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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B41J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1120628
審判番号 不服2003-10689  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-02-09 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-06-12 
確定日 2005-08-01 
事件の表示 平成 9年特許願第198107号「印刷制御装置、印刷制御システム、および印刷制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 2月 9日出願公開、特開平11- 34426〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願の出願からの主だった経緯を箇条書きにすると次のとおりである。
・平成9年7月24日 本件出願
・平成13年6月21日付け 原審にて拒絶の理由を通知
・同年9月3日 意見書及び手続補正書提出
・平成14年7月8日付け 原審にて拒絶の理由を通知(最後の拒絶理由通知)
・同年8月14日 意見書及び手続補正書提出
・平成15年5月9日付け 原審にて平成14年8月14日付け手続補正を却下
・同日付け 原審にて拒絶の査定
・平成15年6月12日 本件審判請求
・同年7月14日 手続補正書提出(平成14年改正前特許法17条の2第1項3号の規定に基づくものであり、この補正を以下「本件補正」という。)
・平成17年4月22日付け 当審にて請求人に対し審尋
・同年5月25日 請求人より回答書提出

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成15年7月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正内容
本件補正は明細書全文を補正するものであり、補正後の請求項1,3,8の記載は次のとおりである。
【請求項1】 LANなどを介してユーザ側のクライアントと接続される両面印刷機能を備えた印刷装置を備えた印刷装置を制御するための印刷制御装置において、
前記クライアントから受信した印刷データにおいて表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか、を該印刷制御装置側で前記クライアントを介さずにドキュメント単位で選択可能とする選択手段を、
備えたことを特徴とする印刷制御装置。
【請求項3】 LANなどを介してユーザ側のクライアントと接続される両面印刷機能を備えた印刷装置を備えた印刷装置を制御するための印刷制御装置において、
前記クライアントから受信した印刷データにおいて表面と裏面の印刷が異なる場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか、を該印刷制御装置側で前記クライアントを介さずにドキュメント単位で選択可能とする選択手段を、
備えたことを特徴とする印刷制御装置。
【請求項8】 LANなどを介してユーザ側のクライアントと接続される両面印刷機能を備えた印刷装置を備えた印刷装置を制御するための印刷制御システムにおいて、
前記クライアントでの印刷設定において両面印刷が設定されている場合には、表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか、を前記クライアントにおける印刷設定によってドキュメント単位で選択可能とする選択手段を、
備えたことを特徴とする印刷制御システム。

2.補正目的違反
本件補正前後(平成14年8月14日付け手続補正は原審で却下されたから、補正前とは平成13年9月3日付け手続補正後のことである。)の請求項3(請求項3同士が対応関係にあることは明らかである。)の記載を比較すると、補正前の「表面と裏面の印刷条件が異なる場合に」が「表面と裏面の印刷が異なる場合に」と補正されている。この補正が、請求項削除、特許請求の範囲の限定的減縮、誤記の訂正又は明りようでない記載の釈明のいずれを目的とするものでないことは明らかである。
したがって、本件補正は特許法(平成14年改正前特許法の趣旨であるが、「第2」では単に特許法と記述する。)17条の2第4項の規定に違反している。

3.新規事項追加
(1)本件補正後の請求項1の上記記載によれば、「選択手段」は、印刷制御装置に備わった手段であって、表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、「各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷する」(以下「強制両面印刷」という。明細書に「サイズ優先印刷」又は「表面優先印刷」とあるのがこの例である。)か「裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷する」(以下「個別用紙印刷」という。明細書に「白紙挿入印刷」又は「片面印刷」とあるのがこの例である。)かをドキュメント単位で選択可能な手段である。
願書に最初に添付した明細書(以下、添付図面を含めて「当初明細書」という。)には、ドキュメントの印刷を実行したい場合、クライアントの印刷設定画面上でその指示を行う例が段落【0015】〜段落【0045】に記載されており、特に「両面印刷の設定の場合には、印刷パターン設定欄15bで、両面印刷のパターンとして「サイズ優先印刷」、「表面優先印刷」、「白紙挿入印刷」、「片面印刷」の中から何れかを指定することができる。」(段落【0020】)及び「このような印刷設定は、ドキュメント単位で行うことができる。」(段落【0022】)との各記載がある。これら記載によれば、表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、強制両面印刷とするか個別用紙印刷とするかの設定を含む印刷設定をクライアントの印刷設定画面上で行う場合に、ドキュメント単位で選択可能とすることが当初明細書に記載されていることは認める。なお、これら記載がなくとも、クライアントの印刷設定画面上で各種印刷設定を行う場合にドキュメント単位で設定することは普通である。
当初明細書には、「これらの各種印刷処理は、印刷制御装置2側で設定可能としてもよい。こうすることにより、クライアント1を介さなくても本形態特有の印刷指令を行うことができる。」(段落【0046】)との記載があるから、強制両面印刷とするか個別用紙印刷とするかの設定を印刷制御装置で設定すること、換言すれば、そのような印刷設定のための「選択手段」が印刷制御装置に備わっていることは記載されている。しかし、ここに記載の「各種印刷処理」又は「本形態特有の印刷指令」が、ドキュメント単位での印刷設定を含むと解釈しなければならない理由はない。
また、ドキュメント単位での印刷設定とは、ドキュメントと印刷設定の対応関係が定まっていることを意味し、印刷制御装置にて同設定を行うとすれば、クライアントから印刷指令がされたドキュメントを特定し、同ドキュメントが印刷される前に特定したドキュメント毎に印刷設定を行わなければならないが、そのようなことは当初明細書に一切記載されていない。
請求人は、当初明細書の「記憶装置21は、例えばハードディスクであり、クライアント1から送られたドキュメントの印刷データおよび属性データを一時的に保管し、必要に応じてイメージ処理部26に印刷データを送る。」(段落【0022】)との記載を根拠に、「クライアントから送られた印刷データは記憶装置により一時保管され、ドキュメント単位で各種印刷処理設定を行うことが記載されている」(平成17年5月25日付け回答書3頁13〜15行)と主張するが、段落【0022】には上記記載に続いて「また、記憶装置21は、イメージ処理部26で作成されたイメージデータの一時保管も兼ねている。」との記載があるほか、当初明細書には「表面の印刷データと裏面の印刷データの用紙サイズが不整合で、かつ「サイズ優先印刷」の場合には、両者のうち大きい方の用紙サイズを選択し、これをイメージ処理部26に送る。」(段落【0024】)等の記載もあり、「イメージ処理部26で作成されたイメージデータ」は強制両面印刷であるか個別用紙印刷の判断がされた後に作成されたデータであり、このデータが一時保管されるのであるから、「一時保管」をユーザが何らかの指示(各種印刷処理設定)を行うまで保管するとの意味に解することはできない。そうである以上、「ドキュメントの印刷データおよび属性データを一時的に保管」も、ユーザが何らかの指示を行うまで保管するとの意味に解することはできず、例えば印刷制御装置に複数の印刷ジョブが送信され、順番待ちをする間保管するとの意味に解することが合理的であり、「必要に応じてイメージ処理部26に印刷データを送る。」も、先行ジョブの印刷が終了し、当該ジョブの印刷時期が到来することを「必要に応じて」と記述したと解することが合理的である。
そうすると、当初明細書段落【0046】の「これらの各種印刷処理は、印刷制御装置2側で設定可能としてもよい。」とは、各種印刷処理(強制両面印刷とするか個別用紙印刷とするかの設定を含む。)のうち、頻繁に使用するであろう処理を印刷制御装置側で設定しておくことが可能であることを述べただけで、これに続く「クライアント1を介さなくても本形態特有の印刷指令を行うことができる。」についても、頻繁に使用するであろう処理と異なる処理を希望しない限り、クライアント側で印刷設定をする必要がないことを記述したと解するのが合理的である。
したがって、本件補正後請求項1記載の「クライアントから受信した印刷データにおいて表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか、を該印刷制御装置側で前記クライアントを介さずにドキュメント単位で選択可能とする選択手段」は当初明細書に記載されているとも、それから自明であるとも認めることができない。

(2)本件補正後請求項3記載の「印刷データにおいて表面と裏面の印刷が異なる場合」(この意味は、後記3.で述べるように明確でない。)は、当初明細書に記載されていないし、それから自明の事項でもない。
(1)で述べたとおり、表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、強制両面印刷とするか個別用紙印刷とするかの設定を含む印刷設定をクライアントの印刷設定画面上で行う場合に、ドキュメント単位で選択可能とすることが当初明細書に記載されていることは認めるが、あくまでも表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に限ってのことである。
当初明細書の特許請求の範囲はすべて強制両面印刷に関する記載であって、「両面印刷指示された印刷データの表面と裏面の用紙サイズを比較」(【請求項1】、【請求項3】、【請求項4】、【請求項5】、【請求項6】及び【請求項7】)とあるように、用紙サイズ以外の印刷条件不整合は含まれておらず、いわんや「表面と裏面の印刷が異なる場合」であることが記載されているわけではない。
当初明細書の発明の詳細な説明には、従来技術として「表面と裏面の印刷条件が異なる場合、印刷不良が生じるおそれがある。」(段落【0003】)との記載があるが、同段落には続けて「例えば、裏面の用紙サイズが表面の用紙サイズよりも大きいと、裏面の印刷イメージがその印刷用紙からはみ出でることがある。」とも記載されており、用紙サイズ不整合以外の印刷の相違が、どのような印刷不良につながるのか、及びその印刷不良が強制両面印刷又は個別用紙印刷により解消される旨の記載は一切ない。
そうである以上、強制両面印刷又は個別用紙印刷は、「表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合」(【請求項1】)に限られるものである。そして、本件補正後請求項1と請求項3を比較すると、両者は「表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合」(【請求項1】)であるか「表面と裏面の印刷が異なる場合」(【請求項3】)であるかを除いて文言上同一であるから、「表面と裏面の印刷が異なる場合」が「表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合」に限られないことは明らかである。
さらに、本件補正後請求項3記載の「クライアントを介さずにドキュメント単位で選択可能とする選択手段」についても、(1)で述べたと同様の理由により新規事項である。

(3)したがって、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反している。

3.独立特許要件欠如その1
本件補正前後の請求項3の記載を比較すると、補正前の「両面印刷機能を備えた印刷装置」及び「表面と裏面の印刷条件が異なる場合」に、「LANなどを介してユーザ側のクライアントと接続される」及び「前記クライアントから受信した印刷データにおいて」との各限定を付し、補正前の「選択する選択手段」を「該印刷制御装置側で前記クライアントを介さずにドキュメント単位で選択可能とする選択手段」と限定しているから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的の一部に含むものと認める。
本件補正後請求項3の「印刷データにおいて表面と裏面の印刷が異なる場合」とは、いったいどのような場合であるのか明確でない。すなわち、印刷データそのものが異なる(例えば、あるページは文字印刷であり、別のページは写真印刷であること等)場合であるのか、印刷条件が異なる場合であるのか等著しく不明確である。
したがって、補正後請求項3の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから、補正後請求項3に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
すなわち、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。
4.独立特許要件欠如その2
本件補正前の請求項10と補正後の請求項8の記載を比較すると、補正前請求項10記載の「両面印刷機能を備えた印刷装置」、「サイズの不整合」に「LANなどを介してユーザ側のクライアントと接続される」、「前記クライアントでの印刷設定において両面印刷が設定されている場合には、表面と裏面の印刷データに」との限定を付し、補正前請求項10記載の「選択する選択手段」を「前記クライアントにおける印刷設定によってドキュメント単位で選択可能とする選択手段」と限定しているから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものと認める。
本件補正後の請求項1、請求項3及び請求項8の記載は1.で述べたとおりであって、これら請求項に共通する「両面印刷機能を備えた印刷装置を備えた印刷装置を制御」は、「両面印刷機能を備えた印刷装置を制御」の自明な誤記と認める(この誤記自体を独立特許要件欠如の理由とはしない。)。
請求項1及び請求項3は、「LANなどを介してユーザ側のクライアントと接続される両面印刷機能を備えた印刷装置を制御するための印刷制御装置」であるが、「LANなどを介してユーザ側のクライアントと接続される」との修飾語が直後の「両面印刷機能を備えた印刷装置」を修飾すると解すると、【図1】と整合しないだけでなく、「クライアント」、「印刷制御装置」及び「印刷装置」3者間の関係が著しく不明確となる。そうである以上、上記修飾語は「印刷制御装置」を修飾するものと解さなければならない。
ところが、請求項8にも請求項1,3と同じ「LANなどを介してユーザ側のクライアントと接続される」との修飾語があり、これも直後の「両面印刷機能を備えた印刷装置」を修飾するとは解しえない(請求項8に限っては印刷装置を修飾すると解すると、新規事項になる。)から、「印刷制御システム」を修飾することになる。ところが、請求項8は「クライアントにおける印刷設定によってドキュメント単位で選択可能とする選択手段」を発明特定事項としているから、その選択手段が存するクライアントは「印刷制御システム」の一部でなければならず、そうすると構文上「クライアントと接続されるクライアント」ということになり、解釈不能といわざるを得ない。
したがって、補正後請求項8の記載は特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていないから、補正後請求項8に係る発明(以下「補正発明」という。)は特許出願の際独立して特許を受けることができない。
すなわち、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。

5.独立特許要件欠如その3
(1)補正発明の認定
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲【請求項8】に記載された事項によって特定される1.に示したとおりのものであるが、【請求項8】には4.で述べたとおりの記載不備があるから、明細書及び図面の記載を参酌して次のように認定する。
「ユーザ側のクライアント及びLANなどを介して前記クライアントと接続される印刷制御装置からなり、両面印刷機能を備えた印刷装置を制御するための印刷制御システムにおいて、
前記クライアントでの印刷設定において両面印刷が設定されている場合には、表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか、を前記クライアントにおける印刷設定によってドキュメント単位で選択可能とする選択手段を、
備えたことを特徴とする印刷制御システム。」

(2)引用刊行物記載の発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された特開平8-328428号公報(以下「引用例1」という。)には、
「記録紙の表面に第1画像を記録し、該記録紙の裏面に第2画像を記録する画像処理装置において、
記録対象画像のサイズおよび縦横の向きを検出する原稿サイズ検出手段と、
記録対象画像のサイズおよび縦横の向きを記録紙のサイズおよび縦横の向きに合わせるための倍率および回転有無を決定する処理パラメータ決定手段と、
前記処理パラメータに従って記録対象画像の拡大または縮小および回転を実行する画像処理手段と、
サイズおよび縦横の向きが異なる複数種類の記録紙をそれぞれ収容した複数の記録紙トレイと、
前記原稿サイズ検出手段で検出された第1画像のサイズおよび縦横の向きに基づき、予定の優先順に従って前記記録紙トレイの1つを選択するトレイ選択手段とを具備し、
第1画像の記録に際しては、前記トレイ選択手段で選択された記録紙トレイに収容された記録紙のサイズおよび縦横の向き、ならびに第1画像の記録紙のサイズおよび縦横の向きに基づいて前記処理パラメータ決定手段で倍率および回転有無を決定し、
第2画像の記録に際しては、前記トレイ選択手段で選択された記録紙トレイに収容された記録紙のサイズおよび縦横の向き、ならびに第2画像の記録紙のサイズおよび縦横の向きに基づいて前記処理パラメータ決定手段で倍率および回転有無を決定するように構成したことを特徴とする画像処理装置。」(【請求項1】)との発明(以下「引用発明1」という。)が記載されており、その説明として次のア〜エの記載が図示とともにある。
ア.「【従来の技術】複写機やファクシミリ装置において、記録紙の両面に複写原稿や受信原稿の画像を印字することができる装置が知られている。」(段落【0002】)
イ.「【発明が解決しようとする課題】・・・印字対象となる複写原稿または受信原稿が複数枚あった場合、そのすべてが同一サイズでない場合または縦横の向きが同一でない場合があった。このような場合、1つの原稿に合わせて記録紙を選択した場合、該原稿とはサイズや縦横の向きが異なる原稿では一方の画情報の一部が印字されないという事態が発生する問題点があった。」(段落【0004】)
ウ.「図2は本発明の一実施例に係るファクシミリ装置の概略の構成を示す模式図である。該ファクシミリ装置は通信機能とともに複写機能を有する複合機である。同図において、ファクシミリ装置1は画像読取部(以下「スキャナ」という)2および画像記録部3ならびに記録紙格納部4からなる。」(段落【0010】)
エ.「ファクシミリ装置1の制御装置の構成を説明する。図3は本発明の一実施例に係るファクシミリ装置の要部ハード構成を示すブロック図である。同図において、スキャナ2の構成は上述のとおりである。画像記憶部29はスキャナ2で読取られた原稿の画情報を蓄積するための、DRAMやハードディスク等からなる大容量の画情報記憶装置である。符号器30は画情報を圧縮符号化するものであり、復号器34は画情報を伸張して復号するものである。画像記憶部29にはスキャナ2で読取られて前記符号器30で圧縮された画情報や受信した圧縮画情報が蓄積される。モデムおよび回線制御部35は送信画情報を変調して回線に送出する機能と、回線から画情報を取り込んで復調する機能とを有する。プリンタ36は画像記憶部29に蓄積された画情報を印字出力する。画像処理部44はスキャナ2で読取った画情報または画像記憶部29に蓄積された画情報を指定された角度だけ回転させたり拡大・縮小したりする機能を有し、そのためのページメモリを備える。」(段落【0016】)

(3)補正発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定
以下、本審決では「発明を特定するための事項」という意味で「構成」との用語を用いることがある。
引用発明1の「第1画像」及び「第2画像」は、記載ウ,エにあるようにスキャナで読み取られ、画像記憶部に蓄積されるデータであり、それぞれ記録紙の表面及び裏面に記録されるのだから、読み取られた各データは補正発明の「表面と裏面の印刷データ」に相当する。
補正発明は「システム」の発明であるが、それは物の発明であり、引用発明1の「画像処理」は「印刷制御」ともいえるから、補正発明と引用発明1とは、「両面印刷機能を備えた印刷装置を制御するための印刷制御を行う装置」である点で一致する。もっとも、引用発明1は「記録紙トレイ」等も構成としており、他方補正発明は「印刷装置を制御するための印刷制御システム」であり、「記録紙トレイ」等は制御対象たる「印刷装置」に含まれると解されるから、厳密な意味では引用発明1を「両面印刷機能を備えた印刷装置を制御するための印刷制御を行う装置」といえないかもしれないが、引用発明1から「印刷装置」に該当する構成を除き、「印刷装置」を制御対象とする部分だけを取り出せば「印刷装置を制御するための印刷制御を行う装置」といえるから、進歩性の判断には影響を及ぼさない。
引用発明1では、「第1画像のサイズおよび縦横の向き」に基づいて記録紙トレイの1つが選択され、記録紙トレイが選択されるということは同時に記録用紙サイズが選択されることでもあり、その選択された記録用紙に「第2画像」を倍率を決定して記録している。すなわち、第1画像のサイズと第2画像のサイズに不整合があっても、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷を行っている。そうである以上、補正発明と引用発明1とは、「表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷する」ことが可能な「印刷制御を行う装置」である点で一致する。
したがって、補正発明と引用発明1とは、
「両面印刷機能を備えた印刷装置を制御するための印刷制御を行う装置において、
表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷することが可能な印刷制御を行う装置。」である点で一致し、以下の各点で相違する。
〈相違点1〉補正発明が「ユーザ側のクライアント及びLANなどを介して前記クライアントと接続される印刷制御装置」からなる「印刷制御システム」であるのに対し、引用発明1はそうではない点。
〈相違点2〉補正発明は、「表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか、を前記クライアントにおける印刷設定によってドキュメント単位で選択可能とする選択手段」を備え、選択に応じた印刷がされる場合を「クライアントでの印刷設定において両面印刷が設定されている場合」と限定しているのに対し、引用発明1では、表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷することが可能とはされておらず、表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するに当たっても、両面印刷が設定されている場合である旨の限定はない点。

(4)相違点についての判断
〈相違点1について〉
引用例1には「通信機能とともに複写機能を有する複合機」(記載ウ)は記載されているものの、さらにユーザ側のクライアントと接続(LANなどを介して)され、クライアントからの印刷データを印刷できるような複合機までが記載されているわけではないが、そのような複合機は本願出願当時周知である。そして、引用発明1を上記周知の複合機とすれば、機能が拡張され利便性が向上することは自明であるから、そのようにすることは設計事項というべきであり、その場合、「表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷すること」がクライアントからの印刷データの印刷時(当然両面印刷指定時)にも有効であることは自明である。また、そのように設計変更した場合には、複合機と接続されるクライアントを含めて「印刷制御システム」ということができる。なお、補正発明が上記の意味での複合機とクライアントからなるシステムを排除しないことは、「コピー機能やファックス機能などを備えた複合装置にも本発明を適用することができる。」(段落【0056】)との記載から明らかである。
以上のとおり、相違点1に係る補正発明の構成を採用することは設計事項である。

〈相違点2について〉
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-173385号公報(以下「引用例2」という。)には、「片面原稿より両面コピーを得る際に、同一サイズの原稿の中に異種サイズの原稿が混入していた場合、不適正なコピーが出力されることになるといった不具合があった。」(段落【0008】)及び「用紙サイズと原稿サイズとが合致しない場合には、一旦、片/両面コピーモードが解除され、片面コピーモード、つまり適正カセットが選択し直されて通常のコピー動作が行われる。」(段落【0113】)との各記載があり、これら記載は「表面と裏面の印刷データにサイズの不整合があった場合」ではなく、本来同一サイズであるべき原稿の中に異種サイズの原稿が混入していた場合の処理について記載したものであるが、両面コピー・両面印刷を行う場合、複写・印刷を行うべき用紙サイズが適正でないと、不適正なコピー・印刷となることを解消する技術である点では、補正発明及び引用発明1と軌を一にするものである。そして、引用例2の上記記載からは、両面コピーを予定しながらも、原稿サイズが不整合の場合、両面コピーとせず片面コピーとすること、すなわち裏面に相当するコピーを表面記録用紙とは別の用紙に行うことが、サイズ不整合に対する対策として有効であることが明確に把握できる。
このように、引用発明1と引用例2記載の発明(以下「引用発明2」という。)は、原稿サイズ不整合という同一課題に対して、異なる対策を施したものであるが、どちらの対策がより有効であるかは、コピー・印刷すべき対象やユーザの意図によって異なることが明らかであり、どちらが優れているとは一概にはいえない。
そうであれば、コピー・印刷すべき対象に応じた対策を施すことができ、ユーザの意図を明確に反映できるように、原稿サイズ不整合という課題に対し引用発明1の対策と引用発明2の対策を選択する選択手段を設けることは当業者にとって想到容易というべきである(一般に、同時には採用できない複数の機能の1つを選択する手段を設けることは技術常識に属する。例えば、両面印刷を設定できるということは、片面印刷と両面印刷の1つを選択できるということであり、引用例1に明記はないものの、記載アの「記録紙の両面に複写原稿や受信原稿の画像を印字することができる装置」は、記録紙の片面に印字できることを前提とした記述と解すべきであるし、引用例2には「片面コピーモード」の明記があることから、引用例1,2からもそれが技術常識であることは窺える。)。また、相違点1に係る補正発明の構成が設計事項であることは既に述べたとおりであるが、相違点1に係る補正発明の構成を採用した場合には、コピーだけでなくクライアントからの印刷データを印刷する際のサイズ不整合にも当てはまることは自明である。
さらに、印刷データに対しての印刷設定をクライアントによりドキュメント単位で行うことも周知であって、「各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか」は印刷設定の一種であるから、選択手段を「クライアントにおける印刷設定によってドキュメント単位で選択可能とする選択手段」とすることは設計事項であり、「各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか」は両面印刷を前提とするものであるから、「クライアントでの印刷設定において両面印刷が設定されている場合には」との限定を付すことに何の困難性もない。
以上のとおりであるから、相違点2に係る補正発明の構成を採用することは当業者にとって想到容易である。

(5)補正発明の独立特許要件の判断
相違点1,2に係る補正発明の構成を採用することは、設計事項であるか当業者にとって想到容易であり、これら構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、補正発明は引用発明1,引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
すなわち、本件補正は特許法17条の2第5項で準用する同法126条4項の規定に違反している。

[補正の却下の決定のむすび]
本件補正は、特許法17条の2第3項及び4項並びに同条5項で準用する同法126条4項の規定に違反しているから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されなければならない。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本件審判請求についての当審の判断
1.本願発明の認定
平成14年8月14日付け手続補正は原審において、平成15年7月14日付け手続補正は当審においてそれぞれ却下されたから、本願の請求項10に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成13年9月3日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲【請求項10】に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「両面印刷機能を備えた印刷装置を制御するための印刷制御システムにおいて、
サイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか、を選択する選択手段を備えたことを特徴とする印刷制御システム。」

2.本願発明の進歩性の判断
本願発明と引用発明1とは、
「両面印刷機能を備えた印刷装置を制御するための印刷制御システムにおいて、
サイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷することが可能な印刷制御システム。」である点で一致し(本願発明は補正発明と異なり、「ユーザ側のクライアント及びLANなどを介して前記クライアントと接続される印刷制御装置」からなる限定がなく、システムの発明は物の発明であるから、「印刷制御システム」と「印刷制御装置」を区別できない。そのため、「第2 5(3)」の〈相違点1〉に相当する相違点は存在しない。仮に、「印刷制御システム」との表現から、クライアントと接続されるシステムに限定されるとしても、「第2 5(4)〈相違点1について〉」で述べたと同様の理由により設計事項にすぎないばかりか、請求項1に係る発明を「本願発明」と読み替えれば、ここで述べる一致点及び相違点がそのまま当てはまる(「印刷制御システム」を「印刷制御装置」と読み替える。)から、請求項1に係る発明に進歩性がないことが明らかであって、本願が拒絶されるべきであるとの審決の結論には影響を及ぼさない。)、次の点で相違する。
〈相違点2’〉本願発明は、「サイズの不整合があった場合に、各ページの表面、裏面の関係を崩すことなく印刷するか、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷するか、を選択する選択手段」を備えたのに対し、引用発明1では、サイズの不整合があった場合に、裏面の印刷データは表面の印刷データの裏面に印刷せずに次の用紙に印刷することが可能とはされていない点。

相違点2’に係る本願発明の構成を採用することが当業者にとって想到容易であることは、「第2 5(4)〈相違点2について〉」で述べたと同様であり、同構成を採用したことによる格別の作用効果を認めることもできない。
したがって、本願発明は引用発明1,引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第4 むすび
本件補正は却下されなければならず、本願発明が特許を受けることができない以上、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-07 
結審通知日 2005-06-08 
審決日 2005-06-22 
出願番号 特願平9-198107
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B41J)
P 1 8・ 575- Z (B41J)
P 1 8・ 121- Z (B41J)
P 1 8・ 56- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上田 正樹立澤 正樹  
特許庁審判長 津田 俊明
特許庁審判官 谷山 稔男
酒井 進
発明の名称 印刷制御装置、印刷制御システム、および印刷制御方法  
代理人 特許業務法人アイ・ピー・エス  

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