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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1119331
審判番号 不服2001-3573  
総通号数 68 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-01-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-03-08 
確定日 2005-07-07 
事件の表示 平成9年特許願第5656号「コンクリート構造物の補強方法並びにその方法に使用するラジカル重合性プライマー及びラジカル重合硬化樹脂形成性組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成10年1月13日出願公開、特開平10-7750〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成9年1月16日(優先日、平成8年4月26日)の出願であって、平成10年12月2日付けの拒絶理由通知書に記載した理由によって、平成13年1月30日付け(平成13年2月6日発送)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成13年3月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、平成13年4月6日付けで手続補正書が提出されたものである。

2.平成13年4月6日付け手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成13年4月6日付け手続補正書による補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成13年4月6日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜9に係る発明のうち、請求項1に係る発明は、請求項1に記載された次のとおりのものである。(以下、「本願補正発明1」という。)
「【請求項1】 コンクリート構造物の表面にラジカル重合性プライマー組成物を塗布し、次いで繊維製基材とラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を含浸・施工し、重合、硬化させて前記繊維製基材と前記硬化性組成物の複合材料層をコンクリート構造体表面に形成するコンクリート構造物の補強方法において、
ラジカル重合性プライマー組成物が、
(a)重合性不飽和モノマー:40〜80重量%、
(b)ビニルエステル樹脂:5〜50重量%、及び
(c)ラジカル重合開始剤:0.1〜10重量%
を含有する組成物であり、
ラジカル重合硬化樹脂形成性組成物が、
(a)重合性不飽和モノマー:20〜70重量%、
(b)ビニルエステル樹脂:10〜60重量%、
(c)ラジカル重合開始剤:0.1〜10重量%、及び
(f)チクソトロピー性付与剤成分:0.5〜10重量%
を含有する組成物であるコンクリート構造物の補強方法。」

(2)引用例の記載
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開平4-149366号公報)には、以下の記載がある。
ア.「3)支持体シート上に接着剤層を介して強化繊維を設けた強化繊維シートを、前記強化繊維に室温硬化型マトリクス樹脂を含浸させた後、構築物の補強箇所の表面に貼付けるか、構築物の補強箇所の表面に、室温硬化型マトリクス樹脂を塗布した後に前記強化繊維シートをを貼り付けて、前記強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させるか、又は前記強化繊維シートを構築物の補強箇所の表面に貼付けた後、前記強化繊維に室温硬化型マトリクス樹脂を含浸させ、然る後に前記マトリクス樹脂を硬化させる構築物の補強方法において、前記マトリクス樹脂に配合の硬化剤による前記マトリクス樹脂の硬化を促進する硬化促進剤を、前記接着剤層中に配合したことを特徴とする構築物の補強方法。」(請求項3、注:下線は当審で付与)
イ.「本発明は、繊維強化プラスチックにより橋梁や高架道路などを初めとする構築物の補強をするに際し、補強現場で施行性よく補強を行うことができ且つ補強強度も向上することを可能とした強化繊維シート及び構築物の補強方法に関する。」(2頁左上欄4行〜8行)
ウ.「硬化促進剤は、マトリクス樹脂及びこれに配合する室温硬化剤の種類によって適宜決めればよく、マトリクス樹脂として例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の不飽和ポリエステル系樹脂を使用した場合を示せば、室温硬化剤にはメチルエチルケトンパーオキサイド等のパーオキサイド系硬化剤が使用され、硬化促進剤にはナフテン酸コバルト等のコバルト系硬化促進剤が使用される。」(3頁左下欄4行〜12行)
エ.「本発明の他の実施例では、第5図に示すように、補強箇所15の周囲に室温硬化型マトリクス樹脂18を例えば100μm程度の厚みに塗布し、次いで強化繊維4の側を補強箇所15側として強化繊維シート1を所望の数だけ積層し、そして押し付けることによりシート1を貼り付けると同時に強化繊維4にマトリクス樹脂を含浸させる。」
(4頁左下欄最終行〜同頁右下欄7行)
オ.「第6図に示すように、先ず、補強箇所15の周囲表面上にプライマー16としてマトリクス樹脂と相溶性の高い樹脂を塗布し、その上からシート1を貼り付けて所望の数だけ積層し、その後最外層のシート1の支持体シート2上からローラー等により室温硬化型マトリクス樹脂17を塗布してシート2を通って浸透させ、マトリクス樹脂17を強化繊維4に含浸させるようにする。」(4頁右下欄下から3行〜5頁左上欄5行)

(3)対比・判断
引用文献1の記載イにおける「橋梁や高架道路などを初めとする構築物」の多くがコンクリート製であることはよく知られており、引用文献1がコンクリート構造物の補強を目的とすることは明らかである。また、マトリクス樹脂としてビニルエステル樹脂を用いることが記載ウに記載されており、その樹脂の硬化に用いられるパーオキサイド系の硬化剤がラジカル重合開始剤であることは技術常識であるから、引用文献1のマトリクス樹脂はラジカル重合硬化樹脂形成性組成物であるといえる。さらに強化繊維シートは繊維製基材に包含されるものである。
そうすると、引用文献1には、「コンクリート構造物の表面に、ビニルエステル樹脂とラジカル重合開始剤を含有するラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を塗布した後に、繊維性基材を貼り付けて、前記繊維製基材にビニルエステル樹脂とラジカル重合開始剤を含有するラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を含浸させ、然る後に前記ラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を硬化させるコンクリート構造物の補強方法」の発明が記載されているといえる。
一方、本願補正発明におけるラジカル重合性プライマー組成物は、その機能からみてプライマー組成物と表現されてはいるが、ラジカル重合によって硬化、樹脂形成するものでもあるから、その反応機構からみてラジカル重合硬化樹脂形成性組成物に相当するものといえる。
そこで、本願補正発明1と引用文献1記載の発明とを対比すると、両者は「コンクリート構造物の表面にラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を塗布し、次いで繊維製基材とラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を含浸・施工し、重合、硬化させて前記繊維製基材と前記硬化性組成物の複合材料層をコンクリート構造体表面に形成するコンクリート構造物の補強方法において、ラジカル重合硬化性樹脂組成物が、ビニルエステル樹脂及びラジカル重合開始剤を含有する組成物であるコンクリート構造物の補強方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点1】
本願補正発明1においては、コンクリート構造物の表面に塗布するラジカル重合硬化樹脂形成性樹脂組成物(以下、これを「ラジカル重合性プライマー組成物」という。)と、繊維製基材に含浸・施行するラジカル重合硬化樹脂形成性組成物(以下、これを「本願補正発明1のラジカル重合硬化樹脂形成性組成物」という。)と2種類のラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を使い分けているのに対し、引用文献1記載発明では、ビニルエステル樹脂とラジカル重合開始剤を含有する1種類のラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を使用する点。
【相違点2】
本願補正発明1においては、ラジカル重合性プライマー組成物が、(a)重合性不飽和モノマー:40〜80重量%、(b)ビニルエステル樹脂:5〜50重量%、及び(c)ラジカル重合開始剤:0.1〜10重量%を含有する組成物であるのに対し、引用文献1記載発明では、(b)ビニルエステル樹脂及び(c)ラジカル重合開始剤を含有する組成物であり、その配合量について記載されていない点。
【相違点3】
本願補正発明1においては、本願補正発明1のラジカル重合硬化樹脂形成性組成物が、(a)重合性不飽和モノマー:20〜70重量%、(b)ビニルエステル樹脂:10〜60重量%、(c)ラジカル重合開始剤:0.1〜10重量%、及び(f)チクソトロピー性付与剤成分:0.5〜10重量%を含有する組成物であるのに対し、引用文献1記載発明では、(b)ビニルエステル樹脂及び(c)ラジカル重合開始剤を含有する組成物であり、その配合量について記載されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
【相違点1】について
まず、本願補正発明1における、「ラジカル重合性プライマー組成物」は、(a)重合性不飽和モノマー、(b)ビニルエステル樹脂、及び(c)ラジカル重合開始剤を含有する組成物であるが、末尾に「含有する組成物」と記載されているように、(a)、(b)、(c)成分以外の成分を排除するものではない。そうすると、チクソトピー性付与剤の添加が排除されているものとはいえない。また、本願補正発明1における「ラジカル重合性プライマー組成物」の(a)、(b)、(c)の配合量は、「本願補正発明1におけるラジカル重合硬化樹脂形成性組成物」と重複する範囲を含んでいる。したがって、「ラジカル重合性プライマー組成物」は、「本願補正発明1におけるラジカル重合硬化樹脂形成性組成物」と異なる組成物ということはできないから、本願補正発明1は1種類のラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を使う態様を含んでいるものである。
また、2種類を使い分ける態様についても、引用文献1の記載オには、「補強箇所15の周囲表面上にプライマー16としてマトリクス樹脂と相溶性の高い樹脂を塗布し、その上からシート1を貼り付けて所望の数だけ積層し、その後最外層のシート1の支持体シート2上からローラー等により室温硬化型マトリクス樹脂17を塗布してシート2を通って浸透させ、マトリクス樹脂17を強化繊維4に含浸させるようにする」と記載されており、繊維製基材に含浸させるマトリクス樹脂とは別にプライマーを塗布することが記載されている。したがって、引用文献1記載発明において、コンクリート構造物の表面に塗布するラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を、前記繊維製基材に含浸させるラジカル重合硬化樹脂形成性組成物とは別のプライマー組成物として塗布することは、当業者が適宜行う事項であって、2種類のラジカル重合硬化性樹脂形成性組成物を使い分けることに格別な困難も認められない。

【相違点2】について
ビニルエステル樹脂は、一般にビニルエステルを重合性不飽和モノマーに溶解した形をとるものである(参考文献1:ビニルエステル樹脂研究会編「ビニルエステル樹脂」化学工業日報社、1993年6月16日発行、p.10、p.72、p.87〜88 参考文献2:滝山 栄一郎著「ポリエステル樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社、昭和63年6月30日発行、p.19)。該重合性不飽和モノマーは希釈のための溶剤であり(参考文献1、p.10)、含浸処理等に用いる場合には、粘度を下げて含浸しやすい状態とするために使用していると解するのが自然であるから、引用文献1に記載された「ビニルエステル樹脂」は、重合性不飽和モノマーを含んだものと解される。
そして、その(a)、(b)、(c)配合量についても、ラジカル重合硬化樹脂形成性組成物として通常用いられる範囲(特開平5-339331号公報、特開平5-65322号公報、特開平5-148375号公報、特開昭60-212467号公報)であるから、本願補正発明1において、「ラジカル重合性プライマー組成物」の(a)、(b)、(c)配合量を特定の値とすることは、当業者が適宜行う事項であり、また、本願明細書の記載、特に実施例をみても、特定の配合量とすることにより格別な効果を奏しているものとも認められない。

【相違点3】について
(a)重合性不飽和モノマーについては、上記【相違点2】についてで述べたとおりであり、(a)、(b)、(c)成分の配合量についても上記【相違点2】についてで述べたと同様に、通常用いられる範囲である。
また、(f)チクソトロピー性付与剤成分については、上記参考文献1のp.43〜p.44に記載されているように、ビニルエステル樹脂等の樹脂をFRPの作成および塗料として使用する場合に、その流下防止のために揺変剤、すなわちチクソトロピー性付与剤を添加することは常套手段である。そして、その添加量も流下防止の効果を奏する範囲で適宜決定できるものであり、本願補正発明1におけるダレ防止等の効果もチクソトロピー性付与剤の添加により予測される範囲内のものである。
したがって、本願補正発明1において、「本願補正発明1のラジカル重合硬化樹脂形成性組成物」の(a)、(b)、(c)、(f)の配合量を特定の値とすることは当業者が適宜行う事項であり、また、本願明細書の記載、特に実施例をみても、特定の配合量とすることにより格別な効果を奏しているものとも認められない。

(4)まとめ
以上のとおり、本願補正発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、平成13年4月6日付けの手続補正書による補正は、特許法(特許法等の一部を改正する法律〔平成15年法律第47号〕附則2条7項の規定により、なお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法)17条の2第5項において準用する同法126条4項の規定に違反するから,同法159条1項において読みかえて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

3.本件審判請求について
(1)本願発明
平成13年4月6日付けの手続補正書による補正は、上記のとおり却下されたので、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成11年2月8日付けの手続補正書により補正された請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 コンクリート構造物の表面にラジカル重合性プライマー組成物を塗布し、次いで繊維製基材とラジカル重合硬化樹脂形成性組成物を含浸・施工し、重合、硬化させて前記繊維製基材と前記硬化性組成物の複合材料層をコンクリート構造体表面に形成するコンクリート構造物の補強方法において、
ラジカル重合性プライマー組成物が、
(a)重合性不飽和モノマー、
(b)ビニルエステル樹脂、及び
(c)ラジカル重合開始剤
を含有する組成物であり、
ラジカル重合硬化樹脂形成性組成物が、
(a)重合性不飽和モノマー、
(b)ビニルエステル樹脂、
(c)ラジカル重合開始剤、及び
(f)チクソトロピー性付与剤成分
を含有する組成物であるコンクリート構造物の補強方法。」

(2)引用例の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項は、上記2.(2)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明1は上記2.で検討した本願補正発明1におけるラジカル重合性プライマー組成物の(a)、(b)、(c)各成分の配合量、及びラジカル重合硬化樹脂形成性組成物における(a)、(b)、(c)、(f)各成分の配合量に関する特定事項を有さないものである。
そうすると、本願発明1を特定する事項を全て含み、さらに配合量に関する特定事項を付加したものに相当する本願補正発明1が、前記2.(3)及び2.(4)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様の理由により、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、請求項2〜9に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-05-09 
結審通知日 2005-05-10 
審決日 2005-05-23 
出願番号 特願平9-5656
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
P 1 8・ 575- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野寺 務  
特許庁審判長 一色 由美子
特許庁審判官 石井 あき子
船岡 嘉彦
発明の名称 コンクリート構造物の補強方法並びにその方法に使用するラジカル重合性プライマー及びラジカル重合硬化樹脂形成性組成物  
代理人 青山 葆  
代理人 鮫島 睦  

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