• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
審判 全部申し立て 発明同一  B29C
管理番号 1117939
異議申立番号 異議2001-71689  
総通号数 67 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-09-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-11 
確定日 2005-06-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第3117394号「光学的立体造形用樹脂組成物」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3117394号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
特許第3117394号に係る発明についての出願は、平成7年10月16日に特許出願(優先日 平成6年11月29日 日本)され、平成12年10月6日に特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人 バンティコ アクチエンゲゼルシャフト(以下、「特許異議申立人A」という。)及び特許異議申立人 ジェイエスアール株式会社(以下、「特許異議申立人B」という。)から特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年1月29日に特許異議意見書と訂正請求書が提出され、特許権者及び特許異議申立人A、Bに対して審尋がなされ、それぞれから回答書が提出され、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年11月10日に意見書が提出され、平成16年9月7日に「特許第3117394号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。」との特許異議の決定がなされた。
特許権者は平成16年10月28日にこの決定の取消を求める訴えを提起し、東京高等裁判所において平成16年(行ケ)第476号事件としてその審理がなされていたところ、特許権者は同年12月16日に本件特許出願に添付した明細書の特許請求の範囲等の訂正を求める訂正審判の請求をし、特許庁はこれを訂正2004-39285号事件として審理した上、平成17年2月10日に訂正を認める旨の審決をし、東京高等裁判所は同年3月29日に「特許庁が異議2001-71689号事件について平成16年9月7日にした決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を言い渡し、この判決は確定した。

2.本件発明
上記訂正審決による訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は以下のとおりである。
「【請求項1】光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物に、該光硬化性樹脂組成物の重量に基づいて0.001〜1.0重量%の光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物であって、前記光エネルギー吸収剤が、その1mgをエタノール100mlに溶解した溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上のものであることを特徴とする紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)を照射して行う光学的立体造形法で用いる光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項2】 光エネルギー吸収剤が、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、サリチル酸フェニル系化合物およびシアノアクリレート系化合物のうちの少なくとも1種である請求項1の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項3】 ベンゾトリアゾール系化合物が下記の一般式(I);

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基、そしてXは水素原子またはハロゲン原子を示す)で表されるベンゾトリアゾール系化合物であり;
ベンゾフェノン系化合物が下記の一般式(II);

(式中、R3及びR4はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基、そしてaおよびbはそれぞれ独立して0または1を示す)で表されるベンゾフェノン系化合物であり;
サリチル酸フェニル系化合物が下記の一般式(III);

(式中、R5は水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基を示す)で表されるサリチル酸フェニル系化合物であり;そして
シアノアクリレート系化合物が下記の一般式(IV);

(式中、R6およびR7はそれぞれ独立して水素原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基或いは非置換のまたは置換されたフェニル基、そしてR8は置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20の鎖状または分岐状アルキル基を示す)で表されるシアノアクリレート系化合物である請求項2の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1項の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、常法にしたがって紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)の照射による樹脂組成物の硬化および造形を行って立体造形物を製造する方法。」

3.特許異議申立についての判断
3-1.特許異議申立人の主張
3-1-1.特許異議申立人Aは、甲第1〜7号証を提出して、以下のように主張している。
(1)本件請求項1〜5に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するので、特許を受けることができない。
(2)本件請求項1〜5に係る発明は、本件の優先日前に出願された特願平6-32314号(以下、「先願」という。特開平7-238106号公報(甲第7号証)参照。)の願書に最初に添付した明細書(以下、「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件請求項1〜5に係る発明の発明者と先願明細書に記載された発明の発明者が同一の者であるとも、本件の出願の時において、本件出願人と先願の出願人とが同一の者であるとも認められないから、特許法第29条の2の規定に違反するので、特許を受けることができない。

3-1-2.特許異議申立人Bは、甲第1〜4号証を提出して、以下のように主張している。
(3)本件請求項1〜5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(4)本件請求項1〜5に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するので、特許を受けることができない。
(5)本件特許明細書の記載には不備があるから、本件請求項1〜5に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願についてされたものである。
(註:上記特許異議申立人の主張において、「請求項」とは訂正審判による訂正前の特許明細書に記載された請求項を指す。)

3-2.判断
3-2-1.取消理由
当審において平成13年11月20日付けで通知した取消理由は、上記特許異議申立人A及びBの主張する理由(1)〜(4)と同旨であり、引用した刊行物等は以下のとおりである。

<刊行物等>
刊行物1:特開平5-224412号公報(特許異議申立人Aが提出した甲第1号証)
刊行物2:米国特許第5,364,741号明細書(同、甲第2号証)
刊行物3:「12394の化学商品」,化学工業日報社,1994.1.26,p.955-959(同、甲第3号証)
刊行物4:Ciba Specialty Chemicals,Inc.ホームページ(www.cibasc.com)掲載ポリマー添加剤TINUVIN(R)213、技術データ(同、甲第4号証)
刊行物5:Ciba Specialty Chemicals,Inc.ホームページ(www.cibasc.com)掲載ポリマー添加剤TINUVIN(R)234、技術データ(同、甲第5号証)
刊行物6:Ciba Specialty Chemicals,Inc.ホームページ(www.cibasc.com)掲載ポリマー添加剤TINUVIN(R)1577、技術データ(同、甲第6号証)
(註:刊行物4〜6の「(R)」はRの丸付き文字)
刊行物7:特開平1-218831号公報(特許異議申立人Bが提出した甲第1号証)
刊行物8:特開平6-106566号公報(同、甲第2号証)
刊行物9:特開平3-103415号公報(同、甲第3号証)
先願:特願平6-32314号(特開平7-238106号(特許異議申立人Aが提出した甲第7号証))
実験報告書:ジェイエスアール株式会社 筑波研究所 田辺 隆喜 作成の平成13年6月7日付け実験報告書(特許異議申立人Bが提出した甲第4号証)

3-2-1-1.特許法第29条の2違反について
(i)先願明細書の記載事項
(ア)「【請求項1】 次の成分(A)〜(C):(A)光重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物、(B)光重合開始剤、(C)成分(B)の光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有する紫外線吸収剤を含有する立体造形用光硬化性組成物。
【請求項2】 光重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物を重合させるにあたり、光重合開始剤と、当該光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有する紫外線吸収剤の共存下に光を照射することを特徴とする立体造形用光硬化性組成物の光硬化促進方法。」(特許請求の範囲)
(イ)「従って、本発明の目的は、短い照射時間で硬化する光硬化性組成物を提供することにある。」(段落【0006】)
(ウ)「本発明で用いられる成分(C)の紫外線吸収剤としては、公知の光重合開始剤を用いることができ、具体的には、サリシレート系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩が好ましい。」(段落【0019】)
(エ)「これらの紫外線吸収剤のうち、サリシレート系化合物、トリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物が好ましく、特にサリシレート系化合物、トリアゾール系化合物またはシアノアクリレート系化合物とニッケル錯塩を組合わせて用いるのが好ましい。」(段落【0021】)
(オ)「成分(C)の紫外線吸収剤は、成分(B)の光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有するものを組合わせて使用することが必要である。前記の光重合開始剤は、大別してG線、H線、i線、エキシマ、ディープUVの波長に吸収が最大になるように設計されたものが広く使用されている。従って、例えば(B)光重合開始剤としてi線に中心吸収のあるものを使用する場合には、(C)紫外線吸収剤としてそれ以外の吸収スペクトルを示すものを使用すれば良い。」(段落【0023】)
(カ)「このように、吸収波長の異なる光重合開始剤と紫外線吸収剤を組合わせて使用することにより、硬化反応が促進される。これは、光重合による硬化反応は、光重合開始剤が、該光重合開始剤の有する吸収波長の光を吸収して開始されるが、この光重合開始剤に吸収されず光重合の開始に関与しなかった波長の光が紫外線吸収剤に吸収され、そのエネルギーによって反応の場が活性化されるためと考えられる。」(段落【0024】)
(キ)「(C)紫外線吸収剤の配合量は特に限定されないが、(A)重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物の合計量100重量部に対して0.01〜10重量部、特に0.1〜5重量部であるのが好ましい。10重量部を超えると、コストの面で不利となり、着色や粘着などが生じる場合がある。また、(C)紫外線吸収剤の配合量は(B)光重合開始剤に対して10重量%以上であるのが好ましく、特に20〜500重量%、さらに20〜100重量%であると、所望の硬化速度を得る上で、経済性の点で好ましい。」(段落【0025】)
(ク)「本発明の組成物を用いて立体物を造形するには、通常の方法に従って、光を照射して組成物を硬化させれば良く、その方法は特に制限されない。例えばまず、液状の光硬化性組成物を深さ方向に移動可能なステージを内部に備えた容器に収容し、該ステージを光硬化性組成物の液表面より僅に沈め、該光硬化性組成物表面にレーザービームを走査させたり、平行光とした紫外線などをフォトマスクなどを用いて目的部に選択的に露光し、1回の露光で所定の硬化層を得る。次いで該ステージを一定の深さで沈め、得られた硬化層上に同様にして硬化層を形成する。」(段落【0029】)
(ケ)「なお、露光の際に使用する光源としては、特に制限されず、様々な発光スペクトルを有するランプ、レーザー等を使用することができ、例えば低圧水銀ランプ、中高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプなどを好適に使用できる。
これらのうち、低圧水銀ランプは、真空紫外領域に発光スペクトルを有しており、250nmに中心スペクトルを有し、他に、365、405、436nmに弱いスペクトルを示す。中高圧水銀ランプは、紫外から可視光領域に吸収を有し、主に365nmに中心スペクトルを示す。他に、540、580、436、405nmなどに吸収を有している。メタルハライドランプは、紫外線として365nm付近を強化したもので、他に弱いが405、436nmに可視光スペクトルを示す。超高圧水銀ランプは、350〜400nmにスペクトル域を有している。」(段落【0030】〜【0031】)
(コ)【表1】には、エポキシアクリレート、イソボルニルアクリレート、ビニルピロリドン混合物からなる光重合性化合物100重量部と光重合開始剤4重量部(計104重量部)に対して「紫外線吸収剤a」を0.1重量部(実施例1)、0.5重量部(実施例2)及び1.0重量部(実施例3)を含む組成物が記載されており、「紫外線吸収剤a」として「2-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール(TINUVIN 320)」を用いたことが記載されている。(段落【0033】〜【0040】)

(ii)対比・判断
(ii-1)本件発明1について
先願明細書には、その特許請求の範囲の請求項1に、「次の成分(A)〜(C):(A)光重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物、(B)光重合開始剤、(C)成分(B)の光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有する紫外線吸収剤を含有する立体造形用光硬化性組成物」(摘示記載(ア))の発明が記載されており、該組成物として通常液状のものが用いられること(摘示記載(ク))も記載されている。また先願明細書には、(C)成分の紫外線吸収剤の配合量について、「(A)重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物の合計量100重量部に対して0.01〜10重量部、特に0.1〜5重量部であるのが好ましい」(摘示記載(キ))と記載されており、実施例には、光重合性化合物100重量部と光重合開始剤4重量部(計104重量部)に対して紫外線吸収剤を0.1〜1.0重量部含む組成物(摘示記載(コ))が示されている。先願明細書に記載された「(A)光重合能を有するエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物」及び「(B)光重合開始剤」は、それぞれ、訂正後の本件発明1の「光重合性化合物」及び「光重合開始剤」に相当するものであり、「(C)成分」である「紫外線吸収剤」と訂正後の本件発明1における「光エネルギー吸収剤」とは、実質的に同様の機能を有する薬剤と認められる。
そうすると、本件発明1と先願明細書に記載された発明とは、ともに、
「光重合性化合物および光重合開始剤を含有する液状光硬化性樹脂組成物に光エネルギー吸収剤を添加した光学的立体造形用樹脂組成物」
である点で一致し、光硬化性樹脂組成物の重量に基づく光エネルギー吸収剤の配合量範囲についても重複しているが、次の点で、これらの発明の間には相違が認められる。
(あ)本件発明1においては、光エネルギー吸収剤が「光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する」ものであるのに対して、先願明細書に記載された発明における紫外線吸収剤(光エネルギー吸収剤)は、「光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有する」ものである点。
(い)本件発明1においては、光エネルギー吸収剤が「その1mgをエタノール100mlに溶解した溶液を光路長10mmの石英セルを用いて測定したときに、波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上のものである」としているのに対して、先願明細書にはこのような限定がない点、及び、
(う)本件発明1においては、光学的立体造形用樹脂組成物が「紫外線レーザー光(ただし、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く。)を照射して行う光学的立体造形法で用いる」ものであるのに対して、先願明細書には、光源として複数の波長を有するものが例示(摘示記載(ケ))されている点。

そこで、これらの相違点の内、まず(あ)の点についてみると、本件発明1においては、光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する光吸収剤を用いることにより、「光エネルギー吸収剤が活性エネルギー光線のエネルギーを一部吸収して主にZ軸方向の光エネルギーの進入深度の調節および均一化をもたらして光硬化層の厚さが均一に」なる(段落【0029】)という効果を奏するものであるのに対して、先願明細書に記載された発明は、紫外線吸収剤(光エネルギー吸収剤)として光重合開始剤の吸収波長と異なる吸収波長を有するものを用いることにより、「光重合開始剤に吸収されず光重合の開始に関与しなかった波長の光が紫外線吸収剤に吸収され、そのエネルギーによって反応の場が活性化される」(摘示記載(カ))という効果を目指したものであって、両者は光エネルギー吸収剤の吸収波長域はもとより、それを添加する技術的意味も全く相違するものである。
また、この(あ)の点により、本件発明1が、複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く紫外線レーザー光を照射して立体造形を行うのに対して、先願明細書に記載された発明においては、複数の異なった波長を含む光の使用が必須であるという構成上の差異(相違点(う))が生ずるものである。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であるとすることはできない。

(ii-2)本件発明2〜4について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接又は間接に引用して更に技術的限定を付した光学的立体造形用樹脂組成物に係る発明であり、本件発明4は、本件発明1の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて立体造形物を製造する方法に係る発明であるが、上記のように、その前提となる本件発明1が先願明細書に記載された発明と同一ではない以上、同様の理由により、本件発明2〜4もまた、先願明細書に記載された発明と同一ではない。

3-2-1-2.特許法第29条第1項第3号及び第2項違反について
特許異議申立人Aが提出した甲第1〜6号証(刊行物1〜6)及び特許異議申立人Bが提出した甲第1〜3号証(刊行物7〜9)のいずれにも、本件発明1のように、液状光硬化性樹脂組成物に「光重合開始剤が吸収する光と同じ波長の光を吸収する」光エネルギー吸収剤を含有せしめる点について記載も示唆もされていない。
そして本件発明1はこの点により、訂正された明細書に記載された上記作用効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜9に記載された発明であるとも、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることができない。
本件発明2〜4は、上記のように、その前提となる本件発明1が刊行物1〜9に記載された発明であるとも、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることができない以上、同様の理由により、刊行物1〜9に記載された発明であるとも、刊行物1〜9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともすることができない。

3-2-1-3.特許法第36条第6項第2号違反について
特許異議申立人Bは、訂正前の本件特許明細書の請求項1には光エネルギー吸収剤について「波長域300〜350nmにおける吸光度が0.1以上」と記載されているが、この記載は「波長域300〜350nmの範囲内の少なくとも一点おける吸光度が0.1以上」の意味と「波長域300〜350nmの範囲内の全域における吸光度が0.1以上」の2通りに解釈でき、訂正前の明細書の記載からみてもそのいずれかに定めることができないので、請求項1の記載からは特許を受けようとする発明が明確でない、という点で訂正前の明細書の記載には不備がある旨主張している。
しかしながら、上記訂正によって、紫外線レーザー光が「複数の異なった波長の紫外線を含む紫外線レーザー光を除く」ものであることが請求項1の記載に付加されたことにより、光エネルギー吸収剤は300〜350nmの波長域の内の特定波長において0.1以上の吸光度を有するものであれば良いことがより明確になった。
したがって、訂正後の本件明細書に、特許異議申立人Bが主張する記載不備は認められない。

4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1〜4を取り消すことができない。
また、他に本件発明1〜4についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2004-09-07 
出願番号 特願平7-291699
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B29C)
P 1 651・ 161- Y (B29C)
P 1 651・ 113- Y (B29C)
P 1 651・ 121- Y (B29C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤本 保  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 船岡 嘉彦
大熊 幸治
登録日 2000-10-06 
登録番号 特許第3117394号(P3117394)
権利者 ナブテスコ株式会社
発明の名称 光学的立体造形用樹脂組成物  
代理人 辻 邦夫  
代理人 宮崎 嘉夫  
代理人 中村 壽夫  
代理人 加藤 勉  
代理人 辻 良子  
代理人 萼 経夫  
代理人 衡田 直行  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ