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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  H01L
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  H01L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01L
管理番号 1121124
異議申立番号 異議2003-73631  
総通号数 69 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-11-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-12-26 
確定日 2005-06-15 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3426255号「アクティブマトリクス基板」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3426255号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第3426255号に係る手続の主な経緯は次のとおりである。
特許出願(特願平3-92121号) 平成 3年 4月23日
特許権設定登録 平成15年 5月 9日
特許異議申立(特許異議申立人:日本電気株式会社)
平成15年12月26日
取消理由通知 (起案日)平成16年10月19日
特許異議意見書・訂正請求書 平成16年12月22日


第2 訂正の適否についての判断

1.訂正事項について

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の「【請求項1】 絶縁基板上に形成され前記絶縁基板よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備えることを特徴とするアクティブマトリクス基板。」を、
「【請求項1】 絶縁基板上に形成され前記絶縁基板よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とするアクティブマトリクス基板。」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の「【請求項2】 絶縁基板上に形成された絶縁膜上に形成され、前記絶縁膜よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備えることを特徴とするアクティブマトリクス基板。」を、
「【請求項2】 絶縁基板上に形成された絶縁膜上に形成され、前記絶縁膜よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とするアクティブマトリクス基板。」と訂正する。

(3)訂正事項3
0007段落の「本発明のアクティブマトリクス基板は、絶縁基板上に形成され前記絶縁基板よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備えることを特徴とする。
また、本発明のアクティブマトリクス基板は、絶縁基板上に形成された絶縁膜上に形成され、前記絶縁膜よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備えることを特徴とする。」を、
「本発明のアクティブマトリクス基板は、絶縁基板上に形成され前記絶縁基板よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とする。
また、本発明のアクティブマトリクス基板は、絶縁基板上に形成された絶縁膜上に形成され、前記絶縁膜よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とする。」と訂正する。

2.訂正の内容

(1)訂正事項1
訂正事項1は、「水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタ」を「ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタ」と訂正すること(訂正事項1-1)と、「備る」を「備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものである」と訂正すること(訂正事項1-2)とに区分できる。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、「水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタ」を「ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタ」と訂正すること(訂正事項2-1)と、「備る」を「備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものである」と訂正すること(訂正事項2-2)とに区分できる。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、2箇所ある「水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタ」をそれぞれ「ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタ」と訂正すること(訂正事項3-1)と、2箇所ある「備る」をそれぞれ「備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものである」と訂正すること(訂正事項3-2)とに区分できる。

3.訂正の目的の適否、新規事項及び拡張・変更の有無について

(1)訂正事項1-1、訂正事項2-1について
これらの訂正事項は、「薄膜トランジスタ」の構成を限定するものであって、「薄膜トランジスタ」が「ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し」ていることは、特許明細書の0011段落及び図面の図2に記載されている。
よって、これらの訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、これらの訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではない。

(2)訂正事項1-2、訂正事項2-2について
これらの訂正事項は、「熱伝導層」について「前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものである」ことを限定するものであって、「熱伝導層」が「前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている」ものであることは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の「前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタ」という記載から明らかであるとともに、この「熱伝導層」が「前記薄膜トランジスタの熱を放散するものである」ことは、特許明細書の0014段落に「熱伝導層に金属のクロム(Cr)を用い、これが絶縁膜を介して薄膜トランジスタのシリコン薄膜に発した熱を放散する構造になっている」と明確に記載されている。
よって、これらの訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、これらの訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではない。

(3)訂正事項3-1、訂正事項3-2について
訂正事項3-1は訂正事項1-1及び訂正事項2-1に整合させて、また、訂正事項3-2は訂正事項1-2及び訂正事項2-2に整合させて、それぞれ、発明の詳細な説明の記載を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。
さらに、これらの訂正事項は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものではない。

4.訂正の適否のむすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。


第3 特許異議申立について

1.特許異議申立の概要
特許異議申立人日本電気株式会社は、証拠として本件出願前に頒布された刊行物である、
1)甲第1号証 特開昭63-142851号公報
2)甲第2号証 特開昭58-204570号公報
3)甲第3号証 特開昭58-142566号公報
4)甲第4号証 特開昭59-204275号公報
5)甲第5号証 特開昭64-61062号公報
6)甲第6号証 特開平2-304532号公報
7)甲第7号証 特開平3-84963号公報
8)甲第8号証 特開昭62-98774号公報
9)甲第9号証 特開平2-5567号公報
10)甲第10号証 Journal of Non-Crystalline Solids, Vol.115, 1989, p.147-149
を提出し、
本件請求項1及び請求項3に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び請求項3に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(異議理由1)、
本件請求項1及び請求項3に係る発明は、甲第2号証、甲第4号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び請求項3に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(異議理由2)、
本件請求項2及び請求項3に係る発明は、甲第1号証、甲第2号証、甲第4号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項2及び請求項3に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(異議理由3)、
本件請求項2及び請求項3に係る発明は、甲第2号証、甲第4号証、甲第6号証及び甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項2及び請求項3に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり(異議理由4)、
本件特許明細書の記載が不備であるから、本件請求項1ないし請求項3に係る発明についての特許は、特許法第36条第4項の規定に違反してなされたものである(異議理由5)
と主張している。

2.取消理由通知の概要
当審で通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
「1)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2)本件特許は、明細書の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項、第5項及び第6項に規定する要件を満たしていない。



刊行物1.特開昭63-142851号公報(申立人の提出した甲第1号証)
刊行物2.特開昭58-204570号公報(申立人の提出した甲第2号証)
刊行物3.特開昭58-142566号公報(申立人の提出した甲第3号証)
刊行物4.特開昭59-204275号公報(申立人の提出した甲第4号証)
刊行物5.特開昭64-61062号公報(申立人の提出した甲第5号証)刊行物6.特開平2-304532号公報(申立人の提出した甲第6号証)刊行物7.特開平3-84963号公報(申立人の提出した甲第7号証)
刊行物8.特開昭62-98774号公報(申立人の提出した甲第8号証)
刊行物9.特開平2-5567号公報(申立人の提出した甲第9号証)
刊行物10.Journal of Non-Crystalline Solids, Vol.115, 1989 p.147-149(申立人の提出した甲第10号証)

・理由1
・請求項1〜3
・刊行物1〜10
・備考
刊行物1〜10には、特許異議申立書第7頁第6行〜第8頁第31行に記載された発明が記載されている(ただし、「甲第1〜10号証」はそれぞれ「刊行物1〜10」と読み替える)。
そして、特許異議申立書第8頁第32行〜第11頁第27行に記載された理由(ただし、「甲第1〜10号証」はそれぞれ「刊行物1〜10」と読み替える)により、本件請求項1ないし3に係る発明は、上記刊行物1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

・理由2
・請求項1〜3
特許異議申立書第6頁第26行〜第7頁第5行に記載された理由を参照のこと。 」

3.刊行物記載事項

(1)刊行物1.特開昭63-142851号公報(申立人の提出した甲第1号証)
刊行物1には、第1図とともに、以下の事項が記載されている。
「ガラス基板上に、導電性膜が設けられ、前記導電性膜の上に絶縁膜が設けられ、前記絶縁膜の上に薄膜トランジスタが設けられていることを特徴とする半導体装置。」(特許請求の範囲)
「第1図は本発明の第1の実施例における、C-MOS回路の模式的断面図を示すものである。
第1図において、1は例えば、石英ガラスのようなガラス基板、2は例えば、不純物を拡散したポリシリコンや、モリブデン・シリサイド、またはタングステン・シリサイドのような高融点金属などを用いた、導電性膜、3は例えばSiO2を用い膜厚は1μm以下である絶縁膜、4はn-chトランジスタ、5はp-chトランジスタ、6はチャネル領域、7はゲート電極を示すものである。
以上のように構成された、ガラス基板1上の、C-MOS回路について、以下に説明する。
導電性膜2の電位をグランドレベルに接地すれば、導電性膜2と、チャネル領域6とは、絶縁膜3をかいして大きな容量を持つ、そのため、特に周波数の高いパルスの変調によるチャネル領域6の電位変化は抑制され、従来問題になった、C-MOS回路の誤動作は防止できる。
また、本発明では、導電性膜2をポリシリコンや高融点金属材料を用いたこと、さらに絶縁体3にはSiO2を用いたことにより、耐熱性がすぐれている。」(第2頁左上欄第10行〜同頁右上欄第11行)

(2)刊行物2.特開昭58-204570号公報(申立人の提出した甲第2号証)
刊行物2には、第3図ないし第5図とともに、以下の事項が記載されている。
「第3図〜第5図に例を挙げ、以下に本発明について説明する。
第3図に示すように絶縁基板11の上にP型多結晶シリコン基板12を形成し、エッチング分離したその上に熱酸化膜13を形成する。そして、その上に多結晶シリコンをデポジットしてN+拡散をした後、レジスト15をマスクに多結晶シリコンをエッチングしてゲート電極14を形成する。そして、レジスト15が形成されているその上から1×1015/cm3以上の高濃度のリンイオンを打込んでN型のソース・ドレイン拡散層を形成する。さらに第4図に示すようにレジスト15をマスクにゲート電極をオーバエッチングする。そして、第15図に示すように、レジスト15を剥離して、ゲート電極14をマスクに5×1012/cm3〜5×1014/cm3と比較的低濃度の打込みをして、ソース・ドレイン拡散層17を形成する。」(第2頁右上欄第17行〜同頁左下欄第13行)(なお、「第15図」は「第5図」の誤記である。)

(3)刊行物3.特開昭58-142566号公報(申立人の提出した甲第3号証)
刊行物3には、第1図とともに、以下の事項が記載されている。
「第1図は、本発明の構造を持つMOS型薄膜トランジスタの断面図である。高濃度N型拡散層1,2と薄膜基体3の間にゲート配線4に自己整合して低濃度のN型拡散層5,6を形成する。」(第1頁右下欄第12行〜第15行)

(4)刊行物4.特開昭59-204275号公報(申立人の提出した甲第4号証)
刊行物4には、第4図とともに、以下の事項が記載されている。
「第4図(a)〜(e)は、本発明による薄膜トランジスタの製造方法の1例を示す図である。まず第4図(a)のように、絶縁基板18上にシリコン薄膜19を形成する。次に第4図(b)のように、ゲート絶縁膜20,ゲート電極21を形成した後に、ソース領域22及びドレイン領域23を形成する。次に第4図(c)のように、層間絶縁膜24を堆積させる。以上の製造方法は従来と同様である。次に第4図(d)のように水素もしくは水素と窒素を主成分とする雰囲気中でプラズマ処理を施す。25は発生した水素のプラズマを示している。後に示すように、このプラズマ処理により薄膜トランジスタの特性、特にON電流は大幅に改善される。」(第3頁左上欄第7行〜第19行)
「本発明によりこのように特性が大幅に改善される理由は以下の通りである。一般にシリコン薄膜は単結晶薄膜として形成することは不可能であり、多結晶状態あるいは非晶質状態となっている。このため、シリコン原子の配列に多くの不規則性を有し、この結果、多数の不対結合手(ダングリングボンド)を含有している。このようなダングリングボンドはシリコンの禁止帯中に準位を作り、キヤリアをトラツプする作用を有するばかりでなく、帯電することにより空間電荷を形成する。すなわち、キヤリアのトラツプによりキヤリアの易動度は低下し、また空間電荷を形成することによりVthは上昇する。本発明のプラズマ処理は、かかるダングリングボンドを水素原子で埋めることにより、ダングリングボンドの密度を低減させるものである。その結果、易動度は増大し、Vthは低下し、極めて大きいON電流を有する薄膜トランジスタが実現される。」(第3頁左下欄第8行〜同頁右下欄第5行)

(5)刊行物5.特開昭64-61062号公報(申立人の提出した甲第5号証)
刊行物5には、以下の事項が記載されている。
「ところで一般に、ポリシリコン(多結晶シリコン)を用いたMOS型薄膜トランジスタにおいては、ポリシリコン結晶粒界でダングリングボンドや結晶格子の乱れによるトラップ準位が存在するためキャリアの捕獲が起こり粒界に沿って障壁ポテンシャルが形成されて、キャリア移動度が低下してしまうという欠陥を有している。
こうした欠陥を解消する対策としては、通常、ポリシリコン結晶粒界に水素原子を水素プラズマによって導入し、結晶格子の乱れを正しダングリングボンドの密度を低減させ、前記トラップ準位を小さくして、キャリア移動度を向上させる手段が採用されている。」(第1頁右下欄第7行〜第19行)

(6)刊行物6.特開平2-304532号公報(申立人の提出した甲第6号証)
刊行物6には、第1図及び第5図とともに、以下の事項が記載されている。
「第1図の本発明液晶表示装置に用いるTFTを製造工程に従って、以下に説明する。
まず、ガラス基板上に透明な表示電極1[材料は例えばITO]を形成しパターニングし、続いて第1ゲート電極2[ニッケル、クロム、金クロム二層、等]が延在した走査配線(第5図のG)を形成しパターニングする。そしてさらにコンタクト金属3[クロム、チタン等]を設ける。
その後、第1ゲート絶縁膜4[SiNx等]とa-Si膜5そしてn+a-Si膜6をプラズマCVD法などで連続形成する。次に、a-Si膜5とn+a-Si膜6をそれぞれ所望のパターンによってエッチングしてTFT領域に島状構造として残存させる。
さらにドレイン、ソース両電極7、8[アルミニウム、クロム等]をパターニング形成した後、TFTのチャネル部に露出したn+a-Si膜6をエッチング除去する。・・・
以上の工程に続き、第2ゲート絶縁膜9[SiNx等]、第2ゲート電極10[アルミニウム、クロム等]を形成してアクテブマトリクス基板のデュアルゲートTFTを得る。」(第3頁左下欄第8行〜同頁右下欄第16行)

(7)刊行物7.特開平3-84963号公報(申立人の提出した甲第7号証)
刊行物7には、第1図とともに、以下の事項が記載されている。
「このデュアルゲート薄膜トランジスタの構成を説明すると、第1図において、図中11はガラス等からなる絶縁性基板、G11は上記基板11上に形成された第1のゲート電極、12は上記第1のゲート電極G11の上に基板11全面にわたって形成された窒化シリコン(SiN)からなる第1のゲート絶縁膜、13aは上記第1のゲート絶縁膜12の上に前記第1のゲート電極G11と対向させて形成されたi-a-Si(i型アモルファス・シリコン)からなる第1のi型半導体層、S,Dは上記第1のi型半導体層13aの上にn+-a-Si(n型不純物をドープしたアモルファス・シリコン)からなるn型半導体層14aを介して形成されたソース,ドレイン電極であり、これらによって第1の薄膜トランジスタ(逆スタガー型薄膜トランジスタ)が構成されている。
また、13bは前記ソース,ドレイン電極S,Dおよび前記第1のi型半導体層13aのソース,ドレイン電極S,D間の部分の上に形成されたi-a-Siからなる第2のi型半導体層、G12は上記第2のi型半導体層14bの上に窒化シリコンからなる第2のゲート絶縁膜15を介して形成された第2のゲート電極であり、この第2のゲート電極G12と第2のゲート絶縁膜15と第2のi型半導体層14bおよび前記第1の薄膜トランジスタのソース,ドレイン電極S,Dとによって第2の薄膜トランジスタ(スタガー型薄膜トランジスタ)が構成されている。」(第3頁左上欄第16行〜同頁左下欄第3行)

(8)刊行物8.特開昭62-98774号公報(申立人の提出した甲第8号証)
刊行物8には、第4図とともに、以下の事項が記載されている。
「第4図は、デュアルゲート電極2の外に、結晶化されたシリコン4aの活性層上にも絶縁膜9を介してもう1つのゲート電極膜10が設けられており、下のデュアルゲート電極2をバックゲートに使用したJFET(Junction Field Effect Transistor)を示したものである。」(第3頁左上欄第13行〜第18行)

(9)刊行物9.特開平2-5567号公報(申立人の提出した甲第9号証)
刊行物9には、以下の事項が記載されている。
「1.絶縁基板上に形成された薄膜トランジスタにおいて、絶縁基板と薄膜トランジスタ部との間に絶縁膜が介在されたことを特徴とする薄膜トランジスタ。」(特許請求の範囲)

(10)刊行物10.Journal of Non-Crystalline Solids, Vol.115, 1989 p.147-149(申立人の提出した甲第10号証)
刊行物10には、Fig.2(a)とともに、第148頁左欄第11行〜第31行の記載を参照すると、ボロンシリケートガラス基板上にSiOx膜を介してコプラナー型のTFTを形成することが記載されている。

4.本件発明
上記第2 4.で示したように上記訂正は認められるから、本件請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明3」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりの次のものである。
「【請求項1】 絶縁基板上に形成され前記絶縁基板よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とするアクティブマトリクス基板。
【請求項2】 絶縁基板上に形成された絶縁膜上に形成され、前記絶縁膜よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とするアクティブマトリクス基板。
【請求項3】 前記熱伝導層は約2000オングストロームのクロム層を形成していることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアクティブマトリクス基板。」

5.対比・判断(異議理由1ないし4について)

(1)本件発明1について
刊行物1には、「ガラス基板上に、不純物を拡散したポリシリコンや、モリブデン・シリサイド、またはタングステン・シリサイドのような高融点金属などを用いた導電性膜が設けられ、前記導電性膜の上に絶縁膜が設けられ、前記絶縁膜の上に薄膜トランジスタが設けられ、前記導電性膜の電位をグランドレベルに接地したことを特徴とする半導体装置。」(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
刊行物1発明の「導電性膜」は、「基板」と「薄膜トランジスタ」との間に形成されたものであり、また、刊行物1の第1図も参照すれば、複数の薄膜トランジスタの領域にわたって形成された上で、「電位をグランドレベルに接地した」ものであるので、接地配線層としての機能を有するものであることは明らかであるから、本件発明1の「配線層」に相当する。
しかし、刊行物1発明の「導電性膜」の材質は、「不純物を拡散したポリシリコンや、モリブデン・シリサイド、またはタングステン・シリサイドのような高融点金属など」であり、この「高融点金属」が、高融点金属そのものではなく、モリブデンまたはタングステンのような高融点金属のシリサイドを意味していることは明らかであるから、本件発明1の「配線層」の材質である「金属」ではない。
そして、本件発明1は「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層」を備えること、すなわち、「配線層」が「金属」でなり、「熱伝導層」を兼ねるものとすることにより、「薄膜トランジスタの熱を放散する」という作用効果を奏するものであるが、刊行物1には、「導電性膜」の材質を、熱伝導層としての機能を持たせるために金属とすることについては、記載も示唆もされていない。
刊行物2及び刊行物3には、ソース、ドレイン拡散層が低濃度拡散層と高濃度拡散層とで構成された、いわゆるLDD構造の薄膜トランジスタが記載されているが、本件発明1の「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層」を有することは、記載も示唆もされていない。
刊行物4及び刊行物5には、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入された薄膜トランジスタが記載されているが、本件発明1の「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層」を有することは、記載も示唆もされていない。

刊行物6には、「ガラス基板上に形成され、クロムからなる第1ゲート電極が延在した走査配線と、前記走査配線が形成されたガラス基板上に形成された第1ゲート絶縁膜と、前記第1ゲート絶縁膜上のTFT領域に島状構造に形成されたa-Si膜と、前記a-Si膜上にn+a-Si膜を介して形成されたドレイン、ソース両電極と、前記ドレイン、ソース両電極が形成された前記a-Si膜上に形成された第2ゲート絶縁膜と、前記第2ゲート絶縁膜上に形成された第2ゲート電極とからなる、アクテブマトリクス基板のデュアルゲートTFT。」(以下、「刊行物6発明」という。)が記載されているが、刊行物6発明の「クロムからなる第1ゲート電極が延在した走査配線」はゲート電極としてTFT(薄膜トランジスタ)の一部を構成するものであって、TFT(薄膜トランジスタ)と絶縁膜を介して形成された配線ではないから、刊行物6発明は、本件発明1の「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し」た「薄膜トランジスタ」の構成を備えておらず、刊行物6には、本件発明1の「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層」を有することについては、記載も示唆もされていない。
また、刊行物7及び刊行物8にも、刊行物6と同様の、半導体層の上下にそれぞれゲート電極を備えたデュアルゲート型薄膜トランジスタが記載されているが、これらの刊行物に記載された発明も、本件発明1の「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し」た「薄膜トランジスタ」の構成を備えるものではなく、刊行物7及び刊行物8には、本件発明1の「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層」を有することは、記載も示唆もされていない。

そして、刊行物1ないし8に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の構成において、さらに「絶縁基板」と「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層」との間に「絶縁膜」を形成したものに相当するが、本件発明1の構成に相当する部分が、刊行物1ないし8に記載された発明から、当業者が容易に想起し得たものでないことは、上記「(1)本件発明1について」に示したとおりである。
また、刊行物9及び刊行物10には、絶縁基板上に絶縁膜を介して薄膜トランジスタを形成することが記載されているが、本件発明2の「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層」を備えることは、記載も示唆もされていない。
よって、刊行物1ないし10に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明2は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は本件発明2の構成を、「金属でなる熱伝導層」は「約2000オングストロームのクロム層を形成していること」で限定するものであるから、刊行物1ないし10に記載された発明をどのように組み合わせたとしても、本件発明3は、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

6.異議理由5について
特許異議申立人日本電気株式会社は、「本件発明の請求項1及び請求項2の特徴事項である「配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層」は、本件明細書では、どのように配線を作成して接続するのか、どのように配線構成すると通常の構造以上に有効に作用するかがが全く不明瞭である。」(特許異議申立書第6頁第34行〜第7頁第1行)と主張しているが、本件発明1ないし本件発明3における「配線層」をどのように作成して接続するかは、当業者が任意に設定しうる設計的事項であり、その設計条件に、薄膜トランジスタの熱を放散することができる「熱伝導層」としてのパターンと厚み等の熱伝導性に関する要件を加えれば足りるものである。
よって、本件特許明細書は、当業者がその発明を容易に実施することができる程度に記載されているものと認められるから、特許法第36条第4項の規定に違反するものではない。

7.特許異議申立についての判断の結び
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び取消理由によっては本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件特許の請求項1ないし3に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおりに決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アクティブマトリクス基板
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 絶縁基板上に形成され前記絶縁基板よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とするアクティブマトリクス基板。
【請求項2】 絶縁基板上に形成された絶縁膜上に形成され、前記絶縁膜よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とするアクティブマトリクス基板。
【請求項3】 前記熱伝導層は約2000オングストロームのクロム層を形成していることを特徴とする請求項1または請求項2記載のアクティブマトリクス基板。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は液晶表示体に用いられる薄膜トランジスタの構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の薄膜トランジスタは、例えば「1989年International Electron Device Meeting (IEDM)Tech-nical Digest,p.p.157-160,H.Ohshimaet.al.」にあるように、基本的には図1のような構造をしており、絶縁基板101あるいは絶縁膜上にドレイン電極102、ソース電極103、チャネル領域104からなるシリコン薄膜105とシリコン薄膜105を覆うゲート絶縁膜106、ゲート絶縁膜106を介してチャネル領域104と対向するゲート電極107、これらを覆う層間絶縁膜108、そしてゲート絶縁膜106と層間絶縁膜108に開けたコンタクトホールでシリコン薄膜105のドレイン電極102とソース電極103にそれぞれつながるドレイン電極配線109とソース電極配線110からなる。
【0003】
このような薄膜トランジスタは、シリコン薄膜105がアモルファスシリコンのものと多結晶シリコンのものに大別されるが、キャリアの易動度などその性能の面では多結晶シリコンがよい。
【0004】
多結晶シリコン薄膜トランジスタの高性能化、即ち半導体シリコン中のキャリアの易動度向上によるON電流の増加のために幾つかの技術が使われる。例えばシリコン薄膜に高エネルギーのレーザー光を照射することでシリコンの結晶化を促進したり、溶融再結晶化させてキャリアトラップの低減を図ることで、レーザー光照射の無い場合に比べて易動度が非常に大きく高性能な薄膜トランジスタが得られる。また、水素プラズマ技術によるシリコン中のトラップの不動態化や、長時間の加熱処理を施すいわゆる固相成長法も薄膜トランジスタの高易動度化に有効である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述のような方法による薄膜トランジスタの高性能化によって、薄膜トランジスタにより大きな電流(ON電流)を流せるようになった。しかし、それにともない、薄膜トランジスタを流れる電流による薄膜トランジスタ自身の劣化が問題になる。その問題の1つはいわゆるホットエレクトロンのゲート絶縁膜への注入などによる劣化であり、もう1つは薄膜トランジスタ自身の発熱による劣化である。前者については薄膜トランジスタのドレインのゲート電極に近い部分の不純物濃度を小さくするいわゆるLDD構造とすることで改善が図られている。
【0006】
シリコン基板上に形成されたトランジスタでは、シリコン基板の熱伝導率が比較的大きいためトランジスタ個々の熱はすぐに基板中に拡散してしまう。これに対し、アクティブマトリクス型の液晶表示体などに用いられる薄膜トランジスタでは、ガラスなどの熱伝導率の小さい基板上に薄膜トランジスタが形成されるため、薄膜トランジスタ個々の発熱は拡散されにくい。そのような場合に、上記のように薄膜トランジスタに流れる電流が大きくなり発熱が大きくなると、その熱のために薄膜トランジスタを構成するシリコン薄膜の結晶状態が変化して新たな欠陥が生じたり、水素プラズマ技術によって導入したシリコン薄膜中の水素の再脱離によってキャリアトラップが増加し、薄膜トランジスタの特性が変化して、設計通りの初期特性を長時間維持できないなど信頼性を欠く。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のアクティブマトリクス基板は、絶縁基板上に形成され前記絶縁基板よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とする。
また、本発明のアクティブマトリクス基板は、絶縁基板上に形成された絶縁膜上に形成され、前記絶縁膜よりも熱伝導率が大きく、配線層を兼ねた金属でなる熱伝導層と、前記熱伝導層上に絶縁膜を介して形成され、ソース電極,ドレイン電極,ゲート電極を有し、水素プラズマ処理でシリコン中に水素が注入されたLDD構造の薄膜トランジスタとを備え、前記薄膜トランジスタの下に前記絶縁膜を介して形成されている前記熱伝導層は、前記薄膜トランジスタの熱を放散するものであることを特徴とする。
また、熱伝導層は約2000オングストロームのクロム層を形成していることを特徴とする。
【0008】
【実施例】
本発明の薄膜トランジスタの1例を図2により、以下に工程を追いながら具体的に説明する。
【0009】
ガラス基板201はガラスそのままであってもよいが、ガラスの表面にSiO2などの絶縁膜を形成してから用いることもある。ここではガラスそのままで用いている。このガラス基板201の上に熱伝導層202としてスパッタリング法でCr薄膜を約2000Åの膜厚で堆積し、その上に絶縁膜203としてSiO2薄膜を約2000Åの膜厚で化学気相成長法(CVD法)により堆積した。
【0010】
この上に多結晶シリコンからなるシリコン薄膜204を減圧CVD法により形成し、これにレーザー光の照射を行ってからフォトリソグラフィ技術によりパターニングしたうえで、ゲート絶縁膜205としてSiO2薄膜を全面にECRプラズマCVD法によって形成した。シリコン薄膜へのレーザー光の照射はシリコン薄膜204のパターニング後に行う事もある。また、シリコン薄膜204としてプラズマCVD法でアモルファスシリコンを堆積した後、レーザー光照射によって結晶化することもある。ゲート絶縁膜205は、シリコン薄膜204の熱酸化によっても形成できる。
【0011】
そして、さらにシリコン薄膜を堆積した後、パターニングしゲート電極206を形成した。シリコン薄膜204のパターニングの際のマスクであるフォトレジスト207は、この薄膜トランジスタをドレイン電極のゲート電極に近い部分の不純物濃度が小さい、いわゆるLDD構造(Lightly DopedDrain構造)にするため、後の工程で必要になるので残しておく。次にゲート電極206とフォトレジスト207をマスクにしてシリコン薄膜204中に不純物として燐イオンあるいはホウ素イオンを第1のイオンシャワー208により高濃度で打ち込み、自己整合的にソース電極209とドレイン電極210を形成した。
【0012】
この後、プラズマエッチング法によりゲート電極206をさらにエッチングする。前の工程でフォトレジスト207を残してあるので、ゲート電極206は両端のみがエッチングされ細くなる。ここでフォトレジスト207を取り除き、第2のイオンシャワー211で第1のイオンシャワー208と同じイオンを第1のイオンシャワー208より低濃度で打ち込んだ。この低濃度のイオンを打ち込んだ部分がLDD部分212であり、ゲート電極206の下のイオンの打ち込まれなかった部分がチャネル領域213である。ソース電極209側にもイオンを低濃度で打ち込んだ領域が存在するが、これもLDD部分212と呼ぶ。この後、加熱あるいはレーザー光照射によって打ち込んだイオンの活性化を行った。
【0013】
この上に層間絶縁膜214としてSiO2を約5000ÅCVD法で堆積し、ソース電極209とドレイン電極210の上のゲート絶縁膜205と層間絶縁膜214にコンタクト穴を開け、ソース電極配線215及びドレイン電極配線216を形成し、さらに水素プラズマ中に暴露してシリコン薄膜204中のキャリアトラップの不動態化処理を施し薄膜トランジスタを完成した。
【0014】
本実施例においては、薄膜トランジスタと絶縁基板あるいは絶縁膜の間の熱伝導層に金属のクロム(Cr)を用い、これが絶縁膜を介して薄膜トランジスタのシリコン薄膜に発した熱を放散する構造になっているが、熱伝導層に用いる金属は後の工程における熱に耐えるものであればCrでなくても良い。また、この熱伝導層が金属である場合には、例えば本発明の薄膜トランジスタをアクティブマトリクス基板に応用した場合など、何らかの配線層をこの熱伝導層が兼ねるか、少なくとも同層に形成することができる。
【0015】
また、熱伝導層に絶縁物を用いれば、金属を用いた場合のように薄膜トランジスタとの間に絶縁膜を介する必要がないので、より有効に熱を放散でき、また、工程を簡略化できる。熱伝導層に用いることのできる絶縁物あるいは絶縁物に近い材料としては、例えばセラミクス薄膜やダイアモンド薄膜等が考えられる。特にダイアモンド薄膜は透明であり、本発明の薄膜トランジスタを液晶表示体などに応用する場合、パターニング等の加工を施す必要がなく、従来の薄膜トランジスタと比べても工程が大きく増えることはない。
【0016】
〔従来の技術〕及び〔発明が解決しようとする課題〕の項で述べたような薄膜トランジスタの劣化の1例を、熱伝導層の無い従来の薄膜トランジスタ(図1の薄膜トランジスタ)について図3に示す。チャネル幅10μm、チャネル長5μmの薄膜トランジスタにおいて、数分の直流通電の後、ゲートソース間電圧(Vgs)-ドレインソース間電流(Ids)のグラフに、電流の立ち上がり電位の変化、電流値の全体的低下がみられた。特に水素プラズマ技術によりシリコン中のキャリアトラップを不動態化した薄膜トランジスタでは、温度が約400℃以上になると水素プラズマでシリコン中に注入した水素が脱離しはじめて、薄膜トランジスタの特性が劣化する。そして温度が高いほど劣化が激しい。また、薄膜トランジスタのドレイン電極あるいはソース電極に不純物として注入した燐イオンやホウ素イオンの、チャネル領域での発熱によるチャネル領域への拡散も特性変化の原因と考えられる。このような事情からも考えられるように、上述のような工程を経て作られた本発明の薄膜トランジスタは、ガラスのような熱伝導率の小さい基板上に直接あるいはSiO2膜を介しただけで形成した従来の薄膜トランジスタに比べ、自己の発熱に対する放熱の能力が高いことからその特性の劣化は小さい。更に熱伝導層の効果として考えられるのは、ガラス基板などからの有害な不純物の熱による拡散の抑制効果である。SiO2薄膜などによっても不純物拡散の抑制は可能であるが、不純物の拡散が高温ほど速いことを考えれば熱伝導層を設けることで不純物の拡散を更に遅くでき、長期に渡る薄膜トランジスタの信頼性の確保に効果がある。
【0017】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の液晶表示体用薄膜トランジスタは、従来の薄膜トランジスタに比べて自己の発熱に対する放熱能力が大きく、高性能化が進み大電流を流せるようになった液晶表示体用薄膜トランジスタにおいて特に信頼性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来の薄膜トランジスタの構造を示す説明図。
【図2】 本発明の薄膜トランジスタの工程と構造を示す説明図。
【図3】 従来の薄膜トランジスタの特性の劣化を示すゲートソース間電位(Vgs)-ドレインソース間電流(Ids)のグラフ。
【符号の説明】
101 絶縁基板
102 210 ドレイン電極
103 209 ソース電極
104 チャネル領域
105 204 シリコン薄膜
106 205 ゲート絶縁膜
107 206 ゲート電極
108 層間絶縁膜
109 216 ドレイン電極配線
110 215 ソース電極配線
201 ガラス基板
202 熱伝導層
203 絶縁膜
207 フォトレジスト
208 第1のイオンシャワー
211 第2のイオンシャワー
212 LDD部分
213 チャネル領域
214 層間絶縁膜
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2005-05-30 
出願番号 特願平3-92121
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01L)
P 1 651・ 531- YA (H01L)
P 1 651・ 853- YA (H01L)
P 1 651・ 851- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 河本 充雄  
特許庁審判長 岡 和久
特許庁審判官 橋本 武
瀧内 健夫
登録日 2003-05-09 
登録番号 特許第3426255号(P3426255)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 アクティブマトリクス基板  
代理人 谷澤 靖久  
代理人 石井 康夫  
代理人 石井 康夫  

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