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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) C02F
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 訂正を認めない。無効とする(申立て全部成立) C02F
管理番号 1120811
審判番号 審判1998-35412  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-03-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-09-01 
確定日 2005-08-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第2134417号「電解オゾンを使用する水処理方法及び装置」の特許無効審判事件(平成10年審判第35412号)についてされた平成12年12月5日付け審決に対し、東京高等裁判所において「特許庁が平成10年審判第35412号,第35494号及び平成11年審判第35574号事件について平成12年12月5日にした審決中「特許第2134417号の請求項2,4,5に係る発明についての審判請求は成り立たない。」との部分を取り消す。」との判決(平成13年(行ケ)第31号 平成16年10月19日判決言渡)があり、その後、上記判決に対し最高裁判所において「本件上告を棄却する。本件を上告審として受理しない。」の決定(平成17年(行ツ)第20号、平成17年(行ヒ)第23号 平成17年3月18日決定言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第2134417号の請求項1〜5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2134417号の請求項1乃至5に係る発明についての出願は、昭和63年9月29日に特許出願され、平成10年1月16日にその発明について特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、本件請求人株式会社ササクラから平成10年9月1日(平成10年審判第35412号)に、他に鳥養栄一から平成10年10月14日(平成10年審判第35494号)に、三菱重工業株式会社から平成11年10月19日(平成11年審判第35574号)にそれぞれ無効審判の請求がなされ、その間平成11年4月12日に訂正請求がなされ、その後訂正拒絶理由通知がなされ、平成12年9月5日に意見書が提出され、平成12年12月5日に、本件訂正請求を認めなかった上で「特許第2134417号の請求項1、3に係る発明についての特許を無効とする。特許第2134417号の請求項2、4、5に係る発明についての審判請求は成り立たない。審判費用は、その5分の3を請求人の負担とし、5分の2を被請求人の負担とする。」との審決がなされた。
その後、本件請求人は、これを不服として東京高等裁判所に出訴し、平成13年(行ケ)第31号審決取消請求事件として審理されたが、平成16年10月19日に「1 特許庁が平成10年審判第35412号,第35494号及び平成11年審判第35574号事件について平成12年12月5日にした審決中「特許第2134417号の請求項2、4、5に係る発明についての審判請求は成り立たない。」との部分を取り消す。2 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決が言い渡されたものである。
これに対して、上告人兼申立人ペルメレック電極株式会社は、これを不服として最高裁判所に対し上告及び上告受理の申立てをし、平成17年(行ツ)第20号、平成17年(行ヒ)第23号として審理されたが、平成17年3月18日に「本件上告を棄却する。本件を上告審として受理しない。上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。」との決定が言い渡されたものである。

(上記判決で、「「特許第2134417号の請求項2、4、5に係る発明についての審判請求は成り立たない。」との部分を取り消す。」とされたのであるから、以下、上記審決のうちの、IV.請求人株式会社ササクラの無効審判請求について、1-4.当審の判断(2)無効理由2について、(3)無効理由3について、(4)結論、V.むすび、の箇所を再審理し、II.訂正の適否、III.本件特許発明、IV.請求人株式会社ササクラの無効審判請求について、1.請求人の主張及び証拠方法〜1-4.当審の判断(1)無効理由1について、の箇所は上記審決と同一内容とした。)

II.訂正の適否
1.訂正の内容
本件訂正の内容は、本件特許明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち訂正事項a乃至訂正事項dのとおりに訂正しようとするものである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の「ガスを被処理水」を「ガスを電子機器製造用の被処理水」に訂正し、「処理することを」を「処理しオゾンが溶解した被処理水を生成させることを」に訂正する。
(2)訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2の「注入して」を「接触させて溶解し、」に訂正する。
(3)訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3の「被処理水が流通」を「電子機器製造用の被処理水が流通」に訂正し、「取り出した前記オゾン含有ガス」を「取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガス」に訂正し、「処理することを」を「処理しオゾンが溶解した被処理水を生成させることを」に訂正する。
(4)訂正事項d
特許請求の範囲の請求項4の「取り出した前記オゾン含有ガス」を「取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガス」に訂正し、「注入して」を「接触させて溶解し、」に訂正する。
2.訂正拒絶理由通知の概要
当審が通知した平成12年6月28日付けの訂正拒絶理由の概要は、下記理由1乃至3により、訂正を認めることができないというものである。
(1)理由1(新規事項の有無)
訂正事項aは、「ガスを被処理水」を「ガスを電子機器製造用の被処理水」に、また「処理することを」を「処理しオゾンが溶解した被処理水を生成させることを」にそれぞれ訂正するものであり、これは、口頭審理の被請求人の陳述によれば「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)させること」を意味するものであるところ、本件特許明細書には、「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)させる」ことについては記載されていないから、訂正事項aは、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものではない。また、訂正事項cも、同様の内容であると云えるから、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものではない。
(2)理由2(実質変更の存否)
訂正事項a及び訂正事項cは、本件請求項1に係る発明及び請求項3に係る発明をそれぞれ減縮するものであるが、訂正後のこれら発明の主な内容は「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)させる」というものであり、この「電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)させる」ことは、特許査定時の請求項1及び3に係る発明の「被処理水の処理」から予想することができない別個の新たな目的及び効果をもたらすことが明らかであるから、訂正事項a及び訂正事項cは「実質上特許請求の範囲を変更するもの」に該当する。
(3)理由3(独立特許要件)
訂正後の請求項1又は3に係る発明は、引用例1(特開昭63-79658号公報)、引用例2(第114回 三ゆう(原文、漢字。以下、同じ。)技研セミナー講演集「オゾナイザー技術の進歩とその応用」三ゆう書房、第1〜73頁、昭和62年7月27日)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3.当審の判断
3-1.本件訂正発明
本件訂正明細書の請求項1乃至5に係る発明(以下、それぞれ「訂正発明1乃至5という」)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスを電子機器製造用の被処理水と接触させ、該被処理水を処理しオゾンが溶解した被処理水を生成させることを特徴とする電解オゾンを使用する水処理方法。
【請求項2】純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に接触させて溶解し、所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後、該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理方法。
【請求項3】電子機器製造用の被処理水が流通する被処理水流通部に、純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを生成させる電解オゾナイザーを連結し、該電解オゾナイザーから取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスにより前記被処理水を処理しオゾンが溶解した被処理水を生成させることを特徴とする水処理装置。
【請求項4】分岐された被処理水の一部が流通する被処理水流通部に、純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させる電解オゾナイザーを連結し、該電解オゾナイザーから取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスを前記分岐被処理水に接触させて溶解し、所定のオゾン濃度の分岐被処理水とし、該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理装置。
【請求項5】被処理水流通部が溶解塔であり、該溶解塔の下部に装着した散気フィルターを通してオゾン含有ガスを前記溶解塔に供給し、該溶解塔中の被処理水と接触させ、所定のオゾン濃度の分岐被処理水を製造するようにした請求項4に記載の装置。」
3-2.理由1:新規事項の有無について
上記訂正事項aは、上述したとおり、訂正後の請求項1の内容を「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成させること」を意味するものに訂正するものである(平成11年10月25日第2回口頭審理調書参照)が、本件特許明細書の「電子機器製造用」に関する主な記載箇所は、次のとおりである。
(a)「通常の水処理用としては問題はないが高純度純水の製造にあたっては、該不純物の除去が必要となる等の欠点を有している。」(本件特許公告公報第2頁第3欄第24〜26行)
(b)「該物質が被処理水中に混入して汚染の原因となり、特に半導体用等の高純度被処理水の処理には不適当であるという欠点がある。」(本件特許公告公報第2頁第4欄第2〜4行)
(c)「特に純水を処理して半導体等の電子機器用の超純水を製造するためには電極物質等が含有される可能性の高い従来の処理法では不十分であるとの認識から本発明を行うに到ったのである」(本件特許公告公報第2頁第4欄第35〜38行)
(d)「前記反応タンクで処理された被処理水はそのまま所定の用途例えば半導体製造用の超純水、プール水等として使用すればよい。」(本件特許公告公報第3頁第6欄第6〜9行)
そこで、これら記載について検討すると、上記(a)乃至(c)の記載は、それぞれ半導体用の高純度純水や超純水の製造についての技術的な課題等を一般的に述べただけのものであり、また上記(d)の記載も、反応タンクで処理された被処理水の用途として半導体製造用の超純水やプール水を例示するだけのものであり、「オゾン水」について言及するものではない。
また、これら記載は、オゾンで被処理水を「水処理」することを示すものであって「オゾン水の生成(製造)」やこの「オゾン水」を「電子機器製造用」に使用することについて示唆するものでもない。
次に、「オゾンが溶解したオゾン水」について検討すると、本件特許明細書の「オゾン水」に関する主な記載箇所は、次のとおりである。
(e)「添付図面に示すオゾン処理ラインを使用して次の条件でオゾン水を製造した。」(本件特許公告公報第3頁第6欄第19行及び第20行)
(f)「前記溶解塔9出口のオゾン水中のオゾン濃度は12ppm」(特許公告公報第3頁第6欄第42及び43行)及び「前記溶解塔9出口のオゾン水中のオゾン濃度は2ppm」(本件特許公告公報第4頁第7欄第10行)
(g)「又反応タンク13の被処理水中のオゾン濃度は3.6ppmであり、該反応タンク13中のオゾン水中から鉛は検出されなかった。」(本件特許公告公報第3頁第6欄第44〜46行)及び「反応タンク13の被処理水中のオゾン濃度は0.2ppm、該タンク出口のオゾン濃度は0ppmであり、」(本件特許公告公報第4頁第7欄第11〜13行)
これら(e)乃至(g)の記載をみても、「オゾン水」の定義に関する記載は見当たらないから、「オゾン水」の意味するところを本件特許明細書の前後の記載から解釈せざるを得ないところ、上記(f)の記載中の「オゾン水」とは、「溶解塔でオゾンが溶解された分岐被処理水」を意味し、また上記(g)の記載中の「オゾン水」とは、「反応タンク中で処理された被処理水」を意味すると云うことができるから、前者と後者の「オゾン水」は、その水質や作用・機能等が明らかに異なる別個のものである。
すなわち、上記(f)に記載の前者の「オゾン水」とは、反応タンク内の被処理水をオゾン処理する目的のものであって、水処理の中間工程(溶解塔)で予め「所定のオゾン濃度に調製(製造)」されたものであり、本件請求項2、4及び5に記載の「所定のオゾン濃度の分岐被処理水とし(を製造)」に該当するものであるから、この「オゾン水」を「生成又は調製」することについては本件特許明細書に記載されていると云えるが、しかしながら、この「オゾン水」を「電子機器製造用」に使用することについてまで記載されてはいない。
一方、上記(g)に記載の後者の「オゾン水」とは、被処理水が反応タンク中でオゾンにより処理された結果の、いわばオゾンが一部残存しているような「被処理水」をいうのであり、「3.6ppm」(実施例1)や「約30ppm」(実施例3)というオゾン濃度も、単に、オゾンによる水処理後の「被処理水中」の残存オゾンの検出結果を示しているだけであるから、このような「一部オゾンが残存している被処理水」を「オゾン水」と表現するとしても、実施例1及び3からいえることは、オゾンで処理したら処理後の被処理水がオゾンを残存する「オゾン水であった」という事実だけであり、「電子機器製造用」に使用する目的で「オゾン水を生成(製造)する」ことまでをも示唆していると云うことはできない。
また、この後者の「オゾン水」の「電子機器製造用」について言及すると、本件特許明細書には、「反応タンク内の被処理水」の用途について、「前記反応タンクで処理された被処理水はそのまま所定の用途例えば半導体製造用の超純水、プール水等として使用すればよい。」(上記(d)参照)と記載されているから、この記載と実施例3とから、「オゾン濃度約30ppmの被処理水はそのまま所定の用途例えば半導体製造用の超純水として使用すればよい。」と解釈する余地もあり得るようであるが、この解釈は、本件特許明細書の記載を総合すれば、当を得たものではないから、以下、その理由について述べる。
この解釈では、「オゾン濃度約30ppmのオゾン水」が「半導体製造用の超純水」として使用されることを意味することになるが、本件特許明細書の記載をみる限り、オゾンが約30ppmも多量に含まれる「オゾン水」が「超純水」として使用可能であるとする記載はない。
また、一般に「超純水」とは、純水レベル以上に不純物を取り除いた純粋な「被処理水」であることは技術常識であり、オゾンが約30ppmも含まれていれば、そのような「オゾン水」は「超純水」といわれるものではなく、ましてやそのまま「半導体製造用の超純水」として使用されると解することも無理があると云わざるを得ない。
むしろ、本件特許明細書の上記(d)の記載の解釈にあたっては、オゾン自身の性質を参酌すべきであり、例えば、本件特許明細書の「従来技術とその問題点」の項には、次のように記載されている。
「オゾンは強力でクリーンな酸化剤として注目されつつあり、特にその分解生成物が酸素であり従来から使用されている塩素系のものと比較して残留物が被処理物中に残留しないこと、分解速度が速くオゾンがそれ自身残留せず2次公害の問題も全くないこと等の理由から水処理用としての使用が増加している。」(本件特許公告公報第2頁第3欄第5〜10行)
このように、「オゾン」は、その性質上「分解速度が速くオゾンがそれ自身残留せず2次公害の問題も全くない」という理由から「水処理」や「高純度純水等の製造」に利用されているのであり、したがって、実施例3の「オゾン濃度約30ppmの被処理水」も、時間の経過と共にそのオゾンが分解され「それ自身残留しない被処理水」、いわば超純水レベルまで純粋処理された「被処理水」といえるものになるのであるから、上記(d)の記載は、このような「被処理水」であるからこそこれを「そのまま半導体製造用の超純水として使用すればよい」と教示していると解するのが相当である。
したがって、本件特許明細書及び図面には、後者の「オゾン水」を「電子機器製造用」に使用することについても何ら記載されてはいないと云える。
以上のとおり、本件特許明細書及び図面には、「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)させる」ことについては記載されていないから、このような意味合いの上記訂正事項(a)は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものではないと云うのが相当である。
また、訂正事項(c)も、同様の内容であると云えるから、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものではない。
3-3.理由2:実質変更の存否について
(1)本件訂正発明1について
本件訂正発明1は、上記訂正事項aにより、「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスを電子機器製造用の被処理水と接触させ、該被処理水を処理しオゾンが溶解した被処理水を生成させることを特徴とする電解オゾンを使用する水処理方法。」という発明に減縮されたものである。
そして、上記3-2.で述べたとおり、本件訂正発明1の「電子機器製造用の被処理水と接触させ、該被処理水を処理しオゾンが溶解した被処理水を生成させること」とは、「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)させること」を意味するというものである。
(2)本件発明の目的、技術的課題及び作用効果について
本件特許明細書には、訂正前の本件発明の目的、技術的課題及び作用効果について、次の(ア)乃至(オ)のとおりに記載されている。
(本件発明の目的)
(ア)「本件発明は、電解オゾナイザーにより発生させたオゾンを使用して水処理を行うための方法及び装置に関する。」(本件特許公告公報第2頁第3欄第2〜3行)
(イ)「本発明は、上述した各電解オゾンを使用する水処理方法の欠点を解消し、電解槽や電解液の汚染あるいは電解条件の不安定化等を生じさせることなく被処理水をオゾン処理する方法とその装置を提供することを目的とする。」(本件特許公告公報第2頁第4欄第6〜10行)
(本件発明の技術的課題)
(ウ)「該放電法によるオゾンを水処理に使用する場合、オゾン濃度が希薄であるため被処理水への溶解が不十分でありその効率が悪いこと、乾燥オゾンは湿潤オゾンに比較して被処理水中への溶解に長時間を要すること、発生オゾン自身が電極物質を含み、通常の水処理用としては問題はないが高純度純水等の製造にあたっては、該不純物の除去が必要となる等の欠点を有している。・・・電解オゾンは液体系で製造されるため完全な湿潤ガスであり、被処理水への溶解が容易である、15%以上の高濃度で得られる等の特徴を有している。この電解オゾンを水処理に使用する場合、従来は陽極側に直接被処理水の一部を送り込み陽極液中に存在するオゾンで直接処理したり、オゾンを含む前記陽極液を直接彼処理水に注入する新法が採用されている。・・・これらの・・・方法では、被処理水中の不純物により陽極液が汚染されて生成するオゾンの純度が低下したり、電解槽の電極や隔膜に不純物が付着して電解効率が低下したり、あるいは被処理水の圧力変化により陽極液が逆流したりする等の欠点がある。又オゾンを含有する陽極液を被処理水中に注入する方法は上記方法の欠点を有しない優れた方法であるが、陽極液中に極く僅かな電極物質が残存していることが多く、該物質が被処理水中に混入して汚染の原因となり、特に半導体用等の高純度被処理水の処理には不適当であるという欠点がある。」(本件特許公告公報第2頁第3欄第20行〜第4欄第4行)
(本件発明の効果)
(エ)「従って、陽極液が直接被処理水に接触することがなく、前記陽極液中に含有されることのある電極物質が被処理水中に混入することがなくなり、特に高純度が要求される被処理水の処理に有効である。更に被処理水等が陽極液中に流入することがないため、該被処理水中に含有されることのある不純物が電解槽中に混入し、電極の寿命を短縮する等の不都合が生ずることがない。」(本件特許公告公報第4頁第8欄第8〜14行)
(オ)「又陽極液と被処理水が直接接触しないため、該被処理水の圧力変化が生じても、該陽極液には被処理水の影響が及ぶことがなく、安定した電解条件で被処理水のオゾン処理を行うことができる。」(本件特許公告公報第4頁第8欄第15〜18行)
(3)対比・判断
訂正前の本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)と本件訂正発明1との目的及び効果を対比すると、本件発明1の目的は、特許明細書の上記(ア)及び(イ)の記載に照らせば、「電解槽や電解液の汚染等を生じさせることなく被処理水をオゾン処理すること」であり、そして「被処理水をオゾン処理すること」とは、例えば「実施例2」の「プール水の処理」にみられるように、オゾンのクリーンな酸化剤(本件特許公告公報第2頁第3欄第5行参照)としての機能を活用した「水処理方法」であるから、この「水処理方法」には、特定の「オゾン水を生成(製造)する」という技術思想は含まれていないとするのが相当である。
これに対して、本件訂正発明1の目的は、その明示的な記載はないものの、「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)する」という意味合いの構成から明らかなように、オゾンが溶解した「オゾン水」を生成(製造)し、この「オゾン水」を「電子機器製造用」に提供することを目的とするものであり、これは、ある特定の「物」を生成(製造)しそれを特定の用途に提供することを目的とするものであるから、本件発明1の「水処理」の目的から予想することができない新たな「目的」をもたらすものである。
また、効果についてみても、本件発明1の効果は、上記(エ)及び(オ)に記載のとおり、「電極物質が被処理水中に混入することがなくなり、特に高純度が要求される被処理水の処理に有効である。」こと、及び「該被処理水中に含有されることのある不純物が電解槽中に混入し、電極の寿命を短縮する等の不都合が生ずることがない。」等というものであるから、本件訂正発明1の「電子機器製造用のオゾン水の生成(製造)」という効果を予想させるものではない。
してみると、本件訂正発明1に係る上記訂正事項aは、本件発明1の「水処理」という目的及び効果から予想することができない別個の新たな目的及び効果をもたらすものであるから、「実質上特許請求の範囲を変更するもの」に該当するとするのが相当である。
また、本件訂正発明3に係る訂正事項(c)も、同様の内容であるから、「実質上特許請求の範囲を変更するもの」に該当する。
3-4.理由3:独立特許要件について
(1)引用刊行物の記載内容
当審が通知した訂正拒絶理由で引用した引用例1及び2には、それぞれ次の事項が記載されている。
引用例1:特開昭63-79658号公報
(a)「医薬品、食品、電子部品などの製造工程に用いられるタンク53の内壁を殺菌洗浄する方法として、(イ)オゾンを水に溶解させてオゾン水を調整する工程、(ロ)該オゾン水をタンク内壁の全面に吹きつけてタンクの内壁を殺菌洗浄する工程、(ハ)上記工程で発生した排オゾン水を処理する工程、を備えることを特徴とするタンク内壁の殺菌洗浄方法」(請求項1)
引用例2:第114回 三ゆう(原文、漢字。以下、同じ。)技研セミナー講演集 「オゾナイザー技術の進歩とその応用」三ゆう書房 第1〜73頁(昭和62年7月27日)
(b)「最近になってBBC-Brown-Boveri-&-Cie.LtdがSolid Polymer Electrolyte(固体高分子電解質)膜を使い、純水を電気分解することによってオゾンが発生することを示してから、電気分解法によるオゾンの生成も実用化の目途がたってきた。・・・陽極と陰極はイオン交換膜で仕切られており、陽極に供給された水は膜面で分解されて水素イオンと酸素/オゾンとなり、水素イオンはイオン交換膜を陰極側に移動し、膜表面に達して電子をもらって水素となる。」(第49頁第4〜18行)
(c)「この本式のオゾナイザーは、少量の純水を原料としてオゾンを発生させる点が最大の特徴であるほか、従来の常識をはるかに越える超高濃度のオゾンガスが発生する、純水を電気分解するため不純物を含まない非常にクリーンなオゾンガスとして利用できる、・・・などの優れた特徴を持っている。」(第50頁第4〜9行)」
(d)「このため純水の無菌化にはオゾンが最も適していると思われる。特に純水電解式オゾナイザーは、純水を原料として非常にクリーンなオゾンを発生させられるので好都合である。オゾンを水中に溶解させた場合、オゾンは不安定で自己分解が進み、その濃度の半減期は20〜30分と言われているが、これはその水質によって大きく左右される。図-3は各種水質におけるオゾンの自然分解曲線を示す。有機物の少ない純水中では、非常に長時間にわたって安定であることは注目に値する。・・・そこで無菌水システムのための前試験として図-5に示すようなシステムを作り、簡便な培養法による微生物チェックを行いながらオゾンの殺菌効果を確認した。この結果を図-6に示す。これは数十ppbという非常にわずかのオゾンが存在するだけで純水を無菌状態に維持することが可能となることを示唆している。」(第51頁第14行〜第52頁第4行)
(e)「これは数十ppbという非常にわずかのオゾンが存在するだけで純水を無菌状態に維持することが可能になることを示唆している。以上のことから、・・・極微量のオゾンを純水に溶解させておき、ユースポイントで水銀灯によって分解するという連続無菌純水維持システムが可能であると考えられる。」(第52頁第2〜8行)
(f)第56頁「図-5 無菌水のテストループ」には、RO水がタンクに入りリサイクルポンプ、気液接触装置を通ってタンクに戻る経路が図示され、この経路において、オゾンマスターと気液接触装置とが連結する経路も図示されている。
(2)対比・判断
引用例1には、「(イ)オゾンを水に溶解させてオゾン水を調製する工程(ロ)このオゾン水をタンク内壁の全面に吹きつけてタンクの内壁を殺菌洗浄する工程、からなる電子部品などの製造工程用のタンク内壁の殺菌洗浄方法」(以下、「引用例1発明」という)が記載されている。
本件訂正発明1と引用例1発明とを対比すると、引用例1発明の「殺菌洗浄方法」は、オゾン水による「水処理方法」と云うことができるものであり、また「オゾン水」は電子部品などの製造工程に用いられるタンク内壁の殺菌洗浄に使用されるものであるから、引用例1発明の上記(イ)は、本件訂正発明1の「オゾンガスを電子機器製造用の被処理水と接触させ、該被処理水を処理しオゾンが溶解した被処理水を生成させること」という構成に相当すると云える。
また、引用例1発明の「オゾンガス」も純粋なオゾンのみからなるものではなく「オゾン含有ガス」であることも明らかであるから、両者は、「オゾン含有ガスを電子機器製造用の被処理水と接触させ、該被処理水を処理しオゾンが溶解した被処理水を生成させることを特徴とするオゾンを使用する水処理方法」の点までは一致し、次の点で相違するのみであると云える。
本件訂正発明1は「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、陽極液から分離した電解オゾンを使用する」のに対して、引用例1発明は、オゾン発生機からのオゾンを使用するのであって電解オゾンを使用するのか不明である点。
次に、この相違点について検討する。
引用例2には、純水電解オゾナイザーの「無菌水システムへの応用」と題して、「純水電解オゾナイザー」で純水を電解してクリーンな電解オゾンを発生させ、この電解オゾンを水中に溶解して殺菌処理することが記載されており、図-5には、この純水電解オゾナイザーを使用した具体的な無菌水システムの前実験が図示されている。
そして、この「純水電解オゾナイザー」や「オゾン」は、本件訂正発明1の「電解槽」や「電解オゾン」にそれぞれ相当し、加えて上記のように「純水電解オゾナイザー」から発生するガスも電解オゾンや酸素を含む「オゾン含有ガス」であることは明らかである。
してみると、引用例2には、本件訂正発明1の「純水を電解して電解槽の陽極室に発生させたオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、」の構成が、すなわち「純水電解オゾナイザー」として記載されており、これから発生した「電解オゾン」が水処理に使用されることも記載されていると云える。
また、引用例2には、この「電解オゾン」は非常にクリーンであり、そのために「電解オゾン」が水の殺菌処理や無菌水の製造に利用されていることも記載されているから、この「純水電解オゾナイザー」によって本件訂正発明1の技術的課題である「電極物質の混入防止」、「電解液の汚染防止」や「高純度な被処理水の処理」等が解決されることも教示されていると云える。
そうであれば、上記相違点については、クリーンな電解オゾンガスを利用するという観点から、引用例1発明の「オゾン発生機」を上記引用例2に記載の「純水電解オゾナイザー」に置き換えることで当業者が容易に想到することができたとするのが相当である。
そして、本件訂正発明1の効果も、純水を電解して得られる「電解オゾン」の公知の性質・用途等から当業者であれば容易に予想することができる程度のものである。
また、本件訂正発明3も、本件訂正発明1の方法を単に装置的に記載し「純水電解オゾナイザー」を主要な構成の一つとする内容のものであるから、本件訂正発明1と同様に、引用例1及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件訂正発明1及び本件訂正発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである
4.被請求人の主張及びこれに対する当審の判断
被請求人は、訂正拒絶理由1乃至3に対して、平成12年9月5日付け意見書において次のとおり主張しているから、これら主張について検討する。
4-1.上記理由1(新規事項の有無)に対して
(1)被請求人の主張
被請求人は、「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)させること」について、これを、
(イ)「オゾンが溶解したオゾン水を生成(製造)させること」
(ロ)「生成(製造)させたオゾン水が電子機器製造用に使用されること」
に分節すると共に、本件特許明細書の、
(a)「通常の水処理用としては問題はないが高純度純水の製造にあたっては」
(b)「特に純水を処理して半導体等の電子機器用の超純水を製造するためには」
(c)「前記反応タンクで処理された被処理水は、そのまま所定の用途例えば半導体製造用の超純水、プール水等として使用すればよい。」
の記載や実施例1及び実施例3を引用して、次のとおり主張している。
上記(イ)について
上記(a)乃至(c)の記載中の「高純度純水」、「超純水」は、「オゾンが溶解した水」に他ならない。また、本件特許明細書の実施例1によれば、「超純水製造ライン」における反応タンク内の被処理水中のオゾン濃度が「3.6ppm」であり、この3.6ppm程度のオゾンが溶解している水をも「オゾン水」としているのであるから、実施例3に示されるように、その反応タンクの被処理水のオゾン濃度が約30ppmであれば、この被処理水も「オゾン水」であることは疑いがない。
してみると、本件特許明細書には、「超純水」を製造することや、この超純水が「オゾンが溶解したオゾン水」であることも記載されているから、上記(イ)である「オゾンが溶解したオゾン水を生成(製造)させること」については、本件特許明細書に記載されていることが明らかである。
上記(ロ)について
本件特許明細書では、「超純水」は「オゾンが溶解したオゾン水」を意味し、加えて上記(b)及び(c)には、「超純水」が「半導体等の電子機器用」及び「半導体製造用」に使用されることもそれぞれ明示されている。
そして、本件特許明細書の実施例3は、電子機器製造用に使用するためのオゾン水の生成(製造)を示す具体例であることが明らかであるから、本件特許明細書には、上記(ロ)である「生成(製造)させたオゾン水が電子機器製造用に使用されること」についても記載されていると云える。
してみると、本件特許明細書には、上記(イ)と(ロ)が記載されているのであるから、「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)させること」についても記載されていることが明らかである。
したがって、訂正事項(a)は、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであると云えるから、何ら新規事項を追加するものではない。
(2)当審の判断
被請求人は、上記(イ)及び(ロ)について、本件特許明細書の「超純水」は「オゾンが溶解した水」を意味すると断定しているが、本件特許明細書には、上記「3-2.理由1:新規事項の有無について」の項でも言及したとおり、そのような記載は見当たらない。
また、実施例1及び実施例3の「反応タンク内の被処理水」について、オゾン濃度約30ppmの被処理水が「超純水」として使用されると解することが当を得ないことも既に述べたとおりであるから、被請求人の上記主張は、採用することができない。
4-2.上記理由2(実質変更の存否)に対して
(1)被請求人の主張
被請求人は、「オゾンが溶解した被処理水」や生成(製造)した「オゾン水」を電子機器製造用とすることについては、本件特許明細書に明記されている。例えば「オゾンの溶解した被処理水(オゾン水)」の用途については実施例1に、半導体等の電子機器製造用の超純水の製造用として記載されている。また、本件発明1の「被処理水の処理」ということから、オゾンが溶解した被処理水が生成されること、またオゾンが溶解した被処理水が電子機器製造用とされることも予測し得るものであるから、上記訂正事項aは、何ら新たな目的や効果をもたらすものではなく、実質上特許請求の範囲を変更するものではないと主張している。
(2)当審の判断
被請求人の上記主張は、「オゾンが溶解した電子機器製造用のオゾン水を生成(製造)させること」については本件特許明細書の実施例1及び実施例3等に記載されているということを前提とするものであるが、この点については、既に述べたとおり当を得たものではないから、このような前提を根拠とする被請求人の上記主張は、採用することができない。
また、特許法第126条で規定する「特許請求の範囲の実質変更の存否」については、訂正事項が特許明細書に記載されているか否かが判断されるのではなく、訂正事項によって訂正された発明が訂正前の発明の目的及び効果から予想することができない別個の新たな目的及び効果をもたらすものであるか否かが判断されるのであり、この点については、上述したとおりである。
4-3.上記理由3(独立特許要件)に対して
(1)被請求人の主張
被請求人は、引用例1と引用例2とは、そこに記載されている「殺菌」等の技術的な意味や技術内容が全く異なるものであるから、これら引用例1と引用例2とを単純に組み合わせることはできないし、組み合わせた場合でも、本件訂正発明に到らないことは明らかであると主張している。
(2)当審の判断
本件訂正発明1は、「電子機器製造用」の「オゾン水」を生成(製造)するものであり、また、この「電子機器製造用」とは具体的には半導体製造工程で使用されるものを意味するものであるが、これに限定されるものではない。
そうであるとすると、引用例1の「オゾン水」も、電子部品などの製造工程に用いられるタンク内壁の殺菌洗浄に使用されるものであるから、本件訂正発明1の「電子機器製造用」に相当すると云える。
また、引用例2の「電解オゾン」も、引用例2の「大略、半導体グレードのガス純度が得られている。」(第51頁第10行)や「これは数十ppbという非常にわずかのオゾンが存在するだけで純水を無菌状態に維持することが可能になることを示唆している。以上のことから、・・・極微量のオゾンを純水に溶解させておき、ユースポイントで水銀灯によって分解するという連続無菌純水維持システムが可能であると考えられる。」(第52頁第2〜8行)という記載から明らかな如く、半導体製造用の純水の殺菌処理に使用されることも示唆されているから、本件訂正発明1の「電子機器製造用」に相当すると云える。
してみると、引用例1と引用例2は、そこに記載されたオゾンによる殺菌処理が共に「電子機器製造用」という目的で行われているから、技術分野等が共通する証拠と云うべきものである。
そして、これら証拠を組み合わせることにも合理性があり、本件訂正発明1ともその技術分野が共通すると云えるから、被請求人の上記主張は、採用することができない。
5.むすび
以上のとおり、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第134条第2項ただし書の規定及び特許法第134条第5項で準用する平成6年改正法による改正前の第126条第2項、第3項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。
III.本件特許発明
特許権者が請求する上記訂正は、認めることができないから、本件特許に係る発明は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載された次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明5」という)。
「【請求項1】純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスを被処理水と接触させ、該被処理水を処理することを特徴とする電解オゾンを使用する水処理方法。
【請求項2】純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後、該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理方法。
【請求項3】被処理水が流通する被処理水流通部に、純水を電解して電解糟の陽極室にオゾン含有ガスを生成させる電解オゾナイザーを連結し、該電解オゾナイザーから取り出した前記オゾン含有ガスにより前記被処理水を処理することを特徴とする水処理装置。
【請求項4】分岐された被処理水の一部が流通する被処理水流通部に、純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させる電解オゾナイザ-を連結し、該電解オゾナイザーから取り出した前記オゾン含有ガスを前記分岐被処理水に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とし、該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理装置。
【請求項5】被処理水流通部が溶解塔であり、該溶解塔の下部に装着した散気フィルターを通してオゾン含有ガスを前記溶解塔に供給し、該溶解塔中の被処理水と接触させ、所定のオゾン濃度の分岐被処理水を製造するようにした請求項4に記載の装置。」
IV.請求人の主張及び証拠方法
1.請求人株式会社ササクラの無効審判請求について
1-1.請求人の主張
請求人は、証拠方法として下記の証拠を提出して、被請求人の平成11年4月12日付け訂正請求書による訂正は、平成6年改正法による改正前の特許法第134条第2項ただし書の規定及び特許法第134条第第5項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第2項及び第3項の規定に違反するものであると主張すると共に、本件特許は、次の理由1乃至3により無効とすべきである旨主張している。
(1)無効理由1
本件請求項1、3に係る発明は、甲第1〜10、16及び17号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1、3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであり、特許法第123条第1項の規定により無効とすべきである。
(2)無効理由2
本件請求項2、4に係る発明は、甲第1〜11、16及び17号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項2、4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであり、特許法第123条第1項の規定により無効とすべきである。
(3)無効理由3
本件請求項5に係る発明は、甲第1〜12、16及び17号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項に違反してされたものであり、特許法第123条第1項の規定により無効とすべきである。
1-2.請求人の証拠方法及び記載事項
請求人が提出した証拠方法とその証拠の記載事項は、次のとおりである。
(証拠方法)
甲第1号証:米国特許第4316782号明細書
甲第2号証:II.2.の引用例2と同じ。
甲第3号証:昭和62年5月29日発行の日刊工業新聞の「株式会社笹倉機械製作所の固体高分子電解質電解法によるオゾン発生装置”オゾンマスター”」の広告記事
甲第4号証:「International Journal of Hydrogen Energy」Pergamon Press 第3 9 5〜403頁(19 7 7年12月 2 3 日)
甲第5号証:「JOURNAL OF THE ELECTROCHEMICAL SOCIETY ,ELECTROCHEMICAL SCIENCE AND TECHNOLOGY」第132巻第2号、第367〜371頁(1985年2月発行)
甲第6号証:昭和61年12月8日発行の日刊工業新聞の「笹倉機械超高濃度オゾン発生装置を開発」と題する記事
甲第7号証:特開昭61-283394号公報
甲第8号証:特開昭63-69588号公報
甲第9号証:「工業用水」社団法人日本工業用水協会 第356号 第24〜27行 (昭和63年5月20日)
甲第10号証:特開昭63-100190号公報
甲第11号証:特公昭62-10713号公報
甲第12号証:用水廃水便覧編集委員会編「改訂二版、用水廃水便覧」丸善株式会社 第388〜391頁 昭和51年6月15日
甲第13号証〜甲第15号証:これら証拠は、以下に示す参考資料1〜3にそれぞれ変更。
甲第16号証:II.2.の引用例1と同じ。
甲第17号証:米国特許第4749640号明細書
資料1:本件審判請求人が、ローム株式会社から、同社の自社工場(京都市右京区西院満崎町21)内の半導体用超純水処理装置に使用する水処理用オゾンガス供給装置として「オゾンガス発生装置(商品名:オゾンマスター)」及び「オゾンガス供給パイプ」の発注(3セット)を受け、それらが昭和63年8月10日に、納入、設置された事実を証明する書類
資料2:本件審判請求人が、株式会社クリエイト(北海道札幌市西区手稲本町見晴台570の38)から、水山養殖場(宮城県本吉郡唐桑町字西舞根133の1)の養殖水槽内の水を処理する装置として「オゾンガス発生装置(商品名:オゾンマスター)」、「純水装置」及び「オゾンガス供給パイプ」の発注を受け、それらが昭和63年6月に、納入、設置された事実を証明する書類
資料3:本件審判請求人が、クウケン株式会社(大阪市浪速区桜川4丁目8番1号)から、丹羽興業株式会社(岐阜県各務原市)の経営による中央プラザスポーツクラブ(岐阜県各務原市蘇原中央町3丁目167番地)の中央プラザスイミングスクール各務原校(岐阜県各務原市蘇原中央町3丁目167番地)、犬山校(愛知県犬山市大字五郎丸字柿崎22-1)及び関校(岐阜県関市東貸上25-1)の各スイミングプールのプール水を処理する装置として、「オゾンガス発生装置(商品名:オゾンマスター)」、「純水装置」及び「オゾンガス供給パイプ」等の発注(3セット)を受け、それらが昭和63年8月31日に納入、設置された事実を証明する書類。なお、納入先の丹羽興業株式会社と発注者のクウケン株式会社との間には仲介業者として協和産業株式会社(愛知県名古屋市)が介在している。
資料4:「本発明と公知例の水処理方法比較」の記載されている文書
資料5:ローム株式会社に納入したオゾン発生装置の全体組立図及び内部構造を示す断面図
資料6:ローム株式会社に納入したオゾン発生装置の内部構造の詳細を示す写真
(証拠の記載事項)
(1)甲第1号証
(a)「オゾンは、特に優れた酸化活性のために重要視される有用な化学産品として長く認識されてきた。この活性のために、オゾンは殺菌処理において用途が広い。」(第1欄第15〜18行)
(b)「この固体高分子電解質法(SPE法)は、ゼネラルエレクトリック社によって開発完成され、燃料電池や水の電解(水素及び酸素の製造)に利用されている。SPE法は電解によるオゾン生成にも適用できる。」(第7欄第35〜40行)
(c)「電解槽の上部空間には陰極(水素を発生させる場合)及び陽極から発生した気体を抜き取るための入口通路及び出口通路が適宜設けられている。これら2つのガス抜き取り機構は陰極で発生した気体(水素を発生させる場合)と陽極で発生した気体を分離しておくため、間隔を置いて設置されている。窒素及び/又は空気をガス処理システム(gas handling system)にポンプで送り込み、陰極及び陽極で発生したガスを電解槽の外部へ送り出し、所望の用途に使用してもよい。」(第9欄第34〜59行)
(2)甲第3号証
「クリーンで超高濃度(12〜14重量%)のオゾン発生装置が誕生!!」と題して、固体高分子電解質電解法”オゾンマスター”の写真とともにその特長等が次のように記載されている。
(d)「オゾンの殺菌力は極めて強く、しかも簡単に分解して酸素になるだけで、残留性がありません。 純水を電気分解して、不純物を全く含まないクリーンなオゾンガスを発生させる”オゾンマスター”は、バイオ・医療分野の用途に最適です。」「1超高濃度オゾン(12〜14wt%) オゾンは酸素とともに取り出されます。従来の方法では得られない超高濃度のオゾンが安定して得られます。2クリーンなオゾン 純水を原料としているため窒素酸化物や金属ダストなどの不純物を含まないクリーンなオゾンガス、オゾン水として使用できます。3コンパクトで手軽 純水さえあれば、手軽にオゾンが得られるため複雑な原料ガスの前処理装置(除湿、乾燥)が不要。しかもコンパクトなため保守、維持が簡単です。」「バイオ・医療分野使用例 超純水、純水の高度処理・・・」
(3)甲第4号証
(e)「作動時には、蒸留水は電解槽の陽極側(酸素が発生する側)を通って循環するが、電気化学反応によって内部で発生する熱を放散させるため、この蒸留水の循環速度は電解反応の速度を大きく上回るようにする。電解槽の外で酸素と水の混合物を冷却することによって、液体の水を分離し、脱イオン装置を介して電解槽の入口へリサイクルする。この脱イオン装置によって、再循環する水流中のコンポーネントから得られた金属イオンが除去される。一方、酸素は、貯蔵容器又は利用システムに排出される。陽極質から発生する水の一部は、陽子によって陰極側に汲み出され、発生した水素中に含まれる。この水も同様に分離した後、電解槽の入口へリサイクルされる。高圧下で作動させる場合には、水素/酸素ラインの調整器を利用して、生成圧力を制御することもできる。乾性ガスを得る場合には、電気分解装置の下流に乾燥機を設けることができる。なお、この系において、液体は純水のみである。」(第396頁第10〜20行)
(f)第401頁の図9には、水を電気分解し、陽極から取り出された酸素と水とをセパレーターで酸素と水とに分離し、酸素のみを取り出すことが図示されている。
(4)甲第5号証
(g)第368頁左上欄の図2には、水を電気分解し、陽極から取り出された流体をガスセパレーターで酸素/オゾンガスと水溶液に分離し、それぞれ別個に取り出すことが図示されている。
(h)「供給水は混床式イオン交換塔を通してミネラル分が除去された。電気伝導度は1〜2μScm-2のレンジにあった。」(第368頁左欄第8〜10行)
(i)「二酸化鉛は、陽極電流が高い条件下で液体の酸の中におかれると腐食することが知られている(10,11)。チタンに付着した二酸化鉛が腐食する様子を観察するため、メンブレルセルを用いて長時間の実験を行った。実験は、1.3Acm-2の負荷の下、2500時間にわたって行われた。逆ボルタンメトリーによって、陽極側循環系で発生した水に含まれる鉛イオンの量を調べた。このようにして測定した鉛の含有量は、脱イオン化した供給水の鉛の含有量から大きくは変わらなかった供給水:0.35ppb、anode loop:0.38ppb)。実験中、電解槽の電圧は、30℃において、3.45±0.1Vの範囲内で安定していた。」(第369頁左欄第1行〜右欄第3行)
(5)甲第6号証
(j)「この方法は、ふっ素系陽イオン交換膜の両面に、陰、陽の両電極を密着させ純水を供給しながら両極間に直流電流を通電して電気分解する方法で通常、陰極から水素、陽極から酸素がそれぞれ発生する。同社では、この両極に特殊な素材を採用することで、陽極から酸素とともに超高濃度のオゾンを発生させることに成功したもの。・・・同社の方法は純水を原料とするので極めて手軽で、しかも窒素酸化物や金属ダストを含まないクリーンな超高濃度オゾンが得られる。超高濃度オゾンは、半導体製造プロセスエッチング加工やフォトレジストの除去、超純水や無菌水、上下水道水の殺菌・滅菌などへの応用が期待されている技術。特にフォトレジストの除去では、集積度が高くなるにつれて低温処理できるオゾンが注目されているが、12〜14重量%という超高濃度はいずれの分野にも十分に対応できる。」
(6)甲第7号証
(k)「・・・回収水処理システムにおいて、前記吸着槽の前段に、同一の槽内で回収水に紫外線を照射するとともにオゾンを接触させる殺菌装置を設けたこと・・・」(特許請求の範囲)
(l)「本発明は、たとえば半導体ウエハーの最終洗浄に使用した高純度の超純水を初期洗浄用の純水として再利用するような場合に、回収した使用済みの水を再利用可能な状態に処理する処理システムに関する。」(第1頁左下欄第14〜18行)
(m)「該殺菌装置9は、同一の槽内で回収水に紫外線を照射するとともに、回収水にオゾンを接触させるものであって、単一の殺菌槽11と、該殺菌槽11の内部に設けた紫外線照射部12と、殺菌槽11内にオゾンを供給するオゾン発生器13を備えている。」(第2頁左下欄第18行〜同頁右下欄第3行)
(n)「前記オゾン発生器13にはエアポンプ19により空気が圧入され、オゾン発生器13で生成されたオゾンは供給管20を通じて回収水の流出口の近傍で回収水内に噴出する。」(第2頁右下欄第9行〜同欄第13行)
(7)甲第8号証
(o)「(1)純水製造装置によって作られた純水を複数個の半導体洗浄槽に供給する半導体洗浄槽への純水供給システムであって、前記純水製造装置に連結されたメイン管路と、前記メイン管路から分岐し、前記各半導体洗浄槽に連結された複数個のサブ管路と、前記各サブ管路内に設けられた流路開閉弁と、前記各サブ管路に連結され、各サブ管路内に蓄積した純水中の生菌を殺菌するための殺菌剤を導入する殺菌剤導入路と、を備えた、半導体洗浄槽への純水供給システム。(2)前記殺菌剤がオゾンである特許請求の範囲第1項記載の半導体洗浄槽への純水供給システム。」(請求項1、2)
(p)「純水製造装置5にはメイン管路6が連結されている。メイン管路6から複数個のサブ管路7が分岐しており、サブ管路7はそれぞれ半導体洗浄槽8に連結されている。複数個のサブ管路7のそれぞれには入口と出口に流路開閉弁9が備えられている。複数個のサブ管路7のそれぞれには、さらに、各サブ管路内に蓄積した純水中の生菌を殺菌するための殺菌剤を導入する殺菌剤導入路10が連結されている。そしてこの殺菌剤導入路10は、オゾンガス発生器11に連結されているオゾンガス供給管12から分岐している。」(第2頁左下欄第19行〜右下欄第10行)
(8)甲第9号証
(q)「高純度水は各種の目的に使用されるが、その目的に応じて必要とする水質が異なる。例えば、半導体工業においてはICの集積度によって要望水質は異なり、集積度が高い程、より高純度の水が要求される。」(第24頁左欄最下行〜右欄第3行)
(r)第24頁右欄最下段の表-1には半導体の集積度別に要望水質(金属成分)が各金属成分毎に記載されている。
(9)甲第10号証
(s)「水の電解によるオゾン含有酸素発生用電解装置を説明する。」(第3頁左上欄第8〜10行)
(t)「上部多孔質集電極3で発生したオゾン含有酸素は・・・取出口10より外部に取出される。」(第3頁右下欄第11〜16行)
(u)第1図には、オゾン含有酸素がガラスベルジャー12の取出口10から取り出されている様子が図示されている。
(10)甲第11号証
(v)「望ましくない水中含有物質を酸化する為及びこのような物質の凝集沈降を良好にする為に、処理される水の少なくとも1つの部分流が加圧状態の充填体処理塔内でオゾン発生装置からのオゾン-酸素-混合物と接触され、その際にオゾンと酸素の一部が水中に溶解され、溶解されていない酸素がオゾン発生装置内に戻され、オゾン及び酸素を含んだ水が前記塔から排出される如くなされている水処理、特に飲料水製造及び廃水浄化方法に於て、充填体処理塔4に導入される水3から部分流7が分岐されて水噴流-ガス圧縮機8を通して導かれ、前記圧縮機内でオゾン発生装置9からのオゾン-酸素-混合物が吸引され、圧縮され、部分流と混合され、然る後水、オゾン及び酸素より成る混合物10が前記充填体処理塔の脚部内に導入されることを特徴とする水処理方法。」(特許請求の範囲)
(w)「オゾンは望ましくない水中含有物質を分解する為の望ましい酸化剤である。併しこのような酸化剤即ちオゾンは溶解されて水中の有害物質と反応される前に大なるエネルギーを消費して空気又は純酸素から作らねばならない。・・・これに反して、オゾンが純酸素から製造される方法は好都合である。」(第1頁第2欄第3〜16行)
(x)「装置内に流入する原料水は符号1により示され、装置を出て行く浄化水は符号2によって示されている。浄化水2からは部分流3が分岐され、この部分流内には充填体処理塔4内でオゾン及び酸素が溶解される。この部分流3は又原料水1から分岐されることも出来る。圧力上昇ポンプ5によって部分流3の圧力は上昇される。圧力上昇ポンプ5の後方にて部分流3は更に2つの部分流6,7に分割される。部分流6は直接に充填体処理塔4の頭部に与えられる。部分流7は水噴流-ガス圧縮機8を流過されてこの圧縮機内でオゾン発生装置9からのオゾン-酸素-混合物を吸収する。このようにして形成されるオゾン-酸素-水-混合物は充填体処理塔4の脚部に導入される。圧力上昇ポンプ5による圧力上昇は、充分なオゾン-酸素-混合物がオゾン発生装置9から吸引されることが出来、水噴流-ガス圧縮機8の後方にてオゾン-酸素-水-混合物が少なくとも3バールの圧力を有する程大きくなければならない。これによって充填体処理塔4内に同様に少なくとも3バールの圧力が生じ、循環路ガス内の窒素が27容量%を越えないのである。水噴流-ガス圧縮機内で吸引されたオゾンの1部は部分流7の水中に溶解される。残余の量はガスとして充填体処理塔4内を上昇し、部分流6の水中に溶解される。溶解されない酸素は導管11を通って充填体処理塔4の頭部を出て行く。乾燥装置12及び圧力低減装置13を流過した後で、酸素は再びオゾン発生装置9内に到達する。消費された酸素は酸素の貯蔵容器14から補充される。オゾンを含んだ水は導管15を通って充填体処理塔4の溜め部を出て行き、反応段16内で原料水1と混合される。内部にて化学薬剤供与、凝集沈降及び濾過が行われる後処理装置17を流過した後で、浄化水2が得られる。」(第3頁第5欄第7行〜第6欄第11行)
(11)甲第12号証
(y)「図3・204はデフューザ方式とよばれ、オゾン化ガスは装置底部にある多孔質板(diffuser)を通して水中に圧入する」(第390頁第34、35行)
(12)甲第17号証
(z)「パターニングを施した薄膜がシリコンウエハ上に多層積層されている集積回路の製造方法。薄膜を積層する際、各エッチング工程の後でオゾンを少なくとも001ppm、好ましくは0.02〜0.09ppm含有する純水を用いて積層体を洗浄することによって、ウェハを調整する。」(第1頁要約欄)
(aa)「オゾンを少なくとも0.01ppm含有する純水を用いてウェハを洗浄することによって、シリコンの露出面及び回路構造の様々な界面を洗浄し、ウエハを調整するとよい。」(第2欄第22〜26行)
(ab)「オゾンを少なくとも0.01ppm含有する純水を用いてウェハを洗浄する。」(第2欄第40〜42行)
(ac)「オゾンを少なくとも0.01ppm含有する純水を用いてさらにウェハを洗浄する。本発明の実施例において、使用する純水のオゾン含有量が0.02〜0.09ppmであることが好ましい。」(第2欄第45〜50行)
(ad)「本発明では、オゾン処理及び脱イオン処理を施した純水を用いて、シリコンの露出面及び回路構造の様々な界面を洗浄し、回路形成中にウェハを調整する。」(第2欄第67行〜第3欄第3行)
1-3.被請求人の証拠方法と記載事項
被請求人が提出した証拠方法とその証拠の記載事項は、次のとおりである。
(証拠方法)
資料1:「訂正前と訂正後のクレームの比較」の記載されている文書
資料2:「種々のオゾン発生方法と使用方法」の記載されている文書
資料3:BBC社電解法についての技術を紹介するカタログ
資料4:資料3の翻訳
資料5:甲第10号証と同じ。
資料6:米国特許第4416747号明細書
資料7:第7回国際オゾン会議(1985年9月9〜12日開催)プログラム
(記載事項)
(1)資料4:資料3の翻訳
(a)「オゾンは水が電解槽の陽極に接触した際に発生し、即座に水中に溶解します。・・・オゾン化された水は弁V1を通って循環ラインに戻ります。」(第5頁左欄第34〜50行)
(b)第3頁第1図には、陽極側から、水と酸素とオゾンが排出されていることが図示されている。
(2)資料5
(c)「水電解によるオゾン含有酸素発生の場合には第4図のようにヨーロッパ公開特許第82200493号明細書に開示されているが、電解液を溜め、別個に設けられた電解槽にポンプで強制的に電解液を送給するなど・・・」(第1頁右欄下から第2行〜第2頁左上欄第4行)
(3)資料6
(d)「水/オゾン混合物は、バルブ17を介して、出口に至る。」(第2欄第57〜59行)
(4)資料7には、BBC社の電解法について第114頁第2図が資料3の第3図に対応することが記載。
1-4.当審の判断
上記訂正請求については、「II.5.むすび」の項で述べたとおりであるから、以下、無効理由1乃至3について検討する。
(1)無効理由1について
(i)本件発明1について
甲第2号証には、上記「II.3-4.(2)」の項で引用例2について述べたとおり、「純水を電解して電解槽の陽極室に発生させたオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、陽極液から分離した電解オゾンを使用する」こと、「無菌水システムへの応用」と題して、この「電解オゾン」を水の殺菌処理等の「無菌水システム」に応用することが記載されており、また、甲第2号証の第52頁には、「この結果を図-6に示す。これは数十ppbという非常にわずかのオゾンが存在するだけで純水を無菌状態に維持することが可能となることを示唆している。」と記載されている。
してみると、甲第2号証には、「純水を電解して電解槽の陽極室に発生させたオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、陽極液から分離した電解オゾンを使用する無菌水システム」が記載されていると云える。また、この「無菌水システム」は、純水という「被処理水」にオゾン含有ガスを接触させ、この被処理水を処理しているものであると云えるから、甲第2号証には、「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを電解槽から取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスを被処理水と接触させ、該被処理水を処理することを特徴とする電解オゾンを使用する水処理方法。」が記載されていると云える。
そうすると、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明と実質的な差異はないから、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
(ii)本件請求項3に係る発明について
本件請求項3に係る発明も、本件発明1の方法を単に装置的に記載し「純水電解オゾナイザー」を主要な構成とする内容のものであるから、本件発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
(2)無効理由2について
(2-1)本件発明2について
本件発明2は、上記III.で述べたとおり、特許請求の範囲の請求項2に記載されたとおりの、
「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後、該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理することを特徴とする水処理方法。」
である。
ここで、本件発明2の構成を、
「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、」(以下「構成a」という)と、
上記構成aを除いた
「分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後、該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理する」との構成(以下「構成b」という)
とに分説する。
そして、上記構成bを、
分岐被処理水を
「所定のオゾン濃度の分岐被処理水」とすること(以下、「構成b2」という)と、
上記構成b2を除いた
「分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して、分岐被処理水とした後、該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理する」との構成(以下「構成b1」という)
とに分説する。

(2-2) 甲第11号証における構成bの開示について
(2-2-1) 甲第11号証における構成b1の開示について
ア.甲第11号証には、「望ましくない水中含有物質を酸化する為及びこのような物質の凝集沈降を良好にする為に、水の少なくとも1つの部分流がオゾンによつて処理される如き水処理、特に飲料水製造及び廃水浄化方法」(第1頁第1欄第29行〜第2欄第2行)の技術が記載され、従来技術として、「・・・本発明は上述の如き方法から出発したものである。上述の如き方法は西独国公開公報2556328によつて公知である」(第2頁第3欄第2〜5行)とした上で、その内容について、記載A、すなわち、
「処理される水の部分流が充填体処理塔内でオゾン-酸素-混合物と接触される。充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の1部が水中に溶解される。溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流は処理塔の脚部にて引出され、処理される水量と混合される。廃水の処理の為には又全水量が同時に吸収室及び反応室となされている塔を経て推進される。塔を経て導かれる水量は全体の処理される水量のオゾン及び酸素要求量に応じて調整される。」(第2頁第3欄第4〜17行)
と記載されており、この水処理方法は、甲第11号証に記載された発明において前提とされている従来技術である。
イ.この記載A中の「処理される水の部分流が充填体処理塔内でオゾン-酸素-混合物と接触される。充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の1部が水中に溶解される。溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流は処理塔の脚部にて引出され,処理される水量と混合される。」(以下「記載A1」という。)の「処理される水の部分流」について、甲第11号証には、その具体例として「浄化水2からは部分流3が分岐され」(第3頁第5欄第15行)と記載され、また、その図面(同4頁)には、原料水1にオゾン水を混合した後の浄水2から部分流3が分岐されることが図示されており、この「処理される水の部分流」が、オゾン水を混合した後の水(既処理水)として説明されている部分がある。
しかし、これらの記載等は甲第11号証に記載された発明の一つの具体例として示されたものに過ぎず、甲第11号証には、「図面上にて水の流れの方向は個々に詳細には示されていない矢印によつて示されている。装置内に流入する原料水は符号1により示され、装置を出て行く浄化水は符号2によつて示されている。浄化水2からは部分流3が分岐され、この部分流内には充填体処理塔4内でオゾン及び酸素が溶解される。この部分流3は又原料水1から分岐されることも出来る。」(第3頁第5欄第11〜19行)として、分岐は、原料水と浄化水(既処理水)のいずれからでも実施できることが記載されているのである。
そして、原料水から部分流を分岐しても、記載A1の水処理は技術的に可能であると認められる。なぜなら、記載A1において「充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の1部が水中に溶解される。溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。」とされているとおり、甲第11号証に記載された発明は、充填体処理塔内で部分流に溶解されない酸素を充填体処理塔の頭部から取り出して回収し、オゾン製造装置において利用しているのであるが、部分流を既処理水から分岐しようと原料水から分岐しようと、いずれの方法をとったとしても、溶かしきれなかった酸素を充填体処理塔の頂部から回収できることは明らかだからである。
ウ.したがって、記載A1における「処理される水の部分流」は、本件発明2における「分岐した被処理水の一部」と同じ(正確には、本件発明2と同じものを含む。)ものであると認められる。
そして、記載A1における「オゾン-酸素-混合物」は本件発明2の「オゾン含有ガス」に、「大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流」は本件発明2の「オゾン含有ガスを注入」した「分岐被処理水」(本件発明2の「注入」とは,特許請求の範囲の文言からすれば,何らかの操作を伴って、「オゾン含有ガス」を水に接触させる操作をいうものと解すべきであり、記載A1においてもそのような操作があることは明らかである。)に、それぞれ相当する、ということができ、また、その部分流は「処理される水量と混合される」のであるから、これは本件発明2の「分岐させていない被処理水と混合する」ことに相当するということができる。
そうすると、記載A1は、「分岐した被処理水の一部が充填体処理塔内でオゾン含有ガスと接触される。充填体処理塔内では殆ど全部のオゾン並びに酸素の一部が水中に溶解される。溶解されない酸素は塔の頂部から引出されてオゾン発生装置に導入される。オゾン含有ガスを注入した分岐被処理水は処理塔の脚部にて引出され、該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合する」と言い換えることができ、 結局、記載A1には、「分岐した被処理水の一部がオゾン含有ガスと気液接触される。オゾン含有ガスを注入した分岐被処理水は引出され、該分岐被処理水を、分岐させていない被処理水と混合する」方法が開示されている、ということができる。
したがって、これを前提とし、その下位概念にあたる甲第11号証に記載された発明も、本件発明2の構成b1を備えているということができる。

(2-2-2) 甲第11号証における本件発明2の構成b2の開示について
ア.構成b2の「所定のオゾン濃度」について、本件明細書に特段の定義はないが、本件発明2が「オゾンを使用して水処理を行うための方法」であることからすれば、オゾン含有ガスが注入された分岐被処理水中のオゾンの量は、少なくとも、分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合した後の被処理水全体に対し、所望のオゾン処理をするのに要するオゾン量(自然分解してしまうオゾン量を含む)(以下、「所定のオゾン量」という)を指すものであると認められるのであって、分岐処理水のオゾン濃度は、上記オゾン量を分岐被処理水の量で除したものといえる。
しかし、分岐被処理水の水量、分岐割合、さらにはオゾン処理の内容について具体的に規定ないし限定がされていない以上、「所定のオゾン量」自体が決まってこないのであるから、結局、構成b2における「所定のオゾン濃度」は、技術的に特段の意味を持たないものといわざるを得ない。
イ.そして、「所定のオゾン量」とするための分岐被処理水の水量に応じた「所定のオゾン濃度」は、甲第11号証に開示されているといえる。
すなわち、記載A中には、「塔を経て導かれる水量は全体の処理される水量のオゾン及び酸素要求量に応じて調整される。」(以下「記載A2」という。)とあり、この記載によれば、記載Aの「大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流」の「水量」が、「全被処理水」に必要なオゾン及び酸素処理がされるのに要する所定のオゾン量を含有するような水量にされるということができる。
したがって、記載A2において、部分流は、全水量のオゾン処理に必要な所定のオゾン量を含有するような所定のオゾン濃度及び水量であることが開示されているということができる。すなわち、甲第11号証の「大量にオゾンを含ませられた廃水の部分流」との記載は、「所定のオゾン量」の分岐被処理水、換言すると、所定のオゾン濃度の分岐被処理水であることを意味しているのである。
ウ.したがって、甲第11号証には、本件発明2の構成b2も開示されているということができる。

(2-2-3) 本件発明2と甲第11号証に記載された発明との対比
以上のとおり、甲第11号証には、「分離したオゾン含有ガスを分岐した被処理水の一部に注入して所定のオゾン濃度の分岐被処理水とした後、該分岐被処理水を分岐させていない被処理水と混合することにより被処理水を処理する」水処理方法の発明が開示されていると認めることができ,本件発明2とこの点で一致しているということができる。

(2-3)本件発明2の進歩性について
(2-3-1)甲第2号証における本件発明2の構成aの開示について
本件発明2の構成aの「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し、」は、以下に述べるとおり、甲第2号証に記載されている。
ア.甲第2号証には、以下の記載がある。
(ア) 「最近になつてBBC-Brown-Boveri-&-Cie.LtdがSolid Polymer Electrolyte(固体高分子電解質)膜を使い、純水を電気分解することによつてオゾンが発生することを示してから、電気分解法によるオゾンの生成も実用化の目途がたつてきた。・・・陽極と陰極はイオン交換膜で仕切られており,陽極に供給された水は膜面で分解されて水素イオンと酸素/オゾンとなり、水素イオンはイオン交換膜を陰極側に移動し、膜表面に達して電子をもらつて水素となる。」(第49頁第4〜19行)
また、これに関する記載として、「図-1」(第53頁)に「SOLID POLYMER ELECTROLYTE 電解法の原理図」が示されている。
(イ)「表-1に2gr/hrのオゾナイザーの基本仕様を示す。この本式のオゾナイザーは、少量の純水を原料としてオゾンを発生させる点が最大の特徴であるほか、従来の常識をはるかに越える超高濃度のオゾンガスが発生する、純水を電気分解するため不純物を含まない非常にクリーンなオゾンガスとして利用できる,・・・いきなりオゾン水自体として取り出すことも可能、などの優れた特徴を持つている」(第50頁第4〜9行)
また、これに関する記載として、「表-1」(第53頁)に「「オゾンマスター」OM-2の基本仕様」として「オゾン濃度 約13wt%」、「純水使用量 100cc/hr」などが記載されている。
(ウ) 「従来の放電によるオゾナイザーにおいては,電極が高電圧の電子によってたたかれるために・・・電極構成材料の微粒子が混入すると言われている。電解法によるオゾナイザーではこのようなことが起こらないであろうと予測し、オゾンガス中の微量金属元素の定量分析を行った。・・・ガス中の不純物濃度を求めた。その結果を表-2に示す。・・・半導体グレードのガス純度が得られている」(第50頁最終行〜第51頁第10行)
また、これに関する記載として、「表-2 オゾンガス中の微量金属不純物濃度」(第55頁)として、「Fe」、「Pb」など8種類の金属の不純物濃度が記載されている。
(エ) 「4.無菌水システムへの応用 ・・・オゾンは殺菌力が非常に強いうえ、自己分解によつて酸素となるので残留性がなく、・・・純水の無菌化にはオゾンが最も適していると思われる。特に純水電解式オゾナイザーは,純水を原料として非常にクリーンなオゾンを発生させられるので好都合である。・・・そこで無菌水システムのための前試験として図-5に示すようなシステムを作り、簡便な培養法による微生物チェックを行ないながらオゾンの殺菌効果を確認した。この結果を図-6に示す。これは数十ppbという非常にわずかのオゾンが存在するだけで純水を無菌状態に維持することが可能となることを示唆している。以上のことから、・・・極微量のオゾンを純水に溶解させておき、ユースポイントで水銀灯によって分解するという連続無菌純水維持システムが可能であると考えられる。」(第51頁第11行〜第52頁第8行)
また、これに関する記載として、「図-5 無菌水のテストループ」(第56頁)には、「RO水」が「タンク」、「リサイクルポンプ」、「気液接触装置」を経てタンクに戻るループとなった経路、その経路における「気液接触装置」と「オゾンマスター」とが連結する経路が図示され、図-6として「オゾンによる殺菌効果」が示されている。
イ.以上によれば、「図-5 無菌水のテストループ」に記載された「オゾンマスター」は、固体高分子電解質膜を使い、純水を電気分解することによってオゾンを製造する方法(電解法)によるオゾン製造装置であると認められる。
そのオゾンマスターにおいては、上記(ア)及びその原理図(図-1)によれば、陽極と陰極がイオン交換膜で仕切られており、陽極に供給された水は膜面で分解されて水素イオンと酸素/オゾンとなること、すなわちオゾンは陽極室の水(陽極液)中に生成されることが示されている。
また,「図-5 無菌水のテストループ」の「気液接触装置」においてオゾンマスターからのオゾンと「RO水」とが気液接触、すなわち、気体と液体とが接触されることが示されている。ここで,RO水は液体であるから、オゾンマスターからのオゾンは、気体、すなわちオゾン含有ガスであることは明らかである。
そして、気液接触の結果、RO水は溶存オゾン濃度数十ppb(図-6)のオゾン水となっていることが記載されている。
オゾンマスターからのオゾン含有ガスは、電解槽の陽極室において陽極液中に生成し、ガスとしてRO水と接触させるものであるから、「電解槽から取り出され,陽極液から分離した」ものであるといえる。したがって、甲第2号証の「図-5」には、純水を電解して電解槽の陽極室に発生させ、これを前記電解槽から取り出して陽極液から分離したオゾン含有ガスが記載されている。
そうすると、甲第2号証には、本件発明2の「純水を電解して電解槽の陽極室にオゾン含有ガスを発生させ、該ガスを前記電解槽から取り出して陽極液から分離し」という本件発明2の構成aが開示されていることになる。
ウ.以上のとおりであるから、甲第11号証に記載された発明に、甲第2号証記載の技術(オゾン発生装置)を組み合わせると,本件発明2になると認めることができる。

(2-3-2) 容易想到性について
次に,甲第11号証に記載された発明に甲第2号証に記載されたオゾン含有ガスを適用することの容易想到性について検討する。
ア.甲第11号証には、「オゾンの水中への溶解はかなり困難で、大なる作動及び資本投下費用を要する」(第1頁第2欄第7〜9行)、特に空気を原料としたときの1〜2重量%のようなオゾンしか含まないような「混合物からオゾンを洗滌抽出することは甚だ大なる費用を要する」(第1頁第2欄第13〜15行)という認識が記載されている。すなわち、水処理にオゾン含有ガスを使用するに際し、オゾンを水へ注入溶解させる場合、放電法によるオゾン製造装置によって得られるオゾン濃度(1〜2重量%)より高い濃度のオゾン含有ガスを使用することが望ましいことが知られていたのである。
甲第11号証に記載された発明は、空気を原料とする放電法のオゾン製造装置によって得られる濃度(1〜2重量%)より高濃度のオゾン含有ガスを得るために、原料として、高濃度の酸素含有ガスを使用できるようにしたものである。そして、純酸素を原料とするときには、「オゾンが費用を要しないで入手出来る空気から得られるのではなく、酸素から得られる点が不利である」(第1頁第2欄第18〜20行)というコスト上の問題が生じることが記載されている。
そうすると、オゾン含有ガスの製造装置として一般的に放電法のオゾン製造装置が使用されているとしても(甲第1、12号証)、甲第2号証に記載されたような電解法のオゾン製造装置も知られており、かつ、その装置によるオゾン含有ガスの濃度は、「少量の純水を原料としてオゾンを発生させる点が最大の特徴である」、「従来の常識を超えた超高濃度のオゾンガスが発生」(第50頁第5〜6行、)、「オゾン濃度 約13wt%」(第53頁右上欄)というのであるから、甲第2号証の電解法によるオゾン製造装置を、高濃度のオゾン含有ガスを必要とする甲第11号証に記載された発明の水処理技術に適用する動機付けがあることは明らかである。
イ.顕著な作用効果について
本件発明2の効果は、オゾン含有ガスを使用する水処理における、甲第11号証に記載された発明の分岐による効果と、甲第2号証に記載された発明の電解法製造装置により製造されたオゾン含有ガスを適用した場合の効果を合わせたものを超えるほどの格別なものとは認められない。

(2-3-3) まとめ
以上のとおり、本件発明2は、甲第11号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができる。

(2-4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明2の水処理方法を実施するための「水処理装置」であって、その構成要件に変わりはないから、上記(2)と同じ理由で、本件発明4は、甲第11号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができる。

(3)無効理由3について
本件発明5は、請求項4を引用し、さらに散気フィルターで限定した発明であるが、その限定事項も甲第12号証を参照すれば格別のことではないから、上記(2)と同じ理由で、本件発明5は、甲第11号証、甲第2号証、甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということができる。

(4)結論
以上のとおり、本件請求項1及び3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、また、本件請求項2、4及び5に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項の規定により無効とすべきである。
V.むすび
以上のとおり、本件請求項1及び3に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものであり、本件請求項2、4及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-11-14 
結審通知日 2000-11-24 
審決日 2000-12-05 
出願番号 特願昭63-244980
審決分類 P 1 112・ 121- ZB (C02F)
P 1 112・ 113- ZB (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 関 美祝  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 野田 直人
岡田 和加子
鈴木 毅
多喜 鉄雄
登録日 1998-01-16 
登録番号 特許第2134417号(P2134417)
発明の名称 電解オゾンを使用する水処理方法及び装置  
代理人 尾崎 雅俊  
代理人 中村 稔  
代理人 辰野 久夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 小川 信夫  
代理人 村社 厚夫  
代理人 森 浩之  
代理人 今城 俊夫  
代理人 竹内 英人  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 須田 洋之  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 木下 慎也  
代理人 倉内 義朗  
代理人 藤井 司  

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