• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
不服200321212 審決 特許
不服200312709 審決 特許
不服200213631 審決 特許
不服20028607 審決 特許
不服200313798 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B42D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B42D
管理番号 1120462
審判番号 不服2002-16203  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-08-04 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-08-23 
確定日 2005-07-27 
事件の表示 平成 9年特許願第 8183号「感熱ロール紙の巻先端の固定方法とこれを実施したリング止め付感熱ロール紙」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 8月 4日出願公開、特開平10-203057〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成9年1月21日に出願された特願平9-8183号であって、出願からの主だった経緯は次のとおりである。
・平成14年7月11日付け 拒絶の査定
・平成14年8月23日 本件審判請求及び手続補正書の提出
・平成17年1月12日付け 当審より拒絶の理由の通知
・平成17年2月21日 意見書及び手続補正書の提出

第2 拒絶理由の概要
当審が平成17年1月12日付けで通知した拒絶の理由は次のとおりである。

「(1)本件出願は、明細書及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
(2)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
◆理由(1)
請求項1〜4には「感熱ロール紙を使用する時に感熱ロール紙よりリングを取り外してプリンタに装着した後に、取り外されたリングをユーザーより回収して、新たな感熱ロール紙の出荷時に巻先端の固定に再使用するようにした」と記載されているが、当該事項は感熱ロール紙のプリンタへの装着方法およびリングの再使用の流れを特定するものであり、当該事項以外の「感熱ロール紙の巻先端の固定方法」を特定する事項とどのような技術的関連があるのか不明である。
したがって、請求項1〜4に係る発明は明確でない。
◆理由(2)
・請求項 1〜4
・引用文献 1〜5
理由(1)について述べたとおり、請求項1〜4には技術的関連が不明な記載が存在するが、仮に技術的関連があるとして以下に進歩性の判断を記載する。
引用文献1には、感熱ロール紙の巻先端を、その一端が粘着テープにより固定することにより巻先端のほぐれを防止するようにした感熱ロール紙の巻先端の固定方法が記載されている(第2ページ左上欄下から2行〜同ページ右上欄4行、第2ページ左下欄13行〜同欄17行)。
そして、ロール状に巻かれた物品の巻先端のほぐれを防止すべく、一端が切除された弾力性を有するリングにより前記巻先端を固定することは引用文献2(第1図)及び引用文献3(第2図〜第4図)に記載されるよう周知であるから、当該周知技術を引用文献1記載の粘着テープに代えて用いることは、当業者であれば容易に想到できることである。
また、環境破壊への関心が高まっている現在において、資源の再使用は自明の課題(必要ならば、引用文献4(【0003】〜【0004】)及び引用文献5(【0002】〜【0004】)を参照。)であるから、巻先端を固定するリングをユーザーから回収し再使用することは、時代の要請に基づいた措置を講じたにすぎず、当業者であれば容易に想到できることである。
したがって、感熱ロール紙の巻先端がほぐれないように、従来周知な弾力性を有するリングを使用し、且つ、当該リングをユーザーから回収して再使用することは、引用文献1〜5記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、一端が切除された弾力性を有するリングの材質をプラスチック或いは金属とすることや、その断面形状を板状とすることは引用文献2及び3に記載されている。また、当該リングの断面形状を棒状とすることは、当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項である。
引用文献等一覧
1.特開昭61-238641号公報
2.実願昭57-29238号(実開昭58-131477号)のマイクロフィルム
3.実願昭46-122218号(実開昭48-76370号)のマイクロフィルム
4.特開平5-11607号公報
5.特開平7-64380号公報」

第3 明細書の記載不備について

1.本願の特許請求の範囲の請求項1は、平成17年2月21日付けの手続補正書により次のように補正された(以下、「補正請求項1」という。)。なお、下線は補正箇所である。
「1.ハンディターミナル、ファクシミリその他の感熱式のプリンタで使用される感熱ロール紙の巻先端を、出荷時にその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定することにより巻先端のほぐれを防止するようにし、
感熱ロール紙を使用する時に感熱ロール紙よりリングを取り外してプリンタに装着した後に、取り外されたリングをユーザーより回収して、
新たな感熱ロール紙の出荷時にその巻先端を、回収されたその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定するようにした感熱ロール紙の巻先端の固定方法。」
そして請求人は、平成17年2月21日付けの意見書(「2」参照。)において、「出願人は別途提出の手続補正書により、本願明細書の特許請求範囲を訂正しました。・・・この補正により、「感熱ロール紙の巻先端の固定方法」を特定する事項が具体的に限定されましたので、理由(1)の拒絶理由は解消されたものと考えます。」と主張する。

2.ところで、特許法第36条第5項は、「特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。」と規定する。そして、特許法でいう発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条第1項)をいうのであるから、発明を特定するために必要と認める事項は、当該事項によって技術的思想が特定されるものでなければならない。

3.補正請求項1は、その末尾を「感熱ロール紙の巻先端の固定方法」としていることから、出願人が特許を受けようとする発明は感熱ロール紙の巻先端の固定方法に関する技術的思想である。通常、「方法」とは「ある目的を達するためのやり方。しかた。手段。」をいうのであるから、感熱ロール紙の巻先端の固定方法に関する技術的思想は、「感熱ロール紙の巻先端を固定するためのやり方、しかた、手段」に関する技術的思想である。また、方法(経時的要素を含む一定の行為又は動作)の発明の場合、発明を特定するための事項として、方法(行為又は動作)の結合の表現形式を用いることができる他、その行為又は動作に使用する物、その他の表現形式を用いることができる(「特許・実用新案審査基準」第1部明細書及び特許請求の範囲の第1章明細書及び特許請求の範囲の記載要件を参照。)。
しかしながら、行為又は動作に使用する物により方法の発明を特定する場合であっても、これら行為又は動作に使用する物を更に製造方法や調達方法によって特定すること(例えば、一体成形したリングを用いた固定方法、一般入札によって入手したリングを用いた固定方法など。)は、当該製造方法や調達方法を特定することによって「感熱ロール紙の巻先端を固定するためのやり方、しかた、手段」が特定されない限り、感熱ロール紙の巻先端の固定方法という技術的思想を特定するものではない。

4.そこで補正請求項1の記載をみると、まず、「感熱ロール紙を使用する時に感熱ロール紙よりリングを取り外してプリンタに装着した後に」との事項を記載することにより、巻先端のほぐれを防止するように固定されるリングは一時的な固定にすぎず、感熱ロール紙の使用時には取り外せるように固定されるという感熱ロール紙の巻先端の固定方法に関する技術的思想が特定されると解することができる。
しかしながら、「取り外されたリングをユーザーより回収して、新たな感熱ロール紙の出荷時にその巻先端を、回収されたその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定する」との事項は、要するに、感熱ロール紙がユーザーに使用された後、当該感熱ロール紙の巻先端を固定するリングをユーザーから回収し、この回収されたリングにより再び感熱ロール紙の巻先端を固定するといったリングを再使用するための手順又は方法を特定するものとしか読み取ることができず、当該事項によって「感熱ロール紙の巻先端を固定するためのやり方、しかた、手段」という技術的思想が特定されるとは認められない。このことは、再使用したリングを用いた感熱ロール紙の巻先端の固定方法と新たに製造したリングを用いた感熱ロール紙の巻先端の固定方法とでは、いずれも「感熱ロール紙の巻先端を固定するためのやり方、しかた、手段」において差違がないことからも明らかである。
したがって、補正請求項1における「取り外されたリングをユーザーより回収して、新たな感熱ロール紙の出荷時にその巻先端を、回収されたその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定する」との事項が、感熱ロール紙の巻先端の固定方法に関する技術的思想をどのように特定しているのかが明確でなく、それ故、補正請求項1の記載は特許を受けようとする発明が明確であるということはできない。
したがって、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 進歩性について

1.本願発明
上記「第3 明細書の記載不備について」において述べたとおり、補正請求項1の記載は特許を受けようとする発明が明確ではないが、仮に明確であるとして進歩性を判断すると、本願の請求項1に係る発明は、平成17年2月21日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項から特定される次のとおりのものと認める(以下、「本願発明」という。)。
「ハンディターミナル、ファクシミリその他の感熱式のプリンタで使用される感熱ロール紙の巻先端を、出荷時にその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定することにより巻先端のほぐれを防止するようにし、
感熱ロール紙を使用する時に感熱ロール紙よりリングを取り外してプリンタに装着した後に、取り外されたリングをユーザーより回収して、
新たな感熱ロール紙の出荷時にその巻先端を、回収されたその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定するようにした感熱ロール紙の巻先端の固定方法。」

2.引用刊行物に記載された事項及び引用発明
当審の拒絶の理由に引用された、本願出願前日本国内において頒布された刊行物である、特開昭61-238641号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載または図示されている。

(ア)第1ページ右下欄9行〜同欄末行
「〔産業上の利用分野〕本発明は情報産業、特にファクシミリに使用する感熱ロール紙或いは一般のロール状の紙またはフィルム等の柱状体包装機におけるロール紙巻端切断装置に関するもので、例えばロール紙を被包装体とする包装装置においてロール紙を包装紙で覆う前段階の準備として、ロール紙の巻端部の形状を所要の形状に成形することと、ロール紙の巻端部の汚損部分を予め除去することと、ロール紙を包装紙上に自動的に移載する際に巻端部が解きほぐれないように巻端部の位置を最適の位置に合わせることを行おうとするものである。」

(イ)第2ページ左上欄10行〜同ページ右上欄8行
「〔発明が解決しようとする問題点〕・・・またロール紙巻端の解きほぐれ防止を行うため粘着テープを使用すると、粘着テープを剥がした際に、粘着剤がわずかにロール紙に付着して残るため、そのままファクシミリ本機にセットすると本機内部に付着して故障を起こすという問題を生じていた。またロール紙巻端部を粘着テープで固定せずに、フリーの状態で包装紙上まで移送するには、巻端の位置に最適の場所があり、その位置まで上記切断時の巻端を移動させなければならない。」

(ウ)第2ページ左下欄10行〜同欄17行
「〔実施例〕本発明を図面に示す装置の実施例を参照して説明する。第1図に柱状体包装機によって包装する対象ワークの一つであるロール紙の斜視図を示す。紙管2に巻き付けられたロール紙1はその巻端1A部を粘着テープ3で貼られて巻きがほどけないようにされている。」

(エ)第1図
第1図からは、感熱ロール紙の巻端部を粘着テープで固定することが看取できる。

これら(ア)〜(エ)を含む引用例1の全記載及び図示からみて、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
「ファクシミリで使用される感熱ロール紙の巻端部を、粘着テープにより固定することにより巻端部の解きほぐれを防止するようにした感熱ロール紙の巻端部の固定方法。」

3.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明における「巻端部」、「解きほぐれ」、「ファクシミリ」は、それぞれ本願発明における「巻先端」、「ほぐれ」、「ハンディターミナル、ファクシミリその他の感熱式のプリンタ」に相当する。
また、引用発明では、感熱ロール紙の巻端部を粘着テープにより固定するのに対して、本願発明では、その一端が切除された弾力性を有するリングにより巻先端を固定しているが、引用発明の「粘着テープ」と本願発明の「リング」とは共に感熱ロール紙の巻先端を固定する「固定手段」という限りにおいて両者は一致する。
したがって両者は、
「ハンディターミナル、ファクシミリその他の感熱式のプリンタで使用される感熱ロール紙の巻先端を、固定手段により固定することにより巻先端のほぐれを防止するようにした感熱ロール紙の巻先端の固定方法。」
において一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明では、巻先端を固定する固定手段として、その一端が切除された弾力性を有するリングを使用するとともに、感熱ロール紙を使用する時に感熱ロール紙よりリングを取り外してプリンタに装着した後に、取り外されたリングをユーザーより回収して、新たな感熱ロール紙の出荷時にその巻先端を、回収されたその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定するとしているのに対して、引用発明では、巻先端を固定する固定手段として粘着テープを使用しており、当該粘着テープをユーザーより回収しておらず、それ故、回収した粘着テープを用いて新たな感熱ロール紙の巻端部を固定しているか否かが定かでない点。

[相違点2]
本願発明では、出荷時に巻先端を固定するのに対して、引用発明では出荷時に巻先端が固定されているか否かが不明な点。

4.本願発明についての当審の判断
上記相違点について検討する。なお、引用発明に関する記載であっても、相当する本願発明の用語を使用する場合がある。

(1)相違点1について

(1-1)
ロール状に巻かれた部材の巻先端を、その一端が切除された弾力性を有するリングにより固定して巻先端のほぐれを防止する固定手段は、実願昭57-29238号(実開昭58-131477号)のマイクロフィルム(第1ページ下から2行〜第2ページ10行、第1図参照。以下、「刊行物2」という。)、実願昭46-122218号(実開昭48-76370号)のマイクロフィルム(実用新案登録請求の範囲、第4ページ4行〜第5ページ12行、第2図、第3図参照。以下、「刊行物3」という。)等にみられるように、本願出願前に周知の技術である。
そして、引用例1においても、当該周知技術と同一の課題、すなわち巻先端のほぐれを防止するという課題及び感熱ロール紙の巻先端を粘着テープによって固定すると粘着剤が感熱ロール紙に付着して残るという欠点について記載されている(前記2.(イ)及び(ウ)参照。)のであるから、その一端が切除された弾力性を有するリングという従来周知の固定手段を、感熱ロール紙の巻先端のほぐれを防止するために適用することは、当業者であれば容易に想到できることである。
ところで、本願発明のような固定方法に係る発明は、通常、どのような固定対象をどのような被固定対象にどのような固定手段を用いて固定するかで特定されるべきである。そうすると、請求項1の「感熱ロール紙を使用する時に感熱ロール紙よりリングを取り外してプリンタに装着した後に、取り外されたリングをユーザーより回収して、新たな感熱ロール紙の出荷時にその巻先端を、回収されたその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定する」との記載は、その一端が切除された弾力性を有するリングという固定手段が繰り返しの使用に耐え得るものであることを特定する以上のものではない。そして、弾力性を利用した固定手段であって繰り返しの使用に耐え得るものは、洗濯ばさみやクリップ等にみられるように従来周知であるから、その一端が切除された弾力性を有するリングという固定手段を、感熱ロール紙の巻先端のほぐれを防止するために使用するに際し、当該リングについても繰り返しの使用に耐え得るようにすることは当業者であれば容易に想到できることである。
請求人は、刊行物2に記載された技術は、「コ字状に形成したクランパー内にリールの両フランジの内側寸法と略等しいか大きい巾のパットを貼着したオープンリールのテープクランパー」であり、「オープンリールのテープではその巻先端を固定するために、粘着性のテープやタックラベル等を使用することは行われておりません。」と主張し、また、刊行物3に記載された技術は、「スティール等の板状巻回物の先端を固定するために、自由端の縁内側に摩擦材を添付した固定具」であり、「スティール等の板状巻回物ではその巻先端を固定するために、粘着性のテープやタックラベル等を使用することは行われておりません。」(平成17年2月21日付け意見書の「3.2」を参照。)と主張する。
確かに刊行物2に記載されたオープンリールのテープや刊行物3に記載されたスティールは感熱ロール紙ではないし、これらに対して粘着性のテープやタックラベル等が使用されることも記載されていない。しかしながら、巻先端のほぐれは感熱ロール紙に特有の課題ではなく、ロール状に巻かれた部材であれば同様に生じるものであるから、共通の課題を有する技術分野に解決手段を求めることは当業者であれば容易に想到できることである。また、当該技術分野において粘着性のテープやタックラベルが使用されていないとしても、それは粘着性のテープやタックラベルでは巻先端のほぐれが十分に防止できない、又は粘着性のテープやタックラベルを貼ることによってその後の使用に重大な支障が生じるといった、ロール状に巻かれた部材固有の事情によるものであるから、その一端が切除された弾力性を有するリングを粘着性のテープやタックラベルに代えて使用することが困難であることを示唆するものではなく、これをもって引用発明への適用を阻害するとは認められない。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(1-2)
他方、請求項1に係る発明を、請求項1の末尾の固定方法という記載を度外視し、例えば固定リングの使用方法であると解して「感熱ロール紙を使用する時に感熱ロール紙よりリングを取り外してプリンタに装着した後に、取り外されたリングをユーザーより回収して、新たな感熱ロール紙の出荷時にその巻先端を、回収されたその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定する」との記載をそのまま発明特定事項であると解したとしても、環境破壊への関心が高まっている現在において資源のリサイクルは、特開平5-11607号公報(段落番号0003〜0004参照。以下、「刊行物4」という。)や特開平7-64380号公報(段落番号0002〜0004参照。以下、「刊行物5」という。)等にみられるように自明の課題であり、この資源のリサイクルはトナーカートリッジのみならず、全ての技術分野において共通の課題であるから、感熱ロール紙の巻先端を固定するにあたり、一度感熱ロール紙の巻先端を固定するために使用されたリングを新たな感熱ロール紙の巻先端の固定に再び使用することは、省資源という時代の要請に基づいた措置を講じたにすぎず、当業者であれば容易に想到できることである。そして、当該リングは感熱ロール紙を使用する時に取り外されるものであるから、これを再使用するとなればユーザーから回収しなければならないことも自明である。
そうすると、感熱ロール紙の巻先端を固定するために使用されたリングについて、これをユーザーから回収した後、何ら手を加えることなくそのまま感熱ロール紙の巻先端の固定に再使用することは当業者であれば容易に想到できることである。
請求人は、刊行物4及び刊行物5に記載された技術は、「共に複写機のトナーカセットの再利用技術であり、回収されたトナーカセットに対して大きな補修作業を行うことが必要であります。これらの技術は使用済みトナーカセットがそのまま破棄されることによる環境破壊を防止することが主たる目的であり、再利用のためのトナーカセットの再生には、分解、消耗部品や破損部品の交換、再組み立てを必要とするため多くのコストがかかり、新規にトナーカセットを製造するのと大差はありません。これに対して、本願発明に使用される感熱ロール紙の巻先端を固定するために使用される、「一端が切除された弾力性を有するリング」は、再利用のために何らの加工を施すことも無く、回収したリングをそのまま再使用することが出来るので、再利用のため加工コストが不要であり、その主たる目的は感熱ロール紙の巻先端を固定する方法の問題点改善と巻先端を固定するためのコストの削減であり、環境破壊の防止は結果として生じた付加的なものであります。」(平成17年2月21日付け意見書の「3.3」を参照。)と主張する。
確かに刊行物4に記載されたトナーカセットでは、消費されたトナーを補給する必要があるため、カートリッジカバーから紙袋を取り外した後に新しい紙袋を取り付けるといった作業が必要になる(段落番号0017参照。)。しかしながら、トナーカセットを再び使用するためには消費されたトナーを補給しなければならないのであるから紙袋の取り外し及び取り付けといった作業が必要になるのであり、一度の使用によって消耗する部品又は部材を有しない場合には、何ら手を加えることなくそのまま再使用することが自然である。刊行物5においても、「リサイクルにあたっては、対象部材をそのまま用いる再使用、対象部材に溶融工程等、再加工を施した上で、再び用いる再利用、対象部材をそのまま処分する破棄の3つのリサイクル態様がある」(段落番号0003参照。)と記載されている。
よって、請求人の上記主張を採用することはできない。

(2)相違点2について
感熱ロール紙が出荷された後は運送業者、卸問屋又は販売業者等の第三者にその取り扱いが委ねられるのであるから、感熱ロール紙を出荷する者にしてみれば、その出荷に先だって感熱ロール紙の巻先端を固定することは当然のことである。それ故、引用発明においても、その出荷時には感熱ロール紙の巻先端が固定されていると解すべきであり、この点において両者に実質的な差異はない。
なお、請求項1における「感熱ロール紙の巻先端を、出荷時にその一端が切除された弾力性を有するリングにより固定する」との記載は、感熱ロール紙が出荷される時点において感熱ロール紙の巻先端が固定されている状態にあることを特定する事項として検討したが、仮に当該記載は、感熱ロール紙は出荷される直前まで巻先端が固定されておらず、出荷されるタイミングで初めて感熱ロール紙の巻先端が固定される、すなわち巻先端を固定するタイミングを特定する事項であるとしても、感熱ロール紙の巻先端の固定をいつの時点で行うかは、出荷するまでの感熱ロール紙の取り扱い方法や手順等によって決められる設計事項である。

(3)本願発明の進歩性の判断
上記相違点は、いずれも想到容易であるか、実質的に同一又は設計事項であり、本願発明の作用効果も引用発明及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものであるから、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明が明確となるように記載されていないから、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-05-18 
結審通知日 2005-05-24 
審決日 2005-06-07 
出願番号 特願平9-8183
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B42D)
P 1 8・ 537- WZ (B42D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉村 尚  
特許庁審判長 番場 得造
特許庁審判官 谷山 稔男
藤井 靖子
発明の名称 感熱ロール紙の巻先端の固定方法とこれを実施したリング止め付感熱ロール紙  
代理人 小沢 信助  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ