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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C09J
審判 全部無効 2項進歩性  C09J
管理番号 1120818
審判番号 無効2004-80208  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-08-03 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-10-29 
確定日 2005-08-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第3545587号発明「プラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第3545587号の発明は、平成10年1月22日に出願され、平成16年4月16日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
その後当審においてなされた手続の経緯は以下のとおりである。
無効審判請求(請求人) 平成16年10月29日
答弁書(被請求人) 平成17年1月24日
口頭審理陳述要領書(請求人) 平成17年4月25日
口頭審理陳述要領書(被請求人) 平成17年4月25日
口頭審理 平成17年4月25日
上申書(請求人) 平成17年5月9日
上申書(被請求人) 平成17年5月20日


2.本件特許発明
本件特許第3545587号の特許請求の範囲第1項〜第3項に係る発明は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲第1項〜第3項に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 (A)ポリ(エチレン-酢酸ビニル)共重合体エマルジョン
(B)水性ポリウレタンエマルジョンならびに
(C)アジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチルおよびグルタル酸ジメチルのうちの2種以上
からなるプラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤。
【請求項2】 水性ポリウレタンエマルジョンがスルホン酸変性したものである請求項1記載の接着剤。
【請求項3】 ポリ(エチレン-酢酸ビニル)共重合体エマルジョン100重量部(固形分)に対して、水性ポリウレタンエマルジョン2〜50重量部(固形分)ならびにアジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチルおよびグルタル酸ジメチルのうちの2種以上5〜50重量部を配合してなる請求項1または2記載の接着剤。」
(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明3」という。)


3.請求人の主張
(1)無効理由の概要
請求人は、本件特許発明1〜3に係る特許を無効とすることを求め、以下の無効理由(イ)ないし(ハ)を主張している。

(イ)無効理由イ
本件特許の請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。

(ロ)無効理由ロ
本件特許の請求項1〜3に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明(特許法第29条第1項第3号)、又は甲第1号証に示された公然知られた発明(特許法第29条第1項第1号)及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。

(ハ)無効理由ハ
本件特許の請求項1〜3に係る発明は、甲第2〜6号証に記載された発明に基づいて、特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号の規定により、無効とすべきものである。

(2)証拠方法
請求人は、審判請求書及び上申書とともに甲第1号証〜甲第19号証を提出している。
各甲号証の概要は以下のとおりである。
(イ)甲第1号証 ファクシミリで送信された文書の写し
(ロ)甲第2号証 特開平8-12808号公報
(ハ)甲第3号証 特公平3-54149号公報
(ニ)甲第4号証 特開昭53-134833号公報
(ホ)甲第5号証 特開昭56-145964号公報
(ヘ)甲第6号証 特開平5-32949号公報
(ト)甲第7号証 DBEについてのカタログ
(チ)甲第8号証 平成8年(行ケ)第236号判決
(リ)甲第9号証 平成15年(ネ)第2376号判決
(ヌ)甲第10号証 平成11年(行ケ)第368号判決
(ル)甲第11号証 特許法概説(第11版、株式会社有斐閣発行)
第74〜77頁
(ヲ)甲第12号証 工業所有権法逐条解説(第12版、社団法人発明
協会発行)第78〜79頁
(ワ)甲第13号証 特開平9-31111号公報
(カ)甲第14号証 特開平6-298815号公報
(ヨ)甲第15号証 特開平6-100609号公報
(タ)甲第16号証 特開平8-170299号公報
(レ)甲第17号証 特開平8-165305号公報
(ソ)甲第18号証 特開平6-57694号公報
(ツ)甲第19号証 特開平5-171597号公報

そして、各甲号証の内容は以下のとおりである。
(イ)甲第1号証(ファクシミリで送信された文書の写し)
甲第1号証は大日本インキ化学工業株式会社の北田某から日本資材の安藤某宛にファクシミリで送付された文書の写しであり、送信日時として「’02年07月22日(月)14時33分」という印字があり、発信日として「’02年07月22日」と書かれている。その第1頁には「件名 資料送付の件」、「毎度、お世話になっております。御依頼のありました資料を別紙3枚にて送付致します -以上-」と記載されている。
甲第1号証の第2〜4頁は大日本インキ化学工業株式会社の北田某からアイカ工業株式会社の磯部某宛にファクシミリで送付された文書の写しであり、送信日として「平成10年1月13日」と記載されており、同第2頁には「HW-333改良サンプル拝送の件」との表題が付され、「拝啓、貴社益々御清栄の段お喜び申し上げます。毎度格別のお引き立てを賜り厚く御礼申し上げます。さて、遅くなり申し訳ありませんが、HW-333のエチレン・酢ビエマルジョンとの混和安定性を改良したサンプルを試作致しました。最適組成を見極める為に若干物性を変えたもの数点をお送りさせて頂きますので、お忙しいところ恐縮ですが、是非とも御試験頂きたくよろしくお願い申し上げます。敬具」と記載されている。そして、記欄以下には、サンプル名が<HW-333接着性改良開発品>ハイドランHW-334、<混和安定性改良試作品>ハイドランA-1、ハイドランA-2、ハイドランA-3、ハイドランA-4についての物性等が記載されている。
同第3頁には、「水性ポリウレタン樹脂(特試品) ハイドラン Aシリーズ」の表題の下に、ハイドラン Aシリーズは、自己乳化型のポリエステル系ポリウレタン樹脂の水分散体であること、特徴として、各種基材の接着性に富み、特にPVC基材に対しては耐熱クリープ性に優れることが記載されている。
また、同第4頁には応用加工例として「PVCオーバーレイ合板」についての加工例が記載されており、「1.基材」の項には「PVCシート(市販品) 合板(市販品)」と記載され、同頁の「2.加工方法」の項には「接着剤をゴムローラで合板に10g/尺2塗布後すばやくPVCシートを貼り合わせ、1.0Kg/cm2で20分間圧締し、解圧後室温で7日間放置後接着性試験実施」と記載されている。更に、「4.接着剤配合例、及び接着性」の項には、エチレン酢ビエマルジョン配合例として「ハイドラン試作品」A-1〜A-4が記載されており、これらの配合例A-1〜A-4には、何れも、「水性ウレタン樹脂 25」、「他社エチレン酢ビエマルジョン 75」、DBE(デュポン(株)製) 4」が配合されていることが記載されている。

(ロ)甲第2号証(特開平8-12808号公報)
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】 高分子重合体エマルジョンの固形分100重量部に対し、下記(1)式に示される化合物1種以上を0.1〜20重量部含有することを特徴とする高分子重合体エマルジョン組成物。

(R1、R2 は水素原子又は炭素数1〜6の直鎖もしくは分枝のアルキル基から選ばれ、Mは炭素数1〜10のアルキレン叉はビニレン基を示す。)
・・・
【請求項3】 下記(1)式の化合物が、アジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチルの三者混合物であることを特徴とする請求項1記載の高分子重合体エマルジョン組成物。
・・・
【請求項5】 鉱物性顔料100重量部と、請求項1記載の高分子重合体エマルジョン組成物1〜30重量部含有する紙塗工用組成物。」(特許請求の範囲)
(b)「【産業上の利用分野】本発明は、塗工紙表面強度、剛度、耐ブリスター性に優れた紙塗工用塗料組成物を提供することに関するものであり、一般の塗工紙、板紙、軽量塗工紙、微塗工紙、超軽量塗工紙、アート紙、キャストコート紙などに使用可能である。」(段落【0001】)
(c)「【発明が解決しようとする問題点】本発明は、塗工紙表面強度、剛度、耐ブリスター性の向上させる方法として、優れた造膜性能を有する造膜助剤を含有する高分子重合体エマルジョン組成物と該組成物を含有する紙塗工用組成物を提供することである。」(段落【0003】)
(d)「本発明で用いる高分子重合体エマルジョンは、例えば、スチレンーブタジエン系、アクリルニトリルーブタジエン系、クロロプレン系等の合成ゴムラテックス、酢酸ビニル系、塩化ビニル系、塩化ビニリデン系、アクリル系、ウレタン系等の樹脂エマルジョン等、通常使用されているものであればよく、好ましくは、カルボキシ変性スチレンーブタジエン系エマルジョンである。」(段落【0010】)
(e)「本発明の紙塗工用組成物を塗工する際には従来の方法、例えばゲートロールコーター、オフセットロールコーター、サイズプレスコーター、エアーナイフコーター、ブレードコーターなど通常の方法によって行われる。施工後、塗料は適当な方法で乾燥される。通常、加熱空気の流れを塗工面にあてて行われる。
【実施例】MFT測定は、温度勾配法により測定した。ラテックスフィルムのベタツキの試験方法は、ラテックスを塗工した試験フィルムを台紙に貼り、その上に黒ラシャ紙をのせてカレンダーロールを用いて圧着した。黒ラシャ紙を剥し、ラシャ紙繊維のフィルム上への付着状況を目視判定した。ラシャ紙繊維の転写の程度が少ないものほど良好とした。」(段落【0019】〜【0020】)

(ハ)甲第3号証(特公平3-54149号公報)
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(a)「1 エチレン-酢酸ビニル系共重合体とアニオン性ポリウレタンエマルジヨンとを含有する接着剤組成物において、エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジヨンの乳化剤がポリビニルアルコールで、かつ該重合体のエチレン含量が、5〜40重量%、トルエン不溶分が10重量%以上であるエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジヨンとアニオン性ポリウレタンエマルジヨンとの固形分重量比率が95:5〜50:50であることを特徴とする接着剤組成物。」(特許請求の範囲)
(b)「本発明は接着剤組成物に関するものであり、さらに詳しくはエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジヨンとアニオン性ポリウレタンエマルジヨンとを含有することを特徴とする、耐熱クリープ性、耐水性および耐溶剤性に優れた接着剤組成物に関するものである。エチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジヨンはプラスチツク、紙、アルミニユウム箔などの同種材料または異種材料間の接着剤として使用されている。」(第1頁第1欄第13〜22行)
(c)「本発明者らは、かかる現状を解決すべく、鋭意検討を行つた結果、特定のエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジヨンとアニオン性ポリウレタンエマルジヨンとを特定比率で含有せしめた接着剤組成物が著しい耐熱クリープ性を示すのみならず著しい耐水性および耐溶剤性を示すことを見い出し本発明を完成した。」(第2頁第3欄第6〜12行)
(d)「本発明に使用されるアニオン性ポリウレタンエマルジヨンはウレタン樹脂の主鎖または側鎖にスルホン酸塩または、カルボン酸塩などを導入して水に乳化させしめたものである。」(第2頁第4欄第17〜20行)
(e)「実施例 1
ケン化度88モル%で平均重合度1700および500のポリビニルアルコールを酢酸ビニルに対しそれぞれ2.5部(重量部、以下同様)を用いて乳化重合法により酢酸ビニル85%(重量%、以下同様)、エチレン15%、ポリマーのトルエン不溶分が53%、樹脂固形分56%、pHが5.5のエチレン-酢酸ビニル系共重合体エマルジヨンを得た。このエマルジヨンの樹脂固形分100部に対しアニオン性ポリウレタンエマルジヨン、ハイドランHW-311(大日本インキ化学工業(株)製、樹脂固形分45%)を樹脂固形分換算で20部添加しさらにこの混合物100部に対してトルエン10部を添加して接着剤組成物を調製した。
この接着剤をラワン合板(JIS、1類厚さ3mm)に130g/m2(見かけ)の割合で塗布し、塩化ビニルシート(半硬質木目ダブリング、厚さ0.2mm)を貼り、60Kg/900cm2の圧力、20℃下で20時間圧締したのち解圧して3日間養生させて塩化ビニル化粧板を作成し、下記の試験を行い結果を表1に示した。」(第3頁第5欄第8〜28行)

(ニ)甲第4号証(特開昭53-134833号公報)
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(a)「(1)水性重合体と水性ウレタン樹脂との混合物を主体とする水性接着 剤
(2)エチレン-酢酸ビニル共重合体エマルジョンと水性ウレタン樹脂 との混合物を主体とする水性接着剤」(特許請求の範囲)
(b)「〔実施例1〕
EVA(エチレン/酢酸ビニル=20/80)エマルジョン(固形分55重量%)とカルボキシル基のアンモニウム塩を有する水溶性ウレタン樹脂(固形分30重量%)とエポキシ樹脂とを種々の混合比で混合して接着剤を調製する。
上記接着剤を巾25cmの軟質PVCシートに70g/m2の割合にて塗布し、これを発泡ウレタン樹脂に接着長150mmとして貼合わせ、20℃にて常温乾燥の後120℃1分加熱する。」(第2頁右下欄第7〜16行)
(c)第3頁上段左列の第1表には、エチレン酢酸ビニルエマルジョンと水性ウレタン樹脂との配合比(固形分)が49.5:3の例、44:6の例、38.5:9の例、33:12の例が記載されている。

(ホ)甲第5号証(特開昭56-145964号公報)
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(a)「主成分として、カチオン型水性ポリウレタンとポリ酢酸ビニル系エマルジヨンとを1〜80:99〜20(固形分重量比)なる割合で含んで成り、かつ、pHが7以下であることを特徴とする水性接着剤。」(特許請求の範囲)
(b)「本発明の水性接着剤は紙、繊維、木材などのセルロース系素材;コンクリート、珪カル板などの無機質素材;塩化ビニル、ポリスチレンなどのプラスチツク素材;アルミニウムなどの金属素材;その他多くの素材に対する接着剤として使用することができる。」(第6頁左上欄第9〜13行)
(c)「参考例1で得られたプレポリマーにアセトン165gを加えてから、これを水340gと酢酸6gとの混合液中に滴下して乳白濁液となし、次いで減圧下に溶剤を除去してカチオン型水性ポリウレタンを得た。・・・以下、このカチオン型水性ポリウレタン乳濁液を「A-2」と略記する。(第6頁左下欄第2〜10行)
(d)「実施例1〜6および比較例1〜4
水性ポリウレタンとエチレン酢酸ビニルエマルジヨンとして日本ライヒホールド(株)が販売する「エバデイツクEP-11」(・・・)とを第1表に記載の割合で混合し、さらにトルエン3%を添加して接着剤を調製した。・・・
この接着剤をJAS1類ラワン合板に110g/m2の割合で塗布し、通常ダブリングシートと称されているポリ塩化ビニルシートを貼り、1kg/cm2の圧力で15時間圧締し、その後除圧して1週間養生し、次の試験に供した。」(第7頁左下欄第1〜12行)
(e)第8頁の第1表には、ポリウレタン乳濁液とポリ酢酸ビニル系エマルジョンとの固形分重量比が20:80である実施例3が記載されている。

(ヘ)甲第6号証(特開平5-32949号公報)
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(a)「【請求項1】湿気硬化型のウレタン系接着剤において、溶剤として炭素数2〜12のジカルボン酸のジメチルエステルの1種又は2種以上の混合物を含有することを特徴とするウレタン系接着剤。」(特許請求の範囲)
(b)「【課題を解決するための手段】本発明は、湿気硬化型のウレタン系接着剤において、溶剤として炭素数2〜12のジカルボン酸のジメチルエステルの1種又は2種以上の混合物を含有することを特徴とするものである。
上記のジメチルエステルとしては、例えばシュウ酸ジメチル、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、アゼリン酸ジメチル、ドデカン2酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、フタル酸ジメチルなどがある。この中で炭素数4〜9のジカルボン酸のジメチルエステルが好ましい。」(段落【0005】〜【0006】)
(c)「本発明のジカルボン酸のジメチルエステルを溶剤として使用した湿気硬化型ポリウレタン系接着剤は、加圧(圧締)時間が長くなったり、接着強度が低下することなく、可使時間が長くなり、引火点も高いので火災等の危険性が小さく、取扱いが安全になり、沸点が高く人体への影響も小さいので作業環境も著しく改善される。」(段落【0008】)
(d)「【実施例】
以下、実施例及び従来の接着剤(比較例)について説明する。接着剤の組成は以下の通りである。
イソシアネート MDI(イソシアネート基量10%) 80部
溶剤 20部
溶剤は表1に示すものを使用した。各接着剤を含水率80〜100%の突板用単板に塗布し、25℃における可使時間を測定した。次に同様の単板に接着剤を塗布し、25℃で40分間圧締し、接着強度を測定した。これらの結果を表1に示す。」(段落【0009】〜【0010】)

(ト)甲第7号証(DBEについてのカタログ)
甲第7号証には、「インビスタTMDBE(二塩基酸ジメチルエステル)は、精製されたアジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、コハク酸ジメチルの混合ジメチルです。」(第1頁第3〜4行)と記載されており、また、第6頁の「DBEsの規格/二塩基酸エステルの物性値」と題する表には、DBEについて、アジピン酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、及びコハク酸ジメチルが占める重量%濃度が、それぞれ、21、59、20であることが記載されている。

(チ)甲第8号証(平成8年(行ケ)第236号判決)
(記載事項の摘示省略)

(リ)甲第9号証(平成15年(ネ)第2376号判決)
(記載事項の摘示省略)

(ヌ)甲第10号証(平成11年(行ケ)第368号判決)
(記載事項の摘示省略)

(ル)甲第11号証[特許法概説(第11版、株式会社有斐閣発行)
第74〜77頁]
(記載事項の摘示省略)

(ヲ)甲第12号証[工業所有権法逐条解説(第12版、社団法人発明協会
発行)第78〜79頁]
(記載事項の摘示省略)

(ワ)甲第13号証(特開平9-31111号公報)
甲第13号証には、「本発明は、共重合体ラテックスの製造方法に関し、詳しくは、接着強度、耐水性、インク着肉性、耐ブリスター性などの諸特性にバランスよく優れる紙塗工用組成物におけるバインダーとして有用であるほか、カーペット・バッキング剤やその他種々の接着剤などにも好適に用いることができる共重合体ラテックスの製造方法に関する。」(段落【0001】)と記載されている。

(カ)甲第14号証(特開平6-298815号公報)
甲第14号証には、「本発明は、共重合体ラテックス及びその製造方法に関し、詳しくは、接着強度、耐水性、インク着肉性、白紙光沢、耐ブリスター性等の諸特性にバランスよくすぐれる紙塗工用組成物におけるバインダーとして有用であるほか、カーペット・バッキング剤やその他種々の接着剤等にも好適に用いることができる共重合体ラテックス及びそのような共重合体ラテックスの製造方法に関する。更に、本発明は、上記した共重合体ラテックスをバインダーとして含む紙塗工用組成物に関する。」(段落【0001】)と記載されている。

(ヨ)甲第15号証(特開平6-100609号公報)
甲第15号証には、「本発明によれば、重合時にジチオカルバミン酸塩誘導体を用いることで重合連鎖移動剤の使用量を低減することが可能となり、さらに接着強度、耐ブリスター性などの塗膜物性の改善を図ることができ、各種の接着剤として有用である。本発明によって得られる共重合体ラテックスは、特にコート紙、コート板紙の紙塗被組成物のバインダーとして好適に使用することができ、さらにカーペットバッキング剤、塗料、工業用および家庭用接着剤などの各種接着剤用途に使用できる。」(段落【0025】)と記載されている。

(タ)甲第16号証(特開平8-170299号公報)
甲第16号証の特許請求の範囲には、「【請求項1】分散粒子を含む水分散液とウレタンプレポリマーを混合して得らる紙塗工用接着剤。・・・【請求項7】顔料100部と請求項1〜6の何れか1項記載の塗工用接着剤5〜50重量部よりなる塗工用組成物。」と記載されている。

(レ)甲第17号証(特開平8-165305号公報)
甲第17号証の特許請求の範囲には、「【請求項6】顔料及び接着剤を主成分とする紙塗工用組成物において、接着剤として請求項3〜5のいずれかの重合体ラテックスを用いることを特徴とする紙塗工用組成物。」と記載されている。

(ソ)甲第18号証(特開平6-57694号公報)
甲第18号証には、「本発明の紙塗工用樹脂は単独でも使用されるが、好ましくは顔料、接着剤及び必要によりその他の成分を添加して紙塗工用組成物にして使用される。」(段落【0022】)と記載されており、また、「また、接着剤としては澱粉、変性澱粉(酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、酵素変性澱粉、アルファー化澱粉、カチオン化澱粉等)、カゼイン、ゼラチン、大豆タンパク、酵母タンパク、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等)等の天然高分子化合物あるいはその誘導体、及びスチレン-ブタジエン系樹脂、(メタ)アクリレート-ブタジエン系樹脂、(メタ)アクリレート系樹脂、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル系樹脂、アクリルアミド系樹脂、スチレン-(メタ)アクリレート系樹脂、スチレン-マレイン酸系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂等の合成高分子化合物が例示される。」(段落【0023】)と記載されている。

(ツ)甲第19号証(特開平5-171597号公報)
甲第19号証の特許請求の範囲には、「【請求項1】 顔料及び接着剤を主成分とする紙塗工用組成物に於いて、・・・」と記載されている。


4.当審の判断
(1)無効理由イについて
(イ)本件特許発明1について
無効理由イにおいて、請求人は、甲第1号証のうちの第2〜4頁は、本件特許の出願前に頒布された刊行物であると主張している(審判請求書第7頁第18〜19行)。
甲第1号証第1〜4頁は、その体裁からみて、大日本インキ株式会社の北田某が日本資材の安藤某宛に送付したファクシミリの写しであり(ただし、全5頁のうち、第5頁は上部にファクシミリのヘッダーがなく、それがファクシミリで送付されたものと認めることができない。そして、表紙に「別紙3枚」とあり、第4頁下部に「送信ページ数は04ページです」とあることからも裏付けられる。)、そのうち第2頁は、その体裁からみて、同北田某がアイカ工業株式会社の磯部某宛に送付した平成10年1月13日付けの文書であると認められ、第3頁〜第4頁は、第2頁において送ったとされる「HW-333改良サンプル」に関連した「ハイドランAシリーズ」の技術資料であると認められる。第2頁と第3頁及び第4頁は平成10年1月13日付けの文書おいてページ付け等はされていないので、第3頁及び第4頁が第2頁と共に送られたものであるかどうかは第2頁〜第4頁の記載内容から直ちに判別することはできない。第4頁には第2頁にある「A-1」〜「A-4」と同じ記号の試作品の配合例が記載されているが、サンプルの試験自体は第4頁の記載がなくても行えるものと考えられ、そのことが第3頁〜第4頁が第2頁と同時に送付されたことの裏付けになるものとはいえない。
第2頁〜第4頁が平成10年1月13日に送付された文書だとしても、それが刊行物であるとは認められない。以下にその理由を詳述する。

特許法第29条第1項第3号の規定における刊行物といい得るためには、以下の三つの要件を充足することが必要である(乙第1号証第81頁参照)。
(i)(公開性)刊行物は公開を目的としたものでなければならない。
(ii)(情報性)刊行物は内容自体が広く第三者に情報として流通されるべき性質(情報性)を有するものでなければならない。
(iii)(頒布性)刊行物は公衆(不特定人)に配布すなわち頒布される性質を有する。
そこで、甲第1号証のうちの第2〜4頁が上記(i)〜(iii)の要件を充足するかどうかについて検討する。甲第1号証のうちの第2〜4頁は、その記載内容を詳しくみると、大日本インキ化学工業株式会社の北田某から顧客であるアイカ工業株式会社の磯部某に対し、試作した試作品サンプルの試験を依頼する内容以上のものは含まれていないので、当事者(発信者及び受信者)間における私信に相当するものであり、不特定人に配布される性質をもつものとは認められない。しかも、後述するように、商慣習や商道徳から判断して、本件のように試作品を開発した場合には、開発した側の大日本インキ化学工業株式会社が当該試作品に関する技術情報を秘密扱いとするのはもとより、その試作品に関する技術情報を提供された顧客側のアイカ工業株式会社においても、試作品を開発した大日本インキ化学工業株式会社側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いすることが暗黙のうちに求められる性質のものであると解され、公開を目的としたものと認めることができない。
したがって、甲第1号証のうちの第2〜4頁は、上記(i)〜(iii)の要件をいずれも充足しないので、特許法第29条第1項第3号の規定における刊行物には当たらない。
してみると、甲第1号証のうちの第2〜4頁が本件特許の出願前に頒布された刊行物であることを前提とする請求人の無効理由イの主張は認めることができないから、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

請求人は、判例[平成8年(行ケ)第236号(甲第8号証)、及び平成15年(ネ)第2376号(甲第9号証)]によれば、甲第1号証のうちの第2〜4頁は、公開性、情報性、及び頒布性を認められるべきである旨主張している(上申書第3頁第2行〜第6頁第11行)。
しかしながら、平成8年(行ケ)第236号(甲第8号証)について、当該判決は「前掲甲第15、第22号証及び成立に争いのない甲第19号証によれば、訴外会社は、商業的に上記『見積もり博士CD-1』を販売しており、一般公衆もこれを購入して引用例の頒布を受けることができる上、守秘義務を負うこともないと認められる」(第12頁第14行〜第13頁第2行)ことを前提として判断しているところ、甲第1号証のうちの第2〜4頁は、「一般公衆もこれを購入して引用例の頒布を受けることができる」ものであるとも、また、「守秘義務を負うこともない」ものであるとも認められないので、平成8年(行ケ)第236号とは事案を異にするものであるから、この判例を根拠に公開性、情報性、及び頒布性が認められるべきものではない。
また、平成15年(ネ)第2376号(甲第9号証)について、当該判決は「公益法人が編さんした文書であって、その記載内容からみて、単なる内部文書ではなく、昭和55年6月に策定された郵政省の処理方針に沿って、関係する業界に属する者に対し、広くAVMシステムについての知識等を普及させるための文書であると認められる」(第9/13頁第20〜25行)ことを前提として判断しているところ、甲第1号証のうちの第2〜4頁は、「公益法人が編さんした文書」であるとも、また、「関係する業界に属する者に対し、広く知識等を普及させるための文書である」とも認められないので、平成15年(ネ)第2376号とは事案を異にするものであるから、この判例を根拠に公開性、情報性、及び頒布性が認められるべきものでもない。

また、請求人は、「大日本インキ株式会社は、甲第1号証の第2〜4頁をアイカ工業株式会社に送付した後、平成14年7月22日に、甲第1号証の第2〜4頁を含む第1〜5頁を日本資材株式会社へ送付している。このことは、甲第1号証の第2〜4頁が、アイカ工業株式会社への私信ではなく、他の者にも自由に配布されたものであることを証明している。」(上申書第7頁第1〜5行)と主張している。
しかしながら、平成14年7月22日に甲第1号証の第2〜4頁を含む第1〜5頁を日本資材株式会社へ送付したとしても、それは、本願出願後の行為であるので、本願出願前に甲第1号証の第2〜4頁が他の者にも自由に頒布されたものであることを証明することはできない。

さらに、請求人は、「アイカ工業株式会社は、本件無効審判において、インカメラ手続(・・・)の適用を受けることなく甲第1号証を証拠として提出している。無効審判において提出した証拠は何人も閲覧可能となるのであるから、もし、甲第1号証について守秘義務があるのであれば、アイカ工業株式会社はこれを証拠として提出することができないはずである。しかし、実際には、アイカ工業株式会社は大日本インキ株式会社の同意を受け、甲第1号証を証拠として提出している。このことは、甲第1号証の第2〜4頁について、アイカ工業株式会社に守秘義務はないことを証明している。」(上申書第7頁第6〜13行)と主張している。
しかしながら、アイカ工業株式会社が大日本インキ化学工業株式会社の同意を受け、甲第1号証を証拠として提出したことは、本願出願後の行為であるので、本願出願前に甲第1号証の第2〜4頁についてアイカ工業株式会社に守秘義務はないことの証明にはならない。
(なお、請求人は、「アイカ工業株式会社は大日本インキ株式会社の同意を受け、甲第1号証を証拠として提出」したとしているが、このことは、アイカ工業株式会社と大日本インキ化学工業株式会社との間に、明示的な指示や要求があるか否はともかく、提供された技術情報に関する守秘義務が存在することを窺わせるものである。)

(ロ)本件特許発明3について
本件特許発明3は、本件特許発明1を引用して更にその内容を限定するものであるから、上記4.(1)(イ)と同様の理由で、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。


(2)無効理由ロについて
(イ)特許法第29条第1項第3号に基づく進歩性欠如の主張について
(a)本件特許発明1について
請求人は、「本件請求項1に係る発明の発明特定事項は全て甲第1号証に記載されており、しかも本件請求項1に係る発明は何ら顕著な効果又は異質な効果を奏するものではないので、明らかに進歩性が欠如している。」(審判請求書第12頁第7〜9行)と主張している。
しかしながら、甲第1号証のうちの第2〜4頁が特許法第29条第1項第3号の規定における刊行物であるとはいえないことは先に無効理由イの検討において指摘したとおりであるから、甲第1号証のうちの第2〜4頁が刊行物であることを前提として、本件特許発明1が甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとする請求人の無効理由ロの主張は認めることができない。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(b)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を引用して更にその内容を限定するものであるから、上記4.(2)(イ)(a)と同様の理由で、請求人が提出した甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(ロ)特許法第29条第1項第1号に基づく進歩性欠如の主張について
(a)本件特許発明1について
請求人は、「甲第1号証に記載された、『ハイドランA-1〜A-4』を用いた接着剤配合剤は、本件特許の出願前に、少なくとも大日本インキ株式会社及びアイカ工業株式会社を含む不特定人に公然知られたものである(特許法第29条第1項第1号)。」(上申書第14頁第14〜16頁)と主張しているので、この点について検討する。
先に指摘したように、甲第1号証のうちの第2〜4頁は、大日本インキ化学工業株式会社の北田某から顧客であるアイカ工業株式会社の磯部某に対し、試作した試作品サンプルの試験を依頼する内容のものであるが、商慣習や商道徳から判断して、本件のように試作品を開発した場合には、開発した側の大日本インキ化学工業株式会社が当該試作品に関する技術情報を秘密扱いとするのはもとより、その試作品に関する技術情報を提供された顧客側のアイカ工業株式会社においても、試作品を開発した大日本インキ化学工業株式会社側の特段の明示的な指示や要求がなくとも、秘密扱いすることが暗黙のうちに求められる性質のものである。
請求人は、「甲第1号証の第2〜4頁は、上述したように、製品の宣伝目的で配布されるダイレクトメールやカタログ等と同等の性質を有するものであるから、アイカ工業のみにしか送付されなかったとは考えられず、他の顧客にも送付されたと推認される。」(上申書第14頁第7〜9頁)と主張する。
しかしながら、前述のように、甲第1号証のうちの第2〜4頁は、大日本インキ化学工業株式会社の北田某から顧客であるアイカ工業株式会社の磯部某に対し、試作した試作品サンプルの試験を依頼する内容のものであるから、当事者間における私信に相当すると認められるので、これが他の顧客にも送付されたとは推認できないし、また、請求人の主張を裏付ける証拠もないので、請求人の主張は認められない。
してみると、甲第1号証のうちの第2〜4頁に記載された技術情報は、大日本インキ化学工業株式会社及びアイカ工業株式会社の関係者間において知られたものであっても、それは公然知られたものとはいえないので、特許法第29条第1項第1号にいう「公然知られた発明」には該当しない。
したがって、本件特許発明1が、公然知られた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


(b)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を引用して更にその内容を限定するものであるから、上記4.(2)(ロ)(a)と同様の理由で、請求人が主張する公然知られた発明及び請求人が提出した甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(3)無効理由ハについて
(イ)本件特許発明1について
請求人は、本件特許発明1は、甲第2号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであると主張する。
そこで、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とを比較すると、本件特許発明1のポリ(エチレン-酢酸ビニル)共重合体エマルジョンが高分子重合体エマルジョンに相当することを考慮すれば、両者は、「高分子重合体エマルジョン、並びにアジピン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、及びグルタル酸ジメチルの混合物である」点で一致し、次の点で相違する。
(a)高分子重合体エマルジョンについて、本件特許発明1が「ポリ(エチレン-酢酸ビニル)共重合体エマルジョン」であるのに対し、甲第2号証に記載された発明は「高分子重合体エマルジョン」であり、具体例として酢酸ビニル系の樹脂エマルジョンが例示されるのみである点、
(b)本件特許発明1が水性ポリウレタンエマルジョンを含有しているのに対し、甲第2号証に記載された発明には水性ポリウレタンエマルジョンを含有していない点、
(c)本件特許発明1は「プラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤」であるのに対し、甲第2号証に記載された発明は「紙塗工用組成物」に用いられる「高分子重合体エマルジョン組成物」である点。

そこで、まず、相違点(b)について検討する。
甲第2号証に記載された高分子重合体エマルジョン組成物は、塗工紙表面に造膜して塗工紙表面強度、剛度、耐ブリスター性に優れた紙塗工用組成物を提供するためのものであるが(3.(2)の(ロ)(b)参照。)、甲第2号証にはプラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤に関しては記載も示唆もなされていない。
また、甲第3号証ないし甲第6号証に記載された発明は、いずれも接着剤に関する発明であって、甲第3号証ないし甲第5号証には、水性ポリウレタンエマルジョンやプラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤に関する記載はある(3.(2)の(ハ)〜(ヘ)参照。)が、塗工紙表面に造膜して塗工紙表面強度、剛度、耐ブリスター性に優れた紙塗工用組成物を提供することは記載も示唆もなされていない。[なお、甲第6号証には、水性ポリウレタンエマルジョン、及びプラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤に関し、共に記載も示唆もなされていない。]
してみると、接着剤に添加される甲第3号証ないし甲第5号証に記載の水性ポリウレタンエマルジョンを用途の異なる甲第2号証の紙塗工用組成物に添加することは当業者が容易に想到し得ることとはいえず、まして、水性ポリウレタンエマルジョンを紙塗工用組成物に添加することによりプラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤に適したものとしようとすることは、当業者といえども考え及ぶところではない。
そして、本件特許発明1は、水性ポリウレタンエマルジョンを含有することにより、その他の特定事項による規定とあいまって、「貯蔵安定性が良好で、常態接着性、耐水接着性、耐熱クリープが良好で安全性が高いという効果がえられる」(段落【0018】)とともに、優れた低温接着性を示す(段落【0008】、【0016】、【0017】;及びその点を技術的に裏付ける、審査時に提出された、平成15年9月11日付け中央理化工業株式会社開発センター開発管理室山口幸和による実験成績証明書)という、甲第2号証〜甲第6号証記載の発明からは予想し得ない、本件明細書記載の顕著な効果を奏するものである。
したがって、相違点(a)及び相違点(c)について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第2号証〜甲第6号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
さらに、甲第2号証〜甲第6号証の記載を総合勘案しても、本件特許発明1が当業者に容易に想到し得るものとは認められない。

請求人は、甲第13号証ないし甲第15号証を提出して、「『紙塗工用塗料組成物』と『接着剤組成物』とは、ともに、同一の高分子重合体を応用して製造することができる製品である。」(上申書第15頁第25〜27行)と主張し、また、甲第16号証ないし甲第19号証を提出して、「『紙塗工用塗料組成物』は『接着剤組成物』に顔料等を加えたものに過ぎず、「接着剤組成物」を応用した製品でもある。」(上申書第16頁第18〜19行)として、「『紙塗工用塗料組成物』と『接着剤組成物』とは技術分野を同一にするものである。」(上申書第15頁第22〜23行)と主張している。
しかしながら、甲第13号証ないし甲第15号証には紙塗工用組成物が接着剤としても用いられる旨が記載されており、また、甲第16号証ないし甲第19号証には紙塗工用組成物の成分として接着剤が用いられる旨が記載されていることからみて、紙塗工用組成物と接着剤とは技術分野にある程度の関連性は認められるとしても、甲第13号証ないし甲第19号証にはプラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤に関する記載も示唆もなされていないので、先に甲第2号証ないし甲第6号証について指摘したのと同様の理由で、甲第2号証に記載された高分子重合体エマルジョン組成物に水性ポリウレタンエマルジョンを含有させてプラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤とすることは当業者が容易に想到し得るものとはいえない。
また、本件明細書記載の顕著な効果は、甲第13号証ないし甲第19号証記載の発明を考慮しても、予想し得ないものである。
したがって、請求人のこの点の主張を考慮しても上記判断に変わりはない。

(ロ)本件特許発明2及び3について
本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を引用して更にその内容を限定するものであるから、上記4.(3)(イ)と同様の理由で、請求人が提出した甲第2号証〜甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。


5.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1〜3の特許を無効とすることができない。
審判にかかる費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-06-14 
結審通知日 2005-06-17 
審決日 2005-06-28 
出願番号 特願平10-10744
審決分類 P 1 113・ 121- Y (C09J)
P 1 113・ 113- Y (C09J)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 脇村 善一
特許庁審判官 唐木 以知良
後藤 圭次
登録日 2004-04-16 
登録番号 特許第3545587号(P3545587)
発明の名称 プラスチックフィルムオーバーレイ用接着剤  
代理人 足立 勉  
代理人 朝日奈 宗太  

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