、明確でない。
まず(1)について検討すると、上述のとおり訂正請求が容認されたことにより、請求項1及び2において「付近」との記載は削除された。また、訂正明細書には、実施例1に関する記載のうち【0015】段落の「1)細孔径」の項に「図1に示すように、細孔径分布曲線から細孔半径2nmから6nmに幅広い領域が観察され、均質なメソポア組織を有していることが認められた。」との記載があり、比較例1に関する記載のうち【0017】段落に「これらの各種試料の細孔径分布曲線を図4に示した。これらの分布曲線は、ピーク位置が極めて不明確であり、上記実施例の試料と比較して、不均一な細孔構造を有することを示した。」との記載がある。これらの記載並びに【図1】及び【図4】からみて、「均一な」とは、【図1】に示される如く細孔径分布に明確なピークが存在すること、即ち、その明確なピークに対応する細孔半径の細孔が細孔全体に対して多くの割合を占めて多孔質材料の全体に亘って存在していることを意味することは明らかである。
確かに、本件の訂正明細書に細孔半径の下限を2.6nm上限を6nmとする技術的意義は記載されていない。しかし、細孔径分布が本件の【図1】に図示され、この【図1】から細孔半径2.6nmから6nmの範囲に亘る細孔容積の明確なピークが読み取れることからみて、本件発明1及び2における「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」とは、種々の細孔半径の孔が存在する天然物由来の多孔質材料において、本件の【図1】に示される如き明確なピークが存在する細孔径分布、即ち、細孔容積からみて細孔半径が2.6nmから6nmの細孔が細孔全体に対して多くの割合を占め、しかもかかる細孔半径の細孔が多孔質材料の全体に亘って均一に存在する細孔径分布を云うものであることは明らかであるから、請求項1及び2の「細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布」との記載が不明確な記載であるとまでは云えない。
次に(2)について検討すると、確かに「程度」とはある範囲を含む記載ではある。しかし、請求項1及び2の「25wt%程度の最大吸湿率」は訂正明細書【0015】段落の「この調湿消臭材料の水蒸気吸着等温線を図2に示した。・・・。そして、25wt%程度の最大吸湿率を示した。」との記載及び【図2】に基づくものであり、【図2】を検討すると最大吸湿率は25%より低い値を示しいるところでもあり、天然物に由来する物を特定する記載として請求項1及び2の「25wt%程度の最大吸湿率」との記載は不明確な記載であるとまでは云えない。
よって、特許異議申立人の主張する上記主張は採用しない。

3-5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1乃至4の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1乃至4の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
珪質頁岩を利用した調湿消臭材料
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(2)BET比表面積が100m2/g以上の高い比表面積、
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。
【請求項2】調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体を500〜900℃で焼成してなる焼成体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(1)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(2)BET比表面積が100m2/g以上の高い比表面積、
(3)25wt%程度の最大吸湿率、
(4)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。
【請求項3】請求項1又は請求項2に記載の調湿消臭材料と、他のセラミックス原料及び/又はフィラーとを複合して得られる調湿消臭複合体。
【請求項4】請求項1から3のいずれかに記載の調湿消臭材料又は調湿消臭複合体を使用する方法であって、25wt%程度の最大吸湿率と生活に適する50〜70%の湿度範囲での優れた水蒸気吸脱着特性を利用して、上記調湿消臭材料を50〜70%の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿・塩基性ガス消臭材料として利用することを特徴とする上記調湿消臭材料の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、調湿機能と消臭機能を同時に有する新しい調湿消臭材料に関するものである。更に詳しくは、本発明は、北海道の天北地方に産する珪質頁岩をマトリックスとして使用して得られる多孔質材料の組成物からなる調湿機能と消臭機能を有する新規な調湿消臭材料に関するものである。本発明の材料は、耐水性、耐熱性、耐腐食性に優れ、電子機器などの記録材料や居室内や車内などの生活環境の湿度を自律的に制御する吸放湿機能に、消臭機能などを賦与した、新しいタイプの調湿消臭材料として有用である。
【0002】
【従来の技術】日本の湿潤温暖気候下に建設されている家屋は、特に、調湿の面で様々な問題点を抱えている。例えば、夏期の高温高湿度により蓄積する湿気が、壁、木材などの悪臭や細菌繁殖の原因となっている。また、冬季においての家屋内の湿度は低いが、住宅の高気密化と暖房器具の普及により、夜間の気温低下に伴う壁材内部の結露を誘発し、壁材の劣化を惹起する。このような湿気による細菌の繁殖や壁材の劣化による被害を未然に防ぐために、従来では、乾燥又は調湿に用いられているものとして、生石灰、塩化カルシウムならびにシリカゲルなどの使用や、除湿器による室内の除湿、エアコン等の空調設備の利用が一般に行われている。また、このような問題を解決する手法として、例えば、特公昭62-26813号公報などに開示される、吸湿材料として、特定組成を有する共重合体ケン化物と潮解性塩類を主成分としてそれに繊維状物質を加えてなる組成物などの開発や、吸放湿建材として、ゾノトライト系、アロフェン系及びゼオライト系建材(特開平3-93662号公報)などの開発が行われている。
【0003】また、近年、国民の生活水準の向上や生活様式の変遷に伴い、一般家庭や公共空間において環境衛生上問題となる臭気の除去技術に対する関心が高まってきている。こうした問題に対して、社会及び産業界からのこれらの除去技術の開発に対して強い要請があり、十分な対応が要求されるようになってきている。従来より、これらの問題を解決する手法として、例えば、セピオライト粉末を含有した吸着物質含有紙(特開昭53-6611号公報)などの開発や、アルミニウム化合物含有シート状物質(特開昭59-95931号)などの開発が行われている。
【0004】しかし、上述の湿気防止乾燥剤は、いずれも除湿力が強く、除湿量や除湿速度を制御しにくい。また、試剤の吸湿有効期間は短く、一度飽和点に達すると吸湿機能は大幅に低下する欠点があり、繰り返しの使用は不可能である。こうした材料は、吸湿性にのみに優れているため、常時保水した状態にあり、微生物発生の促進するため不快臭を伴う傾向にある。ゼオライトは、吸湿性に優れているが、放湿性に劣るため、吸放湿材料として適しているとは言えず、微生物及び悪臭発生の温床となる可能性がある。除湿器による除湿は、エネルギー的に問題があると同時に、必要以上に環境中の湿度を低下させるため、健康に悪影響を及ぼす可能性がある。また、ゼオライト/セメント系建材(特開平3-109244号公報)やシリカゲル系吸放湿剤(特開平5-302781号公報)などの材料も開発されているが、その多くは、細孔径分布に注意を払っておらず、優れた調湿機能が無いのと同時に固体酸点が少なく消臭機能を有していない。
【0005】また、従来の消臭材料は、繊維状物質にアルミニウム化合物又はセピオライトなどの吸着剤を混合して吸着性能を賦与させたものであるが、環境衛生上問題となる臭気を除去する能力が極めて低く、実用的であるとは言えない。このように、従来技術では、調湿と消臭を同時に達成できる材料の開発は行われておらず、その性能も十分なものではなかった。このように、従来の調湿材料は、自己湿度調節機能や水分吸着容量が低いため、壁材の内部結露発生を防止できず、腐朽菌の繁殖を抑制することが不可能であり、また、同時に消臭機能を有する材料は皆無であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、調湿機能と消臭機能を同時に有する新しい調湿消臭材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、北海道天北地方に産出する珪質頁岩を利用した特定の多孔質材料の組成物が、調湿消臭材料として優れた特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、天然無機資源を出発原料として幅広い用途の調湿消臭機能を有する材料を安価に提供することを目的とするものである。また、本発明は、自律的に生活空間中の水分を吸脱着し、生活環境中の湿度を省エネルギー的に最適状態に制御するのと同時に消臭機能を有する多孔質材料を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(a)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(b)BET比表面積が100m2/g以上の高い比表面積、
(c)25wt%程度の最大吸湿率、
(d)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。
(2)調湿機能と塩基性ガスを消臭する機能を同時に有する調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料であって、珪質頁岩の粉砕物あるいは当該粉砕物の任意の成形体を500〜900℃で焼成してなる焼成体から構成されてなり、以下の理化学的性質;
(a)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布、
(b)BET比表面積が100m2/g以上の高い比表面積、
(c)25wt%程度の最大吸湿率、
(d)900℃までの耐熱性、を有する多孔質材料からなることを特徴とする調湿及び塩基性ガス消臭用調湿消臭材料。
(3)前記(1)又は(2)に記載の調湿消臭材料と、他のセラミックス原料及び/又はフィラーとを複合して得られる調湿消臭複合体。
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の調湿消臭材料又は調湿消臭複合体を使用する方法であって、25wt%程度の最大吸湿率と生活に適する50〜70%の湿度範囲での優れた水蒸気吸脱着特性を利用して、上記調湿消臭材料を50〜70%の湿度範囲の湿度制御システムにおける吸放湿・塩基性ガス消臭材料として利用することを特徴とする上記調湿消臭材料の使用方法。
【0008】
【発明の実施の形態】次に、本発明について更に詳細に説明する。本発明は、調湿機能と消臭機能を有する多孔質材料の組成物からなる新規な調湿消臭材料を提供する。即ち、本発明は、珪質頁岩の粉砕物を単独で使用するか、あるいは当該粉砕物を任意の形状に成形し、焼成することにより得られる調湿消臭材料に係るものであり、また、珪質頁岩の粉砕物を単独で焼成して使用するか、あるいは当該粉砕物を任意の形状に成形した後に焼成して得られる調湿消臭材料に係るものであり、更に、上記焼成前又は焼成後の調湿消臭材料と、他のセラミックス原料、フィラーとを複合して得られる調湿消臭複合体に係るものである。
【0009】本発明において、出発原料として使用する珪質頁岩について説明すると、珪質頁岩とは、例えば、北海道天北地方に産出する鉱物種であり、オパールCTを主成分とし、BET法による比表面積が50〜200m2/g程度、全細孔容積においては0.1〜0.5ml/g、細孔径分布が細孔半径2〜10nmの細孔が全細孔容積の60%以上を占め、珪素、アルミニウム、鉄、チタニウムなどの酸化物凝集体粒子からなることを特徴とし、シリカマトリックス中に上記遷移金属元素が導入されていることにより、固体酸性を有する表面構造を構成している。本発明で使用する珪質頁岩は、上記鉱物種であり、走査型電子顕微鏡下で数ミクロンメーターから100ミクロンメーターの珪藻化石殻(遺骸)が明瞭に観察され、その化石に細孔直径サブミクロンメーターの細孔が多数観察され、その珪藻化石の大部分がオパールCTで構成されている地質的変質作用を受けた岩石と定義される。本発明は、この珪質頁岩を利用して構成した多孔質材料からなる調湿消臭材料であり、その水蒸気の吸放出特性については、後記する実施例に示すように、水蒸気吸着等温線において、細孔直径に対応する湿度で吸着水量が大幅に増加して水蒸気を吸着すると共に、脱着側においても細孔直径に対応した湿度で急速に水蒸気を放出するサイクルを、総吸着水量が大幅に低下することなく発現することにより、調湿機能が達成される。また、珪質頁岩は、上記固体酸性を有する表面構造を構成し、消臭機能を発現する。
【0010】本発明の調湿消臭機能を有する多孔質材料は、珪質頁岩自身、あるいはこれを粉砕した後に得られる粉体を、必要により、適宜、成形、焼成することにより得られる。原料の粉砕は、例えば、ハンマークラッシャー、ジョークラッシャー、スタンパー、バンタムミル、ロールクラッシャー、遊星ミル、振動ミルなどで行われる。この場合、例えば、その粒径を0.1□m〜1mm程度まで揃えた粉末状態で使用しても良いし、それを成形し、成形体として使用しても良い。この場合、成形は、例えば、乾式プレス、鋳込み成形、可塑成形、押し出し成形などで行われる。更に、これらの粉体ないし成形体を、例えば、500〜900℃程度の温度で焼成し、焼結体として使用することも適宜可能である。この場合、焼成は、例えば、真空、酸化、還元、及び不活性雰囲気中での抵抗加熱、高周波誘導加熱炉などにより行われる。こうした処理を行うことにより、本発明の多孔質材料からなる調湿消臭材料が得られる。
【0011】また、これらの焼成前又は焼成後の調湿消臭材料と、他のセラミックス原料及び/又はフィラーを複合化して調湿消臭複合体を製造することができる。セラミックス原料としては、例えば、カオリナイト、アルミナスラッジ、ベントナイト、セピオライト、ゼオライト、アロフェン(鹿沼土)、クリストバル岩などが例示され、また、フィラーとしては、例えば、タルク、パイロフィライト、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、パリゴルスカイト、ガラス繊維、炭素繊維、木質パルプなどが例示される。その他、適宜の材料を配合することができる。これらを複合化する方法としては、例えば、混練、泥しょう混合、乾式混合などにより、混合し、複合化する方法が挙げられる。前記調湿消臭材料を水又は有機溶媒に懸濁し、この懸濁液に、紙、樹脂、繊維、セラミックス原料などを添加、混練りして利用することが可能である。また、上記懸濁液の溶媒を除去、乾燥し、ペレット、シート状などの固体状態にして使用することもできる。本発明の調湿消臭材料は、後記する実施例に示すように、50〜70%の湿度範囲での水蒸気吸脱着特性に優れていること、また、優れた消臭能力を有していることから、調湿機能と消臭機能を同時に有する調湿消臭材料として有用である。このように、本発明は、調湿機能と消臭機能を同時に有する新しい調湿消臭材料を提供することを可能とするものである。
【0012】以上のように、本発明においては、珪質頁岩の粉砕物を単独で使用するか、あるいは当該粉砕物を任意の形状に成形することにより得られる適宜の形態の調湿消臭材料が基本的な構成として採用されるが、この場合、必要に応じて、適宜、この粉砕物、あるいは成形体を焼成し、焼結体として使用することが可能であり、また、使用目的に応じて、上記焼成前又は焼成後の調湿消臭材料に適宜他の材料を配合し複合化することが可能である。本願発明の調湿消臭材料の特性は、基本的には、これらの粉砕物、成形体、焼成体、複合体からなる調湿消臭材料のいずれにおいてもほぼ同様の特性が得られる。
【0013】
【実施例】以下に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により何ら限定されるものではない。
実施例1(1)試料本実施例では、出発原料として北海道天北地方に産出する珪質頁岩を用いた。珪質頁岩をハンマークラッシャーにより粒径1mm以下に粉砕した。粉砕試料のX線回折パターンから、オパールCT、石英及び長石の存在を示すピークが確認された。試料の化学組成は、主要構成元素としてSiO285.0wt%、Al2O39.2wt%、Fe2O31.9wt%、K2O1.5wt%、MgO1.0wt%、Na2O0.7wt%程度を含有し、以下チタン、カルシウム、及びリン化合物などを微量含有する。
【0014】(2)方法細孔径分布及び比表面積測定(BET法)は、液体窒素温度下において窒素吸着法を用いて測定した。水蒸気吸脱着特性は、測定系内の温度を25℃に保持し、水蒸気圧を変化させて平衡状態に達したときの導入水蒸気の体積変化から試料の吸着水量を求める方法(定容法)による吸着平衡自動測定装置を用いて測定した。水蒸気吸着量は、絶乾状態の試料重量に対する吸着水量の割合を示す。この試料について、以下の条件で消臭試験を行った。100℃で前乾燥した試料0.1gを3000mlのテドラバッグ中に静置し、その内部を脱気した後に、濃度100ppmのアンモニアガスで充填した。充填後、単位時間ごとにテドラバッグ中のガスをガス検知管で採取した。測定系内の温度は25℃に保持し、各時間ごとの濃度変化を測定した。
【0015】(3)結果1)細孔径BET多点法による窒素吸着比表面積は、101m2/gであり、全細孔容積は0.21ml/gであるので、平均細孔半径は4.0nmと算出された。また、図1に示すように、細孔径分布曲線から細孔半径2nmから6nmに幅広い領域が観察され、均質なメソポア組織を有していることが認められた。
2)調湿特性湿度調節機能は、主として水蒸気吸着法により評価できる。本発明の調湿消臭材料は、細孔がほぼ均一に揃っている。それ故に、生活に適する50〜70%の湿度範囲での水蒸気吸脱着特性に優れている。この調湿消臭材料の水蒸気吸着等温線を図2に示した。この結果、細孔半径に対応した相対湿度である60%付近で、水分吸着が急速に立ち上がる挙動を示した。そして、25wt%程度の最大吸湿率を示した。このような急峻な水蒸気の吸着-脱着挙動と高い吸湿率は、吸放湿材料として湿度制御システムを構築する際に、その材料設計と制御が容易になるという利点を有している。
【0016】3)消臭特性アンモニア消臭試験の結果を図3に示した。その結果、実施例の試料では、僅か10分で58%のアンモニアを除去する迅速な吸着を示し、40分後には除去率90%の優れた消臭能力を示した。また、90分経過後では、実施例の試料は、アンモニア除去率が100%に到達した。このように、本発明の珪質頁岩系材料は、優れた消臭能力を有することが明らかとなった。更に、本発明の珪質頁岩系材料は、マトリックスを構成する多孔質珪素化合物の本来の特性である耐熱性にも優れ、900℃程度までの温度でも構造の変化は確認されないので、耐火性能にも優れている。また、構造内の同型置換により、表面構造に固体酸点を多数有するため、アンモニアなどの塩基性ガスの消臭機能にも優れている。以上のように、本発明の珪質頁岩をマトリックスとした多孔質材料は、優れた調湿消臭機能を有することが明らかとなった。本発明の調湿消臭材料は、粉砕物、成形体、焼結体、複合体のいずれにおいてもほぼ同様の特性が得られる。
【0017】比較例1(1)方法対象試料として、現在上市されているゾノトライト系調湿材料、アロフェン系調湿材料を使用して、上記実施例と同様にしてそれらの物性、及び調湿機能を評価した。以下に、その結果を示す。
(2)結果BET法による比表面積と全細孔容積は、ゾノトライト系調湿材料(旭硝子製)で40m2/g、0.07ml/g、アロフェン系調湿材料(INEX製)で21m2/g、0.05ml/gであり、本発明の実施例と比較して極めて低い数値を示した。これらの値から算出される平均細孔半径は、4.4及び4.6nmとなった。これらの各種試料の細孔径分布曲線を図4に示した。これらの分布曲線は、ピーク位置が極めて不明確であり、上記実施例の試料と比較して、不均一な細孔構造を有することを示した。また、これら対象試料の水蒸気吸着等温線を図5に示した。この結果、2種類の対象試料ともに急峻な水蒸気吸着挙動は確認されず、最大吸湿率もゾノトライト系調湿材料で9wt%、アロフェン系調湿材料で7wt%であり、上記実施例の試料と比較して、低い数値を示した。このように、上記実施例の珪質頁岩材料は、既存の調湿材料と比較して、優れた調湿消臭機能を有することが明らかである。
【0018】比較例2(1)方法対象試料として、消臭材料として現在上市されているヤシ殻活性炭、B型シリカゲル、ゼオライト、及びセピオライトを使用して、上記実施例と同様にしてアンモニアガスの消臭試験を行った。
(2)結果その試験結果を図6に示した。対象試料中で比較的吸着速度が速いセピオライトでも40分経過後では50%程度のみが除去されるだけであった。また、90分経過後では、対象試料では60%程度あるいはそれ以下の除去率しか示さなかった。このように、上記実施例の珪質頁岩系材料は、既存の消臭材料と比較して、優れた消臭能力を有することが明らかである。
【0019】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、1)調湿機能と消臭機能を同時に具備する材料を安価で提供することができる、2)細孔半径2.6nmから6nmの均一な細孔径分布を備え、BET比表面積が100m2/g以上の高い比表面積を保有し、吸着性能に優れた調湿消臭材料を提供することができる、3)本発明による調湿消臭材料は、優れた調湿機能と消臭機能を同時に有する、4)そのために、調湿消臭材料としてのそれ自体の利用の他に、無機化合物本来の優れた耐熱性、耐水性や腐食性に優れるため、建築材料、浄水用フィルター、各種吸着剤など広範な分野での利用が可能である、等の格別の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1の試料の細孔径分布曲線を示す。
【図2】本発明の実施例1の試料の水蒸気吸着等温線を示す。
【図3】本発明の実施例1におけるアンモニア消臭試験結果を示す。
【図4】比較例の試料の細孔径分布曲線を示す。
【図5】比較例1の試料の水蒸気吸着等温線を示す。
【図6】比較例2におけるアンモニア消臭試験の結果を示す。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-03-16 
出願番号 特願2000-30811(P2000-30811)
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B01J)
P 1 651・ 113- YA (B01J)
P 1 651・ 537- YA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 泰三  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 西村 和美
岡田 和加子
登録日 2002-11-29 
登録番号 特許第3375927号(P3375927)
権利者 鈴木産業株式会社 独立行政法人産業技術総合研究所
発明の名称 珪質頁岩を利用した調湿消臭材料  
代理人 須藤 政彦  
代理人 須藤 政彦  
代理人 松本 武彦  
代理人 須藤 政彦  

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