• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 1項2号公然実施  D03D
審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  D03D
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  D03D
審判 一部申し立て 2項進歩性  D03D
管理番号 1121056
異議申立番号 異議2001-71030  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-11-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-03 
確定日 2004-11-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3094835号「補強織物とその製造方法および製造装置」の請求項1ないし7、9ないし19、30、31、36に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3094835号の請求項1ないし7、9ないし18に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3094835号は、平成7年3月8日に出願され(優先権主張、平成6年3月8日、日本国)、平成12年8月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、三菱レイヨン株式会社及び西田悦男より特許異議の申立てがされて、平成14年11月19日付け取消理由が通知され、平成15年2月4日に訂正請求がされ、更に、平成16年7月5日付け取消理由が通知され、その指定期間内である同年8月25日に訂正請求がされると共に、平成15年2月4日にされた訂正請求については取り下げられたものである。

2.特許異議の申立ての概要
申立てにおける取消理由の概要は、以下のとおりのものと認める。

2-1.三菱レイヨン株式会社の申立て
申立てに係る請求項は、請求項1〜4、10〜17、19、30である。

A.特許査定時における請求項1、3、4に係る発明(但し、請求項3、4に係る発明については、請求項2を実質的に引用して記載している発明部分は除かれている。)は、甲第2号証を参酌すれば、本件の優先権主張日前に日本国内において公然実施された、甲第1号証に記載の炭素繊維織物「TRK110」であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、これら請求項に係る特許は、同条第1項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由A」という。)
B.特許査定時における請求項19、30に係る発明は、本件の優先権主張日前に頒布された甲第7号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、これら請求項に係る特許は、同条第1項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由B」という。)
C.特許査定時における請求項2〜4、10〜17に係る発明(但し、請求項3、4に係る発明については、請求項1を実質的に引用して記載している発明部分は除かれ、また、請求項10〜17に係る発明については、請求項5を実質的に引用して記載している発明部分は除かれている。)は、甲第2、8号証を参酌すれば、本件の優先権主張日前に日本国内において公然実施された、甲第1号証に記載の炭素繊維織物「TRK110」と、同じく主張日前に頒布された甲第1、3〜6号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由C」という。)

甲第1号証:「工業材料」Vol.38 No.13,日刊工業新聞社、H2.11.1、p.74〜81、89〜94
甲第2号証:三菱レイヨン株式会社 商品開発研究所 複合材料研究グループ 佐野 智雄 作成の平成13年3月23日付け実験成績報告書
甲第3号証:特開昭58-201824号公報
甲第4号証:特開昭59-209847号公報
甲第5号証:特開平4-336242号公報
甲第6号証:「エンプラ 93」、p.85〜92、104〜109、155〜159、化学工業日報社、1993年3月24日発行
甲第7号証:特開平2-74645号公報
甲第8号証:三菱レイヨン株式会社 商品開発研究所 複合材料研究グループ 佐野 智雄 作成の平成13年3月26日付け実験成績報告書

2-2.西田悦男の申立て
申立てに係る請求項は、請求項1〜7、9〜19、30、31、36である。

D.特許査定時における請求項1に係る発明は、本件の優先権主張日前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、同請求項に係る特許は、同条第1項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由D」という。)
E.特許査定時における請求項1〜7、9〜19、30、31、36に係る発明は、本件の優先権主張日前に頒布された甲第1〜10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由E」という。)
F.特許査定時における請求項1〜7、9〜19、30、31、36に係る特許は、請求項19の記載につき、明細書又は図面の記載が不備な、特許法第36条第4、5項の規定に違反した特許出願に対して、特許されたものである。(以下、「取消理由F」という。)

甲第1号証:特開平4-281037号公報
甲第2号証:「炭素繊維の応用技術(増補改訂版)」、株式会社シーエムシー、1986.6.30、p.21〜23、95
甲第3号証:特開昭61-287936号公報
甲第4号証:特開平1-292038号公報
甲第5号証:特開昭58-191244号公報
甲第6号証:特開昭60-28543号公報
甲第7号証:特開平3-8833号公報
甲第8号証:「改訂4版 化学便覧 基礎編I」、丸善株式会社、平成5年9月30日、p.558、559、562〜565
甲第9号証:特開平2-74645号公報
甲第10号証:特開平5-768号公報

3.通知された取消理由

3-1.平成14年11月19日付け取消理由
取消理由の概要は、以下のとおりである。

a.特許査定時における請求項1、3、4に係る発明は、本件の優先権主張日前に日本国内において公然実施された、刊行物1に記載の炭素繊維織物「TRK110」であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、これら請求項に係る特許は、同条第1項の規定に違反して特許されたものである。
b.特許査定時における請求項6、7、9に係る発明は上記「TRK110」と刊行物4に記載された発明に基いて、同じく請求項10、11、14、15に係る発明は上記「TRK110」と刊行物2に記載された発明に基いて、同じく請求項12、16に係る発明は上記「TRK110」と刊行物2、3に記載された発明に基いて、同じく請求項13、17に係る発明は上記「TRK110」と刊行物2、5に記載された発明に基いて、同じく請求項19、30に係る発明は上記「TRK110」と刊行物6に記載された発明に基いて、そして、同じく請求項31、36に係る発明は上記「TRK110」と刊行物6に記載された発明に基いて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたから、これら請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

刊行物1:「工業材料」Vol.38 No.13,日刊工業新聞社、H2.11.1、p.74〜81、89〜94(三菱レイヨン株式会社が提出した甲第1号証)
刊行物2:特開平4-281037号公報(西田 悦男が提出した甲第1号証)
刊行物3:「炭素繊維の応用技術(増補改訂版)」、株式会社シーエムシー、1986.6.30、p.21〜23、95(同、甲第2号証)
刊行物4:特開平3-8833号公報(同、甲第7号証)
刊行物5:「改訂4版 化学便覧 基礎編I」、丸善株式会社、平成5年9月30日、p.558、559、562〜565(同、甲第8号証)
刊行物6:特開平2-74645号公報(西田 悦男が甲第9号証、三菱レイヨン株式会社が提出した甲第7号証)
実験成績報告書1:三菱レイヨン株式会社 商品開発研究所 複合材料研究グループ 佐野 智雄 作成の平成13年3月23日付け実験成績報告書(三菱レイヨン株式会社が提出した甲第2号証)

なお、実験成績報告書1は、上記「TRK110」を認定するために参酌されたものである。

3-2.平成16年7月5日付け取消理由
取消理由の概要は、以下のとおりである。

c.特許査定時における請求項1〜7、9〜19、30、31、36に係る特許は、請求項19の記載につき、明細書又は図面の記載が不備な、特許法第36条第4、5項の規定に違反した特許出願に対して、特許されたものである。

4.平成16年8月25日にされた訂正請求の適否について

4-1.訂正の内容
本件訂正は、以下の訂正事項a〜cからなるものと認める。

訂正事項a;
【特許請求の範囲】の【請求項1】の記載につき、
「集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸を織糸とし、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とする補強織物。
W=k・D1/2但し、W:織物目付(g/m2 )
k:比例定数(1.4〜3.6)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)」とあるのを、
「集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸を織糸とし、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、織物の繊維密度が0.76g/cm3以上で、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とする補強織物。
W=k・D1/2但し、W:織物目付(g/m2 )
k:比例定数(1.4〜3.6)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)」と訂正する。
なお、【請求項3】、【請求項4】、【請求項6】〜【請求項18】の記載については、その文言は変更されていないものの、これら【請求項】は、上述したように訂正された【請求項1】の記載を実質的に引用して記載していることから、実質的には訂正されているものである。

訂正事項b;
【特許請求の範囲】の【請求項19】〜【請求項36】を削除する。

訂正事項c;
明細書の段落【0030】の記載につき、
「・・・、カバーファクターが・・・」とあるのを、
「・・・、織物の繊維密度が0.76g/cm3以上で、カバーファクターが・・・」と訂正する。

4-2.判断

4-2-1.訂正事項aについて
ここでは、「願書に添付された明細書又は図面」を訂正前明細書という。また、訂正前の【請求項1】については旧【請求項1】と、訂正後の【請求項1】については新【請求項1】といい、他の請求項についても同様とする。

(1)新【請求項1】とする訂正について
本訂正は、旧【請求項1】記載の発明である補強織物につき、その繊維密度を0.76g/cm3以上と技術的に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
また、訂正前明細書には、以下の記載ア〜カが認められる。

ア.「【0160】以下に、本発明のより具体的な実施例について説明する。
実施例1
・・・。
【0161】得られた炭素繊維補強織物は、・・・ 、繊維密度が0.91g/cm3 であった。」(段落【0160】〜【0161】)
イ.「【0175】実施例2
本発明の製造方法及び製造装置により、実施例1に示した炭素繊維糸を用い本発明の炭素繊維補強織物を製織し、・・・。これは、製織された炭素繊維補強織物の繊維密度が0.91g/cm3 と高いことから可能になったものである。」(段落【0175】〜【0176】)
ウ.「【0185】実施例3
・・・。
【0186】得られた炭素繊維補強織物は、・・・ 、繊維密度が1.01g/cm3 であった。扁平な炭素繊維織糸のフックドロップ値FD(15)は83mm(FD(30)で245mm)であった。」(段落【0185】〜【0186】)
エ.「【0193】実施例4(実施例織物4)
・・・。
【0195】得られた炭素繊維補強織物の・・・、繊維密度、・・・を表4に示した。・・・。
【0196】実施例5(実施例織物5)
・・・。得られた炭素繊維補強織物5の諸特性を表4に示した。・・・。
【0197】実施例6(実施例織物6)
・・・。得られた炭素繊維補強織物6の諸特性を表4に示した。・・・。
【0198】実施例7(実施例織物7)
・・・。得られた炭素繊維補強織物7は、実施例織物6よりもよこ糸の開繊・拡幅が大きく、カバーファクターがほとんど100%の織物を得た。」(段落【0193】〜【0198】)及び、
実施例4に対応して項目「繊維密度(g/m3)」の欄に「0.76」と、同じく、実施例5に対応して「0.94」と、実施例6に対応して「1.00」と、そして、実施例7に対応して「1.00」と記載され、更に、実施例4に対応して項目「繊維目付(g/m2 )」及び項目「繊維厚さ(mm)」の欄に「160」及び「0.21」と記載された【表4】
オ.「【0052】ここで、織物の繊維密度とは、次式で定義される値をいう。
織物の繊維密度(g/m3 )=[織物目付(g/m2 )]/[織物厚さ(mm)]
なお、織物目付(g/m2 )および織物厚さ(mm)は、それぞれJIS R7602に準拠して測定した値である。」
カ.「【0019】このように、従来は、強化繊維糸の繊度が大きいときには優れた強度特性を有するFRPやCFRPの成形が困難であり、また、扁平な強化繊維糸を用いても、十分に高い繊維密度の補強織物を得ることが困難であり、その提供が望まれていた。さらに、扁平な強化繊維糸から所望の補強織物を製織する際、従来は満足すべき方法や装置もなく、その提供が望まれていた。」

記載エにおける【表4】に記載された項目の「繊維密度(g/m3)」は、「繊維密度(g/cm3)」の誤記であることは、記載ア〜ウ、及び記載オに記載の式における右辺、即ち、「[織物目付(g/m2 )]/[織物厚さ(mm)]」に、記載エにおける実施例4の「繊維目付(g/m2 )」及び項目「繊維厚さ(mm)」の数値である「160」及び「0.21」を算入すると、項目「繊維密度」が0.76g/cm3となり、記載エにおける「繊維密度(g/m3)」の欄に記載の「0.76」の数字と一致することから、明らかである。
そして、訂正前明細書には、記載ア〜エによれば、実施例として、繊維密度(g/cm3)が0.76、0.91、0.94、1.00又は1.01の補強織物が記載されている。また、訂正前明細書には、記載カによれば、従来は十分に高い繊維密度の補強織物を得ることが困難であったことが記載されていることから、上記実施例の補強織物における繊維密度の最小値は、詳細な説明に記載された本件に係る発明において下限値としての技術的思想を見て取れるものである。
してみると、本訂正は、訂正前明細書に記載された事項を根拠とするもので、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)新【請求項3】、【請求項4】、【請求項6】〜【請求項18】とする訂正について
本訂正は、新【請求項】において、旧【請求項】に対し、文言の変更はないものの、先に「4-1」で述べたように、実質的に訂正しているものである。そして、本訂正が、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、先に「(1)」で述べたことから、明らかである
また、申立てに係る請求項ではない旧【請求項8】から新【請求項8】とする本訂正について更に検討すると、新【請求項8】に係る発明は、異議申立人三菱レイヨン株式会社や西田悦男の証拠方法を根拠に、特許出願の際独立して特許を受けることができないとはいえないし(決定注;後述する「6」参照。)、また、他に特許を受けることができないとする理由も見当たらない。

4-2-2.訂正事項bについて
【請求項19】〜【請求項36】を削除する本訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。そして、本訂正が、願書に添付された明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである。

4-2-3.訂正事項cについて
本訂正は、訂正事項aと整合を図るべく明細書の段落【0030】の記載を訂正するもので、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、先の「(1)」で検討したことから、訂正前明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。
また、本件訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるとする理由は見当たらない。

4-2-4.まとめ
本件訂正は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例とされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書き、第2項及び第3項の規定に適合するので、これを認める。

5.特許異議の申立てについての判断

5-1.本件発明
本件請求項1〜18に係る発明(以下、「本件発明1〜18」という。)は、「訂正された明細書又は図面」(以下、「訂正後明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1〜18に記載された、以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】 集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸を織糸とし、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、織物の繊維密度が0.76g/cm3以上で、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とする補強織物。
W=k・D1/2但し、W:織物目付(g/m2 )
k:比例定数(1.4〜3.6)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【請求項2】 集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸またはよこ糸とし、補助糸を用いて製織された一方向性の織物であって、織物厚みが0.07〜0.3mm、織物目付が100〜320g/m2 で、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とする補強織物。
W=k・D1/2但し、W:織物目付(g/m2 )
k:比例定数(0.9〜4.0)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【請求項3】 前記マルチフィラメントの炭素繊維糸の糸厚みが0.05〜0.2mm、糸幅/糸厚み比が30〜150である、請求項1または2の補強織物。
【請求項4】 前記マルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸およびよこ糸とする織物であって、織物厚みが0.1〜0.4mm、織物目付が100〜300g/m2 である、請求項1ないし3のいずれかに記載の補強織物。
【請求項5】 集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸とよこ糸の少なくとも一方とする織物であって、該たて糸とよこ糸の少なくとも一方は前記炭素繊維糸が複数積層されてなり、織物厚みが0.1〜0.6mm、織物目付が200〜500g/m2 で、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とする補強織物。
W=k・D1/2但し、W:織物目付(g/m2 )
k:比例定数(2.0〜6.0)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【請求項6】 請求項1ないし5のいずれかに記載の補強織物の複数枚を積層し、ステッチ糸を用いて一体に縫合してなるプリフォーム。
【請求項7】 請求項1ないし5のいずれかに記載の補強織物の少なくとも1枚と他の補強織物とを積層し、ステッチ糸を用いて一体に縫合してなるプリフォーム。
【請求項8】 前記ステッチ糸による縫合が単環縫いによって行われている、請求項6または7に記載のプリフォーム。
【請求項9】 前記ステッチ糸の引張破断伸度が補強織物のマルチフィラメントの炭素繊維糸の引張破断伸度よりも大きい、請求項6ないし8のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項10】 請求項1ないし5のいずれかに記載の補強織物に30〜70重量%のマトリクス樹脂が含浸されているプリプレグ。
【請求項11】 前記マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である、請求項10のプリプレグ。
【請求項12】 前記マトリクス樹脂の硬化または固化状態における引張破断伸度が補強織物のマルチフィラメントの炭素繊維糸の引張破断伸度よりも大きい、請求項10または11のプリプレグ。
【請求項13】 前記マトリクス樹脂が、硬化状態における引張破断伸度が3.5〜10%の熱硬化性樹脂または固化状態における引張破断伸度が8〜200%の熱可塑性樹脂である、請求項10ないし12のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項14】 請求項1ないし5のいずれかに記載の補強織物を含み、かつ、30〜70重量%のマトリクス樹脂を含む繊維強化プラスチック。
【請求項15】 前記マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である、請求項14の繊維強化プラスチック。
【請求項16】 前記マトリクス樹脂の引張破断伸度が補強織物のマルチフィラメントの炭素繊維糸の引張破断伸度よりも大きい、請求項14または15の繊維強化プラスチック。
【請求項17】 前記マトリクス樹脂が、引張破断伸度が3.5〜10%の熱硬化性樹脂または引張破断伸度が8〜200%の熱可塑性樹脂である、請求項14ないし16のいずれかに記載の繊維強化プラスチック。
【請求項18】 2方向性補強織物からなる、少なくとも一枚の前記請求項1、3ないし5のいずれかに記載の補強織物を含む補強基材を、該補強織物の織糸の方向が深絞り中心を向く方向に対して斜めの方向となる各々の隅を固定し、固定された補強基材を深絞りにより賦形することを特徴とする、繊維強化プラスチックの製造方法。」

5-2.取消理由について

5-2-1.取消理由の整理
三菱レイヨン株式会社の取消理由A〜Cは、先に「2-1」に述べたとおりであるが、訂正前明細書の請求項19〜請求項36を削除するとともに請求項1、3、4、6〜18を訂正する本件訂正が、先に「4」で述べたように、認められることから、結局、以下のとおりになったと認める。

a.本件発明1、3、4(但し、本件発明3、4については、本件発明2を実質的に引用して記載している発明部分は除かれている。)は、甲第2号証を参酌すれば、本件の優先権主張日前に日本国内において公然実施された、甲第1号証に記載の炭素繊維織物「TRK110」であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し、請求項1、3、4に係る特許は、同条第1項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由a」という。)
c.本件発明1〜4、10〜17(但し、本件発明10〜17については、本件発明5を実質的に引用して記載している発明部分は除かれている。)は、甲第2、8号証を参酌すれば、本件の優先権主張日前に日本国内において公然実施された、甲第1号証に記載の炭素繊維織物「TRK110」と、同じく主張日前に頒布された甲第1、3〜7号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたから、請求項1〜4、10〜17に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由c」という。)

甲第1号証:「工業材料」Vol.38 No.13,日刊工業新聞社、H2.11.1、p.74〜81、89〜94(以下、「三菱甲1」という。)
甲第2号証:三菱レイヨン株式会社 商品開発研究所 複合材料研究グループ 佐野 智雄 作成の平成13年3月23日付け実験成績報告書(以下、「三菱甲2」という。)
甲第3号証:特開昭58-201824号公報(以下、「三菱甲3」という。)
甲第4号証:特開昭59-209847号公報(以下、「三菱甲4」という。)
甲第5号証:特開平4-336242号公報(以下、「三菱甲5」という。)
甲第6号証:「エンプラ 93」、p.85〜92、104〜109、155〜159、化学工業日報社、1993年3月24日発行(以下、「三菱甲6」という。)
甲第7号証:特開平2-74645号公報(以下、「三菱甲7」という。)
甲第8号証:三菱レイヨン株式会社 商品開発研究所 複合材料研究グループ 佐野 智雄 作成の平成13年3月26日付け実験成績報告書(以下、「三菱甲8」という。)

また、西田悦男の取消理由D〜Fは、先に「2-2」に述べたとおりであるが、訂正前明細書の請求項19〜請求項36を削除するとともに請求項1、3、4、6〜18を訂正する本件訂正が、先に「4」で述べたように、認められることから、結局、以下のとおりになったと認める。

d.本件発明1は、本件の優先権主張日前に頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1に係る特許は、同条第1項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由d」という。)
e.本件発明1〜7、9〜18は、本件の優先権主張日前に頒布された甲第1〜10号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたから、請求項1〜7、9〜18に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。(以下、「取消理由e」という。)

甲第1号証:特開平4-281037号公報(以下、「西田甲1」という。)
甲第2号証:「炭素繊維の応用技術(増補改訂版)」、株式会社シーエムシー、1986.6.30、p.21〜23、95(以下、「西田甲2」という。)
甲第3号証:特開昭61-287936号公報(以下、「西田甲3」という。)
甲第4号証:特開平1-292038号公報(以下、「西田甲4」という。)
甲第5号証:特開昭58-191244号公報(以下、「西田甲5」という。)
甲第6号証:特開昭60-28543号公報(以下、「西田甲6」という。)
甲第7号証:特開平3-8833号公報(以下、「西田甲7」という。)
甲第8号証:「改訂4版 化学便覧 基礎編I」、丸善株式会社、平成5年9月30日、p.558、559、562〜565(以下、「西田甲8」という。)
甲第9号証:特開平2-74645号公報(以下、「西田甲9」という。なお、「三菱甲7」と同じである。)
甲第10号証:特開平5-768号公報(以下、「西田甲10」という。)

5-2-2.検討

(1)三菱甲1〜甲8、西田甲1〜10の記載又は記載事項

ア.三菱甲1
ア-1.「織物は・・・スポーツ用品、音響機器、医療機器、自動車部品、航空宇宙関係などに広く使われている。表6にPAN系炭素繊維織物の例を示す。・・・。HPグレードピッチ系炭素繊維織物の例を表7に示す。」(78頁左欄6行〜右欄下から3行)
ア-2.品番が「TRK110」の、商品名(メーカー)、使用糸/タテ、使用糸/ヨコ、組織、寸法/厚さmm、重さg/m2 の対応欄には、それぞれ、「パイロフィル(三菱レイヨン)」、「12K」、「12K」、「平」、「0.45」、「260」と記載されている表6-2(78頁)。
ア-3.三菱甲1には、上記ア-1及び2を含め、炭素繊維に関する事項が記載されている。

イ.三菱甲2
イ-1.「【3】実験の目的
特許第3094835号(優先日:平成6年3月8日)の優先日以前から三菱レイヨン株式会社が製造販売している炭素繊維織物TRK110の(A)カバーファクター、炭素繊維織物TRK110の構成炭素繊維の(B)フックドロップ値FD(15)、(C)糸厚み及び糸幅/厚み比が、特許第3094835号の特許請求の範囲で規定する範囲にあることを証明する。
【4】実験方法
(A)カバーファクター
(1)試料
以下の炭素繊維織物を試料とした。
TRK110
三菱レイヨン株式会社製炭素繊維TR4012L(フィラメント数12000本、引張破断伸度2.1%)を経緯糸とも4本/インチ(1.57本/cm)で平織りした織物である。目付けは、260g/m2 であった。」(1頁12〜25行)
イ-2.「(C)トウ厚み及びトウ幅/厚み比
(1)試料
(A)(1)の炭素繊維織物を試験片とした。
(2)トウ厚み及びトウ幅/厚み比測定法
試料に対して経糸100カ所、緯糸74ヶ所についてルーペを用いてトウ幅を測定し、各々の平均値を計算した。また20ヶ所についてマイクロメーターを用いて織物厚みを測定し、その平均値を求めた。」(2頁下から9〜3行)
イ-3.「(A)カバーファクター」に示された表には、試料、No.、カバーファクターCf(%)には、それぞれ、「TRK110」、「平均」、「98」と記載され、また、「(B)フックドロップ値FD(15)」に示された表には、「TRK110」に対応して、経糸FD(15)、緯糸FD(15)には、それぞれ、「323」、「451」と記載され、更に、「(C)糸厚み及び糸幅/糸厚み比」に示された表には、「TRK110」の「経糸」に対応して、織物厚み(mm)、糸幅/糸厚みには、それぞれ、「0.320」、「36.8」と、同様に、「TRK110」の「緯糸」に対応して、それぞれ、「0.320」、「34.2」と記載されている「【5】実験結果及び結論」。(3〜4頁)

ウ.三菱甲3
ウ-1.「2.特許請求の範囲
(1)経糸が非炭素繊維であり緯糸が炭素繊維である織物をプリプレグの構成要素である樹脂層とを貼合せたプリプレグ。」

エ.三菱甲4
エ-1.「2.特許請求の範囲
経糸又は緯糸の何れか一方に炭素繊維糸条を用い、他方に該糸条に対し断面積が少なくとも1/10程度以下の太さでかつ曲げ剛性比率が1/10程度以下である糸条を用いた織物を、炭素繊維糸条が直交又は斜交する様に複数枚重ね合せ、樹脂成分により接合して構成される樹脂補強材。」

オ.三菱甲5
オ-1.「【0014】・・・。図3の一方向織物は、炭素繊維糸条6を複数本並行に配列してなる糸条群aと、他の繊維からなる糸条7を複数本並行に配列してなる糸条群bとを交互に配列し、炭素繊維糸条と他の繊維糸条からなる経糸と、補助糸としての緯糸8が交錯して、平組織している。」(段落【0014】)及び【図3】

カ.三菱甲6
カ-1.ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート及びポリエーテルエーテルケトンに関する事項が記載されている。

キ.西田甲9でもある三菱甲7
キ-1.「2.特許請求の範囲
1 炭素繊維織物を製織する際、炭素繊維のパツケージ(12)の巻軸(12a)を炭素繊維走行方向に対しほぼ垂直となるように回転自在に支持し、前記パツケージ(12)を強制的に回転させて一回のよこ入れ量に見合う所定長さの炭素繊維(11)を繰出し、この所定長さの炭素繊維(11)を貯留装置(1)に貯留しておき、該貯留装置(1)に貯留された所定長さの炭素繊維(11)をよこ入れする、炭素繊維織物の製織におけるよこ糸供給方法。」

ク.三菱甲8
ク-1.「【3】実験の目的
(A)フックドロップ値FD(15)
特許第3094835号(優先日:平成6年3月8日)の優先日以前から販売されていた炭素繊維のフックドロップ値FD(15)が20〜800mmの範囲内であり、周知慣用技術であったことを証明する。
(B)トウ幅及びトウ厚み
上記フックドロップ値FD(15)を測定した炭素繊維のトウ幅、トウ厚みを測定し、これら炭素繊維が扁平糸であることを証明する。」(1頁12〜19行)
ク-2.「【5】実験結果及び結論
(A)フックドロップ値FD(15)
・・・
いずれの炭素繊維もフックドロップ値FD(15)が20〜800mmの範囲内にあり、・・・
いずれの炭素繊維も、トウ幅/トウ厚みが大きく、扁平形状であったことが明らかとなった。」(2頁下にある表の上、下から4行〜3頁下から1行)

ケ.西田甲1
ケ-1.「【0040】
【実施例および比較例】実施例1:有撚炭素繊維糸に0.8重量%のエポキシ系サイジング剤を付着させ、乾燥し、撚り数が0.8回/mになるように解撚して得た東レ株式会社製炭素繊維“トレカ”T300糸(平均単糸径:7μm、単糸数:3,000本、繊度:1,800デニール、比重:1.76)を経糸および緯糸とし、経糸および緯糸の幅がそれぞれ1.47mm、1.49mm、経方向および緯方向の織目の大きさがそれぞれ0.57mm、0.59mm、経方向および緯方向の織密度がともに4.85本/cm(経糸ピッチ:約2.06mm)、目付が194g/m2 、厚みが0.31mmの平組織された織物を得た。
【0041】次に、上記織物を、図1に示すように、経方向に1.5m/分の速度で走行させながら開繊、拡幅・偏平化処理をした。」
ケ-2.「【0044】実施例2:実施例1で使用した炭素繊維糸を経糸および緯糸として、経糸および緯糸の幅がそれぞれ1.60mm、1.49mm、経方向および緯方向の織目の大きさがそれぞれ1.37mm、1.26mm、経方向および緯方向の織密度がともに3.5本/cm(経糸ピッチ:約2.86mm)、目付が140g/m2 、厚みが0.29mmの平組織された織物を得た。
【0045】次に、上記織物を、実施例1と同様に開繊、拡幅・偏平化処理した。得られた織物は、経糸および緯糸の幅がそれぞれ2.17mm、2.09mmに拡幅・偏平化されていた。また、厚みは0.23mm、カバーファクターは約96%で、薄く、かつ、表面の凹凸が極めて小さかった。さらに、単糸切れや毛羽の発生は認められなかった。
【0046】実施例3:実施例2で得られた織物に、Bステージのフェノール樹脂を44重量%になるように含浸し、プリプレグを得た。」
ケ-3.「【0020】一方、目付は任意に選び得るが、織糸の単糸数が少ない場合には、開繊、拡幅・偏平化処理の容易性、均一性や、得られる織物の形態保持性、カバーファクターなどを考えると、好ましくは120〜200g/m2 、より好ましくは140〜195g/m2 の範囲にしておく。この目付の範囲は、単糸数が3,000本である場合、特に好ましい。なお、目付は、開繊、拡幅・偏平化処理の後においても変わることはない。」

コ.西田甲2
コ-1.市販炭素繊維製品及びFRPの母材樹脂に関する事項が記載されている。

サ.西田甲3
サ-1.「熱可塑性の低融点ポリマー糸によつて多数の補強繊維を一方向に互いに並行かつシート状に保持してなるプリプレグ素材を加熱し、前記低融点ポリマー糸を溶融するとともに前記補強繊維にB-ステージの熱硬化性樹脂を含浸することを特徴とする一方向性プリプレグの製造方法。」(特許請求の範囲の(2))
サ-2.「この発明においては、まず、熱可塑性の低融点ポリマー糸によつて多数の補強繊維を一方向に互いに並行かつシート状に保持してなるプリプレグ素材を用意する。これは、たとえば次のようにして行う。
すなわち、織機を使用し、低融点ポリマー糸を経糸とし、補強繊維を緯糸として両者を平組織する。すると、第3図に示すような、低融点ポリマー糸1を経糸とし、補強繊維2を緯糸とする平織物が得られ、補強繊維2が幅方向に互いに並行かつシート状に配列され、その配列が低融点ポリマー糸1によつて保持されているプリプレグ素材3が得られる。」(2頁右上欄12行〜左下欄4行)
サ-3.「補強繊維は、FRPにおいて通常使用されている、例えば炭素繊維、・・・などの高強度、高弾性繊維のストランド(マルチフイラメント)である。」(3頁左上欄1〜6行)

シ.西田甲4
シ-1.「2.特許請求の範囲
(1)サイジング剤を含有した炭素繊維束の糸幅(D)、厚み(t)の比が下記式を満足する開繊性の優れた無撚炭素繊維束。
D/t≧15」

ス.西田甲5
ス-1.「特許請求の範囲
1.厚みが0.09mm以下でマトリックス樹脂を除いた炭素繊維の重量が85g/m2 以下であることを特徴とする、炭素繊維からなる薄地織物。」
ス-2.「本発明に用いられる連続炭素繊維束は、通常3〜12K(連続炭素繊維束の単繊維が3000〜12000本の集合体)であるが、10K(連続炭素繊維束の単繊維が10000本の集合体)以上を用いれば極めて安価な織物が得られる。」(3頁左下欄11〜16行)

セ.西田甲6
セ-1.「2.特許請求の範囲
ポリエーテルエーテルケトンからなる繊維または繊維状物と、補強繊維とを、織物、編物またはマットに組織してなることを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂成形用材料。」
セ-2.「補強繊維としては、繊維強化樹脂の補強繊維として通常使用される、たとえば炭素繊維、・・・を使用する。これらの補強繊維は、・・・、通常マルチフイラメントの形態で使用する。」(2頁左下欄10〜16行)
セ-3.「第4図(概略断面図)は、上記第2図に示した態様の成形用材料において、経糸または緯糸はそのままとし、緯糸または経糸として、補強繊維1とPEEK繊維2を1組とし、かつPEEK繊維2が補強繊維1の内側になるように配置したものである。」(3頁左上欄下から7〜2行)及び第4図
セ-4.「実施例
補強繊維として東レ株式会社製炭素繊維“トレカ”T300(単糸数3000本)を、繊維状PEEKとして、厚み50μ、幅1mmのスリットヤーンを横断面積が0.15mm2 になるように束ねたものをそれぞれ準備した。
次に、経糸として、上記炭素繊維とPEEKの束とを交互に、かつそれぞれの密度が3.5本/cmになるように使用し、一方、緯糸としてPEEKの束を密度が3本/cmになるように使用し、一方向性の平織物を得た。」(3頁右下欄下から5行〜4頁左上欄6行)

ソ.西田甲7
ソ-1.「2.特許請求の範囲
(1)長手方向に並行して延びている、補強繊維からなるたて糸と、幅方向に、並行して、かつ、上記たて糸に対して斜めに延びている、補強繊維からなるよこ糸とを有し、上記幅方向においては、たて糸の繊維密度が高い部分と低い部分とを有していることを特徴とする補強繊維織物。」
ソ-2.「この発明で使用する補強繊維は、炭素繊維、・・・等の高強度、高弾性率繊維であり、用途や、成形する複合材料の種類等に応じて選択する。」(2頁右上欄下から3行〜左下欄3行)

タ.西田甲8
タ-1.各種樹脂の性質に関する事項が記載されている。

チ.西田甲10
チ-1.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 線条体(1)を、固定プーリー(31)とこれに対して近接または離隔する方向に可動な可動プーリー(32)とからなるダンサプーリー装置(3)を経由させた後、その線条体(1)の走行線を含む一つの平面内に回転面を置き、該線条体(1)を挟んで対向して設けられる複数の押圧プーリー(4A,4B,4C,4D)の各外周溝に接触するように走行させて導き、この線条体(1)の走行経路を前記平面に含まれる一つの曲線状に変化させるようにしてその線条体(1)に張力変動を与えることを特徴とする線条体の巻取り方法。
【請求項2】 固定プーリー(31)とこれに対して近接または離隔する方向に可動な可動プーリー(32)とからなるダンサプーリー装置(3)と、巻き取るべき線条体(1)を挟んで対向配置され、各回転面が前記線条体(1)を含む一つの平面内にあって、常時前記線条体(1)に向かい、大きさの調節できる押圧力が与えられている複数の押圧プーリー(4A,4B,4C,4D)を備えた微変動吸収装置(4)とを有し、前記線条体(1)が前記ダンサプーリー装置(3)および微変動吸収装置(4)をこの順に経由して巻取りボビン(2)に巻き取られるように構成された線条体の巻取り装置。」

(2)取消理由aについて

1)本件発明1について
三菱甲1には、記載ア-1及び2によれば、「三菱レイヨン株式会社製の商品名がパイロフィルで品番がTRK110」(以下、「三菱甲1発明」という。)が記載されている。そして、三菱甲1は、本件出願の優先権主張日前である平成2年11月1日に日本国内において頒布された技術雑誌であり、ここには、炭素繊維織物がスポーツ用品分野等、各種技術分野に使用されることと共に、三菱甲1発明がPAN系炭素繊維織物の例として記載されているから、三菱甲1発明は、優先権主張日前に日本国内において公然と実施をされたものであると認められる。
そこで、三菱甲1発明について見ていくと、記載ア-2によると、使用されている織糸は「12K」であって、12Kとは、記載ス-2によれば、フィラメント数が12,000本のことであり、また、織物目付は260g/m2 で、更に、織物厚みは0.45mmであることが認められる。一方、三菱甲2は、記載イ-1及び3によれば、三菱甲1発明につき、その形状や性状を確認することを目的とするものであると認められ、その確認の対象が真に三菱甲1発明であるかについての検討は、ひとまず置くとして、三菱甲2からは、三菱甲1発明について以下のア)〜ウ)がうかがえる。

ア)記載イ-1及び3によれば、糸幅/糸厚みが経糸36.8で緯糸34.2であることが記載されていることから、織糸である経糸及び緯糸は扁平であること。
イ)記載イ-1及び3によれば、カバーファクターが試料平均98%で、織糸のフックドロップ値FD(15)が経糸323で緯糸451であることが記載されており、これらカバーファクターやフックドロップ値FD(15)が、その測定手法の同一性を含め、その技術的意味が訂正後明細書に記載のカバーファクターやフックドロップ値FD(15)と同じであるかについての検討は、ひとまず置くとして、三菱甲1発明のカバーファクターやこれの経糸や緯糸のフックドロップ値FD(15)は、一応、上記した、三菱甲2に記載のとおりのものであること。
ウ)記載イ-1及び3によれば、三菱甲1発明の織物厚みが0.320mmであることが記載されており、この織物厚みについて見ると、記載イ-2によれば、20ヶ所についてマイクロメーターを用いて測定し、その平均値を求めた結果であること。

一方、訂正後明細書に記載の織物厚みについてみると、段落【0052】によれば、JIS R7602に準拠して測定するものであることが記載されている。そこで、JISR7602(JIS炭素繊維織物試験方法、JIS R7602-1989、「5.6厚さ」、日本規格協会発行、参照)についてみると、測定器としては、JIS B7503(0.01mm目盛ダイヤルゲージ)に規定するダイヤルゲージ、面積が1cm2 の加圧板、荷重の組み合わせからなるものを用い、試験片5個以上について50kPa{510gf/cm2 }の圧力を20秒間掛けたときの厚さを測定することにより得られることがうかがえる。してみると、三菱甲2に記載された三菱甲1発明の織物厚みの測定手法と、訂正後明細書に記載の織物厚みの測定手法とは、特に、後者手法が50kPa{510gf/cm2 }の圧力を20秒間掛けたときの厚さを測定する点において相違していると認められるから、上記ウ)でうかがえた0.320mmという数値を、訂正後明細書に記載の織物厚みの測定手法によって測定した結果とすることはできない。
なお、先に述べたように、記載ア-2によると、織物厚みは0.45mmであることが認められるものの、これについても、少なくとも訂正後明細書に記載の織物厚みの測定手法によって測定した結果とする理由はない。
以上のことから、三菱甲1発明は、「集束性がフックドロップ値FD(15)で323mm又は451mmの、扁平で、フィラメント数が12,000本であるマルチフィラメントの炭素繊維糸を織糸とする織物であって、織物目付が260g/m2 でカバーファクター98%のもの」であることが、一応、認められ、これを前提に、以下に検討を進めることとする。
本件発明1は、三菱甲1発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違していると認められる。

a.織糸とするマルチフィラメントの炭素繊維糸は、実質的に撚りがない点。(以下、「相違点a」という。)
b.織糸とするマルチフィラメントの炭素繊維糸の繊度が5,200〜20,000デニールである点。(以下、「相違点b」という。)
相違点bについて補足すると、本件発明1は、織物目付と炭素繊維糸の繊度とがW=k・D1/2(但し、W:織物目付(g/m2 )、k:比例定数(1.4〜3.6)、D:炭素繊維糸の繊度(デニール))の式の関係を満たすことを特定事項としており、一方、三菱甲1発明の織物目付が260g/m2 であることから、前記特定事項に関しては、炭素繊維糸の繊度は5,200〜34,000デニールである点において、本件発明1は三菱甲1発明と相違していると導かれ、更に、本件発明1は、炭素繊維糸の繊度が3,000〜20,000デニールであることをも特定事項としていることから、結局、相違点は相違点bということになる。
c.織物の繊維密度が0.76g/cm3以上である点。(以下、「相違点c」という。)

してみると、本件発明1は、三菱甲1発明であるということはできない。

2)本件発明3、4(但し、本件発明2を実質的に引用して記載している発明部分を除く。)について
本件発明3、4は、いずれも、本件発明1を技術的に限定したものであって、本件発明1が、先に「1)」で述べたように、三菱甲1発明であるということができない以上、これら発明も三菱甲1発明であるということはできない。

(3)取消理由cについて

1)本件発明1について
三菱甲1発明は、先に「(2)」の「1)」で述べたように、「集束性がフックドロップ値FD(15)で323mm又は451mmの、扁平で、フィラメント数が12,000本であるマルチフィラメントの炭素繊維糸を織糸とする織物であって、織物目付が260g/m2 でカバーファクター98%のもの」であって、本件発明1は、三菱甲1発明と対比すると、少なくとも、相違点a〜cで相違するものである。
ここで、まず、本件発明1を特定する構成について見ておくと、織糸に関するフックドロップ値FD(15)、撚りの状態、フィラメント数や繊度、織物に関する織物目付、繊維密度やカバーファクターだけについて注目しても、例えば、撚りの状態を変更しようとすれば、特別な工夫をしない限り、典型的にはフックドロップ値FD(15)や繊維密度やカバーファクターは変わるものであり、織糸の繊度を変更すれば、同様に織物目付や織物の繊維密度も変わるものであり、また、別の視点から見ると、織物目付を変更しようとすれば、織糸のフィラメント数や繊度を変更することは、本件の優先権主張日当時における常套手段であって、結局、上で挙げた構成は、程度の違いはあるものの、1つの構成の変更は他の構成に影響を与えるものといえる。そして、このことは、三菱甲1発明においてもいえることである。
そこで、相違点a〜cについてみると、三菱甲1〜8を見ても、三菱甲1発明においてこれら相違点が容易に設計し得るとする理由は見当たらない。また、仮に、容易に設計し得たとしても、先に述べたことから明らかなように、この相違点に係る構成、即ち織糸の撚りの状態や繊度、織物の繊維密度、の設計は、三菱甲1発明における織糸に関するフックドロップ値FD(15)やフィラメント数、織物に関する織物目付やカバーファクターに影響を与えるものであって、本件発明1に相当する補強織物が結果的に得られているとすることはできない。特に相違点cについて見れば、そもそも、三菱甲1発明において、その繊維密度を0.76g/cm3以上とする理由は見当たらないものである。
ここで、念のために、三菱甲1、3〜8の記載を細かに見ていくと、先に「(1)」で摘示したア〜キによれば、三菱甲1には炭素繊維に関する事項が、三菱甲3には緯糸が炭素繊維である織物からなるプリプレグに係る発明が、三菱甲4には経糸又は緯糸の何れか一方に炭素繊維糸条を用いた織物から構成される樹脂補強材に係る発明が、三菱甲5には炭素繊維糸条6を複数本並行に配列してなる糸条群aからなる経糸と補助糸としての緯糸8とからなる平織物に係る発明が、三菱甲6にはポリアミド、ポリブチレンテレフタレート及びポリエーテルエーテルケトンに関する事項が、三菱甲7には炭素繊維織物の製織におけるよこ糸供給方法に係る発明が、それぞれ記載され、更に、三菱甲8は、記載ク-1及び2によれば、平成6年3月8日以前から販売されていた炭素繊維につき、そのフックドロップ値FD(15)及びトウ幅及びトウ厚みを求める実験報告書であることが認められるが、やはり、相違点が容易に設計し得るとする理由は見当たらないし、仮に、容易に設計し得たとしても、本件発明1に相当する補強織物が結果的に得られているとすることはできない。
してみると、本件発明1は、三菱甲2又は8を見ても、三菱甲1発明と三菱甲1、3〜7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

2)本件発明2について
本件発明2は、三菱甲1発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違していると認められる。

a’.織糸とするマルチフィラメントの炭素繊維糸は、実質的に撚りがない点。(以下、「相違点a’」という。)
b’.繊度が4,200〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸を織糸とする点。(以下、「相違点b’」という。)
なお、相違点b’は、先に「1)」で相違点bを認定したのと同様の手法により認定されるものである。
d’.補助糸を用いて製織された一方向性の織物である点。(以下、「相違点d’」という。)
e’.織物厚みが0.07〜0.3mmである点。(以下、「相違点e’」という。)

そこで、検討するに、本件発明2を特定する構成も、先に「1)」で述べたのと同様の理由で、程度の違いはあるものの、1つの構成の変更は他の構成に影響を与えるものである。
そして、相違点a’、b’、d’、e’についてみると、三菱甲1〜8を見ても、三菱甲1発明においてこれら相違点が容易に設計し得るとする理由は見当たらない。また、仮に、容易に設計し得たとしても、本件発明1に相当する補強織物が結果的に得られているとすることはできない。
してみると、本件発明2は、三菱甲2又は8を見ても、三菱甲1発明と三菱甲1、3〜7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

3)本件発明3、4、10〜17(但し、本件発明10〜17については、本件発明5を実質的に引用して記載している発明部分は除く。)について
本件発明3、4、10〜17は、いずれも、本件発明1又は2を技術的に限定したものであって、本件発明1、2が、先に「1)」及び「2)」で述べたように、三菱甲1発明と三菱甲1、3〜7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできない以上、これら発明も容易に発明をすることができたということはできない。

(4)取消理由dについて
西田甲1には、記載ケ-1、2によれば、「撚り数0.8回/mで、単糸数3,000本で、かつ、繊度1,800デニールのマルチフィラメントの炭素繊維糸を経糸および緯糸として組織された目付140g/m2 の織物を、偏平化処理して、厚み0.23mm、カバーファクター約96%とした補強炭素繊維織物に関する発明」が記載され、記載ケ-3によれば、目付は偏平化処理の前後で変わることのないことがうかがえ、更に、撚り数についても、該偏平化処理の前後で大きく変動することのないと見られることから、結局、西田甲1には、「扁平であって撚り数0.8回/mで、単糸数3,000本で、かつ、繊度1,800デニールのマルチフィラメントの炭素繊維糸が経糸および緯糸として組織された目付140g/m2 、厚み0.23mm、カバーファクター約96%の補強炭素繊維織物に関する発明」(以下「西田甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
ここで更に検討すると、本件発明1における「補強炭素繊維織物の厚み」につき、訂正後明細書の段落【0052】には、JIS R7602に準拠して測定した値であることが記載されているのに対し、西田甲1発明における「補強炭素繊維織物の厚み」が如何なる手段によって測定されたかについては西田甲1に記載はないものの、西田甲1が我が国の特許文献であることを考慮すると、JIS R7602に概ね則して測定した値であると解するのが自然であるから、本件発明1における「補強炭素繊維織物の厚み」と西田甲1発明における「補強炭素繊維織物の厚み」との技術的意味は一致するものといえる。そして、西田甲1発明における補強炭素繊維織物の厚みが0.23mmで目付が140g/m2 であること、及び訂正後明細書に記載の「【0052】ここで、織物の繊維密度とは、次式で定義される値をいう。 織物の繊維密度(g/m3 )=[織物目付(g/m2 )]/[織物厚さ(mm)]」を参照すれば、西田甲1発明における補強炭素繊維織物の繊維密度は0.61g/cm3と算出される。
更に、西田甲1発明における補強炭素繊維織物の目付が140g/m2 で、織物を構成する炭素繊維糸の繊度が1,800デニールのマルチフィラメントのあることから、西田甲1発明における、本件発明1を特定するkは「3.3」と算出される。
そこで、本件発明1と西田甲1発明とを対比すると、本件発明1における「実質的に撚りがないマルチフィラメントの炭素繊維糸」につき、訂正後明細書には「【0040】また、上記強化繊維マルチフィラメント糸からなる織糸には、実質的に撚りがないことが必要である。ここで「実質的に撚りがない」とは、糸長1m当たりに1ターン以上の撚りがない状態をいう。」とあることから、西田甲1発明における「撚り数0.8回/mのマルチフィラメントの炭素繊維糸」は、本件発明1における「実質的に撚りがないマルチフィラメントの炭素繊維糸」に対応していると認められ、結局、本件発明1は、西田甲1発明に対し、少なくとも、以下の点で相違していると認められる。

A.織糸とするマルチフィラメントの炭素繊維糸のフックドロップ値FD(15)は、20〜800mmの範囲のものである点。(以下、「相違点A」という。)
B.織糸とするマルチフィラメントの炭素繊維糸のフィラメント数が5,000〜24,000本である点。(以下、「相違点B」という。)
C.織糸とするマルチフィラメントの炭素繊維糸の繊度が3,000〜20,000デニールである点。(以下、「相違点C」という。)
D.織物の繊維密度が0.76g/cm3 以上である点。(以下、「相違点D」という。)

してみると、本件発明1は、西田甲1発明であるということはできないし、他に、西田甲1に記載された発明であるとする理由は見当たらない。

(5)取消理由eについて

1)本件発明1について
本件発明1は、西田甲1発明と対比すると、先に「(4)」で述べたように、少なくとも、相違点A〜Dで相違するものである。
そこで、検討するに、本件発明1を特定する構成は、先に「(3)」の「1)」で述べたように、程度の違いはあるものの、1つの構成の変更は他の構成に影響を与えるものであり、このことは、西田甲1発明においてもいえることである。
そして、相違点A〜Dについてみると、西田甲2〜10を見ても、西田甲1発明においてこれら相違点が容易に設計し得るとする理由は見当たらないし、また、仮に、容易に設計し得たとしても、本件発明1に相当する補強織物が結果的に得られているとすることはできない。
してみると、本件発明1は、西田甲1発明と西田甲2〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできないし、また、他に、西田甲1〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとする理由も見当たらない。
念のために、西田甲2〜10の記載を細かく見ていくと、先に「(1)」で摘示したキ、コ、サ〜ス、ソ〜チによれば、西田甲2には市販炭素繊維製品及びFRPの母材樹脂に関する事項が、西田甲3には低融点ポリマー糸を経糸とし炭素繊維を緯糸とする平織物であって、炭素繊維が幅方向に互いに並行かつシート状に配列され、その配列が低融点ポリマー糸によつて保持されているプリプレグ素材に係る発明が、西田甲4にはサイジング剤を含有した無撚炭素繊維束に係る発明が、西田甲5には炭素繊維からなる薄地織物に係る発明が、西田甲7炭素繊維からなるたて糸と、幅該たて糸に対して斜めに延びている、炭素繊維からなるよこ糸とを有する補強繊維織物に係る発明が、西田甲8には各種樹脂の性質に関する事項が、西田甲9には炭素繊維織物の製織におけるよこ糸供給方法に係る発明が、そして、西田甲10には線条体の巻取り係る発明が記載されている。また、西田甲6には、記載セ-1〜3よれば、ポリエーテルエーテルケトンからなる繊維と補強繊維とを組織してなる繊維強化熱可塑性樹脂成形用材料に係る発明において、「扁平なマルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸とする織物であって、該たて糸は前記炭素繊維糸と繊維状ポリエーテルエーテルケトンが積層されてなる繊維強化熱可塑性樹脂成形用材料」に係る技術が記載され、更に、記載セ-4を参照すれば、該技術において炭素繊維糸のフィラメント数が3,000本のものを使用するのは設計的な事項と認められることから、結局、西田甲6には「扁平でフィラメント数が3,000本であるマルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸とする織物であって、該たて糸は前記炭素繊維糸と繊維状ポリエーテルエーテルケトンが積層されてなる繊維強化熱可塑性樹脂成形用材料に関する発明」(以下「西田甲6発明」という。)が記載されていると認められるが、やはり、相違点が容易に設計し得るとする理由は見当たらないし、仮に、容易に設計し得たとしても、本件発明1に相当する補強織物が結果的に得られているとすることはできない。

2)本件発明2について
本件発明2は、西田甲1発明とを対比すると、少なくとも、以下の点で相違していると認められる。

A’.織糸とするマルチフィラメントの炭素繊維糸のフックドロップ値FD(15)は、20〜800mmの範囲のものである点。(以下、「相違点A’」という。)
B’.織糸とするマルチフィラメントの炭素繊維糸のフィラメント数が5,000〜24,000本である点。(以下、「相違点B’」という。)
C’.織糸とするマルチフィラメントの炭素繊維糸の繊度が3,000〜20,000デニールである点。(以下、「相違点C’」という。)
E’.補助糸を用いて製織された一方向性の織物である点。(以下、「相違点E’」という。)
F’.織物厚みが0.07〜0.3mmである点。(以下、「相違点F’」という。)
(以下、「相違点F’」という。)

そこで、検討するに、本件発明2を特定する構成も、先に「(3)」の「1)」で述べたのと同様の理由で、程度の違いはあるものの、1つの構成の変更は他の構成に影響を与えるものである。
そして、相違点A’〜C’、E’、F’についてみると、西田甲2〜10を見ても、西田甲1発明においてこれら相違点が容易に設計し得るとする理由は見当たらない。また、仮に、容易に設計し得たとしても、本件発明2に相当する補強織物が結果的に得られているとすることはできない。
してみると、本件発明2は、西田甲1発明と西田甲2〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできないし、また、他に、西田甲1〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとする理由も見当たらない。

3)本件発明5について
西田甲6発明は、先に「1)」で述べたように、「扁平でフィラメント数が3,000本であるマルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸とする織物であって、該たて糸は前記炭素繊維糸と繊維状ポリエーテルエーテルケトンが積層されてなる繊維強化熱可塑性樹脂成形用材料に関する発明」であって、本件発明1は、西田甲6発明と対比すると、少なくとも、以下の点で相違するものである。

G”.たて糸とよこ糸の少なくとも一方は炭素繊維糸が複数積層されてなる点。(以下、「相違点G”」という。)

そこで検討すると、西田甲1には西田甲1発明が記載され、また、西田甲2〜5、7〜10には、先に「1)」で述べた発明や事項が記載されているが、これらから、相違点G”が容易に為し得たとする理由は見当たらない。
してみると、本件発明5は、西田甲6発明と西田甲1〜5、7〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたということはできないし、また、他に、西田甲1〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたとする理由も見当たらない。

4)本件発明3、4、6、7、9〜18について
本件発明3、4、6、7、9〜18は、いずれも、本件発明1、2又は5を技術的に限定したものであって、本件発明1、2及び5が、先に「1)」〜「3)」で述べたように、西田甲1〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたといえない以上、これら発明も容易に発明をすることができたということはできない。

(6)まとめ
取消理由a、c、d及びeは、以上のことから理由はない。

6.本件発明8について
ここでは、先に「4-2-1」の「(2)」で述べた「異議申立人三菱レイヨン株式会社や西田悦男の証拠方法を根拠に、特許出願の際独立して特許を受けることができないとはいえない」ことの妥当性について触れる。
本件発明8は、本件発明1、2又は5を実質的に引用して記載している各発明部分からなるものである。それに対し、三菱甲1発明は、先に「5-2-2」、「(2)」の「1)」で述べたように、優先権主張日前に日本国内において公然と実施をされたもので、また、西田甲1又は6には、先に「5-2-2」、「(5)」の「1)」で述べたように、西田甲1発明又は西田甲6発明が記載され、更に、三菱甲1、3〜7又は西田甲2〜5、7〜10には、先に「(3)」の「1)」又は「(5)」の「1)」で述べたように、記載が認められるものである。

6-1.いわゆる新規性違反について

6-1-1.本件発明1又は2を実質的に引用して記載している本件発明8の発明部分(以下、「本件発明8部分A」という。)について
本件発明1又は2が三菱甲1発明又は西田甲1発明でないことは、先に「5-2-2」の「(2)」〜「(4)」で検討したことから明らかであって、そうである以上、本件発明8部分Aが三菱甲1発明又は西田甲1発明でないことも明らかであり、他に、三菱甲1、3〜7又は西田甲1〜10に記載された発明であるとする理由は見当たらない。
以上のことは、三菱甲2又は8を見ても同様である。

6-1-2.本件発明5を実質的に引用して記載している本件発明8の発明部分(以下、「本件発明8部分B」という。)について
本件発明8部分Bが西田甲6発明でないことは、先に「5-2-2」、「(5)」の「3)」で検討したことから明らかであって、そうである以上、本件発明8部分Bが西田甲6発明でないことも明らかである。
また、本件発明5は、三菱甲1発明とを対比すると、少なくとも、「たて糸とよこ糸の少なくとも一方は炭素繊維糸が複数積層されてなる点」(以下、「相違点ア」という。)で相違しているから、本件発明5は三菱甲1発明であるということはできず、そうである以上、本件発明8部分Bは三菱甲1発明であるということはできない。
また、本件発明8部分Bが三菱甲1、3〜7又は西田甲1〜10に記載された発明であるとする理由は見当たらない。
以上のことは、三菱甲2又は8を見ても同様である。

6-2.いわゆる進歩性違反について

6-2-1.本件発明8部分Aについて
本件発明1又は2は、先に「5-2-2」、「(3)」の「1)」及び「2)」で述べたように、三菱甲1発明と三菱甲3〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、更に、三菱甲1、西田甲1〜10に記載された発明を加味しても、同様であって、そうである以上、本件発明8部分Aが同じく容易に発明をすることができたということはできない。
また、本件発明1又は2は、先に「5-2-2」、「(5)」の「1)」及び「2)」で述べたように、西田甲1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、更に、三菱甲1、3〜7に記載された発明を加味しても、同様であって、そうである以上、本件発明8部分Aが同じく容易に発明をすることができたということはできない。
以上のことは、三菱甲2又は8を見ても同様である。

6-2-2.本件発明8部分Bについて
本件発明5は、先に「6-1-2」で述べたように、三菱甲1発明とを対比すると、少なくとも、相違点アで相違しているが、三菱甲1、3〜7に記載された発明に基づいて相違点アが容易に為し得たとする理由は見当たらず、そうである以上、本件発明8部分Bが三菱甲1発明と三菱甲1、3〜7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができないことは明らかである。
また、本件発明5は、先に「5-2-2」、「(5)」の「3)」で述べたように、西田甲1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず、そうである以上、本件発明8部分Bが同じく容易に発明をすることができたということはできない。
また、他に、三菱甲1、3〜7や西田甲1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする理由は見当たらない。
以上のことは、三菱甲2又は8を見ても同様である。

7.通知された取消理由の妥当性について
通知された取消理由は、先に「3」でその概要を述べたとおりのものであるが、平成16年8月25日にされた訂正請求が先に「4」で述べたように認められたことなどから、その妥当性は欠いたものとなっている。

8.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
補強織物とその製造方法および製造装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸を織糸とし、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、織物の繊維密度が0.76g/cm3以上で、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とする補強織物。
W=k・D1/2
但し、W:織物目付(g/m2)
k:比例定数(1.4〜3.6)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【請求項2】 集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸またはよこ糸とし、補助糸を用いて製織された一方向性の織物であって、織物厚みが0.07〜0.3mm、織物目付が100〜320g/m2で、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とする補強織物。
W=k・D1/2
但し、W:織物目付(g/m2)
k:比例定数(0.9〜4.0)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【請求項3】 前記マルチフィラメントの炭素繊維糸の糸厚みが0.05〜0.2mm、糸幅/糸厚み比が30〜150である、請求項1または2の補強織物。
【請求項4】 前記マルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸およびよこ糸とする織物であって、織物厚みが0.1〜0.4mm、織物目付が100〜300g/m2である、請求項1ないし3のいずれかに記載の補強織物。
【請求項5】 集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸とよこ糸の少なくとも一方とする織物であって、該たて糸とよこ糸の少なくとも一方は前記炭素繊維糸が複数積層されてなり、織物厚みが0.1〜0.6mm、織物目付が200〜500g/m2で、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とする補強織物。
W=k・D1/2
但し、W:織物目付(g/m2)
k:比例定数(2.0〜6.0)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【請求項6】 請求項1ないし5のいずれかに記載の補強織物の複数枚を積層し、ステッチ糸を用いて一体に縫合してなるプリフォーム。
【請求項7】 請求項1ないし5のいずれかに記載の補強織物の少なくとも1枚と他の補強織物とを積層し、ステッチ糸を用いて一体に縫合してなるプリフォーム。
【請求項8】 前記ステッチ糸による縫合が単環縫いによって行われている、請求項6または7に記載のプリフォーム。
【請求項9】 前記ステッチ糸の引張破断伸度が補強織物のマルチフィラメントの炭素繊維糸の引張破断伸度よりも大きい、請求項6ないし8のいずれかに記載のプリフォーム。
【請求項10】 請求項1ないし5のいずれかに記載の補強織物に30〜70重量%のマトリクス樹脂が含浸されているプリプレグ。
【請求項11】 前記マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である、請求項10のプリプレグ。
【請求項12】 前記マトリクス樹脂の硬化または固化状態における引張破断伸度が補強織物のマルチフィラメントの炭素繊維糸の引張破断伸度よりも大きい、請求項10または11のプリプレグ。
【請求項13】 前記マトリクス樹脂が、硬化状態における引張破断伸度が3.5〜10%の熱硬化性樹脂または固化状態における引張破断伸度が8〜200%の熱可塑性樹脂である、請求項10ないし12のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項14】 請求項1ないし5のいずれかに記載の補強織物を含み、かつ、30〜70重量%のマトリクス樹脂を含む繊維強化プラスチック。
【請求項15】 前記マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂である、請求項14の繊維強化プラスチック。
【請求項16】 前記マトリクス樹脂の引張破断伸度が補強織物のマルチフィラメントの炭素繊維糸の引張破断伸度よりも大きい、請求項14または15の繊維強化プラスチック。
【請求項17】 前記マトリクス樹脂が、引張破断伸度が3.5〜10%の熱硬化性樹脂または引張破断伸度が8〜200%の熱可塑性樹脂である、請求項14ないし16のいずれかに記載の繊維強化プラスチック。
【請求項18】 2方向性補強織物からなる、少なくとも一枚の前記請求項1、3ないし5のいずれかに記載の補強織物を含む補強基材を、該補強織物の織糸の方向が深絞り中心を向く方向に対して斜めの方向となる各々の隅を固定し、固定された補強基材を深絞りにより賦形することを特徴とする、繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、繊維強化複合材料用として優れた特性を発揮する補強織物とその製造方法および製造装置に関し、とくに扁平な強化繊維糸を用いたものに関する。
【0002】
【従来の技術】繊維強化複合材料、とくに繊維強化プラスチック(以下、「FRP」という)には、炭素繊維糸やガラス繊維糸、ポリアラミド繊維糸等を用いて織物の形態にした補強織物が多用されている。中でも、比弾性率が大きく、かつ、比強度が大きい炭素繊維からなる炭素繊維織物は、通常、一般のシャトル織機やレピア織機により製織されており、合成樹脂と複合して所定形状に形成することにより炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」という)等の複合材料に用いる補強基材として多用されている。
【0003】このような補強基材を用いた複合材料は、例えば、CFRPは、その優れた性能を活かして航空機の構造材等に使われ始めているが、さらにCFRPの使用範囲を拡大させるためには、成形のみならず炭素繊維糸や炭素繊維織物の補強基材のコストダウンが大きな課題である。
【0004】炭素繊維糸は、通常その繊度が大きくなる程、プリカーサおよび耐炎化工程や焼成工程での生産性が向上し、安価に製造することが可能となる。
【0005】しかし、通常の補強織物は、強化繊維をほぼ円形断面に集束させた強化繊維糸を用いて織物にしているので、織り込まれた状態においては、たて糸とよこ糸が交錯する交錯部における強化繊維糸の断面が楕円形で、織糸が大きくクリンプしている。特に、太い強化繊維糸を使用した補強織物では、太いよこ糸と太いたて糸が交錯しているのでこの傾向が大きくなる。
【0006】このため、強化繊維糸が大きくクリンプした補強織物では、繊維密度が不均一となって高強度特性を充分に発揮できない。また、太い強化繊維糸を使用した補強織物は、一般に、織物目付や厚みが大きくなるため、プリプレグやFRPを成形するときの樹脂含浸性が悪くなる。
【0007】従って、太い強化繊維糸を製織した補強織物を用いて得られるFRPやCFRPは、樹脂中に存在するボイドが多くなり高い強度特性が期待できない。
【0008】一方、太い強化繊維糸を使用して織物目付を小さくすると、強化繊維糸間に形成される空隙が大きくなる。このため、織物目付の小さい補強織物を用いてFRPやCFRPを成形すると、強化繊維の体積含有率が低くなり、強化繊維糸間に形成される空隙部分に樹脂のボイドが集中的に発生し、高性能な複合材料が得られなくなるという欠点があった。
【0009】このような欠点に対して、特開昭58-191244号公報に、薄くて幅の広い扁平な炭素繊維糸を織った、厚みが0.09mm以下で、織物目付が85g/m2以下の薄地織物とその製造法が開示されている。この薄地織物は、厚みが非常に薄いために、織糸のクリンプが小さく、高い補強効果を発揮し、薄いCFRPの成形には優れた基材である。
【0010】このような扁平な炭素繊維糸を用いた補強織物の製織方法は、炭素繊維糸が必要本数巻かれた糸ビームから供給されるたて糸、あるいはクリールに取り付けられた炭素繊維糸ボビンから供給されるシート状に整列されたたて糸を、綜絖により順次開口させ、この開口にシャトルまたはレピアでよこ糸を間欠的に挿入して織物とする。このとき、たて糸に関しては、前記のようにビームから供給する方法とボビンから直接供給する方法とがあるが、どちらにしても、炭素繊維糸ボビンをゆっくり回転させながら回転軸に直交する方向にたて糸を引き出して解舒させる方法(横取り解舒)、あるいはボビンの軸方向にたて糸を引き出して解舒させる方法(縦取り解舒)の2つの方法が採られている。
【0011】縦取り解舒は、ボビンの軸方向にたて糸を引き出すことから、横取り解舒の場合に比べ、早い速度で瞬間的にたて糸を抵抗なく引き出すことができるという利点がある。但し、縦取り解舒においては、ボビンから1巻き引き出す毎に、たて糸に1回の撚りが掛かってしまう。このため、たて糸は、この撚りが掛かった部分で扁平状態が潰されて部分的に収束することから、たて糸の糸幅が均一な補強織物が得られないという問題がある。
【0012】そこで、横取り解舒させることにより、たて糸に撚りが掛からないようにする製織方法も考えられる。しかし、従来の綜絖においては、たて糸との干渉を少なくするためにメールが縦長形状に形成されている。このため、たて糸は、メールやたて糸密度を揃えるコームによって扁平状態が潰されてしまい、糸幅が均一に拡がった織物が得られないという問題がある。
【0013】一方、よこ糸に関しては、前記開口によこ糸を迅速に供給しなければならず、供給速度をたて糸に比べて一段と速くする必要がある。従って、繊維糸ボビンからたて糸を迅速に解舒させるため、よこ糸は、繊維糸ボビンの軸方向にたて糸を引き出す縦取り解舒の方法が多く用いられているが、撚りが掛かってしまうという問題がある。
【0014】このため、扁平な炭素繊維糸に撚りが掛からないように、よこ糸を横取り解舒させる方法として、特開平2-74645号公報には、よこ糸を巻いたボビンをモータで積極的に回転させ、重力を利用してよこ糸の挿入に必要な長さを貯留させる方法が提案されている。
【0015】しかし、積極的にボビンを回転させるこの方法では、ボビンに巻かれたよこ糸に巻量によって解舒速度を変化させなければならないという問題がある。また、よこ糸の挿入に伴ってモータを間欠回転させることから、モータの起動・停止が頻繁に起こり、特に停止動作の遅れによる弛み等で扁平糸が捩じれてしまうという問題が起こる。
【0016】また、繊維密度を大きく保ちつつたて糸とよこ糸の交錯部における織糸のクリンプを小さくするためには、織糸の繊度を可能な限り大きくするとともに、織糸の厚みを薄くすることが好ましく、たて糸とよこ糸がそれぞれの糸幅とほぼ等しい糸間隔で織物構造をなしていることが望ましい。
【0017】しかし、織糸の繊度が大きくなると糸幅が極端に大きくなり、製織時に扁平状態が潰されて繊維密度が均一な織物が得られないという問題が生じる。また、織糸を極端に薄くすると、糸幅方向の剛性が小さくなって製織時に簡単に扁平状態が潰れてしまうという問題が生じる。
【0018】この場合、織糸の扁平状態を維持させるため、織糸にサイジング剤を付着させておくことが好ましい。但し、多量に付着させると、CFRPの成形の際に樹脂の含浸が阻害され、成形されるCFRPが高い強度特性を発揮できなくなるという問題がある。サイジング剤の好ましい付着量としては、0.1〜1.5重量%である。
【0019】このように、従来は、強化繊維糸の繊度が大きいときには優れた強度特性を有するFRPやCFRPの成形が困難であり、また、扁平な強化繊維糸を用いても、十分に高い繊維密度の補強織物を得ることが困難であり、その提供が望まれていた。さらに、扁平な強化繊維糸から所望の補強織物を製織する際、従来は満足すべき方法や装置もなく、その提供が望まれていた。
【0020】さらにまた、補強織物を複数枚積層して形成したプリフォームに関しても、以下のような問題がある。すなわち、繊維強化用樹脂補強基材と使用される織物は厚さに限界があるために、一定以上の厚さの補強基材とするためには複数枚の織物を積層することによって得るようにしなければならない。各織物の面方向では強化繊維を所定の方向に配向させることができるが、厚み方向に配向させることは出来ず、層間の強度が弱いのが問題である。
【0021】そのような問題に対して、最近3次元織物の開発が盛んに行われているが、コストが高くつくことや、形状が限定されることがあって実用化が困難な状況である。
【0022】また、層間を補強させる目的において、特公平5-49023号公報で織物基材をステッチして強化させる方法が提案されている。しかしながら、通常の補強織物は取扱い性や高い繊維含有率のFRPを得る目的で、目の詰まった状態で織られているので、各織糸は互いにクリンプを有して交錯し合い、動き難い状態になっているし、また、織糸自身の断面も前述の如く強固な織糸の交錯により楕円形に集合されている。また、織物表面は織糸のクリンプにより凹凸形状をなしており、そのような織物を重ね合わせると互いに凹部と凸部が重なり合うので、織糸はまったく動けないようになっている。
【0023】このような補強織物にステッチあるいはミシンなどニードルが突き刺さった際には、織糸を構成する単繊維が移動しにくくて、しかも繊維が強固に集合しているため、繊維が容易に切断されるという問題がある。さらに、強化繊維糸に撚りが付与されたり、各単繊維に交絡が付与されたり、あるいはサイジング剤が強固に付与されている場合には一層切断されやすい。
【0024】繊維損傷に関して、特に多数本のニードルで一斉にステッチする場合においては切断箇所がステッチ方向において同じ位置に集中するために、繊維強化樹脂材料にしたとき弱点部が集中することになるので、低い強度の材料になってしまう問題がある。また、成形工程における積層の合理化を目的に、予めステッチ糸で縫合しておく方法も多く採用されているが、前記と同様の問題がある。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、複合材料用の補強基材として、安価で高い強度特性を発揮し得る補強織物を提供することにある。
【0026】また、本発明の他の目的は、繊度の大きい扁平な強化繊維糸であっても、撚りが掛かることなく、扁平状態を維持して上記補強織物を製織することが可能な、補強織物の製造方法および製造装置を提供することにある。
【0027】また、本発明の他の目的は、上記補強織物を用いた、繊維損傷のない補強基材としてのプリフォームを提供することにある。
【0028】また、本発明の他の目的は、上記補強織物を用いた、安価で高強度の複合材料形成に用いて最適なプリプレグを提供することにある。
【0029】本発明のさらに他の目的は、上記補強織物を用いた、安価で高強度な複合材料を提供することにある。
【0030】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の補強織物は、集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸を織糸とし、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、織物の繊維密度が0.76g/cm3以上で、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とするものからなる。
W=k・D1/2
但し、W:織物目付(g/m2)
k:比例定数(1.4〜3.6)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
また、本発明の補強織物は、集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸またはよこ糸とし、補助糸を用いて製織された一方向性の織物であって、織物厚みが0.07〜0.3mm、織物目付が100〜320g/m2で、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とするものからなる。W=k・D1/2
但し、W:織物目付(g/m2)
k:比例定数(0.9〜4.0)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
さらに、本発明の補強織物は、集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがなく、フィラメント数が5,000〜24,000本、繊度が3,000〜20,000デニールであるマルチフィラメントの炭素繊維糸をたて糸とよこ糸の少なくとも一方とする織物であって、該たて糸とよこ糸の少なくとも一方は前記炭素繊維糸が複数積層されてなり、織物厚みが0.1〜0.6mm、織物目付が200〜500g/m2で、織物目付と前記炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%であることを特徴とするものからなる。
W=k・D1/2
但し、W:織物目付(g/m2)
k:比例定数(2.0〜6.0)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【0031】本発明においてフックドロップ値FD(15)とは、強化繊維マルチフィラメント糸の集束性の程度を表わすもので、図1(a)〜(c)に示す測定装置によって測定した金属フックの自由落下距離をもって表わされるものである。
【0032】すなわち、ボビンに巻かれた強化繊維マルチフィラメント糸のフックドロップ値FD(15)の測定は、ボビンから、解舒撚りが加わらないようにボビンを回転させながら強化繊維マルチフィラメント糸を横取り解舒して長さ1,000mmの強化繊維マルチフィラメント糸101を採取し、その上端を上部クランプ104で装置に固定する。そして、下端に50mg/デニールの荷重をかけた状態で、撚りが加わらないように、また、扁平状態がくずれないように、かつ、掴み間隔が950mmになるように下部クランプ105で鉛直方向に固定する。
【0033】次に、上下端を固定した強化繊維マルチフィラメント糸101の幅方向中央部に、金属フック102(ワイヤー直径:1mm、半径5mm)に綿糸106で重り103を取り付けた重錘(フック102の上端から重り103の上端までの距離:30mm)のその金属フック102を、上部クランプの下端から金属フック102の上端までの距離が50mmになるように引っ掛け、手を離して金属フック102の自由落下距離(上記50mmの位置から、落下位置における金属フック102の上端までの距離)を測定する。金属フック102および綿糸106の重量は極力軽くし、金属フック102、綿糸106および重り103の合計重量、すなわち重錘の重量が15gになるようにしておく。そして、使用するボビンから10個のボビンをランダムに抽出し、1個のボビンに関して10回の測定を行い、n=100の平均値をもってフックドロップ値FD(15)とする。なお、金属フック102が下部クランプ105の位置まで落下してしまう場合もあるが、そのときの自由落下距離は900mmとみなして平均値を計算する。そのためには、下部クランプ105に金属フック102は当たるが綿糸106や重り103は引っ掛らないようにしておく必要があり、図1(c)にこの場合の落下状態を示すように、下部クランプ105の下方に十分な空間を設けておく必要がある。なお、測定は、ボビンから採取した強化繊維マルチフィラメント糸を温度25℃、相対湿度60%の環境下に24時間放置した後、温度25℃、相対湿度60%の環境下で行う。
【0034】織物の強化繊維マルチフィラメント糸(たて糸またはよこ糸)のフックドロップ値FD(15)は、幅1,000mm、長さ1,000mmの織物を3枚抽出し、各織物から、たて糸またはよこ糸を、毛羽が発生しないように、また、撚りが加わらないようにほぐして長さ1,000mmの強化繊維マルチフィラメント糸を採取し、以下、上述した方法によって測定する。ただし、この場合のフックドロップ値FD(15)は、1枚の織物のたて糸またはよこ糸について10回の測定を行い、n=30の平均値をもって表わす。
【0035】本願の基礎とした先の出願(特願平6-65537号)におけるフックドロップ値の測定は、次のようにして行った。すなわち、まず、長さ120cmの扁平な強化繊維マルチフィラメント糸101を、50mg/デニールの初荷重をかけた状態で、糸の両端を撚りが入らないように、また扁平状態が潰れないように鉛直方向に固定する。つぎに、固定されている強化繊維マルチフィラメント糸の上部固定部から10cmの位置で、強化繊維マルチフィラメント糸の幅のほぼ中央部に、金属製ワイヤー直径が1mm、半径が5mmのフック102に3cmの綿糸で重り103を取り付け、フック102の自由落下距離を測定し、糸の場合は、使用するボビンから10個のボビンをランダム抽出し、1個のボビンにつき10回の測定を行い、10回の測定値から値の大きい3つを削除した値のn=70の平均値をフックドロップ値とする。また、織物の場合は、長さ方向に1.3m長さの織物を3枚抽出し、各織物からたて糸またはよこ糸を、毛羽が発生しないように、また撚りが入らないようにほぐし、1枚の織物につきたて糸またはよこ糸について10回の測定を行い、10回の測定値から値の大きい3つを削除した値のn=21の平均値を、たて糸またはよこ糸フックドロップ値とする。なお、ワイヤーおよび綿糸の重量は極力小さくし、ワイヤー、綿糸および重りの合計重量を30gとする。また、試料は24時間、温度が25℃、湿度が60%の室内に放置し、測定は温湿度が各々25℃、60%の室内で行うものとしたもので、これを本明細書中ではFD(30)という。
【0036】集束性の異なる種々の強化繊維マルチフィラメント糸について、フックドロップ値FD(15)とフックドロップ値FD(30)との関係を評価した結果、FD(30)/FD(15)比は2〜4であった。すなわち、本願の基礎とした先の出願におけるフックドロップ値FD(30)100〜1,000mmをフックドロップ値FD(15)に換算すると、25〜500mmとなる。
【0037】このフックドロップ値が大きいほど強化繊維マルチフィラメント糸は開繊、拡幅されやすい。但し大きすぎると、マルチフィラメント糸としての形態保持性がなくなり、織物の製織が困難になるため、大きい方にも限界がある。集束性をフックドロップ値で上記のような範囲にすることにより、織物の形態で織糸の最適な扁平状態が得られ、かつその扁平状態が維持される。
【0038】すなわち、本発明における扁平な強化繊維マルチフィラメント糸の集束性は、フックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲とされる。たとえば炭素繊維糸を用いた補強織物とする場合、一般的に炭素繊維はその製造工程において、切れたフィラメントのローラへの巻き付きによる工程トラブルを防ぐため、エアーをプリカーサの繊維束に吹き付け、フィラメント同士を交絡させて、炭素繊維糸に集束性を付与している。また、サイジング剤の付着量や炭素繊維のフィラメント同士の接着により炭素繊維糸に集束性を付与している。フィラメント同士の交絡度合い、サイジング剤の付着量やサイジング剤による接着の度合いによってこれら集束性の程度が決まるが、フックドロップ値FD(15)で20mm以下となり、集束性の程度が大きすぎると、炭素繊維の集束性が強すぎて製織した織物の織糸をさらに織機上で開繊、拡幅してカバーファクターの大きな織物に加工しても、その効果が上がらない。また、ハンドレイアップ成形やプリプレグ加工の際、織物のたて糸およびよこ糸の幅が拡がることがなく、炭素繊維糸間に形成される空隙に樹脂のボイドが集中的に発生する。また、プリプレグに加工する際に樹脂の含浸性が悪くなってしまい、高性能なFRPが得られない。また、フックドロップ値FD(15)が800mm以上であると、炭素繊維糸の集束性が悪くなり製織中に毛羽が発生し、作業環境が悪くなるばかりかFRPの強度も低下する。
【0039】ここで、フックドロップ値に影響を及ぼすサイジング剤の好ましい付着量は、0.1〜1.5重量%である。サイジング剤付着量が0.1重量%未満であると、扁平状態が維持できにくくなるばかりか、繊維の集束性が悪くて製織時に毛羽が発生しやすく、製織性が低下する。一方1.5重量%を超えると、扁平状態は良好に保てるが、繊維の開繊性が低下し、大きいカバーファクターの織物が得にくい。本発明の補強織物における強化繊維フィラメント糸のフックドロップ値とは、織物からほぐした織糸のフックドロップ値を指し、別の発明である製造方法および製造装置における強化繊維フィラメント糸のフックドロップ値は、使用する糸状のフックドロップ値を指すものである。織糸のフックドロップ値は、製織工程でしごきを受けて製織当初はやや高い値を示すが、経時とともにサイジング剤が再接着し、糸状での値とほぼ同程度の値となる。
【0040】また、上記強化繊維マルチフィラメント糸からなる織糸には、実質的に撚りがないことが必要である。ここで「実質的に撚りがない」とは、糸長1m当たりに1ターン以上の撚りがない状態をいう。つまり、現実的に無撚の状態をいう。
【0041】織糸に撚りがあると、その撚りがある部分で糸幅が狭く収束して分厚くなり、製織された織物の表面に凹凸が発生する。このため、製織された織物は、外力が作用した際にその撚り部分に応力が集中し、FRP等に成形した場合に強度特性が不均一となってしまう。
【0042】このような最適な扁平状態の、実質的に撚りがない織糸からなる補強織物は、織糸の繊度を大きくしても、また繊維密度を大きくしても、各織糸の交錯部におけるクリンプは極めて小さく抑えられ、FRPやCFRPにした際に高い強度特性が得られる。織糸の繊度を上げられることから、織糸、ひいては補強織物が、より安価に製造される。
【0043】また、クリンプが極めて小さく抑えられるので、織物目付を高く設定でき、かつ、織糸の扁平状態を確保した状態にてカバーファクターを100%近くに設定することが可能となる。したがって、FRP等において、繊維含有率を高く設定できるとともに、織糸間の樹脂リッチな部分を極めて小さく抑えることができ、高強度でかつ均一な強度特性を有する複合材料が得られる。
【0044】さらに、織物の形態で各織糸が扁平な状態に維持されているから、樹脂の含浸性が極めてよい。したがって、一層均一な特性の複合材料が得られ、目標とする強度特性が容易に得られる。
【0045】このような本発明に係る補強織物においては、上記強化繊維マルチフィラメント糸の糸厚みが0.05〜0.2mm、糸幅/糸厚み比が30〜150であることが好ましい。糸厚みが上記範囲未満であると、薄すぎて扁平糸の形態を保持するのが困難となり、上記範囲を越えると、クリンプを小さく抑えることが困難となる。また、糸幅/糸厚み比が30未満であると、扁平糸の形態の維持と同時にクリンプを抑えることの両方を同時に達成することが難しくなる。一方、150を超えると、製織時に扁平状態が潰されやすい。また、糸幅としては、4〜16mmの範囲程度が製織しやすい。
【0046】本発明に係る補強織物は、各種形態に製織できる。各形態の織物においては、織物厚みおよび織物目付は以下のような範囲とする。
【0047】前記扁平な強化繊維マルチフィラメント糸をたて糸およびよこ糸とする織物とする場合には、織物厚みを0.1〜0.4mm、織物目付を100〜300g/m2とする(織物-1)。
【0048】また、扁平な強化繊維マルチフィラメント糸をたて糸またはよこ糸とし、補助糸を用いて製織された一方向性の織物とする場合には、織物厚みを0.07〜0.3mm、織物目付を100〜320g/m2とする(織物-2)。
【0049】上記織物あるいは一方向性織物において、強化繊維マルチフィラメント糸は炭素繊維糸であり、該炭素繊維糸のフィラメント数については5,000〜24,000本、繊度は3,000〜20,000デニールとする。
【0050】上記織物-2における補助糸としては、繊度が2,000デニール以下の細い繊維からなる扁平な織糸を使用することが好ましく、さらに好ましくは50〜600デニールである。補助糸は、繊度が大きいとクリンプが大きくなり、また、繊度が小さいと製織や取扱いに際して切断し易い。この補助糸は、並行する扁平な織糸を一体に保持することを目的に使用され、炭素繊維やガラス繊維などの無機繊維、ポリアラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維などの有機繊維が使用でき、種類に関しては特に限定はない。
【0051】また、扁平な強化繊維マルチフィラメント糸をたて糸とよこ糸の少なくとも一方とする織物であって、該たて糸とよこ糸の少なくとも一方が前記炭素繊維の強化繊維マルチフィラメント糸が複数積層されてなる織物とする場合には、織物厚みを0.1〜0.6mm、織物目付を200〜500g/m2とする(織物-3)。扁平な織糸であるため、このように複数積層した状態で織成しても、クリンプは小さく抑えられる。積層により、織物の繊維密度を高めることができる。
【0052】ここで、織物の繊維密度とは、次式で定義される値をいう。
織物の繊維密度(g/m3)=[織物目付(g/m2)]/[織物厚さ(mm)]
なお、織物目付(g/m2)および織物厚さ(mm)は、それぞれJIS R7602に準拠して測定した値である。
【0053】この織物において、強化繊維マルチフィラメント糸は炭素繊維糸であり、該炭素繊維糸のフィラメント数は3,000〜24,000本、繊度は1,500〜20,000デニールとする。
【0054】上述の如く、繊度が3,000〜20,000デニール、あるいは1,500〜20,000デニールの太い糸を用いても、上記最適な織物目付の範囲とすることにより、扁平糸の扁平状態が潰されたり、織り目が粗くなりすぎたり、樹脂の含浸性が悪化したりすることを防止できる。
【0055】なお、強化繊維糸が炭素繊維糸の場合、使用する炭素繊維扁平糸の特性として、引張破断伸度が大きく、引張破断強度が高い必要があり、引張破断伸度は1.5%以上、引張破断強度は200kg・f/mm2以上、引張弾性率は20,000kg・f/mm2以上であることが望ましい。
【0056】上記のような各種形態の本発明に係る補強織物は、たとえば平組織されている。また、扁平なフックドロップ値の大きな織糸を用い、クリンプが極めて小さいことから、大きなカバーファクターの達成が可能である。
【0057】たとえば、前述の織物-1の形態とする場合で、かつ、扁平な強化繊維マルチフィラメント糸が炭素繊維糸からなる場合、織物目付と炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%である構成とする。
W=k・D1/2
但し、W:織物目付(g/m2)
k:比例定数(1.4〜3.6)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【0058】また前述の織物-2の形態とする場合であって、かつ、扁平な強化繊維マルチフィラメント糸が炭素繊維糸からなる場合、織物目付と炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%である構成とする。
W=k・D1/2
但し、W:織物目付(g/m2)
k:比例定数(0.9〜4.0)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【0059】さらに前述の織物-3の形態とする場合であって、かつ、扁平な強化繊維マルチフィラメント糸が炭素繊維糸からなる場合、織物目付と炭素繊維糸の繊度とが次式の関係を満たし、かつ、カバーファクターが95〜100%である構成とする。
W=k・D1/2
但し、W:織物目付(g/m2)
k:比例定数(2.0〜6.0)
D:炭素繊維糸の繊度(デニール)
【0060】上記各種形態の補強織物において、カバーファクターが95%より小さくなると、炭素繊維糸相互間に繊維が存在しない空隙部が大きくなり、プリプレグやCFRPを製造したとき、この空隙部が樹脂リッチ部となるのみならず、この空隙部に樹脂が偏在して充填されてボイドが集中する。このため、このようなプリプレグやCFRPは、応力が作用したとき、樹脂リッチ部やボイドが集中した部分から破壊が進み好ましくない。
【0061】ここで、カバーファクターCfとは、織糸間に形成される空隙部の大きさに関係する要素で、織物上に面積S1の領域を設定したとき、面積S1内において織糸に形成される空隙部の面積をS2とすると、次式で定義される値をいう。
カバーファクターCf=[(S1-S2)/S1]×100
【0062】本発明の補強織物は、薄い扁平な強化繊維マルチフィラメントからなるたて糸やよこ糸を用いている。従って、目抜け度の小さな、すなわちカバーファクターが大きな織物となる。このようなカバーファクターの大きな補強織物を用いてプリプレグやFRPを成形すると、均一な成形品が得られ、樹脂中にボイドが入ったり、応力が集中するような繊維分布むらが発生しない。
【0063】なお、上記のような扁平糸自身の作成方法としては、たとえば、強化繊維糸の製造工程において、複数の強化繊維からなる繊維束をロール等で所定の幅に拡げ、扁平な形状にしてそのまま保持するか、あるいは元に戻らないようにサイジング剤等で形態を保持させればよい。とくに、扁平形状を良好に保持するためには、扁平糸に0.1〜1.5重量%程度の小量のサイジング剤を付着させておくことが好ましい。
【0064】上記のような本発明に係る補強織物は、プリフォームやプリプレグ、さらにはFRPやCFRPの成形に供され、補強基材として優れた特性を発揮する。
【0065】本発明に係るプリフォームは、前記した補強織物の複数枚を積層し、ステッチ糸を用いて一体に縫合したもの、あるいは、前記した補強織物の少なくとも1枚と他の補強織物とを積層し、ステッチ糸を用いて縫合したものからなる。この補強織物は、扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸を織糸としており、かつ集束性が低いので(フックドロップ値が大きいので)、開繊、拡幅されやすく、ニードル等が突き刺さっても各単繊維は容易に逃げることができる。
【0066】織糸に僅かな撚りが存在すると、その撚部においては、織糸内で糸幅方向に横断する繊維が存在して繊維を強固に集合させている。したがって、その部分にステッチやミシンのニードルが突き刺さると、各単繊維は逃げ難いためにニードルとの抵抗で単繊維が切断されるおそれがある。
【0067】本発明においては、上述の如く糸厚みに比べ糸幅の大きい扁平糸を用いているので、必然的に、織糸の配列ピッチが大きくかつ薄い補強織物となる。したがって、たて糸とよこ糸の交錯部での拘束力が弱いので、先端が鋭利なニードルを突き刺した際、強化繊維糸自身も動き易くて逃げるし、かつ、強化繊維糸は無撚でしかも扁平状であるため、しかもフックドロップ値が高いため、繊維自身も動き易く、繊維損傷を起こすようなことがない。また、織糸の配列ピッチを大きくとっても、織糸が扁平で糸幅が大きく、かつ、前述の如くクリンプを極めて小さく抑えることができるので、95〜100%の高いカバーファクターを達成できる。
【0068】高いカバーファクターによって高い繊維含有率の複合材料が得られ、樹脂リッチ部が発生することを防止でき、高い強度、弾性率の複合材料が得られる。また、ステッチしても繊維損傷がないため、均一で高い強度特性を確保できる。
【0069】通常の補強織物基材は積層枚数が1枚であっても、ステッチする場合基材繊維の損傷は避け難いし、さらに積層体となると基材表面が織糸間隔を単位として凹凸している。その様な織物を数枚積層すると、織物基材同士の接触面で凹凸が重なり合い、織糸は殆ど動けない状態となるので、ニードルが貫通する際、高い抵抗となって、ニードル自身が壊れたり、基材の繊維損傷、ステッチ糸の切断が多く発生する問題があって、余り厚い積層体をステッチすることができない。
【0070】しかし、本発明のプリフォームにおいては、そのような問題点を有しないので、補強織物の積層枚数を多くすることが可能である。積層体の厚みの限度としては10mm程度までニードルや基材繊維が損傷することなくステッチ可能である。
【0071】補強織物の積層構成としては、任意の構成を採ることができる。たとえば、各補強織物の織糸が同一方向に配列された単一積層構成としてもよく、織糸の配列方向が0°/90°の補強織物層および±45°の補強織物層を含む構成としてもよい。また、積層された各補強織物が擬似等方積層構成をなしていると、複合材料を形成した際より均一な特性とできる。擬似等方性に積層させる場合には、厚み方向中心に対して鏡面対称になるように積層させることが好ましい。そうすることにより、繊維強化樹脂材料の硬化板にした際に反りが発生しないからである。
【0072】とくに強化繊維が炭素繊維であるCFRPは異方性が極めて高い材料であるため、繊維軸方向には強いが、繊維軸方向から外れると急激に強度、弾性率が低くなる。したがって、この炭素繊維織物を使用して、繊維配向が0°、90°方向の織物と、バイアスに裁断した繊維配向が+45°、-45°方向の織物を交互に積層すると、0°、90°、+45°、-45°の繊維軸方向の特性が同じなので、FRPの全ての方向が同じ強度、弾性率となり、特に航空機の構造材料として好適である。
【0073】ステッチ糸の縫合方法としては、特に限定されず、たとえば単環縫いが適用できる。
【0074】また、ステッチ糸としては、炭素繊維糸、ガラス繊維糸、ポリアラミド繊維糸などが挙げられ、なかでも引張破断伸度の大きい糸が好ましい。とくに、ステッチ糸の引張破断伸度が補強織物の強化繊維マルチフィラメント糸の引張破断伸度よりも大きいことが好ましい。引張破断伸度の大きいステッチ糸を用いることにより、繊維強化樹脂材料に引張応力が作用しても、強化繊維マルチフィラメント糸からなる織糸が先に応力を受け持つことになるから、ステッチ糸が切断されたり、ステッチ糸の締め付けによる織糸の応力集中が避けられる。
【0075】ステッチ糸の繊度としては、ステッチの目的にもよるが、200〜2,000デニールのものが好ましく、これを5〜20mmのピッチで繰り返し貫通させながら縫合することが好ましい。特に層間を強化させる場合においては、1,000〜2,000デニールの太い繊度が好ましく、成形での積層工程を簡略化させる目的で縫合させる場合には200〜600デニールの細い繊度のステッチ糸であってもよい。
【0076】複数本のニードルでもって一斉にステッチさせる場合のニードル間隔としては、2〜50mm程度が好ましい。また、1本のニードルで直線あるいは曲線に縫い合わしても良く、縫い方としては前述の如く単環縫いであっても、本縫いであってもよい。このとき、ニードルは、先端が鋭利で、しかも細いものが繊維損傷をより少なくする上で好ましい。
【0077】上述したように、本発明のプリフォームはニードルによる損傷がなく、優れた基材であるが、ステッチする際のステッチ糸の張力が高いと単繊維が移動し易いから、貫通部においてその張力により強化繊維の配向を乱す問題が生じるおそれがある。このような問題に対しては、補強基材の積層において、最外層に薄くて目ずれし難いガラスクロスや薄いガラス繊維のサーフェスマットの配置、あるいは本発明の織物基材で、さらにたて糸とよこ糸の交点を接着剤で目どめした補強織物を配置することにより、上記のような繊維配向の乱れを防ぐことができる。
【0078】本発明に係るプリプレグは、前述の本発明の補強織物に30〜70重量%のマトリクス樹脂を含浸したものからなる。より好ましい樹脂量は35〜45重量%である。
【0079】使用するマトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、織物に含浸された状態ではBステージである。また、マトリクス樹脂として、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ビスマレイミド樹脂等の熱可塑性樹脂も使用することができる。
【0080】このようなプリプレグを用いた繊維強化複合材料におけるマイクロクラックの発生を防ぐためには、マトリクス樹脂の硬化または固化状態における引張破断伸度を補強織物の強化繊維マルチフィラメント糸の引張破断伸度よりも大きくすることが効果的である。たとえば、マトリクス樹脂が、硬化状態における引張破断伸度が3.5〜10%の熱硬化性樹脂または固化状態における引張破断伸度が8〜200%の熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0081】また、本発明に係るFRPは、前述の本発明の補強織物を含み、かつ、30〜70重量%のマトリクス樹脂を含むものからなる。マトリクス樹脂としては、前記と同様の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂が使用できる。また、マトリクス樹脂の引張破断伸度が補強織物の強化繊維マルチフィラメント糸の引張破断伸度よりも大きいことが好ましく、引張破断伸度が3.5〜10%の熱硬化性樹脂または引張破断伸度が8〜200%の熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0082】プリプレグを用いたFRPは公知の方法で成形することができる。プリプレグを所定の枚数を所定の方向に積層し、マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂の場合は100〜200℃で加熱しながら4〜10kg/cm2の加圧下で樹脂を硬化することによって、熱可塑性樹脂の場合は7〜30kg/cm2の加圧下で樹脂の融点以上に加熱して、樹脂を溶融し冷却することによって成形することができる。
【0083】また、本発明に係る補強織物は、フックドロップ値が高く開繊、拡幅されやすい、扁平な強化繊維マルチフィラメント糸を織糸としているので、FRPを成形する際、織物自身、プリプレグやプリフォーム等の補強基材を型に沿わせる際、各織糸が扁平状態や密な繊維密度を保ちつつ、互いの交差角が容易に変化し、ドレープ性に極めて優れている。
【0084】したがって、この補強織物を含む補強基材は、目開き等を生じることなく、深絞りで容易に所定形状に賦形できる。すなわち、本発明に係る繊維強化プラスチックの製造方法は、2方向性補強織物からなる、少なくとも一枚の前述したいずれかの態様の補強織物を含む補強基材を、該補強織物の織糸の方向が深絞り中心を向く方向に対して斜めの方向となる各々の隅を固定し、固定された補強基材を深絞りにより賦形すること特徴とする方法からなる。
【0085】上記のように固定部分を特定して深絞りすれば、賦形の際に固定部分においても各織糸の交差角を容易に変化させることができ、型へのドレープ性が大幅に向上され、所望の成形が極めて容易に行える。
【0086】前述の本発明の補強織物は、次のような方法により製造できる。すなわち、本発明に係る補強織物の製造方法は、配列された複数本のたて糸間によこ糸を供給して補強織物を製造する方法において、前記よこ糸として、集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mm、好ましくは100〜600mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸を用い、該よこ糸をボビンから横取り解舒し、ガイド手段によってよこ糸をよこ糸供給位置において実質的に水平方向に位置決めするとともに、前記よこ糸の解舒位置とガイド手段との間でたて糸に対する1回のよこ糸供給に必要な長さのよこ糸を保留しつつ、前記よこ糸を緊張状態で前記ガイド手段を通してたて糸間に供給するよこ糸供給工程を含む方法からなる(製造方法-1)。
【0087】また、本発明に係る補強織物の製造方法は、配列された複数本のたて糸間によこ糸を供給して補強織物を製造する方法において、前記たて糸として、集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸を用い、該複数本のたて糸を、その配列方向に実質的に直交する方向に各たて糸の扁平方向を保持するとともに配列方向に所望の密度で引き揃えた後、各たて糸の扁平方向をたて糸配列方向に変換して杼道形成手段に導くたて糸供給工程を含む方法からなる(製造方法-2)。
【0088】また、本発明に係る補強織物の製造方法は、配列された複数本のたて糸間によこ糸を供給して補強織物を製造する方法において、前記たて糸として、扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸を用い、該複数本のたて糸を、その配列方向に実質的に直交する方向に各たて糸の扁平方向を保持するとともに配列方向に所望の密度で引き揃えた後、各たて糸の扁平方向をたて糸配列方向に変換し、該たて糸を、該たて糸を案内する手段上で開繊、拡幅して杼道形成手段に導くたて糸供給工程を含む方法からなる(製造方法-3)。
【0089】この製造方法-3においては、たて糸は、たとえば、たて糸案内手段の揺動により開繊、拡幅される。
【0090】また、上記各製造方法を組み合わせることもできる。たとえば、製造方法-1のよこ糸供給工程および製造方法-2または製造方法-3のたて糸供給工程を含む、補強織物の製造方法としてもよい。
【0091】また、本発明に係る製造方法においては、織物に製織した後にも、織糸の開繊を付加してもよい。すなわち、本発明の補強織物の製造方法は、たて糸とよこ糸の少なくとも一方に扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸を用いて補強織物を製織した後、織物を案内する手段上でたて糸および/またはよこ糸を開繊、拡幅する方法からなる(製造方法-4)。
【0092】この方法においては、たて糸および/またはよこ糸は、たとえば、織物案内手段の揺動により開繊、拡幅される。あるいは、たて糸および/またはよこ糸は、流体噴射手段からの噴射流体により開繊、拡幅される。流体噴射手段を織物面に並行に揺動すると、さらに開繊、拡幅効果を高めることができる。
【0093】上記のような各製造方法により、強化繊維マルチフィラメント糸の集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲にある補強織物が得られる。このとき、前述したように、強化繊維マルチフィラメント糸の糸厚みが0.05〜0.2mm、糸幅/糸厚み比が30以上であることが好ましい。
【0094】上記のような各製造方法は、以下のような製造装置を用いて実施できる。すなわち、本発明に係る補強織物の製造装置は、製織装置の主軸と連動して回転し、集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸からなるよこ糸を巻回したボビンからよこ糸を定速で横取り解舒する引取りローラと、引き出されたよこ糸をよこ糸供給位置において実質的に水平方向に位置決めするガイドローラと、たて糸に対する1回のよこ糸供給に必要な長さのよこ糸を、前記引取りローラとガイドローラとの間で保留しつつ前記ガイドローラに供給するスプリング懸垂機構によるよこ糸保留手段と、前記ガイドローラから送り出されてくるよこ糸を緊張状態に保つ張力付与手段とを含むよこ糸供給手段を備えたものからなる(製造装置-1)。
【0095】また、本発明に係る補強織物の製造装置は、複数のワイヤを有し、集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸からなるたて糸を巻回したボビンから引き出される複数本のたて糸を扁平状態を保持しながら所望の密度に引き揃えるコームと、このコームから送り出されてくる各たて糸の扁平方向を、それぞれ前記コームの複数のワイヤに対して実質的に直交する方向に変換するガイドと、このガイドから送り出されてくる各たて糸に前記変換された方向の姿勢を保ちながら開閉運動を付与するメール形状が横長矩形をした綜絖とを含むたて糸供給手段を備えたものからなる。(製造装置-2)。
【0096】また、本発明に係る補強織物の製造装置は、複数のワイヤを有し、集束性がフックドロップ値FD(15)で20〜800mmの範囲の、扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸からなるたて糸を巻回したボビンから引き出される複数本のたて糸を扁平状態を保持しながら所望の密度に引き揃えるコームと、このコームから送り出されてくる各たて糸の扁平方向を、それぞれ前記コームの複数のワイヤに対して実質的に直交する方向に変換するガイドと、前記変換された方向を保ちながら各たて糸を揺動させて開繊、拡幅するたて糸開繊、拡幅手段と、このたて糸開繊、拡幅手段から送り出されてくる各たて糸に開閉運動を付与する綜絖とを含むたて糸供給手段を備えたものからなる(製造装置-3)。
【0097】上記各製造装置の構成は、適当に組み合わせることができる。すなわち、製造装置-1のよこ糸供給手段と製造装置-2または製造装置-3のたて糸供給手段とを備えた補強織物の製造装置とすることができる。
【0098】さらに、本発明に係る補強織物の製造装置は、たて糸とよこ糸の少なくとも一方が扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸からなる補強織物の製造装置において、織物案内手段の揺動によるたて糸開繊・拡幅手段と、エア開繊・拡幅手段とを備えたものからなる(製造装置-4)。
【0099】上記各装置において、製織前のたて糸開繊、拡幅装置としては、前記ガイドをたて糸配列方向に揺動する機構を付加したもの等が挙げられる。また、製織後の開繊、拡幅手段としては、上記製造装置-4のように、織物案内手段をたて糸配列方向に揺動する手段、あるいは、開繊、拡幅のための流体(たとえばエア)を噴射する流体噴射手段が挙げられる。
【0100】
【実施例】以下に、本発明の望ましい実施例を、図面を参照して説明する。図2ないし図6は本発明の一実施例に係る補強織物の製造装置を示しており、炭素繊維糸からなる織糸を用いて炭素繊維補強織物を製織する装置を示している。この装置は、よこ糸供給装置として、ボビン1、引取りローラ3、テンション装置4、ガイドローラ5〜7、板バネテンション装置8、押板ガイド9及びレピア11等を備えており、たて糸供給装置として、クリール20、コーム21、水平ガイド22、綜絖23及び筬24を備えている。
【0101】先ず、よこ糸供給装置を説明すると、ボビン1は、多数の炭素繊維からなる扁平な炭素繊維マルチフィラメント糸であるよこ糸Twfが巻回され、よこ糸Twfはテンションローラ2を経て引取りローラ3に案内され、引取りローラ3の回転により一定速度で横取り解舒される。
【0102】ここで、テンションローラ2は、ボビン1からよこ糸Twfを解舒するときは上方に位置し、引取りローラ3の回転が停止すると自動的に下方に下がると共に、ブレーキが働いてボビン1の惰性回転が停止する。また、引取りローラ3は、この製織装置の主軸26と連動して回転し、主軸26は駆動モータ25によって回転する。よこ糸Twfの解舒速度は、すなわち引取りローラ3の表面速度は、織機の回転数(rpm)と1回転に必要なよこ糸長さ(m)が判れば容易に決めることができる。
【0103】よこ糸Twfやたて糸Twrとなる炭素繊維マルチフィラメント糸は、炭素繊維の数が5,000〜24,000本で、実質的に撚りがなく、フックドロップ値FD(15)が20〜800mmで、予めサイジング剤などで扁平状に形態保持されて一定のトラバース幅で円筒状の管であるボビン1や後述するクリール20のボビン20a、20bに巻かれている。
【0104】このとき、炭素繊維マルチフィラメント糸は、繊度が3,000〜20,000デニール、糸幅が4〜16mm、厚みが0.05〜0.2mm、糸幅/糸厚み比が30〜150のものを使用する。また、炭素繊維マルチフィラメント織糸として、扁平な単位炭素繊維糸を複数積層したものを使用する場合、単位炭素繊維糸は、撚りがなく、フックドロップ値FD(15)が20〜800mmで、炭素繊維の数が3,000〜24,000本、繊度が1,500〜20,000デニール、糸幅が4〜16mm、厚みが0.05〜0.2mm、糸幅/糸厚み比が30〜150のものとする。
【0105】引取りローラ3から引き出されたよこ糸Twfは、テンション装置4のガイド4aを経て、水平ガイドローラ5、垂直ガイドローラ6、水平ガイドローラ7に案内されて板バネテンション装置8へと導かれる。
【0106】それぞれのガイドローラ5〜7は、直径が10〜20mm程度で、長さが100〜300mm程度のベアリングを内蔵した回転方式が好ましい。直径があまりにも小さいとよこ糸Twfを構成する炭素繊維マルチフィラメント糸が屈曲して単糸切れを起こし易く、また、直径が20mm以上になると回転の惰性が大きくなって始動、停止時の張力変動が大きくなる問題がある。
【0107】また、それぞれのガイドローラ5〜7の長さは、通過するよこ糸Twfが左右または上下方向に移動してガイドローラ5〜7を支持する支持部に接触しない長さが必要である。よこ糸Twfがガイドローラ5〜7の支持部に接触すると、扁平状態が潰れてしまう。
【0108】水平ガイドローラ5およびガイドローラ7は、案内するよこ糸Twfの高さ方向の位置を決め、垂直ガイドローラ6はよこ糸Twfの水平方向の位置を決める。したがって、ガイドローラは、少なくとも水平方向と垂直方向のものが、それぞれ交互に配置されていればよい。
【0109】このとき、水平ガイドローラ5と垂直ガイドローラ6との間および垂直ガイドローラ6と水平ガイドローラ7との間で、よこ糸Twfの扁平面を90°捩じる必要がある。このため、ガイドローラ5、6間及びガイドローラ6、7間の距離は、よこ糸Twfの幅によって異なるが、50mm以上離す必要がある。ガイドローラ間の距離が50mmより小さいと、よこ糸Twfが捩じれたまま垂直ガイドローラ6や水平ガイドローラ7を通過して織り込まれてしまう。また、短い距離でよこ糸を90°捩じると、織糸の両端部に張力が加わり、毛羽が発生する。
【0110】ガイドローラ5〜7は1本であってもよいが、それぞれ2本の組にしてよこ糸TwfをS字状に通過させると、よこ糸Twfに作用する張力が安定し、よこ糸Twfの位置決めを確実に行うことができる。
【0111】テンション装置4は、後述するレピア11による間欠的なよこ糸Twfの挿入に際し、引取りローラ3によって一定速度で解舒されるよこ糸Twfの引取りローラ3と水平ガイドローラ5間における弛みをスプリング4bで吸収させて、よこ糸Twfを常に緊張させておくものである。よこ糸Twfは、スプリング4bで緊張させておかないと、弛んだ際に捩じれてしまい、捩じれたままガイドローラ5〜7を通過して織り込まれてしまう問題が起こる。そして、スプリング4bの下端に設けたガイド4aは、炭素繊維糸の扁平面が水平に案内されるように、横長に配置しておく。
【0112】よこ糸Twfを緊張させておくその他の方法としては、エアの吸引による方法があるが、この方法では吸引中によこ糸Twfが捩じれてしまう問題がある。また、重りによるよこ糸Twfの緊張方法では、張力変動が大きくなり過ぎ、よこ糸Twfを構成する炭素繊維が損傷する問題があり、前記スプリングによる方法が最も簡単で、確実である。
【0113】更に、よこ糸Twfの水平ガイドローラ7の下流側には、よこ糸Twfの張力を均一にさせるテンション装置8が配置されている。このテンション装置8は、幅の広い2枚の板バネ8a、8bでよこ糸Twfを挟み込むことにより、よこ糸Twfの張力を均一に保持するものである。
【0114】本発明の補強織物の製造装置のよこ糸Twf供給方法においては、原理的には、垂直ガイドローラ6によりよこ糸Twfの糸道を決めているが、張力変動やレピア11への引っ掛け動作によりよこ糸Twfの糸道が変わることがある。したがって、よこ糸Twfが幅方向に移動してもよこ糸Twfの端部と干渉する物がないことが必要であり、そのために幅の広い板バネ8a、8bを備えたテンション装置8を用いる。板バネ8a、8bの幅としては、よこ糸Twfの糸幅の5倍以上あればよい。
【0115】押し板ガイド9は、板バネテンション装置8のよこ糸Twfの下流側に配置されており、先端にV字形のガイド面9aが形成された板である。このガイド9は、レピア11への給糸と連動して、織機の回転が伝達されるカム機構を利用して図2に矢印で示した前後方向に駆動される。
【0116】また、押し板ガイド9の下流側近傍には、糸端把持ガイド10が配置されている。糸端把持ガイド10は、図5に示すように、L字形の受け部材10aと図示しない駆動手段によって上下方向に駆動される押圧部材10bとを有している。このガイド10は、レピア11へのよこ糸Twfの給糸が完了するまでの間押圧部材10bが下降して、よこ糸Twfを受け部材10aに押しつけて糸端を把持している。
【0117】したがって、よこ糸Twfは、押し板ガイド9が矢印方向に押し出されて扁平面がV字形のガイド面9aの斜面に案内されて下降すると共に、糸端把持ガイド10も下降し、扁平形態が潰れずにレピア11の先端を横切る結果、図6に示すようなレピア11の爪11aに具合良く引っ掛けられる。
【0118】ここで、通常、よこ糸Twfは、糸端把持ガイド10とガイド孔を有する給糸ガイドとによって、よこ糸Twfがレピア11を斜めに横断するように待機させておき、レピア11が給糸位置に到達したときに、両ガイドを下降させてレピア11の爪11aによこ糸Twfを引っ掛けさせている。
【0119】しかし、レピア11への給糸に際して通常の給糸ガイドを用いると、よこ糸Twfが扁平な炭素繊維マルチフィラメント糸の場合に、前記ガイド孔でよこ糸Twfが擦られて扁平形態が潰れてしまう。このため、本発明の装置では、板バネテンション装置8と糸端把持ガイド10との間に押し板ガイド9を設け、レピア11への給糸時に糸端把持ガイド10を下降させると共に、押し板ガイド9を前進させることにより、織機の後方によこ糸Twfを押し付けてレピア11に対して横切るようにしたのである。
【0120】次いで、レピア11が図2において右側方向に移動する際、よこ糸Twfをレピア先端の爪11aに引っ掛け、押え具11bで押さえて把持する。レピア11は、図2に示したように、後述する筬24の近傍に配置される長手状の部材で間欠的に横方向に作動して、よこ糸Twfを多数のたて糸Twr間に挿入するものである。レピア11は、図3及び図4に示すように、アーム27a〜27dを有するリンク手段27を介して伝達される駆動モータ25からの駆動力によって間欠作動する。レピア11は、図6に示すように、扁平なよこTwfを引っ掛ける爪11aが先端に設けられ、爪11aの近傍には押え具11bが取付けられている。
【0121】また、レピア11で扁平なよこ糸Twfを把持する方法として、図7に示すように、レピア11の先端に導かれたよこ糸Twfの端部を挟み具12で挟んで把持させることにより、ほとんど扁平状態を潰すことなくよこ糸挿入を達成することができる。
【0122】実施例の炭素繊維補強織物の製造装置においては、以上のようなよこ糸供給装置のよこ糸供給工程により、ボビン1に巻回されたよこ糸Twfが、引取りローラ3によって一定速度で解舒され、レピア11の間欠的なよこ糸挿入の際の弛みがテンション装置4のスプリング4bで吸収される。
【0123】そして、ボビン1から横取り解舒されたよこ糸Twfは、ガイドローラ5〜7で案内されると共に、板バネテンション装置8で均一な張力に保持されながら、押し板ガイド9と糸端把持ガイド10との協働により、レピア11の爪11aに引っ掛けられ、図2に示す多数のたて糸Twr間に挿入される。このため、炭素繊維マルチフィラメント糸からなるよこ糸Twfは、捩じれたり、扁平形態が潰されることなく織り込まれる。
【0124】次に、たて糸供給装置について説明すると、クリール20は、多数のボビン20aが回転自在に支持され、各ボビン20aには、よこ糸供給装置のボビン1と同様に、扁平な炭素繊維マルチフィラメント糸からなるたて糸Twrが巻回され、たて糸Twrは、横取り解舒された後、コーム21、水平ガイド22、綜絖23及び筬24を経て織前へ導かれる。
【0125】ここで、ボビン20aからのたて糸Twrの解舒速度は、よこ糸Twfに比べて極端に遅く、一定の速度でよいから、ボビン20aは軽いブレーキ付きであればよい。
【0126】コーム21は、上下に配置された支持枠21a、21a間に織物のたて糸Twrの間隔と同じ間隔に複数のワイヤ21bを上下方向に設けたものを多数連結したもので、ワイヤ21b、21b間にたて糸Twrを1本ずつ通すことにより、多数のたて糸Twrを水平方向に対して位置決めし、たて糸Twrを所望の密度に引き揃える。
【0127】ここにおいて、ワイヤ21bは、クリール20のボビン20a、20bから供給される扁平なたて糸Twrが支持枠21a、21aと接触せず、たて糸Twrの扁平面がワイヤ21bのみと接触するよう、所定の長さにする必要がある。ワイヤ21bの長さが所定長さ以下であると、たて糸Twrが潰れてしまう。ワイヤ21bの最適な長さは、クリール20の高さと、クリール20からコーム21ならびに水平ガイド22までの距離によって決まるが、300mm程度の長さが必要である。
【0128】水平ガイド22は、2本のガイドバー22aを有し、ボビン20aから解舒されたたて糸Twrを2本のガイドバー22aにS字状に巻回して、上下方向の位置を規制する。ここで、たて糸Twrは、コーム21と水平ガイド22との間で扁平面を90°、つまりたて糸配列方向に捩じる必要がある。このため、コーム21と水平ガイド22との間隔は、たて糸Twrの幅によって異なるが、50mm以上離す必要がある。コーム21と水平ガイド22との間隔が、50mm以下であるとたて糸Twrが捩じれたまま水平ガイド22を通過して織り込まれてしまう。
【0129】この時、複数本の水平ガイドバー22aのうち、1本のガイドバーを水平方向に(図2の矢印方向に)揺動させることによって、たて糸Twrを開繊、拡幅することができる。ガイドバー22aに扁平なたて糸TwrをS字状に巻回することによって、ガイドバー22aに接するたて糸Twrの内面と外面との糸長差が発生し、内面の繊維は弛み、外面の繊維が引っ張られているので、これを水平方向つまり糸の幅方向に揺動させることによって、たて糸が開繊し幅が広くなるのである。たて糸の内面と外面との糸長差を大きくする意味合いから、ガイドバー22aの直径はできるだけ小さい方がよいが剛性も必要なので、鋼製で15〜40mm程度である。また、ガイドバー22aの揺動速度は、0.5〜10回/秒、振幅は3〜10mm程度である。揺動速度が10回/秒以上、振幅が10mm以上になると、ガイドバー22aに炭素繊維が擦れて毛羽が発生して好ましくない。また、揺動速度が0.5回/秒以下、振幅が3mm以下であると、十分にたて糸Twrが開繊しなく、幅が広くならない。
【0130】複数本の水平ガイドバー22aの揺動運動で炭素繊維糸を開繊、拡幅する場合、織物がこれらガイドバー22aでニップされて、毛羽が発生しないように、各々のガイドバー22aをある程度離れさせておく。水平ガイドバー22aが2本の場合、1本を静止させて他の1本を揺動させる。また、互いのバーの運動方向が逆になるように2本とも揺動させてもよい。3本の場合、真ん中のガイドバーを揺動させ、また、真ん中のガイドバーと他のバーの運動方向が逆になるように3本とも揺動させてもよい。また、これらガイドバーはたて糸Twrの走行によって回転できるようにしてもよいし、回転を止めておいてもよい。
【0131】なお、本説明では、ガイドバー22aにたて糸Twrの上下方向の位置の規制と揺動運動によるたて糸Twrの開繊、拡幅の機能を持たせたが、たて糸Twrの上下方向の位置規制のためのガイドバー22aと、このガイドバー22aと綜絖23との間にたて糸Twrの開繊、拡幅のための揺動するガイドバーを別に設けてもよい。
【0132】綜絖23は、各たて糸Twrに一つずつ配置されており、水平ガイド22で上下方向の位置が位置決めされた各たて糸Twrを筬24へ案内するが、図示しない駆動手段によって昇降され、筬24の下流側の多数のたて糸Twr間によこ糸Twfを通す杼道を形成する。
【0133】ここで、従来の綜絖においては、メールは隣接する糸と綜絖との間における干渉を少なくする目的で縦長形状になっている。しかし、このように縦長形状のメールに扁平な糸を通すと、扁平形状が潰され扁平形状を維持して製織することが出来ない。したがって、綜絖23は、メール23aの形状を横長に形成することが好ましく、メール23aの横方向の長さは、たて糸Twrとして用いる炭素繊維マルチフィラメント糸の糸幅と同等または若干長く設定する。メール23aの形状としては、矩形あるいは横長楕円が好ましい。
【0134】筬24は、クリール20に設けた多数のボビン20aから解舒された多数のたて糸Twrを所定の密度に配列させると共に、杼道に通されたよこ糸Twfを織前へ押し付けるもので、フレーム24aに多数の筬羽24bが上下方向に配置されている。筬24は、図4に示すように、駆動モータ25の回転が伝達されるカム28によって、図4に矢印で示すたて糸Twrの走行方法に往復動され、これによりよこ糸Twfを織前へ押し付ける。
【0135】ここにおいて、たて糸Twrは、張力をできるだけ低く設定することが望ましい。これは、綜絖23に案内されてくるたて糸Twrの筬24の横方向の位置が僅かにずれて筬羽24bと接触しても、たて糸Twrの張力が低いと扁平形状が潰されることがなく、また、綜絖23が揺れてたて糸Twrの位置がずれ、たて糸Twrがメール23aの片側に寄っても扁平形状が潰されることがないからである。
【0136】上記たて糸供給装置においては、以下の工程に従ってたて糸Twrが所望の密度に引き揃えされると共に、よこ糸供給装置から送られてくるよこ糸Twfが織前に押し付けされ、炭素繊維補強織物が製織される。
【0137】まず、クリール20に設けた多数のボビン20aのそれぞれからたて糸Twrが横取り解舒される。各たて糸Twrは、コーム21で水平方向の位置が位置決めされた後、90°捩りを付与されて水平ガイド22へと導かれる。
【0138】水平ガイド22へ導かれた多数のたて糸Twrは、上下方向の位置がガイドバー22a、22aによって位置決めされた後、図示しない駆動手段によって昇降される各綜絖23に1本おきに案内され、筬24の下流側の多数のたて糸Twr間によこ糸Twfを通す杼道が形成される。このようにしてクリール20の多数のボビン20aから解舒された多数のたて糸Twrは、筬24で所定密度に配列され、織前へと案内される。
【0139】そして、綜絖23によって杼道が形成されたときに、レピア11の間欠作動により多数のたて糸Twr間によこ糸Twfが挿入され、挿入されたよこ糸Twfは筬24によって織前へ押し付けられ、図2に示すように、炭素繊維補強織物が製織されていく。このたて糸供給工程により、各Twrは等間隔でシート状に揃えられ、安定した製織が可能になる。
【0140】次に、上記のような炭素繊維補強織物の製織後における織糸の開繊、拡幅方法について説明する。たて糸Twrとよこ糸Twfの少なくとも一方が撚りのない扁平な炭素繊維マルチフィラメント糸で、配列されたたて糸Twr間によこ糸Twfが挿入され、挿入されたよこ糸Twfは筬24によって織前へ押し付けられ、炭素繊維補強織物が製織され、巻取ロール30で巻き取られクロスビーム31に巻かれる。この巻取ロール30とクロスビーム31間に、織物面に並行に小径ローラ32a、32b(織物案内手段32)を取り付けて織物をこの小径ローラ32a、32bにS字状に巻回し、小径ローラを織物面の方向に揺動運動させて、織物に揺動運動を与える。この揺動する小径ローラは少なくとも1本取り付けることが必要であり、小径ローラが1本の場合、小径ローラの前後にガイドバーを取り付けて織物をローラにS字状に巻回し、小径ローラを揺動運動させて、織物に揺動運動を与えたて糸Twrおよびよこ糸Twfを開繊、拡幅することができる。小径ローラに織物をS字状に巻回することによって、ローラに接する織糸の内面と外面との糸長差が発生し、内面の繊維は弛み、外面の繊維が引っ張られているので、これを揺動させることによって、織物のたて糸Twrおよびよこ糸Twfが開繊し幅が広くなるのである。
【0141】内面と外面との糸長差を大きくする意味合いから、小径ローラの直径はできるだけ小さい方がよいが剛性も必要なので、鋼製で15〜40mm程度である。また、小径ローラの揺動速度は、0.5〜10回/秒以上、振幅は3〜10mm程度である。揺動速度が10回/秒以上、振幅が10mm以上になると、小径ローラに炭素繊維が擦れて毛羽が発生して好ましくない。また、揺動速度が0.5回/秒以下、振幅が3mm以下であると、十分に織糸が開繊しなく、幅が広くならない。
【0142】なお、小径ローラ32a、32bを織物面に並行に、かつよこ糸Twfの延在方向に取り付けると、特にたて糸Twrの開繊、拡幅に効果がある。また、織物面に並行に、かつよこ糸Twfに対して斜め、たとえば45度の方向に取り付けるとたて糸Twrおよびよこ糸Twfを同時に開繊、拡幅することができる。
【0143】複数本の小径ローラ32a、32bの揺動運動で炭素繊維糸を開繊、拡幅する場合、織物がこれら小径ローラ32a、32bやガイドバーでニップされて毛羽が発生しないように、各々の小径ローラ32a、32bがガイドバーをある程度離れさせておく。小径ローラが2本の場合、1本を静止させて他の1本を揺動させる。また、互いの小径ローラの運動方向が逆になるように2本とも揺動させてもよい。3本の場合、真ん中の小径ローラを揺動させ、また、真ん中の小径ローラと他の小径ローラの運動方向が逆になるように3本とも揺動させてもよい。また、これら小径ローラは織物の走行によって回転できるようにしておくと、織物の目ずれが発生しないので好ましい。
【0144】次に、補強織物織糸の別の開繊、拡幅方法について説明する。但し、本実施例では、上述の方法とともに適用されている。織前と巻取ロール30間または巻取ロール30とクロスビーム31間に、織物面に並行配列している多数のノズル孔を有するノズル装置33を取り付け、織物に流体を噴射することによって織物のたて糸Twrおよびよこ糸Twfを開繊、拡幅することができる。流体は空気または水であってよいが、空気の場合は流体の質量が小さいので、開繊、拡幅効果を上げる意味合いから、ノズル孔を極力織物面に近づけて噴射する必要がある。好ましくは1〜5mm程度で、あまり近づけると、製織中の張力変動やトラブル処理作業時にノズル装置33が織物に接触するので好ましくない。5mm以上になると織物面に到達する前に空気流の圧力が低下し開繊、拡幅効果が低下する。本発明に用いるノズル装置33はノズル孔が0.1〜0.7mm、ノズルのピッチが2〜10mm程度で、噴射圧力は4〜15kg/cm2程度である。また、流体が水の場合はノズル孔は0.05〜0.5mm、ノズルのピッチが0.5〜5mm程度で、噴射圧力は2〜6kg/cm2程度である。織物面からのノズル孔の距離は、空気に比べて水の質量は大きいので、それほど近づける必要はなく、5〜30cm程度離れていればよい。
【0145】ノズルがよこ糸配列方向に配列したノズル装置33を静止して流体を噴射することによって、特に織物のよこ糸が開繊、拡幅される。また、ノズル装置33をよこ糸配列方向に揺動させると、織物のたて糸Twrとよこ糸Twfが同時に開繊、拡幅されるので効率がよい。この場合の揺動の速度は1〜30回/秒、揺動の振幅は3〜20mm程度である。
【0146】なお、ノズルからの流体の噴射流により織物面がノズル位置から離れ、織物のたて糸およびよこ糸が開繊、拡幅効果を低下させることがあるが、この場合は織物を挟んでノズルの反対側にメッシュ金網を設置し、織物を金網に接触させてノズルと織物の間隔を保つようにするとよい。また、目ずれしやすい織物の場合は、メッシュ金網のかわりにスリット付きロールを設置し、このスリットに噴射された流体が通るようにするとよい。
【0147】また、サイジング剤の状態がたて糸や、織物のたて糸およびよこ糸の織糸の開繊状態に影響するので、たて糸や織物を40〜80℃に加熱して開繊すると、サイジング剤が軟らかくなり、強化繊維のフィラメントの接着が弱くなるので、開繊効果をさらに高め、織糸が拡幅し、カバーファクターの大きな織物が得られる。
【0148】上記織物織糸の開繊、拡幅は小径ローラによる揺動法とノズルによる流体噴射法がそれぞれ単独であってもよいが、本実施例の如くこれらを併用して用いることもできる。また、上記に説明した織物織糸の開繊、拡幅方法は、織機のオンライン上で行う場合について説明したが、一旦巻き取られた織物に対し別のラインで行ってもよい。
【0149】なお、ガイドバーによるたて糸の開繊、拡幅や織物の織糸の開繊、拡幅の方法によって、織物のたて糸およびよこ糸の開繊、拡幅の程度が異なり、フックドロップ値も異なることがあるが、本発明においては、たて糸およびよこ糸のフックドロップ値FD(15)が20〜800mmの範囲であればよい。
【0150】また、上記方法において、たて糸及び/又はよこ糸が撚りがなくて、フックドロップ値FD(15)が20〜800mmの扁平な炭素繊維マルチフィラメント糸からなる織物であれば、揺動や流体の噴射により開繊、拡幅しやすくなるので、たて糸及び/又はよこ糸の開繊、拡幅効果を上げることができるので好ましい。
【0151】上記のように、本発明の補強織物の製造方法及び製造装置においては、繊度の大きい、フックドロップ値が特定の範囲の、実質的に撚りがない扁平な炭素繊維マルチフィラメント糸からなるたて糸及びよこ糸が、扁平状態を維持して薄く繊維密度が均一な補強織物に製織され、図8に示すように、たて糸Twrとよこ糸Twfが交錯した部分におけるクリンプの発生も殆ど見られなかった。ここで、図8は、製織された炭素繊維織物の断面を拡大したもので、たて糸とよこ糸となる炭素繊維糸は実際のものよりも誇張してモデル的に表現してある。
【0152】さらに、扁平な単位炭素繊維糸を複数積層したたて糸とよこ糸とを使用して製織する場合は、以下のようにする。すなわち、よこ糸に関しては、ボビン1を2つあるいは3つ用意し、各ボビン1から解舒されるよこ糸Twfを単位炭素繊維糸とし、2本あるいは3本のよこ糸Twfを引取りローラ3の上で積層されるように、引取りローラ3に案内した後、テンション装置4から板バネテンション装置8へと導く。そして、積層されたよこ糸Twfを、レピア11によって多数のたて糸Twr間に挿入すれば、積層されたよこ糸Twfは扁平状態が潰されることなく、多数のたて糸Twr間に挿入することができる。
【0153】一方、たて糸に関しては、2つあるいは3つのボビン20aから解舒されたたて糸Twrを単位炭素繊維糸として積層し、積層されたたて糸Twrをコーム21のワイヤ21b、21b間に挿通した後、水平ガイド22、綜絖23を経て筬24の筬羽24b、24b間に導く。
【0154】これにより、上記した本発明の補強織物の製造方法および製造装置においては、複数の単位炭素繊維糸を積層したよこ糸Twfおよび/又はたて糸Twrを製織した補強織物が得られる。
【0155】このようにして2本づつの単位炭素繊維糸を積層したよこ糸Twfとたて糸Twrと製織した補強織物は、図9に示すように、繊維密度が均一に製織され、たて糸Twrとよこ糸Twfが交錯した部分におけるクリンプの発生も殆ど見られなかった。
【0156】積層構成については、各種態様を採り得る。たとえば図10に示すように、たて糸Twrを、2本積層したものと、単層のものとの混ざったものとすることもでき、図11に示すように、たて糸Twrを3本あるいはそれ以上積層した構成とすることもできる。いずれの態様においても、扁平な織糸を用いているため、クリンプは極めて小さく押さえられる。
【0157】上記のように製造された本発明に係る補強織物は、各種プリフォームやプリプレグ、FRPの成形に供される。たとえば本発明に係るプリフォームの一実施例を図12を参照して説明する。
【0158】図12は、プリフォームの一部を示しており、織物基材として、4枚の2方向性炭素繊維織物41〜44を有し、これら織物が層状に配置されている。織物41と44、および42と43はそれぞれ織糸方向が同一になるよう配置され、織物41、44と42、43は織糸方向が45°ずれて配置され、積層された基材の厚み中心からみて鏡面対称になるよう配置されている。そして、織物の織糸は繊度が7,200デニールで、糸幅が8mm、糸幅/糸厚み比が73、そしてフックドロップ値FD(15)が100mm(FD(30)で290mm)の炭素繊維扁平糸で構成されている。45は単環縫いによりステッチされたステッチ糸であり、繊度が700デニール、破断伸度が2.5%の炭素繊維からなる双糸からなるものである。このステッチ糸45は、前記層状に配置された織物基材41〜44の厚み方向に繰り返し貫通させて縫合されている。
【0159】このようなプリフォームにおいては、補強基材を構成する織物が、織糸間隔が大きく薄い織物であり、たて糸とよこ糸の交錯部での拘束力が弱く、しかも織糸自身のフックドロップ値FD(15)が20mm以上と炭素繊維が移動し易い構造であるので、ステッチされた際の繊維損傷がなく、炭素繊維の有する高い強度弾性率を発揮する優れた繊維強化樹脂を製造可能な基材となる。
【0160】以下に、本発明のより具体的な実施例について説明する。
実施例1
引張破断強度が500kg・f/mm2、引張弾性率が23,500kg・f/mm2、引張破断伸度が2.1%の撚りのない炭素繊維糸(東レ(株)社製トレカ T700SC-12K(炭素繊維の数12,000本、繊度7,200デニール))からなり、糸幅が6.5mm、糸の厚みが0.12mmで、サイジング剤を0.8%付着させて形態を保持させた扁平なフックドロップ値FD(15)が75mm(FD(30)で150〜300mm)の炭素繊維糸を用い、本発明の製造方法及び製造装置により織機回転数120rpmで本発明の炭素繊維補強織物を製織した。
【0161】得られた炭素繊維補強織物は、たて糸及びよこ糸の密度が1.25本/cmの平織で、たて糸及びよこ糸の糸幅が7.6mm、糸の厚みが0.11mm、糸幅/糸厚み比が69.1、たて糸相互間及びよこ糸相互間の織糸ピッチと糸幅との間の織糸ピッチ/糸幅比が1.05、厚みが0.22mm、織物目付が200g/m2、繊維密度が0.91g/cm3であった。また、扁平な織糸のフックドロップ値FD(15)はたて糸が83mm(FD(30)で240mm)、よこ糸が85mm(FD(30)で245mm)であった。フックドロップ値は、得られた織物から撚りが入らないように織糸をほぐし、図1に示した方法により測定した。
【0162】この炭素繊維補強織物は、たて糸及びよこ糸に解舒撚りが入っておらず、カバーファクターが99.8%と空隙部が殆どない繊維密度が均一で、表面が平滑な織物であった。
【0163】また、この炭素繊維補強織物の製造速度は、類似の炭素繊維糸(東レ(株)社製 トレカT300 B-3K(炭素繊維の数3,000本、繊度1,800デニール))を用いた、たて糸およびよこ糸の密度が5.0本/cmの平織で、織物目付が200g/m2の従来の炭素繊維補強織物に比べて織糸密度が1/4であるから4倍という早い速度であり、非常に生産性が向上していた。
【0164】次に、得られた炭素繊維補強織物に樹脂伸度が3.5%のエポキシ樹脂を36重量%含浸させてプリプレグを得た。このプリプレグは炭素繊維補強織物と同様に、表面が平滑で炭素繊維が均一に分布していた。
【0165】次いで、このプリプレグを同方向に4枚積層させてオートクレーブ成形法でCFRPを作製し、ASTM-D-3039のCFRP引張試験法に準拠して引張破断強度と引張弾性率とを測定した。その結果を、炭素繊維の体積含有率と共に表1に示した。この測定に際し、CFRPは、炭素繊維糸が1.6%の伸度で破断したが、引張方向に直交する横方向において、マトリックス樹脂のマイロクラックは発生しなかった。
【0166】
【表1】

【0167】比較例1-1
比較のため実施例1の炭素繊維糸を使用し、たて糸及びよこ糸の密度が1.25本/cmの平織の炭素繊維補強織物を片側レピア織機を用い、たて糸は横取りで解舒させ、次いでたて糸クリールの円孔ガイド、配列ガイド、縦長孔の綜絖に順次導く従来の製織法で、また、よこ糸は、縦取り解舒による従来の製織法により製織した。
【0168】得られた織物は、たて糸が、扁平状態が潰れて集束した状態で織り込まれており、よこ糸は1m当たり3〜4個の解舒撚りが入って集束しており、カバーファクターが85.0%と非常に織り目が粗く、織物表面が凹凸していた。さらに、この織物は、たて糸及びよこ糸の糸幅が4.9mm、糸幅/糸厚み比が28.8、織糸ピッチ/糸幅比が1.63、厚みが0.34mm、織物目付が200g/m2、繊維密度が0.59g/cm3であった。
【0169】この織物に、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂を含浸させ、プリプレグを作製した。このとき、織物の空隙部の樹脂が離形フイルムに採られて欠損し、この欠損分の樹脂を追加しなければならなかった。
【0170】このようにして作製したプリプレグを、実施例1と同様にして同方向に4枚積層し、オートクレーブ成形法でCFRPを作製した。得られたCFRPは、織物の空隙部で表面が窪んで凹凸しており、ボイドが多数みられた。
【0171】さらに、このCFRPに関して、実施例1の試験法により引張破断強度と引張弾性率とを測定した。その結果を、炭素繊維の体積含有率と共に表1に併記した。なお、得られたCFRPは、炭素繊維の体積含有率に関する実施値が44%であったため、表1には、炭素繊維の体積含有率を55%に換算した値を記した。
【0172】表1に示す結果から明らかなように、本発明の炭素繊維補強織物から作製したCFRPは、非常に高い引張破断強度を備え、引張弾性率においても、従来の炭素繊維織物基材では考えられない高い値を示している。これに対し、比較例1-1のCFRPは、用いた補強基材の繊維密度が0.60g/cm3のように小さい織物であるから、炭素繊維の体積含有率が低く、織物の空隙部にマトリクス樹脂が偏在していたため、この部分からクラックが発生し、比較例1-1の結果から明らかなように、実施例1のCFRPに比べて引張破断強度が小さかった。
【0173】比較例1-2
実施例1に示した本発明の炭素繊維補強織物を製織し、この織物に樹脂伸度が1.7%のエポキシ樹脂を含浸させてプイプレグを作製し、実施例1と同様にしてCFRPを作製した。このCFRPについて、実施例1の試験法により引張破断強度と引張弾性率とを測定し、その結果を炭素繊維の体積含有率と共に表1に併記した。
【0174】このCFRPは、マトリクス樹脂の伸度が1.7%と小さいため、引張方向に直交する横方向においてマイクロクラックの発生が先行し、表1から分かるように、実施例1に比べて引張破断強度が低くなっていた。
【0175】実施例2
本発明の製造方法及び製造装置により、実施例1に示した炭素繊維糸を用い本発明の炭素繊維補強織物を製織し、この織物にビニルエステル樹脂(昭和ハイポリマー(株)社製 RIPOXY,P804)をハンドレイアップで含浸させ、これを4枚積層して常温で硬化させたCFRPを作製した。
【0176】得られたCFRPは、ハンドレイアップ成形であるにも拘らず、45%という炭素繊維の高い体積含有率を示し、かつ、完全に樹脂が含浸されてボイドのないものであった。これは、製織された炭素繊維補強織物の繊維密度が0.91g/cm3と高いことから可能になったものである。
【0177】このようにして得たCFRPの引張破断強度と引張弾性率とを、実施例1の試験法により測定したところ、表2に示すように、実施例1のオートクレーブ成形法で得られたCFRP並みの高い強度を有する結果が得られた。ここで、表2に示す引張強度利用率(%)とは、炭素繊維の強度から算出した理論強度に対する実測による引張強度の比をいう。
【0178】
【表2】

【0179】比較例2
引張破断強度が360kg・f/mm2、引張弾性率が23,500kg・f/mm2、引張破断伸度が1.5%の炭素繊維糸(東レ(株)社製トレカT300 B-3K(炭素繊維の数3,000本、繊度1,800デニール))からなり、糸幅が2mm、糸の厚みが0.1mmで、サイジング剤を1.0%付着させて形態を保持させた扁平炭素繊維糸を用い、比較例1-1と同じ方法による従来の製織法により炭素繊維補強織物を製織した。得られた炭素繊維補強織物は、たて糸及びよこ糸の密度が5.0本/cmの平織で、たて糸及びよこ糸の糸幅が1.6mm、糸の厚みが0.13mm、糸幅/糸厚み比が12.3、たて糸相互間及びよこ糸相互間の織糸ピッチと糸幅との間の織糸ピッチ/糸幅比が1.25、厚みが0.27mm、織物目付が200g/m2、繊維密度が0.74g/cm3であった。また、フックドロップ値FD(15)はたて糸が70mm、(FD(30)で160mm)、よこ糸が91mm(FD(30)で210mm)であった。
【0180】この織物に、実施例2と同様に、前記ビニルエステル樹脂をハンドレイアップで含浸させ、4枚積層して常温硬化させたCFRPを作製した。得られたCFRPは、炭素繊維の体積含有率が32.1%と通常の値で、樹脂含浸性も良好であった。このCFRPの引張破断強度と引張弾性率とを実施例1の試験法により測定し、その結果を表2に炭素繊維の体積含有率および引張強度利用率と共に併記した。
【0181】比較例2のCFRPは、樹脂含浸性の点では問題がなく、実施例2のCFRPと比べ、用いた炭素繊維糸だけが異なっていた。しかし、表2に示したように、これら炭素繊維糸がCFRPの強度に寄与する引張強度利用率から判断しても、実施例2のCFRPに比べて引張破断強度が極端に小さかった。
【0182】また、比較例2のCFRPは、用いた炭素繊維糸織物の繊維密度が0.74g/cm3であるのに対し、実施例2のCFRPに用いた炭素繊維補強織物では、繊維密度が0.91g/cm3と高く、したがってCFRPにおける炭素繊維の体積含有率が高くなること、また、実施例2の炭素繊維補強織物では、織糸のクランプも小さいので高い強度特性が発現したものである。
【0183】ここで、実施例1、2比較例1-1、1-2並びに比較例2における引張試験に基づき、横軸を引張歪み(%)、縦軸を引張破断強度(kg・f/mm2)として、図13に示す強度特性図を描いた。
【0184】図13から明らかなように、比較例1-1のCFRPでは空隙部のマトリクス樹脂に富んだ部分からのクラックの発生、比較例1-2のCFRPでは引張方向に直交する横方向におけるマイクロクラックの発生、にそれぞれ起因すると思われる破断歪みに先行する引張弾性率の低下がみられた。また、比較例2のCFRPにおいても、引張歪みが0.6%の付近から引張弾性強度の変化率の低下が見られた。これは、比較例2のCFRPを観察したところ、樹脂にクラックが発生していたことから、用いた炭素繊維糸のクリンプが伸ばされた結果、含浸させた樹脂で炭素繊維糸を支えきれなくなったことに起因するものと推定される。したがって、このCFRPを構造材料として使用する場合には、引張破断強度を基準にすることは危険であり、より低い引張破断強度を基準にする必要がある。
【0185】実施例3
たて糸に、引張破断強度が500kg・f/mm2、引張弾性率が23,500kg・f/mm2、引張破断伸度が2.1%の撚りのない炭素繊維糸(東レ(株)社製 トレカT700SC-12K(炭素繊維の数12,000本、繊度7,200デニール))からなり、糸幅が6.5mm、糸の厚みが0.12mmで、サイジング剤を0.8%付着させて形態を保持させた扁平なフックドロップ値FD(15)が75mm(FD(30)で220mm)の炭素繊維糸を、また、よこ糸に、ガラス繊維糸(日東紡(株)社製 ECE225-1/2)(繊維の数460本、繊度405デニール))を補助糸として、それぞれ使用し、本発明の製造方法および製造装置により本発明の炭素繊維補強織物を製織した。
【0186】得られた炭素繊維補強織物は、たて糸密度が1.25本/cm、よこ糸密度が2.5本/cmの平織組織からなる一方向織物で、たて糸幅が7.8mm、たて糸の厚みが0.1mm、たて糸の糸幅/糸厚み比が78、たて糸の織糸ピッチ/糸幅比が1.03、厚みが0.11mm、織物目付が111g/m2、繊維密度が1.01g/cm3であった。扁平な炭素繊維織糸のフックドロップ値FD(15)は83mm(FD(30)で245mm)であった。この炭素繊維補強織物は、隣接するたて糸間の隙間がなく、薄くて繊維密度が均一な織物であった。
【0187】この織物に、実施例2のビニルエステル樹脂をハンドレイアップで含浸させ、4枚同方向に積層させて常温硬化し、CFRPを作製した。このCFRPを、実施例1の試験法に基づいて、炭素繊維糸の配向方向について引張破断強度を評価した。その結果と、炭素繊維の体積含有率および引張弾性率と共に表3に示す。得られたCFRPは、ハンドレイアップ成形であるにも拘らず、炭素繊維の含有率が高く、引張破断強度の点でも優れたものであった。
【0188】比較例3
たて糸とよこ糸に、実施例3に示す炭素繊維糸とガラス繊維糸(補助糸)を用い、たて糸密度が1.25本/cm、よこ糸密度が2.5本/cmの平織組織からなる一方向炭素繊維補強織物を、片側レピア織機を用い、たて糸は横取り解舒させ、次いでたて糸クリールの円孔ガイド、配列ガイド、縦長孔の綜絖に順次導く従来の製織法で、また、よこ糸のガラス繊維糸は縦取り解舒による従来の製織法で製織した。
【0189】得られた炭素繊維補強織物は、たて糸幅が5.0mm、たて糸の厚みが0.15mm、たて糸の糸幅/糸厚み比が33、たて糸の織糸ピッチ/糸幅比が1.60、厚みが0.16mm、織物目付が111g/m2、繊維密度が0.69g/cm3で、たて糸間に隙間ができ、非常に織り目の荒い織物であった。
【0190】この織物を用いて、実施例3の方法によりハンドレイアップ成形してCFRPを作製し、実施例1の試験法に基づいて引張破断強度を評価した。その結果を、表3に併記した。
【0191】
【表3】

【0192】表3から明らかなように、比較例3のCFRPは、実施例3のCFRPと比べると炭素繊維の体積含有率が約34%と低く、引張破断強度も約105kg・f/mm2と小さかった。一方、実施例3のCFRPを観察したところ、比較例3のCFRPに比べると、樹脂が炭素繊維補強織物中に均一に含浸され、殆どボイドが見られなかった。
【0193】実施例4(実施例織物4)
引張破断強度が500kg・f/mm2、引張弾性率が23,500kg・f/mm2、引張破断伸度が2.1%の撚りのない炭素繊維糸(東レ(株)社製トレカT700SC-12K(炭素繊維の数12,000本、繊度7,200デニール))からなり、糸幅が6.5mm、糸の厚みが0.12mmでサイジング剤を0.8%付着させて形態を保持させた扁平な、フックドロップ値FD(15)が75mm(FD(30)で220mm)の炭素繊維糸を用い、請求項25のよこ糸供給工程と請求項26のたて糸供給工程による製造方法により織機回転数120rpmで、たて糸およびよこ糸の密度が1.0本/cmの、本発明の平織の炭素繊維補強織物を製織した。
【0194】なお、織糸の開繊、拡幅は請求項31の織物案内手段の揺動で行った。織物案内手段の揺動は、巻取ロールとクロスビームの間に、織物面に並行に、よこ糸の延在方向に取り付けた、直径27mmの2本の小径ローラに織物をS字状に巻回し、巻取ロール側の小径ローラを、振動速度が5回/秒、振幅が5mmで左右方向に揺動させた。
【0195】得られた炭素繊維補強織物のたて糸およびよこ糸の糸幅、糸の厚み、糸幅/糸厚み比、たて糸相互間およびよこ糸相互間の織糸ピッチと糸幅との間の織糸ピッチ/糸幅比、織物目付、繊維密度、カバーファクターおよびフックドロップ値を表4に示した。低目付な織物であるが、特にたて糸が開繊、拡幅し、カバーファクターの大きな織物が得られた。
【0196】実施例5(実施例織物5)
実施例4の方法に、さらに請求項32の流体噴射手段を加え、織糸の開繊、拡幅を行い、本発明の平織の炭素繊維補強織物を製織した。流体噴射手段による流体噴射は、巻取ロールとクロスビームの間に織物案内手段の次に、織物面に並行配列しているノズル孔0.3mm、ノズルのピッチが5mmのノズル装置を織物面から2mmの位置に設置し、噴射圧力7kg/cm2で圧空を噴射した。得られた炭素繊維補強織物5の諸特性を表4に示した。実施例織物4に比べ、さらによこ糸が大幅に開繊、拡幅されて、たて糸およびよこ糸とも開繊、拡幅されて低目付ではあるが、均一でカバーファクターの大きな織物が得られた。
【0197】実施例6(実施例織物6)
実施例4、5と同じ炭素繊維糸を使用し、たて糸工程において、下記のたて糸案内手段によるたて糸の開繊、拡幅(請求項28)を行ないながら、実施例5の方法で本発明の平織の炭素繊維補強織物を製織した。たて糸案内手段によるたて糸の開繊、拡幅は、たて糸シートを、互いに離れた直径27mmの2本のガイドバーにS字状に巻回し、クリール側のガイドバーの揺動速度が5回/秒、振幅が5mmで左右方向に揺動させた。得られた炭素繊維補強織物6の諸特性を表4に示した。実施例織物5に比べ、さらにたて糸が開繊、拡幅されて、たて糸およびよこ糸の間隔が小さくて、織糸間の空隙が小さな、カバーファクターの大きな織物が得られた。
【0198】実施例7(実施例織物7)
引張破断強度が500kgf/mm2、引張弾性率が23,500kgf/mm2、引張破断伸度が2.1%のよりのない炭素繊維糸(炭素繊維の数12,000本、繊度7,200デニール)からなり、糸幅6.5mm、糸厚み0.12mmでサイジング剤を0.2%付着させて形態を保持させた扁平な、フックドロップ値FD(15)が571mm(FD(30)が1,620mm)の炭素繊維糸を用い、実施例6と同じ方法で本発明の炭素繊維補強織物を製織した。得られた炭素繊維補強織物7は、実施例織物6よりもよこ糸の開繊・拡幅が大きく、カバーファクターがほとんど100%の織物を得た。
【0199】比較例4
上記、実施例に使用した炭素繊維糸と同じ炭素繊維糸で、請求項25のよこ糸供給工程と請求項26のたて糸供給工程による製造方法により織機回転数120rpmで、たて糸およびよこ糸の密度が1.0本/cmの、本発明の平織の炭素繊維補強織物を製織した。得られた炭素繊維補強織物の諸特性を実施例織物と同様表4に示した。本発明の請求項25のよこ糸供給工程と請求項26のたて糸供給工程を採用しているので、たて糸およびよこ糸は扁平状態が保たれていたが、たて糸およびよこ糸の密度が小さいので、すなわち、糸間隔が大きいので、カバーファクターが小さな織物となった。
【0200】比較例5
引張破断強度が500kg・f/mm2、引張弾性率が23,500kg・f/mm2、引張破断伸度が2.1%の撚りのない炭素繊維糸(東レ(株)社製トレカT700SC-12K(炭素繊維の数12,000本、繊度7,200デニール))からなり、糸幅が6.5mm、糸の厚みが0.12mmでサイジング剤を2.5%付着させて形態を保持させた扁平な、フックドロップ値FD(15)が11mm(FD(30)で30mm)の炭素繊維糸を用い、あとは実施例6と同じ方法で平織の炭素繊維補強織物を製織した。たて糸の開繊、拡幅および織物の織糸の開繊、拡幅を行ったにもかかわらず、得られた織物の糸幅は、使用した炭素繊維糸と変わらず、カバーファクターの小さな織物となった。
【0201】表4から明らかなように、炭素繊維糸は、扁平状で撚りが無く、かつフックドロップ値が大きいので、単に扁平状態を保持するだけでは比較例4のようにカバーファクターの小さな織物しかできない場合でも、シート状たて糸の開繊、拡幅や、織物の開繊、拡幅により、大きな繊度の糸で、低目付でカバーファクターが大きく、かつ薄い織物を製造することができる。また、表5から明らかなように、本発明に係る補強織物をCFRPに成形した際に、極めて優れた引張破断強度、引張弾性率、表面平滑性およびボイド率を達成することができる。
【0202】
【表4】

【0203】
【表5】

【0204】また、上記各炭素繊維補強織物に樹脂伸度が3.5%のエポキシ樹脂を36重量%含浸させてプリプレグを得、各プリプレグを同方向に4枚積層させてオートクレーブ成形法でCFRPを作製し、ASTM-D-3039のCFRP引張試験法に準拠して引張破断強度と引張弾性率とを測定した。その結果を、炭素繊維の体積含有率、表面平滑性及びボイド率と共に表5に併記した。
【0205】表1〜表5から明らかなように、本発明に係る補強織物(実施例1〜6)は、比較例1〜5の補強織物に比べ、高いカバーファクターおよび良好な表面平滑性を有しており、それをCFRPに成形した際に、極めて優れた引張破断強度、引張弾性率、表面平滑性およびボイド率を達成できる。
【0206】また、実施例1〜6の炭素繊維補強織物を、図12に示したように0°/90°および±45°の繊維方向になるように4枚積層し、ポリアラミド繊維380Dからなるステッチ糸を用いて単環縫いにて縫合して、所定形状のプリフォームを作成したところ、ニードルの折損や強化繊維の切断、損傷もなく、CFRPにした際に所定の高いかつ均一な強度特性が得られるプリフォームを作成できた。
【0207】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の補強織物によるときは、フックドロップ値が特定の範囲の扁平で実質的に撚りがない強化繊維マルチフィラメント糸を織糸としているので、繊度の大きい織糸を用いても、薄くて、織糸のクリンプの極めて小さい織物とすることができ、安価で高い強度特性を発揮し得る複合材料用補強基材を得ることができる。
【0208】また、この補強織物を用いてステッチ糸で縫合して作製したプリフォームは、繊維損傷のない、目標とする高い強度特性を均一に発揮し得る複合材料用補強基材となる。
【0209】また、上記補強織物を用いることにより、安価で高強度の複合材料形成に用いて最適なプリプレグ、および繊維強化複合材料を得ることができる。
【0210】さらに、本発明の補強織物の製造方法および製造装置によるときは、繊度の大きい扁平な強化繊維糸であっても、撚りが掛かることがなく、扁平状態を維持して上記のような目標とする補強織物を確実に製織することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)はフックドロップ値の測定装置の斜視図、(b)は(a)の拡大部分正面図、(c)は(a)の部分斜視図である。
【図2】本発明の一実施例に係る補強織物の製造装置の斜視図である。
【図3】図2の装置におけるレピアの駆動機構を示す要部拡大図である。
【図4】図3の一部を破断して更に詳細に示した要部拡大図である。
【図5】図2の装置における糸端把持ガイドの拡大斜視図である。
【図6】図2の装置におけるレピアの先端部の拡大側面図である。
【図7】レピア先端部の他の態様を示す斜視図である。
【図8】1本の扁平な強化繊維糸からなるたて糸とよこ糸を用いて製織された本発明の補強織物の部分縦断面図である。
【図9】扁平な単位強化繊維糸を2本積層したたて糸とよこ糸を用いて製織された本発明の補強織物の部分縦断面図である。
【図10】1本の扁平な強化繊維からなるたて糸と扁平な強化繊維糸が2本積層されてなるたて糸を含む補強織物の部分縦断面図である。
【図11】扁平な強化繊維糸が3本積層されてなるたて糸を含む補強織物の部分縦断面図である。
【図12】本発明の一実施例に係るプリフォームの部分分解斜視図である。
【図13】実施例-1、2および比較例-1、2の補強織物を用いたCFRPの強度-歪み線図である。
【符号の説明】
1 ボビン(よこ糸用)
2 テンションローラ
3 引取りローラ
4 テンション装置
4a ガイド
4b スプリング
5〜7 ガイドローラ
8 板バネテンション装置(張力付与機構)
9 押し板ガイド
10 糸端把持ガイド
11 レピア
20 クリール
20a、20b ボビン(たて糸用)
21 コーム
22 水平ガイド
23 綜絖
23a メール
24 筬
25 駆動モータ
26 主軸
30 巻取ロール
31 クロスビーム
32 小径ロール(織物案内手段)
33 ノズル装置
101 強化繊維マルチフィラメント
102 フック
103 重り
104 上部クランプ
105 下部クランプ
106 綿糸
Twf よこ糸
Twr たて糸
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2004-10-13 
出願番号 特願平7-78274
審決分類 P 1 652・ 113- YA (D03D)
P 1 652・ 841- YA (D03D)
P 1 652・ 121- YA (D03D)
P 1 652・ 112- YA (D03D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小石 真弓  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 鴨野 研一
菊地 則義
登録日 2000-08-04 
登録番号 特許第3094835号(P3094835)
権利者 東レ株式会社
発明の名称 補強織物とその製造方法および製造装置  
代理人 高橋 詔男  
代理人 渡邊 隆  
代理人 志賀 正武  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ