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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) G01N
管理番号 1118560
審判番号 無効2003-35086  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-08-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-03-10 
確定日 2005-03-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3316664号発明「紫外線酸化分解法による全リン測定方法および装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第3316664号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3316664号の請求項1ないし2に係る発明についての出願は、平成8年1月24日に特許出願され、平成14年6月14日に設定登録がなされた。
これに対して、請求人より平成15年3月10日に本件無効審判の請求がなされ、被請求人は平成15年5月30日付けの答弁書及び訂正請求書(後に取り下げ)を提出した後、平成15年7月18日付けの上申書を提出し、請求人は平成15年8月18日付けの弁ぱく書および平成15年9月29日付けの上申書を提出した。
その後、当審において、平成15年10月14日付けで無効理由を通知したところ、被請求人は、その指定期間内である平成15年12月16日に訂正請求書を提出して訂正を求めているものである。

II.訂正の適否
平成15年12月16日付け訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という)の適否について以下検討する。
1.本件訂正の内容
本件訂正は、次のとおり明細書の記載を訂正しようとするものである。すなわち、
<訂正事項1>
特許請求の範囲の請求項1において、「採取した試料水に酸化刻と硫酸を添加した後、加熱条件下で所定時間紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、」とある記載を、
「採取した試料水に酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した後、ヒータとともに紫外線ランプを用い、該ヒータにより試料水を常圧下、100℃未満で縮合リン酸を酸化分解可能な高温に加熱した状態で、所定時間該紫外線ランプにより紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、」
に訂正する。
<訂正事項2>
特許請求の範囲の請求項2において、「採取した試料水に酸化剤と硫酸を添加した後、加熱条件下で所定時間紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、その後、前記オルトリン酸を含む試料水に還元剤と発色剤を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する」とある記載を、
「酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した試料水を95℃に加熱可能なヒータと、該ヒータにより試料水を加熱した状態で、試料水に所定時間紫外線を照射する紫外線ランプとを有し、縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる紫外線酸化分解器と、
還元剤水溶液と発色剤水溶液を貯蔵するタンクと、
前記酸化分解後の試料水に前記タンクから供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルとを有する」
に訂正する。
<訂正事項3>
特許明細書の段落【0006】の第4行目から第7行目の、「採取した試料水に酸化剤と硫酸を添加した後、加熱条件下で所定時間紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、」とある記載を、「採取した試料水に酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した後、ヒータとともに紫外線ランプを用い、該ヒータにより試料水を常圧下、100℃未満で縮合リン酸を酸化分解可能な高温に加熱した状態で、所定時間該紫外線ランプにより紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、」に訂正し 、また、同段落の第11行目から第14行目の「採取した試料水に酸化剤と硫酸を添加した後、加熱条件下で所定時間紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、」とある記載を、「酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した試料水を95℃に加熱可能なヒータと、該ヒータにより試料水を加熱した状態で、試料水に所定時間紫外線を照射する紫外線ランプとを有し、縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる紫外線酸化分解器と、還元剤水溶液と発色剤水溶液を貯蔵するタンクと、前記酸化分解後の試料水に前記タンクから供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルとを有する」に訂正する。

2.訂正の適否についての検討
(1)訂正の目的
訂正事項1は、酸化剤をその下位概念であるペルオキソ二硫酸カリウムに限定するとともに、加熱条件下で紫外線照射する方法を、ヒータとともに紫外線ランプを用い、該ヒータにより試料水を常圧下、100℃未満で縮合リン酸を酸化分解可能な高温に加熱した状態で、該紫外線ランプにより紫外線照射を行う方法に限定したものであり、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2は、酸化剤をその下位概念であるペルオキソ二硫酸カリウムに限定するとともに、訂正前の記載が全リン測定装置の記載としてはどのような装置でオルトリン酸への酸化分解とその定量を行うのかその構成が明りょうでなかったものを、その全リン測定装置が、酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した試料水を95℃に加熱可能なヒータと、該ヒータにより試料水を加熱した状態で、試料水に所定時間紫外線を照射する紫外線ランプとを有し、縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる紫外線酸化分解器と、還元剤水溶液と発色剤水溶液を貯蔵するタンクと、前記酸化分解後の試料水に前記タンクから供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルとを有する装置であると限定しかつ明りょうになるように訂正したものであり、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮および明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項3は、特許請求の範囲の記載との整合性を図るために発明の詳細な説明を訂正するのものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
(2)新規事項の有無、拡張・変更
酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムを使用することは、特許明細書の実施例にも記載されている。
そして、特許明細書の段落【0002】〜【0003】に、【発明が解決しようとする問題点】として、酸化剤の存在下、加圧下で120℃に加熱して種々の形態で存在するリン化合物を酸化分解するオートクレーブ法とその問題点が、続く段落【0004】に「紫外線を照射させることにより、比較的低温(100℃以下)かつ常圧下で酸化分解可能を行う紫外線酸化分解法では、分解容器の耐熱性や耐圧性の負担は軽減されるが、縮合リン酸の測定は困難であった。」と記載され、段落【0005】で「本発明は、このような実状に鑑みてなされ、試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析することのできる紫外線酸化分解法による全リン測定方法およpび装置を提供することを目的としている。」と記載され、常圧下、100℃未満の95℃で紫外線酸化分解した実施例も記載されているから、訂正事項1,3の常圧下、100℃未満で紫外線酸化分解することが、願書に添付された明細書又は図面に記載された範囲内の事項ではないとはいえない。全リン測定装置についての訂正事項2、3は、実施例についての段落【0008】〜【0016】および【図2】に記載されている。
しかも、それらの訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものでもない。

3.訂正の適否について
そうすると、上記訂正は、平成15年改正前の特許法第134条第2項ただし書き及び同第5項で準用する平成15年改正前の特許法第126条第2項〜第3項の規定に適合するので、上記訂正を認める。

III.無効理由について
1.訂正後の本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、訂正後の請求項1ないし2に係る発明は、次のとおりのものである。(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)
「【請求項1】試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リン測定方法において、採取した試料水に酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した後、ヒータとともに紫外線ランプを用い、該ヒータにより試料水を常圧下、100℃未満で縮合リン酸を酸化分解可能な高温に加熱した状態で、所定時間該紫外線ランプにより紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、その後、前記オルトリン酸を含む試料水に還元剤と発色剤を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量することを特徴とする紫外線酸化分解法による全リン測定方法。
【請求項2】試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リン測定装置において、
酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した試料水を95℃に加熱可能なヒータと、該ヒータにより試料水を加熱した状態で、試料水に所定時間紫外線を照射する紫外線ランプとを有し、縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる紫外線酸化分解器と、
還元剤水溶液と発色剤水溶液を貯蔵するタンクと、
前記酸化分解後の試料水に前記タンクから供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルとを有することを特徴とする紫外線酸化分解法による全リン測定装置。」

2.引用刊行物とその記載事項
2-1.引用刊行物
当審において通知した無効理由に引用した刊行物は、次のものである。
刊行物1:Talanta、33(1)、pp.98-100(1986)(甲第1号証)
刊行物2:ЖЧРНАЛ АНЛИТИКОИ ХИИ Том45、Вып.8、第1615〜1623頁(1990) (弁ぱく書添付の参考資料1)
刊行物3:Analytical Chemistry、50(6)、pp.707-711(1978)(甲第2号証)
刊行物4:特開平7-311155号公報(甲第3号証)
刊行物5:特開平7-27758号公報(被請求人の平成15年7月18日付上申書添付の参考資料)

2-2.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1の記載事項
「紫外線照射を用いた光化学分解による水中の全リンの定量」と題する論文である刊行物1には、
(1a)要約の項に、「要約-自然水および汚水に含まれる全リンの定量について、簡単で便利な光化学分解法が開発された。有機リン化合物および無機ポリリン酸塩は、0.3M硫酸および0.12%ペルオキソ二硫酸カリウムが存在下において、50分間の照射により完全にオルトリン酸塩に転化し得る。」(第98頁7〜10行)と記載され、
(1b)実験装置について、「反応器(図1)は、1000W高圧水銀アークランプ(・・製)、反応器本体(長さ65cm、直径24cm)と冷却ファンにより構成されている。・・・反応器には容量50mlのサンプル管が12本をセットすることができる。サンプル管は石英ガラス製で、小さな穴があけられた栓により、照射中に発生する圧力を逃がす構造となっている。」と記載され(第98頁左欄下から6行〜右欄2行)、第98頁右欄下部に対応する図1が示され、
(1c)実験手順について、「校正曲線は、Shoji等4により記述された方法を用いて作成する。光分解を標準品に適用するか否かに関わらず同じ勾配が得られる。光分解の場合、リン含有溶液(10〜30ml)をサンプル管にピペットで移す。それぞれに3.0%ペルオキソ二硫酸カリウム2.0ml、および7.5M硫酸1.0mlを加え、再蒸留水を使って50mlとする。サンプル管を反応器に入れてランプを点灯させる。10分間照射を行った後に冷却ファンを作動させ、事前に設定した時間の間照射を継続する。冷却後、オルトリン酸塩の定量に適した量をピペットで採取する。水分析の場合も同じ手順を使用するが、照射時間は合計50分とする。」と記載され(第98頁右欄19行〜第99頁左欄5行)、
(1d)「結果と考察」の項において、「酸性度」について、無機ポリリン酸塩の加水分解における主要要因は、溶液の酸性度と温度であって、加水分解は、酸の濃度に依存し、またペルオキソ二硫酸カリウムの有無は結果に影響を及ぼさないことが分かること、酸性度を0.3M硫酸より高くした場合には加水分解率は目立った上昇を示さず、その後の実験においては、照射用pHと再びの最終定量用pHの無駄なpH調整を避けるために、0.3M硫酸を使用したことが、ポリリン酸塩の加水分解における酸性度の影響を実験したデータを示す「表1」と共に記載され(第99頁左欄7行〜右欄3行)、
(1e)続いて、「温度と照射時間」について、「無機ポリリン酸塩の加水分解率は温度に依存する。我々の反応器の場合、加水分解に必要な熱は高圧水銀アークランプにより供給される。冷却を制御する本提案システムを使用する方が、一般に使用されている冷却方法を用いるよりもはるかに短時間でサンプル溶液を沸点に到達させられることが分かっている。異なる冷却方法を用い場合の温度と照射の関係を図2に示す。0.3M硫酸を用いて冷却制御を行った場合の結果を表2に示すが、40分以上照射しても溶液中のオルトリン酸濃度は増加しないことが分かる。光分解が確実に行われるように50分間の照射を行い、その後、分析によりオルトリン酸塩の含有量を調べる。」(第99頁右欄4行〜第100頁左欄12行)と記載され、図2には、温度と照射時間の関係を10分間照射後に冷却ファンを作動した場合(○-○)とランプと冷却ファンを同時に作動した場合(●-●)で示され、前者の場合には約25分で、後者の場合は約10分で100℃に到達する様子が示されている(第99頁左欄)。

(2)刊行物2の記載事項
「低圧水銀灯を用いた有機物質の光化学酸化による天然水中に溶解した炭素とリンの有機的形態の同時測定」と題する論文である刊行物2には、
(2a)各種水銀ランプによる紫外線照射について、(i)低圧水銀石英ランプは、ペルオキソ硫酸カリウムと組み合わせて、紫外線照射の作用によって形成される二酸化炭素の量によって天然水中の溶解有機炭素を測定する際の溶解有機物質の光酸化のためにうまく用いられていたこと、(ii)紫外線照射によるサンプル酸化が、窒素とリンの溶解形態の濃度を調べるために、すでに約20年用いられ、この際、主に中圧あるいは高圧の水銀石英ランプが用いられてきたが、これらのランプの発光スペクトル全体における紫外線照射の割合はあまり大きくなく、可視光線と赤外線の割合が大きく、赤外線は照射を受ける対象を沸騰にいたるまでの加熱を招くので、それを避けるためにランプの照射を受ける液体からある程度離す必要があり、これが溶解有機物質の光化学酸化の効率を著しく低下させ、また器具の構造を複雑にすること、(iii)ところが、低圧の水銀石英ランプは紫外線照射の割合が高く、可視光線と赤外線の割合が低いことを特徴とするので、照射を受ける液体と接蝕させることもでき、そのため光化学酸化の効率を著しく高め、またサンプルを強く加熱することもない(40℃以下[2])ことが記載されている(第1615頁第9行〜36行)と共に、
(2b)「結果とその考察」の項の中で、リンについて、ペルオキソ硫酸塩の存在の下での溶解有機物質中に含まれるリンのオルトリン酸塩に至るまでの酸化は、紫外線照射の作用下でも恒温の作用下でも、酸性溶液(H2SO4が0.1〜0.2M)の中でもっとも完全に起こること、そして比較的低出力の低圧水銀灯による紫外線照射が0.01〜0.02Mのペルオキソ硫酸カリウムを含む0.005〜0.1Mの硫酸中で有機リンをオルトリン酸塩に変化させるのに効果があることが分かったことなどが記載され(第1619頁6行〜24行)、
(2c)変化後の溶液中のオルトリン酸塩の測定は、中和後にモリブデン酸アンモニウム溶液とアンチモニル酒石酸カリウム、硫酸、アスコルビン酸の混合物からなる混合試薬を用いて、モリブドリンヘテロポリ酸の生成による発色を882nmの波長で吸光光度計で測定することにより行うことが記載されている(第1616頁21行〜25行、第1621頁30行〜48行、特に41行〜45行)。
なお、刊行物2において「ペルオキソ硫酸カリウム」と呼ばれている物質が、「ペルオキソ二硫酸カリウム」であることは、第1619頁2行のその光化学反応式から明らかである。

(3)刊行物3の記載事項
「有機リン化合物の光化学分解と加水分解後の天然水および汚水中のリンの定量」と題する論文である刊行物3には、
(3a)「水サンプルに含まれる全溶解および浮遊リン酸塩は、有機リン化合物の光化学分解と酸加水分解性リン酸塩の熱加水分解を行った後に、遊離オルトリン酸塩を従来の分光光度法でモリブデンブルーとして定量することにより定量することができる。ここで説明する手順では、光分解および加水分解用に75Wの中圧Zn-Cd-Hgランプを使用する。ランプによりUV照射と加熱を同時に行うことで、有機リン酸塩と酸加水分解性リン酸塩が同時にオルトリン酸塩に転化される。薄いアルミニウム板をランプと酸性化サンプル溶液の間に置くと加水分解のみが行われる。この方法により、オルトリン酸塩、・・・全リン酸塩を定量することができる。この方法では煩雑で時間のかかる化学的前処理は不要で、自動化も容易である。」と記載されている(第707頁左欄下から22〜7行)と共に、
(3b)複合Zn-Cd-Hgランプ(中圧、75W)が非常に優れた光源であり、低圧単一素子ランプ(Zn、CdまたはHg、12〜15W)と異なり、この論文の装置において使用した複合ランプは、サンプル溶液を6分で沸点まで加熱するのに丁度良いだけの熱を発生させ、酸性溶液中で照射を行うと、縮合リン酸塩の加水分解は約20〜25分で完了することが記載され(第708頁左欄32行〜40行)、
(3c)実験の装置についての項で、75Wの中圧Zn-Cd-Hgランプと低圧ランプ(Zn、CdまたはHg、12〜15W)の放射するZn、Cd、またはHgスペクトル(重要な輝線はそれぞれ214,229,254nm)について説明され、Zn-Cd-Hgランプが200〜250nmの範囲において好ましい放射を行うこと、多くの有機リン化合物のモル吸光率はこの範囲において、波長の減少とともに著しく増加するため、これが重要な特性であり、従来のHgまたはXe高圧ランプの放射が250nm以下において著しく低下するので、Zn-Cd-Hg光源の使用が有益であることが記載され(第708頁右欄5行〜23行)、
(3d)分析手順は、試料水に溶液A(硫酸)添加した後に、所定時間照射し、分解後の溶液を冷却後、溶液B(モリブデン酸アンモニウム)と、溶液C(アスコルビン酸、酒石酸アンチモニルカリウム、EDTAおよび蟻酸の混合溶液)を加え、880nmで吸光度測定により、モリブデンブルーとして定量することが記載されている(第708頁左欄下から11行〜3行、第709頁右欄2行)。

(4)刊行物4の記載事項
「水中の窒素化合物濃度及びリン化合物の分析装置」の発明に関する刊行物4には、(4a)本件特許明細書記載の【発明が解決しようとする問題点】(上記II.2(2)参照)と同様に、「また、酸化剤による酸化方法では水の沸点以上の120℃というような高温に加熱するため、耐圧構造の反応釜を必要とし、酸化装置の構造や操作が複雑になり、高価格になる問題がある」ことも、【発明が解決しようとする問題点】のひとつであることが記載され(【0005】)、(4b)試料水を50〜100℃に加温し、光酸化触媒としてのTiO2又はPtやRuO2を添加したTiO2の存在下でその試料水に紫外線を照射して試料水中の窒素化合物とリン化合物を同時に酸化して窒素化合物から硝酸イオン、リン化合物からリン酸イオンを生じさせる酸化反応槽を備え、生じたリン酸イオンを、測定槽でモリブデン酸アンモニウム溶液とL-アスコルビン酸溶液と反応させて得た発色液の吸光度を測定することによりリン化合物濃度を算出する分析装置が記載され(特許請求の範囲、【0011】〜【0020】、【図2】)、(4c)【0037】の第10欄30〜36行にも「吸光測定セル252には発色剤218,220をペリスターポンプ222を介して供給する発色剤供給管224が接続されている。発色剤218,220はリン酸イオンと反応して発色するものであり、発色剤218はモリブデン酸アンモニウム溶液、発色剤220はL-アスコルビン酸溶液である。」と記載されているように、発色剤であるモリブデン酸アンモニウム溶液と還元剤であるL-アスコルビン酸溶液が供給される測定個所を測定セルとすることも【0032】〜【0040】、【図7】〜【図8】に記載され、明記はされていないが、【図8】中で上記符号218、220が付されている箇所には、液体等の収納物がテーパが設けられた下端部から排出されるタンクを通常表す図形が記載されており、(4d)さらに、試料水の加温手段として反応槽の外側にシースヒータを埋め込んだヒートシンクを設けること、および紫外線の照射手段として低圧水銀灯を使用することが実施例として記載されている(【0013】、【0012】)。

(5)刊行物5の記載事項
同様に、「水中の窒素化合物及びリン化合物の分析方法並びに光酸化分解装置」の発明に関する刊行物5にも、オートクレーブ法の問題点や、試料水を50〜100℃に加温し、酸素またはオゾンを含有するガスを吹き込みながら、その試料水に紫外線を照射して試料水中の窒素化合物とリン化合物を同時に酸化して窒素化合物から硝酸イオン、リン化合物からリン酸イオンを生じさせる酸化反応槽を備え、生じたリン酸イオンを測定槽でモリブデン酸アンモニウム溶液とL-アスコルビン酸溶液とを供給して反応させて得た発色液の吸光度を測定することが記載され(特許請求の範囲、【0005】、【0012】〜【0020】、【図2】)、試料水の加温手段として反応槽にカートリッジヒータを埋め込むこと、および紫外線の照射手段として低圧水銀灯を使用することが実施例として記載されている(【0014】、【0013】)。

3.対比、検討
3-1.本件発明1について
イ)刊行物1記載の発明
刊行物1において水中の有機リン化合物および無機ポリリン酸塩が光化学酸化分解後に転化する「オルトリン酸塩」は、本件特許明細書に記載の縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解して変化させた「オルトリン酸」と相違するものではない(刊行物2,3の「オルトリン酸塩」、および刊行物4,5の「オルトリン酸イオン」も同様である。)。
また、刊行物1記載の照射時間50分という紫外線酸化分解条件と冷却ファンの使い方の異なる2つの時間-温度曲線についての図2の記載から、刊行物1記載の全リン測定方法の紫外線酸化分解時においては、試料水が高圧水銀ランプの照射により常圧下、100℃すなわち沸点まで加熱されているものと認められるから、刊行物1には、試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リン測定方法において、採取した試料水に酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した後、高圧水銀ランプを用い、冷却ファンを併用しつつ所定時間高圧水銀ランプにより紫外線を照射して、試料水を常圧下、沸点まで加熱した状態で、縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、その後、前記オルトリン酸を含む試料水を分析して前記オルトリン酸を定量する紫外線酸化分解法による全リン測定方法が記載されている。

ロ)一致点、相違点
本件発明1と刊行物1に記載された発明とを比較すると、両者は、
「試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リン測定装置において、採取した試料水に酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した後、紫外線ランプを用い、試料水を常圧下で縮合リン酸を酸化分解可能な高温に加熱した状態で、所定時間該紫外線ランプにより紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、その後、前記オルトリン酸を含む試料水を分析することにより前記オルトリン酸を定量する紫外線酸化分解法による全リン測定方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
紫外線照射時における試料水の常圧下での加熱手段として、訂正本件発明1では、紫外線ランプとともにヒータを用いて、該ヒータにより試料水を100℃未満で縮合リン酸を酸化分解可能な高温に加熱した状態で、加熱するのに対して、刊行物1記載の発明では、使用する紫外線ランプが高圧水銀ランプであるので、冷却ファンを併用して該ランプからの照射だけで試料水の沸点まで加熱ができ、ヒータを別途必要としない点。
(相違点2)
オルトリン酸を定量するためのオルトリン酸を含む試料水の分析方法が、訂正本件発明1では、還元剤と発色剤を添加して吸光度法によりオルトリン酸を定量するのに対し、刊行物1には、分析方法が具体的に記載されていない点。

ハ)これらの相違点について検討する。
(i)相違点1について
酸化剤や硫酸のような腐食性物質を含む試料水を100℃を超える高温で処理することは、処理装置に耐熱性や耐圧性、耐薬品性等の負担をかける問題点があることは、本件特許明細書の従来技術の記載を参照するまでもなく、技術常識にすぎず、そのような負担が軽減される、常圧下で比較的低い100℃を超えないような温度条件下での、全リン測定のための縮合リン酸のオルトリン酸への加水分解法が研究開発されていることは、刊行物4,5にも記載されているとおりである(前記2.(4)、(5))。
一般に、反応は加熱により促進されることが多く、縮合リン酸のオルトリン酸への加水分解も、溶液の酸性度と温度に左右されることが刊行物1に記載されている(前記記載(1d)、(1e)参照)。刊行物1記載の方法では、なるほど沸点まで加熱されて縮合リン酸のオルトリン酸への加水分解が行われているが、硫酸が添加された酸性条件下においては、100℃を少し下回った加熱状態であるからといって、反応速度が遅くなることがあるとしても、当該加水分解が起こらないと当業者が理解するような開示が、刊行物1に存在するわけでもない。また、試料水の沸騰加熱は、測定精度に好ましくない影響を及ぼす可能性のある、沸騰に伴うミスト状での試料水の飛散損失や試料水の体積変化等も伴うことも懸念される実験条件であるし、できるだけ低い温度で酸化分解を行うことが、必要なエネルギーの観点からも、技術上の一般的要請にすぎない。また、試料の分析にあたり、高温加熱状態で処理した後に常温で分析しなければならない場合は、できるだけ低い温度での高温加熱処理の方が常温までの冷却に要する時間的、エネルギー的の観点から望ましいことも、当業者であれば技術常識として認識しているレベルの事項にすぎない。
そして、従来、有機リン化合物を紫外線照射による酸化に用いられていた中圧あるいは高圧の水銀石英ランプは、そのランプの発光スペクトル全体における紫外線照射の割合があまり大きくなく、可視光線と赤外線の割合が大きく、赤外線による好ましくない照射試料の加熱を生じ、器具構造の複雑化等の不都合を招く一方、低圧の水銀石英ランプは紫外線照射の割合が高く、可視光線と赤外線の割合が低いことを特徴とするので、照射を受ける液体と接蝕させることもでき、そのため光化学酸化の効率を著しく高め、またサンプルを強く加熱することもない(40℃以下)こと、そして、試料水に酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した後、低圧水銀ランプを用いて所定時間紫外線照射を行うことにより有機物質に含まれるリンのオルトリン酸への酸化が完全に行えることが、刊行物2に記載されている(前記記載(2a)、(2b)参照)。
さらに、刊行物3にも、ランプから放射される紫外線波長に関して、有機リン化合物のモル吸光率の著しく増加する波長のより短い紫外線を放射する低圧水銀ランプのような紫外線ランプのほうが、高圧水銀ランプに比べて好ましいことが記載されている(前記記載(3c)参照)。
低圧水銀ランプは、刊行物2にも記載されているように、試料水を50℃を超える温度に加熱するほどの赤外線等を放射しないので、試料水を常圧下、高温に加熱した状態で、所定時間該紫外線ランプにより紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる際に、低圧水銀ランプを紫外線ランプとして使用する場合は、ヒータとともに用い、該ヒータにより試料水を100℃未満で縮合リン酸を酸化分解可能な高温に加熱した状態で、オルトリン酸に変化させることが、刊行物4,5にも記載されている。
そうすると、刊行物1に特に高圧水銀ランプを使用した際の不都合点が記載されていないとしても、刊行物1においては、刊行部2にも示唆されている試料水の過剰過熱を防止する冷却ファンを併用しつつ試料水の沸点までの加熱に高圧水銀ランプを使用しているものであるから、刊行物1の冷却ファンを併用しつつ試料水の加熱手段兼紫外線放射源として使用されている高圧水銀ランプに代えて、より穏和な条件を選択できる、低圧水銀ランプをヒータとともに用い、該ヒータにより試料水を100℃未満で縮合リン酸を酸化分解可能な高温に加熱した状態で、オルトリン酸に変化させるようなことに、格別の困難性は認められない。
(ii)相違点2について
刊行物2〜5にも記載のように、オルトリン酸を定量するためのオルトリン酸を含む試料水の分析方法として、還元剤と発色剤を添加して吸光度法によりオルトリン酸を定量することは、慣用されている方法にすぎない。
(iii)そして、被請求人の提出した平成15年12月16日付けの意見書における確認実験も、その実験条件と結果の関係は、刊行物1の縮合リン酸のオルトリン酸への加水分解の主要要因は溶液の酸性度と温度であるとの記載から当然予測される範囲内のものであって、上記相違点の構成による効果が、予測される範囲内のものではないことを示すものとは認められない。

3-2.本件発明2について
イ)刊行物1記載の装置
さらに、刊行物1には、試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リンの測定を行う装置において、酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した試料水を、高圧水銀ランプを有し、試料水に冷却ファンを併用しつつ所定時間高圧水銀ランプにより紫外線を照射して、試料水を常圧下、沸点まで加熱した状態で、縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる紫外線酸化分解器を有し、前記酸化分解後のオルトリン酸を含む試料水をピペットで採取、分析して前記オルトリン酸を定量する手段とを組み合わせて紫外線酸化分解法により全リン測定を行う装置が記載されている。

ロ)一致点、相違点
本件発明2と刊行物1に記載された装置とを比較すると、両者は、
(一致点)
「試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リン測定を行う装置において、
酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した試料水を、加熱した状態で、試料水に所定時間紫外線を照射する紫外線ランプを有し、縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる紫外線酸化分解器と、前記酸化分解後の試料水を分析して前記オルトリン酸を定量する手段とを組み合わせて紫外線酸化分解法により全リン測定を行う装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
紫外線酸化分解器の紫外線照射時における試料水の加熱手段として、本件発明2では、紫外線酸化分解器が紫外線ランプに加えて、試料水を95℃に加熱可能なヒータを有するものであるのに対し、刊行物1記載の装置では、紫外線酸化分解器が紫外線ランプとして高圧水銀ランプを有するものであって、冷却ファンを併用しつつ該ランプからの照射だけで試料水を沸点まで加熱ができるので、試料水を加熱するためのヒータを別途有していない点。
(相違点2)
酸化分解後の試料水のオルトリン酸を定量分析する手段が、本件発明2では、還元剤水溶液と発色剤水溶液を貯蔵するタンクと、前記酸化分解後の試料水に前記タンクから供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルであって、全リン測定を行う装置が『紫外線酸化分解器と、還元剤水溶液と発色剤水溶液を貯蔵するタンクと、前記酸化分解後の試料水に前記タンクから供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルとを有する全リン測定装置』という一つの装置として構成された装置であるのに対し、刊行物1記載の装置では、該定量分析手段が具体的に記載されていないとともに、紫外線酸化分解器から酸化分解後の試料水をピペットで採取し別途分析するもので、全リン測定を行う装置が紫外線酸化分解器を含めた一つの全リン測定装置として構成されたものではない点。

ハ)これらの相違点について検討する。
(i)相違点1について
前記3-2.ハ)(i)で検討したように、全リン測定のために、試料水を常圧下、高温に加熱した状態で、所定時間該紫外線ランプにより紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる刊行物1記載の紫外線酸化分解器において、冷却ファンを併用しつつ試料水の加熱手段兼紫外線放射源として使用されている高圧水銀ランプに代えて、ヒータとともに低圧水銀ランプを用い、該ヒータを試料水を100℃未満で100℃に近い95℃に加熱可能なものして、オルトリン酸に変化させるようにすることは、当業者が容易に設計し得る範囲内の事項にすぎない。
(ii)相違点2について
刊行物2〜5にも記載のように、オルトリン酸を定量するためのオルトリン酸を含む試料水の定量分析方法として、還元剤と発色剤を添加して吸光度法によりオルトリン酸を定量することは、慣用されている方法にすぎない。
しかも、刊行物4に、紫外線酸化分解器と、還元剤水溶液と発色剤水溶液との供給源と、前記酸化分解後の試料水に前記供給源から供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルとを有する一つの装置として構成された全リン測定装置が記載されている。水溶液状態の分析試薬の供給源として試薬水溶液を貯蔵するタンクは常套手段にすぎないから、酸化分解後の試料水をピペットで採取して別途分析する手段でオルトリン酸を定量分析するのではなく、刊行物4にも記載されているように、紫外線酸化分解器と、還元剤水溶液と発色剤水溶液を貯蔵するタンクと、前記酸化分解後の試料水に前記タンクから供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルとを有する全リン測定装置という一つの装置として試料水中の全リンを測定する装置を設計することは、当業者が適宜必要に応じてなしえる範囲内の事項である。
(iii)そして、本件発明1におけるものと同様、上記相違点の構成による効果も、予測される範囲内のものであって格別のものとは認められない。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1および本件発明2は、本願出願前外国及び日本において頒布された上記刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、平成15年改正前の特許法第123条第1項第2号に該当し、その特許を無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
紫外線酸化分解法による全リン測定方法および装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リン測定方法において、採取した試料水に酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した後、ヒータとともに紫外線ランプを用い、該ヒータにより試料水を常圧下、100℃未満で縮合リン酸を分解可能な高温に加熱した状態で、所定時間該紫外線ランプにより紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、その後、前記オルトリン酸を含む試料水に還元剤と発色剤を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量することを特徴とする紫外線酸化分解法による全リン測定方法。
【請求項2】 試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リン測定装置において、
酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した試料水を95℃に加熱可能なヒータと、該ヒータにより試料水を加熱した状態で、試料水に所定時間紫外線を照射する紫外線ランプとを有し、縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる紫外線酸化分解器と、
還元剤水溶液と発色剤水溶液を貯留するタンクと、
前記酸化分解後の試料水に前記タンクから供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルとを有することを特徴とする紫外線酸化分解法による全リン測定装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析するための紫外線酸化分解法による全リン測定方法および装置に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
種々の形態で存在するリン化合物を酸化分解する方法として試料に酸化剤を添加した後、これをオートクレーブと称される加水分解槽内に投入し、加圧下で120℃に加熱した状態を30分間保持するオートクレーブ法がよく知られ、この方法を採用した全リン自動測定装置も実用に供されており、その状態では、縮合リン酸を含めた全リンの測定が可能である。
【0003】
しかし、前記オートクレーブは高い耐熱性、耐圧性、耐薬品性等が求められるため、セラミックスや特殊金属合金材等の特殊な材料が用いられ、高価になり、また、寿命も短いという難点があった。
【0004】
一方、紫外線を照射させることにより、比較的低温(100℃以下)かつ常圧下で酸化分解を行う紫外線酸化分解法では、分解容器の耐熱性や耐圧性の負担は軽減されるが、縮合リン酸の測定は困難であった。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされ、試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析することのできる紫外線酸化分解法による全リン測定方法および装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明では、試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リン測定方法において、採取した試料水に酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した後、ヒータとともに紫外線ランプを用い、該ヒータにより試料水を常圧下、100℃未満で縮合リン酸を分解可能な高温に加熱した状態で、所定時間該紫外線ランプにより紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、その後、前記オルトリン酸を含む試料水に還元剤と発色剤を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量するようにしている。そして、本発明では、試料水中の縮合リン酸を含めた全リンを定量分析する紫外線酸化分解法による全リン測定装置において、酸化剤としてペルオキソ二硫酸カリウムと硫酸を添加した試料水を95℃に加熱可能なヒータと、該ヒータにより試料水を加熱した状態で、試料水に所定時間紫外線を照射する紫外線ランプとを有し、縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させる紫外線酸化分解器と、還元剤水溶液と発色剤水溶液を貯留するタンクと、前記酸化分解後の試料水に前記タンクから供給された還元剤水溶液と発色剤水溶液を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量する測定セルとを有するようにしている。
【0007】
縮合リン酸をオルトリン酸に変化させるプロセスは加水分解であり、酸性・高温下で分解速度が大となる。そこで、試料水に酸を添加してから紫外線照射を行うことにより、縮合リン酸の測定が可能となる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の紫外線酸化分解法による全リン測定方法および装置の実施の形態について詳細に説明する。図2は本発明の方法を実施するための全リン自動測定装置の要部構成図で、符号1は試料水取入口、2は試料計量管、3は希釈槽、4は混合槽、5は紫外線酸化分解器で、紫外線ランプ51、分解槽52、ヒータ53等を有する。
【0009】
6は紫外線による酸化分解後の試料水を計量するための計量管、7は測定セルで光源71、セル本体72、検出器73等よりなる。8は排出口、9はブランク水の取入口、10は希釈槽3および混合槽4にブランク水を供給するためのブランク水タンクである。
【0010】
11はモリブデン酸アンモニウム・酒石酸アンチモニルカリウム水溶液を貯留する発色剤用のタンク、12はL-アスコルビン酸水溶液を貯留する還元剤用のタンク、13はペルオキソニ硫酸カリウム水溶液を貯留する酸化剤用のタンク、14は硫酸を貯留するタンクである。なお、15は三方切換弁、Pは送給用のポンプである。
【0011】
上述のような全リン自動測定装置によって、以下のようにして縮合リン酸を含めた全リンの定量分析を信頼性よく行うことができる(図1の測定フロー参照)。まず、試料計量管2で一定量の試料水を計量し、これを希釈槽3内に導入し、必要な場合には、ブランク水タンク10からブランク水を導入して希釈する。次に、この試料水を混合槽4に導入する。
【0012】
次いで、必要な場合には、ブランク水を導入して希釈し、タンク13から酸化剤であるペルオキソ二硫酸カリウム水溶液を注入し、さらに、タンク14から硫酸を注入する。これにより前処理が終了する。
【0013】
混合槽4内での前処理が終了した後、試料水を分解槽52内に導入し、常圧下で、ヒータ53により95℃に加熱した状態にて45分間紫外線ランプ51を照射させ、リン化合物をオルトリン酸イオンに変える。
【0014】
このリン化合物をオルトリン酸に変化させるプロセスは加水分解であるが、前処理段階で硫酸を添加しているので、酸性かつ高温の条件下でその分解速度が大となるため、縮合リン酸をもオルトリン酸に変化させることができることになる。
【0015】
次いで、酸化分解後の試料水を計量管6に導入し所定量計量し、タンク12からL-アスコルビン酸水溶液を注入した後、セル本体72内に導入して、タンク11からモリブデン酸アンモニウム・酒石酸アンチモニルカリウム水溶液を注入して、モリブデン青を発生させ、880nmの吸光度を測定してダーク補正とゼロ点補正を行い縮合リン酸を含む全リン濃度を求める。なお、より信頼性の高い測定を行うために、測定毎にブランク水をゼロ水として用いた自動ゼロ校正を行うのが好ましい。
【0016】
オルトリン酸の定量は、一般に、モリブデンブルー吸光光度法が採用されており、これは硫酸酸性下で行うため、通常は、硫酸水溶液に溶かした発色剤を用いるが、本発明では、発色剤を水溶液とし、その硫酸を紫外線照射前に添加している。
【0017】
全リン濃度の測定は、種々のリン化合物を酸化分解によってオルトリン酸に変化させ、そのオルトリン酸を定量することにより全リン濃度を求めるのであるが、本発明では、酸性・高温下で、縮合リン酸のオルトリン酸への分解速度を大きくし、縮合リン酸を定量的に回収できるようになった。ちなみに、表1に標準試料の回収率を掲載する。なお、実験条件は、試料:0.2または0.5mgP/L、計器:0〜0.5mgP/L計、室温:22〜25℃、手分析:JIS K0102-1993であった。
【0018】
【表1】

【0019】
以上のように、紫外線酸化分解法で縮合リン酸を含む全リンの測定が可能となり、分解容器に耐圧性が不要となり、また耐熱性も緩和されることとなるため、本方法による全リン自動測定装置では、オートクレーブ法による従来装置に比べてコスト安となり、また保守性も高くなる。
【0020】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の紫外線酸化分解法による全リン測定方法および装置においては、採取した試料水に酸化剤と硫酸を添加した後、加熱条件下で所定時間紫外線を照射して縮合リン酸を含むリン化合物を酸化分解してオルトリン酸に変化させ、その後、前記オルトリン酸を含む試料水に還元剤と発色剤を添加して吸光度法により前記オルトリン酸を定量するようにしているので、縮合リン酸を定量的に回収できるようになり、従来からのオートクレーブ法による場合に比して、低価格で保守性にすぐれた測定装置を構成でき、かつ信頼性の高い全リン測定値を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の紫外線酸化分解法による全リン測定方法の測定フローを示す図である。
【図2】 本発明の紫外線酸化分解法による全リン測定方法を実施するための全リン自動測定装置の構成図である。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2004-01-27 
結審通知日 2004-01-30 
審決日 2004-02-10 
出願番号 特願平8-29956
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹中 靖典  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 河原 正
山口 由木
登録日 2002-06-14 
登録番号 特許第3316664号(P3316664)
発明の名称 紫外線酸化分解法による全リン測定方法および装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 平木 祐輔  
代理人 竹内 三喜夫  
代理人 大屋 憲一  
代理人 竹内 三喜夫  
代理人 石井 久夫  
代理人 河宮 治  
代理人 藤田 節  
代理人 田村 啓  
代理人 石井 久夫  
代理人 田村 啓  
代理人 河宮 治  

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