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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C10M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C10M 審判 全部申し立て 2項進歩性 C10M |
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管理番号 | 1121117 |
異議申立番号 | 異議2003-73016 |
総通号数 | 69 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2000-04-04 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2003-12-16 |
確定日 | 2005-05-23 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3416080号「アンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3416080号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第3416080号の請求項1ないし5に係る発明は、平成11年6月18日(優先権主張平成10年7月21日)に出願され、平成15年4月4日にその特許権の設定の登録がなされ、その後、押谷泰紀より特許異議の申立てがなされ、平成16年3月31日特許権の一部が旭電化工業株式会社より株式会社ジャパンエナジーに移転され、平成16年11月29日付けで取消理由通知がなされ、指定期間内である平成17年1月27日に訂正請求がなされたものである。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 特許権者の求める訂正は、特許第3416080号の明細書中、以下ア〜クの訂正を行なうものである。 ア 特許請求の範囲請求項1において、 「Xはモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わし、」とあるのを、「Xは炭素数1〜4のモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わし、」と訂正し、「pはXの価数を表わす」とあるのを、「pはXの価数を表わし、且つ(AO1)a中に占めるオキシエチレン基の割合が、50〜10重量%である」と訂正する。 イ 同、請求項4を削除する。 ウ 同、「請求項5」を「請求項4」と訂正し、その請求項において、「請求項1乃至4の」とあるのを「請求項1乃至3の」と訂正する。 エ 発明の詳細な説明の段落【0009】において、「Xはモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わし、」とあるのを「Xは炭素数1〜4のモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わし、」と訂正する。 オ 同、段落【0010】において、「一般式(1)において、・・・フェノールが挙げられる。」とあるのを、「一般式(1)において、Xはモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わす。モノオールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、2-ブタノール等のアルコールが挙げられる。」と訂正する。 カ 同、段落【0011】において、「ポリオールとしては、・・・1〜8の数が好ましい。」とあるのを「ポリオールとしては例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール等のジオール;グリセリン、トリオキシイソブタン、1,2,3-ブタントリオール等の3価アルコール等が挙げられる。pはXの価数であり、1〜3の数が好ましい。」と訂正する。 キ 同、段落【0013】において、「モノオールであっても、あまり炭素数が多くなるとアンモニア冷媒との相溶性が低下する場合があるので、Xの炭素数は好ましくは1〜8であり、より好ましくは1〜4であり、最も好ましくはXはメチル基である。」とあるのを、「モノオールであっても、あまり炭素数が多くなるとアンモニア冷媒との相溶性が低下する場合があるので、Xの炭素数は1〜4であり、最も好ましくはXはメチル基である。」と訂正する。 ク 同、段落【0009】において、「pはXの価数を表わす」とあるのを、「pはXの価数を表わし、且つ(AO1)a中に占めるオキシエチレン基の割合が、50〜10重量%である」と訂正する。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 訂正アは、請求項1の一般式(1)で表わされるポリエーテルにおいて、Xが表わすモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を炭素数が1〜4のものに限定し、かつ、(AO1)aが表わすポリオキシアルキレン基を、オキシエチレン基の割合が50〜10重量%であるものに限定するものであり、この2つの限定により一般式(1)で表わされるポリエーテルも限定されることとなるから、そのポリエーテルからなるアンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤も限定されるので、この訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするもので、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更には該当しない。 また、Xが「炭素数が1〜4の」モノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基であることは、特許明細書段落【0012】の「Xは上記モノオール又はポリオールから誘導された化合物の残基であってもよい。」、及び、【0013】の「Xはモノオールから水酸基を除いた残基であることが最も好ましい。モノオールであっても、あまり炭素数が多くなるとアンモニア冷媒との相溶性が低下する場合があるので、Xの炭素数は好ましくは1〜8であり、より好ましくは1〜4であり、」との記載に基づくものと認められ、「(AO1)a中に占めるオキシエチレン基の割合が、50〜10重量%である」ことは、訂正前の請求項4に基づくものと認められるので、いずれも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でされた訂正である。 訂正イは、訂正前の請求項1乃至3を引用する請求項の削除であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするもので、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更には該当せず、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でされた訂正である。 訂正ウは、訂正イに伴い、それに引き続く請求項番号の繰り上げ及び引用する請求項を整合させるものであり、訂正エ乃至訂正クは、発明の詳細な説明において、訂正アに伴って、その記載を整合させるものと認められるから、いずれも明りょうでない記載の釈明を目的とするもので、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更には該当せず、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内でされた訂正である。 (3)むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法を改正する法律(平成15年法律第47号)附則第2条第7項により、なお従前の例によるとされる、平成15年法律第47号による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第120条の4第2項及び同条第3項で準用する同法第126条第2項から第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3 特許異議の申立てについての判断 (1)本件特許の訂正後の請求項1〜4に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜4に記載した下記の通りのものである(以下、その請求項1〜4に係る発明を、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明4」という。)。 【請求項1】下記の一般式(1) 【化1】 X{-O-(AO1)a-(AO2)b-H}p (1) [式中、Xは炭素数1〜4のモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わし、(AO1)aはエチレンオキサイド及び、プロピレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドの共重合によって構成されたポリオキシアルキレン基を表わし、AO2は炭素数3以上のオキシアルキレン基を表わし、aは2以上の数を表わし、bは1以上の数を表わし、pはXの価数を表わし、且つ(AO1)a中に占めるオキシエチレン基の割合が、50〜10重量%である。]で表わされる少なくとも1種のポリエーテルからなる、アンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤。 【請求項2】(AO1)aが、エチレンオキサイド及び、プロピレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドのランダム状共重合によって構成されたポリオキシアルキレン基又は一部にランダム状共重合を含むポリオキシアルキレン基である、請求項1に記載の冷凍機用潤滑剤。 【請求項3】一般式(1)で表わされるポリエーテルの40℃における動粘度が、15〜200cStである、請求項1又は2に記載の冷凍機用潤滑剤。 【請求項4】一般式(1)で表わされるポリエーテルの不飽和度が、0.04meq/g以下である、請求項1乃至3の何れか1項に記載の冷凍機用潤滑剤。 (2)特許異議申立の理由の概要 特許異議申立人は、証拠方法として甲第1号証(特開平5-9483号公報)、甲第2号証(特開平8-100187号公報)、甲第3号証(米国特許第5413728号明細書)、及び甲第4号証(特開平3-79696号公報)を提出し、(ア)本件発明1〜4は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、(イ)本件発明1〜4は、甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、本件発明5は、甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1〜5の特許は、特許法第113条第2号に該当し、また、(ウ)本件特許明細書には記載不備があり、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許法第113条第4号に該当するので、その特許を取り消すべきものであると主張している。 なお、異議申立人は、証拠方法として甲第5号証(特開2000-186290号公報)を提出しているが、これは、本件発明と甲第1号証の比較例7に記載された発明を対比する際に参考資料として用いられているものであり、本願発明の優先日(平成10年7月21日)以降に公開されたものであるから、甲第5号証に記載された発明が、直接本願発明の新規性又は進歩性に関係するものではない。 (3)当審の判断 ア 特許法第29条第1項第3号、同条第2項について (ア)甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明 甲第1号証(特開平5-9483号公報)には、 「次の一般式、【化1】 (上記一般式(I)〜(V)において、R及びR1〜R10は、炭素数1〜8のアルキル基を示し、それぞれ同一でも異なってもよい。1分子中でオキシプロピレン基及びオキシエチレン基の炭素を除いた炭素数の和は10以下である。また、m1〜m10及びn1〜n10は、平均分子量が300を超え1800以下となる整数であり、かつn1〜n10は0又はそれぞれ対応するm1〜m10を超えない整数である)で表わされるポリエーテル化合物の中から選ばれる1種または2種以上のポリエーテル化合物を主成分とするアンモニア冷媒用の冷凍機油。」に関する発明が記載され(請求項1)、明細書の段落【0014】の表1には、実施例-1〜比較例-7が、その化学構造式、物性データ等が冷凍機油に関するテスト結果とともに示されている。 【表1】 比較例7には、化学構造式として、 「CH2O(PO)m1(EO)n1H (m1:n1=8:2) CH2O(PO)m2(EO)n2C4H9 (m2:n2=8:2)」 という記載があり、表1に続いて、「EO」がオキシエチレン、「PO」がオキシプロピレンであるという注記がある。 甲第2号証(特開平8-100187号公報)には、 「【請求項1】アンモニア冷媒(a)と;式:Z-((CH2-CH(R1)-O)n-(CH2-CH(R1)-O-)m)p-H[式中、Zは活性水素1〜8個と、Zがアリール基である場合には少なくとも炭素原子6個、Zがアルキル基である場合には少なくとも炭素原子10個を有する化合物の残基であり;R1は水素、メチル、エチル又はこれらの混合物であり;nは0又は正の数であり;mは正の数であり;pはZの活性水素数に等しい値を有する整数である]で示されるポリアルキレングリコールを含む潤滑剤組成物(b)とを含む、圧縮冷凍に用いるための流体組成物。 【請求項2】前記ポリアルキレングリコールが有機酸化物とアルコールとの反応生成物を含む請求項1記載の流体組成物。 ・・・ 【請求項4】前記有機酸化物がエチレンオキシド、プロピレンオキシド及びブチレンオキシドから本質的に成る群から選択される請求項2記載の流体組成物。 ・・・ 【請求項6】 前記組成物が約25〜150cStの粘度(40℃における)を有する請求項2記載の流体組成物。 ・・・ 【請求項8】前記アルコールがベンジルアルコール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール及びC11アルコールから本質的に成る群から選択される請求項2記載の流体組成物。 【請求項9】前記潤滑剤がポリグリコール、鉱油及びアルキルベンゼンから本質的に成る群から選択される添加剤を含む請求項9記載の流体組成物。」に関する発明が記載され(請求項1〜9)、明細書段落【0066】には、その発明に係る流体組成物の例(A-1〜A-10)が、対照例(従来のポリグリコールの流体組成物)(B-1〜B-5)とともに挙げられ、段落【0067】〜段落【0074】にそれらの物理的性質、アンモニアに対する混和性、高温アンモニア安定性等の潤滑剤としての各種試験結果が示され、流体番号A-9、A-10としてノニルフェノール、エチレンオキシド、プロピレンオキシドから得られるポリアルキレングリコール、B-1、B-5としてブチルアルコール、エチレンオキシド、プロピレンオキシドから得られるポリアルキレングリコールが示され、B-1とB-5は、エチレンオキシドとプロピレンオキシドがそれぞれ50重量%であるとされている。 甲第3号証(米国特許第5413728号明細書)には、好ましい潤滑油として片末端が変性されたポリアルキレングリコールが開示され(第2欄22〜23行)、また好ましいポリアルキレングリコールとして、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びそれらの混合物や共重合体が示され(第2欄39〜42行)、それらのブレンド又は共重合体において、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの比は2/1〜1/2が適していること(第2欄50〜54行)、それらがアンモニアを冷媒として使用する冷凍システムに使用されることも示されている(第1欄7〜11行)。 甲第4号証(特開平3-79696号公報)には、 「下記一般式(I) R1-[O(R2O)m-R3]n- (I) [式中R2はアルキレン基、R1およびR3は同一でも異なっていてもよく、水素、炭化水素基、またはアシル基をそれぞれ示し、nは1〜6、mは上記化合物の動粘度が5〜30cst(40℃)となる正数である。]で表わされるポリグリコール油であって、かつ総不飽和度が0.030meq/g以下である冷凍機用潤滑油とテトラフルオロエタンからなるテトラフルオロエタン系冷凍機用組成物」の発明が記載されている(特許請求の範囲)。 (イ)本件発明と甲号証に記載された発明との対比・判断 本件発明1と甲第1号証に記載された発明を対比すると、甲第1号証の「冷凍機油」はその使用態様からみて本件発明1の「冷凍機用潤滑剤」に相当するものと認められるから、いずれも、アンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤において、水酸基含有化合物に2種以上のアルキレンオキシドを付加反応させたポリエーテル化合物を主成分とするものであるが、ポリエーテル化合物についてみると、本件発明1のものは末端が水酸基であるのに対し、甲第1号証の請求項1に記載された式(I)〜式(V)で表わされるポリエーテル化合物は、いずれも末端がR1〜R10で表わされる炭素数1〜8のアルキル基であるから、末端がアルコキシル基となっている点で少なくとも相違している。 また、異議申立人が指摘する比較例-7で使用されるポリエーテル化合物は、エチレングリコールにエチレンオキシド及びプロピレンオキシドを付加反応させたポリエーテル化合物で、一方の末端は水酸基であるが、他方の末端はアルコキシル基(ブトキシ基)であり、その点で本件発明1のポリエーテル化合物と相違している。 そして、甲第1号証には、「本発明において使用する前記(I)〜(V)式のポリエーテル化合物のR及びR1〜R10は、上述のように炭素数1〜8のアルキル基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。しかし、一般的にはポリエーテル化合物は次式、RO(AO)xH (AOはオキシアルキレン基を示す)の構造で示される化合物が広く使用されており、末端に水酸基を有するかかる化合物は劣化の過程で酸になる。この酸はアンモニアと反応して最終的には固体である酸アミド化合物になる。従って、本発明に係る前記(I)〜(V)式中のR及びR1〜R10は水素原子であってはならない。」(段落【0007】)と記載され、ポリエーテル化合物の末端が水酸基であるものは適当でないとされているから(末端が水酸基である比較例-3や前記比較例-7はボンベテスト後固化して性能がよくない例とされている。)、請求項1のポリエーテル化合物(I)〜(V)の末端を水酸基にすることや、比較例-7の化合物の他方の末端を水酸基にするようなことは、その記載から創意し得るものではない。 よって、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできず、また、その発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。 また、ポリエーテル化合物の末端が水酸基であるものを除外している、あるいは推奨していない甲第1号証に記載された発明に、その末端が水酸基のものである甲第2号証等の他の刊行物に記載された発明を組み合わせることはできないので、それらを併せてみても、当業者が本件発明1が容易に発明をすることができたものとすることはできない。当然のことながら、他の刊行物に記載された発明のうち、末端が水酸基以外のもの、あるいは水酸基であるか不明であるものは、それを甲第1号証に記載された発明と組み合わせても、当業者は本件発明1のポリエーテル化合物を創意し得るものではない。 本件発明1と甲第2号証に記載された発明を対比すると、甲第2号証の「圧縮冷凍に用いるための流体組成物」はその使用態様からみて本件発明1の「冷凍機用潤滑剤」に相当するものと認められるから、いずれも、アンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤において、水酸基含有化合物に2種以上のアルキレンオキサイドを付加反応させたポリエーテル化合物を主成分とするものである。ここで両者のポリエーテル化合物についてみると、本件発明1のものは、 「一般式(1) X{-O-(AO1)a-(AO2)b-H}p (1) [式中、Xは炭素数1〜4のモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わし、(AO1)aはエチレンオキサイド及び、プロピレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドの共重合によって構成されたポリオキシアルキレン基を表わし、AO2は炭素数3以上のオキシアルキレン基を表わし、aは2以上の数を表わし、bは1以上の数を表わし、pはXの価数を表わし、且つ(AO1)a中に占めるオキシエチレン基の割合が、50〜10重量%である。]」 で表わされるもので、炭素数1〜4のモノオール又はポリオールにアルキレンオキサイドが付加されたものであるのに対し、甲第2号証に記載された発明では、 「式Z-((CH2-CH(R1)-O)n-(CH2-CH(R1)-O-)m)p-H[式中、Zは活性水素1〜8個と、Zがアリール基である場合には少なくとも炭素原子6個、Zがアルキル基である場合には少なくとも炭素原子10個を有する化合物の残基であり;R1は水素、メチル、エチル又はこれらの混合物であり;nは0又は正の数であり;mは正の数であり;pはZの活性水素数に等しい値を有する整数である]」 で示されるもので、Zは、炭素原子6個以上のアリール基又は炭素原子10個以上のアルキル基であって、炭素数1〜4個のものは含まれていない点で少なくとも相違している。 そして、甲第2号証には、「この潤滑剤は、ポリアルキレングリコールの形成を開始するためのアルコールと有機酸化物とを含む。このアルコール/開始剤は活性水素原子に比べて大きい数の炭素原子を含む化学構造を特徴とする。」(段落【0038】)、「炭化水素鎖は開始剤とも呼ばれる。開始剤なる用語は、ポリアルキレングリコールとなるポリマー構造の形成をアルコールが開始する又は始めることを意味する。」(段落【0039】)、「用いる開始剤は任意のアルコールを含むことができるが、好ましくは開始剤は下記アルコールを含めたアルコールを含む・・・好ましくは、潤滑剤組成物の形成に用いられる開始剤はアルキル炭化水素として10より大きい総炭素数(>C10)及びアリール炭素水素として6より大きい総炭素数(>C6)を有するアルコールである。有用な、他のアルコール/開始剤化合物はフェノール、メチルフェノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、及びフェノールの他の同様な誘導体を含む。」(段落【0040】〜【0042】)と記載され、Z部分として炭素数の大きいものを推奨しているものと解されるから、当業者が、それらの記載から、本件発明1のように炭素数の小さいC1〜4のアルキル基を創意し得るものではない。 また、異議申立人が指摘する、甲第2号証中、従来のポリグリコールとして例示されているZ部分に相当するアルコールがブチルアルコール(本願発明のC1〜4のアルキル基に含まれる。)である「B-1」や「B-5」のポリアルキレングリコールは、アルキレンオキサイドがエチレンオキサイド50重量%、プロピレンオキサイドが50重量%とされているが、本願発明のポリエーテル化合物は、「(AO1)a」中に占めるオキシエチレン基の割合が50〜10重量%であり、さらに、炭素数3以上のオキシアルキレン基である「AO2」を含むものであるから、エチレンオキサイドの重量割合は化合物全体では50重量%未満であり、その点で本件発明1のものとは異なるものである。そして、甲第2号証に記載された発明では、「B-1」や「B-5」のポリアルキレングリコールは、その発明の例として記載されているものではなく、従来のものとして発明に係るものとの対比のために記載されているものであるから、当業者が、その記載を基にして本件発明1の特定のポリエーテル化合物を創意し得るものとは認められない。 以上説示したとおり、甲第2号証に記載された発明は、本件発明1の「X」に相当する部分が炭素数の大きいものであり、炭素数1〜4のような炭素数の小さいものを排除している発明であるから、甲第2号証以外の甲第1号証等の刊行物に記載された「X」に相当する部分が炭素数1〜4のような炭素数の小さいものである発明と組み合わせる契機になるものはなく、本件発明1が甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。 本件発明1と甲第3号証に記載された発明を対比すると、甲第3号証のポリアルキレングリコールもアンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤として用いるものと認められ、ポリアルキレングリコールとして、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体が用いられ、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの比は2/1〜1/2が適しているとされているが、ポリアルキレングリコールのすべての末端が水酸基に限られているかどうかは明らかでなく、また、末端水酸基に結合しているアルキレングリコールがC3以上のアルキレングリコール(甲第3号証の場合、プロピレングリコール)であるかどうかも明らかにされていないので、それが本願発明のポリエーテル化合物と同一のものであると認めることはできない。さらに、末端水酸基に結合しているアルキレングリコールが、特にC3以上のアルキレングリコールが好ましいとする記載もないので、本件発明1が甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることもできない。 甲第3号証に記載された発明と甲第1号証に記載された発明及び/又は甲第2号証に記載された発明と組み合わせることができないこと、あるいは組み合わせる契機となるものがない点については前示したとおりであるから、本件発明1が甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。 本件発明2〜3は本件発明1をさらに特定した発明であるから、本件発明1と同様の理由により甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。 本件発明4は、訂正前の請求項5に相当するものであるが、本件発明2〜3と同様、本件発明をさらにポリエーテルの不飽和度について特定したものであるから、本件発明1と同様の理由により甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできない。また、甲第4号証にポリグリコール油の不飽和度について記載されていたとしても、本件発明1が甲第1号証〜甲第3号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることはできないのであるから、本件発明4は甲第1号証〜甲第4号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとすることもできない。 イ 特許法第36条第4項について 異議申立人は、本件特許の明細書が記載不備である理由として、本件発明のポリエーテル化合物は末端の水素と結合する「AO2」が炭素数3以上のオキシアルキレン基であることを特徴とするものであるが、明細書に記載された製造方法では末端の水素と結合する「AO2」が炭素数3以上のオキシアルキレン基となるように制御することは困難であり、また、実施例の記載においても、混合アルキレンオキサイドを反応させ、熟成させた後に、プロピレンオキサイドを投入しているが、その投入前に未反応のエチレンオキサイドを除去する操作を行なっていないので、常に「AO2」を炭素数3以上のオキシアルキレン基に制御することはできず、本件明細書には本件発明のポリエーテル化合物を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとすることはできないという点を挙げている。 訂正明細書にそのような記載不備が存在するかどうかについて検討する。訂正明細書には、本件発明のポリエーテル化合物の製造方法について、 「本発明で用いられる一般式(1)で表わされるポリエーテルの製造方法は特に限定されず、通常のポリエーテルの製造方法によればよい。例えば、出発物質であるメタノール等のアルコールに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ触媒の存在下、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド(又はブチレンオキサイド)との混合アルキレンオキサイドを、温度100〜150℃、圧力0〜10kg/cm2程度で反応させた後、プロピレンオキサイド等の炭素数3以上のアルキレンオキサイドを反応させればよい。」 と記載され(段落【0027】)、実施例として、 「(製造例) 3リットル容のオートクレーブに、メタノール64gと触媒として水酸化カリウム8gを仕込んだ。触媒溶解後、反応温度100〜150℃、圧力0〜10kg/cm2で、プロピレンオキサイド1,548gとエチレンオキサイド388g(重量比8/2)の混合アルキレンオキサイドを反応させた。熟成後、反応温度100〜150℃、圧力0〜10kg/cm2で、プロピレンオキサイドを232g反応させた。」 と記載されている(段落【0030】)。 訂正明細書には、まず、ポリエーテル化合物の「(AO1)a」部分を製造するために、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド(又はブチレンオキサイド)との混合アルキレンオキサイドを反応させる第1の工程、次にプロピレンオキサイド等の炭素数3以上のアルキレンオキサイドを反応させる第2の工程を行なうことが記載されており、その記載と、その製造方法により製造するべき目的化合物が、末端の水素と結合する「AO2」が炭素数3以上のオキシアルキレン基であることから、第2の工程において、前の工程で使用した未反応のエチレンオキサイドを除去しておくことが当然採るべき手順であることは、当業者が普通に理解できるものであり、そのことに関し訂正明細書に記載がないことにより、目的とするポリエーテル化合物を製造することができないものとは認められないし、たとえ未反応のエチレンオキシドが完全に除去できていないとしても、「AO2」がエチレンオキシドである副生成物が「AO2」が炭素数3以上のオキシアルキレン基である生成物に付随して得られる程度であり、「AO2」が炭素数3以上のオキシアルキレン基である目的化合物が得られないとはいえないので、訂正明細書に異議申立人の主張する記載不備があるとすることはできない。 4 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 アンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記の一般式(1) 【化1】 X{-O-(AO1)a-(AO2)b-H}p (1) [式中、Xは炭素数1〜4のモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わし、(AO1)aはエチレンオキサイド及び、プロピレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドの共重合によって構成されたポリオキシアルキレン基を表わし、AO2は炭素数3以上のオキシアルキレン基を表わし、aは2以上の数を表わし、bは1以上の数を表わし、pはXの価数を表わし、且つ(AO1)a中に占めるオキシエチレン基の割合が、50〜10重量%である。]で表わされる少なくとも1種のポリエーテルからなる、アンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤。 【請求項2】 (AO1)aが、エチレンオキサイド及び、プロピレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドのランダム状共重合によって構成されたポリオキシアルキレン基又は一部にランダム状共重合を含むポリオキシアルキレン基である、請求項1に記載の冷凍機用潤滑剤。 【請求項3】 一般式(1)で表わされるポリエーテルの40℃における動粘度が、15〜200cStである、請求項1又は2に記載の冷凍機用潤滑剤。 【請求項4】 一般式(1)で表わされるポリエーテルの不飽和度が、0.04meq/g以下である、請求項1乃至3の何れか1項に記載の冷凍機用潤滑剤。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、アンモニアを冷媒とする冷凍機用の潤滑剤に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来、圧縮式冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁等)及び蒸発器からなり、その冷媒としてトリクロロフルオロメタン(R11)、ジクロロジフルオロメタン(R12)やクロロジフルオロメタン(R22)等の塩素を含有するフッ化炭化水素(フロン化合物)が長い間使用されてきた。これらのフロン化合物は、オゾン層破壊という国際的な環境問題を引き起こし、その使用が規制され、塩素を含有しないジフルオロメタン(R32)、テトラフルオロエタン(R134又はR134a)、ジフルオロエタン(R152又はR152a)等のフロン化合物に転換されてきている。ところが、これら塩素を含有しないフロン化合物においても、地球温暖化能が非常に高いため、長期的な面から見ると環境問題を引き起こす恐れが指摘されている。 【0003】 そこで、近年ではこのような環境問題を起こさない冷媒として、炭化水素やアンモニア等が注目されてきている。これらの冷媒は、フロン化合物と比較すると地球環境や人体に対する環境安全性という観点で遥かに優れている。また、これらの化合物は冷媒としてはこれまで主流ではなかったものの、古くから使用されてきた実績もある。 【0004】 これまで、アンモニアは、冷凍機油である鉱油やアルキルベンゼン等と相溶しないために、圧縮機出口側に油を分離回収して再び圧縮機入口側に戻す油循環設備を装備する冷凍機のみに使用が制限されてきた。また、このような油循環設備の機能が十分でないと、冷凍機油が冷凍サイクル内に持ち出され、圧縮機の潤滑油不足を招き、その結果慴動部において潤滑不良から焼き付き等を引き起こし、装置寿命を著しく短縮してしまうことがある。また、蒸発器は低温であるために、冷凍サイクル内に持ち出された粘度の高い冷凍機油が蒸発器に留まり、熱交換効率を低下させることもある。このためアンモニアを使用する冷凍機は比較的大型で、定期的にメンテナンスができる産業用の装置に限られていた。 【0005】 しかし、前記のような環境問題を考慮して、アンモニア冷媒も見直されてきている。それに伴い、アンモニア冷媒との相溶性を有し、フロン冷媒と同様に油循環設備を必要としない冷凍機油が提案されている。例えばEP0490810には、エチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)の共重合体であり、EO/PO=4/1であるポリアルキレングリコールからなる潤滑剤が開示されている。また、EP585934には、EO/PO=2/1〜1/2である1又は2官能性のポリアルキレングリコールからなる潤滑剤が開示されている。更に、DE4404804では、一般式 【化2】 RO-(EO)x-(PO)y-H (RはC1〜C8のアルキル基、x=y=5〜55)で表わされるポリエーテル系潤滑剤が開示されている。また、EP699737では、一般式 【化3】 Z((CH2CH(R1)O)n-(CH2CH(R1)O)m)p-H (Zはアリール基の場合C6以上、アルキル基の場合C10以上、R1は水素原子、メチル基又はエチル基、n=0又は正数、m=正数、p=Zの価数)で表わされる潤滑剤が開示されている。 【0006】 また、特開平5-9483号公報及びWO95/12594号公報には、ポリアルキレングリコールジエーテルからなる、アンモニアとの相溶性及び安定性に優れた冷凍機油が開示されている。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 アンモニア冷媒冷凍機の冷凍機油として、上記のようなポリアルキレングリコール系化合物を使用する場合、水酸基を2個有する2官能性のポリアルキレングリコールは、安定性及び吸湿性に劣るという問題が指摘されている。また、上記のようなポリアルキレングリコールジエーテルは、水酸基を含有するポリアルキレングリコールよりもアンモニアとの相溶性が低く、構造によっては相溶しないという問題を抱えている。また、ポリアルキレングリコールジエーテルは分子の末端をアルキル基で封鎖しなければならないので、末端封鎖を行うため製造工程が複雑になるという欠点を有していた。 【0008】 従って、本発明の目的は、アンモニア冷媒との相溶性に優れ、且つ、潤滑性及び安定性に優れたアンモニアを冷媒として使用する冷凍機用の冷凍機油を提供することにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】 即ち、本発明は、下記の一般式(1) 【化4】 X{-O-(AO1)a-(AO2)b-H}p (1) [式中、Xは炭素数1〜4のモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わし、(AO1)aはエチレンオキサイド及び、プロピレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドの共重合によって構成されたポリオキシアルキレン基を表わし、AO2は炭素数3以上のオキシアルキレン基を表わし、aは2以上の数を表わし、bは1以上の数を表わし、pはXの価数を表わし、且つ(AO1)a中に占めるオキシエチレン基の割合が、50〜10重量%である。]で表わされる少なくとも1種のポリエーテルからなる、アンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤である。 【0010】 【発明の実施の形態】 一般式(1)において、Xはモノオール又はポリオールから水酸基を除いた残基を表わす。モノオールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、2-ブタノール等のアルコールが挙げられる。 【0011】 ポリオールとしては例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール等のジオール;グリセリン、トリオキシイソブタン、1,2,3-ブタントリオール等の3価アルコール等が挙げられる。pはXの価数であり、1〜3の数が好ましい。 【0012】 また、Xは上記モノオール又はポリオールから誘導された化合物の残基であってもよい。このような化合物としては、例えば上記モノオール又はポリオールのナトリウムアルコラート、カリウムアルコラート等が挙げられる。 【0013】 これらの中でも、あまりXの価数が大きくなると、得られるポリエーテルの分子量が大きくなり過ぎて粘度が高くなり過ぎたり、アンモニア冷媒との相溶性が低下するので、Xの価数pは1〜3がより好ましい。特に、pが1、即ち、Xはモノオールから水酸基を除いた残基であることが最も好ましい。モノオールであっても、あまり炭素数が多くなるとアンモニア冷媒との相溶性が低下する場合があるので、Xの炭素数は1〜4であり、最も好ましくはXはメチル基である。 【0014】 (AO1)aは、エチレンオキサイド及び、プロピレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドの共重合によって構成されたポリオキシアルキレン基を表わす。エチレンオキサイド及び、プロピレンオキサイド及び/又はブチレンオキサイドの重合比は特に限定されないが、重合生成物であるポリエーテルに、アンモニアとの優れた相溶性を付与するためには、少なくともエチレンオキサイドを必要とする。しかし、あまりエチレンオキサイドの割合が増加すると、吸湿性や、流動点等の低温特性が悪化したり、粉末状の固形物が析出、或いは沈殿する場合があるので、(AO1)aに占めるオキシエチレン基の割合は50重量%以下が好ましく、50〜10重量%がより好ましく、30〜10重量%が最も好ましい。また、同様の理由により、本発明で用いる一般式(1)で表わされるポリエーテルの分子中に占めるオキシエチレン基の数の割合は、オキシアルキレン基全体の数に対して40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることが最も好ましい。 【0015】 また、共重合の形態はブロック状重合、ランダム状重合又はブロック状重合とランダム状重合の混合でもよいが、(AO1)aの部分が全てブロック状重合により構成されたポリオキシアルキレン基であると、低温における流動性が悪化するため、(AO1)aはランダム状重合により構成されたポリオキシアルキレン基又は、少なくとも一部にランダム状重合を含むポリオキシアルキレン基であることが好ましい。aは2以上の数を表わし、好ましくは2〜150、より好ましくは5〜100である。 【0016】 AO2は炭素数3以上のオキシアルキレン基を表わす。炭素数3以上のオキシアルキレン基としては、例えばオキシプロピレン基、オキシブチレン基、炭素数5〜24程度のオキシアルキレン基が挙げられ、中でもオキシプロピレン基又はオキシブチレン基が好ましい。bは1以上の数を表わし、好ましくは1〜10である。尚、(AO2)bは、1種又は2種以上の上記の炭素数3以上のオキシアルキレン基からなる(ポリ)オキシアルキレン基である。 【0017】 本発明で用いる一般式(1)で表わされるポリエーテルは、構造の末端に(AO2)b-Hで表わされる基を有するので、アンモニア冷媒の存在下で優れた安定性を示す。一般に、1級炭素原子に結合した水酸基は、酸化を受けるとアルデヒドを経てカルボン酸に変化するが、カルボン酸はアンモニア存在下では酸アミドを生成し、これが析出してくる恐れがある。それに比べて2級炭素原子に結合した水酸基は酸化を受けてもケトンに変化するのみであり、アンモニア存在下ではケトンはカルボン酸に比べて安定である。従って、本発明で用いる一般式(1)で表わされるポリエーテルが、アンモニア存在下でも優れた安定性を発揮することができるのは、炭素数3以上のアルキレンオキサイドを最後に付加して得られるポリエーテルであるため、構造末端の水酸基が2級炭素原子に結合した形になっているからであると推察される。即ち、本発明の冷凍機用潤滑剤は、アンモニア冷媒を使用する冷凍機の潤滑剤に特有の問題を、上記のように潤滑剤の構造を特定したことで解決したものである。 【0018】 本発明で用いる一般式(1)で表わされるポリエーテルの分子量は特に限定されないが、分子量と動粘度は比例する傾向があるので、動粘度を以下に述べる好適な範囲にするためには、分子量は300〜3,000程度が好ましい。 【0019】 本発明で用いる一般式(1)で表わされるポリエーテルの動粘度は特に限定されないが、あまり粘度が低いとシール性が悪く、潤滑性能も低下する場合があり、あまり粘度が高いとアンモニアとの相溶性が低下し、エネルギー効率も悪くなる。従って、40℃における動粘度は好ましくは15〜200cSt、より好ましくは20〜150cStが良い。 【0020】 冷媒であるアンモニアと、本発明で用いる一般式(1)で表わされるポリエーテルは、冷媒の冷却能力及び潤滑剤のシール性の面から、重量比で99/1〜1/99の範囲で使用することが好ましく、95/5〜30/70の範囲で使用することがより好ましい。 【0021】 本発明で用いる一般式(1)で表わされるポリエーテルは、アンモニア冷媒の冷凍機に使用する潤滑剤であるため、水分、塩素等の不純物はできるだけ少ないほうが好ましい。水分は潤滑剤や添加剤等の劣化を促進するので、少ないほど良く、500ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、100ppm以下が最も好ましい。一般的にポリエーテルは吸湿性があるので、保管中や冷凍機に充填する際に注意を要するが、減圧下での蒸留や乾燥剤を充填したドライヤーを通すことによって除去することができる。 【0022】 また、塩素はアンモニア存在下ではアンモニウム塩を形成し、キャピラリー詰まりの原因になるので、塩素含量は少ないほど良く、100ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましい。 【0023】 更に、オキシプロピレン基を含有する本発明の冷凍機用潤滑剤を製造する際に、プロピレンオキサイドが副反応を起こしてアリル基を生成することがある。アリル基が生成すると、まず潤滑剤自体の熱安定性が低下する。その他、重合物を生成してスラッジの原因になったり、酸化されやすいために過酸化物を生成する原因となる。過酸化物が生成すると、分解してカルボニル基を生成し、これがアンモニア冷媒と反応して酸アミドを生成し、やはりキャピラリー詰まりの原因となる。従って、アリル基等に由来する不飽和度は少ないほど良く、具体的には0.04meq/g以下であることが好ましく、0.03meq/g以下であることがより好ましく、0.02meq/g以下であることが最も好ましい。 【0024】 また、過酸化物価は10.0meq/kg以下であることが好ましく、5.0meq/kg以下であることがより好ましく、1.0meq/kgであることが最も好ましい。カルボニル価は、100重量ppm以下であることが好ましく、50重量ppm以下であることがより好ましく、20重量ppm以下であることが最も好ましい。 【0025】 このような不飽和度の低いポリエーテルを製造するためには、プロピレンオキサイドを反応させる際の反応温度を、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下とすることが良い。また、製造に際してアルカリ触媒を使用することがあれば、これを除去するために無機系の吸着剤、例えば、活性炭、活性白土、ベントナイト、ドロマイト、アルミノシリケート等を使用すると、不飽和度を減ずることができる。また、本発明の潤滑剤を製造する際に、又は使用する際に酸素との接触を極力避けたり、酸化防止剤を併用することによっても過酸化物価又はカルボニル価の上昇を防ぐことができる。 【0026】 尚、不飽和度、過酸化物価及びカルボニル価は、日本油化学会制定の基準油脂分析試験法により測定した値である。以下にその測定方法の概略を示す。 <不飽和度(meq/g)の測定方法> 試料にウィス液(ICl-酢酸溶液)を反応させ、暗所に放置し、その後、過剰のIClをヨウ素に還元し、ヨウ素分をチオ硫酸ナトリウムで滴定してヨウ素価を算出し、このヨウ素価をビニル当量に換算し、それを不飽和度とした。 <過酸化物価(meq/g)の測定方法> 試料にヨウ化カリウムを加え、生じた遊離のヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定し、この遊離のヨウ素を試料1kgに対するミリ当量数に換算し、過酸化物価とした。 <カルボニル価(重量ppm)の測定方法> 試料に2,4-ジニトロフェニルヒドラジンを作用させ、発色性あるキノイドイオンを生ぜしめ、この試料の480nmにおける吸光度を測定し、予めシンナムアルデヒドを標準物質として求めた検量線を基に、カルボニル量に換算した。 【0027】 本発明で用いられる一般式(1)で表わされるポリエーテルの製造方法は特に限定されず、通常のポリエーテルの製造方法によればよい。例えば、出発物質であるメタノール等のアルコールに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ触媒の存在下、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイド(又はブチレンオキサイド)との混合アルキレンオキサイドを、温度100〜150℃、圧力0〜10kg/cm2程度で反応させた後、プロピレンオキサイド等の炭素数3以上のアルキレンオキサイドを反応させればよい。 【0028】 本発明の潤滑剤には、必要に応じて他の成分を添加することができる。例えば、鉱油、アルキルベンゼン、ポリアルキレングリコールジエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリオールエステル等の周知の冷凍機用潤滑剤や、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート等の極圧剤;2,6-ジ-ターシャリブチル-4-メチルフェノール、4,4’-メチレンビス-2,6-ジ-ターシャリブチルフェノール、ジオクチルジフェニルアミン、ジオクチル-p-フェニレンジアミン等の酸化防止剤;フェニルグリシジルエーテル等の安定剤;グリセリンモノオレイルエーテル、グリセリンモノラウリルエーテル等の油性剤;ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤;ポリジメチルシロキサン等の制泡剤等の添加剤を適宜配合することができる。更に、清浄分散剤、粘度指数向上剤、防錆剤、腐食防止剤、流動点降下剤等の添加剤も必要に応じて配合することができる。これらの添加剤は、通常、本発明の潤滑剤に対して0.01〜10重量%程度配合される。 【0029】 【実施例】 以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中、「部」及び「%」は特に記載が無い限り重量基準である。また、EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基、BOはオキシブチレン基の略基であり、両者の間にある記号「-」はブロック状共重合を表わし、「/」はランダム状共重合を表わす。 各実施例及び比較例について、以下の試験を行い、アンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤としての評価を行った。 【0030】 (製造例) 3リットル容のオートクレーブに、メタノール64gと触媒として水酸化カリウム8gを仕込んだ。触媒溶解後、反応温度100〜150℃、圧力0〜10kg/cm2で、プロピレンオキサイド1,548gとエチレンオキサイド388g(重量比8/2)の混合アルキレンオキサイドを反応させた。熟成後、反応温度100〜150℃、圧力0〜10kg/cm2で、プロピレンオキサイドを232g反応させた。熟成後、吸着剤処理を行い、実施例1の潤滑剤を得た。以下の表1に示す実施例2〜9及び比較例1〜7の潤滑剤も同様の方法で製造した。 【0031】 <アンモニアとの相溶性> 各試料5mlとアンモニア1mlをガラスチューブに封入した後、室温から毎分1℃の速度で冷却していき、2層分離を起こす温度を測定した。得られた結果を表1に記載する。 <ファレックス焼付荷重> 各試料の潤滑性を評価するために、ASTM-D-3233-73に準拠してファレックス焼付荷重を測定した。得られた結果を表1に記載する。 <ボンベテスト> アンモニア雰囲気下における各試料の安定性を評価するために、以下の試験を行った。即ち、触媒として直径1.6mmφの鉄線を装填した300mlのボンベに各試験を50gずつ入れ、アンモニアで0.6kg/cm2Gまで加圧し、更に窒素ガスで5.7kg/cm2Gまで加圧した。その後、150℃まで加熱して同温度で7日間保持した。その後、室温まで放冷し、気体を除いて圧力を下げた後、更に減圧にして試料からアンモニアを除去した。こうして得られた試料の全酸価及び色相を測定した。また、更にテスト後の試料を100mlのビーカーに移して室温で5時間放置後、外観の変化を目視にて観察し、以下の評点にて評価した。得られた結果を表1に記載する。 0:異常無し(テスト前と同じ状態)。 1:ビーカーの底に粉末状の沈殿物が僅かに見られる。 2:評点1と3の中間の状態。 3:ビーカーの底全面に粉末状の沈殿物が見られる。 4:固化したか、又は室温での流動性が無くなった。 【0032】 【表1】 【0033】 表1中、{(PO)/(EO)}は、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドのランダム共重合を表わす。 Gは、グリセリンから水酸基を除いた残基を表わす。 尚、実施例1〜9の試料の不飽和度、過酸化物価、及びカルボニル価を、前記の方法により測定したところ、不飽和度は0.012meq/g〜0.018meq/g、過酸化物価は2.5meq/kg〜3.2meq/kg、カルボニル価は10重量ppm〜15重量ppmであった。また、水分含量をカールフィッシャー水分測定機を使用して測定したところ、何れも300ppm以下であった。 また、*印は{(PO)/(EO)}の部分の重量比を表わす。但し、実施例8及び比較例5については、{(PO)/(EO)}の部分、比較例2及び7については、全体のPO/EO比を表わす。 【0034】 【発明の効果】 本発明の効果は、アンモニア冷媒との相溶性に優れ、且つ、潤滑性及び安定性に優れたアンモニアを冷媒として使用する冷凍機用の冷凍機油を提供したことにある。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2005-04-21 |
出願番号 | 特願平11-172648 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C10M)
P 1 651・ 121- YA (C10M) P 1 651・ 536- YA (C10M) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山本 昌広 |
特許庁審判長 |
脇村 善一 |
特許庁審判官 |
鈴木 紀子 後藤 圭次 |
登録日 | 2003-04-04 |
登録番号 | 特許第3416080号(P3416080) |
権利者 | 旭電化工業株式会社 株式会社ジャパンエナジー |
発明の名称 | アンモニア冷媒を使用する冷凍機用潤滑剤 |
代理人 | 池谷 豊 |
代理人 | 福井 宏司 |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 古川 秀利 |
代理人 | 梶並 順 |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 長谷 正久 |
代理人 | 曾我 道照 |
代理人 | 鈴木 憲七 |
代理人 | 曾我 道照 |
代理人 | 古川 秀利 |
代理人 | 長谷 正久 |
代理人 | 池谷 豊 |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 曾我 道照 |
代理人 | 曾我 道治 |
代理人 | 鈴木 憲七 |
代理人 | 鈴木 憲七 |
代理人 | 藤吉 一夫 |
代理人 | 福井 宏司 |
代理人 | 藤吉 一夫 |
代理人 | 梶並 順 |
代理人 | 古川 秀利 |
代理人 | 鈴木 憲七 |
代理人 | 曾我 道照 |
代理人 | 古川 秀利 |