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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01L
管理番号 1118951
審判番号 不服2002-10328  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-05-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-06-10 
確定日 2005-06-22 
事件の表示 平成6年特許願第269379号「内燃機関用タペット」拒絶査定不服審判事件〔平成8年5月21日出願公開、特開平8-128307〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
1.特許出願:平成6年11月2日
2.拒絶理由の通知:平成13年7月31日(発送:平成13年8月7日)
3.意見書、手続補正書の提出:平成13年10月5日
4.拒絶査定:平成14年4月30日(発送:平成14年5月14日)
5.審判請求書、手続補正書(明細書)の提出:平成14年6月10日

第2 平成14年6月10日付け手続補正についての補正却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成14年6月10日付けの明細書を補正対象とする手続補正を却下する。
【理由】
1.補正の内容
本件補正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるものとされた同法[第1条の規定]による改正前の特許法(以下、「平成6年改正前の特許法」という。)第17条の2第1項第5号に規定された、特許法第121条第1項の審判(拒絶査定に対する審判)を請求する場合において、その審判の請求から30日以内になされたものである。
そして、上記第1,5の手続補正書(以下、「本件手続補正書」という。)からみて、その内容は、次のとおりである。
(1)特許請求の範囲に係る補正の内容
拒絶査定時の明細書(以下、「原明細書」という。)の特許請求の範囲に、
「【請求項1】軽金属材料により形成された有頂円筒形をなすボディ本体における頂壁の上面と、ボディ本体の外径とほぼ等径の耐摩耗性を有するカム受板との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う同心円状の環状溝と突条を多数設け、該環状溝と突条とを互いに噛合させてろう付することにより、前記頂壁の上面にカム受板を接合したことを特徴とする内燃機関用タペット。」とあるのを、
「【請求項1】軽金属材料により形成された有頂円筒形をなすボディ本体における頂壁の上面と、ボディ本体の外径とほぼ等径の耐摩耗性を有するカム受板との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う連続山形状断面をなす同心円状の環状溝と突条を多数設け、該環状溝と突条とを互いに噛合させてろう付することにより、前記頂壁の上面にカム受板を接合したことを特徴とする内燃機関用タペット。」と補正する。

(2)発明の詳細な説明に係る補正の内容
(a)原明細書の段落【0009】に、「・・・ボディ本体の外径とほぼ等径の耐摩耗性を有するカム受板との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う同心円状の環状溝と突条を多数設け、該環状溝と突条とを互いに噛合させてろう付することにより、・・・」とあるのを、「・・・ボディ本体の外径とほぼ等径の耐摩耗性を有するカム受板との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う連続山形状断面をなす同心円状の環状溝と突条を多数設け、該環状溝と突条とを互いに噛合させてろう付することにより、・・・」と補正する。
(b)原明細書の段落【0016】に、「・・・ボディ本体(1)の頂壁(1a)の上面と、ボディ本体(1)の外径と等径の耐摩耗性金属材料よりなるカム受板(2)との互いの接合面には、互いに適正に嵌合し合う同心円状の環状溝(4)と突条(5)とが多数形成され、・・・」とあるのを、「ボディ本体(1)の頂壁(1a)の上面と、ボディ本体(1)の外径と等径の耐摩耗性金属材料よりなるカム受板(2)との互いの対向面には、互いに適正に嵌合し合う連続山形状断面をなす同心円状の環状溝(4)と突条(5)とが多数形成され、・・・」と補正する。
(c)原明細書の段落【0022】に、「さらに、ボディ本体(1)とカム受板(2)との心合わせが極めて容易に行いうるとともに、頂壁(1a)とカム受板(2)との互いの接合面に形成した環状溝(4)と突条(5)とが噛合して接合されているので、ボディ本体(1)とカム受板(2)との熱膨張差による接合境界面の剥離を防止することができる。」とあるのを、「さらに、ボディ本体(1)の頂壁(1a)の上面とカム受板(2)との対向面に、互いに適正に嵌合し合う連続山形状断面をなす同心円状の環状溝(4)と突条(5)を多数設けてあるため、ボディ本体(1)とカム受板(2)との心合わせを極めて容易に行いうるとともに、それら多数の環状溝(4)と突条(5)とを噛合させて接合されているので、ボディ本体(1)とカム受板(2)との熱膨張差による接合境界面の剥離を防止することができる。」と補正する。
(d)原明細書の段落【0029】に、「(b)また、ボディ本体とカム受板との心合わせが容易となるとともに、ボディ本体とカム受板との熱膨張差による接合境界面の剥離が防止される。」とあるのを、「(b)また、ボディ本体の頂壁の上面とカム受板との互いの対向面に、適正に嵌合し合う連続山形状断面をなす同心円状の環状溝と突条を多数設けてあるため、ボディ本体とカム受板との心合わせが容易となるとともに、ボディ本体とカム受板との熱膨張差による接合境界面の剥離が防止される。」と補正する。
なお、下線は補正箇所を明確にするため、当審で付加したものである。

2.新規事項の追加の有無について
原明細書の特許請求の範囲の請求項1(以下、「補正前請求項1」という。)の記載と補正後の明細書の特許請求の範囲の請求項1(以下、「補正後請求項1」という。)の記載とを対比すると、補正後請求項1においては、補正前請求項1の「同心円状の環状溝と突条」について、「連続山形状断面をなす」という構成が付加されている。
そこで、上記した「連続山形状断面をなす」という構成が、新規事項の追加に該当するか否か検討する。
本願の出願当初の明細書には、「同心円状の環状溝と突条」に関連して、次のように記載されている。
(1)「【請求項4】頂壁とカム受板との互いの接合面に、互いに適正に噛合し合う凹凸を同心的に設けたことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関用タペット。」(請求項4)
(2)「【0024】
・・・・・
図3は本発明の第3実施例を示す。
第3実施例では、頂壁(1a)とカム受板(10)との互いの接合面に、互いに適正に嵌合し合う同心円状の環状溝(11)と突条(12)とを形成し、それらを互いに噛合させて、ろう材(4)によりカム受板(10)と頂壁(1a)とを接合してある。
【0025】
第3実施例においても、上記第1、第2実施例と同様の作用効果を奏しうるとともに、環状溝(11)と突条(12)とが噛合しているので、ボディ本体(1)とカム受板(10)との熱膨張差による接合境界面の剥離を防止することができる。
・・・」(段落【0024】,【0025】)
(3)「【0031】
(d)請求項4記載の発明によれば、上記と同様、心合わせが容易となるとともに、ボディ本体とカム受板との熱膨張差による接合境界面の剥離が防止される。」(段落【0031】)
(4)また、願書に添付した図面のうち、【図3】には、ボディー本体(1)の頂壁(1a)の上面とカム受板(10)との互いの接合面に、互いに嵌合し合う同心円状の凹凸、すなわち環状溝(11)と突条(12)を多数形成することが示されている。

したがって、出願当初の明細書には、ボディ本体における頂壁の上面と、ボディ本体の外径とほぼ等径の耐摩耗性を有するカム受板との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う同心円状の環状溝と突条を連続して多数設けることが実質的に記載されているものといえるが、「連続山形状断面」自体いずれにも記載されておらず、ましてや、上述のように、【図3】に環状溝(11)と突条(12)を多数形成することが示されていることを除き、同心円状の環状溝と突条の形状や、深さ、高さ、数などについては、なんら具体的に記載されていない。
ところが、新たに付加された「連続山形状断面」には、断面形状が連続する山形であれば、個々の環状溝や突条の形状等として、種々のものを含み得るものであり、例えば、深さ、高さ、及び数を大きくして、接合面積を大幅に増大させるような断面形状、さらには、接合面に平行な面部分を有さないような断面形状をも含み得るものである。
しかしながら、このような点は、出願当初の明細書になんら記載されておらず、【図3】を参酌しても、深さ、高さ、あるいは数等がどの程度のものであるのか、また、環状溝最低部や突条頂部の形状や隣り合う環状溝や突条の中間部分の形状がどのようなものであるかなどについては明確に示されておらず、同図から自明のものとして導き出されるものでもない。
一方、上記第1,5の審判請求書には、上記の「連続山形状断面をなす」に関連して、次のように記載されている。
「しかして本願発明は、このような構成としたことにより、次のような作用効果を奏するものである。
(イ)ボディ本体の頂壁の上面と、カム受板との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う連続山形状断面をなす同心円状の環状溝と突条を多数設け、それらを噛合させてろう付けしたことにより、それらの求心作用により、ボディ本体とカム受板との心合わせを容易かつ正確に行いうるとともに、ボディ本体とカム受板との熱膨張差による接合境界面の剥離が防止される。
(ロ)また、頂壁とカム受板とは、連続山形状断面をなす多数の環状溝と突条とを噛合させた状態でろう付けされているため、双方の接合面積が大幅に増大し、接合強度が大となる。
(ハ)さらに、頂壁とカム受板との対向面全体に、連続山形状断面をなす環状溝と突条とを設け、これらを互いに噛合させてろう付けしているため、カム受板に、カムよりの直径方向の大きな側圧が繰り返し加わり、この力が頂壁との接合面に剪断荷重となって作用しても、その荷重は、連続山形状断面をなす多数の環状溝と突条とにより、接合面全体で分散して受け止めることができる。その結果、一部の環状溝や突条に局部的に大きな側圧が作用し、それらに亀裂が生じたり、疲労破壊を起こしたりする恐れはなく、カム受板全体のボディ本体に対する剥離強度が大となることにより、カム受板が側方に位置ずれするのが防止される。」(第3頁20行〜第4頁8行)

ところが、上記審判請求書で主張する効果のうち、(ロ)については、出願当初の明細書及び図面から、同心円状の環状溝と突条を多数形成することにより、接合面積がある程度増大することは、自明のこととしても、接合面積は、同心円状の環状溝と突条の深さあるいは高さ、そして数により定まるものと解されるところ、これらについては、当初明細書になんら具体的に示されておらず、【図3】を参酌しても、同心円状の環状溝と突条が、効果(ロ)を裏付けるような、接合面積を大幅に増大させて接合強度を大とする程度の深さあるいは高さ、数を有するものであることは、自明のものとして導き出されることではない。
また、上記審判請求書で主張する効果(ハ)については、直径方向の大きな側圧による剪断荷重を接合面全体で受けるものとすれば、接合面であるボディ本体における頂壁の上面と、ボディ本体の外径とほぼ等径の耐摩耗性を有するカム受板との互いの対向面が、剪断荷重の作用方向に平行な面部分を有さないこととなるが、このような点は、出願当初の明細書になんら記載されておらず、前述のとおり、願書に添付された図面である【図3】を参酌しても、環状溝最低部や突条頂部の形状や隣り合う環状溝や突条の中間部分の形状などについては、明確に示されておらず、同図から自明のものとして導き出されるものではない。
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面の範囲内においてしたものとはいえず、新規事項を追加するものである。

3.本願補正発明の独立特許要件について
次に本件補正が、新規事項を追加するものではないとすると、補正後請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)は、補正前請求項1における「同心円状の環状溝と突条」に「連続山形状の断面をなす」という構成が付加されたものであるから、本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することになる。
そこで、本願補正発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、次に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記した補正後の請求項1に記載されたとおりのものと認める。

(2)引用文献
(2-1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された特開平3-11107号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「上記目的を達成する本発明のバルブリフタは、非鉄系軽金属からなるバルブリフタ本体の端面に、鉄系金属板を軽合金系ロ-材でロ-付けし、かつロ-付け層の中央部分を周辺部分よりも厚肉に形成したことを特徴とするものである。
上記バルブリフタは、バルブリフタ本体が非鉄系軽金属から構成されていることによつて全体的に軽量化され、またカムと摺接する頂面に鉄系金属を使用しているため高い耐摩耗性を発揮する。」(第1頁右下欄16行〜第2頁左上欄5行)
(b)「上記バルブリフタ20は、第1図に示すように下端開放の円筒状をしたバルブリフタ本体21の端面にロー付け層23を介して鉄系金属板22を一体に接合して構成されている。」(第2頁右上欄8〜11行)
(c)第1図には、バルブリフタ本体21の外径と鉄系金属板22の外径がほぼ等径のものとして示されている。

上記の各記載事項及び図面の記載を総合すると、引用文献1には、次のような発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「非鉄系軽金属により形成された下端解放の円筒状をなすバルブリフタ本体21における端面と、バルブリフタ本体21の外径とほぼ等径の耐摩耗性を有する鉄系金属板22との互いの対向面をろう付けすることにより、前記端面に鉄系金属板を接合した内燃機関用バルブリフタ。」

(2-2)引用文献2
同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-288017号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(a)「【0011】
【発明の目的】本発明は、上述した従来の課題にかんがみてなされたものであって、繊維強化樹脂製のバルブリフタの耐荷重性能を向上し、使用時に亀裂が入ったり破壊したりすることがない耐久性の良好な軽量のバルブリフタおよびこれを使用した動弁装置を提供することを目的としている。」(第3頁第3欄2〜8行))
(b)「【0014】
【発明の作用】本発明に係わる動弁装置および繊維強化樹脂製のバルブリフタでは、シムに形成した環状をなすシム側接触壁面と、バルブリフタの仕切部に形成した環状をなすシム受け用接触壁面とを係合させ、少なくとも二面でシム側接触壁面とシム受け用接触壁面とが係合接触するようにしているので、接触壁部における荷重の均一化ないしは分散化がはかられるようになって、バルブリフタの耐荷重性能が向上することとなる。」(第3頁第3欄45行〜同第4欄3行)
(c)「【0016】そして、図2に示すバルブリフタ4は、円筒形状をなすと共に、円筒軸方向と直交する方向に仕切部4aを有し、仕切部4aの片側がシム配設面4bに形成してあると共に反対側にバルブ軸端部押圧部4cが形成してあり、シム配設面4bの周囲にシム係止用堤部4dが設けてあると共に仕切部4aの下方には図12に示したシリンダヘッド56のボア内周面に沿うスカート部4eが形成してある。
【0017】また、前記シム配設面4bには、環状をなす二つの同心円状突出部4f,4gが間隔をおいて形成してあって、これら二つの同心円状突出部4f,4gおよび堤部4dにおいて環状をなすシム受け用接触壁面4f-A,4f-B,4g-A,4g-B,4d-Aが形成されるものとなっている。」(第3頁第4欄14〜27行))
(d)「【0019】また、図1に示すシム5は円形をなし、シム5の仕切部4aへの配設面側には、環状をなす同心円状溝部5f,5gが間隔をおいて形成してあって、これら二つの同心円状溝部5f,5gおよび外周部において環状をなすシム側接触壁面5f-A,5f-B,5g-A,5g-B,5-Aが形成されるものとなっており、このような構造をなすシム5は鋼製のものとしている。」(第3頁第4欄37〜43行))
(e)【0042】さらにまた、図11の場合には、図1および図2に示したシム5およびバルブリフタ4にそれぞれ形成した同心円状溝部5f,5gおよび同心円状突出部4f,4gにおいて、それぞれの溝壁面および突出壁面を若干傾斜状のものとして、シム5の交換を容易にできるようにした実施例を示している。」(第9頁第15欄16〜21行)

上記の各記載事項及び図面の記載を総合すると、引用文献2には、次のような発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「繊維強化樹脂製により形成された仕切部4aを有する円筒形状をなすバルブリフタ4における仕切部4aと、耐摩耗性を有する鋼製シム5との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う、壁面が若干傾斜した同心円状の溝部と突出部を複数設け、該溝部と突出部とを互いに噛合させた内燃機関用タペット。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「非鉄系軽金属」は、その技術的意義に照らして、本願補正発明における「軽金属材料」に相当し、以下同様に、「下端解放の円筒状をなす」は「有頂円筒形をなす」に、「バルブリフタ本体21」は「ボディ本体」に、「端面」は「頂壁の上面」に、「鉄系金属板22」は「カム受板」に、そして「バルブリフタ」は「タペット」に、それぞれ相当する。
したがって、本願補正発明と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「軽金属材料により形成された有頂円筒形をなすボディ本体における頂壁の上面と、ボディ本体の外径とほぼ等径の耐摩耗性を有するカム受板との互いの対向面をろう付けすることにより、前記頂壁の上面にカム受板を接合した内燃機関用タペット。」
〈相違点〉
本願補正発明においては、「(ボディ本体における頂壁の上面とカム受板との互いの対向面に)互いに適正に嵌合し合う連続山形状断面をなす同心円状の環状溝と突条を多数設け、該環状溝と突条とを互いに噛合させてろう付」しているのに対して、引用発明1においては、このような連続山形状断面をなす同心円状の環状溝と突条を有していない点。

(4)相違点について検討及び判断
そこで、上記相違点について検討する。
引用発明2は、バルブリフタと鉄系金属板の結合構造に関わる点で、引用発明1と共通の技術分野に属するものであり、前述のとおり、引用発明2においては、バルブリフタ4における仕切部4aと鋼製シム5との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う、壁面が若干傾斜した同心円状の溝部と突出部を複数設け、該溝部と突出部とを互いに噛合させている。
こうした溝部、突出部も山形状断面をなすものといえ、その技術的意義は、上記(2-2)に示した引用文献2の記載事項(a)、(b)等によれば、接触壁部における荷重の均一化ないしは分散化を図り、バルブリフタの耐荷重性能を向上させることにあるものと解される。
一方、2つの金属部品の対向面の面積を増加させることにより、ろう付けの接合強度を高めることは、当業者にとってごく普通に採用されている程度の技術的事項と解されるところ、ろう付けする対向面に、連続する山形形状断面をなす凹凸や突起などを多数設けることは、例えば、特開昭64-18574号公報(特に第1図参照)や特開昭58-35058号公報(特に第1図参照)にみられるように、本願出願前より周知の技術である。
したがって、引用発明2及び上記した周知の技術を踏まえ、引用発明1における「バルブリフタ本体21における端面」と「鉄系金属板22」との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う、壁面が若干傾斜した同心円状の溝部と突出部を多数設けることにより、それらが、連続山形状断面をなすようにし、これらを互いに噛合させてろう付けすることにより、本願補正発明の相違点に係る構成とすることは、これを妨げる特段の事情も見当たらず、当業者が容易になし得ることである。

(5)本願補正発明の独立特許要件についてのむすび
本願補正発明は、全体構成でみても、引用発明1,引用発明2及び前述した周知の技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。
よって、本願補正発明は、引用発明1,引用発明2及び前述した周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成6年改正前の特許法第17条の2第2項で準用する同法第17条第2項の規定に違反し、同法第17条の2第4項において準用する同法第126条第3項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって上記補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明を拒絶する理由
1.本願発明
平成14年6月10日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成13年10月5日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、上記第2、【理由】1.の原明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。

2.拒絶査定の理由の概要
拒絶査定の理由は、上記第1、4の拒絶理由通知書及び6の拒絶査定書の記載からみて、概略、次のようなものである。
「この出願の請求項1に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された刊行物である特開平3-11107号公報(すなわち、上記引用文献1)、特開平5-288017号公報(すなわち、上記引用文献2)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」

3.引用文献
拒絶査定の理由に引用された引用文献1、引用文献2の記載事項は、前記第2の【理由】3.(2)に記載したとおりである。

4.対比
上記第2の【理由】3.(3)での検討によれば、本願発明と上記した引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。
〈一致点〉
「軽金属材料により形成された有頂円筒形をなすボディ本体における頂壁の上面と、ボディ本体の外径とほぼ等径の耐摩耗性を有するカム受板との互いの対向面をろう付けすることにより、前記頂壁の上面にカム受板を接合した内燃機関用タペット。」
〈相違点〉
本願発明においては、「(ボディ本体における頂壁の上面とカム受板との互いの対向面に)互いに適正に嵌合し合う同心円状の環状溝と突条を多数設け、該環状溝と突条とを互いに噛合させてろう付」しているのに対して、引用発明1においては、このような多数の同心円状の環状溝と突条を有していない点。

5.相違点について検討及び判断
そこで、上記相違点について検討する。
上記した引用発明2は、バルブリフタと鉄系金属板の結合構造に関わる点で、引用発明1と共通の技術分野に属するものであり、前述のとおり、引用発明2においては、バルブリフタ4における仕切部4aと鋼製シム5との互いの対向面に、互いに適正に嵌合し合う、壁面が若干傾斜した同心円状の溝部と突出部を複数設け、該溝部と突出部とを互いに噛合させている。
このような溝部と突出部の技術的意義は、上記(2-2)に示した引用文献2の記載事項(a)、(b)等によれば、このような溝部と突出部により、接触壁部における荷重の均一化ないしは分散化を図り、バルブリフタの耐荷重性能を向上させることにあるものと解される。
一方、2つの金属部品の対向面の面積を増加させることにより、ろう付けの接合強度を高めることは、当業者にとってごく普通に採用されている程度の技術的事項と解されるところ、ろう付けする対向面に、凹凸や突起などを多数設けることは、例えば、特開昭64-18574号公報(特に第1図参照)や特開昭58-35058号公報(特に第1図参照)にみられるように、本願出願前より周知の技術である。
したがって、引用発明2及び上記した周知の技術を踏まえ、引用発明1における「バルブリフタ本体21における端面とバルブリフタ本体21との互いの対向面」に、互いに適正に嵌合し合う、同心円状の溝部と突出部を多数設け、該溝部と突出部とを互いに噛合させてろう付けすることにより、本願発明の相違点に係る構成とすることは、これを妨げる特段の事情も見当たらず、当業者が容易になし得ることである。
また、本願発明を、全体構成でみても、引用発明1,引用発明2及び前述した周知の技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。

6.むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者がその出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-03-25 
結審通知日 2005-04-05 
審決日 2005-04-19 
出願番号 特願平6-269379
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F01L)
P 1 8・ 121- Z (F01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 一郎  
特許庁審判長 石原 正博
特許庁審判官 平城 俊雅
清田 栄章
発明の名称 内燃機関用タペット  
代理人 倉持 裕  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 竹沢 荘一  

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